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特開2022-100285プロジェクトとストリーミングとのハイブリッドパルス溶接
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022100285
(43)【公開日】2022-07-05
(54)【発明の名称】プロジェクトとストリーミングとのハイブリッドパルス溶接
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/04 20060101AFI20220628BHJP
   B23K 9/173 20060101ALI20220628BHJP
   B23K 9/032 20060101ALI20220628BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20220628BHJP
   B23K 9/073 20060101ALN20220628BHJP
【FI】
B23K9/04 G
B23K9/173 C
B23K9/04 Z
B23K9/032 Z
B33Y10/00
B23K9/073 525
B23K9/073 560
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021207950
(22)【出願日】2021-12-22
(31)【優先権主張番号】63/129,810
(32)【優先日】2020-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】17/503,447
(32)【優先日】2021-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】510202156
【氏名又は名称】リンカーン グローバル,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】マシュー エー.オルブライト
(72)【発明者】
【氏名】スティーヴン アール.ピーターズ
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ラスタッター
【テーマコード(参考)】
4E001
4E081
4E082
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001AA05
4E001BB08
4E001DE04
4E081BB04
4E081CA08
4E081CA09
4E081EA02
4E081EA04
4E081EA06
4E081EA09
4E081EA10
4E082AB01
4E082AB03
4E082BA04
4E082CA01
4E082CA02
4E082DA01
4E082EF21
(57)【要約】
【課題】 プロジェクトスプレー移行とストリーミングスプレー移行とのハイブリッドパルス溶接を提供する。
【解決手段】 アーク溶接又は積層造形システムが、ワイヤ送給装置と、トーチと、ワイヤ送給装置によってトーチを通して駆動されるワイヤ電極と、トーチに動作可能に接続されて、溶着作業の間に、パルス波形をワイヤ電極に送達するアーク発生電源と、を含む。パルス波形は、各電流パルスが、先行するバックグラウンド電流部分によって先行する電流パルスから分離され、後続するバックグラウンド電流部分によって後続する電流パルスから分離されるように、一連の電流パルス及びインターリーブされたバックグラウンド電流部分を含む。各電流パルスの間に、ワイヤ電極のチップから溶融液滴が発射され、その後、後続するバックグラウンド電流部分が発生する前に、ワイヤ電極のチップから離隔して溶融金属の軸方向スプレーが続く。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アーク溶接又は積層造形システムであって、
ワイヤ送給装置と、
トーチと、
前記ワイヤ送給装置によって前記トーチを通して駆動されるワイヤ電極と、
前記トーチに動作可能に接続されて、溶着作業の間に、パルス波形を前記ワイヤ電極に送達するアーク発生電源と、
を含み、
前記パルス波形は、各電流パルスが、先行するバックグラウンド電流部分によって先行する電流パルスから分離され、後続するバックグラウンド電流部分によって後続する電流パルスから分離されるように、一連の電流パルス及びインターリーブされたバックグラウンド電流部分を含み、各電流パルスの間に、前記ワイヤ電極のチップから溶融液滴が発射され、前記後続するバックグラウンド電流部分が発生する前に、前記ワイヤ電極の前記チップから離隔して溶融金属の軸方向スプレーが続く、アーク溶接又は積層造形システム。
【請求項2】
前記後続するバックグラウンド電流部分が、溶融金属の前記軸方向スプレーを停止させる、請求項1に記載のアーク溶接又は積層造形システム。
【請求項3】
各電流パルスが、前記ワイヤ電極の前記チップから前記溶融液滴を発射させるピーク電流レベルと、溶融金属の前記軸方向スプレーがその間に行われるスプレー電流レベルと、を含み、前記スプレー電流レベルが前記ピーク電流レベル未満である、請求項2に記載のアーク溶接又は積層造形システム。
【請求項4】
溶融金属の前記軸方向スプレーの後に、前記後続するバックグラウンド電流部分が発生する前に、溶融金属のローテーティングスプレー移行が続く、請求項1に記載のアーク溶接又は積層造形システム。
【請求項5】
前記後続するバックグラウンド電流部分が、溶融金属の前記ローテーティングスプレー移行を停止させる、請求項4に記載のアーク溶接又は積層造形システム。
【請求項6】
前記パルス波形の周波数が、120Hz~150Hzの範囲にあり、前記溶着作業の溶着速度が、毎時16ポンドよりも大きい、請求項1に記載のアーク溶接又は積層造形システム。
【請求項7】
前記ワイヤ電極からの電気アークが、前記溶着作業の間に、溶融溶接プールの表面積の少なくとも80%をカバーする、請求項6に記載のアーク溶接又は積層造形システム。
【請求項8】
アーク溶接又は積層造形システムであって、
ワイヤ送給装置と、
トーチと、
前記ワイヤ送給装置によって前記トーチを通して駆動されるワイヤ電極と、
前記トーチに動作可能に接続されて、溶着作業の間に、パルス波形を前記ワイヤ電極に送達するアーク発生電源と、
を含み、
前記パルス波形は、各電流パルスが、先行するバックグラウンド電流部分によって先行する電流パルスから分離され、後続するバックグラウンド電流部分によって後続する電流パルスから分離されているように、一連の電流パルス及びインターリーブされたバックグラウンド電流部分を含み、各電流パルスの間に、前記ワイヤ電極のチップから溶融液滴が発射され、その後、前記後続するバックグラウンド電流部分が発生する前に、前記ワイヤ電極の前記チップから離隔して、溶融金属のストリーミングスプレー及びローテーティングスプレーの一方、又は両方が続く、アーク溶接又は積層造形システム。
【請求項9】
前記後続するバックグラウンド電流部分が、溶融金属の前記ストリーミングスプレー及び前記ローテーティングスプレーのうちの1つを停止させる、請求項8に記載のアーク溶接又は積層造形システム。
【請求項10】
各電流パルスが、前記ワイヤ電極の前記チップから前記溶融液滴を発射させるピーク電流レベルと、溶融金属の前記ストリーミングスプレー及び前記ローテーティングスプレーの前記一方、又は両方がその間に行われるスプレー電流レベルと、を含み、前記スプレー電流レベルが前記ピーク電流レベル未満である、請求項9に記載のアーク溶接又は積層造形システム。
【請求項11】
前記後続するバックグラウンド電流部分が発生する前に、溶融金属の前記ストリーミングスプレーの後に、前記ローテーティングスプレーが続く、請求項8に記載のアーク溶接又は積層造形システム。
【請求項12】
前記後続するバックグラウンド電流部分が、溶融金属の前記ローテーティングスプレーを停止させる、請求項11に記載のアーク溶接又は積層造形システム。
【請求項13】
前記パルス波形の周波数が、120Hz~150Hzの範囲にあり、前記溶着作業の溶着速度が毎時16ポンドよりも大きい、請求項8に記載のアーク溶接又は積層造形システム。
【請求項14】
前記ワイヤ電極からの電気アークが、前記溶着作業の間に、溶融溶接プールの表面積の少なくとも80%をカバーする、請求項13に記載のアーク溶接又は積層造形システム。
【請求項15】
アーク溶接又は積層造形システムであって、
ワイヤ送給装置と、
トーチと、
前記ワイヤ送給装置によって前記トーチを通して駆動されるワイヤ電極と、
前記トーチに動作可能に接続されて、溶着作業の間に、パルス波形を前記ワイヤ電極に送達するアーク発生電源と、
を含み、
前記パルス波形が、それぞれのバックグラウンド電流部分によって分離された一連の電流パルスを含み、及び、前記一連の電流パルスの各電流パルスの間に、溶融金属が、プロジェクトスプレー移行モードと、前記プロジェクトスプレー移行モードとは異なる後続する第2のスプレー移行モードと、によって前記ワイヤ電極からワークピースに移行され、前記プロジェクトスプレー移行モードの間に、前記ワイヤ電極のチップから前記ワークピースに向けて溶融液滴が発射され、前記後続する第2のスプレー移行モードの間に、次のバックグラウンド電流部分の前に、前記ワイヤ電極の前記チップから前記ワークピースに向けて溶融金属の軸方向スプレーが行われる、アーク溶接又は積層造形システム。
【請求項16】
前記次のバックグラウンド電流部分が、溶融金属の前記軸方向スプレーを停止させる、請求項15に記載のアーク溶接又は積層造形システム。
【請求項17】
各電流パルスが、前記ワイヤ電極の前記チップから前記溶融液滴を発射させるピーク電流レベルと、溶融金属の前記軸方向スプレーがその間に行われる低電流レベルと、を含み、前記低電流レベルが前記ピーク電流レベル未満である、請求項16に記載のアーク溶接又は積層造形システム。
【請求項18】
溶融金属の前記軸方向スプレーの後に、前記プロジェクトスプレー移行モード、及び前記第2のスプレー移行モードとは異なる第3のスプレー移行モードが続き、前記第3のスプレー移行モードの間に、前記次のバックグラウンド電流部分の前に、前記ワイヤ電極の前記チップから前記ワークピースに向けて溶融金属のローテーティングスプレーが行われる、請求項15に記載のアーク溶接又は積層造形システム。
【請求項19】
前記次のバックグラウンド電流部分が、溶融金属の前記ローテーティングスプレーを停止させる、請求項18に記載のアーク溶接又は積層造形システム。
【請求項20】
前記パルス波形の周波数が、120Hz~150Hzの範囲にあり、前記溶着作業の溶着速度が毎時16ポンドよりも大きい、請求項15に記載のアーク溶接又は積層造形システム。
【請求項21】
前記ワイヤ電極からの電気アークが、前記溶着作業の間に、溶融溶接プールの表面積の少なくとも80%をカバーする、請求項20に記載のアーク溶接又は積層造形システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年12月23日に出願された米国仮特許出願第63/129,810号明細書の優先権を主張するものであり、その開示内容が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、スプレー移行を介してワイヤ電極からワークピースに溶融金属を移行させるアーク溶接作業に関する。
【背景技術】
【0003】
厚さ0.25インチを超える板材及びその他のワークピースを溶接するような重工業溶接では、溶接パドルが大きくなり、トーチの移動速度が遅くなる。溶着速度が速くなったこと、又は従来の溶着速度で大きな溶接物を作り易くなったことにより、生産性の向上が評価されている。重工業では、ソリッドワイヤガス金属アーク溶接(GMAW:Gas Metal Arc Welding)を使用する場合が多い。重工業ではよくあるように、溶接パドルのサイズが大きいが、アークコーンの直径が集中すると、パドルが不安定になり、アークを「飲み込もう(swallow)」とし、液が飛び跳ねる(slosh)傾向がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ソリッドワイヤ及び混合シールドガスを使用した半自動式GMAW溶接作業は、最大約16ポンド/時(毎時16ポンド)までは許容可能な結果をともなって実行することができる。16ポンド/時を超えると、アーク/パドルが不安定になるため、許容できない量のスパッタが発生する可能性がある。アークコーンのサイズを大きくしてパドルの制御を向上させるためには、溶接ワイヤを大きくすることが好適である。作業者は、アークを巧みに操作して(例えば、何らかの方法でウィービングさせて)、大きなパドルを制御する場合が多い。メタルコアードワイヤ及びフラックスコアードワイヤを使用して、溶着速度及びパドル制御をさらに向上させることができるが、これらの代替策ではヒュームの割合が高くなり、フラックスコアードアーク溶接(FCAW:Flux Cored Arc Welding)の場合にはスラグが発生し、後で削り取らなければならない。アーク/パドルの不安定性及びスパッタを最小限に抑えつつ、ソリッドワイヤGMAW溶接を16ポンド/時以上の溶着速度で安定して実行することができれば、望ましいであろう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下の要約は、本明細書に記載の装置、システム及び/又は方法のいくつかの態様の基本的な理解を得られるようにするために、簡略化された要約を提示する。この要約は、本明細書に記載の装置、システム、及び/又は方法の包括的な概要ではない。この要約は、このような装置、システム及び/又は方法の重要な要素を特定すること、又はその範囲を正確に描くことを意図したものではない。この要約の唯一の目的は、後で提示される詳細な説明の導入部として、いくつかの概念を簡略化された形式で提示することである。
【0006】
本発明の一態様によれば、アーク溶接又は積層造形システムが提供される。アーク溶接又は積層造形システムは、ワイヤ送給装置と、トーチと、ワイヤ送給装置によってトーチを通して駆動されるワイヤ電極と、トーチに動作可能に接続されて、溶着作業の間に、パルス波形をワイヤ電極に送達するアーク発生電源と、を含む。パルス波形は、各電流パルスが、先行するバックグラウンド電流部分によって先行する電流パルスから分離され、後続するバックグラウンド電流部分によって後続する電流パルスから分離されるように、一連の電流パルス及びインターリーブされたバックグラウンド電流部分を含む。各電流パルスの間に、ワイヤ電極のチップから溶融液滴が発射され、その後、後続するバックグラウンド電流部分が発生する前に、ワイヤ電極のチップから離隔して、溶融金属の軸方向スプレーが続く。
【0007】
本発明の別の態様によれば、アーク溶接又は積層造形システムが提供される。アーク溶接又は積層造形システムは、ワイヤ送給装置と、トーチと、ワイヤ送給装置によってトーチを通して駆動されるワイヤ電極と、トーチに動作可能に接続されて、溶着作業の間に、パルス波形をワイヤ電極に送達するアーク発生電源と、を含む。パルス波形は、各電流パルスが、先行するバックグラウンド電流部分によって先行する電流パルスから分離され、後続するバックグラウンド電流部分によって後続する電流パルスから分離されるように、一連の電流パルス及びインターリーブされたバックグラウンド電流部分を含む。各電流パルスの間に、ワイヤ電極のチップから溶融液滴が発射され、その後、後続するバックグラウンド電流部分が発生する前に、ワイヤ電極のチップから離隔して、溶融金属のストリーミングスプレー及びローテーティングスプレーの一方、又は両方が続く。
【0008】
本発明の別の態様によれば、アーク溶接又は積層造形システムが提供される。アーク溶接又は積層造形システムは、ワイヤ送給装置と、トーチと、ワイヤ送給装置によってトーチを通して駆動されるワイヤ電極と、トーチに動作可能に接続されて、溶着作業の間に、パルス波形をワイヤ電極に送達するアーク発生電源と、を含む。パルス波形は、それぞれのバックグラウンド電流部分によって分離された一連の電流パルスを含む。一連の電流パルスの各電流パルスの間に、溶融金属が、プロジェクトスプレー移行モードと、プロジェクトスプレー移行モードとは異なる後続する第2のスプレー移行モードと、によってワイヤ電極からワークピースに移行される。プロジェクトスプレー移行モードの間に、ワイヤ電極のチップからワークピースに向けて溶融液滴が発射され、後続する第2のスプレー移行モードの間に、次のバックグラウンド電流部分の前に、ワイヤ電極のチップからワークピースに向けて溶融金属の軸方向スプレーが行われる。
【0009】
本発明が関係する技術分野の当業者であれば、以下の添付図面を参照しながら後述の説明を読むことにより、本発明の上述した態様及び他の態様が明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】溶接システムの斜視図である。
図2】溶接システムの概略図である。
図3】溶接システムの概略図である。
図4a】溶接作業中のプロジェクトスプレー移行モードを示す。
図4b】溶接作業中のストリーミングスプレー移行モード又は軸方向スプレー移行モードを示す。
図4c】溶接作業中のローテーティングスプレー移行モードを示す。
図5a】プロジェクト移行溶接作業の一部を示す。
図5b】プロジェクト移行溶接作業の一部を示す。
図5c】プロジェクト移行溶接作業の一部を示す。
図6a】プロジェクト移行、ストリーミング及びローテーティングスプレー移行のハイブリッド溶接作業の一部を示す。
図6b】プロジェクト移行、ストリーミング及びローテーティングスプレー移行のハイブリッド溶接作業の一部を示す。
図6c】プロジェクト移行、ストリーミング及びローテーティングスプレー移行のハイブリッド溶接作業の一部を示す。
図6d】プロジェクト移行、ストリーミング及びローテーティングスプレー移行のハイブリッド溶接作業の一部を示す。
図6e】プロジェクト移行、ストリーミング及びローテーティングスプレー移行のハイブリッド溶接作業の一部を示す。
図7】溶接波形の例を示す。
図8】溶接波形のさらなる例を示す。
図9】コントローラの一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、スプレー移行を介してワイヤ電極からワークピースに溶融金属を移行させるアーク溶接作業に関する。特に、本発明は、各電流パルスの間に、少なくとも2つの異なる移行モードを介して溶融金属をワークピースに移行させるハイブリッドパルス溶接プロセスに関係する。例えば、電流パルスの間に、プロジェクトスプレー移行モードを介して溶融液滴をワークピースに移送することができ、プロジェクトスプレー移行モードの後に続けて、ストリーミングスプレー移行モード若しくは軸方向スプレー移行モード、及び/又はローテーティングスプレー移行モードを介して、追加の溶融金属を移行させることができる。
【0012】
次に図面を参照して本発明を説明する。図面では、全体を通して、同様の参照番号は、同様の要素を指すように用いられる。様々な図面は、図面ごとにおいても、また所与の図面内においても、必ずしも縮尺通りに描かれておらず、特に、構成部品の大きさは、図面を理解し易くするために任意の大きさで描かれていることを理解されたい。以下の説明では、説明の目的で、多数の特定の詳細が、本発明を十分に理解できるように記載されている。しかしながら、本発明が、これらの特定の詳細なしで実践し得ることは明らかであろう。加えて、本発明の他の実施形態が可能であり、記載されている以外の方法で本発明を実践し、行うことが可能である。本発明を説明する際に使用される用語及び表現は、本発明の理解を促進する目的で使用され、限定するものとして解釈すべきではない。
【0013】
本明細書で使用する場合、「少なくとも1つの」、「1つ又は複数の」、及び「及び/又は」は、作用が接続的、且つ、離接的であるオープンエンドな表現である。例えば、「A、B、及びCのうちの少なくとも1つ」、「A、B、又はCのうちの少なくとも1つ」、「A、B、及びCのうちの1つ又は複数」、「A、B、又はCのうちの1つ又は複数」、並びに「A、B、及び/又はC」という各表現は、Aのみ、Bのみ、Cのみ、AとB、AとC、BとC、又はAとBとCを意味する。実施形態の説明、特許請求の範囲、又は図面のいずれにおいても、2つ以上の選択的な用語を表す離接的な語句があれば、それらは、それらの用語のうちの1つ、それらの用語のいずれか、又はそれらの用語の両方を包含する可能性を想定しているものと理解されたい。例えば、「A又はB」という句は、「A」又は「B」又は「AとB」の可能性を包含するものと理解されたい。
【0014】
本明細書で説明する本発明の実施形態は、ガス金属アーク溶接(GMAW)システムとの関連において記載されているが、本発明の他の実施形態は、それに限定されない。例えば、実施形態は、フラックスコアードアーク溶接(FCAW)又はメタルコアードアーク溶接(MCAW)溶接作業だけでなく、他の同様のタイプの溶着作業においても利用することができる。さらに、本発明の実施形態は、手動、半自動、及びロボット溶接作業で使用することが可能である。本発明の実施形態は、積層造形、硬化肉盛、及びクラッドなどの溶接に類似した金属溶着作業で使用することもまた可能である。本明細書で使用する場合、「溶接」という用語は、これらの技術のすべてがワークピースを接合又は構築のどちらか一方を行う材料溶着に関与するように、これらすべての技術を包含することを意図している。したがって、効率上、「溶接」という用語を以下で例示的な実施形態の説明で使用するが、複数のワークピースの接合が生じるかどうかに関わらず、これらの材料溶着作業のすべてを含むことを意図している。
【0015】
ここで図面を参照すると、図1は、GMAW溶接システム100の一例を示している。溶接システム100は、溶接電源102などのアーク発生電源と、ワイヤ送給装置104と、シールドガス供給装置106と、を含む。溶接電源102は、電力ケーブル108と、制御ケーブル110と、入力電力ケーブル(図示せず)と、を含むことができる。電力ケーブル108は、ワークピース136に接続された接地ワイヤ及びクランプ112と、ワイヤ送給装置104に接続するように構成された電力ケーブル114と、を含むことができる。制御ケーブル110は、ワイヤ送給装置104に接続するように構成してもよい。別の実施形態(図示せず)では、制御ケーブル110は、ワイヤ送給装置104と電源102との間のワイヤレス通信リンクに置き換えてもよいし、且つ/又は、通信は、電力ケーブル114を介して行うことができる。溶接電源102、電力ケーブル108、及び制御ケーブル110は、溶接システム100用の電力の供給及び溶接の制御に適した任意の構成を有し得ることを理解されたい。電源102は、ユーザが溶接プロセスの様々な設定及びパラメータ(例えば、溶接波形パラメータ、電圧及び/又は電流レベル、ワイヤ送給速度、等)を観察及び調節し得るユーザインタフェース105をさらに含む。ユーザインタフェース105は、図示のように、電源102上に配置することが可能であり、或いは、電源から離れた場所に配置することも可能である。ある特定の実施形態では、ユーザインタフェース105は、ネットワークに接続されたコンピュータ、スマートフォン、又は制御ペンダントなどのような、電源102と通信するリモート処理装置上に配置することができる。
【0016】
ワイヤ送給装置104は、アーク溶接又は溶着作業の間に、溶接ワイヤ電極をワークピース136に向けて駆動する。図1に示されているように、ワイヤ送給装置104は、ハウジング120と、ギアボックス122と、ワイヤスプールアセンブリ124と、ユーザインタフェース126と、を含んでもよい。ギアボックス122から延在しているのは、溶接トーチ又はガン130に接続するように構成されたホース128である。ハウジング120は、ユーザインタフェース126及びギアボックス122に接続してもよい。さらに、溶接電源102から延在する制御ケーブル110及び電力ケーブル114、並びにシールドガス供給装置106から延在するパイプ116は、ワイヤ送給装置104に接続するように構成されている。ギアボックス122は、溶着作業の間に、溶接ワイヤ電極を前進させ、任意に後退させる、少なくとも複数のローラーを含む。ワイヤ送給装置104は、シールドガス、電源102からの溶接電力、及び溶接制御を受け取るのに適した任意の構成を有し得ることを理解されたい。ある特定の実施形態では、ワイヤ送給装置104は、溶接電源102に直接取り付けてもよい。
【0017】
ギアボックス122と溶接トーチ130との間に延在しているのは、電力導体を含み得るホース128、ワイヤ電極及び、ワイヤコンジット又はライナー、ガスライン、並びに、トーチのトリガスイッチ用の制御ケーブルである。ホース128は、ワイヤ電極、ガスライン、及びスイッチケーブルを含むように構成された、任意の直径及び長さとすることができる。ホース128は、溶接環境に適した任意の材料で作られている。ホース128及び溶接トーチ130は、ホースを通して、且つ、溶接トーチに、溶接ワイヤ電極、シールドガス、及び制御を供給するのに適した任意の構成を有し得ることを理解されたい。
【0018】
図2は、アーク溶接システム100の概略図を提供している。電源102は、電力ケーブル108を通して、溶接トーチ130及びワークピース136に溶接信号、又は溶接波形を供給する。溶接信号は、電流及び電圧を有し、また、あるレベルから別のレベルへの電流の変化を必要とするタイプの溶接信号とすることができる。例えば、信号は、溶接の間にバックグラウンドレベルからピークレベルに変化するパルス溶接信号、又は、一方の極性から他方の極性に既知の速度で変化する交互極性波形とすることができる。電源102からの電流は、コンタクトチップ148を介してワイヤ電極134に送達されて、電極134とワークピース136との間にアーク132を生成する。GMAW溶接作業ではよくあるように、正の電力リード線は、ワイヤ送給装置104に結合することができ、これが、次にホース128の溶接ケーブルを通して、溶接電流をコンタクトチップ148に送る。電源102は、電力ケーブル108を電源の電気出力に接続する端子又は出力スタッド115、117を含むことができる。
【0019】
図3は、GMAW溶接電源102の一例の概略図を示している。電源102は、短絡移行(GMAW-S)、表面張力移行(STT:Surface Tension Transfer)、軸方向スプレー移行、及びパルススプレー移行などの、金属移行の様々なモード用の溶接波形を生成するように構成することができる。特に、溶接電源102は、各電流パルスの間に、少なくとも2つの異なる移行モードを介して、溶融金属をワークピース136に移行させるハイブリッドパルス溶接プロセスのためのパルス溶接波形を生成することができる。例えば、電流パルスの間に、プロジェクトスプレー移行モードを介して溶融液滴をワークピースに移送することができ、プロジェクトスプレー移行モードの後に続けて、ストリーミングスプレー移行モード若しくは軸方向スプレー移行モード、及び/又はローテーティングスプレー移行モードを介して、追加の溶融金属を移行することができる。
【0020】
溶接電源102は、トーチ130に動作可能に接続されて、溶接作業又はその他の溶着作業の間に、パルス波形をワイヤ電極134に送達する。溶接電源102は、ワイヤ電極134とワークピース136との間に電気アーク132を生成して、溶着作業を行う。溶接電源102は、商用電源又は発電機などの電力源138から、アーク132を生成するための電気エネルギーを受け取っている。電力源138は、単相の電力源又は三相の電力源とすることができる。ある特定の実施形態では、アーク溶接システムは、やはりエネルギーを溶接電源102に供給する1つ又は複数のバッテリ(図示せず)を含むハイブリッドシステムとすることができる。溶接電源102は、所望の溶接波形に従ってアーク132を生成するためのインバータ140などの、スイッチングタイプの電力コンバータを含む。これに代えて、又はこれに加えて、溶接電源102は、溶接波形を生成するためのDCチョッパ(図示せず)、又は昇圧コンバータ(図示せず)を含むことも可能であろう。電力源138からのAC電力は、入力整流器142によって整流される。整流器142からのDC出力は、インバータ140に供給される。インバータ140は、変圧器144に高周波のAC電力を供給し、変圧器の出力は出力整流器146によって変換されてDCに戻される。出力整流器146は、電源102に(例えば、ワイヤ送給装置を介して)動作可能に接続された溶接トーチ130に溶接電流を供給する。トーチ130は、電源102によってワイヤ電極134に供給される電気エネルギーを伝達するためのコンタクトチップ148を有することができる。
【0021】
電極134は、ソリッドワイヤ、又は有芯の消耗ワイヤ溶接電極である。電極134は、溶接作業の間に、電極を前進させるように構成されたワイヤ送給装置104によって、スプール150から溶接パドルに向けて送給することができる。図3に概略的に示されているように、ワイヤ送給装置104は、トーチ130を通してワイヤ電極134を駆動するための、モータによって動作するピンチローラを含むことができる。
【0022】
アーク溶接システムは、直流電極の正(DC+)、又は「逆」極性用に構成することが可能であり、この場合、コンタクトチップ148及び電極134は、電源102からの正のリード線に接続されており、ワークピース136は、負のリード線に接続されている。或いは、アーク溶接システムは、直流電極の負(DC-)、又は「正」極性用に構成することが可能であり、この場合、ワークピース136は、正のリード線に接続されており、コンタクトチップ148及び電極134は、負のリード線に接続されている。さらに、アーク溶接システムは、コンタクトチップ148、電極134、及びワークピース136にAC波形が供給されるAC溶接用に構成することができる。
【0023】
電源102は、電源によって生成される溶接波形を制御するために、インバータ140に動作可能に接続されたコントローラ152を含む。コントローラ152は、波形制御信号をインバータ140に供給して、インバータ140の出力を制御することができる。コントローラ152は、波形制御信号を介してインバータ140の出力を制御して、所望の溶接波形、溶接電圧、溶接電流、等を実現する。波形制御信号は、インバータ140内の様々なスイッチ(例えば、トランジスタスイッチ)の動作を制御するための複数の別々の制御信号を含むことができる。電源102は、ユーザが溶接プロセスの様々な設定及びパラメータ(例えば、溶接波形パラメータ、電圧及び/又は電流レベル、ワイヤ送給速度、等)を観察及び調節し得るユーザインタフェース105をさらに含む。コントローラ152及びユーザインタフェース105は、ユーザインタフェースにおいてユーザの入力及び出力の両方を提供するように、双方向に通信する。コントローラ152は、フィードバック信号を介して、溶接プロセスの局面を監視する。例えば、電流変圧器(CT:Current Transformer)又はシャント154などの電流センサは、溶接電流フィードバック信号をコントローラ152に供給することができ、電圧センサ156は、溶接電圧フィードバック信号をコントローラに供給することができる。
【0024】
コントローラ152は、電子コントローラとすることが可能であり、プロセッサを含んでもよい。コントローラ152は、マイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、デジタル信号プロセッサ(DSP:Digital Signal Processor)、特定用途向け集積回路(ASIC:Application Specific Integrated Circuit)、書き替え可能ゲートアレイ(FPGA:Field-Programmable Gate Array)、又はディスクリート論理回路(Discrete Logic Circuitry)などのうちの1つ又は複数を含む場合がある。コントローラ152は、本明細書においてコントローラが有すると見なされる機能を提供させるプログラム命令を格納するメモリ部分(例えば、RAM又はROM)を含む場合がある。コントローラ152は、別々のコンパレータ、論理回路等と組み合わせたプロセッサのような、複数の物理的に別々の回路又は電子装置を含む場合がある。しかしながら、説明し易くするために、コントローラ152は、モノリシックな装置として示されている。
【0025】
図4a~図4cは、溶着作業の3つの異なるスプレー移行モードを図示している。図4aは、プロジェクトスプレー移行モードを示し、図4bは、ストリーミング又は軸方向スプレー移行モードを示し、図4cは、ローテーティングスプレー移行モードを示す。プロジェクトスプレー移行モード(図4a)では、スプレー移行遷移電流レベルを超えるそれぞれの電流パルスによって、ワイヤ電極134のチップから溶融液滴が発射される。ストリーミング又は軸方向スプレー移行モード(図4b)は、別個の溶融液滴ではなく、より一定した溶融金属の流れが、ワイヤ電極134のチップからワークピース136に向けて発射されるという点で、プロジェクトスプレー移行モードとは異なっている。ローテーティングスプレー移行モード(図4c)は、ストリーミング又は軸方向スプレー移行モードと類似しているが、溶融金属の流れにいくらかの回転が加わっている。図5a~図5cは、従来のパルス溶接である、GMAW作業のプロジェクトスプレー移行モードをさらに示す。図5aを見ると、液滴200が電極134の端部で成長していることがわかる。電流パルスは、液滴200を溶融溶接プール又はパドル202に移行させる。液滴の移行が図5bに示されている。電流がパルスレベルからバックグラウンドレベルに低下すると、溶融材料は電極134の方へと後退し、新たな液滴が電極の端部に形成される。プロジェクトスプレー移行モードでは、電流パルスごとに1つの液滴が移行される。図5a~図5cを見ると、アーク132は溶接プール202の表面の比較的小さな割合(例えば、50%以下)をカバーしていることがわかる。高速の溶着速度(例えば、16ポンド/時)では、従来のパルス溶接は、アークが小さく、集中する可能性があり、これにより、溶接プール202が撹拌され、不安定になり、望ましくない。
【0026】
本発明では、パルス溶接波形を採用する。各電流パルスの間に、溶融金属は、溶融液滴のプロジェクトスプレーによってワークピースに移行され、次に、溶融金属の軸方向スプレー及び/又はローテーティングスプレーが続く。これら2つの、又は3つの異なるスプレー移行モードが、単一の電流パルスの間に連続して行われる結果として、ハイブリッドパルス溶接プロセスが得られる。図6a~図6eは、溶融金属のプロジェクトスプレー移行(図6a、図6b)、それに続くストリーミング又は軸方向スプレー移行(図6c)、さらにそれに続くローテーティングスプレー移行(図6d)を用いたハイブリッドパルス溶接プロセスを示している。ハイブリッド移行は、1つの電流パルスの間に、少なくとも2つの異なる金属移行モードを組み合わせたものである。ハイブリッド移行は、パルス溶接波形を使用することによって達成されるが、このパルス溶接波形では、ピーク電流レベル及び周波数、並びに波形のピーク電流部分の継続時間は、電極の端部から溶接ゾーンに向けて溶融液滴を発射し、ピーク電流部分の間に、溶融液滴の後に、溶融金属のストリーミングスプレー移行及び/又はローテーティングスプレー移行が続くようにするのに十分なものである。所与の高速の金属溶着速度(例えば、16ポンド/時~25ポンド/時)及びワイヤ送給速度(例えば、400~1000インチ/分)の場合、本発明のパルス波形の周波数は、1パルスにつき1つの液滴しか移行しない従来のパルスガス金属アーク溶接(GMAW-P)波形よりも遅くなる。例えば、金属溶着速度がおよそ16ポンド/時である溶着作業において、従来のパルス溶接波形は、周波数が200Hz~400Hzの範囲である場合があり、一方、本発明のハイブリッドパルス溶接プロセスで使用される波形は、それよりも遅く、周波数の範囲は120Hz~150Hzとなり得る。
【0027】
1つのパルスにつき1つの液滴が溶接ゾーンに移行される従来の重工業GMAW-P溶接モードと比較して、図6a~図6eに示されているハイブリッドパルス溶接プロセスでは、遅いパルス速度又はパルスが長い周波数を使用する。その結果、アーク132の集中度が低下し、幅が広くなり、これにより、溶接プール202にかかる圧力が均一になり、安定性が向上し、より良好な溶接プールの制御が可能になる。すなわち、ハイブリッドパルス溶接プロセスのアーク132がカバーする溶融溶接プール202の表面の部分は、従来のパルス溶接プロセスと比較して大きくなる。いずれのプロセスであっても、溶接の間に、溶接プール202に同様の力を加えることになろうが、この力は、ハイブリッドパルス溶接プロセスの方が、広い面積にわたって溶接プールに分散される。溶接プール202に加わる圧力が低いことと、パルス周波数が遅いことが相まって、ハイブリッドパルス溶接プロセスが溶接プールを攪拌する程度は、従来のパルス溶接プロセスよりも低くなる。これにより、高速の溶着速度での溶接プロセスの安定性が向上する。加えて、ハイブリッドパルス溶接プロセスのパルス周波数が遅い方が、作業者の感覚にやさしく、作業者は速度を落として正確に大きな溶接を行うことができる。
【0028】
ハイブリッドパルス溶接プロセスの各電流パルスの後の、溶融液滴200のプロジェクトスプレーに続くストリーミングスプレー移行又はローテーティングスプレー移行の後、溶接電流をバックグラウンド電流レベルまで低下させて、スプレー移行を停止させ、電極134の端部に別の溶融液滴を成長させる。金属は、各電流パルスの間に少なくとも2つの異なるスプレーモードによって、すなわち、大きな液滴がプロジェクトモードによって、その直後に小さな液滴が、より小さな軸方向スプレー又はローテーティングスプレーモードによって移行される。スプレー移行は、各電流パルスの直後に発生する低電流の周期的なバックグラウンド電流部分によって妨げられ、制御不能で不安定になる前に溶融金属の回転を中断させる。
【0029】
図6a及び図6bは、最初の液滴が、スプレー移行遷移電流レベルを超える電流パルスによって溶接ゾーンに発射されている様子を示す。図6c及び図6dは、同じ電流パルスの間の軸方向スプレー移行及びローテーティングスプレー移行を示す。図6dでは、溶融流204が、ちょうど回転し始めたところである。図6eでわかるように、溶接波形のバックグラウンド電流部分が、軸方向/ローテーティングスプレー移行を妨げている。バックグラウンド電流レベルは、スプレー移行遷移電流レベルよりも低く、アーク132を維持しながら溶融金属の移行を停止させる。高速の溶着速度では、一部のローテーティングスプレー移行を行うことができるが、不安定さ及びスパッタにつながる可能性がある。しかしながら、ローテーティングスプレー移行は、液滴200が溶接ゾーンに向けて発射された後に、溶接波形のピーク電流部分の継続時間を制限することによって、制御することが可能である。
【0030】
図6a~図6eに示されているハイブリッドパルス溶接プロセスは、通常のプロジェクト液滴移行として開始されるが、パルス周波数を遅くし、溶接プールの表面にわたってアークが分散する程度を従来のパルス溶接よりも高めることによって、軸方向スプレー及び/又はローテーティングスプレーを介して液滴の流れを引き続き移行させる。ハイブリッドパルス溶接プロセスは、GMAW-Pタイプの移行モード(大きな液滴)の液滴移行を、単一の電流パルスを用いた軸方向及び/又はローテーティングスプレー移行モードと組み合わせたものである。
【0031】
アーク132によってカバーされる溶接プールの表面積に対する溶接プール202の表面積の比率が1に近づく(すなわち、溶接プールをカバーするアーク面積がほぼ溶接プールの大きさになる)と、アークは、溶接プールに均一な圧力をかける。図6a~図6eに示されているハイブリッドパルス溶接プロセスは、ほぼ溶接プール202の大きさまでアーク面積を拡大して、従来のGMAW-P作業と比較して、溶接プールに加える圧力をより均一にすることができる。例えば、ワイヤ電極134からの電気アーク132は、ハイブリッドパルス溶接の溶着作業の間に、溶融溶接プールの表面積の少なくとも80%(例えば、80%~100%)をカバーすることができる。これにより、作業者は、溶接プールをより良好に制御することが可能になり得る。従来のGMAW-P溶接では、アークによってカバーされる面積に対する溶接プールの表面積の比率が1を上回り(例えば、アークが溶接プールの大きさよりも実質的に小さくなり)、溶着速度が高速になると、パドルは乱流になる傾向があり、アークを中心に左右に液が飛び跳ねし、不安定になりスパッタが発生する。図6a~図6eに示されている大きなアークコーン132が溶接プール202を撹拌する程度は、従来の重工業GMAW-P溶接で使用される狭いアークコーンよりも低い傾向がある。
【0032】
図7は、ハイブリッドパルス溶接の電圧の波形300及び電流の波形302、並びに従来のGMAW-Pの電圧の波形304及び電流の波形306の例を示している。ハイブリッドパルス溶接プロセスの溶接の波形300、302は、ピーク電圧及び電流部分308と、バックグラウンド電圧及び電流部分310と、を有することがわかる。バックグラウンド部分310は、ピーク電流レベルから予め設定されたバックグラウンド電流レベルまでのテールアウトを含むことができる。ピーク部分308及びバックグラウンド部分310の継続時間は、従来のパルス溶接の波形304、306と比較して、ハイブリッドパルス溶接の波形300、302の方が大幅に長くなっている。上述したように、ハイブリッドパルス溶接の波形の周波数範囲の一例は、120Hz~150Hzであるが、その他の120Hz未満の周波数及び150Hzを上回る周波数も可能であり、ハイブリッドパルス溶接プロセスの溶着速度は、毎時16ポンドを超えることが可能である。
【0033】
ハイブリッドパルス溶接の波形300、302は、各電流パルスが、先行するバックグラウンド電流部分によって先行する電流パルスから分離され、後続するバックグラウンド電流部分によって後続する電流パルスから分離されるように、一連の電流パルス及びインターリーブされたバックグラウンド電流部分を含むことがわかる。各電流パルスの間に、ワイヤ電極のチップから溶融液滴が発射され、その後、後続するバックグラウンド電流部分が発生する前に、ワイヤ電極のチップから離隔して、溶融金属のストリーミング又は軸方向スプレーが続く。従来のパルス波形304、306と比較して、ピーク部分308が長くなったハイブリッドパルス溶接の波形300、302は、電流パルスの間に、溶融液滴のプロジェクト移行のすぐ後に続いて軸方向スプレー移行を発生させる。各電流パルスの間に、次のバックグラウンド電流部分が発生する前に、溶融金属は、プロジェクトスプレー移行モードによって、プロジェクトスプレー移行モードとは異なる後続する第2のスプレー移行モード(例えば、ストリーミング若しくは軸方向スプレー移行モード、又はローテーティングスプレー移行モード)によって、ワイヤ電極からワークピースに移行される。ローテーティングスプレー移行モードは、電流パルスの間に、ストリーミング又は軸方向スプレー移行モードの後に続けることができる。したがって、各電流パルスの間に、溶融液滴が発射された後、後続するバックグラウンド電流部分が発生する前に、ワイヤ電極のチップから離隔して、溶融金属のストリーミング/軸方向スプレー及びローテーティングスプレーの一方、又は両方を続けることができる。ある特定の実施形態では、溶融金属のストリーミング/軸方向スプレーの後に、電流パルスの間に、及び後続するバックグラウンド電流部分が発生する前に、溶融金属のローテーティングスプレーが続く。このような実施形態では、各電流パルスの間に、3つの異なる移行モードが行われる(プロジェクトスプレー移行モードにストリーミング/軸方向スプレー移行モードが続き、その後にローテーティングスプレー移行モードが続く)。電流パルスに続く後続の、又は次のバックグラウンド電流部分により、スプレー移行モードが停止(例えば、ストリーミング/軸方向スプレーモード又はローテーティングスプレーモードのいずれかが停止)され、液滴を構築し、ワイヤ電極を次の移行サイクル用の位置に押し込むことが可能になる。バックグラウンド電流部分310から電流ピーク308への遷移は、ハイブリッドパルス溶接の波形300、302では、従来のパルス溶接の波形304、306よりも遅い可能性がある。液滴の成長は、バックグラウンド部分310の間、及び電流ピーク308への遷移の間の両方で発生する。電流ピーク308への遷移の間に、電流は、スプレー移行を促進するには十分ではないが、ワイヤ電極は、バックグラウンド部分310の間よりも大幅に大きく加熱される。ワイヤ電極の端部は、電流ピーク308への遷移の間にさらに溶融し、表面張力により溶融液滴のサイズがさらに大きくなる。バックグラウンド電流部分310から電流ピーク308への遷移の速度を遅くすることが、より大きな液滴の成長を促進するので、望ましい。ハイブリッドパルス溶接プロセスで使用される電流レベルでは、プロジェクトスプレー移行モードは、ストリーミング/軸方向又はローテーティングスプレー移行モードよりも安定している傾向があるため、プロジェクトスプレー移行モード用に形成する液滴を大きくすることが望ましい場合がある。
【0034】
上述したように、従来のGMAW-P作業で発生させたアークと比較して、ハイブリッドパルスの波形は、溶接プール全体にわたって、面積がより大きなアークを発生させる。アークがカバーする面積が大きい方が、高速の溶着速度(例えば、16ポンド/時以上)では、溶融溶接プール上で扱いやすくなる。従来のGMAW-Pパルス溶接の波形は、このような高速の溶着速度では、小さく短いアーク長を有する集中度が高いアークを発生させる。従来のGMAW-P溶接を約16ポンド/時を上回って行うと、溶接パドルに形成される窪みが過大になり、溶接プールは、ほぼ埋没アークになるまでアークを包み込もうとし、左右に液体金属(溶接プール)の液が飛び跳ねるため、溶接パドルは不安定化し始める。上述したハイブリッドパルス溶接プロセスは、アークを大きくし、これにより溶接プール全体により均一な圧力をかけることによって、溶融溶接プールの撹拌及び不安定さを軽減することができる。それに加え、ハイブリッドパルス溶接プロセスで使用されるパルス周波数が遅い方が、作業者の感覚(例えば、視覚及び/又は聴覚)にやさしく、作業者は速度を落として正確に大きな溶接を行うことができる。
【0035】
図8は、ハイブリッド金属移行を行うためのハイブリッドパルス溶接の電圧の波形312及び電流の波形314のさらなる例を示したものである。高ピーク電流部分316は、600Aよりも大きいピーク電流レベルを有する。高ピーク電流部分316は、溶融液滴に、ワイヤ電極のチップからワークピースの溶接ゾーンに向けて発射させる。第2の、低ピーク電流部分318(例えば、約400A)が、高ピーク電流部分の後に続いている。第2のピーク電流部分318は、ピーク電流レベル部分316よりも低いスプレー電流レベルを供給する。第2のピーク電流部分318は、溶接ゾーンに向けて、溶融金属のストリーミングスプレー及びローテーティングスプレーの一方、又は両方をもたらす。例えば300A未満の電流レベルを有するバックグラウンド電流部分320が、第2のピーク電流部分318の後に続く。バックグラウンド電流部分320は、第2のピーク電流部分318のスプレー電流レベルから予め設定されたバックグラウンド電流レベルまでのテールアウトを含むことができる。バックグラウンド電流部分320により、第2のピーク電流部分318の間に行われているスプレー移行が停止され、液滴を構築し、ワイヤ電極を次の移行サイクル用の位置に押し込むことが可能になる。
【0036】
図9は、電源に動作可能に接続されて、出力電流波形を制御するコントローラである、例示的なコントローラ152の一実施形態を図示している。コントローラ152は、バスサブシステム412を介して複数の周辺装置と通信することが可能な少なくとも1つのプロセッサ414を含む。これらの周辺装置には、例えば、メモリサブシステム428及びファイルストレージサブシステム426を含むストレージサブシステム424と、ユーザインタフェース入力装置422と、ユーザインタフェース出力装置420と、ネットワークインタフェースサブシステム416と、が含まれる場合がある。入力装置及び出力装置により、コントローラ152とのユーザ対話が可能になっている。ネットワークインタフェースサブシステム416は、外部ネットワークへのインタフェースを提供し、他のコンピュータシステム内の対応するインタフェース装置に結合されている。
【0037】
ユーザインタフェース入力装置422には、キーボード、ポインティングデバイス、例えば、マウス、トラックボール、タッチパッド、又はグラフィックタブレット、スキャナ、ディスプレイに組み込まれたタッチスクリーン、音声入力装置、例えば、音声認識システム、マイクロフォン、及び/又は他のタイプの入力装置などが含まれる場合がある。概して、「入力装置」という用語の使用は、コントローラ152に、又は通信ネットワーク上に情報を入力するための、すべての可能なタイプの装置及び方法を含むことを意図している。
【0038】
ユーザインタフェース出力装置420には、ディスプレイサブシステム、又は音声出力装置などの非視覚的ディスプレイが含まれる場合がある。ディスプレイサブシステムには、陰極線管(CRT)、液晶ディスプレイ(LCD)などのフラットパネル装置、投影装置、又は可視画像を作成するための何らかのその他のメカニズムが含まれる場合がある。ディスプレイサブシステムは、音声出力装置を介するものなど、非視覚的ディスプレイを提供することもまた可能である。概して、「出力装置」という用語の使用は、コントローラ152からユーザに、又は別の機械若しくはコンピュータシステムに情報を出力するための、すべての可能なタイプの装置及び方法を含むことを意図している。
【0039】
ストレージサブシステム424は、本明細書に記載されている制御アルゴリズム及びソフトウェアモジュールの一部、又はすべての機能を提供するプログラミング並びにデータ構造物を格納する非一時的なコンピュータ可読ストレージ媒体を提供する。これらのソフトウェアモジュールは、概して、プロセッサ414単体によって、又は他のプロセッサと組み合わせて実行される。ストレージサブシステム内で使用されるメモリ428は、プログラム実行中に命令及びデータを格納するためのメインランダムアクセスメモリ(RAM)430と、固定命令が格納される読み出し専用メモリ(ROM)432と、を含む複数のメモリを含むことができる。ファイルストレージサブシステム426は、プログラム及びデータファイル用の永続的な保存を提供することが可能であり、ハードディスクドライブ、フラッシュメモリ、関連する着脱可能な媒体も含めたフロッピーディスクドライブ、CD-ROMドライブ、光学ドライブ、又は着脱可能な媒体カートリッジを含む場合がある。ある特定の実施形態の機能を実装するモジュールは、ストレージサブシステム424内のファイルストレージサブシステム426によって格納してもよいし、或いはプロセッサ414によるアクセスが可能な他の機械に格納してもよい。
【0040】
バスサブシステム412は、コントローラ152の様々な構成要素及びサブシステムに、意図した通りに相互に通信させるためのメカニズムを提供する。バスサブシステム412は、単一のバスとして概略的に示されているが、バスサブシステムの代替的な実施形態は、複数のバスを使用してもよい。
【0041】
図9に描かれているコントローラよりも構成要素の数が多い、又は少ない、他の多数のコントローラ152の構成が可能である。
【0042】
当然ながら、本開示は例としてのものであり、本開示に含まれる教示の公正な範囲から逸脱することなく、詳細部を追加、修正、又は削除することによって、様々な変更を行うことができる。したがって、本発明は、以下の特許請求の範囲が必然的にそのように限定されている範囲を除いて、本開示の特定の詳細部に限定されない。
【符号の説明】
【0043】
100 溶接システム
102 溶接電源
104 ワイヤ送給装置
105 ユーザインタフェース
106 シールドガス供給装置
108、114 電力ケーブル
110 制御ケーブル
112 接地ワイヤ及びクランプ
115、117 端子又は出力スタッド
116 パイプ
120 ハウジング
122 ギアボックス
124 ワイヤスプールアセンブリ
126 ユーザインタフェース
128 ホース
130 溶接トーチ
132 アーク
134 ワイヤ電極
136 ワークピース
138 電力源
140 インバータ
142 入力整流器
144 変圧器
146 出力整流器
148 コンタクトチップ
150 スプール
152 コントローラ
154 電流センサ
156 電圧センサ
200 液滴
202 溶接プール
204 溶融流
300 ハイブリッドパルス溶接の電圧の波形
302 ハイブリッドパルス溶接の電流の波形
304 従来のGMAW-Pの電圧の波形
306 従来のGMAW-Pの電流の波形
308 ピーク部分
310 バックグラウンド部分
312 ハイブリッドパルス溶接の電圧の波形
314 ハイブリッドパルス溶接の電流の波形
316 高ピーク電流部分
318 低ピーク電流部分
320 バックグラウンド電流部分
412 バスサブシステム
414 プロセッサ
416 ネットワークインタフェースサブシステム
420 ユーザインタフェース出力装置
422 ユーザインタフェース入力装置
424 ストレージサブシステム
426 ファイルストレージサブシステム
428 メモリサブシステム
430 ランダムアクセスメモリ
432 読み出し専用メモリ
図1
図2
図3
図4a
図4b
図4c
図5a
図5b
図5c
図6a
図6b
図6c
図6d
図6e
図7
図8
図9
【外国語明細書】