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特開2022-100247大型ディーゼル・エンジンを動作させる方法及び大型ディーゼル・エンジン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022100247
(43)【公開日】2022-07-05
(54)【発明の名称】大型ディーゼル・エンジンを動作させる方法及び大型ディーゼル・エンジン
(51)【国際特許分類】
   F02D 19/06 20060101AFI20220628BHJP
   F02D 13/02 20060101ALI20220628BHJP
   F02B 43/00 20060101ALI20220628BHJP
   F02M 67/14 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
F02D19/06 D
F02D13/02 A
F02B43/00 A
F02M67/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021192847
(22)【出願日】2021-11-29
(31)【優先権主張番号】202011537492.X
(32)【優先日】2020-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】515111358
【氏名又は名称】ヴィンタートゥール ガス アンド ディーゼル アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マルセル オット
(72)【発明者】
【氏名】ワン ジョンシャオ
【テーマコード(参考)】
3G066
3G092
【Fターム(参考)】
3G066AA02
3G066AA07
3G066AA08
3G066AA16
3G066AB02
3G066AB05
3G066BA46
3G092AA01
3G092AA02
3G092AA03
3G092AB03
3G092AB07
3G092AC08
3G092AC10
3G092DD07
3G092FA13
3G092FA36
3G092HA01Z
(57)【要約】
【課題】気体モードでのピストン・リングの熱負荷を低減する、二元燃料大型ディーゼル・エンジンの動作方法を提供すること。
【解決手段】本発明によれば、大型ディーゼル・エンジンは、液体燃料が導入される液体モードと、ガスが燃料として導入される気体モードで動作させることができ、且つ少なくとも1つのシリンダを有する。ピストンが、下側反転点と上側反転点との間で軸方向にシリンダ壁に沿って進退可能に配置され、且つシリンダ内に燃焼室を画定するための上面を有する。少なくとも1つのガス導入開口がシリンダ壁に設けられ、気体モードでは、ガス導入開口を通してガスがシリンダ内に導入され、このガスの導入は遅くとも入口距離で終了する。この入口距離は、ガス導入開口からのピストンの上面の軸方向の距離を示し、上側反転点及び下側反転点でのピストンの上面の位置の差によって画定されるストロークの少なくとも14%である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二元燃料大型ディーゼル・エンジンとして設計された大型ディーゼル・エンジンを動作させる方法であって、前記大型ディーゼル・エンジンは、液体燃料が燃焼のためにシリンダ(10)内に導入される液体モードで動作させることができ、またガスが燃料として前記シリンダ(10)内に導入される気体モードでさらに動作させることができ、前記大型ディーゼル・エンジンは、少なくとも1つのシリンダ(10)を有し、前記少なくとも1つのシリンダ(10)内にはピストン(2)が下側反転点(UT)と上側反転点(OT)との間でシリンダ壁(11)に沿って軸方向に往復動可能に配置され、前記ピストン(2)は、前記シリンダ(10)内に燃焼室(13)を画定するための上面(21)を有し、少なくとも1つのガス導入開口(4)が前記シリンダ壁(11)に設けられ、気体モードにおいて前記ガス導入開口を通して前記ガスが燃料として前記シリンダ(10)内に導入される、方法において、
気体モードにおいて、前記ガスの導入は入口距離(E)で終了し、前記入口距離(E)は、前記軸方向(A)における前記ガス導入開口(4)からの前記ピストン(2)の前記上面(21)の距離を示し、また前記入口距離(E)は、前記上側反転点(OT)及び前記下側反転点(UT)での前記ピストン(2)の前記上面(21)の位置の差によって画定されるストローク(S)の少なくとも14%である
ことを特徴とする、大型ディーゼル・エンジンを動作させる方法。
【請求項2】
前記入口距離(E)は前記ストローク(S)の少なくとも18%である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記入口距離(E)は前記ストローク(S)の少なくとも20%である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記入口距離(E)は前記ストローク(S)の少なくとも23%である、請求項1から3までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記入口距離(E)は前記ストローク(S)の少なくとも26%である、請求項1から4までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記入口距離(E)は前記ストローク(S)の少なくとも29%である、請求項1から5までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記入口距離(E)は前記ストローク(S)の最大で35%である、請求項1から6までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記入口距離(E)は前記ストローク(S)の最大で33%である、請求項1から7までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ガスの前記導入が導入角で開始され、前記導入角は、前記ガス導入開口(4)の開放が開始されるクランク角を示し、また前記導入角は、前記ピストン(2)が前記入口距離(E)に位置するときのクランク角よりも10°~25°小さい、請求項1から8までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記導入角は、前記ピストン(2)が前記入口距離(E)に位置するときの前記クランク角よりも15°~20°小さい、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記シリンダ(10)から燃焼ガスを排出するための出口弁(3)が、前記シリンダ(10)内への前記ガスの導入開始前に閉じられる、請求項1から10までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記軸方向(A)に関して同じ高さ(H)に配置された2つのガス導入開口(4)が設けられる、請求項1から11までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
各ガス導入開口(4)が、前記軸方向(A)に関して、前記ストローク(S)の40%~55%の高さ(H)に配置され、前記高さ(H)は、前記ピストン(2)が前記下側反転点(UT)にあるときの前記ピストン(2)の前記上面(21)の位置から測定される、請求項1から12までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
請求項1から13までのいずれか一項に記載の方法で動作させることを特徴とする大型ディーゼル・エンジン。
【請求項15】
長手方向掃気式2サイクル大型ディーゼル・エンジンとして設計された、請求項14に記載の大型ディーゼル・エンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二元燃料大型ディーゼル・エンジンとして設計された大型ディーゼル・エンジンを動作させる方法に関し、且つそれぞれのカテゴリの独立請求項の前段に記載の大型ディーゼル・エンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
大型ディーゼル・エンジンは、旧来は重油で作動する。2サイクル又は4サイクル・エンジンとして設計され得る大型ディーゼル・エンジン、例えば長手方向掃気式2サイクル大型ディーゼル・エンジンは、船舶の駆動装置として使用されることが多く、あるいは、例えば電気エネルギーを生成するための大型発電機を駆動するために定常運転で使用されることも多い。エンジンは通常、連続運転で長期間動作し、そのため運転上の安全性及び可動率への要求が高い。その結果、メンテナンス間隔が特に長いこと、摩耗が少ないこと、及び運転材料の経済的な扱いがオペレータにとっての主要な基準となる。大型ディーゼル・エンジンは、通常、内径(ボア)が少なくとも200mmであるシリンダを有する。今日では、最大960mm又はそれ以上のボアを有する大型エンジンが使用されている。
【0003】
また、経済的及び効率的な動作、排気ガス規制値の遵守、並びに資源の利用可能性の側面において、大型ディーゼル・エンジンのために燃料重油の代替物が現在求められている。この点では、液体燃料、すなわち液体状態で燃焼室内に導入される燃料と、気体燃料、すなわち気体状態で燃焼室内に導入される燃料との両方が使用される。
【0004】
重油の知られている代替物としての液体燃料の実例は、特に石油精製の残渣として残る他の重質炭化水素、アルコール類、特にメタノール若しくはエタノール、ガソリン、ディーゼル燃料、又はエマルジョン若しくは懸濁液もある。例えば、多相超微細噴霧残渣(MSAR:Multiphase Superfine Atomized Residue)として知られているエマルジョンを燃料として使用することが知られている。よく知られている懸濁液は、炭塵及び水の懸濁液で、これは大型エンジンの燃料としても使用される。気体燃料としては、液化天然ガス(LNG:Liquefied Natural Gas)などの天然ガス、液化石油ガス(LPG:Liquefied Petroleum Gas)などの液化ガス、又はエタンが知られている。
【0005】
特に、少なくとも2つの異なる燃料で動作させることができる大型ディーゼル・エンジンも知られており、これによって、動作状況又は動作環境に応じて一方の燃料又は他方の燃料でエンジンを動作させる。
【0006】
2つの異なる燃料で動作させることができる大型ディーゼル・エンジンの1つの実例は、二元燃料大型ディーゼル・エンジンとして設計された大型ディーゼル・エンジンである。これは、液体燃料が燃焼のためにシリンダ内に導入される液体モード、及びガスが燃料としてシリンダ内に導入される気体モードで動作させることができる。
【0007】
少なくとも2つ又はそれ以上の異なる液体燃料又は気体燃料で動作させることができる大型ディーゼル・エンジンは、現在使用している燃料に応じて異なる動作モードで動作させることが多い。ディーゼル運転としばしば呼ばれる動作モードでは、一般的に、燃料の燃焼は燃料の圧縮着火又は自己着火の原理に従って行われる。オットー運転としばしば呼ばれるモードでは、燃焼は、発火性の予め混合された空気-燃料混合気の火花点火によって行われる。この火花点火は、例えば点火プラグを用いた、例えば電気的な火花によって行うことができ、又は、噴射された少量の燃料が自己着火し、次いでこれが別の燃料の火花点火を引き起こすことでも行うことができる。自己着火を意図した少量の燃料が、燃焼室に接続された予燃焼室に噴射されることが多い。
【0008】
さらに、オットー運転及びディーゼル運転で知られている混合形態も知られている。
【0009】
本出願の枠組み内では、「大型ディーゼル・エンジン」という用語は、少なくともディーゼル運転で動作させることができるそのようなエンジンを指す。特に、「大型ディーゼル・エンジン」という用語は、ディーゼル運転に加えて別のモード、例えばオットー運転で動作させることができる二元燃料大型エンジンも含む。
【0010】
本出願の枠組み内では、「気体モード」又は「気体モードでの動作」という用語は、トルクを発生させる燃焼のためにガス又は気体燃料のみを燃料として使用することを指す。上述したように、火花点火を行うために、予め混合された空気-燃料混合気の火花点火のための少量の自己着火液体燃料、例えば重油を気体モードで噴射することは可能であり、またごく一般的でもあるが、それにもかかわらず、トルクを発生させる燃焼プロセスは、すべてガス又は気体燃料で動作させる。
【0011】
少量の液体燃料の自己着火による火花点火のこのプロセスは、パイロット噴射と呼ばれることもある。このパイロット噴射は、大型エンジンを液体モードで動作させるときに液体燃料を燃焼室内に噴射することとは一切関係がない。パイロット噴射には、液体モードでの液体燃料の噴射用とは異なる噴射装置が通常使用される。またパイロット噴射では、少量の液体燃料を直接燃焼室内に噴射するのではなく、チャネルを介して燃焼室に接続された少なくとも1つの予燃焼室に噴射することが多い。
【0012】
また、そのような大型ディーゼル・エンジンを、低圧プロセスを用いて気体モードで動作させることも知られており、すなわち、ガスが気体状態でシリンダ内に導入され、このガスの噴射圧は最大50bar、好ましくは最大20barである。この目的のため、シリンダ壁には少なくとも1つのガス導入開口が設けられ、気体モードではこの導入開口を通じてガスがシリンダ内に導入される。実際には、2つのガス導入開口が、シリンダ軸に対して径方向反対側に設けられることが多い。ガス導入開口は、ピストン運動の下側反転点と上側反転点との間の高さであって、シリンダ内に圧縮がまだ発生していないか、又は少なくとも実質的な圧縮がまだ発生していない限り、ピストンの上方への移動中にシリンダ内にガスが導入され得る高さに配置される。
【0013】
ガスの導入は、遅くともピストンがその上方移動中にガス導入開口を通過する直前に完了されなければならない。
【0014】
気体モードでの動作の1つの問題は、出口弁が閉じ、ガスの導入が終了された後に圧縮量が増加するにつれて、ピストンと、ピストンがストローク運動の最中にそれに沿って移動するシリンダ壁との間の領域にも、ガスが押し込まれることである。ピストンの上側領域とシリンダ壁との間のこの空隙は、ピストン・リングによって底部で画定される。複数のピストン・リングが設けられる場合、第1のピストン・リング、すなわち、燃焼室に最も近く配置されたピストン・リングが、ピストンの上側領域とシリンダ壁との間の空隙型の領域を底部で画定する。この空隙型の領域にもガス又は気体燃料が充填されているので、ピストン・リング又は第1のピストン・リングは、燃焼プロセス中に非常に高い熱負荷を受け、これにより、ピストン・リングの摩耗又はその他の熱により引き起こされる劣化が増加する。同様の熱により引き起こされる問題は、ピストン・リング、及び特に第1のピストン・リングが配置されるピストン溝において、又はピストン溝内でも発生し得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、この問題を解決しようとするものである。
【0016】
したがって本発明の目的は、気体モードで動作させることもできる二元燃料大型ディーゼル・エンジンとして設計された大型ディーゼル・エンジンを動作させる方法を提案することであり、この方法では、熱負荷、特にピストン・リング又は第1のピストン・リングの熱負荷が、気体モードにおいて著しく低減される。さらに、本発明の目的は、そのような方法で動作させる大型ディーゼル・エンジンを提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
これらの目的を達成する本発明の主題は、それぞれのカテゴリの独立請求項の構成を特徴とする。
【0018】
したがって、本発明によれば、液体燃料が燃焼のためにシリンダ内に導入される液体モードで動作させることができ、ガスが燃料としてシリンダ内に導入される気体モードでさらに動作させることができる、二元燃料大型ディーゼル・エンジンとして設計された大型ディーゼル・エンジンを動作させる方法であって、大型ディーゼル・エンジンが、ピストンが下側反転点と上側反転点との間で軸方向にシリンダ壁に沿って進退可能(すなわち往復動可能)に配置された、少なくとも1つのシリンダを備え、ピストンが、シリンダ内の燃焼室を画定する上面を有し、少なくとも1つのガス導入開口がシリンダ壁に設けられ、気体モードではこの導入開口を通じてガスが燃料としてシリンダ内に導入され、気体モードではガスの導入が入口距離において終了され、入口距離が、軸方向におけるガス導入開口からのピストンの上面の距離を示し、入口距離が、上側反転点及び下側反転点でのピストンの上面の位置の差によって画定されるストロークの少なくとも14%である、大型ディーゼル・エンジンを動作させる方法が提案される。
【0019】
したがって、本発明による方法では、シリンダ内へのガスの導入は、気体モードにおいて、下側反転点から上側反転点へのピストン運動に関して、きわめて初期に終了される。ガスを導入するプロセス全体は、このように、ピストン位置に関してきわめて初期に、すなわち、ピストンの上面が軸方向に関してガス導入開口からまだ離れているときに行われる。この手段により、ガス導入が終了されたとき、ピストンの上面と噴射されたガスとの間に配置されるエア・クッションが依然として存在する。ピストンのさらなる圧縮運動中には、このエア・クッションも圧縮され、特に、ピストンとシリンダ壁との間の空隙型の領域にガスが押し込まれるのを防ぐ。ピストンの上側領域、すなわち、特にピストンの上面及びピストン溝、並びに第1のピストン・リングは、このエア・クッションによって、燃焼プロセス中に発生する熱から非常により良好に保護される。このように、特に第1のピストン・リングははるかに低温のままであり、これによって熱により引き起こされる摩耗又は熱により引き起こされる劣化が大幅に低減される。
【0020】
出口弁の閉鎖は、導入ガスがガス導入開口から出口弁を通って排気システム内に直接スリップすることが、少なくとも可能な限り、好ましくは完全に回避されるように適合されていることが好ましい。
【0021】
ガスの導入が好ましくは遅くとも終了される最適な入口距離は、具体的な設計、及び、特にシリンダの幾何形状、例えばピストンのストローク、又は下側反転点からガス導入開口の軸方向における距離にも依存する。しかしながら、大型エンジンの動作パラメータ、例えばエンジンを動作させる負荷も、最適な入口距離に影響を与え得る。以下では、様々な適用例で実証されている、入口距離のいくつかの好ましい制限値を示す。
【0022】
本発明による方法のいくつかの適用例では、入口距離がストロークの少なくとも18%であると有利である。
【0023】
本発明による方法のいくつかの適用例では、入口距離がストロークの少なくとも20%であると有利である。
【0024】
本発明による方法のいくつかの適用例では、入口距離がストロークの少なくとも23%であると有利である。
【0025】
本発明による方法のいくつかの適用例では、入口距離がストロークの少なくとも26%であると有利である。
【0026】
本発明による方法のいくつかの適用例では、入口距離がストロークの少なくとも29%であると有利である。
【0027】
一方、大きすぎる入口距離を選択しないことが有利であることも実証されており、その理由は、ガスがきわめて初期に導入される場合、出口弁が閉じる前に超過量の導入ガスが掃気プロセスによって排気ガスと共に出口弁を通じて排出されることになる恐れがあるからである。これは、メタン・スリップとして知られる問題につながり得る。メタンは、気体モードの燃料として一般的に使用される気体燃料に、典型的には高い割合で含まれる。メタンが未燃焼状態で排気システムに入ると、排気ガス中のメタン濃度が著しく上昇する。メタンは非常に環境に有害な物質であることが知られているので、可能な限りメタン・スリップを回避する努力がなされている。メタンは非常に強力な温室効果ガスであり、二酸化炭素の少なくとも25倍高い温室効果があることが知られており、これは、いわゆる「エネルギー効率設計指標(EEDI:Energy Efficiency Design Index)」の計算に大きな悪影響を与える可能性があり、したがって効率的で低排出なエンジン動作という観点ではマイナスの効果を有する。
【0028】
したがって、入口距離がストロークの最大35%であることが好ましい。
【0029】
いくつかの適用例では、入口距離がストロークの最大33%であることが好ましい。
【0030】
好ましい実施例によると、ガスの導入は導入角で開始され、導入角は、ガス導入開口の開放が開始されるクランク角を示し、導入角は、ピストンが入口距離に位置するクランク角よりも10°~25°小さい。
【0031】
いくつかの適用例では、導入角が、ピストンが入口距離に位置するクランク角よりも15°~20°小さいことが好ましい。
【0032】
例えば全負荷の50%未満の低負荷又は小負荷での部分負荷運転において特に有利な別の好ましい手段は、ガスをシリンダ内に導入し始める前に、シリンダから燃焼ガスを排出するための出口弁を閉じることである。このように、燃焼室で燃焼プロセスが行われる前に、導入ガス又はその一部が排気システム内に直接戻って排出され得ることを回避することができる。
【0033】
特に好ましくは、軸方向に対して同じ高さに配置された2つのガス導入開口が設けられる。ここで、2つのガス導入開口は、シリンダ壁に径方向反対側に配置されることが特に好ましい。
【0034】
さらに、各ガス導入開口が、軸方向に対して、ストロークの40%~55%の高さに配置され、高さは、ピストンが下側反転点にあるときのピストンの上面の位置から測定されることが好ましい。
【0035】
さらに、本発明による方法で動作させる大型ディーゼル・エンジンが、本発明によって提案される。
【0036】
好ましくは、大型ディーゼル・エンジンは、長手方向掃気式2サイクル大型ディーゼル・エンジンとして設計される。
【0037】
本発明のさらに有利な手段及び実施例は、従属請求項から得られる。
【0038】
以下では、実施例に基づいて、及び図面に基づいて、本発明をより詳細に説明する。図面においては、以下が示される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本発明による大型ディーゼル・エンジンの一実施例のシリンダの概略断面図である。
図2図1と同様であるが、ピストンが入口距離にある、概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
「大型ディーゼル・エンジン」という用語は、通常、船舶の主駆動装置として使用されるか、又は、例えば電気エネルギーを生成するための大型発電機を駆動するために定常運転でも使用されるエンジンを指す。典型的には、大型ディーゼル・エンジンのシリンダは、それぞれ少なくとも約200mmの内径(ボア)を有する。「長手方向掃気式」という用語は、掃気空気又は給気空気が下端部の領域でシリンダ内に導入されることを意味する。
【0041】
以下の本発明の説明では、二元燃料大型ディーゼル・エンジン、すなわち、2つの異なる燃料で動作させることができるエンジンとして設計された大型ディーゼル・エンジンについて言及している。特に、二元燃料大型ディーゼル・エンジンは、液体燃料のみがシリンダの燃焼室内に噴射される液体モードで動作させることができる。通常、液体燃料、例えば重油又はディーゼル油は、適切なタイミングで燃焼室内に直接噴射され、そこで自己着火のディーゼル原理に従って着火する。大型ディーゼル・エンジンは、燃料として働くガス、例えば液化天然ガス(LNG)などの天然ガス若しくは液化石油ガス(LPG)又はエタンが、予め混合された空気-燃料混合気の形態で燃焼室において着火される気体モードで動作させることもできる。
【0042】
上記ですでに説明したように、「気体モード」又は「気体モードでの動作」という用語は、大型ディーゼル・エンジンが、この気体モードでガス又は気体燃料のみで動作し、任意選択で少量の自己着火燃料、例えば重油又はディーゼル油が、空気-ガス混合気の火花点火のためだけに燃焼室又は予燃焼室若しくは複数の予燃焼室の中に導入される(パイロット噴射)ように、本出願の枠組みにおいて理解されるべきである。
【0043】
特に、大型ディーゼル・エンジンは、低圧プロセスに従い気体モードで動作し、すなわち、ガスが気体状態でシリンダ内に導入され、これによって、ガスがシリンダ内に導入される噴射圧は最大50bar、及び好ましくは最大20barである。空気-ガス混合気は、オットーの原理に従い燃焼室で火花点火される。通常、少量の自己着火液体燃料(例えばディーゼル油又は重油)を適切な瞬間に燃焼室又は予燃焼室若しくは複数の予燃焼室の中に導入し、次いでこの燃料が自己着火し、燃焼室内の空気-燃料混合気の火花点火を引き起こすことによって、この火花点火は引き起こされる。
【0044】
ここで説明する実施例では、クロスヘッド駆動を備えた長手方向掃気式二元燃料2サイクル大型ディーゼル・エンジンとして設計された大型ディーゼル・エンジンに言及している。
【0045】
高度に概略化された表現で、図1は、大型ディーゼル・エンジンの本実施例の複数のシリンダのうちの1つのシリンダを示し、シリンダは全体として参照符号10で示されている。シリンダ10の内部には、ピストン2がそれ自体知られている方法で配置され、下側反転点UTと上側反転点OTとの間で軸方向Aにシリンダ壁11に沿って進退可能に配置されている。軸方向Aは、シリンダ10のシリンダ軸によって画定される。
【0046】
ピストン2は、シリンダ・カバー12と共に、燃焼プロセスが行われる燃焼室13を画定する上面21を有する。ピストン2は、少なくとも1つの第1のピストン・リング22(図2)を有するが、典型的には複数のピストン・リングを有し、ピストン・リングのそれぞれは、ピストン2の周囲に沿って延在するピストン溝23に配置される。
【0047】
クロスヘッド駆動で知られているように、ピストン2はピストン・ロッド6を介してクロスヘッド(図示せず)に連結され、クロスヘッドはプッシュ・ロッド(図示せず)を介してクランクシャフト(図示せず)に連結され、それにより、ピストン2の移動は、ピストン・ロッド6、クロスヘッド、及びプッシュ・ロッドを介してクランクシャフトに伝達され、クランクシャフトを回転させる。
【0048】
そのような大型ディーゼル・エンジンの、液体モードのための噴射システム(図示せず)、気体モードのためのガス供給システム、掃気空気若しくは給気空気を供給するためのガス交換、排気システム(図示せず)又はターボチャージャ・システム(図示せず)、並びに検査システム及び制御システム(図示せず)などの、大型ディーゼル・エンジンの構造及び個別の構成要素は、2サイクル・エンジンとしての設計並びに4サイクル・エンジンとしての設計の両方において当業者によく知られているので、ここでは追加の説明は必要ない。
【0049】
本発明の理解には十分であるので、図1では、これらの構成要素のうち1つの出口弁3だけが示され、同様に気体モードでシリンダ10内に燃料として働くガスが導入される2つのガス導入開口4が示されている。2つのガス導入開口4は、好ましくは径方向反対側になるようにシリンダ壁11に配置される。他の実施例では、当然ながら、1つのガス導入開口4のみ、又は3つ以上のガス導入開口4を設けてもよい。また、複数のガス導入開口を軸方向Aに対して異なる高さに設けることも可能である。
【0050】
現代の大型ディーゼル・エンジンでは、検査システム及び制御システムは電子システムであり、これを用いて通常すべてのエンジン又はシリンダの機能、特に気体モードと液体モードとの両方での噴射(噴射の開始及び終了)、及び出口弁の動作を調節、制御、又は調整することができる。
【0051】
ここで説明される長手方向掃気式2サイクル大型ディーゼル・エンジンの実施例では、通常、各シリンダ10又は各シリンダ・ライナの下側領域に掃気スロット5が設けられ、掃気スロット5はシリンダ10内のピストン2の移動によって周期的に開閉され、これにより、給気レシーバ(図示せず)内に給気圧力下でターボチャージャによって供給される掃気空気が、掃気スロット5が開いている限り、掃気スロット5を通じてシリンダ10内に流入することができる。これは、図1では、参照符号Lを付した2つの矢印で示されている。シリンダ・ヘッド又はシリンダ・カバー12には、ほぼ中央に配置された出口弁3が設けられ、この出口弁3を通じて、燃焼プロセスの後に燃焼ガスをシリンダ10から排気システム(図示せず)内に排出することができる。排気システムは、燃焼ガスの少なくとも一部をターボチャージャのタービン(図示せず)に方向付け、ターボチャージャの圧縮機が給気空気を給気レシーバ内に給気空気圧力下で供給する。
【0052】
液体モードにおいてシリンダ10の燃焼室13に液体燃料を導入するために、1つ又は複数の燃料噴射ノズルが設けられ(図示せず)、これらのノズルは、例えば、シリンダ・カバー12において出口弁3の近傍に配置される。例えば、重油又はディーゼル油を液体モードで液体燃料として燃焼させてもよい。
【0053】
気体モードでのガス供給又はガスの導入のために、それ自体知られているガス供給システムが提供され、そのうち2つのガス導入開口4のみが図1及び図2に表されている。ガス導入開口4は、ガス導入ノズルを備えたガス導入弁としてそれぞれ設計されることが好ましい。
【0054】
図1では、ピストン2が上側反転点OTにあるときの位置が実線で、ピストン2が下側反転点UTにあるときの位置が点線で示されている。ピストン2が上側反転点OTにあるときにピストン2の上面21が位置する軸方向Aに対する位置と、ピストン2が下側反転点UTにあるときにピストン2の上面21が位置する位置との間の距離が、ストロークSとして示されている。ストロークSを画定する上側反転点OTと下側反転点UTとの間のこの距離は、大型ディーゼル・エンジンで数メートル、例えば最大3メートルを超え得る。
【0055】
図1では、様々なクランク角が左側に追加で示されている。クランク角は、クランクシャフトの位置を示し、それ自体知られている方法で、大型ディーゼル・エンジンの作動サイクルを特徴づける。クランク角180°では、ピストン2は下死点とも呼ばれる下側反転点UTにあり、クランク角360°では、ピストン2は上死点とも呼ばれる上側反転点OTにある。2サイクル・エンジンとして設計されている場合、全作動サイクルは360°を有する。ピストン2が360°のクランク角のときと同じ位置、すなわち上側反転点OTにある0°のクランク角から開始し、ピストン2は、180°での下側反転点UTに到達するまで膨張行程中下方に移動する。続く圧縮行程中、ピストン2が再び上方に移動し、再び360°での上側反転点OTに到達するまで移動する。燃料の火花点火又は自己着火は、典型的には圧縮行程中にピストン2が上側反転点OTに到達する直前に起こる。
【0056】
本発明は、詳細には、大型ディーゼル・エンジンの気体モードでの動作に関する。
【0057】
ガス導入開口4はシリンダ壁11に高さHで配置され、高さHは、軸方向Aに対してピストン2の上側反転点OTと下側反転点UTとの間のほぼ中間である。この高さHは、ピストン2が下側反転点UTにあるときの、軸方向Aにおけるガス導入開口4とピストン2の上面21との間の距離を示す。この距離の絶対値は、当然ながら大型ディーゼル・エンジンの具体的な設計に依存し、特にストロークSにも依存するので、高さHはストロークSに対する割合として示される。
【0058】
例えば高さHが50%の場合、ガス導入開口4は、軸方向Aに対して、上側反転点OTにあるピストン2の上面21の位置と下側反転点UTにあるピストン2の上面21の位置との間の厳密に中間に配置される。高さHが50%より小さい場合、ガス導入開口4は軸方向Aに対して下側反転点UTにより近く配置される。高さHが50%より大きい場合、ガス導入開口4は軸方向Aに対して上側反転点OTにより近く配置される。
【0059】
ガス導入開口4が具体的な適用例で配置される高さHは、とりわけ、シリンダ10上又はその近傍の、ガス供給システムのために利用可能なスペースにも依存する。ガス導入開口4が、軸方向Aに対して、ストロークSの少なくとも40%且つ最大55%である高さHに配置されることが、多くの適用例で有用であることが実証されている。
【0060】
本発明によると、大型ディーゼル・エンジンを気体モードで動作させる場合、ガスの導入は入口距離Eにおいて終了され、入口距離Eは、軸方向Aにおけるガス導入開口4からのピストン2の上面の距離を示し、入口距離EはストロークSの少なくとも14%である。
【0061】
これは、以下において、図1及び図2に表された実施例に基づいてより詳細に説明される。
【0062】
図2では、入口距離Eにあるピストン2、すなわち、それぞれの作動サイクルにおいて、シリンダ10内へのガスの導入がちょうど終了したときのピストン2の位置が、実線で示されている。これは、ガス導入開口4の閉プロセス後、ガス導入開口4がちょうど完全に閉じられ、それによりシリンダ10内にそれ以上ガスが流入しない時点を指す。さらに、図2では、ピストン2が下側反転点UTにあるときのピストン2の位置が点線で示されている。
【0063】
ガス導入開口4が、例えば、開くためのストローク運動によって弁座から持ち上げられ、閉じるためのストローク運動によって弁座に押し込まれ、それにより弁座と相互作用して密封状態になる弁体を備えるガス導入弁として設計されている場合、入口距離Eは、弁体が弁座にちょうど完全に再挿入され、弁座と相互作用して密封状態になり、それによりガス導入開口4を通じてシリンダ10内にそれ以上ガスが流入できなくなる時点での、ピストン2の上面21とガス導入開口4との間の軸方向Aの距離である。
【0064】
ガス噴射の始まりとは、類似した同様の手法で、シリンダ10内へのガス噴射がちょうど始まるとき、例えば、弁体のストローク運動による弁体の弁座からの持ち上げがちょうど始まるときの時点又はピストン2の位置を意味する。
【0065】
例えば、弁体の最大ストロークが100%で、100%のストロークはガス導入開口4が完全に開いている弁体の位置に対応し、0%のストロークは弁体が弁座と相互作用して密封状態になる弁体の位置に対応する場合、ガス噴射の開始は、弁体のストロークが0%からちょうど増加し始める時点である。ガス噴射の終了は、弁体のストロークがちょうど再び0%の値をとる時点である。
【0066】
ガス導入開口4の他の設計についても同様である。ガス噴射の開始は、ガス導入開口4を通るガスの流れがちょうど始まる時点(又はクランク角で測定されたピストン2の位置)として示される。ガス噴射の終了は、ガス導入開口4を通るガスの流れがちょうど終了された時点(又はクランク角で測定されたピストン2の位置)として示される。
【0067】
したがって、入口距離Eは、ガス噴射の終了時のガス導入開口4からピストン2の上面21の距離である。
【0068】
本発明によると、入口距離EはストロークSの少なくとも14%である。これは、ガス噴射の終了時に、ピストン2の上面21がガス導入開口4から依然としてストロークSの少なくとも14%離れていることを意味する。作動サイクルのきわめて初期にシリンダ10内へのガス噴射がこのように終了される結果、ガス噴射が終了されるとき、ピストン2の上面21上にはピストン2の上面21と導入ガスとの間に配置されたエア・クッションが存在する。このエア・クッションにより、第1のピストン・リング22によって底部で画定されている、ピストン2とシリンダ壁11との間の環状空隙領域へのガスの侵入が、少なくとも広い範囲で防止される。したがって、エア・クッションは、ピストン2の上面21と第1のピストン・リング22との両方、及びピストン溝23にかかる熱負荷を低減する。
【0069】
入口距離Eの最適値は、本発明による方法の具体的な適用例、特に、本発明による方法で動作させる大型ディーゼル・エンジンの設計に依存する。
【0070】
実際には、本発明による方法のいくつかの適用例では、入口距離EがストロークSの少なくとも18%であると有利であることが示されている。
【0071】
いくつかの適用例では、入口距離EがストロークSの少なくとも20%であると有利である。
【0072】
いくつかの適用例では、入口距離EがストロークSの少なくとも23%であると有利である。
【0073】
いくつかの適用例では、入口距離EがストロークSの少なくとも26%であると有利である。
【0074】
いくつかの適用例では、入口距離EがストロークSの少なくとも29%であると有利である。
【0075】
実際には、大きすぎる入口距離Eを選択すると、かなりのメタン・スリップが発生する恐れがあるので、大きすぎる入口距離Eを選択しないことが有利であることも実証されている。
【0076】
したがって、入口距離Eは、ストロークSの最大35%であることが好ましい。
【0077】
いくつかの適用例では、入口距離EがストロークSの最大33%であることが有利である。
【0078】
燃焼に必要な量のガスをシリンダ10内に導入するには時間を要するので、ガスの導入は、ピストン2が入口距離Eに位置するクランク角よりも好ましくは10°~25°小さい導入角で開始されることが好ましい。導入角は、このように、ガス導入開口4の開放が開始されるクランク角、すなわち、シリンダ10内へのガスの導入が始まるクランク角を示す。その結果、シリンダ内へのガスの導入は、少なくとも10°且つ最大25°のクランク角範囲にわたって行われることが好ましい。
【0079】
いくつかの適用例では、導入角が、ピストン2が入口距離Eに位置するクランク角よりも少なくとも15°且つ最大20°小さいことが好ましい。
図1
図2
【外国語明細書】