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特開2022-100124回転電機用のロータの製造方法及び回転電機用のロータ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022100124
(43)【公開日】2022-07-05
(54)【発明の名称】回転電機用のロータの製造方法及び回転電機用のロータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/02 20060101AFI20220628BHJP
   H02K 1/28 20060101ALI20220628BHJP
   H02K 1/27 20220101ALI20220628BHJP
【FI】
H02K15/02 K
H02K1/28 A
H02K1/27 501B
H02K1/27 501K
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020214297
(22)【出願日】2020-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】三宅 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】吉長 大豪
(72)【発明者】
【氏名】竹内 健登
(72)【発明者】
【氏名】半田 修也
(72)【発明者】
【氏名】平沢 裕紀
(72)【発明者】
【氏名】大畑 直弘
【テーマコード(参考)】
5H601
5H615
5H622
【Fターム(参考)】
5H601AA03
5H601AA09
5H601CC15
5H601DD01
5H601DD09
5H601DD11
5H601DD18
5H601EE18
5H601EE19
5H601EE20
5H601GA02
5H601GC02
5H601GC12
5H601JJ05
5H601JJ10
5H601KK08
5H601KK11
5H601KK29
5H601KK30
5H615AA01
5H615BB07
5H615PP02
5H615PP07
5H615PP24
5H615SS05
5H615SS09
5H615SS10
5H615SS15
5H622CA02
5H622CA07
5H622CA10
5H622CA13
5H622CB03
5H622CB05
5H622PP09
(57)【要約】
【課題】磁石孔による永久磁石の保持力を効果的に高める。
【解決手段】回転電機用のロータの製造方法であって、中央部に軸孔をそれぞれ有しかつ磁石孔をそれぞれ有する複数の板状シートを、軸方向に視て軸孔同士のずれが磁石孔同士のずれよりも大きい態様で積層したロータコアと、永久磁石とを準備する準備工程と、ロータコアの磁石孔に永久磁石が軸方向に通された状態を形成する配置工程と、配置工程の後に、軸孔同士のずれを低減又は無くすことで、ロータコアに対して永久磁石を固定する固定工程とを含む、製造方法が開示される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機用のロータの製造方法であって、
中央部に軸孔をそれぞれ有しかつ磁石孔をそれぞれ有する複数の板状シートを、軸方向に視て前記軸孔同士のずれが前記磁石孔同士のずれよりも大きい態様で積層したロータコアと、永久磁石とを準備する準備工程と、
前記ロータコアの前記磁石孔に前記永久磁石が軸方向に通された状態を形成する配置工程と、
前記配置工程の後に、前記軸孔同士のずれを低減又は無くすことで、前記ロータコアに対して前記永久磁石を固定する固定工程とを含む、製造方法。
【請求項2】
前記準備工程は、中空のロータシャフトを準備することを更に含み、
前記配置工程は、前記ロータコアの前記軸孔に前記ロータシャフトが軸方向に通された状態を形成することを更に含み、
前記固定工程は、前記ロータシャフトの中空部の内圧を高めることで、前記軸孔同士のずれを無くしつつ、前記ロータシャフトと前記ロータコアとを締結することを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記配置工程の後であって前記固定工程の前において、前記ロータコアを形成する前記複数の板状シートは、それぞれが、同一位置に同一形状の前記磁石孔を有し、かつ、少なくとも一部が、軸方向に視て前記ロータシャフトの軸心に対して偏心した同一の円形状の前記軸孔を有する、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ロータコアを形成する前記複数の板状シートは、前記軸孔の形状及び位置と前記磁石孔の形状及び位置に関して、それぞれ同じ構成であり、
前記準備工程で準備される前記ロータコアは、前記複数の板状シートを所定角度ずつ回転方向にずらしつつ積層することで形成される、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記固定工程は、前記複数の板状シートの少なくとも一部を変形させることを含む、請求項1~4のうちのいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
周方向の異なる位置に複数の磁石孔を有し、かつ、中央部に軸孔を有するロータコアと、
前記複数の磁石孔のそれぞれに挿入される永久磁石と、
前記ロータコアの前記軸孔に挿入されるロータシャフトとを備え、
前記ロータコアは、前記軸孔及び磁石孔に係る孔形状及び孔位置に関してすべて同じ構成の複数の板状シートにより形成され、
前記複数の板状シートのそれぞれは、前記軸孔の中心に対して偏心した円周に沿って前記複数の磁石孔を有する、回転電機用のロータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転電機用のロータの製造方法及び回転電機用のロータに関する。
【背景技術】
【0002】
磁石孔をそれぞれ有する同一形状の複数の板状シート(ロータコア用の板状シート)を積層し、磁石孔に永久磁石を挿入した後に、一部の板状シートを周方向に回転させることで、磁石孔に永久磁石を密着させようとする技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-049803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来技術では、磁石孔による永久磁石の保持力を効果的に高めることが難しい。すなわち、上記のような従来技術では、一部の板状シートを周方向に回転させても、ロータシャフトをロータコアに圧入して両者を締結するまでの間に、板状シートが周方向に動くことで磁石孔の内壁による永久磁石の挟持力が低下するおそれがある。
【0005】
そこで、1つの側面では、本開示は、磁石孔による永久磁石の保持力を効果的に高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの側面では、回転電機用のロータの製造方法であって、
中央部に軸孔をそれぞれ有しかつ磁石孔をそれぞれ有する複数の板状シートを、軸方向に視て前記軸孔同士のずれが前記磁石孔同士のずれよりも大きい態様で積層したロータコアと、永久磁石とを準備する準備工程と、
前記ロータコアの前記磁石孔に前記永久磁石が軸方向に通された状態を形成する配置工程と、
前記配置工程の後に、前記軸孔同士のずれを低減又は無くすことで、前記ロータコアに対して前記永久磁石を固定する固定工程とを含む、製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
1つの側面では、本開示によれば、磁石孔による永久磁石の保持力を効果的に高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1A】一実施例によるモータの断面構造(軸方向を含む平面で切断した際の断面構造)を概略的に示す断面図である。
図1B】軸方向に垂直な平面で切断した際のモータの断面構造を概略的に示す断面図である。
図2】ロータの製造方法の流れを示す概略フローチャートである。
図3A図2に示す工程における製造途中のワーク等を概略的に示す断面図(その1)である。
図3B図2に示す準備工程で準備される鋼板を概略的に示す図である。
図3C図3AのQ1部の拡大図である。
図3D図2に示す準備工程で準備されるロータコアの転積方法の説明図である。
図3E図2に示す工程における製造途中のワーク等を概略的に示す断面図(その2)である。
図3F】軸方向に視たときの各鋼板とロータシャフトと永久磁石との関係を説明する透視図である。
図3G図2に示す工程における製造途中のワーク等を概略的に示す断面図(その3)である。
図3H図2に示す締結工程で実現される各鋼板の変形の説明図である。
図3I図2に示す工程における製造途中のワーク等を概略的に示す断面図(その4)である。
図3J図3HのラインA-Aに沿った断面視で、永久磁石と磁石孔(鋼板)との間の締結原理を説明する説明図である。
図3K図3HのラインB-Bに沿った断面視で、永久磁石と磁石孔(鋼板)との間の締結原理を説明する説明図である。
図4】変形例による鋼板を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら各実施例について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率はあくまでも一例であり、これに限定されるものではなく、また、図面内の形状等は、説明の都合上、部分的に誇張している場合がある。
【0010】
図1Aは、一実施例によるモータ1(回転電機の一例)の断面構造(軸方向を含む平面で切断した際の断面構造)を概略的に示す断面図である。図1Bは、軸方向に垂直な平面で切断した際のモータ1の断面構造を概略的に示す断面図である。
【0011】
図1Aには、モータ1の回転軸Iが図示されている。以下の説明において、軸方向とは、モータ1の回転軸(回転中心)Iが延在する方向を指し、径方向とは、回転軸Iを中心とした径方向を指す。従って、径方向外側とは、回転軸Iから離れる側を指し、径方向内側とは、回転軸Iに向かう側を指す。また、周方向とは、回転軸Iまわりの回転方向に対応する。
【0012】
モータ1は、例えばハイブリッド車両や電気自動車で使用される車両駆動用のモータであってよい。ただし、モータ1は、他の任意の用途に使用されるものであってもよい。
【0013】
モータ1は、インナロータタイプであり、ステータ21がロータ30の径方向外側を囲繞するように設けられる。ステータ21は、径方向外側がモータハウジング10に固定される。ステータ21は、例えば円環状の磁性体の積層鋼板からなるステータコアを含み、ステータコアの内周部には、コイル22が巻回される複数のスロット(図示せず)が形成される。
【0014】
ロータ30は、ステータ21の径方向内側に配置される。ロータ30は、ロータコア32と、ロータシャフト34とを備える。ロータコア32は、ロータシャフト34の径方向外側に固定され、ロータシャフト34と一体となって回転する。ロータシャフト34は、モータハウジング10にベアリング14a、14bを介して回転可能に支持される。なお、ロータシャフト34は、モータ1の回転軸Iを画成する。
【0015】
本実施例では、ロータシャフト34は、図1Bに示すように、ロータコア32と締結する部分における断面形状(軸方向に視た断面形状)の外形が円形である。ロータシャフト34は、ロータコア32と締結する区間SC1において、後述する厚肉部347の部分を除いて径方向の厚み(内径r1と外径r11の差)は略一定である。
【0016】
ロータシャフト34は、車輪に動力を伝達する動力伝達機構60に連結される。すなわち、ロータシャフト34には、モータ1の回転トルクを車軸(図示せず)に伝達するための動力伝達機構60が接続される。図1Aには、当該動力伝達機構60の一部を形成する軸部材61が図示されている。なお、動力伝達機構60は、減速機構や、差動歯車機構、クラッチ、変速機等を含んでよい。図1Aに示す例では、軸部材61は、ロータシャフト34の径方向外側にスプライン結合される。この場合、ロータシャフト34の端部の径方向外側の周面には、スプライン結合部(複数の軸方向の凸条からなる歯車部)を形成する動力伝達部345を有することになる。なお、軸部材61は、ロータシャフト34の径方向内側にスプライン結合されてもよい。
【0017】
ロータコア32は、電磁鋼板(磁性体の鋼板326、図3B参照)を積層して形成されてよい。本実施例では、各電磁鋼板は、外形が円形であり、中央部に円形の軸孔32aを有する。従って、このような電磁鋼板の積層体であるロータコア32は、回転軸Iに沿って軸方向に貫通する軸孔32aを有する。ロータコア32の軸孔32aには、ロータシャフト34が軸方向に通される。ロータコア32の軸孔32aは、図1Bに示すように、軸方向に視て円形状である。ロータコア32とロータシャフト34とは、軸孔32aに周方向全体にわたりロータシャフト34が接する。
【0018】
ここで、本実施例では、後述するように、ロータコア32とロータシャフト34とは、圧入により締結されるのではなく、ロータシャフト34の拡径により締結される。すなわち、本実施例では、ロータコア32とロータシャフト34とは、非圧入式の締結部70を有し、締結部70において、ロータコア32の軸孔32aに周方向全体にわたりロータシャフト34が接している。なお、このような締結部70は、区間SC1全体にわたって形成される。
【0019】
ロータコア32の磁石孔320には、永久磁石321が挿入される。本実施例では、永久磁石321は、後述するように、ロータコア32の磁石孔320に接着剤等を用いることなく固定される。なお、永久磁石321の配列等は任意である。
【0020】
ロータコア32の軸方向の両側には、エンドプレート35A、35Bが取り付けられる。エンドプレート35A、35Bは、ロータコア32を支持する支持機能の他、ロータ30のアンバランスの調整機能(切削等されることでアンバランスを無くす機能)を有してよい。
【0021】
ロータシャフト34は、図1Aに示すように、中空部343を有する。中空部343は、ロータシャフト34の軸方向の全長にわたり延在する。
【0022】
ロータシャフト34は、図1Aに示すように、軸方向で、ロータコア32が設けられる区間SC1の部位(締結部70を形成する部位)と、ベアリング14a、14bが設けられる区間SC2の部位と、後述する第1噴出孔341及び第2噴出孔342が設けられる区間SC3の部位とを含む。区間SC2は、軸方向の両端部にそれぞれ延在し、区間SC3は、軸方向で区間SC1と区間SC2との間に延在する。
【0023】
本実施例では、一例として、ロータシャフト34は、区間SC2において、外周面が径方向内側に凹む形態である。ロータシャフト34は、大径部34Aと、大径部34Aよりも外径が小さい小径部34Bとを含む。小径部34Bは、図1Aに示すように、軸方向で大径部34Aの両側に形成される。ベアリング14a、14bは、小径部34Bに設けられる。なお、大径部34Aと小径部34Bとの間の径方向の段差は、回転軸Iに対して略直角に形成されてもよいし、テーパ状に形成されてもよい。本実施例では、一例として、大径部34Aと小径部34Bとの間の径方向の段差は、一端側(図の右側)では、回転軸Iに対して略直角に形成され、他端側(図の左側)では、テーパ状に形成されている。
【0024】
また、ロータシャフト34は、軸方向のベアリング支持面34a、34bを有する。軸方向のベアリング支持面34a、34bは、ベアリング14a、14bのインナレースの軸方向の端面に軸方向に当接することで、ベアリング14a、14bを支持する。軸方向のベアリング支持面34a、34bは、ロータシャフト34の小径部34Bにおいて外周面が径方向内側に凹むことで形成される。軸方向のベアリング支持面34a、34bは、ロータシャフト34の周方向の全周にわたり形成されてよい。
【0025】
ロータシャフト34は、径方向内側に凸となる凸部の形態の厚肉部347を周方向に沿って有してもよい。厚肉部347は、ロータシャフト34の軸方向の略中心位置(区間SC1における軸方向の略中心位置)に形成される。ただし、変形例では、厚肉部347は、ロータシャフト34の軸方向の中心位置に対して軸方向で僅かにオフセットされてもよいし、形成されなくてもよい。厚肉部347は、例えば鋳造やフローフォーミング、摩擦圧接等により形成されてもよい。フローフォーミングによる厚肉部347の形成方法は、後述する。なお、摩擦圧接の場合、ロータシャフト34は、当該中心位置で軸方向に分割される2ピースにより形成されてもよい。なお、ロータシャフト34が厚肉部347を備える場合、区間SC1のうちの中央部の剛性が端部の剛性よりも高くなる。
【0026】
ロータシャフト34は、第1噴出孔341を有する。第1噴出孔341は、中空部343から外部へと径方向に貫通する。すなわち、第1噴出孔341は、中空部343に開口する開口341aと、コイル22のコイルエンド22Aに対向する開口341bとを有し、開口341a及び開口341b間に延在する。第1噴出孔341の開口341bは、コイル22のコイルエンド22Aに対向する態様で、ロータコア32に対し軸方向にずれた位置に配置される。なお、第1噴出孔341は、周方向に複数個形成されてもよい。
【0027】
ロータシャフト34は、更に、第1噴出孔341とは異なる軸方向の位置に、第2噴出孔342を有する。第2噴出孔342は、中空部343から外部へと径方向に貫通する。すなわち、第2噴出孔342は、中空部343に開口する開口342aと、コイル22のコイルエンド22Bに対向する開口342bとを有し、開口342a及び開口342b間に延在する。第2噴出孔342の開口342bは、コイル22のコイルエンド22Bに対向する態様で、ロータコア32に対し軸方向にずれた位置に配置される。なお、第2噴出孔342は、周方向に複数個形成されてもよい。
【0028】
ロータシャフト34内は、油供給源90に接続される。油供給源90は、ポンプ94を含んでよい。この場合、ポンプ94の種類や駆動態様は任意である。例えば、ポンプ94は、モータ1の回転トルクにより動作するギアポンプであってもよい。ロータシャフト34内には、ロータシャフト34の一端(図の右側の端部)側から油が供給される。なお、ポンプ94は、モータハウジング10に隣接するハウジング(図示せず)であって、動力伝達機構60を収容するハウジング内に配置されてよい。
【0029】
図1Aでは、一例として、油供給源90は、管路部材92と、管路部材92の一端(図の右側の端部)側に接続されるポンプ94とを含む。
【0030】
管路部材92は、中空に形成され、内部が油路801を画成する。すなわち、管路部材92は、油路801として機能する中空部92Aを有する。中空部92Aは、管路部材92の軸方向の全長にわたり延在する。ただし、中空部92Aは、一端側(図の左側の端部であって、ポンプ94側とは逆側の端部)は開口しない。すなわち、管路部材92は、一端(図の左側の端部)が閉塞される。
【0031】
管路部材92は、ロータシャフト34の内周面340に対して径方向で隙間を有する態様でロータシャフト34内に延在する。
【0032】
管路部材92は、内部から外部へと径方向に貫通する吐出孔93を備える。吐出孔93は、ロータコア32の軸方向の略中心位置に対応する軸方向の位置と、その両側とに設けられる。なお、吐出孔93の軸方向の位置や数等は任意である。
【0033】
次に、図1Aに示す矢印R1~R6を参照して、油供給源90からの油の流れについて概説する。図1Aには、油の流れが矢印R1~R6で模式的に示されている。
【0034】
油供給源90から供給される油は、管路部材92の中空部92Aを通って軸方向に流れ(矢印R1参照)、吐出孔93から径方向外側へと吐出される(矢印R2参照)。吐出孔93から径方向外側へと吐出された油は、ロータシャフト34の内周面340に当たり、ロータシャフト34の内周面340を伝って第1噴出孔341及び第2噴出孔342へと軸方向に流れる(矢印R3、R4参照)。なお、この場合、ロータシャフト34の内周面340を伝って軸方向外側へと流れる油は、区間SC1においてロータコア32の径方向内側から熱を奪うことができ、ロータコア32及び永久磁石321を効率的に冷却できる。
【0035】
ここで、本実施例では、ロータコア32とロータシャフト34とは、軸孔32aに周方向全体にわたりロータシャフト34が接する。従って、本実施例によれば、ロータコア32の軸孔32aとロータシャフト34の外周面との間に隙間が設定される場合に比べて、ロータコア32とロータシャフト34との間の接触面積を効率的に増加できる。この結果、ロータシャフト34の内周面340を伝って流れる油によりロータコア32及び永久磁石321を効率的に冷却できる。
【0036】
また、本実施例では、厚肉部347が設けられるので、吐出孔93から径方向外側へと吐出された油は、第1噴出孔341及び第2噴出孔342のそれぞれへと略均等に分配される。これにより、コイルエンド22A、22Bへと分配して導かれる油の均等化を図ることができる。この結果、ロータコア32を径方向内側から、軸方向に沿って均一に冷却できるとともに、第1噴出孔341及び第2噴出孔342を介してコイルエンド22A、22Bをそれぞれ同様に冷却できる。ただし、変形例では、吐出孔93の軸方向の位置と厚肉部347の軸方向の位置とにズレを設けること等によって、第1噴出孔341及び第2噴出孔342のそれぞれへと流れる油の流量の間に、差(すなわち分配量に関する差)を積極的に設定することも可能である。
【0037】
また、本実施例では、厚肉部347が設けられるので、吐出孔93から径方向外側へと吐出された油は、ある程度の厚みを有しつつ、ロータシャフト34の内周面340を伝うことができる。すなわち、厚肉部347が堰部として機能し、ロータシャフト34の内周面340における油の溜まりが促進される。
【0038】
ロータシャフト34の内周面340を伝って軸方向外側へと流れた油は、モータ1の回転時の遠心力の作用により、第1噴出孔341を通って径方向外側へと吐出される(矢印R5参照)。第1噴出孔341の開口341bは、上述のようにコイルエンド22Aに径方向で対向する。従って、第1噴出孔341を通って径方向外側へと吐出された油は、コイルエンド22Aに当たり、コイルエンド22Aを効率的に冷却できる。
【0039】
また、ロータシャフト34の内周面340を伝って軸方向外側へと流れた油は、モータ1の回転時の遠心力の作用により、第2噴出孔342を通って径方向外側へと吐出される(矢印R6参照)。第2噴出孔342の開口342bは、上述のようにコイルエンド22Bに径方向で対向する。従って、第2噴出孔342を通って径方向外側へと吐出された油は、コイルエンド22Bに当たり、コイルエンド22Bを効率的に冷却できる。
【0040】
このように、本実施例では、ロータシャフト34の内周面340を伝う油の流れを促進することが可能となる。この結果、ロータシャフト34の内周面340を伝う油によりロータコア32を径方向内側から効率的に冷却できるとともに、第1噴出孔341及び第2噴出孔342を介してコイルエンド22A、22Bを効率的に冷却できる。
【0041】
特に、本実施例では、ロータシャフト34の内周面340は、区間SC1での内径r1が、区間SC2での内径r2よりも有意に大きい。すなわち、ロータシャフト34の内周面340は、ロータコア32が設けられる区間SC1において拡径されている。これにより、ロータシャフト34の軽量化が図られるとともに、ロータシャフト34の内周面340と永久磁石321との間の径方向の距離を短くでき(内径r1≒内径r2の場合に比べて短くでき)、磁石冷却性能を効果的に高めることができる。
【0042】
なお、図1Aでは、特定の構造のモータ1が示されるが、モータ1の構造は、中空部343を有するロータシャフト34にロータコア32が締結される限り、任意である。従って、例えば管路部材92等は、省略されてもよい。例えば、管路部材92が省略される場合、軸部材61の中空部から油が供給されてもよい。この場合、軸部材61は、ロータシャフト34の径方向内側に嵌合されてもよい。
【0043】
また、図1Aでは、特定の冷却方法が開示されているが、モータ1の冷却方法は任意である。従って、例えば、ロータコア32に油路が形成されてもよいし、モータハウジング10内の油路により径方向外側からコイルエンド22A、22Bに向けて油が滴下されてもよい。また、図1Aでは、油供給源90の管路部材92は、モータ1における軸方向で動力伝達機構60と接続される側から、ロータシャフト34内に挿入されるが、モータ1における軸方向で動力伝達機構60と接続される側とは逆側から、ロータシャフト34内に挿入されてもよい。また、油冷に加えて、冷却水を利用した水冷方式が利用されてもよい。また、厚肉部347は省略されてもよい。
【0044】
次に、図2及び図3A図3Kを参照して、上述した実施例のモータ1におけるロータ30の製造方法の例について説明する。図3E等には、回転軸Iに平行なZ方向とともに、Z方向に沿ったZ1側とZ2側が定義されている。以下では、説明上、一例として、製造工程中において、Z方向が上下方向に対応し、Z2側が下側であるとする。また、図3E等には、製造装置200における基準軸Iが示される。基準軸Iは、ワークの芯出しの際の中心軸を構成し、上述した回転軸Iに対応する。
【0045】
図2は、ロータ30の製造方法の流れを示す概略フローチャートであり、図3A図3Kは、図2に示すいくつかの工程におけるロータシャフト34及びロータコア32の状態を概略的に示す図である。図3Aから図3Dは、準備工程の説明図である。図3Aは、ワークとしてのロータシャフト34及びロータコア32を概略的に示す断面図である。図3Bは、ロータコア32用の一枚の鋼板326の構成の説明図であり、本実施例による鋼板326が、比較例による鋼板326’との対比ができるように横並びに平面視(軸方向に視たビュー)で示されている。図3Cは、図3AのQ1部の拡大図であり、図3Dは、ロータコア32を形成する複数の鋼板326の積層(転積)方法の説明図である。
【0046】
また、図3E及び図3Fは、配置工程の説明図であり、図3Gは、シール工程及び締結工程の説明図であり、図3Hから図3Kは、締結工程の説明図である。なお、図3E、及び図3Iは、基準軸Iを含む平面で切断した際の断面図であり、図3Fは、軸方向に視たときの各鋼板326とロータシャフト34と永久磁石321との関係を説明する透視図である。図3J及び図3Kは、締結工程後における磁石孔320と永久磁石321の関係の説明図であり、図3Jは、図3HのラインA-Aに沿った概略断面図であり、図3Kは、図3HのラインB-Bに沿った概略断面図である。なお、図3J及び図3Kは、説明用の概略図であり、鋼板326の積層数はあくまで一例であり、実際にはより多い積層数でありうる。
【0047】
まず、ロータ30の製造方法は、ワークとして、永久磁石321とともに、ロータシャフト34及びロータコア32のそれぞれ(互いに結合されていない状態)を、準備する準備工程(ステップS500)を含む。なお、ロータシャフト34の厚肉部347は、フローフォーミング加工又はスピニング加工等により形成されてよい。
【0048】
準備工程で準備されるロータシャフト34は、例えば中心軸Iまわりの回転体であり、軸方向に視た断面形状は円形状である。この段階でのロータシャフト34は、例えば、一定の円形状の外形を、軸方向の全長にわたり有してよい。なお、この段階でのロータシャフト34は、図3Aに示すように、区間SC1に対応する部分の内径r1’及び外径r11’が、製品状態の内径r1(図1A参照)及び外径r11(図1B参照)よりも僅かに小さくてよい。
【0049】
本実施例では、準備工程で準備されるロータコア32は、鋼板326を積層して形成される。この場合、準備工程は、ロータコア32を形成する各鋼板326を準備し、準備した各鋼板326を積層する工程を含んでよい。各鋼板326は、図3Bに示すように、軸方向に視たときの外形及び軸孔32aの形状がともに円形状である。一のロータコア32を形成する複数の鋼板326は、軸孔32a及び磁石孔320に関してそれぞれ同じ構成を有する。なお、この場合、複数の鋼板326は、同一のプレス型により効率的に製造できる。
【0050】
複数の鋼板326のそれぞれは、軸孔32aの中心Ip2に対して偏心した円周CI2に沿って複数の磁石孔320を有する。具体的には、比較例による鋼板326’は、図3Bの左側に示すように、軸孔32aに対して同心状の円周CI1に沿って複数の磁石孔320’を有するのに対して、本実施例による鋼板326は、図3Bの右側に示すように、軸孔32aに対して偏心した円周CI2(中心Ip2まわりの円形)に沿って複数の磁石孔320を有する。換言すると、鋼板326は、軸孔32aの中心Ip2に対して偏心した中心Ip3に関して回転対称となる態様で、複数の磁石孔320を有する。
【0051】
図3Bに示す例では、複数の磁石孔320は、比較例による複数の磁石孔320’に対して、軸孔32aの中心Ip2を通る一の直線(図3Bでは、上下方向の直線)に沿ったオフセット方向に、オフセット量Δ1だけオフセットしている。複数の磁石孔320は、オフセット方向及びオフセット量Δ1が互いに同じである。なお、オフセット量Δ1は、軸孔32aの中心Ip2と中心Ip3との間の距離に対応する。オフセット方向は、任意であるが、任意のq軸やd軸に一致する方向であってもよい。オフセット量Δ1は、過度に大きい値でない限り任意であるが、例えば0.1から0.35mmの範囲内であってよい。なお、一の鋼板326に係る磁石孔320と永久磁石321の間にクリアランスが設定される場合は、オフセット量Δ1は、当該クリアランスよりも大きく設定されてよい。
【0052】
本実施例では、準備工程で準備されるロータコア32は、図3C及び図3Dに模式的に示すように、軸方向に視て軸孔32a同士のずれが磁石孔320同士のずれよりも大きい態様で複数の鋼板326を積層することで、形成される。なお、軸孔32a同士のずれとは、複数の鋼板326のそれぞれが有する軸孔32a同士のずれ(軸方向に垂直な面内のずれ)をいう。また、磁石孔320同士のずれとは、周方向の4箇所の磁石孔320のそれぞれにおいて発生するずれであって、複数の鋼板326のそれぞれが有する磁石孔320同士のずれ(軸方向に垂直な面内のずれ)をいう。本実施例では、磁石孔320同士のずれは実質的になく、軸孔32a同士のずれのみが発生する。ただし、変形例では、磁石孔320同士の有意なずれ(ずれ量が0より有意に大きいずれ)が、当該磁石孔320に永久磁石321が挿入可能な範囲内で設定されてもよい。
【0053】
具体的には、本実施例では、図3Dに模式的に示すように、複数の鋼板326は、90度(所定角度の一例)ずつ互いに対して回転する態様で積層される。すなわち、複数の鋼板326は、4種類の回転角度を有する態様で、積層される。図3Dには、基準の回転角度(0°)の鋼板326(1)と、基準の回転角度(0°)に対して軸Aが時計回りに90度回転した鋼板326(2)と、基準の回転角度(0°)に対して軸Aが時計回りに180度回転した鋼板326(3)と、基準の回転角度(0°)に対して軸Aが時計回りに270度回転した鋼板326(4)からなる4種類の回転角度の鋼板326が模式的に示されている。これら4種類の鋼板326(1~4)は、互いの磁石孔320が軸方向に視て揃う態様で積層される(矢印R61からR64参照)。この場合、軸方向に視て軸孔32a同士のずれが磁石孔320同士のずれよりも大きい態様で複数の鋼板326を積層できる。
【0054】
なお、本実施例において、4種類の鋼板326(1~4)は、それぞれ、一のロータコア32に対して均等な枚数で含まれてよい。例えば、ロータコア32がN枚の鋼板326により形成される場合、4種類の鋼板326(1~4)のそれぞれの枚数は、N/4を超えない最大の整数に対して、当該整数以上の枚数に設定されてよい。ただし、変形例では、特定の種類の鋼板326の数が偏って多くなってもよい。
【0055】
また、本実施例において、4種類の鋼板326(1~4)は、規則的な周期で順に積層されてよい。例えば、複数の鋼板326は、例えば1枚積層するごとに90度ごと回転角度が変化する態様で積層されてよい(図3C参照)。ただし、変形例では、複数の鋼板326は、例えば2以上の一定の所定枚数だけ積層するごとに90度ごと回転角度が変化する態様で積層されてよい。あるいは、ある軸方向の区間では、4種類の鋼板326のうちの2種類が交互に積層され、他の軸方向の区間では、4種類の鋼板326のうちの、他の2種類が交互に積層されるといった具合に積層されてもよい。
【0056】
なお、以下の説明において、ロータコア32の軸孔32aとは、このようにして積層された複数の鋼板326の軸孔32aの軸方向の集合を表す。また、同様に、ロータコア32の磁石孔320とは、このようにして積層された複数の鋼板326の磁石孔320の軸方向の集合を表す。
【0057】
ついで、ロータ30の製造方法は、図3E及び図3Fに示すように、ロータコア32の磁石孔320に永久磁石321が挿入されかつロータコア32の軸孔32aにロータシャフト34が挿入された状態が形成されるように、ロータコア32、ロータシャフト34、及び永久磁石321を、製造装置200に対してセットする工程(ステップS501)(配置工程の一例)を含む。なお、図3E及び図3Fには、配置工程後の状態が示されている。
【0058】
なお、ロータコア32及びロータシャフト34は、いずれか一方が先になる態様で順に製造装置200にセットされてもよいし、仮に組み付けられた状態(サブアセンブリ状態)で製造装置200に同時にセットされてもよい。また、永久磁石321は、ロータコア32が製造装置200にセットされる前に、ロータコア32に対して挿入されてもよいし、ロータコア32が製造装置200にセットされた後に、ロータコア32に対して挿入されてもよい。
【0059】
製造装置200は、製造設備の形態であり、以下で説明する各種の治具や型を備える。図3Eに示す例では、製造装置200は、Z2側の固定型201を備え、固定型201の中空部2011内にロータシャフト34のZ2側の部位(小径部34B及び大径部34Aの端部)が挿入される。このとき、ロータシャフト34は、そのベアリング支持面34bが、固定型201の段差面201bに軸方向に当接することで、固定型201に対して支持されてよい。なお、固定型201の段差面201bは、基準軸Iに対して垂直であり、基準軸Iまわりに全周にわたり形成されてよい。なお、変形例では、固定型201の中空部2011内にロータシャフト34のZ1側の部位(ベアリング14aが設けられる側の小径部34B及び大径部34Aの端部)が挿入されてもよい。
【0060】
このようにして、ロータシャフト34及びロータコア32が、製造装置200の固定型201に対してセットされた状態では、製造装置200の固定型201は、ロータシャフト34及びロータコア32を同時にZ2側から支持し、ロータシャフト34及びロータコア32のZ2側への移動(変位)を拘束する。
【0061】
また、ロータシャフト34及びロータコア32が、製造装置200の固定型201に対してセットされた状態では、ロータコア32を形成する複数の鋼板326は、上述したように、それぞれ、同一位置(ずれのない同一の位置)に磁石孔320を有し、かつ、それぞれ、軸方向に視てロータシャフト34の軸心に対して、すなわち中心軸I(又は基準軸I)に対して偏心した同一の円形状の軸孔32aを有する。なお、配置工程においては、ロータシャフト34の中心軸Iは、基準軸Iに対してある程度の精度で芯出しされてよい。
【0062】
本実施例では、上述したように、準備工程で準備されるロータコア32を形成する複数の鋼板326は、軸方向に視て磁石孔320同士にずれが生じない態様で積層されているので、ロータコア32の磁石孔320への永久磁石321の挿入は比較的容易に実現できる。すなわち、圧入とならず、例えばロータコア32の磁石孔320に対して僅かな隙間を有する態様で永久磁石321を組み付けることができる。ただし、変形例では、ロータコア32の磁石孔320への永久磁石321の挿入は、公差等に起因して締め代が僅かに発生してもよい(すなわち圧入を伴ってもよい)。
【0063】
他方、本実施例では、上述したように、準備工程で準備されるロータコア32を形成する複数の鋼板326は、軸方向に視て軸孔32a同士にずれが生じる態様で積層されている。従って、ロータコア32の軸孔32aにより形成される空間のうちの、軸方向に視て貫通する空間部32bの外形(軸方向に視たときの外形)は、一枚の鋼板326の軸孔32aの外形(軸方向に視たときの外形)よりも小さい(図3D参照)。ロータコア32の軸孔32aにより形成される空間のうちの、軸方向に視て貫通する空間部32b(図3D及び図3F参照)は、好ましくは、図3Fに示すように、軸方向に視て、ロータシャフト34よりも僅かに大きい外形を有する。すなわち、準備工程で準備されるロータシャフト34の外径r11’は、好ましくは、準備工程で準備されるロータコア32の軸孔32a(軸方向に視て貫通する空間部32b)の寸法よりも大きい。この場合、ロータコア32の軸孔32aへのロータシャフト34の挿入は比較的容易に実現できる。すなわち、圧入とならず、例えばロータコア32の軸孔32aに対して僅かな隙間を有する態様でロータシャフト34を組み付けることができる。ただし、変形例では、ロータコア32の軸孔32aへのロータシャフト34の挿入は、公差等に起因して締め代が僅かに発生してもよい(すなわち圧入を伴ってもよい)。
【0064】
ついで、ロータ30の製造方法は、図3Gに示すように、シール型202、203によりロータシャフト34の中空部343をロータシャフト34の外部に対してシールするシール工程(ステップS505)を含む。例えば、Z2側のシール型202を、ロータシャフト34に対してZ2側からZ方向に沿ってZ1側へと移動させ、かつ、可動型205とともにZ1側のシール型203を、ロータシャフト34に対してZ1側からZ方向に沿ってZ2側へと移動させることで、ロータシャフト34をシール型202、203によりシールできる。なお、シール工程に先立って又はシール工程と並列して、ロータシャフト34の中心軸I及びロータコア32の中心軸I図3A参照)を、基準軸Iに対して芯出しする工程が実行されてもよい。なお、ロータコア32の中心軸Iは、当該ロータコア32を形成する複数の鋼板326のそれぞれの軸孔32aを通り、かつ、それぞれの軸孔32aの中心Ip2の位置からの距離(垂線の距離)の合計が最小となるような軸であってよい。
【0065】
ついで、ロータ30の製造方法は、ハイドロフォーミングによりロータシャフト34にロータコア32を締結する締結工程(固定工程の一例)(ステップS506)を含む。例えば、図3Gに模式的に示すように、ロータシャフト34がシール型202、203に押さえられた状態で、中空部343内にシール型202、203を介して流体が導入され、流体を加圧することで、ロータシャフト34の内周面340に対して内周面340に垂直な力(内圧)を付与する(図3Gの矢印R41、矢印R42参照)。これにより、ロータシャフト34が拡径し、ロータシャフト34とロータコア32との間の締結が実現される(図3I参照)。
【0066】
具体的には、締結工程において内圧の上昇が開始されると、ロータシャフト34が拡径し、この際、ロータシャフト34は、ロータコア32を形成する複数の鋼板326の軸孔32a同士のずれを無くす態様で、拡径する。すなわち、複数の鋼板326のそれぞれの軸孔32aの中心Ip2が基準軸I上に位置するように、複数の鋼板326が基準軸Iに対して塑性変形を伴いながら芯出しされる。そして、その後、内圧が更に上昇されると、ロータシャフト34は、ロータコア32の軸孔32aにより径方向の外側への変形(膨張)が拘束されながら拡径することで、ロータコア32の軸孔32aとともに基準軸Iまわりの円形のまま拡径できる。これにより、ロータシャフト34の周方向全体にわたって軸孔32aと接し(すなわち複数の鋼板326の軸孔32a同士のずれが完全に無くなり)、かつ、ロータシャフト34の周方向全体にわたって締め代が略一定となる態様で、ロータコア32とロータシャフト34とが締結される。
【0067】
このようなハイドロフォーミングによれば、圧入のような、ロータシャフト34とロータコア32の嵌合方法で生じうる不都合(例えばバリの発生や、圧入の際のロータコア32の倒れ等)を防止できる。すなわち、ハイドロフォーミングによれば、ロータコア32の軸孔32a内に通した後のロータシャフト34の拡径(径方向の塑性変形)を利用して、ロータコア32とロータシャフト34とを締結するので、バリの発生やロータコア32の倒れが発生することはない。
【0068】
図3Hには、左側に、締結工程前における複数の鋼板326が軸方向に視た透視図で概略的に示され、右側に、締結工程後における複数の鋼板326が軸方向に視た透視図で概略的に示され、下側に、右側の図のQ2部の拡大図が概略的に示されている。なお、図3Hの右側(及びQ2部の拡大図)は、磁石孔320に永久磁石321が挿入されていない場合の、締結工程後における複数の鋼板326が軸方向視で概略的に示されている。
【0069】
ところで、本実施例では、上述したように、締結工程前は、ロータコア32を形成する複数の鋼板326は、軸孔32a同士がずれを有する一方(図3Hの左側参照)で、磁石孔320同士はずれを有さない。締結工程中、磁石孔320同士の関係は、磁石孔320に挿入されている永久磁石321(鋼板326よりも剛性が有意に高い永久磁石321)によって有意なずれが生じない。なお、各鋼板326の磁石孔320と永久磁石321の間にクリアランスが設定される場合は、当該クリアランスを超えるようなずれは生じない。従って、ロータコア32を形成する複数の鋼板326が上述のように塑性変形すると(すなわち、ロータシャフト34の拡径によって、ロータコア32を形成する複数の鋼板326の軸孔32a同士のずれがなくなるように塑性変形すると)、磁石孔320と永久磁石321とが干渉し、永久磁石321がロータコア32に締結されることになる。すなわち、軸孔32a同士のずれが矯正される態様で複数の鋼板326が変形すると、磁石孔320同士のずれを生じさせるような力(軸方向に垂直な力)を永久磁石321が磁石孔320から受けることになる。このような力によって永久磁石321が有意に変形することはないので、当該力に基づく締結力が発生する。
【0070】
更に換言すると、締結工程中に発生する力に起因して生じうる磁石孔320同士の有意なずれは、当該磁石孔320に挿入されている永久磁石321によって規制される。すなわち、磁石孔320に永久磁石321が挿入されていない場合、図3Hの右側に示すように、磁石孔320は、軸孔32a同士のずれが矯正された分だけ、ずれを発生する。しかしながら、本実施例では、磁石孔320に永久磁石321が挿入された状態で締結工程が実現されるので、このようなずれが永久磁石321によって規制される。この結果、ロータコア32と永久磁石321との間に締結力が発生し、ロータコア32と永久磁石321とが互いに対して締結されることになる。
【0071】
このようにして、本実施例によれば、配置工程の後に、複数の鋼板326の軸孔32a同士のずれを無くすように複数の鋼板326を塑性変形させることで、複数の鋼板326に対して永久磁石321を固定できる。これにより、磁石孔320による永久磁石321の保持力を効果的に高めることができる。特に、本実施例によれば、ハイドロフォーミングによる内圧を利用して、磁石孔320と永久磁石321との間の、所望の締結力(締め代)を実現できる。この結果、磁石孔320に永久磁石321を固定するための専用の工程が不要となり、かつ、磁石孔320に永久磁石321を固定するための接着剤が不要となり、コスト低減を図ることができる。ただし、変形例では、保持力を更に高めるために適宜接着剤等が利用されてもよい。
【0072】
図3J及び図3Kには、締結工程後における永久磁石321と各鋼板326の磁石孔320との関係が示されている。ただし、図3J及び図3Kでは、各鋼板326の磁石孔320は、永久磁石321が挿入されていない場合の状態で示されている。従って、実際には、上述したように、磁石孔320が永久磁石321に干渉することになり、当該干渉に起因して、永久磁石321と磁石孔320との間の締結が実現される。
【0073】
本実施例では、上述したように、各鋼板326は90度ごと回転しながら積層されるので(すなわち90度ごとの転積が実現されるので)、図3J及び図3Kに示すように、2方向からの締結が可能となる。すなわち、図3HのラインA-Aに沿った方向(図3J)と、図3HのラインB-Bに沿った方向(図3K)の2方向で、ロータコア32(鋼板326の磁石孔320)と永久磁石321との間の締結を実現できる。これにより、磁石孔320による永久磁石321の保持力を、更に効果的に高めることができる。なお、変形例では、各鋼板326は180度ごと回転しながら積層されてもよい。この場合も、1方向となるものの、ロータコア32(鋼板326の磁石孔320)と永久磁石321との間の締結を実現できる。
【0074】
ついで、ロータ30の製造方法は、ロータシャフト34において第1噴出孔341及び第2噴出孔342に対応する孔を形成する噴出孔形成工程(ステップS508)を含む。なお、噴出孔形成工程は、ロータシャフト34を製造装置200から取り出してから実行されてよい。噴出孔形成工程(ステップS508)が終了すると、最終的なロータシャフト34が出来上がる。
【0075】
ついで、ロータ30の製造方法は、その他の仕上げ工程(ステップS510)を含む。その他の仕上げ工程は、エンドプレート35A、35Bにより回転バランスを調整する工程等を含んでよい。
【0076】
このようにして、図2及び図3A図3Kを参照して説明したロータ30の製造方法によれば、締結工程前の複数の鋼板326の軸孔32a同士のずれを、ハイドロフォーミングにより(すなわちロータシャフト34の拡径)により矯正するので、一の工程(締結工程)で、ロータコア32とロータシャフト34との間の締結のみならず、ロータコア32と永久磁石321との間の締結をも実現できる。
【0077】
また、ハイドロフォーミングによりロータシャフト34を拡径できるので、ロータコア32とロータシャフト34との間の隙間が生じない締結を実現できる。これにより、ロータコア32とロータシャフト34との間の接触面積を最大化し、上述した冷却能力を効果的に高めることができる。
【0078】
以上、各実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。また、前述した実施例の構成要素を全部又は複数を組み合わせることも可能である。また、各実施形態の効果のうちの、従属項に係る効果は、上位概念(独立項)とは区別した付加的効果である。
【0079】
例えば、上述した実施例では、締結工程前の複数の鋼板326の軸孔32a同士のずれを、ハイドロフォーミングにより(すなわちロータシャフト34の拡径)により矯正するが、これに限られない。例えば、複数の鋼板326は、他の孔(軸孔32aや磁石孔320とは異なる孔であり、例えば位置決め孔)を有してもよく、この場合、当該孔を利用して、ロータコア32と永久磁石321との間の締結を実現してもよい。この場合、締結工程前は、当該孔同士のずれ(及び軸孔32a同士のずれ)を、磁石孔320同士のずれよりも大きく設定しておく。そして、永久磁石321が磁石孔320に挿入された状態で、当該孔にピン等を挿入して当該孔同士のずれを無くす又は低減することで、上述した原理と同様の原理で、ロータコア32と永久磁石321との間の締結を実現できる。なお、この場合、当該孔にピン等を挿入して当該孔同士のずれを無くし又は低減した後に、それに伴いずれが無くされた又は低減された軸孔32aに、ロータシャフト34を組み付けてよい。この際、ロータシャフト34の組み付けは、上述したようなハイドロフォーミングにより実現されてもよいし、他の方法(焼き嵌めや圧入等)により実現されてもよい。
【0080】
また、上述した実施例では、一のロータコア32を形成する複数の鋼板326は、すべて、軸孔32aに対して偏心した円周CI2に沿って複数の磁石孔320を有するが、これに限られない。例えば、一のロータコア32を形成する複数の鋼板326の一部は、軸孔32aに対して同心状の円周CI1(図3B参照)に沿って複数の磁石孔320を有してもよい。すなわち、一のロータコア32を形成する複数の鋼板326は、一部だけが、図3Bに示した鋼板326’で置換されてもよい。この場合、当該一部の鋼板326’自体による永久磁石321に対する保持力は、他の鋼板326による永久磁石321に対する保持力よりも低くなるものの(例えば0となるものの)、依然としてロータコア32全体として永久磁石321を磁石孔320に対して保持(締結)できる。なお、この場合、当該一部の鋼板326’は、締結工程中、ロータシャフト34の拡径により軸孔32aが拡径されることで、ロータシャフト34との締結を実現できる。
【0081】
また、上述した実施例では、図1Bに示すように、一のロータコア32に対して4つの永久磁石321が設けられるが、上述したように、永久磁石321の配置や数は任意である。例えば、図4に示すロータコア用の鋼板326Aのように、8極の磁極を形成する態様で複数の永久磁石(図4では、図示せず、磁石孔320Aのみを図示)がV字状(径方向外側が開く態様の略V字状)に配置されてもよい。この場合、複数の鋼板326Aは、上述した複数の鋼板326と同様、軸孔32aの中心Ip2に対して偏心した円周(図示せず)に沿って複数の磁石孔320Aを有し、45度(所定角度の一例)又は90度(所定角度の一例)ずつ互いに対して回転する態様で積層されてもよい。例えば、45度ごとの転積を実現する場合、図3J及び図3Kを参照して上述した2方向を含む3方向以上の締結が実現されるので、磁石孔320による永久磁石321の保持力を更に効果的に高めることを期待できる。
【0082】
また、上述した実施例では、配置工程の後に、複数の鋼板326の軸孔32a同士のずれを無くすように複数の鋼板326を塑性変形させているが、これに限られない。例えば、配置工程の後に、複数の鋼板326の軸孔32a同士のずれを無くすように複数の鋼板326を弾性変形させることで、複数の鋼板326に対して永久磁石321を固定してもよい。また、配置工程の後に、複数の鋼板326の軸孔32a同士のずれを低減するように(一部のずれは残存する態様で)複数の鋼板326を弾性変形又は塑性変形させることで、複数の鋼板326に対して永久磁石321を固定(締結)してもよい。
【0083】
また、上述した実施例では、一のロータコア32を形成する複数の鋼板326は、すべて同じであるが、異なってもよい。この場合、一のロータコア32を形成する複数の鋼板(図示せず)は、軸孔32aの中心Ip2が、鋼板の中心に対して多様な方向(例えば4種類の方向)に偏心する態様で、形成されてよい。この場合も、複数の鋼板を、軸方向に視て軸孔同士のずれが磁石孔同士のずれよりも大きい態様で積層して形成できるロータコアをワークとして同様に用いることができる。この場合も、一のロータコア32を形成する複数の鋼板を打ち抜くための金型コストが増加しうるものの、上述した実施例と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0084】
1・・・モータ(回転電機)、30・・・ロータ、32、32A・・・ロータコア、32a・・・軸孔、320、320A・・・磁石孔、326、326A・・・鋼板(板状シート)、321・・・永久磁石、34・・・ロータシャフト
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図3G
図3H
図3I
図3J
図3K
図4