(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者が検討したところ、特許文献2,3に開示された引き裂きチューブにおいても、引き裂きに要する力が安定せず、引き裂き性が不十分となる場合があることが明らかとなった。例えば、特許文献3に開示されているように、引き裂きチューブにポリテトラフルオロエチレンを用いると引き裂きに要する力が大きくなるため、引き裂き性が不十分となる場合がある。
【0008】
さらに、引き裂きチューブには、高い内表面平滑性が求められている。すなわち、引き裂きチューブの内表面平滑性が高いことにより、引き裂きチューブで被覆される製品の高い表面平滑性を保持することが可能となる。また、当該製品の表面が溶融する温度以上まで引き裂きチューブを加熱して、引き裂きチューブを熱収縮させて当該製品を被覆することにより、引き裂きチューブの高い内表面平滑性を製品表面に転写することも可能となる。例えばカテーテルなどは体内に挿入されるため、カテーテルなどに用いられる引き裂きチューブには、特に高い内表面平滑性が求められる。ところが、本発明者らが検討したところ、特許文献2,3のように、異種のフッ素樹脂を混合すると、フッ素樹脂同士が相分離し、引き裂きチューブの内表面に凹凸形状が形成され、内表面平滑性が低くなる場合があることが明らかとなった。
【0009】
このような状況下、本発明は、引き裂き性及び内表面平滑性に優れたフッ素樹脂製チューブ、及びその製造方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、ポリテトラフルオロエチレンとは異なる、1種類の熱可塑性フッ素樹脂によりフッ素樹脂製チューブを形成することにより、長さ方向の引き裂き性及び内表面平滑性に優れたフッ素樹脂製チューブとなることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0011】
即ち、本発明は、下記に掲げる発明を提供する。
項1. 長さ方向に引き裂き性を有するフッ素樹脂製チューブであって、
ポリテトラフルオロエチレンとは異なる、1種類の熱可塑性フッ素樹脂により形成されている、フッ素樹脂製チューブ。
項2. 熱収縮性を有する、項1に記載のフッ素樹脂製チューブ。
項3. 200℃の気相中で5分間加熱した際の内径の熱収縮率が、20%以上である、項1または2に記載のフッ素樹脂製チューブ。
項4. 前記熱可塑性フッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体である、項1〜3のいずれかに記載のフッ素樹脂製チューブ。
項5. 前記熱可塑性フッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体である、項1〜3のいずれかに記載のフッ素樹脂製チューブ。
項6. 加熱された状態で内側から加圧することにより、内径を拡張させることができる、項1〜5のいずれかに記載のフッ素樹脂製チューブ。
項7. 長さ方向にウェルドラインを備えている、項1〜6のいずれかに記載のフッ素樹脂製チューブ。
項8. 引き裂き性を有するフッ素樹脂製チューブを製造する方法であって、
ポリテトラフルオロエチレンとは異なる、1種類の熱可塑性フッ素樹脂を溶融押出成形する工程を備えており、
前記溶融押出成形の際、溶融した前記熱可塑性フッ素樹脂の流路を一時的に分岐させ、フッ素樹脂製チューブの長さ方向にウェルドラインを形成する、フッ素樹脂製チューブの製造方法。
項9. 前記ウェルドラインが形成されたフッ素樹脂製チューブを加熱した状態で内側から加圧することにより、内径を拡張させる工程をさらに備える、項8に記載のフッ素樹脂製チューブの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、長さ方向の引き裂き性と、内表面平滑性に優れたフッ素樹脂製チューブを提供することができる。また、本発明によれば、長さ方向の引き裂き性と、内表面平滑性に優れたフッ素樹脂製チューブの製造方法を提供することもできる。さらに、本発明によれば、本発明のフッ素樹脂製フッ素チューブで被覆された電線、リード線、カテーテル、ガイドワイヤーなどの各種製品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のフッ素樹脂製チューブは、内表面が平滑であり、長さ方向に引き裂き性を有しており、ポリテトラフルオロエチレンとは異なる、1種類の熱可塑性フッ素樹脂により形成されていることを特徴とする。以下、本発明のフッ素樹脂製チューブについて、詳述する。
【0015】
本発明のフッ素樹脂製チューブは、ポリテトラフルオロエチレンとは異なる、1種類の熱可塑性フッ素樹脂により形成されている。熱可塑性フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレンとは異なれば特に制限されないが、例えば260〜450℃程度、好ましくは280〜420℃程度の温度で溶融押出成形によりチューブ状に成形できる熱可塑性樹脂であることが好ましい。
【0016】
熱可塑性フッ素樹脂の具体例としては、好ましくはテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)などが挙げられる。これらの中でも、特に優れた引き裂き性及び内表面平滑性を付与する観点からは、好ましくはテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)が挙げられる。
【0017】
本発明のフッ素樹脂製チューブは、熱収縮性を備えていることが好ましい。フッ素樹脂製チューブの熱収縮性は、例えば、フッ素樹脂製チューブを加熱した状態で内側から加圧することによって、内径を拡張させることにより好適に付与することができる。例えば、電線、リード線、カテーテル、ガイドワイヤーなどの製品を本発明のフッ素樹脂製チューブで被覆(仮被覆)する際に、熱収縮性を備えるフッ素樹脂製チューブにこれらの製品を挿入し、フッ素樹脂製チューブを熱収縮させることにより、これらの製品にフッ素樹脂製チューブを好適に密着させて被覆することができる。本発明のフッ素樹脂製チューブを構成する1種類の熱可塑性フッ素樹脂として、例えば、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体またはテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体を用いることにより、特に優れた熱収縮性を付与することができる。
【0018】
本発明において、熱収縮性が付与されたフッ素樹脂製チューブの熱収縮率としては、特に制限されないが、200℃の気相中(具体的には空気中)5分間加熱した際の内径の熱収縮率としては、好ましくは20%以上、より好ましくは30〜60%程度が挙げられる。これにより、製品を好適にフッ素樹脂製チューブで被覆することができる。
【0019】
本発明のフッ素樹脂製チューブを構成する熱可塑性フッ素樹脂のメルトフローレート(MFR)としては、特に制限されないが、フッ素樹脂製チューブの引き裂き性及び表面平滑性を向上させ、さらには熱収縮性をも向上させる観点からは、好ましくは1.0〜25.0程度が挙げられる。なお、本発明において、熱可塑性フッ素樹脂のMFRは、JIS K7210:1999の規定に準拠した方法で測定された値である。
【0020】
本発明のフッ素樹脂製チューブは、ポリテトラフルオロエチレンとは異なる1種類の熱可塑性フッ素樹脂により形成されていることにより、優れた引き裂き性と内表面平滑性を発揮することができ、さらには、優れた熱収縮性をも発揮し得る。本発明のフッ素樹脂製チューブが、優れた引き裂き性と内表面平滑性、さらには、優れた熱収縮性とを発揮し得る機序の詳細としては、次のように考えることができる。すなわち、本発明のフッ素樹脂製チューブでは、ポリテトラフルオロエチレンとは異なる1種類の熱可塑性フッ素樹脂により形成されているため、チューブを構成するフッ素樹脂の相分離が生じることがなく、引き裂き性、内表面平滑性、さらには熱収縮性がチューブ全体にわたって均一性高く備わっており、結果として、これらの特性に優れたチューブとなっていると考えられる。
【0021】
また、本発明のフッ素樹脂製チューブは、ポリテトラフルオロエチレンとは異なる1種類の熱可塑性フッ素樹脂により形成されていることにより、高い透明性を発揮することもできる。すなわち、本発明のフッ素樹脂製チューブは、透明なフッ素樹脂製チューブとすることができる。本発明のフッ素樹脂製チューブで被覆されるカテーテルなどの製品は、当該チューブで被覆する際に、高い位置精度でチューブ内に配置することが求められている。この際、透明性の高い本発明のフッ素樹脂製チューブを用いることにより、高い位置精度でチューブ内に容易に配置することが可能となる。一方、種類の異なる複数の熱可塑性フッ素樹脂を溶融押出してチューブ状に成形したチューブや、ポリテトラフルオロエチレンを用いたチューブなど、従来のチューブでは、チューブの透明性が低く、白濁しており、高い位置精度でチューブ内に配置することが困難であった。なお、本発明において、透明なフッ素樹脂製チューブとは、実施例に記載の透明性の評価において、高い透明性を有すると評価されるものを意味する。
【0022】
本発明のフッ素樹脂製チューブにおいて、「1種類の熱可塑性フッ素樹脂」とは、相分離を抑制して引き裂き性と内表面平滑性を向上させる観点から、熱可塑性フッ素樹脂の種類として1種類であればよく、例えば、重量平均分子量や重合形態(例えば、ブロック重合体、ランダム重合体など)が異なるものや、複数モノマーの重合比率の異なるものの混合樹脂であってもよい。すなわち、例えば、重量平均分子量や重合形態が異なるものや、複数モノマーの重合比率の異なる熱可塑性樹脂が「1種類の熱可塑性フッ素樹脂」に含まれていても、熱可塑性フッ素樹脂の種類として1種類であれば、相分離が抑制されるため、引き裂き性及び内表面平滑性に優れたフッ素樹脂製チューブとすることができる。ただし、前述の通り、ポリテトラフルオロエチレンについては、引き裂き性に劣るという問題があるため、本発明の「1種類の熱可塑性フッ素樹脂」には実質的に含まれない。
【0023】
なお、本発明において、1種類の熱可塑性フッ素樹脂は、本発明の効果を奏する限り、完全に1種類の熱可塑性フッ素樹脂のみにより形成されていなくてもよく、実質的に1種類の熱可塑性フッ素樹脂により形成されていればよい。
【0024】
また、本発明のフッ素樹脂製チューブは、1種類の熱可塑性フッ素樹脂に加えて、フィラーなどを含んでいてもよい。本発明のフッ素樹脂製チューブをレントゲン撮影によって撮影できるようにする場合には、1種類の熱可塑性フッ素樹脂に加えて、硫酸バリウムなどの造影剤を含んでいてもよい。
【0025】
本発明のフッ素樹脂製チューブは、加熱された状態で内側から加圧することにより、内径(及び外径)を拡張させることができるものであることが好ましい。これにより、電線、リード線、カテーテル、ガイドワイヤーなどの各種製品を、内径が拡張された本発明のフッ素樹脂製チューブに挿入しやすくすることができる。さらに、拡張後のフッ素樹脂製チューブは、熱収縮性を備えていることにより、内径が拡張された本発明のフッ素樹脂製チューブを熱収縮させて、これらの製品に対してフッ素樹脂製チューブを好適に密着させて被覆することができる。なお、本発明のフッ素樹脂製チューブの内径を拡張させる具体的な方法としては、例えば、本発明のフッ素樹脂製チューブを100〜180℃程度に加熱した状態で、加圧窒素などによってフッ素樹脂製チューブの内側から加圧する方法が挙げられる。内径が拡張された本発明のフッ素樹脂製チューブは、熱収縮性が高められているため、熱収縮による製品の被覆をより好適に行うことができる。
【0026】
なお、内径が拡張された本発明のフッ素樹脂製チューブは、各種製品を挿入しやすくするために用意される。よって、本発明のフッ素樹脂製チューブにおいて、優れた引き裂き性が要求されるのは、主に、内径が拡張される前のフッ素樹脂製チューブ、または、内径が拡張された後、熱収縮させたフッ素樹脂製チューブである。内径が拡張された後、熱収縮させたフッ素樹脂製チューブの引き裂き性は、収縮後の寸法に依るものの、内径を拡張させる前のフッ素樹脂製チューブの引き裂き性と、内径が拡張された後、熱収縮させる前フッ素樹脂製チューブの引き裂き性との中間の引き裂き性となる。
【0027】
本発明のフッ素樹脂製チューブの引き裂き性は、以下の測定方法により測定される引き裂き強度が、8.0N/mm未満であることが好ましく、7.5N/mm以下であることがより好ましく、6.8N/mm以下であることがさらに好ましく、5.0N/mm以下であることが特に好ましい。なお、引き裂き強度の下限値としては、通常、1.0N/mmが挙げられる。
【0028】
(引き裂き強度の測定)
フッ素樹脂製チューブ(長さ100mm)の一方の端部に40mmの切り込みを設けて、引っ張り試験機によって、200mm/minの速度で引き裂き、そのときの最大の力を測定して、引き裂き強度(N)とする。測定を3回行い、その加重平均値とフッ素樹脂製チューブの肉厚から、フッ素樹脂製チューブの引き裂き性(N/mm)を求める。
【0029】
内径の拡張割合としては、例えば20%以上、好ましくは20〜200%程度が挙げられる。
【0030】
本発明のフッ素樹脂製チューブの内径Wa及び外径Wb(それぞれ、内径を拡張する前)としては、特に制限されず、被覆する製品に応じて適宜設定することができる。内径Waとしては、例えば、0.2〜10.0mm程度、好ましくは0.2〜5.0mm程度が挙げられる。外径Wbとしては、例えば、0.3〜11.0mm程度、好ましくは0.3〜6.0mm程度が挙げられる。
【0031】
本発明のフッ素樹脂製チューブを熱収縮させて用いる場合、本発明のフッ素樹脂製チューブが製品を被覆する前(すなわち、内径を拡張させた後であって、熱収縮させる前)の内径Waとしては、例えば0.3〜20.0mm程度、好ましくは0.3〜10.0mm程度が挙げられ、外径Wbとしては、例えば0.5〜25.0mm程度、好ましくは0.5〜12.0mm程度が挙げられる。また、製品を被覆している状態(すなわち、内径を拡張させ、さらに熱収縮させた後)の内径Waとしては、例えば0.2〜10.0mm程度、好ましくは0.2〜5.0mm程度が挙げられ、外径Wbとしては、例えば、0.3〜11.0mm程度、好ましくは0.3〜6.0mm程度が挙げられる。
【0032】
また、本発明のフッ素樹脂製チューブの肉厚D(内径を拡張する前)としては、特に制限されず、被覆する製品に応じて適宜設定することができる。肉厚Dとしては、例えば、0.03〜1.0mm程度、好ましくは0.05〜0.5mm程度が挙げられる。本発明のフッ素樹脂製チューブの長さ(内径を拡張する前)についても、被覆する製品に応じて適宜設定することができ、例えば0.1m以上、好ましくは0.1〜2.5m程度が挙げられる。
【0033】
本発明のフッ素樹脂製チューブを熱収縮させて用いる場合、本発明のフッ素樹脂製チューブが製品を被覆する前(すなわち、内径を拡張させた後であって、熱収縮させる前)の肉厚Dとしては、例えば0.02〜0.7mm程度、好ましくは0.02〜0.5mm程度が挙げられる。また、製品を被覆している状態(すなわち、内径を拡張させ、さらに熱収縮させた後)の肉厚Dとしては、例えば0.03〜1.0mm程度、好ましくは0.05〜0.5mm程度が挙げられる。
【0034】
本発明のフッ素樹脂製チューブは、長さ方向にウェルドラインを備えていることが好ましい。これにより、特に優れた引き裂き性を発揮することができる。なお、本発明のフッ素樹脂製チューブにおいて、当該ウェルドラインは、目視で確認できるものであってもよいし、目視で確認できないものであってもよい。本発明のフッ素樹脂製チューブにおいては、通常、ウェルドラインは、目視で確認することができない。
【0035】
本発明のフッ素樹脂製チューブの長さ方向にウェルドラインが形成されている場合、当該ウェルドラインの本数としては、特に制限されないが、引き裂き性をより一層向上させる観点からは、好ましくは1〜10本程度、より好ましくは2〜8本程度が挙げられる。
【0036】
本発明のフッ素樹脂製チューブは、ポリテトラフルオロエチレンとは異なる、1種類の熱可塑性フッ素樹脂により形成されており、さらに長さ方向にウェルドラインを備えている場合、引き裂き性及び内表面平滑性に特に優れているだけでなく、熱収縮性にも優れたフッ素樹脂製チューブとすることができる。すなわち、長さ方向にウェルドラインを備える本発明のフッ素樹脂製チューブは、1種類の熱可塑性フッ素樹脂により形成されているため、加熱された状態で内側から加圧して内径を拡張させた場合にも、ウェルドラインが形成された部分において亀裂などが生じ難く、内径を好適に拡張させることができる。さらに、内径が拡張された本発明のフッ素樹脂製チューブを加熱することにより、好適に熱収縮させることができる。本発明のフッ素樹脂製チューブにウェルドラインを形成する具体的な方法としては、例えば後述の「2.フッ素樹脂製チューブの製造方法」に記載の方法を採用することができる。
【0037】
本発明のフッ素樹脂製フッ素チューブは、電線、リード線、カテーテル、ガイドワイヤーなどの各種製品を被覆(仮被覆)する用途に好適に使用することができる。本発明のフッ素樹脂製フッ素チューブ(仮被覆チューブ)によって被覆されることにより、表面が好適に保護された、電線、リード線、カテーテル、ガイドワイヤーなどの各種製品となる。
【0038】
本発明のフッ素樹脂製チューブの製造方法としては、特に制限されないが、例えば以下の製造方法によって好適に製造することができる。
【0039】
2.フッ素樹脂製チューブの製造方法
本発明のフッ素樹脂製チューブの製造方法は、ポリテトラフルオロエチレンとは異なる、1種類の熱可塑性フッ素樹脂を溶融押出成形する工程を備えている。さらに、本発明のフッ素樹脂製チューブの製造方法においては、溶融押出成形の際、溶融した前記熱可塑性フッ素樹脂の流路を一時的に分岐させ、フッ素樹脂製チューブの長さ方向にウェルドラインを形成することが好ましい。これにより、引き裂き性及び内表面平滑性だけでなく、熱収縮性にも優れたフッ素樹脂製チューブが得られる。以下、本発明のフッ素樹脂製チューブの製造方法について、詳述する。
【0040】
本発明の製造方法において、溶融押出成形に供する1種類の熱可塑性フッ素樹脂としては、前述の「1.フッ素樹脂製チューブ」の項目で説明した通りである。
【0041】
溶融押出成形において、熱可塑性フッ素樹脂を溶融する温度(押出成形機のダイの設定温度)としては、熱可塑性フッ素樹脂が溶融して、チューブ状に成形できる温度であれば特に制限されず、例えば260〜450℃程度、好ましくは280〜420℃程度が挙げられる。また、熱可塑性フッ素樹脂にフィラーなどを混合して溶融押出成形することにより、前述の「2.フッ素樹脂製チューブ」の項目で説明したように、フッ素樹脂製チューブにフィラーなどを含有させることができる。
【0042】
溶融押出成形には、公知の押出成形機を用いることができ、例えば単軸押出機を用いることができる。
【0043】
本発明の製造方法においては、溶融押出成形に際して、例えば
図2に示されるような断面(溶融樹脂が流れる方向とは垂直方向の断面)を備える金型2を用いることができる。当該金型2の形状によって、溶融した熱可塑性フッ素樹脂の流路を一時的に分岐させ、フッ素樹脂製チューブの長さ方向にウェルドラインを形成することができる。例えば、
図2のような断面を有する金型2を用いる場合、流路21に設けられた複数の脚部22が、溶融した熱可塑性フッ素樹脂の流路を一時的に分岐させる。分岐した熱可塑性樹脂は、合流した部分にウェルドラインが形成された状態で金型から突出され、冷却されてフッ素樹脂製チューブとなる。したがって、例えば金型2のように、脚部22によって流路21が分岐される構造を有する金型を用いてウェルドラインを形成する場合、当該脚部22の数に対応する本数のウェルドラインが形成される。
図2の金型2においては、8つの脚部22が設けられている。
【0044】
このようなウェルドラインは、フッ素樹脂製チューブの長さ方向における引き裂き性を効果的に高めることができる。前述の通り、本発明においては、フッ素樹脂製チューブを1種類の熱可塑性フッ素樹脂により形成するため、ウェルドラインを形成して引き裂き性を高めつつ、内表面平滑性と熱収縮率も高めることが可能となる。
【0045】
さらに、本発明の製造方法においては、ウェルドラインが形成されたフッ素樹脂製チューブを加熱した状態で内側から加圧することにより、内径を拡張させる工程を設けることもできる。フッ素樹脂製チューブの内径を拡張させることにより、熱収縮性が高められたフッ素樹脂製チューブを製造することができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例を挙げて、本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
(実施例1)
フッ素樹脂として、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP、三井・デュポンフロロケミカル製FEP−130J)を用い、溶融押出成形によってフッ素樹脂製チューブを製造した。溶融押出成形においては、金型を組み付けたシリンダー径30mmの単軸押出機を用い、スクリュー回転数2.0rpm、ダイ温度330℃でサイジングプレート法によるチューブ成形を行い、内径0.5mm、外径1.2mm、肉厚0.35mmのフッ素樹脂製チューブ(原管、拡張前)を作製した。金型としては、溶融樹脂の流路に設けられた脚部の幅5mm、脚部の長さ(分岐している流路の長さ)10mm、脚部の個数8個、脚部の金型出口側から金型出口までの距離10mmの金型を用いた。
次に、得られた原管を内径1.7mmのシリンダー内に挿入し加圧窒素を加えながら150℃で加熱して拡径を行い、内径1.25mm、外径1.65mm、肉厚0.2mmのフッ素樹脂製チューブ(拡張後)を得た。
【0048】
(実施例2)
フッ素樹脂として、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)の代わりに、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA、三井・デュポンフロロケミカル製PFA950HPplus)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、フッ素樹脂製チューブ(原管、拡張前)を作製した。さらに、実施例1と同様に拡張を行い、内径1.25mm、外径1.65mm、肉厚0.2mmのフッ素樹脂製チューブ(拡張後)を得た。
【0049】
(比較例1−1)
フッ素樹脂として、実施例1で用いたテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体と実施例2で用いたテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体とを質量比1:1で混合したものを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、フッ素樹脂製チューブ(原管、拡張前)を作製した。さらに、実施例1と同様に拡張を行ったが、加圧/加熱中に破裂したため、シリンダー内径までチューブを拡張することができなかった。
【0050】
(比較例1−2)
比較例1−1と同様にして、フッ素樹脂製チューブ(原管、拡張前)を作製した。次に、得られた原管を内径1.5mmのシリンダー内に挿入し加圧窒素を加えながら150℃で加熱して拡径を行い、内径0.90mm、外径1.45mm、肉厚0.25mmのフッ素樹脂製チューブ(拡張後)を得た。
【0051】
(比較例2−1)
フッ素樹脂として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、三井・デュポンフロロケミカル製のテフロン6J粉末)80質量部と、低分子量ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、三井・デュポンフロロケミカル製のTLP10F−1粉末)20質量部を混合したものを用い、全量に対して17.5質量%の押出助剤(エクソン化学(株)性アイソバーG)を加え混合、24℃にて一昼夜熟成させてチューブ成型用原料とした。この原料を用いて、ペースト押出成形機にて成形されたチューブを連続的に400〜450℃の乾燥炉、焼成炉を通して焼成し内径0.5mm、外径1.2mm、肉厚0.35mmのフッ素樹脂製チューブ(原管、拡張前)を作製した。さらに、加熱温度を280℃にしたこと以外は実施例1と同様に拡張を行ったが、加圧/加熱中に破裂したため、シリンダー内径までチューブを拡張することができなかった。
【0052】
(比較例2−2)
フッ素樹脂として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、三井・デュポンフロロケミカル製のテフロン6J粉末)80質量部と、低分子量ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、三井・デュポンフロロケミカル製のTLP10F−1粉末)20質量部を混合したものを用い、全量に対して17.5質量%の押出助剤(エクソン化学(株)性アイソバーG)を加え混合、24℃にて一昼夜熟成させてチューブ成型用原料とした。この原料を用いて、ペースト押出成形機にて成形されたチューブを連続的に400〜450℃の乾燥炉、焼成炉を通して焼成し内径0.5mm、外径1.2mm、肉厚0.35mmのフッ素樹脂製チューブ(原管、拡張前)を作製した。次に、得られた原管を内径1.5mmのシリンダー内に挿入し加圧窒素を加えながら280℃で加熱して拡径を行い、内径0.90mm、外径1.45mm、肉厚0.25mmのフッ素樹脂製チューブ(拡張後)を得た。
【0053】
(引き裂き性の評価)
各フッ素樹脂製チューブ(長さ100mm)の一方の端部に40mmの切り込みを設けて、引っ張り試験機によって、200mm/minの速度で引き裂き、そのときの最大の力を測定して、引き裂き強度(N)とした。測定を3回行い、その加重平均値とチューブ肉厚からチューブの引き裂き性(N/mm)を求めた。結果を表1に示す。
【0054】
(内表面平滑性の評価)
各フッ素樹脂製チューブ(拡張前)の内表面をレーザー顕微鏡(キーエンス社製のレーザー顕微鏡VK-9510、倍率400倍)で観察した。内表面に凹凸が少なく、内表面平滑性が高い場合を○、内表面に凹凸が多く、内表面平滑性が低い場合を×とした。結果を表1に示す。実施例1における画像を
図3に、実施例2における画像を
図4に、比較例1−1における画像を
図5に、比較例2−1における画像を
図6に示す。
【0055】
(熱収縮性の評価)
実施例1,2及び比較例1−2,2−2で得られた各フッ素樹脂製チューブ(拡張後)を200℃で熱したオーブン内(空気下)にて5分間加熱した。次に、加熱前後の内径をピンゲージにて測定し、以下の式にて収縮率を算出した。結果を表1に示す。径方向の熱収縮率(%)=[(収縮前のフッ素樹脂製チューブ(拡張後)の内径)−(収縮後のフッ素樹脂製チューブ(拡張後)の内径)]/(収縮前のフッ素樹脂製チューブ(拡張後)の内径)×100
【0056】
(透明性の評価)
各フッ素樹脂製チューブ(拡張前)の内側に白色ナイロン線を挿入し、各フッ素樹脂製チューブの外側から観察して、内側の白色ナイロン線が透けて見える場合を透明性が高い(○)と評価し、透けて見えない場合を透明性が低い(×)と評価した。実施例1、2、比較例1−1、比較例2−1で得られたフッ素樹脂製チューブ(拡張前)の内側に白色ナイロン線を挿入した際の写真をそれぞれ
図7−10に示す。また、評価結果を表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
表1に示されるように、ポリテトラフルオロエチレンとは異なる1種類の熱可塑性フッ素樹脂により形成された実施例1,2の各フッ素樹脂製チューブは、引き裂きに要する力が小さいことが分かる。実際、実施例1,2で得られた各フッ素樹脂製チューブを長さ方向に手で引き裂いたところ、容易に引き裂くことができた。また、実施例1,2の各フッ素樹脂製チューブは、内表面に凹凸形状がほとんど見られず、内表面平滑性に優れていた(
図3,4)。
【0059】
一方、2種類の熱可塑性フッ素樹脂により形成された比較例1−1のフッ素樹脂性チューブ(拡張前)は、引き裂き性に優れていたが、実施例1、2と同様の高倍率に拡張させることができなかった。また、
図5に示されるように、比較例1−1のフッ素樹脂製チューブでは、内表面に小さな凹凸形状が多数見られ、実施例1,2に比して内表面平滑性に劣っていた。なお、比較例1−2では、比較例1−1と同様にして得られたフッ素樹脂性チューブ(拡張前)を、拡張中に破裂しない程度に拡張させたてフッ素樹脂性チューブ(拡張後)を作製したが、実施例1,2に比して、熱収縮率が劣っていた。
【0060】
比較例2−1のフッ素樹脂性チューブ(拡張前)は、引き裂き性に劣り、端部の切り込み具合や引き裂き方によっては途中で千切れを生じる不安定な引き裂き性であった。また、比較例2−1のフッ素樹脂性チューブ(拡張前)は、実施例1、2と同様の高倍率に拡張させることができなかった。比較例2−2では、比較例2−1と同様にして得られたフッ素樹脂性チューブ(拡張前)を、拡張中に破裂しない程度に拡張させてフッ素樹脂性チューブ(拡張後)を作製したが、実施例1,2に比して、熱収縮率が劣っていた。なお、比較例2−2のフッ素樹脂性チューブ(拡張後)は、引き裂き強度が大きすぎて引き裂くことができなかった。
【0061】
さらに、実施例の各フッ素樹脂製チューブは、いずれも透明性が高かったが、比較例の各フッ素樹脂製チューブはいずれも透明性が低かった(
図7〜
図10)。