(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022100258
(43)【公開日】2022-07-05
(54)【発明の名称】インドロカルバゾール環を有する化合物、受光素子用材料、有機薄膜、受光素子、及び撮像素子
(51)【国際特許分類】
C07D 487/04 20060101AFI20220628BHJP
H01L 51/42 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
C07D487/04 137
H01L31/08 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021200060
(22)【出願日】2021-12-09
(31)【優先権主張番号】P 2020213917
(32)【優先日】2020-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005315
【氏名又は名称】保土谷化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】樺澤 直朗
(72)【発明者】
【氏名】望月 俊二
(72)【発明者】
【氏名】島 大和
(72)【発明者】
【氏名】三枝 優太
【テーマコード(参考)】
4C050
5F849
【Fターム(参考)】
4C050AA01
4C050AA08
4C050BB04
4C050CC04
4C050EE02
4C050FF05
4C050GG01
4C050HH01
5F849AB11
5F849FA04
5F849FA05
5F849GA02
5F849XA01
5F849XA13
5F849XA45
5F849XA46
5F849XA47
(57)【要約】
【課題】優れた耐熱性、電荷輸送性を持つ化合物を利用した化合物を提供すること、またそれを用いた有機デバイス、特に受光素子に用いる有機薄膜、及びその有機薄膜を適用する各種の受光素子、特に撮像素子、及びこれを用いる光センサーを提供することを主目的とする。
【解決手段】下記一般式(1)で表されるインドロカルバゾール環を有する化合物。
(式中、Lは、単結合、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基、置換若しくは無置換の芳香族複素環基、又は置換若しくは無置換の縮合多環芳香族基の2価基を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される、インドロカルバゾール環を有する化合物。
【化1】
(式中、
Lは、単結合、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基、置換若しくは無置換の芳香族複素環基、又は置換若しくは無置換の縮合多環芳香族基の2価基を表し、
R
1~R
9、R
12~R
20は、相互に同一でも異なってもよく、水素原子、重水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、ニトロ基、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数2ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキルオキシ基、置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキルオキシ基、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基、置換若しくは無置換の芳香族複素環基、置換若しくは無置換の縮合多環芳香族基又は置換若しくは無置換のアリールオキシ基であって、単結合、置換若しくは無置換のメチレン基、酸素原子又は硫黄原子を介して互いに結合して環を形成してもよく、
R
10、R
11、R
21、及びR
22は、相互に同一でも異なってもよく、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数2ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキルオキシ基、置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキルオキシ基、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基、置換若しくは無置換の芳香族複素環基、置換若しくは無置換の縮合多環芳香族基又は置換若しくは無置換のアリールオキシ基であって、R
10とR
11、R
21とR
22は互いに単結合、置換若しくは無置換のメチレン基、酸素原子又は硫黄原子を介して結合して環を形成してもよい。)
【請求項2】
請求項1に記載の化合物からなる受光素子用材料。
【請求項3】
請求項2に記載の受光素子用材料を含む、有機薄膜。
【請求項4】
請求項3に記載の有機薄膜を含む、受光素子。
【請求項5】
請求項3に記載の有機薄膜をブロッキング層として含む、受光素子。
【請求項6】
請求項3に記載の有機薄膜を光電変換層として含む、受光素子。
【請求項7】
請求項4~6のいずれか1項に記載の受光素子を含む、撮像素子。
【請求項8】
前記一般式(1)中のLが、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基、置換若しくは無置換の芳香族複素環基、又は置換若しくは無置換の縮合多環芳香族基の2価基(但し、ピリミジニレン基を除く)である、請求項1に記載の化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インドロカルバゾール環を有する化合物、受光素子用材料、有機薄膜、受光素子、及び撮像素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
受光素子は太陽電池や光センサー等に広く利用され、その中でも撮像素子であるイメージセンサーは、テレビカメラやスマートホン搭載のカメラだけでなく、運転支援システム用途にも用いられ始めるなど用途、市場共に広がりをみせている。
【0003】
これまでの撮像素子の材料には、Si膜やSe膜といった無機材料が使用されており、その撮像方法としてはプリズムを用いて色を分ける3板式と、カラーフィルターを用いた単板式の2つが主流であった。しかし、3板式は、光の利用率は高いもののプリズムを使用するため小型化が難しく、単板式は、プリズムを使用しないため小型化は比較的容易であるが、代わりにカラーフィルターを使用するため解像度、光の利用率が悪かった(非特許文献1)。
【0004】
有機物は、無機物と比較して特定波長の光をよく吸収するため、それぞれの波長に対応した材料を組み合わせることで、プリズムを使用せずとも3原色に対しそれぞれの光を効率よく利用できる撮像素子を構築することができ、そのため光の利用効率が高く、小型の撮像素子を作ることが可能となる。また、可視光の光に限らず、材料選定次第で、近赤外、赤外のセンシングが可能になる他、無機物では達成することのできない、フレキシブル性や作製プロセスでの塗布による大面積化といった価値を付加できる可能性がある(非特許文献2)。
【0005】
このようなことから有機物を用いた受光素子は、次世代の撮像素子への展開が期待されており、いくつかのグループから報告がなされている。例えばキナクドリン、キナゾリン誘導体を受光素子に用いた例(特許文献1)、ベンゾチエノベンゾチオフェン誘導体を受光素子に用いた例(特許文献2)、インドロカルバゾールを受光素子に用いた例(特許文献3)などがある。撮像素子には特性の指標としてコントラスト、電力といったものがあるが、その特性を向上させるために、光が入射していないときに流れる電流(暗電流)を低減する必要がある。この暗電流の低減する一つの手法として、受光部と電極部間に、正孔ブロック層又は電子ブロック層を挿入する手法がある。
【0006】
この正孔ブロック層又は電子ブロック層の挿入は、有機エレクトロニクス分野では一般的に使用される手法である。これらブロック層は、それぞれデバイスの構成膜中において、電極又は導電性を有する膜と、それ以外の膜の界面に配置され、正孔又は電子の逆移動を制御しながら、必要な電荷を速やかに伝達させる機能を持つ。
【0007】
また加えてブロック層に用いられる材料に求められる特性として、熱安定性が挙げられる。特に撮像素子では、カラーフィルター設置、保護膜設置、素子のハンダ付け等、加熱工程を有する製造プロセスへの適用や保存性の向上を考慮するため、有機ELや他の有機エレクトロニクスデバイスよりも高い熱安定性が求められる。特許文献4では、ガラス転移温度(Tg)が140℃以上である電子ブロッキング材料を使用することで、素子の熱安定性の向上を報告している。しかし、特性としては不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4945146号公報
【特許文献2】特開2018-170487号公報
【特許文献3】特開2018-085427号公報
【特許文献4】特開2011-187937号公報
【特許文献5】国際公開第2012/114928号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】映像情報学会メディア協会誌、60,3,291(2006)
【非特許文献2】Adv.Mater.28,4766(2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はこのような状況を鑑みてなされたものであり、優れた耐熱性、電荷輸送性を持つ化合物を提供すること、またそれを用いた有機デバイス、特に受光素子に用いる有機薄膜、及びその有機薄膜を適用する各種の受光素子、特に撮像素子、及びこれを用いる光センサーを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで本発明者らは前記の目的を達成するために、インドロカルバゾール環が高い電荷輸送性を持ち、更に耐熱性に優れているということに着目した。また、対称性の高い化合物は熱安定性も高くなる傾向があることに着想を得て、さらなる耐熱性の向上を目指し、鋭意開発を行った結果、下記の一般式(1)で表される特定の化合物を含む有機薄膜が前記課題を解決するものであることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明は、以下の各項に係るものである。
1)下記一般式(1)で表される、インドロカルバゾール環を有する化合物。
【0013】
【化1】
(式中、
Lは、単結合、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基、置換若しくは無置換の芳香族複素環基、又は置換若しくは無置換の縮合多環芳香族基の2価基を表し、
R
1~R
9、R
12~R
20は、相互に同一でも異なってもよく、水素原子、重水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、ニトロ基、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数2ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキルオキシ基、置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキルオキシ基、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基、置換若しくは無置換の芳香族複素環基、置換若しくは無置換の縮合多環芳香族基又は置換若しくは無置換のアリールオキシ基であって、単結合、置換若しくは無置換のメチレン基、酸素原子又は硫黄原子を介して互いに結合して環を形成してもよく、
R
10、R
11、R
21、及びR
22は、相互に同一でも異なってもよく、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数2ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキルオキシ基、置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキルオキシ基、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基、置換若しくは無置換の芳香族複素環基、置換若しくは無置換の縮合多環芳香族基又は置換若しくは無置換のアリールオキシ基であって、R
10とR
11、R
21とR
22は互いに単結合、置換若しくは無置換のメチレン基、酸素原子又は硫黄原子を介して結合して環を形成してもよい。)
2)1)に記載の化合物からなる受光素子用材料。
3)2)に記載の受光素子用材料を含む、有機薄膜。
4)3)に記載の有機薄膜を含む、受光素子。
5)3)に記載の有機薄膜をブロッキング層として含む、受光素子。
6)3)に記載の有機薄膜を光電変換層として含む、受光素子。
7)4)~6)のいずれかに記載の受光素子を含む、撮像素子。
8)前記一般式(1)中のLが、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基、置換若しくは無置換の芳香族複素環基、又は置換若しくは無置換の縮合多環芳香族基の2価基(但し、ピリミジニレン基を除く)である、1)に記載の化合物。
【発明の効果】
【0014】
本発明のインドロカルバゾール環を有する化合物を含む有機薄膜は、優れた耐熱性、電荷輸送性を持つ有機薄膜であり、各種の受光素子に適用できる。それにより、優れた暗電流特性及び変換効率を有する受光素子、特に撮像素子、及び光センサーを提供できる。本発明のインドロカルバゾール環を有する化合物は、受光素子用材料として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、下記一般式(1)で表される、インドロカルバゾール環を有する化合物、当該化合物を含む有機薄膜、及びその有機薄膜を使用した光電変換素子、特に受光素子である。
【0017】
【化2】
(式中、
Lは、単結合、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基、置換若しくは無置換の芳香族複素環基、又は置換若しくは無置換の縮合多環芳香族基の2価基を表し、
R
1~R
9、R
12~R
20は、相互に同一でも異なってもよく、水素原子、重水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、ニトロ基、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数2ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキルオキシ基、置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキルオキシ基、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基、置換若しくは無置換の芳香族複素環基、置換若しくは無置換の縮合多環芳香族基又は置換若しくは無置換のアリールオキシ基であって、単結合、置換若しくは無置換のメチレン基、酸素原子又は硫黄原子を介して互いに結合して環を形成してもよく、
R
10、R
11、R
21、及びR
22は、相互に同一でも異なってもよく、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数2ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキルオキシ基、置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキルオキシ基、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基、置換若しくは無置換の芳香族複素環基、置換若しくは無置換の縮合多環芳香族基又は置換若しくは無置換のアリールオキシ基であって、R
10とR
11、R
21とR
22は互いに単結合、置換若しくは無置換のメチレン基、酸素原子又は硫黄原子を介して結合して環を形成してもよい。)
【0018】
また、「ないし」とは範囲を表す用語であり、例えば「5ないし10」との記載は、「5以上10以下」を意味し、「ないし」の前後に記載される数値自体も含む範囲を表す。
【0019】
一般式(1)中の「置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基」、「置換若しくは無置換の芳香族複素環基」、又は「置換若しくは無置換の縮合多環芳香族基」における「芳香族炭化水素基」、「芳香族複素環基」又は「縮合多環芳香族基」の2価基としては、特に限定されないが、例えば、フェニレン基、ビフェニレン基、ターフェニレン基、ナフチレン基、アントラセニレン基、チエニレン基、フラニレン基、フェナントレニレン基、ピリジレン基、ベンゾフラニレン基、ベンゾチエレン基などを挙げることができる。さらに、炭素数6ないし30のアリーレン基及び炭素数2ないし30のヘテロアリーレン基から選択することもできる。
【0020】
一般式(1)中の「置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基」、「置換若しくは無置換の芳香族複素環基」、又は「置換若しくは無置換の縮合多環芳香族基」における「芳香族炭化水素基」、「芳香族複素環基」又は「縮合多環芳香族基」としては、特に限定されないが、例えば、フェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、フルオレニル基、スピロビフルオレニル基、インデニル基、ピレニル基、ペリレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基、ピリジル基、ピリミジニル基、トリアジニル基、フリル基、ピロリル基、チエニル基、キノリル基、イソキノリル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチエニル基、インドリル基、カルバゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、キノキサリニル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラゾリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基、ナフチリジニル基、フェナントロリニル基、アクリジニル基、カルボリニル基などを挙げることができる。さらに、炭素数6ないし30のアリール基及び炭素数2ないし30のヘテロアリール基から選択することもできる。
【0021】
一般式(1)中の「置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基」、「置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基」又は「置換基を有していてもよい炭素原子数2ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルケニル基」における「炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基」、「炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基」、又は「炭素原子数2ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルケニル基」としては、特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、1-アダマンチル基、2-アダマンチル基、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、2-ブテニル基などを挙げることができる。
【0022】
一般式(1)中の「置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキルオキシ基」又は「置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキルオキシ基」における「炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキルオキシ基」又は「炭素原子数5ないし10のシクロアルキルオキシ基」としては、特に限定されないが、例えば、メチルオキシ基、エチルオキシ基、n-プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n-ブチルオキシ基、tert-ブチルオキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、シクロヘプチルオキシ基、シクロオクチルオキシ基、1-アダマンチルオキシ基、2-アダマンチルオキシ基などを挙げることができる。
【0023】
一般式(1)中の「置換若しくは無置換のアリールオキシ基」における「アリールオキシ基」としては、特に限定されないが、例えば、フェニルオキシ基、ビフェニリルオキシ基、ターフェニリルオキシ基、ナフチオキシル基、アントラセニルオキシ基、フェナントレニルオキシ基などの炭素数6ないし30のアリールオキシ基を挙げることができる。
【0024】
一般式(1)中の「置換芳香族炭化水素基」、「置換芳香族複素環基」、「置換縮合多環芳香族基」、「置換メチレン基」、「置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基」、「置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基」、「置換基を有していてもよい炭素原子数2ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルケニル基」、「置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキルオキシ基」、又は「置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキルオキシ基」における「置換基」としては、特に限定されないが、例えば、重水素原子、シアノ基、ニトロ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子;トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基などのシリル基;メチル基、エチル基、プロピル基などの炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基;メチルオキシ基、エチルオキシ基、プロピルオキシ基などの炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキルオキシ基;ビニル基、アリル基などのアルケニル基;フェニルオキシ基、トリルオキシ基などのアリールオキシ基;ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基などのアリールアルキルオキシ基;フェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、フルオレニル基、スピロビフルオレニル基、インデニル基、ピレニル基、ペリレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基などの芳香族炭化水素基若しくは縮合多環芳香族基;ピリジル基、チエニル基、フリル基、ピロリル基、キノリル基、イソキノリル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチエニル基、インドリル基、カルバゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、キノキサリニル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラゾリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基、カルボリニル基などの芳香族複素環基のような基を挙げることができ、これらの置換基は、更に前記例示した置換基で置換されていてもよい。
【0025】
本発明においては、耐熱性及び電荷移動度の観点から、一般式(1)中のLが、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基、置換若しくは無置換の芳香族複素環基、又は置換若しくは無置換の縮合多環芳香族基の2価基(但し、ピリミジニレン基を除く)であることが好ましく、無置換の芳香族炭化水素基であることがより好ましく、フェニル基であることが特に好ましい。
【0026】
また、耐熱性及び電荷移動度の観点から、一般式(1)中のR1からR22が、水素原子、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基、又は置換若しくは無置換の芳香族複素環基であることが好ましく、R1~R4、R6~R9、R12~R15、及びR17~R20が、水素原子であり、R10、R11、R21及びR22が、無置換の芳香族炭化水素基であることがより好ましい。なお、R1からR22は、相互に同一でも異なってもよい。
【0027】
特に、一般式(1)で表される化合物は、R10、R11、R21及びR22が、フェニル基、チエニル基、又はメチル基であり、R5及びR16が、水素原子又はフェニル基であり、R1~R4、R6~R9、R12~R15、及びR17~R20が、水素原子であり、Lが、単結合、フェニレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基、チエニレン基、フラニレン基、又はベンゾフラニレン基であることが好ましい。なお、R1からR22は、相互に同一でも異なってもよい。
【0028】
一般式(1)で表される、インドロカルバゾール環を有する化合物の中で、好ましい化合物の具体例を以下に示すが、本発明は、これらの化合物に限定されるものではない。
【0029】
【0030】
上述したインドロカルバゾール環を有する化合物は、それ自体公知の方法に準じて合成することができる(例えば特許文献5)。
【0031】
これらの化合物の精製は、カラムクロマトグラフィーによる精製、シリカゲル、活性炭、活性白土などによる吸着精製、溶媒による再結晶や晶析法などによって行うことができる。化合物の同定は、NMR分析によって行うことができる。物性値として、ガラス転移温度(Tg)と仕事関数の測定を行うことが好ましい。ガラス転移温度(Tg)は薄膜状態の安定性の指標となるものであり、仕事関数は正孔輸送性の指標となるものである。
【0032】
前記一般式(1)で表される、インドロカルバゾール環を有する化合物は、蒸着法、スピンコート法及びインクジェット法などの公知の方法によって有機薄膜を形成することができる。また、前記インドロカルバゾール環を有する化合物は、単独で成膜してもよいが、複数種を混合して成膜することもできる。更に本発明の効果を損なわない範囲で、他の化合物と混合して成膜することもできる。
【0033】
前記インドロカルバゾール環を有する化合物を含む有機薄膜は、受光素子、特に撮像素子への使用に適している。受光素子の構成としては、例えば、順に第1電極(陽極)、第1バッファ層、光電変換層、第2電極(陰極)を有し、第1バッファ層が前記インドロカルバゾール環を有する化合物を含む有機薄膜である構成が挙げられる。このような多層構造においては層を追加することが可能であり、例えば、順に第1電極、第1バッファ層、光電変換層、第2バッファ層、第2電極を有する構成とすることもできる。また、前記インドロカルバゾール環を有する化合物を含む有機薄膜は、光電変換層に使用することもできる。
【0034】
受光素子における光電変換層を構成する材料は、有機材料でも無機材料でもよく、受光した光量に応じた信号電荷を発生することができればよい。光電変換層が有機材料の場合、その有機半導体膜は、一層であっても複数の層であってもよく、一層の場合はp型有機半導体膜、n型有機半導体膜、又はp型有機半導体及びn型有機半導体の混合膜が用いられる。また複数の層である場合は、p型有機半導体膜、n型有機半導体膜、又はp型有機半導体及びn型有機半導体混合膜のいずれか2つ以上を積層した構造、若しくはバルクヘテロ構造であり、層間にバッファ層を挿入することも可能である。
【0035】
受光素子は、素子に含まれる第1バッファ層に、前記インドロカルバゾール環を有する化合物を用いることで、熱の負荷に対する安定性を得ることができる。また、正孔移動度が高いことから、残像特性も向上する。
【0036】
前記光電変換層に用いられるp型半導体は、ドナー性の有機半導体であり、主に正孔輸送性の有機化合物に代表される電子を供与しやすい性質がある化合物である。p型半導体としては、特に限定されないが、例えば、ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、フェナントレン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、テトラセン誘導体、ペンタセン誘導体、キナクリドン誘導体、クリセン誘導体、フルオランテン誘導体、フタロシアニン誘導体、サブフタロシアニン誘導体、複素環化合物を配位子とする金属錯体、ベンゾチオフェン誘導体、ジナフトチエノチオフェン誘導体、ジアントラセノチエノチオフェン誘導体、ベンゾビスベンゾチオフェン誘導体、チエノビスベンゾチオフェン、ジベンゾチエノビスベンゾチオフェン誘導体、ジチエノベンゾジチオフェン誘導体、ジベンゾチエノジチオフェン誘導体、ベンゾジチオフェン誘導体、ナフトジチオフェン誘導体、アントラセノジチオフェン誘導体、テトラセノジチオフェン誘導体、ペンタセノジチオフェン誘導体に代表されるチエノアセン系材料、トリアリールアミン化合物及びカルバゾール化合物などのアミン系誘導体、インデノカルバゾール誘導体などを挙げることができる。
【0037】
前記光電変換層に用いられるn型有機半導体は、アクセプター性有機半導体であり、主に電子輸送性有機化合物に代表される電子を受容しやすい性質がある有機化合物をいう。更に詳しくは2つの有機化合物を接触させたときに電子親和力の大きい方の有機化合物をいう。したがって、アクセプター性有機化合物は、電子受容性のある有機化合物であればいずれの有機化合物も使用可能である。例えば、縮合芳香族炭素環化合物(ナフタレン、アントラセン、フラーレン、フェナントレン、テトラセン、ピレン、ペリレン、ペリレンジイミド、フルオランテン、又はこれらの誘導体)、キナクドリン、窒素原子、酸素原子、硫黄原子を含有する5ないし7員のヘテロ環化合物(例えばピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、キノリン、キノキサリン、キナゾリン、フタラジン、シンノリン、イソキノリン、プテリジン、アクリジン、フェナジン、フェナントロリン、テトラゾール、ピラゾール、イミダゾール、チアゾール、オキサゾール、インダゾール、ベンズイミダゾール、ベンゾトリアゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、カルバゾール、プリン、トリアゾロピリダジン、トリアゾロピリミジン、テトラザインデン、オキサジアゾール、イミダゾピリジン、ピラリジン、ピロロピリジン、チアジアゾロピリジン、ジベンズアゼピン、トリベンズアゼピン等)、ポリアリーレン化合物、フルオレン化合物、シクロペンタジエン化合物、シリル化合物、含窒素ヘテロ環化合物を配位子として有する金属錯体などが挙げられる。なお、これに限らず、前記したように、ドナー性有機化合物として用いた有機化合物よりも電子親和力の大きな有機化合物であればアクセプター性有機半導体として用いてよい。
【0038】
陽極、陰極としては、一般に電極として用いられている導電材料であれば特に制限なく用いることができ、例えば、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属硼化物、有機導電性化合物、及びこれらの混合物等が挙げられる。具体例としては、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化インジウムタングステン(IWO)、酸化モリブデン(MoO)、酸化チタン等の導電性金属酸化物;酸化窒化チタン(TiNxOx)、窒化チタン(TiN)等の金属窒化物;金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)等の金属;更にこれらの金属と導電性金属酸化物との混合物又は積層物;ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール等の有機導電性化合物;これらの有機導電性化合物とITOとの積層物、などが挙げられる。
【0039】
第2バッファ層が第2電極(陰極)と光電変換層との間に挿入されても良いが、これに用いられる材料としては、仕事関数が第1バッファ層に用いられる材料の仕事関数よりも大きい材料が好ましい。例えば、ピリジン、キノリン、アクリジン、インドール、イミダゾール、ベンズイミダゾール、フェナントロリンのような含窒素複素環を含む有機化合物及び有機金属錯体などが挙げられ、可視光領域の吸収が少ない材料が好ましい。また、5nmから20nm程度の薄膜で形成する場合には可視光領域に吸収を有するフラーレン及びその誘導体などを用いることもできる。
【実施例0040】
以下、本発明の実施の形態について、実施例により具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
[実施例1]
<5,5’-ビ(11,12-ジフェニルインドロ[2,3‐a]カルバゾール)(化合物1-1)の合成>
反応容器に5-ブロモ-11,12-ジフェニルインドロ[2,3-a]カルバゾール3.71g、11,12-ジフェニル-5-(4,4,5,5-テトラメチルー[1,3,2]ジオキサボラン-2-イル)-インドロ[2,3-a]カルバゾール4.49g、炭酸カリウム1.60g、トルエン70mL、水11mL、エタノール18mLを反応容器に加え、脱気したのち、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム0.189gを加えて加熱し、還流下で6時間攪拌した。放冷後、塩水100mLを追加して分液し、有機層を更に塩水100mLで洗浄した。有機層に無水硫酸マグネシウム、シリカ7.0g、活性白土7.0gを加え、撹拌後、ろ過により無機成分を除去した。濃縮後得られたクルードにテトラヒドロフラン20mL、ジイソプロピルエーテル50mLを加えて晶析した。ろ過して得られた固体にテトラヒドロフラン及びジイソプロピルエーテルを使用した晶析を繰り返すことで5,5’-ビ(11,12-ジフェニルインドロ[2,3-a]カルバゾール)の白色粉体4.37g(収率64%)を得た。
【0042】
得られた白色粉体についてNMRを使用して構造を同定した。
1H-NMR(CDCl3)50℃にて以下の38個の水素のシグナルを検出した。
δ(ppm)=8.33(2H),8.15(2H),7.38-7.25(6H),7.25-7.11(14H),7.08(2H),6.95-6.90(8H),6.89(2H),6.72(2H).
【0043】
[実施例2]
<1,4-ビス(11,12-ジフェニルインドロ[2,3-a]カルバゾール-5-イル)ベンゼン(化合物1-2)の合成>
反応容器に5-ブロモ-11,12-ジフェニルインドロ[2,3-a]カルバゾール11.0g、ベンゼン-1,4-ジボロン酸1.80g、炭酸カリウム4.45g、1,4-ジオキサン150mL、水50mLを反応容器に加え、脱気したのち、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム0.625gを加えて加熱し、還流下で12.5時間攪拌した。放冷後、メタノール150mLを追加し、析出した固体をろ過により集めた。この固体を1,2-ジクロロベンゼン100mLに加熱溶解させ、ここへシリカ10g、活性白土10gを加えて、撹拌した。30分撹拌後、熱時ろ過を行い、無機成分を除去した。ろ液にメタノール200mL及び少量の酢酸エチルを添加し、析出した固体を集めた。この固体に1,2-ジクロロベンゼン及び酢酸エチルを使用した晶析を繰り返すことで1,4-ビス(11,12-ジフェニルインドロ[2,3-a]カルバゾール-5-イル)ベンゼンの白色粉体1.72g(収率18%)を得た。
【0044】
得られた白色粉体についてNMRを使用して構造を同定した。
1H-NMR(CDCl3)60℃にて以下の42個の水素のシグナルを検出した。
δ(ppm)=8.23(2H),8.16(2H),8.01(4H),7.81(2H),7.36-7.26(10H),7.21-7.10(14H),6.88-6.81(8H).
【0045】
[実施例3]
<1,3-ビス(11,12-ジフェニルインドロ[2,3-a]カルバゾール-5-イル)ベンゼン(化合物1-3)の合成>
実施例2において、ベンゼン-1,4-ジボロン酸の代わりにベンゼン-1,3-ジボロン酸を用いた以外は、同様に操作を行い1,3-ビス(11,12-ジフェニルインドロ[2,3-a]カルバゾール-5-イル)ベンゼンの白色粉体1.96g(収率20%)を得た。
【0046】
得られた白色粉体についてNMRを使用して構造を同定した。
1H-NMR(CDCl3)50℃にて以下の42個の水素のシグナルを検出した。
δ(ppm)=8.23-8.09(5H),7.96(2H),7.85-7.78(3H),7.34-7.03(24H),6.84-6.74(8H).
【0047】
[実施例4]
<ガラス転移温度の測定>
実施例1の化合物(1-1)、実施例2の化合物(1-2)、及び実施例3の化合物(1-3)について、高感度示差走査熱量計(ブルカー・エイエックスエス製、DSC3100SA)によってガラス転移温度を測定した。また高ガラス転移温度の化合物である下記構造のEBL-1(特許文献1を参照)、EBL-2(特許文献3を参照)についても同様にしてガラス転移温度を測定した。測定したガラス転移温度の結果を表1にまとめて示す。
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
化合物(1-1)~(1-3)のガラス転移温度は190℃以上と高く、薄膜状態が安定であることを示している。また化合物(1-1)~(1-3)のガラス転移温度はEBL-1、EBL-2と比較しても高く、EBL-1、EBL-2の代わりに化合物(1-1)~(1-3)を用いることで、より熱安定性に優れた素子が作製可能であることを示している。
【0052】
[実施例5]
<仕事関数の測定>
実施例1の化合物(1-1)、実施例2の化合物(1-2)、実施例3の化合物(1-3)、及び比較化合物(EBL-1)、(EBL-2)を用いて、ITO基板の上に膜厚100nmの蒸着膜を作製し、イオン化ポテンシャル測定装置(住友重機械工業株式会社、PYS-202)によって仕事関数の測定を行った。測定結果を表2にまとめて示す。
【0053】
【0054】
化合物(1-1)~(1-3)は、好適な材料とされているカルバゾール化合物などの正孔輸送材料が持つ仕事関数5.3~6.0eVと比較して、好適なエネルギー準位を示しており、良好な正孔輸送能力を有していることが分かる。また、仕事関数の調整も容易に行えることが分かる。
【0055】
[実施例6]
<ホール移動度の測定>
化合物(1-1)~(1-3)及び比較化合物(EBL-1)、(EBL-2)を用いて、真空蒸着法によりITO付きガラス基板上に測定対象の有機化合物を膜厚3~4μmで成膜した。続けてアルミニウムを膜厚100nm程度で成膜することで、ホール移動度測定用の素子を作製した。この素子を、水分や酸素の吸着による劣化が起こらないように、窒素雰囲気中で有機EL用水分ゲッターシートを貼り付けたガラスキャップで封止した。
【0056】
この素子を用いて、過渡光電流測定装置により下記の条件でホール(正孔)移動度を測定した。測定結果を表3にまとめて示す。
【0057】
(測定条件)
装置 :タイムオブフライト測定装置TOF―401(オプテル社製)
励起光源:窒素レーザ(337.1nm)
光パルス幅:1nsec以下
測定面積:0.04cm2
試料温度:25℃
負荷抵抗:50Ω
電界強度:0.25MV/cm
【0058】
【0059】
化合物(1-1)~(1-3)のホール移動度は、2.9×10-5~3.9×10-4cm2/Vsであった。これは特許文献3にて同様の用途で用いられているEBL-2と同等の値であり、十分なホール移動度を有していると判断できる。
【0060】
[実施例7]
<ホールオンリー素子(HOD)の評価>
ガラス基板上に透明陽極としてITO電極をあらかじめ形成したものの上に、正孔注入層として酸化モリブデンを50nmになるように真空蒸着法にて成膜を行い、その正孔注入層の上に、化合物(1-1)~(1-3)、及び比較化合物(EBL-1)を100nmになるように真空蒸着法にて成膜した。続いて陰極としてAlを100nm蒸着することで、HODを作製した。
【0061】
作製したHODについて、ソースメータ測定器(ケースレー2635B、KEITHLEY社製)を用いて、-3V印加時のリーク電流を測定した。また、これらのHODを窒素雰囲気下のグローブボックス内で190℃のホットプレートで3時間加熱した後、同様にしてリーク電流を測定した。測定結果を表4にまとめて示す。
【0062】
【0063】
イメージセンサーは、デバイス作成時に180~190℃の熱に晒されるため、それに耐えうる必要がある。化合物(1-1)~(1-3)は、比較化合物(EBL-1)、(EBL-2)と比べて-3V印加時のリーク電流が少ない。また加熱後の素子においても、リーク電流の上昇が抑えられている。これは本発明の化合物が良好な正孔輸送能力を持ち、更に高い耐熱性を有することを表している。
【0064】
即ち、本発明の化合物を含む有機薄膜は、優れた耐熱性、電荷輸送性を持つ有機薄膜であり、各種の光電変換素子、特に受光素子に適用できる。
【0065】
[実施例8]
<受光素子の評価>
受光素子は、
図1に示すように、ガラス基板1上に透明陽極2としてITO電極をあらかじめ形成したものの上に、第一バッファ層3、光電変換層4、金属陰極5の順に蒸着して作製した。
【0066】
具体的には、透明陽極2であるITOを成膜したガラス基板1をイソプロピルアルコール中にて超音波洗浄を20分間行った後、200℃に加熱したホットプレート上にて10分間乾燥を行った。その後、UVオゾン処理を15分間行った後、このITO付きガラス基板を真空蒸着機内に取り付け、0.0001Pa以下まで減圧した。続いて、透明陽極2を覆うように第一バッファ層3として、実施例1の化合物(1-1)を膜厚が5nmとなるように蒸着した。この第一バッファ層3の上に、光電変換層4として下記構造式のp型半導体(SubPC)と下記構造式のn型半導体(C60)とを、蒸着速度比がSubPC:C60=50:50となる蒸着速度で二元蒸着し、膜厚が100nmとなるように形成した。この光電変換層4の上に、金属陰極5として金を膜厚100nmとなるように形成した。
作製した受光素子の評価結果を表5にまとめて示した。
【0067】
【0068】
【0069】
[実施例9]
実施例8において、第1バッファ層3の材料として化合物(1-1)の代わりに、化合物(1-2)を用いた以外は同様にして受光素子を作製し、電気特性を評価した。測定結果を表5にまとめて示した。
【0070】
[実施例10]
実施例8において、第1バッファ層3の材料として化合物(1-1)の代わりに、化合物(1-3)を用いた以外は同様にして受光素子を作製し、電気特性を評価した。測定結果を表5にまとめて示した。
【0071】
[比較例1]
比較として、実施例8において、第1バッファ層3の材料として化合物(1-1)の代わりに、前記EBL-1を用いた以外は同様にして受光素子を作製し、電気特性を評価した。測定結果を表5にまとめて示した。
【0072】
実施例8~10、及び比較例1で作製した有機受光素子の分光感度、及び明電流について、分光感度測定装置を用いて、下記測定条件により測定した。測定時の特定波長における放射照度は、Siフォトダイオード(S1337-1010BQ、浜松フォトニクス社製)を用いて校正した。暗電流については、受光素子への分光放射照度をゼロにして、同様のバイアス条件で電流値を測定した。
【0073】
(測定条件)
装置:分光感度測定装置SM-250A(分光計器社製)
光源:キセノン150W
分光放射照度:2.0mW/cm2(550nm)
有効照射面積:10×10mm
受光面積:0.04cm2
面内不均一性:±5%以内
ソースメータ:ケースレー2635B(KEITHLEY社製)
印加バイアス:-1~-3V
【0074】
【0075】
表5に示すように、-3V印加時における暗電流は、比較例1の素子の-5.4×10-7A/cm2に対して、実施例8~10の素子では-6.5×10-9~-1.2×10-8A/cm2と、1ケタ以上低い値となっている。また-3V印加時の変換効率EQEにおいても、比較例1の素子の58%に対して、実施例8~10では63~66%と向上している。素子における-1V及び-2Vのバイアス印加時にも、実施例8~10の素子は比較例1の素子と比べ、低い暗電流と高い変換効率EQEが示されている。このことは、本発明の化合物の高い電子ブロッキング性と良好なホール輸送性により、受光素子の暗電流特性と変換効率を大幅に改善できることを示している。
【0076】
以上の結果から明らかなように、本発明の化合物は、有機光電変換素子のブロッキング層に必要なHOMO値、高い耐熱性、十分な高移動度を有しており、特に受光素子用材料として好適に使用できる。
本発明により提供される、耐熱性が高く、電荷移動度の良好な有機薄膜は、各種の光電変換素子に適用できるため、良い暗電流特性と変換効率を有する受光素子、特に撮像素子、及びこれを用いる光センサーを提供できる。また、優れた電荷輸送性を有することから、光センサーだけではなく、有機太陽電池、有機発光ダイオード、有機トランジスタなどの有機デバイスなども提供できる。