(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022100271
(43)【公開日】2022-07-05
(54)【発明の名称】相互補償アーキテクチャに基づいて冗長システムにトルクを分配するための方法
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20220628BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021205634
(22)【出願日】2021-12-20
(31)【優先権主張番号】2014015
(32)【優先日】2020-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(71)【出願人】
【識別番号】511110625
【氏名又は名称】ジェイテクト ユーロップ
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パロンドル グザヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】スラマ タール
【テーマコード(参考)】
3D232
3D333
【Fターム(参考)】
3D232CC04
3D232CC20
3D232CC32
3D232CC46
3D232DA62
3D232DA67
3D232DA99
3D232DC01
3D232DD07
3D232DD08
3D232DD13
3D232EC34
3D333CB32
3D333CB38
(57)【要約】 (修正有)
【課題】並列に配置されたエンジンM1及びエンジンM2を備える制御モータの制御方法を提供する。
【解決手段】目標トルクEから分配トルクE’1及び分配トルクE’2を決定するステップDと、目標モータトルクE1を決定するために分配トルクE’1に補償要求C1を加えるステップと、目標モータトルクE2を決定するために分配トルクE’2に補償要求C2を加えるステップと、エンジンM1が目標モータトルクE1に応じてモータトルクF1を及ぼすステップと、エンジンM2が目標モータトルクE2に応じてモータトルクF2を与えるステップと、を実施する。制御方法は、また、エンジンM1又はエンジンM2の外乱若しくは故障の補償要求C1,C2を、制限若しくは認可する、ように構成された許可ステップP1,P2を、含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
並列に配置された第1エンジン(M1)及び第2エンジン(M2)を備える制御モータ(MC)の制御方法(100)であって、
目標トルク(E)から第1分配トルク(E’1)及び第2分配トルク(E’2)を決定する分配ステップ(D)と、
第1目標モータトルク(E1)を決定するために、前記第1分配トルク(E’1)に第1補償要求(C1)を加える第1決定ステップ(101)と、
第2目標モータトルク(E2)を決定するために、前記第2分配トルク(E’2)に第2補償要求(C2)を加える第2決定ステップ(102)と、
前記第1エンジン(M1)が前記第1目標モータトルク(E1)に応じて第1モータトルク(F1)を与える第1生成ステップ(103)と、
前記第2エンジン(M2)が前記第2目標モータトルク(E2)に応じて第2モータトルク(F2)を与える第2生成ステップ(104)と、を実施しており、
前記制御方法は、また、第1許可ステップ(P1)及び/又は第2許可ステップ(P2)を含み、前記第1許可ステップ(P1)は、前記第1エンジン(M1)の、第1外乱の前記第2補償要求(C2)を制限するように又は第1故障の前記第2補償要求(C2)を認可するように構成されており、前記第2許可ステップ(P2)は、前記第2エンジン(M2)の、第2外乱の前記第1補償要求(C1)を制限するように又は第2故障の前記第1補償要求(C1)を認可するように構成されている、制御モータ(MC)の制御方法(100)。
【請求項2】
前記第2補償要求(C2)は、第1計算ステップ(G1)の間に第1補償偏差(Δ1)の関数として計算され、次に、前記第1許可ステップ(P1)の間に第1制限閾値に従って制限されており、前記第1補償偏差(Δ1)は、前記第1モータトルク(F1)及び前記第1目標モータトルク(E1)の関数であり、
前記第1補償要求(C1)は、第2計算ステップ(G2)の間に第2補償偏差(Δ2)の関数として計算され、次に、前記第2許可ステップ(P2)の間に第2制限閾値に従って制限されており、前記第2補償偏差(Δ2)は、前記第2モータトルク(F2)及び前記第2目標モータトルク(E2)の関数である、請求項1に記載の制御方法(100)。
【請求項3】
前記第1制限閾値は、前記第2エンジン(M2)の最大モータトルクに依存する、請求項2に記載の制御方法(100)。
【請求項4】
前記第2制限閾値は、前記第1エンジン(M1)の最大モータトルクに依存する、請求項2又は3に記載の制御方法(100)。
【請求項5】
前記第1計算ステップ(G1)は、前記第1エンジン(M1)の前記第1目標モータトルク(E1)の関数として第1理論モータトルクを決定する静的及び/又は動的理論挙動の推定を、含み、
前記第2計算ステップ(G2)は、前記第2エンジン(M2)の前記第2目標モータトルク(E2)の関数として第2理論モータトルクを決定する静的及び/又は動的理論挙動の推定を、含む、請求項2から4のいずれか1つに記載の制御方法(100)。
【請求項6】
前記第1計算ステップ(G1)は、前記第1エンジン(M1)の前記第1目標モータトルク(E1)及び前記第1モータトルク(F1)の関数として、第1補正理論モータトルクを決定する補正された静的及び/又は動的理論挙動の推定を、含み、
前記第2計算ステップ(G2)は、前記第2エンジン(M2)の前記第2目標モータトルク(E2)及び前記第2モータトルク(F2)の関数として、第2補正理論モータトルクを決定する補正された静的及び/又は動的理論挙動の推定を、含む、請求項2から5のいずれか1つに記載の制御方法(100)。
【請求項7】
前記第1計算ステップ(G1)は、前記第1エンジン(M1)における前記第1理論モータトルクと前記第1補正理論モータトルクとの間の第1差分の推定を、含み、前記第1補償偏差(Δ1)は、前記第1差分の関数であり、
前記第2計算ステップ(G2)は、前記第2エンジン(M2)における前記第2理論モータトルクと前記第2補正理論モータトルクとの間の第2差分の推定を、含み、前記第2補償偏差(Δ2)は、前記第2差分の関数である、請求項5及び6のいずれか1つに記載の制御方法(100)。
【請求項8】
前記第1理論モータトルクと前記第1補正理論モータトルクとの間の前記第1差分の前記推定は、前記第1エンジンの伝達遅延に従って遅延された、決定された瞬間における前記第1理論モータトルクの値と、前記第1エンジンの伝達遅延に従って遅延された、前記決定された瞬間に補正された前記第1理論モータトルクの値と、に基づいて計算されており、
前記第2理論モータトルクと前記第2補正理論モータトルクとの間の前記第2差分の前記推定は、前記第2エンジンの伝達遅延に従って遅延された、決定された瞬間における前記第2理論モータトルクの値と、前記第2エンジンの伝達遅延に従って遅延された、前記決定された瞬間に補正された前記第2理論モータトルクの値と、に基づいて計算される、請求項7に記載の制御方法(100)。
【請求項9】
前記第1理論モータトルクと前記第1補正理論モータトルクとの間の前記第1差分の前記推定は、決定された瞬間における前記第1理論モータトルクの値と、前記決定された瞬間における前記第1補正理論モータトルクの値と、に基づいて計算されており、
前記第2理論モータトルクと前記第2補正理論モータトルクとの間の前記第2差分の前記推定は、決定された瞬間における前記第2理論モータトルクの値と、前記決定された瞬間における前記第2補正理論モータトルクの値と、に基づいて計算される、請求項7に記載の制御方法(100)。
【請求項10】
前記分配ステップ(D)並びに前記第1及び第2計算ステップ(G1,G2)の内部パラメータは、前記目標トルク(E)と作用トルク(F)との間で、前記制御モータ(MC)の伝達関数の所望の動的挙動を課すように決定されており、前記作用トルク(F)は、前記第1モータトルク(F1)と前記第2モータトルク(F2)との和に等しい、請求項1から9のいずれか1つに記載の制御方法(100)。
【請求項11】
前記第1エンジン(M1)の第1故障の前記第2補償要求(C2)は、前記第1エンジン(M1)の前記第1目標モータトルク(E1)と前記第1モータトルク(F1)との間の前記偏差が、前記第1故障の第1確認期間での第1安全閾値よりも大きい場合にのみ認可され、次に、前記第1故障の前記第2補償要求(C2)は、前記制御モータ(MC)の安全状態に戻るように第1反応期間で起動されており、
前記第2エンジン(M2)の第2故障の前記第1補償要求(C1)は、前記第2エンジン(M2)の前記第2目標モータトルク(E2)と前記第2モータトルク(F2)との間の前記偏差が、前記第2故障の第2確認期間での第2安全閾値よりも大きい場合にのみ認可され、次に、前記第2故障の前記第1補償要求(C1)は、前記制御モータ(MC)の安全状態に戻るように第2反応期間で起動される、請求項2に記載の制御方法(100)。
【請求項12】
前記第1反応期間の終わりに、前記制御モータ(MC)の安全状態に戻ることを可能にし、新たな分配(ND2)のための第2要求は、前記第2分配トルク(E’2)にのみ前記目標トルク(E)の前記分配を認可する前記第1許可ステップ(P1)によって、起動され、前記第2補償要求(C2)は、停止され、前記第1エンジン(M1)は、スイッチオフされており、
前記第2反応期間の終わりに、前記制御モータ(MC)の安全状態に戻ることを可能にし、新たな分配(ND1)のための第1要求は、前記第1分配トルク(E’1)にのみ前記目標トルク(E)の前記分配を認可する前記第2許可ステップ(P2)によって、起動され、前記第1補償要求(C1)は、停止され、前記第2エンジン(M2)は、スイッチオフされる、請求項11に記載の制御方法(100)。
【請求項13】
並列に配置された第1エンジン(M1)及び第2エンジン(M2)を備える制御モータ(MC)を含むパワーステアリングシステムであって、請求項1から12のいずれか1つに記載の制御モータ(MC)の制御方法(100)を実施するように構成されている、パワーステアリングシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、すなわち(特にパワーステアリングシステムのための)少なくとも2つの別個のエンジンを含む、冗長メカトロニクスシステムの、制御モータを制御するための方法の分野に、関する。
【背景技術】
【0002】
車両パワーステアリングシステムの目的は、ドライバー、又は自律車両の場合にはコンピュータが、車両のホイールの向きの角度を変化させることによって、車両の軌道を制御することを、可能にすることである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このため、電気パワーステアリングシステムは、単一のラック又はラック及びステアリングホイールにトルクを与える少なくとも1つの制御モータで構成される機能チェーンを、備える。
【0004】
一般的に、制御モータは、「ブラシレス」モータと呼ばれる電気モータである。制御モータは、与えられるべき目標トルク、すなわちトルク設定値を、入力として受けて、物理トルクに対応する作用トルクを、ラック又はステアリングホイールに加える。
【0005】
説明の残部では、読みやすくするために、「トルク」という用語は、トルク設定値に同化されている。「作用トルク」及び「モータトルク」という用語のみは、物理トルク又は物理トルク値を、表す。
【0006】
少なくとも1つの制御モータは、パワーステアリングシステムの機能チェーンの一部であり、パワーステアリングシステムを、作動させ、車両の軌道が追従されことを確保するのを、可能にする。したがって、車両の乗員の安全性は、制御モータの適切な動作に、リンクされる。
【0007】
自律車両のためのステアリングシステムの安全要求に応えるためには、2つの別個のエンジン、すなわち第1エンジン及び第2分離エンジンが搭載された制御モータを統合することが、必要である。2つのエンジンは、自律して、並列に配置される。各エンジンは、独立性を保証するためにその自らの電源を有し、目標トルクの割合に対応して与えられる目標モータトルクを入力として受け、モータトルクを加える。エンジンは、独立して及び/又は同時に、動作されてもよい。
【0008】
したがって、2つのエンジンは、冗長な動作を有する。換言すると、2つのエンジンの冗長性は、軌道追従パフォーマンスを保証するために、目標トルクを与える能力を確保することを、意図されている。
【0009】
例えば、2つのエンジンのうちの1つの安全性質であると判断される永久劣化、すなわち、例えば2つのエンジンのうちの1つの全損のような、ステアリングシステムの安全性に疑念を呼ぶ重大な劣化の事象では、第2エンジンは、目標トルクを与えるのに必要な最小可用性を維持するために、目標トルクに等しい目標モータトルクを入力として受ける。同様に、2つのエンジンのうちの1つの全損をもたらさない、制御モータにおけるシンプルな故障又は外乱は、自律車両の軌道追従及び制御性のパフォーマンスの劣化につながり得る。
【0010】
2つのエンジンが機能していると認められる場合、目標トルクを2つのエンジンに分配することによって、エネルギー消費及び振動最小化の両方の観点で、制御モータの最適運転が保証される。2つのエンジンは、入力として、目標トルクの割合を受ける。次に、2つのエンジンは、それらのグローバルな挙動が単一のエンジンに匹敵するように、同時に動作する。2つのエンジンは、それぞれ、モータトルクを提供し、その合計は、作用トルクに等しく、目標トルクに実質的に対応する。
【0011】
一般に、通常運転では、モータトルクは、目標モータトルクに実質的に等しい。しかし、問題のエンジンによって生成されるモータトルクは、要求された目標モータトルクからの偏差を、表すことがある。この偏差は、上記エンジンによって与えられ得る最大利用可能モータトルク、すなわち、目標モータトルクに関連された制限無しにエンジンによって最大に与えられ得る利用可能モータトルクの、制限の原因となり得る。この偏差はまた、自律車両のレベルで要求される軌道追従パフォーマンスを、劣化させ得る。
【0012】
この偏差は、いくつかの原因を有し得る。それは、静的偏差及び/又は動的偏差であり得る。
【0013】
静的偏差は、要求された目標モータトルクと比較して、エンジンのモータトルクの多かれ少なかれ変化につながる偏差である。したがって、考慮されるエンジンは、所望の目標モータトルクよりも高い又は低いモータトルクを、提供するであろう。静的偏差は、温度若しくは電源の故障のようなエンジンの外部の要素から、又はエンジンに固有の要素の外乱若しくは故障のようなエンジンの内部の予測不可能な要素から、起因し得る。
【0014】
動的偏差は、考慮されるエンジンの設計、すなわちエンジンの動的挙動に、固有である。動的偏差は、(2つのエンジンが独立しているか否かにかかわらず)冗長エンジンの技術に関連される。実際、目標モータトルクを送受信して、それを2つのエンジンに物理的に適用することは、瞬時でない。すなわち、2つのエンジンの間には、一定又は可変の伝達遅れが存在する。さらに、2つのエンジンの動的挙動は、電子部品の分散により潜在的に異なる。
【0015】
したがって、偏差によって影響されるエンジンは、機能しているとみなされるがしかし、与えられた時間に期待されるモータトルクを提供しない。そのため、モータトルクは、乱れたり、逸脱したり、目標モータトルクと異なったりする。2つのエンジンのモータトルクの合計、したがって作用トルクは、目標トルクとは異なる。したがって、目標トルクは、正しく又は完全には発揮されない。
【0016】
エンジンに影響する偏差のインパクトを最小化して、したがって作用トルクが所与の瞬間における目標トルクに可能な限り等しいことを保証するように、2つのエンジンの間で補償機能を実施することが、知られている。
【0017】
補償関数は、分布、すなわち2つのエンジンにおける目標トルクの分布に応じて、いくつかのタイプでもよい。これらの補償機能は、主に、2つのエンジンの間における双方向及び単方向補償に、基づいている。
【0018】
例えば、「マスタースレーブ」タイプの補償機能は、通常、マスターエンジンと呼ばれるエンジンの1つからの外乱を補償するためにのみ、使用される。換言すると、マスターエンジンからスレーブエンジンへ、補償フローが決定される。スレーブエンジンの動作不良によって生じる目標トルクと作用トルクとの間における偏差は、この機能又はこの補償戦略によっては、補償されない。したがって、「マスタースレーブ」タイプの補償機能は、完全には満足されない。
【0019】
他の補償戦略は、補償のフローが外乱に応じて変化されることを、可能にする。これらのタイプの戦略は、2つのエンジンの間における補償の方向選択における管理の複雑さに、つながり得る。さらに、それらは、2つのエンジンの間における依存性と、2つのエンジンによって補償されない残留外乱と、を意味する。実際、2つのエンジンの間における方向選択の管理は、この選択を行うために使用される信号及び変数の数によってよりも、補償される外乱の性質によって、全て、より複雑である。さらに、これらの補償を達成するために、2つのエンジンの間に望ましくない依存性を生じさせる2つのエンジンの状態に関連して、選択がなさされるであろう。最後に、2つのエンジンの間における双方向及び単方向の選択は、調停制約につながり、補償される外乱の不完全さをもたらす。
【0020】
本発明の目的は、双方向に与えられる補償機能、すなわち、第1エンジンから第2エンジンに向かうと同時に、その逆に第2エンジンから第1エンジンに向かう、補償機能を提案することによって、これらの全ての上述の欠点を改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
この発明はまた、自律車両の課題に関して、このような双方向補償アーキテクチャの関心を強調することを、可能にする。実際、この双方向補償アーキテクチャは、目標トルクと作用トルクとの間でグローバルに冗長なエンジンのレベルで、安全且つロバストな機能パフォーマンスを、維持することを可能にする。
【0022】
また、本発明は、ドライバーによる通常の運転モードに対して、この双方向補償アーキテクチャによって誘発される過渡的過補償に関連する潜在的なエッジ効果を排除することを、可能にする。
【0023】
さらに、本発明は、目標トルクと作用トルクとの間におけるグローバル冗長エンジンに所望の動的挙動を課すことを可能にし、パワーステアリングシステムの物理現象を調整することを可能にする。
【0024】
最後に、この発明は、分配機能とは独立することを、可能にする。分配機能と補償機能との間における独立というこの特性は、ロバスト性の観点からの外乱除去と、冗長エンジンシステムの故障耐性への寄与の観点からの故障補償との間で、対象を分離することを可能にする。
【0025】
この目的のために、本発明は、並列に配置された第1エンジン及び第2エンジンを備える制御モータを制御するための方法に関する。前記制御方法は、目標トルクから第1分配トルク及び第2分配トルクを決定する分配ステップと、第1目標モータトルクを決定するために、前記第1分配トルクに第1補償要求を加える第1決定ステップと、第2目標モータトルクを決定するために、前記第2分配トルクに第2補償要求を加える第2決定ステップと、前記第1エンジンが前記第1目標モータトルクに応じて第1モータトルクを与える第1生成ステップと、前記第2エンジンが前記第2目標モータトルクに応じて第2モータトルクを与える第2生成ステップと、を実施しており、前記制御方法は、また、第1許可ステップ及び/又は第2許可ステップを含み、前記第1許可ステップは、前記第1エンジンの第1外乱又は第1故障の前記第2補償要求を制限又は認可するように構成されており、前記第2許可ステップは、前記第2エンジンの第2外乱又は第2故障の前記第1補償要求を制限又は認可するように構成されている。
【0026】
一実施形態によれば、本発明は、単独で、又は技術的に許容される組合せで、以下の特徴の1つ又はそれ以上を、含む。
【0027】
一実施形態によれば、前記第2補償要求は、第1計算ステップの間に第1補償偏差の関数として計算され、次に、前記第1許可ステップの間に第1制限閾値の関数として制限されており、前記第1補償偏差は、前記第1モータトルク及び前記第1目標モータトルクの関数であり、前記第1補償要求は、第2計算ステップの間に第2補償偏差の関数として計算され、次に、前記第2許可ステップの間に第2制限閾値の関数として制限されており、前記第2補償偏差は、前記第2モータトルク及び前記第2目標モータトルクの関数である。
【0028】
一実施形態によれば、前記第1制限閾値は、前記第2エンジンの最大モータトルクに依存する。
【0029】
一実施形態によれば、前記第2制限閾値は、前記第1エンジンの最大モータトルクに依存する。
【0030】
一実施形態によれば、前記第1計算ステップは、前記第1エンジンの前記第1目標モータトルクの関数として第1理論モータトルクを決定する静的及び/又は動的理論挙動の推定を、含み、前記第2計算ステップは、前記第2エンジンの前記第2目標モータトルクの関数として第2理論モータトルクを決定する静的及び/又は動的理論挙動の推定を、含む。
【0031】
一実施形態によれば、前記第1計算ステップは、前記第1エンジンの前記第1目標モータトルク及び前記第1モータトルクの関数として、第1補正理論モータトルクを決定する補正された静的及び/又は動的理論挙動の推定を、含み、前記第2計算ステップは、前記第2エンジンの前記第2目標モータトルク及び前記第2モータトルクの関数として、第2補正理論モータトルクを決定する補正された静的及び/又は動的理論挙動の推定を、含む。
【0032】
一実施形態によれば、前記第1計算ステップは、前記第1エンジンにおける前記第1理論モータトルクと前記第1補正理論モータトルクとの間の第1差分の推定を、含み、前記第1補償偏差は、前記第1差分の関数であり、前記第2計算ステップは、前記第2エンジンにおける前記第2理論モータトルクと前記第2補正理論モータトルクとの間の第2差分の推定を、含み、前記第2補償偏差は、前記第2差分の関数である。
【0033】
一実施形態によれば、前記第1理論モータトルクと前記第1補正理論モータトルクとの間の前記第1差分の前記推定は、前記第1エンジンの伝達遅延に従って遅延された、決定された瞬間における前記第1理論モータトルクの値と、前記第1エンジンの前記伝達遅延に従って遅延された、決定された瞬間に補正された前記第1理論モータトルクの値と、に基づいて計算されており、 前記第2理論モータトルクと前記第2補正理論モータトルクとの間の前記第2差分の前記推定は、前記第2エンジンの伝達遅延に従って遅延された、決定された瞬間における前記第2理論モータトルクの値と、前記第2エンジンの前記伝達遅延に従って遅延された、決定された瞬間に補正された前記第2理論モータトルクの値と、に基づいて計算される。
【0034】
一実施形態によれば、前記第1理論モータトルクと前記第1補正理論モータトルクとの間の前記第1差分の前記推定は、決定された瞬間における前記第1理論モータトルクの値と、前記決定された瞬間における前記第1補正理論モータトルクの値と、に基づいて計算されており、前記第2理論モータトルクと前記第2補正理論モータトルクとの間の前記第2差分の前記推定は、決定された瞬間における前記第2理論モータトルクの値と、前記決定された瞬間における前記第2補正理論モータトルクの値と、に基づいて計算される。
【0035】
一実施形態によれば、前記分配ステップ並びに前記第1及び第2計算ステップの内部パラメータは、前記目標トルクと作用トルクとの間で、前記制御モータの伝達関数の所望の動的挙動を課すように決定されており、前記作用トルクは、前記第1モータトルクと前記第2モータトルクとの和に等しい。
【0036】
一実施形態によれば、前記第1エンジンの第1故障の前記第2補償要求は、前記第1エンジンの前記第1目標モータトルクと前記第1モータトルクとの間の前記偏差が、前記第1故障の第1確認期間中における第1安全閾値よりも大きい場合にのみ認可され、次に、前記第1故障の前記第2補償要求は、前記制御モータの安全状態に戻るように第1反応期間で起動されており、前記第2エンジンの第2故障の前記第1補償要求は、前記第2エンジンの前記第2目標モータトルクと前記第2モータトルクとの間の前記偏差が、前記第2故障の第2確認期間中における第2安全閾値よりも大きい場合にのみ認可され、次に、前記第2故障の前記第1補償要求は、前記制御モータの安全状態に戻るように第2反応期間で起動される。
【0037】
一実施形態によれば、前記第1反応期間の終わりに、前記制御モータの安全状態に戻ることを可能にし、新たな分配のための第2要求は、前記第2分配トルクにのみ前記目標トルクの前記分配を認可する前記第1許可ステップによって、起動され、前記第2補償要求は、停止され、前記第1エンジンは、スイッチオフされており、前記第2反応期間の終わりに、前記制御モータの安全状態に戻ることを可能にし、新たな分配のための第1要求は、前記第1分配トルクにのみ前記目標トルクの前記分配を認可する前記第2許可ステップによって、起動され、前記第1補償要求は、停止され、前記第2エンジンは、スイッチオフされる。
【0038】
一態様によれば、本発明はまた、並列に配置された第1エンジン及び第2エンジンを備える制御モータを含むパワーステアリングシステムに、関する。前記パワーステアリングシステムは、前記請求項のいずれか1つに係る制御モータの制御方法を実施するように構成されている。
【0039】
本発明は、非限定的な例によって与えられ、添付の概略図を参照して説明される、本発明に係る1つ又はそれ以上の実施形態に関する、以下の詳細な説明のおかげで、より良く理解されるのであろう。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】
図1は、本発明に係る制御方法を実施するように構成された制御モータの機能アーキテクチャの一実施形態の概略図である。
【
図2】
図2は、本発明に係る一実施形態による制御モータを制御するための方法の機能ステップのシーケンス図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
もちろん、本発明は、添付の図面に記載されて表された実施形態に、限定されない。本発明の保護範囲から逸脱することなく、特に様々な要素の構成の観点から、又は技術的均等物の置換によって、変更は、依然として可能である。
【0042】
本発明に係る本方法の実施形態は、パワーステアリングシステムへの本方法の適用に関連して、以下に記載される。しかしながら、当業者は、これが限定ではなく、本発明に係る方法が、任意の冗長メカトロニクスシステム、すなわち少なくとも2つの別個のエンジンを備えるシステムにも、適用され得ることを、理解するであろう。
【0043】
したがって、
図1を参照して以下に説明されるように、本発明に係る方法100の実施形態によれば、上記方法100の目的は、図示されないパワーステアリングシステムの制御モータMCの制御であり、上記制御モータMCは、並列に配置された第1エンジンM1及び第2エンジンM2を備え、上記制御方法100は、目標トルクEから第1分配トルクE’1及び第2分配トルクE’2を決定する分配ステップを実施し、方法100は、各エンジンM1,M2について、目標トルクEを印加するための直接チェーンと、2つのエンジンM1,M2間の補償チェーンと、を含む。
【0044】
制御モータは、入力として目標トルクEを受け、例えばラックであり得るパワーステアリングシステムの要素に、作用トルクFを印加し、トルクFは、第1エンジンM1及び第2エンジンM2によってそれぞれ与えられるモータトルクの和に等しく、制御モータは、第1エンジンM1及び/又は第2エンジンM2にそれぞれ影響する外乱又は故障によって、影響され得る。慣例により、外乱は、上記外乱が、関係するエンジンの動作安全性に影響する場合には、故障であると考えられる。故障は、部分的又は全体的でよい。全体的な故障によって影響されたエンジンは、スイッチオフされる。後者の場合には、制御モータMCは、単一のエンジンM1,M2でのみ、ワークする。
【0045】
第1エンジンM1の直接チェーンは、以下を含む。第1分配トルクE’1から第1目標モータトルクE1と、第2エンジンM2から来る補償要求C1と、を決定するステップ101。第1エンジンM1が第1目標モータトルクE1に応じて第1モータトルクF1を与える生成ステップ103。第2エンジンM2の直接チェーンは、以下を含む。第2分配トルクE’2から第2目標モータトルクE2と、第1エンジンM1から来る補償要求C2と、を決定するステップ102。第2エンジンM2が第2目標モータトルクE2に応じて第2モータトルクF2を与える生成ステップ104。
【0046】
一実施形態によれば、第1エンジンM1から来る第2補償要求C2を決定する補償チェーンは、以下を含む。第1目標モータトルクE1から第1エンジンM1の第1理論モータトルクを決定する、静的及び/又は動的理論挙動を、推定するステップ。第1目標モータトルクE1及び第1モータトルクF1から第1エンジンM1の第1補正理論モータトルクを決定する、補正された静的及び/又は動的理論挙動を、推定するステップ。第1モータトルクF1及び第1目標モータトルクE1の関数として第1補償偏差Δ1のG1を計算するステップから計算される、第1エンジンM1の外乱を、推定するステップであって、例えば、上記第1補償偏差Δ1は、第1エンジンM1の第1理論モータトルクと第1補正理論モータトルクとの間における第1差分に等しくてもよく、第2補償要求C2は、第1補償偏差Δ1に基づいて決定される。
【0047】
第1エンジンM1から来る第2補償要求の第1許可ステップP1が実施され、上記許可ステップP1は、第1エンジンM1の外乱D1を補償するのか、又は第1エンジンM1の故障D1を補償するのかに応じて、第2補償要求C2の制限又は第2補償要求C2の認可を、含む。
【0048】
上述したように、故障は、システムの挙動によって故障が予期できないという点で、外乱とは区別される。したがって、外乱(電気電圧の低下、温度の上昇など)は、故障とは異なり、特定の分布ロジックで予期できる。双方向アーキテクチャは、故障に対する補償からの特定の分布によって外乱の予測を区別することを、可能にする。外乱とは異なり、故障は、特に、安全閾値及び上記安全閾値の超過時間の関数として定義される基準の使用に、基づく。したがって、例えば、第1エンジンM1の第1目標モータトルクE1と第1モータトルクF1との間における偏差が、第1確認期間における第1安全閾値よりも大きい場合、次に、第1エンジンM1の外乱D1は、第1エンジンM1の故障D1として、認定される。
【0049】
上記基準が満たされる場合、したがって、故障D1に対する第2補償要求C2は、認可される、すなわち、第2補償要求C2は、第1エンジンM1の安全状態に戻るように、第1反応期間で起動される。
【0050】
デフォルトでは、外乱D1は、第2エンジンM2の最大利用可能容量に基づいて制限され得る第2補償要求C2によって、処理される、すなわち、第2補償要求C2は、第2エンジンM2のこの最大利用可能容量未満に留まるように、決定される。
【0051】
第2エンジンM2から来る第1補償要求C1を決定する補償チェーンは、以下を含む。第2目標モータトルクE2から第2エンジンM2の第2理論モータトルクを推定するステップ。第2目標モータトルクE2及び第2モータトルクF2から第2エンジンM2の第2補正理論モータトルクを推定するステップ。第2モータトルクF2及び第2目標モータトルクE2の関数として第2補償偏差Δ2のG2を計算するステップから計算される、第2エンジンM2の外乱を、推定するステップであって、例えば、上記第2補償偏差Δ2は、第2エンジンM2の第2理論モータトルクと第2補正理論モータトルクとの間における第2差分に等しくてもよく、第1補償要求C1は、第2補償偏差Δ2に基づいて決定される。
【0052】
第1エンジンM1について説明されたように、第2エンジンM2の第2目標モータトルクE2と第2モータトルクF2との間における偏差が、第2超過確認期間における第2安全閾値よりも大きい場合、次に、第2エンジンM2の外乱D2は、第2エンジンM2の故障D2として、認定される。
【0053】
上記基準が満たされる場合、次に、故障D2に対する第1補償要求C1は、認可される、すなわち、第1補償要求C1は、第2エンジンM2の安全状態に戻るように、第2反応期間で起動される。
【0054】
デフォルトでは、外乱D2は、第1エンジンM1の最大利用可能容量に基づいて制限され得る第1補償要求C1によって、処理される、すなわち、第1補償要求C1は、第1エンジンM1のこの最大利用可能容量未満に留まるように、決定される。
【0055】
より正確には、理論モータトルクを推定するステップは、目標モータトルクの関数として、理論モータトルクを決定する。
【0056】
したがって、理論モータトルクは、目標モータトルクの関数として考慮されるエンジンを表す、理想的なエンジンによって生成されるべき、モータトルクを、表す。理論モータトルクは、エンジン技術及びその内部パラメータに、依存する。換言すると、理論モータトルクは、理想的なエンジンのグローバルなパフォーマンスに、依存する。理論モータトルクは、数学エンジンモデルの式を用いて、計算され得る。
【0057】
本発明の1つの特徴によれば、少なくとも1つのエンジンM1,M2の理論モータトルクは、エンジンの周波数応答を記述することを可能にする、エンジンの数学モデルによって、表され得る。
【0058】
この数学モデルは、理論モータトルクと、現実に近い外乱の推定に対して補正された理論モータトルクと、の間における周波数スペクトルを調和させるために、目標モータトルクのフィルタリングを、可能にする。
【0059】
補正理論モータトルク推定ステップは、目標モータトルク及びモータトルクに基づいて、補正理論モータトルクを決定する。
【0060】
したがって、補正理論モータトルクは、エンジンによって実際に与えられるモータトルクによって補正される、目標モータトルクの関数として、エンジンによって生成されるべき、モータトルクを、表す。補正理論モータトルクは、エンジン技術及びその内部パラメータに、依存する。換言すると、補正理論モータトルクは、エンジンの動的パフォーマンス及び実際に達成されるモータトルクに、依存する。
【0061】
補正理論モータトルクは、エンジンコンディションオブザーバを用いて、計算され得る。この補正理論モータトルクは、制御方法をロバストにして、測定情報のノイズインパクトを低減することを、可能にする。
【0062】
第1エンジンにおける外乱D1は、第1目標モータトルクE1と第1モータトルクF1との間における静的及び/又は動的挙動の偏差を、含むだろう。第2エンジンにおける別の外乱D2は、第2目標モータトルクE2と第2モータトルクF2との間における静的及び/又は動的挙動の偏差を、表すだろう。
【0063】
数学的には、それは、以下の式が制御モータに書き込まれる。
【0064】
【0065】
Eは、制御モータMによって受けられる目標トルクであり、D1,D2は、第1エンジンM1及び第2エンジンM2にそれぞれ影響する外乱であり、Fは、制御モータMCによって与えられるトルクである。
【0066】
本発明に係る制御モータMCは、2つの別個の、すなわち互いに独立した、エンジンチャンネルを、含む。
【0067】
第1エンジンチャンネルは、決定ステップ101、実施ステップ103、第1エンジンM1、及び計算ステップG1、第1エンジンM1から来て第2エンジンM2を対象とする第2補償要求C2を制限又は認可する許可ステップP1である、機能ブロックを、含む。
【0068】
また、第2エンジンチャンネルは、第2エンジンM2に適合された同じ機能ブロック:決定ステップ102、生成ステップ104、第2エンジンM2、及び計算ステップG2、第2エンジンM2から来て第1エンジンM1を対象とする第1補償要求C1を制限又は認可する許可ステップP2を、含む。
【0069】
したがって、各チャンネルは、それ自体の機能ブロックを有し、すなわち、第1チャンネルの要素は、第2チャンネルと共通でない。換言すると、方法アーキテクチャの観点から、2つのエンジンの間には、共通の故障原因はない。
【0070】
分配ステップDは、エンジンチャンネルの一部でない制御モータを制御するための、方法のステップである。好ましくは、分配ステップは、目標トルクEで開ループにおいて実行され得て、このことは、目標トルクEを各エンジンチャンネルにシェアすることを、可能にする。分配ステップDの間、第1分配トルクE’1に対応する目標トルクEの第1割合と、第2分配トルクE’2に対応する目標トルクEの第2割合とは、各エンジンM1,M2に割り当てられる。通常、第1割合E’1と第2割合E’2との和は、目標トルクEに等しい。
【0071】
本発明に係る制御方法では、第2エンジンM2から来る第1補償要求C1を決定する補償チェーンと、第1エンジンM1から来る第2補償要求C2を決定する補償チェーンとは、補償偏差Δ1,Δ2に応じて、各エンジンM1,M2について、補償要求C2,C1を計算する。特に、第1補償偏差Δ1は、第1モータトルクF1及び第1目標モータトルクE1の関数であり、及び/又は、第2補償偏差Δ2は、第2モータトルクF2及び第2目標モータトルクE2の関数である。より詳細には、第1補償偏差Δ1は、第1エンジンM1における理論モータトルクの推定と補正理論モータトルクの推定との間の、静的及び/又は動的挙動偏差の関数である。同様に、第2補償偏差Δ2は、第2エンジンM2における理論モータトルクの推定と補正理論モータトルクの推定との間の、静的及び/又は動的挙動偏差の関数である。
【0072】
このようにして、第2エンジンから来る補償要求を決定する補償チェーンは、第1エンジンから来る補償要求を決定する補償チェーンとは独立しており、逆もまた同様である。
【0073】
第2エンジンM2のために第1エンジンM1から来る第2補償要求C2と、第1エンジンM1のために第2エンジンM2から来る第1補償要求C1とは、同時に非ゼロ値を有し得る。
【0074】
したがって、本発明に係る制御方法100は、2つのエンジンM1,M2の同時又は双方向の補償を、行う。制御方法100は、決して、補償方向を決定しない。各エンジンは、他方のエンジンに加えられる補償要求C2,C1とは独立して、補償要求C1,C2を受信する。
【0075】
換言すると、本方法は、2つのエンジンM1,M2の間に双方向の補償を加えることによって、目標トルクEと作用トルクFとの間における偏差を、最小化しようとする。以下の式の解が求められる。
【0076】
【0077】
C1は、第1エンジンのために第2エンジンM2から来る補償要求である。C2は、第2エンジンのために第1エンジンM1から来る補償要求である。D1,D2は、第1エンジンM1及び第2エンジンM2にそれぞれ影響する外乱である。数学的には、前式に対する最適解は、次式である。
【0078】
【0079】
換言すると、最適な技術的ソリューションは、以下の双方向補償である。
【0080】
【0081】
したがって、本発明に係る制御方法100は、各エンジンM1,M2の補償チェーンのかげで、以下の点で、制御モータMCの最適な動作を達成することを、可能にする。目標トルクEが、各エンジンM1,M2のために利用可能な最大モータトルクの和に対応する、最大利用可能トルクよりも低い場合、作用トルクFは、目標トルクEに等しいであろう。目標トルクE が最大利用可能トルクよりも大きい場合、作用トルクFは、最大利用可能トルクに等しいであろう。
【0082】
換言すると、双方向補償機能又はストラテジは、技術水準のような、ストラテジ又は単方向補償機能を含む方法をはるかに超えて、2つのエンジンでの最大利用可能容量又は換言すると最大利用可能電力に達することを、可能にする。
【0083】
実際、単方向補償ストラテジは、式[数3]の形式解に応答できない限り、2つのエンジンM1,M2に対して部分補償解を導くことのみができる。さらに、これらのタイプの単方向ストラテジは、構造がどのようなものであっても、2つのエンジンの間における補償の単一の選択に関する仲裁の論理を、必要とする。換言すると、単方向補償ストラテジは、モータトルク又は他の利用可能なデータによって観察可能な、全ての外乱及び故障に対する網羅的な補償を、達成できない。
【0084】
結果として、この双方向補償ストラテジは、自律車両にとって主要な問題となる。2つのエンジンシステムにおける双方向補償ストラテジは、エンジンの内部及び/又は外部における外乱に対してロバストであることと、自律車両によって要求される軌道追従の適合性、換言すると機能的な軌道追従パフォーマンスに寄与することとの、両方を可能にする。
【0085】
実際、自律車両によって要求される機能的な軌道追従パフォーマンスは、機能障害的な安全パフォーマンスに直接的に関連している。したがって、機能的及び機能障害的なパフォーマンスの間には、区別がない。換言すると、エンジンチェーンの1つで、検出可能であるか否かにかかわらず、外乱又は故障は、自律車両によって要求される軌道からの逸脱を、引き起こし得る。
【0086】
結果として、標準的な冗長性は、一定期間のみ、エンジンの利用可能性を保証する。
【0087】
本発明に係る双方向補償ストラテジを含む標準的な冗長性は、自律車両によって要求される軌道追従の機能的及び機能障害的なパフォーマンスのコンプライアンスを、保証し得る。単方向ストラテジとは異なり、式[数3]の最適解を導く双方向補償ストラテジは、したがって、自律車両によって要求される機能的及び機能障害的な軌道追従パフォーマンスを維持するために、冗長システムにグローバルに作用することを、可能にする。
【0088】
2つのエンジンの間におけるこの双方向ストラテジは、2つのエンジンで観察可能な外乱及び故障の網羅的なカバレッジを、認可する。換言すると、2つのエンジンM1,M2で利用可能な最大容量に達することを可能にする双方向補償は、各エンジンM1,M2における目標モータトルクE1,E2とモータトルクF1,F2との間の偏差を、それらが観察可能なデータに現れると直ぐに、低減する又はキャンセルさえすることを、可能にする。
【0089】
したがって、「故障ツリー」と呼ばれる方法論だけでなく、「故障モードの分析、それらの効果、及びそれらの診断」と呼ばれる方法論に基づくディペンダビリティ分析は、冗長システムの信頼性に関する故障率計算に対する双方向補償の寄与及び/又は利益を示し得、故障後に動作を継続して、エンジンの動作限界内で目標トルクの監視を保証することを可能にする。
【0090】
したがって、自律車両によって要求される目標トルクに追従する任意の軌道は、故障にかかわらず、制御モータによって追従されるであろう。
【0091】
双方向補償ストラテジと組み合わされたデュアルエンジン設計は、自律車両のレベルで追従する軌道の機能的及び機能障害的なパフォーマンスを保証するために、分離不可能な要素である。
【0092】
さらに、双方向補償の副作用は、補償に対するリバウンド又はインフレーション現象とも呼ばれる過剰補償である。この現象は、2つのエンジンが物理的及び/又は機能的に制限されている場合に発生し得て、目標モータトルクが、常に最大利用可能モータトルクよりも大きくなる。過剰補償に関連する偏差は、エンジンの間で独立して計算され且つ一方のエンジンから他方のエンジンに戻される補償要求が、各エンジンM1,M2が実際に達成できるものによって制限されないので、増大するであろう。実際、補償要求を受けるエンジンがそれを適用することができない場合、エンジンは、元のエンジンに戻されるであろうし、逆もまた同様である。したがって、2つのエンジンの間におけるリバウンド及び補償インフレーションのこの現象は、2つのエンジンのうちの1つの物理的及び/又は機能的な制限の終わりまで、続くことができる。このリバウンド及びインフレーション現象は、望ましくない過剰補償である。
【0093】
実際、各エンジンM1,M2の目標モータトルクE1,E2とモータトルクF1,F2との間の偏差は、2つのエンジンM1,M2に対する望ましくない過剰補償要求のため、増加するであろう。外乱によってモータトルクがもはや減少されなくなると、これらの望ましくない過剰補償要求は、擬似周期的又は非周期的なレジームの形態で、制御モータに過渡的に適用される。この過渡的現象は、冗長パワーステアリングシステムに対して、不安定性又は安全性の効果をもたらさない。しかしながら、過剰補償の現象は、ドライバーによる通常運転の場合に、ステアリングホイールトルクの過渡的振動フィーリングを、引き起こし得る。
【0094】
2つの最大利用可能モータトルクが減少した場合に、このリバウンド又はインフレーション現象を克服するために、各補償チェーンには、物理的及び機能的制限が必要である。実際、補償要求は、エンジンが実際に達成し得るものによって、制限されたままである。
【0095】
いくつかの制限ストラテジは、補償要求で達成されるべき目的に応じて、実現可能である。それらの1つは、考慮されるエンジンM1,M2によって、最大利用可能モータトルクと分配トルクE’1,E’2との間における差分を各エンジンM1,M2について計算することによって、エンジンの利用可能容量バジェットとも呼ばれる各エンジンM1,M2の利用可能容量を、計算することである。
【0096】
この利用可能容量バジェットは、モータの速度、モータターミナルにおける供給電圧、モータの温度、又は制御モータによって誘発される機能的制限、及び任意の他の利用可能な情報に従って、定式化され得る。エンジンM1,M2に対する各利用可能容量バジェットは、他のエンジンに対する補償要求C1,C2の計算に、適用されるであろう。したがって、インフレーション現象は、制限されて、ドライバーによる通常運転中における振動を介して、悪いトルク品質を発生させられない。
【0097】
補償要求の制限は、また、車両、ステアリングシステム及び制御モータの、状態及び変数に依存する制限及び/又は機能的重み付けによって、達成され得る。
【0098】
本発明に係る方法では、制限ステップは、第1エンジンM1及び/又は第2エンジンM2に影響する外乱D1,D2の推定のそれぞれの値を、利用可能容量の値にクリップして、第2エンジン及び第1エンジンから来る補償要求C1,C2を、それぞれ決定する。したがって、第1エンジンM1から来る補償要求C2は、第2エンジンM2の利用可能容量に最大で等しくなるであろうし、第2エンジンM2から来る補償要求C1は、第1エンジンM1の利用可能容量に最大で等しくなるであろう。
【0099】
本発明に係る方法は、各補償要求C1,C2を、上記補償要求C1,C2が意図されるエンジンM2,M1の利用可能容量に最大で等しい値に、制限する。したがって、いずれの場合でも、補償要求C1,C2は、上記利用可能容量を超えて増大されることはできない。このようにして、過剰補償の現象は、回避される。
【0100】
本発明に係る方法は、シンプルなアーキテクチャを提供し、信頼性を保証し、同時に、制御モータの最適動作及びドライバーとって心地よいフィーリングを達成することを、可能にする。
【0101】
本発明の1つの特性によれば、第1エンジンM1又は第2エンジンM2の利用可能容量は、固定値である。
【0102】
そして、利用可能容量は、例えばエンジン技術の関数として、予め規定される。この場合、第1エンジン及び/又は第2エンジンの利用可能容量は、第1及び/又は第2エンジンM1,M2から来る外乱D1,D2の推定を、考慮しない。したがって、本方法のアーキテクチャは、特にシンプル且つロバストである。
【0103】
本発明の1つの特性によれば、第2エンジンの利用可能容量は、第2エンジンの利用可能容量バジェットに、依存する。
【0104】
第2エンジンの利用可能容量バジェットは、その最大モータトルク及びその分配トルクの関数として、決定される。最大モータトルクは、第2エンジンの技術に、依存する。例えば第2モータトルクを測定することによって、第2エンジンの最大モータトルクを決定するいくつかの方法がある。
【0105】
本発明の1つの特性によれば、第2制限閾値は、第1エンジンの利用可能容量バジェットに、依存する。
【0106】
第1エンジンの利用可能容量バジェットは、その最大モータトルク及びその分配トルクの関数として、決定される。最大モータトルクは、第1エンジンの技術に、依存する。例えば第1モータトルクを測定することによって、第1エンジンの最大モータトルクを決定するいくつかの方法がある。
【0107】
したがって、本発明に係る方法は、補償要求C1,C2を、補償要求が加えられるエンジンによって提供され得る、最大許容補償トルクに最も近い値に、制限する。実際にはいずれにせよ、補償要求は、上記閾値を超えて増大されることができない。このようにして、望ましくない過剰補償の現象は、回避される。
【0108】
本発明の1つの特性によれば、補正理論モータトルクは、理論モータトルクと同じ時間的基準システムで、決定される。
【0109】
実際、補正理論モータトルクは、目標モータトルクE1,E2及び作用モータトルクF1,F2の関数として、決定される。この作用モータトルクF1,F2は、エンジンM1,M2を生成するステップ103,104で、利用可能であり、補償要求C1,C2の推定のレベルで、伝達遅延を引き起こす。
【0110】
補正理論モータトルクと理論モータトルクとを時間的に同期させるために、これらの2つのモータトルクを「時間的にリセット」することを可能にする係数が、適用され得る。この調整は、補正理論モータトルクに関して理論モータトルクを遅延させることによる伝達遅延に、又はこの非同期化を反映する任意の他の情報に、基づかれ得る。
【0111】
したがって、例えば、第1理論モータトルクと第1補正理論モータトルクとの間の第1差分の推定は、第1エンジンの伝達遅延に従って遅延された、決定された瞬間における第1理論モータトルクの値と、第1エンジンの伝達遅延に従って遅延された、決定された瞬間に補正された第1理論モータトルクの値と、に基づいて計算されており、第2理論モータトルクと第2補正理論モータトルクとの間の第2差分の推定は、第2エンジンの伝達遅延に従って遅延された、決定された瞬間における第2理論モータトルクの値と、第2エンジンの伝達遅延に従って遅延された、決定された瞬間に補正された第2理論モータトルクの値と、に基づいて計算される。換言すると、決定された瞬間がtであり、伝達遅延がrである場合、したがって、伝達遅延に従って遅延された、決定された時間は、(t-r)となるであろう。
【0112】
実際に与えられるモータトルクを「予測」すること、すなわち考慮された時間に与えられるであろうモータトルクを推定することも、可能である。したがって、例えば、第1理論モータトルクと第1補正理論モータトルクとの間の第1差分の推定は、決定された瞬間における第1理論モータトルクの値と、決定された瞬間における第1補正理論モータトルクの値と、に基づいて計算されており、第2理論モータトルクと第2補正理論モータトルクとの間の第2差分の推定は、決定された瞬間における第2理論モータトルクの値と、決定された瞬間における第2補正理論モータトルクの値と、に基づいて計算される。
【0113】
実際に与えられるトルクのこの予想は、補正理論動的挙動の再位相化を達成することを、可能にし、並びに、2つのエンジンの間における非同期及び一定又は可変伝達遅延に対するロバスト性を得ることを、可能にする。実際に与えられるトルクのこの予測は、各エンジンに対する予測器状態オブザーバを用いて、計算され得る。
【0114】
本発明に係る制御方法において補正された理論モータトルクを推定するステップに関連する、理論モータトルクを推定するステップは、目標トルクE1,E2と作用トルクF1,F2との間における制御モータの安定性のより良いマージンを、双方向補償の範囲内で保証することを、可能にする。換言すると、本発明に係る方法は、双方向補償アーキテクチャにおいて冗長制御モータのグローバルロバスト性を課して改善することを、可能にする。
【0115】
本発明の1つの特性によれば、本発明に係る方法は、各補償チェーンに、連続的な動的パラメータを、含む。実際、直接チェーン及び補償チェーンを含む各エンジンチャンネルは、組合せ論理、非線形又は不連続要素の任意の存在を、意味しない。
【0116】
これらの連続的な動的パラメータは、目標トルクEと作用トルクFとの間における冗長制御モータMCに所望の挙動を課すことを、可能にする。したがって、本発明に係る方法は、上述のように、分配ステップD、理論モータトルクを推定するステップ及び関連する補正理論モータトルクを推定するステップを、各エンジンM1,M2について補償偏差Δ1,Δ2をそれぞれ計算するステップG1,G2と関連付けることによって、制御モータのグローバルなパフォーマンスを課すことを可能にする、内部パラメータを含む。目標トルクEと作用トルクFとの間に所望の動的挙動を課すために、双方向補償のパラメータの設定の最適化は、目標トルクE1,E2の作用トルクF1,F2の関数として制御モータの安定性を保証するために、制約下での最適化の形態で実行され得て、補償C1,C2の適用及び各エンジンでの外乱を遅らせる。したがって、このアーキテクチャは、冗長制御モータの様々な入出力に基づいて従来のサーボ解析に戻ることを、可能にする。
【0117】
古典的なサーボ解析に戻ってくる利点は、2つの既知の冗長エンジンM1,M2に基づいてロバストな所望の挙動を制御できることである。この二方向補償ストラテジの直接的な適用は、パワーステアリングシステムでの摩擦を解放するために、目標トルクEと作用トルクFとの間における高周波ゲインを増幅することである。したがって、「ディザー」法と同様に、パワーステアリングシステム内での摩擦現象は、減少される。
【0118】
本発明に係る方法は、パワーステアリングシステムの摩擦に関連するステアリングホイールフィールに対するネガティブな効果を減少し、また、パワーステアリングシステムのサイジングに関する効率を改善する。
【0119】
第1又は第2エンジンM1,M2の故障に対処するために、第1エンジンM1の第1故障の第2補償要求C2は、第1エンジンM1の第1目標モータトルクE1と第1モータトルクF1との間の偏差が、第1故障の第1確認期間での第1安全閾値よりも大きい場合にのみ認可され、次に、第1故障の第2補償要求C2は、制御モータMCの安全状態に戻るように第1反応期間で起動されており、第2エンジンM2の第2故障の第1補償要求C1は、第2エンジンM2の第2目標モータトルクE2と第2モータトルクF2との間の偏差が、第2故障の第2確認期間での第2安全閾値よりも大きい場合にのみ認可され、次に、第2故障の第1補償要求C1は、制御モータMCの安全状態に戻るように第2反応期間で起動される。
【0120】
したがって、本発明に係る方法の実施モードによれば、次のようになる。上記第1反応期間の終わりに、制御モータMCの安全状態に戻ることを可能にし、新たな分配ND2のための第2要求は、第2分配トルクE’2にのみ目標トルクEの分配を認可する第1許可ステップP1によって、起動され、第2補償要求C2は、停止され、第1エンジンM1は、スイッチオフされており、上記第2反応期間の終わりに、制御モータMCの安全状態に戻ることを可能にし、新たな分配ND1のための第1要求は、第1分配トルクE’1にのみ目標トルクEの分配を認可する第2許可ステップP2によって、起動され、第1補償要求C1は、停止され、第2エンジンM2は、スイッチオフされる。
【0121】
一態様によれば、本発明はまた、並列に配置された第1エンジン及び第2エンジンを備える制御モータを含むパワーステアリングシステムに、関する。パワーステアリングシステムは、上述の請求項のいずれか1つに係る制御モータMCの制御方法100を実施するように構成されている。
【外国語明細書】