特許第6989675号(P6989675)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ デクセリアルズ株式会社の特許一覧

特許6989675熱伝導性シート及び熱伝導性シートの製造方法
<>
  • 特許6989675-熱伝導性シート及び熱伝導性シートの製造方法 図000003
  • 特許6989675-熱伝導性シート及び熱伝導性シートの製造方法 図000004
  • 特許6989675-熱伝導性シート及び熱伝導性シートの製造方法 図000005
  • 特許6989675-熱伝導性シート及び熱伝導性シートの製造方法 図000006
  • 特許6989675-熱伝導性シート及び熱伝導性シートの製造方法 図000007
  • 特許6989675-熱伝導性シート及び熱伝導性シートの製造方法 図000008
  • 特許6989675-熱伝導性シート及び熱伝導性シートの製造方法 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6989675
(24)【登録日】2021年12月6日
(45)【発行日】2022年1月5日
(54)【発明の名称】熱伝導性シート及び熱伝導性シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20211220BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20211220BHJP
   C08K 13/04 20060101ALI20211220BHJP
   C08L 83/00 20060101ALI20211220BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20211220BHJP
   C08K 3/38 20060101ALN20211220BHJP
   C08K 3/22 20060101ALN20211220BHJP
【FI】
   H01L23/36 D
   C08L101/00
   C08K13/04
   C08L83/00
   H05K7/20 F
   !C08K3/38
   !C08K3/22
【請求項の数】12
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2020-176566(P2020-176566)
(22)【出願日】2020年10月21日
【審査請求日】2021年6月11日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113424
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 信博
(74)【代理人】
【識別番号】100185845
【弁理士】
【氏名又は名称】穂谷野 聡
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 勇磨
(72)【発明者】
【氏名】荒巻 慶輔
(72)【発明者】
【氏名】久保 佑介
【審査官】 正山 旭
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2017/179318(WO,A1)
【文献】 特開2012−023335(JP,A)
【文献】 特開2013−131564(JP,A)
【文献】 特開2009−094110(JP,A)
【文献】 特開2002−237554(JP,A)
【文献】 特開2015−035580(JP,A)
【文献】 特開2011−012193(JP,A)
【文献】 国際公開第2020/105601(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/36
C08L 101/00
C08K 13/04
C08L 83/00
H05K 7/20
C08K 3/38
C08K 3/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダ樹脂と、鱗片状の第1の熱伝導性フィラーと、非鱗片状の第2の熱伝導性フィラーとを含有し、上記第1の熱伝導性フィラーと上記第2の熱伝導性フィラーとが上記バインダ樹脂に分散する熱伝導性シートにおいて
上記第1の熱伝導性フィラーが窒化ホウ素であり、
上記第2の熱伝導性フィラーが窒化アルミニウムとアルミナ粒子とを含有し、
上記熱伝導性シートの厚み方向に上記第1の熱伝導性フィラーの長軸が配向し、上記熱伝導性シートの面内方向に上記第1の熱伝導性フィラーの短軸がランダム配向する熱伝導性シート。
【請求項2】
上記バインダ樹脂が、シリコーン主剤と硬化剤との2液性の付加反応型液状シリコーン樹脂であり、
上記シリコーン主剤と上記硬化剤との質量比(シリコーン主剤:硬化剤)が5:5〜7:3である、請求項1に記載の熱伝導性シート。
【請求項3】
上記第1の熱伝導性フィラーのアスペクト比(長軸/短軸)が10〜100である、請求項1又は2に記載の熱伝導性シート。
【請求項4】
厚み方向に対して0.5〜3kgf/cmの荷重を加えたときに、実効熱伝導率の最大値と最小値の差が1.5W/m・K以下である、請求項1〜のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
【請求項5】
上記第1の熱伝導性フィラー及び上記第2の熱伝導性フィラーの総含有量が70体積%未満である、請求項1〜のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
【請求項6】
シート表面に、互いに直交しない辺を有する模様を有する請求項1〜のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
【請求項7】
厚みが1〜2mmである、請求項1〜のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
【請求項8】
鱗片状の第1の熱伝導性フィラーと非鱗片状の第2の熱伝導性フィラーとを硬化性樹脂組成物に分散させることにより、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物を調製する工程Aと、
上記熱伝導性シート形成用の樹脂組成物から成形体ブロックを形成する工程Bと、
上記成形体ブロックをシート状にスライスして熱伝導性シートを得る工程Cとを有し、
上記第1の熱伝導性フィラーが窒化ホウ素であり、
上記第2の熱伝導性フィラーが窒化アルミニウムとアルミナ粒子とを含有し、
上記熱伝導性シートは、厚み方向に上記第1の熱伝導性フィラーの長軸が配向し、面内方向では上記第1の熱伝導性フィラーの短軸がランダム配向する、熱伝導性シートの製造方法。
【請求項9】
上記工程Bでは、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物を、ダイ又は金型に形成され互いに直交しない辺を有する開口部通過させる、請求項に記載の熱伝導性シートの製造方法。
【請求項10】
上記開口部は、多角形状又は円形状である請求項に記載の熱伝導性シートの製造方法。
【請求項11】
上記工程Cでは、上記成形体ブロックを、上記熱伝導性シート形成用の樹脂組成物の押し出し方向に対して略垂直方向にスライスして熱伝導性シートを得る、請求項8〜10のいずれか1項に記載の熱伝導性シートの製造方法。
【請求項12】
発熱体と、
放熱体と、
発熱体と放熱体との間に配置された請求項1〜のいずれか1項に記載の熱伝導性シートとを備える、電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、熱伝導性シート及び熱伝導性シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の高性能化に伴って、半導体素子の高密度化、高実装化が進んでいる。これに伴って、電子機器を構成する電子部品からの発熱をさらに効率的に放熱することが重要である。例えば、半導体装置は、効率的に放熱するために、電子部品が、熱伝導性シートを介して、放熱ファン、放熱板等のヒートシンクに取り付けられている。熱伝導性シートとしては、例えば、シリコーン樹脂に、無機フィラーなどの充填剤を含有(分散)させたものが広く使用されている。この熱伝導性シートのような放熱部材は、更なる熱伝導率の向上が要求されている。例えば、熱伝導性シートの高熱伝導性を目的として、バインダ樹脂などのマトリックス内に配合されている無機フィラーの充填率を高めることが検討されている。しかし、無機フィラーの充填率を高めると、熱伝導性シートの柔軟性が損なわれたり、粉落ちが発生したりするため、無機フィラーの充填率を高めることには限界がある。
【0003】
無機フィラーとしては、例えば、アルミナ、窒化アルミニウム、水酸化アルミニウム等が挙げられる。また、高熱伝導率を目的として、窒化ホウ素、黒鉛等の鱗片状粒子、炭素繊維などをマトリクス内に充填させることもある。これは、鱗片状粒子等の有する熱伝導率の異方性によるものである。例えば、炭素繊維の場合は、繊維方向に約600〜1200W/m・Kの熱伝導率を有することが知られている。また、窒化ホウ素の場合は、面方向に約110W/m・K程度の熱伝導率を有し、面方向に対して垂直な方向に約2W/m・K程度の熱伝導率を有することが知られている。このように、炭素繊維の繊維方向や鱗片状粒子の面方向を、熱の伝達方向であるシートの厚み方向と同じにする、すなわち、炭素繊維や鱗片状粒子をシートの厚み方向に配向させることによって、熱伝導率が飛躍的に向上することが期待できる。
【0004】
ここで、熱伝導性シートは、無機フィラー等の充填剤をバインダ樹脂に配合した熱伝導性樹脂組成物をブロック状に硬化させた樹脂成形体を作成し、この成形体をシート状にスライスすることにより製造される。しかし、樹脂成形体をスライスする時に均一な厚みにスライスできないとシート表面の凹凸部が大きくなり、実装時に凹凸部にエアーを巻き込んでしまい、優れた熱伝導が活かされないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−201106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この問題を解決するため、例えば、特許文献1には、熱伝導性フィラーとして窒化ホウ素を所定割合含有し、厚み方向に熱伝導性フィラーが配向した熱伝導性シートが提案されている。特許文献1では、窒化ホウ素を所定割合含有するシリコーン樹脂組成物をシート状に押し出してグリーンシートを形成し、このグリーンシートを積層してシリコーン積層体を形成し、このシリコーン積層体を積層方向に切断することで、厚み方向に窒化ホウ素が配向した熱伝導性シートを得る。しかし、この製法では、コーター等でシリコーン樹脂組成物を押し出すことによって窒化ホウ素が配向され、熱伝導性シートの厚み方向に配向するが、窒化ホウ素の配向角度はコーターの押出方向と同平行となると考えられる。そのため、熱伝導性シートに対する荷重を増加させていくと、ある時点で窒化ホウ素が倒れることで急激に熱伝導率が低下する課題が挙げられる。その他、この製法では、複数回のグリーンシートの積層工程を要し、コスト増加が懸念される。
【0007】
本技術は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、荷重が増加した場合においても熱伝導率の減少幅を小さくできる熱伝導性シート及び熱伝導性シートの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本技術に係る熱伝導性シートは、バインダ樹脂と、鱗片状の第1の熱伝導性フィラーと、非鱗片状の第2の熱伝導性フィラーとを含有し、上記第1の熱伝導性フィラーと上記第2の熱伝導性フィラーとが上記バインダ樹脂に分散する熱伝導性シートにおいて上記第1の熱伝導性フィラーが窒化ホウ素であり、上記第2の熱伝導性フィラーが窒化アルミニウムとアルミナ粒子とを含有し、上記熱伝導性シートの厚み方向に上記第1の熱伝導性フィラーの長軸が配向し、上記熱伝導性シートの面内方向に上記第1の熱伝導性フィラーの短軸がランダム配向するものである。
【0009】
本技術に係る熱伝導性シートの製造方法は、鱗片状の第1の熱伝導性フィラーと非鱗片状の第2の熱伝導性フィラーとを硬化性樹脂組成物に分散させることにより、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物を調製する工程Aと、上記熱伝導性シート形成用の樹脂組成物から成形体ブロックを形成する工程Bと、上記成形体ブロックをシート状にスライスして熱伝導性シートを得る工程Cとを有し、上記第1の熱伝導性フィラーが窒化ホウ素であり、上記第2の熱伝導性フィラーが窒化アルミニウムとアルミナ粒子とを含有し、上記熱伝導性シートは、厚み方向に上記第1の熱伝導性フィラーの長軸が配向し、面内方向では上記第1の熱伝導性フィラーの短軸がランダム配向するものである。
【発明の効果】
【0010】
本技術によれば、荷重が増加した場合においても熱伝導率の減少幅を小さくできる熱伝導性シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本技術に係る熱伝導性シートの一例を示す断面図である。
図2図2は、結晶形状が六方晶型である鱗片状の窒化ホウ素を模式的に示す斜視図である。
図3図3は、第1の熱伝導性フィラーの配向状態を調べるXRD計測を説明するための図である。
図4図4は、XRD計測面を説明するための図である。
図5図5は、互いに直交しない辺を有する複数のセルが連続する構造を有する開口部を示す正面図である。
図6図6は、比較例に係る開口部を示す正面図であり、(a)は平行スリット構造の開口部、(b)はメッシュ構造の開口部を示す。
図7図7は、本技術に係る熱伝導性シートを適用した半導体装置の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、熱伝導性フィラーの平均粒径(D50)とは、熱伝導性フィラーの粒径分布の小粒径側から累積50%の面積長(μm)であり、熱伝導性フィラーの集団の全面積を100%として、熱伝導性フィラーの粒径分布の小粒径側から累積カーブを求めたとき、その累積値が50%となるときの面積長をいう。なお、本明細書における粒度分布(粒子径分布)は、体積基準によって求められたものである。粒度分布の測定方法としては、例えば、レーザー回折型粒度分布測定機を用いる方法が挙げられる。
【0013】
<熱伝導性シート>
図1は、本技術に係る熱伝導性シート1の一例を示す断面図である。熱伝導性シート1は、バインダ樹脂2と、鱗片状の第1の熱伝導性フィラー3と、非鱗片状の第2の熱伝導性フィラー4とを含有し、第1の熱伝導性フィラー3と第2の熱伝導性フィラー4とがバインダ樹脂2に分散している。また、熱伝導性シート1は、シートの厚み方向に第1の熱伝導性フィラー3の長軸が配向し、当該熱伝導性シートの面内方向に第1の熱伝導性フィラー3の短軸がランダム配向する。このような熱伝導性シート1は、荷重の増加に伴う熱伝導率の減少が小さい。例えば、熱伝導性シート1は、厚み方向Bに対して0.5〜3kgf/cmの荷重を加えたときに、実効熱伝導率の最大値と最小値の差が1.5W/m・K以下とすることができる。
【0014】
以下、熱伝導性シート1の構成要素について説明する。
【0015】
<バインダ樹脂>
バインダ樹脂2は、第1の熱伝導性フィラー3と第2の熱伝導性フィラー4とを熱伝導性シート1内に保持するためのものである。バインダ樹脂2は、熱伝導性シート1に要求される機械的強度、耐熱性、電気的性質等の特性に応じて選択される。バインダ樹脂2としては、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、熱硬化性樹脂の中から選択することができる。
【0016】
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体等のエチレン−αオレフィン共重合体、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリフッ化ビニリデン及びポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)樹脂、ポリフェニレン−エーテル共重合体(PPE)樹脂、変性PPE樹脂、脂肪族ポリアミド類、芳香族ポリアミド類、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチルエステル等のポリメタクリル酸エステル類、ポリアクリル酸類、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルニトリル、ポリエーテルケトン、ポリケトン、液晶ポリマー、シリコーン樹脂、アイオノマー等が挙げられる。
【0017】
熱可塑性エラストマーとしては、スチレン− ブタジエンブロック共重合体又はその水添化物、スチレン−イソプレンブロック共重合体又はその水添化物、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0018】
熱硬化性樹脂としては、架橋ゴム、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂等が挙げられる。架橋ゴムの具体例としては、天然ゴム、アクリルゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、ニトリルゴム、水添ニトリルゴム、クロロプレンゴム、エチレン−プロピレン共重合ゴム、塩素化ポリエチレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、及びシリコーンゴムが挙げられる。
【0019】
バインダ樹脂2としては、例えば、電子部品の発熱面とヒートシンク面との密着性を考慮するとシリコーン樹脂が好ましい。シリコーン樹脂としては、例えば、アルケニル基を有するシリコーンを主成分とし、硬化触媒を含有する主剤と、ヒドロシリル基(Si−H基)を有する硬化剤とからなる、2液型の付加反応型シリコーン樹脂を用いることができる。アルケニル基を有するシリコーンとしては、例えば、ビニル基を有するポリオルガノシロキサンを用いることができる。硬化触媒は、アルケニル基を有するシリコーン中のアルケニル基と、ヒドロシリル基を有する硬化剤中のヒドロシリル基との付加反応を促進するための触媒である。硬化触媒としては、ヒドロシリル化反応に用いられる触媒として周知の触媒が挙げられ、例えば、白金族系硬化触媒、例えば白金、ロジウム、パラジウムなどの白金族金属単体や塩化白金などを用いることができる。ヒドロシリル基を有する硬化剤としては、例えば、ヒドロシリル基を有するポリオルガノシロキサンを用いることができる。バインダ樹脂2は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
バインダ樹脂2として、シリコーン主剤と硬化剤との2液性の付加反応型液状シリコーン樹脂を用いる場合、シリコーン主剤と硬化剤との質量比(シリコーン主剤:硬化剤)を5:5〜7:3とすることにより、熱伝導性シート1の圧縮率をより高くすることができる。
【0021】
熱伝導性シート1中のバインダ樹脂2の含有量は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、熱伝導性シート1中のバインダ樹脂2の含有量の下限値は、20体積%以上とすることができ、25体積%以上であってもよく、30体積%以上であってもよい。また、熱伝導性シート1中のバインダ樹脂2の含有量の上限値は、70体積%以下とすることができ、60体積%以下であってもよく、50体積%以下であってもよい。熱伝導性シート1の圧縮率を良好にし、実効熱伝導率の荷重依存性を小さくする観点では、熱伝導性シート1中のバインダ樹脂2の含有量は、30〜40体積%とすることが好ましく、30〜37体積%とすることもできる。
【0022】
<第1の熱伝導性フィラー>
第1の熱伝導性フィラー3は、鱗片状の熱伝導性フィラーである。鱗片状の熱伝導性フィラーは、高アスペクト比で、かつ面方向に等方的な熱伝導率を有する。鱗片状の熱伝導性フィラーは、鱗片状のものであれば特に限定されないが、熱伝導性シート1の絶縁性を確保できる材料が好ましい。例えば、鱗片状の熱伝導性フィラーは、窒化ホウ素(BN)、雲母、アルミナ、窒化アルミニウム、炭化珪素、シリカ、酸化亜鉛、二硫化モリブデン等を用いることができる。
【0023】
ここで、鱗片状の熱伝導性フィラーとは、長軸と短軸と厚みとを有する熱伝導性フィラーであって、高アスペクト比(長軸/厚み)であり、長軸を含む面方向に等方的な熱伝導率を有するものである。短軸とは、鱗片状の熱伝導性フィラーの長軸を含む面において、鱗片状の熱伝導性フィラーの長軸に直交する方向であって、鱗片状の熱伝導性フィラーの最も長い部分の長さをいうものとする。厚みとは、鱗片状の熱伝導性フィラーの長軸を含む面の厚みを10点測定して平均した値をいうものとする。
【0024】
図2は、鱗片状の熱伝導性フィラーの一例である、結晶形状が六方晶型である鱗片状の窒化ホウ素3Aを模式的に示す斜視図である。図2中、aは鱗片状の窒化ホウ素3Aの長軸を表し、bは鱗片状の窒化ホウ素3Aの厚みを表し、cは鱗片状の窒化ホウ素3Aの短軸を表す。鱗片状の熱伝導性フィラーとしては、熱伝導性シート1の熱伝導率の観点から、図2に示すように結晶形状が六方晶型である鱗片状の窒化ホウ素3Aを用いることが好ましい。鱗片状の熱伝導性フィラーは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。本技術に係る熱伝導性シート1は、第1の熱伝導性フィラー3として、球状の熱伝導性フィラー(例えば球状の窒化ホウ素)よりも安価な鱗片状の熱伝導性フィラー(例えば、鱗片状の窒化ホウ素3A)を用いて、優れた熱特性と低コスト化を両立させることができる。
【0025】
鱗片状の熱伝導性フィラーの平均粒径(D50)は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、鱗片状の熱伝導性フィラーの平均粒径の下限値は、10μm以上とすることができ、20μm以上であってもよく、30μm以上であってもよく、35μm以上であってもよい。また、鱗片状の熱伝導性フィラーの平均粒径の上限値は、150μm以下とすることができ、100μm以下であってもよく、90μm以下であってもよく、80μm以下であってもよく、70μm以下であってもよく、50μm以下であってもよく、45μm以下であってもよい。熱伝導性シート1の圧縮率を良好にし、実効熱伝導率の荷重依存性を小さくする観点から、鱗片状の熱伝導性フィラーの平均粒径は、20〜100μmとすることが好ましく、20〜50μmとすることもできる。
【0026】
鱗片状の熱伝導性フィラーのアスペクト比(長軸/短軸)は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、鱗片状の熱伝導性フィラーのアスペクト比は、10〜100の範囲とすることができる。鱗片状の熱伝導性フィラーの長軸及び短軸は、例えば、マイクロスコープ、走査型電子顕微鏡(SEM)、粒度分布計などにより測定することができる。一例として、鱗片状の熱伝導性フィラーとして、図2に示すような結晶形状が六方晶型である鱗片状の窒化ホウ素3Aを用いた場合、SEMで撮影された画像から200個以上の窒化ホウ素3Aを任意に選択し、それぞれの長軸aと短軸cの比(a/c)を求めて平均値を算出すればよい。
【0027】
熱伝導性シート1中の第1の熱伝導性フィラー3の含有量は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、熱伝導性シート1中の第1の熱伝導性フィラー3の含有量の下限値は、15体積%以上とすることができ、20体積%以上であってもよく、25体積%以上であってもよい。また、熱伝導性シート1中の第1の熱伝導性フィラー3の含有量の上限値は、45体積%以下とすることができ、40体積%以下であってもよく、35体積%以下であってもよく、30体積%以下であってもよい。熱伝導性シート1の圧縮率を良好にし、実効熱伝導率の荷重依存性を小さくする観点から、熱伝導性シート1中の第1の熱伝導性フィラー3の含有量は、20〜28体積%であることが好ましく、23〜27体積%とすることもできる。
【0028】
<第2の熱伝導性フィラー>
第2の熱伝導性フィラー4は、上述した第1の熱伝導性フィラー3以外の熱伝導性フィラーである。第2の熱伝導性フィラー4は、非鱗片状であり、例えば、球状、粉末状、顆粒状、扁平状等の熱伝導性フィラーが挙げられる。第2の熱伝導性フィラー4の材質は、本技術の効果を考慮して、熱伝導性シート1の絶縁性を確保できる材料が好ましく、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ、サファイア)、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、ジルコニア、炭化ケイ素などが挙げられる。第2の熱伝導性フィラー4は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0029】
特に、第2の熱伝導性フィラー4としては、熱伝導性シート1の圧縮率を良好にし、実効熱伝導率の荷重依存性を小さくする観点では、窒化アルミニウム粒子と、アルミナ粒子とを併用することが好ましい。窒化アルミニウム粒子の平均粒径は、熱硬化前の熱伝導性シート1の粘度低下の観点から、1〜5μmとすることが好ましく、1〜3μmであってもよく、1〜2μmであってもよい。また、アルミナ粒子の平均粒径は、熱硬化前の熱伝導性シート1の粘度低下の観点から、1〜3μmとすることが好ましく、1.5〜2.5μmであってもよい。
【0030】
熱伝導性シート1中の第2の熱伝導性フィラー4の含有量は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。熱伝導性シート1中の第2の熱伝導性フィラー4の含有量の下限値は、10体積%以上とすることができ、15体積%以上であってもよく、20体積%以上であってもよい。また、熱伝導性シート1中の第2の熱伝導性フィラー4の含有量の上限値は、50体積%以下とすることができ、40体積%以下であってもよく、30体積%以下であってもよく、25体積%以下であってもよい。熱伝導性シート1中の第2の熱伝導性フィラー4の含有量の合計は、例えば、30〜60体積%とすることができる。
【0031】
第2の熱伝導性フィラー4として、アルミナ粒子を単独で用いる場合、熱硬化前の熱伝導性シート1の粘度低下の観点から、熱伝導性シート1中、アルミナ粒子の含有量は10〜45体積%とすることが好ましい。また、上述のように、第2の熱伝導性フィラー4として、窒化アルミニウム粒子と、アルミナ粒子とを併用する場合、熱硬化前の熱伝導性シート1の粘度低下の観点から、熱伝導性シート1中、アルミナ粒子の含有量は10〜25体積%とすることが好ましく、窒化アルミニウム粒子の含有量は10〜25体積%とすることが好ましい。
【0032】
また、熱伝導性シート1中、第1の熱伝導性フィラー3及び第2の熱伝導性フィラー4の総含有量は、圧縮率を良好にし、実効熱伝導率の荷重依存性を小さくする観点では、70体積%未満であることが好ましく、67体積%以下とすることもできる。また、熱伝導性シート1中、第1の熱伝導性フィラー3及び第2の熱伝導性フィラー4の総含有量の下限値は、熱伝導性シート1の圧縮率を良好にし、実効熱伝導率の荷重依存性を小さくする観点では、60体積%以上であることが好ましく、63体積%以上とすることもできる。
【0033】
熱伝導性シート1は、本技術の効果を損なわない範囲で、上述した成分以外の他の成分をさらに含有してもよい。他の成分としては、例えば、分散剤、硬化促進剤、遅延剤、粘着付与剤、可塑剤、難燃剤、酸化防止剤、安定剤、着色剤などが挙げられる。
【0034】
[配向性]
以上のように、第1の熱伝導性フィラー3と第2の熱伝導性フィラー4とがバインダ樹脂2に分散している熱伝導性シート1は、図1に示す熱伝導性シート1の厚み方向Bに第1の熱伝導性フィラー3の長軸が配向し、熱伝導性シート1の面内方向Aに第1の熱伝導性フィラー3の短軸がランダム配向する。これにより、熱伝導性シート1は、荷重が増加した場合においても熱伝導率の減少幅を小さくできる。
【0035】
熱伝導性シート1の厚み方向Bに、第1の熱伝導性フィラー3の長軸が配向しているとは、例えば、熱伝導性シート1中の全ての第1の熱伝導性フィラーのうち、熱伝導性シート1の厚み方向Bに長軸が配向している第1の熱伝導性フィラーの割合が50%以上であることをいう。また、熱伝導性シート1の面内方向Aに第1の熱伝導性フィラー3の短軸がランダム配向しているとは、第1の熱伝導性フィラー3の短軸の向きが熱伝導性シート1の面内方向Aに不規則となっている状態をいう。
【0036】
すなわち、熱伝導性シート1は、縦断面視において各第1の熱伝導性フィラー3が長軸をシート厚み方向Bに向けて分散されており、且つ、横断面視においては、各第1の熱伝導性フィラー3の短軸の向きがシート面内方向Aに不規則となっている状態を有する。
【0037】
第1の熱伝導性フィラー3の配向状態は、XRD(X線回折法)による信号強度測定により観察することができる。例えば、シートの厚み方向から測定した信号強度は、シートの厚み方向から見た場合における、シートの面にX線を照射した場合の信号強度A(図3中002面に相当)と、シートの対角線に対応した方向にX線を照射した場合の信号強度B(図3中110面に相当)であり、強度比A/Bを配向状態の指標とした。同様にシートの正面方向及び側面方向から測定したXRD信号の強度比A/Bを求め、各信号強度比を対比したときに相対的にA/Bが小さい方向ほど配向性が高い、すなわち第1の熱伝導性フィラーの長軸が配向していると言える。
【0038】
本技術が適用された熱伝導性シート1に対して、シート厚み方向、正面方向、及び側面方向に対してそれぞれ信号強度比を求めた。具体的に、図4に示すように、シートの厚み方向bの一面を上面1aとし、シートの一側面を正面1bとし、正面1bと隣接する他側面を側面1cとする。そして、熱伝導性シート1の上面1aを上に向けてX線を照射した場合の信号強度A(図3中002面に相当)と、シートの対角線に対応した方向にX線を照射した場合の信号強度B(図3中110面に相当)を測定し、強度比A/Bを求めた。次いで、正面1bを上に向けて同様に、強度比A/Bを求めた。次いで、側面1cを上に向けて同様に、強度比A/Bを求めた。
【0039】
そして、上面1a、正面1b、側面1cの各XRD信号強度比を対比したところ、本技術が適用された熱伝導性シート1は、上面1a、すなわちシートの厚み方向から測定したXRD信号強度比が、正面1b及び側面1cから測定したXRD信号強度比より値がはるかに小さかった。これより、シートの厚み方向に第1の熱伝導性フィラー3の長軸が配向していることが分かった。
【0040】
また、正面1bから測定したXRD信号強度比と、側面1cから測定したXRD信号強度比とを対比したところ、その差が大きくなった。これより、第1の熱伝導性フィラー3の短軸がシート面方向にランダム配向していることが推測される。
【0041】
なお、熱伝導性シート1は、第1の熱伝導性フィラー3と第2の熱伝導性フィラー4とを併用することにより、第2の熱伝導性フィラー4で第1の熱伝導性フィラー3の上記配向状態を支えることができる。
【0042】
このような熱伝導性シート1は、第1の熱伝導性フィラー3の長軸が、熱伝導性シート1の厚み方向B(図1参照)に配向しているため、第1の熱伝導性フィラー3の長軸の配向方向(熱伝導性シート1の厚み方向B)における熱伝導率が、第1の熱伝導性フィラー3の長軸の非配向方向(例えば、熱伝導性シート1の面方向A)における熱伝導率の2倍以上とすることができる。
【0043】
ここで、シートの面内方向Aに第1の熱伝導性フィラー3の短軸がランダム配向している熱伝導性シート1は、シート表面に目視可能な模様を有する。模様の形状は第1の熱伝導性フィラー3の短軸のランダム配向性を反映しているものと考えられ、互いに直交しない辺を有する模様である。シート表面の模様は、例えば、互いに直交しない辺を有する多角形状等の幾何学模様や、複数の円形、楕円形が連続する模様、あるいはこれら幾何学模様と円形、楕円形の模様が混在する模様である。
【0044】
熱伝導性シート1は、第1の熱伝導性フィラー3の短軸がランダム配向していることによりシート表面に互いに直交しない辺を有する模様を有し、ランダム配向することで、荷重が増加した場合においても熱伝導率の減少幅を小さくできる。すなわち、熱伝導性シート1は、シート表面に第1の熱伝導性フィラー3の短軸のランダム配向を示す模様を有することから、シート表面における面方向にランダム配向されている第1の熱伝導性フィラー3の短軸による面方向への高い熱伝導性を有する。そして、この高い熱伝導性は、発熱体と放熱体との間に配置されるなどして荷重が印加され、第1の熱伝導性フィラーの長軸が傾倒した場合にも、シート表面において短軸のランダム配向性が維持されている。これにより、熱伝導性シート1は、荷重が増加し長軸が厚み方向に配向する鱗片状の第1の熱伝導性フィラーの長軸が倒れても面内方向にランダム配向された短軸によってシート厚み方向の熱伝導性が維持され、荷重の増加に伴う熱伝導率の変動幅を小さくすることができる。
【0045】
一方、熱伝導性シート表面に現れる模様が互いに直交する辺のみから構成されるものである場合、この熱伝導性シートは、含有する鱗片状フィラーの短軸が所定方向に配向されているものと考えられる。このような熱伝導性シートは、鱗片状フィラーの短軸がシートの面方向に対して所定の方向に配向されているため、面方向に対する熱伝導性も低い。そして、荷重が増加し長軸が厚み方向に配向する鱗片状の第1の熱伝導性フィラーの長軸が倒れた場合にも、短軸の配向性が維持された状態で一様に傾倒することから、荷重の増加に伴い熱伝導率が減少する。
【0046】
熱伝導性シート1の平均厚みは、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、熱伝導性シートの平均厚みの下限値は、0.05mm以上とすることができ、0.1mm以上とすることもできる。また、熱伝導性シートの平均厚みの上限値は、5mm以下とすることができ、4mm以下であってもよく、3mm以下であってもよい。熱伝導性シート1の取り扱い性の観点から、熱伝導性シート1の平均厚みは、0.1〜4mmとすることが好ましく、0.5〜3mmとすることもでき、1〜2mmとすることもできる。熱伝導性シート1の平均厚みは、例えば、熱伝導性シートの厚みを任意の5箇所で測定し、その算術平均値から求めることができる。
【0047】
熱伝導性シート1は、厚み方向に鱗片状の第1の熱伝導性フィラー3の長軸が配向し、面内方向では鱗片状の第1の熱伝導性フィラー3の短軸がランダム配向しているため、荷重が増加し鱗片状の熱伝導性フィラーが倒れても面内方向にランダム配向された短軸によって熱伝導性が維持され、荷重の増加に伴う熱伝導率の減少幅を少なくすることができる。
【0048】
<熱伝導性シートの製造方法>
本技術に係る熱伝導性シートの製造方法は、例えば、下記工程Aと、工程Bと、工程Cとを有する。
【0049】
<工程A>
工程Aでは、鱗片状の第1の熱伝導性フィラー3と非鱗片状の第2の熱伝導性フィラー4とをバインダ樹脂2に分散させることにより熱伝導性シート形成用組成物を調製する。熱伝導性シート形成用組成物は、第1の熱伝導性フィラー3と、第2の熱伝導性フィラー4と、バインダ樹脂2との他に、必要に応じて各種添加剤や揮発性溶剤とを公知の手法により均一に混合することにより調製できる。
【0050】
<工程B>
工程Bでは、調製された熱伝導性シート形成用組成物から成形体ブロックを形成する。成形体ブロックの形成方法としては、押出成形法、金型成形法などが挙げられる。押出成形法、金型成形法としては、特に制限されず、公知の各種押出成形法、金型成形法の中から、熱伝導性シート形成用組成物の粘度や熱伝導性シートに要求される特性等に応じて適宜採用することができる。
【0051】
例えば、押出成形法において、熱伝導性シート形成用組成物をダイより押し出す際、あるいは金型成形法において、熱伝導性シート形成用組成物を金型へ圧入する際、バインダ樹脂が流動し、その流動方向に沿って鱗片状の熱伝導性フィラー3の長軸が配向する。
【0052】
成形体ブロックの大きさ・形状は、求められる熱伝導性シート1の大きさに応じて決めることができる。例えば、断面の縦の大きさが0.5〜15cmで横の大きさが0.5〜15cmの直方体が挙げられる。直方体の長さは必要に応じて決定すればよい。押出成形法では、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物の硬化物からなる柱状の成形体ブロックを形成することができる。
【0053】
[開口部]
ここで、成形体ブロックの形成工程においては、熱伝導性シート形成用組成物を、その流動方向から見たときに、互いに直交しない辺を有する1又は複数のセルを備えた開口部5を通過させる。このような開口部5は、例えば図5(a)に示すように正五角形のセルが複数連続する構造を例示できる。その他にも六角ハニカムセルが複数連続する構造(図5(b))や、略円形のセルが複数連続する構造(図5(c))等でもよい。すなわち、本技術に係る開口部5は、正方形や長方形のように互いに直交する辺のみから構成されるもの、例えば図6(a)に示すような平行スリット構造や図6(b)に示すような互いに直交する矩形セルが複数連続する矩形メッシュ構造が除かれる。
【0054】
なお、開口部5は、一部に互いに直交する辺のみから構成されるセルを有していてもよい。また、複数のセルの開口形状がすべて同じでもよく、異なる開口形状のセルを組み合わせて構成してもよい。また、複数のセルの各開口形状は、正多角形であってもよく、正多角形でなくともよい。また、開口部5は、互いに直交しない辺を有するセルが複数連続して構成されるもの以外にも、一つの開口からなり、その開口形状が互いに直交しない辺を有するものであってもよい。
【0055】
このような開口部5を通過することにより、熱伝導性シート形成用組成物に含まれる第1の熱伝導性フィラー3の長軸を流動方向に配向させるとともに、第1の熱伝導性フィラー3の短軸を流動方向と直交する方向にランダムに配向(すなわち無配向)させることができる。これは、成形体ブロックを形成する工程において、略直方体状の金型に熱伝導性シート形成用組成物を流動させる際に、互いに直交する辺のみから構成される開口部を通過させると、第1の熱伝導性フィラー3の短軸が互いに直交する方向に配向されてしまうのに対し、互いに直交しない辺を有する開口部5を通過させた場合には、第1の熱伝導性フィラー3の短軸の配向が乱れるためと考えられる。
【0056】
開口部5は、互いに直交しない辺を有する形状であれば、任意の形状を取ることができるが、5辺以上を有する多角形状であることが好ましい。これにより、短軸のランダム配向性を向上させることができる。
【0057】
このような開口部5を通過した熱伝導性シート形成用組成物から形成された成形体ブロックは、流動方向に第1の熱伝導性フィラー3の長軸が配向されるとともに、流動方向に対して直交する断面においては、第1の熱伝導性フィラー3の短軸がランダム配向されている。
【0058】
<工程C>
工程Cでは、成形体ブロックをシート状にスライスして、熱伝導性シート1を得る。スライスにより得られるシートの表面(スライス面)には、鱗片状の第1の熱伝導性フィラー3が露出する。スライスする方法としては特に制限はなく、成形体ブロックの大きさや機械的強度により公知のスライス装置の中から適宜選択することができる。成形体ブロックのスライス方向としては、第1の熱伝導性フィラー3の長軸が流動方向に配向しているため、流動方向に対して60〜120度であることが好ましく、70〜100度の方向であることがより好ましく、90度(垂直)の方向であることがさらに好ましい。工程Bで柱状の成形体ブロックを形成し、第1の熱伝導性フィラー3の長軸が成形体ブロックの長さ方向に配向している場合、工程Cでは、成形体ブロックの長さ方向に対して略垂直方向にスライスすることが好ましい。
【0059】
このように、工程Aと、工程Bと、工程Cとを有する熱伝導性シートの製造方法によれば、上述した熱伝導性シート1を得ることができる。
【0060】
本技術に係る熱伝導性シートの製造方法は、上述した例に限定されず、例えば、工程Cの後に、スライス面をプレスする工程Dをさらに有していてもよい。熱伝導性シートの製造方法がプレスする工程Dを有することで、工程Cで得られるシートの表面がより平滑化され、他の部材との密着性をより向上させることができる。プレスの方法としては、平盤と表面が平坦なプレスヘッドとからなる一対のプレス装置を使用することができる。また、ピンチロールでプレスしてもよい。プレスの際の圧力としては、例えば、0.1〜100MPaとすることができる。プレスの効果をより高め、プレス時間を短縮するために、プレスは、バインダ樹脂2のガラス転移温度(Tg)以上で行うことが好ましい。例えば、プレス温度は、0〜180℃とすることができ、室温(例えば25℃)〜100℃の温度範囲内であってもよく、30〜100℃であってもよい。
【0061】
<電子機器>
本技術に係る熱伝導性シート1は、例えば、発熱体と放熱体との間に配置させることにより、発熱体で生じた熱を放熱体に逃がすためにそれらの間に配された構造の電子機器とすることができる。電子機器は、発熱体と放熱体と熱伝導性シート1とを少なくとも有し、必要に応じて、その他の部材をさらに有していてもよい。
【0062】
発熱体としては、特に限定されず、例えば、CPU、GPU(Graphics Processing Unit)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、フラッシュメモリなどの集積回路素子、トランジスタ、抵抗器など、電気回路において発熱する電子部品等が挙げられる。また、発熱体には、通信機器における光トランシーバ等の光信号を受信する部品も含まれる。
【0063】
放熱体としては、特に限定されず、例えば、ヒートシンクやヒートスプレッダなど、集積回路素子やトランジスタ、光トランシーバ筐体などと組み合わされて用いられるものが挙げられる。放熱体としては、ヒートスプレッダやヒートシンク以外にも、熱源から発生する熱を伝導して外部に放散させるものであればよく、例えば、放熱器、冷却器、ダイパッド、プリント基板、冷却ファン、ペルチェ素子、ヒートパイプ、金属カバー、筐体等が挙げられる。
【0064】
図7は、本技術に係る熱伝導性シート1を適用した半導体装置50の一例を示す断面図である。例えば、熱伝導性シート1は、図7に示すように、各種電子機器に内蔵される半導体装置50に実装され、発熱体と放熱体との間に挟持される。図7に示す半導体装置50は、電子部品51と、ヒートスプレッダ52と、熱伝導性シート1とを備え、熱伝導性シート1がヒートスプレッダ52と電子部品51との間に挟持される。熱伝導性シート1が、ヒートスプレッダ52とヒートシンク53との間に挟持されることにより、ヒートスプレッダ52とともに、電子部品51の熱を放熱する放熱部材を構成する。熱伝導性シート1の実装場所は、ヒートスプレッダ52と電子部品51との間や、ヒートスプレッダ52とヒートシンク53との間に限らず、電子機器や半導体装置の構成に応じて、適宜選択できる。
【実施例】
【0065】
以下、本技術の実施例について説明する。実施例では、熱伝導性シートを作製し、実効熱伝導率と圧縮率を測定した。なお、本技術は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0066】
<実施例1>
シリコーン樹脂34体積%と、結晶形状が六方晶型である鱗片状の窒化ホウ素(D50:40μm)26体積%と、窒化アルミニウム(D50:1.2μm)20体積%と、球状アルミナ粒子(D50:2μm)20体積%とを均一に混合することにより、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物を調製した。押出成形法により、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物を、互いに直交しない辺を有する複数のセルが連続する開口部(図5参照)を通過させ、直方体状の内部空間を有する金型(開口径:50mm×50mm)中に流し込み、60℃のオーブンで4時間加熱させて柱状の成形体ブロックを形成した。なお、金型の内面には、剥離処理面が内側となるように剥離ポリエチレンテレフタレートフィルムを貼り付けておいた。得られた成形体ブロックを超音波カッターでシート状にスライスすることにより、鱗片状の窒化ホウ素がシートの厚み方向に配向した1.0mm厚の熱伝導性シートを得た。
【0067】
<実施例2>
シリコーン樹脂37体積%と、結晶形状が六方晶型である鱗片状の窒化ホウ素(D50:40μm)23体積%と、窒化アルミニウム(D50:1.2μm)20体積%と、球状アルミナ粒子(D50:2μm)20体積%とを均一に混合することにより、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物を調製したこと以外は、実施例1と同様の方法で1.0mm厚の熱伝導性シートを得た。
【0068】
<実施例3>
実施例1と同様の方法で2.0mm厚の熱伝導性シートを得た。
【0069】
<実施例4>
実施例2と同様の方法で2.0mm厚の熱伝導性シートを得た。
【0070】
<比較例1>
シリコーン樹脂34体積%と、結晶形状が六方晶型である鱗片状の窒化ホウ素(D50:40μm)26体積%と、窒化アルミニウム(D50:1.2μm)20体積%と、球状アルミナ粒子(D50:2μm)20体積%とを均一に混合することにより、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物を調製した。この熱伝導性シート形成用の樹脂組成物を、押出成形法により、6mm幅の平行スリット(図6(a)参照)を通過させ、金型中に流し込み、成形体ブロックを形成したこと以外は、実施例1と同様の方法で1.0mm厚の熱伝導性シートを得た。
【0071】
<比較例2>
シリコーン樹脂34体積%と、結晶形状が六方晶型である鱗片状の窒化ホウ素(D50:40μm)26体積%と、窒化アルミニウム(D50:1.2μm)20体積%と、球状アルミナ粒子(D50:2μm)20体積%とを均一に混合することにより、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物を調製した。この熱伝導性シート形成用の樹脂組成物を、押出成形法により、矩形メッシュ状の開口部(図6(b)参照)を通過させ、金型中に流し込み、成形体ブロックを形成したこと以外は、実施例1と同様の方法で1.0mm厚の熱伝導性シートを得た。
【0072】
<比較例3>
比較例1と同様の方法で2.0mm厚の熱伝導性シートを得た。
【0073】
<比較例4>
比較例2と同様の方法で2.0mm厚の熱伝導性シートを得た。
【0074】
<実効熱伝導率/実効熱伝導率の最大値と最小値の差>
熱伝導性シートの実効熱伝導率(W/m・K)は、ASTM−D5470に準拠した熱抵抗測定装置を用いて、所定の荷重(0.5kgf/cm、1.0kgf/cm、2.0kgf/cm又は3.0kgf/cm)をかけたときの熱伝導性シートの厚み方向について測定した。
【0075】
また、所定の荷重をかけたときの実効熱伝導率の最大値と最小値の差を求めた。この差が小さいほど、実効熱伝導率の荷重依存性が低く、荷重を増加させていっても安定した実効熱伝導率を奏するといえる。例えば実施例1では、実効熱伝導率の最大値は8.3W/m・Kであり(荷重1.0kgf/cm、及び荷重2.0kgf/cm)、最小値は7.6W/m・Kであるから(荷重0.5kgf/cm)、その差は0.7W/m・Kである。
【0076】
<圧縮率>
熱伝導性シートの圧縮率(%)は、熱伝導性シートに所定の荷重(0.5kgf/cm、1.0kgf/cm、2.0kgf/cm又は3.0kgf/cm)をかけて安定した後の熱伝導性シートの厚みを測定し、荷重をかける前後の熱伝導性シートの厚みから算出した。
【0077】
<評価判定>
次の基準で実施例及び比較例の熱伝導性シートの評価判定を行った。熱伝導性シートの実効熱伝導率の最大値と最小値の差が1.5W/m・K以下のときをOKと評価し、それ以外をNGと評価した。結果を表1に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
表1に示すように、実施例1〜4の熱伝導性シートは、厚み方向に対して0.5〜3kgf/cmの荷重を加えたときに、実効熱伝導率の最大値と最小値の差が1.5W/m・K以下であり、実効熱伝導率の荷重依存性が低く安定して実効熱伝導率を発揮できることが分かった。これは、実施例1〜4の熱伝導性シートは、硬化性樹脂組成物と、鱗片状の熱伝導性フィラーと、非鱗片状の熱伝導性フィラーとを含有し、厚み方向に鱗片状の熱伝導性フィラーの長軸が配向し、面内方向では鱗片状の熱伝導性フィラーの短軸がランダム配向しているため、荷重が増加し長軸が厚み方向に配向する鱗片状の熱伝導性フィラーが倒れても面内方向にランダム配向された短軸によって熱伝導性が維持され、荷重の増加に伴う熱伝導率の変動幅が小さくなったためと考えられる。
【0080】
比較例1〜4の熱伝導性シートは、厚み方向に対して0.5〜3kgf/cmの荷重を加えたときに、実効熱伝導率の最大値と最小値の差が1.5W/m・K超であり、実効熱伝導率の荷重依存性が高く、荷重の増加に伴う熱伝導率の減少幅を小さくすることが困難であることが分かった。これは、比較例1,2の熱伝導性シートは、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物が平行スリット構造やメッシュ構造の開口部を通過することで、鱗片状の熱伝導性フィラーの短軸も面内方向で所定の方向に配向することから、荷重が増加し長軸が厚み方向に配向する鱗片状の熱伝導性フィラーが倒れたときに、短軸によって熱伝導性を維持することができなかったためと考えられる。
【符号の説明】
【0081】
1 熱伝導性シート、2 バインダ樹脂、3 鱗片状の第1の熱伝導性フィラー、3A 鱗片状の窒化ホウ素、4 非鱗片状の第2の熱伝導性フィラー、50 半導体装置、51 電子部品、52 ヒートスプレッダ、53 ヒートシンク
【要約】
【課題】荷重が増加時の熱伝導率の減少幅を小さくできる熱伝導性シートを提供する。
【解決手段】熱伝導性シート1は、バインダ樹脂と、鱗片状の第1の熱伝導性フィラーと、非鱗片状の第2の熱伝導性フィラーとを含有し、上記第1の熱伝導性フィラーと上記第2の熱伝導性フィラーとが上記バインダ樹脂に分散しており、当該熱伝導性シートの厚み方向に上記第1の熱伝導性フィラーの長軸が配向し、当該熱伝導性シートの面内方向に上記第1の熱伝導性フィラーの短軸がランダム配向する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7