(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022100651
(43)【公開日】2022-07-06
(54)【発明の名称】電磁連結装置
(51)【国際特許分類】
F16D 27/112 20060101AFI20220629BHJP
F16F 15/121 20060101ALI20220629BHJP
【FI】
F16D27/112 Z
F16F15/121 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020214750
(22)【出願日】2020-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000185248
【氏名又は名称】小倉クラッチ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 由典
(72)【発明者】
【氏名】原 幸弘
(72)【発明者】
【氏名】尾▲崎▼ 真也
(72)【発明者】
【氏名】高原 利浩
(57)【要約】
【課題】アーマチュアがロータに磁気吸着されたときと解放されたときとの両方において衝撃音を小さくすることが可能で、衝撃音を低減する部材の脱落防止が図られた電磁連結装置を低い製造コストで製造する。
【解決手段】電磁コイル13と、磁束が通るロータ2(吸着部材)と、吸着部材の近傍に配置されたハブ15(回転部材)と、ハブ15に板ばね22を介して支持され、電磁コイル13が通電されることにより板ばね22のばね力に抗してハブ15の軸線方向に移動してロータ2に磁気吸着されるアーマチュア14とを備える。板ばね22におけるアーマチュア14の移動に伴って移動する可動部(アーム部31)に固定された防振部材41を備える。防振部材41は、ハブ15にアーマチュア14側から接触するストッパー部42と、アーマチュア14に接触するダンパー部43と、アーム部31に軸線方向の両側から対向して軸線方向への移動を規制するホルダー部45とを有している。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁コイルと、
前記電磁コイルが通電されることにより生じた磁束が通る吸着部材と、
前記吸着部材の近傍に配置された回転部材と、
前記回転部材に板ばねを介して支持され、前記電磁コイルが通電されることにより前記板ばねのばね力に抗して前記回転部材の軸線方向に移動して前記吸着部材に磁気吸着されるアーマチュアと、
前記板ばねにおける前記アーマチュアの移動に伴って前記軸線方向へ移動する可動部に、前記可動部を前記軸線方向へ横切る状態で保持された防振部材とを備え、
前記防振部材は、
前記回転部材に前記軸線方向において前記アーマチュア側から接触するストッパー部と、
前記アーマチュアにおける前記吸着部材に吸着される吸着面とは反対側の端面に接触するダンパー部と、
前記可動部に前記軸線方向の両側から対向し、前記可動部に対する前記軸線方向への移動を規制するホルダー部とを有していることを特徴とする電磁連結装置。
【請求項2】
請求項1記載の電磁連結装置において、
前記板ばねの前記可動部は、前記軸線方向から見てU字状に形成されて両端部にそれぞれ腕本体を有するアーム部であり、
前記ストッパー部は、前記アーム部内に嵌合して前記アーム部から前記アーマチュアとは反対の方向に突出し、
前記ダンパー部は、前記アーム部の一対の腕本体における前記アーマチュアと対向する面に沿って延びるように形成されて前記アーム部と前記アーマチュアとによって挟持され、
前記ホルダー部は、前記ストッパー部に、前記アーム部における前記アーマチュアとは反対側の面と対向するように突設された突起と、前記ダンパー部の前記腕本体に沿って延びる部分である板状片とによって構成されていることを特徴とする電磁連結装置。
【請求項3】
請求項2記載の電磁連結装置において、
前記ホルダー部の前記突起は、前記軸線方向から見て前記防振部材の中心に対して対称に形成されていることを特徴とする電磁連結装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3記載の電磁連結装置において、
前記アーム部を構成するU字の開放する方向は、前記軸線方向から見て前記回転部材の軸心に向かう方向であることを特徴とする電磁連結装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーマチュアの磁気吸着時や解放時に生じる衝撃音を小さく抑える防振部材を備えた電磁連結装置に関する。
【背景技術】
【0002】
作動時の衝撃音を小さく抑える構成を有する従来の電磁連結装置としては、例えば特許文献1に記載された電磁クラッチがある。
特許文献1に開示された電磁クラッチは、アーマチュアがロータに磁気吸着されたときの衝撃音を低減する防振部材と、板ばねのばね力でアーマチュアが解放位置に戻るときの衝撃音を低減するクッション部材とを備えている。
防振部材は、板ばねのアーマチュア側端部に圧入、焼付け、接着などの固定構造によって固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された電磁クラッチは、アーマチュアがロータに磁気吸着されたときと解放されたときとの両方のときで衝撃音を小さくするために、防振部材とクッション部材とからなる2種類の部材が使用されている。このため、この電磁クラッチは、部品数が多くなって製造コストが高くなるという問題がある。防振部材が板ばねに焼付けられたり、接着される場合は、焼付けを行う加硫工程や接着剤を用いる接着工程の分だけ製造工程が増えるから、製造コストが更に高くなる。なお、衝撃音を低減する部材を接着や焼付けなどを行うことなく簡単に取付けることができる取付構造を採るに当たっては、この部材が組付けられた板ばねを取り扱うとき簡単に脱落することがないようにしなければならない。
【0005】
上述した衝撃音を低減する部材に関する問題は、電磁クラッチのみならず、電磁ブレーキにおいても同様に生じる。特許文献1に記載されている技術を電磁ブレーキに適用する場合は、特許文献1に示すアーマチュアがロータの代わりに固定式のステータ(フィールドコア)に磁気吸着されることになる。
【0006】
本発明の目的は、アーマチュアが電磁クラッチのロータや電磁ブレーキの固定式ステータ(フィールドコア)などの吸着部材に磁気吸着されたときと解放されたときとの両方において衝撃音を小さくすることが可能で、しかも衝撃音を低減する部材の脱落防止が図られた電磁連結装置を低い製造コストで製造できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために本発明に係る電磁連結装置は、電磁コイルと、前記電磁コイルが通電されることにより生じた磁束が通る吸着部材と、前記吸着部材の近傍に配置された回転部材と、前記回転部材に板ばねを介して支持され、前記電磁コイルが通電されることにより前記板ばねのばね力に抗して前記回転部材の軸線方向に移動して前記吸着部材に磁気吸着されるアーマチュアと、前記板ばねにおける前記アーマチュアの移動に伴って前記軸線方向へ移動する可動部に、前記可動部を前記軸線方向へ横切る状態で保持された防振部材とを備え、前記防振部材は、前記回転部材に前記軸線方向において前記アーマチュア側から接触するストッパー部と、前記アーマチュアにおける前記吸着部材に吸着される吸着面とは反対側の端面に接触するダンパー部と、前記可動部に前記軸線方向の両側から対向し、前記可動部に対する前記軸線方向への移動を規制するホルダー部とを有しているものである。
【0008】
本発明は、前記電磁連結装置において、前記板ばねの前記可動部は、前記軸線方向から見てU字状に形成されたアーム部であり、前記ストッパー部は、前記アーム部内に嵌合して前記アーム部から前記アーマチュアとは反対の方向に突出し、前記ダンパー部は、前記アーム部の一対の腕本体における前記アーマチュアと対向する面に沿って延びるように形成されて前記アーム部と前記アーマチュアとによって挟持され、前記ホルダー部は、前記ストッパー部に、前記アーム部における前記アーマチュアとは反対側の面と対向するように突設された突起と、前記ダンパー部の前記腕本体に沿って延びる部分である板状片とによって構成されていてもよい。
【0009】
本発明は、前記電磁連結装置において、前記ホルダー部の前記突起は、前記軸線方向から見て前記防振部材の中心に対して対称に形成されていてもよい。
【0010】
本発明は、前記電磁連結装置において、前記アーム部を構成するU字の開放する方向は、前記軸線方向から見て前記回転部材の軸心に向かう方向であってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明において、アーマチュアが磁気吸着されたときの衝撃音は、防振部材のダンパー部にアーマチュアの振動が伝達され、この振動が防振部材によって減衰されることにより小さく抑えられる。一方、アーマチュアが解放されたときは、防振部材がアーマチュアと回転部材との間に挟まれて弾性変形し、衝撃を緩和することにより衝撃音が小さく抑えられる。このため、アーマチュアが吸着部材に磁気吸着されたときの衝撃音と、アーマチュアが解放されたときの衝撃音とを1種類の防振部材で小さく抑えることができる。防振部材の数は、これらの衝撃音を小さくするために2種類の部材を使用する従来の装置と較べると少なくなる。また、防振部材は、ホルダー部によって板ばねから簡単に脱落することがないように保持される。
【0012】
したがって、本発明によれば、アーマチュアが吸着部材に磁気吸着されるときと解放されるときとの両方において衝撃音を小さくすることが可能であるとともに、衝撃音を低減する部材の脱落を防止できる構成を採りながら、製造コストが低く抑えられて安価な電磁連結装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図3】ハブ、板ばねおよびアーマチュアなどからなる組立体を後方から見た背面図である。
【
図4】ハブ、板ばねおよびアーマチュアなどからなる組立体の分解斜視図である。
【
図8】
図6におけるVIII-VIII線断面図である。
【
図9】磁気吸着時の要部を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る電磁連結装置の一実施の形態を
図1~
図9を参照して詳細に説明する。この実施の形態においては、電磁連結装置の1つである電磁クラッチに本発明を適用する場合の一例を説明する。
【0015】
図1に示す電磁クラッチ1は、
図1において最も外側に描かれているロータ2の回転を
図1の中央部に破線で描かれている回転軸3に選択的に伝達するものである。
ロータ2は、円環状に形成されており、
図2に示すように、その軸心部に嵌合した軸受4を介して円筒5に回転自在に支持されている。ロータ2は、軸線Cを中心にして円筒5に対して回転する。この実施の形態においては、ロータ2が本発明でいう「吸着部材」に相当する。
【0016】
円筒5は、支持部材6の一端部6aに突設されている。以下においては、円筒5が支持部材6の一端部6aから突出する方向(
図2においては左に向かう方向)を電磁クラッチ1の前方とし、この方向とは反対の方向を電磁クラッチ1の後方として説明する。
ロータ2の外周部には複数のプーリ溝7が形成されている。ロータ2は、これらのプーリ溝7に巻掛けられたベルト(図示せず)によって動力が伝達されることにより回転する。
【0017】
ロータ2の前端には平坦な吸着面8が形成されている。ロータ2の後端には、環状の溝9が開口している。この環状の溝9の中には、フィールドコア11が挿入されている。
フィールドコア11は、環状に形成されており、支持部材6に取付用ブラケット12を介して支持されている。フィールドコア11の内部にはロータ2に磁束を通す電磁コイル13が設けられている。この電磁コイル13が通電されることにより、フィールドコア11およびロータ2と、ロータ2の前方近傍に位置するアーマチュア14とによって磁気回路Φが形成される。
【0018】
ロータ2を支持する円筒5の軸心部には、上述した回転軸3が配置されている。この回転軸3の前端部には、ハブ15が固定用ボルト16によって固定されている。
ハブ15は、回転軸3の前端部が嵌合する筒状のボス部17(
図3参照)と、このボス部17の前端部から径方向の外側に延びる円板状のフランジ部18(
図1および
図4参照)とによって構成されている。この実施の形態においては、このハブ15が本発明でいう「回転部材」に相当する。
【0019】
フランジ部18を周方向に3等分する位置には、
図1に示すように、それぞれリベット21によって板ばね22が取付けられている。
これら3個の板ばね22は、
図2に示すように、フランジ部18より後方に位置し、フランジ部18の後面18aとの間にスペーサ23が挟まれた状態でリベット21によってフランジ部18に固定されている。リベット21は、フランジ部18に穿設された貫通孔19に通されている。なお、フランジ部18には、図示してはいないが、スペーサ23の代わりとなる凸部を設けることができる。この凸部は、フランジ部18の一部をプレス加工で押し出すことにより形成される。
【0020】
板ばね22は、
図5に示すように、リング状に形成されており、後述する複数の機能部を有している。この板ばね22は、図示していないばね材料からなる金属板をプレス機械で所定の形状に打ち抜くことによって形成されている。なお、板ばね22は、いわゆるレーザーカット法によって形成することもできる。レーザーカット法で板ばね22を形成するにあたっては、ばね材料からなる金属板にレーザー光を照射し、この金属板から必要な部分を切り抜く。
【0021】
板ばね22の複数の機能部とは、板ばね22の径方向の一端部(
図5においては下端部)に位置する基端部24と、径方向の他端部に位置する自由端部25と、これらの基端部24と自由端部25とを連結する2つの連結部26である。
板ばね22の基端部24には、板ばね22の中央部に向けて凹む円弧状の凹部27と、リベット挿入孔28とが形成されている。凹部27は、ハブ15のボス部17に嵌合する形状に形成されている。凹部27がボス部17に嵌合することにより、板ばね22の基端部24と自由端部25とがハブ15の径方向に並ぶように、板ばね22の取付角度を定めることができる。
【0022】
リベット挿入孔28は、上述したリベット21を通すための孔である。板ばね22の基端部24は、リベット21によってフランジ部18に固定される。一方、板ばね22の自由端部25は、連結部26とともにハブ15の軸線方向(電磁クラッチ1の前後方向であって、
図2においては左右方向)に撓むことが可能である。
板ばね22の自由端部25には、貫通孔29が穿設されているとともに、U字状のアーム部31が設けられている。貫通孔29は、後述するアーマチュア14の連結用突起32(
図2参照)を通すための孔である。
【0023】
連結用突起32は、アーマチュア14の外周部の一部をプレス加工で押し出すことにより形成されている。このため、アーマチュア14の連結用突起32とは反対側には円形凹部33が形成される。この連結用突起32は、貫通孔29に通された後にかしめられて板ばね22の自由端部25に結合されている。
アーマチュア14は、
図2に示すように、板ばね22より後方に位置し、連結用突起32によって板ばね22の自由端部25に固定されている。このため、アーマチュア14は、ハブ15に板ばね22を介してハブ15の軸線方向へ移動自在に支持されることになる。
【0024】
アーマチュア14は、
図3および
図4に示すように、円環板状に形成されている。
図3は
図2におけるIII-III線矢視図である。アーマチュア14には、ロータ2と対向する平坦な吸着面34が形成されているとともに、磁路を形成するために複数の円弧状のスリット35が形成されている。このスリット35は、アーマチュア14の径方向の中央部を周方向に6等分する位置にそれぞれ設けられている。
また、アーマチュア14の外周部には、上述した連結用突起32が設けられている。連結用突起32は、アーマチュア14を周方向に3等分する位置であって、互いに隣り合うスリット35どうしの間に形成された接続部36と隣り合う位置にそれぞれ形成されている。連結用突起32と、接続部36と、リベット21とは、アーマチュア14の径方向に並んでいる。
【0025】
アーマチュア14が連結用突起32によって板ばね22の自由端部25に固定されることにより、アーマチュア14が3個の板ばね22を介してハブ15に支持されることになる。このアーマチュア14と、ロータ2と、回転軸3と、ハブ15とは、同一軸線上に位置付けられている。
【0026】
板ばね22のアーム部31は、
図5に示すように、前方から見て(ハブ15の軸線方向から見て)U字状に形成され、両端部にそれぞれ腕本体37を有している。アーム部31を構成するU字の開放する方向は、
図1に示すように、前方から見て板ばね22の基端部24に向かう方向、すなわちハブ15の軸心に向かう方向である。このため、アーム部31は、アーマチュア14の径方向に延びるU字状に形成されている。
【0027】
アーム部31の頂部、すなわちU字の一端の円弧状部分は、板ばね22の自由端部25から基端部24に向けて突出する弾性変形許容部38に接続されており、この弾性変形許容部38を介して自由端部25に接続されている。アーム部31と、弾性変形許容部38と、リベット21と、連結用突起32は、アーマチュア14の径方向に並んでいる。
【0028】
アーマチュア14の径方向におけるアーム部31の長さは、
図1に示す組立状態においてアーム部31がハブ15のフランジ部18より径方向の外側に位置するように設定されている。
この実施の形態においては、このアーム部31が本発明でいう「アーマチュアの移動に伴って軸線方向へ移動する可動部」に相当する。
【0029】
アーム部31には、
図5に示すように、アーム部31をハブ15の軸線方向へ横切る状態で防振部材41が保持されている。防振部材41は、ゴム材料によって所定の形状に形成されている。この実施の形態による防振部材41は、アーム部31内に嵌合するストッパー部42と、アーム部31の後方に延びるようにストッパー部42から突出したダンパー部43(
図6~
図8参照)と、ストッパー部42に突設された突起44とダンパー部43の一部とによって構成されたホルダー部45とによって構成されている。ストッパー部42と、ダンパー部43と、突起44とは一体に形成されている。
ストッパー部42は、
図6に示すように、前方から見てアーマチュア14の径方向(
図6においては上下方向)に長い長円状に形成されている。このストッパー部42には、アーマチュア14の径方向に延びるスリット46が形成されている。スリット46は、アーマチュア14の周方向(
図6および
図7においては左右方向)において、ストッパー部42の中央部に形成されている。
【0030】
ストッパー部42の長手方向(前方から見てアーマチュア14の径方向であって、
図6においては上下方向)の中央部であって、アーマチュア14の周方向の両端部には、一対の突起44が設けられている。これらの突起44は、
図5、
図7および
図8に示すように、アーム部31の腕本体37におけるアーマチュア14とは反対側の面である前面37aと対向するようにストッパー部42に突設されている。この実施の形態による一対の突起44は、
図6に示すように、ハブ15の軸線方向から見て防振部材41の中心Aに対して対称に形成されている。
【0031】
この実施の形態によるストッパー部42は、突起44が一対の腕本体37どうしの間に挿入された状態でアーム部31内に後方から圧入されて嵌合している。ストッパー部42がアーム部31内に圧入されることにより、ストッパー部42は、スリット46の幅が狭くなる方向に弾性変形し、突起44が前方から見て腕本体37と重なる状態でアーム部31に取付けられる。このストッパー部42の前端部42a(
図7参照)は、防振部材41がアーム部31に取付けられた状態でアーム部31からアーマチュア14とは反対の方向(前方)に突出している。
図7に示す前端部42aは、スリット46で
図7の左右方向に分断されているが、断面円弧状に形成されている。すなわち、前端部42aの前面からなるストッパー面47は、ストッパー部42のアーム部31に近接する両端からスリット46に向かうにしたがって次第に前方に突出する凸曲面によって形成されている。
【0032】
また、ストッパー部42は、
図1に示すように、アーム部31に取付けられた状態でアーム部31からアーマチュア14の径方向の内側に突出している。この内側突出部分48は、
図2に示すように、アーマチュア14がロータ2から前方に離間している状態において、ハブ15のフランジ部18の後面18aにハブ15の軸線方向においてアーマチュア14側から接触する。
【0033】
防振部材41のダンパー部43は、
図7に示すように、ストッパー部42よりアーマチュア14の周方向(
図7においては左右方向)に突出し、アーム部31よりアーマチュア14に近接する位置に設けられている。また、ダンパー部43は、
図5に示すように、アーム部31の一対の腕本体37の後面37b(
図9参照)に沿って延びる板状片51を有している。腕本体37の後面37bは、腕本体37におけるアーマチュア14と対向する面である。
アーム部31に取付けられた防振部材41のダンパー部43は、アーム部31とアーマチュア14とによって挟持されており、
図2に示すように、アーマチュア14における吸着面34とは反対側の端面52(前面)に常に接触している。
【0034】
防振部材41のホルダー部45は、ストッパー部42の突起44と、ダンパー部43の板状片51とによって構成されている。このように構成されたホルダー部45は、
図8に示すように、アーム部31の腕本体37にハブ15の軸線方向(
図8においては上下方向)の両側から対向し、防振部材41のアーム部31に対する軸線方向への移動を規制する。
【0035】
この実施の形態による防振部材41の厚み(ハブ15の軸線方向の厚み)は、
図9に示すように、アーマチュア14がロータ2に密着している状態においてもストッパー部42がハブ15のフランジ部18との接触により圧縮された状態が維持されるような厚みである。このため、電磁コイル13が非励磁状態でアーマチュア14の吸着面34とロータ2の吸着面8との間にエアギャップG(
図2参照)が生じる状態から、
図9に示すように電磁コイル13が励磁状態でアーマチュア14がロータ2に磁気吸着される状態に至るまで、ストッパー部42は圧縮された状態を保つ。
【0036】
防振部材41を厚みが相対的に厚い別の防振部材(図示せず)に交換すると、電磁コイル13が非励磁状態であるときに板ばね22が弾性変形して自由端部25が基端部24より後側(アーマチュア14側)に位置するようになり、板ばね22の実質的なばね力が相対的に大きくなる。すなわち、防振部材41は、板ばね22にプリセット荷重を付与する機能も有している。
【0037】
この実施の形態による電磁クラッチ1を組み立てるにあたっては、ハブ15に板ばね22を介してアーマチュア14を組み付けてアーマチュア組立体が形成される。このアーマチュア組立体を形成する過程で板ばね22をアーマチュア14に組付けるためには、予め板ばね22のアーム部31に防振部材41を取付ける。防振部材41は、アーム部31を厚み方向に挟むように構成されたホルダー部45を備えている。このため、防振部材41がアーム部31に取付けられた後は、突起44が弾性変形してアーム部31内を通過するように防振部材41を強制的に引き抜かない限り、防振部材41がアーム部31から外れることはない。
【0038】
このように構成された電磁クラッチ1においては、電磁コイル13が通電されて励磁状態になることによりアーマチュア14が板ばね22のばね力に抗してロータ2に磁気吸着される。アーマチュア14がロータ2に接続されることにより、ロータ2の回転がアーマチュア14と、板ばね22と、ハブ15とを介して回転軸3に伝達される。
アーマチュア14がロータ2に磁気吸着されたときには、ロータ2との衝突によりアーマチュア14に微小な振動が生じる。このアーマチュア14の振動は、衝撃音の発生原因の1つである。
【0039】
この実施の形態による電磁クラッチ1のアーマチュア14の端面52(前面)には、防振部材41のダンパー部43が接触している。このため、衝撃音の原因となるアーマチュア14の振動は、ダンパー部43に伝達されることにより減衰される。この結果、磁気吸着時の衝撃音が小さく抑えられる。
電磁コイル13への通電が絶たれて電磁コイル13が非励磁状態になると、アーマチュア14が板ばね22のばね力でロータ2から離間して解放される。このとき、防振部材41は、アーマチュア14とハブ15のフランジ部18との間に挟まれて弾性変形している。このため、アーマチュア14が解放されたときに衝撃音が発生することはないが、衝撃音が発生したとしても防振部材41が衝撃を緩和するために衝撃音は小さく抑えられる。
【0040】
このように、この実施の形態による電磁クラッチ1によれば、アーマチュア14がロータ2に磁気吸着されたときの衝撃音と、アーマチュア14が解放されたときの衝撃音とを1種類の防振部材41で小さくすることができる。防振部材41の数は、これらの衝撃音を小さくするために2種類の部材を使用する従来の装置と較べると少なくなる。この防振部材41は、組立時にホルダー部45によって板ばね22から簡単に脱落することがないように保持される。
【0041】
したがって、この実施の形態によれば、アーマチュアが吸着部材に磁気吸着されるときと解放されるときとの両方において衝撃音を小さくすることが可能であるとともに、衝撃音を低減する部材の脱落を防止できる構成を採りながら、製造コストが低く抑えられて安価な電磁連結装置を提供することができる。
板ばね22に取り付けられた防振部材41は、軽微な衝撃や振動では板ばね22から外れないために、板ばね22と防振部材41とからなる組立体のハンドリングが向上し、この組立体の自動組付を実施できるようになる。
【0042】
この実施の形態による防振部材41のストッパー部42は、板ばね22のアーム部31内に嵌合してアーム部31からアーマチュア14とは反対の方向に突出している。
ダンパー部43は、アーム部31の一対の腕本体37におけるアーマチュア14と対向する後面37bに沿って延びるように形成されてアーム部31とアーマチュア14とによって挟持されている。
ホルダー部45は、ストッパー部42に、アーム部31の腕本体37におけるアーマチュア14とは反対側の前面37aと対向するように突設された突起44と、ダンパー部43における腕本体37に沿って延びる部分である板状片51とによって構成されている。
このように構成された防振部材41によれば、衝撃を吸収するダンパー部43を利用してホルダー部45が構成されているから、アーム部31を厚み方向に挟む構造のホルダー部45を簡単に実現することができる。
【0043】
この実施の形態によるホルダー部45の突起44は、ハブ15の軸線方向から見て防振部材41の中心に対して対称に形成されている。このため、防振部材41は、アーム部31に組み付けるにあたって方向性を持つことがない。すなわち、ストッパー部42の長手方向の一方の端部がアーム部31の円弧状部分に嵌合する形態と、他方の端部がアーム部31の円弧状部分に嵌合する場合との何れの場合であっても、一対の突起44が同様に腕本体37と対向するようになる。この防振部材41は、このように組み付けに方向性を持たないために、組み付け作業を容易に行うことができる。すなわち、組み込み性と、落下防止の保持性とを確保でき、作業性が向上する。
【0044】
この防振部材41を板ばね22に固定するにあたっては、工具を使うことなく行うことができ、焼付けを行う加硫工程や、接着剤を用いる接着工程などは不要である。このため、この実施の形態によれば、防振部材41を板ばね22に簡単に取付けることができるから、組立工数が少なくなり、より一層安価な電磁クラッチを提供することができる。
【0045】
この実施の形態において、板ばね22のアーム部31を構成するU字の開放する方向は、ハブ15の軸線方向から見てハブ15の軸心に向かう方向である。
このため、板ばね22がロータ2とともに回転したときに防振部材41に作用する遠心力をU字状のアーム部31の頂部によって受けることができる。
したがって、防振部材41が板ばね22に簡単な取付構造によって取付けられているにもかかわらず、遠心力で防振部材41が外れることを確実に防ぐことができる。
【0046】
上述した実施の形態においては、本発明を電磁クラッチに適用する場合の例を示した。しかし、本発明は、アーマチュアがブレーキ部材に磁気吸着される構造の電磁ブレーキにも適用することができる。電磁ブレーキに本発明を適用する場合は、図示してはいないが、上述した実施の形態によるロータ2の代わりに回転しないブレーキ部材を設置し、アーマチュア14が制動時にブレーキ部材に磁気吸着される構成を採ることができる。ブレーキ部材は、例えばフィールドコア11によって構成することができる。この場合、フィールドコア11が本発明でいう「吸着部材」に相当する。
【符号の説明】
【0047】
1…電磁クラッチ、2…ロータ、8,34…吸着面、13…電磁コイル、14…アーマチュア、15…ハブ15(回転部材)、22…板ばね、31…アーム部、41…防振部材、42…ストッパー部、43…ダンパー部、44…突起、45…ホルダー部。