(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022100141
(43)【公開日】2022-07-05
(54)【発明の名称】着色樹脂組成物、光学フィルター、および、光学フィルターの製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/22 20060101AFI20220628BHJP
C08L 33/06 20060101ALI20220628BHJP
C08F 220/32 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
G02B5/22
C08L33/06
C08F220/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020214327
(22)【出願日】2020-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】岩田 玲子
(72)【発明者】
【氏名】平井 友梨
(72)【発明者】
【氏名】山田 明宏
(72)【発明者】
【氏名】原 脩人
【テーマコード(参考)】
2H148
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
2H148CA04
2H148CA09
2H148CA12
2H148CA17
4J002BG041
4J002BG071
4J002FD096
4J002GP00
4J100AL03P
4J100AL08P
4J100AL10R
4J100AL11P
4J100AL11Q
4J100BA03Q
4J100BC37P
4J100CA05
4J100DA01
4J100FA03
4J100FA19
4J100FA28
4J100JA32
(57)【要約】
【課題】着色樹脂組成物が含む着色剤における吸光度の低下、着色剤の加熱に起因した硬化膜における吸光度の低下、および、硬化膜に接した溶媒に起因した硬化膜における吸光度の低下を抑制可能にした着色樹脂組成物、光学フィルター、および、光学フィルターの製造方法を提供する。
【解決手段】700nm以上1100nm以下の波長帯域に吸収極大を有する着色剤と、式(1)によって表され、エポキシ基を含むアクリルモノマーに由来する第1繰り返し単位と、フェノール性水酸基を含むモノマーに由来する第2繰り返し単位と、式(2)によって表される芳香環を有するアクリルモノマーに由来する第3繰り返し単位、または、式(3)によって表される脂環式構造を有するアクリルモノマーに由来する第3繰り返し単位とを含む共重合体と、溶媒とを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
700nm以上1100nm以下の波長帯域に吸収極大を有する着色剤と、
下記式(1)によって表され、エポキシ基を含むアクリルモノマーに由来する第1繰り返し単位と、
フェノール性水酸基を含むモノマーに由来する第2繰り返し単位と、
下記式(2)によって表される芳香環を有するアクリルモノマーに由来する第3繰り返し単位、または、下記式(3)によって表される脂環式構造を有するアクリルモノマーに由来する第3繰り返し単位とを含む共重合体と、
溶媒と、を含む
着色樹脂組成物。
【化1】
ただし、式(1)において、R1は水素原子またはメチル基であり、R2は単結合、炭素数1以上の直鎖状アルキレン基、炭素数3以上の分岐鎖状アルキレン基、または、炭素数1以上のオキシアルキレン基である。R3はエポキシ基である。
【化2】
ただし、式(2)において、R4は水素原子またはメチル基であり、R5は単結合、炭素数1以上の直鎖状アルキレン基、炭素数3以上の分岐鎖状アルキレン基、または、炭素数1以上のオキシアルキレン基である。R6は水素原子または所定の置換基である。式(2)において、R6が置換基である場合にはmは1から5のいずれかの整数である。
【化3】
ただし、式(3)において、R7は水素原子またはメチル基であり、R8は単結合、炭素数1以上の直鎖状アルキレン基、炭素数3以上の分岐鎖状アルキレン基、または、炭素数1以上のオキシアルキレン基である。式(3)において、R9は炭素数3以上の脂環式構造である。
【請求項2】
前記溶媒の重量に対する前記着色剤の重量の百分率は、0.6重量%以上30重量%以下である
請求項1に記載の着色樹脂組成物。
【請求項3】
前記着色剤において、前記着色剤が吸収極大を有する波長でのモル吸光係数εが以下の式を満たす
ε≧3.0×104
請求項1または2に記載の着色樹脂組成物。
【請求項4】
前記共重合体は、7.5重量%以上17.5重量%以下の前記第1繰り返し単位を含み、かつ、
前記共重合体において、前記第1繰り返し単位の重量に対する前記第2繰り返し単位の重量の比が1.0以上3.0以下である
請求項1から3のいずれか一項に記載の着色樹脂組成物。
【請求項5】
前記共重合体は、65重量%以上の前記第3繰り返し単位を含む
請求項1から4のいずれか一項に記載の着色樹脂組成物。
【請求項6】
前記共重合体のガラス転移温度は、75℃以上である
請求項1から5のいずれか一項に記載の着色樹脂組成物。
【請求項7】
前記共重合体の平均分子量は、3万以上15万以下である
請求項1から6のいずれか一項に記載の着色樹脂組成物。
【請求項8】
前記共重合体の重量と前記共重合体を構成するモノマーの重量との和(W(M+P))に対する、前記モノマーの重量(WM)の百分率(WM/W(M+P)×100)が20%以下である
請求項1から7のいずれか一項に記載の着色樹脂組成物。
【請求項9】
前記着色剤は、シアニン色素、フタロシアニン色素、スクアリリウム色素、クロコニウム色素、ジイモニウム色素、ジチオール金属錯体系色素、ナフタロシアニン色素、オキソノール色素、および、ピロメテン色素のいずれかである
請求項1から8のいずれか一項に記載の着色樹脂組成物。
【請求項10】
前記着色剤は、ポリメチン、および、ポリメチンの両末端に1つずつ位置し、窒素を含む2つの複素環を有するカチオンと、トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロリン酸とを含むシアニン色素である
請求項9に記載の着色樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の着色樹脂組成物を用いて形成された光学フィルターであり、
前記着色剤、および、前記共重合体を含む
光学フィルター。
【請求項12】
着色剤と、共重合体と、溶媒とを含む着色樹脂組成物を用いて調整した塗液を基材に塗布すること、および、
前記塗液を硬化させることを含む光学フィルターの製造方法であって、
前記着色剤は、700nm以上1100nm以下の波長帯域に吸収極大を有し、
前記共重合体は、第1繰り返し単位、第2繰り返し単位、および、第3繰り返し単位を含み、
前記第1繰り返し単位は、下記式(1)によって表され、エポキシ基を含むアクリルモノマーに由来し、
前記第2繰り返し単位は、フェノール性水酸基を含むモノマーに由来し、
前記第3繰り返し単位は、下記式(2)によって表される芳香環を有するアクリルモノマーに由来する、または、下記式(3)によって表される脂環式構造を含むアクリルモノマーに由来する
光学フィルターの製造方法。
【化4】
ただし、式(1)において、R1は水素原子またはメチル基であり、R2は単結合、炭素数1以上の直鎖状アルキレン基、炭素数3以上の分岐鎖状アルキレン基、または、炭素数1以上のオキシアルキレン基である。R3はエポキシ基である。
【化5】
ただし、式(2)において、R4は水素原子またはメチル基であり、R5は単結合、炭素数1以上の直鎖状アルキレン基、炭素数3以上の分岐鎖状アルキレン基、または、炭素数1以上のオキシアルキレン基である。R6は水素原子または所定の置換基である。式(2)において、R6が置換基である場合にはmは1から5のいずれかの整数である。
【化6】
ただし、式(3)において、R7は水素原子またはメチル基であり、R8は単結合、炭素数1以上の直鎖状アルキレン基、炭素数3以上の分岐鎖状アルキレン基、または、炭素数1以上のオキシアルキレン基である。式(3)において、R9は炭素数3以上の脂環式構造である。
【請求項13】
前記着色樹脂組成物において、前記溶媒の重量に対する前記着色剤の重量の百分率は、0.6重量%以上30重量%以下である
請求項12に記載の光学フィルターの製造方法。
【請求項14】
前記着色樹脂組成物が含む前記着色剤において、前記着色剤が吸収極大を有する波長でのモル吸光係数εが以下の式を満たす
ε≧3.0×104
請求項12または13に記載の光学フィルターの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着色樹脂組成物、光学フィルター、および、光学フィルターの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラは、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサー、および、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサーなどの固体撮像素子を備えている。固体撮像素子は、赤外光カットフィルターを備えている。赤外光カットフィルターは、赤外光カットフィルターに入射した赤外光を吸収することによって、赤外光カットフィルターに対して光の入射側とは反対側に値する光電変換素子に赤外光が入射することを抑える。これにより、光電変換素子での可視光の検出精度が高められる。そのため、固体撮像素子が検出する可視領域の光に含まれるノイズが低減され、結果として、固体撮像素子によって撮像された画像での色の再現性が高められる。
【0003】
固体撮像素子には、可視光だけでなく赤外光を検出することが可能な固体撮像素子も提案されている。固体撮像素子が、赤外光の検出と可視光の検出との両方を検出することが可能である場合には、当該固体撮像素子は、上述した赤外光カットフィルターと、赤外光透過フィルターとを備えている。
【0004】
赤外光カットフィルターは、以下の方法によって形成される。例えば、赤外光カットフィルターは、赤外光を吸収する無機物をガラスに添加することによって形成される。また例えば、赤外光カットフィルターは、ガラス板上に赤外光を吸収する物質を塗布することによって形成される。また例えば、赤外光カットフィルターは、赤外光を吸収する色素を含む着色樹脂組成物を用いて形成される。着色樹脂組成物を用いる方法は、ガラスを用いる方法に比べて、赤外光カットフィルターの加工性、および、薄膜化の観点において有利である(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、着色樹脂組成物を用いて赤外光カットフィルターを形成する場合には、着色樹脂組成物内において、着色剤が、その着色剤の近傍に位置する着色剤と会合することによって、着色剤に本来期待される波長帯域とは異なる波長帯域の光を吸収することがある。これによって、着色樹脂組成物を用いて形成された赤外光カットフィルターにおいて、着色剤に本来期待される波長帯域での吸光度が低下することがある。
【0007】
また、赤外光カットフィルターの製造時、および、赤外光カットフィルターの使用時には、赤外光カットフィルターを形成する着色剤が加熱され、これによって着色剤が変性する場合がある。結果として、加熱後の赤外光フィルターが有する着色剤に由来する吸光度が、加熱前の赤外光カットフィルターが有する着色剤に由来する吸光度よりも低下することがある。
【0008】
また、赤外光カットフィルターを含む固体撮像素子の製造時に、赤外光カットフィルターに対して他のフィルターを形成するための塗液が塗布される場合がある。この場合には、赤外光カットフィルターが含む着色剤が、塗液に含まれる溶媒に溶出することがある。これによって、赤外光カットフィルターにおいて期待される着色剤に由来する吸光度が低下することがある。
【0009】
本発明は、着色樹脂組成物が含む着色剤における吸光度の低下、着色剤の加熱に起因した硬化膜における吸光度の低下、および、硬化膜に接した溶媒に起因した硬化膜における吸光度の低下を抑制可能にした着色樹脂組成物、光学フィルター、および、光学フィルターの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための着色樹脂組成物は、700nm以上1100nm以下の波長帯域に吸収極大を有する着色剤と、下記式(1)によって表され、エポキシ基を含むアクリルモノマーに由来する第1繰り返し単位と、フェノール性水酸基を含むモノマーに由来する第2繰り返し単位と、下記式(2)によって表される芳香環を有するアクリルモノマーに由来する第3繰り返し単位、または、下記式(3)によって表される脂環式構造を有するアクリルモノマーに由来する第3繰り返し単位とを含む共重合体と、溶媒と、を含む。
【0011】
【0012】
ただし、式(1)において、R1は水素原子またはメチル基であり、R2は単結合、炭素数1以上の直鎖状アルキレン基、炭素数3以上の分岐鎖状アルキレン基、または、炭素数1以上のオキシアルキレン基である。R3はエポキシ基である。
【0013】
【0014】
ただし、式(2)において、R4は水素原子またはメチル基であり、R5は単結合、炭素数1以上の直鎖状アルキレン基、炭素数3以上の分岐鎖状アルキレン基、または、炭素数1以上のオキシアルキレン基である。R6は水素原子または所定の置換基である。式(2)において、R6が置換基である場合にはmは1から5のいずれかの整数である。
【0015】
【0016】
ただし、式(3)において、R7は水素原子またはメチル基であり、R8は単結合、炭素数1以上の直鎖状アルキレン基、炭素数3以上の分岐鎖状アルキレン基、または、炭素数1以上のオキシアルキレン基である。式(3)において、R9は炭素数3以上の脂環式構造である。
【0017】
上記課題を解決するための光学フィルターは、上記着色樹脂組成物を用いて形成された光学フィルターである。前記着色剤、および、前記共重合体を含む。
上記課題を解決するための光学フィルターの製造方法は、着色剤と、共重合体と、溶媒とを含む着色樹脂組成物を用いて調整した塗液を基材に塗布すること、および、前記塗液を硬化させることを含む。前記着色剤は、700nm以上1100nm以下の波長帯域に吸収極大を有し、前記共重合体は、第1繰り返し単位、第2繰り返し単位、および、第3繰り返し単位を含む。前記第1繰り返し単位は、上記式(1)によって表され、エポキシ基を含むアクリルモノマーに由来し、前記第2繰り返し単位は、フェノール性水酸基を含むモノマーに由来し、前記第3繰り返し単位は、上記式(2)によって表される芳香環を有するアクリルモノマーに由来する、または、上記式(3)によって表される脂環式構造を含むアクリルモノマーに由来する。
【0018】
上記着色樹脂組成物、光学フィルター、および、光学フィルターの製造方法によれば、共重合体が第1繰り返し単位および第2繰り返し単位を含んでいる。そのため、第1繰り返し単位が有するエポキシ基と第2繰り返し単位が有するフェノール性水酸基が硬化膜を形成する際の加熱工程において架橋構造を形成し、これによって、加熱により硬化膜の吸光度が変化することが抑えられる。加えて、第1繰り返し単位と第2繰り返し単位とが架橋構造を形成するから、硬化膜に対して他の層を積層する際に用いられる溶媒が触れることによって、硬化膜から着色剤である色素が溶出することが抑えられる。このように、着色樹脂組成物の共重合体が第1繰り返し単位および第2繰り返し単位を含むことによって、着色樹脂組成物を用いて形成された硬化膜、すなわち光学フィルターの耐熱性および溶媒に対する耐性を高めることが可能である。
【0019】
また、共重合体はさらに第3繰り返し単位を含んでいる。そのため、第3繰り返し単位が有する芳香環または脂環式構造は、着色剤である色素と、その色素の近傍に位置する他の色素との間に位置することによって、色素の会合を抑える程度の距離を色素間に形成することが可能である。これにより、色素での吸収が期待される波長での分光特性の劣化が抑えられる。結果として、着色樹脂組成物が含む着色剤における吸光度の低下が抑えられる。
【0020】
上記着色樹脂組成物において、前記溶媒の重量に対する前記着色剤の重量の百分率は、0.6重量%以上30重量%以下であってよい。
上記光学フィルターの製造方法では、前記着色樹脂組成物において、前記溶媒の重量に対する前記着色剤の重量の百分率は、0.6重量%以上30重量%以下であってもよい。
【0021】
上記着色樹脂組成物、および、光学フィルターの製造方法によれば、溶媒の重量に対する着色剤の重量の百分率が0.6重量%以上であることによって、薄膜化された光学フィルターが、光学フィルターとして十分な吸光度を有することが可能である。一方で、溶媒の重量に対する着色剤の重量の百分率が30重量%以下であることによって、溶媒に溶解していた着色剤が、光学フィルターの形成時における溶媒の揮発に起因して、光学フィルターの表面に析出することが抑えられる。
【0022】
上記着色樹脂組成物において、前記着色剤において、前記着色剤が吸収極大を有する波長でのモル吸光係数εが以下の式を満たしてもよい。
ε≧3.0×104
上記光学フィルターの製造方法では、前記着色樹脂組成物が含む前記着色剤において、前記着色剤が吸収極大を有する波長でのモル吸光係数εが以下の式を満たしてもよい。
ε≧3.0×104
【0023】
上記着色樹脂組成物、および、光学フィルターの製造方法によれば、着色剤のモル吸光係数が3.0×104以上であることによって、薄膜化された光学フィルターにおいて求められる吸光度を実現可能な着色樹脂組成物の調整が可能である。
【0024】
上記着色樹脂組成物において、前記共重合体は、7.5重量%以上17.5重量%以下の前記第1繰り返し単位を含み、かつ、前記共重合体において、前記第1繰り返し単位の重量に対する前記第2繰り返し単位の重量の比が1.0以上3.0以下であってもよい。
【0025】
上記着色樹脂組成物によれば、硬化膜を形成する際の加熱処理後において、および、硬化膜が溶媒に接触した場合において、硬化膜の吸光度が低下することが抑えられる。
【0026】
上記着色樹脂組成物において、前記共重合体は、65重量%以上の前記第3繰り返し単位を含んでもよい。この着色樹脂組成物によれば、硬化膜を形成する際における色素の会合が抑制され、着色剤での吸収が期待される波長での分光特性の劣化を抑えられる。
【0027】
上記着色樹脂組成物において、前記共重合体のガラス転移温度は、75℃以上であってもよい。この着色樹脂組成物によれば、本開示の着色樹脂組成物を用いて硬化膜を形成した際に、形成された硬化膜が含む着色剤において吸収が期待される波長での分光特性の劣化を抑える確実性を高めることが可能である。
【0028】
上記着色樹脂組成物において、前記共重合体の平均分子量は、3万以上15万以下であってもよい。本開示の着色樹脂組成物を用いて硬化膜を形成した際に、形成された硬化膜が含む着色剤において吸収が期待される波長での分光特性の劣化を抑える確実性を高めることが可能である。
【0029】
上記着色樹脂組成物において、前記共重合体の重量と前記共重合体を構成するモノマーの重量との和(W(M+P))に対する、前記モノマーの重量(WM)の百分率(WM/W(M+P)×100)が20%以下であってもよい。
【0030】
上記着色樹脂組成物によれば、残存モノマーが20%よりも多い場合に比べて、本発明の着色樹脂組成物を用いて硬化膜を形成した際に、硬化膜の吸光度が変化しにくくなる。
【0031】
上記着色樹脂組成物において、前記着色剤は、シアニン色素、フタロシアニン色素、スクアリリウム色素、クロコニウム色素、ジイモニウム色素、ジチオール金属錯体系色素、ナフタロシアニン色素、オキソノール色素、および、ピロメテン色素のいずれかであってもよい。
【0032】
上記着色樹脂組成物において、前記着色剤は、ポリメチン、および、ポリメチンの両末端に1つずつ位置し、窒素を含む2つの複素環を有するカチオンと、トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロリン酸とを含むシアニン色素であってもよい。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、着色樹脂組成物が含む着色剤における吸光度の低下、着色剤の加熱に起因した硬化膜における吸光度の低下、および、硬化膜に接した溶媒に起因した硬化膜における吸光度の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
[着色樹脂組成物]
本開示の着色樹脂組成物は、着色剤、共重合体、および、溶媒を含む。着色剤は、700nm以上1100nm以下の波長帯域に吸収極大を有する。共重合体は、第1繰り返し単位、第2繰り返し単位、および、第3繰り返し単位を含む。第1繰り返し単位は、下記式(1)によって表され、エポキシ基を含むアクリルモノマーに由来する。第2繰り返し単位は、フェノール性水酸基を含むモノマーに由来する。第3繰り返し単位は、下記式(2)によって表される芳香環を有するアクリルモノマーに由来する、または、下記式(3)によって表される脂環式構造を含むアクリルモノマーに由来する。
【0035】
【0036】
ただし、式(1)において、R1は水素原子またはメチル基であり、R2は単結合、炭素数1以上の直鎖状アルキレン基、炭素数3以上の分岐鎖状アルキレン基、または、炭素数1以上のオキシアルキレン基である。R3はエポキシ基である。
【0037】
【0038】
ただし、式(2)において、R4は水素原子またはメチル基であり、R5は単結合、炭素数1以上の直鎖状アルキレン基、炭素数3以上の分岐鎖状アルキレン基、または、炭素数1以上のオキシアルキレン基である。R6は水素原子または所定の置換基である。式(2)において、R6が置換基である場合にはmは1から5のいずれかの整数である。
【0039】
【0040】
ただし、式(3)において、R7は水素原子またはメチル基であり、R8は単結合、炭素数1以上の直鎖状アルキレン基、炭素数3以上の分岐鎖状アルキレン基、または、炭素数1以上のオキシアルキレン基である。式(3)において、R9は炭素数3以上の脂環式構造である。
【0041】
共重合体が第1繰り返し単位および第2繰り返し単位を含んでいる。そのため、第1繰り返し単位が有するエポキシ基と第2繰り返し単位が有するフェノール性水酸基が硬化膜を形成する際の加熱工程において架橋構造を形成し、これによって、加熱により硬化膜の吸光度が変化することが抑えられる。加えて、第1繰り返し単位と第2繰り返し単位とが架橋構造を形成するから、硬化膜に対して他の層を積層する際に用いられる溶媒が触れることによって、硬化膜から着色剤である色素が溶出することが抑えられる。このように、着色樹脂組成物の共重合体が第1繰り返し単位および第2繰り返し単位を含むことによって、着色樹脂組成物を用いて形成された硬化膜、すなわち光学フィルターの耐熱性および溶媒に対する耐性を高めることが可能である。
【0042】
また、共重合体はさらに第3繰り返し単位を含んでいる。そのため、第3繰り返し単位が有する芳香環または脂環式構造は、着色剤である色素と、その色素の近傍に位置する他の色素との間に位置することによって、色素の会合を抑える程度の距離を色素間に形成することが可能である。これにより、色素での吸収が期待される波長での分光特性の劣化が抑えられる。結果として、着色樹脂組成物が含む着色剤における吸光度の低下が抑えられる。さらには、着色樹脂組成物を用いて形成された硬化膜における吸光度の低下が抑えられる。
【0043】
着色樹脂組成物を用いて形成された光学フィルターは、光学フィルターの適用対象において、他のフィルターと隣接するように配置されることがある。着色樹脂組成物が含む着色剤が染料である場合には、時間の経過、および、適用対象の加熱などによって、光学フィルターと隣り合う他のフィルターに、光学フィルターに含まれる着色剤の一部が移動し、結果として、光学フィルターの吸光度が低下することがある。この点で、本開示の着色組成物を用いた光学フィルターによれば、硬化膜である光学フィルターを形成する際に、フェノール性水酸基がエポキシ基と架橋構造を形成するから、光学フィルターに含まれる着色剤が他のフィルターに向けて移動することが抑えられる。結果として、光学フィルターにおける吸光度の低下が抑えられる。
【0044】
以下、着色樹脂組成物が含む着色剤、共重合体、および、溶媒を順に説明する。
[着色剤]
上述したように、着色剤は、700nm以上1100nm以下の波長帯域に吸収極大を有する。着色剤において、着色剤が吸収極大を有する波長でのモル吸光係数ε(mol-1・L・cm-1)が以下の式を満たすことが好ましい。
ε≧3.0×104
【0045】
画像表示装置および固体撮像素子などの小型化および軽量化に伴い、画像表示装置および固体撮像素子に用いられる光学センサーに用いられる光学フィルターには、数百nm以上数μm以下の膜厚を有することが求められている。
【0046】
着色剤のモル吸光係数が3.0×104以上であれば、薄膜化された光学フィルターにおいて求められる吸光度を実現可能な着色樹脂組成物の調整が可能である。例えば、1μmの厚さを有した光学フィルターにおいて、着色剤が吸収極大を有する波長での透過率が10%以下となるように着色樹脂組成物を調整することが可能である。また、着色樹脂組成物の全量において着色剤の割合を小さくすることが可能である分、着色樹脂組成物が、多くの共重合体、および、溶媒などを含むことが可能である。これにより、溶媒に溶解させることが可能な着色剤の量を増やすことが可能である。なお、着色樹脂組成物の全量において着色剤の割合を小さくなることが可能である分、着色樹脂組成物が、着色剤、共重合体、および、溶媒以外の他の成分を含むことも可能である。他の成分は、例えば架橋剤または重合性モノマーであってよい。
【0047】
これに対して、着色剤のモル吸光係数が3.0×104よりも小さい場合には、着色樹脂組成物が所定の吸光度を示すためには多くの着色剤を含む必要があり、これにより、着色樹脂組成物が、所望とする粘度を有することが可能な程度の共重合体を含むことが難しい。結果として、所望とする厚さを有した塗膜、ひいては光学フィルターを形成することが難しい。
【0048】
着色剤は、例えば、シアニン色素、フタロシアニン色素、スクアリリウム色素、クロコニウム色素、ジイモニウム色素、ジチオール金属錯体系色素、ナフタロシアニン色素、オキソノール色素、および、ピロメテン色素のいずれかであってよい。なお、これらの色素は、染料である。
【0049】
着色剤は、溶媒に対する溶解性が高い点、および、モル吸光係数が高い点においてシアニン色素であることが好ましい。シアニン色素は、ポリメチン、および、ポリメチンの両末端に1つずつ位置し、窒素を含む2つの複素環を有するカチオンと、トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロリン酸とを含む。シアニン色素は、下記式(4)に示される構造を有してよい。
【0050】
【0051】
上記式(4)において、Xは、1つのメチン、または、ポリメチンである。メチンが含む炭素原子に結合された水素原子は、ハロゲン原子、または、有機基に置換されてもよい。ポリメチンは、ポリメチンを形成する炭素を含む環状構造を有してもよい。環状構造は、ポリメチンを形成する複数の炭素において、連続する3つの炭素を含むことができる。ポリメチンが環状構造を有する場合には、ポリメチンの炭素数は5以上であってよい。各窒素原子は、五員環または六員環の複素環に含まれている。複素環は、縮環されてもよい。上記式(4)において、Y-は、アニオンである。
【0052】
また、シアニン色素は、下記式(5)に示される構造を有してもよい。
【0053】
【0054】
上記式(5)において、nは1以上の整数である。nは、ポリメチン鎖に含まれる繰り返し単位の数を示している。R10およびR11は水素原子、または、有機基である。R12およびR13は、水素原子または有機基である。R12およびR13は、炭素数1以上の直鎖状アルキル基、または、分岐鎖状アルキル基であることが好ましい。各窒素原子は、五員環または六員環の複素環に含まれている。複素環は、縮環されてもよい。
【0055】
なお、式(4)において、ポリメチンが環状構造を含む場合には、環状構造は、例えば、環状構造がエチレン性二重結合などの不飽和結合を少なくとも一つ有し、かつ、当該不飽和結合がポリメチン鎖の一部として電子共鳴する環状構造であってよい。こうした環状構造は、例えば、シクロペンテン環、シクロペンタジエン環、シクロヘキセン環、シクロヘキサジエン環、シクロヘプテン環、シクロオクテン環、シクロオクタジエン環、および、ベンゼン環などであってよい。これらの環状構造は、いずれも置換基を有してもよい。
【0056】
また、式(5)において、nが1である化合物はシアニンであり、nが2である化合物はカルボシアニンであり、nが3である化合物はジカルボシアニンである。式(5)において、nが4である化合物はトリカルボシアニンである。
【0057】
R10およびR11の有機基は、例えば、アルキル基、アリール基、アラルキル基、および、アルケニル基であってよい。アルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n‐ブチル基、sec‐ブチル基、イソブチル基、tert‐ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、および、デシル基などであってよい。アリール基は、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、および、ナフチル基などであってよい。アラルキル基は、例えば、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基などであってよい。アルケニル基は、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、および、オクテニル基などであってよい。
【0058】
なお、各有機基が有する水素原子の少なくとも一部が、ハロゲン原子またはシアノ基によって置換されてもよい。ハロゲン原子は、フッ素、臭素、および、塩素などであってよい。置換後の有機基は、例えば、クロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフルオロプロピル基、および、シアノエチル基などであってよい。
【0059】
R12またはR13は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n‐ブチル基、sec‐ブチル基、イソブチル基、tert‐ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、および、デシル基などであってよい。
【0060】
各窒素原子が含まれる複素環は、例えば、ピロール、イミダゾール、チアゾール、および、ピリジンなどであってよい。
こうしたシアニン色素が含むカチオンは、例えば、下記式(6)および下記式(7)によって表される構造を有してよい。
【0061】
【0062】
【0063】
なお、シアニン色素が含むカチオンは、例えば、下記式(8)から式(47)に示される構造を有してもよい。すなわち、シアニン色素が含む各窒素原子は、以下に示される環状構造中に含まれてもよい。
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
式(4)のY-は、例えば、トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロリン酸アニオン([(C2F5)3PF3]-)(FAP)である。FAPは、下記式(48)によって示される構造を有する。
【0105】
【0106】
着色樹脂組成物を用いて光学フィルターが形成される際には、着色樹脂組成物を含む塗液が200℃程度に加熱され、これによって、塗膜から硬化膜である光学フィルターが形成される。シアニン色素が200℃程度に加熱された場合には、加熱後におけるシアニン色素の構造が加熱前におけるシアニン色素の構造から変わることによって、シアニン色素の吸光度が変化することがある。
【0107】
この点で、FAPは、シアニン色素におけるポリメチン鎖の近傍に位置することが可能な分子量および分子構造を有するため、シアニン色素のポリメチン鎖が、シアニン色素の加熱によって切断されることが抑えられる。それゆえに、シアニン色素の加熱に起因してシアニン色素が有する赤外光の吸光度が変化することが抑えられ、結果として、着色樹脂組成物から形成される硬化膜の吸光度が変化することが抑制される。
【0108】
[共重合体]
上述したように、着色樹脂組成物は共重合体を含んでいる。共重合体は、エチレン性二重結合を含むモノマーに由来する繰り返し単位を含んでよい。エチレン性二重結合を含むモノマーは、例えば、エチレン化合物、マレイミド化合物、アクリレート、および、メタクリレート化合物などである。これらのモノマーによれば、モノマーが含むエチレン性二重結合を用いた重合が進むことによって、複数のモノマーが高分子化する。これによって、共重合体を得ることができる。
【0109】
共重合体は、第1繰り返し単位、第2繰り返し単位、および、第3繰り返し単位を含む。第1繰り返し単位は、エポキシ基をもつアクリルモノマーに由来する。第2繰り返し単位は、フェノール性水酸基と反応する基を有するモノマーに由来する。第3繰り返し単位は、芳香環を有するアクリルモノマー、または、脂環式を持つアクリルモノマーに由来する。
【0110】
第1繰り返し単位は、エポキシ基をもつアクリルモノマーである第1モノマーに由来し、下記式(1)によって示される構造を有する。
【0111】
【0112】
上述したように、第1繰り返し単位において、R1は、水素原子またはメチル基であり、R2は、単結合、炭素数1以上の直鎖状アルキレン基、炭素数3以上の分岐鎖状アルキレン基、または、炭素数1以上のオキシアルキレン基である。R2は、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、および、ブチレン基などであってよい。R3は、エポキシ基である。
【0113】
第1モノマーは、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2‐メチルグリシジル、(メタ)アクリル酸3,4‐エポキシシクロヘキシルメチル、4‐ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテルなどであってよい。アクリルモノマーが有する反応性の観点から、アクリルモノマーは、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸3,4‐エポキシシクロヘキシルメチル、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテルであることが好ましく、(メタ)アクリル酸グリシジルであることがより好ましく、メタクリル酸グリシジルであることが特に好ましい。なお、これらのアクリルモノマーは、入手が容易である点でも好ましい。
【0114】
第2繰り返し単位は、フェノール性水酸基を有するモノマーである第2モノマーに由来する。フェノール性水酸基はエポキシ基に対して高い反応性を有する。フェノール性水酸基はエポキシ基と反応することによって架橋構造を形成し、これによって、共重合体を含む光学フィルターの耐熱性および溶媒に対する耐性が高められる。フェノール性水酸基は弱酸性を呈するから、共重合体の生成時にはエポキシ基との架橋反応を生じにくい。一方で、フェノール性水酸基は、共重合体を含む塗液から形成された塗膜が加熱されるときに、エポキシ基との架橋反応を生じる。そのため、共重合体が、塗膜の形成よりも前に生じた架橋反応に起因する架橋構造を有する場合に比べて、塗液の粘度が高くなりにくいから、塗液の塗布が行いやすい。
【0115】
第2モノマーは、例えば、4‐ヒドロキシスチレン、p‐イソプロペニルフェノール、(メタ)アクリル酸4‐ヒドロキシフェニル、(メタ)アクリル酸4‐ヒドロキシベンジル、(メタ)アクリル酸4‐ヒドロキシフェニチル、および、N‐ヒドロキシフェニルマレイミドなどであってよい。モノマーが有する反応性の観点から、モノマーは、ヒドロキシスチレン、(メタ)アクリル酸4‐ヒドロキシフェニル、(メタ)アクリル酸4‐ヒドロキシベンジル、N-ヒドロキシフェニルマレイミドであることが好ましく、(メタ)アクリル酸4‐ヒドロキシフェニル、N‐ヒドロキシフェニルマレイミドであることがより好ましく、メタクリル酸4‐ヒドロキシフェニルであることが特に好ましい。フェノール性水酸基を有したモノマーを用いて生成された共重合体は、側鎖としてフェノール性水酸基を含む。
【0116】
共重合体は、さらに第3繰り返し単位を含む。第3繰り返し単位は、芳香環を有するアクリルモノマーである第3モノマー、または、脂環式構造を有するアクリルモノマーである第3モノマーに由来する。芳香環を有する第3モノマーは、下記式(2)によって示される構造を有する。脂環式構造を有する第3モノマーは、下記式(3)によって示される構造を有する。
【0117】
【0118】
【0119】
芳香環を有する第3モノマーは、例えば、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸フェネチル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2‐ヒドロキシ‐3‐フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、o‐フェノキシフェニルエチル(メタ)アクリレート(メタ)アクリル酸2ナフチル、(メタ)アクリル酸9‐アントリルメチルなどであってよい。色素の分光特性における変化を抑える観点では、第3モノマーは、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸フェネチル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチルであることが好ましく、(メタ)アクリル酸フェニルであることがより好ましく、メタクリル酸フェニルであることが特に好ましい。
【0120】
脂環式構造を有する第3モノマーは、例えば、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸4-t-ブチルシクロヘキシルであってよい。
【0121】
共重合体は、第1繰り返し単位を7.5重量%以上17.5重量%以下の割合で含み、共重合体において、第1繰り返し単位の重量(W1)に対する第2繰り返し単位の重量(W2)の比(W2/W1)が、1.0以上3.0以下であることが好ましい。共重合体が第1繰り返し単位と第2繰り返し単位を上述した範囲で含むことによって、硬化膜を形成する際の加熱処理後において、および、硬化膜が溶媒に接触した場合において、硬化膜の吸光度が低下することが抑えられる。
【0122】
共重合体は、65重量%以上の第3繰り返し単位を含むことが好ましい。共重合体が第3繰り返し単位を上述した範囲で含むことによって、硬化膜を形成する際における着色剤の会合が抑制され、着色剤での吸収が期待される波長での分光特性の劣化を抑えられる。
【0123】
共重合体のガラス転移温度は、75℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましい。ガラス転移温度が75℃以上であれば、本開示の着色樹脂組成物を用いて硬化膜を形成した際に、形成された硬化膜が含む着色剤において吸収が期待される波長での分光特性の劣化を抑える確実性を高めることが可能である。
【0124】
共重合体の分子量は、3万以上15万以下であることが好ましく、5万以上15万以下であることがより好ましい。共重合体の分子量がこの範囲に含まれることによって、本開示の着色樹脂組成物を用いて硬化膜を形成した際に、形成された硬化膜が含む着色剤において吸収が期待される波長での分光特性の劣化を抑える確実性を高めることが可能である。
【0125】
なお、15万を超える分子量を有した共重合体は、重合時の粘度上昇により塗液化することが困難である。そのため、共重合体の分子量が15万を超える場合には、膜の形成が容易ではない。一方で、共重合体の分子量が15万以下であれば、塗液を形成することが可能であることから、膜の形成がより容易である。共重合体の平均分子量は、重量平均分子量である。共重合体の重量平均分子量は、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー法によって測定することが可能である。
【0126】
共重合体は、上述した第1モノマー、第2モノマー、および、第3モノマー以外のモノマーを含んでもよい。第1モノマー、第2モノマー、および、第3モノマー以外のモノマーは、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物、芳香族アルケニル化合物、シアン化ビニル化合物、アクリルアミド化合物、および、マレイミド化合物などであってよい。
【0127】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物は、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n‐ブチル、(メタ)アクリル酸iso‐ブチル、(メタ)アクリル酸tert‐ブチル、(メタ)アクリル酸n‐ヘキシル、(メタ)アクリル酸n‐オクチル、(メタ)アクリル酸2‐エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリルなどであってよい。芳香族アルケニル化合物は、例えば、スチレン、α‐メチルスチレン、p‐メチルスチレン、p‐メトキシスチレンなどであってよい。シアン化ビニル化合物は、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどであってよい。アクリルアミド化合物は、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミドなどであってよい。マレイミド化合物は、例えば、N‐シクロヘキシルマレイミド、N‐フェニルマレイミドなどであってよい。
【0128】
[溶媒]
着色樹脂組成物は、上述したように溶媒を含む。溶媒によれば、着色剤と共重合体とを含む着色樹脂組成物の粘度を調整することが可能である。これにより、着色樹脂組成物を用いて硬化膜を形成する際に、着色樹脂組成物を含む塗液の塗布が行いやすくなる。
【0129】
溶媒は、着色剤および共重合体に対する相溶性を有すること、硬化膜の形成工程において揮発することが可能な程度に高い揮発性を有すること、および、溶媒が揮発した際に硬化膜にむらを生じさせないことを満たすことが好ましい。溶媒は、エステル系溶媒、アルコールエーテル系溶媒、ケトン系溶媒、芳香族系溶媒、アミド系溶媒、および、アルコール系溶媒などであってよい。
【0130】
エステル系溶媒は、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n‐ブチル、酢酸イソブチル、酢酸t‐ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、および、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどであってよい。アルコールエーテル系溶媒は、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、3‐メトキシ‐1‐ブタノール、および、3‐メトキシ‐3-メチル‐1‐ブタノールなどであってよい。ケトン系溶媒は、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、および、シクロヘキサノンなどであってよい。芳香族系溶媒は、例えば、ベンゼン、トルエン、および、キシレンなどであってよい。アミド系溶媒は、例えば、ホルムアミド、および、ジメチルホルムアミドなどであってよい。アルコール系溶媒は、例えば、メタノール、エタノール、n‐プロパノール、イソプロパノール、n‐ブタノール、イソブタノール、s‐ブタノール、t‐ブタノール、ジアセトンアルコール、および、2‐メチル‐2‐ブタノールなどであってよい。
【0131】
[着色樹脂組成物]
着色樹脂組成物において、着色剤、共重合体、および、溶媒の含有量は、着色組成物を使用する目的に応じて適宜選択可能である。例えば、着色組成物が含む着色剤、共重合体、および、溶媒の総量を100重量部に設定する場合に、共重合体の重量は、10重量部以上70重量部以下であることが好ましい。
【0132】
着色樹脂組成物において、溶媒の重量(WS)に対する着色剤の重量(WC)の百分率(WC/WS×100)は、0.6重量%以上30重量%以下であることが好ましい。
上述したように、画像表示装置および固体撮像素子などに用いられる光学フィルターには、数百nm以上数μm以下の厚さを有することが求められている。薄い光学フィルターによって所望とする吸光度を実現するためには、光学フィルターを形成するための着色樹脂組成物において、所定量以上の着色剤が溶媒に溶解していることが必要とされる。
【0133】
この点で、溶媒の重量に対する、溶媒に溶解した着色剤の重量の百分率が0.6重量%以上であることによって、薄膜化された光学フィルターが、光学フィルターとして十分な吸光度を有することが可能である。一方で、溶媒の重量に対する、溶媒に溶解した着色剤の重量の百分率が30重量%以下であることによって、溶媒に溶解していた着色剤が、光学フィルターの形成時における溶媒の揮発に起因して、光学フィルターの表面に析出することが抑えられる。
【0134】
なお、着色剤が溶媒に溶解していることによって、光学フィルターを形成した際に、着色剤が析出することが抑えられ、これによって光学フィルターの透明度が低くなることが抑えられる。また、着色剤を含む析出物に起因する凹凸が光学フィルターの表面に生じることが抑えられ、これによって、光学フィルターの厚さにばらつきが生じることが抑えられる。
【0135】
着色樹脂組成物は、着色剤、共重合体、および、溶媒に加えて、添加剤を含むことができる。添加剤は、例えば、レベリング剤、酸化防止剤、光安定剤、および、帯電防止剤などであってよい。
【0136】
[共重合体の製造方法]
上述した第1モノマー、第2モノマー、および、第3モノマーを少なくとも含むモノマー混合物を用いて、第1モノマー、第2モノマー、および、第3モノマーを重合させることによって、共重合体を得ることができる。モノマーの重合方法には、例えば、ラジカル重合を用いることができる。ラジカル重合は、溶液重合、懸濁重合、および、乳化重合などを含む。このうち、溶液重合を用いて、第1モノマー、第2モノマー、および、第3モノマーを重合させることが好ましい。溶液重合によれば、共重合体の重量平均分子量を調整しやすい。
【0137】
溶液重合において用いることが可能な重合溶媒は、モノマーと重合開始剤とを溶解することが可能な溶媒である。重合溶媒は、例えば、メタノール、エタノール、1‐プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどである。
【0138】
重合溶媒の重量(WS)に対するモノマーの総重量(WM)の百分率(WM/WS×100)は、10重量%以上60重量%以下であることが好ましく、20重量%以上50重量%以下であることがより好ましい。百分率が20重量%以上であることによって、モノマーの残存を抑え、かつ、得られる共重合体の分子量の低下を抑えることが可能である。また、百分率が60重量%以下であることによって、溶液の発熱を制御しやすくなる。
【0139】
なお、重合溶液におけるモノマーの濃度以外にも、重合溶液におけるラジカル重合開始剤の濃度を調整することによって、共重合体の分子量を制御することが可能である。
重合開始剤は、例えば、有機過酸化物、および、アゾ系重合開始剤などであってよい。有機過酸化物は、例えば、ジ(4‐t‐ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、1,1,3,3‐テトラメチルブチルパーオキシ‐2‐エチルヘキサノエートなどであってよい。アゾ系重合開始剤は、例えば、2,2’‐アゾビスイソブチロニトリルなどであってよい。重合反応では、例示した重合開始剤のうち、1種類のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。重合対象であるモノマーの組み合わせ、および、重合反応の条件などに応じて、重合開始剤の使用量を適宜設定することができる。
【0140】
重合溶媒にモノマーを投入する際には、例えば、モノマーの全量を一度に重合溶媒に投入してもよい。あるいは、モノマーの一部を重合溶媒に投入し、かつ、残りのモノマーを重合溶媒に滴下してもよい。あるいは、モノマーの全量を重合溶媒に滴下することによって、重合溶媒にモノマーを投入してもよい。重合溶媒にモノマーを投入する際には、モノマーの全量における少なくとも一部を重合溶媒に滴下することが好ましい。これにより重合溶媒に対してモノマーの全量を一度に投入する場合に比べて、重合反応における発熱を制御しやすい。
【0141】
重合溶媒に重合開始剤を投入する際には、例えば、重合開始剤の全量を一度に重合溶媒に投入してもよい。あるいは、重合開始剤の一部を重合溶媒に投入し、かつ、残りの重合開始剤を重合溶媒に滴下してもよい。あるいは、重合開始剤の全量を重合溶媒に滴下してもよい。なお、重合開始剤をモノマーとともに重合溶媒に滴下することが好ましい。この場合には、重合反応の制御が容易である。また、重合溶媒に対するモノマーの滴下が終了した後に重合開始剤の滴下を行うことが好ましい。これにより、残存モノマーの量を低減することが可能である。この場合には、モノマーを重合溶媒に滴下する期間と、重合開始剤を重合溶媒に滴下する期間とが重ならなくてもよいし、モノマーを重合溶媒に滴下する期間の少なくとも一部が、重合開始剤を重合溶媒に滴下する期間と重なってもよい。
【0142】
重合温度の至適な範囲は、重合溶媒の種類などに依存する。重合温度は、例えば、50℃以上110℃以下の範囲に含まれる温度であってよい。重合時間の至適な範囲は、重合開始剤の種類、および、重合温度などに依存する。例えば、重合開始剤として1,1,3,3‐テトラメチルブチルペルオキシ‐2‐エチルヘキサノエートを用い、かつ、重合温度を95℃に設定した場合には、重合時間は6時間程度であることが好ましい。
【0143】
なお、重合反応によって得られた共重合体を含む反応液に対して、重合反応以外の処理を行うことなく、当該共重合体を着色樹脂組成物の製造に用いてもよい。あるいは、重合反応後の反応液から共重合体を単離してもよい。共重合体の単離には、濾取、および、精製などを用いることが可能である。
【0144】
共重合体の重量と、共重合体を構成するアクリルモノマーの重量との和(W(M+P))に対するアクリルモノマーの重量(WM)の百分率(WM/W(M+P)×100)は、20%以下であることが好ましい。残存モノマーが20%よりも多い場合に比べて、本発明の着色樹脂組成物を用いて硬化膜を形成した際に、硬化膜の吸光度が変化しにくくなる。
【0145】
なお、共重合体の重量と、共重合体を構成するモノマーの重量との和(W(M+P))に対するモノマーの重量(WM)の百分率(WM/W(M+P)×100)は、10%以下であることがより好ましく、3%以下であることがさらに好ましい。共重合体の重量、および、モノマーの重量は、共重合体の分析結果に基づき定量することが可能である。共重合体の分析方法は、例えば、ガスクロマトグラフィー量分析法(GC‐MS)、核磁気共鳴分光法(NMR)、および、赤外分光法(IR)などであってよい。
【0146】
共重合体の重量とモノマーの重量との和(W(M+P))に対するモノマーの重量(WM)の割合を変更する方法は、例えば、重合時間を変更する方法、および、重合温度を変更する方法などであってよい。また、共重合体の重量とモノマーの重量との和(W(M+P))に対するモノマーの重量(WM)の割合を変更する方法は、重合反応の開始時におけるモノマーおよびラジカル重合開始剤の濃度を変更する方法などであってよい。共重合体の重量とモノマーの重量との和(W(M+P))に対するモノマーの重量(WM)の割合を変更する方法は、重合反応後の精製条件を変更する方法などであってよい。このうち、重合時間を変更する方法は、モノマーの重量の割合を変更する制御の精度が高いため好ましい。
【0147】
[着色樹脂組成物の製造方法]
上述した着色剤、共重合体、および、溶媒を混合装置を用いて混合することによって、着色樹脂組成物を製造することが可能である。なお、着色樹脂組成物の製造方法は、着色剤、共重合体、および、溶媒を混合して混合液を生成する工程の後に、混合液を濾過する工程を含んでもよい。混合液の濾過工程によれば、環境中の異物および不溶物などを着色樹脂組成物から除去することが可能である。混合液の濾過には、濾過フィルターを用いることが可能である。
【0148】
[着色樹脂組成物の評価方法]
本開示の着色樹脂組成物から形成された硬化膜の吸光度は、以下の方法によって評価される。まず、着色樹脂組成物を透明材料にコーティングして塗膜を形成する。次いで、塗膜を加熱することによって塗膜が含む溶媒を揮発させ、これによって、硬化膜を形成する。形成された硬化膜において、赤外光に対する吸光度を評価する。なお、硬化膜の膜厚は、例えば、1μm以上100μm以下の範囲に含まれる厚さであることが好ましいが、特に限定されない。
【0149】
硬化膜の吸光度を算出するために、硬化膜における透過率スペクトルを測定する。透過スペクトルの測定では、紫外光の波長帯域から赤外光の波長帯域までにわたって硬化膜の透過率を測定することが可能な分光光度計を用いて、硬化膜の透過率スペクトルを測定する。測定した透過率を吸光度に変換することによって、硬化膜の吸光度が算出される。所定の波長λにおける吸光度Aλは、下記式によって算出される。
Aλ=-log10(%T/100)
【0150】
なお、上記式において、透過率Tは、着色樹脂組成物の硬化膜に赤外光を透過させたときの、入射光の強度(IL)に対する透過光の強度(TL)の比(TL/IL)によって表される。すなわち、硬化膜において、入射光の強度を1としたときの透過光の強度が透過率Tである。透過率Tに100を乗算した値が透過率パーセント%Tである。
【0151】
[光学フィルター]
本開示の着色樹脂組成物は、光学フィルターの製造に用いられる。光学フィルターは、単層で、すなわち、光学フィルター以外の他の層を有しない状態で用いられてもよい。あるいは、光学フィルターは、光学フィルターと、光学フィルターに接する他の層とを備える積層体に含まれてもよい。他の層は、例えばカラーフィルターなどであってよい。
【0152】
光学フィルターの製造方法は、着色剤と、共重合体と、溶媒とを含む着色樹脂組成物を用いて調整した塗液を基材に塗布すること、および、前記塗液を硬化させることを含む。基材は、例えば、透明樹脂板、透明フィルム、透明ガラス板、および、撮像素子などであってよい。着色樹脂組成物の塗布には、例えば、スピンコーター、バーコーター、ロールコーター、グラビアコーター、オフセットコーター、および、スプレーなどを用いることができる。
【0153】
着色樹脂組成物の塗布によって形成された塗膜を加熱することによって、着色樹脂組成物から溶媒が除去され、硬化膜が形成される。これにより、光学フィルターを得ることができる。塗膜の加熱には、ホットプレート、および、オーブンなどを用いることができる。なお、必要に応じて、硬化膜を形成した後に、硬化膜に対してフォトリソグラフィおよびドライエッチングを用いた処理を行うことによって、所定のパターンを有する光学フィルターを形成することも可能である。
【0154】
なお、上述したように、光学フィルターの製造には、溶媒の重量に対する着色剤の重量の百分率が0.6重量%以上30重量%以下である着色樹脂組成物を用いることが好ましい。また、光学フィルターの製造には、吸収極大を有する波長でのモル吸光係数εが3.0×104以上である着色剤を含む着色樹脂組成物を用いることが好ましい。
【0155】
本開示の光学フィルターは、光学フィルターに対して光の入射側とは反対側に対して近赤外光の透過を抑えることが可能である。そのため、光学フィルターを、例えば、断熱フィルムに適用することが可能である。また例えば、光学フィルターを光学製品に適用することが可能であり、光学製品は、例えば撮像素子およびディスプレイなどであってよい。また例えば、サングラスを形成する部材に光学フィルターを適用することも可能である。
【0156】
[製造例]
[製造例1]
表1を参照して、重合体の製造例を説明する。なお、重合体が2種以上のモノマーを用いて生成された共重合体である場合には、生成された共重合体における各モノマーに由来する繰り返し単位での重量比が、共重合体の生成時における各モノマーの重量比に等しい。
【0157】
【0158】
[製造例1‐1]
撹拌機、温度計、冷却器、滴下ロート、および、窒素導入管を取り付けた1Lセパラブルフラスコに、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(120.0g)を投入し、次いで、フラスコ内を窒素置換して、フラスコ内を窒素雰囲気にした。グリシジルメタクリレート(24.0g)、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレート(24.0g)、フェニルメタクリレート(112.0g)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(20.0g)を混合したモノマー溶液、および、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(20.0g)と1,1,3,3‐テトラメチルブチルペルオキシ‐2‐エチルヘキサノエート(日油(株)製、パーオクタO)(パーオクタは登録商標)(3.2g)を混合した重合開始剤溶液をそれぞれ調製した。
【0159】
フラスコ内を95℃まで昇温し、モノマー溶液および重合開始剤溶液を同時にそれぞれ3時間かけて滴下した。その後、95℃においてモノマー溶液と重合開始剤溶液との混合液を2時間反応させ、次いで、1,1,3,3‐テトラメチルブチルペルオキシ‐2‐エチルヘキサノエート(0.6g)を加えた。さらに、95℃において重合開始剤を追加した混合液を3時間反応させた後、ポリマー濃度が20重量%となるようにプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを用いて希釈することで、20重量%ポリマー溶液を得た。共重合体の重量平均分子量は78,300であり、20重量%ポリマー溶液における残存モノマー量(WM/W(M+P)×100)は1.6%であることが認められた。
【0160】
[製造例1‐2]
製造例1‐1において、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレートをN‐ヒドロキシフェニルマレイミドに変更した以外は、製造例1‐1と同様の方法で、製造例1‐2の共重合体の20%溶液を得た。共重合体の重量平均分子量は51,200であり、20重量%ポリマー溶液における残存モノマー量は2.9%であることが認められた。
【0161】
[製造例1‐3]
製造例1‐1において、製造例1‐1のフェニルメタクリレートをジシクロペンタニルメタクリレートに変更したこと以外は、製造例1‐1と同様の方法で、製造例1‐3の20重量%ポリマー溶液を得た。共重合体の重量平均分子量は67,900であり、20重量%ポリマー溶液における残存モノマー量は2.1%であることが認められた。
【0162】
[製造例1‐4]
製造例1‐1において、モノマー溶液をフェニルメタクリレート(160.0g)、および、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(20.0g)の混合溶液に変更した以外は、製造例1‐1と同様の方法で、製造例1‐4の20重量%ポリマー溶液を得た。重合体の重量平均分子量は57,700であり、20重量%ポリマー溶液における残存モノマー量は1.9%であることが認められた。
【0163】
[製造例1‐5]
製造例1‐1において、モノマー溶液を4‐ヒドロキシフェニルメタクリレート(48.0g)、フェニルメタクリレート(112.0g)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(20.0g)の混合溶液に変更した以外は、製造例1‐1と同様の方法で、製造例1‐5の20重量%ポリマー溶液を得た。共重合体の重量平均分子量は88,000であり、20重量%ポリマー溶液における残存モノマー量は2.1%であることが認められた。
【0164】
[製造例1‐6]
製造例1‐1において、モノマー溶液をメチルメタクリレート(160.0g)、および、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(20.0g)の混合溶液に変更した以外は、製造例1‐1と同様の方法で、製造例1‐6の20重量%ポリマー溶液を得た。重合体の重量平均分子量は51,000であり、20重量%ポリマー溶液における残存モノマー量は2.1%であることが認められた。
【0165】
なお、各製造例について、重量平均分子量、および、残存モノマー量は下記の方法によって求めた。
【0166】
[重量平均分子量]
各製造例の20重量%ポリマー溶液について、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件により、重量平均分子量(Mw)を求めた。
【0167】
装置:東ソー(株)製、HLC‐8220
カラム:shodex社製、LF‐804
標準物質:ポリスチレン
溶離液:THF(テトラヒドロフラン)
流量:1.0ml/min
カラム温度:40℃
検出器:RI(示差屈折率検出器)
【0168】
[残存モノマー量]
各製造例の20重量%ポリマー溶液について、ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて内部標準法によりポリマー溶液中の各モノマーの含有量を測定した。そして、各モノマーの含有量を合計してモノマーの総量(WM)を算出した。合成時における各モノマーの投入量を合計した投入モノマーの総量(W(M+P))を算出した。これらに基づいて、各製造例における残存モノマー量(WM/W(M+P)×100)を算出した。なお、ガスクロマトグラフィーの測定条件を、以下のように設定した。
【0169】
装置:(株)島津製作所製、GC-2014
カラム:アジレント・テクノロジー(株)製、DB-1
インジェクション温度:300℃
ディテクター温度:300℃
昇温プロファイル:40℃から20℃/分で300℃まで昇温して4分間保持
注入量:2μL
検出器:FID
キャリアガス:ヘリウム 70kPa
スプリット比:1/30
【0170】
各製造例の20重量%ポリマー溶液(3.0g)に、内部標準物質としてビフェニル(0.01g)とアセトン(2g)とを加えて混合した後、メタノール(25g)を加えて混合することによって、ポリマーを沈殿させた。上澄みをろ過して、GC測定に用いた。
【0171】
[製造例2]
表2を参照して、共重合体の製造例を説明する。なお、以下に説明する各製造例の重量平均分子量、および、残存モノマー量は、上述した製造例1と同様の方法で求めた。
【0172】
【0173】
[製造例2‐1]
製造例1‐1において、モノマー溶液をグリシジルメタクリレート(32.0g)、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレート(16.0g)、フェニルメタクリレート(112.0g)、および、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(20.0g)の混合溶液に変更した以外は、製造例1‐1と同様の方法で、製造例2‐1の20重量ポリマー%溶液を得た。共重合体の重量平均分子量は67,100であり、20重量%ポリマー溶液における残存モノマー量は1.7%であることが認められた。
【0174】
[製造例2‐2]
製造例1‐1と同様の方法によって、製造例2‐2の20重量%ポリマー溶液を得た。共重合体の重量平均分子量は78,100であり、20重量%ポリマー溶液における残存モノマー量は1.7%であることが認められた。
【0175】
[製造例2‐3]
製造例1‐1において、モノマー溶液をグリシジルメタクリレート(16.0g)、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレート(32.0g)、フェニルメタクリレート(112.0g)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(20.0g)の混合溶液に変更した以外は、製造例1‐1と同様の方法で、製造例2‐3の20重量%ポリマー溶液を得た。共重合体の重量平均分子量は82,000であり、20重量%ポリマー溶液の残存モノマー量は1.7%であることが認められた。
【0176】
[製造例2‐4]
製造例1‐1において、モノマー溶液をグリシジルメタクリレート(12.0g)、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレート(36.0g)、フェニルメタクリレート(112.0g)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(20.0g)の混合溶液に変更した以外は、製造例1‐1と同様の方法で、製造例2‐4の20重量%ポリマー溶液を得た。共重合体の重量平均分子量は83,800であり、20重量%ポリマー溶液の残存モノマー量は1.6%であることが認められた。
【0177】
[製造例2‐5]
製造例1‐1において、モノマー溶液をグリシジルメタクリレート(9.6g)、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレート(38.4g)、フェニルメタクリレート(112.0g)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(20.0g)の混合溶液に変更した以外は、製造例1‐1と同様の方法で、製造例2‐5の20重量%ポリマー溶液を得た。共重合体の重量平均分子量は85,300であり、20重量%ポリマー溶液の残存モノマー量は1.7%であることが認められた。
【0178】
[製造例2‐6]
製造例1‐1において、モノマー溶液をグリシジルメタクリレート(8.0g)、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレート(40.0g)、フェニルメタクリレート(112.0g)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(20.0g)の混合溶液に変更した以外は、製造例1‐1と同様の方法で、製造例2‐6の20重量%ポリマー溶液を得た。共重合体の重量平均分子量は85,500であり、20重量%ポリマー溶液の残存モノマー量は1.6%であることが認められた。
【0179】
[製造例2‐7]
製造例1‐1において、モノマー溶液をグリシジルメタクリレート(28.0g)、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレート(28.0g)、フェニルメタクリレート(104.0g)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(20.0g)の混合溶液に変更した以外は、製造例1‐1と同様の方法で、製造例2‐7の20重量%ポリマー溶液を得た。共重合体の重量平均分子量は76,900であり、20重量%ポリマー溶液の残存モノマー量は1.7%であることが認められた。
【0180】
[製造例2‐8]
製造例1‐1において、モノマー溶液をグリシジルメタクリレート(18.4g)、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレート(37.6g)、フェニルメタクリレート(104.0g)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(20.0g)の混合溶液に変更した以外は、製造例1‐1と同様の方法で、製造例2‐8の20重量%ポリマー溶液を得た。共重合体の重量平均分子量は84,000であり、20重量%ポリマー溶液の残存モノマー量は1.9%であることが認められた。
【0181】
[製造例2‐9]
製造例1‐1において、モノマー溶液をグリシジルメタクリレート(16.0g)、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレート(40.0g)、フェニルメタクリレート(104.0g)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(20.0g)の混合溶液に変更した以外は、製造例1‐1と同様の方法で,製造例2‐9の20重量%ポリマー溶液を得た。共重合体の重量平均分子量は89,300であり、20重量%ポリマー溶液の残存モノマー量は1.5%であることが認められた。
【0182】
[製造例2‐10]
製造例1‐1において、モノマー溶液をグリシジルメタクリレート(32.0g)、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレート(32.0g)、フェニルメタクリレート(96.0g)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(20.0g)の混合溶液に変更した以外は、製造例1‐1と同様の方法で、製造例2‐10の20重量%ポリマー溶液を得た。共重合体の重量平均分子量は90,400であり、20重量%ポリマー溶液の残存モノマー量は1.6%であることが認められた。
【0183】
[製造例2‐11]
製造例1‐1において、モノマー溶液をグリシジルメタクリレート(40.0g)、4‐ヒドロキシフェニルメタクリレート(40.0g)、フェニルメタクリレート(80.0g)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(20.0g)の混合溶液に変更した以外は、製造例1‐1と同様の方法で、製造例2‐11の20重量%ポリマー溶液を得た。共重合体の重量平均分子量は92,600であり、20重量%ポリマー溶液の残存モノマー量は1.5%であることが認められた。
【0184】
[試験例]
[試験例1]
試験例1では、製造例1‐1から製造例1‐6の共重合体を以下の方法で用いることによって、6種の着色樹脂組成物を得た。さらに、各々の着色樹脂組成物から硬化膜を形成した。そして、硬化膜において、試験前、耐溶媒試験の後、および、耐熱試験の後における吸光度を以下に説明する方法で算出した。なお、各試験例の硬化膜を形成する際には、以下に説明する耐溶媒試験に用いる硬化膜と、耐熱性試験に用いる硬化膜とを各別に形成した。
【0185】
シアニン色素(0.3g)、20量%ポリマー溶液(15.0g)、および、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(10g)を含む塗液を作製した。この際に、シアニン色素として、上記式(6)によって表される色素を用い、上述した製造例1‐1から製造例1‐6によって得られた重合体または共重合体をそれぞれ含む6種のポリマー溶液を用いた。塗液を透明基板上に塗布し、塗膜を乾燥させた。次いで、塗膜を230℃で10分間加熱して硬化させることによって、1.0μmの厚さを有する試験例1‐1から試験例1‐6の硬化膜を得た。
【0186】
[評価方法]
[分光特性]
分光光度計((株)日立ハイテクノロジーズ製、U-4100)を用いて350nmから1150nmの各波長を有した光に対する各試験例の硬化膜における透過率を測定した。そして、透過率の測定結果から、吸光度を算出した。これにより、各硬化膜について、吸光度のスペクトルを得た。なお、上記式(6)によって表されるシアニン色素における吸光度のスペクトルは、950nmにおいてピークを有する。そのため、硬化膜における950nmでの吸光度が、0.8以上であるか否かを評価した。吸光度が0.8以上であれば、硬化膜に含まれるシアニン色素が950nmの光を85%以上吸収することに相当するので、950nmの波長を有した光を吸収する光学フィルターとして十分に機能するといえる。
【0187】
[耐溶媒性]
各試験例の硬化膜における透過率の測定後、各試験例の硬化膜を溶媒の一例であるN‐メチルピロリドンに1分間にわたって浸漬した。浸漬後の各試験例の硬化膜について、浸漬前の各試験例の硬化膜に対する方法と同様の方法によって透過率を測定した。そして、透過率の測定結果から、吸光度を算出した。これにより、浸漬後の各試験例の硬化膜について、吸光度のスペクトルを得た。浸漬後の各試験例の硬化膜において、950nmでの吸光度が0.7以上であるか否かを評価した。浸漬後の硬化膜において吸光度が0.7以上であれば、浸漬前の硬化膜が光学フィルターとして十分に機能する吸光度を有する場合に、浸漬後における吸光度の変化が小さいといえる。
【0188】
[耐熱性]
各試験例の硬化膜における透過率の測定後、各試験例の硬化膜を250℃で5分間加熱した。加熱後の各試験例の硬化膜について、加熱前の各試験例の硬化膜に対する方法と同様の方法によって透過率を測定した。そして、透過率の測定結果から、吸光度を算出した。これにより、加熱後の各試験例の硬化膜について、吸光度のスペクトルを得た。加熱後の各試験例の硬化膜において、950nmでの吸光度が0.7以上であるか否かを評価した。加熱後の硬化膜において吸光度が0.7以上であれば、加熱前の硬化膜が光学フィルターとして十分に機能する吸光度を有する場合に、加熱後における吸光度の変化が小さいといえる。
【0189】
[評価結果]
試験例1‐1から試験例1‐6の硬化膜における吸光度を算出したところ、吸光度は、以下の表3に示す通りであった。なお、各試験例において、耐溶媒試験用に準備された硬化膜における試験前の吸光度と、耐熱試験用に準備された硬化膜における試験前の吸光度とは、同一であることが認められた。
【0190】
【0191】
表3が示すように、試験例1‐1から試験例1-5における耐性試験前の吸光度が0.96であり、試験例1‐1から試験例1‐5の硬化膜は、0.8以上の吸光度を有することが認められた。一方で、試験例1‐6における耐性試験前の吸光度は0.50であり、試験例1‐6の硬化膜は、0.8未満の吸光度を有することが認められた。耐溶媒試験後において、試験例1‐1の硬化膜、および、試験例1‐2の硬化膜における吸光度は0.85であることが認められた。また、試験例1‐3の硬化膜における吸光度は、0.72であることが認められた。これに対して、試験例1‐4の硬化膜、試験例1‐5の硬化膜、および、試験例1‐6の硬化膜のそれぞれにおける吸光度は0.05であることが認められた。
【0192】
試験例1‐1から試験例1‐3での吸光度と、試験例1‐4から試験例1-6での吸光度との比較から、共重合体において、第1繰り返し単位がエポキシ基を有し、かつ、第2繰り返し単位がフェノール性水酸基を有することによって、硬化膜の耐溶媒性が高められるといえる。
【0193】
また、表3が示すように、耐熱試験後において、試験例1‐1の硬化膜における吸光度は0.80であり、試験例1‐2の硬化膜における吸光度は0.82であることが認められた。また、試験例1‐3の硬化膜における吸光度は0.72であり、試験例1‐4の硬化膜における吸光度は0.52であることが認められた。さらに、試験例1‐5の硬化膜における吸光度は0.74であり、試験例1‐6の硬化膜における吸光度は0.15であることが認められた。
【0194】
このように、試験例1‐1から試験例1‐3、および、試験例1‐5の硬化膜では、耐熱試験に起因する吸光度の変化が小さいことが認められた。これに対して、試験例1‐4の硬化膜では、耐熱試験に起因する吸光度の変化が大きいことが認められた。すなわち、試験例1‐1から試験例1-3の硬化膜と、試験例1‐4の硬化膜との比較から、共重合体において、第1繰り返し単位がエポキシ基を有し、第2繰り返し単位がフェノール性水酸基を有することによって、硬化膜の耐熱性が高められるといえる。
【0195】
エポキシ基を有した第1繰り返し単位と、フェノール性水酸基を有した第2繰り返し単位とを含む共重合体によれば、硬化膜の耐溶媒性と耐熱性とが両立されるといえる。
また、試験例1‐4の硬化膜と試験例1‐6の硬化膜との比較から、耐性試験前の硬化膜において、第3繰り返し単位が芳香環を有することによって、色素において吸収が期待される波長での分光特性の劣化が硬化膜において抑えられるといえる。
【0196】
[試験例2]
試験例2では、製造例2‐1から製造例2‐11の共重合体を以下の方法で用いることによって、11種の硬化膜を得た。そして、各硬化膜において、試験前、耐溶媒試験の後、および、耐熱試験の後における吸光度を上述した方法で算出した。なお、各試験例の硬化膜を製造する際には、耐溶媒試験に用いる硬化膜と、耐熱試験に用いる硬化膜とを各別に製造した。
【0197】
シアニン色素(0.3g)、20質量%ポリマー溶液(15.0g)、および、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(10g)を含む塗液を作製した。この際に、シアニン色素として、上記式(6)によって表される色素を用い、上述した製造例2‐1から製造例2‐11によって得られた共重合体をそれぞれ含む11種のポリマー溶液を用いた。塗液を透明基板上に塗布し、塗膜を乾燥させた。次いで、230℃で10分間加熱して塗膜を硬化させることによって、1.0μmの厚さを有する試験例2‐1から試験例2‐11の硬化膜を得た。
【0198】
[評価方法]
試験例1と同様の方法を用いて、試験例2‐1から試験例2‐11の硬化膜について吸光度のスペクトルを得た。また、試験例2‐1から試験例2‐11の硬化膜に対して、試験例1と同様の方法を用いて耐溶媒試験および耐熱試験を行った。そして、各試験後の硬化膜について、試験例1と同様の方法を用いて、吸光度のスペクトルを得た。
【0199】
[評価結果]
試験例2‐1から試験例2‐11の硬化膜における吸光度を算出したところ、吸光度は、以下の表4に示す通りであった。なお、各試験例において、耐溶媒試験用に準備された硬化膜における試験前の吸光度と、耐熱試験用に準備された硬化膜における試験前の吸光度とは、同一であることが認められた。
【0200】
【0201】
表4が示すように、試験例2‐1から試験例2-9における耐性試験前の硬化膜が有する吸光度は、0.96であることが認められた。これに対して、試験例2‐10における耐性試験前の硬化膜が有する吸光度は0.68であり、試験例2‐11における耐性試験前の硬化膜が有する吸光度は0.59であることが認められた。
【0202】
このように、試験前の硬化膜における950nmでの吸光度について、試験例2‐1から試験例2‐9では0.8以上である一方で、試験例2‐10および試験例2‐11では、0.8未満であることが認められた。試験例2‐1から試験例2‐9の硬化膜と、試験例2‐10および試験例2‐11の硬化膜との比較から、共重合体における第3繰り返し単位の割合が65重量%以上である場合には、硬化膜の試験前の分光特性が保たれていることが認められた。
【0203】
また、耐溶媒試験後において、試験例2‐1の硬化膜における吸光度は0.02であり、試験例2‐2の硬化膜における吸光度は0.85であり、試験例2‐3の硬化膜における吸光度は0.82であることが認められた。試験例2‐4の硬化膜における吸光度は0.72であり、試験例2‐5の硬化膜における吸光度は0.30であり、試験例2‐6の硬化膜における吸光度は0.05であることが認められた。試験例2‐7の硬化膜における吸光度は0.85であり、試験例2‐8の硬化膜における吸光度は0.80であり、試験例2‐9の硬化膜における吸光度は0.72であることが認められた。試験例2‐10の硬化膜における吸光度は0.64であり、試験例2‐11の硬化膜における吸光度は0.55であることが認められた。
【0204】
このように、耐溶媒試験後の硬化膜において、950nmでの吸光度は、試験例2‐2から2-4、および、試験例2‐7から試験例2‐9において、0.7以上であることが認められた。これに対して、試験例2‐1、試験例2‐5、および、試験例2‐6において、0.7未満であることが認められた。
【0205】
試験例2‐1から試験例2‐9の硬化膜の比較から、共重合体における第1繰り返し単位の割合が7.5重量%以上17.5重量%以下であり、かつ、第1繰り返し単位の重量に対する第2繰り返し単位の比が1.0以上3.0以下の範囲であることによって、硬化膜の耐溶媒性が高められるといえる。
【0206】
また、表4が示すように、耐熱試験後において、試験例2‐1の硬化膜、および、試験例2‐2の硬化膜における吸光度は0.80であり、試験例2‐3の硬化膜における吸光度は0.82であることが認められた。試験例2‐4の硬化膜、および、試験例2‐5の硬化膜における吸光度は0.80であり、試験例2‐6の硬化膜における吸光度は0.82であることが認められた。試験例2‐7の硬化膜における吸光度は0.72であり、試験例2‐8の硬化膜、および、試験例2‐9の硬化膜における吸光度は0.80であることが認められた。さらに、試験例2‐10の硬化膜における吸光度は0.40であり、試験例2‐11の硬化膜における吸光度は0.21であることが認められた。
【0207】
このように、耐熱試験後の硬化膜において、950nmにおける吸光度は、試験例2‐1から試験例2‐9のいずれにおいても0.7以上であることが認められた。すなわち、第2繰り返し単位の重量に対する第1繰り返し単位の重量の比を、0.5以上5.0以下の範囲で変更しても、硬化膜の耐熱性は保たれることが認められた。なお、試験例2‐10および試験例2‐11の硬化膜での吸光度の変化量は0.28以上であり、試験例2‐1から試験例2‐9の硬化膜での吸光度の変化量よりも大きいことが認められた。そのため、共重合体において第3の繰り返し単位が65重量%未満である場合には、耐熱性も低くなることが認められた。
【0208】
なお、試験例2‐1から試験例2‐11の評価結果によれば、第3繰り返し単位の割合が65重量%以上である場合には、硬化膜の耐溶媒性および耐熱性を両立する上では、第3繰り返し単位の重量に対する第2繰り返し単位の重量の比は、1.0以上3.0以下の範囲であれば許容されるといえる。
【0209】
[試験例3]
表5を参照して、試験例3を説明する。
[試験例3‐1]
シアニン色素(0.05g)、20重量%ポリマー溶液(15g)、および、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(10g)を含む塗液を作製した。すなわち、溶媒の重量に対する着色剤の重量の百分率を0.23重量%に設定した。なお、塗液において、着色剤が溶媒に溶解していることが認められた。この際に、シアニン色素として、上記式(6)によって表される色素を用い、上述した製造例1-1によって得られた共重合体を含むポリマー溶液を用いた。塗液を透明基板上に塗布し、塗膜を乾燥させた。次いで、塗膜を230℃で10分間加熱して硬化させることによって、1.0μmの厚さを有する試験例3‐1の硬化膜を得た。
【0210】
[試験例3‐2]
試験例3‐1において、シアニン色素の量を0.05gから0.1gに変更した。すなわち、溶媒の重量に対する着色剤の重量の百分率を0.45重量%に設定した。なお、塗液において、着色剤が溶媒に溶解していることが認められた。それ以外は、試験例3‐1と同様の方法によって、試験例3‐2の硬化膜を得た。
【0211】
[試験例3‐3]
試験例3‐1において、シアニン色素の量を0.05gから0.2gに変更した。すなわち、溶媒の重量に対する着色剤の重量の百分率を0.91重量%に設定した。なお、塗液において、着色剤が溶媒に溶解していることが認められた。それ以外は、試験例3‐1と同様の方法によって、試験例3‐3の硬化膜を得た。
【0212】
[試験例3‐4]
試験例3‐1において、シアニン色素の量を0.05gから0.3gに変更した。すなわち、溶媒の重量に対する着色剤の重量の百分率を1.4重量%に設定した。なお、塗液において、着色剤が溶媒に溶解していることが認められた。以外は、試験例3‐1と同様の方法によって、試験例3‐4の硬化膜を得た。
【0213】
[試験例3‐5]
試験例3‐1において、シアニン色素の量を0.05gから1.0gに変更した。すなわち、溶媒の重量に対する着色剤の重量の百分率を4.5重量%に設定した。なお、塗液において、着色剤が溶媒に溶解していることが認められた。それ以外は、試験例3‐1と同様の方法によって、試験例3‐5の硬化膜を得た。
【0214】
[試験例3‐6]
試験例3‐1において、シアニン色素の量を0.05gから4.0gに変更した。すなわち、溶媒の重量に対する着色剤の重量の百分率を18.2重量%に設定した。なお、塗液において、着色剤が溶媒に溶解していることが認められた。それ以外は、試験例3‐1と同様の方法によって、試験例3‐6の硬化膜を得た。
【0215】
[試験例3‐7]
試験例3‐1において、シアニン色素の量を0.05gから7gに変更した。すなわち、溶媒の質量に対する着色剤の重量の百分率を31.8重量%に設定した。なお、塗液において、着色剤が溶媒に溶解していることが認められた。それ以外は、試験例3‐1と同様の方法によって、試験例3‐7の硬化膜を得た。
【0216】
[試験例3‐8]
試験例3‐1において、シアニン色素の量を0.05gから8gに変更した。すなわち、溶媒の質量に対する着色剤の重量の百分率を36.4重量%に設定した。なお、塗液において、着色剤が溶媒に溶解していることが認められた。それ以外は、試験例3‐1と同様の方法によって、試験例3‐8の硬化膜を得た。
【0217】
[評価方法]
試験例1と同様の方法を用いて、試験例3‐1から試験例3‐7の硬化膜において吸光度のスペクトルを得た。
【0218】
[評価結果]
試験例3‐1から試験例3‐7の硬化膜における吸光度を算出したところ、吸光度は、以下の表5に示す通りであった。なお、表5には、シアニン色素が吸光度の極大値を示す950nmでの吸光度が示されている。
【0219】
【0220】
表5が示すように、試験例3‐1の硬化膜での吸光度は0.1であり、試験例3‐2の硬化膜での吸光度は0.4であることが認められた。試験例3‐3の硬化膜での吸光度は0.8であり、試験例3‐4の硬化膜での吸光度は0.96であり、試験例3‐5の硬化膜での吸光度は1.5であることが認められた。試験例3‐6の硬化膜での吸光度は2.5であり、試験例3‐7の硬化膜での吸光度は0.5であり、試験例3‐8の硬化膜での吸光度は0.5であることが認められた。また、試験例3‐7および試験例3‐8の硬化膜の表面には、着色剤の塊が多数析出することが認められた。試験例3‐7および試験例3‐8では、こうした着色剤の塊のために硬化膜の吸光度が低下したといえる。
【0221】
このように、溶媒の重量(WS)に対する着色剤の重量(WC)の百分率が0.6重量%以上30重量%以下であることによって、1.0μmの厚さを有した硬化膜において、光学フィルターとして十分な吸光度を有することが認められた。なお、表5に示される溶媒の重量(WS)は、塗液を調整するために用いた溶媒の重量と、ポリマー溶液に含まれる溶媒の重量との総和である。
【0222】
[試験例4]
表6を参照して、試験例4を説明する。
[試験例4‐1]
ジイモニウム色素(0.3g、ORGNICA製、Dye1500)、20重量%ポリマー溶液(15g)、および、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(10g)を含む塗液を作製した。なお、ジイモニウム色素のモル吸光係数は2.2×104であり、ジイモニウム色素は960nmにおいて吸光度の極大値を有する。また、上述した製造例1‐1によって得られた共重合体を含むポリマー溶液を用いた。塗液を透明基板上に塗布し、塗膜を乾燥させた。次いで、塗膜を150℃で10分間加熱して硬化させることによって、1.0μmの厚さを有する試験例4‐1の硬化膜を得た。
【0223】
[試験例4‐2]
試験例4‐1において、ジイモニウム色素の量を1.0gに変更した。それ以外は、試験例4‐1と同様の方法によって、試験例4‐2の硬化膜を得た。
【0224】
[試験例4‐3]
試験例4‐1において、ジイモニウム色素の量を1.5gに変更した。それ以外は、試験例4‐1と同様の方法によって、試験例4‐3の硬化膜を得た。
【0225】
[試験例4‐4]
試験例4‐1において、ジイモニウム色素をビスジチオベンジルニッケル色素(東京化成工業(株)製、B1350)に変更し、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートをN‐メチル‐2‐ピロリドンに変更した。なお、ビスジチオベンジルニッケル色素のモル吸光係数は2.8×104であり、ビスジチオベンジルニッケル色素は860nmにおいて吸光度の極大値を有する。それ以外は、試験例4‐1と同様の方法によって、試験例4‐4の硬化膜を得た。
【0226】
[試験例4‐5]
試験例4‐4において、ビスジチオベンジルニッケル色素の量を1.0gに変更した。それ以外は、試験例4‐4と同様の方法によって、試験例4‐5の硬化膜を得た。
【0227】
[試験例4‐6]
試験例4‐1において、ジイモニウム色素をフタロシアニン色素(特許第6229875号、実施例1に記載の構造)に変更した。なお、フタロシアニン色素のモル吸光係数は5.0×104であり、フタロシアニン色素は920nmにおいて吸光度の極大値を有する。それ以外は、試験例4‐1と同様の方法によって、試験例4‐6の硬化膜を得た。
【0228】
[試験例4‐7]
試験例4‐1において、フタロシアニン色素の量を1.0gに変更した。それ以外は、試験例4‐1と同様の方法によって、試験例4‐7の硬化膜を得た。
【0229】
[試験例4‐8]
試験例4‐1において、ジイモニウム色素をシアニン色素(上記式(33))に変更した。なお、シアニン色素のモル吸光係数は1.4×105であり、シアニン色素は830nmにおいて吸光度の極大値を有する。それ以外は、試験例4‐1と同様の方法によって、試験例4‐8の硬化膜を得た。
【0230】
[評価結果]
試験例1と同様の方法を用いて、試験例4‐1から試験例4‐7の硬化膜において吸光度のスペクトルを得た。
【0231】
[評価結果]
試験例4‐1から試験例4‐7の硬化膜における吸光度を算出したところ、吸光度は、以下の表6に示す通りであった。なお、表6には、各試験例の色素が吸光度の極大値を有する波長での吸光度が示されている。
【0232】
【0233】
表6が示すように、試験例4‐1の硬化膜では吸光度が0.2であり、試験例4‐2の硬化膜では吸光度が0.4であり、試験例4‐3の硬化膜では吸光度が0.5であることが認められた。また、試験例4‐3の硬化膜では、硬化膜の表面に着色剤の塊が多数析出していることが認められた。試験例4‐4の硬化膜では吸光度が0.2であり、試験例4‐5の硬化膜での吸光度が0.3であることが認められた。また、試験例4‐5の硬化膜では、硬化膜の表面に着色剤の塊が多数析出していることが認められた。試験例4‐6の硬化膜では吸光度が0.4であり、試験例4‐7の硬化膜での吸光度が0.82であることが認められた。試験例4‐8の硬化膜では吸光度が0.88であることが認められた。
【0234】
試験例4‐1から試験例4‐5の評価結果から明らかなように、着色剤のモル吸光係数が2.2×104である場合、および、モル吸光係数が2.8×104である場合には、光学フィルターとして十分な吸光度が得られる程度にするためには、より多くの着色剤量を含む塗液の調整が必要となる。その場合、硬化膜の表面に着色剤が析出してしまい、塗液に含まれる着色剤量に相当する吸光度が得られない。結果として、光学フィルターとして十分な吸光度を有した硬化膜を得ることができないことが認められた。
【0235】
これに対して、試験例4‐6および試験例4‐7の評価結果から明らかなように、着色剤のモル吸光係数が5.0×104である場合には、硬化膜の表面に着色剤が析出しない程度の着色剤を含む塗液によって、光学フィルターとして十分な吸光度を有した硬化膜が得られることが認められた。
【0236】
このように、着色剤のモル吸光係数が3.0×104以上であることによって、1.0μmの厚さを有した硬化膜において、光学フィルターとして十分な吸光度を有することが認められた。
【0237】
以上説明したように、着色樹脂組成物、光学フィルター、および、光学フィルターの製造方法によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
(1)共重合体が第1繰り返し単位および第2繰り返し単位を含んでいる。そのため、第1繰り返し単位が有するエポキシ基と第2繰り返し単位が有するフェノール性水酸基が硬化膜を形成する際の加熱工程において架橋構造を形成し、これによって、加熱により硬化膜の吸光度が変化することが抑えられる。加えて、第1繰り返し単位と第2繰り返し単位とが架橋構造を形成するから、硬化膜に対して他の層を積層する際に用いられる溶媒が触れることによって、硬化膜から着色剤である色素が溶出することが抑えられる。このように、着色樹脂組成物の共重合体が第1繰り返し単位および第2繰り返し単位を含むことによって、着色樹脂組成物を用いて形成された硬化膜、すなわち光学フィルターの耐熱性および溶媒に対する耐性を高めることが可能である。
【0238】
(2)共重合体はさらに第3繰り返し単位を含んでいる。そのため、第3繰り返し単位が有する芳香環または脂環式構造は、着色剤である色素と、その色素の近傍に位置する他の色素との間に位置することによって、色素の会合を抑える程度の距離を色素間に形成することが可能である。これにより、色素での吸収が期待される波長での分光特性の劣化が抑えられる。
【0239】
(3)溶媒の重量に対する着色剤の重量の百分率が0.6重量%以上であることによって、薄膜化された光学フィルターが、光学フィルターとして十分な吸光度を有することが可能である。一方で、溶媒の重量に対する着色剤の重量の百分率が30重量%以下であることによって、溶媒に溶解していた着色剤が、光学フィルターの形成時における溶媒の揮発に起因して、光学フィルターの表面に析出することが抑えられる。
【0240】
(4)着色剤のモル吸光係数が3.0×104以上であることによって、薄膜化された光学フィルターにおいて求められる吸収度を実現可能な着色樹脂組成物の調整が可能である。
【0241】
(5)共重合体が第1繰り返し単位と第2繰り返し単位を上述した範囲で含むことによって、硬化膜を形成する際の加熱処理後において、および、硬化膜が溶媒に接触した場合において、硬化膜の吸光度が低下することが抑えられる。
【0242】
(6)共重合体が第3繰り返し単位を上述した範囲で含むことによって、硬化膜を形成する際における色素の会合が抑制され、着色剤での吸収が期待される波長での分光特性の劣化を抑えられる。
【0243】
(7)ガラス転移温度が75℃以上であれば、本開示の着色樹脂組成物を用いて硬化膜を形成した際に、形成された硬化膜が含む着色剤において吸収が期待される波長での分光特性の劣化を抑える確実性を高めることが可能である。
【0244】
(8)共重合体の分子量がこの範囲に含まれることによって、本開示の着色樹脂組成物を用いて硬化膜を形成した際に、形成された硬化膜が含む着色剤において吸収が期待される波長での分光特性の劣化を抑える確実性を高めることが可能である。
【0245】
(9)残存モノマーが20%よりも多い場合に比べて、本発明の着色樹脂組成物を用いて硬化膜を形成した際に、硬化膜の吸光度が変化しにくくなる。