(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022100548
(43)【公開日】2022-07-06
(54)【発明の名称】水性ウレタン樹脂組成物、表面処理剤、及び物品
(51)【国際特許分類】
C08L 75/04 20060101AFI20220629BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20220629BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20220629BHJP
C09D 175/04 20060101ALI20220629BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20220629BHJP
C09D 7/43 20180101ALI20220629BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20220629BHJP
C08K 5/29 20060101ALI20220629BHJP
【FI】
C08L75/04
C09K3/00 R
C09K3/00 103F
C09D5/02
C09D175/04
C09D7/61
C09D7/43
C08K3/36
C08K5/29
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020214581
(22)【出願日】2020-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100193725
【弁理士】
【氏名又は名称】小森 幸子
(74)【代理人】
【識別番号】100163038
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 武志
(74)【代理人】
【識別番号】100207240
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 喜弘
(72)【発明者】
【氏名】久野 信也
(72)【発明者】
【氏名】竹村 潔
【テーマコード(参考)】
4J002
4J038
【Fターム(参考)】
4J002CK021
4J002CK031
4J002CK041
4J002CK051
4J002DE029
4J002DJ008
4J002DJ016
4J002DJ038
4J002DJ058
4J002ER007
4J002FD016
4J002FD147
4J002FD208
4J002GH02
4J002GN00
4J002HA04
4J002HA06
4J038DG061
4J038DG081
4J038DG121
4J038DG261
4J038JB25
4J038JC38
4J038KA03
4J038KA04
4J038KA08
4J038KA09
4J038MA10
4J038NA01
4J038NA04
4J038PB07
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】スズを含まない水性ウレタン樹脂組成物であって、表面処理剤として求められる諸特性を損なわずに表面処理剤として有効に利用することができ、かつ水性ウレタン樹脂組成物中のフィラーの沈降を防止し、貯蔵安定性に優れた水性ウレタン樹脂組成物の提供。
【解決手段】非スズ触媒を用いて形成されてなるウレタン樹脂(A)、水(B)、及びフィラー(C)を含有する水性ウレタン樹脂組成物であって、前記水性ウレタン樹脂組成物は、無機系粘度調整剤(D)を含有する、水性ウレタン樹脂組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非スズ触媒を用いて形成されてなるウレタン樹脂(A)、水(B)、及びフィラー(C)を含有する水性ウレタン樹脂組成物であって、前記水性ウレタン樹脂組成物は、無機系粘度調整剤(D)を含有する、水性ウレタン樹脂組成物。
【請求項2】
前記水性ウレタン樹脂組成物は、さらに架橋剤(E)を含有する、請求項1に記載の水性ウレタン樹脂組成物。
【請求項3】
前記非スズ触媒が、カルボン酸ビスマスである、請求項1又は2に記載の水性ウレタン樹脂組成物。
【請求項4】
前記フィラー(C)が、シリカである、請求項1から3のいずれか一項に記載の水性ウレタン樹脂組成物。
【請求項5】
前記架橋剤(E)が、カルボジイミド系架橋剤である、請求項2から4のいずれか一項に記載の水性ウレタン樹脂組成物。
【請求項6】
前記無機系粘度調整剤(D)が、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スチブンサイト、マイカ、及びベントナイトのいずれかから選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載の水性ウレタン樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の水性ウレタン樹脂組成物を含有する、表面処理剤。
【請求項8】
請求項7に記載の表面処理剤により形成された層を有する、物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性ウレタン樹脂組成物、表面処理剤、及び表面処理剤による層を有する物品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車内装レザー用シートの製造工程においては、その表面に耐薬品性および意匠性付与の観点から、表面処理剤により仕上げがなされている。従来の表面処理剤に用いられる材料は、有機溶剤を含んだ溶剤系樹脂組成物が主流であったが、近年の環境規制の高まりを受け、有機溶剤を実質的に含まない水性の表面処理剤の開発が進められている。
【0003】
上記水性の表面処理剤としては、例えば、特定の機械物性を有するポリウレタン、カルボジイミド系架橋剤、及び、フィラーを含有する水性の表面処理剤が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2015/107933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の表面処理剤は、物品の表面に優れた耐摩耗性を付与でき、物品の屈曲性を損なわないものである。また、フィラーが含有されているため、マット感ある意匠の表現にも優れている。
ところで、環境ホルモンの観点から、特定の物質を含む原料等を使用しない表面処理剤の提供が求められている。例えば、スズは環境ホルモンの観点から対応が求められている物質の一つであり、スズを含まない表面処理剤の提供が望まれている。
しかし、上記特許文献1に記載の表面処理剤の成分であるポリウレタンには、スズを含む原料が触媒として使用されており、上記特許文献1では、表面処理剤に使用するウレタン樹脂組成物にはスズが含まれている。
そこで、本発明者らは、スズ触媒に代えて非スズ触媒を用いてポリウレタンを製造し、該ポリウレタンを含有する水性ウレタン樹脂組成物を作製した。その結果、スズ触媒を用いて製造したポリウレタンを用いた場合は、フィラーの沈降が生じないのに、非スズ触媒を用いて製造したポリウレタンを含有する水性ウレタン樹脂組成物からなる表面処理剤は、水性ウレタン樹脂組成物に含有されているフィラーが沈降して貯蔵安定性が悪いことがわかった。
【0006】
そこで本発明は、スズを含まない水性ウレタン樹脂組成物であって、表面処理剤として求められる諸特性を損なわずに表面処理剤として有効に利用することができ、かつ水性ウレタン樹脂組成物中のフィラーの沈降を防止し、貯蔵安定性に優れた水性ウレタン樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、水性ウレタン樹脂組成物に無機系粘度調整剤を含有させることで、表面処理剤として求められる諸特性を損なわずに、非スズ触媒を用いて製造したポリウレタンを含有させても、フィラーが沈降せず、貯蔵安定性に優れた水性ウレタン樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の態様を包含するものである。
[1]非スズ触媒を用いて形成されてなるウレタン樹脂(A)、水(B)、及びフィラー(C)を含有する水性ウレタン樹脂組成物であって、前記水性ウレタン樹脂組成物は、無機系粘度調整剤(D)を含有する、水性ウレタン樹脂組成物。
[2]前記水性ウレタン樹脂組成物は、さらに架橋剤(E)を含有する、[1]に記載の水性ウレタン樹脂組成物。
[3]前記非スズ触媒が、カルボン酸ビスマスである、[1]又は[2]に記載の水性ウレタン樹脂組成物。
[4]前記フィラー(C)が、シリカである、[1]から[3]のいずれかに記載の水性ウレタン樹脂組成物。
[5]前記架橋剤(E)が、カルボジイミド系架橋剤である、[2]から[4]のいずれかに記載の水性ウレタン樹脂組成物。
[6]前記無機系粘度調整剤(D)が、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スチブンサイト、マイカ、及びベントナイトのいずれかから選択される、[1]から[5]のいずれかに記載の水性ウレタン樹脂組成物。
[7][1]から[6]のいずれかに記載の水性ウレタン樹脂組成物を含有する、表面処理剤。
[8][7]に記載の表面処理剤により形成された層を有する、物品。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、スズを含まない水性ウレタン樹脂組成物であって、表面処理剤として求められる諸特性を損なわずに表面処理剤として有効に利用することができ、かつ水性ウレタン樹脂組成物中のフィラーの沈降を防止し、貯蔵安定性に優れた水性ウレタン樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、以下に記載する構成要件の説明は、本発明を説明するための例示であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。
【0011】
(水性ウレタン樹脂組成物)
本発明の水性ウレタン樹脂組成物は、非スズ触媒を用いて形成されてなるウレタン樹脂(A)、水(B)、フィラー(C)、及び無機系粘度調整剤(D)を含有する。
また、本発明の水性ウレタン樹脂組成物の好ましい態様として、水性ウレタン樹脂組成物はさらに、架橋剤(E)を含有する。
以下、水性ウレタン樹脂組成物を構成する各成分について説明する。
【0012】
<ウレタン樹脂(A)>
ウレタン樹脂(A)は、非スズ触媒を用いて形成されたものである。
【0013】
ウレタン樹脂(A)は、水(B)に分散し得るものであり、例えば、アニオン性基、カチオン性基、ノニオン性基等の親水性基を有するウレタン樹脂;乳化剤で強制的に水(B)中に分散したウレタン樹脂などを用いることができる。これらのウレタン樹脂(A)は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0014】
アニオン性基を有するウレタン樹脂を得る方法としては、例えば、カルボキシル基を有する化合物及びスルホニル基を有する化合物からなる群より選ばれる1種以上の化合物を原料として用いる方法が挙げられる。本発明では、カルボキシル基を有する化合物を原料として用いることが好ましい。
【0015】
上記カルボキシル基を有する化合物としては、例えば、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸、2,2-ジメチロール酪酸、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-吉草酸等を用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0016】
上記スルホニル基を有する化合物としては、例えば、3,4-ジアミノブタンスルホン酸、3,6-ジアミノ-2-トルエンスルホン酸、2,6-ジアミノベンゼンスルホン酸、N-(2-アミノエチル)-2-アミノエチルスルホン酸等を用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0017】
上記カルボキシル基及びスルホニル基は、樹脂組成物中で、一部又は全部が塩基性化合物に中和されていてもよい。塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、トリエチルアミン、ピリジン、モルホリン等の有機アミン;モノエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン等のアルカノールアミン;ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム等を含む金属塩基化合物などを用いることができる。
【0018】
上記カチオン性基を有するウレタン樹脂を得る方法としては、例えば、アミノ基を有する化合物の1種又は2種以上を原料として用いる方法が挙げられる。
【0019】
上記アミノ基を有する化合物としては、例えば、トリエチレンテトラミン、ジエチレントリアミン等の1級及び2級アミノ基を有する化合物;N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン等のN-アルキルジアルカノールアミン、N-メチルジアミノエチルアミン、N-エチルジアミノエチルアミン等のN-アルキルジアミノアルキルアミンなどの3級アミノ基を有する化合物などを用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0020】
上記ノニオン性基を有するウレタン樹脂を得る方法としては、例えば、オキシエチレン構造を有する化合物の1種又は2種以上を原料として用いる方法が挙げられる。
【0021】
上記オキシエチレン構造を有する化合物としては、例えば、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシテトラメチレングリコール等のオキシエチレン構造を有するポリエーテルポリオールを用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0022】
以上の親水性基を有するウレタン樹脂を製造するために用いる原料の使用量としては、より一層優れた耐薬品性、耐摩耗性、耐候性、及び、耐加水分解性が得られる点から、ウレタン樹脂(A)の原料中0.1~15質量%の範囲であることが好ましく、1~10質量%の範囲がより好ましく、1.5~7質量%の範囲が更に好ましい。
【0023】
上記強制的に水(B)中に分散するウレタン樹脂を得る際に用いることができる乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビトールテトラオレエート、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合体等のノニオン性乳化剤;オレイン酸ナトリウム等の脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ナフタレンスルフォン酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、アルカンスルフォネートナトリウム塩、アルキルジフェニルエーテルスルフォン酸ナトリウム塩等のアニオン性乳化剤;アルキルアミン塩、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩等のカチオン性乳化剤などを用いることができる。これらの乳化剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0024】
ウレタン樹脂(A)としては、具体的には、例えば、上記した親水性基を有するウレタン樹脂を製造するために用いる原料、ポリイソシアネート(a1)、ポリオール(a2)、及び、鎖伸長剤(a3)の反応物を用いることができる。これらの反応は公知のウレタン化反応を用いることができる。
【0025】
上記ポリイソシアネート(a1)としては、例えば、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、カルボジイミド化ジフェニルメタンポリイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート等の脂肪族または脂環式ポリイソシアネートなどを用いることができる。これらのポリイソシアネートは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0026】
上記ポリイソシアネート(a1)としては、より一層優れた耐薬品性、耐摩耗性、及び、耐候性が得られる点から、脂環式ポリイソシアネートを用いることが好ましく、少なくともイソシアネート基の窒素原子がシクロヘキサン環と直接連結した構造を1つ以上有するポリイソシアネートを用いることがより好ましく、イソホロンジイソシアネート及び/又はジシクロヘキシルメタンジイソシアネートを用いることが更に好ましい。また、脂環式ポリイソシアネートの使用量としては、より一層優れた耐薬品性、耐摩耗性、及び、耐候性が得られる点から、ポリイソシアネート(a1)中30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上がより好ましく、50質量%以上が更に好ましい。
【0027】
また、本発明の水性ウレタン樹脂組成物が表面処理剤として使用される際に、より一層の耐光性が求められる場合には、上記ポリイソシアネート(a1)として、上記脂環式ポリイソシアネートと脂肪族ポリイソシアネートとを併用することが好ましく、上記脂肪族ポリイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネートを用いることが好ましい。この際のポリイソシアネート(a1)中の上記脂環式ポリイソシアネートの含有量としては、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上がより好ましく、50質量%以上が更に好ましい。
【0028】
上記ポリイソシアネート(a1)の使用量としては、より一層優れた耐薬品性、耐摩耗性、及び、耐候性が得られる点から、ウレタン樹脂(A)の原料中5~50質量%の範囲であることが好ましく、15~40質量%の範囲がより好ましく、20~37質量%の範囲が更に好ましい。
【0029】
上記ポリオール(a2)としては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリアクリルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリブタジエンポリオール等を用いることができる。これらのポリオールは単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、より一層優れた耐薬品性、耐摩耗性、及び、耐候性が得られる点から、ポリカーボネートポリオールを用いることが好ましい。
【0030】
上記ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、炭酸エステル及び/又はホスゲンと、水酸基を2個以上有する化合物との反応物を用いることができる。
【0031】
上記炭酸エステルとしては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等を用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0032】
上記水酸基を2個以上有する化合物としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,8-ノナンジオール、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、トリメチロールプロパン、3-メチルペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、グリセリン等を用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、より一層優れた耐薬品性、耐摩耗性、及び、耐候性が得られる点から、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、3-メチルペンタンジオール、及び、1,10-デカンジオールからなる群から選ばれる1種以上の化合物を用いることが好ましく、1,6-ヘキサンジオールがより好ましい。
【0033】
上記ポリカーボネートポリオールの使用量としては、より一層優れた耐薬品性、耐摩耗性、及び、耐候性が得られる点から、ポリオール(a2)中85質量%以上であることが好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上が更に好ましい。
【0034】
上記ポリカーボネートポリオールの数平均分子量としては、より一層優れた耐薬品性、機械的強度、耐摩耗性、及び、耐候性が得られる点から、100~100,000の範囲であることが好ましく、150~10,000の範囲より好ましく、200~2,500の範囲が更に好ましい。なお、上記ポリカーボネートポリオールの数平均分子量は、末端基定量法により測定した値を示す。
【0035】
上記ポリカーボネートポリオール以外の上記ポリオール(a2)の数平均分子量としては、より一層優れた耐候性が得られる点から、500~100,000の範囲であることが好ましく、700~50,000の範囲より好ましく、800~10,000の範囲が更に好ましい。なお、上記ポリオール(a2)の数平均分子量は、末端基定量法により測定した値を示す。
【0036】
上記ポリオール(a2)の使用量としては、ウレタン樹脂(A)の原料中30~80質量%の範囲であることが好ましく、40~75質量%の範囲がより好ましく、50~70質量%の範囲が更に好ましい。
【0037】
上記鎖伸長剤(a3)としては、例えば、数平均分子量が50~450の範囲のもの(前記ポリカーボネートポリオールを除く。)であり、具体的には、エチレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、イソホロンジアミン、1,2-シクロヘキサンジアミン、1,3-シクロヘキサンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジアミン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジシクロヘキシルメタンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、ヒドラジン等のアミノ基を有する鎖伸長剤;エチレングリコール、ジエチレンリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、サッカロース、メチレングリコール、グリセリン、ソルビトール、ビスフェノールA、4,4’-ジヒドロキシジフェニル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、トリメチロールプロパン等の水酸基を有する鎖伸長剤などを用いることができる。これらの鎖伸長剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0038】
上記鎖伸長剤(a3)としては、上記した中でも、より一層優れた耐薬品性、機械的強度、耐摩耗性、及び、耐候性が得られる点から、アミノ基を有する鎖伸長剤を用いることが好ましく、ピペラジン及び/又はヒドラジンがより好ましく、ピペラジン及びヒドラジンの合計量としては、上記鎖伸長剤(a3)中30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上がより好ましく、60質量%以上が更に好ましく、80質量%以上が特に好ましい。また、上記鎖伸長剤(a3)としては、平均官能基数が3未満であること好ましく、2.5未満がより好ましい。
【0039】
上記鎖伸長剤(a3)の使用量としては、より一層優れた耐薬品性、機械的強度、耐摩耗性、及び、耐候性が得られる点から、ウレタン樹脂(A)の原料中0.5~10質量%の範囲であることが好ましく、0.7~5質量%の範囲がより好ましく、0.9~2.3の範囲が更に好ましい。
【0040】
ウレタン樹脂(A)の製造方法としては、例えば、上記ポリイソシアネート(a1)と上記ポリオール(a2)と上記親水性基を有するウレタン樹脂を製造するために用いる原料を反応させることによって、イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを製造し、次いで、上記ウレタンプレポリマーと、上記鎖伸長剤(a3)とを反応させることによって製造する方法;上記ポリイソシアネート(a1)、上記ポリオール(a2)、親水性基を有するウレタン樹脂を製造するために用いる原料、及び、上記鎖伸長剤(a3)を一括に仕込み反応させる方法等が挙げられる。これらの反応は、例えば50~100℃で3~10時間行うことが挙げられる。
【0041】
上記親水性基を有するウレタン樹脂を製造するために用いる原料が有する水酸基、上記ポリオール(a2)が有する水酸基、及び、上記鎖伸長剤(a3)が有する水酸基及びアミノ基の合計と、上記ポリイソシアネート(a1)が有するイソシアネート基とのモル比[(イソシアネート基)/(水酸基及びアミノ基)]としては、0.8~1.2の範囲であることが好ましく、0.9~1.1の範囲であることがより好ましい。
【0042】
ウレタン樹脂(A)を製造する際には、該ウレタン樹脂(A)に残存するイソシアネート基を失活させることが好ましい。イソシアネート基を失活させる場合には、メタノール等の水酸基を1個有するアルコールを用いることが好ましい。該アルコールの使用量としては、ウレタン樹脂(A)100質量部に対し、0.001~10質量部の範囲であることが好ましい。
【0043】
また、ウレタン樹脂(A)を製造する際には、有機溶剤を用いてもよい。有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン化合物;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル化合物;酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル化合物;アセトニトリル等のニトリル化合物;ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等のアミド化合物などを用いることができる。これらの有機溶媒は単独で用いても2種以上を併用してもよい。なお、有機溶剤は、蒸留法等によって最終的には除去されることが好ましい。
【0044】
ウレタン樹脂(A)を製造する際には、触媒が使用されるが、本発明においては、スズ触媒は使用しない。
本発明では、非スズ触媒を用いて、ウレタン樹脂(A)を製造する。
非スズ触媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜使用することができるが、例えば、カルボン酸ビスマス、ハロゲン化ビスマス、リン酸ビスマス、硝酸ビスマス、硫酸ビスマス等が挙げられる。中でも、混和性と反応性の観点から、オクチル酸ビスマス、ネオデカン酸ビスマス、ナフテン酸ビスマス等のカルボン酸ビスマスの非スズ触媒を用いることが好ましい。
【0045】
ウレタン樹脂(A)のウレタン結合の含有量としては、より一層優れた耐薬品性、耐摩耗性、及び、耐候性が得られる点から、980~4,000mmol/kgの範囲が好ましく、1,000~3,500mmol/kgの範囲がより好ましく、1,100~3,000mmol/kgの範囲が更に好ましく、1,150~2,500mmol/kgの範囲が特に好ましい。なお、ウレタン樹脂(A)のウレタン結合の含有量は、上記ポリイソシアネート(a1)、上記ポリオール(a2)、上記親水性基を有するウレタン樹脂を製造するために用いる原料、および、上記鎖伸長剤(a3)の仕込み量から算出される値を示す。
【0046】
ウレタン樹脂(A)のウレア結合の含有量としては、より一層優れた耐薬品性、耐摩耗性、及び、耐候性が得られる点から、315~850mmol/kgの範囲であることが好ましく、350~830mmol/kgの範囲がより好ましく、400~800mmol/kgの範囲が更に好ましく、410~770mmol/kgの範囲が特に好ましい。なお、なお、ウレタン樹脂(A)のウレア結合の含有量は、上記ポリイソシアネート(a1)、上記ポリオール(a2)、上記親水性基を有するウレタン樹脂を製造するために用いる原料、および、上記鎖伸長剤(a3)の仕込み量から算出される値を示す。
【0047】
ウレタン樹脂(A)の脂環構造の含有量としては、より一層優れた耐薬品性、耐摩耗性、及び、耐候性が得られる点から、500~3,000mmol/kgの範囲であることが好ましく、600~2,900mmol/kgの範囲がより好ましく、700~2,700mmol/kgの範囲が更に好ましい。なお、なお、ウレタン樹脂(A)の脂環構造の含有量は、上記ポリイソシアネート(a1)、上記ポリオール(a2)、上記親水性基を有するウレタン樹脂を製造するために用いる原料、および、上記鎖伸長剤(a3)の仕込み量から算出される値を示す。
【0048】
ウレタン樹脂(A)の含有量としては、塗工性、作業性および保存安定性の点から、水性ウレタン樹脂組成物中3~50質量%の範囲であることが好ましく、5~30質量%の範囲がより好ましい。
【0049】
本発明に係るウレタン樹脂(A)は、酸性を示すウレタン樹脂であることが好ましい。
【0050】
<水(B)>
水(B)としては、イオン交換水、蒸留水、水道水、浄化し殺菌した工業用水や井戸水等を用いることができる。
水(B)の含有量としては、水性ウレタン樹脂組成物の塗工性、作業性および保存安定性の点から、水性ウレタン樹脂組成物中30~95質量%の範囲であることが好ましく、50~90質量%の範囲がより好ましい。
【0051】
<フィラー(C)>
本発明の水性ウレタン樹脂組成物が表面処理剤として有効に使用され得るよう、その塗膜にマット感を付与するために、水性ウレタン樹脂組成物にはフィラー(C)が含有される。
【0052】
フィラー(C)としては、例えば、シリカ、有機ビーズ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、タルク、水酸化アルミニウム、硫酸カルシウム、カオリン、雲母、アスベスト、マイカ、ケイ酸カルシウム、アルミナシリケイト等を用いることができる。これらのフィラーは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0053】
シリカとしては、例えば、乾式シリカ、湿式シリカ等を用いることができる。これらの中でも、散乱効果が高く光沢値の調整範囲が広くなることから、乾式シリカが好ましい。これらシリカ粒子の平均粒子径としては、2~14μmの範囲であることが好ましく、3~12μmの範囲がより好ましい。なお、シリカ粒子の平均粒子径は、粒度分布測定結果の積算粒子量曲線において、その積算量が50%を占めるときの粒子径(粒度分布におけるD50での粒子径)を示す。
【0054】
有機ビーズとしては、例えば、アクリルビーズ、ウレタンビーズ、シリコンビーズ、オレフィンビーズ等を用いることができる。
【0055】
本発明に係るフィラー(C)は、表面が塩基性や弱塩基性を示すフィラーであることが好ましい。
【0056】
フィラー(C)の使用量は、付与するマット感に応じて適宜決定することができるが、例えば、水性ウレタン樹脂組成物中0.1~10質量%の範囲であることが好ましく、0.2~5質量%の範囲がより好ましい。
【0057】
<無機系粘度調整剤(D)>
非スズ触媒を用いて製造したポリウレタンを含有する水性ウレタン樹脂組成物であっても、フィラーが沈降せず、貯蔵安定性に優れた水性ウレタン樹脂組成物となるよう、水性ウレタン樹脂組成物には無機系粘度調整剤(D)が含有される。該無機系粘度調整剤(D)は増粘剤としての効果を有する。
【0058】
無機系粘度調整剤(D)としては、例えば、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スチブンサイト、マイカ、及びベントナイト等が挙げられる。これらを単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
無機系粘度調整剤(D)は、天然品、合成品、有機物等による加工処理品のいずれであってもよい。また、有機溶剤や水等の希釈媒体で希釈された態様のものを用いてもよい。
中でも、着色等が少ないことの観点から、合成ヘクトライトを好ましく用いることができる。
【0059】
無機系粘度調整剤(D)は、貯蔵安定性の点では微量で効果が表れる場合が多いが、塗工性や作業性等を考慮して含有量を調節しても良い。無機系粘度調整剤(D)の含有量としては、例えば、水性ウレタン樹脂組成物中0.01~1質量%の範囲であることが好ましく、0.01~0.5質量%の範囲がより好ましい。
【0060】
非スズ触媒を用いてポリウレタンを製造した場合、非スズ触媒に不純物として含まれる有機酸が、フィラー(例えばシリカ粒子)に吸着しているポリウレタン等に置き換わって、フィラーを沈降させるのではないかと本発明者らは推測している。そこで、水性ウレタン樹脂組成物に無機系粘度調整剤を含有させることで、無機系粘度調整剤によるゾル化の作用によりフィラーの沈降が抑制されているのではないかと考えている。また、無機系粘度調整剤は、水中で弱塩基になることも、表面処理剤の液のpHの低下を抑制して、フィラーの沈降抑制に寄与するものと考えている。
【0061】
<架橋剤(E)>
本発明の水性ウレタン樹脂組成物が表面処理剤として有効に使用され得るよう、その塗膜の機械的強度を向上させるために、水性ウレタン樹脂組成物には架橋剤(E)が含有される。
架橋剤(E)としては、例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、オキサゾリジン系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、メラミン系架橋剤等を用いることができる。これらの架橋剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
中でも、人体と環境に対する安全性、および、反応性と可使時間の兼ね合いの観点から、架橋剤(E)はカルボジイミド系架橋剤であることが好ましい。
【0062】
架橋剤(E)の使用量としては、例えば、有効成分として水性ウレタン樹脂組成物中0.3~9質量%の範囲であることが好ましく、0.5~5質量%の範囲がより好ましい。
【0063】
<その他の成分>
本発明の水性ウレタン樹脂組成物は、上述したウレタン樹脂(A)、水(B)、フィラー(C)、及び無機系粘度調整剤(D)や、上述したウレタン樹脂(A)、水(B)、フィラー(C)、無機系粘度調整剤(D)、及び架橋剤(E)以外にも、必要に応じてその他の成分(添加剤)を含有させてもよい。
【0064】
その他の成分としては、例えば、pH調整剤、分散剤、シリコーン添加剤、増粘剤(粘度調整剤)、乳化剤、消泡剤、レベリング剤、粘弾性調整剤、消泡剤、湿潤剤、防腐剤、可塑剤、浸透剤、香料、殺菌剤、殺ダニ剤、防かび剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、染料、顔料(例えば、チタン白、ベンガラ、フタロシアニン、カーボンブラック、パーマネントイエロー等)等を用いることができる。これらのその他の成分は単独で用いても2種以上を併用しても良い。
【0065】
本発明の水性ウレタン樹脂組成物に、アミン類等の塩基をpH調整剤として含有させてもよい。pH調整剤を併用することで、フィラーの沈降抑制に効果があると思われる。
また、本発明の水性ウレタン樹脂組成物に、アニオン性、あるいは、非イオン性や塩のタイプの分散剤を含有させてもよい。この分散剤も、フィラーの沈降抑制に効果があると思われる。
【0066】
本発明の水性ウレタン樹脂組成物に、シリコーン添加剤(シリコーン化合物)を含有させてもよい。シリコーン添加剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリメチルハイドロジェンシロキサン、ポリメチルフェニルハイドロジェンシロキサン;これらの変性物;これらのシリコーン化合物とアクリルとの共重合体などを用いることができる。これらのシリコーン化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、より一層優れた耐摩耗性が得られる点から、ポリジメチルシロキサンを用いることが好ましい。
【0067】
シリコーン添加剤は、水(B)との親和性の点から、水(B)に分散したエマルジョンの形態をとっていることが好ましい。またかかる際には、公知の界面活性剤が含有されていてもよい。
【0068】
シリコーン添加剤の含有量(固形分)としては、より一層優れた耐摩耗性が得られる点から0.01~10質量%の範囲であることが好ましく、0.1~7質量%の範囲がより好ましく、0.5~5質量%の範囲が更に好ましい。
【0069】
本発明の水性ウレタン樹脂組成物に、無機系粘度調整剤(D)とは別の粘度調整剤(増粘剤)を含有させてもよい。粘度調整剤(増粘剤)としては、例えばヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体や、ポリアクリル酸塩、ポリビニルピロリドン、ウレタン系、ポリエーテル系等を使用することができる。これらの中でも、ウレタン樹脂(A)と良好な相溶性を示す点から、ウレタン系会合型増粘剤が好ましい。
【0070】
本発明の水性ウレタン樹脂組成物は、すべての成分を予め配合しておく1液型であっても、主剤組成物と硬化剤組成物とに分け、使用前にこれら組成物を混合する2液型であってもよい。
【0071】
(水性ウレタン樹脂組成物の特性)
上述した各成分を含有してなる本発明の水性ウレタン樹脂組成物は、表面処理剤として求められる諸特性、例えば、物品の表面に優れた耐摩耗性を付与でき、物品の屈曲性を損なわず、マット感(光沢性)に優れるという特性を示すことができ、表面処理剤として有効に利用することができる。
また、本発明の水性ウレタン樹脂組成物は、非スズ触媒を用いて製造したポリウレタンを含有していても、フィラーの沈降を生じさせない、貯蔵安定性に優れた水性ウレタン樹脂組成物となる。
【0072】
(表面処理剤)
本発明の表面処理剤は、上述した本発明の水性ウレタン樹脂組成物を含有する。
本発明の水性ウレタン樹脂組成物は、耐薬品性に優れる皮膜を得ることができる。よって、本発明の水性ウレタン樹脂組成物は、合成皮革、ポリ塩化ビニル(PVC)レザー、熱可塑性オレフィン樹脂(TPO)レザー、ダッシュボード、インスツルメントパネル等の各種物品に塗布する表面処理剤(塗料)として好適に用いることができる。
【0073】
本発明の物品は、表面処理剤により形成された層を有する。
【0074】
物品の具体的としては、例えば、合成皮革、人工皮革、天然皮革、ポリ塩化ビニル(PVC)レザーを用いた自動車内装シート、スポーツ靴、衣料、家具、熱可塑性オレフィン(TPO)レザー、ダッシュボード、インスツルメントパネル等が挙げられる。
【0075】
表面処理剤による層の厚さとしては、例えば、0.1~100μmの範囲である。
【実施例0076】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の「部」、「%」等の記載は、断りのない限り、質量基準の記載を意味する。
【0077】
(製造例1)
4つ口フラスコに558部のメチルエチルケトン、964部のポリカーボネートジオール(1,6-ヘキサンジオールに基づくもので数平均分子量が2000)、43部のジメチロールプロピオン酸、295部のジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、0.05部のカルボン酸ビスマスを順次投入して、70℃で4時間反応させた。40℃まで冷却して33部のトリエチルアミンを投入して、引き続き撹拌しながら2,516部の水を分割して1時間で投入して、次いで19部のエチレンジアミンを投入して40℃で更に1時間反応させた。メチルエチルケトンを減圧下に留去してポリウレタン(A)を含有する不揮発分35%のポリウレタン含有液を得た。
【0078】
(製造例2)
ステンレスジョッキに970部の水を投入し、小型ディスパーで撹拌しながら30部の合成ヘクトライトを主な成分とする無機系粘度調整剤の粉末を分割して30分間で投入した。引き続き30分間撹拌して無機系粘度調整剤(D)の希釈液を得た。
【0079】
(実施例1)
350部のポリウレタン(A)を含有するポリウレタン含有液、550部の水(B)、20部の乾式シリカ系艶消し剤(C)、20部の無機系粘度調整剤(D)の希釈液、30部の高分子系分散剤(有効成分40%)、30部のポリジメチルシロキサン水分散体(有効成分65%)を小型ディスパーで30分間撹拌して水性ウレタン樹脂組成物(1-1)を得た。
100部の水性ウレタン樹脂組成物(1-1)に3部のカルボジイミド系架橋剤(E)(有効成分40%)を加え、小型ディスパーで2分間撹拌して水性ウレタン樹脂組成物(1-2)を得た。該水性ウレタン樹脂組成物(1-1)を水性表面処理剤(1)として、該水性ウレタン樹脂組成物(1-2)を塗料(1)として用いた。
【0080】
実施例1で得られた水性ウレタン樹脂組成物、及び該水性ウレタン樹脂組成物からなる水性表面処理剤と塗料を用いて、以下に記載の各評価を行った。結果を下記表1に記載する。
【0081】
<貯蔵安定性の評価>
水性ウレタン樹脂組成物(1-1)を1リットルポリ瓶に9分目ほど詰めて常温で4週間静置した後、スパーテルで瓶の底を掬って沈降の有無を観察した。
【0082】
<マット感の評価>
水性ウレタン樹脂組成物(1-2)を、A4サイズに切り分けたウレタン合成皮革上に塗布して乾燥、更に3日間静置して評価用試料を作製した。光沢計マイクロトリグロス(BYK製)を用いて測定角度60°で光沢値を測定した。
塗布条件:ウエット膜厚50μmのバーコーター
乾燥条件:120℃に設定したギアオーブンで2分間
【0083】
<耐摩耗性の評価>
評価用試料から幅約7cm、長さ約30cmの試験片を切り出し、平面摩耗試験機(インテック製)を用いて試験した。台上に直径4.5mmのステンレスワイヤ、厚さ10mmのクッション材(圧縮応力1N/平方cm)、試験片の順に置き、試験片が弛まないように固定し、6号帆布を装着した摩擦ヘッドにヘッドと合わせて2kgになる錘を載せて、振幅140mmを毎分60往復で摩擦した。合成皮革のウレタン樹脂層が破壊して生地が露出するまでの往復回数で耐摩耗性を評価した。
【0084】
<屈曲性の評価>
評価用試料から幅2.5cm、長さ12cmの試験片を切り出し、スコット揉み試験機(インテック製)を用いて試験した。合成皮革のウレタン樹脂層を表にし、1kg荷重、2000往復揉んだ後の状態を比較して屈曲性を評価した。
【0085】
(比較例1)
350部のポリウレタン(A)を含有するポリウレタン含有液、570部の水(B)、20部の乾式シリカ系艶消し剤(C)、30部の高分子系分散剤(有効成分40%)、30部のポリジメチルシロキサン水分散体(有効成分65%)を実施例1と同様にして水性ウレタン樹脂組成物(2-1)を得た。
100部の水性ウレタン樹脂組成物(1-1)代えて、100部の水性ウレタン樹脂組成物(2-1)を用いる以外は、実施例1と同様にして水性ウレタン樹脂組成物(2-2)を得た。該水性ウレタン樹脂組成物(2-1)を水性表面処理剤(2)として、該水性ウレタン樹脂組成物(2-2)を塗料(2)として用いた。
比較例1の水性ウレタン樹脂組成物、及び水性表面処理剤と塗料に対しても、実施例1と同様の評価を行った。結果を下記表1に記載する。
【0086】
(製造例2)
0.05部のカルボン酸ビスマスに代えて、0.05部のジブチル錫ジラウレートを用いる以外は、製造例1と同様にしてポリウレタン(G)を含有する不揮発分35%のポリウレタン含有液を得た。
【0087】
(比較例2)
350部のポリウレタン(A)を含有するポリウレタン含有液に代えて、350部のポリウレタン(G)を含有するポリウレタン含有液を用いる以外は、比較例1と同様にして水性ウレタン樹脂組成物(3-1)を得た。
100部の水性ウレタン樹脂組成物(1-1)に代えて、100部の水性ウレタン樹脂組成物(3-1)を用いる以外は、実施例1と同様にして水性ウレタン樹脂組成物(3-2)を得た。該水性ウレタン樹脂組成物(3-1)を水性表面処理剤(3)、該水性ウレタン樹脂組成物(3-2)を塗料(3)として用いた。
比較例2の水性ウレタン樹脂組成物、及び水性表面処理剤と塗料に対しても、実施例1と同様の評価を行った。結果を下記表1に記載する。
【0088】
【0089】
上記実施例より、無機系粘度調整剤(D)を含有する本発明の水性ウレタン樹脂組成物は、物品の表面に優れた耐摩耗性を付与でき、物品の屈曲性を損なわず、マット感(光沢性)に優れた表面処理剤として好適に使用し得る水性ウレタン樹脂組成物であって、スズを含まず、かつフィラーの沈降を防止し貯蔵安定性に優れた水性ウレタン樹脂組成物となることが確認できた。