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特開2022-100887香気成分の評価方法および香料組成物の調製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022100887
(43)【公開日】2022-07-06
(54)【発明の名称】香気成分の評価方法および香料組成物の調製方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/02 20060101AFI20220629BHJP
   G01N 30/72 20060101ALI20220629BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20220629BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20220629BHJP
【FI】
G01N33/02
G01N30/72 A
G01N30/88 C
A23L27/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020215140
(22)【出願日】2020-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000169466
【氏名又は名称】高砂香料工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100128761
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 慎一郎
【テーマコード(参考)】
4B047
【Fターム(参考)】
4B047LB09
4B047LF07
4B047LF09
4B047LG05
4B047LP20
(57)【要約】
【課題】飲食品を喫食時に後鼻腔を経て鼻から排出されるその飲食品中に含まれる香気成分の風味に与える影響を客観的かつ適切に評価し、レトロネーザルアロマの発現が制御され且つ商品に適した香料組成物を提供する。
【解決手段】飲食品を喫食時に後鼻腔を経て鼻から排出されるその飲食品中に含まれる二種以上の香気成分について、呼吸サイクル中の各香気成分の呼吸数(t)に対する濃度変化を計測し、各呼吸数の曲線下面積値(C)を、次式:C=a*t-bで示される累乗関数で近似したときの、単位量あたりの1呼吸目の曲線下面積値(a値)と曲線下面積値の減衰度合いを示す係数(b値)をそれぞれ算出し、二種以上の香気成分のa値とb値それぞれの大小関係を、その飲食品の風味に与える影響の大きさの大小関係と相関する指標として、その飲食品中に含まれる香気成分の風味に与える影響を評価し、得られた評価に基づいて、その飲食品中に含まれる香気成分の配合比率を調整して香料組成物を調製する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
飲食品を喫食時に後鼻腔を経て鼻から排出されるその飲食品中に含まれる香気成分の風味に与える影響を評価する方法であって、
1)飲食品を喫食時に後鼻腔を経て鼻から排出される、その飲食品中に含まれる二種以上の香気成分について、呼吸サイクル中の各香気成分の呼吸数(t)に対する濃度変化を計測し、各呼吸数の曲線下面積値(C)を、次式:C=a*t-bで示される累乗関数で近似したときの、単位量あたりの1呼吸目の曲線下面積値(a値)と曲線下面積値の減衰度合いを示す係数(b値)をそれぞれ算出するステップと、
2)ステップ1)で得られた二種以上の香気成分のa値とb値のそれぞれの大小関係を得るステップと、
3)ステップ2)で得られた二種以上の香気成分のa値とb値のそれぞれの大小関係を、その飲食品の風味に与える影響の大きさの大小関係と相関する指標として、その飲食品中に含まれる香気成分の風味に与える影響を評価するステップと、
を含む、前記評価方法。
【請求項2】
前記ステップ1)において、ガスクロマトグラフまたは質量分析装置を用いて前記a値とb値を測定することを含む、請求項1に記載の評価方法。
【請求項3】
香料組成物の調製方法であって、
A)請求項1または2に記載の評価方法により、飲食品を喫食時に後鼻腔を経て鼻から排出されるその飲食品中に含まれる香気成分の風味に与える影響を評価するステップと、
B)前記ステップA)で得られた評価に基づいて、その飲食品中に含まれる香気成分の配合比率を調整して香料組成物を調製するステップと、
を含む、前記調製方法。
【請求項4】
香料組成物の飲食品への賦香率を調整する方法であって、
i)請求項1または2に記載の評価方法により、飲食品を喫食時に後鼻腔を経て鼻から排出されるその飲食品中に含まれる香気成分の風味に与える影響を評価するステップと、
ii)前記ステップi)で得られた評価に基づいて、香料組成物の飲食品への賦香率を調整するステップと、
を含む、前記方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲食品に添加することのできる香気成分を評価する方法、およびそれを基に香気成分の配合比率を調整することを含む香料組成物の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
消費者の嗜好や商品設計に合う香料の開発が香料業界には求められている。要求を満たす開発を行う為には、飲食品を喫食する際に感じる風味に対して寄与度の大きいレトロネーザルアロマの特徴を把握することが重要である。従来は熟練したフレーバリストの経験および感性によって得られた知見がその特徴を示してきたが、客観性という点では課題となっていた。
【0003】
飲料水中の2種の香料化合物のみについて、レトロネーザルアロマの挙動を数式化した取り組みが報告されている(非特許文献1参照)。しかし、飲料水中における脂質の有無が数式中の係数に影響を及ぼす具合などの検証が主体となっており、香料組成物の調製には言及していない。
【0004】
また、各種香料化合物の口腔での香気の発現特性(初発性或いは持続性)をこれまでのようにフレーバリストの経験に頼ることなく、簡便、客観的かつ効率的に評価する方法が報告されている(特許文献1参照)。さらに、飲料において好ましい余韻性香気の発現を再現するために有用な香料化合物を、従来のようにフレーバリストの経験と試行錯誤に頼ることなく、簡便、客観的かつ効率的に探索する方法が報告されている(特許文献2参照)。
どちらの報告も客観的指標の算出方法および吸着剤を使用した探索方法が発明者独自の手法となっており、且つ、限られた商品形態を対象としているため、飲食品を喫食時のレトロネーザルアロマの挙動を客観的に評価した結果を基に、飲食品用の香料組成物を作製する方法とは言えない。
【0005】
一方、飲食品を喫食時のレトロネーザルアロマへの香気成分の貢献度を評価する試みとして、喫食時のレトロネーザルアロマの濃度積算値(C)を算出し、喫食時において香りを感じるか否かの閾値となる時のレトロネーザル閾値濃度積算値(C)を推算し、それらを用いて貢献度(C/C)を評価する方法が提案されている(特許文献3参照)。飲食品を嚥下後のCはC=a*t-bの関係式から導かれ、Cは初期量aとの比例関係から導かれており、飲食品を嚥下後に累乗関数的に減少するレトロネーザルアロマの挙動に関する2種の係数(a,b)が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-031138号公報
【特許文献2】特開2019-045243号公報
【特許文献3】特開2018-141741号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J.Agric.Food Chem.(2005),53,1700-1706
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
飲食品を喫食時のレトロネーザルアロマの挙動を客観的に評価し、飲食品用の香料組成物の調製に有用な指標が求められている。飲食品を喫食時のレトロネーザルアロマの挙動を客観的に評価した結果を基に、飲食品用の香料組成物を調製することで、飲食品を喫食時のレトロネーザルアロマを制御できることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、まず、飲食品を喫食時に口から後鼻腔を経て鼻から排出される香気成分(レトロネーザルアロマ)をリアルタイム且つ連続的に分析した。具体的には、PTR-TOFMS(プロトン移動反応飛行時間型質量分析計)を用いて、呼吸サイクル中の各香気成分の呼吸数に対する濃度変化を計測し、各呼吸数の曲線下面積値を求めた。
【0010】
飲食品を一定量飲み込んだ後、レトロネーザルアロマの曲線下面積値は経時的に減少し、呼吸数に対する曲線下面積値の減衰は累乗関数で近似することができる。累乗関数(C=a*t-b)の係数のうち、tは呼吸数、aは1呼吸目の曲線下面積値、bは減衰係数である。a値は香気成分の添加量とほぼ比例関係にあり、b値は添加量にほぼ依存しない。
【0011】
上記で得られたa値とb値は、レトロネーザルアロマにおける各香気成分に概ね固有の値であり、各香気成分の挙動を示すパラメータとなるため、目的とする香料組成物を調合する際の飲食品からのレトロネーザルアロマの発現を制御するための指標として利用することが出来る。また、2種以上の香気成分の各パラメータを比較し、各パラメータについて相対的な大小関係を得ることで、その大小関係を基にして、どの香気成分がより効果的に目的の風味に影響するかを判断する指標とすることが出来る。
【0012】
本発明の好ましい態様によれば、上記で得られたa値とb値は、吸着剤等を介さずに鼻から排出される呼気を直接装置に導入して分析した結果から算出されるため、ヒトが実際に感じているレトロネーザルアロマの挙動を反映し易い。
【0013】
上記のとおり、本発明は、飲食品を喫食する際のレトロネーザルアロマの挙動に関して、香気成分間で差があることに着目したものである。すなわち、本発明は、以下に示す香気成分の評価方法、前記評価方法により香気成分を評価し、その評価に基づいて飲食品中に含まれる香気成分の配合比率を調整することを含む香料組成物の調製方法、ならびに前記評価方法により香気成分を評価し、その評価に基づいて飲食品中に含まれる香気成分の配合比率を調整することにより香料組成物の飲食品への賦香率を調整する方法に関する。
[1]飲食品を喫食時に後鼻腔を経て鼻から排出されるその飲食品中に含まれる香気成分の風味に与える影響を評価する方法であって、
1)飲食品を喫食時に後鼻腔を経て鼻から排出される、その飲食品中に含まれる二種以上の香気成分について、呼吸サイクル中の各香気成分の呼吸数(t)に対する濃度変化を計測し、各呼吸数の曲線下面積値(C)を、次式:C=a*t-bで示される累乗関数で近似したときの、単位量あたりの1呼吸目の曲線下面積値(a値)と曲線下面積値の減衰度合いを示す係数(b値)をそれぞれ算出するステップと、
2)ステップ1)で得られた二種以上の香気成分のa値とb値のそれぞれの大小関係を得るステップと、
3)ステップ2)で得られた二種以上の香気成分のa値とb値のそれぞれの大小関係を、その飲食品の風味に与える影響の大きさの大小関係と相関する指標として、その飲食品中に含まれる香気成分の風味に与える影響を評価するステップと、
を含む、前記評価方法。
[2]前記ステップ1)において、ガスクロマトグラフまたは質量分析装置を用いて前記a値とb値を測定することを含む、前記[1]に記載の評価方法。
[3]香料組成物の調製方法であって、
A)前記[1]または[2]に記載の評価方法により、飲食品を喫食時に後鼻腔を経て鼻から排出されるその飲食品中に含まれる香気成分の風味に与える影響を評価するステップと、
B)前記ステップA)で得られた評価に基づいて、その飲食品中に含まれる香気成分の配合比率を調整して香料組成物を調製するステップと、
を含む、前記調製方法。
[4]香料組成物の飲食品への賦香率を調整する方法であって、
i)前記[1]または[2]に記載の評価方法により、飲食品を喫食時に後鼻腔を経て鼻から排出されるその飲食品中に含まれる香気成分の風味に与える影響を評価するステップと、
ii)前記ステップi)で得られた評価に基づいて、香料組成物の飲食品への賦香率を調整するステップと、
を含む、前記方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、飲食品を喫食時の香気成分の風味に与える影響を実際の喫食環境を考慮して適切に評価することができる。例えば、本発明の評価方法を用いることで、飲食品を喫食する際の各香気成分の挙動を客観的に評価することができる。
本発明の好ましい態様によれば、その飲食品中に含まれる香気成分の風味に与える影響を客観的に評価することが容易となり、レトロネーザルアロマを制御した調合香料を効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、リアルタイム計測機器を用いてレトロネーザルアロマの時間に対する濃度変化を計測した結果の例を模式的に示したグラフであり、格子柄部分は1呼吸目の曲線下面積を示している。
図2図2は、各呼吸数に対するレトロネーザルアロマの曲線下面積値の減衰曲線の例を模式的に示したグラフである。
図3図3は、実施例3において得られた、各飲料用調合香料組成物の香りの強さを比較した際の、喫飲直後の官能評価の平均スコアを示した図である。
図4図4は、実施例3において得られた、各飲料用調合香料組成物の香りの強さを比較した際の、喫飲から約20秒後の官能評価の平均スコアを示した図である。
図5図5は、実施例4において得られた、各ゼリー用調合香料組成物の香りの強さを比較した際の、喫食直後の官能評価の平均スコアを示した図である。
図6図6は、実施例4において得られた、各ゼリー用調合香料組成物の香りの強さを比較した際の、喫食から約20秒後の官能評価の平均スコアを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0017】
1.香気成分の評価方法
本発明の評価方法は、飲食品を喫食時に後鼻腔を経て鼻から排出されるその飲食品中に含まれる香気成分の風味に与える影響を評価する方法であって、
1)飲食品を喫食時に後鼻腔を経て鼻から排出される、その飲食品中に含まれる二種以上の香気成分について、呼吸サイクル中の各香気成分の呼吸数(t)に対する濃度変化を計測し、各呼吸数の曲線下面積値(C)を、次式:C=a*t-bで示される累乗関数で近似したときの、単位量あたりの1呼吸目の曲線下面積値(a値)と曲線下面積値の減衰度合いを示す係数(b値)をそれぞれ算出するステップと、
2)ステップ1)で得られた二種以上の香気成分のa値とb値のそれぞれの大小関係を得るステップと、
3)ステップ2)で得られた二種以上の香気成分のa値とb値のそれぞれの大小関係を、その飲食品の風味に与える影響の大きさの大小関係と相関する指標として、その飲食品中に含まれる香気成分の風味に与える影響を評価するステップと、
を含むことを特徴とする。
【0018】
本発明にかかる評価方法は、飲食品を喫食時に後鼻腔を経て鼻から排出されるその飲食品中に含まれる香気成分の風味に与える影響を、実際の喫食環境を考慮して適切に評価しようとするものである。以下、各ステップについて説明する。
【0019】
ステップ1)では、飲食品を喫食時に後鼻腔を経て鼻から排出される香気成分を計測する際の、その飲食品中に含まれる二種以上の香気成分について、呼吸サイクル中の各香気成分の呼吸数(t)に対する濃度変化を計測し、各呼吸数の曲線下面積値(C)を、次式:C=a*t-bで示される累乗関数で近似したときの、単位量あたりの1呼吸目の曲線下面積値(a値)と曲線下面積値の減衰度合いを示す係数(b値)をそれぞれ算出する。
【0020】
飲食品としては、特に限定されないが、賦香されることにより商品価値が高められる飲料または食品であることが好ましい。
【0021】
飲料としては、特に限定されないが、緑茶、抹茶または紅茶などの茶飲料;コーヒー、ココア、炭酸飲料、果汁飲料、スポーツドリンクおよびフレーバーウォーター(ニアウォーター)などの清涼飲料水;ジン、ウォッカ、ウィスキー、ワイン、チューハイ、サワー、焼酎および日本酒などのアルコール飲料;ビール、発泡酒、低アルコールビールおよびノンアルコールビールなどのビール類といった飲料類が挙げられる。
特に香料を添加することができる飲料が好ましく、具体的には紅茶、コーヒー、果汁飲料、スポーツドリンク、フレーバーウォーター、サワー、チューハイ、ビール類などが好ましい。
また、食品としては、特に限定されないが、アイスクリーム類、シャーベット類、アイスキャンディー類の如き冷菓;ヨーグルト類、和・洋菓子類、ジャム類、キャンディー類、ゼリー類、ガム類、パン類、カレー、シチュー、和風スープ、洋風スープおよび中華スープの如きスープ類;風味調味料、各種インスタント飲料ないし食品類、各種スナック食品類、介護食品類、歯磨剤、口腔ケア製品などが挙げられる。
これらの中でも、冷菓、アイスクリーム類、シャーベット類、ヨーグルト類、ゼリー、およびカレーなどが好ましく挙げられる。なお、本明細書において「食品」には、二種以上を混ぜ合わせることにより最終製品となる食品も含まれる。
【0022】
本発明において香気成分として用いられる香料または香料化合物は、特に限定されるものではないが、食品の原料となる動植物が含むもの、あるいは食品添加物として添加することができる香料であればよい。例えば、特許庁公報周知・慣用技術集(香料)第II部食品用香料(日本国特許庁)、天然香料基原物質集(日本香料工業会)および合成香料(化学工業日報社)に記載の香料などが挙げられる。
【0023】
既述したとおり、飲食品を一定量飲み込んだ後のレトロネーザルアロマの呼吸数に対する曲線下面積値の減衰は次式:C=a*t-bで示される累乗関数で近似することができる。本発明において、累乗関数(C=a*t-b)の係数のうち、tは呼吸数であり、a値は単位量あたりの1呼吸目の曲線下面積値、b値は曲線下面積値の減衰度合いを示す係数として定義される。本発明においては、二種以上の香気成分について、それぞれa値とb値を求める。a値とb値はそれぞれレトロネーザルアロマのパラメータと呼ぶことも出来る。a値とb値が実験から得られない場合などは、化学構造や物性値的観点などから計算科学的手法を用いて推算値を求めても良い。または、ヒトの喫食時のレトロネーザルアロマ挙動を再現できる装置を用いてa値とb値を算出しても良い。
【0024】
なお、飲食品中に含まれる溶媒、例えば、調合香料の希釈または飲食品への溶解性を上げるために香料組成物中に含まれる溶媒は、それ自体がほぼ無臭であるため、各パラメータの算出において考慮されない。
各パラメータの算出において考慮されない溶媒としては、プロピレングリコール(プロパン-1,2-ジオール);クエン酸トリエチル(2-ヒドロキシプロパン-1,2,3-トリカルボン酸トリエチル);グリセリルアセタート(1,2,3-プロパントリオール-トリアセタート)水;エタノール;ココナッツオイルや植物油などの食用油類;などが挙げられる。
【0025】
以下、本発明にかかる評価方法の実施形態について詳細に説明する。
【0026】
本発明の一実施形態では、各香気成分の濃度変化の実測値に基づいてa値とb値を算出する。
まず、単独または複数の香気成分を適量添加した飲食品を嚥下し、鼻孔から排出される各香気成分の濃度変化をPTR-TOFMSを用いてリアルタイムに計測する。図1は、リアルタイム計測機器を用いてレトロネーザルアロマの時間に対する濃度変化を計測した結果の例を模式的に示したグラフであり、格子柄部分は1呼吸目の曲線下面積を示している。また、図2は、各呼吸数に対するレトロネーザルアロマの曲線下面積値の減衰曲線の例を模式的に示したグラフである。
各香気成分の濃度変化をPTR-TOFMSを用いてリアルタイムに計測すると、図1に示したとおり、各香気成分について呼吸数ごとのレトロネーザルアロマ曲線が得られる。得られたレトロネーザルアロマ曲線を基にして、図2に示したとおり、各香気成分について呼吸数ごとのレトロネーザルアロマ曲線下面積値(C)を算出する。そして、呼吸数(t)ごとに変化する曲線下面積値の減衰を累乗関数(C=a*t-b)によって近似し、単位量あたりの1呼吸目の曲線下面積値(a値)と呼吸ごとの減衰度合いを示す係数(b値)を得る。同測定を複数回(例えば、2回またはそれ以上)行い、a値とb値をそれぞれ測定回数で平均化することが好ましい。
【0027】
a値は飲食品への香気成分の添加量に概ね比例するため、添加量で除算することで単位量あたりの数値にすることが望ましい。例えば、飲食品全量中の香気成分濃度の単位を「ppm」(質量基準)とし、1ppmあたりのa値とすることができる。単位量あたりにすることで、計測時に香気成分間で添加濃度が異なっていても、a値では香気成分間で相対的な大小関係を示すことができる。
【0028】
鼻から排出される香気成分を分析する方法としては、特に限定されないが、ガスクロマトグラフまたは質量分析装置を用いることで効率的な分析および解析ができる。
また、鼻から排出される香気成分の短時間中に起こる濃度変化を捉えることの出来るリアルタイム計測機器を用いることが好ましい。そのような装置の例として、プロトン移動反応飛行時間型質量分析計PTR-TOFMS(IONICON Analytik GmbH社製)が挙げられる。
【0029】
例えば、飲料の場合には、通常の喫飲で1口分に相当する量である10mL~30mLを一度に飲み込むのが好ましい。また、喫飲後から1~10呼吸目までの計測が好ましく、少なくとも1~3呼吸目までの計測が必須である。
【0030】
例えば、食品の場合には、通常の喫食で1口分に相当する量である10g~20gを咀嚼し、一度に飲み込むのが好ましい。咀嚼回数は特に限定されないが、1度に飲み込むことができる程度に咀嚼することが望ましく、5~30回が好ましい。咀嚼回数は、測定ごとに食品の種類によって適宜決定することができる。同測定を複数回行う場合は同じ条件で行うこととする。また、喫食後から1~10呼吸目までの計測が好ましく、少なくとも1~3呼吸目までの計測が必須である。
【0031】
既述したとおり、本発明の他の一実施形態では、化学構造や物性値的観点などから計算科学的手法を用いてa値とb値の推算値を求めることもできる。
また、本発明の他の一実施形態では、ヒトの鼻から排出される香気成分を分析および解析する代わりに、ヒトの喫食時のレトロネーザルアロマ挙動を再現できる装置を用い、該装置から排出される香気成分を分析および解析することによりa値とb値を算出しても良い。より具体的には、ヒトの喫食時のレトロネーザルアロマ挙動を、ヒトの呼吸サイクルも含めて再現できる装置を用い、該装置から排出される呼吸サイクル中の各香気成分の呼吸数に対する濃度変化を計測して各呼吸数の曲線下面積値を求め、既述した方法と同様にしてa値とb値を算出しても良い。
【0032】
次に、ステップ2)では、ステップ1)で得られた二種以上の香気成分のa値とb値のそれぞれの大小関係を得る。ここで「大小関係」とは、二種以上の香気成分のa値とb値のそれぞれの相対的な大小関係を意味する。
また、a値とb値のそれぞれの大小関係は、飲食品に含まれる任意の二種以上の香気成分のa値とb値のそれぞれの相対的な大小関係であればよい。すなわち、各パラメータの大小関係を得る香気成分は、飲食品に含まれる香気成分の少なくとも一部であればよく、全部である必要はない。例えば、目的とする香りに対して香りとしての寄与度が大きい香気成分や、閾値の低い香気成分などのように香料組成物の配合において着目する特定の香気成分についてのみ各パラメータを算出して大小関係を得てもよい。
【0033】
ステップ3)では、ステップ2)で得られた二種以上の香気成分のa値とb値のそれぞれの大小関係を、その飲食品の風味に与える影響の大きさの大小関係と相関する指標として、その飲食品中に含まれる香気成分の風味に与える影響を評価する。ここで「大小関係」とは、二種以上の香気成分がその飲食品の風味に与える影響の大きさの相対的な大小関係を意味する。例えば、二種の香気成分のうちa値の大きい方が、その飲食品を喫食時の1呼吸目の風味に与える影響の大きさが大きくなり易く、二種の香気成分のa値の小さい方が、その飲食品を喫食時の1呼吸目の風味に与える影響の大きさが小さくなり易いことを意味する。また、二種の香気成分のうちb値の大きい方が、2呼吸目以降の減衰量が大きく、二種の香気成分のうちb値の小さい方が2呼吸目以降の減衰量が小さいことを意味する。つまり、b値の大きい方が風味の変化が早くなり易く、b値の小さい方が風味の変化が小さくなり易いことを意味する。
但し、a値およびb値の大小関係と風味への影響の大小関係が必ずしも合致しない場合もある。当業者であれば、このような場合を予測することができ、必要に応じて配合比率をさらに調整することで目的の香料組成物を得ることができる。
【0034】
二種以上の香気成分のa値とb値はそれぞれが比較されて相対的な大小関係が得られるが、a値とb値を組み合わせて幾つかの集団に分類し、各集団を風味に与える影響の指標と関連付けても良い。例えば、母集団に属する香気成分のa値を大小で分割し、b値も大小で分割して、それらの組合せにより2~4の集団に分類しても良い。また、b値を2種以上の集団に分類し、各集団の中でa値を比較して風味への影響を評価しても良い。例えば、a値もb値も大きい集団に属する香気成分は、その飲食品を喫食時の1呼吸目の風味に与える影響の大きさが大きくなりやすいが、2呼吸目以降の風味の変化が大きくなり易いことを意味する。一方、a値もb値も小さい集団に属する香気成分は、その飲食品を喫食時の1呼吸目の風味に与える影響の大きさが小さくなりやすいが、2呼吸目以降の風味の変化が小さくなり易いことを意味する。
【0035】
各パラメータは、試料となる飲食品の生地によって値が異なる場合がある。その場合は、対象となる商品の生地に応じて、モデル生地を作製して香気成分を賦香し、香気成分の各パラメータを測定し比較することで、二種以上の香気成分の各パラメータの大小関係は、その試料を喫食する際のヒトが感じる風味に与える影響の大きさの大小関係と相関する指標となる。
【0036】
なお、生地の組成および測定条件が同じであれば、モデル生地に賦香される香気成分の組成が異なる複数の試料についてそれぞれ測定を行い、各測定で得られた二種以上の香気成分の各パラメータを直接比較して相対的な大小関係を得てもよい。
【0037】
上記のとおり、本発明の好ましい態様によれば、その飲食品中に含まれる香気成分の風味に与える影響を客観的に評価することが容易となる。
本発明の好ましい態様によれば、香料組成物を調合する際に、本発明の評価方法を用いて香気成分を評価し、その評価を基に香気成分の種類および配合比率を選択することで、飲食品の種類などに合わせてレトロネーザルアロマの発現を制御することができる。本発明の好ましい態様によれば、本発明の香気成分の評価方法を用いることで、レトロネーザルアロマを制御した調合香料を効率的に製造することができる。
【0038】
2.香料組成物の調製方法
本発明の香料組成物の調製方法は、
A)前記評価方法により、飲食品を喫食時に後鼻腔を経て鼻から排出されるその飲食品中に含まれる香気成分の風味に与える影響を評価するステップと、
B)前記ステップA)で得られた評価に基づいて、その飲食品中に含まれる香気成分の配合比率を調整して香料組成物を調製するステップと、
を含むことを特徴とする。
【0039】
ステップA)においては、本発明の香気成分の評価方法により飲食品を喫食時に後鼻腔を経て鼻から排出されるその飲食品中に含まれる香気成分の風味に与える影響を評価する。本発明の香気成分の評価方法については、前記「1.香気成分の評価方法」で述べたとおりである。
【0040】
ステップB)においては、例えば、その飲食品の目的の風味に与える影響が大きい香気成分として位置付けられた香気成分の量比を加減することによりその飲食品に用いられる香料組成物における香気成分の配合比率を調整する。本発明においては、その飲食品の目的の風味に与える影響が大きい香気成分として位置付けられた香気成分の量比を加減することにより、香料組成物がその飲食品に用いられる際に、その飲食品の風味に与える影響を制御することが容易となる。
【0041】
例えば、a値が相対的に大きい香気成分は、その飲食品を喫食時の1呼吸目の風味に与える影響が相対的に大きいと評価できることから、前記香気成分の配合量を加減して飲食品の風味を制御することが考えられる。あるいは、a値が相対的に小さい香気成分は、その飲食品を喫食時の1呼吸目の風味に与える影響が相対的に小さいと評価できることから、配合量を減らすことや配合しないことも考えられる。
また、例えば、b値が相対的に大きい香気成分は、その飲食品を喫食時の風味の変化が相対的に大きいと評価できることから、前記香気成分の配合量を増やして飲食品の風味をより持続させることが考えられる。あるいは、b値が相対的に小さい香気成分は、その飲食品を喫食時の風味の変化が相対的に小さいと評価できることから、配合量を減らしてその風味の持続をより短くさせることも考えられる。
【0042】
本発明の好ましい態様によれば、飲食品を喫食した際のレトロネーザルアロマの発現をより制御しやすくなり、飲食品の種類などに応じて目的とするレトロネーザルアロマを発現する香料組成物を効率的に提供することができる。また本発明の好ましい態様によれば、飲食品を喫食した際のレトロネーザルアロマの発現がより制御された製品をより効率的に提供することができる。
【0043】
3.香料組成物の飲食品への賦香率の調整方法
本発明の香料組成物の飲食品への賦香率の調整方法は、
i)前記評価方法により飲食品を喫食時に後鼻腔を経て鼻から排出されるその飲食品中に含まれる香気成分の風味に与える影響を評価するステップと、
ii)前記ステップi)で得られた評価に基づいて、その飲食品中に含まれる香気成分の配合比率を調整して香料組成物を調製することで、香料組成物の飲食品への賦香率を調整するステップと、
を含むことを特徴とする。
【0044】
ステップi)においては、本発明の香気成分の評価方法により飲食品を喫食時に後鼻腔を経て鼻から排出されるその飲食品中に含まれる香気成分の風味に与える影響を評価する。本発明の香気成分の評価方法については、前記「1.香気成分の評価方法」で述べたとおりである。
【0045】
ステップii)においては、例えば、その飲食品の目的の風味に与える影響が大きい香気成分として位置付けられた香気成分の量比を加減することによりその飲食品に用いられる香料組成物における香気成分の配合比率を調整する。本発明においては、その飲食品の目的の風味に与える影響が大きい香気成分として位置付けられた香気成分の量比を加減することにより、香料組成物がその飲食品に用いられる際に、飲食品への香料組成物の賦香率を調整することができる。
例えば、a値が相対的に大きい香気成分の配合量が多い場合には、前記香料組成物の賦香率を減して飲食品の風味を制御することが考えられる。あるいは、a値が相対的に小さい香気成分の配合量が多い場合には、賦香率を増やすことも考えられる。
また、b値が相対的に大きい香気成分の配合量が多い場合には、前記香料組成物の賦香率を増やして飲食品の風味を制御することが考えられる。あるいは、b値が相対的に小さい香気成分の配合量が多い場合には、賦香率を減らすことも考えられる。
【0046】
本発明の好ましい態様によれば、飲食品を喫食した際のレトロネーザルアロマの発現をより制御しやすくなり、飲食品の種類などに応じて目的の風味への影響の大きい香料組成物を調製することで、飲食品への香料組成物の賦香率を下げることができる。
【実施例0047】
次に、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例においては、特に記載しない限り、「%」は質量基準である。
【0048】
飲食品を喫食時に後鼻腔を経て鼻から排出されるその飲食品中に含まれる香気成分をプロトン移動反応質量分析計「PTR-TOFMS」(IONICON Analytik GmbH社製)に直接導入し、検出したイオンから呼吸ごとに変動する各香気成分の濃度を得た。主要なPTR-TOFMSの測定条件を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
[実施例1]
各種香料化合物で構成された飲料用基本調合香料組成物(参考品1)を調合した。参考品1の配合処方を表2に示す。
【0051】
【表2】
【0052】
イオン交換水を生地として、参考品1を生地の全量に対して0.1%添加し、5℃に冷却して試料とした。この試料10mLを喫飲した後の後鼻腔を経て鼻から排出される香料化合物の香気濃度をPTR-TOFMSによって測定した。測定時間は試料喫飲後およそ30秒とした。
【0053】
呼吸サイクルに応じて変動する各香気成分濃度の呼吸数ごとの曲線下面積値を算出し、それらの値の減衰挙動について呼吸数を変数とした累乗関数(C=a*t-b)で近似した。なお、実施例において、a値は、単位量(ppm)あたりの1呼吸目の曲線下面積値であり、b値は曲線下面積値の減衰度合いを示す係数である。同測定を複数回行い、各パラメータ(a,b)を測定回数で平均化した。参考品1の構成香料化合物に関する各パラメータ値を表3に示す。
【0054】
【表3】
【0055】
[実施例2]
各種香料化合物で構成されたゼリー用基本調合香料組成物(参考品2および3)を調合した。参考品2および3の配合処方を表4および5に示す。
【0056】
【表4】

【表5】
【0057】
グラニュー糖6g、ゼラチン1g、イオン交換水50gが加熱工程を経て混ぜ合わされた生地に、参考品2および3をそれぞれ生地の全量に対して0.3%添加し、5℃に冷却して試料とした。これらの試料10gをそれぞれ喫食した後の後鼻腔を経て鼻から排出される香料化合物の香気濃度をPTR-TOFMSによってそれぞれ測定した。測定時間は試料喫食後およそ30秒とした。
【0058】
各試料について、呼吸サイクルに応じて変動する各香気成分濃度の呼吸数ごとの曲線下面積値を算出し、それらの値の減衰挙動について呼吸数を変数とした累乗関数(C=a*t-b)で近似した。各試料について同測定を複数回行い、各パラメータ(a,b)を測定回数で平均化した。参考品2および3の構成香料化合物に関する各パラメータ値を表6に示す。なお、本実施例では、参考品2を賦香した生地と、参考品3を賦香した生地とをそれぞれ調製して試料とし、各試料について構成香料化合物の香気濃度を基にして各パラメータ値を算出した。生地組成および測定条件は同一であるため、得られた各パラメータ値をそのまま比較して相対的な大小関係を得ることができる。
【0059】
【表6】
【0060】
次に、a値とb値の有効性を検証するために以下の試験を行った。
【0061】
[実施例3]
各種香料化合物で構成された飲料用調合香料組成物(基準品1)を調合した。飲料における各パラメータについて、基準品1の中でa値とb値が大きい香料化合物と小さい香料化合物に分類し、各グループの処方量のみを変更した調合香料組成物(比較品1および2)を調合した。比較品1が、a値とb値が小さい香料化合物の処方量を変更した調合香料組成物であり、比較品2が、a値とb値が大きい香料化合物の処方量を変更した調合香料組成物である。基準品1および比較品1、2の配合処方を表7に示す。
【0062】
【表7】
【0063】
(官能評価)
ドリップコーヒーを水で希釈したブラックコーヒー(Brix:0.64)を生地として、飲料用調合香料組成物(基準品1および比較品1、2)をそれぞれ0.3%配合した試料を喫飲した際の香りの強度について、5名の熟練したパネリストが官能評価を行った。評価のポイントは、喫飲直後(1呼吸目)と20秒前後(6呼吸目相当)の2点とした。香りの強度は、基準品1に対する相対強度(0.5刻みの12段階)として評価した。その評価基準を以下に示す。
評価基準
点数
6点: かなり強く感じる
5点: 強く感じる
4点: やや強く感じる
3点: 同等に感じる
2点: やや弱く感じる
1点: 弱く感じる
0点: かなり弱く感じる
【0064】
基準品1と各比較品は1セットとし、比較品を喫飲する直前には基準品1を喫飲する順序とした。用意された評価用紙に点数を記入する方式をとり、評価者5名の単純平均値を表8および9に示した。
【0065】
【表8】

【表9】
【0066】
基準品1に対する各比較品の香りの強度を比較したところ(図3、4)、a値が大きい香料化合物を増量した比較品2の点数の方が、喫飲直後により高くなる傾向を示した。また、b値が小さい香料化合物を増量した比較品1の点数の方が、喫飲から20秒程度経った後により高くなる傾向を示した。この事から、本評価方法によって得られたa値とb値が風味への影響の指標として有用である事が示され、本評価方法が課題解決に有用な手法であることが示された。
【0067】
[実施例4]
各種香料化合物で構成されたゼリー用調合香料組成物(基準品2)を調合した。ゼリーにおける各パラメータについて、基準品2の中でa値とb値が大きい香料化合物と小さい香料化合物に分類し、各グループの処方量のみを変更した調合香料組成物(比較品3および4)を調合した。比較品3が、a値とb値が小さい香料化合物の処方量を変更した調合香料組成物であり、比較品4が、a値とb値が大きい香料化合物の処方量を変更した調合香料組成物である。基準品2および比較品3、4の配合処方を表10に示す。
【0068】
【表10】
【0069】
(官能評価)
グラニュー糖6g、ゼラチン1g、ドリップコーヒーを水で希釈したブラックコーヒー(Brix:0.64)50gが加熱工程を経て混ぜ合わされた生地に、ゼリー用調合香料組成物(基準品2および比較品3、4)をそれぞれ0.1%配合した試料を喫食した際の香りの強度について、5名の熟練したパネリストが官能評価を行った。評価のポイントは、喫食直後(1呼吸目)と20秒前後(6呼吸目相当)の2点とした。香りの強度は、基準品2に対する相対強度(0.5刻みの12段階)として評価した。その評価基準を以下に示す。
評価基準
点数
6点: かなり強く感じる
5点: 強く感じる
4点: やや強く感じる
3点: 同等に感じる
2点: やや弱く感じる
1点: 弱く感じる
0点: かなり弱く感じる
【0070】
基準品2と各比較品は1セットとし、比較品を喫食する直前には基準品2を喫食する順序とした。用意された評価用紙に点数を記入する方式をとり、評価者5名の単純平均値を表11および12に示した。
【0071】
【表11】

【表12】
【0072】
基準品2に対する各比較品の香りの強度を比較したところ(図5、6)、a値が大きい香料化合物を増量した比較品4の点数の方が、喫食直後により高くなる傾向を示した。また、b値が小さい香料化合物を増量した比較品3の点数の方が、喫食から20秒程度経った後により高くなる傾向を示した。この事から、本評価方法によって得られたa値とb値が風味への影響の指標として有用である事が示され、本評価方法が課題解決に有用な手法であることが示された。



図1
図2
図3
図4
図5
図6