(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022010049
(43)【公開日】2022-01-14
(54)【発明の名称】薬剤耐性を有する細胞を作製する方法、及び抗ガン剤をスクリーニングするための方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/16 20060101AFI20220106BHJP
C12N 15/06 20060101ALI20220106BHJP
C12Q 1/18 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
C12N5/16
C12N15/06
C12Q1/18
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021180601
(22)【出願日】2021-11-04
(62)【分割の表示】P 2018513205の分割
【原出願日】2017-04-19
(31)【優先権主張番号】P 2016083952
(32)【優先日】2016-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016083953
(32)【優先日】2016-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】北野 史朗
(72)【発明者】
【氏名】塚本 圭
(72)【発明者】
【氏名】入江 新司
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA06
4B063QA18
4B063QQ08
4B063QQ15
4B063QQ98
4B063QR77
4B063QS07
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4B065AA93X
4B065AB06
4B065AC10
4B065AC20
4B065BA08
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】より迅速且つ簡便に薬剤耐性を有する細胞を作製する方法を提供する。
【解決手段】薬剤耐性を有する細胞を作製する方法であって、薬剤耐性を有する生物由来のエクソソームと薬剤耐性を有さない細胞とを接触させ、培養することによって、薬剤耐性を有する細胞を作製し、前記薬剤耐性を有さない細胞が、ガン細胞であり、前記薬剤耐性がチロシンキナーゼ阻害剤又はEGFR阻害剤に対する耐性である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤耐性を有する生物由来のエクソソームと薬剤耐性を有さない細胞とを接触させ、培養することによって、薬剤耐性を有する細胞を作製する、方法であって、
前記薬剤耐性を有さない細胞が、ガン細胞であり、
前記薬剤耐性がチロシンキナーゼ阻害剤又はEGFR阻害剤に対する耐性である、方法。
【請求項2】
薬剤耐性を有さない細胞を、薬剤耐性を有する動物から採取された体液試料、薬剤耐性を有する動物から採取された細胞の抽出液、薬剤耐性を有する動物から採取された細胞の培養上清、薬剤耐性を有する培養細胞の抽出液、又は薬剤耐性を有する培養細胞の培養上清のいずれかを含有する培養培地中で培養する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記体液試料が、血液、血清、血漿、尿、バフィーコート、唾液、精液、胸部滲出液、脳脊髄液、涙液、痰、粘液、リンパ液、腹水、胸水、羊水、膀胱洗浄液又は気管支肺胞洗浄液である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記薬剤耐性を有する培養細胞と、前記薬剤耐性を有さない細胞との細胞の種類が異なる、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記薬剤耐性を有する培養細胞の種類が、ガン細胞、又はガン幹細胞である、請求項2~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記動物がヒトである、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項7】
前記エクソソームが薬剤耐性を有するガン患者から採取されたエクソソームである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ガン細胞の由来となるガンが、転移性髄芽腫、消化管間質腫瘍、隆起性皮膚線維肉腫、結腸ガン、直腸ガン、大腸ガン、肺ガン、慢性骨髄増殖性疾患、急性骨髄性白血病、甲状腺ガン、膵臓ガン、膀胱ガン、腎臓ガン、悪性黒色腫、乳ガン、前立腺ガン、卵巣ガン、子宮頸ガン、頭頚部ガン、脳腫瘍又は肝臓ガンである、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記エクソソームと前記薬剤耐性を有さない細胞を12時間以上培養する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記薬剤耐性を有さない細胞2×104個に対する前記エクソソームの数が1×103個以上である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
抗ガン剤をスクリーニングする方法であって、
薬剤耐性を有さないガン細胞に対して、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法により薬剤耐性を獲得させる薬剤耐性獲得工程と、
前記薬剤耐性獲得工程の後に、薬剤耐性を獲得させた前記ガン細胞に少なくとも1種類の抗ガン剤を接触させ、培養する抗ガン剤投与工程と、
前記抗ガン剤投与工程の後に、前記ガン細胞の生存率を算出し、前記抗ガン剤を評価する評価工程と、
を備える、方法。
【請求項12】
前記薬剤耐性獲得工程において、さらに、前記薬剤耐性を獲得させた前記ガン細胞と少なくとも1種類の他の細胞とを共培養し、三次元的に組織化させる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記薬剤耐性を獲得させた前記ガン細胞と共培養する細胞が、神経細胞、樹状細胞、免疫細胞、血管内皮細胞、リンパ管内皮細胞、線維芽細胞、上皮細胞、心筋細胞、肝細胞、膵島細胞、平滑筋細胞、癌細胞及び癌幹細胞からなる群から選ばれる少なくとも一つである、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤耐性を有する細胞を作製する方法、及び抗ガン剤をスクリーニングするための方法に関する。
本願は、2016年4月19日に日本に出願された特願2016-083952号、および、2016年4月19日に日本に出願された特願2016-083953号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
薬剤耐性を有する細胞は、主に新薬開発やドラッグリポジショニングスクリーニング等の創薬現場で主に用いられている。薬剤耐性を有する細胞を作製する方法としては、細胞のスクリーニングを行う方法や、遺伝子工学的な技術を用いて核酸を編集した細胞等を用いる方法等が主流である。後者の方法は、近年注目を集めているゲノム編集技術であるCRISPR/Cas9やGENESIS(登録商標)等により比較的簡単に作製することが可能となってきている。また、その他の方法としては、薬剤を、対象とする細胞が死滅しない程度の濃度で添加して長期間培養することで薬剤耐性を有する細胞を作製する手法等が挙げられる。
【0003】
その他に薬剤耐性の獲得において、重要な因子として、microRNA(miRNA)等が報告されている。薬剤耐性の有無でmiRNAの発現量を比較する研究が行われ、薬剤耐性の獲得に係わるものが特定されつつあり、これらを添加することで薬剤耐性を有する細胞を作製する方法等が報告されている(例えば、非特許文献1、2参照。)。
【0004】
また、薬剤耐性を有するガン等の疾患の発症、悪性化、進行、又は転移等に様々な場面に深く係わりを持つものとして、細胞外分泌物質膜小胞体(Exosome、エクソソーム)が注目を集めており、近年盛んに研究が進められている。エクソソームは、miRNA、mRNA等の核酸やタンパク質が内包されており、伝播及び輸送用の移動手段としての役割を担っているのではないかと考えられている(例えば、非特許文献3参照。)。その具体例としては、乳ガンに対する薬剤であるDoxolubicinに対する抵抗性に係るエクソソーム由来のmiRNAが報告されている(例えば、非特許文献3、4参照)。例えば、薬剤耐性化させた株化ガン細胞由来のエクソソームをその親株に対して添加した場合に、親株に対して薬剤耐性が伝播するという報告が極少数ある。ただし、エクソソームを提供する細胞と、エクソソームにより薬剤耐性化させる細胞と、が異種である報告はまだない。
【0005】
一方で、ガン医療における最大のハードルは、薬剤耐性である。その薬剤耐性機構は、一般的には、分子標的としているタンパク質のゲートキーパー等に遺伝子変異が生じることにより、薬剤耐性化することが報告されている。しかしながら、薬剤耐性化した腫瘍から得られる耐性遺伝子変異は極微量であり、薬剤耐性を有する組織の全てに遺伝子変異が導入されているとは考えにくい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Takahiro O., “Novel mechanisms of drug resistance in cancer”, 生化学, vol.82, no.1 p34-38, 2010.
【非特許文献2】Takahashi, R., et al., “Loss of microRNA-27b contributes to breast cancer stem cell generation by activating ENPP1”, nature communications, DOI:10.1038, p1-15, 2015.
【非特許文献3】Wei-xian C., et al, “Exosomes from Drug-Resistant Breast Cancer Cells Transmit Chemoresistance by a Horizontal Transfer of MicroRNAs”, PLOS, vol.9, issue 4, 2014.
【非特許文献4】Ling M., et al., “Exosomes decrease sensitivity of breast cancer cells to Adriamycin by delivering microRNAs”, Tumor Biol., DOI 10.1007/s13277-015-4402-2, 2015.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
遺伝子変異と薬剤耐性の獲得の関連性は、近年の遺伝子解析技術の革新により多くの関連遺伝子が特定されつつあるが、がん関連遺伝子では薬剤耐性の獲得の全てを網羅できてはいない。
【0008】
一方で、薬剤スクリーニングにおいて、多種類の薬剤を多種類の薬剤耐性の細胞群に対して適応させて評価することは、網羅的な解析を行う点において重要な方法である。しかし、多種類の薬剤耐性の細胞群を準備するために、多種類の細胞を簡便に薬剤耐性化させる方法については、未だ報告がない。
【0009】
抗ガン剤の研究開発においても、多数の薬剤の中から、従来の評価方法で薬剤の有効性を評価しても、実際の臨床における成績とは一致しないことが多い。薬剤開発者、特に製薬企業は、膨大な薬剤候補化合物を抱えており、これら薬剤候補化合物の再選定が可能な新規評価対象、すなわちこれまでにない他の適応可能性を再選定するための薬剤評価スクリーニング群を求めている。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、より迅速且つ簡便に薬剤耐性を有する細胞を作製する方法、及びより迅速且つ簡便に抗ガン剤を評価するための新規スクリーニング方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、薬剤耐性を有する生物由来のエクソソームを用いることで、薬剤耐性を有さない細胞に薬剤耐性を獲得させることができることを見出し、さらに、当該エクソソームにより薬剤耐性を獲得させたガン細胞を用いて抗ガン剤のスクリーニングができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明の第一態様に係る方法は、薬剤耐性を有する生物由来のエクソソームと薬剤耐性を有さない細胞とを接触させ、培養することによって、薬剤耐性を有する細胞を作製する方法であって、前記薬剤耐性を有さない細胞が、ガン細胞であり、前記薬剤耐性がチロシンキナーゼ阻害剤又はEGFR阻害剤に対する耐性である。
薬剤耐性を有さない細胞を、薬剤耐性を有する動物から採取された体液試料、薬剤耐性を有する動物から採取された細胞の抽出液、薬剤耐性を有する動物から採取された細胞の培養上清、薬剤耐性を有する培養細胞の抽出液、又は薬剤耐性を有する培養細胞の培養上清のいずれかを含有する培養培地中で培養してもよい。
前記体液試料が、血液、血清、血漿、尿、バフィーコート、唾液、精液、胸部滲出液、脳脊髄液、涙液、痰、粘液、リンパ液、腹水、胸水、羊水、膀胱洗浄液又は気管支肺胞洗浄液であってもよい。
前記薬剤耐性を有する培養細胞と、前記薬剤耐性を有さない細胞との細胞の種類が異なっていてもよい。
前記薬剤耐性を有する培養細胞の種類が、神経細胞、樹状細胞、免疫細胞、血管内皮細胞、リンパ管内皮細胞、線維芽細胞、上皮細胞、心筋細胞、肝細胞、膵島細胞、平滑筋細胞、ガン細胞、又はガン幹細胞であってもよい。
前記動物がヒトであってもよい。
前記エクソソームが薬剤耐性を有するガン患者から採取されたエクソソームであってもよい。
前記ガン細胞の由来となるガンが、転移性髄芽腫、消化管間質腫瘍、隆起性皮膚線維肉腫、結腸ガン、直腸ガン、大腸ガン、肺ガン、慢性骨髄増殖性疾患、急性骨髄性白血病、甲状腺ガン、膵臓ガン、膀胱ガン、腎臓ガン、悪性黒色腫、乳ガン、前立腺ガン、卵巣ガン、子宮頸ガン、頭頚部ガン、脳腫瘍又は肝臓ガンであってもよい。
前記エクソソームと前記薬剤耐性を有さない細胞を12時間以上培養してもよい。
前記薬剤耐性を有さない細胞2×104個に対する前記エクソソームの数が1×103個以上であってもよい。
本発明の第二態様に係る抗ガン剤をスクリーニングする方法は、薬剤耐性を有さないガン細胞に対して、上記態様に係る方法により薬剤耐性を獲得させる薬剤耐性獲得工程と、前記薬剤耐性獲得工程の後に、薬剤耐性を獲得させた前記ガン細胞に少なくとも1種類の抗ガン剤を接触させ、培養する抗ガン剤投与工程と、前記抗ガン剤投与工程の後に、前記ガン細胞の生存率を算出し、前記抗ガン剤を評価する評価工程と、を備える。
前記薬剤耐性獲得工程において、さらに、前記薬剤耐性を獲得させた前記ガン細胞と少なくとも1種類の他の細胞とを共培養し、三次元的に組織化させてもよい。
前記薬剤耐性を獲得させた前記ガン細胞と共培養する細胞が、神経細胞、樹状細胞、免疫細胞、血管内皮細胞、リンパ管内皮細胞、線維芽細胞、上皮細胞、心筋細胞、肝細胞、膵島細胞、平滑筋細胞、癌細胞及び癌幹細胞からなる群から選ばれる少なくとも一つであってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の上記態様によれば、迅速且つ簡便に薬剤耐性を有する細胞を作製する方法、及びより迅速且つ簡便に抗ガン剤を評価するためのスクリーニング方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1における条件A~Dでの薬剤感受性の評価結果を示すグラフである。
【
図2】実施例2における条件A、C、F、G、Hでの薬剤感受性の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<<薬剤耐性を有する細胞を作製する方法>>
本発明の第一実施形態に係る薬剤耐性を有する細胞を作製する方法は、薬剤耐性を有する生物由来のエクソソームと薬剤耐性を有さない細胞とを接触させ、培養すること(培養工程)によって、薬剤耐性を有する細胞を作製する、方法(作製方法、製造方法)を提供する。
【0016】
本実施形態に係る作製方法によれば、迅速且つ簡便に薬剤耐性を有する細胞を得ることができる。さらに、本実施形態に係る作製方法により得られた薬剤耐性を有する細胞を用いることで、新薬開発、ドラッグリポジショニングにおける評価、治療法の選択及び評価、又は薬剤耐性の獲得機序の解明研究等へ応用することができる。
【0017】
一般的に、「薬剤耐性」とは、生物が、生物自身に対して何らかの作用を持った薬剤に対して抵抗性を持ち、これらの薬剤が効かない、或いは効きにくくなる現象のことを意味する。
また、本明細書において、「薬剤」とは、細菌、ウイルス等の病原性微生物やガン細胞(悪性新生物)を殺す、或いはその増殖を抑制する化学物質を意味し、特別な限定はない。薬剤としては、例えば、抗ウイルス薬、抗真菌薬、抗原虫薬、抗ガン剤等が含まれ、これらに限定されない。
【0018】
本実施形態において、耐性を獲得させる薬剤としては、特に限定されないが、抗ガン剤や、ガン治療におい抗がん剤と併用投与される薬剤であることが好ましい。中でも、RAS、EGFR、BRAF、PIK3CA、ALK、及びABL等のチロシンキナーゼに対する阻害剤であることが特に好ましい。当該チロシンキナーゼ阻害剤としては、具体的には、例えば、Cetuximab、Gefitinib、Erlotinib、Crizotinib等が挙げられる。
【0019】
これらのチロシンキナーゼ阻害剤に対する耐性は、一般的にこれらのチロシンキナーゼ遺伝子に耐性を獲得するような変異が導入されることによって生じる。しかし、後記実施例に示すように、本実施形態においては、これらのチロシンキナーゼ遺伝子への変異の導入によりチロシンキナーゼ阻害剤耐性を獲得した生物由来のエクソソームと接触させることによって、これらのチロシンキナーゼ遺伝子に遺伝子変異を導入することなく、薬剤耐性を獲得させることができる。
【0020】
本実施形態に係る作製方法について、以下に詳細に説明する。
【0021】
[培養工程]
まず、薬剤耐性を有さない細胞を細胞培養容器に播種し、培養する。
【0022】
培養工程において使用される細胞培養容器としては、例えば、ディッシュ、セルカルチャーインサート(例えば、Transwell(登録商標)インサート、Netwell(登録商標)インサート、Falcon(登録商標)セルカルチャーインサート、Millicell(登録商標)セルカルチャーインサート等)、チューブ、フラスコ、ボトル、プレート等が挙げられ、これらに限定されない。
【0023】
使用する薬剤耐性を有さない細胞としては、特別な限定はなく、薬剤耐性を獲得させたい細胞であればよい。細胞としては、例えば、生殖細胞(精子、卵子等)、生体を構成する体細胞、幹細胞、前駆細胞、生体から分離されたガン細胞、生体から分離され不死化能を獲得して体外で安定して維持される細胞(細胞株)、生体から分離され人為的に遺伝子改変された細胞、生体から分離され人為的に核が交換された細胞等が挙げられ、これらに限定されない。
【0024】
生体を構成する体細胞としては、例えば、皮膚、腎臓、脾臓、副腎、肝臓、肺、卵巣、膵臓、子宮、胃、結腸、小腸、大腸、膀胱、前立腺、精巣、胸腺、筋肉、結合組織、骨、軟骨、血管組織、血液、心臓、眼、脳、神経組織等の任意の組織から採取される細胞等が挙げられ、これらに限定されない。体細胞として、より具体的には、例えば、線維芽細胞、骨髄細胞、免疫細胞(例えば、Bリンパ球、Tリンパ球、好中球、マクロファージ、単球、等)、赤血球、血小板、骨細胞、骨髄細胞、周皮細胞、樹状細胞、ケラチノサイト、脂肪細胞、間葉細胞、上皮細胞、表皮細胞、内皮細胞、血管内皮細胞、リンパ管内皮細胞、肝細胞、膵島細胞(例えば、α細胞、β細胞、δ細胞、ε細胞、PP細胞等)、軟骨細胞、卵丘細胞、グリア細胞、神経細胞(ニューロン)、オリゴデンドロサイト、マイクログリア、星状膠細胞、心筋細胞、食道細胞、筋肉細胞(例えば、平滑筋細胞、骨格筋細胞等)、メラニン細胞、単核細胞等が挙げられ、これらに限定されない。
【0025】
幹細胞とは、自分自身を複製する能力と他の複数系統の細胞に分化する能力を兼ね備えた細胞である。幹細胞としては、例えば、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性腫瘍細胞、胚性生殖幹細胞、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、筋幹細胞、生殖幹細胞、腸幹細胞、ガン幹細胞、毛包幹細胞等が挙げられ、これらに限定されない。
【0026】
前駆細胞とは、前記幹細胞から特定の体細胞又は生殖細胞に分化する途中の段階にある細胞である。
【0027】
ガン細胞とは、体細胞から派生して無限の増殖能を獲得した細胞である。ガン細胞の由来となるガンとしては、例えば、乳ガン(例えば、浸潤性乳管ガン、非浸潤性乳管ガン、炎症性乳ガン等)、前立腺ガン(例えば、ホルモン依存性前立腺ガン、ホルモン非依存性前立腺ガン等)、膵ガン(例えば、膵管ガン等)、胃ガン(例えば、乳頭腺ガン、粘液性腺ガン、腺扁平上皮ガン等)、肺ガン(例えば、非小細胞肺ガン、小細胞肺ガン、悪性中皮腫等)、結腸ガン(例えば、消化管間質腫瘍等)、直腸ガン(例えば、消化管間質腫瘍等)、大腸ガン(例えば、家族性大腸ガン、遺伝性非ポリポーシス大腸ガン、消化管間質腫瘍等)、小腸ガン(例えば、非ホジキンリンパ腫、消化管間質腫瘍等)、食道ガン、十二指腸ガン、舌ガン、咽頭ガン(例えば、上咽頭ガン、中咽頭ガン、下咽頭ガン等)、頭頚部ガン、唾液腺ガン、脳腫瘍(例えば、松果体星細胞腫瘍、毛様細胞性星細胞腫、びまん性星細胞腫、退形成性星細胞腫等)、神経鞘腫、肝臓ガン(例えば、原発性肝ガン、肝外胆管ガン等)、腎臓ガン(例えば、腎細胞ガン、腎盂と尿管の移行上皮ガン等)、胆嚢ガン、胆管ガン、膵臓ガン、肝ガン、子宮内膜ガン、子宮頸ガン、卵巣ガン(例、上皮性卵巣ガン、性腺外胚細胞腫瘍、卵巣性胚細胞腫瘍、卵巣低悪性度腫瘍等)、膀胱ガン、尿道ガン、皮膚ガン(例えば、眼内(眼)黒色腫、メルケル細胞ガン等)、血管腫、悪性リンパ腫(例えば、細網肉腫、リンパ肉腫、ホジキン病等)、メラノーマ(悪性黒色腫)、甲状腺ガン(例えば、甲状腺髄様ガン等)、副甲状腺ガン、鼻腔ガン、副鼻腔ガン、骨腫瘍(例えば、骨肉腫、ユーイング腫瘍、子宮肉腫、軟部組織肉腫等)、転移性髄芽腫、血管線維腫、隆起性皮膚線維肉腫、網膜肉腫、陰茎癌、精巣腫瘍、小児固形ガン(例えば、ウィルムス腫瘍、小児腎腫瘍等)、カポジ肉腫、AIDSに起因するカポジ肉腫、上顎洞腫瘍、線維性組織球腫、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、慢性骨髄増殖性疾患、白血病(例えば、急性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病等)等が挙げられ、これらに限定されない。
【0028】
細胞株とは、生体外での人為的な操作により無限の増殖能を獲得した細胞である。細胞株としては、例えば、HCT116、Huh7、HEK293(ヒト胎児腎細胞)、HeLa(ヒト子宮頸ガン細胞株)、HepG2(ヒト肝ガン細胞株)、UT7/TPO(ヒト白血病細胞株)、CHO(チャイニーズハムスター卵巣細胞株)、MDCK、MDBK、BHK、C-33A、HT-29、AE-1、3D9、Ns0/1、Jurkat、NIH3T3、PC12、S2、Sf9、Sf21、High Five、Vero等が挙げられ、これらに限定されない。
【0029】
続いて、薬剤耐性を有する生物由来のエクソソームを添加し、薬剤耐性を有さない細胞と接触させて培養する。前記エクソソームは、例えば、精製されたエクソソーム、又はエクソソームを含む組成物を培養培地に混合し添加する方法等を用いて、前記薬剤耐性を有さない細胞に接触させればよい。
【0030】
一般的に、「エクソソーム」とは、様々な細胞が分泌する直径40nm~150nmの膜小胞である。この膜小胞の中には、miRNA、mRNA等の核酸、タンパク質、脂質が含まれており、本実施形態に係る作製方法においては、これらの物質が薬剤耐性の獲得に関与していると考えられる。
【0031】
エクソソームはほとんどの細胞から分泌されており、多くの体液試料中にはエクソソームが含まれている。このため、薬剤耐性を有する生物由来のエクソソームを含む組成物としては、特別な限定はなく、例えば、薬剤耐性を有する動物から採取された体液試料、薬剤耐性を有する動物から採取された細胞の抽出液、薬剤耐性を有する動物から採取された細胞の培養上清、薬剤耐性を有する培養細胞の抽出液、又は薬剤耐性を有する培養細胞の培養上清等が挙げられ、これらに限定されない。
【0032】
また、薬剤耐性について、1種類の薬剤に対する耐性であってもよく、2種類以上の薬剤に対する耐性であってもよい。
【0033】
本実施形態において、エクソソームの由来となる動物としては、特別な限定はなく、例えば、ヒト、サル、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウシ、マウス、ラット等が挙げられ、これらに限定されない。また、由来となる動物の種類は、目的等により任意に選択することができる。中でも、エクソソームの由来となる動物はヒトであることが好ましい。由来となる動物がヒトであることにより、ヒトに適用可能な新薬開発、ドラッグリポジショニングにおける評価、治療法の選択及び評価、又はヒトにおける薬剤耐性の獲得機序の解明研究等へ応用することができる。
【0034】
本実施形態において、エクソソームの由来となる培養細胞としては、特別な限定はなく、薬剤耐性を有する細胞であればよい。培養細胞としては、例えば、上述の薬剤耐性を有さない細胞で例示された細胞と同様の細胞が挙げられる。中でも、エクソソームの由来となる培養細胞としては、神経細胞、樹状細胞、免疫細胞、血管内皮細胞、リンパ管内皮細胞、線維芽細胞、上皮細胞、心筋細胞、肝細胞、膵島細胞、平滑筋細胞、ガン細胞又はガン幹細胞であることが好ましい。
【0035】
エクソソームの由来となる培養細胞と、薬剤耐性を獲得させる対象である薬剤耐性を有さない細胞とは、細胞の種類は同じであってもよく、異なっていてもよい。中でも、薬剤耐性を有さない細胞がガン細胞の場合、エクソソームの由来となる培養細胞と前記ガン細胞との細胞の種類は同じであってもよく、異なっていてもよい。中でも、エクソソームの由来となる培養細胞と、前記ガン細胞との細胞の種類が異なることが好ましい。
【0036】
薬剤耐性を有する動物から採取された体液試料として、より具体的には、例えば、血液、血清、血漿、尿、バフィーコート、唾液、精液、胸部滲出液、脳脊髄液、涙液、痰、粘液、リンパ液、腹水、胸水、羊水、膀胱洗浄液、気管支肺胞洗浄液等が挙げられ、これらに限定されない。
【0037】
例えば、薬剤耐性を有する動物から採取された組織、又は薬剤耐性を有する培養細胞自体を、薬剤耐性を有さない細胞と共培養させて、薬剤耐性を有する動物から採取された組織又は薬剤耐性を有する培養細胞に由来するエクソソームを、薬剤耐性を有さない細胞に接触させてもよい。
具体的な方法としては、例えば、2段式の培養容器であって、上部の培養容器の底面に薬剤耐性を有する動物から採取された組織、又は薬剤耐性を有する培養細胞を透過しないが、薬剤耐性を有する動物から採取された組織又は薬剤耐性を有する培養細胞から分泌されるエクソソームを透過可能な孔を備える培養容器を用いて、上部の培養器にて薬剤耐性を有する動物から採取された組織、又は薬剤耐性を有する培養細胞を培養し、下部の培養容器にて薬剤耐性を有さない細胞を培養することにより、薬剤耐性を有する動物の組織や培養細胞から分泌されたエクソソームを、薬剤耐性を有さない細胞に接触させてもよい。
【0038】
エクソソームは、さらに、上述の例示したものから回収、濃縮、精製、単離されたエクソソームであってもよい。なお、回収、濃縮、精製、単離方法については、上述の例示したものの種類、状態などによって任意に選択することができる。
【0039】
使用する培養培地としては、細胞の生存増殖に必要な成分(無機塩、炭水化物、ホルモン、必須アミノ酸、非必須アミノ酸、ビタミン)等を含む基本培地であればよく、細胞の種類により適宜選択することができる。例えば、DMEM、Minimum Essential Medium(MEM)、RPMI-1640、Basal Medium
Eagle(BME)、Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium:Nutrient Mixture F-12(DMEM/F-12)、Glasgow Minimum Essential Medium(GlasgowMEM)等が挙げられ、これらに限定されない。
【0040】
培養温度としては、25℃以上40℃以下が好ましく、30℃以上39℃以下がより好ましく、35℃以上39℃以下がさらに好ましい。培養環境は、薬剤、細胞及び組織の維持に直接的に影響することなく、かつ、用いた細胞培養に適した環境を任意の期間保持できる環境であれば、任意に設定してもよい。また、必要に応じて培養環境を著しく変化させなければ還流等の流体力学的な付加を加えてもよい。また、培養環境は、例えば、約5%のCO2条件下であってもよい。
【0041】
培養時間としては、液性物質の由来や量等によって任意に設定すればよい。培養時間としては、例えば、12時間以上であることが好ましく、12時間以上96時間以下であることがより好ましく、24時間以上72時間以下であることがさらに好ましい。
【0042】
添加する前記エクソソームの数としては、薬剤耐性を有さない細胞の種類や数等によって、任意に設定すればよい。前記エクソソームの数としては、例えば、前記薬剤耐性を有さない細胞2×104個に対して、1×103個以上であることが好ましく、1×107個以上あることがより好ましく、1×107個以上1×1012個以下であることがさらに好ましい。
【0043】
<<抗ガン剤をスクリーニングするための方法>>
本発明の第二実施形態に係る抗ガン剤をスクリーニングするための方法は、薬剤耐性を有さないガン細胞に対して、上記第一実施形態に係る方法により(第一実施形態に係る作製方法を用いて)薬剤耐性を獲得させる薬剤耐性獲得工程と、前記薬剤耐性獲得工程の後に、薬剤耐性を獲得させた前記ガン細胞に少なくとも1種類の抗ガン剤を接触させ、培養する抗ガン剤投与工程と、前記抗ガン剤投与工程の後に、前記ガン細胞の生存率を算出し、前記抗ガン剤を評価する評価工程と、を備える。
換言すれば、本発明の第二実施形態に係る抗ガン剤をスクリーニングするための方法は、薬剤耐性を有する生物由来のエクソソームと薬剤耐性を有さないガン細胞とを接触させ、培養し、前記ガン細胞に薬剤耐性を獲得させる薬剤耐性獲得工程と、前記薬剤耐性獲得工程の後に、薬剤耐性を獲得させた前記ガン細胞に少なくとも1種類の抗ガン剤を接触させ、培養する抗ガン剤投与工程と、前記抗ガン剤投与工程の後に、前記ガン細胞の生存率を算出し、前記抗ガン剤を評価する評価工程と、を備える。
【0044】
本実施形態に係るスクリーニング方法によれば、より迅速且つ簡便に抗ガン剤を評価することができる。さらに、本実施形態に係るスクリーニング方法を用いることで、新薬開発、ドラッグリポジショニングにおける評価、治療法の選択及び評価、又は薬剤耐性の獲得機序の解明研究等へ応用することができる。
【0045】
本実施形態に係る方法について、以下に詳細に説明する。
【0046】
[薬剤耐性獲得工程]
まず、薬剤耐性を有さないガン細胞を細胞培養容器に播種し、培養する。細胞培養容器としては、上述の第一実施形態に係る<<薬剤耐性を有する細胞を作製する方法>>において例示された容器と同様の容器が挙げられる。
【0047】
使用するガン細胞としては特別な限定はなく、薬剤耐性を獲得させたいガン細胞であればよい。ガン細胞の由来となるガンとしては、上述の第一実施形態に係る<<薬剤耐性を有する細胞を作製する方法>>で使用する薬剤耐性を有さない細胞として挙げられたガン細胞が挙げられる。中でも、ガン細胞の由来となるガンとしては、転移性髄芽腫、消化管間質腫瘍、隆起性皮膚線維肉腫、結腸ガン、直腸ガン、大腸ガン、肺ガン、慢性骨髄増殖性疾患、急性骨髄性白血病、甲状腺ガン、膵臓ガン、膀胱ガン、腎臓ガン、悪性黒色腫、乳ガン、前立腺ガン、卵巣ガン、子宮頸ガン、頭頚部ガン、脳腫瘍又は肝臓ガンであることが好ましい。
【0048】
続いて、薬剤耐性を有する生物由来のエクソソームを添加し、薬剤耐性を有さないガン細胞と接触させて培養する。前記エクソソームは、例えば、精製されたエクソソーム又はエクソソームを含む組成物を培養培地に混合し添加する方法等を用いて、前記薬剤耐性を有さないガン細胞に接触させればよい。薬剤耐性を有する生物由来のエクソソーム及びエクソソームを含む組成物としては、上述の<<薬剤耐性を有する細胞を作製する方法>>で使用する薬剤耐性を有する生物由来のエクソソーム及び薬剤耐性を有する動物から採取された体液試料として挙げられたエクソソーム及び体液試料と同様のものが挙げられる。
【0049】
前記体液試料は、薬剤耐性を有するガン患者から採取された試料であることが好ましい。前記ガン患者のガンの種類としては、特別な限定はなく、上述のガン細胞における由来となるガンとして例示されたガンの種類と同様のガンの種類が挙げられる。前記ガン患者と前記ガン細胞とのガンの種類は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0050】
また、薬剤耐性を有する動物から採取された組織、又は薬剤耐性を有する培養細胞自体を、薬剤耐性を有さないガン細胞と共培養させて、薬剤耐性を有する動物から採取された組織又は薬剤耐性を有する培養細胞に由来するエクソソームを、薬剤耐性を有さないガン細胞に接触させてもよい。
具体的な方法としては、例えば、2段式の培養容器であって、上部の培養容器の底面に薬剤耐性を有する動物から採取された組織、又は薬剤耐性を有する培養細胞を透過しないが、薬剤耐性を有する動物から採取された組織又は薬剤耐性を有する培養細胞から分泌されるエクソソームを透過可能な孔を備える培養容器を用いて、上部の培養器にて薬剤耐性を有する動物から採取された組織、又は薬剤耐性を有する培養細胞を培養し、下部の培養容器にて薬剤耐性を有さないガン細胞を培養することにより、薬剤耐性を有する動物の組織や培養細胞から分泌されたエクソソームを、薬剤耐性を有さないガン細胞に接触させてもよい。
【0051】
また、薬剤耐性獲得工程において、さらに、前記薬剤耐性を獲得させた前記ガン細胞と少なくとも1種類の他の細胞とを共培養し、三次元的に組織化させた細胞構造体を用いてもよい。前記薬剤耐性を獲得させた前記ガン細胞と共培養する細胞としては、特別な限定はなく、上述のエクソソームの由来となる培養細胞において例示された細胞と同様の細胞が挙げられる、中でも、前記薬剤耐性を獲得させた前記ガン細胞と共培養する細胞としては、神経細胞、樹状細胞、免疫細胞、血管内皮細胞、リンパ管内皮細胞、線維芽細胞、上皮細胞、心筋細胞、肝細胞、膵島細胞、平滑筋細胞、ガン細胞及びガン幹細胞からなる群から選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。
【0052】
前記薬剤耐性を獲得させた前記ガン細胞と少なくとも1種類の細胞とを共培養し、三次元的に組織化させた細胞構造体を作製する方法としては、公知の作製方法を用いればよい。細胞構造体を作製する方法としては、例えば、以下のような方法が挙げられる。
【0053】
一般的に、前記薬剤耐性を獲得させた前記ガン細胞と少なくとも1種類の細胞とを含む細胞構造体は、細胞培養容器中に構築される。当該細胞培養容器としては、細胞構造体の構築が可能であり、かつ構築された細胞構造体の培養が可能な容器であれば特に限定されない。当該細胞培養容器としては、上述の第一実施形態に係る<<薬剤耐性を有する細胞を作製する方法>>において例示された容器と同様の容器が挙げられる。本実施形態において用いられる細胞構造体(以下、「本実施形態に係る細胞構造体」ということがある。)の構築においては、当該細胞構造体を用いた抗ガン剤のスクリーニングをより適正に行うことができるため、ディッシュ又は各種セルカルチャーインサートが好ましい。
【0054】
本実施形態に係る細胞構造体は、がん細胞及び間質を構成する細胞(間質細胞)を含む細胞構造体が好ましい。間質は生体内のがん微小環境において重要な構成である。つまり、間質細胞が三次元構造を形成している細胞構造体内にがん細胞を含ませることによって、生体内のがん細胞の環境を再現できる。このような細胞構造体を用いることにより、抗がん剤の抗がん作用がより適切に評価できる。
【0055】
間質細胞としては、例えば、内皮細胞、繊維芽細胞、神経細胞、樹状細胞、マクロファージ、肥満細胞、上皮細胞、心筋細胞、肝細胞、膵島細胞、組織幹細胞、平滑筋細胞等が挙げられる。本実施形態に係る細胞構造体に含まれる間質細胞は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。
【0056】
血管網構造やリンパ管網構造は、がん細胞の増殖や活性に重要である。このため、本実施形態に係る細胞構造体は、脈管網構造を備える細胞構造体が好ましい。すなわち、本実施形態に係る細胞構造体としては、脈管を形成していない細胞の積層体の内部に、リンパ管及び/又は血管等の脈管網構造が三次元的に構築され、より生体内に近い組織を構築している細胞構造体が好ましい。脈管網構造は、細胞構造体の内部にのみ形成されていてもよく、少なくともその一部が細胞構造体の表面又は底面に露出されるように形成されていてもよい。なお、本実施形態及び本願明細書において、「脈管網構造」とは、生体組織における血管網やリンパ管網のような、網状の構造を指す。
【0057】
脈管網構造は、間質細胞として脈管を構成する内皮細胞を含むことにより形成させることができる。本実施形態に係る細胞構造体に含まれる内皮細胞としては、血管内皮細胞であってもよく、リンパ管内皮細胞であってもよい。また、血管内皮細胞とリンパ管内皮細胞の両方を含んでいてもよい。
【0058】
本実施形態に係る細胞構造体は、多層の細胞から形成される構造体であればよく、その構築方法は特に限定されない。例えば、一層ずつ構築して順次積層させて構築する方法であってもよく、2層以上の細胞層を一度に構築する方法であってもよく、両構築方法を適宜組み合わせて多層の細胞層を構築する方法であってもよい。また、本実施形態に係る細胞構造体は、各細胞層を構成する細胞種が層ごとに異なる多層構造体であってもよく、各細胞層を構成する細胞種が、構造体の全層で共通する細胞構造体であってもよい。例えば、細胞種毎に層を形成し、この細胞層を順次積層させることによって構築する方法であってもよく、複数種類の細胞を混合した細胞混合液を予め調製し、この細胞混合液から多層構造の細胞構造体を一度に構築する方法であってもよい。
【0059】
一層ずつ構築して順次積層させて構築する方法としては、例えば、特許第4919464号公報に記載されている方法、すなわち、細胞層を形成する工程と、形成された細胞層をECM(細胞外マトリックス)の成分を含有する溶液に接触させる工程と、を交互に繰り返すことにより、連続的に細胞層を積層する方法が挙げられる。例えば、当該方法を行うに際し、予め、細胞構造体を構成する全ての細胞を混合した細胞混合物を調製しておき、この細胞混合物によって各細胞層を形成することによって、構造体全体に脈管網構造が形成されている細胞構造体が構築できる。また、各細胞層を、細胞種ごとに形成することによって、内皮細胞から形成される層にのみ脈管網構造が形成されている細胞構造体が構築できる。
【0060】
2層以上の細胞層を一度に構築する方法としては、例えば、特許第5850419号公報に記載されている方法、すなわち、予め細胞の表面全体をインテグリンが結合するアルギニン-グリシン-アスパラギン酸(RGD)配列を含む高分子と前記RGD配列を含む高分子と相互作用をする高分子によって被覆しておき、この接着膜で被覆された被覆細胞を細胞培養容器に収容した後、遠心処理等によって被覆細胞同士を集積させることにより、多層の細胞層から形成される細胞構造体を構築する方法が挙げられる。例えば、当該方法を行うに際し、予め、細胞構造体を構成する全ての細胞を混合した細胞混合物を調製しておき、この細胞混合物に接着性成分を添加することによって調製された被覆細胞を用いることにより、1度の遠心処理によって、構造体全体に脈管網構造が形成されている細胞構造体が構築できる。また、例えば、内皮細胞を被覆した被覆細胞と、繊維芽細胞を被覆した被覆細胞とを、それぞれ別個に調製し、繊維芽細胞の被覆細胞から形成される多層を形成させた後、その上に内皮細胞の被覆細胞から形成される1層を積層させ、さらにその上に繊維芽細胞の被覆細胞から形成される多層を積層させることにより、厚みのある繊維芽細胞層に挟まれた脈管網構造を備える細胞構造体が構築できる。
【0061】
なお、細胞構造体を構成する細胞層数は、三次元構造を構成する細胞の総数を、1層当たりの細胞数(1層を構成するために必要な細胞数)で除することにより測定される。1層当たりの細胞数は、細胞構造体を構成させる際に使用する細胞容器に、予め細胞をコンフルエントになるように平面的に培養して調べることができる。具体的には、ある細胞容器に形成された細胞構造体の細胞層数は、当該細胞構造体を構成する全細胞数を計測し、当該細胞容器の1層当たりの細胞数で除することにより算出できる。
【0062】
本実施形態に係る細胞構造体は、下記(a)~(c)の工程を有する方法により構築することもできる。
(a)カチオン性緩衝液中で、細胞と細胞外マトリックス成分とを混合して混合物を得る工程と、
(b)前記工程(a)により得られた混合物を、細胞培養容器中に播種する工程と、
(c)前記工程(b)の後、前記細胞培養容器中の細胞混合物から液体成分を除去し、当該細胞培養容器中に細胞が多層に積層された細胞構造体を得る工程。
本実施形態においては、工程(a)において、細胞を、カチオン性物質を含む緩衝液(カチオン性緩衝液)および細胞外マトリックス成分と混合し、この細胞混合物から細胞集合体を形成することにより、内部に大きな空隙が少ない立体的細胞組織を得ることができる。また、得られた立体的細胞組織は、比較的安定であるため、少なくとも数日間の培養が可能であり、かつ培地交換時にも組織が崩壊し難い。
また、本実施形態においては、工程(b)において、細胞培養容器内に播種した細胞混合物を当該細胞培養容器内に沈降させることを含み得る。細胞混合物の沈降は、遠心分離等によって積極的に細胞を沈降させてもよいし、自然沈降させてもよい。
工程(a)において、細胞をさらに強電解質高分子と混合することが好ましい。細胞をカチオン性物質、強電解質高分子および細胞外マトリックス成分と混合することにより、工程(b)において遠心分離等の細胞を積極的に集合させる処理を要することなく、自然沈降させた場合であっても、空隙が少なく厚みのある立体的細胞組織が得られる。
【0063】
前記カチオン性緩衝液としては、例えば、トリス-塩酸緩衝液、トリス-マレイン酸緩衝液、ビス-トリス-緩衝液、又はHEPES等が挙げられる。当該カチオン性緩衝液中のカチオン性物質(例えば、トリス-塩酸緩衝液におけるトリス)の濃度及びpHは、細胞の生育及び細胞構造体の構築に悪影響を及ぼさない限り、特に限定されない。例えば、カチオン性緩衝液中のカチオン性物質の濃度は、10~100mMとすることができ、40~70mMであることが好ましく、50mMであることがより好ましい。また、当該カチオン性緩衝液のpHは、6.0~8.0とすることができ、6.8~7.8であることが好ましく、7.2~7.6であることがより好ましい。
【0064】
前記強電解質高分子としては、例えば、ヘパリンや、コンドロイチン硫酸(例えば、コンドロイチン4-硫酸、コンドロイチン6-硫酸)、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ヒアルロン酸等のグリコサミノグリカン;デキストラン硫酸や、ラムナン硫酸、フコイダン、カラギナン、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、およびポリアクリル酸、又はこれらの誘導体等が挙げられるが、これらに限定されない。工程(a)において調製される混合物には、強電解質高分子を1種類のみ混合させてもよく、2種類以上を組み合わせて混合させてもよい。本実施形態に係る細胞構造体の構築においては、高分子電解質はグリコサミノグリカンであることが好ましい。また、ヘパリン、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸、およびデルマタン硫酸のうち少なくとも1つを用いることがより好ましい。本実施形態で用いられる強電解質高分子はヘパリンであることがさらに好ましい。
前記カチオン性緩衝液に混合する強電解質高分子の量は、細胞の生育及び細胞構造体の構築に悪影響を及ぼさない限り、特に限定されない。例えば、カチオン性緩衝液中の強電解質高分子の濃度は、0mg/mL超(0mg/mLより高く)1.0mg/mL未満とすることができ、0.025~0.1mg/mLであることが好ましく、0.05~0.1mg/mLであることがより好ましい。また、本実施形態においては、前記強電解質を混合せずに前記混合物を調整し、細胞構造体の構築を行うこともできる。
【0065】
前記細胞外マトリックス成分としては、例えば、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、エラスチン、テネイシン、エンタクチン、フィブリリン、プロテオグリカン、又はこれらの改変体若しくはバリアント等が挙げられる。プロテオグリカンには、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、ケラタン硫酸プロテオグリカン、デルマタン硫酸プロテオグリカン等が挙げられる。工程(a)において調製される混合物には、細胞外マトリックス成分を1種類のみ混合させてもよく、2種類以上を組み合わせて混合させてもよい。本実施形態に係る細胞構造体の構築においては、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチンを用いることが好ましく、コラーゲンを用いることがより好ましい。細胞の生育および細胞構造体の形成に悪影響を及ぼさない限り、上述の細胞外マトリックス成分の改変体およびバリアントを用いてもよい。前記カチオン性緩衝液に混合する細胞外マトリックス成分の量は、細胞の生育及び細胞構造体の構築に悪影響を及ぼさない限り、特に限定されない。例えば、カチオン性緩衝液中の細胞外マトリックス成分の濃度は、0mg/mL超(0mg/mLより高く)1.0mg/mL未満とすることができ、0.025~0.1mg/mLであることが好ましく、0.05~0.1mg/mLであることがより好ましい。
【0066】
前記カチオン性緩衝液に混合する強電解質高分子と細胞外マトリックス成分の配合比は、1:2~2:1である。本実施形態に係る細胞構造体の構築においては、強電解質高分子と細胞外マトリックス成分の配合比が、1:1.5~1.5:1であることが好ましく、1:1であることがより好ましい。
【0067】
工程(a)~(c)を繰り返す、具体的には、工程(c)で得られた細胞構造体の上に、工程(b)として、工程(a)で調製した混合物を播種した後、工程(c)を行うことを繰り返すことにより、充分な厚みの細胞構造体を構築することができる。工程(c)で得られた細胞構造体の上に新たに播種する混合物の細胞組成は、既に構築されている細胞構造体を構成する細胞組成と同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0068】
工程(a)~(c)を繰り返す場合に、工程(c)の後、工程(b)を行う前に、得られた細胞構造体を培養してもよい。培養に用いる培養培地の組成、培養温度、培養時間、培養時の大気組成等の培養条件は、当該細胞構造体を構成する細胞の培養に適した条件で行う。培養培地としては、例えば、D-MEM、E-MEM、MEMα、RPMI-1640、Ham’s F-12等が挙げられる。
【0069】
工程(a)の後に、(a’-1)得られた混合物から液体部分を除去し、細胞集合体を得る工程、および(a’-2)細胞集合体を溶液に懸濁する工程を行い、工程(b)へ進んでも良い。
また、工程(a)の後に、前記工程(b)に代えて、下記工程(b’-1)及び(b’-2)を行ってもよい。本実施形態及び本願明細書において、「細胞粘稠体」とは、非特許文献2に記載されるようなゲル様の細胞集合体を指す。
(b’-1)工程(a)で得られた混合物を細胞培養容器内に播種した後、混合物から液体成分を除去し、細胞粘稠体を得る工程と、
(b’-2)細胞培養容器内に細胞粘稠体を溶媒に懸濁する工程。
上述の工程(a)~(c)を実施することで所望の組織体を得ることができるが、工程(a)の後に(a’-1)および(a’-2)を実施し、工程(b)を実施することで、より均質な組織体を得ることができる。
【0070】
細胞懸濁液を調製するための溶媒としては、細胞に対する毒性がなく、増殖性や機能を損なわない溶媒であれば特に限定されず、水、緩衝液、細胞の培養培地等を用いることができる。当該緩衝液としては、例えば、リン酸生理食塩水(PBS)、HEPES、Hanks緩衝液等が挙げられる。培養培地としては、D-MEM、E-MEM、MEMα、RPMI-1640、Ham’s F-12等が挙げられる。
【0071】
前記工程(c)に代えて、下記工程(c’)を行ってもよい。
(c’)播種した混合物から液体成分を除去し、基材上に細胞の層を形成する工程。
【0072】
工程(c)及び(c’)における液体成分の除去処理の方法は、細胞の生育及び細胞構造体の構築に悪影響を及ぼさない限り、特に限定されず、液体成分と固体成分の懸濁物から液体成分を除去する方法として当業者に公知の手法により適宜行うことができる。当該手法としては、例えば、遠心分離処理、磁性分離処理、またはろ過処理等が挙げられる。例えば、細胞培養容器としてセルカルチャーインサートを用いた場合には、混合物を播種したセルカルチャーインサートを、10℃、400×gで1分間の遠心分離処理に供することによって、液体成分を除去することができる。
【0073】
[抗ガン剤投与工程]
続いて、薬剤耐性獲得工程の後に、薬剤耐性を獲得させた前記ガン細胞に少なくとも1種類の抗ガン剤を接触させ、培養する。前記抗ガン剤は、例えば、培地に混合し添加する方法等を用いて、前記薬剤耐性を獲得させた前記ガン細胞に接触させればよい。
【0074】
抗ガン剤の種類としては、特別な限定はなく、公知の抗ガン剤から新規の化合物まで使用することができる。投与する抗ガン剤は1種類でもよく、2種類以上を併用して用いてもよい。投与する抗ガン剤の量としては、ガン細胞の種類、量等から適宜選択すればよい。
【0075】
使用する培養培地、培養温度、培養時間、培養環境等は、前記薬剤耐性獲得工程と同様である。
【0076】
[評価工程]
続いて、抗ガン剤投与工程の後に、前記ガン細胞の生存率を算出し、前記抗ガン剤を評価する。
【0077】
ガン細胞の生存率の算出方法としては、公知の方法を用いればよく、例えば、ガン細胞を予め標識物質を用いて標識し、生細胞数をカウントする方法等が挙げられる。
ガン細胞の生細胞数のカウントについて詳述すると、ガン細胞の生細胞数は、ガン細胞の生細胞又はその存在量に相関のあるシグナルを用いて評価することができる。評価時点のがん細胞の生細胞数を測定できればよく、必ずしも生きている状態で測定する必要はない。例えば、ガン細胞をその他の細胞と区別するように標識し、当該標識からのシグナルを指標として調べることができる。例えば、ガン細胞を蛍光標識した後、細胞の生死判定を行うことにより、細胞構造体中の生きているガン細胞を直接計数することができる。この際、画像解析技術を利用することもできる。細胞の生死判定はトリパンブルー染色やPI(Propidium Iodide)染色等の公知の細胞の生死判定方法により行うことができる。なお、ガン細胞の蛍光標識は、例えば、ガン細胞の細胞表面に特異的に発現している物質に対する抗体を一次抗体とし、当該一次抗体と特異的に結合する蛍光標識二次抗体を用いる免疫染色法等の公知の手法で行うことができる。細胞の生死判定及び生細胞数の測定は、細胞構造体の状態で行ってもよく、細胞構造体を単細胞レベルに破壊した状態で行ってもよい。例えば、ガン細胞と死細胞を標識した後の細胞構造体の立体構造を破壊した後、標識を指標としたFACS(fluorescence activated cell sorting)等により、評価時点において生きていたガン細胞のみを直接計数することもできる。
【0078】
ガン細胞を標識する標識物質としては、例えば、蛍光色素、蛍光ビーズ、量子ドット、ビオチン、抗体、抗原、エネルギー吸収性物質、ラジオアイソトープ、化学発光体、酵素等が挙げられ、これらに限定されない。中でも、蛍光色素を用いることが好ましく、蛍光色素としては、より具体的には、例えば、FAM(カルボキシフルオレセイン)、JOE(6-カルボキシ-4’,5’-ジクロロ2’ ,7’-ジメトキシフルオレセイン)、FITC(フルオレセインイソチオシアネート)、TET(テトラクロロフルオレセイン)、HEX(5'-ヘキサクロロ-フルオレセイン-CEホスホロアミダイト)、Cy3、Cy5、Alexa568、Alexa647、PKH26、PKH67GL等が挙げられる。
【0079】
また、抗ガン剤を投与した群でのガン細胞の生存率が、抗ガン剤非投与群でのガン細胞の生存率と比較して、低くなっている場合は、前記ガン細胞において、抗ガン剤に対する薬剤感受性を有しており、抗ガン剤が前記ガン細胞に有効であると判断することができる。
一方、非抗ガン剤を投与した群でのガン細胞の生存率が、抗ガン剤非投与群でのガン細胞の生存率と比較して、生存率が変わらない、又は高くなっている場合は、前記ガン細胞において、抗ガン剤に対する薬剤耐性が獲得されており、抗ガン剤が前記ガン細胞に効果がないと判断することができる。
【0080】
<<抗ガン剤スクリーニング用キット>>
本発明の第三実施形態に係る抗ガン剤スクリーニング用キットは、薬剤耐性を有する生物由来の液性物質と、薬剤耐性を有さないガン細胞と、を含む。
【0081】
本実施形態に係るキットによれば、より迅速且つ簡便に抗ガン剤を評価することができる。さらに、本実施形態に係るキットを用いることで、新薬開発、ドラッグリポジショニングにおける評価、治療法の選択及び評価、又は薬剤耐性の獲得機序の解明研究等へ応用することができる。
【0082】
本実施形態に係るキットにおいて、さらに、細胞培養容器を含んでいてもよい。細胞培養容器を含む場合、前記薬剤耐性を有さないガン細胞は、細胞培養容器上において培養され、備えられた状態であってもよい。培養容器としては、上述の第二実施形態に係る<<抗ガン剤をスクリーニングするための方法>>において例示された容器と同様の容器が挙げられる。
【0083】
本実施形態に係るキットは、さらに、ガン細胞を培養するための培養培地、ガン細胞を標識するための標識物質、ガン細胞の生存率を算出するための検出装置等を含んでいてもよい。等を含んでいてもよい。
培養培地等としては、上述の第二実施形態に係る<<抗ガン剤をスクリーニングするための方法>>において例示されたものと同様のものが挙げられる。また検出装置としては、マイクロプレートリーダー、蛍光スキャナー、2光子励起スキャナー、蛍光顕微鏡等が挙げられる。
【実施例0084】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0085】
[実施例1]耐性細胞株由来細胞外分泌物膜小胞体を用いた耐性株の作製(1)
薬剤耐性を有する生体試料としては、Cetuximab(メルクセローノ社製、アービタックス)に対して耐性を有するヒト結腸直腸腺ガン細胞株HCT116(ATCC(登録商標) CCL-247)を用い、薬剤耐性のない細胞としては、ヒト結腸直腸腺ガン細胞株HT29(ATCC(登録商標) HTB-38TM)を用いた。
また、培養容器としては、トランズウェルセルカルチャーインサート(Corning社製、#3470)を用い、培地としては、10vol/vol%ウシ血清(System Biosciences社製、EXO-FBS-50A-1)、1vol/vol%ペニシリン/ストレプトマイシン(和光純薬社製、168-23191)含有D-MEM(和光純薬社製、043-30085)を用いた。
【0086】
評価に関しては、あらかじめ薬剤耐性のない細胞を蛍光標識(SIGMA社製、PKH67GL)して生細胞数解析にて薬剤感受性を評価した。
薬剤については、終濃度1mg/mL Cetuximab(メルクセローノ社製、アービタックス)を用いて、繰り返し3回ずつ評価を実施した。
薬剤耐性細胞株由来のエクソソームについては、ヒト結腸直腸腺ガン細胞株HCT116(ATCC(登録商標) CCL-247)の培養上清から超遠心処理にて回収したエクソソームを用い、0個(条件A)(薬剤耐性細胞株由来のエクソソーム無添加)、1×109個(条件B)の2条件について評価を実施した。
【0087】
生細胞数解析については、トリパンブルー溶液を用いてライフテクノロジーズ社製セルカウンター(CountessII)の蛍光モードでカウントして評価した。
なお、生細胞数解析について、詳述すると、以下の通りである。
まず、当該トランズウェルセルカルチャーインサートにトリス緩衝溶液(50mM,pH7.4)を適量添加し、その後、液体成分を除去する。この一連の工程を繰り返し3回実施する。次いで、当該トランズウェルセルカルチャーインサートに0.25%トリプシン‐EDTA溶液(Invitrogen社製、)を300μL添加し、CO2インキュベータ(37℃,5%CO2)で15分間インキュベートする。その後、溶液全量を回収し、あらかじめ0.25%トリプシン‐EDTA溶液(Invitrogen社製、)が300μL添加された回収用1.5mLチューブに移す。次いで、当該トランズウェルセルカルチャーインサートに0.25%トリプシン‐EDTA溶液(Invitrogen社製、)を100μL添加し、回収用1.5mLチューブと共にCO2インキュベータ(37℃,5%CO2)で5分間インキュベートする。その後、溶液全量を回収し、回収用1.5mLチューブに移し、更に0.25%トリプシン‐EDTA溶液(Invitrogen社製、)を300μL添加し、CO2インキュベータ(37℃,5%CO2)で5分間インキュベートし、細胞構造体分散液を得た。
この細胞構造体分散液をトリパンブルーに浸漬してライフテクノロジーズ社製セルカウンター(CountessII)の蛍光モードでカウントして、生細胞数を評価した。
薬剤感受性評価については、CNT(残存生細胞率)%=(薬剤を添加した場合の生細胞数)/(薬剤添加しない場合の生細胞数)×100(%)を評価値として用いた。
また、比較として健常者ヒト血清由来のエクソソーム(条件C)を添加した場合及び薬剤耐性を有する生体試料(HCT116)の薬剤感受性(条件D)についても評価を実施した。
詳細な手順は以下に示すとおりである。
【0088】
[1]薬剤耐性のない細胞株の播種と培養
(1)2×104個のHT29細胞を、トランズウェルセルカルチャーインサート内に播種した。
(2)適量の培地を当該トランズウェルセルカルチャーインサートに追加後、CO2インキュベーター(37℃、5%CO2)にて24時間培養した。
【0089】
[2]エクソソームとの共培養
(1)適量の培地とエクソソームとを混合し、前記条件A~Dとなるように調製した。
(2)トランズウェルセルカルチャーインサートに添加後、CO2インキュベーター(37℃、5%CO2)にて24~96時間培養した。
【0090】
[3]薬剤の添加
(1)適量の培地と薬剤とを混合し、終濃度1mg/mLとなるように調製した。
(2)トランズウェルセルカルチャーインサートに添加後、CO2インキュベーター(37℃、5%CO2)にて72時間培養した。
【0091】
[4]薬剤感受性評価
(1)上述の方法を用いて、前記条件A~Dにおける生細胞数を解析し、薬剤感受性を評価した。結果を
図1に示す。
【0092】
図1よりCNT%は、エクソソーム0個(条件A)添加した細胞(薬剤耐性細胞株由来のエクソソーム無添加の細胞)に対して、1×10
9個(条件B)添加した細胞の方が優位に高く薬剤耐性が獲得されていることが示された。
また、エクソソーム1×10
9個(条件B)添加した細胞は、薬剤耐性を有する生体試料(条件D)を添加した細胞とほぼ同様の結果であった。なお、健常人血清由来のエクソソームを用いた場合(条件C)では、逆により奏功する結果が得られた。
【0093】
また、薬剤耐性を獲得した条件BのHT29細胞について、デジタルPCRによりKRAS変異検索を行ったが、Cetuximab耐性を獲得するようなKRAS遺伝子変異は検出されなかった。
【0094】
[実施例2]耐性細胞株由来細胞外分泌物膜小胞体を用いた耐性株の作製(2)
薬剤耐性を有する生体試料としては、Cetuximab(メルクセローノ社製、アービタックス)に対して耐性を有するヒト肺胞基底上皮腺ガン細胞株A549(ATCC(登録商標) CCL-185)を用い、薬剤耐性のない細胞としては、ヒト結腸直腸腺ガン細胞株HT29(ATCC(登録商標) HTB-38TM)を用いた。
培養容器としては、トランズウェルセルカルチャーインサート(Corning社製、#3470)を用い、培地としては、10vol/vol%無細胞外分泌小胞体ウシ血清(System Biosciences社製、EXO-FBS-50A-1)、1vol/vol%ペニシリン/ストレプトマイシン(和光純薬社製、168-23191)含有D-MEM(和光純薬社製、043-30085)を用いた。
【0095】
評価に関しては、あらかじめ薬剤耐性のない細胞を蛍光標識(SIGMA社製、PKH67GL)して生細胞数解析にて薬剤感受性を評価した。
薬剤については、終濃度1mg/mLCetuximab(メルクセローノ社製、アービタックス)を用いて、繰り返し3回ずつ評価を実施した。
薬剤耐性細胞株由来のエクソソームについては、ヒト肺胞基底上皮腺ガン細胞株A549(ATCC(登録商標) CCL-185)の培養上清から超遠心処理にて回収した試料(エクソソーム)を用い、0個(条件A)(薬剤耐性細胞株由来のエクソソーム無添加)、1×108(条件F)、1×109個(条件G)の3条件について評価を実施した。
【0096】
生細胞数解析については、実施例1と同様にトリパンブルー溶液を用いてライフテクノロジーズ社製セルカウンター(CountessII)の蛍光モードでカウントして評価した。
薬剤感受性評価については、CNT%=(前記条件で薬剤を添加した場合の生細胞数)/(薬剤添加しない場合の生細胞数)×100(%)を評価値として用いた。
また、比較として健常者ヒト血清由来のエクソソーム(条件C)を添加した場合及び薬剤耐性を有する生体試料の薬剤感受性(条件H)についても評価を実施した。
詳細な手順については、実施例1の[1]~[4]と同様の方法を用いて行った。結果を
図2に示す。
【0097】
図2よりCNT%は、エクソソーム0個(条件A)添加した細胞(薬剤耐性細胞株由来のエクソソーム無添加の細胞)に対して、1×10
8個(条件F)添加した細胞、1×10
9個(条件G)添加した細胞の方が、優位に生細胞数が多く薬剤耐性が獲得されていることが示された。また、エクソソーム1×10
8個(条件F)添加した細胞、1×10
9個(条件G)添加した細胞は、薬剤耐性を有する生体試料(A549)(条件H)を添加した細胞とほぼ同様の結果であった。
【0098】
[実施例3]耐性細胞株由来細胞外分泌物膜小胞体を用いた耐性株の作製(3)
薬剤耐性を有する生体試料としては、Gefitinib(アストラゼネカ社製、イレッサ錠250)に対して耐性を有するヒト肺がん細胞株A549(ATCC番号:CCL-185)を用い、薬剤耐性のない細胞としては、ヒト肺がん細胞株NCI-H1975(ATCC番号:CRL-5908)を用いた。
また、細胞培養容器としては、トランズウェルセルカルチャーインサート(Corning社製、#3470)を用い、培地としては、10vol/vol%ウシ血清(System Biosciences社製、EXO-FBS-50A-1)、1vol/vol%ペニシリン/ストレプトマイシン(和光純薬社製、168-23191)含有D-MEM(和光純薬社製、043-30085)を用いた。
評価に関しては、あらかじめ薬剤耐性のない細胞を蛍光標識(SIGMA社製、PKH67GL)して生細胞数解析にて薬剤感受性を評価した。
薬剤については、終濃度10μM Gefitinibを用いて、繰り返し3回ずつ評価を実施した。
薬剤耐性細胞株由来のエクソソームについてはヒト肺がん細胞株A549(ATCC番号:CCL-185))の培養上清から超遠心処理にて回収したものを用い、0個(薬剤耐性細胞株由来のエクソソーム無添加)、1×109個の2条件について評価を実施した。
生細胞数解析については、実施例1と同様にトリパンブルー溶液を用いてライフテクノロジーズ社製セルカウンター(CountessII)の蛍光モードでカウントして評価した。
薬剤感受性評価については、CNT(残存生細胞率)%=(薬剤を添加した場合の生細胞数)/(薬剤添加しない場合の生細胞数)×100(%)を評価値として用いた。
また、参考として健常人血清由来エクソソーム1×109個を添加した場合についても実施した。
詳細な手順は以下に示すとおりである。
【0099】
[1]薬剤耐性のない細胞株の播種と培養
(1)2×104個のNCI-H1975細胞を、トランズウェルセルカルチャーインサート内に播種した。
(2)適量の培地を当該トランズウェルセルカルチャーインサートに追加後、CO2インキュベーター(37℃、5%CO2)にて24時間培養した。
【0100】
[2]エクソソームとの共培養
(1)適量の培地とエクソソームとを混合し、エクソソーム0個(薬剤耐性細胞株由来のエクソソーム無添加)、1×109個を含むエクソソーム培地溶液を調製した。
(2)トランズウェルセルカルチャーインサートに添加後、CO2インキュベーター(37℃、5%CO2)にて24時間培養した。
【0101】
[3]薬剤の添加
(1)適量の培地と薬剤とを混合し、終濃度10μg/mLとなるように調製した。
(2)トランズウェルセルカルチャーインサートに添加後、CO2インキュベーター(37℃、5%CO2)にて72時間培養した。
【0102】
[4]薬剤感受性評価
生細胞数解析については、実施例1と同様にトリパンブルー溶液を用いてライフテクノロジーズ社製セルカウンター(CountessII)の蛍光モードでカウントして評価した。
薬剤感受性評価については、CNT(残存生細胞率)%=(薬剤を添加した場合の生細胞数)/(薬剤添加しない場合の生細胞数)×100(%)を評価値として用いた。
【0103】
【0104】
表1よりCNTは、薬剤耐性細胞株由来のエクソソームを無添加の細胞(表1のエクソソーム0個の試料)に対して、1×109個添加した細胞の方が優位に高く薬剤耐性が獲得されていることが示された。
なお、健常人血清由来のエクソソームを用いた場合では、エクソソーム0個の試料のCNTとほぼ同等の結果が得られた。
【0105】
[実施例4]耐性患者由来エクソソームを用いた耐性株の作製
薬剤耐性を有する生体試料としてはCetuximab(メルクセローノ社製、アービタックス)に対して耐性を有する患者血清由来エクソソームを用い、薬剤耐性のない細胞としては、ヒト大腸がん細胞株NCI-H508(ATCC番号:CCL-253)を用いた。
また、細胞培養容器としては、トランズウェルセルカルチャーインサート(Corning社製、#3470)を用い、培地としては、10vol/vol%ウシ血清(System Biosciences社製、EXO-FBS-50A-1)、1vol/vol%ペニシリン/ストレプトマイシン(和光純薬社製、168-23191)含有D-MEM(和光純薬社製、043-30085)を用いた。
評価に関しては、あらかじめ薬剤耐性のない細胞を蛍光標識(SIGMA社製、PKH67GL)して生細胞数解析にて薬剤感受性を評価した。
薬剤については、終濃度0.01μg/mL、0.1μg/mLCetuximabを用いて、繰り返し3回ずつ評価を実施した。
エクソソームについては患者血清R11(Cetuximabに対して耐性を有する患者血清由来エクソソーム)から超遠心処理にて回収したものを用い、血清0μL相当(血清由来のエクソソーム無添加)、血清9μL相当(血清9μL相当量のエクソソーム添加量)、血清45μL相当(血清45μL相当量のエクソソーム添加量)の3条件について評価を実施した。
生細胞数解析については、実施例1と同様にトリパンブルー溶液を用いてライフテクノロジーズ社製セルカウンター(CountessII)の蛍光モードでカウントして評価した。
薬剤感受性評価については、CNT(残存生細胞率)%=(薬剤を添加した場合の生細胞数)/(薬剤添加しない場合の生細胞数)×100(%)を評価値として用いた。
また、参考として耐性のない患者血清由来のエクソソームを添加した場合についても実施した。
詳細な手順は以下に示すとおりである。
【0106】
[1]薬剤耐性のない細胞株の播種と培養
(1)2×104個のNCI-H508細胞を、トランズウェルセルカルチャーインサート内に播種した。
(2)適量の培地を当該トランズウェルセルカルチャーインサートに追加後、CO2インキュベーター(37℃、5%CO2)にて24時間培養した。
【0107】
[2]エクソソームとの共培養
(1)適量の培地とエクソソームとを混合し、血清0μL相当(血清由来のエクソソーム無添加)、血清9μL相当、血清45μL相当のエクソソームを含むエクソソーム培地溶液を調製した。
(2)トランズウェルセルカルチャーインサートに添加後、CO2インキュベーター(37℃、5%CO2)にて6時間培養した。
【0108】
[3]薬剤の添加
(1)適量の培地と薬剤とを混合し、終濃度0.01μg/mL、0.1μg/mLとなるように調製した。
(2)トランズウェルセルカルチャーインサートに添加後、CO2インキュベーター(37℃、5%CO2)にて72時間培養した。
【0109】
[4]薬剤感受性評価
生細胞数解析については、実施例1と同様にトリパンブルー溶液を用いてライフテクノロジーズ社製セルカウンター(CountessII)の蛍光モードでカウントして評価した。
薬剤感受性評価については、CNT(残存生細胞率)%=(薬剤を添加した場合の生細胞数)/(薬剤添加しない場合の生細胞数)×100(%)を評価値として用いた。
【0110】
【0111】
表2よりCNT%は、耐性のある患者由来のエクソソームを無添加の細胞(耐性のある患者由来血清0μL相当のエクソソームを添加した細胞)に対して、耐性のある患者由来血清9μL相当のエクソソームを添加した細胞は、ほぼ同等であった。一方、耐性のある患者由来血清45μL相当のエクソソームを添加した細胞は、優位に高く薬剤耐性が獲得されていることが示された。
なお、耐性のない患者由来血清45μL相当のエクソソームを添加した細胞も、耐性のある患者由来のエクソソームを無添加の細胞(耐性のある患者由来血清0μL相当のエクソソームを添加した細胞)のCNT%とほぼ同等の結果が得られた。
【0112】
以上に、本発明の実施形態を説明したが、実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。また、本発明は実施形態によって限定されない。
本発明によれば、迅速且つ簡便に薬剤耐性を有する細胞を作製する方法、及びより迅速且つ簡便に抗ガン剤を評価するためのスクリーニング方法を提供することができる。さらに、本発明の作製方法により得られた薬剤耐性を有する細胞を用いることで、新薬開発、ドラッグリポジショニングにおける評価、治療法の選択及び評価、又は薬剤耐性の獲得機序の解明研究等へ応用することができる。