(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022100018
(43)【公開日】2022-07-05
(54)【発明の名称】極低温冷凍機および熱スイッチ
(51)【国際特許分類】
F25B 9/00 20060101AFI20220628BHJP
H01L 39/04 20060101ALI20220628BHJP
H01F 6/04 20060101ALN20220628BHJP
【FI】
F25B9/00 F
H01L39/04
H01F6/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020214138
(22)【出願日】2020-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】出村 健太
【テーマコード(参考)】
4M114
【Fターム(参考)】
4M114AA17
4M114BB04
4M114CC03
4M114CC16
4M114DA02
4M114DA12
4M114DA33
4M114DA34
(57)【要約】
【課題】極低温環境において実用に適する熱スイッチ、およびそうした熱スイッチを組み込んだ極低温冷凍機を提供する。
【解決手段】極低温冷凍機20は、被冷却物を冷却するための第1冷却ステージ22aと、第1冷却ステージ22aと被冷却物のうち一方と接続される第1伝熱部材51と、第1冷却ステージ22aと被冷却物のうち他方と柔軟伝熱部材53を介して接続され、第1伝熱部材51に対して移動可能に配置される第2伝熱部材52と、弾性的に圧縮可能な第1弾性部材54と、第1伝熱部材51に取り付けられた第1弾性部材ホルダ55であって、第2伝熱部材52が弾性的に圧縮された第1弾性部材54によって第1伝熱部材51に押し当てられるように、第2伝熱部材52と弾性的に圧縮された第1弾性部材54を第1伝熱部材51との間に保持する第1弾性部材ホルダ55と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被冷却物を冷却するための冷却ステージと、
前記冷却ステージと前記被冷却物のうち一方と接続される第1伝熱部材と、
前記冷却ステージと前記被冷却物のうち他方と柔軟伝熱部材を介して接続され、前記第1伝熱部材に対して移動可能に配置される第2伝熱部材であって、前記第1伝熱部材と接触するとき前記冷却ステージと前記被冷却物が熱的に結合され、前記第1伝熱部材から離れるとき前記冷却ステージと前記被冷却物の熱的な結合が解除される第2伝熱部材と、
弾性的に圧縮可能な弾性部材と、
前記第1伝熱部材に取り付けられた弾性部材ホルダであって、前記第2伝熱部材が弾性的に圧縮された前記弾性部材によって前記第1伝熱部材に押し当てられるように、前記第2伝熱部材と弾性的に圧縮された前記弾性部材を前記第1伝熱部材との間に保持する弾性部材ホルダと、を備えることを特徴とする極低温冷凍機。
【請求項2】
前記第1伝熱部材と前記第2伝熱部材が接触するとき前記第1伝熱部材および前記第2伝熱部材から離れて配置される操作部材であって、前記第2伝熱部材に対し係合可能に設けられ、前記第2伝熱部材と係合するとき前記弾性部材を弾性的にさらに圧縮しながら前記第2伝熱部材を前記第1伝熱部材から引き離すように前記第2伝熱部材とともに移動可能な操作部材をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の極低温冷凍機。
【請求項3】
前記弾性部材は、前記第2伝熱部材と前記弾性部材ホルダの間に挟み込まれた皿ばねであることを特徴とする請求項1または2に記載の極低温冷凍機。
【請求項4】
前記第2伝熱部材は、前記弾性部材との接触面に補強材を有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の極低温冷凍機。
【請求項5】
前記第1伝熱部材、前記第2伝熱部材、前記弾性部材、および前記弾性部材ホルダは、環状であり、前記極低温冷凍機を囲むように配置されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の極低温冷凍機。
【請求項6】
前記極低温冷凍機は、前記冷却ステージとしての第1冷却ステージと、前記第1冷却ステージよりも低温に冷却される第2冷却ステージとを備え、
前記第1伝熱部材、前記第2伝熱部材、前記弾性部材、および前記弾性部材ホルダは、前記第1冷却ステージと前記第2冷却ステージの間に配置されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の極低温冷凍機。
【請求項7】
前記極低温冷凍機は、前記冷却ステージとしての第1冷却ステージと、前記第1冷却ステージよりも低温に冷却される第2冷却ステージとを備え、
前記第2冷却ステージとそれによって冷却される被冷却物のうち一方と接続される第3伝熱部材と、
前記第2冷却ステージと前記被冷却物のうち他方と柔軟伝熱部材を介して接続され、前記第3伝熱部材に対して移動可能に配置される第4伝熱部材であって、前記第3伝熱部材と接触するとき前記第2冷却ステージと前記被冷却物が熱的に結合され、前記第3伝熱部材から離れるとき前記第2冷却ステージと前記被冷却物の熱的な結合が解除される第4伝熱部材と、
弾性的に圧縮可能な第2弾性部材と、
前記第3伝熱部材に取り付けられた第2弾性部材ホルダであって、前記第4伝熱部材が弾性的に圧縮された前記第2弾性部材によって前記第3伝熱部材に押し当てられるように、前記第4伝熱部材と弾性的に圧縮された前記第2弾性部材を前記第3伝熱部材との間に保持する第2弾性部材ホルダと、をさらに備えることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の極低温冷凍機。
【請求項8】
前記第3伝熱部材と前記第4伝熱部材が接触するとき前記第3伝熱部材および前記第4伝熱部材から離れて配置される第2操作部材であって、前記第4伝熱部材に対し係合可能に設けられ、前記第4伝熱部材と係合するとき前記第2弾性部材を弾性的にさらに圧縮しながら前記第4伝熱部材を前記第3伝熱部材から引き離すように前記第4伝熱部材とともに移動可能な第2操作部材をさらに備え、
前記第2操作部材は、前記第2伝熱部材から前記第4伝熱部材に向けて延びていることを特徴とする請求項7に記載の極低温冷凍機。
【請求項9】
極低温冷凍機の冷却ステージから被冷却物への伝熱経路に設置される熱スイッチであって、
前記冷却ステージと前記被冷却物のうち一方と接続される第1伝熱部材と、
前記冷却ステージと前記被冷却物のうち他方と柔軟伝熱部材を介して接続され、前記第1伝熱部材に対して移動可能に配置される第2伝熱部材であって、前記第1伝熱部材と接触するとき前記冷却ステージと前記被冷却物が熱的に結合され、前記第1伝熱部材から離れるとき前記冷却ステージと前記被冷却物の熱的な結合が解除される第2伝熱部材と、
弾性的に圧縮可能な弾性部材と、
前記第1伝熱部材に取り付けられた弾性部材ホルダであって、前記第2伝熱部材が弾性的に圧縮された前記弾性部材によって前記第1伝熱部材に押し当てられるように、前記第2伝熱部材と弾性的に圧縮された前記弾性部材を前記第1伝熱部材との間に保持する弾性部材ホルダと、を備えることを特徴とする熱スイッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱スイッチを組み込んだ極低温冷凍機、および熱スイッチに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱スイッチを極低温冷凍機から超伝導コイルへの伝熱路に設けることが知られている。熱スイッチ作動用の加圧装置が、超伝導コイルを収容する真空容器の外部に設けられ、真空容器を貫通して熱スイッチの接点へと延びている。加圧装置からの加圧により熱スイッチが閉じられ、それにより極低温冷凍機が超伝導コイルと熱接続される。加圧装置を解放することにより熱スイッチが開かれ、極低温冷凍機と超伝導コイルの熱接続が解除される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の熱スイッチは、実際のところ、熱スイッチの接点での熱接触が不十分となり、熱スイッチを介した熱抵抗が大きくなり、その結果、熱スイッチの両側で温度差が大きくなりがちである。熱スイッチでの温度差が大きければ、極低温冷凍機が提供できる冷却温度に比べて超伝導コイルなど冷却対象の冷却温度はこの温度差の分だけ高くなってしまう。所望の冷却温度に冷却対象を冷却するために、より大きい冷凍能力をもつ大型の極低温冷凍機を必要とすることになるかもしれない。また、上述の熱スイッチ用の加圧装置は、真空容器の外から真空容器内へと延びているため、真空装置のスペースを比較的大きく占有し、望ましくない。さらに、もし加圧装置が故障した場合には押し付け力が無くなり、熱スイッチが解除され、冷却不能となるリスクもある。このような様々な不都合から、上述の熱スイッチは実用にあまり適しない。
【0005】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、極低温環境において実用に適する熱スイッチ、およびそうした熱スイッチを組み込んだ極低温冷凍機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によると、極低温冷凍機は、被冷却物を冷却するための冷却ステージと、冷却ステージと被冷却物のうち一方と接続される第1伝熱部材と、冷却ステージと被冷却物のうち他方と柔軟伝熱部材を介して接続され、第1伝熱部材に対して移動可能に配置される第2伝熱部材であって、第1伝熱部材と接触するとき冷却ステージと被冷却物が熱的に結合され、第1伝熱部材から離れるとき冷却ステージと被冷却物の熱的な結合が解除される第2伝熱部材と、弾性的に圧縮可能な弾性部材と、第1伝熱部材に取り付けられた弾性部材ホルダであって、第2伝熱部材が弾性的に圧縮された弾性部材によって第1伝熱部材に押し当てられるように、第2伝熱部材と弾性的に圧縮された弾性部材を第1伝熱部材との間に保持する弾性部材ホルダと、を備える。
【0007】
本発明のある態様によると、極低温冷凍機の冷却ステージから被冷却物への伝熱経路に設置される熱スイッチが提供される。熱スイッチは、冷却ステージと被冷却物のうち一方と接続される第1伝熱部材と、冷却ステージと被冷却物のうち他方と柔軟伝熱部材を介して接続され、第1伝熱部材に対して移動可能に配置される第2伝熱部材であって、第1伝熱部材と接触するとき冷却ステージと被冷却物が熱的に結合され、第1伝熱部材から離れるとき冷却ステージと被冷却物の熱的な結合が解除される第2伝熱部材と、弾性的に圧縮可能な弾性部材と、第1伝熱部材に取り付けられた弾性部材ホルダであって、第2伝熱部材が弾性的に圧縮された弾性部材によって第1伝熱部材に押し当てられるように、第2伝熱部材と弾性的に圧縮された弾性部材を第1伝熱部材との間に保持する弾性部材ホルダと、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、極低温環境において実用に適する熱スイッチ、およびそうした熱スイッチを組み込んだ極低温冷凍機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態に係る極低温装置を模式的に示す図である。
【
図2】実施の形態に係る極低温冷凍機を真空容器の一部とともに模式的に示す斜視図である。
【
図3】
図3(a)、
図3(b)、
図3(c)、および
図3(d)は、それぞれ、実施の形態に係る第1伝熱部材、第2伝熱部材、第1弾性部材、および第1弾性部材ホルダを模式的に示す上面図である。
【
図4】
図1に示される極低温装置のA-A線断面を模式的に示す図である。
【
図5】実施の形態に係る第1操作機構のオンオフ切替動作を示す模式図である。
【
図6】実施の形態に係る第1熱スイッチ構造のオンオフ切替動作を示す模式図である。
【
図7】実施の形態に係る状態表示部の一例を示す模式図である。
【
図8】実施の形態に係り、第2伝熱部材の他の例を示す一部切り欠き斜視図である。
【
図9】実施の形態に係り、第1熱スイッチ構造の他の例を示す一部切り欠き斜視図である。
【
図10】実施の形態に係り、第2操作機構の他の例を示す斜視図である。
【
図11】実施の形態に係り、極低温冷凍機の他の例を模式的に示す図である。
【
図12】実施の形態に係り、第1熱スイッチ構造の他の例を模式的に示す図である。
【
図13】実施の形態に係り、第1熱スイッチ構造の他の例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。説明および図面において同一または同等の構成要素、部材、処理には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施の形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0011】
図1は、実施の形態に係る極低温装置を模式的に示す図である。
図2は、実施の形態に係る極低温冷凍機を真空容器の一部とともに模式的に示す斜視図である。
【0012】
極低温装置10は、被冷却物の一例としての超伝導コイル12を室温から極低温に冷却するとともに、超伝導コイル12の使用中、超伝導コイル12を極低温に維持するように構成される。超伝導コイル12は、例えば単結晶引き上げ装置、NMRシステム、MRIシステム、サイクロトロンなどの加速器、核融合システムなどの高エネルギー物理システム、またはその他の高磁場利用機器(図示せず)の磁場源として高磁場利用機器に搭載され、その機器に必要とされる高磁場を発生させることができる。超伝導コイル12は、超伝導転移温度以下の極低温に冷却された状態で超伝導コイル12に通電することにより強力な磁場を発生するように構成される。
【0013】
極低温装置10は、極低温冷凍機20と、真空容器30と、輻射熱シールド40とを備える。この実施の形態では、極低温装置10は、超伝導コイル12を液体ヘリウムなどの極低温液体冷媒に浸して冷却する浸漬冷却式ではなく、超伝導コイル12を極低温冷凍機20で直接冷却する伝導冷却式として構成される。極低温冷凍機20は、超伝導コイル12を伝導冷却により冷却するように超伝導コイル12と熱的に結合されている。なお、
図1では例として、1台の極低温冷凍機20を示しているが、例えば超伝導コイル12が大型の場合など、必要に応じて、極低温装置10は、一つの同じ被冷却物を冷却する複数台の極低温冷凍機20を備えてもよい。
【0014】
極低温冷凍機20は、物体を伝導冷却により冷却する冷却ステージ22、より具体的には、第1冷却ステージ22aと第2冷却ステージ22bを備える。極低温冷凍機20は、真空容器30に設置され、第1冷却ステージ22aと第2冷却ステージ22bは、真空容器30の中に配置される。第1冷却ステージ22aおよび第2冷却ステージ22bは、例えば、銅などの金属材料またはその他の高い熱伝導率をもつ材料で形成される。
【0015】
また、極低温冷凍機20は、第1シリンダ24aと、第2シリンダ24bと、駆動部26と、装着フランジ28とを備える。第1シリンダ24aは、装着フランジ28を第1冷却ステージ22aに接続し、第2シリンダ24bは、第1冷却ステージ22aを第2冷却ステージ22bに接続する。駆動部26は、第1シリンダ24aとは反対側で装着フランジ28に取り付けられている。
【0016】
第1シリンダ24aと第2シリンダ24bは、一例として、円筒形状を有する部材であり、第2シリンダ24bが第1シリンダ24aよりも小径である。第1シリンダ24aと第2シリンダ24bは同軸に配置され、第1シリンダ24aの下端が第2シリンダ24bの上端に剛に連結されている。極低温冷凍機20がギフォード・マクマホン(Gifford-McMahon;GM)冷凍機である場合、第1シリンダ24aと第2シリンダ24bにはそれぞれ、蓄冷材を内蔵した第1ディスプレーサと第2ディスプレーサが収容されている。第1ディスプレーサと第2ディスプレーサは互いに連結され、それぞれ第1シリンダ24aと第2シリンダ24bに沿って往復動可能である。
【0017】
駆動部26は、モータと、モータの出力する回転運動を第1ディスプレーサと第2ディスプレーサの往復動に変換するようにモータをこれらディスプレーサに連結する連結機構とを備える。また、駆動部26は、第1シリンダ24aと第2シリンダ24bの内部の圧力を高圧と低圧に周期的に切り替える圧力切替弁を備え、この圧力切替弁もモータによって駆動される。
【0018】
極低温冷凍機20は、第1シリンダ24a、第1冷却ステージ22a、第2シリンダ24b、および第2冷却ステージ22bが真空容器30の開口部から真空容器30内に挿入され、この開口部に装着フランジ28が装着されて、真空容器30に取り付けられる。真空容器30の開口部には、真空容器30の外に向かって延びる真空延長管31が接続されている。真空延長管31の端部には、装着フランジ28が装着される上部フランジ31aが設けられている。駆動部26は装着フランジ28とともに真空容器30の外に配置され、第1シリンダ24aは真空延長管31に沿って真空延長管31内に延在し、第1冷却ステージ22aは真空延長管31から離れて真空容器30内に配置される。このようにして、極低温冷凍機20は、第1冷却ステージ22aと第2冷却ステージ22bが真空容器30内に配置されるようにして真空容器30に設置することができる。
【0019】
極低温冷凍機20は、作動ガス(たとえばヘリウムガス)の圧縮機(図示せず)と、コールドヘッドとも呼ばれる膨張機とを備え、圧縮機と膨張機により極低温冷凍機20の冷凍サイクルが構成され、それにより第1冷却ステージ22aおよび第2冷却ステージ22bがそれぞれ所望の極低温に冷却される。第1冷却ステージ22aは、第1冷却温度、例えば30K~80Kに冷却され、第2冷却ステージ22bは、第1冷却温度よりも低い第2冷却温度、例えば3K~20Kに冷却される。第2冷却温度は、超伝導コイル12の超伝導転移温度より低い温度である。
【0020】
極低温冷凍機20は、一例として、二段式のGM冷凍機であるが、パルス管冷凍機、スターリング冷凍機、またはそのほかのタイプの極低温冷凍機であってもよい。所望の冷却温度を提供できるのであれば、極低温冷凍機20は、単段式のGM冷凍機またはそのほかのタイプの極低温冷凍機であってもよい。
【0021】
真空容器30は、真空領域32を外部環境14から隔てるように構成される。真空領域32は、真空容器30内に定められる。真空容器30は、例えばクライオスタットであってもよい。超伝導コイル12、極低温冷凍機20の冷却ステージ22、輻射熱シールド40は、真空領域32に配置され、外部環境14から真空断熱される。断熱性能を高めるために、真空領域32を外部環境14から隔てる真空容器30の壁部材の表面に沿って、または壁部材の内部に、断熱材料が設けられていてもよい。
【0022】
詳細は後述するが、この実施の形態では、極低温冷凍機20は、ノーマルクローズ型の第1熱スイッチ構造50と、真空容器30の外から第1熱スイッチ構造50のオンオフ切替を可能とする第1操作機構60とを備える。第1熱スイッチ構造50は、真空容器30内で第1冷却ステージ22aの近傍に配置され、第1操作機構60の操作により、被冷却物の一例としての輻射熱シールド40と第1冷却ステージ22aとの熱接続のオンオフを可能とする。また、極低温冷凍機20は、ノーマルクローズ型の第2熱スイッチ構造70と、真空容器30の外から第2熱スイッチ構造70のオンオフ切替を可能とする第2操作機構80とを備える。第2熱スイッチ構造70は、真空容器30内で第2冷却ステージ22bの近傍に配置され、第2操作機構80の操作により、超伝導コイル12と第2冷却ステージ22bとの熱接続のオンオフを可能とする。
【0023】
輻射熱シールド40は、第1熱スイッチ構造50を介して第1冷却ステージ22aと熱的に結合され第1冷却温度に冷却される。輻射熱シールド40は、例えば銅などの金属材料またはその他の高い熱伝導率をもつ材料で形成される。輻射熱シールド40は、第2冷却温度に冷却される超伝導コイル12、極低温冷凍機20の第2冷却ステージ22b、およびその他の低温部を囲むように配置され、外部からの輻射熱からこれら低温部を熱的に保護することができる。
【0024】
伝熱部材42は、第2熱スイッチ構造70を介して第2冷却ステージ22bと熱的に結合される。伝熱部材42は、可撓性または剛性をもつ伝熱部材であってもよく、例えば銅などの金属材料またはその他の高い熱伝導率をもつ材料で形成される。超伝導コイル12は、伝熱部材42と第2熱スイッチ構造70を介して第2冷却ステージ22bと熱的に結合され第2冷却温度に冷却される。なお、伝熱部材42を用いることなく、超伝導コイル12は、第2熱スイッチ構造70を介して第2冷却ステージ22bと熱的に結合されてもよい。
【0025】
第1熱スイッチ構造50は、輻射熱シールド40と接続される第1伝熱部材51と、第1冷却ステージ22aと柔軟伝熱部材53を介して接続され、第1伝熱部材51に対して移動可能に配置される第2伝熱部材52とを備える。また、第1熱スイッチ構造50は、弾性的に圧縮可能な第1弾性部材54と、第1伝熱部材51に取り付けられた第1弾性部材ホルダ55とを備える。第1弾性部材ホルダ55は、第2伝熱部材52が弾性的に圧縮された第1弾性部材54によって第1伝熱部材51に押し当てられるように、第2伝熱部材52と弾性的に圧縮された第1弾性部材54を第1伝熱部材51との間に保持する。
【0026】
第1伝熱部材51、第2伝熱部材52、第1弾性部材54、および第1弾性部材ホルダ55は、環状であり、極低温冷凍機20を囲むように配置されている。第1伝熱部材51、第2伝熱部材52、第1弾性部材54、および第1弾性部材ホルダ55は、中心部に開口を有し、この開口に第2シリンダ24bが挿通されている。これら部材の中心開口は概ね等しい径を有する。このようにして、第1熱スイッチ構造50は、極低温冷凍機20の中心軸(すなわち第1シリンダ24aおよび第2シリンダ24bの中心軸)と同軸に配置され、第2シリンダ24bを囲むように配置されている。
【0027】
第1操作機構60は、第1操作部材として複数の第1操作棒61を備える。第1操作棒61は、第1伝熱部材51と第2伝熱部材52が接触するとき第1伝熱部材51および第2伝熱部材52から離れて配置される。すなわち、第1操作棒61は、第1伝熱部材51と第2伝熱部材52が接触するとき、第1熱スイッチ構造50とは非接触とされる。第1操作棒61は、第2伝熱部材52に対し係合可能に設けられ、第2伝熱部材52と係合するとき第1弾性部材54を弾性的にさらに圧縮しながら第2伝熱部材52を第1伝熱部材51から引き離すように第2伝熱部材52とともに移動可能である。
【0028】
第2伝熱部材52が第1伝熱部材51と接触するとき第1冷却ステージ22aと輻射熱シールド40が熱的に結合され、第1熱スイッチ構造50はオンとなる。第2伝熱部材52が第1伝熱部材51から離れるとき第1冷却ステージ22aと被冷却物の熱的な結合が解除され、第1熱スイッチ構造50はオフとなる。
【0029】
第2熱スイッチ構造70は、伝熱部材42と接続される第3伝熱部材71と、第2冷却ステージ22bと柔軟伝熱部材73を介して接続され、第3伝熱部材71に対して移動可能に配置される第4伝熱部材72とを備える。また、第2熱スイッチ構造70は、弾性的に圧縮可能な第2弾性部材74と、第3伝熱部材71に取り付けられた第2弾性部材ホルダ75とを備える。第2弾性部材ホルダ75は、第4伝熱部材72が弾性的に圧縮された第2弾性部材74によって第3伝熱部材71に押し当てられるように、第4伝熱部材72と弾性的に圧縮された第2弾性部材74を第3伝熱部材71との間に保持する。
【0030】
第2操作機構80は、第2操作部材として複数の第2操作棒81を備える。第2操作棒81は、第3伝熱部材71と第4伝熱部材72が接触するとき第3伝熱部材71および第4伝熱部材72から離れて配置される。すなわち、第2操作棒81は、第3伝熱部材71と第4伝熱部材72が接触するとき、第2熱スイッチ構造70とは非接触とされる。第2操作棒81は、第4伝熱部材72に対し係合可能に設けられ、第4伝熱部材72と係合するとき第2弾性部材74を弾性的にさらに圧縮しながら第4伝熱部材72を第3伝熱部材71から引き離すように第4伝熱部材72とともに移動可能である。
【0031】
第4伝熱部材72が第3伝熱部材71と接触するとき第2冷却ステージ22bと伝熱部材42が熱的に結合され、第2熱スイッチ構造70はオンとなる。第4伝熱部材72が第3伝熱部材71から離れるとき第2冷却ステージ22bと伝熱部材42の熱的な結合が解除され、第2熱スイッチ構造70はオフとなる。
【0032】
図3(a)、
図3(b)、
図3(c)、および
図3(d)は、それぞれ、実施の形態に係る第1伝熱部材51、第2伝熱部材52、第1弾性部材54、および第1弾性部材ホルダ55を模式的に示す上面図である。各図には、第1伝熱部材51、第2伝熱部材52、第1弾性部材54、および第1弾性部材ホルダ55を極低温冷凍機20の中心軸方向から見た形状が示される。理解を容易にするために、各図には、第2シリンダ24bが破線で示される。また、
図3(b)には、第1冷却ステージ22aと柔軟伝熱部材53が破線で示される。
【0033】
図3(a)に示されるように、第1伝熱部材51は、円環状のプレートであり、第2シリンダ24bが挿通される中心開口51aを有する。第1伝熱部材51は、その片面(
図1における上面)にスイッチ面51bを有する。
図3(a)において便宜上、スイッチ面51bに斜線を付して示す。スイッチ面51bは、第1伝熱部材51の内周側で、中心開口51aを囲むようにして設けられる。スイッチ面51bは、第2伝熱部材52との接触面として利用される。
【0034】
第1伝熱部材51は、スイッチ面51bよりも外周側に結合部51cを有する。結合部51cは、周方向に等間隔に設けられた複数のボルト穴であり、この例では、90度おきに4つ設けられている。結合部51cは、第1伝熱部材51を第1弾性部材ホルダ55と結合するために使用される。また、第1伝熱部材51は、スイッチ面51bよりも外周側に挿通部51dを有する。挿通部51dは、例えば、第1伝熱部材51の外周輪郭から径方向内側に凹んだ凹部であり、この例では、90度おきに4つ設けられている。結合部51cのボルト穴と挿通部51dの凹部は周方向に交互に配置されている。第1伝熱部材51と第2操作棒81の干渉を防ぐために、これら4つの凹部のうち180度おきに設けられた2つの凹部に第2操作棒81(
図3(a)において破線で示す)が挿通される。
【0035】
図3(b)に示されるように、第2伝熱部材52は、内周部52aと、外周部52bと、接続部52cとを有する。内周部52aと外周部52bは中心軸方向に異なる高さにあり、接続部52cによって剛に接続される。この例では、内周部52a、外周部52b、および接続部52cは、一体部品であるが、これに代えて、別々の部品として用意され互いに連結され固定されてもよい。
【0036】
第2伝熱部材52の内周部52aは、第2シリンダ24bが挿通される中心開口52dを囲む円環状部分であり、その下面で第1伝熱部材51のスイッチ面51bと接触する。接触面での熱抵抗を低減するために、軟質の介在層が第2伝熱部材52の内周部52aと第1伝熱部材51のスイッチ面51bの間に挟み込んで使用されてもよい。この介在層は、第2伝熱部材52の内周部52aと第1伝熱部材51のスイッチ面51bの少なくとも一方の表面に形成されためっき層であってもよく、このめっき層は例えば、インジウム、金、または銀など高熱伝導金属のめっき層であってもよい。
【0037】
また、内周部52aは、その上面で第1弾性部材54と接触する。内周部52aと接続部52cにより囲まれる円環状のスペースに第1弾性部材54と第1弾性部材ホルダ55が配置される。よって、接続部52cの内径は、第1弾性部材54の外径に等しいか、これより若干大きい。
【0038】
第2伝熱部材52の外周部52bは、複数の切り欠き部52eによって周方向に複数の部分に分割されている。この例では、4つの切り欠き部52eが周方向に等間隔に設けられ、外周部52bも周方向に4分割されている。これら分割部分はそれぞれ、挿通部52fを有する。挿通部52fは、例えば、第2伝熱部材52の外周輪郭から径方向内側に凹んだ凹部であり、この例では、90度おきに4つ設けられている。挿通部52fと切り欠き部52eは周方向に交互に配置されている。
【0039】
図2に示されるように、第2伝熱部材52と第1操作棒61の干渉を防ぐために、これら4つの凹部のうち180度おきに設けられた2つの凹部には、第1操作棒61が挿通される。これら2つの凹部をそれぞれ有する外周部52bの2つの分割部分は、第1操作棒61との係合部として使用される。また、第2伝熱部材52と第2操作棒81の干渉を防ぐために、残りの2つの凹部に第2操作棒81が挿通される。なお、理解を容易にするために、第1操作棒61と第2操作棒81を
図3(b)に破線で示す。
【0040】
図2および
図3(b)を参照すると、第2伝熱部材52の外周部52bはその上面に柔軟伝熱部材53が取り付けられている。柔軟伝熱部材53は、外周部52bを第1冷却ステージ22aの外周面に接続し、それにより、上述のように第2伝熱部材52と第1冷却ステージ22aが柔軟伝熱部材53を介して熱的に結合される。この例では、柔軟伝熱部材53は、周方向に等間隔に8箇所に設けられている。外周部52bの分割部分ごとに、2箇所の柔軟伝熱部材53が挿通部52fの両側に設けられている。
【0041】
第1伝熱部材51および第2伝熱部材52は、例えば、銅などの金属材料またはその他の高い熱伝導率をもつ材料で形成される。また、柔軟伝熱部材53は、可撓性をもつように例えば細線の束または箔の積層として形成されてもよく、銅などの高熱伝導材料で形成されてもよい。
【0042】
図3(c)に示されるように、この実施の形態では、第1弾性部材54は、皿ばねであり、第2シリンダ24bが挿通される中心開口54aを囲む円錐面の形状を有する。第1弾性部材54は、中心軸方向に弾性的に圧縮可能であり、予圧縮された状態で第2伝熱部材52と第1弾性部材ホルダ55の間に挟み込まれる。例えば、
図1に示されるように、第1弾性部材54の外径部が第2伝熱部材52に突き当てられ、第1弾性部材54の内径部が第1弾性部材ホルダ55に突き当てられる。第1弾性部材54は、例えばステンレス鋼(例えばSUS304)などの金属材料またはその他の高強度の材料で形成される。この例では、第1弾性部材54は、一枚の皿ばねのみを有するが、必要とされる場合には、重ね合わされた複数枚の皿ばねを有してもよい。
【0043】
図3(d)に示されるように、第1弾性部材ホルダ55は、円環状のプレートであり、第2シリンダ24bが挿通される中心開口55aを有する。第1弾性部材ホルダ55は、外周側に結合部55bを有する。結合部55bは、第1弾性部材ホルダ55を第1伝熱部材51と結合するために使用される。結合部55bは、第1弾性部材ホルダ55の外周輪郭から径方向外側に突き出す凸部として形成され、第1伝熱部材51の結合部51cと対応して、周方向に等間隔に設けられている。各凸部にはボルト穴が設けられている。
【0044】
第1弾性部材ホルダ55は、第1弾性部材54を弾性的に圧縮した状態で第2伝熱部材52と第1弾性部材ホルダ55との間に保持すべく、第1伝熱部材51と剛に結合される。第1弾性部材ホルダ55は、第1弾性部材54を圧縮された状態で保持するために、例えばステンレス鋼などの金属材料またはその他の高強度の材料で形成される。第1弾性部材ホルダ55は、第1伝熱部材51および第2伝熱部材52に比べて低い熱伝導率をもつ材料、または断熱材料で形成されてもよい。
【0045】
第1熱スイッチ構造50を構成する各部材の形状は、
図3(a)から
図3(d)を参照して上述した特定の形状に限られない。例えば、上述の第2伝熱部材52では、内周部52aと外周部52bが中心軸方向に異なる高さに位置し、接続部52cにより互いに接続されている。これに代えて、第2伝熱部材52は、円環状のプレートであってもよく、すなわち、内周部52aと外周部52bが同じ高さにあってもよい。この場合、第1伝熱部材51が、スイッチ面51bを有する内周部と、結合部51c(および挿通部51d)を有する外周部とを有し、これら内周部と外周部が中心軸方向に異なる高さに位置し、接続部により互いに接続されていてもよい。
【0046】
また、第1弾性部材54は、皿ばねには限られない。第1弾性部材54は、例えば、コイルばね等のばね部材、またはその他の圧縮可能な弾性部材であってもよい。ただし、コイルばねに利用されるばね用鋼材は、低温脆性のために極低温下での使用に適しない場合がある。一般的に、強力なコイルばね用のばね用鋼材ほど低温脆性をもつ傾向にある。したがって、使用する弾性部材は、極低温下での使用に適する弾性材料から形成されることが好ましい。この点で、皿ばねの場合、例えばオーステナイト系ステンレス鋼(例えばSUS304)のように低温脆性が生じないかまたは生じにくい材料で強力な皿ばねを形成することができ、有利である。
【0047】
第1熱スイッチ構造50を構成する各部材は、周方向に全周にわたり連続している単一の円環状の形状を有する。しかし、第1伝熱部材51、第2伝熱部材52、第1弾性部材54、第1弾性部材ホルダ55のうち少なくとも1つは、周方向に分割された複数の部分から形成されてもよく、これら複数の部分が周方向に配列されていてもよい。
【0048】
再び
図1および
図2を参照すると、第1伝熱部材51、第2伝熱部材52、第1弾性部材54、および第1弾性部材ホルダ55は、第1冷却ステージ22aと第2冷却ステージ22bの間に配置されている。第1熱スイッチ構造50を構成するこれら部材は、第2冷却ステージ22bよりも第1冷却ステージ22aに近接して配置されている。第1伝熱部材51、第2伝熱部材52、第1弾性部材54、および第1弾性部材ホルダ55は、第1冷却ステージ22aから遠い側からこの記載の順に積み重ねられている。このようにして、第1熱スイッチ構造50は、第1冷却ステージ22aの下側で第2シリンダ24bの周囲の空きスペースに配置されている。
【0049】
図2に示されるように、第1伝熱部材51と第1弾性部材ホルダ55は、極低温冷凍機20の中心軸方向(図において上下方向)に間隔を空けて配置され、互いに結合されている。第1伝熱部材51と第1弾性部材ホルダ55の結合体は、第1冷却ステージ22aに対して軸方向に下方に配置されている。この結合体は、第1冷却ステージ22aに近接して配置されるが、接触はしていない。
【0050】
第1弾性部材ホルダ55の結合部55bは、第2伝熱部材52の切り欠き部52eを通じて第2伝熱部材52の接続部52cよりも径方向外側に突き出している。第1伝熱部材51の結合部51cと第1弾性部材ホルダ55の結合部55bが例えばボルト等の締結部材により締結され、第1伝熱部材51と第1弾性部材ホルダ55がそれらの外周部で互いに結合される。
【0051】
図1に示されるように、第1伝熱部材51は、その一方の面(図において下面)で輻射熱シールド40と接触し、他方の面(上面)で第2伝熱部材52と接触する。第1伝熱部材51は、輻射熱シールド40と接続され熱的に結合される。例えば、第1伝熱部材51は、輻射熱シールド40が取り付けられるフランジとして利用されてもよく、輻射熱シールド40は、例えばボルト等の締結部材を用いて第1伝熱部材51に直接取り付けられてもよい。あるいは、輻射熱シールド40は、可撓性または剛性をもつ伝熱部材を介して第1伝熱部材51に取り付けられてもよい。
【0052】
このように第1伝熱部材51は輻射熱シールド40に固定され、第1冷却ステージ22aは第1シリンダ24aおよび装着フランジ28を介して真空容器30に固定されている。さらに、輻射熱シールド40は真空容器30に対し固定されている。よって、第1伝熱部材51は、第1冷却ステージ22aに対して位置が固定されている。つまり、第1伝熱部材51と第1弾性部材ホルダ55の結合体は、第1冷却ステージ22aに対して移動不能である。
【0053】
第1伝熱部材51と第1弾性部材ホルダ55との間に、第2伝熱部材52と第1弾性部材54が挟み込まれている。第2伝熱部材52が第1伝熱部材51と隣接して配置され、第1弾性部材54が第1弾性部材ホルダ55と隣接して配置される。上述のように、第1弾性部材54は、弾性的に圧縮された状態で、第2伝熱部材52と第1弾性部材ホルダ55との間に保持される。第2伝熱部材52は、第1弾性部材54の弾性力(復元力)によって第1伝熱部材51に押し当てられる。
【0054】
第2伝熱部材52の外周部52bは、第1弾性部材ホルダ55よりも上方に位置し、第1冷却ステージ22aと近接して配置されている。第2伝熱部材52の外周部52bは、柔軟伝熱部材53により第1冷却ステージ22aと接続されている。柔軟伝熱部材53は第2伝熱部材52の動きに応じて変形することができ、第2伝熱部材52は、第1冷却ステージ22a(および第1伝熱部材51)に対して軸方向に移動可能である。
【0055】
第2熱スイッチ構造70は、第1熱スイッチ構造50と同様に構成される。この実施の形態では、第2熱スイッチ構造70を構成する第3伝熱部材71、第4伝熱部材72、第2弾性部材74、第2弾性部材ホルダ75はそれぞれ、第1伝熱部材51、第2伝熱部材52、第1弾性部材54、第1弾性部材ホルダ55と同一の材料で形成され、同一の形状および位置関係を有する。ただし、第1熱スイッチ構造50が第1冷却ステージ22aの下方に近接配置されるのに対し、第2熱スイッチ構造70は、第2冷却ステージ22bを囲んで配置される。
【0056】
第1伝熱部材51が輻射熱シールド40と接続され熱的に結合されるのと同様にして、第3伝熱部材71は、伝熱部材42と接続され熱的に結合される。上述のように、第3伝熱部材71は、伝熱部材42を介して超伝導コイル12と熱的に結合される。
【0057】
第2冷却ステージ22bは、その軸方向上端に取付フランジ23を有し、第4伝熱部材72の外周部と取付フランジ23が柔軟伝熱部材73を介して熱的に結合される。図示されるように、第4伝熱部材72の外周部と取付フランジ23は軸方向高さに位置してもよい。取付フランジ23は、第2冷却ステージ22bと一体形成されてもよく、あるいは、別部品として用意され第2冷却ステージ22bに取り付けられ熱的に結合されてもよい。第3伝熱部材71と第2弾性部材ホルダ75の結合体は、取付フランジ23に対して軸方向に下方に配置されている。この結合体は、第2冷却ステージ22bに近接して配置されるが、接触はしていない。
【0058】
図4は、
図1に示される極低温装置のA-A線断面を模式的に示す図である。なお、
図1には、
図4に示されるB-B線断面が示されている。
図1、
図2および
図4を参照して、第1操作機構60と第2操作機構80について説明する。
【0059】
第1操作機構60は、複数の第1操作棒61に加えて、ベローズ62と昇降プレート63とを備える。第1操作棒61は、この例では、2本の第1操作棒61が極低温冷凍機20を挟んで両側に等間隔に配置される。昇降プレート63は、真空容器30の外に配置され、ベローズ62により真空容器30に接続されている。ベローズ62は、第1操作棒61の各々に設けられ、昇降プレート63と真空容器30との間で極低温冷凍機20の中心軸方向に伸縮可能である。第1操作棒61は、ベローズ62内で昇降プレート63に固定され、真空容器30の壁を貫通して真空容器30内へと極低温冷凍機20の中心軸方向に沿って直線的に延びている。上述のように、第1操作棒61は、第2伝熱部材52の外周部52bと接触することなく、挿通部52fを通過して延びている(
図3(b)参照)。
【0060】
真空容器30内に配置される第1操作棒61の端部には、鍔部61aが設けられている。鍔部61aは、第2伝熱部材52の外周部52bの下側で接続部52cの外側に配置されている。鍔部61aは、第1操作棒61が引き上げられるとき第2伝熱部材52の外周部52bと係合するように、第1操作棒61の他の部分に比べて拡径されている。
【0061】
第1操作棒61は、例えばステンレス鋼などの金属材料またはその他の適する材料で形成される。第1操作棒61は昇降プレート63に固定されているため、昇降プレート63と同様に周囲温度(例えば室温)を有しうる。第1操作棒61から発せられる輻射熱を低減するために、第1操作棒61の表面は、低輻射率面(例えば研磨面)であってもよい。あるいは、昇降プレート63から第1操作棒61を通じた鍔部61aへの熱伝導を抑制するために、第1操作棒61は、断熱材料で形成されてもよい。
【0062】
ベローズ62は、両端に設けられた2つの真空フランジと、これら真空フランジを接続する伸縮部とを有する。一方の真空フランジが第1操作棒61の上端を囲んで昇降プレート63の下面に取り付けられ、他方の真空フランジが真空容器30の挿通孔に取り付けられている。上述のように、第1操作棒61がベローズ62と真空容器30の挿通孔を通じて真空容器30内に差し込まれている。
【0063】
昇降プレート63は、この例では、極低温冷凍機20の装着フランジ28が装着された真空延長管31を囲む円環プレートであり、極低温冷凍機20の中心軸と同軸に配置されている。昇降プレート63は、真空延長管31の上部フランジ31aからいくらかの隙間をあけて上部フランジ31aの下側に配置されている。図示されるように、昇降プレート63の外径は、上部フランジ31aの外径より大きくてもよい。ベローズ62は昇降プレート63の動きに応じて伸縮することができ、昇降プレート63は、真空延長管31(および真空容器30)に対して軸方向に移動可能である。昇降プレート63を極低温冷凍機20の中心軸方向に昇降させることによって、ベローズ62を伸縮させるとともに第1操作棒61を中心軸方向に昇降させることができる。
【0064】
上部フランジ31aは、昇降プレート63の上方移動を規制するストッパとして利用されてもよい。昇降プレート63が上部フランジ31aに突き当たることによって、昇降プレート63(および第1操作棒61)の過剰な上方移動を防ぐことができる。
【0065】
第1操作棒61の軸方向移動をガイドするガイド部64が設けられていてもよい。ガイド部64は、例えば、真空容器30の挿通孔に取り付けられている。ガイド部64は、軸方向以外の方向への第1操作棒61の移動を拘束するように構成される。ガイド部64は、第1操作棒61が第1熱スイッチ構造50と接触していないとき起こりうる第1操作棒61の振れを抑制し、第1操作棒61と第1熱スイッチ構造50の非接触を維持するために設けられている。よって、ガイド部64は、第1操作棒61と第1熱スイッチ構造50との不測の接触とそれによる第1操作棒61から第1熱スイッチ構造50への入熱を防ぐことに役立つ。
【0066】
第2操作機構80は、第1操作機構60と同様に構成される。2本の第2操作棒81が極低温冷凍機20を挟んで両側に等間隔に配置される。これら第2操作棒81は、2本の第1操作棒61とは極低温冷凍機20の中心軸まわりに90度回転した位置にある。よって、複数の第1操作棒61と複数の第2操作棒81が周方向に交互に配置されている。昇降プレート63は、第2操作機構80に共有されている。ベローズ62が第2操作棒81の各々に設けられ、第2操作棒81は、ベローズ62内で昇降プレート63に固定され、真空容器30の壁を貫通して真空容器30内へと極低温冷凍機20の中心軸方向に沿って直線的に延びている。第2操作棒81は、第1熱スイッチ構造50の側方を通過して、第2熱スイッチ構造70まで延びている。第2操作棒81の端部には、第2操作棒81が引き上げられるとき第4伝熱部材72の外周部と係合する鍔部81aが設けられている。昇降プレート63を極低温冷凍機20の中心軸方向に昇降させることによって、ベローズ62を伸縮させるとともに第2操作棒81を中心軸方向に昇降させることができる。
【0067】
例えば油圧ジャッキなどの昇降装置65が第1操作機構60および第2操作機構80の一部として設けられている。昇降装置65は、昇降プレート63と真空容器30との間に設置され、昇降プレート63を第1操作棒61および第2操作棒81とともに持ち上げるために使用される。この実施の形態では、昇降装置65は、第1熱スイッチ構造50と第2熱スイッチ構造70のオンオフ切替のために一時的に設置されるものであるが、これに代えて、常設の昇降装置65が設けられてもよい。昇降装置65は、例えば、周方向に第1操作棒61と第2操作棒81の間に配置される。
【0068】
次に、実施の形態に係る熱スイッチのオンオフ切替動作を説明する。
図5は、実施の形態に係る第1操作機構60のオンオフ切替動作を示す模式図である。
図6は、実施の形態に係る第1熱スイッチ構造50のオンオフ切替動作を示す模式図である。
【0069】
図5に示される昇降プレート63は、常態としては、真空領域32と外部環境14(例えば大気圧)の圧力差によって真空容器30に向けて押し込まれている。このとき、
図6に示されるように、第1操作棒61は第1熱スイッチ構造50とは非接触に配置され、第1操作棒61の鍔部61aは、第2伝熱部材52の外周部52bと係合していない。
【0070】
第1弾性部材54は、弾性的に圧縮された状態で、第2伝熱部材52の内周部52aと第1弾性部材ホルダ55との間に保持される。第2伝熱部材52は、第1弾性部材54の弾性力(復元力)によって第1伝熱部材51に押し当てられる。第2伝熱部材52が第1伝熱部材51と接触し、第1熱スイッチ構造50はオンとなる。このようにして、輻射熱シールド40は、第1熱スイッチ構造50を介して第1冷却ステージ22aと熱的に結合される。極低温冷凍機20の冷却運転により第1冷却ステージ22aは第1冷却温度に冷却され、輻射熱シールド40も第1冷却ステージ22aによって第1冷却温度に冷却される。
【0071】
図5に示されるように、第1熱スイッチ構造50をオンからオフに切り替えるために、昇降装置65が昇降プレート63と真空容器30の間に設置される。昇降装置65を作動させることによって、
図5に破線および矢印で示すように、昇降プレート63を第1操作棒61とともに持ち上げることができる。それにより、
図6に示されるように、第1操作棒61の鍔部61aが引き上げられ、第2伝熱部材52の外周部52bと係合し、第1操作棒61は、第2伝熱部材52に上方への駆動力を作用させることができる。
【0072】
第1弾性部材54の弾性力に抗する(すなわち第1弾性部材54をさらに圧縮させる)駆動力を第2伝熱部材52に作用させることによって、第2伝熱部材52を第1伝熱部材51から引き離すように移動させることができる。
図6に破線および矢印で示すように、第2伝熱部材52が第1伝熱部材51から離れるとき、第1熱スイッチ構造50はオフとなる。このとき、第1伝熱部材51と第2伝熱部材52との間に、例えば数mm程度の僅かな隙間44が形成される。こうして、第1冷却ステージ22aと輻射熱シールド40の熱的な結合が解除される。
【0073】
逆に、第1熱スイッチ構造50をオフからオンに切り替えるには、昇降装置65による昇降プレート63の持ち上げを解除すればよい。真空領域32と外部環境14の圧力差によって昇降プレート63および第1操作棒61は再び押し込まれ、第1操作棒61と第2伝熱部材52との係合も解除される。第2伝熱部材52は、第1弾性部材54によって第1伝熱部材51に再び押し当てられる。第2伝熱部材52が第1伝熱部材51と接触し、第1熱スイッチ構造50はオンとなる。
【0074】
同様にして、第2熱スイッチ構造70は、第1熱スイッチ構造50と同期して動作する。
図2に示されるように、昇降プレート63が真空領域32と外部環境14の圧力差によって真空容器30に向けて押し込まれている状態では、第2操作棒81は第2熱スイッチ構造70とは非接触に配置され、第2操作棒81の鍔部81aは、第4伝熱部材72と係合していない。そのため、第2弾性部材74は、弾性的に圧縮された状態で、第4伝熱部材72と第2弾性部材ホルダ75との間に保持され、第4伝熱部材72は、第2弾性部材74の弾性力によって第3伝熱部材71に押し当てられる。第4伝熱部材72が第3伝熱部材71と接触し、第2熱スイッチ構造70はオンとなる。
【0075】
このようにして、伝熱部材42は、第2熱スイッチ構造70を介して第2冷却ステージ22bと熱的に結合される。極低温冷凍機20の冷却運転により第2冷却ステージ22bは第2冷却温度に冷却され、超伝導コイル12も第2冷却ステージ22bによって第2冷却温度に冷却される。図示されない電源から超伝導コイル12に通電することにより、超伝導コイル12は、強力な磁場を発生することができる。このようにして、極低温装置10を運転することができる。
【0076】
昇降装置65を作動させることによって、昇降プレート63が第2操作棒81とともに持ち上げられる。第2操作棒81の鍔部81aが引き上げられ、第2伝熱部材52の外周部52bと係合する。第2操作棒81は、第4伝熱部材72に上方への駆動力を作用させ、第2弾性部材74をさらに圧縮させ、第4伝熱部材72を第3伝熱部材71から引き離すように移動させることができる。第4伝熱部材72が第3伝熱部材71から離れるとき、第2熱スイッチ構造70はオフとなる。第2冷却ステージ22bと超伝導コイル12の熱的な結合が解除される。逆に、昇降装置65による昇降プレート63の持ち上げを解除すれば、第4伝熱部材72を第3伝熱部材71と接触させ、第2熱スイッチ構造70をオフからオンに切り替えることができる。
【0077】
上述のように熱スイッチをオフとして、極低温冷凍機20を被冷却物から切り離している間に、極低温冷凍機20のメンテナンスを行うことができる。極低温冷凍機20を被冷却物から熱的に切り離すことによって、被冷却物を極低温に保持した状態で(あるいは温度上昇を最小限に抑えながら)、極低温冷凍機20の冷却運転を停止して室温へと昇温し、極低温冷凍機20のメンテナンスをすることができる。メンテナンスが終了したら、極低温冷凍機20の冷却運転が再開される。極低温冷凍機20が十分に冷却されたとき熱スイッチをオンに切り替え、極低温装置10の運転を再開することができる。
【0078】
実施の形態によると、新規なノーマルクローズ型の熱スイッチを組み込んだ極低温冷凍機20を提供することができる。これにより、本書の冒頭に言及した既存の熱スイッチにおける様々な不都合を解消または緩和することができる。
【0079】
例えば、第1伝熱部材51と第2伝熱部材52との接触面積を比較的広くとり、第1熱スイッチ構造50における熱抵抗を低減することが容易である。とくに、第1伝熱部材51と第2伝熱部材52との接触面積を極低温冷凍機20のまわりに環状に広がるように定めることができ、それにより第1熱スイッチ構造50は広い接触面積を確保することができる。
【0080】
また、弾性的に圧縮された第1弾性部材54によって第2伝熱部材52を第1伝熱部材51に押し当てることにより、第1熱スイッチ構造50における熱抵抗を低減することが容易である。とくに、第1弾性部材54として皿ばねを使用する場合には、少ない変位量で高い接触面圧を確保しやすく、有利である。また、長期にわたる使用に伴う接触面圧の低下のリスクも小さい。
【0081】
第1熱スイッチ構造50は、省スペースである。第1熱スイッチ構造50は、ドーナツ状の形状を有し、第1冷却ステージ22aの近傍に収めることができるので、このような熱スイッチ構造を有しない既存の極低温冷凍機と比べて、追加的に必要となる占有スペースは小さくて済む。
【0082】
第1熱スイッチ構造50がオンとされているとき、第1操作機構60は第1熱スイッチ構造50と接触しないので、第1操作機構60から第1熱スイッチ構造50を通じた第1冷却ステージ22aへの熱伝導による入熱を遮断することができる。
【0083】
第1操作機構60の昇降という簡便な操作で熱スイッチのオンオフを切り替えることができる。取り扱いが容易である。
【0084】
第2熱スイッチ構造70についても同様の利点を得ることができる。
【0085】
なお、第1熱スイッチ構造50のオンオフ切替に伴う第1操作機構60の移動ストロークは僅かであるため、第1熱スイッチ構造50のオンオフ状態を第1操作機構60の外観から知ることは必ずしも容易でない。そこで、
図5に示されるように、極低温冷凍機20は、熱スイッチのオンオフ状態を表示する状態表示部33を備えてもよい。状態表示部33は、第1操作機構60の機械的な動きに応じて第1熱スイッチ構造50のオンオフ状態を視覚的に表すように構成される。この実施の形態では、状態表示部33は、真空延長管31の外周面上で上部フランジ31aに近接する位置に設けられた状態表示面を有してもよい。一例として、状態表示面は、第1熱スイッチ構造50がオフのとき昇降プレート63よりも上方に現れ、第1熱スイッチ構造50がオンのとき昇降プレート63によって隠される。状態表示面には、第1熱スイッチ構造50がオフであることを示すマークが付されていてもよい。よって、昇降プレート63と真空延長管31の上部フランジ31aとの隙間から状態表示面を覗くことによって第1熱スイッチ構造50のオンオフ状態を把握することができる。
【0086】
あるいは、
図7に示されるように、状態表示部33は、第1伝熱部材51と第2伝熱部材52との間の電気抵抗を検出し、検出された電気抵抗に基づいて熱スイッチのオンオフ状態を表示するように構成されてもよい。例えば、状態表示部33は、真空容器30の外に配置され、第1伝熱部材51と第2伝熱部材52のそれぞれと導線34で接続されてもよい。第1熱スイッチ構造50がオンとされ第1伝熱部材51と第2伝熱部材52が接触するとき、第1伝熱部材51と第2伝熱部材52との間の電気抵抗は小さくなる。一方、第1熱スイッチ構造50がオフとされ第1伝熱部材51と第2伝熱部材52が離れるとき、第1伝熱部材51と第2伝熱部材52との間の電気抵抗は大きくなる。状態表示部33は、電気抵抗測定器であってもよく、このような第1熱スイッチ構造50のオンオフに伴う電気抵抗の変化を検出し、検出された電気抵抗に基づいて熱スイッチのオンオフ状態を判定し、熱スイッチのオンオフ状態を表示部に出力してもよい。
【0087】
実施の形態に係る熱スイッチ構造および操作機構は、上述の特定の実施の形態には限定されず、ほかにも様々な形態をとりうる。いくつかの具体例を述べる。
【0088】
図8は、実施の形態に係り、第2伝熱部材52の他の例を示す一部切り欠き斜視図である。第2伝熱部材52は、第1弾性部材54との接触面に補強材56を備えてもよい。上述のように第2伝熱部材52が内周部52aで第1弾性部材54と接触する場合、補強材56は、第2伝熱部材52の内周部52aにおいて第1弾性部材54と接触する側の面に固定される。補強材56は、一例として、複数本のバーであってもよく、それらが周方向に等間隔に配置され、中心開口52dから径方向外向きに延びていてもよい。この例では、4本のバーが内周部52a上に90度おきに設けられている。バーの配置は、第2伝熱部材52の切り欠き部52eに合わせてある。切り欠き部52eは上述のように、外周部52bを複数の部分に周方向に分割するように形成されている。あるいは、補強材56は、内周部52aと同様の形状(例えば円環形状)をもつプレートであってもよい。補強材56は、第2伝熱部材52に比べて高剛性の材料、例えばステンレス鋼などの金属材料で形成される。
【0089】
第2伝熱部材52を形成する高熱伝導率の材料はたいてい、比較的軟らかく、第1弾性部材54からの強い弾性力が作用するとき歪みが生じ、第2伝熱部材52と第1伝熱部材51の間の接触面圧が接触領域内で不均一となりがちである。とくに、第1弾性部材54が皿ばねの場合、その外径(または内径)のみで第2伝熱部材52と線状に接触するので、この接触線付近で接触面圧が強く、接触線から離れるほど接触面圧は弱くなる。2つの伝熱部材間の接触面圧は熱抵抗に大きく影響する。不均一な接触面圧は不均一な熱抵抗をもたらし、設計通りの良好な熱接触を伝熱部材間に実現する妨げとなりうる。
【0090】
補強材56を第2伝熱部材52に設けることにより、第2伝熱部材52の歪みを抑制することができる。それにより、第1伝熱部材51と第2伝熱部材52との接触面積全体にわたり接触面圧を均一にすることができる。これは、第1伝熱部材51と第2伝熱部材52との間に良好な熱接触を実現することに役立つ。
【0091】
図9は、実施の形態に係り、第1熱スイッチ構造50の他の例を示す一部切り欠き斜視図である。上述の実施の形態では第1伝熱部材51と第1弾性部材ホルダ55の結合部がこれら部材の外周側に設けられているが、
図9に示されるように、第1伝熱部材51と第1弾性部材ホルダ55は、これら部材の内周側で互いに結合されてもよい。そこで、第1伝熱部材51と第1弾性部材ホルダ55は内周部に互いに係合するねじ部57を有してもよい。ねじ部57は、第1伝熱部材51と第1弾性部材ホルダ55を囲む比較的大径のねじである。
【0092】
上述の実施の形態と同様に、第1伝熱部材51と第1弾性部材ホルダ55との間に、第2伝熱部材52と第1弾性部材54が挟み込まれている。第1弾性部材54は、弾性的に圧縮された状態で、第2伝熱部材52と第1弾性部材ホルダ55との間に保持される。第2伝熱部材52は、第1弾性部材54の弾性力によって第1伝熱部材51に押し当てられる。
【0093】
第1伝熱部材51と第1弾性部材ホルダ55がねじ部57で結合された状態で第1弾性部材ホルダ55を第1伝熱部材51に対して中心軸まわりに回転させると、ねじ部57によって第1弾性部材ホルダ55が第1伝熱部材51に軸方向に接近し(または離れ)、第1弾性部材ホルダ55と第1伝熱部材51の軸方向間隔を調整することができる。これにより、第1弾性部材54の弾性力を調整し、第1伝熱部材51と第2伝熱部材52の接触面圧を調整することができる。
【0094】
ねじ部57を容易に回すために、棒状の工具を差し込むことのできる工具差込穴58が第1弾性部材ホルダ55の外周の側面に設けられてもよい。棒状の工具を差し込みやすくするために、工具差込穴58の配置は、第2伝熱部材52の切り欠き部52eに合わせてある。工具を利用してねじ部57を回すことにより、第1弾性部材ホルダ55と第1伝熱部材51の軸方向間隔の調整が容易になる。
【0095】
図10は、実施の形態に係り、第2操作機構80の他の例を示す斜視図である。
図10には、
図2と同様に、極低温冷凍機20が示される。ただし、
図10に示される実施の形態は、第2操作棒81の固定に関して、
図2に示される実施の形態とは異なる。
図2の実施の形態では、上述のように、第2操作棒81が、昇降プレート63に固定され、真空容器30内の第2熱スイッチ構造70へと延びているのに対し、
図10の実施の形態では、第2操作棒81は全体が真空容器30内に配置され、第2伝熱部材52から第4伝熱部材72に向けて延びている。第2操作棒81の一端が第2伝熱部材52の外周部52bに固定される。第2操作棒81の他端には、上述の実施の形態と同様に、第4伝熱部材72と係合可能な鍔部81aが設けられている。
【0096】
このようにしても、上述の実施の形態と同様に、第1熱スイッチ構造50がオフとされているとき、第2熱スイッチ構造70もオフとされる。第1熱スイッチ構造50をオフからオンに切り替えるために第1操作機構60が第2伝熱部材52を引き上げるとき、第2伝熱部材52とともに第2操作棒81も引き上げられる。第2操作棒81の鍔部81aが第4伝熱部材72と係合し、第4伝熱部材72も引き上げられ、それにより第2熱スイッチ構造70もオフからオンに切り替えられる。第1操作機構60による引き上げを解除すれば、第1熱スイッチ構造50および第2熱スイッチ構造70はともに、オンからオフに再び切り替えられる。
【0097】
図10に示される実施の形態では、第2操作棒81が第2伝熱部材52に固定されているので、第2操作棒81を第1冷却ステージ22aによって第1冷却温度に冷却することができる。よって、第2操作棒81から第2熱スイッチ構造70など第2冷却温度に冷却される部位への輻射による入熱をごく小さくすることができる。
【0098】
なお、
図10に示される実施の形態では、昇降プレート63から第2伝熱部材52までの領域で第2操作機構80(ベローズ62および第2操作棒81の上部)が取り除かれているので、この空きスペースにさらに2セットの第1操作機構60を追加し、合計4セットの第1操作機構60が設けられてもよい。
【0099】
図11は、実施の形態に係り、極低温冷凍機20の他の例を模式的に示す図である。第1熱スイッチ構造50の第1伝熱部材51は、伝熱部材90により第2冷却ステージ22bと接続されている。輻射熱シールド40は、第1伝熱部材51ではなく、第1冷却ステージ22aに取り付けられている。第2冷却ステージ22bには、超伝導コイル12に接続される伝熱部材42が取り付けられている。
【0100】
上述の実施の形態と同様に、第1伝熱部材51と第1弾性部材ホルダ55との間に、第2伝熱部材52と第1弾性部材54が挟み込まれている。第1弾性部材54は、弾性的に圧縮された状態で、第2伝熱部材52と第1弾性部材ホルダ55との間に保持される。第2伝熱部材52は、第1弾性部材54の弾性力によって第1伝熱部材51に押し当てられる。第2伝熱部材52は、第1冷却ステージ22aと柔軟伝熱部材53を介して接続され、第1伝熱部材51に対して移動可能である。
【0101】
第1熱スイッチ構造50がオンとされているとき、第1冷却ステージ22aが第1熱スイッチ構造50と伝熱部材90を介して第2冷却ステージ22bに接続される。よって、第1冷却ステージ22aは、第2冷却ステージ22bを冷却することができる。
【0102】
これは、極低温装置10の起動時における初期冷却に有利である。初期冷却では、極低温冷凍機20が周囲温度(例えば室温)から目標の極低温まで冷却される。一般的に、極低温冷凍機20の第1冷却ステージ22aでの冷凍能力は第2冷却ステージ22bでの冷凍能力よりも大きい。第2冷却ステージ22bが周囲温度のような高温にあるときは第2冷却ステージ22bの冷却の補助に第1冷却ステージ22aの冷凍能力を利用することによって初期冷却の所要時間を短縮することができる。
【0103】
第2冷却ステージ22bが第1冷却温度まで冷却されたら、第1操作機構60を操作することによって第1熱スイッチ構造50がオンからオフに切り替えられる。第2冷却ステージ22bは、第1冷却ステージ22aから切り離され、第2冷却温度へと冷却される。このようにして、極低温冷凍機20の初期冷却が完了すれば、極低温装置10の運転を開始することができる。
【0104】
したがって、この実施の形態では、第1熱スイッチ構造50をオフに維持した状態で極低温冷凍機20の冷却運転が継続される。そこで、上述の昇降装置65(例えば
図5参照)によって昇降プレート63が持ち上げられた状態が維持されてもよい。あるいは、昇降装置65と置換して、昇降プレート63と真空容器30との間にブロックが挟み込まれてもよい。このブロックにより、昇降プレート63の持ち上げ高さが維持されてもよい。
【0105】
図12は、実施の形態に係り、第1熱スイッチ構造50の他の例を模式的に示す図である。
図12に示されるように、第1伝熱部材51は、第1冷却ステージ22aに接続されてもよい。第1伝熱部材51は、第1冷却ステージ22aに固定され、または第1冷却ステージ22aと一体であってもよい。第2伝熱部材52は、柔軟伝熱部材53を介して被冷却物(例えば輻射熱シールド40)と接続され、第1伝熱部材51に対して移動可能に配置されてもよい。
【0106】
上述の実施の形態と同様に、第1伝熱部材51と第1弾性部材ホルダ55との間に、第2伝熱部材52と第1弾性部材54が挟み込まれている。第1弾性部材54は、弾性的に圧縮された状態で、第2伝熱部材52と第1弾性部材ホルダ55との間に保持される。第2伝熱部材52は、第1弾性部材54の弾性力によって第1伝熱部材51に押し当てられる。
図12に示される実施の形態においても、第1操作機構60の操作により、第1熱スイッチ構造50のオンオフを切り替えることができる。
【0107】
なお、上述の実施の形態においては、第1熱スイッチ構造50を構成する第1伝熱部材51、第2伝熱部材52、第1弾性部材54、および第1弾性部材ホルダ55は、第1冷却ステージ22aから遠い側からこの記載の順に積み重ねられている。しかしながら、ある実施の形態では、逆の積み重ね順序も可能である。
【0108】
図13は、実施の形態に係り、第1熱スイッチ構造50の他の例を模式的に示す図である。第1熱スイッチ構造50は、第1伝熱部材51、第2伝熱部材52、第1弾性部材54、および第1弾性部材ホルダ55が第1冷却ステージ22aに近い側からこの記載の順に積み重ねられた構成を有してもよい。この場合、第1操作機構60の第1操作棒61が第2伝熱部材52を押し下げることによって第1弾性部材54を弾性的にさらに圧縮して第2伝熱部材52を第1伝熱部材51から離間させ、第1熱スイッチ構造50がオンからオフに切り替えられてもよい。
【0109】
上述の実施の形態では、第1熱スイッチ構造50がオンとされているとき第1操作機構60は第1熱スイッチ構造50から非接触に配置され、第2熱スイッチ構造70がオンとされ第2操作機構80は第2熱スイッチ構造70から非接触に配置されている。しかし、ある実施の形態では、第1操作機構60の第1操作棒61が第1熱スイッチ構造50の第2伝熱部材52に固定されていてもよい。第1操作棒61が断熱材料で形成されるなど、第1操作機構60から第1熱スイッチ構造50への入熱が小さいと評価される場合には、こうした構成も適用可能である。同様に、第2操作機構80の第2操作棒81が第2熱スイッチ構造70の第4伝熱部材72に固定されてもよい。
【0110】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。ある実施の形態に関連して説明した種々の特徴は、他の実施の形態にも適用可能である。組合せによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態それぞれの効果をあわせもつ。
【0111】
実施の形態に係る熱スイッチは、極低温冷凍機20とは別個に設けられてもよい。熱スイッチは、極低温冷凍機20の第1冷却ステージ22aから被冷却物(例えば輻射熱シールド40)への伝熱経路に設けられてもよい。あるいは、熱スイッチは、極低温冷凍機20の第2冷却ステージ22bから被冷却物(例えば超伝導コイル12)への伝熱経路に設けられてもよい。
【0112】
第1熱スイッチ構造50に関連して述べた実施の形態は、第2熱スイッチ構造70にも同様に適用可能である。また、第1操作機構60に関連して述べた実施の形態は、第2操作機構80にも同様に適用可能である。
【0113】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用の一側面を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0114】
10 極低温装置、 20 極低温冷凍機、 22a 第1冷却ステージ、 22b 第2冷却ステージ、 50 第1熱スイッチ構造、 51 第1伝熱部材、 52 第2伝熱部材、 53 柔軟伝熱部材、 54 第1弾性部材、 55 第1弾性部材ホルダ、 56 補強材、 60 第1操作機構、 61 第1操作棒、 70 第2熱スイッチ構造、 71 第3伝熱部材、 72 第4伝熱部材、 73 柔軟伝熱部材、 74 第2弾性部材、 75 第2弾性部材ホルダ、 80 第2操作機構、 81 第2操作棒。