(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022100223
(43)【公開日】2022-07-05
(54)【発明の名称】血糖値コントロール用マッサージ機、および、それを用いた血糖値管理システム
(51)【国際特許分類】
A61H 39/04 20060101AFI20220628BHJP
A61H 23/02 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
A61H39/04 V
A61H23/02 357
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021163160
(22)【出願日】2021-10-02
(62)【分割の表示】P 2021135411の分割
【原出願日】2021-08-23
(31)【優先権主張番号】P 2020214159
(32)【優先日】2020-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】507241779
【氏名又は名称】株式会社ウイルステージ
(72)【発明者】
【氏名】大谷 洋
【テーマコード(参考)】
4C074
4C101
【Fターム(参考)】
4C074AA03
4C074AA05
4C074BB05
4C074CC17
4C074HH02
4C101BA01
4C101BB02
4C101BB08
4C101BB12
4C101BD16
4C101BE06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】これまでのマッサージ機とは、施術場所や施術方法、それによる作用、目的が全く異なる施術を行い、それにより、具体的且つ明確な健康改善効果が得ることができるマッサージ機を提供する。
【解決手段】本発明に係るマッサージ機は、下顎骨、耳下部の翳風、あるいは、手のひら下方中央の手根骨のうちのいずれかの部位を叩くことで刺激を与える繰り返し打撃手段を有し、当該繰り返し打撃手段の周波数は、0.8Hz以上、且つ、200Hz以下であることを特徴とするものである。
【選択図】
図19
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下顎骨、耳下部の翳風、あるいは、手のひら下方中央の手根骨のうちのいずれかの部位を叩くことで刺激を与える繰り返し打撃手段を有し、
当該繰り返し打撃手段の周波数は、0.8Hz以上、且つ、200Hz以下である
ことを特徴とするマッサージ機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、主に踵に対して刺激を与えるマッサージ機に関する発明である。また、当該マッサージ機を用いた血糖値の管理システムに関する発明である。
【背景技術】
【0002】
古来より、青竹ふみにより土踏まずを刺激することで、健康増進効果があることが知られている。土踏まずには多くのツボがあり、また血行促進の効果もあると考えられている。
また、ふくらはぎをマッサージすることで、全身の血行改善効果があることも周知になっている。
【0003】
このようなことから、足裏やふくらはぎのマッサージ機も開発されている。
例えば、使用者の下肢を空気の圧力を用いてマッサージするエアマッサージ部と、前記使用者の足裏に対して振動する施療子を押し付けて足裏のマッサージを行う足裏マッサージ部とを有するマッサージ機が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これまでの足裏やふくらはぎのマッサージ機は、血液やリンパの流れを良くしたり、健康回復を目的としたりするものであり、具体的な疾患の治療、改善、あるいは予防効果を示すものではなかった。
【0006】
本発明においては、様々な具体的な治癒、予防効果等を有するマッサージ機を提供するものであり、特に血糖値の低減効果を有するマッサージ機、および、当該マッサージ機を用いた血糖値の低減方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るマッサージ機は、下顎骨、耳下部の翳風、あるいは、手のひら下方中央の手根骨のうちのいずれかの部位を叩くことで刺激を与える繰り返し打撃手段を有し、当該繰り返し打撃手段の周波数は、0.8Hz以上、且つ、200Hz以下であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
これまでのマッサージ機は、主に土踏まずに刺激を与えるものがほとんどであり、その刺激も振動が主体であった。すなわち、足裏表面に平行な方向の振動を与えるものであった。作用としては、血行を促進し、またツボに刺激を与えるものであった。
【0009】
本発明は、土踏まずではなく、踵骨を刺激する踵刺激手段を主とする施術を行うマッサージ機を提供するものである。例えば、踵に対して略垂直方向に打撃を与えるものである。この打撃力はある程度の強さを持ち、また、その周波数も一定以上の比較的速い上下動である。作用としては、踵骨に衝撃等の刺激を与えるものである。踵骨を刺激する刺激としては、打撃以外に、踵に対する超音波印加、踵に対する電流印加、あるいは踵に対する電磁場印加も有効である。
また、踵骨だけではなく、下顎骨、耳下部の翳風、あるいは、手のひら下方中央の手根骨に対する刺激も同様に有効である。
このように、これまでのマッサージ機とは、動作や作用、目的が全く異なり、したがって、以下に述べるように、これまでのマッサージ機では得られなかった具体的且つ明確な効果が得られる。
【0010】
この施術の効果として特筆すべきことは、血糖値を低減できることである。空腹時の血糖値を低下させ、また、食後の血糖値の上昇幅を小さくし、そして、その後の血糖値の低下を速やかにすることができる。このように、血糖値をコントロールすることが可能である。
【0011】
踵骨を刺激する踵刺激手段による施術を単独で行うだけでも、有意な血糖値低減効果が得られるが、ふくらはぎのマッサージや、腎臓の反射区の押圧と組み合わせると、さらに効果を高めることができる。
また、施術前に酵素浴等の身体活性化を行うことでも、血糖値低減効果をより顕著にすることが可能である。
【0012】
さらに、以下の諸症状に関しても、改善効果が得られる可能性を示すことができた。
例えば、物忘れ、眼精疲労やかすみ目、頻尿、疲労回復、手足や顔等ののむくみ、性的欲求、肌質といった項目についての改善である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】本発明のマッサージ機の足裏マッサージ部の上面図である。
【
図12】実施の形態2の座席において用いるマッサージ機の模式図である。
【
図13】実施の形態3の踵に対する打撃角度を示す図である。
【
図14】検証実験11の結果を示すグラフであり、踵を下方より垂直に打撃した場合の血糖値変化を示している。
【
図15】検証実験11の結果を示すグラフであり、踵を後方より45°で打撃した場合の血糖値変化を示している。
【
図16】実施の形態4の足の打撃部位を示す図である。
【
図17】実施の形態4の手のひらの打撃部位を示す図である。
【
図18】検証実験13の結果を示すグラフであり、手のひらの下部中央を打撃した場合の血糖値の変化を示している。
【
図19】実施の形態4の顔および肩の打撃部位を示す図である。
【
図20】検証実験14の結果を示すグラフであり、耳の下部を打撃した場合の血糖値の変化を示している。
【
図21】検証実験14の結果を示すグラフであり、あごを打撃した場合の血糖値の変化を示している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のマッサージ機に関して、良好な実施の形態を以下に図を用いて説明する。
なお、本発明は以下に示す実施の形態に限定されるものではなく、同様の発明概念を含むものである。
【0015】
実施の形態1.
<マッサージ機の構成>
まず、
図1および
図2を用いて、マッサージ機の構成について説明する。
図1は、マッサージ機の全体斜視図であり、
図2は、足裏マッサージ部2の部分上面図である。
本発明に係るマッサージ機は、足の概略位置を規定する足挿入部1と、足挿入部1の底面に設けられた踵を叩く繰り返し打撃手段2aを有するものである。
【0016】
また、本発明に係るマッサージ機は、叩く、揉む、振動を与えるのうちのいずれかの施術を行うふくらはぎマッサージ手段3をさらに備えたものである。
さらに、本発明に係るマッサージ機は、足挿入部1の底面に設けられた膵臓の反射区を押圧する押圧手段2bをさらに備えたものである。
【0017】
<マッサージ機の施術方法>
このマッサージ機による施術方法について説明する。まず、椅子に腰かけ、両足を足挿入部1に挿入する。足挿入部1は、人の足の形態に合った内形をしており、内壁にはクッション部2cが設けられ、足を包むように固定する。したがって、概ね足の位置は規定される。例えば、
図2に示すように、足裏マッサージ部2において、踵が打撃手段2aの上に、土踏まずにある膵臓の反射区が押圧手段2bの上になるように、足の位置が決められる。
【0018】
打撃手段2aは足挿入部1の底面に設けられ、上下方向に運動することで、踵を繰り返し叩くものである。踵を叩くことで、足の骨格に刺激が与えられる。後述するように、この打撃手段2aは、比較的速い繰り返しの上下運動であり、また、強い打撃でもある。
【0019】
押圧手段2bは、膵臓の反射区に圧力を加えるものであり、ツボの指圧に相当する効果がある。
【0020】
ふくらはぎマッサージ手段3は、例えば、叩く、振動を与える、揉むといった動作であり、いずれであっても良い。
叩く動作は、上述の打撃手段2aと同様の動作である。
振動は、ふくらはぎ表面に対して平衡に動く動作である。
また、揉む動作は、例えば、エアバックによりふくらはぎを挟み込み、圧力を変化させて、ふくらはぎを揉む動作を行う。ふくらはぎを下から上に揉むような動作が特に望ましい。
いずれの動作も、血行を促進することで、打撃手段2aによる踵叩きにより生じる効果を助長するものである。
【0021】
打撃手段2aによる踵叩き、押圧手段2bによる反射区の押圧、ふくらはぎマッサージ手段3によるマッサージは、全て同時に行っても良い。より効果的には、ふくらはぎマッサージ手段3によるマッサージによって血行を促進した後に、他の施術を行うことが望ましい。
全体の施術時間としては、1回あたり5分から10分程度が適当であり、食前や食後に行うことが効果的である。
【0022】
<効果検証実験>
このマッサージ機を用いた施術が血糖値に与える効果について、検証するための4つの実験を行った。
第一の検証実験は、打撃手段2aによる踵叩き、押圧手段2bによる反射区の押圧、ふくらはぎマッサージ手段3によるマッサージの3つの施術それぞれの血糖値の低減効果の確認である。
【0023】
第二の検証実験は、施術前に、予め身体を活性化させる等の付随的措置を行った場合について、血糖値の低減効果に影響があるかを確認するものである。
【0024】
第三、および第四の検証実験は、打撃手段2aにより踵を叩く施術の最適条件を求めるためのものである。
【0025】
これらの検証実験においては、男女各3名の計6名(以下、被検査人と言う)に対して、施術の効果を調べた。この6名は、いずれも空腹時血糖値が126を超える者である。施術方法や施術条件等を変えて、この6名の血糖値を計測し、6名の血糖値の平均値を指標とした。
【0026】
具体的には、
図3に示す検証実験のフローに従って実験を行った。
まず、検査前日の夕食の前後で施術を行う。検査当日は、起床時の空腹時に血糖値を測定し、その後、朝食前に施術を実施する。さらに、朝食後に施術を実施する。そして、朝食30分間経過時と、90分経過時にそれぞれ血糖値を測定する。
検査翌日は施術を行わず、施術前の通常の血糖値の状態に戻るように、施術の効果をリセットする。
【0027】
以上、3日間がひとつの条件の施術に対するものである。次の3日間に、別の条件の施術を行う。このようにして、各施術に対する血糖値の影響を順に調べた。
【0028】
(検証実験1)
打撃手段2aによる踵叩き、押圧手段2bによる腎臓の反射区の押圧、ふくらはぎマッサージ手段3によるマッサージの3つの施術それぞれの血糖値に対する影響、および施術の組み合わせによる血糖値に対する影響を検証するため、以下の7つの試験区で血糖値を計測した。
【0029】
試験区A:コントロール(施術無し)
試験区B:打撃手段2aによる踵叩き(周波数:25Hz、打撃力:8kg重)
試験区C:ふくらはぎマッサージ手段3によるマッサージ
試験区D:押圧手段2bによる腎臓の反射区の押圧
試験区E:打撃手段2aによる踵叩き、および、ふくらはぎマッサージ手段3によるマッサージ
試験区F:ふくらはぎマッサージ手段3によるマッサージ、および、押圧手段2bによる腎臓の反射区の押圧
試験区G:打撃手段2aによる踵叩、ふくらはぎマッサージ手段3によるマッサージ、および、押圧手段2bによる腎臓の反射区の押圧
【0030】
【0031】
ふくらはぎマッサージ手段3によるマッサージ(試験区C)、および、押圧手段2bによる腎臓の反射区の押圧(試験区D)は、コントロール(試験区A)と比較して、有意な差はなく、血糖値の減少効果は見られなかった。
【0032】
打撃手段2aによる踵叩き(試験区B)は、起床時に測定した空腹時の血糖値が低くなり、また、朝食後の血糖値減少も速やかであり、明らかに血糖値の減少効果を確認できた。
【0033】
打撃手段2aによる踵叩きだけではなく、ふくらはぎマッサージ手段3によるマッサージを組み合わせた場合(試験区E)には、さらに効果は顕著になった。
打撃手段2aによる踵叩きに、押圧手段2bによる腎臓の反射区の押圧を組み合わせた場合(試験区F)も、打撃手段2aによる踵叩き(試験区B)のみの施術よりも効果が高まった。ただし、試験区Eに比べると、その効果は劣っていた。
【0034】
3つの施術全てを組み合わせて行った試験区Gは、最も顕著な血糖値の減少が確認できた。
【0035】
以上より、打撃手段2aによる踵叩きを行うことで、空腹時血糖値の減少、および、食事後の速やかな血糖値減少が生じることを確認できた。
また、打撃手段2aによる踵叩きに加えて、ふくらはぎマッサージ手段3によるマッサージや押圧手段2bによる腎臓の反射区の押圧を併せて行うことで、効果がより高まることも確認できた。
【0036】
(検証実験2)
打撃手段2aによる踵叩きが、血糖値の減少に有意な効果があることが分かった。この施術を行う前日に、身体を活性化する取り組みを行うことで、さらに効果が高まるかについて検討を行った。
【0037】
身体を活性化する取り組みとして、酵素浴30分(試験区B-1)と熱めの湯に入浴30分(試験区B-2)という2種を行った。
【0038】
【0039】
酵素浴(試験区B-1)が最も効果があり、打撃手段2aによる踵叩きの施術を行う前に、身体を活性化させることで、施術効果を高めることができることを確認できた。
また、熱めの湯に入浴30分(試験区B-2)を行うことも、有意な効果を確認できた。
【0040】
(検証実験3)
打撃手段2aによる踵叩きの施術に関して、踵叩きの周波数依存性について実験を行った。周波数は、0.1Hzから320Hzの間で変化させた。叩きの打撃力は8kg重である。なお、叩きの打撃力が4kg重、16kg重、32kg重、64kg重の場合も同様の周波数依存性を示した。
実験結果を
図4に示す。
【0041】
周波数が0.32Hz以下の場合には、施術を行わない場合よりも血糖値は減少したが、効果は小さかった。
周波数が0.8Hz以上、200Hz以下では、空腹時の血糖値が十分に減少し、食事後の血糖値低下も速やかであった。
【0042】
(検証実験4)
打撃手段2aによる踵叩きの施術に関して、踵叩きの打撃力依存性について実験を行った。打撃力は、0.5kg重から64kg重の間で変化させた。叩きの周波数は25Hzである。なお、叩きの周波数が0.8Hz、200Hzの場合も同様の打撃力依存性を示した。
実験結果を
図5に示す。
【0043】
打撃力が4kg重以上で良好な血糖値減少を確認できた。
ただし、打撃力が50kg重を超えた場合には、被検査人のうち2名が、施術後に軽い足の痛みを訴えた。痛みは直ぐになくなり、正常な状態に回復したが、50kg重を超えるという大きな打撃力は不必要であり、本実験結果より、実用上の適切な打撃力は4kg重以上、50kg重以下と判断できた。
【0044】
(検証実験1から4に関する考察)
以上の検証実験より、踵を打撃することが血糖値を制御する有効な手段であるという結果を得た。これは、踵、すなわち、踵骨に対する打撃という刺激を与えることが、血糖値の低減に関係している可能性を示唆していると考えられる。
そこで、踵骨に対する打撃以外の刺激も、血糖値に影響を与えるかどうかを確認するため、さらに追加の検証実験を行った。
【0045】
踵骨に対する打撃以外の刺激として、超音波、交流電流、および交流電磁場の印加を踵に対して行った。以下において、超音波に関しては検証実験5と6に、交流電流に関しては検証実験7と8に、交流電磁場に関しては、検証実験9と10に、その結果を示す。
なお、実験の方法に関しては、検証実験3および4と同様であり、踵に与える刺激手段が異なるのみである。
【0046】
(検証実験5)
超音波印加手段による踵に対する刺激に関して、超音波の周波数依存性について実験を行った。超音波は圧電素子を用いて発生させ、周波数は、0.2MHzから4.5MHzの間で変化させた。超音波のエネルギー密度は65mW/cm2である。なお、超音波のエネルギー密度が30mW/cm2、140mW/cm2、200mW/cm2の場合も同様の周波数依存性を示した。
実験結果を
図6に示す。
【0047】
周波数が0.5MHz以上、3MHz以下では、空腹時の血糖値が十分に減少し、食事後の血糖値低下も速やかであった。
【0048】
(検証実験6)
超音波印加手段による踵に対する刺激に関して、超音波のエネルギー密度を3mW/cm2から650mW/cm2の間で変化させた。超音波の周波数は1.2MHzである。なお、超音波の周波数が0.5MHz、08MHz、1.9MHz、3MHzの場合も同様のエネルギー密度依存性を示した。
実験結果を
図7に示す。
【0049】
超音波のエネルギー密度が30mW/cm2以上、200mW/cm2以下で良好な血糖値減少を確認できた。特に、食事後に速やかに血糖値が減少した。
以上のように、超音波を用いた場合も、打撃と同程度の血糖値コントロール効果が得られた。
【0050】
(検証実験7)
交流電流印加手段による踵に対する刺激に関して、交流電流の周波数依存性について実験を行った。電流は踵骨の両側に電流印加パッドを張り付けて電流を印加した。電流の周波数は、0.1Hzから1.5kHzの間で変化させた。電流値は10mAである。なお、電流値が5mA、30mAの場合も同様の周波数依存性を示した。
実験結果を
図8に示す。
【0051】
周波数が0.5Hz以上、300Hz以下では、空腹時の血糖値が減少し、食事後の血糖値低下も比較的速やかであった。
【0052】
(検証実験8)
交流電流印加手段による踵に対する刺激に関して、電流値を0.1mAから100mAの間で変化させた。交流電流の周波数は12.5Hzである。なお、交流電流の周波数が0.5Hz、2.5Hz、62.5Hz、300Hzの場合も同様の電流値依存性を示した。
実験結果を
図9に示す。
【0053】
交流電流の電流値を5mA以上、30mA以下で血糖値減少を確認できた。また、食事後に比較的速やかに血糖値が減少した。
以上のように、交流電流を用いた場合、打撃よりもやや程度が小さいものの、血糖値コントロール効果が得られた。
【0054】
(検証実験9)
電磁場印加手段による踵に対する刺激に関して、電磁場の周波数依存性について実験を行った。電磁場は空芯コイルにより発生させた。周波数は、1Hzから1kHzの間で変化させた。発生磁場は踵骨付近で1mTになるようにした。なお、発生磁場が0.2mT、3mTの場合も同様の周波数依存性を示した。
実験結果を
図10に示す。
【0055】
周波数が10Hz以上、300Hz以下では、空腹時の血糖値が減少し、食事後の血糖値低下も比較的速やかであった。
【0056】
(検証実験10)
電磁場印加手段による踵に対する刺激に関して、踵骨付近での発生磁場を0.01mTから10mTの間で変化させた。電磁場の周波数は100Hzである。なお、電磁場の周波数が10Hz、30Hz、300Hzの場合も同様の発生磁場依存性を示した。
実験結果を
図11に示す。
【0057】
発生磁界が0.2mT以上、3mT以下で血糖値減少を確認できた。また、食事後に比較的速やかに血糖値が減少した。
以上のように、電磁場を用いた場合も、電流印加と同程度の血糖値コントロール効果が得られた。
【0058】
<その他の留意点>
酵素浴は、1 週間に2〜3 回程度、可能であれば5回程度利⽤すれば、さらに血糖値の改善効果は高まる。酵素浴により、内臓が活性化し、内分泌系も復調し、体調が戻るきっかけを作ることができるためを考えている。
【0059】
身体を活性化する取り組みとしては、運動も有効であり、軽く汗をかく程度の運動を毎日継続することで、打撃手段2aによる踵叩き等の踵刺激手段の施術効果をさらに高めることができる。
【0060】
施術に関しては、検証実験1で示したように、踵骨に対する刺激に加えて、ふくらはぎマッサージ手段3によるマッサージや押圧手段2bによる腎臓の反射区の押圧を併せて行うことが有効である。施術は、可能であれば食前と食後に行うことで、食後の血糖値上昇が小さくなり、また、速やかに血糖値が低下するようになる。
【0061】
なお、ふくらはぎマッサージ手段3によるマッサージや押圧手段2bによる腎臓の反射区の押圧、および身体活性化の取り組みは、打撃手段2aによる踵叩きとの併用だけではなく、超音波、交流電流、および交流電磁場の印加による踵骨に対する刺激と併用することでも、効果を高めることができる。
【0062】
<その他の効果に関して>
上述した検証実験がすべて終了した後、踵骨に対する打撃以外の刺激の施術に関して、その他の健康改善がないかを確かめるため、被検査人にアンケート調査を行った。
【0063】
(アンケートの内容)
以下の各項目について、改善したと感じた項目に丸を付けてください。
1.物忘れ
2.眼精疲労、かすみ目
3.頻尿
4.疲労回復
5.手足や顔等ののむくみ
6.性的欲求(男性のみ回答)
7.肌質(女性のみ回答)
【0064】
各項目について改善したと回答した人数は以下のとおりである。
1 3名/6名中
2 5名/6名中
3 4名/6名中
4 2名/6名中
5 2名/男性3名中
6 2名/女性3名中
【0065】
このように、1から7の全ての項目について、改善したと回答した人が複数名いた。
踵骨に対する刺激の施術は、血糖値の低減効果のみならず、1から7の項目についても、改善効果があることが分かった。
【0066】
<本実施の形態のまとめ>
昨今、様々な施術を行うマッサージ機が開発され、広く実用化に至っている。
しかしながら、本発明のマッサージ機は、現行のいずれのマッサージ機とも全く異なる新たな施術を提供するものであり、また、これまで人により行われてきた施術とも全く異なるものである。
この新たな施術により、薬剤等を用いることでしか改善することができなかった症状を、新たなアプローチにより解決できる可能性を示すことができた
以下において、この新たなマッサージ機の持つ優れた効果について述べることで、本発明のまとめとする。
【0067】
これまでのマッサージ機は、主に土踏まずに刺激を与えるものがほとんどであり、その刺激も振動が主体であった。すなわち、足裏表面に平行な方向の振動を与えるものであった。作用としては、血行を促進し、またツボに刺激を与えるものであった。
【0068】
本発明は、土踏まずではなく、踵を叩く施術を行うマッサージ機を提供するものである。すなわち、踵に対して略垂直方向に打撃を与えるものである。この打撃力はある程度の強さを持ち、また、その周波数も一定以上の比較的速い上下動である。作用としては、踵骨に衝撃を与えるものである。
踵骨に対する刺激としては、打撃以外に、超音波、交流電流、および交流電磁場の印加も同様に有効であることも確認した。
このように、これまでのマッサージ機とは、施術場所や施術動作、それによる動作や作用、目的が全く異なり、したがって、以下に述べるように、これまでのマッサージ機では得られなかった具体的且つ明確な効果が得られる。
【0069】
この施術の効果として特筆すべきことは、血糖値を低減できることである。空腹時の血糖値を低下させ、また、食後の血糖値の上昇幅を小さくし、そして、その後の血糖値の低下を速やかにすることができる。
【0070】
踵骨に対して刺激を与える施術を単独で行うだけでも、有意な血糖値低減効果が得られるが、ふくらはぎのマッサージや、腎臓の反射区の押圧と組み合わせると、さらに効果を高めることができる。
また、施術前に酵素浴等の身体活性化を行うことでも、血糖値低減効果をより顕著にすることが可能である。
【0071】
さらに、以下の諸症状に関しても、改善効果が得られる可能性を示すことができた。
例えば、物忘れ、眼精疲労やかすみ目、頻尿、疲労回復、手足や顔等ののむくみ、性的欲求、肌質といった諸項目についての改善である。
【0072】
実施の形態2.
乗用車、電車、航空機といった乗り物に乗車している際に、実施の形態1で述べたようなマッサージ機を用いて施術を施すことも効果的である。長時間に渡り座席でじっとしていると、血流が澱んだりして、気分が悪くなったり、あるいは、エコノミークラス症候群とも呼ばれる肺血栓塞栓症等の要因になることもある。
【0073】
こういった症状を防止するためには、足を動かすことが大切であるが、狭い座席で足を大きく動かすことは難しいことが多い。しかし、踵を速いピッチで、且つある程度の強さで叩くことで、足の骨に適度な衝撃が与えられ、ジョギングをしているのと同等の効果が得られる。
【0074】
例えば、
図12に示すように、座席Aの足元にマッサージ機を設置する。マッサージ機は、
底面に設けられた踵を叩く打撃手段20を備えている。また、ふくらはぎマッサージ手段30等をさらに備えたものであっても良い。
【0075】
打撃手段20だけでも十分な効果が得られるので、狭い乗り物内でも容易に設置できる。打撃手段20だけであれば、座席足元の床下にわずかなスペースがあれば、床と面一に、あるいは、わずかな出っ張りを持つ程度に埋め込んで設置することも可能である。
なお、打撃手段20の代わりに、超音波印加手段、交流電流印加手段、あるいは交流電磁場印加手段を設けても良い。
【0076】
実施の形態3.
実施の形態1においては、繰り返し打撃手段により踵に刺激を与えることで、血糖値の上昇を抑制、あるいは低減できることを示した。
本実施の形態においては、この打撃手段による血糖値抑制効果について、さらに詳細な実験結果について報告する。まず、検証実験11では、踵に対する打撃角度(叩き角度)と血糖値抑制効果との関係について検証を行った。次に、検証実験12から14においては、踵以外の様々な部位に対する打撃刺激と血糖値抑制効果との関係について調べた。
【0077】
(検証実験11)
踵に対する打撃角度を変えて、最適な血糖値抑制効果を得られる条件を検証した。
図13に示すように、以下の4つの角度で踵を打撃した。打撃の周波数は25Hz、1サイクル当たりの打撃のエネルギー(1サイクル当たりの叩きのエネルギー)は約0.64Nm(=0.64ジュール)である。また、実験方法は実施の形態1の検証実験1と同じ手順で行った。
試験区Ba:足の前方(指側)下方より略45°の角度で踵を打撃
試験区Bb:実施の形態1と同様に、踵の直下より略垂直方向に踵を打撃
試験区Bc:足の後方(指と反対側)下方より略45°の角度で踵の後方を打撃
試験区Bd:足の後方(指と反対側)より略平行に踵の後方を打撃
【0078】
【0079】
実施の形態1で良好な結果が得られた下方からの垂直打撃(試験区Bb)と同様に、試験区Bcでも良好な結果が得られた。
一方、試験区Ba、Bdは、検証実験1のコントロールと比べて有意な血糖値抑制効果が認められた。しかし、試験区BbおよびBcに比べると、明らかに効果は小さかった。
以上より、打撃角度は血糖値の抑制に対して大きな影響があり、踵直下からの垂直打撃と、後方(指と反対側)下方より略45°の角度での踵の後方への打撃とが、良好な効果を示した。
【0080】
図14は、踵直下からの垂直打撃(試験区Bb)において、1サイクル当たりの打撃のエネルギーと血糖値の関係を示している。実施の形態1における検証実験4と同様の趣旨の実験であるが、横軸を打撃力ではなく、打撃のエネルギーとしている。力の測定よりもエネルギーの測定の方が、迅速かつ正確に行えるためである。
打撃の周波数は25Hzである。なお、周波数が0.8Hz、200Hzの場合も同様の打撃エネルギー依存性を示した。
【0081】
1サイクル当たりの打撃エネルギーが0.32Nm以上で良好な血糖値減少を確認できた。
ただし、打撃による被検査人の副作用を調べたところ、1サイクル当たりの打撃エネルギーが4Nmを超えた場合には、被検査人のうち2名が、施術後に軽い足の痛みを訴えた。痛みは直ぐになくなり、正常な状態に回復したが、4Nmを超えるという大きな打撃エネルギーは不必要であり、本実験結果より、実用上の適切な打撃エネルギーは0.32Nm以上、4Nm以下と判断できた。
【0082】
試験区Bcについても、同様に、1サイクル当たりの打撃のエネルギーと血糖値の関係を調べた。結果を
図15に示す。試験区Bbとほぼ同様の傾向を示している。また、打撃による被検査人の副作用についても同様であり、4Nmを超えると、痛み等の症状が現れる場合があった。
なお、周波数特性については、試験区Bbとまったく同様であった、すなわち、実施の形態1における検証実験3と同様の結果であった。
【0083】
以上のように、踵直下から垂直打撃だけではなく、踵後方下方から45°方向の打撃も同様に顕著な血糖値抑制効果があることが分かった。いずれも、実用上の適切な打撃エネルギーは0.32Nm以上、4Nm以下であり、適切な打撃の周波数は、検証実験3と同様に、0.8Hz以上、200Hz以下であった。
【0084】
(検証実験12)
踵以外の足の部位に対する打撃刺激と血糖値抑制効果との関係について調べた。
図16に示すように、以下の4つの部位を打撃した。打撃の周波数は25Hz、1サイクル当たりの打撃のエネルギー(1サイクル当たりの叩きのエネルギー)は約0.64Nm(=0.64ジュール)である。また、実験方法は実施の形態1の検証実験1と同じ手順で行った。
試験区Bb:踵を打撃
試験区Be:足裏の前方(指側)を打撃
試験区Bf:土踏まずを打撃
試験区Bg:足の甲を打撃
【0085】
検証実験結果を下表に示す。
踵以外の足の部位を打撃しても、ほとんど血糖値抑制の効果は得られなかった。
【表4】
【0086】
(検証実験13)
手のひらに対する打撃刺激と血糖値抑制効果との関係について調べた。
図17に示すように、以下の5つの部位を打撃した。打撃の周波数は25Hz、1サイクル当たりの打撃のエネルギー(1サイクル当たりの叩きのエネルギー)は約0.64Nm(=0.64ジュール)である。また、実験方法は実施の形態1の検証実験1と同じ手順で行った。
試験区Bh:中指の付け根を打撃
試験区Bi:手のひらの中央を打撃
試験区Bj:手のひらの下方親指側を打撃
試験区Bk:手のひらの下方中央(手根骨の中央)を打撃
試験区Bl:手のひらの下方小指側を打撃
【0087】
検証実験結果を下表に示す。
手のひらの下部中央への打撃(試験区Bk)は、血糖値抑制に顕著な効果が確認できたが、それ以外の手のひらの部位への打撃は、効果が小さかった。
【表5】
【0088】
良好な結果が得られた試験区Bkについて、検証実験11と同様に、1サイクル当たりの打撃のエネルギーと血糖値の関係を調べた。結果を
図18に示す。試験区Bbとほぼ同様の傾向を示している。また、打撃による被検査人の副作用についても同様であり、4Nmを超えると、痛み等の症状が現れる場合があった。
なお、周波数特性については、試験区Bbとまったく同様であった、すなわち、実施の形態1における検証実験3と同様の結果であった。
【0089】
以上のように、手のひらの下部中央への打撃も顕著な血糖値抑制効果があることが分かった。実用上の適切な打撃エネルギーは0.32Nm以上、4Nm以下であり、適切な打撃の周波数は、検証実験3と同様に、0.8Hz以上、200Hz以下であった。
【0090】
(検証実験14)
顔や肩に対する打撃刺激と血糖値抑制効果との関係について調べた。
図19に示すように、以下の5つの部位を打撃した。打撃の周波数は25Hz、1サイクル当たりの打撃のエネルギー(1サイクル当たりの叩きのエネルギー)は約0.64Nm(=0.64ジュール)である。また、実験方法は実施の形態1の検証実験1と同じ手順で行った。
試験区Bm:こめかみを打撃
試験区Bn:耳の下(翳風)を打撃
試験区Bo:あご(下顎骨)を打撃
試験区Bp:肩を打撃
試験区Bq:額を打撃
【0091】
【0092】
耳下方の翳風(試験区Bn)、あるいは、あご(試験区Bo)への打撃は、顕著な血糖値抑制効果が得られた。それ以外の部位への打撃は、ほとんど効果が得られなかった。
【0093】
良好な結果が得られた試験区Bn、Boについて、検証実験11と同様に、1サイクル当たりの打撃のエネルギーと血糖値の関係を調べた。それぞれの結果を
図20、
図21に示す。試験区Bbとほぼ同様の傾向を示している。また、打撃による被検査人の副作用についても同様であり、4Nmを超えると、痛み等の症状が現れる場合があった。
なお、周波数特性については、試験区Bbとまったく同様であった、すなわち、実施の形態1における検証実験3と同様の結果であった。
【0094】
以上のように、耳下方、およびあごへの打撃も顕著な血糖値抑制効果があることが分かった。実用上の適切な打撃エネルギーは0.32Nm以上、4Nm以下であり、適切な打撃の周波数は、検証実験3と同様に、0.8Hz以上、200Hz以下であった。
【0095】
実施の形態4.
測定技術の進歩に伴い、CGM(Continuous Glucose Monitoringの略)、あるいは、FGM(Flash Glucose Monitoringの略)と呼ばれる血中グルコース濃度のリアルタイム測定器が一般に利用可能となった。両者とも専用のセンサーを皮膚に取り付けることで皮下の間質液中のグルコース値を持続的に測定できる。さらに、赤外線レーザーを用いた非接触のグルコース濃度測定技術の実用化も近い。測定される血中グルコース濃度は、血糖値とほぼ対応しており、事実上、血糖値のリアルタイム測定が可能となっている。
これらのリアルタイム測定機器から得られるリアルタイムなグルコース濃度データを、本発明の施術装置と連携させることで、以下のような利点が得られる。
【0096】
A.過度な低血糖症状の防止
本発明の施術は、顕著な血糖値低減効果を有し、また、施術後、直ちに効果が表れるため、施術のやりすぎにより、めまいや立ち眩み、失神等の過度な低血糖症状に陥る危険性がある。それを防止するために、グルコース濃度が所定値以下にならないように監視することにより、施術のやりすぎを抑制することができる。
【0097】
B.食事量に応じた食後の施術時間等の最適化
食事量や食事の種類によって、食後の血糖値上昇は異なる。血中グルコース濃度のリアルタイム測定器を用いて食後の血糖値変化を計測し、その血糖値変化によって、本発明の血糖値コントロール用マッサージ機を用いて必要な施術を行う。例えば、食事量が通常よりも多く、食後の血糖値低下が不十分な場合には、施術を繰り返し行ったり、施術時間を延長したりする等の判断を行うためのアルゴリズムを持つアプリケーション等と組み合わせることにより、効果的な施術を行うためのシステムの構築が可能である。
【0098】
C.個々人に最適された施術プログラムの提供
血中グルコース濃度のリアルタイム測定器から得られる日々の血中グルコース濃度の変化から、最適な施術を導き出すAIシステムを構築し、個々人に合った施術プログラムを提供する。
【0099】
以上は一例であるが、血中グルコース濃度のリアルタイム測定器と組み合わせることで、本発明の血糖値コントロール用マッサージ機をより効果的且つ安全に使用することが可能となる。
【0100】
<本発明のまとめ>
本発明は、血糖値の上昇を抑制したり、低減したりする血糖値のコントロールを目的とする血糖値コントロール用マッサージ機に関するものである。
踵、下顎骨、耳下部の翳風、あるいは、手のひら下方中央の手根骨のうちのいずれかの部位を繰り返し叩く打撃手段が、空腹時の血糖値を低減させ、且つ、食事後の血糖値の上昇を抑制するとともに、速やかな低減を生じさせる効果を有することを検証実験により確認した。この効果は顕著なものであり、これまでのマッサージで得られる効用とは明白に異なるものである。
【0101】
また、この効果は、刺激を与える部位、強さ、および周波数に大きく依存し、最適な条件を選ぶことが必要である。
【0102】
なお、踵に対しては、繰り返し打撃以外に、超音波や電流、さらには電磁場刺激も有効であることを示した。
【符号の説明】
【0103】
1 足挿入部
2 足裏マッサージ部
2a 踵打撃手段(踵骨を刺激する踵刺激手段の一例)
2b 土踏まず押圧手段
3 ふくらはぎマッサージ部