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特許6989710地球周回軌道に人工衛星を確実に放出する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6989710
(24)【登録日】2021年12月6日
(45)【発行日】2022年1月5日
(54)【発明の名称】地球周回軌道に人工衛星を確実に放出する方法
(51)【国際特許分類】
   B64G 1/64 20060101AFI20211220BHJP
   B64G 1/10 20060101ALI20211220BHJP
【FI】
   B64G1/64
   B64G1/10
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2020-547459(P2020-547459)
(86)(22)【出願日】2018年11月29日
(65)【公表番号】特表2021-504249(P2021-504249A)
(43)【公表日】2021年2月15日
(86)【国際出願番号】IB2018059456
(87)【国際公開番号】WO2019106595
(87)【国際公開日】20190606
【審査請求日】2021年7月2日
(31)【優先権主張番号】102017000138590
(32)【優先日】2017年12月1日
(33)【優先権主張国】IT
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520189773
【氏名又は名称】ディ−オルビット・エス・ペー・アー
【氏名又は名称原語表記】D−ORBIT S.p.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】ロッセッティーニ・ルカ
(72)【発明者】
【氏名】フェラリオ・ロレンツォ
(72)【発明者】
【氏名】アレーナ・ロレンツォ
【審査官】 林 政道
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第06276639(US,B1)
【文献】 米国特許出願公開第2017/0327253(US,A1)
【文献】 米国特許第05203844(US,A)
【文献】 米国特許第09463882(US,B1)
【文献】 米国特許第05199672(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0240802(US,A1)
【文献】 独国実用新案第202014008902(DE,U1)
【文献】 特開2016−060483(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0031572(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64G 1/64
B64G 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地球周回軌道に人工衛星を確実に放出する方法であって、
軌道高度で移動可能な軌道輸送宇宙機(1)であって、当該軌道輸送宇宙機(1)により輸送される衛星(12)を放出する複数のPOD(11)を備えた軌道輸送宇宙機(1)を用意する過程と、
軌道高度に到達するように構成された宇宙打上げ機(100)に前記軌道輸送宇宙機(1)を収容する過程と、
前記宇宙打上げ機(100)から前記軌道輸送宇宙機(1)を放出するように、放出信号を生成して当該軌道輸送宇宙機(1)に送信する過程と、
前記軌道輸送宇宙機(1)の放出が失敗した場合、または前記宇宙打上げ機(100)からの放出後に前記軌道輸送宇宙機(1)が故障した場合に、前記軌道輸送宇宙機(1)のセーフティサブシステム(21)を、前記衛星(12)を放出するためのPOD(11)作動シーケンスを生成するように、作動させる過程とを備えた、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、セーフティサブシステム(21)を作動させる過程が、前記軌道輸送宇宙機(1)と遠隔の送信ステーションとの間で発生した最後の通信からの経過時間を表す第1の時間(ST1)を決定すること、待機上限時間を示す基準時間(STR)と前記第1の時間(ST1)を比較すること、および前記第1の時間(ST1)が前記基準時間(STR)を上回ると衛星(12)の放出に用いるアクチュエーター部材(15)を作動させることを含む、方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法において、アクチュエーター部材(15)を作動させることが、POD(11)の放出ドア(14)を開くこと、前記放出ドア(14)を開位置にロックすること、および放出すべき前記衛星(12)に分離スラストを加えることを有する、方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法において、アクチュエーター部材(15)を作動させることの後に、待機時間だけ待機すること、および追加のPOD(11)のアクチュエーター部材(15)を作動させてさらなる衛星(12)を放出することが続く、方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の方法において、前記軌道輸送宇宙機(1)の前記セーフティサブシステム(21)が、前記軌道輸送宇宙機(1)に搭載されているかまたは前記輸送宇宙機(1)に搭載された電源(4)により給電される各POD(11)に搭載されている、指令制御部(3)を含む、方法。
【請求項6】
請求項2から4のいずれか一項に記載の方法において、前記軌道輸送宇宙機(1)の前記セーフティサブシステム(21)が、前記軌道輸送宇宙機(1)に搭載されているかまたは前記輸送宇宙機(1)に搭載された電源(4)により給電される各POD(11)に搭載されている、指令制御部(3)を含み、
前記作動シーケンスが、前記指令制御部(3)により実行される、方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載の方法において、前記指令制御部(3)が、前記軌道輸送宇宙機(1)のその他のサブシステムから完全に自律かつ独立している、方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の方法において、前記衛星(12)が、所定の放出パターンに従って放出される、方法。
【請求項9】
請求項3または4に記載の方法において、各衛星(12)に加えられる前記分離スラストは、当該衛星(12)が到達すべき軌道の関数として算出される、方法。
【請求項10】
請求項5に記載の方法において、前記電源(4)が、前記指令制御部(3)専用のバッテリー、前記軌道輸送宇宙機(1)の衛星プラットフォーム(2)のサブシステムで共有するバッテリー、または太陽電池パネルである、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地球周回軌道に人工衛星、好ましくは小型衛星または超小型衛星(nanosatellite)を確実に放出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
過去10年間の技術的進化は、民生機器の急速な技術的陳腐化や数年程度の技術回転期間を招いた。この点に関しては、携帯電話分野が一例とみなせる。
【0003】
対照的に、人工宇宙衛星の分野での技術の発展ははるかにゆっくりとしたペースで進む傾向があり、人工衛星の機能は長期にわたって(場合によっては、15年超)持ちこたえるよう期待されている。そのため、この宇宙分野に手を付ける費用は、人工衛星を開発して軌道に乗せる莫大なコストを負担することが可能な政府機関や少数の大企業しか、維持することができない。
【0004】
しかしながら、研究所や大学の科学研究ニーズが、自由市場で入手可能な微小電子工学的技術で比較的安価に構築することのできる極小衛星を使って宇宙を利用するという新たな試みに繋がった。
【0005】
この点に関しては、1999年からカリフォルニア州立工科大学やスタンフォード大学が、10×10×10cmサイズという特定の立方体形状から「キューブサット」と称される新たな衛星を開発し、規格として提案し始めた。(小型衛星、詳細には超小型衛星の従来の定義に当てはまる)この種の衛星は、モジュール型衛星であり、大型衛星の典型的なサブシステムを(高価な大型衛星の性能を断念しつつも)すべて収め入れることが可能である。
【0006】
小型衛星や超小型衛星(特に、キューブサット形式の規格化されたバージョン)は、広く普及しており、初期の頃は主に大学で利用されて学生や研究者が物体や研究プロジェクトを宇宙へ送り出すことを可能にした。
【0007】
しかし、この種の衛星は、すぐに商業目的にも価値を見出された。キューブサットのコンステレーション(一群、布陣)を打ち上げて地球にサービスを提供可能とすることに価値を捉えた民間企業がますます増えつつあり、これらの衛星を多数(最大で何百ものサンプル)軌道に乗せてフォーメーション(編隊)フライトまたはコンステレーションフライトにすることで、これらの衛星固有の低性能レベルを軽減している。
【0008】
過去60年間で約6,000個の人工衛星が打ち上げられてきたが、今日では、民間資本の支援を受けた何百もの新たな民間企業が設立され、次の5〜10年間で23,000個を超える人工衛星の打上げを予定している。
【0009】
キューブサットは、より高級なあらゆる他の衛星と同じく、宇宙打上げ機により宇宙へ輸送される。しかしながら、キューブサットは小型なので、単独での打上げは経済的でない。このため、キューブサットは、常により大きな別の衛星の副次的ペイロードとして軌道に乗せられてきた。打上げ機は典型的に6,000万ドル〜1億ドルで販売されているので、しばしば100万ユーロにも満たない小型衛星にとって単独での打上げは手が届き難いものとなっている。
【0010】
一般的に、キューブサットは、主衛星の放出直後に事実上一斉に放出されて雲のようなものを構成し、宇宙でゆっくりと散らばる。
【0011】
具体的に述べると、キューブサットは、打上げ機に直接インターフェース接続されたPOD(超小型衛星放出機構)内に、当該打上げ機が設定軌道に到達すると放出されるように収容されている。打上げ機が起動させる簡素なタイマーにより、PODは放出ドアを開いて当該POD内に収容されたキューブサットを放出する。
【0012】
既述のとおり、打上げ機は主衛星を打ち上げるために配備されたものであり、キューブサットのPODは副次的な搭載物となっていることから、打上げ機のミッション仕様は、キューブサットの放出を保証し確実にするものではなく、単に当該打上げ機のシステムから放出信号を各PODに送信するだけの場合がほとんどである。そのため、PODのタスクは、キューブサットの効果的な放出を確実にすることである。
【0013】
つまり、PODが故障した場合にはキューブサットが放出されず、顧客にとって明らかな問題となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで、本発明は、上述の重要課題を解消した、地球周回軌道に人工衛星を確実に放出する方法を利用可能にすることを提案する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
具体的に述べると、本発明は、地球周回軌道に人工衛星を確実に放出する方法であって、
軌道高度で移動可能な軌道輸送宇宙機であって、当該軌道輸送宇宙機により輸送される衛星を放出する複数のPODを備えた軌道輸送宇宙機を用意する過程と、
軌道高度に到達するように構成された宇宙打上げ機に前記軌道輸送宇宙機を収容する過程と、
前記宇宙打上げ機から前記軌道輸送宇宙機を放出するように、放出信号を生成して当該軌道輸送宇宙機に送信する過程と、
前記軌道輸送宇宙機の放出が失敗した場合、または前記宇宙打上げ機からの放出後に前記軌道輸送宇宙機が故障した場合に、前記軌道輸送宇宙機のセーフティサブシステムを、前記衛星を放出するためのPOD作動シーケンスを生成するように、作動させる過程とを備えた、方法に関する。
【0016】
好ましくは、セーフティサブシステムを作動させる過程が、前記軌道輸送宇宙機と遠隔の送信ステーションとの間で発生した最後の通信からの経過時間を表す第1の時間を決定すること、待機上限時間を示す基準時間と前記第1の時間を比較すること、および前記第1の時間が前記基準時間を上回ると衛星の放出に用いるアクチュエーター部材を作動させることを含む。
【0017】
好ましくは、アクチュエーター部材を作動させることが、PODの放出ドアを開くこと、前記放出ドアを開位置にロックすること、および放出すべき前記衛星に分離スラストを加えることを有する。
【0018】
好ましくは、アクチュエーター部材を作動させることの後に、待機時間だけ待機すること、および追加のPODのアクチュエーター部材を作動させてさらなる衛星を放出することが続く。
【0019】
好ましくは、前記軌道輸送宇宙機の前記セーフティサブシステムが、前記軌道輸送宇宙機に搭載されているかまたは前記軌道輸送宇宙機に搭載された電源により給電される各PODに搭載されている、指令制御部を含む。
【0020】
好ましくは、前記作動シーケンスが、前記指令制御部により実行される。
【0021】
好ましくは、前記指令制御部が、前記軌道輸送宇宙機のその他のサブシステムから完全に自律かつ独立している。
【0022】
好ましくは、前記衛星が、所定の放出パターンに従って放出される。
【0023】
好ましくは、各衛星に加えられる前記分離スラストは、当該衛星が到達すべき軌道の関数として算出される。
【0024】
好ましくは、前記電源が、前記指令制御部専用のバッテリー、前記軌道輸送宇宙機の衛星プラットフォームのサブシステムで共有するバッテリー、または太陽電池パネルである。
【0025】
本発明のさらなる特徴および利点は、添付の図面を参照しながら行う、本発明を限定しないあくまでも例示として用意した本発明の好適な一部の実施形態についての以下の詳細な説明から、明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】宇宙打上げ機を概略的に示す図である。
図2】軌道輸送宇宙機を概略的に示す図である。
図3図2の軌道輸送宇宙機のうちの第1のコンポ―メントを概略的に示す図である。
図4図3のコンポ―メントの細部を示す図である。
図5図2の軌道輸送宇宙機のうちの第2のコンポ―メントを概略的に示す図である。
図6図3のコンポ―メント内での衛星の配置構成を概略的に示す図である。
図7】本発明の方法に従ったブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1において、符号100は、地球周回軌道高度に到達可能な宇宙打上げ機を指す。宇宙打上げ機100は、地球表面から地球周回軌道に到達することが可能な垂直離陸型の宇宙打上げ機、または航空機から放出されて地球周回軌道に到達することが可能なビークルであり得る。
【0028】
好ましくは、到達する軌道高度は、低軌道(LEO)、すなわち、地球大気圏とバンアレン帯との間の、地球表面から高度200km〜2,000kmにある、地球周回円軌道である。
【0029】
宇宙打上げ機100は、推進システム101(例えば、化学推進薬等)、制御案内システム(図示せず)、およびペイロードの収容区画102を備えている。
【0030】
ペイロードは、例えば、主衛星103および複数の副衛星104を含み得る。
【0031】
1つ以上の軌道輸送宇宙機1用の格納スペースがあり、これらは収容区画102内に収容される。
【0032】
軌道輸送宇宙機1は、宇宙打上げ機100に従来の軌道分離システム105を介して連結されている。軌道分離システム105は、宇宙打上げ機100が所定の軌道高度に到達すると軌道輸送宇宙機1を所定のスラストで放出するように構成されている。
【0033】
好ましくは、前記軌道高度は、主衛星103(すなわち、宇宙打上げ機100のメインペイロード)の放出に合わせた軌道高度である。
【0034】
軌道輸送宇宙機1は、衛星の制御管理に必要なサブシステムを含んだ衛星プラットフォーム2を備えている。これらのサブシステム(従来のものなので図示や詳述は省略)は冗長、すなわち、何重にもして信頼性を高めている。
【0035】
図5に概略的に示すように、衛星プラットフォーム2は、さらに、セーフティサブシステム21を含んでいる。セーフティサブシステム21は、電源4(例えば、バッテリー、太陽電池パネル等)により給電される指令制御部3を含む。好ましくは、電源4は、指令制御モジュール3専用の電源である。
【0036】
指令制御部3は、地球表面に信号を送信することが可能な信号送信部5、および地球表面からの信号を受信することが可能な信号受信部6を有する。
【0037】
指令制御部3は、さらに、タイマー7、およびアクチュエーター部材15に駆動信号SPを生成送信するように構成された複数の駆動回路基板8を有する。
【0038】
セーフティサブシステム21における全装置は、当該サブシステムの信頼性を高めるよう冗長にされている。
【0039】
衛星プラットフォーム2は、さらに、少なくとも1つの従来の推進システム9を含んでいる。推進システム9は、軌道輸送宇宙機1を軌道に沿って移動させたり軌道輸送宇宙機1を別の軌道に移動させたりするように構成されている。推進システム9は、さらに、軌道輸送宇宙機1の姿勢を補正および/または変更するように構成されている。
【0040】
輸送宇宙機1は、さらに、当該軌道輸送宇宙機1を宇宙打上げ機100に連結する機械インターフェース10を備えている。
【0041】
軌道輸送宇宙機1は、複数の放出システム20を備えている。各放出システム20は、1つ以上の衛星12を内部に収容したPOD(超小型衛星放出機構)11を含む。これらのPODは、軌道に乗せるべき衛星12を格納、輸送および放出する機能を備えた放出パイプとして動作する。好ましくは、PODは、軌道輸送宇宙機1の貨物区画12aに収容されている。
【0042】
POD11は、それぞれ独立したモジュールである。例示として、軌道輸送宇宙機1は、それぞれ1ユニット(1キューブサットユニットは10×10×10cmの体積で規定される)の48個のキューブサット、それぞれ3ユニットの16個のキューブサット、それぞれ6ユニットの8個のキューブサット、それぞれ12ユニットの4個のキューブサット、またはこれらの混成構成を輸送することが可能である。
【0043】
図6に、軌道輸送宇宙機1により輸送されるキューブサットの混成構成の一例として、A1およびC1が6ユニットのキューブサットをそれぞれ表し、A3、A4、B1、B2、C1、D1、D3およびD4が1ユニットのキューブサット3個からなる列をそれぞれ表し、B3が12ユニットのキューブサットを表した混成構成を示す。
【0044】
図3に、それぞれが3ユニットのキューブサットを収容することが可能な複数のPOD11を示す。POD11は、POD自体に設置された太陽電池パネル11aにより給電され得る。
【0045】
(3ユニットのキューブサットの輸送放出用のPODを描いた)図4に示すように、各PODには、格納ケース13、開きドア14、および輸送中のキューブサットに所定のスラストを与えて放出するプッシャー部材16が設けられている。
【0046】
プッシャー部材16は、例えば、放出時にキューブサットに与えられるべきスラストに従って予荷重が加えられたスプリングであり得る。
【0047】
図4に概略的に示すように、アクチュエーター部材15が、各POD11、具体的には開きドア14およびプッシャー部材15に対して働きかける。
【0048】
POD11は、PODのマトリクスを形成するように並んで配置されている。好ましくは、マトリクスでは、図3に示すようにすべての開きドア14が同じ向きでかつ同一平面上に位置している。
【0049】
POD11に挿入された状態の衛星12が軌道輸送宇宙機1に備え付けられた後、軌道輸送宇宙機1が宇宙打上げ機100に収容される。
【0050】
宇宙打上げ機100は、地球周回軌道に乗せられる。宇宙打上げ機100が到達する軌道高度および位置は、例えば、宇宙打上げ機の最重要ペイロードを成しかつ本宇宙ミッションの主な立案目的となった主衛星103の放出用に特化して、あらかじめ規定された軌道高度および位置である。
【0051】
打上げミッションに問題が発生しなければ、宇宙打上げ機100により軌道輸送宇宙機1が放出される。この放出過程は、軌道輸送宇宙機1に対し、宇宙打上げ機100から引き離すことが可能な分離スラストを与えて行われる。このスラストは、輸送宇宙機1に対し、現行の規制および/またはミッションパラメータにもよるが数日(通常、2、3日)の期間をかけて軌道に移動,到達させることが可能な運動量を付与する。
【0052】
そして、軌道輸送宇宙機1が衛星12を所定のシーケンスに従って放出し、これらの衛星12が選択された軌道上に配置される。
【0053】
何らかの理由で(例えば、輸送宇宙機1の放出アクチュエーターに異常が生じたり、軌道輸送宇宙機1の衛星プラットフォーム2のサブシステムに異常が生じたりする等によって)宇宙打上げ機100により軌道輸送宇宙機1が放出されない場合には、軌道輸送宇宙機1のセーフティサブシステム21が、POD11の作動シーケンスを起動させるように、作動される。
【0054】
輸送宇宙機1のセーフティサブシステム21は、さらに、宇宙打上げ機100により当該輸送宇宙機1が正しく放出されたものの何らかの理由で後から当該輸送宇宙機1に故障が生じて衛星12の放出ミッションを遂行する能力に支障が出た場合にも、POD11の作動シーケンスを起動させる。
【0055】
セーフティサブシステム21は、衛星プラットフォーム2のその他のサブシステムから独立かつ切り離されているので、衛星プラットフォーム2のどのサブシステムが故障したとしても、セーフティサブシステム21の動作には支障が出ない。
【0056】
セーフティサブシステム21は、宇宙打上げ機100内に軌道輸送宇宙機1が留まってしまった場合にも、POD11の作動シーケンスを生成して衛星12を放出する。
【0057】
具体的に述べると、図7に概略的に示すように、タイマー7が、軌道輸送宇宙機1と遠隔の送信ステーション(例えば、地球上の送信ステーション等)との間の最後の通信からの第1の経過時間を表す信号ST1を生成する。宇宙打上げ機100により軌道輸送宇宙機1が放出されず(あるいは、宇宙打上げ機100による放出後に軌道輸送宇宙機1に故障が生じ)、結果として(例えば、衛星プラットフォーム2のサブシステムが故障している等によって)軌道輸送宇宙機1が遠隔の送信ステーションへ信号を送信しなかった場合には、信号のこの欠落により、軌道輸送宇宙機1が衛星12の放出ミッションを遂行できないということが分かる。
【0058】
電源4により給電された指令制御部3が、信号ST1を、待機上限基準時間を示す信号STRと比較する。
【0059】
制御結果がST1>STRである場合には、指令制御部3がPOD11のドライバー基板8に作動信号SAを生成送信する。
【0060】
制御結果がST1<STRである場合には、所定時間後に当該制御が再び実行される。
【0061】
駆動回路基板8は、作動信号SAを受信するとアクチュエーター部材15に駆動信号SPを生成送信し、アクチュエーター部材15が、所定の衛星12を対応するPOD11から放出する。
【0062】
具体的に述べると、アクチュエーター部材15は、駆動信号SPを受信すると、開きドア14に働きかけて開いて開状態に維持し、プッシャー部材15に働きかけ、プッシャー部材15が衛星12に放出スラストを与えて軌道輸送宇宙機1から遠ざける。指令制御部3により、衛星12を選択された軌道位置に導くための放出押圧量および放出方向が算出される。
【0063】
衛星12を軌道輸送宇宙機1および/または宇宙打上げ機100から遠ざけるのに必要となる一定時間の経過後、図7に概略的に示すように駆動回路基板8が追加の駆動信号SPを生成し新たな衛星12の放出サイクルが繰り返される。
【0064】
このサイクルは、すべての衛星12が放出されるまで繰り返される。
【0065】
これにより、軌道輸送宇宙機1の放出が失敗しても、あるいは、宇宙打上げ機100からの放出後に軌道輸送宇宙機1が故障したとしても、すべての衛星12が軌道上に正確に配置される。
【0066】
当然ながら、当業者であれば、特定の要件や偶発的な要件を満たすために、添付の特許請求の範囲により定まる本発明の保護範囲を逸脱しない範疇で、上述した本発明に数多くの変更や変形を施し得るであろう。
なお、本発明は、実施の態様として以下の内容を含む。
[態様1]
地球周回軌道に人工衛星を確実に放出する方法であって、
軌道高度で移動可能な軌道輸送宇宙機(1)であって、当該軌道輸送宇宙機(1)により輸送される衛星(12)を放出する複数のPOD(11)を備えた軌道輸送宇宙機(1)を用意する過程と、
軌道高度に到達するように構成された宇宙打上げ機(100)に前記軌道輸送宇宙機(1)を収容する過程と、
前記宇宙打上げ機(100)から前記軌道輸送宇宙機(1)を放出するように、放出信号を生成して当該軌道輸送宇宙機(1)に送信する過程と、
前記軌道輸送宇宙機(1)の放出が失敗した場合、または前記宇宙打上げ機(100)からの放出後に前記軌道輸送宇宙機(1)が故障した場合に、前記軌道輸送宇宙機(1)のセーフティサブシステム(21)を、前記衛星(12)を放出するためのPOD(11)作動シーケンスを生成するように、作動させる過程とを備えた、方法。
[態様2]
態様1に記載の方法において、セーフティサブシステム(21)を作動させる過程が、前記軌道輸送宇宙機(1)と遠隔の送信ステーションとの間で発生した最後の通信からの経過時間を表す第1の時間(ST1)を決定すること、待機上限時間を示す基準時間(STR)と前記第1の時間(ST1)を比較すること、および前記第1の時間(ST1)が前記基準時間(STR)を上回ると衛星(12)の放出に用いるアクチュエーター部材(15)を作動させることを含む、方法。
[態様3]
態様2に記載の方法において、アクチュエーター部材(15)を作動させることが、POD(11)の放出ドア(14)を開くこと、前記放出ドア(14)を開位置にロックすること、および放出すべき前記衛星(12)に分離スラストを加えることを有する、方法。
[態様4]
態様3に記載の方法において、アクチュエーター部材(15)を作動させることの後に、待機時間だけ待機すること、および追加のPOD(11)のアクチュエーター部材(15)を作動させてさらなる衛星(12)を放出することが続く、方法。
[態様5]
態様1から4のいずれか一態様に記載の方法において、前記軌道輸送宇宙機(1)の前記セーフティサブシステム(21)が、前記軌道輸送宇宙機(1)に搭載されているかまたは前記輸送宇宙機(1)に搭載された電源(4)により給電される各POD(11)に搭載されている、指令制御部(3)を含む、方法。
[態様6]
態様2および5に記載の方法において、前記作動シーケンスが、前記指令制御部(3)により実行される、方法。
[態様7]
態様5または6に記載の方法において、前記指令制御部(3)が、前記軌道輸送宇宙機(1)のその他のサブシステムから完全に自律かつ独立している、方法。
[態様8]
態様1から7のいずれか一態様に記載の方法において、前記衛星(12)が、所定の放出パターンに従って放出される、方法。
[態様9]
態様3または4に記載の方法において、各衛星(12)に加えられる前記放出スラストは、当該衛星(12)が到達すべき軌道の関数として算出される、方法。
[態様10]
態様5に記載の方法において、前記電源(4)が、前記指令制御部(3)専用のバッテリー、前記軌道輸送宇宙機(1)の衛星プラットフォーム(2)のサブシステムで共有するバッテリー、または太陽電池パネルである、方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7