(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数回の着磁工程が、最初の着磁処理の着磁する磁力が最も小さく、最後の着磁処理の着磁する磁力が最も大きくなるように、順に着磁する磁力を大きくする工程である、請求項1または2記載の複合成形体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<表面に粗面化構造を有する希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体>
本開示の幾つかの例において、希土類磁石前駆体は、表面に粗面化構造を有する着磁されていない希土類磁石であってよい。すなわち本開示で使用するところでは、希土類磁石前駆体とは、着磁されていない希土類磁石材料を意味しうる。ここで着磁されていないとは、磁石として磁化されていないことを意味し、一旦磁化された後に消磁されたものを含んでいてよい。また本開示で使用するところでは、希土類磁石とは、着磁された希土類磁石材料を意味しうる。本開示の1つの例において、希土類磁石成形体は、表面に粗面化構造を有する、着磁されている希土類磁石材料であってよい。
【0012】
本開示の幾つかの例において、表面に粗面化構造を有する希土類磁石成形体には、粗面化構造を有する希土類磁石前駆体が着磁されたもののほか、着磁された希土類磁石成形体の原料成形体に粗面化構造が形成されたものも含まれてよい。
【0013】
本開示の幾つかの例において、希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体の形状や大きさは特に制限されるものではなく、用途に応じて適宜調整することができる。例えば、希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体として、平板、丸棒、角棒(断面が多角形の棒)、管、カップ形状のもの、立方体、直方体、球または部分球(半球など)、楕円球または部分楕円球(半楕円球など)、不定形などの成形体のほか、既存の希土類磁石成形体(着磁されている希土類磁石成形体)の製品も使用することができる。
【0014】
前記既存の希土類磁石成形体の製品は、希土類磁石成形体のみからなるもののほか、予め作成した希土類磁石成形体と他の材料(金属、樹脂、ゴム、ガラス、木材など)の複合体を含むものでもよい。
【0015】
本開示の幾つかの例において、希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体は、粗面化構造を形成するときの割れを防止するため、本開示の好ましい一態様では粗面化構造が形成される前の原料成形体における抗折強度が80MPa以上であり、本開示の別の好ましい一態様では100MPa以上である。
【0016】
本開示の幾つかの例において、希土類磁石前駆体の原料成形体または希土類磁石成形体の原料成形体は、粗面化構造を形成するときの割れを防止するため、本開示の好ましい一態様では粗面化構造を形成する部分の厚さが0.5mm以上であり、本開示の別の好ましい一態様では1mm以上である。
【0017】
本開示の幾つかの例において、希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体は、本開示の好ましい一態様ではサマリウムコバルト、ネオジム、プラセオジム、アルニコ、ストロンチウム−フェライトから選ばれるものである。
【0018】
本開示の幾つかの例において、希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体の第1実施形態および第2実施形態における「長さ方向」は、前記希土類磁石前駆体と前記希土類磁石成形体の平面形状に拘わらず、前記希土類磁石前駆体の表面上または前記希土類磁石成形体の表面上の一点から、前記一点と間隔をおいた他点までを結ぶ方向であってよい。
【0019】
本開示の幾つかの例において、希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体の粗面化構造部分の凹凸の形状(平面形状と厚さ方向の断面形状)は特に制限されるものではなく、粗面化構造を形成するための加工方法により異なるものであってよい。
【0020】
本開示の希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体の第1実施形態は、希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体の前記粗面化構造が形成されている面が凹凸を有し、下記(a)〜(c)の要件の少なくとも一つを満たしているものであってよい。本開示の希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体の第1実施形態は、本開示の好ましい一態様では、下記要件のうちの二つの要件、すなわち要件(a)と要件(b)、要件(b)と要件(c)、または要件(a)と要件(c)を満たしているものであってよく、本開示の別の好ましい一態様では要件(a)、(b)、(c)を全て満たしているものであってよい。
【0021】
要件(a):粗面化構造部分の面の凹凸のSa(算術平均高さ)(ISO 25178)は、5〜300μmであってよく、本開示の好ましい一態様では5〜200μmであってよく、本開示の別の好ましい一態様では10〜150μmであってよい。
【0022】
要件(b):粗面化構造部分の面の凹凸の凸部と凹部の高低差であるSz(最大高さ)(ISO 25178)は50〜1500μmであってよく、本開示の好ましい一態様では150〜1300μmであってよく、本開示の別の好ましい一態様では200〜1200μmであってよい。
【0023】
要件(c):Sdr(界面の展開面積比)(ISO 25178)は0.3〜12であってよく、本開示の好ましい一態様では0.3〜10であってよく、本開示の別の好ましい一態様では0.3〜8であってよい。
【0024】
本開示の希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体の第1実施形態は、要件(a)〜(c)に加えて、さらに要件(d)としてSdq(二乗平均平方根傾斜)(ISO 25178)が所定値範囲であるものにすることができる。
【0025】
要件(d):Sdq(二乗平均平方根傾斜)は、本開示の好ましい一態様では0.3〜8であってよく、本開示の別の好ましい一態様では0.5〜5であってよく、本開示のさらに別の好ましい一態様では0.7〜3であってよい。
【0026】
本開示の希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体の第1実施形態は、本開示の好ましい一態様では上記の要件(a)〜(c)の少なくとも一つを満たした上で、次のような粗面化構造(第1a実施形態の粗面化構造)を有しているものであってよい。
【0027】
第1a実施形態の粗面化構造は、長さ方向に沿って形成された線状凸部と長さ方向に沿って形成された線状凹部を有しており、前記線状凸部と前記線状凹部が、前記長さ方向に直交する方向に交互に形成されている(
図3、
図7、
図9)。線状凸部と線状凹部は、いずれも直線状または曲線状にすることができるほか、一部に曲線部分を含む直線状、一部に直線部分を含む曲線状にすることができる。前記線状凸部は、表面に多数の細孔や多数の小さな凸部を有しているものでもよい。
【0028】
第1a実施形態の粗面化構造は、長さ方向に直交する方向に隣接している線状凸部同士の一方または両方が互いに接近するようにフック状に変形されている部分(但し、互いに接触はしていない)(
図12(b))や、長さ方向に直交する方向に隣接している線状凸部同士が互いに架橋された外側ブリッジ部を含む部分を有しているものも含んでいてよい(
図12(c))。
【0029】
第1a実施形態の粗面化構造においては、隣接する線状凹部同士(または隣接する線状凸部同士)のピッチp1(隣接する線状凹部[または隣接する線状凸部]のそれぞれの幅方向中間位置の間の距離)と、線状凹部(または線状凸部)の幅w1は、本開示の好ましい一態様ではw1≦p1×(0.1〜0.9)の関係を満たしていてよく、本開示の別の好ましい一態様ではw1≦p1×(0.3〜0.7)の関係を満たしていてよい。
【0030】
本開示の希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体の第1実施形態は、本開示の好ましい一態様では上記の要件(a)〜(c)の少なくとも一つを満たした上で、次のような粗面化構造(第1b実施形態の粗面化構造)を有しているものであってよい。
【0031】
第1b実施形態の粗面化構造は、複数の凹部領域と複数の凸部領域が長さ方向に混在して形成されているものであり、長さ方向に混在して形成されている複数の凹部領域と複数の凸部領域の列が、長さ方向に直交する方向に複数列形成されているものである(
図4、
図8)。凹部領域ではない部分が凸部領域である。
【0032】
第1b実施形態の粗面化構造は、長さ方向に直交する方向に隣接している凸部領域の凸部同士の一方または両方が互いに接近するようにフック状に変形されている部分(但し、互いに接触はしていない)(
図12(b))や、長さ方向に直交する方向に隣接している凸部領域の凸部同士が互いに架橋された外側ブリッジ部を含む部分を有しているものも含んでいてよい(
図12(c))。また、長さ方向に形成された凸部同士が融着されたり、長さ方向に形成された凹部同士が融着されたりすることで、大きな凸部や大きな凹部が混在されている実施形態も含んでいてよい(
図5、
図6)。
【0033】
本開示の希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体の第1実施形態は、本開示の好ましい一態様では上記の要件(a)〜(c)の少なくとも一つを満たした上で、さらに場合により要件(d)を満たした上で、次のような粗面化構造(第1c実施形態の粗面化構造)(
図25参照)を有しているものであってよい。
【0034】
第1c実施形態の粗面化構造は、複数の円形凹部と、前記複数の円形凹部の周囲に形成された環状凸部を有しており、さらに隣接する複数の環状凸部で囲まれた凹部を有している。前記隣接する複数の環状凸部で囲まれた凹部は、例えば4つの環状凸部が接触しているとき、それらで囲まれた部分が凹部になっている形態である(
図24(a)参照)。
図24(a)は4つの環状凸部が接している形態であるが、3つの環状凸部が接している形態や、5以上の環状凸部が接している形態がある。隣接する環状凸部同士は一体となっていてよく、環状凸部の全部または一部は、内側の円形凹部に突き出されたフック状の突き出し部を有していてよい。
【0035】
本開示の希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体の第1実施形態は、本開示の好ましい一態様では上記の要件(a)〜(c)の少なくとも一つを満たした上で、さらに場合により要件(d)を満たした上で、次のような粗面化構造(第1d実施形態の粗面化構造)(
図25参照)を有しているものであってよい。
【0036】
第1d実施形態の粗面化構造は、複数の円形凹部と、前記複数の円形凹部の周囲に形成された環状凸部を有しており、さらに隣接する複数の環状凸部で囲まれた凹部を有している。前記隣接する複数の環状凸部で囲まれた凹部は、例えば4つの環状凸部が接触しているとき、それらで囲まれた部分が凹部になっている形態である(
図25参照)。
図25は4つの環状凸部が接している形態であるが、3つの環状凸部が接している形態や、5以上の環状凸部が接している形態がある。隣接する環状凸部同士は独立していてよいが、外周壁部から外側に突き出された多数の突起を有しており、隣接する環状凸部の突起同士が互いに接触しているもの、隣接する環状凸部の突起同士が接続されているものもある。
【0037】
本開示の希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体の第1a〜第1d実施形態は、本開示の好ましい一態様では次のような粗面化構造(第1e実施形態の粗面化構造)を有しているものであってよい。
【0038】
第1e実施形態の粗面化構造は、前記粗面化構造が形成されていない面を基準面としたとき、厚さ方向の断面形状が、前記基準面よりも盛り上がっている部分と前記基準面よりも深くなっている溝部が形成されている部分が混在されているものである。前記盛り上がり部分の最も高い先端部から前記溝部の最も深い底面部までの距離(
図3(c)のH1)と、前記基準面から前記盛り上がり部分の最も高い先端部までの高さ(
図3(c)のH2)の比(H2/H1)は、本開示の好ましい一態様では0.1〜0.7の範囲であってよく、本開示の別の好ましい一態様では0.2〜0.6の範囲であってよい。
【0039】
さらに第1e実施形態の粗面化構造は、本開示の好ましい一態様では前記盛り上がり部分の少なくとも一部が、先端部の一部がフック形状に変形した部分と先端部の一部がリング形状に変形した部分の少なくとも一方を有しているものであってよい。さらに第1e実施形態の粗面化構造は、本開示の好ましい一態様では前記溝部の少なくとも一部が、溝部の対向する内壁面同士が接続された内側ブリッジ部を有しているものであってよい。
【0040】
本開示の希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体の第1a〜第1d実施形態は、本開示の好ましい一態様は次のような粗面化構造(第1f実施形態の粗面化構造)を有しているものであってよい。
【0041】
第1f実施形態の粗面化構造は、前記粗面化構造が形成されていない面を基準面としたとき、厚さ方向の断面形状が、前記基準面よりも盛り上がっている部分と前記基準面よりも深くなっている溝部が形成されている部分が混在されているものである。前記盛り上がり部分の最も高い先端部から前記溝部の最も深い底面部までの距離(
図3(c)のH1)と、前記基準面から前記盛り上がり部分の最も高い先端部までの高さ(
図3(c)のH2)の比(H2/H1)は、本開示の好ましい一態様では0.1〜0.7の範囲であってよく、本開示の別の好ましい一態様では0.2〜0.6の範囲であってよい。
【0042】
さらに第1f実施形態の粗面化構造は、本開示の好ましい一態様では前記盛り上がり部分の少なくとも一部が、先端部の一部がフック形状に変形した部分を有しているものであってよい。さらに第1f実施形態の粗面化構造は、本開示の好ましい一態様では前記溝部の底面の断面形状が曲面を有しているものであってよい。
【0043】
本開示の希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体の第2実施形態は、前記粗面化構造が形成されている面が、凹部で囲まれた複数の独立した凸部を有しているか、または複数の独立した凹部とその周囲の凸部を有しており、下記(a’)〜(c’)の要件の少なくとも一つを満たしているものである。
【0044】
本開示の希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体の第2実施形態は、本開示の好ましい一態様では下記要件のうちの二つの要件、すなわち要件(a’)と要件(b’)、要件(b’)と要件(c’)、または要件(a’)と要件(c’)を満たしていてよく、本開示の別の好ましい一態様では要件(a’)、(b’)(c’)を全て満たしていてよい。
【0045】
要件(a’):粗面化構造部分の面の凹凸のSa(算術平均高さ)(ISO 25178)は、5〜150μmであってよく、本開示の好ましい一態様では5〜100μmであってよく、本開示の別の好ましい一態様では10〜50μmであってよい。
【0046】
要件(b’):粗面化構造部分の面の凹凸の凸部と凹部の高低差であるSz(最大高さ)(ISO 25178)は50〜700μmであってよく、本開示の好ましい一態様では100〜600μmであってよく、本開示の別の好ましい一態様では120〜500μmであってよい。
【0047】
要件(c’):Sdr(界面の展開面積比)(ISO 25178)は0.3〜6であってよく、本開示の好ましい一態様では0.3〜5であってよく、本開示の好ましい一態様では0.3〜4であってよく、本開示の別の好ましい一態様では0.35〜3であってよい。
【0048】
本開示の希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体の第2実施形態は、要件(a’)〜(c’)に加えて、さらに要件(d)としてSdq(二乗平均平方根傾斜)が所定値範囲であるものにすることができる。
【0049】
要件(d):Sdq(二乗平均平方根傾斜)は、本開示の好ましい一態様では0.3〜8であってよく、本開示の別の好ましい一態様では0.5〜5であってよく、本開示のさらに別の好ましい一態様では0.7〜3であってよい。
【0050】
本開示の希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体の第2実施形態は、本開示の好ましい一態様では上記の要件(a’)〜(c’)の少なくとも一つを満たした上で、さらに場合により要件(d)を満たした上で、次のような粗面化構造を有しているものであってよい。
【0051】
第2実施形態の粗面化構造は、前記粗面化構造が形成されている面が、凹部で囲まれた複数の独立した凸部を有しているもの(第2a実施形態)、または複数の独立した凹部とその周囲の凸部を有しているもの(第2b実施形態)であってよい。
【0052】
第2a実施形態の粗面化構造は、互いに直交する方向に形成された溝(線状溝)、互いに斜交する方向に形成された溝(線状溝)、またはランダム方向に形成された溝(線状溝)で囲まれた多数の島部を有しているものであってよく、さらには隣接する島部同士が、島部から突き出された突起部により架橋されている部分を有しているものも含んでいてよい(
図10、
図11参照)。
【0053】
第2b実施形態は、多数の独立した凹部が分散して存在しており、それらの独立した凹部の周囲が凸部となっているものである(
図24(a))。なお、第2a実施形態には、いずれか一方向の溝深さが浅いときには明確な島部が形成されず、いずれか一方向に延びる、一部が不連続な線状凹部と一部が不連続な線状凸部が混在する構造を含む形態(
図27(a))も含まれていてよい。
【0054】
本開示の幾つかの例によれば、本開示の希土類磁石前駆体は、公知の方法により着磁した後、そのまま、または他の部材と組み合わせたものを最終製品とすることができるほか、中間製品とすることもできる。本開示の希土類磁石成形体は、一部のみが着磁されているものでもよく、そのまま、または他の部材と組み合わせたものを最終製品とすることができる。
【0055】
<表面に粗面化構造を有する希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体の製造方法>
本開示の幾つかの例によれば、表面に粗面化構造を有する、希土類磁石前駆体の製造方法は、希土類磁石の原料となる成形体(以下、単に「原料成形体」という)の表面に粗面化構造を形成する工程を有していてよい。ここで「原料成形体」とは、粗面化構造が形成されておらず、着磁もされていないものをいう。
【0056】
また本開示の幾つかの例によれば、表面に粗面化構造を有する、着磁されている希土類磁石成形体の製造方法は、原料成形体の表面に粗面化構造を形成する工程と着磁工程を有していてよい。なお、前記原料成形体に代えて、表面に粗面化構造は形成されていないが着磁されている「原料磁石成形体」を使用することもできる。「原料磁石成形体」とは、「原料成形体」が着磁されたものである。
【0057】
以下、本開示の幾つかの例による、表面に粗面化構造を有する希土類磁石前駆体の製造方法を説明する。なお、以下の粗面化構造の形成方法においては、前記「原料成形体」に代えて、前記「原料磁石成形体」を使用した場合でも、同様にして粗面化構造を形成することができる。
【0058】
原料成形体の表面に対して粗面化構造を形成する方法としては、ブラスト加工、研磨紙、やすり、サンダーなどの金属研磨機から選ばれる加工方法を実施することができる。原料成形体は、着磁することで希土類磁石になる成形体である。ブラスト加工により粗面化構造を形成する方法は、サンドブラスト、ショットブラスト、グリットブラスト、ビーズブラストから選ばれる加工方法を実施することができる。
【0059】
原料成形体の表面に粗面化構造を形成する他の方法としては、連続波レーザーを使用する方法(第1の連続波レーザー光の使用方法)がある。連続波レーザーを使用する方法は、原料成形体の表面に対して、エネルギー密度1MW/cm
2以上、照射速度2000mm/sec以上で連続照射して粗面化構造を形成することができる。
【0060】
原料成形体の表面に対して連続波レーザーを連続照射するときは、次に示す各実施形態の照射方法を実施することができる。
【0061】
(I)原料成形体の表面に対して連続波レーザーを連続照射するとき、同一方向(第1実施形態の粗面化構造)または異なる方向(第2実施形態の粗面化構造)に直線、曲線およびこれらの組み合わせを含む複数本の線が形成されるようにレーザー光を連続照射する実施形態。
【0062】
(II)原料成形体の表面に対して連続波レーザーを連続照射するとき、同一方向(第1実施形態の粗面化構造)または異なる方向(第2実施形態の粗面化構造)に直線、曲線およびこれらの組み合わせを含む複数本の線が形成されるようにレーザー光を連続照射し、レーザー光を複数回連続照射して1本の直線または1本の曲線を形成する実施形態。
【0063】
(III)原料成形体の表面に対して連続波レーザーを連続照射するとき、同一方向(第1実施形態の粗面化構造)または異なる方向(第2実施形態の粗面化構造)に直線、曲線およびこれらの組み合わせを含む複数本の線が形成されるようにレーザー光を連続照射し、前記複数本の直線または前記複数本の曲線が、等間隔または異なる間隔をおいて形成されるようにレーザー光を連続照射する実施形態。
【0064】
第1実施形態(第1a実施形態〜第1d実施形態)の粗面化構造を形成するときは、双方向照射、一方向照射またはこれらの組み合わせを実施することができる。第2実施形態の粗面化構造を形成するときは、直交する方向へのクロス照射、斜交する方向へのクロス照射またはランダム方向へのクロス照射を実施することができる。
【0065】
レーザー光の照射速度は、原料成形体を粗面化するため、2000mm/sec以上であってよく、本開示の好ましい一態様では2800mm/sec以上であってよく、本開示の好ましい一態様では2800〜15,000mm/secであってよく、本開示の別の好ましい一態様では3000〜12,000mm/secであってよい。
【0066】
レーザーの出力は、本開示の好ましい一態様では50〜1500Wであってよく、本開示の別の好ましい一態様では50〜1200Wであってよく、本開示のさらに別の好ましい一態様では100〜1000Wであってよい。
【0067】
レーザー光の照射速度と出力は、原料成形体の種類に応じて調整することができる。例えば原料成形体としてネオジムを含むものを使用するときは、照射速度は、本開示の好ましい一態様では2800〜15,000mm/secであってよく、本開示の別の好ましい一態様では3000〜12,000mm/secであってよく、本開示のさらに別の好ましい一態様では4000〜11,000mm/secであってよく、出力は、本開示の好ましい一態様では50〜800Wであってよく、本開示の別の好ましい一態様では100〜700Wであってよく、本開示のさらに別の好ましい一態様では150〜600Wであってよい。
【0068】
例えば原料成形体としてサマリウムコバルトを含むものを使用するときは、照射速度は、本開示の好ましい一態様では2800〜15,000mm/secであってよく、本開示の別の好ましい一態様では3000〜12,000mm/secであってよく、本開示のさらに別の好ましい一態様では4000〜11,000mm/secであってよく、出力は、本開示の好ましい一態様では50〜800Wであってよく、本開示の別の好ましい一態様では70〜700Wであってよく、本開示のさらに別の好ましい一態様では80〜600Wであってよい。
【0069】
レーザー光のスポット径は、本開示の好ましい一態様では10〜100μmであってよく、本開示の別の好ましい一態様では10〜75μmであってよい。
【0070】
レーザー光照射時のエネルギー密度は、1MW/cm
2以上であってよく、本開示の好ましい一態様では20〜500MW/cm
2であってよく、本開示の別の好ましい一態様では30〜300MW/cm
2であってよい。レーザー光照射時のエネルギー密度は、レーザー光の出力(W)と、レーザー光(スポット面積(cm
2)(π・〔スポット径/2〕
2)から次式:レーザー光の出力/スポット面積により求められる。
【0071】
レーザー光照射時の繰り返し回数(パス回数)は、本開示の好ましい一態様では1〜30回であってよく、本開示の別の好ましい一態様では3〜20回であってよく、本開示のさらに別の好ましい一態様では3〜15回であってよい。レーザー光照射時の繰り返し回数は、レーザー光を線状に照射するとき、1本のライン(溝)を形成するためにレーザーを照射する合計回数である。
【0072】
1本のラインに繰り返し照射するときは、双方向照射と一方向照射を選択することができる。双方向放射は、金属成形体20の表面に対して
図2(b)に示すように、1本のライン(溝)を形成するとき、ライン(溝)の第1端部から第2端部に連続波レーザーを照射した後、第2端部から第1端部に連続波レーザーを照射して、その後は、第1端部から第2端部、第2端部から第1端部というように繰り返し連続波レーザーを照射する方法である。一方向照射は、金属成形体20の表面に対して
図2(a)に示すように第1端部から第2端部への一方向の連続波レーザー照射を1本のラインに繰り返す方法である。
【0073】
レーザー光を直線状に照射するとき、隣接する照射ライン(隣接する照射により形成された溝)のそれぞれの幅の中間位置の間の間隔(ライン間隔またはピッチ間隔)は、本開示の好ましい一態様では0.03〜1.0mmであってよく、本開示の別の好ましい一態様では0.03〜0.2mmであってよい。ライン間隔は照射ラインのすべてについて同一でもよいし、異なっていてもよい。
【0074】
レーザー光を照射するとき、上記したライン間隔をおいて双方向照射または一方向照射して複数本の溝を形成した後、さらに前記複数本の溝に直交または斜交する方向から、上記したライン間隔をおいて双方向照射または一方向照射するクロス照射を実施することもできる。
【0075】
レーザー光の波長は、本開示の好ましい一態様では300〜1200nmであってよく、本開示の別の好ましい一態様では500〜1200nmであってよい。レーザー光を照射する場合の焦点はずし距離は、本開示の好ましい一態様では−5〜+5mmであってよく、本開示の別の好ましい一態様では−1〜+1mmであってよく、本開示のさらに別の好ましい一態様では−0.5〜+0.1mmであってよい。焦点はずし距離は、設定値を一定にしてレーザー照射しても良いし、焦点はずし距離を変化させながらレーザー照射しても良い。例えば、レーザー照射時に、焦点はずし距離を徐々に小さくしたり、周期的に大きくしたり小さくしたりしてもよい。
【0076】
連続波レーザーは公知のものを使用することができ、例えば、YVO4レーザー、ファイバーレーザー(好ましくはシングルモードファイバーレーザー)、エキシマレーザー、炭酸ガスレーザー、紫外線レーザー、YAGレーザー、半導体レーザー、ガラスレーザー、ルビーレーザー、He−Neレーザー、窒素レーザー、キレートレーザー、色素レーザーを使用することができる。これらの中でもエネルギー密度が高められることから、本開示の好ましい一態様ではファイバーレーザーであってよく、本開示の別の好ましい一態様ではシングルモードファイバーレーザーであってよい。
【0077】
本開示の幾つかの例によれば、原料成形体の表面に対して粗面化構造を形成するさらに他の方法としては、連続波レーザーを使用して原料成形体の表面に対してエネルギー密度が1MW/cm
2以上、照射速度が2000mm/sec以上で連続照射するとき、レーザー光の照射部分と非照射部分が交互に生じるように照射する方法(第2の連続波レーザー光の使用方法)がある。第2の連続波レーザー光の使用方法は、上記した第1の連続波レーザー光の使用方法は、レーザー光の照射形態が異なるほかは、同じ方法である。
【0078】
第2の連続波レーザー光の使用方法では、直線、曲線または直線と曲線の組み合わせになるようにレーザー光を照射するとき、レーザー光の照射部分と非照射部分が交互に生じるように照射する。レーザー光の照射部分と非照射部分が交互に生じるように照射するとは、
図1に示すように照射する実施形態を含んでいる。
【0079】
図1は、長さL1のレーザー光の照射部分11と隣接する長さL1のレーザー光の照射部分11の間に、ある長さL2のレーザー光の非照射部分12が交互に生じて、全体として点線状に形成されるように照射した状態を示している。前記点線には、一点鎖線、二点鎖線などの鎖線も含まれてよい。
【0080】
本開示の幾つかの例によれば、複数回照射するときは、レーザー光の照射部分を同じにしてもよいし、レーザー光の照射部分を異ならせる(レーザー光の照射部分をずらす)ことで、希土類磁石成形体の全体が粗面化されるようにしてもよい。
【0081】
レーザー光の照射部分を同じにして複数回照射したときは点線状に照射されるが、レーザー光の照射部分をずらして、即ち、最初はレーザー光の非照射部分であった部分にレーザー光の照射部分が重なるようにずらして照射することを繰り返すと、点線状に照射した場合であっても、最終的には実線状態に照射されることになる。繰り返し回数は、1〜20回にすることができる。
【0082】
希土類磁石成形体に対して連続的にレーザー光を照射すると、厚さの小さい成形体では割れなどの変形が生じるおそれもある。しかし、
図1に示すように点線状にレーザー照射すると、レーザー光の照射部分11とレーザー光の非照射部分12が交互に生じることになるため、レーザー光の照射を継続した場合、厚さの小さい成形体でも割れなどの変形が生じ難くなる。このとき、上記のようにレーザー光の照射部分を異ならせた(レーザー光の照射部分をずらせた)場合でも同様の効果が得られる。
【0083】
レーザー光の照射方法は、金属成形体20の表面に対して、
図2(a)に示すように多数のラインを一方向に照射する方法、または
図2(b)に示す点線のように多数のラインを双方向から照射する方法を使用することができる。その他、レーザー光の点線照射部分が交差するように照射する方法でもよい。照射後の各点線の間隔b1は、金属成形体の照射対象面積などに応じて調整することができるものであるが、第1の製造方法のライン間隔と同じ範囲にすることができる。
【0084】
図1に示すレーザー光の照射部分11の長さ(L1)とレーザー光の非照射部分12の長さ(L2)は、L1/L2=1/9〜9/1の範囲になるように調整することができる。レーザー光の照射部分11の長さ(L1)は、複雑な多孔構造に粗面化するためには、本開示の好ましい一態様では0.05mm以上であってよく、本開示の別の好ましい一態様では0.1〜10mmであってよく、本開示のさらに別の好ましい一態様では0.3〜7mmであってよい。
【0085】
本開示の幾つかの例によれば、第2の連続波レーザーの使用方法の本開示の好ましい一態様では、上記したレーザー光の照射工程は、レーザーの駆動電流を直接変換する直接変調方式の変調装置をレーザー電源に接続したファイバーレーザー装置を使用し、デューティ比(duty ratio)を調整してレーザー照射する。
【0086】
レーザーの励起には、パルス励起と連続励起の2種類があり、パルス励起によるパルス波レーザーは一般にノーマルパルスと呼ばれる。
【0087】
連続励起であってもパルス波レーザーを作り出すことが可能であり、ノーマルパルスよりパルス幅(パルスON時間)を短くして、その分ピークパワーの高いレーザーを発振させるQスイッチパルス発振方法、AOMやLN光強度変調機により時間的に光を切り出すことでパルス波レーザーを生成させる外部変調方式、機械的にチョッピングしてパルス化する方法、ガルバノミラーを操作してパルス化する方法、レーザーの駆動電流を直接変調してパルス波レーザーを生成する直接変調方式などによりパルス波レーザーを作り出すことができる。
【0088】
ガルバノミラーを操作してパルス化する方法は、ガルバノミラーとガルバノコントローラーの組み合わせによって、ガルバノミラーを介してレーザー発振機から発振されたレーザー光を照射する方法であり、具体的には例えば次のように実施することができる。
【0089】
ガルバノコントローラーから周期的にGate信号をON/OFF出力し、そのON/OFF信号でレーザー発振機により発振したレーザー光をON/OFFすることで、レーザー光のエネルギー密度を変化させることなくパルス化することができる。それによって、
図1に示すようにレーザー光の照射部分11と隣接するレーザー光の照射部分11の間にあるレーザー光の非照射部分12が交互に生じて、全体として点線状に形成されるようにレーザー光を照射することができる。ガルバノミラーを操作してパルス化する方法は、レーザー光の発振状態自体は替えることなく、デューティ比を調整することができるため、操作が簡単である。
【0090】
これらの方法の中でも、連続波レーザーのエネルギー密度を変更することなく、パルス化(照射部分と非照射部分が交互に生じるように照射する)ことが容易にできる方法であることから、機械的にチョッピングしてパルス化する方法、ガルバノミラーを操作してパルス化する方法、レーザーの駆動電流を直接変調してパルス波レーザーを生成する直接変調方式が本開示の好ましい一態様である。
【0091】
上記した本開示の好ましい一態様では、レーザーの駆動電流を直接変換する直接変調方式の変調装置をレーザー電源に接続したファイバーレーザー装置を使用することで、レーザーを連続励起させてパルス波レーザーを作り出したものである。
【0092】
デューティ比は、レーザー光の出力のON時間とOFF時間から次式により求められる比である。
デューティ比(%)=ON時間/(ON時間+OFF時間)×100
デューティ比は、
図1に示すL1とL2(すなわち、L1/[L1+L2])に対応するものであるから、10〜90%の範囲から選択することができる。デューティ比を調整してレーザー光を照射することで、
図1に示すような点線状に照射することができる。
【0093】
レーザー光の照射部分11の長さ(L1)は、本開示の好ましい一態様では複雑な多孔構造に粗面化するためには0.05mm以上であってよく、本開示の別の好ましい一態様では0.1〜10mmであってよく、本開示のさらに別の好ましい一態様では0.3〜7mm
であってよい。
【0094】
本開示の幾つかの例によれば、原料成形体の表面に粗面化構造を形成するさらに他の方法としては、パルス波レーザー光を使用する方法がある。パルス波レーザー光を照射するとき、下記の(i)〜(V)を調整することで、原料成形体の表面に粗面化構造を形成することができる。
【0095】
パルス波レーザー光を照射する方法は、通常のパルス波レーザー光を照射する方法のほか、特許第5848104号公報、特許第5788836号公報、特許第5798534号公報、特許第5798535号公報、特開2016−203643号公報、特許第5889775号公報、特許第5932700号、特許第6055529号公報に記載のパルス波レーザー光の照射方法と同様にして実施することができる。
【0096】
第1a実施形態〜第1d実施形態の粗面化構造であっても、下記(i)〜(v)の要件を満たすようにパルス波レーザー光を照射することで形成することができる。第1実施形態(第1e実施形態)の粗面化構造を形成するときは、下記(i)〜(v)の要件を満たし、かつ
図21(b)のようにパルス波レーザー光を照射して複数の円形凹部と環状凸部を形成させることができる(
図24(a)参照)。第1実施形態(第1f実施形態)の粗面化構造を形成するときは、下記(i)〜(v)の要件を満たし、かつ
図21(a)のようにパルス波レーザー光を照射して複数の円形凹部と環状凸部を形成させることができる(
図25参照)。
【0097】
<要件(i)原料成形体に対してパルス波レーザー光を照射するときの照射角度>
前記照射角度は、本開示の好ましい一態様では15度〜90度であってよく、本開示の別の好ましい一態様では45〜90度であってよい。
【0098】
<要件(ii)原料成形体に対してパルス波レーザー光を照射するときの照射速度>
前記照射速度は、本開示の好ましい一態様では10〜1000mm/secであってよく、本開示の別の好ましい一態様では10〜500mm/secであってよく、本開示のさらに別の好ましい一態様では10〜300mm/secであってよく、本開示のさらに別の好ましい一態様では10〜80mm/secであってよい。
【0099】
<(iii)原料成形体に対してパルス波レーザー光を照射するときのエネルギー密度>
前記エネルギー密度は、レーザー光の1パルスのエネルギー出力(W)と、レーザー光(スポット面積(cm
2)(π・〔スポット径/2〕
2)から次式:レーザー光の出力/スポット面積により求められる。
【0100】
前記エネルギー密度は、本開示の好ましい一態様では0.1〜50GW/cm
2であってよく、本開示の別の好ましい一態様では0.1〜20GW/cm
2であってよく、本開示のさらに別の好ましい一態様では0.5〜10GW/cm
2であってよく、本開示のさらに別の好ましい一態様では0.5〜5GW/cm
2であってよい。エネルギー密度が大きくなるほど、孔は深くかつ大きくなる。
【0101】
パルス波レーザー光の1パルスのエネルギー出力(W)は、次式から求められるものである。
パルス波レーザー光の1パルスのエネルギー出力(W)=(レーザー光の平均出力/周波数)/パルス幅
【0102】
平均出力は、本開示の好ましい一態様では4〜400Wであってよく、本開示の別の好ましい一態様では5〜100Wであってよく、本開示のさらに別の好ましい一態様では10〜100Wであってよい。他のレーザー光の照射条件が同一であれば、出力が大きいほど孔は深くかつ大きくなり、出力が小さいほど孔は浅くかつ小さくなる。
【0103】
周波数(KHz)は、本開示の好ましい一態様では0.001〜1000kHzであってよく、本開示の別の好ましい一態様では0.01〜500kHzであってよく、本開示のさらに別の好ましい一態様では0.1〜100kHzであってよい。
【0104】
パルス幅(nsec)は、本開示の好ましい一態様では1〜10,000nsecであってよく、本開示の別の好ましい一態様では1〜1,000nsecであってよく、本開示のさらに別の好ましい一態様では1〜100nsecであってよい。
【0105】
レーザー光のスポット径(μm)は、本開示の好ましい一態様では1〜300μmであってよく、本開示の別の好ましい一態様では10〜300μmであってよく、本開示のさらに別の好ましい一態様では20〜150μmであってよく、本開示のさらに別の好ましい一態様では20〜80μmであってよい。
【0106】
<(iv)原料成形体に対してパルス波レーザー光を照射するときの繰り返し回数>
繰り返し回数は、一つのドット(孔)を形成するための合計のパルス波レーザー光の照射回数であり、本開示の好ましい一態様では1〜80回であってよく、本開示の別の好ましい一態様では3〜50回であってよく、本開示のさらに別の好ましい一態様では5〜30回であってよい。同一のレーザー照射条件であれば、繰り返し回数が多いほど孔(凹部)が深くかつ大きくなり、繰り返し回数が少ないほど孔(凹部)が浅くかつ小さくなる。
【0107】
但し、幾つかの例によれば、繰り返し回数は、線(直線、曲線または直線と曲線の組み合わせ)を形成するようにパルス波レーザー光を照射する実施形態に適用されるものであり(例えば実施例14、15、18および19)、ドットを形成するようにパルス波レーザー光を照射する実施形態(
図21(a);例えば実施例17)や円を形成するようにパルス波レーザー光を照射する実施形態(
図21(b);例えば実施例16)、またはそれらに類似する実施形態(多角形、楕円などを形成するように照射する実施形態)には適用されない。
【0108】
<(v)原料成形体に対してパルス波レーザー光を照射するときのピッチ間隔>
原料成形体に対してレーザー光をライン状に照射するとき、隣接する線状凹部(ライン)同士の間隔(ピッチ)を広くしたり、狭くしたりすることで、孔(凹部)の大きさ、孔(凹部)の形状、孔(凹部)の深さを調整することができる。
【0109】
ピッチ間隔は、本開示の好ましい一態様では0.01〜1mmであってよく、本開示の別の好ましい一態様では0.01〜0.8mmであってよく、本開示のさらに別の好ましい一態様では0.03〜0.5mmであってよく、本開示のさらに別の好ましい一態様では0.05〜0.5mmであってよい。
【0110】
ピッチが狭いと、隣接する線状凹部(ライン)にも熱的影響が及ぶため、孔は大きくなり、孔の形状は複雑になり、孔の深さは深くなる傾向にあるが、熱的影響が大きくなり過ぎると複雑で深い形状の孔が形成され難くなることもある。ピッチが広いと、孔は小さくなり、孔の形状は複雑にはならず、孔はあまり深くならない傾向にあるが、処理速度を高めることはできる。
【0111】
次に、着磁工程を説明する。着磁工程は、原料成形体に粗面化構造を形成して希土類磁石前駆体を製造した後に着磁工程を実施する第1の着磁方法(即ち、希土類磁石前駆体を着磁する方法)と、原料磁石成形体(粗面化構造が形成される前で着磁されているもの)に粗面化構造を形成した後に再度着磁工程を実施する第2の着磁方法のいずれかの方法を実施することができる。
【0112】
粗面化構造を形成する工程において熱的影響がある場合は磁気的特性を損なう場合があるため、本開示の好ましい一態様は第1の着磁方法である。このため、原料磁石成形体に粗面化構造を形成した場合は、第2の着磁方法を実施しない場合でも、粗面化構造を有する希土類磁石成形体として使用することができるが、磁気的特性が低下されている場合がある。
【0113】
第1の着磁方法は、粗面化構造を形成する工程(粗面化構造を形成して希土類磁石前駆体を製造する工程)の後において、1回または複数回の着磁を実施することができる。第2の着磁方法は、希土類磁石成形体に粗面化構造を形成した後において、1回または複数回の着磁を実施することができる。第1の着磁方法と第2の着磁方法において複数回の着磁工程を実施するときは、それぞれの着磁工程の処理において付与する磁力に強弱を付けることもできる。
【0114】
本開示の幾つかの例によれば、粗面化構造を有する希土類磁石前駆体を着磁処理したものの磁力(mT)は、粗面化構造が形成されていない着磁された希土類磁石成形体の磁力(mT)(基準磁力)を100としたとき、本開示の好ましい一態様では前記基準磁力の70%以上であってよく、本開示の別の好ましい一態様では80%以上であってよく、本開示のさらに別の好ましい一態様では90%以上であってよい。着磁工程は、公知の着磁方法であってよく、例えば、着磁コイルを使用した着磁方法、着磁ヨークを使用した着磁方法を実施することができる。
【0115】
本開示の希土類磁石成形体を他の材料を含む成形体との複合成形体を製造するための製造中間体として使用したときの複合成形体の製造方法について説明する。
【0116】
(1)希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体と樹脂成形体との複合成形体の製造方法
本開示の幾つかの例によれば、第1工程では、上記した製造方法により表面に粗面化構造を有する希土類磁石前駆体または表面に粗面化構造を有する希土類磁石成形体を製造する。
【0117】
本開示の幾つかの例によれば、第2工程では、第1工程において得た希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体の粗面化構造を含む部分を金型内に配置して、前記樹脂成形体となる樹脂を射出成形するか、または第2工程では、第1工程において得た希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体の粗面化構造を含む部分を金型内に配置して、少なくとも前記粗面化構造を含む部分と前記樹脂成形体となる樹脂を接触させた状態で圧縮成形する。
【0118】
複合成形体の出発原料成形体として希土類磁石成形体を使用したときは、第1工程と第2工程により製品となる複合成形体を製造することができるが、複合成形体の出発原料成形体として希土類磁石前駆体を使用したときは、第2工程後にそのまま中間製品として出荷できるほか、着磁工程の処理をした後で製品として出荷することもできる。
【0119】
なお、幾つかの例によれば、複合成形体の製造方法において着磁工程を実施するときは、
(i)原料成形体の第1回目の着磁処理、粗面化構造の形成、複合成形体の製造、第2回目の着磁処理の順に実施する方法、
(ii)原料成形体に粗面化構造を形成、第1回目の着磁処理、複合成形体の製造、第2回目の着磁処理の順に実施する方法、
(iii)原料成形体の第1回目の着磁処理、粗面化構造の形成、第2回目の着磁処理、複合成形体の製造、第3回目の着磁処理の順に実施する方法のいずれかの着磁工程を含む製造方法を実施することができる。
【0120】
このように複数回の着磁工程を実施するときは、全ての着磁処理において同レベルの磁力を付与してもよいし、それぞれの着磁処理において異なるレベルの磁力を付与してもよい。異なるレベルの磁力を付与するときは、(i)、(ii)の方法では、第1回目の着磁処理、第2回目の着磁処理の順に着磁する磁力を強くすることができ、(iii)の方法では、第1回目、第2回目、第3回目の着磁処理の順に着磁する磁力を強くすることができる。
【0121】
例えば、複合成形体の製造工程において金型を使用するとき、余り磁力が強すぎると粗面化構造が形成された希土類磁石前駆体(または希土類磁石)が強い力で金型にくっついて離れなくなるという不都合が生じるが、弱い磁力であれば金型への取り付けと取り外しの両方が容易になる。また磁力は粗面化構造を形成する際の熱により減衰されるが、上記のように複数回の着磁工程を実施することにより減衰された磁力の回復レベルを高めることができる。
【0122】
第2工程で使用する樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のほか、熱可塑性エラストマーも含まれる。熱可塑性樹脂は、用途に応じて公知の熱可塑性樹脂から適宜選択することができる。例えば、ポリアミド系樹脂(PA6、PA66等の脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド)、ポリスチレン、ABS樹脂、AS樹脂などのスチレン単位を含む共重合体、ポリエチレン、エチレン単位を含む共重合体、ポリプロピレン、プロピレン単位を含む共重合体、その他のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂を挙げることができる。
【0123】
熱硬化性樹脂は、用途に応じて公知の熱硬化性樹脂から適宜選択することができる。例えば、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、レソルシノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ビニルウレタンを挙げることができる。熱硬化性樹脂を使用するときは、プレポリマー形態のものを使用し、後工程において加熱硬化処理をすることができる。
【0124】
熱可塑性エラストマーは、用途に応じて公知の熱可塑性エラストマーから適宜選択することができる。例えば、スチレン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ニトリル系エラストマー、ポリアミド系エラストマーを挙げることができる。
【0125】
これらの熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性エラストマーには、公知の繊維状充填材を配合することができる。公知の繊維状充填材としては、炭素繊維、無機繊維、金属繊維、有機繊維等を挙げることができる。炭素繊維は周知のものであり、PAN系、ピッチ系、レーヨン系、リグニン系等のものを用いることができる。無機繊維としては、ガラス繊維、玄武岩繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化ホウ素繊維、窒化ケイ素繊維等を挙げることができる。金属繊維としては、ステンレス、アルミニウム、銅等からなる繊維を挙げることができる。有機繊維としては、ポリアミド繊維(全芳香族ポリアミド繊維、ジアミンとジカルボン酸のいずれか一方が芳香族化合物である半芳香族ポリアミド繊維、脂肪族ポリアミド繊維)、ポリビニルアルコール繊維、アクリル繊維、ポリオレフィン繊維、ポリオキシメチレン繊維、ポリテトラフルオロエチレン繊維、ポリエステル繊維(全芳香族ポリエステル繊維を含む)、ポリフェニレンスルフィド繊維、ポリイミド繊維、液晶ポリエステル繊維などの合成繊維や天然繊維(セルロース系繊維など)や再生セルロース(レーヨン)繊維などを用いることができる。
【0126】
これらの繊維状充填材は、繊維径が3〜60μmの範囲のものを使用することができるが、これらの中でも、本開示の好ましい一態様は金属成形体の接合面が粗面化されて形成される開放孔などの開口径より小さな繊維径のものを使用することである。繊維径は、本開示の好ましい一態様では5〜30μmであってよく、本開示の別の好ましい一態様では7〜20μmであってよい。
【0127】
熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性エラストマー100質量部に対する繊維状充填材の配合量は、本開示の好ましい一態様では5〜250質量部であってよく、本開示の別の好ましい一態様では25〜200質量部であってよく、本開示のさらに別の好ましい一態様では45〜150質量部であってよい。
【0128】
(2−1)粗面化構造を有する希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体とゴム成形体との複合成形体の製造方法
本開示の幾つかの例によれば、第1工程では、上記した製造方法により表面に粗面化構造を有する希土類磁石前駆体または表面に粗面化構造を有する希土類磁石成形体を製造する。
【0129】
本開示の幾つかの例によれば、第2工程では、第1工程において得た希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体とゴム成形体をプレス成形やトランスファー成形などの公知の成形方法を適用して一体化させる。プレス成形法を適用するときは、例えば希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体の粗面化構造を含む部分を金型内に配置して、前記粗面化構造を含む部分に対して、加熱および加圧した状態で前記ゴム成形体となる未硬化ゴムをプレスした後、冷却後に取り出す。トランスファー成形法を適用するときは、例えば希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体の粗面化構造を含む部分を金型内に配置して、未硬化ゴムを金型内に射出成形し、その後、加熱および加圧して、希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体の粗面化構造を含む部分とゴム成形体を一体化させ、冷却後に取り出す。
【0130】
なお、使用するゴムの種類によっては、主として残留モノマーを除去するため、金型から取り出した後、オーブンなどでさらに二次加熱(二次硬化)する工程を付加することができる。
【0131】
複合成形体の出発原料成形体として希土類磁石成形体を使用したときは、第1工程と第2工程により製品となる複合成形体を製造することができるが、複合成形体の出発原料成形体として希土類磁石前駆体を使用したときは、第2工程後にそのまま中間製品として出荷できるほか、着磁工程の処理をした後で製品として出荷することもできる。
【0132】
本開示の幾つかの例によれば、この工程で使用するゴム成形体のゴムは特に制限されるものではなく、公知のゴムを使用することができるが、熱可塑性エラストマーは含まれない。公知のゴムとしては、エチレン−プロピレンコポリマー(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM)、エチレン−オクテンコポリマー(EOM)、エチレン−ブテンコポリマー(EBM)、エチレン−オクテンターポリマー(EODM)、エチレン−ブテンターポリマー(EBDM)などのエチレン−α−オレフィンゴム;エチレン/アクリル酸ゴム(EAM)、ポリクロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、水添NBR(HNBR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレン(ACSM)、エピクロルヒドリン(ECO)、ポリブタジエンゴム(BR)、天然ゴム(合成ポリイソプレンを含む)(NR)、塩素化ポリエチレン(CPE)、ブロム化ポリメチルスチレン−ブテンコポリマー、スチレン−ブタジエン−スチレンおよびスチレン−エチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマー、アクリルゴム(ACM)、エチレン−酢酸ビニルエラストマー(EVM)、およびシリコーンゴムなどを使用することができる。
【0133】
ゴムには、必要によりゴムの種類に応じた硬化剤を含有させてよいが、その他、公知の各種ゴム用添加剤を配合することができる。ゴム用添加剤としては、硬化促進剤、老化防止剤、シランカップリング剤、補強剤、難燃剤、オゾン劣化防止剤、充填剤、プロセスオイル、可塑剤、粘着付与剤、加工助剤などを使用することができる。
【0134】
(2−2)粗面化構造を有する希土類磁石前駆体または粗面化構造を有する希土類磁石成形体とゴム成形体との複合成形体(接着剤層を含む)の製造方法
本開示の幾つかの例によれば、希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体とゴム成形体との複合成形体の製造方法では、希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体とゴム成形体の接合面に接着剤層を介在させることができる。
【0135】
本開示の幾つかの例によれば、第1工程では、上記した製造方法により表面に粗面化構造を有する希土類磁石前駆体または表面に粗面化構造を有する希土類磁石成形体を製造する。
【0136】
本開示の幾つかの例によれば、第2工程にて、希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体の粗面化構造面に接着剤(接着剤溶液)を塗布して接着剤層を形成する。このとき、粗面化構造面に接着剤を圧入するようにしてもよい。接着剤を塗布することで、希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体の粗面化構造面と内部の孔に接着剤を存在させる。
【0137】
接着剤は、特に制限されるものではなく、公知の熱可塑性接着剤、熱硬化性接着剤、ゴム系接着剤、湿気硬化型接着剤などを使用することができる。熱可塑性接着剤としては、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール、アクリル系接着剤、ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、アイオノマー、塩素化ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、プラスチゾル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、ポリアミド、ナイロン、飽和無定形ポリエステル、セルロース誘導体を挙げることができる。熱硬化性接着剤としては、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、レソルシノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ビニルウレタンを挙げることができる。ゴム系接着剤としては、天然ゴム、合成ポリイソプレン、ポリクロロプレン、ニトリルゴム、スチレン−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエン−ビニルピリジン三元共重合体、ポリイソブチレン−ブチルゴム、ポリスルフィドゴム、シリコーンRTV、塩化ゴム、臭化ゴム、クラフトゴム、ブロック共重合体、液状ゴムを挙げることができる。湿気硬化型接着剤としては、シアノアクリレート系の瞬間接着剤を挙げることができる。
【0138】
本開示の幾つかの例によれば、第3工程にて、前工程において接着剤層を形成した希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体の面に対して、別途成形したゴム成形体を接着する工程、または前工程において接着剤層を形成した希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体の面を含む部分を金型内に配置して、希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体の面とゴム成形体となる未硬化ゴムを接触させた状態で加熱および加圧して一体化させる工程を実施する。この工程の場合には、主として残留モノマーを除去するため、金型から取り出した後、オーブンなどでさらに二次加熱(二次硬化)する工程を付加することができる。
【0139】
複合成形体の出発原料成形体として希土類磁石成形体を使用したときは、第1工程と第2工程により製品となる複合成形体を製造することができるが、複合成形体の出発原料成形体として希土類磁石前駆体を使用したときは、第2工程後にそのまま中間製品として出荷できるほか、着磁工程の処理をした後で製品として出荷することもできる。
【0140】
(3−1)粗面化構造を有する希土類磁石前駆体または粗面化構造を有する希土類磁石成形体と金属成形体との複合成形体の製造方法
本開示の幾つかの例によれば、第1工程では、上記した製造方法により粗面化構造を有する希土類磁石前駆体または粗面化構造を有する希土類磁石成形体を製造する。
【0141】
本開示の幾つかの例によれば、第2工程では、金型内に粗面化した希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体を、粗面化構造部を含む面が上になるように配置する。その後、例えば周知のダイカスト法を適用して、溶融状態の金属を金型内に流し込んだ後、冷却する。
【0142】
使用する金属は、希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体を構成する希土類磁石の融点よりも低い融点のものであれば制限されない。例えば、鉄、アルミニウム、アルミニウム合金、金、銀、プラチナ、銅、マグネシウム、チタンまたはそれらの合金、ステンレスなどの複合成形体の用途に応じた金属を選択することができる。
【0143】
複合成形体の出発原料成形体として希土類磁石成形体を使用したときは、第1工程と第2工程により製品となる複合成形体を製造することができるが、複合成形体の出発原料成形体として希土類磁石前駆体を使用したときは、第2工程後にそのまま中間製品として出荷できるほか、着磁工程の処理をした後で製品として出荷することもできる。
【0144】
(3−2)粗面化構造を有する希土類磁石前駆体または粗面化構造を有する希土類磁石成形体との複合成形体(接着剤層あり)の製造方法
本開示の幾つかの例によれば、第1工程と第2工程は、上記した「(2−2)粗面化構造を有する希土類磁石前駆体または粗面化構造を有する希土類磁石成形体とゴム成形体との複合成形体(接着剤層を含む)の製造方法」の第1工程と第2工程と同様に実施して、接着剤層を有する希土類磁石成形体を製造する。
【0145】
本開示の幾つかの例によれば、第3工程では、接着剤層を有する粗面化構造を有する希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体の接着剤層に金属成形体を押しつけて接着・一体化する。接着剤層が熱可塑性樹脂系接着剤を含むものであるときは、必要に応じて加熱して接着剤層を軟らかくした状態で、非金属成形体の接着面と接着させることができる。また接着剤層が熱硬化性樹脂系接着剤のプレポリマーを含むものであるときは、接着後に加熱雰囲気に放置してプレポリマーを加熱硬化させる。
【0146】
複合成形体の出発原料成形体として希土類磁石成形体を使用したときは、第1工程と第2工程により製品となる複合成形体を製造することができるが、複合成形体の出発原料成形体として希土類磁石前駆体を使用したときは、第2工程後にそのまま中間製品として出荷できるほか、着磁工程の処理をした後で製品として出荷することもできる。
【0147】
(4)粗面化構造を有する希土類磁石前駆体または粗面化構造を有する希土類磁石成形体とUV硬化性樹脂成形体との複合成形体の製造方法
本開示の幾つかの例によれば、第1工程では、上記した製造方法により表面に粗面化構造を有する希土類磁石前駆体または粗面化構造を有する希土類磁石成形体を製造する。
【0148】
本開示の幾つかの例によれば、次の工程にて、希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体の粗面化構造部分を含めた部分に対して、UV硬化性樹脂層を形成するモノマー、オリゴマーまたはそれらの混合物を接触させる(モノマー、オリゴマーまたはそれらの混合物の接触工程)。
【0149】
モノマー、オリゴマーまたはそれらの混合物の接触工程は、希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体の粗面化構造部分を含めた部分に対してモノマー、オリゴマーまたはそれらの混合物を塗布する工程を実施することができる。モノマー、オリゴマーまたはそれらの混合物を塗布する工程は、刷毛塗り、ドクターブレードを使用した塗布、ローラー塗布、流延、ポッティングなどを単独で使用したり、組み合わせて使用したりすることができる。
【0150】
モノマー、オリゴマーまたはそれらの混合物の接触工程は、希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体の粗面化構造部分を含めた部分を型枠で包囲して、前記型枠内にモノマー、オリゴマーまたはそれらの混合物を注入する工程を実施することができる。またモノマー、オリゴマーまたはそれらの混合物の接触工程は、希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体の粗面化部分を上にした状態で型内部に入れた後、前記型内部にモノマー、オリゴマーまたはそれらの混合物を注入する工程を実施することができる。
【0151】
このモノマー、オリゴマーまたはそれらの混合物の接触工程によって、希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体の粗面化部分の多孔にモノマー、オリゴマーまたはそれらの混合物が入り込む。多孔にモノマー、オリゴマーまたはそれらの混合物が入り込む形態には、例えば、本開示の好ましい一態様では孔全体の50%以上、本開示の別の好ましい一態様では70%以上、本開示の別の好ましい一態様では80%以上、本開示の別の好ましい一態様では90%以上の孔にモノマー、オリゴマーまたはそれらの混合物が入り込む形態のほか、孔の底までモノマー、オリゴマーまたはそれらの混合物が入り込んだ形態、孔深さの途中の深さまでモノマー、オリゴマーまたはそれらの混合物が入り込んだ形態、孔の入口付近にのみモノマー、オリゴマーまたはそれらの混合物が入り込んだ形態が混在している形態が含まれる。
【0152】
本開示の幾つかの例によれば、モノマー、オリゴマーまたはそれらの混合物は、常温で液体のもの(低粘度のゲルも含む)や溶剤に溶解された溶液形態のものはそのまま塗布または注入することができ、固体(粉末)のものは加熱溶融させたり、溶剤に溶解させたりした後で塗布または注入することができる。
【0153】
本開示の幾つかの例によれば、モノマー、オリゴマーまたはそれらの混合物の接触工程で使用するモノマー、オリゴマーまたはそれらの混合物は、ラジカル重合性モノマーおよびラジカル重合性モノマーのオリゴマーから選ばれるものであるか、カチオン重合性モノマーおよび前記モノマーのカチオン重合性モノマーオリゴマー、またはそれらから選択される2種以上の混合物から選ばれるものであってよい。
【0154】
(ラジカル重合性モノマー)
ラジカル重合性化合物としては、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルアミノ基、ビニルエーテル基、ビニルアリール基、ビニルオキシカルボニル基などのラジカル重合性基を一分子内に1つ以上有する化合物などが挙げられる。
【0155】
(メタ)アクリロイル基を一分子内に1つ以上有する化合物としては、1−ブテン−3−オン、1−ペンテン−3−オン、1−ヘキセン−3−オン、4−フェニル−1−ブテン−3−オン、5−フェニル−1−ペンテン−3−オンなど、およびこれらの誘導体などが挙げられる。
【0156】
(メタ)アクリロイルオキシ基を一分子内に1つ以上有する化合物としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n−ラウリル(メタ)アクリレート、n−ステアリル(メタ)アクリレート、n−ブトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2―ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、デカンジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、1,1−ビス(アクリロイルオキシ)エチルイソシアネート、2−(2−(メタ)アクリロイルオキシエチルオキシ)エチルイソシアネート、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシランなど、およびこれらの誘導体などが挙げられる。
【0157】
(メタ)アクリロイルアミノ基を一分子内に1つ以上有する化合物としては、4−(メタ)アクリロイルモルホリン、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−n−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ヘキシル(メタ)アクリルアミド、N−オクチル(メタ)アクリルアミドなど、およびこれらの誘導体などが挙げられる。
【0158】
ビニルエーテル基を一分子内に1つ以上有する化合物としては、例えば、3,3−ビス(ビニルオキシメチル)オキセタン、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、3−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2−ヒドロキシイソプロピルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、3−ヒドロキシブチルビニルエーテル、2−ヒドロキシブチルビニルエーテル、3−ヒドロキシイソブチルビニルエーテル、2−ヒドロキシイソブチルビニルエーテル、1−メチル−3−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、1−メチル−2−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、1−ヒドロキシメチルプロピルビニルエーテル、4−ヒドロキシシクロヘキシルビニルエーテル、1,6−ヘキサンジオールモノビニルエーテル、1,4−シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、1,3−シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、1,2−シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、p−キシレングリコールモノビニルエーテル、m−キシレングリコールモノビニルエーテル、o−キシレングリコールモノビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、トリエチレングリコールモノビニルエーテル、テトラエチレングリコールモノビニルエーテル、ペンタエチレングリコールモノビニルエーテル、オリゴエチレングリコールモノビニルエーテル、ポリエチレングリコールモノビニルエーテル、ジプロピレングリコールモノビニルエーテル、トリプロピレングリコールモノビニルエーテル、テトラプロピレングリコールモノビニルエーテル、ペンタプロピレングリコールモノビニルエーテル、オリゴプロピレングリコールモノビニルエーテル、ポリプロピレングリコールモノビニルエーテルなど、およびこれらの誘導体などが挙げられる。
【0159】
ビニルアリール基を一分子内に1つ以上有する化合物としては、スチレン、ジビニルベンゼン、メトキシスチレン、エトキシスチレン、ヒドロキシスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、酢酸4−ビニルフェニル、(4−ビニルフェニル)ジヒドロキシボラン、N−(4−ビニルフェニル)マレイミドなど、およびこれらの誘導体などが挙げられる。
【0160】
ビニルオキシカルボニル基を一分子内に1つ以上有する化合物としては、ギ酸イソプロペニル、酢酸イソプロペニル、プロピオン酸イソプロペニル、酪酸イソプロペニル、イソ酪酸イソプロペニル、カプロン酸イソプロペニル、吉草酸イソプロペニル、イソ吉草酸イソプロペニル、乳酸イソプロペニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、オクチル酸ビニル、モノクロロ酢酸ビニル、アジピン酸ジビニル、アクリル酸ビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ソルビン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニルなど、およびこれらの誘導体などが挙げられる。
【0161】
(カチオン重合性モノマー)
カチオン重合性モノマーとしては、エポキシ環(オキシラニル基)、ビニルエーテル基、ビニルアリール基などのオキセタニル基等の以外のカチオン重合性基を一分子内に1つ以上有する化合物などが挙げられる。
【0162】
エポキシ環を一分子内に一つ以上有する化合物としては、グリシジルメチルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールFジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールSジグリシジルエーテル、エポキシノボラック樹脂、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールFジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールSジグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(3,4−エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル−5,5−スピロ−3,4−エポキシ)シクロヘキサン−メタ−ジオキサン、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシル−3’,4’−エポキシ−6’−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、メチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサン)、ジシクロペンタジエンジエポキサイド、エチレングリコールのジ(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル、エチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジオクチル、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジ−2−エチルヘキシル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル類;エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどの脂肪族多価アルコールに1種又は2種以上のアルキレンオキサイドを付加することにより得られるポリエーテルポリオールのポリグリシジルエーテル類;脂肪族長鎖二塩基酸のジグリシジルエステル類;脂肪族高級アルコールのモノグリシジルエーテル類;フェノール、クレゾール、ブチルフェノール又はこれらにアルキレンオキサイドを付加して得られるポリエーテルアルコールのモノグリシジルエーテル類;高級脂肪酸のグリシジルエステル類などが挙げられる。
【0163】
ビニルエーテル基を一分子内に1つ以上有する化合物、ビニルアリール基を一分子内に1つ以上有する化合物としては、ラジカル重合性化合物として例示した化合物と同様の化合物が挙げられる。
【0164】
オキセタニル基を一分子内に一つ以上有する化合物としては、としては、トリメチレンオキシド、3,3−ビス(ビニルオキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−エチル−3−(2−エチルヘキシルオキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(ヒドロキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−[(フェノキシ)メチル]オキセタン、3−エチル−3−(ヘキシルオキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(クロロメチル)オキセタン、3,3−ビス(クロロメチル)オキセタン、1,4−ビス[(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル]ベンゼン、ビス{[1−エチル(3−オキセタニル)]メチル}エーテル、4,4’−ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシメチル]ビシクロヘキシル、1,4−ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシメチル]シクロヘキサン、3−エチル−3{〔(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ]メチル}オキセタンなどが挙げられる。
【0165】
ラジカル重合性モノマーとカチオン重合性モノマーのオリゴマーとしては、単官能または多官能(メタ)アクリル系オリゴマーが挙げられ。1種または2種以上を組み合わせて使用できる。単官能または多官能(メタ)アクリル系オリゴマーとしては、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエーテル(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマーなどが挙げられる。
【0166】
ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、ポリカーボネート系ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル系ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエーテル系ウレタン(メタ)アクリレート、カプロラクトン系ウレタン(メタ)アクリレートなどが挙げられる。ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーは、ポリオールとジイソシアネートとを反応させて得られるイソシアネート化合物と、水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーとの反応により得ることができる。前記ポリオールとしては、ポリカーボネートジオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカプロラクトンポリオールが挙げられる。
【0167】
エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマーは、例えば、低分子量のビスフェノール型エポキシ樹脂やノボラックエポキシ樹脂のオキシラン環とアクリル酸とのエステル化反応により得られる。ポリエーテル(メタ)アクリレートオリゴマーは、ポリオールの脱水縮合反応によって両末端に水酸基を有するポリエーテルオリゴマーを得、次いで、その両末端の水酸基をアクリル酸でエステル化することにより得られる。ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマーは、例えば、ポリカルボン酸とポリオールの縮合によって両末端に水酸基を有するポリエステルオリゴマーを得、次いで、その両末端の水酸基をアクリル酸でエステル化することにより得られる。
【0168】
本開示の幾つかの例によれば、単官能または多官能(メタ)アクリル系オリゴマーの重量平均分子量は、本開示の好ましい一態様で100,000以下であってよく、本開示の別の好ましい一態様では500〜50,000であってよい。
【0169】
本開示の幾つかの例によれば、上記したモノマー、オリゴマーまたはそれらの混合物を使用するときは、前記モノマー、オリゴマーまたはそれらの混合物100質量部に対して、本開示の好ましい一態様では0.01〜10質量部の光重合開始剤を使用してよい。
【0170】
次の工程にて、希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体の粗面化構造部分を含む部分と接触されたモノマー、オリゴマーまたはそれらの混合物に対してUVを照射して硬化させ、UV硬化性樹脂層を有する複合成形体を得る。
【0171】
(5)粗面化構造を有する希土類磁石前駆体または粗面化構造を有する希土類磁石成形体同士の複合成形体、または粗面化構造を有する希土類磁石前駆体または粗面化構造を有する希土類磁石成形体と、異なる種類の希土類磁石成形体の複合成形体の製造方法
【0172】
粗面化構造を有する希土類磁石前駆体または粗面化構造を有する希土類磁石成形体同士の複合成形体は、例えば、異なる形状の粗面化構造を有する希土類磁石前駆体または粗面化構造を有する希土類磁石成形体の複数を使用し、それらの接合面に形成させた接着剤層を介して接合一体化させることで製造することができる。前記接着剤層は、例えば上記したのと同様にして、希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体の粗面化構造部分に接着剤を塗布するなどして形成することができる。接着剤としては、上記した他の複合成形体の製造で使用したものと同じものを使用することができる。
【0173】
さらに希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体と異なる種類の希土類磁石成形体を含む複合成形体も同様にして製造することができる。本開示の幾つかの例によれば、この実施形態では、希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体の粗面化構造部分に例えば上記したのと同様にして接着剤層を形成して、異なる種類の希土類磁石成形体と接合一体化させる方法のほか、異なる種類の希土類磁石成形体の表面も粗面化構造にして、例えば上記したのと同様にして接着剤層を形成した後、希土類磁石前駆体または希土類磁石成形体の接着剤層を有する面と異なる種類の希土類磁石成形体の接着剤層を有する面を接合一体化させて複合成形体を製造することができる。
【0174】
異なる種類の希土類磁石成形体の表面を粗面化する方法としては、例えば、本願発明と同様に連続波レーザー光を照射する方法、パルス波レーザー光を照射する方法、ブラスト加工、エッチング加工などで粗面化する方法を適用することができる。
【0175】
各実施形態における各構成およびそれらの組み合わせなどは一例であって、本開示の主旨から逸脱しない範囲で、適宜構成の付加、省略、置換およびその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0176】
以下の実施例および比較例において測定された幾つかの数値は、以下のようにして測定された。
抗折強度(MPa):曲げ試験により得られる破断時の応力値。
【0177】
Sa(算術平均高さ)(ISO 25178):希土類磁石前駆体の粗面化構造部分の面の3.8×2.8mmの範囲のSaをワンショット3D形状測定機(キーエンス製)により高倍カメラモード(80倍)で測定した。
【0178】
Sz(最大高さ)(ISO 25178):希土類磁石前駆体の粗面化構造部分の面の3.8×2.8mmの範囲のSzをワンショット3D形状測定機(キーエンス製)により高倍カメラモード(80倍)で測定した。
【0179】
Sdr(界面の展開面積比)(ISO 25178):希土類磁石前駆体の粗面化構造部分の面の3.8×2.8mmの範囲のSdrをワンショット3D形状測定機(キーエンス製)により高倍カメラモード(80倍)で測定した。
【0180】
Sdq(二乗平均平方根傾斜)(ISO 25178):定義領域のすべての点における傾斜の二乗平均平方根により算出されるパラメータであり、完全に平坦な面のSdqは0となる。表面に傾斜があるとSdqは大きくなり、例えば45°の傾斜成分からなる平面では、Sdqは1になる。ワンショット3D形状測定機(キーエンス製)により高倍カメラモード(80倍)で測定した。
【0181】
(H1、H2)
実施例および比較例で得られた希土類磁石前駆体の粗面化構造部分(2mm×10mm=20mm
2)の範囲からランダムに10箇所を選択し、それぞれの断面(それぞれ長さが500μm以上の断面)のSEM写真を撮影し、得られたSEM写真から、最も高い部分と最も低い部分を選択して、基準面と合わせてH1(基準面よりも盛り上がっている最も高い部分から基準面よりも深くなっている溝部の最も深い底面部までの距離)、H2(基準面から盛り上がり部分の最も高い先端部までの高さ)を求めた。H2/H1は10箇所の平均値で表示した。
【0182】
実施例1〜9、比較例1〜3
表1に示す種類の原料希土類磁石成形体およびフェライト磁石成形体(10×50×厚さ4mmの平板)の表面に対して、下記の連続波レーザー装置を使用して、表1に示す条件でレーザー光を連続照射して粗面化した。
発振器:IPG−Ybファイバー;YLR−300−SMあるいはYLR−1000−SM
ガルバノミラー:SQUIREELあるいはRHINO(ARGES社製)
集光系:fc=80あるいは110mm/fθ=163mm
【0183】
なお、双方向照射、一方向照射およびクロス照射などは、以下のとおりに実施した。
双方向照射:一方向に1本の溝が形成されるように連続波レーザー光を直線状に照射した後、0.08mmまたは0.12mmの間隔をおいて反対方向に同様にして連続波レーザー光を直線状に照射することを繰り返した。双方向照射の間隔(表1中のピッチ)は、隣接する溝のそれぞれの幅の中間位置の間の距離である。
【0184】
一方向照射:一方向に1本の溝が形成されるように連続波レーザー光を直線状に照射した後、0.08mmまたは0.10mmの間隔をおいて同方向に同様にして連続波レーザー光を直線状に照射することを繰り返した。一方向照射の間隔(表1中のピッチ)は、隣接する溝のそれぞれの幅の中間位置の間の距離である。
【0185】
クロス照射:0.08mmの間隔をおいて10本の溝(第1群の溝)が形成されるように連続波レーザー光を照射した後、第1群の溝と直交する方向に0.08mmの間隔をおいて10本の溝(第2群の溝)が形成されるように連続照射した。
【0186】
ドット照射:
図21(a)に示すようにしてパルス波レーザー光を照射して、多数のドット(孔)を形成した。
【0187】
円照射:
図21(b)に示すようにしてパルス波レーザー光を照射して、多数の円(環)を形成した。
【0188】
実施例1〜9、比較例1〜3の希土類磁石前駆体およびフェライト磁石成形体の粗面化構造を有する部分のSa、Sz、Sdrの測定結果を表1に示し、実施例1〜9の表面のSEM写真を
図3〜
図12に示し、実施例2の厚さ方向断面のSEM写真を
図4(a)、(b)に示し、実施例5の厚さ方向断面のSEM写真を
図7(a)、(b)に示し、比較例1、2の通常の写真を
図13、
図14に示す。
【0189】
さらに実施例2および5で得られた粗面化構造を有する希土類磁石成形体を使用して、樹脂成形体(ガラス繊維を30質量%含有するポリアミド6の成形体)との複合成形体(
図15)を製造した。この複合成形体は、粗面化構造を有する希土類磁石成形体を金型に入れた状態でガラス繊維30質量%を含有するポリアミド6を下記条件で射出成形して製造した。
射出成形機:ROBOSHOT S2000i100B
成形温度:280℃
金型温度:100℃
【0190】
得られた各複合成形体を使用して、希土類磁石成形体と樹脂成形体の接合強度を測定した。
〔引張試験〕
図15に示す複合成形体を用い、引張試験を行ってせん断接合強度(S1)を評価した。結果を表1に示す。引張試験は、ISO19095に準拠し、希土類磁石成形体30側の端部を固定した状態で、希土類磁石成形体30と樹脂成形体31が破断するまで
図15に示すX方向に引っ張った場合の接合面が破壊されるまでの最大荷重を下記条件で測定した。結果を表1に示す。
<引張試験条件>
試験機:島津製作所製AUTOGRAPH AG−X plus (50kN)
引張速度:10mm/min
つかみ具間距離:50mm
【0191】
【表1】
【0192】
図3〜
図9の双方向または一方向照射による粗面化構造のSEM写真から明らかなとおり、実施例1〜7の希土類磁石前駆体には要件(a)〜(c)を満たす粗面化構造が形成されていた。
【0193】
実施例1(
図3(a)〜(c))の粗面化構造は、次の断面構造を含んでいた。すなわち粗面化構造が形成されていない面を基準面としたとき、厚さ方向の断面形状が、前記基準面よりも盛り上がっている部分と溝が形成されている部分が混在されているものであった。H1/H2は0.2であった。
【0194】
盛り上がり部分の少なくとも一部が、先端部の一部がフック形状に変形した部分を有しており、先端部の一部がリング形状に変形した部分は不完全なリングであった。さらに溝部の少なくとも一部には、溝部の対向する内壁面同士が接続された内側ブリッジ部(
図3(b)中、円で囲んだ部分)を有していた。
【0195】
実施例2(
図4(a)〜(c))の粗面化構造は、次の断面構造を含んでいた。すなわち粗面化構造が形成されていない面を基準面としたとき、厚さ方向の断面形状が、前記基準面よりも盛り上がっている部分と溝が形成されている部分が混在されているものであった。H1/H2は0.3であった。
【0196】
盛り上がり部分の少なくとも一部が、先端部の一部がフック形状に変形した部分と先端部の一部がリング形状に変形した部分を有していた。さらに溝部の少なくとも一部には、溝部の対向する内壁面同士が接続された内側ブリッジ部(
図3(b)中、円で囲んだ部分に相当するもの)を有していた。
【0197】
実施例5(
図7(a)〜(c)の粗面化構造は、次の断面構造を含んでいた。すなわち粗面化構造が形成されていない面を基準面としたとき、厚さ方向の断面形状が、前記基準面よりも盛り上がっている部分と溝が形成されている部分が混在されているものであった。H1/H2は0.6であった。
【0198】
盛り上がり部分の少なくとも一部が、先端部の一部がフック形状に変形した部分と先端部の一部がリング形状に変形した部分を有していた。さらに溝部の底面の断面形状は曲面を有しているものであった。
【0199】
図10、
図11のクロス照射による粗面化構造のSEM写真から明らかなとおり、実施例8、9の希土類磁石成形体には要件(a’)〜(c’)を満たす粗面化構造が形成されていた。すなわち実施例8(
図10)、実施例9(
図11)のレーザー光をクロス照射して形成された粗面化構造の凹凸は、格子状の溝部と、前記格子状の溝部で囲まれた多数の島部を含むものであった。
【0200】
実施例8(
図10)には、一部の島部の間に架橋されたブリッジ部が形成されていた。実施例9(
図11)には、一部の島部の間に架橋されたブリッジ部が形成されており、ブリッジ部の割合(単位面積当たりの割合)は、実施例8(
図10)よりも多かった。
【0201】
また表1から明らかなとおり、実施例2、5の粗面化構造が形成された希土類磁石前駆体と樹脂成形体は、高い接合強度の複合成形体にすることができた。
【0202】
比較例1〜3は、
図13、
図14からも確認できるとおり、連続波レーザー光の照射時に試験片の一部が折れていた(表1の中の破壊有り)。
【0203】
実施例10〜13、比較例4
表2に示す種類の原料希土類磁石成形体(10×50×厚さ4mmの平板)の表面に対して、実施例1と同じ連続波レーザー装置を使用して、表2に示す条件でレーザー光を連続照射して粗面化した。
実施例13で得られた粗面化構造を有する希土類磁石前駆体に対して、下記に示す方法および条件で着磁処理した。着磁処理後、いずれも鉄部材により磁力を帯びていることを確認した。
さらに着磁処理された粗面化構造を有する希土類磁石成形体の磁力を測定した。また、粗面化処理されなかった場合の希土類磁石成形体の磁力も合わせて測定して、次式から磁力保持率(%)を求めた。
磁力保持率(%)=粗面化構造を有する希土類磁石成形体の磁力(mT2)/粗面化構造が形成されていない希土類磁石成形体の磁力(mT1)×100
【0204】
(着磁処理方法)
公知の着磁コイルを使用した着磁方法を実施した。
コンデンサーに充電した電荷を瞬間的に放電するコンデンサー式着磁電源装置(パルス式電源)を使用し、着磁コイル内に着磁対象を置いた状態で、着磁コイルに大電流を通電して着磁した。
(磁力測定方法)
磁力を検知するホール素子の入ったプレート上にサンプルを置いて、ガウスメーター(HGM−8300シリーズ;株式会社エーデーエス製造)とパーソナルコンピューターを使用して磁力(mT)を求めた。
【0205】
【表2】
【0206】
実施例10(
図16(a)〜(c))の粗面化構造は、次の断面構造を含んでいた。すなわち粗面化構造が形成されていない面を基準面としたとき、厚さ方向の断面形状が、前記基準面よりも盛り上がっている部分と溝が形成されている部分が混在されているものであった。H1/H2は0.2であった。
【0207】
盛り上がり部分の少なくとも一部が、先端部の一部がリング形状に変形した部分を有していた。さらに溝部の少なくとも一部には、溝部の対向する内壁面同士が接続された内側ブリッジ部(
図3(b)中、円で囲んだ部分に相当するもの)を有していた。
【0208】
実施例11(
図17(a)〜(c))の粗面化構造は、次の断面構造を含んでいた。すなわち粗面化構造が形成されていない面を基準面としたとき、厚さ方向の断面形状が、前記基準面よりも盛り上がっている部分と溝が形成されている部分が混在されているものであった。H1/H2は0.2であった。
【0209】
盛り上がり部分の少なくとも一部が、先端部の一部がリング形状に変形した部分を有していた。さらに溝部の少なくとも一部には、溝部の対向する内壁面同士が接続された内側ブリッジ部(
図3(b)中、円で囲んだ部分に相当するもの)を有していた。
【0210】
実施例12(
図18(a)〜(c))の粗面化構造は、次の断面構造を含んでいた。すなわち粗面化構造が形成されていない面を基準面としたとき、厚さ方向の断面形状が、前記基準面よりも盛り上がっている部分と溝が形成されている部分が混在されているものであった。H1/H2は0.3であった。
【0211】
盛り上がり部分の少なくとも一部が、先端部の一部がフック形状に変形した部分と、先端部の一部がリング形状に変形した部分を有していた。さらに溝部の少なくとも一部には、溝部の対向する内壁面同士が接続された内側ブリッジ部(
図3(b)中、円で囲んだ部分に相当するもの)を有していた。
【0212】
比較例4(
図20(a)〜(c))の粗面化構造は、実施例11〜13の粗面化構造と比べると、かなり崩れた構造であり、試験片の一部も折れていた(表2の中の破壊有り)。
【0213】
実施例14〜19
表3に示す種類の原料希土類磁石成形体およびフェライト磁石成形体(10×50×厚さ4mmの平板)の表面に対して、下記のレーザー装置を使用して、表3に示す条件でパルス波レーザー光を照射して粗面化した。
発振器:IPG−Yb−Fiber Laser;YLP−1−50−30−30−RA
ガルバノミラー:XD30+SCANLAB社HurrySCAN10
集光系:ビームエキスパンダ2倍/fθ=100mm
【0214】
その後、実施例1と同様にして、粗面化構造を有する希土類磁石成形体と樹脂成形体(ガラス繊維を30質量%含有するポリアミド6の成形体)との複合成形体(
図16)を製造した。得られた各複合成形体を使用して、実施例1と同様にして希土類磁石成形体と樹脂成形体の接合強度を測定した。
【0215】
【表3】
【0216】
実施例14(
図22)では、線状凹部と線状凸部が交互に形成されているが、線状凹部は一部が隣接する凸部が一体になって蓋(外側ブリッジ部)が形成され、不連続になっている部分を含んでいた。
【0217】
実施例15(
図23)では、溝(線状溝)が不連続となり、多数の独立した凹部が存在しており、前記凹部の周囲が凸部となっていた。
【0218】
実施例16(
図24)では円形凹部と環状凸部が形成されており、環状凸部の内側から円形凹部内にフック状の突き出し部が形成されていた。さらに隣接する4つの環状凸部で囲まれた凹部を有していた。
【0219】
実施例17(
図25)では、隣接する環状凸部同士は独立しているが、外周壁部から外側に突き出された多数の突起を有していた。隣接する環状凸部の突起同士が互いに接触しているものもあり、さらに隣接する環状凸部の突起同士が接続されているものもあった。
【0220】
実施例18(
図26)は、実施例14に似た粗面化構造であった。
【0221】
実施例19(
図27)では、繰り返し回数が1回と少なく、一方向の溝深さが浅くなったため、明確な島部が形成されていなかった。その結果、一部が不連続な線状凹部と一部が不連続な線状凸部が混在する構造を含んでいた。