(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022100086
(43)【公開日】2022-07-05
(54)【発明の名称】半導体熱処理部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/42 20060101AFI20220628BHJP
C30B 29/36 20060101ALI20220628BHJP
C30B 25/18 20060101ALI20220628BHJP
C30B 25/16 20060101ALI20220628BHJP
C01B 32/963 20170101ALI20220628BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
C23C16/42
C30B29/36 A
C30B25/18
C30B25/16
C01B32/963
H01L21/205
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020214242
(22)【出願日】2020-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】507182807
【氏名又は名称】クアーズテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】井上 昌利
【テーマコード(参考)】
4G077
4G146
4K030
5F045
【Fターム(参考)】
4G077AA03
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(57)【要約】
【課題】炭素材料からなる基材の表面を炭化ケイ素(SiC)の薄膜で覆った半導体熱処理部材において、インラインクリーニング等に使用されるガスに対し十分な耐エッチング性を有するSiC被膜を得ることのできる半導体熱処理部材を提供する。
【解決手段】炭素材料からなる基材2の表面が炭化ケイ素(SiC)からなる薄膜3で被覆された半導体用熱処理部材1であって、前記薄膜は、少なくとも3層に積層されるとともに、少なくとも2種の結晶状態を有し、隣り合う層の結晶状態が異なる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素材料からなる基材の表面が炭化ケイ素(SiC)からなる薄膜で被覆された半導体用熱処理部材であって、
前記薄膜は、少なくとも3層に積層されるとともに、少なくとも2種の結晶状態を有し、隣り合う層の結晶状態が異なることを特徴とする半導体熱処理部材。
【請求項2】
前記薄膜は、前記基材上を被膜するSiC膜第1層と、前記SiC膜第1層上を被膜するSiC膜第2層と、前記SiC膜第2層を被膜するSiC膜第3層とを含み、
前記SiC膜第1層と前記SiC膜第3層とは、前記基材に対し垂直方向の粒径が50μm以下の結晶構造を備え、
前記SiC膜第2層は、前記基材に対し垂直方向の粒径が20μm以下の結晶構造を備えることを特徴とする請求項1に形成された半導体用熱処理部材。
【請求項3】
前記SiC膜第1層と前記SiC膜第3層とは、柱状晶の結晶構造を備え、
前記SiC膜第2層は、柱状に成長していない結晶構造を備えることを特徴とする請求項2に記載された半導体用熱処理部材。
【請求項4】
前記SiC膜第1層と前記SiC膜第2層と前記SiC膜第3層とは、それぞれX線回折における3C-SiC(111),(311),(200),(220),(222)、及び2H-SiC(100),(101),(103)面にピークを有し、
X線回折における3C-SiC(111)面のピーク強度に対する3C-SiC(311)面のピーク強度の比と、3C-SiC(200)面のピーク強度の比と、3C-SiC(220)面のピーク強度の比と、2H-SiC(100)面のピーク強度の比と、2H-SiC(101)面のピーク強度の比と、2H-SiC(103)面のピーク強度の比とは、
前記SiC膜第1層及び前記SiC膜第3層におけるピーク強度の比よりも前記SiC膜第2層におけるピーク強度の比が小さいことを特徴とする請求項2または請求項3に記載された半導体熱処理部材。
【請求項5】
前記薄膜中のFe、Ni、Crの不純物濃度が各々0.05ppm以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載された半導体熱処理部材。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載された半導体熱処理部材の製造方法であって、
チャンバ内において炭素材料からなる基材を支持して該チャンバ内に原料ガスを供給し、前記基材の全面に炭化ケイ素からなる薄膜を形成する工程を備え、
前記基材の全面に炭化ケイ素からなる薄膜を形成する工程において、
チャンバ内圧力を一定に維持しながら加熱温度条件を変更し、隣り合う層の結晶状態が異なる、少なくとも3層からなる前記薄膜を形成することを特徴とする半導体熱処理部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体熱処理部材及びその製造方法に関し、例えばエピタキシャル成膜装置においてウェーハを保持するサセプタに適用可能な半導体熱処理部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンウェーハ上に半導体回路を形成する前処理として、ウェーハ上にエピタキシャル膜を形成する工程がある。ウェーハ上にエピタキシャル膜を形成する場合、該ウェーハを保持するサセプタ(半導体熱処理部材)には、炭素基材に炭化ケイ素(SiC)や炭化タンタル(TaC)をCVDにより被覆したものが用いられている。
【0003】
SiC被覆膜サセプタあるいはTaC被覆膜サセプタに求められる品質として、ウェーハ品質を保てること、規定のライフを全うできること等が挙げられる。また、高品質エピタキシャルウェーハの作製、ウェーハ歩留向上、コストダウンのため、サセプタの耐食性向上は、最先端客先の要望のひとつになっている。
【0004】
ところで、シリコンウェーハにエピタキシャル膜を形成する処理を行うと、サセプタにポリシリコンが堆積することが知られている。サセプタに堆積したポリシリコンは、定期的に塩化水素(HCl)等の還元性ガスと高温処理により除去(クリーニング)される。これにより、サセプタに生じたポリシリコンの堆積による寸法変化やパーティクルの発生をリセットすることができる。
【0005】
しかしながら、サセプタ表面にSiCが被膜されている場合、塩化水素等の還元性ガスと高温処理により堆積したポリシリコンを除去(クリーニング)すると、同時にSiC被膜も侵食される。また、特にSiC被膜表面にFe等の金属不純物が存在すると、SiC被膜の侵食は加速度的に進行することになる。侵食が炭素基材まで到達すると、炭素基材からパーティクルや不純物が放出及び拡散し、ウェーハ品質に影響を与え、ウェーハ歩留を低下させるという課題があった。
【0006】
また、クリーンルームの清浄度を向上させても金属等の不純物を完全に無くすことは困難である。また、金属等の不純物が少ない環境で使用できても、塩化水素等の還元性ガスと高温によるSiC被膜の侵食は無くすことが困難である。よって、耐エッチング性に優れたSiC被膜が求められている。
【0007】
上記問題の解決のため、特許文献1(特表2019-526525号公報)には、SiC被膜において式((200面のピーク強度+220面のピーク強度)/111面のピーク強度)より算出されるX線回折における回折強度比を1.5未満とする方法が開示されている。
また、特許文献2(特開2015-229793号公報)には、SiC被膜において、X線回折におけるSiC(222)面にピークを有し、かつX線回折におけるSiC(111)面のピーク強度に対するSiC(220)面のピーク強度が0.7以上とする方法が開示されている。
【0008】
侵食はSiCの粒界に沿って進行するのが一般的であるが、特許文献1、2に開示された方法にあっては、単一構造および単一面のSiCよりも、複数の面方位が混在していることで、侵食方向がSiC膜表層から炭素基材に向かい直線状に進行し難くなることを利用している。
これら特許文献1、2に開示された方法によれば、CVD装置においてインラインクリーニング等に使用されるガスに対する耐エッチング性に優れたSiC被膜を得ることが期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2019-526525号公報
【特許文献2】特開2015-229793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1、2に開示された方法(SiC被膜)にあっては、複数の面方位を有してはいるが、3C-SiCのみの単一構造であり、SiCの粒界に沿って進展する侵食の速度を遅らせるために不十分であるという課題があった。
前記課題を解決するために本願発明者は鋭意研究を行い、SiC被膜を複数層とし、結晶構造が異なる層を混在させることにで、より効果的に侵食の進行を遅らせることができることを知見した。
【0011】
しかしながら、複数層を形成する際の複数回のコーティングに伴うハンドリング等の発生により、層間に不純物層や酸化層が形成されてしまうことによる不純物放出、不純物拡散および層間膜剥離等の不具合が発生するリスクが高まるという別の課題があった。
また、層間の不純物層等の形成を防止するために、各コーティングの直前にSiC膜表層をクリーニングし(In-site cleaning)、次層を形成させる方法があるが、不純物層や酸化層を完全に除去できない虞や、追加で設備投資が必要となるという課題があった。
【0012】
本発明は、上記事情の下になされたものであり、炭素材料からなる基材の表面を炭化ケイ素(SiC)の薄膜で覆った半導体熱処理部材において、SiC被膜を複数層とし、結晶構造が異なる層を混在させることを前提に本発明をするに至った。
本発明の目的は、炭素材料からなる基材の表面を炭化ケイ素(SiC)の薄膜で覆った半導体熱処理部材において、インラインクリーニング等に使用されるガスに対し十分な耐エッチング性を有するSiC被膜を得ることのできる半導体熱処理部材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するためになされた本発明に係る半導体熱処理部材は、炭素材料からなる基材の表面が炭化ケイ素(SiC)からなる薄膜で被覆された半導体用熱処理部材であって、前記薄膜は、少なくとも3層に積層されるとともに、少なくとも2種の結晶状態を有し、隣り合う層の結晶状態が異なることに特徴を有する。
尚、前記薄膜は、前記基材上を被膜するSiC膜第1層と、前記SiC膜第1層上を被膜するSiC膜第2層と、前記SiC膜第2層を被膜するSiC膜第3層とを含み、前記SiC膜第1層と前記SiC膜第3層とは、前記基材に対し垂直方向の粒径が50μm以下の結晶構造を備え、前記SiC膜第2層は、前記基材に対し垂直方向の粒径が20μm以下の結晶構造を備えることが望ましい。
また、前記SiC膜第1層と前記SiC膜第3層とは、柱状晶の結晶構造を備え、前記SiC膜第2層は、柱状に成長していない結晶構造を備えることが望ましい。
また、前記SiC膜第1層と前記SiC膜第2層と前記SiC膜第3層とは、それぞれX線回折における3C-SiC(111),(311),(200),(220),(222)、及び2H-SiC(100),(101),(103)面にピークを有し、X線回折における3C-SiC(111)面のピーク強度に対する3C-SiC(311)面のピーク強度の比と、3C-SiC(200)面のピーク強度の比と、3C-SiC(220)面のピーク強度の比と、2H-SiC(100)面のピーク強度の比と、2H-SiC(101)面のピーク強度の比と、2H-SiC(103)面のピーク強度の比とは、前記SiC膜第1層及び前記SiC膜第3層におけるピーク強度の比よりも前記SiC膜第2層におけるピーク強度の比が小さいことが望ましい。
また、前記薄膜中のFe、Ni、Crの不純物濃度が各々0.05ppm以下であることが望ましい。
【0014】
このような構成によれば、基材の表面にSiC膜第1層とSiC膜第2層とSiC膜第3層とが形成される。前記SiC膜第1層とSiC膜第2層とにおいては、柱状晶の結晶構造であり、前記SiC膜第1層3aとSiC膜第2層3bとに挟まれた前記SiC膜第2層においては、結晶が微細で成長方向が明確でない(柱状晶に成長していない)構造を有する。
それにより、CVD装置におけるクリーニング時の還元性ガスによる侵食方向がSiC被膜表層(薄膜)から炭素基材に向かって直線状に進行し難くなるため、耐エッチング性をより向上することができる。したがって、ウェーハ歩留が向上し、コストダウンを実現することが可能となる。
【0015】
また、前記課題を解決するためになされた本発明に係る半導体熱処理部材の製造方法は、前記した半導体熱処理部材の製造方法であって、チャンバ内において炭素材料からなる基材を支持して該チャンバ内に原料ガスを供給し、前記基材の全面に炭化ケイ素からなる薄膜を形成する工程を備え、前記基材の全面に炭化ケイ素からなる薄膜を形成する工程において、チャンバ内圧力を一定に維持しながら加熱温度条件を変更し、隣り合う層の結晶状態が異なる、少なくとも3層からなる前記薄膜を形成することに特徴を有する。
このような方法によれば、SiC被膜(薄膜)は、3層からなるが、加熱条件を変更することにより各層を形成することができるため、複数回に分けたコーティング作業が必要なく、リードタイムを短縮することができる。また、層間に不純物層や酸化層が形成されてしまうことによる不純物放出、不純物拡散および層間膜剥離等の不具合が発生するリスクを排除することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、炭素材料からなる基材の表面を炭化ケイ素(SiC)の薄膜で覆った半導体熱処理部材において、インラインクリーニング等に使用されるガスに対し十分な耐エッチング性を有するSiC被膜を得ることのできる半導体熱処理部材及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明に係るサセプタの断面図である。
【
図2】
図2は、
図1のサセプタの一部を拡大した断面図である。
【
図3】
図3は、
図1のサセプタを製造する際に使用するCVD装置を模式的に示した断面図である。
【
図4】
図4は、実施例の結果を示す顕微鏡写真である。
【
図5】
図5(a)、(b)は、実施例の結果を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明にかかる半導体熱処理部材の一実施形態について、
図1乃至
図3に基づいて説明する。図は模式的または概念的なものであり、各部位の厚みと幅との関係、部位間の大きさの比率等は、正確に図示されていない。
また、本実施の形態においては、本発明の半導体熱処理部材として、シリコンウェーハの表面にエピタキシャル膜の形成処理等を行うためにシリコンウェーハを保持するサセプタを適用した例について説明する。
【0019】
図1に示すように、サセプタ1(半導体熱処理部材)は、円板状の炭素基材2を有している。炭素基材2は、例えば厚み1.0~20.0mmの範囲で設定された値に形成されている。この炭素基材2中の不純物濃度(Fe、Ni、Crの金属元素)は、0.05ppm以下に形成されている。
【0020】
また、この炭素基材2は、その全面が炭化ケイ素(SiC)からなる所定厚さ(例えば60μm以上)の薄膜3で被覆されている。
即ち、この薄膜3は、サセプタ1のウェーハ載置面である一の主面F1を被覆する炭化ケイ素からなる薄膜3Fと、一の主面F1と対向する裏の面である他の主面F2を被覆する炭化ケイ素からなる薄膜3Bと、また炭素基材2の外周面を被覆する炭化ケイ素からなる薄膜3Sとから構成されている。
【0021】
また、このサセプタ1は、その一の主面F1に半導体基板を載置する一つの凹形状のザグリ部4が形成された、いわゆる枚葉タイプのサセプタである。
前記ザグリ部4は平面視上円形に形成され、中央に円柱状の凹部4aが形成されている。また、このサセプタ1は、その中心部Oを通る回転軸Lとした円対称性を有している。このとき、ザグリ部4の最深部(中心部O)の深さをToとすると、平均深さTdは、To/2となる。
【0022】
そして、前記サセプタ1の厚さTと前記平均深さTdとの比(T/Td)が、6≦T/Td≦30であることが好ましい。前記サセプタ1の厚さTと前記深さToとの比(T/To)が3≦T/To≦13であることが好ましい。
このように、サセプタ1の厚さTと前記平均深さTdとの比(T/Td)が、6≦T/Td≦30となるように、ザグリ部4が形成されるため、反り抑制の効果を得ることができる。
【0023】
ここで、前記サセプタ1の厚さTと前記平均深さTdとの比(T/Td)が、6未満である場合には、厚さに対しザグリが深すぎることでウェーハの外周成膜が不良となる可能性があり好ましくない。また、前記サセプタ1の厚さTと前記平均深さTdとの比(T/Td)が30を超える場合には、サセプタ1が厚肉化し、炭素基材2の剛性の影響が無視できなくなり、薄膜3での反り量制御が困難になるため、好ましくない。
【0024】
前記したように炭素基材2としては、半導体用サセプタとして適用できる炭素材料が用いられ、薄膜3としては炭化ケイ素が用いられる。薄膜3は、炭素基材2の全面に形成されるもので、炭素基材2からの発塵、不純物の外方拡散を防止、あるいは炭素基材2の全面を保護すると共に、炭素基材2の反りを抑制する役割を有する。
【0025】
ここで、
図2に示すサセプタ1の主面F1に形成された薄膜3Fの膜厚t1の平均に対する他の主面F2に形成された薄膜3Bの膜厚t2の平均の比率は、0.7~1.2の間に形成されている。
前記比率が0.7より小さいと、そのサセプタ1を用いたエピタキシャル成膜工程において、熱伝導性の差異が生じ、均一なエピタキシャル膜を得ることが困難になる。
また、前記比率が1.2より大きいと、薄膜3の膜厚ばらつきに起因する熱伝導性の差異に加えて、サセプタ1の反りが生じやすくなり、エピタキシャル膜が不均一となる。
【0026】
また、サセプタ1の主面F1において、中心部Oと外縁部F1aとにおける膜厚差d1が、主面F1に形成された薄膜3Fの膜厚t1の平均の40%以下になるよう形成されている。
また、好ましくは、サセプタ1の主面F1において、外縁部F1aの最大膜厚と最小膜厚との膜厚差d2が、主面F1に形成された薄膜3Fの膜厚t1の平均の40%以下になるよう形成されている。
【0027】
前記膜厚差d1或いはd2が膜厚t1の平均の40%以下であれば、主面F1における熱伝導の均一性が良好となり、そのサセプタ1を用いたエピタキシャル成膜工程において、均一なエピタキシャル膜を得ることができる。
一方、前記膜厚差が膜厚t1の平均の40%より大きくなると、斑が発生しやすく、主面F1における熱伝導が不均一となり、均一なエピタキシャル膜を得ることができなくなる。
また、炭素基材2の表面に被覆する薄膜3(CVD-SiC)中の不純物濃度(Fe、Ni、Crの金属元素)は、各々0.05ppm以下となされている。それによりウェーハへの不純物添加量を小さくすることができるため、高品質なウェーハを得ることができる。また、不純物汚染を防ぐこともできるため、ウェーハ歩留も向上できる。
【0028】
図2に示すように炭化ケイ素からなる薄膜3は、基材2上に形成されたSiC膜第1層3aと、SiC膜第1層3aの上を被膜するSiC膜第2層3bと、SiC膜第2層3bの上を被膜する最外層のSiC膜第3層3cとからなる。
前記SiC膜第1層3aは、3C-SiCと2H-SiCとが混在し、且つ結晶が基材2側からSiC膜第1層3aの表層に向かい、柱状晶に成長している。この結晶は、基材2に対し垂直方向の粒径が50μm以下に形成され、SiC膜第1層3aの厚さh1は、3~250μmに形成されている。
【0029】
また、前記SiC膜第2層3bは、3C-SiCと2H-SiCとが混在するが、SiC結晶が微細であり、成長方向が明確でない(柱状に成長していない)構造を有する。結晶は、基材2に対し垂直方向の粒径が20μm以下に形成され、SiC膜第2層3bの厚さh2は、3μm以上250μm以下に形成されている。その中でも、10μm以上100μm以下の範囲で形成されていることが好ましい。
また、前記SiC膜第3層3cは、SiC膜第1層3aと同様に3C-SiCと2H-SiCとが混在し、且つ結晶が基材2側からSiC膜第3層3cの表層に向かい、柱状晶に成長している。この結晶は、基材2に対し垂直方向の粒径が50μm以下に形成され、SiC膜第3層3cの厚さh3は、3μm以上250μm以下に形成されている。その中でも、10μm以上100μm以下の範囲で形成されていることが好ましい。
即ち、前記薄膜3は、3層に積層されるとともに、少なくとも2種の結晶状態を有し、隣り合う層の結晶状態が異なる構造に形成されている。
【0030】
前記のようにSiC膜第1層3a、SiC膜第2層3b、及びSiC膜第3層3cの中には、結晶多形(ポリタイプ)として3C-SiCと2H-SiCとが混在しており、それにより複数構造および複数面を有し、エッチングに対する耐久性が高くなるよう形成されている。
具体的には、SiC膜第1層3a、SiC膜第2層3b、及びSiC膜第3層3cにおいて、3C-SiC及び2H-SiCで構成される結晶を含む計8つ以上の結晶構造及び面を含む。前記結晶構造は、X線回折における3C-SiC(111),(311),(200),(220),(222)及び2H-SiC(100),(101),(103)面にピークを有している。
【0031】
SiC膜第1層3a及びSiC膜第3層3cにおいて、X線回折における3C-SiC(111)面のピーク強度に対する3C-SiC(311)面のピーク強度の比は0.200~1.000、3C-SiC(200)面のピーク強度の比は0.015~0.050、3C-SiC(220)面のピーク強度の比は0.150~0.500、2H-SiC(100)面のピーク強度の比は0.003~0.200、2H-SiC(101)面のピーク強度の比は0.003~0.200、2H-SiC(103)面のピーク強度の比は0.003~0.100である。
【0032】
また、SiC膜第2層3bにおいて、X線回折における3C-SiC(111)面のピーク強度に対する3C-SiC(311)面のピーク強度の比は0.003~0.200、3C-SiC(200)面のピーク強度の比は0.003~0.015、3C-SiC(220)面のピーク強度の比は0.003~0.150、2H-SiC(100)面のピーク強度の比は0.003~0.100、2H-SiC(101)面のピーク強度の比は0.003~0.100、2H-SiC(103)面のピーク強度の比は0.003~0.050である。
【0033】
即ち、X線回折における3C-SiC(111)面のピーク強度に対する3C-SiC(311)面のピーク強度の比と、3C-SiC(200)面のピーク強度の比と、3C-SiC(220)面のピーク強度の比と、2H-SiC(100)面のピーク強度の比と、2H-SiC(101)面のピーク強度の比と、2H-SiC(103)面のピーク強度の比とは、SiC膜第1層3a及びSiC膜第3層3cにおけるピーク強度の比よりもSiC膜第2層3bにおけるピーク強度の比が小さくなっている。
【0034】
尚、エピタキシャル成膜処理後において、サセプタ1に堆積したポリシリコンは、定期的に塩化水素等の還元性ガスと高温により除去(クリーニング)される。この際、塩化水素等の還元性ガスと高温により、堆積したポリシリコンを除去(クリーニング)できるが、同時に薄膜3(SiC表面)も侵食される。
ここで、一般的な単一構造や単一面SiCで被覆したサセプタでは、侵食がSiCの粒界に沿って進行し、SiC被膜表層から炭素基材2に向かい直線状に進行することで早期に炭素基材2まで達する。これより、炭素基材2からパーティクルや不純物が放出、拡散し、ウェーハ品質に影響を与え、ウェーハ歩留を低下させる。
【0035】
しかしながら、サセプタ1において複数構造および複数面を有するSiC膜第1層3a、SiC膜第2層3b及びSiC膜第3層3cは、侵食方向がSiC被膜表層から炭素基材2に向かって直線状により進行し難くなる。更に、SiC膜第1層3aとSiC膜第3層3cとの間に形成されたSiC膜第2層3bにおいては、SiC膜第3層3c側からSiC粒子の粒界に沿って進展してきた侵食が、微細で成長方向が明確でない(柱状晶に成長していない)当該層に到達することで、侵食速度が大きく低下する。
このような薄膜3の構成によれば、その表層から基材2に向かい直線状に進行し辛くなるため、耐エッチング性に優れる。よって、ウェーハ歩留向上やコストダウンを実現することが可能となる。
【0036】
前記のようなサセプタ1は、例えば
図3に示すようなCVD装置5を用いることにより製造することができる。
図3に示すCVD装置5は、処理空間を形成するチャンバ10と、キャリアガス(水素ガス)をチャンバ10内に供給するため、チャンバ10側面に設けられたガス流入口11と、流入口11に対向する反対側のチャンバ10側面に設けられたガス流出口12とを有する。また、チャンバ10内においてサセプタ1の炭素基材2の下面側を支持するための支持部20を備えている。また、チャンバ10の上下には、ヒータ部15が設けられ、炉内を所定温度まで昇温可能に構成されている。
【0037】
このCVD装置5を用いてサセプタ1を製造する場合、予め円形のザグリ部が形成された炭素材料からなる炭素基材2を、チャンバ10内の支持部20上に配置する。前記炭素基材2としては、直径50~400mmの4,5,6,8,12インチのSiウェーハ用、或いはSiCウェーハ用のものであり、内部の不純物濃度(Fe、Ni、Crの金属元素)が各々0.05ppm以下に形成されたものである。
【0038】
また、ヒータ部15を駆動してチャンバ10内を例えば500℃に昇温し、チャンバ10内をガス流出口12から吸引して真空状態とする。
次にガス流入口11よりキャリアガス(H2)を所定の流量でチャンバ10内に導入する。その後、チャンバ10内を例えば1300℃に昇温し、キャリアガス(希釈ガス)としてH2を用い、原料ガス(SiCl4、C3H8)を所定時間導入する。その際のチャンバ内圧力は10~5500Paの範囲内であればよい。
【0039】
具体的には、90minでチャンバ10内を1200~1300℃まで昇温させ、キープコーティングを120~300minの間行う。これにより3C-SiCと2H-SiCとが混在し、かつ、結晶性に優れた厚さ3~250μmのCVD-SiC層(SiC層第1層3a)が得られる。このCVD-SiC結晶は、基材2(グラファイト)側からSiC被膜表層に向かい、柱状晶に成長している。
【0040】
その後、チャンバ内圧力を一定に維持しながら、60minでチャンバ10内を950~1150℃まで降温させ、キープコーティングを60~300minの間行う。この条件で得られる厚さ3~250μmのCVD-SiC結晶層(SiC第2層3b)は微細で成長方向が明確でない(柱状結晶に成長していない)ことを特徴とする。形態に加え、結晶構造種およびピーク比も異なる。
【0041】
最後に、チャンバ内圧力を一定に維持しながら、270minでチャンバ10内を1200~1300℃まで昇温させ、キープコーティングを120~300minの間行う。これにより3C-SiCと2H-SiCとが混在し、かつ、結晶性に優れた厚さ3~250μmのCVD-SiC層(SiC層第3層3c)が得られる。このCVD-SiC結晶は、基材2(グラファイト)側からSiC被膜表層に向かい、柱状晶に成長している。
以上により、基材2の表面にSiC膜第1層3aとSiC膜第2層3bとSiC膜第3層3cとからなる薄膜3が形成されたサセプタ1が得られる。
【0042】
以上のように本発明に係る実施の形態によれば、サセプタ1において基材2の表面にSiC膜第1層3aとSiC膜第2層3bとSiC膜第3層3cとが形成されている。前記SiC膜第1層3aとSiC膜第2層3bとにおいては、柱状晶の結晶構造であり、前記SiC膜第1層3aとSiC膜第2層3bとに挟まれた前記SiC膜第2層3bにおいては、結晶が微細で成長方向が明確でない(柱状晶に成長していない)構造を有する。
それにより、CVD装置におけるクリーニング時の還元性ガスによる侵食方向がSiC被膜表層(薄膜3)から炭素基材2に向かって直線状に進行し難くなるため、耐エッチング性をより向上することができる。したがって、ウェーハ歩留が向上し、コストダウンを実現することが可能となる。
また、SiC被膜(薄膜3)は、3層からなるが、加熱条件を変更することにより各層を形成することができるため、複数回に分けたコーティング作業が必要なく、リードタイムを短縮することができる。また、層間に不純物層や酸化層が形成されてしまうことによる不純物放出、不純物拡散および層間膜剥離等の不具合が発生するリスクを排除することができる。
【0043】
尚、前記実施の形態においては、本発明に係る半導体用熱処理部材としてサセプタを例に説明したが、本発明にあっては、その形態に限定されるものではなく、炭素基材2の表面にSiC被膜をした半導体用熱処理部材に広く適用することができる。
【実施例0044】
本発明に係る半導体用熱処理部材及びその製造方法について、実施例に基づきさらに説明する。
[実験1]
実験1では、上述した実施形態に示した製造方法に従い半導体熱処理部材を製造し(実施例1)、基材表面に形成されたSiC層の構造を検証した。
図4に実施例1におけるSiC層全体の断面組織の顕微鏡写真(SEM)を示し、
図5に各SiC層の表面組織の顕微鏡写真を示す。
図4に示すように基材上に結晶構造の異なる3層(1層目と3層目は同じ)のSiC層が形成されていることを確認した。具体的には、
図5(a)に示すように2層目では、結晶が柱状に成長せず微細粒子状であることを確認し、
図5(b)に示すように1層目と3層目(写真は1層目を示す)では、結晶が柱状に成長していることが確認された。1層目と3層目に形成された結晶は、基材に対して垂直方向の径が2~80μmであった。一方、2層目に形成された結晶は、基材に対して垂直方向の径が0.1~3μmであった。
【0045】
[実験2]
実験2では、実験1で製造した実施例1のSiC被膜の構造及び面方位におけるX線回折のピーク強度を測定した。測定したピーク強度を
図6のグラフに示し、表1にピーク強度比を示す。
図6のグラフの横軸は、反射角度(2θ)、縦軸はピーク強度である。
図6に示すように、SiC被膜において1層目、2層目及び3層目では、それぞれX線回折における3C-SiC(111),(311),(200),(220),(222)、及び2H-SiC(100),(101),(103)面に反射ピークを有することが確認された。
【0046】
【0047】
また、表1に示すようにSiC被膜において1層目及び3層目では、X線回折における3C-SiC(111)面のピーク強度に対する3C-SiC(311)面のピーク強度の比は0.552、3C-SiC(200)面のピーク強度の比は0.026、3C-SiC(220)面のピーク強度の比は0.290、2H-SiC(100)面のピーク強度の比は0.012、2H-SiC(101)面のピーク強度の比は0.049、2H-SiC(103)面のピーク強度の比は0.033であった。
【0048】
一方、SiC被膜において2層目では、X線回折における3C-SiC(111)面のピーク強度に対する3C-SiC(311)面のピーク強度の比は0.184、3C-SiC(200)面のピーク強度の比は0.012、3C-SiC(220)面のピーク強度の比は0.122、2H-SiC(100)面のピーク強度の比は0.009、2H-SiC(101)面のピーク強度の比は0.014、2H-SiC(103)面のピーク強度の比は0.017であった。
【0049】
この結果から、X線回折における3C-SiC(111)面のピーク強度に対する3C-SiC(311)面のピーク強度の比と、3C-SiC(200)面のピーク強度の比と、3C-SiC(220)面のピーク強度の比と、2H-SiC(100)面のピーク強度の比と、2H-SiC(101)面のピーク強度の比と、2H-SiC(103)面のピーク強度の比とは、SiC被膜の1層目及び3層目におけるピーク強度の比よりも2層目におけるピーク強度の比が小さいことを確認した。
即ち、2層目のSiCは1層目及び3層目のSiCとは、形態(組織)に加え、結晶構造/面比率が異なり、半価幅も広いことから結晶サイズも異なるSiCであることを確認した。
【0050】
[実験3]
実験3では、上記本発明の実施形態に沿った3層構造のSiC膜を有するサセプタ(実施例2)と、単一構造および複数面を有するCVD-SiC被覆膜サセプタ(比較例1)とで、クリーニング処理後のSiCの侵食度合いを比較した。
【0051】
(実施例2)
実施例2で使用したSiC被膜の表面組織を
図5(b)に、構造及び面方位におけるX線回折のピーク強度を
図6(1層目および3層目)に示す。2層目には、
図5(a)に示す表面組織を有し、
図6(2層目)に示す構造及び面方位におけるX線回折のピーク強度を有するSiC被膜を導入した。この3層からなるCVD-SiC被覆膜サセプタを作製した。
【0052】
実施例2では、ポリシリコンのクリーニングは、1~10000Paの減圧環境にて800~1400℃に加熱した炉内に塩化水素を1~500L/minで導入し、1~120min実施した。
実施例2の結果、最大59回のクリーニングに耐えることができた。
【0053】
(比較例1)
比較例1において使用したSiC被膜の表面組織を
図7に、構造及び面方位におけるX線回折のピーク強度を
図8に示す。2層コーティングで、単一構造および複数面を有するCVD-SiC被覆膜サセプタを作製した。SiCは2層ともに同じ条件でコーティングを行ったため、表面組織、構造及び面本位は2層ともに同等である。
【0054】
比較例1でのクリーニング条件(実験条件)は実施例2と同じとした。
比較例1の結果、46回で侵食が炭素基材まで到達することで発生するパーティクルが発生した。
【0055】
本実施例の結果、SiC被膜が本実施の形態に示した3層構造を有することにより、クリーニング時の還元性ガスに対する耐エッチング性をより向上することができると確認した。