(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022100643
(43)【公開日】2022-07-06
(54)【発明の名称】外壁塗装材の補修方法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20220629BHJP
【FI】
E04G23/02 A
E04G23/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020214740
(22)【出願日】2020-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】510051417
【氏名又は名称】株式会社ダイニチ
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大川 正培
【テーマコード(参考)】
2E176
【Fターム(参考)】
2E176AA02
2E176BB21
2E176BB24
2E176BB36
(57)【要約】
【課題】補修費用を抑えることができる外壁塗装材の補修方法を提供する。
【解決手段】外壁塗装材4の状態に応じて、下地処理を施す。外壁塗装材4に下塗り材を塗布しネット15を貼り付ける。湿式ドリルを使用し、外壁塗装材4を貫通して下地調整材3を除去することにより穴23を形成する。穴23にエポキシ樹脂33を注入し、プラグレスピン31を打ち込むことによって、ネット15を支持する。下塗り材13を覆うように中塗り材および上塗り材を塗布した後、新しい外壁塗装材を塗布する。
【選択図】
図19
【特許請求の範囲】
【請求項1】
躯体に下地調整層を介在させて塗装された外壁塗装材の補修方法であって、
外壁塗装材の状態に応じて、前記外壁塗装材に下地処理を施す工程と、
前記下地処理が施された前記外壁塗装材を覆うように被覆材を塗布する工程と、
前記被覆材に下塗り材を塗布する工程と、
前記下塗り材に第1ネットを貼り付ける工程と、
第1湿式ドリルを使用し、前記外壁塗装材を貫通して前記下地調整層の少なくとも一部を除去することにより、第1穴を形成する工程と、
前記第1穴に第1接着材を注入する工程と、
前記第1穴に第1アンカー部材を打ち込むことにより、前記第1アンカー部材によって前記第1ネットを支持する工程と、
前記第1ネットおよび前記第1アンカー部材を覆うように、前記下塗り材の上に中塗り材を塗布する工程と、
前記中塗り材を覆うように、他の外壁塗装材を塗布する工程と
を備えた、外壁塗装材の補修方法。
【請求項2】
前記下地調整層は、下地調整材および下地モルタルのいずれかであり、
前記下地モルタルは、前記下地調整層よりも厚い、請求項1記載の外壁塗装材の補修方法。
【請求項3】
前記下地調整層として、前記下地モルタルが使用されている場合において、前記下地モルタルが前記躯体から浮いている場合には、前記下地処理を施す工程は、
前記外壁塗装材を貫通して前記下地モルタルが前記躯体から浮いている箇所を経て前記躯体の一部を除去することにより、第2穴を形成する工程と、
前記第2穴に第2アンカー部材を打ち込む工程と、
前記第2穴に第2接着材を注入する工程と
を含み、
前記第2穴を形成する工程は、第2湿式ドリルを用いて少なくとも前記外壁塗装材を貫通する工程を備えた、請求項2記載の外壁塗装材の補修方法。
【請求項4】
前記外壁塗装材に塗装剥がれが生じている場合には、前記下地処理を施す工程は、前記外壁塗装材が剥がれている箇所に充填材を塗布し、前記外壁塗装材が剥がれている箇所を平坦にする工程を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の外壁塗装材の補修方法。
【請求項5】
前記外壁塗装材に膨れが生じている場合には、前記下地処理を施す工程は、
前記外壁塗装材に膨れが生じている箇所を湿らせる工程と、
前記外壁塗装材に膨れが生じている箇所に切れ込みを入れる工程と、
前記外壁塗装材に膨れが生じている箇所を上から押えつけて平坦にし、前記切れ込みから第3接着材を注入する工程と
を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の外壁塗装材の補修方法。
【請求項6】
前記外壁塗装材にひび割れが生じている場合には、前記下地処理を施す工程は、
前記外壁塗装材にひび割れが生じている箇所に、第4接着材を塗布する工程と、
前記外壁塗装材にひび割れが生じている箇所を覆うように、第2ネットを貼り付ける工程と
を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の外壁塗装材の補修方法。
【請求項7】
前記第1穴を形成する工程は、前記外壁塗装材および前記下地調整層を貫通して前記躯体の一部を除去する工程を含み、
前記第1ネットを固定する工程は、前記下塗り材の表面から前記躯体に達する前記第1アンカー部材によって、前記第1ネットを支持する工程を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の外壁塗装材の補修方法。
【請求項8】
前記中塗り材を塗布する工程と前記他の外壁塗装材を塗布する工程との間に、前記中塗り材に上塗り材を塗布する工程を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の外壁塗装材の補修方法。
【請求項9】
前記第1穴を形成する工程は、前記第1穴は1m2あたり5つの複数の前記第1穴を形成する工程を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の外壁塗装材の補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外壁塗装材の補修方法に関し、特に、アスベストを含有する外壁塗装材の補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物等の外壁に塗布された外壁塗装材は、年月とともに劣化してくる。劣化した旧外壁塗装材については、その補修として、旧外壁塗装材の上から新しい外壁塗装材が重ね塗りされる。3回以上の重ね塗りを行なう際には、それまでに重ね塗りされた外壁塗装材等の劣化により不具合が生じている箇所を補修しなければならない場合が多くなる。劣化による不具合としては、たとえば、外壁塗装材等が躯体から浮いてしまう場合がある。また、外壁塗装材が躯体から剥がれてしまう場合等がある。
【0003】
従来、外壁塗装材の劣化に伴って外壁塗装材を補修しなければならない場合には、まず、旧外壁塗装材を躯体から取り除き、その後で、新たに外壁塗装材を躯体に塗布するという補修が行われていた。なお、外壁塗装材が塗布された外壁の補修方法を開示した特許文献の一例として、特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、1970年~1999年の間に製造された外壁塗装材には、アスベストが含まれていることが判明した。また、躯体の表面に塗布される下地調整材についても、1970年~2005年の間に製造された下地調整材には、アスベストが含まれていることが判明した。
【0006】
アスベストを含有する外壁塗装材等を躯体から取り除こうとする場合には、補修すべき外壁からアスベスト(外壁塗装材)が飛散させないことが、厚生労働省から要請されている。このため、施工に際して、外壁の施工面を湿潤化し完全養生する必要があり、補修費用が高額になる。
【0007】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、補修費用を抑えることができる外壁塗装材の補修方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る外壁塗装材の補修方法は、躯体に下地調整層を介在させて塗装された外壁塗装材の補修方法であって、以下の工程を備えている。外壁塗装材の状態に応じて、外壁塗装材に下地処理を施す。下地処理が施された外壁塗装材を覆うように被覆材を塗布する。被覆材に下塗り材を塗布する。下塗り材に第1ネットを貼り付ける。第1湿式ドリルを使用し、外壁塗装材を貫通して下地調整層の少なくとも一部を除去することにより、第1穴を形成する。第1穴に第1接着材を注入する。第1穴に第1アンカー部材を打ち込むことにより、第1アンカー部材によって第1ネットを支持する。第1ネットおよび第1アンカー部材を覆うように、下塗り材の上に中塗り材を塗布する。中塗り材を覆うように、他の外壁塗装材を塗布する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る外壁塗装材の補修方法によれば、アンカー部材が打ち込まれる第1穴を形成する際に、湿式ドリルを用い、外壁塗装材を貫通して下地調整層の少なくとも一部を除去することにより第1穴を形成することで、外壁塗装材に含まれるアスベストが飛散するのを防止することができる。また、第1穴に、湿潤な第1接着材を注入することで、外壁塗装材等に含まれるアスベストの飛散防止に寄与することができる。これにより、アスベストを含有する外壁塗装材等を除去することなく、その外壁塗装材を覆うように新たな他の外壁塗装材を塗布することができる。その結果、アスベストを含有する外壁塗装材を躯体から除去する外壁塗装材の補修方法と比べると、補修に要する費用を大幅に削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】各実施の形態に係る外壁塗装材の補修方法の概要を説明するためのフローチャートである。
【
図2】実施の形態1に係る外壁塗装材の補修方法において、下地調整材を介在させた外壁塗装材の状態を説明するための部分断面図である。
【
図3】同実施の形態において、外壁塗装材の補修方法における下地処理の第1例の場合の一工程を示す部分断面図である。
【
図4】同実施の形態において、
図3に示す工程の後に行われる工程を示す部分断面図である。
【
図5】同実施の形態において、外壁塗装材の補修方法における下地処理の第2例の場合の一工程を示す部分断面図である。
【
図6】同実施の形態において、
図5に示す工程の後に行われる工程を示す部分断面図である。
【
図7】同実施の形態において、
図6に示す工程の後に行われる工程を示す部分断面図である。
【
図8】同実施の形態において、
図7に示す工程の後に行われる工程を示す部分断面図である。
【
図9】同実施の形態において、
図8に示す工程の後に行われる工程を示す部分断面図である。
【
図10】同実施の形態において、外壁塗装材の補修方法における下地処理の第3例の場合の一工程を示す部分断面図である。
【
図11】同実施の形態において、
図10に示す工程の後に行われる工程を示す部分断面図である。
【
図12】同実施の形態において、
図11に示す工程における部分平面図である。
【
図13】同実施の形態において、外壁塗装材の補修方法における下地処理を施した後に行われる一工程を示す部分断面図である。
【
図14】同実施の形態において、
図13に示す工程の後に行われる工程を示す部分断面図である。
【
図15】同実施の形態において、
図14に示す工程の後に行われる工程を示す部分断面図である。
【
図16】同実施の形態において、
図15に示す工程の後に行われる工程を示す部分断面図である。
【
図17】同実施の形態において、
図16に示す工程において、穴を形成する位置の一例を示す部分平面図である。
【
図18】同実施の形態において、
図16に示す工程の後に行われる工程を示す部分断面図である。
【
図19】同実施の形態において、
図18に示す工程の後に行われる工程を示す部分断面図である。
【
図20】同実施の形態において、
図19に示す工程の後に行われる工程を示す部分断面図である。
【
図21】同実施の形態において、
図20に示す工程の後に行われる工程を示す部分断面図である。
【
図22】同実施の形態において、
図21に示す工程の後に行われる工程を示す部分断面図である。
【
図23】実施の形態2に係る外壁塗装材の補修方法において、下地モルタルを介在させた外壁塗装材を説明するための部分断面図である。
【
図24】同実施の形態において、外壁塗装材の補修方法における下地処理の一例の一工程を示す部分断面図である。
【
図25】同実施の形態において、
図24に示す工程の後に行われる工程を示す部分断面図である。
【
図26】同実施の形態において、
図25に示す工程の後に行われる工程を示す部分断面図である。
【
図27】同実施の形態において、外壁塗装材の補修方法における下地処理を施した後に行われる一工程を示す部分断面図である。
【
図28】同実施の形態において、
図27に示す工程の後に行われる工程を示す部分断面図である。
【
図29】同実施の形態において、変形例に係る外壁塗装材の補修方法の一工程を示す部分断面図である。
【
図30】同実施の形態において、
図29に示す工程の後に行われる工程を示す部分断面図である。
【
図31】同実施の形態において、
図30に示す工程の後に行われる工程を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(外壁塗装材の補修方法の概要)
各実施の形態に係る外壁塗装材の補修方法について説明する。はじめに、外壁塗装材の補修方法における処理の概要について、
図1に示すフローチャートにしたがって説明する。まず、ステップS1では、建物等の躯体に塗布された外壁塗装材の状態をチェックし、その状態に応じて、外壁塗装材に対して適切な下地処理を行う。
【0012】
その下地処理の後、ステップS2では、プライマー層(被覆材)を外壁塗装材の表面に塗布する。次に、ステップS3では、下塗り材をプライマー層の表面に塗布する。次に、ステップS4では、ネット(第1ネット)を貼り付ける。次に、ステップS5では、外壁塗装材を貫通する、アンカー部材用の穴(第1穴)を形成する。
【0013】
次に、ステップS6では、その穴にアンカー部材を打ち込む。次に、ステップS7では、アンカー部材の頭を覆うように、中塗り材を塗布する。次に、ステップS8では、必要に応じて仕上げ材を塗布する。最後に、ステップS9では、新しい外壁塗装材(他の外壁塗装材)を塗布する、以上により、外壁塗装材の補修が完了する。
【0014】
実施の形態1
ここでは、躯体と外壁塗装材との間に介在する下地調整層として、比較的薄い下地調整材を適用した外壁塗装材の補修方法について、具体的に詳細に説明する。なお、説明に使用する各図面では、躯体に塗装された外壁塗装材等の構造を明確に示すために、外壁塗装材等の厚さは誇張して示されている。また、断面を示す一部の図面については、ハッチングが省略されている。
【0015】
(外壁塗装材の補修方法の詳細)
まず、補修すべき外壁塗装材4(
図2参照)の状態をチェックする。
図2に示すように、建物等の躯体1には、躯体1の表面を調整する下地調整層3としての下地調整材3aを介して、1層目の外壁塗装材4として、第1外壁塗装材5が塗布されている。その第1外壁塗装材5に対して重ね塗りが行われ、2層目の外壁塗装材4として、第2外壁塗装材7が塗布されている。下地調整材3aの厚さは、たとえば、1.0mm程度である。第1外壁塗装材5および第2外壁塗装材7のそれぞれの厚さは、たとえば、0.5~1.0mm程度である。なお、外壁塗装材4の層数は一例であり、1層の場合または3層等の場合も想定される。
【0016】
下地処理を施すべき外壁塗装材4等の状態として、ここでは、外壁塗装材4に剥がれが生じている場合と、外壁塗装材4に膨れが生じている場合と、外壁塗装材4等にひび割れが生じている場合とを例に挙げて、それぞれの下地処理(ステップS1)について説明する。
【0017】
(下地処理:外壁塗装材の剥がれ)
外壁塗装材4の一部に剥がれ61が生じた状態の一例を
図3に示す。この場合には、
図4に示すように、剥がれ61が生じている箇所に位置する外壁塗装材4を取り除くことなく、外壁塗装材4が剥がれている部分に、たとえば、エポキシ樹脂35(充填材)を塗布し、外壁塗装材4の表面を平坦にする。
【0018】
このように、外壁塗装材4の剥がれに対しては、外壁塗装材4を取り除くことなく、外壁塗装材4の一部が剥がれている箇所にエポキシ樹脂35を塗布(充填)し、外壁塗装材4の表面を平坦にする下地処理を施すことで、外壁塗装材4等に含まれるアスベストが飛散するのを防止することができる。
【0019】
(下地処理:外壁塗装材の膨れ)
外壁塗装材4の一部に膨れ63が生じた状態の一例を
図5に示す。この場合には、
図6に示すように、外壁塗装材4が膨れている箇所に、たとえば、霧吹き55を用いて水(矢印参照)を吹き付けることにより、外壁塗装材4を湿らせる。
【0020】
次に、
図7に示すように、たとえば、カッター57を用いて、外壁塗装材4が膨れている箇所に切り込み69を入れる。次に、外壁塗装材4の表面を上から押さえ付けて、たとえば、水分等(矢印参照)を押し出すことによって、外壁塗装材4の表面を平坦にする。押し出した水分等は回収されて、アスベストを飛散させないために固形化して廃棄する。次に、
図8に示すように、切れ込み69から、たとえば、エポキシ樹脂等の接着材37(第3接着材)を注入し、
図9に示すように、切れ込み69を閉じる。
【0021】
このように、外壁塗装材4の膨れに対しては、外壁塗装材4を湿らせた状態で外壁塗装材4に切れ込み69を入れ、外壁塗装材4の表面を平坦にする下地処理を施すことで、外壁塗装材4等に含まれるアスベストが飛散するのを防止することができる。
【0022】
(下地処理:外壁塗装材等のひび割れ)
外壁塗装材4等にひび割れ67が生じた状態の一例を
図10に示す。この場合には、
図11および
図12に示すように、ひび割れ67が生じている箇所を含むある一定の領域に、たとえば、エポキシ樹脂等の接着材(第4接着材)を塗布し、たとえば、ネット45(第2ネット)を貼り付けることによって、ひび割れ67が生じている箇所を補強する。
【0023】
このように、外壁塗装材4等のひび割れに対しては、ひび割れ67が生じている箇所の外壁塗装材4を取り除くことなく、ネット45を貼り付ける下地処理を施すことで、外壁塗装材4等に含まれるアスベストが飛散するのを防止することができる。なお、下地調整材3a等が躯体1から浮いている状態の場合には、後述するプラグレスピン(アンカー部材)によってネットを支持する工程によって、下地調整材3aは外壁塗装材4とともに躯体1に固定されることになる。
【0024】
以上のようにして、外壁塗装材4等に対する下地処理が終了する。次に、外壁塗装材4等をネットによって支持する一連の処理(ステップS2~ステップS8)を施し、外壁塗装材4に新たな外壁塗装材を塗布する処理(ステップS9)を施す。なお、以下の説明における各図面では、図面の煩雑さを避けるために、下地処理が施された状態は示されていない。
【0025】
(プライマー層の塗布)
図13に示すように、まず、下地処理が終了した外壁塗装材4の表面に、プライマー層11(被覆材)を塗布する。ハケまたはローラー等を使用し、たとえば、1m
2あたり0.2kg程度のプライマー層11を塗布する。
【0026】
プライマー層11は、ここでは、アスベストの飛散防止に寄与する。たとえば、外壁塗装材4の表面が荒れているような場合には、外壁塗装材4に含まれるアスベストが飛散するおそれがある。外壁塗装材4を覆うようにプライマー層11を塗布ることで、アスベストが飛散するのを防止することができる。また、プライマー層11は、次の工程において塗布される下塗り材13(
図14参照)を接着する機能を有する。
【0027】
(下塗り材の塗布)
次に、
図14に示すように、プライマー層11の表面に下塗り材13を塗布する。金ゴテ等を使用し、たとえば、1m
2あたり2.5~3.0kg程度の下塗り材13を塗布する。
【0028】
(ネット貼り付け)
次に、
図15に示すように、塗布された下塗り材13にネット15(第1ネット)を貼り付ける。たとえば、金ゴテ等によりネット15を下塗り材13に押し付けて、ネット15の一部を下塗り材13に埋め込むように貼り付ける。ネット15とネット15とを重ねる部分では、たとえば、50~100mm程度の長さをもってオーバーラップさせる。
【0029】
(アンカー部材用の穴の形成)
下塗り材13が硬化した後、
図16に示すように、下塗り材13の表面から外壁塗装材4等を貫くように、アンカー部材を打ち込むための穴23(第1穴)を形成する。アンカー部材の一例として、ここでは、プラグレスピン31(
図19参照)を使用する。
【0030】
穴23は、プラグレスピン31の長さSLよりも数mm程度長くなる深さSDとなるように形成される。プラグレスピン31の長さSLは、たとえば、20~30mm程度である。下地調整層3として、比較的薄い下地調整材3aが介在している場合には、穴23は、躯体1に、所定の深さD(30mm程度)にまで達するように形成される。
【0031】
このとき、湿式ドリル51を用い、円筒状のコアドリル53(たとえば、6mmφ)の周囲に水(矢印Y1参照)を供給する一方、コアドリル53の内側から切粉を含んだ水(排水)を吸引(矢印Y2参照)しながら穴23を形成する。切粉を含んだ排水は、タンクに溜められて固形化される。
【0032】
湿式ドリル51を用いて外壁塗装材4等を貫通する穴23を形成することで、外壁塗装材4等に含まれるアスベストが飛散するのを防止することができる。また、切粉を含んだ排水を固形化することで、切粉に含まれるアスベストの飛散防止に寄与することができる。さらに、湿式ドリル51は、一般的なドリルと比べて、振動等が軽減されていることでも、アスベストの飛散抑制に寄与することができる。
【0033】
図17に示すように、穴23の数としては、たとえば、1m
2(L×L:L=1000mm)あたり5ヶ所とする。このとき、たとえば、穴23のピッチP(横方向、縦方向)を500mm(ハーフピッチHPを250mm)とする。穴23の配置パターンとしては、矩形の頂点に対応する位置に形成された4つの穴23の中央に、1つの穴23が形成された配置パターンが採られている。なお、狭小部分については、穴23の数を1m
2あたり6ヶ所とする。
【0034】
(アンカー部材の打ち込み)
次に、
図18に示すように、穴23のそれぞれに、たとえば、エポキシ樹脂33(第1接着材)を注入する。次に、
図19に示すように、アンカー部材の一例として、プラグレスピン31を用意する。プラグレスピン31では、高いねじ山31aと低いねじ山31bとが交互に配置されるように、ねじ山が形成されている。
【0035】
次に、
図20に示すように、穴23のそれぞれにプラグレスピン31を打ち込む。たとえば、インパクトドライバ(図示せず)を用いて、プラグレスピン31をねじ込み、プラグレスピン31の頭でネット15を押さえ付ける。これにより、プラグレスピン31によって外壁塗装材4等が支持されることになる。
【0036】
穴23に注入されたエポキシ樹脂33は、打ち込まれたプラグレスピン31における高いねじ山31aと高いねじ山31aとの間に取り込まれることで、穴23からエポキシ樹脂33が漏れ出てしまうのを抑制することができる。また、穴23のそれぞれに、湿潤なエポキシ樹脂33が注入されることで、外壁塗装材4等に含まれるアスベストの飛散防止に寄与することができる。
【0037】
なお、穴23にあらかじめエポキシ樹脂33を注入せずに、プラグレスピン31のねじ山等にエポキシ樹脂33を塗布し、そのエポキシ樹脂33が塗布されたプラグレスピン31を穴23に打ち込むようにしてもよい。
【0038】
この場合には、エポキシ樹脂33が、高いねじ山31aと高いねじ山31aとの間に取り込まれながらプラグレスピン31とともに穴23に送り込まれることになる。これにより、穴23からエポキシ樹脂33が漏れ出てしまうのを抑制しながら、湿潤なエポキシ樹脂33を穴23に送り込むことができ、外壁塗装材4等に含まれるアスベストの飛散防止に寄与することができる。
【0039】
なお、アンカー部材としては、プラグレスピン31の他に、たとえば、リベットピンまたは注入口付きアンカーピン等も使用することができる。リベットピンまたは注入口付きアンカーピン等についても、湿潤なエポキシ樹脂とともに使用することで、外壁塗装材4等に含まれるアスベストの飛散防止に寄与することができる。
【0040】
(中塗り材の塗布)
次に、
図21に示すように、中塗り材17を塗布する。金ゴテを用いて、たとえば、1m
2あたり2.0kg程度の中塗り材17を、ネット15等を覆うように塗布する。なお、プラグレスピン31の頭には、あらかじめプライマ層(図示せず)を塗布しておく。次に、必要に応じて、上塗り材19を塗布する。金ゴテを用いて、たとえば、1m
2あたり1.0~1.5kg程度の上塗り材19を塗布する。
【0041】
(塗装仕上げ)
最後に、
図22に示すように、新外壁塗装材21(他の外壁塗装材)を塗布する。これにより、外壁塗装材4等の一連の補修が完了する。
【0042】
上述した外壁塗装材4の補修方法によれば、外壁塗装材4等をネット15により支持する処理において、外壁塗装材4に含まれるアスベストが飛散するのを防止することができる。すなわち、アンカー部材としてのプラグレスピン31が打ち込まれる穴23を形成する際に、湿式ドリル51を用い、外壁塗装材4を貫通して躯体1に所定の深さの穴23を形成することで、外壁塗装材4等に含まれるアスベストが飛散するのを防止することができる。
【0043】
また、穴23を形成する際に発生する切粉を含んだ排水を回収して固形化することで、切粉に含まれるアスベストの飛散防止に寄与することができる。さらに、プラグレスピン31が打ち込まれるその穴23に、湿潤なエポキシ樹脂33を注入することで、外壁塗装材4等に含まれるアスベストの飛散防止に寄与することができる。
【0044】
さらに、上述した外壁塗装材4の補修方法によれば、外壁塗装材4を躯体1に固定する処理の前に、あらかじめ外壁塗装材4に対して施される下地処理においても、外壁塗装材4に含まれるアスベストが飛散するのを防止することができる。
【0045】
たとえば、外壁塗装材4の剥がれに対しては、外壁塗装材4を取り除くことなく、外壁塗装材4の一部が剥がれている箇所にエポキシ樹脂35を塗布(充填)し、外壁塗装材4の表面を平坦にする下地処理を施すことで、外壁塗装材4等に含まれるアスベストが飛散するのを防止することができる。
【0046】
外壁塗装材4の膨れに対しては、外壁塗装材4を取り除くことなく、外壁塗装材4を湿らせた状態で外壁塗装材4に切れ込みを入れ、外壁塗装材4の表面を平坦にする下地処理を施すことで、外壁塗装材4等に含まれるアスベストが飛散するのを防止することができる。
【0047】
外壁塗装材4等のひび割れに対しては、ひび割れ67が生じている箇所の外壁塗装材4を取り除くことなく、ネット45を貼り付けて補強する下地処理を施すことで、外壁塗装材4等に含まれるアスベストが飛散するのを防止することができる。
【0048】
このような処理の結果、アスベストを含有する外壁塗装材4等を除去することなく、新外壁塗装材21を外壁塗装材4等に塗布することができる。これにより、アスベストを含有する外壁塗装材4等を躯体1から除去する外壁塗装材の補修方法と比べると、補修に要する費用を大幅に削減することができる。
【0049】
実施の形態2
ここでは、躯体1と外壁塗装材4との間に介在する下地調整層3として、比較的厚い下地モルタル3bを適用した外壁塗装材の補修方法について説明する(
図23参照)。前述した下地調整材3aは、仕上げ精度が比較的高い躯体1の表面に塗布されるため、下地調整材3aの厚さは1mm程度とされる。一方、
図23に示すように、下地モルタル3bは、仕上げ精度が比較的低い躯体1の表面に塗布されため、下地モルタル3bの厚さTは20~30mm程度とされる。なお、下地モルタル3bは、アスベストを含有していないことがわかっている。
【0050】
(下地処理)
下地処理を施すべき外壁塗装材4等の状態として、外壁塗装材4の剥がれ、外壁塗装材4の膨れおよび外壁塗装材4等のひび割れに対しては、前述した下地調整材3aを介在せた外壁塗装材4の補修方法における下地処理と同様の下地処理を施せばよい。
【0051】
一方、
図24に示すように、下地調整材3aよりも厚い下地モルタル3bが躯体1から浮いている状態に対しては、下地モルタル3bを躯体1に固定する下地処理を施しておく必要がある。
【0052】
比較的厚い下地モルタル3bの場合には、下地モルタル3bの重量によって下地モルタル3bが躯体1から剥離するおそれがあるため、このような剥離を未然に防ぐために、下地モルタル3bを躯体1に固定する下地処理が必要になる。
【0053】
この場合には、
図25に示すように、外壁塗装材4の表面から下地モルタル3bが浮いて隙間65が生じている箇所を貫くように、躯体1に所定の深さD(たとえば、30mm程度)の穴25(第2穴)を形成する。穴25は、たとえば、1m
2あたり9ヶ所形成する。
【0054】
このとき、湿式ドリル51(第2湿式ドリル)を用い、円筒状のコアドリル53の周囲に水(矢印Y1参照)を供給する一方、コアドリル53の内側から切粉を含んだ水(排水)を吸引(矢印Y2参照)しながら穴25を形成する。切粉を含んだ排水は、タンクに溜められて固形化される。なお、下地モルタル3bはアスベストを含有しないため、湿式ドリル51は、穴25のうち、少なくとも外壁塗装材4を貫通する穴25の部分に使用すればよく、下地モルタル3bに形成する穴25の部分については、一般的なドリルを使用するようにしてもよい。湿式ドリル51の使用を最小限にすることで、補修を簡便に行うことができる。
【0055】
前述した
図16に示す工程と同様に、湿式ドリル51を用いることで、外壁塗装材4に含まれるアスベストが飛散するのを防止することができる。また、切粉を含んだ排水を固形化することで、切粉に含まれるアスベストの飛散防止に寄与することができる。さらに、湿式ドリル51では、振動等が軽減されていることでも、アスベストの飛散抑制に寄与することができる。
【0056】
次に、
図26に示すように、たとえば、注入口付きピン39(第2アンカー部材)を穴25に挿入する。次に、注入口付きピン39の注入口から、たとえば、エポキシ樹脂41(第2接着材)を注入することによって、隙間65にエポキシ樹脂41を充填し、下地モルタル3bが浮いていた箇所を補強するとともに、下地モルタル3b等を躯体1に固定する。
【0057】
なお、注入口付きピン39を使用せずに、一般的な棒状のピンを使用する場合には、穴25にエポキシ樹脂41を注入した後で、その棒状のピンを穴25に挿入すればよい。ピンを使用する場合には、穴25は、たとえば、1m2あたり16ヶ所形成する。
【0058】
以上のようにして、下地モルタル3bが介在する外壁塗装材4等に対する下地処理が終了する。次に、外壁塗装材4をネットによって支持する一連の処理(ステップS2~ステップS8)を施し、外壁塗装材4に新たな外壁塗装材を塗布する処理(ステップS9)を施す。
【0059】
(プライマー層の塗布~ネット貼り付け)
前述した
図13~
図15に示す工程と同様の工程を経て、プライマー層11および下塗り材13が塗布され、ネット15が貼り付けられる(
図27参照)。
【0060】
(アンカー部材用の穴の形成)
次に、
図27に示すように、下塗り材13が硬化した後、下塗り材13の表面から外壁塗装材4等を貫くように、アンカー部材を打ち込むための穴23を形成する。アンカー部材として、たとえば、プラグレスピン31(
図19参照)を使用する。ここで、前述したように、プラグレスピン31の長さSLは、たとえば、20~30mm程度である。穴23は、そのプラグレスピン31の長さSLよりも数mm程度長くなる深さSDとなるように形成される。
【0061】
なお、
図27では、下地モルタル3bを貫通して躯体1に達する穴25が形成された場合が示されているが、下地モルタル3bの厚さによっては、下地モルタル3bの途中までしか穴25が形成されない場合も想定される。仮にそのような場合であっても、下地モルタル3bが躯体1から浮いていなければ支障はない。
【0062】
一方、下地モルタル3bが躯体1から浮いていた場合には、あらかじめ施される下地処理(
図24~
図26参照)によって、下地モルタル3bが躯体1に固定されることで、外壁塗装材4等が躯体1から剥離することはない。このことから、アンカー部材用の穴23としては、外壁塗装材4を貫通して、下地モルタル3b(下地調整層3)の少なくとも一部を除去する態様で形成されていればよい。
【0063】
その後、
図18~
図22に示す工程と同様の工程を経て、
図28に示すように、新外壁塗装材21(他の外壁塗装材)を塗布する。これにより、外壁塗装材4等の一連の補修が完了する。
【0064】
上述した外壁塗装材4の補修方法によれば、外壁塗装材4と躯体1との間に、下地調整材3aよりも厚い下地モルタル3bを介在させた場合においても、下地調整材3aを介在させた場合と同様に、外壁塗装材4をネット15によって支持する、下地処理を含む一連の処理において、外壁塗装材4に含まれるアスベストが飛散するのを防止することができる。
【0065】
これにより、アスベストを含有する外壁塗装材4を除去することなく、新外壁塗装材21を外壁塗装材4に塗布することができる。その結果、アスベストを含有する外壁塗装材4を躯体1から除去する外壁塗装材の補修方法と比べると、補修に要する費用を大幅に削減することができる。
【0066】
(変形例)
上述した各外壁塗装材4の補修方法では、アンカー部材として、20~30mm程度の長さSLを有するプラグレスピン31(
図19参照)を使用する場合を例に挙げて説明した。アンカー部材(プラグレスピン31)の長さとしては、この長さに限られるものではなく、70mm程度までのより長い長さLLを有するプラグレスピン31(
図30参照)を使用してもよい。プラグレスピン31(穴23)を打ち込む数としては、1m
2あたり5本打ち込めば、外壁塗装材4等の剥落を防止することができる。
【0067】
この場合には、
図29に示すように、アンカー部材用の穴23を形成する工程では、穴23は、プラグレスピン31の長さLL(
図30参照)よりも数mm程度長くなる深さLDとなるように形成される。すなわち、外壁塗装材4および下地モルタル3bを貫通して、躯体1の一部が除去されて、躯体1には、躯体1の表面から所定の深さD(30mm程度)を有するように穴23が形成される。
【0068】
次に、
図30に示すように、エポキシ樹脂33を注入した後、長さSLよりも長い長さLLを有するプラグレスピン31を穴23に打ち込むことで、プラグレスピン31によってネット15が支持される。なお、プラグレスピンの他に、アンカー部材として、たとえば、リベットピンまたは注入口付きアンカーピン等も使用することができる。その後、
図20~
図22に示す工程と同様の工程を経て、
図31に示すように、新外壁塗装材21(他の外壁塗装材)を塗布し、外壁塗装材4等の一連の補修が完了する。
【0069】
上述した外壁塗装材4の補修方法によれば、上述したアスベストの飛散防止の効果に加えて、次のような効果が得られる。アンカー部材として、70mm程度までの長いプラグレスピン31等を使用することで、躯体1には、所定の深さD(30mm程度)を有する穴23が形成されて、その穴23にプラグレスピン31を打ち込むことでネット15が支持される。
【0070】
これにより、下地調整層3として、比較的厚い下地モルタル3bが躯体1から浮いているような場合であっても、下地モルタル3bを躯体1に固定する下地処理を施すことなく、プラグレスピン31によってネット15を支持する工程において、下地モルタル3bと外壁塗装材4とを一括して躯体1に固定することができる。その結果、外壁塗装材4を補修する工程の削減に寄与することができ、補修に要する費用のさらなる削減に寄与することができる。
【0071】
なお、変形例に係る外壁塗装材の補修方法は、下地調整層3として、下地モルタル3bよりも薄い下地調整材3aについても適用することができ、躯体1には、下地モルタル3bの場合よりも深い穴が形成されることになる。その結果、下地調整材3aと外壁塗装材4とをより強固に躯体1に固定することができる。
【0072】
なお、上述した外壁塗装材4の補修方法では、アスベストを含有する外壁塗装材4等を対象としているが、上述した外壁塗装材4の補修方法は、アスベストを含有していない外壁塗装材等の補修にも適用することができる。
【0073】
今回開示された実施の形態は例示であってこれに制限されるものではない。本発明は上記で説明した範囲ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、建物等の外壁塗装材の補修に有効に利用される。
【符号の説明】
【0075】
1 躯体、3 下地調整材、4 外壁塗装材、5 第1外壁塗装材、7 第2外壁塗装材、11 プライマー層、13 下塗り材、15 ネット、17 中塗り材、19 上塗り材、21 新外壁塗装材、23、25 穴、31 プラグレスピン、31a、31b ねじ山、33、35 エポキシ樹脂、37 接着材、39 注入口付きピン、41 エポキシ樹脂、43 接着材、45 ネット、51 湿式ドリル、53 コアドリル、55 霧吹き、57 カッター、61 剥がれ、63 膨れ、65 浮き、67 ひび割れ。