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特開2022-100365排尿障害を予防または改善するための機能性食品
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022100365
(43)【公開日】2022-07-05
(54)【発明の名称】排尿障害を予防または改善するための機能性食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/10 20160101AFI20220628BHJP
   A23L 17/60 20160101ALI20220628BHJP
   A61P 13/00 20060101ALI20220628BHJP
   A61P 13/08 20060101ALI20220628BHJP
   A61P 13/10 20060101ALI20220628BHJP
   A61K 36/02 20060101ALI20220628BHJP
   A61K 36/05 20060101ALI20220628BHJP
   A61K 36/03 20060101ALI20220628BHJP
   A61K 36/04 20060101ALI20220628BHJP
   A61K 31/202 20060101ALI20220628BHJP
   A61K 31/336 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
A23L33/10
A23L17/60 W
A23L17/60 102
A23L17/60 Z
A61P13/00
A61P13/08
A61P13/10
A61K36/02
A61K36/05
A61K36/03
A61K36/04
A61K31/202
A61K31/336
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022072035
(22)【出願日】2022-04-26
(62)【分割の表示】P 2021540976の分割
【原出願日】2020-08-19
(31)【優先権主張番号】62/889,106
(32)【優先日】2019-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】591040513
【氏名又は名称】株式会社マルハチ村松
(71)【出願人】
【識別番号】507219686
【氏名又は名称】静岡県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100104411
【弁理士】
【氏名又は名称】矢口 太郎
(72)【発明者】
【氏名】保苅 義則
(72)【発明者】
【氏名】青島 啓太
(72)【発明者】
【氏名】山田 静雄
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 由彦
(57)【要約】
【解決課題】 本発明は、安価で資源豊富で、容易に入手および摂取でき、排尿障害に対する予防および改善することができる、副作用の少ない新規の機能性食品・健康補助食品を提供することにある。
【解決手段】 本発明の実施形態によれば、海藻からアルコール溶液もしくは水抽出された海藻由来抽出物を含むことを特徴とする、排尿障害予防または改善用の機能性食品が提供される。ここで、前記排尿障害は、前立腺肥大または過活動膀胱を要因とするものであり、前記海藻は、アオサ、アオノリ、コンブ、アラメ、カジメ、ワカメ、メカブ、ヒジキ、モズク、テングサ、ダルス、岩ノリ、およびアカモクからなる群から一つの海藻を選択されるものであり、特にアカモクが好ましい。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海藻由来抽出物を含むことを特徴とする、排尿障害予防または改善用の機能性食品。
【請求項2】
請求項1記載の食品において、前記排尿障害は、前立腺肥大または過活動膀胱を要因とするものである
ことを特徴とする、機能性食品。
【請求項3】
請求項1記載の食品において、前記海藻は、アオサ、アオノリ、コンブ、アラメ、カジメ、ワカメ、メカブ、ヒジキ、モズク、テングサ、ダルス、岩ノリ、およびアカモクからなる群から一つの海藻を選択される
ことを特徴とする、機能性食品。
【請求項4】
請求項1記載の食品において、前記海藻由来抽出物は、特定の海藻から50%以上のエタノール溶液で抽出されたものである
ことを特徴とする機能性食品。
【請求項5】
請求項4記載の食品において、前記海藻由来抽出物は、特定の海藻から95%以上のエタノールで抽出されたものである
ことを特徴とする機能性食品。
【請求項6】
請求項1記載の食品において、前記海藻由来抽出物は、抽出エキス濃度が300μg/mL以上である
ことを特徴とする機能性食品。
【請求項7】
請求項6記載の食品において、前記海藻由来抽出物は、抽出エキス濃度が1mg/mL以上である
ことを特徴とする機能性食品。
【請求項8】
請求項1記載の食品において、前記海藻由来抽出物に含まれるフコキサンチン濃度が0.5mg/Kg以上、エイコサペンタエン酸が71μg/mL以上、ステアリドン酸が47μg/mL以上、である
ことを特徴とする機能性食品。
【請求項9】
請求項1記載の食品において、前記海藻由来抽出物は、特定の海藻から水抽出あるいは熱水抽出されたものである
ことを特徴とする機能性食品。
【請求項10】
請求項1記載の食品において、前記海藻由来抽出物は、抽出エキス濃度が50mg/mL以上である
ことを特徴とする機能性食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性食品に関し、特に、排尿障害を予防または改善するための食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に年齢が上がるにつれて、遺伝子要因、食生活、肥満、高血圧、高血糖、脂質異常等を含む何らかの原因で排尿に困難をきたす排尿障害に関連する症状が出てくることが多い。排尿障害とは、膀胱と尿道(男性では前立腺を含む)、および尿道括約筋で構成される下部尿路の機能に障害があることである。主に、排尿障害の二大要因として、過活動膀胱および前立腺肥大があるが、それらの症状の程度は個人により様々である。
【0003】
そのような現状の中、近年、手軽に摂取可能な排尿障害に効果のある補助食品として、ノコギリヤシが注目されている。ノコギリヤシ果実の抽出物は、泌尿器症状、慢性骨盤痛、膀胱障害、性欲減退、脱毛、ホルモンバランスの不均衡および前立腺癌に対して効果があるとして日本を初め米国・欧州でも良く知られ、活用されてきた。
【0004】
しかしながら、ノコギリヤシの国内需要が高まる一方で、近年、ノコギリヤシの主産地である米国・フロリダ半島やメキシコでの天候不順などの影響を受け4年連続の不作となり、日本への供給が不安定となっている。また、そのために価格が高騰するなどの問題も引き起こしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
特許文献1:特開2020-078292
特許文献2:特開2014-172903
特許文献3:特開2014-172902
特許文献4:特開2013-066450
特許文献5:特開平02-203771
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、安価で資源豊富で、容易に入手および摂取でき、排尿障害に対する予防および改善することができる、副作用の少ない新規の機能性食品・健康補助食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上述の目的を達成するために、多種多様な天然素材を試す中で、安価で資源豊富で、容易に入手および摂取できる素材として、海藻の一種であるアカモク(Sargassum Horneri)に着目した。
【0008】
アカモクは、ヒジキ等と同属である、ヒバマタ目、ホンダワラ科ホンダワラ属の多年性褐藻類であり、北海道東部を除く日本全国の海岸、朝鮮半島から中国・ベトナム北部に渡って幅広く分布する。特に、ホンダワラ属は、「大西洋サルガッサム巨大ベルト」と呼ばれる程の資源量がある。
【0009】
そして、アカモクは、以前より、東北地方で郷土食として食されてきた。アカモクには、フコイダンとアルギン酸を始めとする多糖類、ミネラル、フコキサンチン、多価不飽和脂肪酸およびポリフェノールなどの様々な成分を含むため、美容や健康に良い薬理効果と機能性があると知られている。
【0010】
発明者らは、上述のようなアカモクの資源量の多さ及び多機能性に着目し、当該アカモクを含む海藻類に排尿障害予防または改善に寄与する機能を奏する可能性があるとの仮説を立て、鋭意実験を重ねることによって当該機能を奏する要件を同定し、本発明を完成するに至ったものである。
【0011】
すなわち、本発明の主要な観点によれば、以下の発明が提供される。
【0012】
(1) 海藻由来抽出物を含むことを特徴とする、排尿障害予防または改善用の機能性食品。
【0013】
(2) 前記(1)の食品において、前記排尿障害は、前立腺肥大または過活動膀胱を要因とするものであることを特徴とする、機能性食品。
【0014】
(3) 前記(1)の食品において、前記海藻は、アオサ、アオノリ、コンブ、アラメ、カジメ、ワカメ、メカブ、ヒジキ、モズク、テングサ、ダルス、岩ノリ、およびアカモクからなる群から一つの海藻を選択されることを特徴とする、機能性食品。
【0015】
(4) 前記(1)の食品において、前記海藻由来抽出物は、特定の海藻から50%以上のエタノール溶液で抽出されたものであることを特徴とする機能性食品。
【0016】
(5) 前記(4)の食品において、前記海藻由来抽出物は、特定の海藻から95%以上のエタノールで抽出されたものであることを特徴とする機能性食品。
【0017】
(6) 前記(1)の食品において、前記海藻由来抽出物は、抽出エキス濃度が300μg/mL以上であることを特徴とする機能性食品。
【0018】
(7) 前記(6)の食品において、前記海藻由来抽出物は、抽出エキス濃度が1mg/mL以上であることを特徴とする機能性食品。
【0019】
(8) 前記(1)の食品において、前記海藻由来抽出物に含まれるフコキサンチン濃度が0.5mg/Kg以上、エイコサペンタエン酸が71μg/mL以上、ステアリドン酸が47μg/mL以上、であることを特徴とする機能性食品。
【0020】
(9) 前記(1)の食品において、前記海藻由来抽出物は、特定の海藻から水抽出あるいは熱水抽出されたものであることを特徴とする機能性食品。
【0021】
(10) 前記(1)の食品において、前記海藻由来抽出物は、抽出エキス濃度が50mg/mL以上であることを特徴とする機能性食品。
【0022】
上記の構成によれば、過活動膀胱の過剰な収縮の抑制、前立腺肥大の原因となる5α還元酵素の活性阻害、アンドロゲン受容体結合の阻害を奏することができる。
【0023】
上記作用を奏することにより、結果として、過活動膀胱の過剰な収縮及び前立腺肥大を抑制することできる。これにより、排尿障害が予防もしくは改善することができるという効果がある。
【0024】
そして、アカモク等の海藻類は資源が豊富で安価であるため、副作用のない安全な機能性食品を大量生産することが可能であるという効果を得ることができるものである。
【0025】
なお、上記以外の本発明の特徴については、以下で説明する本発明の実施形態の説明中で明らかにされる。
【0026】
また、本明細書中ではいくつかの文献を参照しているが、各文献の内容は、その全体が当該参照により本明細書に組み込まれるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、国産アカモクから機能性食品への加工工程を示す。
【0028】
図2図2は、アカモク95%EtOH(エタノール溶液)抽出物(アカモクエキス)から精製へのフローチャートを示す。
【0029】
図3図3は、ラット膀胱平滑筋の薬剤収縮に対する抑制阻害作用を評価するマグヌス試験の概略図を示す。
【0030】
図4図4は、マグヌス試験(アカモクエキス1mg/mL)<1mM ACh収縮阻害試験>の結果を示す。
【0031】
図5図5は、マグヌス試験結果(アカモクエキス1mg/mL)<80mM KCl収縮阻害試験[左側の図]、10mM carbacol収縮阻害試験[右側の図]>の結果を示す。
【0032】
図6図6は、マグヌス試験結果(アカモクエキス分液画分300μg/mL)<80mM KCl収縮阻害試験>の結果を示す。
【0033】
図7図7は、マグヌス試験結果(アカモクエキス分液画分300μg/mL)<1mM ACh収縮阻害試験>の結果を示す。
【0034】
図8図8は、マグヌス試験結果(アカモクエキス分液画分100μg/mL)<1mM ACh収縮阻害試験>の結果を示す。
【0035】
図9図9は、マグヌス試験結果(アカモクエキス分液画分)<ACh累積投与収縮阻害試験>の結果を示す。
【0036】
図10A図10Aは、アカモクエキス(95%エタノール抽出物)を使用したマグヌス試験(収縮阻害実験)の結果を示す。
【0037】
図10B図10Bは、アカモクエキス(50%エタノール抽出物)を使用したマグヌス試験(収縮阻害実験)の結果を示す。
【0038】
図10C図10Cは、アカモクエキス(水抽出物)を使用したマグヌス試験(収縮阻害実験)の結果を示す。
【0039】
図11A図11Aは、海藻12種類の95%エタノール抽出物のマグヌス試験(収縮阻害実験)の結果を示す。
【0040】
図11B図11Bは、海藻12種類の水抽出物のマグヌス試験(収縮阻害実験)の結果を示す。
【0041】
図12図12は、マグヌス試験(アカモク中の成分である不飽和脂肪酸における収縮阻害実験)の結果を示す。
【0042】
図13図13は、マグヌス試験(アカモク中の成分の組み合わせにおける収縮阻害実験)の結果を示す。
【0043】
図14図14は、マグヌス試験(アカモク中の成分のEPAおよびステアリドン酸における含有量別収縮阻害実験)の結果を示す。
【0044】
図15図15は、in vivo試験で使用する酢酸誘発頻尿モデルラットの準備工程を示す。
【0045】
図16図16は、酢酸誘発頻尿モデルラットへの作用(シストメトリー)結果の代表例を示す。
【0046】
図17A図17Aは、酢酸誘発頻尿モデルラットを用いたin vivo試験(アカモクキス95%エタノール抽出物)における最大膀胱内圧、基線圧、及び閾値圧に関する結果を示す。
【0047】
図17B図17Bは、酢酸誘発頻尿モデルラットを用いたin vivo試験(アカモクキス95%エタノール抽出物)における排尿間隔、一回排尿量、及び単位時間排尿回数に関する結果を示す。
【0048】
図18図18は、酢酸誘発頻尿モデルラットを用いたin vivo試験(アカモクキス50%エタノール抽出物)の結果を示す。
【0049】
図19図19は、酢酸誘発頻尿モデルラットを用いたin vivo試験(アカモクキス水抽出物)の結果を示す。
【0050】
図20図20は、酢酸誘発頻尿モデルラットを用いたin vivo試験(アカモク由来フコキサンチンFx経口投与)の結果を示す。
【0051】
図21図21は、CYP誘発頻尿(膀胱炎)モデルラットを用いたin vivo試験(アカモク95%エタノール抽出物50mg/kg)の結果を示す。
【0052】
図22A図22Aは、5α還元酵素阻害作用実験(HPLC法)の結果を示す。
【0053】
図22B図22Bは、5α還元酵素阻害作用実験(HPLC法)の結果を示す。
【0054】
図23図23は、アンドロゲン受容体(AR)結合阻害作用実験の結果を示す。
【0055】
図24図24は、ヒト前立腺癌由来細胞LNCaP.FGCにおける細胞増殖抑制作用実験の結果を示す。
【0056】
図25図25は、ラット前立腺肥大モデルにおける薬効評価実験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0057】
以下、この発明の一実施形態を、図面や表を参照しながら説明する。
【0058】
(本発明の実施形態)
上述したように、本発明者らは、上述の目的を達成するために、多種多様な天然素材を試す中で、安価で資源豊富で、容易に入手および摂取できる素材として、海藻の一種であるアカモク(Sargassum Horneri)に着目した。
【0059】
アカモクは、ヒジキ等と同属である、ヒバマタ目、ホンダワラ科ホンダワラ属の多年性褐藻類であり、北海道東部を除く日本全国の海岸、朝鮮半島から中国・ベトナム北部に渡って幅広く分布する。特に、ホンダワラ属は、「大西洋サルガッサム巨大ベルト」と呼ばれる程の資源量がある。
【0060】
そして、アカモクは、フコイダンとアルギン酸を始めとする多糖類、ミネラル、フコキサンチン、多価不飽和脂肪酸およびポリフェノールなどの様々な成分を含んでおり、美容や健康に良い薬理効果と機能性があることが知られている。
【0061】
発明者らは、上述のようなアカモクの資源量の多さ及び多機能性に着目し、当該アカモクを含む海藻類に排尿障害予防または改善に寄与する機能を奏する可能性、特に、排尿障害の2大要因である過活動膀胱及び前立腺肥大に作用する可能性があるとの仮説を立て、鋭意実験を重ねることによって当該機能を奏する要件を同定し、本発明を完成するに至ったものである。
【0062】
本発明を構成及び機能を説明するため、まず、排尿障害の2大要因について説明する。
【0063】
(過活動膀胱)
前述したように、排尿障害の二大要因の一つとして過活動膀胱がある。
【0064】
過活動膀胱による排尿障害は、神経因性と神経以外の原因で起こる非神経因性のものが存在する。前者は、脳血管障害、パーキンソン病、多系統萎縮症、認知症などの脳の神経障害から、または脊髄損傷、多発性硬化症、脊髄小脳変性症状などの脊髄の神経障害のために脳と膀胱(尿道)の筋肉に関連する神経の回路に障害が起き、排尿障害につがなる可能性もある。また、上記前立腺肥大症に合併したり、出産などによる骨盤低筋の弱くなったりしたために排尿障害に発展することもある。
【0065】
これらの治療薬には、膀胱の収縮および弛緩をコントロールする抗コリン薬やβ3アドレナリン受容体作動薬などが一般的である。しかしながら、抗コリン薬には口の渇き、便秘、目の調節障害等の副作用があり、β3アドレナリン受容体作動薬には、生殖可能な年齢の患者への投与を避けた方が良いとされる年齢制限がある。
【0066】
(前立腺肥大)
また、排尿障害の二大要因のもう一つに前立腺肥大がある。前立腺肥大は、前立腺が尿道の周囲を取り囲むように存在しているため、前立腺が肥大することによって尿道が狭くなり、排尿障害が生じるものである。この前立腺は男性ホルモンの一つであるテストステロンが5α還元酵素という酵素によって、より作用が強く前立腺を肥大させるジヒドロテストステロンへと変換され、このジヒドロテストステロンはアンドロゲン受容体(AR)結合をすることにより、さらなる前立腺細胞増殖を繰り返すことによって肥大化し得る。
【0067】
そのため、5α還元酵素阻害薬等の5α還元酵素を阻害する治療薬、または抗アンドロゲン薬等のアンドロゲン受容体とジヒドロテストステロン(DHT)の結合阻害を促進する治療薬および治療法の研究が現在進められている。しかしながら、これらの治療薬には、長期間の内服を必要とされ、血清テストステロン値を低下させることによる性機能障害等の副作用の存在が認められることが現状である。
【0068】
(本発明について)
これに対して、本発明者らは、資源量が豊富で安価に入手できる特定の海藻に着目し、その抽出物が、特定の条件の下、膀胱の収縮を阻害する機能を奏するとともに、5α還元酵素阻害薬等の5α還元酵素を阻害する機能を有することの知見を得、それを実験で確かめることによって本発明を完成するに至ったものである。
【0069】
すなわち、本発明は、海藻由来抽出物を含むことを特徴とする、排尿障害予防または改善用の機能性食品である。
【0070】
ここで、本発明の第1の実施形態によれば、上記海藻由来抽出は、海藻を特定濃度のエタノール溶液によりエタノール抽出するものである。この海藻としてはアカモクであることが好ましい。また、抽出に使用するエタノール溶液の濃度は50%、さらに好ましくはエタノール溶液の濃度は90%以上、抽出エキス濃度は300μg/mL以上、さらに好ましくは1mg/mLであることが好ましい。
【0071】
例えば、この第1の実施形態の機能性食品は、以下のようにして製造可能である。
【0072】
この実施形態では、国産アカモクを用いた例を図1に示すフローチャートを参照して説明する。
【0073】
まず、この国産アカモク3.6kgを、上水72Lを用いて一晩(16時間)浸漬した後、上水ですすぎ洗いながら脱塩処理を行う。その後、室温で送風機によって含水率10%以下に乾燥させる。
【0074】
次に、このように乾燥処理したアカモクを、5倍量の95%のエタノール溶液あるいは20倍量の50%のエタノール溶液に浸し、浸漬あるいは撹拌によって抽出を行う。抽出は室温で1時間から16時間行う。それにより、回収した抽出溶液は、減圧濃縮機で1/50以下の体積に濃縮した後、遠心型減圧濃縮機で溶媒を除去させてアカモクエタノール抽出物を回収する。
【0075】
この実施形態では、回収したアカモクエタノール抽出物をそのまま容器に封入し、機能性食品とする。
【0076】
ただし、機能性食品はそのような形態に限定されるものではなく、上記で生成したアカモクエタノール抽出物を植物油脂等で希釈溶解してソフトカプセル剤等の形態に加工することによって、機能性食品とすることができる。
【0077】
また、本発明の第2の実施形態は、以下のようにして製造可能である。
【0078】
国産アカモクを、20倍量の上水に浸し、浸漬または撹拌抽出によって抽出を行う。抽出は水(室温)または熱水(70~90℃)で1時間から一晩かけて行う。それにより回収した抽出溶液は減圧濃縮機で1/50以下の体積に濃縮した後、遠心型減圧濃縮機または凍結乾燥機もしくは噴霧乾燥機(スプレードライヤー)で乾燥させ、アカモク水(熱水)抽出物として回収する。
【0079】
この実施形態では、回収したアカモク水(熱水)抽出物をそのまま容器に封入し、機能性食品とする。
【0080】
ただし、機能性食品はそのような形態に限定されるものではなく、上記で生成したアカモク水(熱水)抽出物を錠剤、カプセル剤、あるいは水溶性である特性を活用して清涼飲料水、ゼリー等の形態に加工することによって、機能性食品とすることができる。
【0081】
以下、上記のように生成したアカモク由来抽出物を含む機能性食品が過活動膀胱及び前立腺肥大に対して有効に作用するか検討するために行った実験及びその実験結果を説明する。
【0082】
[実験1]アカモクエキスの抽出及び効果評価のための準備
この実験1では、アカモク含有成分が過活動膀胱に対して有効に作用するのかを効果評価するために、まず、図2に示すフローチャートに従って、アカモク95%EtOH(エタノール溶液)抽出物(アカモクエキス)を得た。
【0083】
さらに、後で説明するさらなる抽出物質の分析のために、粗精製により、脂溶性を有するn-Hex(nヘキサン)、MeCN(アセトニトリル)、CHCl(recovery)クロロホルム回収(不溶物を再溶解)の各画分を得た。
【0084】
[実験2]マグヌス試験(アカモクエキス1mg/mL)<1mMACh収縮阻害試験>
実験2では、収縮/弛緩作用の評価を行うマグヌス装置を用いたin vitro試験を行うことによって、アカモクエキスのアセチルコリン(ACh)誘発収縮に対する影響を検討した。
【0085】
図3に示すように、まず、ラットから摘出した膀胱平滑筋切片を作製し、マグヌス管の中心部にセットした。前記実験1で得たアカモクエキスをマグヌス槽に添加し、30分後に1mM AChを添加し収縮を惹起した。またこの実験においては、アカモク抽出物の濃度および放置時間を変更することによって、収縮に対する作用に最適な濃度および時間を検討した。
【0086】
図4の左2つのグラフでは、X軸が、比較対象、アカモクエキス1mg/mL 10分、アカモクエキス1mg/mL 30分のピークと静止相の時間差での収縮抑制を示すものである。図4の右2つのグラフでは、X軸が、比較対象コントロール、アカモクエキス1mg/mL 30分、アカモクエキス10μg/mL 30分のピークと静止相でアカモクエキスの濃度差での収縮抑制度を示すものである。
【0087】
結果として、1mM ACh(アセチルコリン)収縮を最も有意に抑制するのは、実験1で得たアカモクエキス1mg/mL 30分であることがわかった。
【0088】
[実験3]マグヌス試験結果(アカモクエキス1mg/mL)<80mM KCl収縮阻害試験、10mM carbacol収縮阻害試験>
次に、アカモクエキス1mg/mLをマグヌス槽に添加し、5分後に80mM KCl又は30分後にアセチルコリン誘発をさらに促進する10mMのカルバコール(carbacol)を夫々別々に添加し、収縮を惹起することによって、より強い収縮の状況下におけるアカモクエキスによる抑制効果を検討した。
【0089】
図5の左側のグラフでは、80mM KClによる収縮に対するアカモクエキス1mg/mLの収縮抑制と、右側のグラフの10mMのカルバコールによる収縮に対するアカモクエキス1mg/mL収縮抑制の比較を示す。
【0090】
図5に示すように、アカモクエキス1mg/mLは、10mM carbacol添加による収縮が促進された状況下においても、実験1のアカモクエキスは収縮を有意に抑制したことがわかった。
【0091】
[実験4]マグヌス試験結果(アカモクエキス分液画分300μg/mL)<80mM KCl収縮阻害試験>
この実験4では、実験1で粗精製によって取得したアカモクエキス中の脂溶性の各分画物(夫々濃度300μg/mL)のn-Hex(nヘキサン)、MeCN(アセトニトリル)、CHCl(recovery)クロロホルム回収(不溶物を再溶解)について収縮に対する抑制作用を検討した。
【0092】
図6に示すように、X軸は、比較対象、n-Hex(nヘキサン)、MeCN(アセトニトリル)、CHCl(recovery)クロロホルム回収(不溶物を再溶解)の各分画物の収縮抑制を比較し、Y軸は、80mM KCl収縮率を表す。
【0093】
結果として、上述の各分画物中、特にアカモクエキス中のMeCN(アセトニトリル)画分が有意に抑制することがわかった。
【0094】
[実験5]マグヌス試験結果(アカモクエキス分液画分300μg/mL)<1mM ACh収縮阻害試験>
この実験5では、実験4に加え、さらに、アカモクエキス中各分画物(夫々濃度300μg/mL)n-Hex(nヘキサン)、MeCN(アセトニトリル)、CHCl(recovery)クロロホルム回収(不溶物を再溶解)について、一定の期間観察することによって、特にどのPhaseで収縮抑制が有効に作用するのかを検討した。
【0095】
図7の左のグラフでは、X軸は、比較対象、n-Hex(nヘキサン)、MeCN(アセトニトリル)、CHCl(recovery)クロロホルム回収(不溶物を再溶解)の各分画物の収縮抑制のearly phase(早期)と図7の右のグラフのPlateau phase(定常期)を示す。Y軸は、80mM KCl収縮率を表す。
【0096】
結果として、図7の両グラフに示すように、early phase(早期)よりも、特にPlateau(Tonic)phaseにおいて、収縮を有意に抑制した。また、各分画物中、特にMeCN(アセトニトリル)画分のPlateau(Tonic)phaseにおいて、収縮を有意に抑制した。
【0097】
[実験6]マグヌス試験結果(アカモクエキス分液画分100μg/mL)<1mM ACh収縮阻害試験>
この実験6では、実験5のアカモクエキス分液画分の濃度300μg/mLを100μg/mLに変えて、実験5と同様の実験を行い、Plateau phase(定常期)でどのような差異が生じるかを検討した。
【0098】
結果として、図8の両グラフに示すように、実験5の結果と同様に、Plateau(Tonic)phase収縮を有意に抑制した。また、各分画物中、特にMeCN(アセトニトリル)画分のPlateau(Tonic)phaseにおいて、収縮を有意に抑制した。
【0099】
[実験7]マグヌス試験結果(アカモクエキス分液画分)<ACh累積投与収縮阻害試験>
実験5および6の結果に基づき、3つの画分中でより収縮を有意に抑制したMeCN(アセトニトリル)画分を、夫々100μg/mL、300μg/mL、および1mg/mLと濃度を変化させて比較した。
【0100】
図9に示すように、MeCN画分は、AChの濃度反応曲線を濃度依存的に右にシフトさせた。これにより、MeCN(アセトニトリル)画分の濃度が高いほど収縮を有意に抑制することがわかった。
【0101】
[実験8]マグヌス試験(収縮阻害実験)<抽出エタノール濃度の検討実験>
上述と同様の収縮/弛緩作用の評価を行うマグヌス装置を用いたin vitro試験に基づき、アカモクエキス(夫々95%エタノール抽出物、50%エタノール抽出物、水抽出物)で濃度100μg/mL、300μg/mL、1000μg/mLをマグヌス槽に添加し、30分後に収縮薬剤である80mM KClを添加し収縮を惹起した。その後、ラットから摘出した膀胱平滑筋切片の張力(収縮力)を測定し、夫々のエタノールの濃度、抽出物の濃度における収縮阻害効果の評価を行い、収縮が有意に抑制される最適な濃度を検討した。
【0102】
図10A図10Cにおいて、マグヌス試験による収縮阻害実験の結果を示す。図10A図10Cのグラフは、X軸において、比較対象コントロールのエタノールのみ、100μg/mL、300μg/mL、および1000μg/mLのアカモクエキス、Y軸には80mM KClによる収縮の割合を示す。
【0103】
図10Aに示すように、アカモクエキス(95%エタノール抽出物)では、300μg/mLおよび1000μg/mLのアカモクエキスの量で有意に抑制した。
【0104】
図10Bに示すように、アカモクエキス(50%エタノール抽出物)では、300μg/mLおよび1000μg/mLのアカモクエキスの量で有意に抑制した。
【0105】
[実験9]マグヌス試験(海藻12種類の95%エタノール抽出物および水抽出物における収縮阻害実験)
この実験は、マグヌス装置を用いたin vitro試験によって、他の海藻の抽出物の過活動膀胱への作用を検討したものである。
【0106】
検証した海藻は、アカモクの他に、緑藻であるアオサ、アオノリ、褐藻であるコンブ、アラメ、カジメ、ワカメ、メカブ、ヒジキ、モズク、紅藻であるテングサ、ダルス、岩ノリ(スサビノリ・アサクサノリ)である。各海藻を95%エタノールまたは水で抽出し、1mg/mLの抽出物を使用した。また、収縮を惹起させるため、収縮薬剤である80mM KClを添加した。その後、ラットから摘出した膀胱平滑筋切片の張力(収縮力)を測定し、収縮阻害効果の評価を行った。
【0107】
図11A図11Bに、マグヌス試験による各海藻による収縮阻害実験の結果を示す。図11A図11Bのグラフは、X軸において、比較対象のエタノールのみ、左から緑藻であるアオサ、アオノリ、褐藻であるコンブ、アラメ、カジメ、ワカメ、メカブ、ヒジキ、モズク、紅藻であるテングサ、ダルス、岩ノリ(スサビノリ・アサクサノリ)順に示し、Y軸には80mM KClによる収縮の割合を示す。
【0108】
図11Aに示すように、海藻12種類の95%エタノール抽出物において、アオサで平均77.7%、アオノリで平均74.2%、コンブで平均76.9%、アラメで平均64.9%、カジメで平均79.6%、ワカメで平均79.2%、メカブで平均70.7%、ヒジキで平均47.4%、モズクで平均67.5%、テングサで平均66.8%、ダルスで平均85.6、岩ノリで平均76.7%収縮を抑制した。特に、アラメ、ヒジキ、モズク、およびテングサで有意に抑制した。
【0109】
図11Bに示すように、海藻12種類の水抽出物において、アオサで平均87.3%、アオノリで平均89.7%、コンブで平均102.4%、アラメで平96.2%、カジメで平均96.1%、ワカメで平均93.6%、メカブで平均96.0%、ヒジキで平均96.8%、モズクで平均94.2%、テングサで平均84.8%、ダルスで平均102.7、岩ノリで平均98.3%という割合でいずれも有意差がなく、収縮を抑制しなかった。
【0110】
これにより、12種類の海藻いずれも、95%エタノール抽出物において、収縮を有意に抑制することがわかった。
【0111】
[実験10]マグヌス試験(アカモク中の成分の不飽和脂肪酸における収縮阻害実験)
次に、マグヌス装置を用いたin vitro試験によって、アカモク中の成分である不飽和脂肪酸(EPA、アラキドン酸、ステアリドン酸、αリノレン酸)の過活動膀胱への作用を成分別に検討した。すなわち、成分別に分析することにより、その成分がより過活動膀胱への作用を有するのかを検証した。
【0112】
各脂肪酸の濃度は、アカモク95%エタノール抽出物中の含有量(日本食品分析センター;JFRL定量分析)から設定した。具体的には、EPAの含有量を71μg/mL、アラキドン酸の含有量を44μg/mL、ステアリドン酸の含有量を47μg/mL、αリノレン酸の含有量を36μg/mLと設定した。比較対象は、エタノールとした。また、上述の実施例と同様に、収縮を惹起させるため、収縮薬剤である80mM KClを添加した。その後、ラットから摘出した膀胱平滑筋切片の張力(収縮力)を測定し、収縮阻害効果の評価を行った。
【0113】
図12は、マグヌス試験によるアカモクの各成分による収縮阻害実験の結果を示したものである。図12のグラフは、X軸において、左から、比較対象のエタノール、EPA、アラキドン酸、ステアリドン酸、αリノレン酸の成分含有量順に示し、Y軸には80mM KClによる収縮の割合を示す。
【0114】
図12に示すように、エタノールにおいて平均91.0%、EPAで平均78.2%、アラキドン酸で平均82.0%、ステアリドン酸で平均68.5%、αリノレン酸で平均86.8%収縮を抑制した。特に、EPAおよびステアリドン酸で有意に抑制した。これにより、アカモクエキス中のEPAおよびステアリドン酸という成分に収縮抑制をする作用が含まれることがわかった。
【0115】
[実験11]マグヌス試験(アカモク中の成分の組み合わせにおける収縮阻害実験)
次に、アカモク中の成分である不飽和脂肪酸(EPA、アラキドン酸、ステアリドン酸、αリノレン酸)において、EPA、アラキドン酸、αリノレン酸の組み合わせによる過活動膀胱への作用を検討した。すなわち、組み合わせを変えることによって、成分の作用の相加相乗効果を検討した。
【0116】
各脂肪酸の濃度は、アカモク95%エタノール抽出物中の含有量(JFRL定量分析)から設定した。EPA+アラキドン酸+およびαリノレン酸の組み合わせ、EPA+アラキドン酸の組み合わせ、EPA+αリノレン酸の組み合わせを比較とした。比較対象は、EPAのみとした。また、上述の実施例と同様に、収縮を惹起させるため、収縮薬剤である80mM KClを添加した。その後、ラットから摘出した膀胱平滑筋切片の張力(収縮力)を測定し、収縮阻害効果の評価を行った。
【0117】
図13は、マグヌス試験によるアカモクの各成分の組み合わせによる収縮阻害実験の結果を示す。図13のグラフは、X軸において、左から、比較対象のEPA、EPA+アラキドン酸+αリノレン酸の組み合わせ、EPA+アラキドン酸の組み合わせ、EPA+αリノレン酸の組み合わせの順に示し、Y軸には80mM KClによる収縮の割合を示す。
【0118】
図13に示すように、EPAで平均78.2%、EPA+アラキドン酸+αリノレン酸の組み合わせで平76.8%、EPA+アラキドン酸の組み合わせで平均78.8%、EPA+αリノレン酸の組み合わせで平均75.7%収縮を抑制した。結果、EPA単独と比較して、夫々の組み合わせに有意差がなく、相加相乗効果が無いことが明らかとなった。
【0119】
[実験12]マグヌス試験(アカモク中の成分のEPAおよびステアリドン酸における含有量別収縮阻害実験)
この実験では、アカモク中の成分である不飽和脂肪酸(EPA、アラキドン酸、ステアリドン酸、αリノレン酸)において、上述の実験10で有意に抑制したEPAおよびステアリドン酸の濃度を調整し再度実験を行った。
【0120】
各脂肪酸の最高濃度は、アカモク95%エタノール抽出物中の含有量(JFRL定量分析)から設定した。EPA7.1μg/mL、EPA21.3μg/mL、EPA71μg/mL、ステアリドン酸4.7μg/mL、ステアリドン酸14.1μg/mL、ステアリドン酸47μg/mLに設定した。また、上述の実施例と同様に、収縮を惹起させるため、収縮薬剤である80mM KClを添加した。その後、ラットから摘出した膀胱平滑筋切片の張力(収縮力)を測定し、収縮阻害効果の評価を行った。
【0121】
図14は、マグヌス試験によるアカモクの各成分の組み合わせによる収縮阻害実験の結果を示すものである。図14のフラフは、X軸において、左から、比較対象のエタノール、EPA7.1μg/mL、EPA21.3μg/mL、EPA71μg/mL、ステアリドン酸4.7μg/mL、ステアリドン酸14.1μg/mL、ステアリドン酸47μg/mLの順に示し、Y軸には80mM KClによる収縮の割合を示す。
【0122】
図14に示すように、エタノールで平均90.1%、EPA7.1μg/mLにおいて平均91.1%、EPA21.3μg/mLにおいて平均87.2%、EPA71μg/mLにおいて平均73.3%、ステアリドン酸4.7μg/mLにおいて平均87.8%、ステアリドン酸14.1μg/mLにおいて平均89.5%、ステアリドン酸47μg/mLにおいて平均75.6%収縮を抑制した。結果、EPAおよびステアリドン酸の濃度が高いほど有意性が見られることがわかった。
【0123】
[実験13]酢酸誘発頻尿モデルラットを用いたin vivo試験(アカモクエキス95%エタノール抽出物)
この実験では、ウレタン麻酔下、生理食塩水で希釈した0.1%酢酸をラット膀胱に直接注入することにより、膀胱過敏を誘起し、急性(慢性)頻尿の症状のあるモデルラットを作成し、酢酸誘発頻尿モデルラットを用いたin vivo試験を行ったものである。図15の概略図に示すように、アカモク95%エタノール抽出物、50mg/mL単回経口投与前後の膀胱内圧および排尿量をウレタン麻酔下シストメトリー法により経時的に測定した。これにより、アカモク95%エタノール抽出物のラットにおける頻尿状態への影響を検討した。
【0124】
アカモクエキス投与前後の排尿機能を比較(単回投与)した。
【0125】
投与サンプルは、
比較対象(vehicle)=0.5%メチルセルロース(MC)溶液
アカモクエキス=アカモクエキス50mg/mL MC溶液
である。
【0126】
また、シストメトリー測定項目を以下に記載する。
【0127】
<シストメトリー測定項目>
・最大膀胱内圧(排尿時圧)
・基線圧
・閾値圧
・排尿間隔
・1回排尿量
酢酸誘発頻尿モデルラットへの作用(シストメトリー)結果の代表例(最大膀胱内圧(排尿時圧)、一回排尿量、および排尿間隔を図16に示す。このようにして得られた個々のデータを解析し、後述する。
【0128】
図17Aに示すように、左のグラフから最大膀胱内圧(mmHg)、基線圧(mmHg)、閾値圧(mmHg)を夫々数値化した。各グラフのX軸は、比較対象の0.5%メチルセルロース(MC)溶液のみ投与されたラットと比較して、アカモク95%エタノール抽出物50mg/mL MC溶液を経口投与されたモデルラットの最大膀胱内圧(mmHg)、基線圧(mmHg)、および閾値圧(mmHg)を比較した。このとき最大膀胱内圧および基線圧、閾値圧(mmHg)には影響を与えなかった。
【0129】
さらに、図17Bに示すように、左のグラフから排尿間隔(分)、一回排尿量(mL)、単位時間排尿回数(回/時間)を夫々数値化した。各グラフのX軸は、比較対象0.5%メチルセルロース(MC)溶液を投与されたラットと比較して、アカモク95%エタノール抽出物を経口投与されたモデルラットの排尿間隔が3.92分から8.79分に延長した。また、単位時間あたりの排尿回数が19.41から9.14回/時間に減少した。さらに一回排尿量が0.39から0.74mLに増加した。結果、アカモク95%エタノール抽出物を経口投与された頻尿モデルラットの症状を有意に改善した。
【0130】
[実験14]酢酸誘発頻尿モデルラットを用いたin vivo試験(アカモクエキス50%エタノール抽出物)
実験13で作成した急性(慢性)頻尿の症状のあるモデルラットを使用し、アカモク50%エタノール抽出物、50mg/mL MC溶液をモデルラット(n=7)に経口投与した。図18のグラフに示すように、ラットの排尿間隔、一回排尿量、および単位時間排尿回数を測定項目とし、比較対象0.5%メチルセルロース(MC)溶液を投与されたラットと頻尿症状のあるモデルラットを比較した。これにより、アカモク50%エタノール抽出物のラットにおける頻尿状態への影響を検討する。
【0131】
図18に示すように、左のグラフから排尿間隔(分)、一回排尿量(mL)、単位時間排尿回数(回/時間)を夫々数値化した。各グラフによると、比較対象の0.5%メチルセルロース(MC)溶液を投与されたラットと比較し、アカモク50%エタノール抽出物を経口投与されたモデルラットの排尿間隔が6.94分から11.09分に延長した。また、単位時間あたりの排尿回数が11.39から6.75回/時間に減少した。さらに一回排尿量が0.56から0.62mLに増加した。結果、アカモク50%エタノール抽出物を経口投与されたモデルラットの頻尿の症状を有意に改善した。
【0132】
[実験15]酢酸誘発頻尿モデルラットを用いたin vivo試験(アカモクエキス水抽出物)
実験13で作成した急性(慢性)頻尿の症状のあるモデルラットを使用し、アカモク水抽出物、50mg/mL水溶液をモデルラットに経口投与した。図19のグラフに示すように、ラットの排尿間隔、一回排尿量、および単位時間排尿回数を測定項目とし、比較対象超純水を投与されたラットと比較した。これにより、アカモク水抽出物のラットにおける頻尿状態への影響を検討する。
【0133】
図19に示すように、左のグラフから排尿間隔(分)、一回排尿量(mL)、単位時間排尿回数(回/時間)を夫々数値化した。各グラフによると、比較対象の0.5%メチルセルロース(MC)溶液を投与されたラットと比較して、アカモク水抽出物を経口投与されたモデルラットの排尿間隔が6.60分から13.28分に延長した。また、単位時間あたりの排尿回数12.79から6.28回/時間に減少した。さらに一回排尿量が0.43から0.79mLに増加した。結果、アカモク水抽出物を経口投与された頻尿モデルラットの症状を有意に改善した。
【0134】
なお、前述したアカモクのエタノール抽出物ではマグヌス試験およびシストメトリー試験で有効性が認められ、その作用機序として膀胱平滑筋を構成ずる細胞上に存在するムスカリン受容体を介する、あるいは膜脱分極性による膀胱平滑筋収縮を抑制しているであろうと推察される。
【0135】
これに対して、アカモク水抽出物はマグヌス試験で効果が認めていないが(図10C)、このシストメトリー試験で効果が認められた。
【0136】
すなわち、アカモク水抽出物は、エタノール抽出物と異なる作用機序によりIn vivoのシストメトリー試験で頻尿改善が認められたと推察している。
【0137】
また、一般的に、エタノール抽出物よりも、水あるいは熱水抽出の方が安価かつ簡単に製造することができるという効果もある。さらには、水よりも熱水(約70℃~90℃)において、効果があることが推察される。
【0138】
[実験16]酢酸誘発頻尿モデルラットを用いたin vivo試験(アカモク由来フコキサンチンFx経口投与)
実験13で作成した急性(慢性)頻尿の症状のあるモデルラットを使用し、アカモク由来フコキサンチンFx(MC溶液)0.5mg/kgをモデルラットに経口投与した。なお、アカモク由来フコキサンチンFx(MC溶液)0.5mg/kgはアカモク95%エタノール抽出物50mg/kgに相当する。図20のグラフに示すように、ラットの排尿間隔、一回排尿量、および単位時間排尿回数を測定項目とし、比較対象0.5%メチルセルロース(MC)溶液を投与されたラットと比較した。
【0139】
図20に示すように、アカモク由来フコキサンチン0.5mg/kgは0.1%酢酸誘発頻尿において、有意に改善した。また、一回排尿量を増加し、単位時間当たりの排尿回数を減少させた。また、排尿間隔は延長傾向を示した。結果、アカモク由来フコキサンチンFx0.5mg/kgを経口投与されたモデルラットの頻尿の症状を有意に改善した。
【0140】
[実験17]CYP誘発頻尿(膀胱炎)モデルラットを用いたin vivo試験(アカモク95%エタノール抽出物50mg/kg)
シクロホスファミド(CYP)を腹腔内注射して、CYP誘発頻尿(膀胱炎)のモデルラットを作成し、アカモク95%エタノール抽出物25mg/kg MC溶液を一日二回モデルラットに経口投与した(アカモク95%エタノール抽出物50mg/kg/Day MC溶液)。図21のグラフに示すように、ラットの排尿間隔、一回排尿量、および単位時間排尿回数を測定項目とし、比較対象0.5%メチルセルロース(MC)溶液を投与されたラットと比較した。
【0141】
図21に示すように、左のグラフから排尿間隔(分)、一回排尿量(mL)、単位時間排尿回数(回/時間)を夫々数値化した。各グラフによると、CYPを投与されたラットと比較して、アカモク95%エタノール抽出物50mg/kg/Day MC溶液を経口投与されたモデルラットの排尿間隔が4.3分から14.6分に延長した。また、単位時間あたりの排尿回数が20.0から7.4回/時間に減少した。さらに一回排尿が0.26から0.77mLに増加した。結果、アカモク95%エタノール抽出物50mg/kg/Day MC溶液を経口投与されたモデルラットのCYP誘発頻尿(膀胱炎)の症状を有意に改善した。
【0142】
[実験18]5α還元酵素阻害作用実験(HPLC法)
上述したように、前立腺を肥大させる男性ホルモンのテストステロンをジヒドロテストステロンへと変換させる5α還元酵素に対するアカモク抽出物の阻害作用を観察するためのin vitro試験を高速液体クロマトグラフ法(HPLC法)によって行った。
【0143】
(5α還元酵素阻害実験結果1)
図22Aに5α還元酵素阻害作用実験の結果1を示す。X軸は左から比較対象、夫々のアカモク抽出エキス濃度:10、5、2.5、1.25、0.63、および0.32mg/mlを含む50%エタノールの溶液、夫々のアカモク抽出エキス濃度:10、5、2.5、1.25、0.63、および0.32mg/mlを含む100%エタノールの溶液、夫々のアカモク抽出エキス濃度:10、5、2.5、1.25、0.63、および0.32mg/mlを含むアカモク水抽出物(0%エタノール)、およびノコギリヤシ(SPE)濃度:10、5、2.5、1.25、0.63、および0.32mg/mlを比較した。Y軸は、5α還元酵素阻害率(%)を示す。
【0144】
夫々のアカモク抽出エキス濃度:10.0、5.0、2.5、1.25、0.63、および0.32mg/mlを含む100%エタノールの溶液で阻害率が高く、0.32mg/mlのアカモク抽出エキス濃度では5α還元酵素阻害が約18%、0.63mg/mlのアカモク抽出エキス濃度では5α還元酵素阻害が約39%、1.25mg/mlのアカモク抽出エキス濃度では5α還元酵素阻害が約61%、2.5mg/mlのアカモク抽出エキス濃度では5α還元酵素阻害が約78%、5.0mg/mlのアカモク抽出エキス濃度では5α還元酵素阻害が約91%、10.0mg/mlのアカモク抽出エキス濃度では5α還元酵素阻害が約96%と、アカモク抽出エキス濃度が高くなるほど阻害率が上昇した。
【0145】
(5α還元酵素阻害実験結果2)
図22Bに5α還元酵素阻害作用実験の結果2を示す。抽出するエタノールの濃度を変えたアカモクと、メカブ、コンブ、ダルス、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、フコキサンチン(Fucoxanthin)、フコキサンチノール(Fucoxanthinol)の夫々の濃度で比較した。図22Bに示すように、100%エタノールの溶液の10.0mg/mlのアカモク抽出エキス濃度では5α還元酵素阻害が約87%、また100%エタノールの溶液の5.0mg/mlのアカモク抽出エキス濃度では、5α還元酵素阻害が約87%と、阻害率がかなり高いことを示した。また、95%エタノール溶液中のアカモク抽出エキス濃度において、濃度が高くなるにつれて5α還元酵素阻害率が上昇することを示した。また、95%エタノール溶液中における1.25mg/ml以上のアカモク抽出エキス濃度では、他の種および他の物質と比較して、5α還元酵素阻害率が高いことがわかった。
【0146】
[実験19]アンドロゲン受容体(AR)結合阻害作用実験
次に、上述したように、5α還元酵素によって変換されたジヒドロテストステロンをさらに前立腺細胞増殖させ、肥大化させるAR結合に対するアカモク抽出物の阻害作用を観察するためのIn vitro試験を行った。
【0147】
ARを介したアンタゴニスト作用を評価する目的で大塚製薬が開発したAR-Eco Screen Assayシステムを用いて検討した。テストステロンから変換されたジヒドロテストステロン(DHT)がARに結合すると化学発光するため、DHTと被験物質を共添加した際に蛍光強度が低くなればAR結合阻害作用があることが示唆される。また、0.2nMDHTおよび0.1%DMSOを含むアカモク95%エタノール抽出物エキスにおけるルシフェラーゼ活性を検討した。
【0148】
図23にAR結合阻害作用結果を示す。図23左の表において、X軸はアカモク抽出物エキスの量(mg/ml)を示し、Y軸が化学発光強度を表す。四角点が0nMDHTを含むアカモク抽出物エキスであり、三角点が0.2nMDHTを含むアカモク抽出物エキスである。0.2nMDHTを含むアカモク抽出物エキスは0nMDHTを含むアカモク抽出物エキスに比べて、急激に化学発光強度が弱くなったことからアンドロゲン受容体結合を阻害している可能性が示唆された。図23右の表において、X軸はアカモク抽出物エキスの量(-log g/ml)を示し、Y軸がルシフェラーゼ活性を表す。約6.6-log g/mlでルシフェラーゼ活性が低下し始め、4.0-log g/mlで活性が0まで減少した。
【0149】
[実験20]ヒト前立腺癌由来細胞LNCaP.FGCにおける細胞増殖抑制作用実験
ヒト前立腺癌由来細胞LNCaP.FGCにおける細胞増殖抑制作用を観察するためのin vitro試験を行った。具体的に、ヒト前立腺癌由来細胞LNCaP.FGCを10%のウシ胎児血清(FBS)含有RPMI1640培地を使用して96ウェルプレートの各wellに1×10cells/well・100μLとなるように播種して24時間培養後、ジヒドロテストステロン(DHT)0.1nM、0.5nM、1nM、5nM、10nM、50nM、100nMおよび夫々のDHTにアカモク95%エタノール抽出物12.5μg/mLを混合した1%のウシ胎児血清(FBS)含有RPMI1640に培地交換し、培養3日後に夫々の条件下のプレートにおける吸光度(450nm、630nm)をプレートリーダーにより測定した。
【0150】
図24にヒト前立腺癌由来細胞LNCaP.FGCにおける細胞増殖抑制作用実験結果を示す。図24のグラフにおいて、X軸はアカモク抽出物エキスの量(mg/ml)を示し、Y軸は、吸光度(450nm~630nm)を表す。すなわち、吸光度が高ければヒト前立腺癌由来細胞LNCaP.FGCの増殖が多く、低ければ細胞増殖が抑制されたことを表す。
【0151】
図24のグラフに示すように、夫々ジヒドロテストステロン(DHT)0.1nM、0.5nM、1nM、5nM、10nM、50nM、100nMにおいて、アカモク抽出物12.5μg/mLを加えた場合、DHTのみの場合と比較して吸光度が低く、ヒト前立腺癌由来細胞LNCaP.FGCにおける細胞増殖抑制していることを示した。
【0152】
[実験21]ラット前立腺肥大モデルにおける薬効評価実験
前立腺肥大の状態を有するモデルラットを使用し、ラット前立腺肥大モデルにおけるin vivoでの薬効評価実験を行った。モデルラットに対してアカモク95%エタノール抽出物を1日60mg/kg投与した。また、比較対象として、モデルラットに対して0.5%メチルセルロース溶液を投与した。この投与を28日間繰り返した後、夫々のモデルラットから前立腺を摘出し、測定した。
【0153】
図25にラット前立腺肥大モデルにおける薬効評価実験の結果を示す。図25の左の表は、夫々投与後のモデルラットの前立腺肥大の総量(mg)を示し、PIは、前立腺の指標(Prostatic index)を示す。図25の右は総量およびPIを夫々グラフにし、比較したものである。これらの表およびグラフを参照すると、比較対象を投与したラットの前立腺重量の総量の平均は1062.13mg(PI:0.399)であったのに対し、アカモク抽出物を投与したラットの前立腺重量の総量の平均は1014.50(PI:0.385)であり、減少傾向にあることがわかった。
【0154】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、この発明はこれに限定されるものではなく、発明の要旨を変更しない範囲で種々変形可能である。
【0155】
上記一実施形態の機能性食品はアカモクエキスを使用するものであったが、資源量が豊富で利用しやすい海藻由来抽出物であればアカモクと同等の効果を奏することが確認できていることから、アカモク以外の海藻を用いるものであっても良い。特に、アラメ、ヒジキ、モズク、およびテングサが、利用及び資源量の点及び効果の点から特に適している。
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