(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022100564
(43)【公開日】2022-07-06
(54)【発明の名称】火花点火機関用燃料組成物および燃料油基材の配合方法
(51)【国際特許分類】
C10L 1/06 20060101AFI20220629BHJP
【FI】
C10L1/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020214613
(22)【出願日】2020-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000105567
【氏名又は名称】コスモ石油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】特許業務法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀澤 侑平
(57)【要約】
【課題】混入した水分の揮発性に富み、その低減能に優れた火花点火機関用燃料組成物を提供する。
【解決手段】(1)芳香族分の全含有割合が30.0容量%以下、
(2)含酸素化合物の含有割合が0.10容量%以下、(3)下記式(I) V=0.82(P4+0.70×O4)+0.70(P5+0.70×O5)+0.56(P6+0.70×O6)+0.48(P7+0.70×O7)+0.48(P8+0.70×O8) (I)(ただし、P4~P8は、各々、炭素数4~8の鎖状飽和炭化水素の含有割合(容量%)を示し、O4~O8は、各々、炭素数4~炭素数8の不飽和炭化水素の含有割合(容量%)を示す。)により算出される水分揮発係数Vが33.0以上であり、(4)リサーチオクタン価が96以上であることを特徴とする火花点火機関用燃料組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)芳香族分の全含有割合が30.0容量%以下、
(2)含酸素化合物の含有割合が0.10容量%以下、
(3)下記式(I)
V=0.82(P4+0.70×O4)+0.70(P5+0.70×O5)+0.56(P6+0.70×O6)+0.48(P7+0.70×O7)+0.48(P8+0.70×O8) (I)
(ただし、P4~P8は、各々、炭素数4~8の鎖状飽和炭化水素の含有割合(容量%)を示し、O4~O8は、各々、炭素数4~炭素数8の不飽和炭化水素の含有割合(容量%)を示す。)により算出される水分揮発係数Vが33.0以上であり、
(4)リサーチオクタン価が96以上である
ことを特徴とする火花点火機関用燃料組成物。
【請求項2】
火花点火機関用燃料組成物を調製するための燃料油基材の配合方法であって、燃料油基材を混合することにより、
(1)芳香族分の全含有割合が30.0容量%以下、
(2)含酸素化合物の含有割合が0.10容量%以下、
(3)下記式(I)
V=0.82(P4+0.70×O4)+0.70(P5+0.70×O5)+0.56(P6+0.70×O6)+0.48(P7+0.70×O7)+0.48(P8+0.70×O8) (I)
(ただし、P4~P8は、各々、炭素数4~8の鎖状飽和炭化水素の含有割合(容量%)を示し、O4~O8は、各々、炭素数4~炭素数8の不飽和炭化水素の含有割合(容量%)を示す。)により算出される水分揮発係数Vが33.0以上であり、
(4)リサーチ法オクタン価が96以上
である火花点火機関用燃料組成物を得ることを特徴とする燃料油基材の配合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火花点火機関用燃料組成物および燃料油基材の配合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
火花点火機関用燃料組成物などの炭化水素成分は、水分の溶解度が数十~数百ppmと小さく、その飽和溶解度は温度によって変化する。
火花点火機関用燃料組成物は、その輸送や、貯蔵等に際して水分と接触する可能性があり、飽和溶解度に近い水分を溶解している場合がある。
飽和溶解度に近い水分を含有する火花点火機関用燃料組成物は、環境温度の変化に伴って冷却されると、組成物中の水分が分離し始め、その結果、火花点火機関用燃料組成物に白濁や遊離水を生じる場合が考えられる。
【0003】
水濁り防止性能に優れた火花点火機関用燃料組成物として、例えば、エタノールの含有量とオレフィンの含有量とを規定したガソリン燃料組成物(特許文献1参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1記載のガソリン燃料組成物は、エタノールを配合してガソリン燃料組成物中に溶解可能な水分量を増加させることにより、水による濁りを抑制しようとしたものである。
【0006】
一方、火花点火機関用燃料組成物は炭化水素の混合物からなることから、一般にエタノール等の含酸素化合物のような親水性化合物を用いることなく水分の溶解特性を発揮させることは困難である。
【0007】
このような状況下、本発明者等は、水分の溶解性を向上させた火花点火機関用燃料組成物に代えて、水分の揮発性を向上させることにより混入した水分の低減能に優れた火花点火機関用燃料組成物を着想するに至った。
【0008】
本発明は、混入した水分の揮発性に富み、その低減能に優れた火花点火機関用燃料組成物および係る火花点火機関用燃料組成物を調製するための燃料油基材の配合方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記目的を達成するために、火花点火機関用燃料組成物を構成する各炭化水素について、溶存水分の揮発特性を評価した。
すなわち、各炭化水素について、飽和量まで水分を溶解させたのち常温(20℃)下で15分間静置したときの、静置前後における溶存水分量の変化から溶存水分の揮発量割合{(15分間静置することによる溶存水分の減少量/静置前における溶存水分量)×100}(%)を測定したところ、以下の(a)~(d)の知見を得るに至った。
(a)火花点火機関用燃料組成物を構成する鎖状飽和炭化水素のうち、主要成分である炭素数4~8の鎖状飽和炭化水素における溶存水分の揮発量割合は、質量基準で各々以下のとおりとなる。
炭素数4の鎖状飽和炭化水素(n-ブタン) :82%
炭素数5の鎖状飽和炭化水素(n-ペンタン):70%
炭素数6の鎖状飽和炭化水素(n-ヘキサン):56%
炭素数6の鎖状飽和炭化水素(2-メチルペンタン):56%
炭素数7の鎖状飽和炭化水素(n-へプタン):48%
炭素数8の鎖状飽和炭化水素(n-オクタン) :48%
このため、炭素数4~8の鎖状飽和炭化水素における溶存水分の揮発量割合の比は、炭素数4の鎖状飽和炭化水素:炭素数5の鎖状飽和炭化水素:炭素数6の鎖状飽和炭化水素:炭素数7の鎖状飽和炭化水素:炭素数8の鎖状飽和炭化水素=0.82:0.70:0.56:0.48:0.48とみなし得る。
(b)溶存水分の揮発量は、炭素数が同じ場合、鎖状飽和炭化水素(パラフィン)より不飽和炭化水素(オレフィン)の方が低く、炭素数が同じ鎖状飽和炭化水素中の溶存水分の揮発量に比較して、不飽和炭化水素中の溶存水分の揮発量は、質量基準で約0.70倍となる。
(c)芳香族化合物中の溶存水分の揮発量は、鎖状飽和炭化水素及び不飽和炭化水素に比較して無視し得る程小さい。
(d)火花点火機関用燃料組成物中における環状飽和炭化水素(ナフテン)の含有割合は、通常は非常に低いことから、その溶存水分の揮発量についても無視することができる。
【0010】
そして、本発発明者等は、上記(a)~(d)の知見に基づいて、特定式で表される水分揮発係数Vを導出し、係る水分揮発係数Vが所定値以上である場合に、混入した水分を効果的に揮発させその含有割合を好適に低減し得ることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0011】
すなわち、本発明は、
(I)(1)芳香族分の全含有割合が30.0容量%以下、
(2)含酸素化合物の含有割合が0.10容量%以下、
(3)下記式(I)
V=0.82(P4+0.70×O4)+0.70(P5+0.70×O5)+0.56(P6+0.70×O6)+0.48(P7+0.70×O7)+0.48(P8+0.70×O8) (I)
(ただし、P4~P8は、各々、炭素数4~8の鎖状飽和炭化水素の含有割合(容量%)を示し、O4~O8は、各々、炭素数4~炭素数8の不飽和炭化水素の含有割合(容量%)を示す。)により算出される水分揮発係数Vが33.0以上であり、
(4)リサーチ法オクタン価が96以上である
ことを特徴とする火花点火機関用燃料組成物、
(II)火花点火機関用燃料組成物を調製するための燃料油基材の配合方法であって、燃料油基材を混合することにより、
(1)芳香族分の全含有割合が30.0容量%以下、
(2)含酸素化合物の含有割合が0.10容量%以下、
(3)下記式(I)
V=0.82(P4+0.70×O4)+0.70(P5+0.70×O5)+0.56(P6+0.70×O6)+0.48(P7+0.70×O7)+0.48(P8+0.70×O8) (I)
(ただし、P4~P8は、各々、炭素数4~8の鎖状飽和炭化水素の含有割合(容量%)を示し、O4~O8は、各々、炭素数4~炭素数8の不飽和炭化水素の含有割合(容量%)を示す。)により算出される水分揮発係数Vが33.0以上であり、
(4)リサーチ法オクタン価が96以上
である火花点火機関用燃料組成物を得ることを特徴とする燃料油基材の配合方法
を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、混入した水分の揮発性に富み、その低減能に優れた火花点火機関用燃料組成物および係る火花点火機関用燃料組成物を調製するための燃料油基材の配合方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
なお、本明細書中、数値範囲を現す「~」は、その上限及び下限としてそれぞれ記載されている数値を含む範囲を表す。また、「~」で表される数値範囲において上限値のみ単位が記載されている場合は、下限値も同じ単位であることを意味する。
本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。
本明細書において組成物中の各成分の含有率又は含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本明細書において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0014】
本発明に係る火花点火機関用燃料組成物は、
(1)芳香族分の全含有割合が30.0容量%以下、
(2)含酸素化合物の含有割合が0.10容量%以下、
(3)下記式(I)
V=0.82(P4+0.70×O4)+0.70(P5+0.70×O5)+0.56(P6+0.70×O6)+0.48(P7+0.70×O7)+0.48(P8+0.70×O8) (I)
(ただし、P4~P8は、各々、炭素数4~8の鎖状飽和炭化水素の含有割合(容量%)を示し、O4~O8は、各々、炭素数4~炭素数8の不飽和炭化水素の含有割合(容量%)を示す。)
により算出される水分揮発係数Vが33.0以上であり、
(4)リサーチ法オクタン価が96以上
であることを特徴とするものである。
【0015】
本発明に係る火花点火機関用燃料組成物は、(a)芳香族分(芳香族炭化水素)の全含有割合が、30.0容量%以下(0.0~30.0容量%)であり、0.0~29.0容量%であることが好ましく、0.0~28.0容量%であることがより好ましい。
【0016】
火花点火機関用燃料組成物中の芳香族分の全含有割合が30容量%以下であることにより、他の成分の含有割合を所望範囲に容易に制御して、水分の揮発性を容易に発揮することができる。
【0017】
なお、本出願書類において、上記芳香族分の全含有割合は、JIS K 2536-2「石油製品-成分試験方法 第2部:ガスクロマトグラフによる全成分の求め方」により測定した値を意味する。
【0018】
本発明に係る火花点火機関用燃料組成物は、(b)含酸素化合物の含有割合が、0.10容量%以下(0~0.10容量%)であり、0~0.09容量%であることが好ましく、0~0.08容量%であることがより好ましい。
【0019】
含酸素化合物分は、一般的に親水性が高く、水揮発特性が低いため、火花点火機関用燃料組成物の全含有割合が0.10容量%以下であることにより、他の成分の含有割合を所望範囲に容易に制御して、水分の揮発性を容易に発揮することができる。
【0020】
本発明に係る火花点火機関用燃料組成物において、含酸素化合物とは、火花点火機関用燃料組成物の構成基材として配合される酸素原子含有化合物を意味し、具体的には、エチルターシャリーブチルエーテル(ETBE)、ターシャリーアミルメチルエーテル(TAME)、ターシャリーアミルエチルエーテル(TAEE)、エタノール及びブタノール等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0021】
なお、本出願書類において、含酸素化合物の含有割合は、JIS K 2536-2「石油製品-成分試験方法 第2部:ガスクロマトグラフによる全成分の求め方」により測定した値を意味する。
【0022】
本発明に係る火花点火機関用燃料組成物は、(c)下記式(I)
V=0.82(P4+0.70×O4)+0.70(P5+0.70×O5)+0.56(P6+0.70×O6)+0.48(P7+0.70×O7)+0.48(P8+0.70×O8) (I)
(ただし、P4~P8は、各々、炭素数4~8の鎖状飽和炭化水素の含有割合(容量%)を示し、O4~O8は、各々、炭素数4~炭素数8の不飽和炭化水素の含有割合(容量%)を示す。)
により算出される水分揮発係数Vが、33.0以上であるものである。
【0023】
本発明に係る火花点火機関用燃料組成物において、水分揮発係数Vは、33.0以上であり、34.0以上であることが好ましく、35.0以上であることがさらに好ましい。
火花点火機関用燃料組成物中の水分の揮発の有用性を存分に発揮するには、約40%程度の水分の揮発が必要になり、このときの水分揮発係数Vは33.0である。水分揮発係数Vの上限は特に制限されないが、製造上のコストや実用性を加味すると水分揮発係数は、通常、45.0以下が好ましい。
本発明に係る火花点火機関用燃料組成物において、水分揮発係数Vが33.0以上であることにより、混入した水分の揮発性に富み、その低減能に優れた火花点火機関用燃料組成物を容易に提供することができる。
【0024】
本発明に係る火花点火機関用燃料組成物において、P4(炭素数4の鎖状飽和炭化水素の含有割合(容量%))、P5(炭素数5の鎖状飽和炭化水素の含有割合(容量%))、P6(炭素数6の鎖状飽和炭化水素の含有割合(容量%))、P7(炭素数7の鎖状飽和炭化水素の含有割合(容量%))及びP8(炭素数8の鎖状飽和炭化水素の含有割合(容量%))は、JIS K 2536-2「石油製品-成分試験方法 第2部:ガスクロマトグラフによる全成分の求め方」により測定した値を意味する。
なお、火花点火機関用燃料組成物においては、飽和炭化水素として、炭素数が8を超えるものも含まれ得るが、その含有割合及び溶存水分の揮発量は相対的に低いことから、水分揮発係数Vを算出する上で、無視することができる。
【0025】
本発明に係る火花点火機関用燃料組成物において、O4(炭素数4の不飽和炭化水素の含有割合(容量%))、O5(炭素数5の不飽和炭化水素の含有割合(容量%))、O6(炭素数6の不飽和炭化水素の含有割合(容量%))、O7(炭素数7の不飽和炭化水素の含有割合(容量%))及びO8(炭素数8の不飽和炭化水素の含有割合(容量%))は、JIS K 2536-2「石油製品-成分試験方法 第2部:ガスクロマトグラフによる全成分の求め方」により測定した値を意味する。
なお、火花点火機関用燃料組成物においては、不飽和炭化水素として、炭素数が8を超えるものも含まれ得るが、その含有割合及び溶存水分の揮発量は相対的に低いことから、水分揮発係数Vを算出する上で、無視することができる。
【0026】
上述したように、水分揮発係数Vの算出式である式(I)は、火花点火機関用燃料組成物を構成する各炭化水素について、飽和量まで水分を溶解させたのち常温(20℃)下で15分間静置したときの、静置前後における溶存水分量の変化から溶存水分の揮発量割合{(15分間静置することによる溶存水分の減少量/静置前における溶存水分量)×100}(%)を測定することによって導出したものであり、係る溶存水分の揮発量割合は、より詳細には以下の方法により求めたものである。
【0027】
<溶存水分の揮発性評価方法>
(1)測定サンプル調製
水(蒸留水)、測定対象となる炭化水素(試薬品)及び容量100mlの蓋付きガラス容器を室温下で静置した後、水20mlと炭化水素(試薬品)80mlを上記ガラス容器に入れ、係るガラス容器を1分間激しく手で振ることにより水を充分に溶解させる。
その後、20℃にセットした恒温槽内に、上記ガラス容器をセットし、1日静置する。
静置後、ガラス容器内で二層に分離した水層/炭化水素層のうち、炭化水素層を、飽和量まで水分を溶解させた測定サンプルとする。
(2)溶存水分の揮発量測定
容積60mlのシリンジバイアルに上記(1)で調製した20℃の測定サンプル(炭化水素層)を30ml分取し、その溶存水分量(飽和水分量)をカールフィッシャー式電量滴定法(JIS K 2275-3)により測定する。
その後、温度28℃、湿度4%の窒素ガスで上記シリンジバイアルの気相を置換し、蓋をした後、20℃の恒温槽で15分間静置する。
次いで、上記シリンジバイアルから注射器を用いて測定サンプルを分取し、その水分量をカールフィッシャー式電量滴定法(JIS K 2275-3)により測定して、揮発量割合として、質量基準で、溶存水分量の変化割合{(15分間静置したことによる溶存水分の減少量/静置前における溶存水分量)×100}(%)を求めることにより、揮発特性を評価する。
【0028】
本発明に係る火花点火機関用燃料組成物は、必要に応じて、各種の燃料添加剤を適宜含有するものであってもよい。
燃料添加剤としては、例えば、フェノール系、アミン系等の酸化防止剤、チオアミド化合物等の金属不活性剤、有機リン系化合物等の表面着火防止剤、コハク酸イミド、ポリアルキルアミン、ポリエーテルアミン及びポリイソブチレンアミン等の清浄分散剤、多価アルコールエステルやアミド化合物等の摩擦調整剤、多価アルコール及びそのエーテル等の氷結防止剤、有機酸のアルカリ金属やアルカリ土類金属塩、高級アルコールの硫酸エステル等の助燃剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤及び両性界面活性剤等の帯電防止剤、アルケニルコハク酸エステル等の錆止め剤、及びアゾ染料等の着色剤等並びに公知の燃料添加剤が挙げられる。
本発明に係る火花点火機関用燃料組成物においては、これ等を一種又は複数種組み合わせて含有することができ、これら燃料添加剤の含有量は、特に制限されないが、通常、その合計添加量が0.1質量%以下であることが好ましい。
【0029】
本発明に係る火花点火機関用燃料組成物は、硫黄分含有量が10質量ppm以下であるものが好ましい。
本発明に係る火花点火機関用燃料組成物において、硫黄分含有量が10質量ppm以下であることにより、排出ガス浄化触媒の能力低下を抑制して、窒素酸化物(NOx)、炭化水素(THC)、一酸化炭素(CO)等の排出量を低減し得るとともに、排出ガス中の硫黄酸化物(SOx)量を低減することができる。
なお、本出願書類において、硫黄分含有量は、JIS K 2541の規定により測定した値を意味するものとする。
【0030】
本発明に係る火花点火機関用燃料組成物は、10%留出温度T10が、30~70℃以下であり、35~65℃であることが好ましく、40~60であることがより好ましい。
本発明に係る火花点火機関用燃料組成物は、50%留出温度T50が、75~110℃であることが好ましく、75~108℃であることがより好ましく、75~105℃であることがさらに好ましい。
本発明に係る火花点火機関用燃料組成物は、90%留出温度T90が、100~180℃以下であり、100~160℃であることが好ましく、100~140℃であることがより好ましい。
【0031】
本発明者等の検討によれば、火花点火機関用燃料組成物を構成する各炭化水素において、常温(20℃)下における溶存水分の揮発量は、炭素数の小さいもの程(すなわち一般に沸点の低いもの程)大きくなる。
このため、本発明に係る火花点火機関用燃料組成物は沸点の低い炭化水素によって構成されることにより、混入した水分を容易に揮発し、その含有量を容易に低減することができる。
【0032】
なお、本出願書類において、火花点火機関用燃料組成物のT10、T50及びT90等の蒸留性状は、JIS K 2254「石油製品-蒸留試験法」により測定された値を意味する。
【0033】
本発明に係る火花点火機関用燃料組成物において、リサーチ法オクタン価(RON)は、96~111であることが好ましく、96~109であることがより好ましく、96~107であることがさらに好ましい。
【0034】
本発明に係る火花点火機関用燃料組成物において、RONが上記範囲内にあることにより、どのような火花点火機関においても使用できる燃料になる。
なお、本出願書類において、RONは、JIS K 2280「石油製品-燃料油-オクタン価及びセタン価試験方法並びにセタン指数算出方法」のリサーチ法オクタン価試験方法に係る規定により測定した値を意味する。
【0035】
本発明に係る火花点火機関用燃料組成物は、15℃における密度が、0.700~0.783g/cm3であるものが好ましく、0.710~0.783g/cm3であるものがより好ましく、0.720~0.783g/cm3であることがさらに好ましい。
本発明に係る火花点火機関用燃料組成物において、15℃における密度が上記範囲内にあることにより、燃費の低下を容易に抑制することができる。
なお、本出願書類において、15℃における密度は、JIS K 2249「原油及び石油製品-密度試験方法及び密度・質量・容量換算表」の規定により測定した値を意味する。
【0036】
本発明に係る火花点火機関用燃料組成物は、リート゛蒸気圧(RVP)が、44~93kPaであるものが好ましく、46~93kPaであるものがより好ましく、48~93kPaであるものがさらに好ましい。
なお、本出願書類において、リート゛蒸気圧(RVP)は、JIS K 2258-1の規定により測定した。本発明に係る火花点火機関用燃料組成物において、リート゛蒸気圧(RVP)が上記範囲内にあることにより、運転性を維持することができる。
【0037】
本発明に係る火花点火機関用燃料組成物において、上述したもの以外の特性については、自動車ガソリンのJIS K 2202種類1号に係る規定を満たすものであることが望まれる。
【0038】
本発明に係る火花点火機関用燃料組成物は、自動車用エンジン等の一般的な火花点火機関における、ガソリン燃料組成物等として用いることができる。
【0039】
本発明に係る火花点火機関用燃料組成物は、特に制限はないが、必要に応じて、燃料油基材として、例えば、以下に記載する(i)~(vi)のいずれかのガソリン基材を適宜所望割合配合することにより調製することができる。
(i)重質軽油や減圧軽油等を原料とする従来公知の接触分解法、特に流動接触分解法(UOP法、シェル二段式法、フレキシクラッキング法、ウルトラオルソフロー法、テキサコ法、ガルフ法、ウルトラキャットクラッキング法、RCC法、HOC法等)により、固体酸触媒(例えば、シリカ・アルミナにゼオライトを配合したもの等)で分解して得られた接触分解ガソリン。
(ii)原油を常圧蒸留した直留ナフサを脱硫処理して得られた脱硫直留ナフサを蒸留により、軽質留分と重質留分に分けた内の軽質留分である脱硫軽質ナフサ。
(iii)イソブタンと低級オレフィン(ブテン、プロピレン等)を原料として、酸触媒(硫酸、フッ化水素、塩化アルミニウム等)の存在下で反応させて得られるアルキレート。
(iv)原油や粗油等の常圧蒸留時、改質ガソリン製造時又は分解ガソリン製造時等に蒸留して得られるブタン、ブテン類を主成分としたC4留分。
(v)直鎖の低級パラフィン系炭化水素の異性化によって得られるアイソメレート又はアイソメレートを精密蒸留して得られるイソペンタン。
(vi)接触改質装置より得られる、軽質接触改質ガソリン留分及び重質接触改質ガソリン留分。
【0040】
本発明に係る火花点火機関用燃料組成物は、得られる火花点火機関用燃料組成物における、(1)芳香族分の全含有割合、(2)含酸素化合物の含有割合、(3)水分揮発係数Vおよび(4)リサーチ法オクタン価(RON)が、各々、上述した規定を満たすように、各燃料油基材を所望割合で混合する。
【0041】
本発明によれば、混入した水分の揮発性に富み、その低減能に優れた火花点火機関用燃料組成物を提供することができる。
【0042】
次に本発明に係る燃料油基材の配合方法について説明する。
本発明に係る燃料油基材の配合方法は、火花点火機関用燃料組成物を調製するための燃料油基材の配合方法であって、燃料油基材を混合することにより、
(1)芳香族分の全含有割合が30.0容量%以下、
(2)含酸素化合物の含有割合が0.10容量%以下、
(3)下記式(I)
V=0.82(P4+0.70×O4)+0.70(P5+0.70×O5)+0.56(P6+0.70×O6)+0.48(P7+0.70×O7)+0.48(P8+0.70×O8) (I)
(ただし、P4~P8は、各々、炭素数4~8の鎖状飽和炭化水素の含有割合(容量%)を示し、O4~O8は、各々、炭素数4~炭素数8の不飽和炭化水素の含有割合(容量%)を示す。)により算出される水分揮発係数Vが33.0以上であり、
(4)リサーチ法オクタン価が96以上
である火花点火機関用燃料組成物を得ることを特徴とするものである。
【0043】
本発明に係る燃料油基材の配合方法において、燃料油基材の具体例としては、上述したものを挙げることができる。
本発明に係る燃料油基材の配合方法においては、配合対象となる各燃料油基材における、(i)芳香族分の全含有割合、(ii)含酸素化合物の含有割合、(iii)P4~P8およびO4~O8および(iv)リサーチ法オクタン価に基づき、得られる火花点火機関用燃料組成物における、(1)芳香族分の全含有割合、(2)含酸素化合物の含有割合、(3)水分揮発係数Vおよび(4)リサーチ法オクタン価が各々所定の値となるように各燃料油基材の配合割合を決定する。
その上で、各燃料油配合することにより、目的とする火花点火機関用燃料組成物を調製することができる。
【0044】
本発明に係る燃料油基材の配合方法によって得られる火花点火機関用燃料組成物の詳細は、本発明に係る火花点火機関用燃料組成物の説明で述べたとおりである。
【0045】
本発明によれば、混入した水分の揮発性に富み、その低減能に優れた火花点火機関用燃料組成物を容易に製造し得る燃料油基材の配合方法を提供することができる。
【0046】
以下、実施例を参照して本発明を更に詳しく説明するが、これらの実施例は本発明を実施した場合の一例を示すものであって、本発明はこれ等の実施例により何ら限定されるものではない。
表中の分析値は上記各測定方法に基づいて測定した値である。
【0047】
以下の実施例及び比較例においては、基材として、軽質接触分解ガソリン(L-FCC、接触分解ガソリンを蒸留により軽質留分及び重質留分に分留したときの軽質留分)、重質接触改質ガソリン(H-RMT)、アルキレート(ALKY)、C4留分(C4)及びジイソブチレン(DIB)を使用した。
【0048】
(実施例1~実施例2)
上記軽質接触分解ガソリン(L-FCC)、重質接触改質ガソリン(H-RMT)、アルキレート(ALKY)、C4留分(C4)及びジイソブチレン(DIB)をガソリン基材として、得られるガソリン組成物における、(1)芳香族分の全含有割合(容量%)、(2)含酸素化合物の含有割合(容量%)、(3)水分揮発係数Vおよび(4)リサーチ法オクタン価(RON)が、各々所望の値となるように、表1に示す配合割合で配合することにより、火花点火機関用燃料組成物を調製した。
各実施例で得られた火花点火機関用燃料組成物の特性を表2に示す。
【0049】
(比較例1)
上記軽質接触分解ガソリン(L-FCC)、重質接触改質ガソリン(H-RMT)及びC4留分(C4)を基材として、表1に示す配合割合なるように配合することにより、火花点火機関用燃料組成物として、ガソリン燃料組成物を調製した。
比較例1で得られた火花点火機関用燃料組成物の特性を表2に示す。
【0050】
なお、表2において、揮発特性の評価指標となる溶存水分の揮発量割合(%)は、以下に記載する方法で求めたものである。
【0051】
<溶存水分の揮発量測定方法>
(1)測定サンプル調製
水(蒸留水)、測定対象となる火花点火機関用燃料組成物及び容量100mlの蓋付きガラス容器を室温下で静置した後、水20mlと火花点火機関用燃料組成物80mlを上記ガラス容器内に入れ、係るガラス容器を1分間激しく手で振ることにより水を充分に溶解させる。
その後、20℃にセットした恒温槽内に、上記ガラス容器をセットし、1日静置する。
静置後、ガラス容器内で二層に分離した水層/炭化水素層のうち、炭化水素層を、飽和量まで水分を溶解させた測定サンプルとする。
(2)溶存水分の揮発量測定
容積60mlのシリンジバイアルに上記(1)で調製した20℃の測定サンプル(炭化水素層)を30ml分取し、その溶存水分量(飽和水分量(質量ppm))をカールフィッシャー式電量滴定法(JIS K 2275-3)により測定する。
その後、温度28℃、湿度4%の窒素ガスで上記シリンジバイアルの気相を置換し、蓋をした後、20℃の恒温槽で15分間静置する。
次いで、上記シリンジバイアルから注射器を用いて測定サンプルを分取し、その水分量をカールフィッシャー式電量滴定法(JIS K 2275-3)により測定して、溶存水分の揮発量割合として、質量基準で、溶存水分量の変化割合{(15分間静置することによる溶存水分の減少量/静置前における溶存水分量)×100}(%)を求める。
【0052】
【0053】
【0054】
表2より、実施例1~実施例2で得られた火花点火機関用燃料組成物は、(1)芳香族分の全含有割合、(2)含酸素化合物の含有割合、(3)水分揮発係数Vおよび(4)リサーチ法オクタン価が、各々、所望の値となるように調製されてなるものであることから、溶存水分の揮発量割合が41~48%と高く、混入した水分の揮発性に富み、その低減能に優れるものであることが分かる。
【0055】
一方、表2より、比較例1で得られた火花点火機関用燃料組成物は、(1)芳香族分の全含有割合および(3)水分揮発係数Vが所定の規定を満たさないものであることから、溶存水分量の変化割合(溶存水分量の揮発量割合)が28%と低く、混入した水分の揮発性に劣ることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、混入した水分の揮発性に富み、その低減能に優れた火花点火機関用燃料組成物および係る火花点火機関用燃料組成物を調製するための燃料油基材の配合方法を提供することができる。