(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022100688
(43)【公開日】2022-07-06
(54)【発明の名称】傘型汚濁防止装置
(51)【国際特許分類】
E02B 15/00 20060101AFI20220629BHJP
【FI】
E02B15/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020214810
(22)【出願日】2020-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000204192
【氏名又は名称】太陽工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132964
【弁理士】
【氏名又は名称】信末 孝之
(74)【代理人】
【識別番号】100074055
【弁理士】
【氏名又は名称】三原 靖雄
(72)【発明者】
【氏名】藤原 雅宏
【テーマコード(参考)】
2D025
【Fターム(参考)】
2D025AA02
(57)【要約】
【課題】海底への土砂等の打設材投入の際に発生する汚濁を効果的に防止するための傘型汚濁防止装置を提供する。
【解決手段】海底への打設材投入の際に発生する汚濁を防止するための傘型汚濁防止装置100であって、打設材を投入するための打設管1と、打設管1に取り付けられた傘骨固定部材4と、傘骨固定部材4から放射状に延びる傘骨3と、傘骨3に張られた汚濁防止膜2と、傘骨3を牽引する牽引手段とを有し、打設材投入の際に、牽引手段を操作して打設管1の先端を汚濁防止膜2で覆うようにした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海底への打設材投入の際に発生する汚濁を防止するための傘型汚濁防止装置であって、
打設材を投入するための打設管と、該打設管に取り付けられた傘骨固定部材と、該傘骨固定部材から放射状に延びる傘骨と、該傘骨に張られた汚濁防止膜と、前記傘骨を牽引する牽引手段とを有し、
打設材投入の際に、前記牽引手段を操作して前記打設管の先端を前記汚濁防止膜で覆うことを特徴とする傘型汚濁防止装置。
【請求項2】
前記傘骨固定部材が前記打設管の上下方向に移動可能であり、前記傘骨固定部材を前記打設管の任意位置に位置決めする位置決め部材を有することを特徴とする請求項1に記載の傘型汚濁防止装置。
【請求項3】
前記傘骨に錘を取り付けたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の傘型汚濁防止装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海底への土砂投入の際に発生する汚濁を防止するための傘型汚濁防止装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、海洋工事において海底地盤の浚渫、掘削、埋立等を行う場合には、海洋への濁水の発生が問題となっている。濁水が発生すると、近隣の海洋生物に多大な影響を与えることになるため、海洋工事を行う際には、工事の規模に見合うように汚濁防止膜が設置されている。
【0003】
汚濁防止膜の種類としては、一般的な設置方法である垂下型(海面に浮いたフロートから汚濁防止膜を垂れ下げたもの)、船舶の入出港が頻繁な場合に設置される自立型(汚濁防止膜を海底から海中のフロートに向けて起立させたもの)、荒天時に膜の損傷を防ぐためにフロートを沈めるようにした浮沈式等があり、また垂下型と自立型とを併用して設置する場合もある。
【0004】
図12は、従来例に係る汚濁防止膜の使用状態を示す図であり、海洋工事において杭300を打設する際に、工事区域の海面に矩形状のフロート400を浮かべ、フロート400から汚濁防止膜500を垂れ下げたものである。そして、汚濁防止膜500で囲まれた海域から汚濁水が拡散するのを抑制するようになっている。
【0005】
また、汚濁防止膜として、例えば特許文献1には、縦方向に長いカーテンであっても容易に巻き上げることができるようにした吊下式汚濁防止膜に関する発明が記載されている。また、特許文献2には、柔軟なシート材からなる環状の枠型を、その外周面に固定されたパイプによって円環状等の所定の形状に保持することにより、ふかれ等の不用意な変形を防止するようにした枠型汚濁防止膜に関する発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-285534号公報
【特許文献2】特開2012-46886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、瀬戸内海等の日本近海においては、過去の大量の海砂採取により、海底に数多くの窪みが放置されたままになっており、海洋生物の生育環境悪化が問題となっている。これに対しては、海底の窪みを土砂等の打設材で埋めることにより、環境を改善することが求められている。
【0008】
しかしながら、海底の窪みを土砂等の打設材で埋めるためには、海上から打設管を介して打設材を投入する必要があり、投入された勢いで打設材や元々海底にあった土砂等が舞い上がって周囲の水が汚濁して濁水が発生してしまう。これに対して、従来の汚濁防止膜により工事区域を囲むことは可能であるが、窪みは海底に数多く点在しており、多くの窪みを含む工事区域を囲んでしまうと工事区域内には大量の濁水が発生することになる。一方で、1つの窪みごとに従来の汚濁防止膜で囲むのは煩雑である。また、いったん舞い上がった土砂等が沈静化するには時間を要するため、できるだけ舞い上がる範囲を小さくすることが好ましい。
【0009】
本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、海底への土砂等の打設材投入の際に発生する汚濁を効果的に防止するための傘型汚濁防止装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の傘型汚濁防止装置は、海底への打設材投入の際に発生する汚濁を防止するための傘型汚濁防止装置であって、打設材を投入するための打設管と、該打設管に取り付けられた傘骨固定部材と、該傘骨固定部材から放射状に延びる傘骨と、該傘骨に張られた汚濁防止膜と、前記傘骨を牽引する牽引手段とを有し、打設材投入の際に、前記牽引手段を操作して前記打設管の先端を前記汚濁防止膜で覆うことを特徴とする。
【0011】
また好ましくは、前記傘骨固定部材が前記打設管の上下方向に移動可能であり、前記傘骨固定部材を前記打設管の任意位置に位置決めする位置決め部材を有することを特徴とする。
【0012】
また好ましくは、前記傘骨に錘を取り付けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の傘型汚濁防止装置は、海底への打設材投入の際に発生する汚濁を防止するための傘型汚濁防止装置であり、打設材を投入するための打設管と、打設管に取り付けられた傘骨固定部材と、傘骨固定部材から放射状に延びる傘骨と、傘骨に張られた汚濁防止膜と、傘骨を牽引する牽引手段とを有している。そして、打設材投入の際に、牽引手段を操作して打設管の先端を汚濁防止膜で覆うようになっている。
【0014】
従って、打設管から投入された打設材や元々海底にあった土砂等が舞い上がっても、傘型の汚濁防止膜で舞い上がる範囲を極めて小さな範囲に限定することができるので、汚濁の発生を効果的に防止することができる。また、汚濁防止膜が傘型であるので、上から覆いかぶさる形となり周囲に飛散しにくい。また、牽引手段を操作して汚濁防止膜の開き具合を変更することができので、打設材の投入範囲に合わせて汚濁防止膜の大きさを容易に調整することができる。
【0015】
また、傘骨固定部材が打設管の上下方向に移動可能であり、傘骨固定部材を打設管の任意位置に位置決めする位置決め部材を有する場合には、打設材を投入する海底の形状等に合わせて、傘の頂上部である傘骨固定部材の位置を調整することができる。
【0016】
また、傘骨に錘を取り付けた場合には、錘の重力により傘骨が下降して汚濁防止膜が海中で開きやすくなる。
【0017】
このように、本発明の傘型汚濁防止装置によれば、海底への土砂等の打設材投入の際に発生する汚濁を効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態に係る傘型汚濁防止装置を示す正面図である。
【
図2】傘型汚濁防止装置(汚濁防止膜上昇時)を示す正面図である。
【
図3】傘型汚濁防止装置(汚濁防止膜水平時)を示す正面図である。
【
図4】傘型汚濁防止装置(汚濁防止膜下降時)を示す正面図である。
【
図6】(A)
図1のa-a断面図、(B)
図1のb-b断面図である。
【
図8】傘型汚濁防止装置の使用状態を示す図である。
【
図10】傘型汚濁防止装置の他の使用状態を示す図である。
【
図11】傘型汚濁防止装置の設置手順を示す図である。
【
図12】従来例に係る汚濁防止膜の使用状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、
図1乃至
図11を参照して、本発明の実施形態に係る傘型汚濁防止装置について説明する。本実施形態に係る傘型汚濁防止装置は、海底への打設材投入の際に発生する汚濁を防止するためのものである。なお、説明のため各図面の一部を断面で表している。
【0020】
まず、
図1乃至
図7を参照して、本実施形態に係る傘型汚濁防止装置100の構成について説明する。
図1は、傘型汚濁防止装置100を示す正面図である。
図1においては、汚濁防止膜2の上昇時を一点鎖線、水平時を実線、下降時を二点鎖線で記載している。
図2乃至
図4は、それぞれ汚濁防止膜2の上昇時、水平時、下降時を示したのである。
図5は、傘型汚濁防止装置100を示す側面図であり、
図1と同様に上昇時、水平時、下降時を記載している。
図6(A)は
図1のa-a断面図、
図6(B)は
図1のb-b断面図である。
図7は、
図5のC-C拡大断面図である。
【0021】
傘型汚濁防止装置100は、打設管1、汚濁防止膜2、傘骨3、傘骨固定部材4、位置決め部材5、滑車固定部材6、滑車7、牽引用ワイヤー8、吊下用ワイヤー固定部材9、吊下用ワイヤー10及び錘11を有している。
【0022】
打設管1は、海底への打設材を投入するための管であり、海上から投入された打設材は打設管1を介して先端部から海底に投入される。打設材としては、土砂や固化処理土等が挙げられ、海砂採取により生じた海底の窪み200を埋めるようになっている。
【0023】
打設管1には、傘骨固定部材4が取り付けられている。傘骨固定部材4は円筒状部材であり、打設管1の上下方向に移動可能となっている。
【0024】
傘骨固定部材4には、放射状に延びる複数の傘骨3が取り付けられており、各々の傘骨3が傘骨固定部材4を中心として上下方向に回動できるようになっている。
【0025】
複数の傘骨3には、汚濁防止膜2が張られている。汚濁防止膜2は平面視多角形の部材であり、例えばポリエステル生地を使用することができる。そして、傘骨3の上下動(傘骨固定部材4を中心とした回動)に応じて開閉するようになっている。また、汚濁防止膜2の周縁部は、傘骨3の先端から垂れ下がるように形成されている。
【0026】
打設管1の傘骨固定部材4の下側には、位置決め部材5が取り付けられている。位置決め部材5は円筒状部材であり、打設管1の任意位置にねじ止め等により固定できるようになっている。傘骨固定部材4は打設管1の上下方向に移動可能であるが、位置決め部材5により下方への移動が制限されて、打設管1の任意位置に位置決めされる。なお、位置決め部材5は、円筒状部材に限定されるものではなく、例えば打設管1を水平方向に貫くピン部材等でもよい。
【0027】
複数の傘骨3の先端部には、それぞれ錘11が取り付けられている。錘11は、重力により傘骨3が下降して汚濁防止膜2が海中で開きやすくなるためのものである。なお、錘11は、傘骨3の先端部以外に取り付けることもできる。また、傘骨3自体の重量によって汚濁防止膜2が開くようであれば、必ずしも錘11を取り付ける必要はない。
【0028】
打設管1の傘骨固定部材4の上側には、吊下用ワイヤー固定部材9が取り付けられている。吊下用ワイヤー固定部材9は円筒状部材であり、打設管1の上下方向に移動可能となっている。吊下用ワイヤー固定部材9と複数の傘骨3の先端部とは、吊下用ワイヤー10で連結されている。なお、吊下用ワイヤー10は傘骨3の先端部ではなく中心部寄りに取り付けることもできる。
【0029】
吊下用ワイヤー固定部材9が打設管1の上下方向に移動すると、吊下用ワイヤー10を介して複数の傘骨3が傘骨固定部材4を中心として回動し、これに応じて汚濁防止膜2が開閉する。すなわち、吊下用ワイヤー固定部材9の上下動に合わせて汚濁防止膜2が、上方に少し閉じた状態(
図2:汚濁防止膜上昇時)、水平に開いた状態(
図3:汚濁防止膜水平時)、下方に少し閉じた状態(
図4:汚濁防止膜下降時)に変化する。
【0030】
打設管1の吊下用ワイヤー固定部材9の上側には、滑車固定部材6が取り付けられている。滑車固定部材6は円筒状部材であり、打設管1にねじ止め等により固定されている。滑車固定部材6には、2つの滑車7,7が取り付けられている。吊下用ワイヤー固定部材9には、2本の牽引用ワイヤー8,8が取り付けられており、牽引用ワイヤー8,8は吊下用ワイヤー固定部材9から滑車7,7を介して、海上の牽引装置に連結されている。牽引用ワイヤー8,8を引っ張ったり緩めたりすることで、吊下用ワイヤー固定部材9が上下動し、これに応じて吊下用ワイヤー10を介して複数の傘骨3が傘骨固定部材4を中心として回動し、これに応じて汚濁防止膜2が開閉する。
【0031】
傘型汚濁防止装置100の滑車固定部材6、滑車7、牽引用ワイヤー8、吊下用ワイヤー固定部材9及び吊下用ワイヤー10は、複数の傘骨3を牽引する牽引手段として機能するものである。なお、本実施形態では、2つのワイヤー(牽引用ワイヤー8、吊下用ワイヤー10)を吊下用ワイヤー固定部材9を経由して連結する構成としたが、牽引手段はこれに限定されるものではなく、例えば、牽引用ワイヤー8を傘骨3に直接連結するようにしてもよい。
【0032】
次に、
図8乃至
図11を参照して、傘型汚濁防止装置100の使用方法について説明する。
図8は、傘型汚濁防止装置100の使用状態を示す図であり、グラブ船による瀬取り・投入の状況を示したものである。
図9は
図8の要部拡大図であり、(A)はd部拡大図、(B)はe部拡大図、(C)はf部拡大図である。また
図10は、傘型汚濁防止装置100の他の使用状態を示す図であり、固化処理土のポンプ打設の状況を示したものである。上記いずれの使用方法も、海底の窪み200に打設材を投入するものであり、その際の傘型汚濁防止装置100の設置手順について
図11を参照して説明する。
【0033】
まず、
図11(A)に示すように汚濁防止膜2が上方に少し閉じた状態となるように牽引装置を調整しながら、傘型汚濁防止装置100を打設材の投入位置(海底の窪み200上方)に配置する。次に、海底に潜ったダイバーは、窪み200の大きさや形状に合わせて位置決め部材5の位置を調整して、傘の頂上部である傘骨固定部材4の位置を調整する。
【0034】
傘骨固定部材4の位置決めが完了すると、牽引用ワイヤー8を徐々に緩めていき、
図11(B)の水平に開いた状態、
図11(C)の下方に少し閉じた状態へと汚濁防止膜2を変化させていく。このとき、ダイバーは窪み200の大きさや形状に合わせて、海上と連絡を取りながら汚濁防止膜2の開き具合を調整する。開き具合の調整が完了すると、
図11(C)に示すように打設材を投入する。
【0035】
本実施形態に係る傘型汚濁防止装置100は、海底への打設材投入の際に発生する汚濁を防止するための傘型汚濁防止装置であり、打設材を投入するための打設管1と、打設管1に取り付けられた傘骨固定部材4と、傘骨固定部材4から放射状に延びる傘骨3と、傘骨3に張られた汚濁防止膜2と、傘骨3を牽引する牽引手段とを有している。そして、打設材投入の際に、牽引手段を操作して打設管1の先端を汚濁防止膜2で覆うようになっている。
【0036】
従って、打設管1から投入された打設材や元々海底にあった土砂等が舞い上がっても、傘型の汚濁防止膜2で舞い上がる範囲を極めて小さな範囲に限定することができるので、汚濁の発生を効果的に防止することができる。また、汚濁防止膜2が傘型であるので、上から覆いかぶさる形となり周囲に飛散しにくい。また、牽引手段を操作して汚濁防止膜2の開き具合を変更することができので、打設材の投入範囲に合わせて汚濁防止膜2の大きさを容易に調整することができる。
【0037】
また、傘骨固定部材4が打設管1の上下方向に移動可能であり、傘骨固定部材4を打設管1の任意位置に位置決めする位置決め部材5を有するので、打設材を投入する海底の形状等に合わせて、傘の頂上部である傘骨固定部材4の位置を調整することができる。
【0038】
また、傘骨3に錘11を取り付けたので、錘11の重力により傘骨3が下降して汚濁防止膜2が海中で開きやすくなる。
【0039】
このように、本実施形態に係る傘型汚濁防止装置100によれば、海底への土砂等の打設材投入の際に発生する汚濁を効果的に防止することができる。
【0040】
以上、本発明の実施形態に係る傘型汚濁防止装置について説明したが、本発明は上述した実施の形態に限定されるわけではなく、その他種々の変更が可能である。
【0041】
例えば、上記実施形態では傘骨固定部材4を打設管1の上下方向に移動可能とし、傘骨固定部材4を打設管1の任意位置に位置決めする位置決め部材5を設けたが、位置決め部材5を設けることなく、傘骨固定部材4を最初から一定の位置に固定しておくこともできる。
【符号の説明】
【0042】
1 打設管
2 汚濁防止膜
3 傘骨
4 傘骨固定部材
5 位置決め部材
6 滑車固定部材
7 滑車
8 牽引用ワイヤー
9 吊下用ワイヤー固定部材
10 吊下用ワイヤー
11 錘
100 傘型汚濁防止装置
200 窪み
300 杭
400 フロート
500 汚濁防止膜