(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022100068
(43)【公開日】2022-07-05
(54)【発明の名称】ゴム金属複合体の観察前処理方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/28 20060101AFI20220628BHJP
【FI】
G01N1/28 G
G01N1/28 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020214211
(22)【出願日】2020-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【弁理士】
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100189393
【弁理士】
【氏名又は名称】前澤 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100203091
【弁理士】
【氏名又は名称】水鳥 正裕
(72)【発明者】
【氏名】井村 真咲
【テーマコード(参考)】
2G052
【Fターム(参考)】
2G052AA18
2G052AD32
2G052AD52
2G052EC02
2G052EC18
2G052FD06
2G052GA35
2G052JA07
(57)【要約】
【課題】ゴム金属複合体の断面を観察するための前処理として平滑な断面を得るための時間を短縮する。
【解決手段】ゴムに金属が埋設されたゴム金属複合体の断面を観察するための前処理方法において、ゴム金属複合体10のゴム表面の少なくとも一部に合成樹脂16を被覆し、合成樹脂16を被覆した箇所でワイヤーソーのワイヤー20によりゴム金属複合体10を切断し、その後、切断したゴム金属複合体10の粗断面22に平滑化加工を行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴムに金属が埋設されたゴム金属複合体の断面を観察するための前処理方法であって、
ゴム金属複合体のゴム表面の少なくとも一部に合成樹脂を被覆すること、
前記合成樹脂を被覆した箇所でワイヤーソーによりゴム金属複合体を切断すること、及び、
切断したゴム金属複合体の粗断面に平滑化加工を行うこと、
を含む、ゴム金属複合体の観察前処理方法。
【請求項2】
前記平滑化加工は、シート表面が前記粗断面に対して垂直な姿勢となるようにシートに前記ゴム金属複合体を接着剤により固定すること、及び、前記ゴム金属複合体の前記粗断面を含む一部が遮蔽板からはみ出すように前記シートに遮蔽板を重ね、前記遮蔽板からはみ出した前記ゴム金属複合体の一部にイオンミリング装置によりイオンビームを照射して前記粗断面を平滑化することを含む、請求項1に記載のゴム金属複合体の観察前処理方法。
【請求項3】
前記イオンミリング装置により平滑化された断面に集束イオンビームを照射して更なる平滑化を行う、請求項2に記載のゴム金属複合体の観察前処理方法。
【請求項4】
前記シートは、高分子フィルム、金属板又はガラス板であり、かつ厚み0.9mm以下である、請求項2又は3に記載のゴム金属複合体の観察前処理方法。
【請求項5】
前記ワイヤーソーがダイヤモンドワイヤーソーである、請求項1~4のいずれか1項に記載のゴム金属複合体の観察前処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム金属複合体の断面を観察するための前処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試料の内部構造を観察するために、例えば電子顕微鏡により試料の断面を観察することがなされている。試料の断面を観察するためには、観察前に断面を平滑にしておく必要があり、平滑な断面を得るために種々の方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、高分子材料の相分離構造やラメラ構造を解析するために、高分子材料からなる試料を透明樹脂で包埋した後、イオンミリング法を用いて透明樹脂と試料を研削することで断面を平滑化することが開示されている。
【0004】
特許文献2には、測定対象物から切り出した試料に断面を形成するとともに、透明なガラス板を接着剤により固定し、イオンミリング装置等のイオンビームを前記断面に照射して平滑な断面を形成することが開示されている。
【0005】
特許文献3には、被験物を樹脂に埋め込むことなく平滑性の高い断面を形成するために、金属箔に試料を貼り付けた後、該金属箔を治具の本体部と遮蔽部材との間に挟み込むようにセットし、遮蔽部材側からイオンミリング装置のイオンビームを照射して金属箔に貼り付けられた試料の一部をエッチングすることにより試料の断面を平滑化することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-202834号公報
【特許文献2】特開2009-244240号公報
【特許文献3】特開2019-066394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ゴム金属複合体として、例えばめっきされた金属コードをゴムで被覆してなるゴムコード複合体は、空気入りタイヤにおける補強材として用いられている。ゴム金属複合体においてゴムと金属との接着状態を評価するためにゴム金属複合体の断面を観察する場合、その断面を平滑化することが求められる。しかしながら、ゴム金属複合体は異硬度の材質からなる複合材料であるため、例えば電子顕微鏡観察に適する平滑な断面を形成することは容易ではなく、平滑な断面を得るために長時間の前処理を要する。
【0008】
本発明の実施形態は、ゴム金属複合体の断面を観察するための前処理として平滑な断面を得るための時間を短縮することができる観察前処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態に係るゴム金属複合体の観察前処理方法は、ゴムに金属が埋設されたゴム金属複合体の断面を観察するための前処理方法であって、ゴム金属複合体のゴム表面の少なくとも一部に合成樹脂を被覆すること、前記合成樹脂を被覆した箇所でワイヤーソーによりゴム金属複合体を切断すること、及び、切断したゴム金属複合体の粗断面に平滑化加工を行うこと、を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態によれば、ゴム金属複合体のゴム表面に合成樹脂を被覆し、その被覆した箇所においてワイヤーソーで切断することにより、平滑化加工前の段階で比較的平滑な粗断面を形成することができる。そのため、その後の平滑化加工での処理時間を短縮することができ、結果として平滑な断面を得るための前処理時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態に係る観察前処理方法の流れを示す説明図
【
図2】断面イオンミリング法による平滑化加工の様子を示す斜視図
【
図3】(A)断面イオンミリング法による平滑化加工の様子を示す平面図、(B)同平滑化加工後の平面図
【
図4】実施例1におけるワイヤーソーによる切断面を示すSEM画像
【
図5】比較例1におけるニッパーによる切断面を示すSEM画像
【
図6】実施例1における断面イオンミリング法による平滑化加工後の断面を示すSEM画像
【
図7】(A)実施例1におけるFIB加工後の断面を示すSEM画像、(B)その拡大図
【
図8】実施例2において遮蔽板に重ねるシートとして金属板を用いた断面イオンミリング法による加工後の断面を示すSEM画像
【
図9】(A)
図8の断面イオンミリング法による加工後にFIBによる仕上げ加工を行ったときの加工初期段階の断面のSEM画像、(B)加工後期段階での断面のSEM画像、(C)加工最終段階での断面のSEM画像
【
図10】実施例3において遮蔽板に重ねるシートとして高分子フィルムを用いた断面イオンミリング法による加工後の断面を示すSEM画像
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0013】
本実施形態は、ゴム金属複合体の断面を観察するための前処理として、ゴム金属複合体に平滑な断面を形成する方法である。
【0014】
ゴム金属複合体としては、ゴムに金属が埋設された種々の複合体を用いることができ、例えばめっきされた金属コードをゴムで被覆したゴムコード複合体が好ましい例として挙げられる。ゴムコード複合体は、例えば空気入りタイヤのベルト部材として用いられており、一般にめっきされた金属コードをゴム組成物で被覆して加硫することにより得られる。金属コードとしては、一実施形態としてスチールコードが用いられる。めっきとしては、一実施形態として銅と亜鉛の合金である真鍮めっきが挙げられる。
【0015】
ゴム組成物としては、例えば、ジエン系ゴムに、カーボンブラック等の充填剤と、硫黄等の加硫剤とを配合したものが挙げられる。ゴム組成物には、更に、加硫促進剤、加硫遅延剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、老化防止剤、着色剤、加工助剤、有機酸コバルトからなる接着促進剤、各種フェノール樹脂とその硬化剤としてのヘキサメチレンテトラミンやメラミン誘導体等のメチレン供与体とからなる接着性樹脂などの各種添加剤を配合してもよい。
【0016】
本実施形態に係る観察前処理方法は、(1)ゴム金属複合体のゴム表面の少なくとも一部に合成樹脂を被覆する工程、(2)合成樹脂を被覆した箇所でワイヤーソーによりゴム金属複合体を切断する工程、及び、(3)切断したゴム金属複合体の粗断面に平滑化加工を行う工程、を含む。
【0017】
一実施形態として、
図1に示すように、複数本の金属コード12がゴム14中に埋設されたゴム金属複合体10について説明する。この例では、金属コード12の長さ方向をゴム金属複合体10の軸方向として、当該軸方向に垂直な面を平滑な断面として形成する。
【0018】
工程(1)は、工程(2)においてゴム金属複合体をワイヤーソーで切断しやすくするための前処理工程である。工程(1)では、
図1(A)に示すように、例えばニッパーを用いて適当な長さに切断したゴム金属複合体10を用い、
図1(B)に示すように、ゴム金属複合体10のゴム14の表面に合成樹脂16を被覆する。
【0019】
合成樹脂16は、ゴム金属複合体10の切断予定部を覆う被膜として形成されていればよく、ゴム金属複合体10のゴム表面全体を被覆してもよいが、好ましくはゴム表面の一部を被覆することである。この例では、
図1(B)に示すように、ゴム金属複合体10の軸方向の一箇所においてその全周にわたって環状に形成されている。但し、合成樹脂16は、工程(2)においてワイヤーソーのワイヤー20が押し当てられる部位に設けられていれば、例えば、ゴム金属複合体10の周方向のうちワイヤー20が押し当てられる一方側の表面のみに被膜状に形成されてもよい。
【0020】
合成樹脂16は、ゴム金属複合体10のゴム表面に硬さを付与するために設けられるものであり、ゴム表面よりも硬い被膜を形成できれば、特に限定されないが、速乾性により時間短縮を図れる観点から、瞬間接着剤を用いることが好ましい。例えば、東亞合成株式会社製「アロンアルファ」などのシアノアクリレート系接着剤が好適である。
【0021】
合成樹脂16からなる被膜の厚みは、特に限定されず、例えば0.01~2mmでもよく、0.1~1mmでもよい。
【0022】
工程(2)では、
図1(B)に示すように、合成樹脂16で被覆した箇所にワイヤーソーのワイヤー20を押し当ててゴム金属複合体10を切断する。ワイヤーソーとは、多数の砥粒を表面に固定したワイヤーを切断刃として、該ワイヤーを高速で動かすことにより被切断物を切断する切断装置である。砥粒としては、例えばダイヤモンド、CBN(立方晶窒化ホウ素)、炭化ケイ素等が挙げられる。好ましくはダイヤモンドを砥粒とするダイヤモンドワイヤーソーを用いることである。
【0023】
本実施形態では、ワイヤーソーによりゴム金属複合体10を切断して、切断面としての粗断面を形成する。粗断面の形成方法としてニッパーによる切断が考えられるが、ニッパーを用いた場合、ゴム金属複合体を構成する金属コード等の金属に対してその両側から刃が当たって力がかかることにより、金属の切断端に大きな歪みが生じる。そのため、その後の平滑化加工において平滑な断面を形成するために多大な時間が必要となる。これに対し、ワイヤーソーを用いることにより真っ直ぐ切断することが可能になり、切断端の歪みを最小限に抑えることができる。
【0024】
また、ワイヤーソーを用いてゴム金属複合体10を切断する場合、ゴム金属複合体10の表面のゴム14はその弾力性のためにワイヤー20に押し付けてもワイヤー20が噛み込まず上手く切れないことがある。すなわち、ワイヤー20がゴム14中に入らずに押し返され、切断箇所がずれたりそもそも切断できなかったりすることがある。本実施形態によれば、合成樹脂16により被覆して切断予定部を補強しておくことにより、ゴム14の反発を抑えて切断予定部を的確に切断することができ、平滑化加工前の段階で比較的平滑な粗断面を形成することができる。
【0025】
工程(3)では、工程(2)で切断して得られたゴム金属複合体10の粗断面22に平滑化加工を行う。平滑化加工としては、ワイヤーソーにより形成された粗断面を、例えば電子顕微鏡観察にて構造観察が可能な程度まで平滑化できるものであれば、特に限定されず、種々の加工方法を用いることができる。平滑化加工方法の例としては、イオンミリング装置を用いた断面イオンミリング法や、集束イオンビーム装置を用いた方法が挙げられる。
【0026】
好ましくは断面イオンミリング法を平滑化加工方法として用いることである。一実施形態において、平滑化加工は、
図1(C)及び(D)に示すように、(3-1)シート表面24Aが粗断面22に対して垂直な姿勢となるようにシート24にゴム金属複合体10を接着剤26により固定する工程、及び、(3-2)ゴム金属複合体10の粗断面22を含む一部が遮蔽板28からはみ出すようにシート24に遮蔽板28を重ね、遮蔽板28からはみ出したゴム金属複合体10の一部にイオンミリング装置30によりイオンビーム32を照射して粗断面22を平滑化する工程と、を含む。
【0027】
工程(3-1)は、断面イオンミリング法を行うための前処理工程である。断面イオンミリング法では切削対象となる試料と遮蔽板とが面一になる必要がある。そこで、この例では、試料であるゴム金属複合体10に、遮蔽板28と面一になる平面を形成するべく、平面状のシート24を用いる。
図1(C)及び
図2に示すように、シート24の表面24Aがゴム金属複合体10の粗断面22に対して垂直な姿勢となるように、シート24にゴム金属複合体10を接着剤26により固定する。その際、粗断面22が接着剤26により被覆されないように、粗断面22が接着剤26から露出した状態でゴム金属複合体10をシートに固定する。一例として図示するように、2枚のシート24,25間に、ゴム金属複合体10を、その軸方向がシート24,25の表面と平行になるように挟んで、接着剤26により固定する。
【0028】
なお、遮蔽板と面一になる平面を形成する方法としては、例えば、エポキシ樹脂等の樹脂でゴム金属複合体を包埋し、該樹脂を硬化させた後、精密切断機で該樹脂を機械切断することによりゴム金属複合体の軸方向に平行な平面を該樹脂により形成してもよい。但し、この場合、樹脂の硬化及び精密切断機による機械切断に相当の時間を要するので、工程(3-1)による前処理の方が好ましい。
【0029】
接着剤26としては、ゴム金属複合体10をシート24に固定することができれば、特に限定されないが、速乾性により時間短縮を図れる観点から、瞬間接着剤を用いることが好ましい。例えば、東亞合成株式会社製「アロンアルファ」などのシアノアクリレート系接着剤が好適である。
【0030】
上記シートとしては、例えば、ポリプロピレンフィルム、PETフィルム、PVCフィルム、ポリエチレンフィルムなどの高分子フィルム、アルミニウム板、銅板、鉄板、ステンレス板などの金属板、ガラス板等が挙げられる。
【0031】
これらのうち、ガラス板は透明性を持つため加工場所を視認できるというメリットがある。金属板については、透明性はないものの、熱伝導率が高く、試料にたまった熱を逃がしてくれるので安定した加工が可能であり、また、例えば後で走査型電子顕微鏡観察する際に導電性があるため、観察に有利であるというメリットがある。高分子フィルムについては、透明なフィルムであればガラス板と同様に加工場所を視認できるというメリットがある上に、ハサミ等で簡単に切断することができるのでガラス板に比べて加工しやすい。また、金属板の場合、削りカスが試料断面に付着して試料汚染が生じることがあり、それを除去する仕上げ加工において加工筋が生じることがあるが、高分子フィルムであると、そのような加工筋が生じにくいというメリットがある。なお、金属板のなかでは、銅板の方がアルミニウム板よりも加工筋が生じにくく好ましい。以上より、シートとしては、高分子フィルム又は金属板が好ましく、より好ましくは高分子フィルムである。
【0032】
上記シートの厚みは、遮蔽板と面一になる平面を形成し得る範囲でできるだけ薄いことが好ましい。シートは断面イオンミリング法においてイオンビームにより切削されるものであり、シートの厚みが薄いほど、イオンミリング加工時間を短くできるためである。シートの厚みは0.9mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.5mm以下であり、更に好ましくは0.4mm以下である。シートの厚みの下限は、特に限定されず、例えば0.1mmでもよい。
【0033】
工程(3-2)では、工程(3-1)により得られたシート24に固定したゴム金属複合体10に対して断面イオンミリング法による平滑化加工を行う。
【0034】
詳細には、
図2に示すように、シート24,25間に挟み込んだゴム金属複合体10を試料台33上に載せ、試料台33との間でゴム金属複合体10を挟み込むように遮蔽板28を置いて、シート24におけるゴム金属複合体10を固定した面(即ち、上記表面24A)とは反対側の面(平面)24Bに遮蔽板28を重ねる。
【0035】
その際、
図2及び
図3(A)に示すように、ゴム金属複合体10における粗断面22を含む軸方向一端部10Aを遮蔽板28からはみ出させておく。遮蔽板28の端面からの上記一端部10Aのはみ出し量Pは、特に限定されず、例えば20~350μmでもよく、50~200μmでもよい。
【0036】
遮蔽板28としては、イオンミリング装置のイオンビームを遮蔽することができれば特に限定されず、上記シート24よりもイオンビームによって削られる速度が遅い材料を用いることができ、例えば、ステンレス材、ニッケルめっきを施した金属板などが挙げられる。遮蔽板28の厚みも特に限定されず、上記シート24よりも厚く、例えば2mm以上でもよい。断面イオンミリング法では、遮蔽板28の端面(エッジ)に沿って試料が削られるので、平滑な断面を得るために遮蔽板28の端面は平面状(即ち、イオンビームの照射方向からみて直線状)であることが好ましい。
【0037】
断面イオンミリング法では、遮蔽板28からはみ出した端部10Aに対して、イオンミリング装置30によりイオンビーム32を照射する。すなわち、遮蔽板28側からシート24を介してゴム金属複合体10にイオンビーム32を照射する。イオンビーム32は、平滑化を行う試料表面である粗断面22に対して平行な方向に照射される。これにより、遮蔽板28からはみ出した部分が遮蔽板28の端面に沿って削られることにより、
図3(B)に示すように粗断面22が平滑化されて、平滑な断面34が得られる。平滑な断面34は、ゴム金属複合体10の粗断面22の全体で形成してもよいが、粗断面22の一部で形成してもよい。
【0038】
イオンビームとしては、アルゴン(Ar)イオンビームを用いることができる。イオンビームの加速電圧は特に限定されず、例えば1kV~8kVでもよく、3kV~6kVでもよい。
【0039】
なお、イオンミリング装置30によりイオンビーム32を照射する前に、平滑化を行う粗断面22に対して、金パラジウム蒸着などにより導電膜を形成してもよく、形成しなくてもよい。
【0040】
本実施形態において、断面イオンミリング法により、その後の電子顕微鏡観察等の構造観察を行うのに十分な断面が得られれば、その段階で観察前処理を終了してもよいが、断面イオンミリング法だけで当該構造観察を行うのに十分な断面が得られない場合、平滑面を仕上げ加工してもよい。例えば、一実施形態において、工程(3)は、上記工程(3-1)及び(3-2)の後に、
図1(E)に示すように、(3-3)イオンミリング装置により平滑化した断面34に対し、集束イオンビーム装置40により集束イオンビーム42を照射して更なる平滑化を行う工程を含んでもよい。
【0041】
集束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)とは、イオンを電界で加速したビームを細く絞って集束させたものであり、一般にガリウム(Ga+)イオンビームが用いられる。詳細には、Ga液体金属イオン源から引き出し電極の電界によりGa+イオンビームを発生させ、これをカソードの電界で加速させる。そして、このイオンビームをコンデンサーレンズと対物レンズによって試料上に集束させることにより、Ga+の集束イオンビームが試料表面に照射される。
【0042】
工程(3-3)において、集束イオンビーム装置40は、集束イオンビーム42を断面34に対して平行な方向に照射する。集束イオンビーム42の照射範囲は、工程(3-2)で平滑化された断面34の全体でもよく、電子顕微鏡観察等の構造観察を行う被観察領域のみでもよい。
【0043】
集束イオンビームにはスパッタリング効果があり、集束イオンビームが照射された試料表面は、例えば1~50nm程度の深さで削られる。集束イオンビームの加速電圧は特に限定されず、例えば5~40kVでもよく、20~35kVでもよい。ビーム電流も特に限定されず、例えば65nA以下でもよく、2.5nA~21nAでもよい。試料表面である断面34に対する集束イオンビーム42の照射方向は、断面34に対して20°以下の範囲内(即ち、FIBの照射軸と断面34とのなす角度が20°以内)にあることが好ましい。
【0044】
なお、集束イオンビーム装置40により集束イオンビーム42を照射する前に、仕上げ加工を行う断面34に対して、金パラジウム蒸着などにより導電膜を形成してもよく、形成しなくてもよい。
【0045】
以上によりゴム金属複合体の断面を観察するための前処理がなされ、当該観察に適した平滑な断面を形成することができる。これにより得られた平滑な断面の観察方法としては特に限定されないが、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)などの電子顕微鏡による観察に好適に用いられる。電子顕微鏡による観察方法は特に限定されず、公知の方法により行うことができ、測定倍率としても特に限定されず、例えば500~100000倍でもよく、1000~50000倍でもよい。
【0046】
なお、電子顕微鏡による観察前に、観察を行う断面34に対して、金パラジウム蒸着などにより導電膜を形成してもよく、形成しなくてもよい。
【0047】
一実施形態において、ゴム金属複合体におけるゴムと金属との接着状態を観察する場合、被観察領域としては、ゴムと金属との界面及び/又は界面近傍を含む領域でもよく、そのため、上記工程(3)ではかかる被観察領域を含む範囲で断面を平滑化すればよい。例えば、めっきされた金属コードをゴム組成物で被覆して加硫成形したゴムコード複合体の場合、金属コードとゴムとの間には、めっき層と、めっき層とゴムとの間の反応層とが存在するので、これらのめっき層及び反応層を含む界面とその両側の金属部分及びゴム部分とを含む範囲を上記被観察領域としてもよい。このようにゴムと金属との界面及び/又は界面近傍を含む領域を被観察領域とすることにより、ゴムと金属の接着状態を評価することができる。そのため、例えば空気入りタイヤの材料開発に利用することができる。
【実施例0048】
以下、実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
[実施例1]
ゴム金属複合体として、空気入りタイヤのベルトから取り出したゴムコード複合体を用いた。該ゴム金属複合体は、真鍮めっきされたスチールコードが加硫ゴムで被覆されたものである。ゴム金属複合体をニッパーにより長さ10cm程度に切断し、切断後のゴム金属複合体に対し、上記工程(1)を実施した。すなわち、
図1(B)に示すように、ゴム金属複合体10のゴム表面の一部に瞬間接着剤(東亞合成株式会社製「アロンアルファ」)を塗布して、厚み約0.5mmの合成樹脂16の被膜を形成した。そして、上記工程(2)に従い、合成樹脂16を被覆した箇所でダイヤモンドワイヤーソー(株式会社ニューメタルス エンド ケミカルス コーポレーション製「CS-203」)によりゴム金属複合体10を切断して粗断面22を形成した。
【0050】
次いで、上記工程(3-1)に従い、
図1(C)に示すように、2枚のシート24,25間に、ゴム金属複合体10を、その軸方向がシート24,25の表面と平行になるように挟んで、接着剤26により固定した。シート24としては厚み0.2mmのポリプロピレンフィルムを用い、シート25としては厚み0.2mmのアルミニウム板を用いた。接着剤26としては瞬間接着剤(東亞合成株式会社製「アロンアルファ」)を用いた。
【0051】
その後、上記工程(3-2)に従い、
図1(D)及び
図2に示すように、シート24,25で挟み込んだゴム金属複合体10の粗断面22に対して金パラジウム蒸着を行い、導電膜を作成し、断面イオンミリング法による平滑化加工を行った。遮蔽板28としては厚み2mmのステンレス板を用いた。ゴム金属複合体10の粗断面22を含む軸方向一端部10Aを遮蔽板28の端面からはみ出し量P=約100μmとしてはみ出させた状態でシート24上に遮蔽板28を重ねて、イオンミリング装置30によりイオンビーム32を当該一端部10Aに照射して粗断面22を平滑化した。イオンミリング装置30としては日本電子株式会社製「クロスセクションポリッシャIB-09010CP」を用い、加速電圧は5kVとして、常温にてアルゴンイオンビームを照射した。
【0052】
次いで、工程(3-3)に従い、イオンミリング装置により平滑化した断面34に対し、金パラジウム蒸着を行い、導電膜を作成し、
図1(E)に示すように、集束イオンビーム装置40により集束イオンビーム42を照射して更なる平滑化を行った。集束イオンビーム装置40としては日本エフイー・アイ株式会社製「Helios G4 UC」を用い、加速電圧は30kV、ビーム電流は9.4nA、照射幅は250μmとして、Ga
+イオンビームを照射した。これにより、幅250μmの平滑な断面が得られた。
【0053】
上記工程(2)のワイヤーソーによる切断後の粗断面22に金パラジウム蒸着を行って導電膜を形成したもの、工程(3-2)の断面イオンミリング法による平滑化後の断面34に金パラジウム蒸着を行って導電膜を形成したもの、及び、工程(3-3)の集束イオンビームによる処理後の断面について、それぞれ走査型電子顕微鏡(SEM)による撮影を行った。
【0054】
[比較例1]
実施例1と同じゴム金属複合体を用いて、ニッパーにより長さ1cm程度に切断し、切断後のゴム金属複合体をエポキシ樹脂(リファインテック株式会社製「エポマウント主剤及びエポマウント硬化剤」)で包埋した。エポキシ樹脂の硬化後に、精密切断機でエポキシ樹脂を機械切断してゴム金属複合体の軸方向に平行な平面を形成した。その平面に遮蔽板を重ねて断面イオンミリング法による平滑化加工を行った。その後、イオンミリング装置により平滑化した断面に対して集束イオンビームによる更なる平滑化を行った。断面イオンミリング法及び集束イオンビームによる平滑化の処理条件は実施例1と同様とした。
【0055】
[比較例2]
実施例1と同じゴム金属複合体を用いて、ニッパーにより長さ1cm程度に切断し、切断後のゴム金属複合体に対し、工程(1)及び工程(2)を実施することなく、実施例1と同様の工程(3-1)、工程(3-2)及び工程(3-3)を実施した。
【0056】
実施例1、比較例1及び2について、各処理段階で要した時間を下記表1に示す。
【0057】
【0058】
表1に示すように、実施例1であると、平滑な断面を作製するのに要した時間が18.6時間であり、比較例1及び2に対して大幅な時間短縮が可能であった。
【0059】
その理由として、比較例1,2では、ニッパーによる切断面に断面イオンミリング法による平滑化加工を行っているのに対し、実施例1ではワイヤーソーによる切断面に断面イオンミリング法による平滑化加工を行っていることがある。
図5に示すように、ニッパーによる切断面では、金属コードの切断端に大きな歪みが生じ、金属コードとゴムとの間に大きな隙間が生じており、歪みによる切断面の凹凸の深さは数百μm~1mm程度であった。このような大きな歪みを持つ切断面を断面イオンミリング法により平滑化するためには多大な時間を要し、26時間程度かかった。これに対し、
図4に示すように、ワイヤーソーによる切断面では、歪みや隙間が小さく、切断面の凹凸の深さは数μm程度であった。このように切断面がもともと平滑であるため、断面イオンミリング法により平滑化するための時間を大幅に短縮することができ、13時間程度で平滑な断面が得られた。
【0060】
また、比較例1では、断面イオンミリング法を行うためにエポキシ樹脂でゴム金属複合体を包埋し機械切断により遮蔽板と面一になる平面を形成しており、エポキシ樹脂の硬化のために長時間を要している。これに対し、実施例1であると、シートを用いて遮蔽板と面一になる平面を形成するものであり、エポキシ樹脂の硬化のための時間が不要となるため、この点からも処理時間を大幅に短縮することができる。
【0061】
図6は、実施例1における断面イオンミリング法による平滑化加工後の断面を示すSEM画像である。この例では、断面イオンミリング法による平滑化加工では、加工面が汚く、ゴムと金属コードとの接着界面での観察が不可能であった。そこで、上記のように工程(3-3)による集束イオンビーム(FIB)での平滑化加工を行ったところ、
図7(A)に示すように、幅250μmの範囲内で更なる平滑化によりきれいな断面が得られており、
図7(B)に拡大して示すように接着界面の観察が可能であった。
【0062】
[実施例2,3]
遮蔽板と面一になる平面を形成するためのシートの材質による違いを確認するために、実施例1の工程(3-1)において、実施例2ではシート24,25ともに厚み0.2mmのアルミニウム板を用い、実施例3ではシート24,25ともに厚み0.2mmのポリプロピレンフィルムを用い、その他は実施例1と同様にして平坦な断面を作製した。
【0063】
アルミニウム板を用いて断面イオンミリング法による平滑化加工を行った実施例2の場合、アルミニウム板は熱伝導性が高いことから安定した加工が可能であったが、
図8に示すように、工程(3-2)の断面イオンミリング法による加工後において、削りカスによる汚染部位が発生した。この汚染を除去するために工程(3-3)の集束イオンビームによる平滑化加工を行ったところ、
図9(A)~(D)に示すように、加工が進むにつれて削りカスによる汚染は除去できたものの、カーテン効果と呼ばれる加工筋(縦筋)が生じていた。そのため、加工筋が生じた部位以外で電子顕微鏡による観察を行う必要があり、観察範囲が狭められていた。
【0064】
これに対し、高分子フィルムを用いて断面イオンミリング法による平滑化加工を行った実施例3であると、
図10に示すように、工程(3-2)の断面イオンミリング法による加工後において、削りカスによる汚染が生じておらず、きれいな断面が作製できており、加工筋も生じなかった。
10…ゴム金属複合体、12…金属、14…ゴム、16…合成樹脂、20…ワイヤー、22…粗断面、24…シート、26…接着剤、28…遮蔽板、30…イオンミリング装置、32…イオンビーム、34…断面、40…集束イオンビーム装置、42…集束イオンビーム