(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022100450
(43)【公開日】2022-07-06
(54)【発明の名称】情報処理装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
A63B 53/00 20150101AFI20220629BHJP
A63B 45/00 20060101ALI20220629BHJP
A63B 60/42 20150101ALI20220629BHJP
G10L 25/51 20130101ALI20220629BHJP
G01H 3/00 20060101ALI20220629BHJP
A63B 102/32 20150101ALN20220629BHJP
【FI】
A63B53/00 B
A63B45/00 Z
A63B60/42
G10L25/51
G01H3/00 Z
A63B102:32
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020214425
(22)【出願日】2020-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】592014104
【氏名又は名称】ブリヂストンスポーツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】特許業務法人大塚国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【弁理士】
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100130409
【弁理士】
【氏名又は名称】下山 治
(74)【代理人】
【識別番号】100134175
【弁理士】
【氏名又は名称】永川 行光
(72)【発明者】
【氏名】水谷 大地
(72)【発明者】
【氏名】清水 拓市
【テーマコード(参考)】
2C002
2G064
【Fターム(参考)】
2C002ZZ04
2G064AB01
2G064AB13
2G064CC01
2G064CC41
2G064CC47
2G064CC51
(57)【要約】
【課題】テスタによる打感評価を要せずにゴルフボールの打感の評価を可能とする。
【解決手段】ゴルフボールの打感を推定する情報処理装置であって、推定対象ボールの打撃音のうち、前記推定対象ボールを音源とする打撃音の特徴量を取得する特徴量取得手段と、複数種類のテストボールの各々の打撃時にテスタが感じた打感と、前記テストボールを音源とする打撃音の特徴量との間の相関を示す相関情報と、前記特徴量取得手段が取得した前記特徴量とに基づいて、前記推定対象ボールの打感を推定する推定手段と、を備える。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴルフボールの打感を推定する情報処理装置であって、
推定対象ボールの打撃音のうち、前記推定対象ボールを音源とする打撃音の特徴量を取得する特徴量取得手段と、
複数種類のテストボールの各々の打撃時にテスタが感じた打感と、前記テストボールを音源とする打撃音の特徴量との間の相関を示す相関情報と、前記特徴量取得手段が取得した前記特徴量とに基づいて、前記推定対象ボールの打感を推定する推定手段と、を備える、
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の情報処理装置であって、
前記推定対象ボールを音源とする打撃音の前記特徴量は、事前の振動実験によって得られた、前記推定対象ボールの振動特性を示す振動特性情報に基づいて特定される、
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項3】
請求項2に記載の情報処理装置であって、
前記振動特性情報は、前記推定対象ボールの複数の次数の振動モードの各固有振動数の情報を含み、
前記推定対象ボールを音源とする打撃音の前記特徴量は、前記各固有振動数に対して、所定の振動数の範囲内に音圧のピークを有する振動数を含む、
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項4】
請求項3に記載の情報処理装置であって、
前記推定対象ボールを音源とする打撃音の前記特徴量は、前記所定の振動数の範囲内に音圧のピークを有する前記振動数の音圧とその減衰時間とを含む、
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項5】
請求項1に記載の情報処理装置であって、
前記テストボールを音源とする前記打撃音は、事前の振動実験によって得られた、前記テストボールの振動特性を示す振動特性情報に基づいて特定される、
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項6】
請求項1に記載の情報処理装置であって、
前記推定対象ボールの打撃音の計測結果を取得する打撃音取得手段と、
前記打撃音取得手段が取得した前記計測結果と、事前の振動実験によって得られた、前記推定対象ボールの振動特性情報と、に基づいて、前記推定対象ボールを音源とする前記打撃音の前記特徴量を抽出する抽出手段と、を備え、
前記特徴量取得手段は、前記抽出手段が抽出した前記特徴量を取得する、
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項7】
請求項1に記載の情報処理装置であって、
前記相関情報は、
前記推定対象ボールを音源とする打撃音の前記特徴量を変数とし、前記打感のレベルを解とする演算式である、
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項8】
請求項1に記載の情報処理装置であって、
前記打感は、複数種類の評価軸で特定され、
前記複数種類の評価軸の一つは、打撃時に打撃者が感じるゴルフボールの硬さである、
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項9】
請求項1に記載の情報処理装置であって、
前記推定対象ボールの前記打撃音は、スイングロボットによる前記推定対象ボールの打撃時の打撃音である、
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項10】
請求項1に記載の情報処理装置であって、
前記推定対象ボールの前記打撃音は、アイアン型クラブ又はパタークラブによる前記推定対象ボールの打撃時の打撃音である、
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項11】
複数種類のテストボールの各々の打撃音のうち、前記テストボールを音源とする打撃音の特徴量を取得する特徴量取得手段と、
前記複数種類のテストボールの各々の打撃時に、テスタが感じた打感の情報を取得する打感情報取得手段と、
前記特徴量取得手段が取得した前記特徴量と前記打感情報取得手段が取得した前記情報とを教師データとした機械学習により、前記特徴量と前記打感との相関を示す演算式を導出する導出手段と、を備える、
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項12】
ゴルフボールの打感を推定するために、コンピュータを、
推定対象ボールの打撃音のうち、前記推定対象ボールを音源とする打撃音の特徴量を取得する特徴量取得手段、
複数種類のテストボールの各々の打撃時にテスタが感じた打感と、前記テストボールを音源とする打撃音の特徴量との間の相関を示す相関情報と、前記特徴量取得手段が取得した前記特徴量とに基づいて、前記推定対象ボールの打感を推定する推定手段、
として機能させるプログラム。
【請求項13】
コンピュータを、
複数種類のテストボールの各々の打撃音のうち、前記テストボールを音源とする打撃音の特徴量を取得する特徴量取得手段、
前記複数種類のテストボールの各々の打撃時に、テスタが感じた打感の情報を取得する打感情報取得手段、
前記特徴量取得手段が取得した前記特徴量と前記打感情報取得手段が取得した前記情報とを教師データとした機械学習により、前記特徴量と前記打感との相関を示す演算式を導出する導出手段、
として機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルファがゴルフボールを打撃した際に感じる打感を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフクラブによるゴルフボールの打撃音を解析して、ゴルフクラブの開発に役立てる技術が提案されている(特許文献1~4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-239132号公報
【特許文献2】特開2003-328707号公報
【特許文献3】特開2001-314534号公報
【特許文献4】特許第3996517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ゴルファが様々な種類のゴルフボールの中から、自分が使用するゴルフボールを選択する際に考慮する要素として、その打感がある。従来の打感の評価は、実際にゴルフボールを試打したプロゴルファ等のテスタの感想(官能評価)に依存している。ゴルフボールの開発段階において、様々な仕様のゴルフボールの打感を評価するために、その都度、テスタの試打が必要となり、開発効率に改善の余地があった。
【0005】
本発明の目的は、テスタによる打感評価を要せずにゴルフボールの打感評価が可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、例えば、
ゴルフボールの打感を推定する情報処理装置であって、
推定対象ボールの打撃音のうち、前記推定対象ボールを音源とする打撃音の特徴量を取得する特徴量取得手段と、
複数種類のテストボールの各々の打撃時にテスタが感じた打感と、前記テストボールを音源とする打撃音の特徴量との間の相関を示す相関情報と、前記特徴量取得手段が取得した前記特徴量とに基づいて、前記推定対象ボールの打感を推定する推定手段と、を備える、
ことを特徴とする情報処理装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、テスタによる打感評価を要せずにゴルフボールの打感の評価が可能な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る情報処理システムの概要図。
【
図2】(A)は相関情報の導出方法の例を示すフローチャート、(B)は打感推定方法の例を示すフローチャート。
【
図4】(A)及び(B)は打撃音の計測態様の例を示す図。
【
図9】情報処理装置の処理例を示すフローチャート。
【
図10】情報処理装置の処理例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち二つ以上の特徴が任意に組み合わされてもよい。また、同一若しくは同様の構成には同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0010】
<システムの構成>
図1は本発明の一実施形態に係る情報処理装置1を用いたシステムAの概要図である。システムAは、情報処理装置1と、マイク2と、信号処理装部3と、表示装置4と、入力装置5とを含む。
【0011】
マイク2は、ゴルファ或いはスイングロボットが、ゴルフクラブによってゴルフボールを打撃したときの打撃音を収音する装置である。信号処理部3はマイク2で収音された音声信号を処理する電気回路であり、例えば、アナログ信号をデジタル信号に変換する回路、ノイズを除去するフィルタ回路等を含む。マイク2及び信号処理部3から打撃音の時系列データを得られる。
【0012】
情報処理装置1は、打撃時にゴルファが感じるゴルフボールの打感を、打撃音から推定するコンピュータである。情報処理装置1は、互いに電気的に接続された処理部11と、記憶部12と、I/F部(インタフェース部)13と、を備える。処理部11はCPU等のプロセッサである。記憶部12は一又は複数の記憶デバイスを備える。記憶デバイスは、例えば、RAM、ROM、ハードディスク等である。記憶部12には処理部11が実行するプログラムや、各種のデータが格納される。記憶部12は、後述する相関情報、学習データ、マイク2で収音した音声信号データ等を格納するデータベース12aを備える。処理部11が実行するプログラムは、処理部11が読取可能な複数の指示から構成することができる。処理部11が実行するプログラムは、CD-ROM、DVD等の記憶媒体に記憶し、情報処理装置1にインストールすることも可能である。
【0013】
I/F部13は外部デバイスと処理部11との間でデータの入出力を行う。I/F部13には、入出力インタフェース、通信インタフェースを含むことができる。信号処理部3はI/F部13に接続されており、マイク2で収音した打撃音の計測結果は情報処理装置1によって取得される。
【0014】
情報処理装置1には表示装置4と入力装置5が接続されている。表示装置4は、例えば、液晶表示装置等の電子画像表示装置であり、情報処理装置1の処理結果(打感の推定結果等)が表示される。入力装置5はマウスやキーボードであり、情報処理装置1に対するデータの入力や動作の指示を受け付ける。
【0015】
<打感推定の流れ>
本実施形態では、打撃音からゴルフボールの打感を推定する。打感の推定は、打撃音(特にゴルフボールを音源とする打撃音の特徴量)と、打感の官能評価との相関を示す相関情報に基づいて行う。相関情報の生成において用いるゴルフボールと、打感の推定対象となるゴルフボールとを区別するために、便宜的に前者をテストボール、後者を推定対象ボールと呼ぶ。
【0016】
図2(A)及び
図2(B)を参照して大まかな処理の流れについて説明する。なお、情報処理装置1が実行する処理例については
図9及び
図10を参照して後述する。処理は、相関情報を導出する過程と、導出した相関情報を利用して推定対象ボールの打感を推定する過程とに大別される。
【0017】
<相関情報の導出>
まず、相関情報を導出する過程について
図2(A)を参照して説明する。
図2(A)は、相関情報の導出方法の例を示すフローチャートである。
【0018】
S1では、テストボールの振動特性を計測し、振動特性情報を得る。打撃音はゴルフボールを音源とする音の他に、ゴルフクラブヘッドを音源とする音や環境音を含んでいる。打撃音からゴルフボールを音源とする音を抽出するために、本実施形態ではテストボールの振動特性を計測する。
図3はボールの振動特性の計測例を示す図であり、一般的なボールの実測値を示している。ゴルフボール100は振動計測器6に搭載され、加振に対する応答特性が計測される。なお、図示していないが振動計測器には加速度センサ、力センサ、加振装置が含まれる。計測結果の固有値解析により、複数次数の振動モードにおけるゴルフボール100の固有振動数が振動特性情報として得られる。この振動特性の計測は、テストボールとして用いる複数種類のゴルフボールの各ボールについて行う。
【0019】
図示の例では、一次振動モードから四次振動モードの各固有振動数が得られた例を示している。使用する固有振動数は、本実施形態のように一次振動モードから四次振動モードに限られず、一次振動モードから二次振動モードまでとしてもよいし、一次振動モードから五次振動モード以上としてもよい。但し、ゴルフボールの打撃音と打感との関係や、演算の効率化の点で、固有振動数が1000Hz~12000Hzの範囲内に収まるように、振動モードの次数が選択されてもよい。また、テストボールの振動特性は、テストボールの物理モデルを用いた有限要素解析などのシミュレーションによって解析されてもよい。
【0020】
図2(A)に戻り、S2ではテストボールをテスタが試打し、その打撃音をマイク2で計測する。テスタは例えばプロゴルファである。試打は、打感の官能評価を伴う点で、実戦に近い環境(ゴルフ場あるいはそれに近い環境)で計測してもよい。
【0021】
図4(A)は打撃音の計測態様の例を示している。図示の例では、テスタ110がゴルフクラブ101によりテストボールであるゴルフボール100を打撃する例を示している。マイク2は例えば小型マイクであり、テスタ110に聞こえた打撃音と、マイク2で計測した打撃音とができるだけ近くなるように、テスタ110の耳元に備えられている。マイク2は例えばクリップを用いてテスタ110の耳に装着される。この打撃音の計測も、テストボールとして用いる複数種類のゴルフボールの各ボールについて行われ、計測結果は個々のテストボールを特定する個体情報と関連付けて保存される。
【0022】
図2(A)に戻り、S3では、S2で計測した打撃音の解析と、テスタが感じた打感の官能評価(打感情報)の収集とを行う。打撃音の解析では、テストボールを音源とする打撃音の特徴量を抽出する。
図5は解析例を示す図である。
【0023】
音声データD1はマイク2で計測され、信号処理部3で処理された打撃音の音声信号データ(音圧の時間的な変化)を示している。この音声信号データに対して高速フーリエ変換(FFT)を施すことにより、打撃音の周波数と音圧(音圧レベル)との関係を示す周波数特性データD2が得られる。上記の通り、打撃音には、ゴルフクラブヘッドを音源とする音や環境音が含まれている。S1で計測したテストボールの振動特性(固有振動数)を用いることで、周波数特性データD2からテストボールを音源とする打撃音の特徴量を抽出することができる。
【0024】
具体的例を説明する。テストボールの一次振動モードから四次振動モードの各固有振動数を、それぞれ、N1~N4とする。
図3の例を当てはめれば、N1=3184Hz、N2=4937Hz、N3=6851Hz、N4=8698Hzである。周波数特性データD2のうち、これらN1~N4に対応する振動数がテストボールを音源とした打撃音の特徴振動数であるということができる。
【0025】
ただし、音源である打撃されたボールは振動しながら移動するため、ドップラー効果により、マイクに届いた打撃音の振動数と、S1のテストボールの振動特性の計測結果は必ずしもピッタリ一致しない。そこで、テストボールのN1~N4に対して、所定の振動数の範囲内に音圧のピークを有する振動数を、テストボールを音源とした打撃音の特徴振動数とする。
図5の例では、N1~N4を中心として±200Hzの範囲内に音圧のピークを有する振動数を、テストボールを音源とした打撃音の特徴振動数としている。例えば、N1=3184Hzであれば、2984Hz~3384Hzの範囲内に音圧のピークがある振動数(
図5の例ではF1)がテストボールを音源とした打撃音の特徴振動数とされる。
図5の例では、テストボールのN1~N4に対して、F1~F4の特徴振動数が特定されている。特徴振動数F1~F4と、それぞれの音圧(特徴音圧)がテストボールを音源とした打撃音の特徴量とされる。なお、特徴音圧はピーク値でもよいし、上記の所定の振動数の範囲(±200Hzの範囲)での平均値(例えば、周波数F1に対応する音圧は2984Hz~3384Hzの範囲の音圧の平均値)でもよい。
【0026】
また、音声信号データD1に対してウェーブレット(wavelet)変換を施すことにより、打撃音の特徴振動数と振動の減衰時間(例えば、ピーク音圧から10%まで音圧が下がる時間)のデータD3が得られる。特徴振動数F1~F4の減衰時間が得られ、テストボールを音源とした打撃音の特徴量(特徴減衰時間)とされる。
【0027】
以上により、本実施形態では、テストボールを音源とした打撃音の特徴量として、テストボールの固有振動数N1~N4に対応した打撃音の特徴振動数F1~F4、特徴振動数F1~F4における特徴音圧(音圧レベル)、及び、特徴振動数F1~F4の特徴減衰時間を用いる。これらの特徴量は個々のテストボールを特定する個体情報と関連付けて保存される。なお、テストボールを音源とした打撃音の特徴量としては、本実施形態ではこれら3つの量を用いるが、3つの量のうちの一つ、或いは、二つを用いてもよい。
【0028】
図6は打感の種類(評価軸)と数値化の例を示す。図示の例では、ゴルフボールの硬さ、重さの2種類の打感の評価軸を例示している。しかし、打感の評価軸は1種類であってもよいし、3種類以上であってもよい。
【0029】
硬さは、打撃時にテスタが感じたゴルフボールの感触が硬いか、軟らかいかに関わる評価軸である。重さは、打撃時にテスタが感じたゴルフボールの重量感覚が、重いか、軽いかに関わる評価軸である。
【0030】
各種類は、11段階で数値化されている。各テストボールの3種類の打感のスコアをテスタに申告してもらい、打感情報としてテストボールの種類と関連付けて保存される。テストボールの”0”は平均的な感触を意味する。テスタには、打感の評価の基準(数値が0)となるゴルフボールを最初に試打してもらい、基準ボールとの比較でスコアをつけてもらうようにしてもよい。
【0031】
図2(A)に戻り、S4では、S3のテストボールを音源とした打撃音の特徴量と打感情報を利用して相関情報を生成する。相関情報としては、演算式の形態の他、分類ルールの形態を採用可能である。ここでは、相関情報を演算式として導出する例について説明し、特に、演算式を機械学習により導出する例について説明する。
【0032】
図7は、機械学習に用いる学習データの例を示している。学習データは、テストボール毎に、特徴量と、打感情報とを含んでいる。特徴量は、テストボールを音源とした打撃音の特徴量であり、テストボールの一次振動モードから四次振動モードにそれぞれ対応した打撃音の特徴振動数(
図5のF1~F4)、特徴振動数での特徴音圧及び特徴減衰時間(
図5のD3)である。打感情報は、硬さ、重さの各スコアである。図示の例では、一つのボール(例えばボールa)について、1セットの学習データが例示されているが、複数のテスタが試打に参加している場合は、テスタの人数分のセット数の学習データを得ることができる。
【0033】
図8は機械学習における入出力の構造を示す概念図である。入力データX(71)は、学習モデル72の入力層のデータである。入力データXを機械学習モデルである学習モデル72を用いて認識した結果として出力データY(73)が出力される。学習時には、入力データXの認識結果の正解データとして教師データT(74)が与えられるので、出力データYと教師データTを損失関数75に与えることにより、認識結果の正解からのずれ量L(76)が得られる。多数の学習データに対してずれ量Lが小さくなるように、学習モデル72の係数、重みづけ等を更新することで学習モデル72が最適化される。入力データXとして
図7の特徴量のデータが、教師データTとして
図7の打感情報のデータが用いられる。
【0034】
学習モデル72としては、例えば、一次方程式の形式で、
打感:硬さ=a1×一次特徴振動数+b1×一次特徴音圧+c1×一次特徴減衰時間+a2×二次特徴振動数+b2×二次特徴音圧+c2×二次特徴減衰時間+a3×三次特徴振動数+b3×三次特徴音圧+c3×三次特徴減衰時間+a4×四次特徴振動数+b4×四次特徴音圧+c4×四次特徴減衰時間
と表すことができる。係数a1~a4、b1~b4、c1~c4を機械学習で最適化する。打感の重さも同様である。なお、学習モデル72としては、これ以外にニューラルネットワークを用いたモデルであってもよい。
【0035】
以上の機械学習の結果、テストボールを音源とした打撃音の特徴量と、打感との相関を示す演算式が得られる。学習の結果、係数が実質的に0となる項は演算式から削除されてもよい。発明者の実験によると、打感のうち、硬さは一次の特徴振動数、特徴音圧、特徴減衰時間の影響が比較的大きく、重さは二次の特徴振動数、特徴音圧、特徴減衰時間の影響が比較的大きい。
【0036】
<打感の推定>
次に、相関情報を利用して推定対象ボールの打感を打撃音から推定する過程について
図2(B)を参照して説明する。
図2(B)は、打感推定方法の例を示すフローチャート。である。
【0037】
S5では、推定対象ボールの振動特性を計測し、振動特性情報を得る。S1と同様の処理であり、相関情報を利用する上で必要な推定対象ボールの振動特性(本実施形態では、一次振動モードから四次振動モードの各固有振動数)を計測する。振動特性の計測は、推定対象とするゴルフボールの各ボールについて行う。
【0038】
S6では推定対象ボールの試打を行い、その打撃音をマイク2で計測する。試打の形式としては、
図4(A)に例示した人間(テスタ110)が打撃する他、
図4(B)に例示するようにスイングロボット111が行ってもよい。打感の推定段階では、試打において打感の官能評価が不要であるため、スイングロボット111で試打を行うことが効率的である。また、人間が試打を行う場合であってもプロゴルファ等、打感の感性に優れた者が試打を行う必要はなく、打撃音を計測できればよいので、初級から中級レベルのゴルファによる試打も可能である。試打は、打感の官能評価を伴わない点で、打撃音のみをよりクリアに計測できる環境(無響室あるいは半無響室)で計測してもよい。
【0039】
スイングロボット111としては、モータ等の駆動源がゴルフクラブ101を保持するアーム部を旋回させる形式の他、駆動源を持たずにユーザがトップの位置まで手動で持ち上げたアーム部を重力により自然落下(自然旋回)させる形式のものを利用できる。前者の駆動源を有する形式では、打撃音に駆動音が含まれ易い場合がある。したがって、後者の駆動源を有しない形式の方が、打撃音に含まれる環境音が少ない点で有利である。また、スイングロボット111の表面は、吸音材で覆ってもよい。スイングロボット111の動作音が打撃音に含まれることを防止できる。
【0040】
駆動源を有しない形式のスイングロボット111を用いる場合、打撃音が小さい場合がある。したがって、
図4(B)で実線で示すようにゴルフボール100の近く(打撃位置の近く。例えば数m以内。)にマイク2を配置してもよい。
【0041】
図2(B)に戻り、S7ではS6で計測した打撃音の解析を行う。上記のS3及び
図5の内容と同じである。これにより、推定対象ボールを音源とした打撃音の特徴量として、推定対象ボールの一次~四次の振動モードの各固有振動数に対応した、打撃音の一次から四次の各特徴振動数、各特徴音圧(音圧レベル)、及び、各特徴減衰時間が得られる。S8ではS7で得た推定対象ボールを音源とした打撃音の特徴量を、S4で導出した相関情報である演算式に代入し、打感(硬さ、重さ)の推定結果を得ることができる。
【0042】
以上により、本実施形態では、プロゴルファ等のテスタによる打感評価は相関情報の導出においては必要となるものの、その後のゴルフボールの打感評価においては打撃音が計測できれば、テスタによる打感評価が不要となる。したがってゴルフボールの開発をより効率的に行うことができる。また、従来未知であった打撃音と打感との関係を明らかにすることができる。
【0043】
発明者の実験によると、ドライバヘッドのような中空度が高いヘッドを有するゴルフクラブにおいては、打撃音はゴルフボールよりもヘッドが支配的である傾向にあった。一方、アイアンヘッド、特にウェッジやパターのヘッドのように中実か或いは中空度の低いヘッドを有するゴルフクラブにおいては、打撃音はゴルフボールの特性が比較的顕著に現れる傾向にあった。したがって、本実施形態の手法は、アイアン型クラブ(特にウェッジ)やパタークラブによるゴルフボールの打撃における、ゴルフボールの打感評価に特に有効であり、しかも、こうしたゴルフクラブはゴルフボールの打感が優先される傾向にあるから、更に有効である。S2における試打と、S6の試打とで、ゴルフクラブとして同じクラブ又は同じ種類のクラブ(番手、ウッド型、アイアン型、中空、中実、ロフト角、素材等)を使用する必要は必ずしもないが、同じクラブ又は同じ種類のクラブを用いる方が、より正確な打感推定が可能である。
【0044】
<情報処理装置の処理例>
図2(A)の相関情報の導出方法及び
図2(B)の打感推定方法の一部又は全部は情報処理装置1によって自動化が可能である。
図9及び
図10を参照してその一例について説明する。
図9は相関情報の導出に関する処理部11の処理例を示すフローチャートであり、
図10は打感推定に関する処理部11の処理例を示すフローチャートである。
【0045】
図9から説明する。S11では、事前に計測されたテストボールの振動特性情報の入力を受け付ける。振動特性情報はオペレータが入力装置5を用いて入力することができる。入力内容はデータベース12aに個々のテストボールを特定する個体情報と関連付けて保存される。
【0046】
S12では、打撃音の計測と保存を行う。
図4(A)の態様でテスタがテストボール100を打撃し、その時の打撃音がマイク2で計測され、信号処理部3で処理された後、その音声データ(
図5のD1)がデータベース12aに個々のテストボールを特定する個体情報と関連付けて保存される。S13では打感情報の入力を受け付ける。打感情報は、テスタから聞き取った打感(硬さ、重さ)のスコアをオペレータが入力装置5を用いて入力することができる。入力内容はデータベース12aに個々のテストボールを特定する個体情報と関連付けて保存される。
【0047】
S14では、S12で保存した打撃音の音声データから、テストボールを音源とする打撃音の特徴量を抽出する。ここでは、データベース12aから音声データを読み出し、FFTにより周波数特性データ(
図5のD2)を生成する。更に、データベース12aからそのテストボールの振動特性情報を読み出し、周波数特性データから、テストボールを音源とした打撃音の特徴量として、テストボールの一次振動モードから四次振動モードにそれぞれ対応した打撃音の特徴振動数(
図5のF1~F4)、その周波数での特徴音圧を特定する。また、データベース12aから読み出した音声データにウェーブレット変換を行って、テストボールを音源とした打撃音の特徴量として、各特徴振動数(
図5のF1~F4)の特徴減衰時間(
図5のD3)を特定する。抽出した特徴量は個々のテストボールを特定する個体情報と関連付けてデータベース12aに保存する。
【0048】
S15では、S13で保存した打感情報とS14で抽出した特徴量とをデータベース12aから読み出すことで取得し、取得した打感情報と特徴量から学習データ(
図6)を生成する。S16では、機械学習により相関情報として演算式が導出される。S17ではS16で導出した相関情報をデータベース12aに保存する。以上により相関情報の導出に関する処理が終了する。
【0049】
図10の打感推定の処理について説明する。S21では、事前に計測された推定対象トボールの振動特性情報の入力を受け付ける。振動特性情報はオペレータが入力装置5を用いて入力することができる。入力内容はデータベース12aに個々の推定対象ボールを特定する個体情報と関連付けて保存される。
【0050】
S22では、打撃音の計測と保存を行う。ここでは、S12と同様の処理を行う。すなわち、
図4(A)又は
図4(B)の態様でテストボール100が打撃される。打撃音がマイク2で計測され、信号処理部3で処理された後、その音声データ(
図5のD1と同様)がデータベース12aに個々の推定対象ボールを特定する個体情報と関連付けて保存される。
【0051】
S23では、S22で保存した打撃音の音声データから、推定対象ボールを音源とする打撃音の特徴量を抽出する。ここでは、S14と同様の処理を行う。すなわち、データベース12aから音声データを読み出し、FFTにより周波数特性データ(
図5のD2と同様)を生成する。更に、データベース12aからその推定対象ボールの振動特性情報を読み出し、周波数特性データから、推定対象ボールを音源とした打撃音の特徴量として、テストボールの一次振動モードから四次振動モードにそれぞれ対応した打撃音の特徴振動数(
図5のF1~F4と同様)、及び、特徴振動数での音圧を特定する。また、データベース12aから読み出した音声データにウェーブレット変換を行って、テストボールを音源とした打撃音の特徴量として、各特徴振動数の特徴減衰時間(
図5のD3と同様)を特定する。抽出した特徴量は個々の推定対象ボールを特定する個体情報と関連付けてデータベース12aに保存する。
【0052】
S24では、S23で保存した特徴量をデータベース12aから読み出すことで取得する。S25ではS24で取得した特徴量と、データベース12aから読み出した相関情報とから推定対象ボールの打感を推定する。S26ではS25の推定結果を表示装置4に表示する。以上により打感推定に関する処理が終了する。
図10の例ではS22で打撃音の計測が開始されると、S26の推定結果の出力までが自動的に行われる。しかし、例えば、S24の特徴量の取得の処理においては、別途演算された特徴量の、オペレータによる入力を受け付けることによって取得してもよく、この場合オペレータは入力装置5を用いて特徴量を入力することができる。
【0053】
以上、発明の実施形態について説明したが、発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 情報処理装置