(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022100023
(43)【公開日】2022-07-05
(54)【発明の名称】画像記録装置、画像記録方法および画像記録プログラム
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20220628BHJP
B41J 2/165 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
B41J2/01 403
B41J2/01 129
B41J2/165 203
B41J2/01 451
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020214148
(22)【出願日】2020-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 健太
(72)【発明者】
【氏名】温井 康介
(72)【発明者】
【氏名】多賀 康浩
(72)【発明者】
【氏名】神▲崎▼ 貴士
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 脩平
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA14
2C056EB07
2C056EB12
2C056EB37
2C056EC08
2C056EC42
2C056EC46
2C056EC53
2C056FA04
2C056FA10
2C056HA44
2C056JC20
2C056JC23
(57)【要約】
【課題】ノズル内の紫外線硬化型のインクが紫外線の照射時又は照射後に硬化することを抑制することができる画像記録装置、画像記録方法および画像記録プログラムを提供する。
【解決手段】画像記録装置は、主走査方向に移動し、被印刷媒体に紫外線硬化型のインクを吐出するノズルを有する吐出ヘッドと、紫外線硬化型のインクを硬化させるため、紫外線を照射する光源と、被印刷媒体を吐出ヘッドに対して主走査方向に直交する副走査方向に相対移動させる移動機構と、コントローラとを備え、コントローラは、少なくとも光源による紫外線の照射時に吐出ヘッド内のインクを非吐出で撹拌させる撹拌処理を実行する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主走査方向に移動し、被印刷媒体に紫外線硬化型のインクを吐出するノズルを有する吐出ヘッドと、
前記紫外線硬化型のインクを硬化させるため、紫外線を照射する光源と、
前記被印刷媒体を前記吐出ヘッドに対して前記主走査方向に直交する副走査方向に相対移動させる移動機構と、
コントローラと、を備え、
前記コントローラは、少なくとも前記光源による紫外線の照射時に前記吐出ヘッド内の前記インクを非吐出で撹拌させる撹拌処理を実行する、画像記録装置。
【請求項2】
前記コントローラは、前記撹拌処理の後、前記ノズルから強制的に前記インクを排出するパージ処理を実行する、請求項1に記載の画像記録装置。
【請求項3】
前記移動機構は前記被印刷媒体が載置されるプラテンを含み、
前記コントローラは、前記紫外線の照射時であって前記プラテンと前記ノズルとの距離が予め記憶されている閾値よりも大きい場合に前記撹拌処理を実行する、請求項1又は2に記載の画像記録装置。
【請求項4】
前記移動機構は前記被印刷媒体が載置されるプラテンを含み、
前記コントローラは、印刷モードが前記ノズルと前記プラテンとの距離がローギャップとなるローギャップ印刷モードおよび前記距離が前記ローギャップよりも大きいハイギャップとなるハイギャップ印刷モードのうちハイギャップ印刷モードである場合に前記撹拌処理を実行する、請求項1又は2に記載の画像記録装置。
【請求項5】
前記コントローラは、前記紫外線の照射時に前記インクを吐出しない前記ノズルについて前記撹拌処理を実行する、請求項1乃至4の何れか1項に記載の画像記録装置。
【請求項6】
主走査方向に移動し、被印刷媒体に紫外線硬化型のインクを吐出するノズルを有する吐出ヘッドと、前記紫外線硬化型のインクを硬化させる光源と、前記被印刷媒体を前記吐出ヘッドに対して前記主走査方向に直交する副走査方向に相対移動させる移動機構とを備える画像記録装置を用いた画像記録方法であって、
少なくとも前記光源による紫外線の照射時に前記吐出ヘッド内の前記インクを非吐出で撹拌させる撹拌工程を備える、画像記録方法。
【請求項7】
前記撹拌工程の後に前記ノズルから強制的に前記インクを排出するパージ処理を実行するパージ工程をさらに備える、請求項6に記載の画像記録方法。
【請求項8】
前記移動機構は前記被印刷媒体が載置されるプラテンを含み、
前記撹拌工程は、前記紫外線の照射時であって前記プラテンと前記ノズルとの距離が予め記憶されている閾値よりも大きい場合に実行される、請求項6又は7に記載の画像記録方法。
【請求項9】
前記移動機構は前記被印刷媒体が載置されるプラテンを含み、
前記撹拌工程は、印刷モードが前記ノズルと前記プラテンとの距離がローギャップとなるローギャップ印刷モードおよび前記距離が前記ローギャップよりも大きいハイギャップとなるハイギャップ印刷モードのうちハイギャップ印刷モードである場合に実行される、請求項6又は7に記載の画像記録方法。
【請求項10】
前記撹拌工程は、前記紫外線の照射時に前記インクを吐出しない前記ノズルについて実行される、請求項6乃至9の何れか1項に記載の画像記録方法。
【請求項11】
主走査方向に移動し、被印刷媒体に紫外線硬化型のインクを吐出するノズルを有する吐出ヘッドと、前記紫外線硬化型のインクを硬化させる光源と、前記被印刷媒体を前記吐出ヘッドに対して前記主走査方向に直交する副走査方向に相対移動させる移動機構とを備える画像記録装置におけるコンピュータに実行させる画像記録プログラムであって、
前記コンピュータを、少なくとも前記光源による紫外線の照射時に前記吐出ヘッド内の前記インクを非吐出で撹拌させる撹拌手段として機能させる、画像記録プログラム。
【請求項12】
前記コンピュータを、前記撹拌の後に前記ノズルから強制的に前記インクを排出するパージ処理を実行するパージ手段として機能させる、請求項11に記載の画像記録プログラム。
【請求項13】
前記移動機構は前記被印刷媒体が載置されるプラテンを含み、
前記紫外線の照射時であって前記プラテンと前記ノズルとの距離が予め記憶されている閾値よりも大きい場合に前記撹拌手段に前記撹拌を実行させる、請求項11又は12に記載の画像記録プログラム。
【請求項14】
前記移動機構は前記被印刷媒体が載置されるプラテンを含み、
印刷モードが前記ノズルと前記プラテンとの距離がローギャップとなるローギャップ印刷モードおよび前記距離が前記ローギャップよりも大きいハイギャップとなるハイギャップ印刷モードのうちハイギャップ印刷モードである場合に前記撹拌手段に前記撹拌を実行させる、請求項11又は12に記載の画像記録プログラム。
【請求項15】
前記紫外線の照射時に前記インクを吐出しない前記ノズルについて前記撹拌手段に前記撹拌を実行させる、請求項11乃至14の何れか1項に記載の画像記録プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばインクジェットプリンタ等の画像記録装置、画像記録装置を用いた画像記録方法、および画像記録装置におけるコンピュータに実行させる画像記録プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、吐出ヘッドのノズルに付着した紫外線硬化型インクに紫外線光源からの散乱光および被印刷媒体からの反射光が照射されることによって、ノズルに付着した紫外線硬化型インクが硬化してしまうといった課題が開示されている。その上で、同文献は、紫外線を照射してインクを硬化させる画像記録装置において、紫外線量の測定値を積算した積算値と閾値とを比較し、当該積算値が閾値を超える場合に吐出ヘッドのメンテナンス作業を行うことを開示している。上記メンテナンスとしては、インクの空吐出等が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
空吐出を行う場合、吐出ヘッドを、上記空吐出を行う位置であるメンテナンス位置まで移動させる必要がある。しかしながら、吐出ヘッドの移動中に紫外線の反射光がノズルに照射されてしまうと、ノズル内のインクの硬化が進むという課題がある。また、吐出ヘッドをメンテナンス位置まで移動させる時間が長ければ、ノズル内のインクの硬化が進み易くなる結果、当該ノズルについて空吐出を行ったとしても硬化インクを除去することが困難となることがあった。
【0005】
そこで、本発明は、ノズル内の紫外線硬化型のインクが紫外線の照射時又は照射後に硬化することを抑制することができる画像記録装置、画像記録方法および画像記録プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る画像記録装置は、主走査方向に移動し、被印刷媒体に紫外線硬化型のインクを吐出するノズルを有する吐出ヘッドと、前記紫外線硬化型のインクを硬化させるため、紫外線をする光源と、前記被印刷媒体を前記吐出ヘッドに対して前記主走査方向に直交する副走査方向に相対移動させる移動機構と、コントローラと、を備え、前記コントローラは、少なくとも前記光源による紫外線の照射時に前記吐出ヘッド内の前記インクを非吐出で撹拌させる撹拌処理を実行するものである。
【0007】
本発明に従えば、少なくとも光源による紫外線の照射時に吐出ヘッド内の紫外線硬化型のインクが非吐出で撹拌される撹拌処理が実行される。これにより、ノズル内の紫外線硬化型インクに紫外線光源からの散乱光および被印刷媒体からの反射光が照射されたとしても、上記撹拌処理によって、ノズル内のインクが紫外線の照射時又は照射後に硬化してしまうことを抑制することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ノズル内の紫外線硬化型のインクが紫外線の照射時又は照射後に硬化することを抑制することができる画像記録装置、画像記録方法および画像記録プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る画像記録装置を示す斜視図である。
【
図2】
図1の画像記録装置に備わるインク吐出装置を示す平面図である。
【
図4】紫外線照射装置における発光ダイオードチップを示す図である。
【
図5】
図1の画像記録装置の構成要素を示すブロック図である。
【
図6】(a)はプラテンとノズルとの距離がハイギャップであることを示す図であり、(b)は前記距離がローギャップであることを示す図である。
【
図7】非吐出フラッシングを実行しない場合におけるインクの吐出状態を説明するための図である。
【
図8】プラテンおよびノズル間の距離とノズルへの反射光の照度との関係を示すシミュレーション結果に係るグラフである。
【
図9】本実施形態の画像記録方法を簡略的に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係る画像記録装置について図面を参照して説明する。以下に説明する画像記録装置は本発明の一実施形態に過ぎない。従って、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で追加、削除および変更が可能である。
【0011】
図1は本発明の一実施形態に係る画像記録装置1を示す斜視図である。
図1において、互いに直交する方向を、上下方向、左右方向、および前後方向とする。なお、左右方向が後述の主走査方向Dsであり、前後方向が後述の副走査方向Dfである。この画像記録装置1は、印刷用紙等の被印刷媒体Wへの印刷のみならず、例えば各種グッズに印刷するグッズ等の樹脂等の被印刷媒体Wに印刷するグッズプリントをも行うものである。
【0012】
図1に示すように、本実施形態の画像記録装置1は、筐体2と、操作キー4と、表示部5と、被吐出媒体Wが配置されるプラテン6と、上部カバー7とを備える。また、画像記録装置1は後述のインク吐出装置1a(
図2)およびコントローラ19(
図5)を備える。
【0013】
筐体2は箱状に形成されている。筐体2は前面に開口部2aを有すると共に背面に図略の開口部を有している。筐体2の右側前方の位置には操作キー4が設けられている。また、操作キー4の後方の位置には表示部5が設けられている。操作キー4はユーザによる操作入力を受け付ける。表示部5は例えばタッチパネルで構成され、所定情報を表示する。表示部5の一部は所定のタイミングで操作キーとしても機能する。コントローラ19は、操作キー4からの入力又は図略の通信インタフェースを介する外部入力に基づき印刷機能を実現すると共に表示部5の表示を制御する。
【0014】
プラテン6は移動機構に相当し被印刷媒体Wを載置可能に構成されている。プラテン6は所定の厚みを有し、例えば副走査方向Dfを長手方向とする矩形状の板材により構成される。プラテン6は図略のプラテン支持台により、取り外し可能に支持されている。プラテン支持台は搬送モータ33(
図5)の駆動により被印刷媒体Wへの印刷を実行する印刷位置と被印刷媒体Wをプラテン6から取り外す着脱位置との間で副走査方向Dfに移動可能に構成される。これにより、プラテン6は被印刷媒体Wを吐出ヘッド10に対して副走査方向Dfに相対移動させる。上記印刷位置とはプラテン6が後述の吐出ヘッド10に対向する位置であり、上記着脱位置とはプラテン支持台が筐体2の外側に配置される位置であって被印刷媒体Wをプラテン6上に載置可能な位置である。印刷時には、プラテン6が副走査方向Dfに移動するので、プラテン6上に載置された被印刷媒体Wは副走査方向Dfに搬送される。
【0015】
上部カバー7は、その前部を持ち上げると上方へ回動するように構成されている。これにより、筐体2の内部が露出するようになっている。
【0016】
図2に示すように、インク吐出装置1aは、貯留タンク62、2つの吐出ヘッド10(10A,10B)と2つの紫外線照射装置40(40A,40B)が搭載されたキャリッジ3、および、一対のガイドレール67を備える。吐出ヘッド10としては、例えば紫外線硬化型のインクを吐出するインクジェットヘッドを用いることができる。
【0017】
キャリッジ3は、主走査方向Dsに延在する一対のガイドレール67に支持され、当該ガイドレール67に沿って主走査方向Dsに往復動する。これにより、2つの吐出ヘッド10(10A,10B)と2つの紫外線照射装置40(40A,40B)は主走査方向Dsに往復動可能になっている。吐出ヘッド10はチューブ62aを介して貯留タンク62に接続される。
【0018】
本実施形態において、例えば、吐出ヘッド10Aは、カラーインクと総称されることがあるイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、およびブラック(K)の各色のインクを吐出する。以上の4色のインクが被印刷媒体Wに吐出されることで当該被印刷媒体Wにカラー画像が印刷される。一方、吐出ヘッド10Bは、ホワイト(W)のインクおよびクリア(Cr)のインクを吐出する。被印刷媒体Wとしての例えば布帛にカラー画像を印刷する際には、当該布帛の色や布帛の材質への影響を低減するために、下地インクとして白インクが先に吐出され、当該白インクの上にカラーインクが吐出される。また、クリアインクは光沢を付与する場合や印刷部分の保護を行う場合に吐出される。
【0019】
貯留タンク62にはインクが貯留されている。貯留タンク62はインクの種類ごとに設けられている。貯留タンク62は、例えば6つ設けられ、ブラック、イエロー、シアン、マゼンタ、ホワイト、およびクリアのインクがそれぞれ貯留される。
【0020】
ここで、
図2に示すように、インク吐出装置1aはさらにパージ部50およびワイプ部54を備える。パージ部50およびワイプ部54は、キャリッジ3の移動領域に重なるように一対のガイドレール67のうち主走査方向Dsの一端側に配置されている。
【0021】
パージ部50は、キャップ51、吸引ポンプ52および昇降機構53を有している。吸引ポンプ52は、キャップ51に接続されている。昇降機構53は、吸引位置と待機位置との間でキャップ51を昇降する。待機位置では、吐出面NM(
図3)はキャップ51から離間する。一方、吸引位置では、吐出面NMがキャップ51に覆われ、密閉空間が形成される。キャップ51が吸引位置にあるとき、吸引ポンプ52が駆動されると、密閉空間が吸引されて、後述のノズル孔121a(
図3)からインクが排出される。このようにして、ノズル121から強制的にインクを排出させるパージ処理が実行される。なお、パージ処理は、後述する攪拌処理の後に行われてもよい。
【0022】
ワイプ部54は、2つのワイパー55,56、および移動機構57を有している。2つのワイパー55,56は移動機構57に支持されている。吐出面NMがこれらのワイパー55,56に対向する位置に配置された状態で移動機構57が副走査方向Dfに移動する。これにより、2つのワイパー61,62は副走査方向Dfに移動しつつワイプ動作(つまり吐出面NMの払拭)を行う。
【0023】
次に、
図3に示すように、吐出ヘッド10は貯留タンク62からのインクを用いて液滴を吐出する複数のノズル121を有する。吐出ヘッド10は流路形成体と容積変更部の積層体を有している。流路形成体には、その内部にインク流路が形成され、その下面である吐出面NMに複数のノズル孔121aが開口している。また、上記の容積変更部は、駆動されてインク流路の容積を変更する。このとき、ノズル孔121aではメニスカスが振動してインクが吐出される。以下、吐出ヘッド10の構成について詳細に説明する。
【0024】
吐出ヘッド10の上述の流路形成体は複数のプレートの積層体であり、容積変更部は振動板155およびアクチュエータ(圧電素子)160を含む。振動板155の上には絶縁膜156が接続されており、当該絶縁膜156の上には後述の共通電極161が接続されている。
【0025】
複数のプレートは、下から順に、ノズルプレート146、スペーサプレート147、第1流路プレート148、第2流路プレート149、第3流路プレート150、第4流路プレート151、第5流路プレート152、第6流路プレート153、および第7流路プレート154を含んで積層されている。
【0026】
各プレートには大小種々の孔および溝が形成されている。各プレートが積層された流路形成体の内部では孔および溝が組み合わされて、複数のノズル121、複数の個別流路164およびマニホールド122がインク流路として形成されている。
【0027】
ノズル121はノズルプレート146を積層方向に貫通し形成されている。ノズルプレート146の吐出面NMには、ノズル121の先端である複数のノズル孔121aが副走査方向Dfに複数並んでノズル列を形成している。
【0028】
マニホールド122は、インクの吐出圧力が付与される圧力室128に対してインクを供給する。マニホールド122は、副走査方向Dfに延在しており、複数の個別流路164の各一端にそれぞれ接続されている。すなわち、マニホールド122はインクの共通流路として機能する。マニホールド122は、第1流路プレート148~第4流路プレート151を積層方向に貫通した貫通孔および第5流路プレート152の下面から窪んだ窪みが積層方向に重なって形成されている。
【0029】
ノズルプレート146はスペーサプレート147の下方に配置されている。そのスペーサプレート147は例えばステンレス鋼材で形成される。スペーサプレート147は、例えばハーフエッチングによりノズルプレート146側の面からスペーサプレート147の厚み方向に凹むことで、ダンパ部147aを成す薄肉部分とダンパ空間147bとが形成される凹部145を有している。このような構成により、マニホールド122とノズルプレート146との間には、バッファー空間としてのダンパ空間147bが形成される。
【0030】
マニホールド122には供給ポート122aが連通している。供給ポート122aは例えば筒状に形成され、副走査方向Dfの一端に設けられている。なお、マニホールド122と供給ポート122aとは図略の流路により繋がっている。
【0031】
複数の個別流路164はマニホールド122にそれぞれ接続されている。個別流路164は、その上流端がマニホールド122に接続され、その下流端がノズル121の基端に接続されている。個別流路164は、第1連通孔125、個別絞り路である供給絞り路126、第2連通孔127、圧力室128、およびディセンダ129で構成されており、これらの構成要素はこの順で配置される。
【0032】
第1連通孔125は、その下端がマニホールド122の上端に接続し、マニホールド122から積層方向の上方に延び、第5流路プレート152における上側部分を積層方向に貫通している。
【0033】
供給絞り路126の上流端は第1連通孔125の上端に接続されている。供給絞り路126は、例えばハーフエッチングにより形成され、第6流路プレート153の下面から窪んだ溝により構成されている。また、第2連通孔127は、その上流端が供給絞り路126の下流端に接続され、供給絞り路126から積層方向の上方に延び、第6流路プレート153を積層方向に貫通して形成されている。
【0034】
圧力室128は、その上流端が第2連通孔127の下流端に接続されている。圧力室128は、第7流路プレート154を積層方向に貫通して形成されている。
【0035】
ディセンダ129は、スペーサプレート147、第1流路プレート148、第2流路プレート149、第3流路プレート150、第4流路プレート151、第5流路プレート152、および第6流路プレート153を積層方向に貫通して形成されている。ディセンダ129は、その上流端が圧力室128の下流端に接続され、下流端がノズル121の基端に接続されている。ノズル121は、例えば積層方向においてディセンダ129に重なり、幅方向においてディセンダ129の中央に配置されている。
【0036】
振動板155は、第7流路プレート154の上に積層されており、圧力室128の上端開口を覆っている。
【0037】
アクチュエータ160は、共通電極161、圧電層162および個別電極163を含み、これらはこの順で配置されている。共通電極161は、絶縁膜156を介して振動板155の全面を覆っている。圧電層162は、圧力室128ごとに設けられ、当該圧力室128に重なるように共通電極161上に配置されている。個別電極163は、圧力室128ごとに設けられ、圧電層162上に配置されている。1つの個別電極163、共通電極161および両電極で挟まれた部分の圧電層162により1つのアクチュエータ160が構成される。
【0038】
個別電極163はドライバICに電気的に接続されている。このドライバICは、図略の制御部から制御信号を受けて、駆動信号(電圧信号)を生成し、個別電極163に印加する。これに対し、共通電極161は常にグランド電位に保持されている。このような構成において、駆動信号に応じて、圧電層162の活性部が、2つの電極161,163と共に面方向に伸縮する。これに応じて、振動板155が協働して変形し、圧力室128の容積を増減する方向に変化する。これにより、インクをノズル121から吐出させる吐出圧力が圧力室128に付与される。
【0039】
以上のような吐出ヘッド10において、インクは、供給ポート122aを介してマニホールド122に流入すると、当該マニホールド122から第1連通孔125を介して供給絞り路126に流入し、供給絞り路126から第2連通孔127を介して圧力室128に流入する。その後、インクはディセンダ129を流れ、ノズル121に流入する。ここで、アクチュエータ160により圧力室128に吐出圧力が付与されると、インクはノズル孔121aから吐出される。
【0040】
続いて、
図4は紫外線照射装置における発光ダイオードチップDTを示す図である。
図4に示すように、紫外線照射装置40は、支持基板41および当該支持基板41に配置されて紫外線を発光する複数の発光ダイオードチップDTを有する。紫外線照射装置40又は発光ダイオードチップDTは、光源に相当し、吐出ヘッド10により吐出されたインクを硬化させるための紫外線を照射する。発光ダイオードチップDTは紫外線を発生させる半導体素子である。各発光ダイオードチップDTは、例えば主走査方向Dsおよび副走査方向Dfにそれぞれ所定間隔で規則的に配置されている。各発光ダイオードチップDTは例えばマトリクス状に配置されている。
【0041】
次に、本実施形態の画像記録装置1の各構成要素についてブロック図を参照しつつ説明する。
図5に示すように、本実施形態の画像記録装置1は、上述の構成要素の他、コントローラ19、読取装置26、モータドライバIC30,31、ヘッドドライバIC32,35、搬送モータ33、キャリッジモータ34、照射装置ドライバIC36,37、パージドライバIC38、および、ワイプドライバIC39を備えている。
【0042】
コントローラ19は、CPU20、記憶部(ROM21、RAM22、EEPROM23、HDD24)、およびASIC25を有している。CPU20は、画像記録装置1の制御部であり、上記記憶部に接続されていると共に各ドライバIC30~32,35~39および表示部5を制御する。
【0043】
CPU20は、ROM21に記憶された本実施形態の画像記録プログラムを実行することにより、種々の機能を実行する。CPU20は、コントローラ19に1つのプロセッサとして実装されていてもよいし、互いに協働する複数のプロセッサとして実装されていてもよい。画像記録プログラムは、コンピュータ読取可能な光磁気ディスク等又はUSBフラッシュメモリ等の記録媒体KBから読取装置26で読み出されてROM21に記憶される。また、ROM21にはプラテン6とノズル121の吐出面NMとの距離hの閾値が記憶される。RAM22にはCPU20の演算結果が記憶される。EEPROM23にはユーザが入力した各種の初期設定情報が格納されている。HDD24には特定情報などが記憶される。
【0044】
ASIC25には、モータドライバIC30,31と、ヘッドドライバIC32,35と、照射装置ドライバIC36,37と、パージドライバIC38と、ワイプドライバ39とが接続されている。CPU20は、ユーザから印刷ジョブを受け付けると、画像記録プログラムに基づいて画像記録指令をASIC25へ出力する。ASIC25は、画像記録指令に基づいて各ドライバIC30~32,35~39を駆動する。CPU20は、モータドライバIC30により搬送モータ33を駆動することでプラテン6を副走査方向Dfに移動させる。CPU20は、モータドライバIC31によりキャリッジモータ34を駆動することでキャリッジ3を主走査方向Dsに移動させる。CPU20は、ヘッドドライバIC32,35により吐出ヘッド10からインクを吐出させる。CPU20は、照射装置ドライバIC36,37により紫外線照射装置40A,40Bの各発光ダイオードチップDTから紫外線を照射させる。CPU20は、パージドライバIC38によりパージ部50の吸引ポンプ52および昇降機構53を駆動する。CPU20は、ワイプドライバIC39によりワイプ部54の移動機構57を駆動する。
【0045】
図6はプラテン6とノズル121の吐出面NMとの距離hを説明するための図である。
図6(a)に示すように、本実施形態においてプラテン6と吐出面NMとの距離hが最も大きい場合の距離がハイギャップGHである。また、
図6(b)に示すように、プラテン6と吐出面NMとの距離hが最も小さい場合の距離がローギャップGLである。ハイギャップGHは例えば18mmである。ローギャップGLは例えば2mmである。距離hがハイギャップGHとなる場合の印刷モードをハイギャップ印刷モードと呼び、距離hがローギャップGLとなる場合の印刷モードをローギャップ印刷モードと呼ぶ。印刷ジョブには、ハイギャップGHにて印刷を行うハイギャップ印刷モードおよびローギャップGLにて印刷を行うローギャップ印刷モードを指示する情報が含まれる。
【0046】
ここで、本実施形態において、コントローラ19は少なくとも発光ダイオードチップDTによる紫外線の照射時に吐出ヘッド10内のインクを非吐出で撹拌させる撹拌処理(非吐出フラッシングと呼ぶ)を実行する。詳しくは、コントローラ19は、少なくとも紫外線の照射時に、インクの吐出時とは異なる駆動信号をアクチュエータ160に与えることで、ノズル121内のインク、圧力室128内のインクおよびディセンダ129内のインクをそれぞれ撹拌させる。この場合、上記駆動信号はインクのメニスカスが下方に凸状になっている状態であっても液滴が吐出されない信号である。以下、本実施形態における非吐出フラッシングについて、詳細に説明する。
【0047】
図7は非吐出フラッシングを実行しない場合におけるインクの吐出状態を説明するための図である。
図7を用いて、ノズル121への反射光の各照度に応じた、非吐出フラッシングの有り無しの場合における吐出状態を説明する。なお、上記反射光とは、発光ダイオードチップDTから出射された光が当該発光ダイオードチップDT、プラテン6および被印刷媒体Wの少なくとも何れかで反射した光である。
【0048】
図7に示すように、ノズル121への反射光の照度が0mW/cm
2および5mW/cm
2であるときには、非吐出フラッシングの有り無しに関わらず、吐出状態は良好である。これにより、反射光の照度が5mW/cm
2以下であるときには、不吐出になるノズル121が存在しないことが分かる。これに対して、ノズル121への反射光の照度が10mW/cm
2であるとき、非吐出フラッシングを実行すれば良好な吐出状態を確保することはできるが、非吐出フラッシングを実行しない場合には良好な吐出状態とならない部分(同図において丸で囲った部分)が存在する(つまり、不吐出になるノズル121が存在する)。以上のことから、反射光の照度の閾値を5mW/cm
2とする。
【0049】
次に、
図8は、プラテン6とノズル121の吐出面NMとの距離hと、ノズル121への反射光の照度との関係を示すシミュレーション結果に係るグラフである。
図8には、ノズル121に対するプラテン6からの反射光(以下、プラテン反射光と呼ぶ)の照度と距離hとの関係、ノズル121に対する陶器材からなる被印刷媒体Wからの反射光(以下、陶器材反射光と呼ぶ)の照度と距離hとの関係、および、ノズル121に対するステンレス材からなる被印刷媒体Wからの反射光(以下、ステンレス材反射光と呼ぶ)の照度と距離hとの関係が示されている。
【0050】
図8において、上述の通り反射光の照度の閾値を5mW/cm
2とするとき、プラテン反射光、陶器材反射光およびステンレス材反射光のうち、距離hが最小数値(12mm)で当該閾値に達するのはステンレス材反射光である。このようなことから、被印刷媒体Wとしてステンレス材を用いる場合で且つ距離hが12mm以上である場合に、不吐出になるノズル121が存在することが推定される。このような点に鑑み、コントローラ19は、紫外線の照射時であって距離hが予め記憶されている閾値(本実施形態では10mm)よりも大きい場合に撹拌処理としての非吐出フラッシングを実行する。なお、上記閾値はROM21に記憶される。
【0051】
或いは、上記のように閾値を用いた非吐出フラッシングの実行有無の判断の代わりに又はこれと組み合わせて、以下のようにしてもよい。すなわち、コントローラ19は、印刷モードがローギャップ印刷モードおよびハイギャップ印刷モードのうちハイギャップ印刷モードである場合に撹拌処理としての非吐出フラッシングを実行する。このようにハイギャップ印刷モードの時に非吐出フラッシングを実行するのは、距離hが大きくなればなるほど、発光ダイオードチップDTからの出射光の広がりが大きくなり、それ故反射光の照度が大きくなるためである。なお、距離hがローギャップGLよりも大きく且つハイギャップGHよりも小さくなる1又は複数の距離としてミドルギャップが存在する場合には、ハイギャップ印刷モード時およびミドルギャップ印刷モード時に非吐出フラッシングを実行してもよい。
【0052】
次に、本実施形態において吐出ヘッド10の動作および発光ダイオードチップDTの動作について説明する。本実施形態では、吐出ヘッド10は片方向印刷を行い、発光ダイオードチップDTは主走査方向Dsにおける両方向の移動時に紫外線を照射する。以下、詳しく説明する。
【0053】
印刷処理における1パス時にはキャリッジ3は主走査方向Dsの右方(
図1)に移動する。これにより、印刷処理時において吐出ヘッド10および紫外線照射装置40は右方に移動する。この場合、吐出ヘッド10は主走査方向Dsの右方に移動しつつ被印刷媒体Wにインクを吐出せず、発光ダイオードチップDTは主走査方向Dsの右方に移動しつつ被印刷媒体Wに向けて紫外線を照射する。このとき、コントローラ19は全てのノズル121に対して非吐出フラッシングを実行する。なお、このようにインクを吐出しない状態で発光ダイオードチップDTによる紫外線の照射を行うのは、紫外線の積算光量を上げてインクの硬化を十分に行うという観点からである。
【0054】
上記の通り印刷処理の1パスが終了すると、キャリッジ3は2パス目として主走査方向Dsの左方に移動する。これにより、吐出ヘッド10および紫外線照射装置40は主走査方向Dsの左方に移動する。この場合、吐出ヘッド10は主走査方向Dsの左方に移動しつつ被印刷媒体Wにインクを吐出し、発光ダイオードチップDTは主走査方向Dsの左方に移動しつつ、吐出されたインクに対して紫外線を照射する。このとき、インクを吐出しないノズル121に限って、コントローラ19は撹拌処理としての非吐出フラッシングを実行する。
【0055】
以上のように、発光ダイオードチップDTが紫外線を照射するときは、全てのノズル121が、インクの吐出および非吐出フラッシングのうち何れかを行う。このことによって、ノズル121内のインクが撹拌されて紫外線による当該インクの硬化が生じない。
【0056】
続いて、本実施形態における画像記録方法についてフローチャートを用いて説明する。なお、上述の内容と重複することからフローチャートでは簡単に説明を行う。
図9において、プラテン6とノズル121の吐出面NMとの距離hが予め記憶されている閾値よりも大きい場合およびハイギャップ印刷モードにて印刷を行う場合に、撹拌処理としての非吐出フラッシングが実行される(ステップS1)。なお、パスごとの非吐出フラッシングについては上述した通りである。そして、攪拌処理の後、パージ部50によるパージ処理が実行される(ステップS2)。
【0057】
以上のように、本実施形態の画像記録装置1によれば、少なくとも発光ダイオードチップDTによる紫外線の照射時に、吐出ヘッド10内の紫外線硬化型のインクが非吐出で撹拌される撹拌処理が実行される。これにより、ノズル121内の紫外線硬化型インクに発光ダイオードチップDTからの散乱光および被印刷媒体Wからの反射光が照射されたとしても、上記撹拌処理によって、ノズル121内のインクが紫外線の照射時又は照射後に硬化してしまうことを抑制することができる。
【0058】
また、本実施形態では、撹拌処理としての非吐出フラッシングが実行された後、パージ処理が実行されることでノズル121からインクを強制的に排出させることができる。これにより、ノズル121内のインクの重合が進む前に当該インクを排出することができる。
【0059】
また、本実施形態では、紫外線の照射時であって距離hが予め記憶されている閾値(例えば10mm)よりも大きい場合に撹拌処理としての非吐出フラッシングを実行する。これにより、距離hが小さいことに起因して発光ダイオードチップDTからの出射光の広がりがそれほど大きくならない場合にまで非吐出フラッシングを不要に実行することを回避することができる。
【0060】
また、本実施形態では、印刷モードがハイギャップ印刷モードである場合に撹拌処理としての非吐出フラッシングを実行する。これにより、ローギャップ印刷モード時において距離hが小さいことに起因して発光ダイオードチップDTからの出射光の広がりがそれほど大きくならない場合にまで非吐出フラッシングを不要に実行することを回避することができる。
【0061】
さらに、本実施形態では、発光ダイオードチップDTが紫外線を照射するときに、インクを吐出しないノズル121について撹拌処理としての非吐出フラッシングを実行する。このことによって、インクを吐出しないノズル121であっても、当該ノズル121内のインクが撹拌されて紫外線による当該インクの硬化が生じない。
【0062】
(変形例)
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。例えば以下の通りである。
【0063】
上記実施形態では、アクチュエータ160として圧電素子を採用したが、これに限定されるものではなく、サーマルアクチュエータ等の他のアクチュエータを採用してもよい。
【0064】
また、上記実施形態では、被印刷媒体Wをプラテン6により副走査方向Dfに搬送することで、当該被印刷媒体Wを吐出ヘッド10に対して副走査方向Dfに相対移動させるように構成したが、これに限定されるものではない。吐出ヘッド10を被印刷媒体Wに対して副走査方向Dfに移動させることで、当該被印刷媒体Wを吐出ヘッド10に対して副走査方向Dfに相対移動させる構成を実現してもよい。
【0065】
また、上記実施形態では、ハイギャップGHを18mmとし、ローギャップGLを2mmとしたが、ハイギャップGHおよびローギャップGLは上記の値に限定されるものではなく、ローギャップGLがハイギャップGHよりも小さければよい。例えば、ハイギャップGHは7mm以上であり、ハイギャップGHとローギャップGLとの差は5mm以上である。
【0066】
さらに、上記実施形態では、キャリッジ3に2つの吐出ヘッド10(10A,10B)および2つの紫外線照射装置40(40A,40B)を搭載することとしたが、これに限らず、1つの吐出ヘッド10および1つの紫外線照射装置40のみを搭載してもよい。
【符号の説明】
【0067】
1 画像記録装置
3 キャリッジ
6 プラテン
10,10A,10B 吐出ヘッド
19 コントローラ
40,40A,40B 紫外線照射装置
121 ノズル
Df 副走査方向
Ds 主走査方向
DT 発光ダイオードチップ
W 被印刷媒体