(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022100001
(43)【公開日】2022-07-05
(54)【発明の名称】光ファイバ及び光ファイバフィルタ
(51)【国際特許分類】
G02B 6/036 20060101AFI20220628BHJP
G02B 6/02 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
G02B6/036
G02B6/02 416
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020214109
(22)【出願日】2020-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000110309
【氏名又は名称】住友電工オプティフロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【弁理士】
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100190470
【弁理士】
【氏名又は名称】谷澤 恵美
(72)【発明者】
【氏名】長能 重博
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 健美
(72)【発明者】
【氏名】茂原 政一
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 将潔
【テーマコード(参考)】
2H250
【Fターム(参考)】
2H250AB05
2H250AB10
2H250AD14
2H250AD19
2H250AD33
2H250AG14
2H250AG27
2H250AG37
2H250AH36
2H250AH50
(57)【要約】
【課題】波長約1650nm帯の光を確実に反射できると共に、Lバンドの透過損失を更に低減可能な光ファイバ及び光ファイバフィルタを提供する。
【解決手段】
光ファイバ1Aは、シリカ系ガラスからなる光ファイバであって、コア10と、コア10を取り囲む光学クラッド20と、光学クラッド20を取り囲む物理クラッド30と、を備える。光学クラッド20は、コア10を取り囲む第1領域21を有する。コア10及び第1領域21には、感光性材料が添加されている。第1領域21における感光性材料の濃度は、コア10における感光性材料の濃度の30%以上である。波長1310nmにおけるLP
01モードの光強度を感光性材料が添加された領域で積分した値は、光強度を光ファイバの全領域で積分した値の87%以上である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ系ガラスからなる光ファイバであって、
コアと、
前記コアを取り囲む光学クラッドと、
前記光学クラッドを取り囲む物理クラッドと、を備え、
前記光学クラッドは、前記コアを取り囲む第1領域を有し、
前記コア及び前記第1領域には、感光性材料が添加されており、
前記第1領域における前記感光性材料の濃度は、前記コアにおける前記感光性材料の濃度の30%以上であり、
波長1310nmにおけるLP01モードの光強度を前記感光性材料が添加された領域で積分した値は、前記光強度を前記光ファイバの全領域で積分した値の87%以上である、
光ファイバ。
【請求項2】
前記光学クラッドは、前記第1領域を取り囲む第2領域を更に有し、
前記第1領域の屈折率は、前記第2領域の屈折率以上である、
請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項3】
前記第1領域の外径d1と前記コアの外径dCOとの比d1/dCOは、1.5以上3.0以下である、
請求項2に記載の光ファイバ。
【請求項4】
前記光学クラッドの外径dCLと前記コアの外径dCOとの比dCL/dCOは、2.5以上4.5以下である、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の光ファイバ。
【請求項5】
前記感光性材料は、GeO2である、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の光ファイバ。
【請求項6】
前記コアと前記第1領域との比屈折率差は、0.36%以上0.41%未満である、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の光ファイバ。
【請求項7】
前記コアは、Fを含む、
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の光ファイバ。
【請求項8】
前記コアのF濃度は、比屈折率を0.01%以上低下させる量である、
請求項7に記載の光ファイバ。
【請求項9】
前記コアは、ステップインデックス型の屈折率分布形状を有する、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の光ファイバ。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の光ファイバの前記コアにおいて長手方向に沿って周期的な屈折率変調が形成された光ファイバフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光ファイバ及び光ファイバフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバグレーティングは、PON(Passive Optical Network)システムで波長選択ターミネーションを行うための監視用フィルタとして活用されている。この用途に用いられる光ファイバグレーティングをTFG(terminal fiber grating)という。更なる大容量伝送を可能にするためには、監視用の波長1650nm帯を中心とした±5nm程度の波長帯域のみを反射させ、この波長帯域以外の波長、例えば、Cバンド(1530nm以上1565nm以下)だけでなく、Lバンド(1565nm以上1625nm以下)でも大容量の伝送を可能にすることが好ましい。
【0003】
特許文献1には、波長約1650nm帯の光を確実に反射できると共に、波長約1520nm帯における透過損失を抑制することができる光ファイバグレーティングが記載されている。この光ファイバグレーティングでは、コアとクラッドとの境界部における光ファイバ径方向の屈折率変化と伝搬モード変化との差を小さくするために、屈折率分布形状が単峰型でα乗とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2019/177114号
【特許文献2】特開2003-004926号公報
【特許文献3】特開平11-119041号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Junji Nishii, et al.,“Ultraviolet-radiation-induced chemical reactions through one- and two-photonabsorption process in GeO2-SiO2 glasses”, OPTICS LETTERS, Vol.20, No.10, May15, 1995, pp.1184-1186
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の光ファイバグレーティングでは、Lバンドにおける透過損失の低減が不十分である。
【0007】
そこで、波長約1650nm帯の光を確実に反射できると共に、Lバンドの透過損失を更に低減可能な光ファイバ及び光ファイバグレーティングを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一実施形態に係る光ファイバは、シリカ系ガラスからなる光ファイバであって、コアと、コアを取り囲む光学クラッドと、光学クラッドを取り囲む物理クラッドと、を備え、光学クラッドは、コアを取り囲む第1領域を有し、コア及び第1領域には、感光性材料が添加されており、第1領域における感光性材料の濃度は、コアにおける感光性材料の濃度の30%以上であり、波長1310nmにおけるLP01モードの光強度を感光性材料が添加された領域で積分した値は、光強度を光ファイバの全領域で積分した値の87%以上である。
【0009】
本開示の一実施形態に係る光ファイバフィルタは、光ファイバのコアにおいて長手方向に沿って周期的な屈折率変調が形成された光ファイバフィルタである。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、波長約1650nm帯の光を確実に反射できると共に、Lバンドの透過損失を更に低減可能な光ファイバ及び光ファイバフィルタを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、比較例に係る光ファイバグレーティングの透過特性を示す図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態に係る光ファイバの屈折率分布を示す図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態に係る光ファイバグレーティングの透過特性を示す図である。
【
図5】
図5は、第2実施形態に係る光ファイバの屈折率分布を示す図である。
【
図6】
図6は、第3実施形態に係る光ファイバの屈折率分布を示す図である。
【
図7】
図7は、第4実施形態に係る光ファイバの屈折率分布を示す図である。
【
図8】
図8は、第5実施形態に係る光ファイバの屈折率分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。一実施形態に係る光ファイバは、シリカ系ガラスからなる光ファイバであって、コアと、コアを取り囲む光学クラッドと、光学クラッドを取り囲む物理クラッドと、を備え、光学クラッドは、コアを取り囲む第1領域を有し、コア及び第1領域には、感光性材料が添加されており、第1領域における感光性材料の濃度は、コアにおける感光性材料の濃度の30%以上であり、波長1310nmにおけるLP01モードの光強度を感光性材料が添加された領域で積分した値は、光強度を光ファイバの全領域で積分した値の87%以上である。
【0013】
上記実施態様に係る光ファイバでは、波長1310nmにおけるLP01モードの光強度分布と、感光性材料が添加された領域とがオーバーラップする割合が高い。このため、この光ファイバから製造された光ファイバグレーティングでは、波長約1650nm帯の光を確実に反射できると共に、Lバンドの透過損失を更に低減することができる。
【0014】
光学クラッドは、第1領域を取り囲む第2領域を更に有し、第1領域の屈折率は、第2領域の屈折率以上であってもよい。この場合、第2領域によりトレンチ構造を形成することができる。
【0015】
第1領域の外径d1とコアの外径dCOとの比d1/dCOは、1.5以上3.0以下であってもよい。この場合、紫外線照射により屈折率が増加する第1領域が増大しファイバ断面内の屈折率分布の平坦性が崩れて波長に対する透過特性が劣化することと、製造コストの増加を避けることができる。
【0016】
光学クラッドの外径dCLとコアの外径dCOとの比dCL/dCOは、2.5以上4.5以下であってもよい。この場合、MCVDやPCVD等の内付けで製造される部分の割合を抑えることができる。
【0017】
感光性材料は、GeO2であってもよい。
【0018】
コアと第1領域との比屈折率差は、0.36%以上0.41%未満であってもよい。
【0019】
コアは、Fを含んでもよい。この場合、コアにおける感光性材料の添加量に対する自由度を高めることができる。
【0020】
コアのF濃度は、比屈折率を0.01%以上低下させる量であってもよい。この場合、コア10に対するGeの添加量を、比屈折率換算で0.01%以上増やすことができる。
【0021】
コアは、ステップインデックス型の屈折率分布形状を有してもよい。この場合、SMFとの結合に有利である。
【0022】
一実施形態に係る光ファイバフィルタは、上記光ファイバのコアにおいて長手方向に沿って周期的な屈折率変調が形成された光ファイバフィルタである。
【0023】
上記実施態様に係る光ファイバフィルタでは、上記光ファイバを用いているので、波長約1650nm帯の光を確実に反射できると共に、Lバンドの透過損失を更に低減可能である。
【0024】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の光ファイバの具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0025】
光ファイバフィルタとしての光ファイバグレーティングの製造方法は、例えば特許文献2,3に記載されている。コア及びクラッドの双方またはいずれか一方が感光性材料を含むシリカ系ガラスからなる光ファイバに対し、屈折率を上昇させ得る特定波長の紫外光を照射することにより、感光性材料を含むシリカ系ガラスの屈折率を大きくすることができる。特定波長の紫外光としては、例えばアルゴンイオンレーザ光の2倍波(波長244nm)等が用いられる。所定周期の屈折率変調グレーティングを光ファイバ内に書き込む方法には、グレーティング位相マスクを用いた±1次回折光による露光、UVレーザ光直接露光、2光束干渉露光がある。その中でも、位相マスクを用いた方法は、同一特性のものを再現性よく作製することができ、他の手法に比べアライメントが比較的容易であることが、利点として挙げられる。
【0026】
ファイバグレーティングの代表的なプロファイルは、ステップインデックスである。コアのみに感光性材料が添加されており、周期的な屈折率変調は、コアのみとなる。感光性材料としては、GeO2が代表的である(例えば非特許文献1参照)。
【0027】
図1は、比較例に係る光ファイバグレーティングの透過特性を示す図である。
図2は、
図1の一部拡大図である。
図1及び
図2の横軸は波長λ(nm)を示し、縦軸は透過率(dB)を示す。
図2では、縦軸が拡大されている。比較例に係る光ファイバグレーティングは、ステップインデックス型の屈折率分布を有するコアと、コアのまわりを囲むクラッドと、を有する。感光性材料は、コアのみに添加されており、コアのみに周期的な屈折率変調が形成されている。光透過阻止帯域の波長は、1640nm以上1655nm以下である。この光透過阻止帯域において要求されるデシベル表示の透過率は、-30.0dB以下である。
【0028】
比較例に係る光ファイバグレーティングでは、監視用の波長帯域に所望の反射を形成することができるものの、その透過率が減少した領域が短波長側に裾を引いた特性となる。よって、Lバンドの長波長端(1625nm)の付近において、光ファイバグレーティングの損失が無視できない程度の大きさとなっている。Lバンド帯域の大容量通信を実現するためには、1625nm帯の透過率を-1.0dBよりも大きくする必要がある。比較例において、このような裾引きが生じる理由は、グレーティングが形成された領域の長手方向においてコアのみ屈折率が増加した断面と屈折率が変化していない断面とが存在しており、これらの断面でLP01モード(基底モード)の形状が異なるためである。
【0029】
透過損失を抑えるためには、グレーティングが形成された領域とグレーティングが形成されていない領域とで、LP01モードの光強度分布を等しくする必要がある。そのためには、ファイバ断面において、LP01モードの光が感じる領域の全体、つまり、LP01モードの光強度が存在する領域の全体にグレーティングを形成する必要がある。
【0030】
特許文献1に記載の光ファイバグレーティングでは、コアに加えてコアに隣接する内クラッドにも感光性材料が添加されている。しかしながら、内クラッドにおける感光性材料の濃度は、コアにおける感光性材料の濃度よりも低い。したがって、紫外線照射による内クラッドの屈折率増加は、コアの屈折率増加よりも小さい。その結果、屈折率プロファイルは、グレーティングが形成された領域の長手方向において屈折率が増加した断面と屈折率が変化していない断面とで異なる。よって、透過損失を抑えるためには、内クラッドとコアとで、感光性材料の濃度を同等にすることも必要である。
【0031】
(第1実施形態)
図3は、第1実施形態に係る光ファイバ1Aの屈折率分布を示す図である。
図3の横軸は、光ファイバ1Aの径方向位置を示す。
図3の縦軸は、光ファイバ1Aの比屈折率を示す。光ファイバ1Aの比屈折率は、純シリカの屈折率を基準として規格化された屈折率である。
【0032】
図3に示されるように、光ファイバ1Aは、コア10と、コア10を取り囲む光学クラッド20と、光学クラッド20を取り囲む物理クラッド30と、を備えている。光ファイバ1Aにおけるコア10は、ステップインデックス型の屈折率分布形状を有している。光ファイバ1Aは、シリカ系ガラスからなる。
【0033】
光学クラッド20は、コア10を取り囲むリング状の第1領域21を有している。本実施形態では、光学クラッド20の全体が第1領域21からなっている。第1領域21は、コア10の外周面と接して設けられている。第1領域21は、コア10と隣り合っている。本実施形態では、第1領域21の外径d1は、光学クラッド20の外径dCLと等しい。外径dCLとコア10の外径dCOとの比dCL/dCOは、2.5以上4.5以下である。
【0034】
物理クラッド30は、光学クラッド20の外周面と接して設けられている。物理クラッド30は、光学クラッド20と隣り合っている。物理クラッド30は、例えば、不純物を実質的に含まない。物理クラッド30における不純物濃度は、10ppm以下である。
【0035】
コア10及び第1領域21には、感光性材料が添加されている。すなわち、コア10及び第1領域21は、感光性材料を含んでいる。感光性材料としては、例えばGe、Bが挙げられ、GeO
2、B
2O
3として添加されている。本実施形態では、感光性材料はGeである。第1領域21には、フッ素(F)が更に添加されている。すなわち、第1領域21は、Fを更に含んでいる。コア10には、Fが添加されていない。
図3には、光ファイバ1AにおけるGe濃度及びF濃度が比屈折率換算で示されている。
図3では、Ge濃度が一点鎖線で示され、F濃度が二点鎖線で示されている。
【0036】
第1領域21における感光性材料の濃度は、コア10における感光性材料の濃度の30%以上である。本実施形態では、第1領域21におけるGe濃度は、コア10におけるGe濃度と同等であり、比屈折率換算でΔGe1st.である。したがって、第1領域21におけるGe濃度は、コア10におけるGe濃度の100%である。第1領域21は、Fを含んでいるので、第1領域21の比屈折率は、コア10の比屈折率よりも低い。コア10と第1領域21との比屈折率差(すなわち、コア10の比屈折率と第1領域21の比屈折率との差)は、0.36%以上0.41%未満である。コア10の比屈折率は、例えば、0.37%以上0.46%未満である。第1領域21の比屈折率は、例えば、0.01%以上0.05%未満である。
【0037】
第1領域21におけるF濃度を比屈折率換算したΔFmax.は、絶対値で比較すると、ΔGe1st.よりも大きい。よって、第1領域21の屈折率は、物理クラッド30の屈折率よりも低い。このように、光ファイバ1Aでは、第1領域21にGeを相殺して余りあるFが添加されているので、トレンチ構造が付与されたステップインデックス型の屈折率分布を実現することができる。トレンチ幅(トレンチの径方向の厚さ)は、第1領域21の幅(第1領域21の径方向の厚さ)と等しい。トレンチ幅は、5μm以上10μm以下である。ステップインデックス型は、SMFとの結合に有利であり、接続損を抑制できる。また、カットオフ波長(λc)の制御が困難となることが避けられる。トレンチ構造によれば、耐曲げ損失が向上する。
【0038】
図3では、波長1310nmにおけるLP
01モードの光強度I(r)が破線で示されている。光強度I(r)を感光性材料が添加された領域で積分した値V1は、光強度I(r)を光ファイバ1Aの全領域で積分した値V2の87%以上である。本実施形態では、V1はV2の99%以上である。すなわち、光強度I(r)の積分値は、Ge添加領域だけで全体の99%以上となる。V1とV2との比Vは、以下の式で表される。
【0039】
【0040】
感光性材料は、コア10及び第1領域21に添加されているので、V1は、光強度I(r)をコア10及び第1領域21で積分した値に等しい。より具体的には、V1は、径方向位置が-d1≦r≦d1の範囲である径方向領域で光強度I(r)を積分した値に等しい。比Vは、LP01モードの光が感じる領域(LP01モードの領域)と感光性材料が添加された領域(感光性領域)とがオーバーラップする割合を示す。
【0041】
図4は、第1実施形態に係る光ファイバグレーティングの透過特性を示す図である。
図4には、比較のため、上記比較例に係る光ファイバグレーティングの透過特性が一点鎖線で示されている。第1実施形態に係る光ファイバグレーティングは、光ファイバ1Aのコア10において長手方向に沿って周期的な屈折率変調が形成されたものである。屈折率変調の周期は、長手方向に連続的に変化していてもよい。
【0042】
図4に示されるように、第1実施形態に係る光ファイバグレーティングの透過率は、光透過阻止帯域(1640nm以上1655nm以下)から1630nm帯に向けて急峻に立ち上がり、1625nm以下(少なくとも1550nm以上)の波長帯域での透過率は、-0.2dB以上にまで大きくなっている。
【0043】
図4の結果から、1625nm以下の帯域において、低ロス化、かつ、ロスの平坦化を図るには、比Vを増大させると共に、感光性材料の添加量を感光性領域において均一化することが極めて有効であると言える。上記比較例では、比Vが86%であることから、比Vは87%以上にすることが重要である。ステップインデックス型の光ファイバ1Aにおいて、比Vを87%以上にするには、コア10の周囲にもGeを添加する必要がある。
【0044】
感光性材料の添加量を感光性領域において均一化するには、感光性材料の添加量の最大値をΔGe1st.としたとき、最小値をΔGe1st.×30%以上とすることが有効であり、ΔGe1st.×60%以上とすることがより有効であり、ΔGe1st.×80%以上とすることが最も有効である。本実施形態では、最小値は、ΔGe1st.×99%以上である。
【0045】
以上説明したように、光ファイバ1Aでは、値V1は値V2の87%以上であり、波長1310nmにおけるLP01モードの光強度I(r)と、感光性材料が添加された領域とがオーバーラップする割合が高い。このため、光ファイバ1Aから製造された光ファイバグレーティングでは、波長約1650nm帯の光を確実に反射できると共に、Lバンドの透過損失を更に低減することができる。光ファイバ1Aでは、モードフィールド径(MFD)及びλcを設計範囲に収めながら、1625nm帯の透過率を-1.0dBよりも大きくすることができる。
【0046】
光ファイバ1Aでは、コア10と第1領域21との比屈折率差は、0.36%以上0.41%未満に調整されている。
【0047】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る光ファイバ1Bについて、光ファイバ1A(
図3参照)との相違点を中心に説明する。
【0048】
図5は、第2実施形態に係る光ファイバ1Bの屈折率分布を示す図である。
図5に示されるように、光ファイバ1Bは、トレンチ構造が付与されていないステップインデックス型の屈折率分布形状を有している。光ファイバ1Bでは、光学クラッド20が第1領域21を取り囲むリング状の第2領域22を更に有している。第1領域21には、感光性材料としてGeが添加されているのに対し、第2領域22には、感光性材料が添加されていない。すなわち、第2領域22は、感光性材料を含まない。第2領域22における感光性材料の濃度は、比屈折率換算で0.01%以下である。
【0049】
外径dCLと外径dCOとの比dCL/dCOは、2.5以上4.5以下である。比dCL/dCOは、3.0以上4.0以下が更に有効である。
【0050】
本実施形態では、外径d1と外径dCOとの比d1/dCOは、1.5以上3.0以下である。第2領域22の外径d2は、外径dCLと等しい。
【0051】
第1領域21の屈折率は、第2領域22の屈折率以上である。本実施形態では、第1領域21の屈折率は、第2領域22の屈折率と同等である。第2領域22の屈折率は、物理クラッド30の屈折率と同等である。第1領域21には、Geが比屈折率換算でΔGe2nd.添加されている。ΔGe1st.は、感光性領域における感光性材料の添加量の最大値であり、ΔGe2nd.は、感光性領域における感光性材料の添加量の最小値である。ΔGe2nd.は、ΔGe1st.×30%以上であることが有効であり、ΔGe1st.×60%以上であることがより有効であり、ΔGe1st.×80%以上であることが最も有効である。ΔGe2nd.は、感光性として十分に機能する添加量であり、例えば、0.15%以上である(ΔGe2nd.≧0.15%)。
【0052】
第1領域21には、Fが比屈折率換算でΔF1st.添加されている。ΔGe2nd.とΔF1st.とは、絶対値で比較すると、互いに同等であるため、相殺し合う。よって、第1領域21の比屈折率は、第2領域22の比屈折率及び物理クラッド30の比屈折率と同等である。これにより、光ファイバ1Bでは、ステップインデックス型の屈折率分布を実現することができる。上述のように、ステップインデックス型は、SMFとの結合に有利である。また、λcの制御が困難となることが避けられる。仮に第1領域21にFが添加されていない場合、コア10の周囲に比屈折率ΔGe2nd.であるリング状の領域が幅w1で存在することになるので、λcの制御が困難である。
【0053】
以上説明したように、光ファイバ1Bにおいても、値V1は値V2の87%以上である。このため、光ファイバ1Bから製造された光ファイバグレーティングにおいても、波長約1650nm帯の光を確実に反射できると共に、Lバンドにおける透過損失を低減することができる。光ファイバ1Bでは、トレンチ構造が付与されていないので、トレンチ構造にかかる製造コストを削減できる。例えば、製品長が短く、曲げ損失を考慮する必要がない場合は、光ファイバ1Bが有効である。
【0054】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態に係る光ファイバ1Cについて、光ファイバ1B(
図5参照)との相違点を中心に説明する。
【0055】
図6は、第3実施形態に係る光ファイバ1Cの屈折率分布を示す図である。
図6に示されるように、光ファイバ1Cでは、コア10のGe濃度は、光ファイバ1Bにおけるコア10のGe濃度よりも高く、比屈折率換算でΔGe
max.である。光ファイバ1Cでは、コア10が所望の比屈折率ΔGe
1st.を有するように、コア10がFを含んでいる。コア10におけるF濃度は、比屈折率換算でΔF
2nd.である。つまり、ΔGe
max.及びΔF
2nd.の絶対値の差がΔGe
1st.である。ΔF
2nd.は、例えば、-0.05%以上-0.01%以下である。
【0056】
波長約1650nm帯の光の透過率を-25dB以下にするためには、ΔGemax.は0.41%以上(ΔGemax.≧0.41%)とすることが有効である。ΔF2nd.は、コア10の比屈折率が0.36%以上0.41%未満の範囲となるように調整される。例えば、ΔGemax=0.41%の場合、ΔF2nd.は、-0.05%以上-0.01%以下である。
【0057】
光ファイバ1Cにおいても、値V1は値V2の87%以上である。このため、光ファイバ1Cから製造された光ファイバグレーティングにおいても、波長約1650nm帯の光を確実に反射できると共に、Lバンドにおける透過損失を低減することができる。
【0058】
光ファイバ1Cとは異なり、光ファイバ1A,1Bでは、コア10にFが添加されていない。したがって、Ge添加量を純シリカに対する比屈折率に換算したΔGe1st.がコア10の比屈折率に直接寄与する。MFD及びλcを設計範囲に収めるためには、無作為にコア10の比屈折率を増大させることができない。よって、光ファイバ1A,1Bでは、コア10におけるGe添加量に対する自由度が低い。これに対し、光ファイバ1Cでは、コア10にFが添加されているので、Ge添加量の自由度を高めつつ、ファイバ製造コストの低減化を図ることができる。
【0059】
光ファイバ1Cでは、ΔF2nd.は、-0.05%以上-0.01%以下である。このため、コア10に対するGeの添加量を、ΔF2nd.に相当する分だけ増やすことができる。光ファイバ1Cでは、光ファイバ1Bと同様にトレンチ構造が付与されていないので、トレンチ構造にかかる製造コストを削減できる。光ファイバ1Cにおいても、比d1/dCOは、1.5以上3.0以下である。外径dCLと外径dCOとの比dCL/dCOは、2.5以上4.5以下である。
【0060】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態に係る光ファイバ1Dについて、光ファイバ1C(
図6参照)との相違点を中心に説明する。
【0061】
図7は、第4実施形態に係る光ファイバ1Dの屈折率分布を示す図である。
図7に示されるように、光ファイバ1Dでは、第2領域22はFを含んでいる。第2領域22におけるF濃度は、比屈折率換算でΔF
Tである。これにより、第2領域22の屈折率は、第1領域21の屈折率及び物理クラッド30の屈折率よりも低い。ΔF
Tは、例えば、-0.40%以上-0.20%以下である。光ファイバ1Dでは、このように第2領域22にFが添加されているので、トレンチ構造が付与されたステップインデックス型の屈折率分布を実現することができる。第2領域22の幅w
2は、トレンチ幅である。トレンチ幅は、3.0μm以上5.5μm以下である。
【0062】
光ファイバ1Dにおいても、値V1は値V2の87%以上である。このため、光ファイバ1Dから製造された光ファイバグレーティングにおいても、波長約1650nm帯の光を確実に反射できると共に、Lバンドにおける透過損失を低減することができる。光ファイバ1Dは、ステップインデックス型の屈折率分布を有するので、SMFとの接続及び光学特性が良好である。光ファイバ1Dはトレンチ構造を有するので、耐曲げ損失を向上させることができる。光ファイバ1Dにおいても、比d1/dCOは、1.5以上3.0以下である。外径dCLと外径dCOとの比dCL/dCOは、2.5以上4.5以下である。
【0063】
(第5実施形態)
次に、第5実施形態に係る光ファイバ1Eについて、光ファイバ1D(
図7参照)との相違点を中心に説明する。
【0064】
図8は、第5実施形態に係る光ファイバ1Eの屈折率分布を示す図である。
図8に示されるように、光ファイバ1Eでは、第1領域21はコア10と同等のGeを含む。すなわち、第1領域21におけるGe濃度は、コア10におけるGe濃度と同等であり、比屈折率換算でΔGe
max.である。このように、コア10及び第1領域21に対し、屈折率増大幅が互いに同等となるようにGeを添加し、Ge濃度分布をコア10及び第1領域21において平坦化させる。例えば、コア10の比屈折率が0.41%の場合、第1領域21の比屈折率も0.41%である。
【0065】
第1領域21には、Fが比屈折率換算でΔFmax.添加されている。ΔGemax.とΔFmax.とは、絶対値で比較すると、互いに同等であるため、相殺し合う。よって、第1領域21の比屈折率は、物理クラッド30の比屈折率と同等である。光ファイバ1Eでは、光ファイバ1Dと同様に第2領域22がFを含むので、トレンチ構造が付与されたステップインデックス型の屈折率分布を実現することができる。第1領域21のF濃度は、第2領域22のF濃度よりも高く、ΔFmax.<ΔFTである。
【0066】
光ファイバ1Eにおいても、値V1は値V2の87%以上である。このため、光ファイバ1Eから製造された光ファイバグレーティングにおいても、波長約1650nm帯の光を確実に反射できると共に、Lバンドにおける透過損失を低減することができる。光ファイバ1Eは、ステップインデックス型の屈折率分布を有するので、SMFとの接続及び光学特性が良好である。光ファイバ1Eはトレンチ構造を有するので、耐曲げ損失を向上させることができる。光ファイバ1Eにおいても、比d1/dCOは、1.5以上3.0以下である。外径dCLと外径dCOとの比dCL/dCOは、2.5以上4.5以下である。
【0067】
上述した各実施形態では、屈折率分布がステップインデックス型であるが、これに限られず、例えば、単峰型であってもよい。屈折率分布がステップインデックス型ではない場合、半径の関数である屈折率n(r)を半径で微分した値が最小となる位置をコア10及び光学クラッド20との境界とする。
【符号の説明】
【0068】
1A,1B、1C,1D,1E…光ファイバ
10…コア
20…光学クラッド
21…第1領域
22…第2領域
30…物理クラッド