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特開2022-100927液中粒子計測器、液中粒子計測方法、信号処理プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022100927
(43)【公開日】2022-07-06
(54)【発明の名称】液中粒子計測器、液中粒子計測方法、信号処理プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 15/14 20060101AFI20220629BHJP
【FI】
G01N15/14 B
G01N15/14 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020215214
(22)【出願日】2020-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000115636
【氏名又は名称】リオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120592
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 崇裕
(74)【代理人】
【識別番号】100192223
【弁理士】
【氏名又は名称】加久田 典子
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 光秋
(72)【発明者】
【氏名】菅原 鈴子
(72)【発明者】
【氏名】吉川 由華
(57)【要約】
【課題】粒子の可測粒径を小さくしつつ計数効率を上げる技術の提供。
【解決手段】信号処理部30においては、入力信号に対して確率共鳴を用いた信号処理がなされる。データ入力部31から送られる入力信号は、ノイズ加算部33においてノイズ生成部32で生成された無相関なk個の各ノイズと加算される。加算後の各信号は、二値化処理部34で二値化されてから平均化処理部35でその単純平均が算出され、算出結果に応じた出力信号のうち、所望信号の周波数帯域から外れる成分がLPF部36でカットされた上で、判定部37において粒子閾値を超えた(粒子が存在する)か否かの判定がなされる。二値化の際には、測定試料の媒質に応じて二値化閾値算出部38で自動的に算出された二値化閾値が用いられるため、誤検出を低減しつつ粒径がより小さい粒子を検出できる。また、1つのノイズデータから無相関な複数のノイズが生成されるため、データ容量を抑制できる。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料に含まれる粒子と前記液体試料に入射した光との相互作用により生じる散乱光を検出して強度に応じた大きさの信号に変換する検出部と、
前記信号に対し、所定数の並列処理を行って前記所定数の無相関な各ノイズを加算し、加算後の各信号を出力する加算部と、
前記加算後の各信号を前記液体試料に合わせて設定された二値化閾値を用いて二値化し、各二値化信号を出力する二値化部と、
前記各二値化信号に基づく値を算出して出力する算出部と、
前記算出部の出力のうち、所定周波数の成分を通過させるフィルタ部と、
前記フィルタ部の出力が所定の粒子閾値を超えている場合に粒子が存在すると判定する判定部と
を備えた液中粒子計測器。
【請求項2】
請求項1に記載の液中粒子計測器において、
前記液体試料の散乱光成分の特徴量に基づき前記二値化閾値を算出する二値化閾値算出部をさらに備え、
前記二値化部は、
前記二値化閾値算出部により算出された前記二値化閾値を用いて二値化することを特徴とする液中粒子計測器。
【請求項3】
請求項2に記載の液中粒子計測器において、
前記二値化閾値算出部は、
前記液体試料の散乱光成分のRMS値又はDC値に基づいて前記二値化閾値を算出することを特徴とする液中粒子計測器。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の液中粒子計測器において、
所定データ長のノイズデータを記憶する記憶部と、
前記ノイズデータから開始点を異ならせて無相関な複数のノイズを生成する態様により前記所定数のノイズを生成するノイズ生成部と
をさらに備え、
前記加算部は、
前記ノイズ生成部により生成された所定数の無相関な各ノイズを加算することを特徴とする液中粒子計測器。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の液中粒子計測器において、
前記算出部は、
前記各二値化信号の平均値を算出して出力することを特徴とする液中粒子計測器。
【請求項6】
液体試料に含まれる粒子と前記液体試料に入射した光との相互作用により生じる散乱光を検出して強度に応じた大きさの信号に変換する検出工程と、
前記信号に対し、所定数の並列処理を行って前記所定数の無相関な各ノイズを加算し、加算後の各信号を出力する加算工程と、
前記加算後の各信号を前記液体試料に合わせて設定された二値化閾値を用いて二値化し、各二値化信号を出力する二値化工程と、
前記各二値化信号に基づく値を算出して出力する算出工程と、
前記算出工程での出力のうち、所定周波数の成分を通過させるフィルタ工程と、
前記フィルタ工程での出力が所定の粒子閾値を超えている場合に粒子が存在すると判定する判定工程と
を含む液中粒子計測方法。
【請求項7】
請求項6に記載の液中粒子計測方法において、
前記液体試料の散乱光成分の特徴量に基づき前記二値化閾値を算出する二値化閾値算出工程をさらに含み、
前記二値化工程では、
前記二値化閾値算出工程で算出された前記二値化閾値を用いて二値化することを特徴とする液中粒子計測方法。
【請求項8】
液体試料に含まれる粒子の計測に用いられる信号処理プログラムであって、
コンピュータを、少なくとも、
前記粒子と前記液体試料に入射した光との相互作用により生じた散乱光の強度に応じた大きさの信号に対し、所定数の並列処理を行って前記所定数の無相関な各ノイズを加算し、加算後の各信号を出力する加算部と、
前記加算後の各信号を前記液体試料に合わせて設定された二値化閾値を用いて二値化し、各二値化信号を出力する二値化部と、
前記各二値化信号に基づく値を算出して出力する算出部と、
前記算出部の出力のうち、所定周波数の成分を通過させるフィルタ部と、
前記フィルタ部の出力が所定の粒子閾値を超えている場合に粒子が存在すると判定する判定部
として機能させる信号処理プログラム。
【請求項9】
請求項8に記載の信号処理プログラムにおいて、
前記コンピュータを、
前記液体試料の散乱光成分の特徴量に基づき前記二値化閾値を算出する二値化閾値算出部としてさらに機能させ、
前記二値化部は、
前記二値化閾値算出部により算出された前記二値化閾値を用いて二値化することを特徴とする信号処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体試料中に存在する粒子を計測する装置及び方法に関し、特に、微小な粒子の検出に際して確率共鳴現象を用いる装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
確率共鳴(Stochastic Resonance)とは、信号にノイズを加えることで、ある確率の下で信号が強まり反応が向上する現象であり、ノイズの影響下にある微弱な信号を検出する上で好適な手法である。例えば、微弱信号が含まれる入力信号に対して並列処理を行い、互いに相関のないノイズをそれぞれに加算する方法が知られている(例えば、非特許文献1を参照。)。この方法を利用したオーソドックスな信号処理においては、図8に示されるように、k個の並列処理において入力信号にノイズを加算して得られる各信号は、固定の二値化閾値を用いて二値化される。
【0003】
また、粒子検出の分野においては、確率共鳴を利用して空気中に含まれる微小な粒子の検出精度(SN比)を向上させる信号処理方法が知られている(例えば、特許文献1を参照。)。この信号処理においては、模擬信号(パルス数及びパルス波形が既知の微弱信号)にノイズ信号を加算した電気信号を用いることにより、SN比の最適化がなされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6531499号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J. J. Collinsら著,「Stochastic resonance without tuning」,Nature Vol.376,p.236-238,1995年7月20日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
液中粒子計測の分野においては、最小可測粒径を30nmとする製品が既に知られているが、例えば半導体のプロセスルールのさらなる微小化に伴って、粒径30nm未満の粒子の計測が求められている。しかしながら、従来の計測方法の延長線上では、最小可測粒径の更新は限界に達しつつあり、また、新たな手法の検討に当たっては、測定試料が液体であることに特有の課題を考慮しなければならない。
【0007】
すなわち、液中粒子の計測においては、測定する試料自体の散乱光がノイズ源となるが、この散乱光が空気の散乱光と比べて非常に大きく、また、散乱光の強さが試料により異なり、温度等の測定環境によっても変化する。そのため、確率共鳴を利用して液中粒子計測を行うとしても、上述した固定の二値化閾値を用いるオーソドックスな信号処理を適用するだけでは、粒子の計測を精度よく行うことは困難であり、十分な精度を確保するためには、試料の屈折率や等温圧縮率等を要因とした試料のノイズ振幅の変化に対処すべく、二値化閾値の調整が必要となる。
【0008】
具体的には、二値化閾値が固定される場合には、いかなる状況においても試料の散乱光に起因するノイズによる誤検出を除去できるよう、想定される最も大きいノイズより二値化閾値を大きな値に設定する必要がある。また、試料の散乱光が小さい場合には、微弱な粒子信号を検出するために、二値化閾値も小さく設定する必要がある。測定の度に試料に応じて手動で二値化閾値を調整すると、手間がかかる上に、調整にばらつきが生じる虞がある。
【0009】
一方、上述した粒子検出の分野における先行技術によれば、回路系におけるノイズの影響を低減させることは可能であると考えられるが、試料から発生する散乱光に起因するノイズの影響を低減させることは困難である。また、この先行技術においては、測定前にパルスに関する既知の情報に基づいてチューニングを行わなければならず、準備に手間がかかる。
【0010】
さらに、確率共鳴を利用するためには、無相関な複数のノイズを用意しなければならない。確率共鳴を用いた信号処理においては、並列数kが多いほど微弱信号の検出精度が上がることが知られているが、そのためにはk個の無相関なノイズが必要となる。計測器に利用可能なリソースには制約があるため、これらのノイズをどのように用意するのかも課題となる。
【0011】
そこで、本発明は、粒子の可測粒径を小さくしつつ計数効率を上げる技術の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、本発明は以下の液中粒子計測器、液中粒子計測方法、信号処理プログラムを採用する。なお、以下の括弧書中の文言はあくまで例示であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0013】
すなわち、本発明の液中粒子計測器、液中粒子計測方法、信号処理プログラムにおいては、液体試料に含まれる粒子と液体試料に入射した光との相互作用により生じた散乱光の強度に応じた大きさの信号に対し、所定数の並列処理を行って所定数の無相関な各ノイズを加算して加算後の各信号を出力し、各信号を液体試料に合わせて設定された二値化閾値を用いて二値化して各二値化信号を出力し、各二値化信号に基づく値を算出して出力し、この出力のうち所定周波数の成分を通過させた上で、出力(通過した成分)が所定の粒子閾値を超えている場合に粒子が存在すると判定する。
【0014】
この態様によれば、散乱光信号に含まれる背景光由来の信号のレベルが下がる一方で、粒子由来の信号が相対的にくっきりと浮き上がらせることができ、微小な粒子に由来する微弱な信号を確実に検出することができる。また、この態様によれば、液体試料に合わせて設定された二値化閾値を用いて二値化がなされるため、固定の二値化閾値を用いる場合と比較して、粒子を精度よく検出することができる。
【0015】
好ましくは、上記の液中粒子計測器、液中粒子計測方法、信号処理プログラムにおいて、液体試料の特徴量に基づいて二値化閾値を算出し、算出された二値化閾値を用いて二値化を行う。また、より好ましくは、液体試料の散乱光成分のRMS値又はDC値に基づいて二値化閾値を算出する。
【0016】
この態様によれば、液体試料の特徴量、例えば、液体試料の散乱光成分のRMS値又はDC値に基づいて二値化閾値が自動的に算出され設定されるため、手動で設定する場合と比較して、計測の準備に要する手間を軽減することができ、誤検出をより低減しつつ粒子由来のよりレベルの低い信号を検出することが可能となる。
【0017】
より好ましくは、上記の液中粒子計測器、液中粒子計測方法、信号処理プログラムにおいて、予め用意された所定データ長のノイズデータから開始点を異ならせて無相関な複数のノイズを生成する態様により所定数のノイズを生成し、これらの各ノイズを所定数の並列処理にて加算する。
【0018】
この態様によれば、並列処理数に応じた個数の無相関なノイズが或るノイズデータから開始点を異ならせて無相関な複数のノイズを生成する態様により生成されるため、ノイズの生成に要するノイズデータの種類や容量を抑制することができるとともに、計測に要するノイズを効率よく生成することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明によれば、粒子の可測粒径を小さくしつつ計数効率を上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】粒子計測器の構成を示すブロック図である。
図2】粒子検出部の構成を示す斜視図及び垂直断面図である。
図3】信号処理部の構成を示すブロック図である。
図4】ノイズの生成態様を説明する図である。
図5】ACカップリング後の散乱光成分とRMS値の一例を示す図である。
図6】粒子計数処理の手順例を示すフローチャートである。
図7】実施形態における確率共鳴を用いた信号処理の態様を簡略的に示す図である。
図8】粒径30nm未満の粒子を検出するための処理の各過程における信号の波形を比較して示す図である。
図9】比較例における確率共鳴を用いた信号処理の態様を簡略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は好ましい例示であり、本発明はこの例示に限定されるものではない。
【0022】
〔粒子計測器〕
図1は、粒子計測器1の構成を示すブロック図である。
【0023】
粒子計測器1は、例えば、粒子検出部10、A/D変換部20、信号処理部30、及び出力部50からなる。粒子検出部10は、液体試料に光を照射して試料中を浮遊する粒子と照射光との相互作用により生じる散乱光を検出し、その強さに応じた電気信号を出力する。A/D変換部20は、粒子検出部10から出力される電気信号をデジタル信号に変換する。信号処理部30は、A/D変換部20から出力されるデジタル信号に対して種々の信号処理を施し、粒子を検出(粒子の存在を判定)して粒径区分毎に計数する。出力部50は、信号処理部30による計数結果を出力する。
【0024】
本実施形態においては、粒径30nm未満の粒子を精度よく検出するために、信号処理部30において確率共鳴を用いた信号処理がなされる。粒径についてより具体的には、本実施形態と同精度の光学系を用いる場合には粒径20nm程度までの粒子を精度よく検出できることが想定される。さらに光学系の精度が改善されれば粒径10nmやそれ以下の粒径の粒子を精度よく検出できることも期待される。なお、粒子検出部10及び信号処理部30の構成については、別の図面を用いてさらに後述する。
【0025】
〔粒子検出部〕
図2は、粒子検出部10の構成を簡略的に示した斜視図及び断面図である。(B)の断面図は、(A)の斜視図に示されたII-II切断線に沿う垂直断面図である。
【0026】
粒子検出部10は、例えば、フローセル11、光源12、集光レンズ13、光電変換器14等で構成される。フローセル11はL字状の形状をなし、その内部を貫通するようにして流路11aが形成されている。試料は、第1開口11bから流路11aに導入されて第2開口11cから外部に排出される。また、光源12は、試料の流れに対して垂直な方向からレーザ光を照射する。本実施形態においては、粒径30nm未満の粒子の検出を考慮し、照射光として532nmのグリーンレーザを用いた。レーザ光が照射されると、流路11a内の所定の位置に照射領域L及び検出領域Mが形成され、検出領域Mを通過する粒子Pから散乱光が生じる。集光レンズ13は、粒子Pから生じた散乱光を集光する。光電変換器14は、集光された散乱光を検出し、その強さに応じた電圧に変換して電気信号を出力する。
【0027】
集光レンズ13及び光電変換器14は、試料の流れに対向する位置に配置される。これにより、粒子Pから生じる散乱光を精度よく検出することできる。また、検出領域Mと集光レンズ13との間に位置するフローセル11の内壁には凹面部11dが形成されており、検出領域Mを通過した粒子Pから生じた散乱光がフローセル11の内壁に入射する際に生じうる屈折を抑制することができる。なお、粒子検出部10における各機器の配置は集光軸を基準として決定されており、照射光の入射位置は検出領域Mの中心が集光軸上に位置するように設計されている。
【0028】
〔A/D変換器〕
光電変換器14から出力される電気信号(以下、「検出信号」と称する。)には、粒子Pが検出領域Mを通過した際に検出される信号(以下、「所望信号」と称する。)の他に、試料の散乱光に起因するノイズ(以下、「散乱ノイズ」と略称する。)等が含まれる。また、所望信号は、15kHz程度までの周波数帯域にガウス分布する信号であると想定される。
【0029】
検出信号は、A/D変換部20で標本化及び量子化がなされてデジタル信号に変換される。本実施形態においては、アンチエイリアシングのため、検出信号に対し、所望信号の周波数帯域に十分な余裕を持たせた60kHzをカットオフ周波数とする2次のローパスフィルタをかける。また、量子化雑音をできる限り低く抑えるため、検出信号の約20倍でのオーバーサンプリングとし、5Mspsのレートで標本化を行う。また、量子化ビットは16bitとする。
【0030】
〔信号処理部〕
図3は、信号処理部30の構成を示すブロック図である。
【0031】
信号処理部30は、例えば、データ入力部31、ノイズ生成部32、ノイズ加算部33、二値化処理部34、平均化処理部35、LPF部36、判定部37、二値化閾値算出部38、二値化閾値記憶部39、リセット部40、波高分析部41、粒子計数部42等で構成される。これらのうち、ノイズ生成部32からリセット部40までの各機能部は、粒径30nm未満の粒子の検出及び計数に寄与し、波高分析部41は、粒径30nm以上の粒子の検出に計数に寄与する。以下、信号処理部30を構成する各機能部の役割を、信号の流れに沿って説明する。
【0032】
〔データ入力部〕
A/D変換部20から出力されるデジタル信号(信号データ)は、データ入力部31に入力される。データ入力部31は、入力信号をそのままの状態で出力する。なお、本実施形態においては、信号データをリアルタイムで逐次入力しているが、これに代えて、図示しない内部メモリ等の記憶領域に蓄積された信号データを読み込んで入力してもよい。
【0033】
ところで、入力信号には、所望信号の他に計測の過程で発生するノイズが含まれているが、本実施形態においては、粒径30nm未満の粒子も検出対象とするため、計測に伴うノイズはできる限り低く抑える必要がある。
【0034】
入力信号に含まれる代表的なノイズとしては、上記の散乱ノイズの他に、A/D変換時の量子化ノイズ、電気回路由来の熱雑音が挙げられる。このうち、A/D変換時の量子化ノイズについては、上述したようにA/D変換部20での処理に際して対策が講じられている。また、電気回路の熱雑音は、1mVオーダのノイズであり、散乱ノイズが100mVオーダのノイズであることに照らせば、十分に小さいと考えられる。そして、散乱ノイズについては、後続する信号処理において対応がなされる。
【0035】
〔ノイズ生成部〕
ノイズ生成部32は、後述するノイズ加算部33における処理の並列数に応じた個数の互いに相関のないノイズを生成して出力する。本実施形態においては、図示しない記憶領域(記憶部)に記憶されている一定データ長のノイズデータを繰り返し連結して得られる連結データの先頭から、所定長ずつ次々とずらした位置を開始点として、1つのノイズデータから複数のノイズを生成する。なお、生成に用いるノイズデータは、白色ガウスノイズであることが望ましい。
【0036】
〔ノイズの生成態様〕
図4は、ノイズの生成態様を説明する図である。
ノイズ生成部32は、例えば、並列数k=100の場合には、データ長16kBの無相関な7種類のノイズデータA~Gを用意し、それぞれのノイズデータを繰り返し連結して得られる連結データにおいて、ぞれぞれの先頭から1kBずつ次々とずらした位置を開始点として、100個のノイズを生成する。
【0037】
具体的には、ノイズデータAをベースとする連結データからは、その先頭を開始点とするノイズ1、先頭から1kBずらした位置を開始点とするノイズ2、先頭から2kBずらした位置を開始点とするノイズ3、・・・、先頭から14kBずらした位置を開始点とするノイズ15、先頭から15kBずらした位置を開始点とするノイズ16を生成する。ノイズデータB以降についても同様にして処理を行い、1ノイズデータ当たり16個のノイズを生成可能である。
【0038】
ノイズデータA~Gが無相関であることから、これらをベースとし開始点を異ならせて生成される各ノイズもまた無相関なものとなる。このような態様でノイズを生成することにより、生成に要するノイズデータの数や容量を抑制しながら無相関な複数のノイズを生成することが可能となる。
【0039】
なお、ノイズデータのデータ長や開始点をずらす際の所定長は、状況に応じて適宜変更が可能である。いずれにせよ、これらの値に応じて1ノイズデータ当たりのノイズ生成可能数が自ずと決定される。したがって、予め用意するノイズデータの数は、並列数kを1ノイズデータ当たりのノイズ生成可能数で除算した商に1加算して得られる数となる。
【0040】
また、本実施形態においては記憶領域に記憶されているノイズデータを用いてノイズを生成しているが、これに代えて、演算によりノイズを生成してもよい。例えば、M系列を用いた疑似乱数生成法を用いてノイズを生成してもよい。
【0041】
〔ノイズ加算部:図3参照〕
ノイズ加算部33は、入力信号(データ入力部31からの出力信号)に対して並列数をkとする並列処理を行い、それぞれの処理においてノイズ生成部32で生成された無相関なk個のノイズを同一の強度(ノイズ付加量β)で加算して出力する。本実施形態においては、並列数k=100とした。また、ノイズ付加量βは、所望信号や背景光由来の散乱ノイズの強度、計測する媒質及びその温度や濃度等に関連するものであり、本実施形態では、予め行った実験に基づいて決定された値を適用している。なお、ノイズ付加量βは、ノイズ生成部32におけるノイズの生成時に考慮してもよく、その場合には、ノイズ加算部33では入力信号に各ノイズが直接加算されることとなる。
【0042】
並列数を増やすことにより、演算量は増大するものの、後述する処理において所望信号をノイズ信号に対して一層くっきりと浮き上がらせることができ、検出精度を向上させることが可能となる。但し、並列数が一定数を超えると、検出精度の向上は漸近的なものとなる。したがって、並列数は、計測における所望信号やノイズの状況、信号処理部30の演算処理能力等を考慮して適切な値を選択することが望ましい。
【0043】
〔二値化処理部〕
二値化処理部34は、ノイズ加算部33からのk個の各出力を、後述する二値化閾値記憶部39に記憶されている二値化閾値算出部38により算出された確率共鳴の二値化閾値mと比較し、出力がm以上の場合には「1」を出力する一方、m未満の場合には「0」を出力する。
【0044】
〔平均化処理部〕
平均化処理部35は、本発明の算出部の一例である。二値化処理部34からのk個の各出力を加算してからkで除算することで単純平均を算出し、分解能を10bitとして算出結果を1~1024(=210)の値に変換して出力する。なお、下流側の処理工程における利便性等を考慮し、平均化処理部35ではkでの除算を行わないこととしてもよいが、その場合には、前後の処理工程において並列数がkであることを踏まえた計算がなされることとなる。また、単純平均に代えて、k個の各出力に何らかの重み付けを行う平均(加重平均)等を算出しても良い。
【0045】
〔LPF部〕
LPF部36は、平均化処理部35からの出力信号に対しローパスフィルタをかける。本実施形態においては、所望信号の周波数帯域であるおおよそ100Hzから15kHzまでに対応する出力信号の成分を通過させるべく、カットオフ周波数を15kHzとする3次のローパスフィルタを用いた。これにより、持続時間の短い信号がカットされるため、粒子の誤検出を排除することが可能となる。なお、ここでのフィルタの傾斜はさほど急峻である必要はないため、3次のフィルタに代えて、2次のフィルタを用いてもよい。また、所望信号の周波数帯域はおおよそ100Hz以上の周波数成分を通過させればよく、ローパスフィルタに限らず所望信号の周波数帯域を通過させるバンドパスフィルタや、ハイパスフィルタや所望信号の周波数帯域以外を制限する目的でのバンドストップフィルタ等の組み合わせで実現してもよい。
【0046】
〔判定部〕
判定部37は、LPF部36からの出力信号が粒子計測器1の最小可測粒径に応じて予め決定された所定の閾値(以下、「粒子閾値」と称する。)を超えているか否かを確認し、出力信号が粒子閾値を超えている場合には、粒子が存在する(粒子に由来する信号である)と判定してその旨を示すパルスを出力する一方、粒子閾値以下である場合には、粒子が存在しない(粒子に由来する信号でない)と判定し、パルスの出力を行わない。本実施形態においては、例えば、最小可測粒径を「20nm」とし、「20nm」に対応して予め決定された「850」を粒子閾値として、1~1024の値をとる出力に対し上記の判定を行う。検出閾値は、誤検出を起こすことなく最小可測粒径以上の粒子を検出するための閾値として、予め行った実験に基づいて導出された値である。
【0047】
〔二値化閾値算出部〕
二値化閾値算出部38は、後述するリセット部40からのリセット信号を受信すると、その時点での測定試料に合わせて確率共鳴の二値化閾値を算出する。二値化閾値は、以下の計算式により算出される。
【0048】
<数1>
二値化閾値 = (二値化係数)×(ノイズベース設定値)
【0049】
上記の計算式のうち、二値化係数は、光学機器の設計値に基づいて予め決定される値である。また、ノイズベース設定値は、計測時に測定試料の散乱光成分の特徴量に応じて設定される値であり、具体的には、測定試料の散乱光成分のRMS値、又は、DC値、又は、RMS値及びDC値を踏まえた値等が該当する。RMS値とは、計測信号における交流成分の実効値のことであり、信号の2乗値の平均の平方根により算出される。DC値とは、計測信号における直流成分値のことである。すなわち、本実施形態においては、RMS値やDC値が測定試料の特徴量として用いられる。
【0050】
なお、ノイズベース設定値を設定する上で考慮される散乱光成分の特徴量は、RMS値やDC値に限定されない。例えば、測定試料の散乱光成分に関連する各種平均値(振幅の加算平均値や加重平均値等)、振幅値の分布における中央値や最大値、振幅のピーク値等の測定試料の特徴量を示すいずれかの指標、又はそれらの指標の値に近い算出結果をもたらす何らかの数式による値、或いはそれらの組み合わせであってもよい。いずれの場合においても、二値化係数はノイズベース設定値の選択に応じて適切に設定される。
【0051】
二値化係数は、試料の媒質や濃度、屈折率、等温圧縮率等の特性を考慮した値が、RMS値及びDC値のそれぞれに対して光学機器の設計時点で決定され、工場出荷時に図示しない記憶領域にプリセットされる。
【0052】
ノイズベース設定値の元となるRMS値及びDC値は、リセット信号受信後の所定期間(例えば、5秒間)におけるそれぞれの計測結果に基づいて設定される。例えば、電源ONの操作に伴うリセットの場合には、光源12の暖機運転終了後の段階で計測した5秒間のRMS値及びDC値に基づいて設定される。RMS値は、媒質によって異なる値となる。例えば、媒質が純水の場合に対し、濃度96%の濃硫酸では約1.2倍、IPAでは約1.3~1.4倍となる。また、DC値は、媒質が純水の場合には60~70mV程度となる。
【0053】
本実施形態においては、ノイズベース設定値として、RMS値のみを用いる。そのため、プリセットされているのはRMS値に対応する二値化係数のみであり、リセット時には、この二値化係数とRMS値との積により二値化閾値が自動的に算出される。
【0054】
図5は、測定試料の媒質が純水である場合におけるACカップリング後の散乱光成分と、これに基づいて設定されたRMS値の具体例を示している。この例においては、二値化係数を「3」とし、散乱光成分のRMS値の算出結果が「0.03Vrms」となり、この二値化係数とRMS値との積により、二値化閾値は「0.09」と算出される。
【0055】
なお、本実施形態においては、ノイズベース設定値として、RMS値のみを用いているが、これに代えて、DC値のみを用いる場合には、DC値に対応する二値化係数のみがプリセットされ、RMS値及びDC値の両方を踏まえて決定される値を用いる場合には、RMS値及びDC値のそれぞれに対応する二値化係数がプリセットされることとなる。複数種類のノイズベース設定値を利用可能な構成とする場合には、プリセットされた測定試料名リストから測定試料名の選択や散乱光成分の特徴量の選択に応じて最適な設定値を自動的に設定するよう構成してもよいし、いずれかの設定値を手動で設定するよう構成してもよい。
【0056】
複数種類のノイズベース設定値からの選択に際しては、例えば、DC値を選択した場合に粒子の計測結果にDC値由来の影響を与える可能性がある場合(光源12の劣化等によりレーザ光の光量が変化し散乱光の強度が上下するような場合等)には、RMS値の方が適している。また、洗浄度が高い(浮遊粒子が少ない)試料を用いる場合もまた、RMS値の方が適している。これに対し、粒子濃度が高い試料を用いる場合には、粒子由来の信号(所望信号)と試料の散乱光由来の信号(散乱ノイズ)との区別が困難であるため、DC値の方が適している。或いは、RMS値及びDC値の両方を踏まえることでより精度の高い計測結果が得られる場合には、そのような設定値を利用可能としてもよい。
【0057】
〔二値化閾値記憶部〕
二値化閾値記憶部39は、工場出荷前に予め決定されプリセットされた上記の二値化係数に加えて、二値化閾値算出部38により算出された二値化閾値を記憶する。後述するリセット部40からのリセット信号を受信すると、二値化閾値記憶部39は、二値化係数を保持したままその時点で記憶していた二値化閾値をクリアする。
【0058】
〔リセット部〕
リセット部40は、粒子計測器1のリセット操作に伴い、確率共鳴を用いた信号処理に関わる各機能部に対してリセット信号を送信する。ここで、「リセット操作」とは、ユーザによる粒子計測器1に対する操作のうちリセットを伴う操作のことであり、具体的には、電源ONの操作や、計測試料を変えたこと等に応じて設定ボタンを押下する操作等が該当する。ユーザが電源ONの操作を行った場合には光源12の暖機運転の終了後に、また、ユーザが設定ボタンを押下した場合にはそのタイミングで、リセット部40からリセット信号が送信される。そして、これに連動して二値化閾値算出部38において二値化閾値の算出が自動的に行われるとともに、その他の各機能部における処理も初期化されることとなる。
【0059】
〔波高分析部〕
以上の各機能部32~40は粒径30nm未満の粒子の検出及び計数に寄与するのに対し、波高分析部41は、粒径30nm以上の粒子の検出及び計数に寄与する。具体的には、波高分析部41は、例えば、特許第4960772号の粒子計数方法と同様の手法(以下、「従来法」と称する。)を用いて、入力信号(データ入力部31からの出力信号)に基づいて検出した粒子が予め30nm以上で数μmまでに設定した複数の粒径区分のいずれに該当するかを判定し、該当した粒径区分に応じたパルスを出力する。なお、従来法は既に公知であるため、波高分析部41における処理の詳細な説明は省略する。
【0060】
〔粒子計数部〕
粒子計数部42は、判定部37及び波高分析部41から出力されたパルスに基づいて、検出された粒子の数を粒径区分毎に計数する。なお、ノイズ加算部33~判定部37と波高分析部41とは、同一の入力信号に対して異なる処理を同時に進行させており、判定部37及び波高分析部41のそれぞれが出力して粒子計数部42に入力されるパルスは、同期されている。
【0061】
〔粒子計数処理〕
図6は、粒子計数部42が実行する粒子計数処理の手順例を示すフローチャートである。粒子計数部42は、計測が開始されてから終了するまで、粒子計数処理の実行を継続する。以下、手順例に沿って説明する。
【0062】
ステップS1:粒子計数部42は、波高分析部41からパルスが入力されたか否かを確認する。確認の結果、波高分析部41からパルスが入力された場合には(ステップS1:Yes)、粒子計数部42は、ステップS2を実行する。一方、波高分析部41からパルスが入力されていない場合には(ステップS1:No)、粒子計数部42は、ステップS3を実行する。
【0063】
ステップS2:粒子計数部42は、波高分析部41からのパルスに応じた粒径区分における粒子検出数をカウントアップする。例えば、波高分析部41からのパルスが、40~50nmの粒径区分に対応したパルスである場合には、この粒径区分における粒子検出数を1加算する。
【0064】
ステップS3:粒子計数部42は、判定部37からパルスが入力されたか否かを確認する。確認の結果、判定部37からパルスが入力された場合には(ステップS3:Yes)、粒子計数部42は、ステップS4を実行する。一方、判定部37からパルスが入力されていない場合には(ステップS3:No)、粒子計数部42は、ステップS1に戻る。
【0065】
ステップS4:粒子計数部42は、30nm未満の粒径区分における粒子検出数をカウントアップする。上述したように、判定部37におけるパルス出力の基準となる粒子閾値は20nmに対応したものであるため、実質的にはこの処理により、20nm以上30nm未満の粒径区分における粒子検出数が1加算されることとなる。
【0066】
以上の手順を終えると、粒子計数部42は、ステップS1に戻り、ステップS1~S4の手順を繰り返し実行する。
【0067】
上述したように、波高分析部41からのパルスは、30nm以上のいずれかの粒径区分に対応しているのに対し、判定部37からのパルスは、20nmに対応する粒子閾値を超えた場合に入力される。そのため、粒径30nm以上の粒子に由来する信号が処理されると、波高分析部41及び判定部37の両方から同時にパルスが入力される場合があるが、上記の手順に沿って粒子を計数することにより、1つの粒子に対するダブルカウントを回避することができ、粒子数を正確に計数することが可能となる。
【0068】
なお、粒子計数部42による粒子の計数結果は、出力部50に入力される。そして、出力部50により、計数結果のモニタやプリンタへの出力やネットワークを介した他のデバイスへの送信等がなされることとなる。
【0069】
以上が、本実施形態における信号処理部30の構成である。なお、信号処理部30は、DSP(Digital Signal Processor)に実装してもよいし、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のデジタル信号処理が可能なデバイスに実装してもよい。或いは、PC等のような一般的な機能を備えたコンピュータにプログラムとして実装してもよい。
【0070】
〔確率共鳴を用いた信号処理(実施形態)〕
図7は、本実施形態における確率共鳴を用いた信号処理、すなわち粒径30nm未満の粒子を検出するための処理の態様を簡略的に示す図である。また、図8は、確率共鳴を用いた信号処理の各過程における信号の波形を比較して示す図である。
【0071】
図7に示されるように、本実施形態の信号処理においては、先ず、入力信号(図8中(A))がそのままの状態でデータ入力部31からノイズ加算部33に送られる。また、無相関なk個のノイズ(ガウスノイズ1~k)がノイズ生成部32で生成され、ノイズ加算部33に送られる。そして、ノイズ加算部33においてk個の並列処理が実行され、k個の各ノイズがそれぞれ同一のノイズ付加量βで入力信号に加算される。加算後の各信号は、二値化処理部34に送られ、測定試料の媒質に応じて自動的に算出された二値化閾値を用いて二値化される。すると、二値化された各値の単純平均が平均化処理部35で算出され、算出結果が10bitの信号に変換して出力される(図8中(B))。この出力信号のうち、所望信号の周波数帯域から外れる成分がLPF部36でカットされる(図8中(C))。そして、判定部37においてLPF部36を通過した信号についての判定がなされ、粒子閾値を超えた場合には、その旨を示すパルスが出力される。
【0072】
ここで、信号処理の各過程における波形に着目してみると、図8中(A)~(C)に示されるように、信号処理が進むにつれて、信号波形がシンプルになっていくことが分かる。具体的には、入力信号(図8中(A))は、粒子由来の信号(所望信号)と背景光由来の信号(散乱ノイズ)とが混在しているため、信号波形が非常に複雑である。これに対し、平均化処理後の信号(図8中(B))は、入力信号と比較すると信号のピークがよりくっきりと浮き出ているのが分かる。これは、所望信号が含まれている場合には、ノイズ加算後の信号を平均化しても所望信号はそのまま残る一方、ノイズのみの場合には、無相関なノイズが平均化されるため信号のレベルが下がることで、所望信号が相対的に浮き上がるためである。
【0073】
粒径20nm以上の粒子が存在するか否かの判定は、LPF処理後の信号(図8中(C))に基づいてなされるが、このとき、例えば、図中に矢印で示した散乱ノイズのピークxのピーク値に対して粒子閾値を1.5倍の値に設定すると、図示された区間の信号からは、2個の粒子を検出することができる。これに対し、同じ区間の入力信号を対象として従来法による処理(波高分析部41による処理)を行っても、これらの粒子を検出することは困難である。このことから、本実施形態によれば、従来法よりも粒径の小さい粒子を検出できることが明らかである。
【0074】
〔確率共鳴を用いた信号処理(比較例)〕
図9は、比較例として、確率共鳴を用いた信号処理のオーソドックスな態様を簡略的に示す図である。
【0075】
比較例においては、k個の並列処理が実行され、入力信号と予め用意された無相関なk個のノイズがそれぞれ同一の付加量βで入力信号に加算される。加算後の各信号は、固定の二値化閾値を用いて二値化され、二値化された各値の単純平均が算出される。算出結果は、さらなる下流側の処理工程に送られる。
【0076】
このように、比較例においては、k個のノイズを予め用意する必要があるため、並列数kが大きいほど用意に手間がかかり、ノイズの格納に要するデータ容量もより大きくなる。また、二値化の際に固定の二値化閾値が用いられるため、測定試料の違いに対応することができない。測定の度に測定閾値を手動で再設定するとしても、その作業には手間がかかる上に、調整にばらつきも生じうる。そして、このことが、粒子の検出精度に大きく影響し得る。
【0077】
これに対し、本実施形態においては、ノイズ生成部32により或るノイズデータから複数のノイズを生成する態様によりk個のノイズが用意されるため、予め用意するノイズデータの数は少なく済み、その格納に要するデータ容量を抑制することができる。また、二値化の際には、測定試料の媒質に応じて二値化閾値算出部38により算出される二値化閾値が用いられるため、比較例の場合と比較して、計測の準備に要する手間を低減することができると同時に、粒子の検出精度を向上させることができる。
【0078】
〔本発明の優位性〕
以上のように、上述した実施形態によれば、以下のような効果が得られる。
【0079】
(1)測定試料の散乱光成分のRMS値やDC値に基づいて算出された二値化閾値を用いて出力信号の二値化がなされるため、誤検出を低減しつつ粒子由来のよりレベルの低い信号を検出することができ、最小可測粒径20nmでの計測が可能となる。
【0080】
(2)従来法よりも小さな最小可測粒径での計測が可能となるため、液中に含まれる粒子の検出精度及び粒子数の計数精度を向上させることができる。
【0081】
(3)二値化閾値がリセット操作に連動して自動的に算出されるため、試料に応じて計測の準備に要する手間を低減することができる。
【0082】
(4)各並列処理において入力信号に加算される無相関なノイズは、ノイズ生成部32により、或るノイズデータから開始点を異ならせて複数のノイズを生成する態様により生成されるため、ノイズの生成に要するノイズデータの数や容量を抑制しつつ、無相関な複数のノイズを効率よく生成することができる。
【0083】
本発明は、上述した実施形態に制約されることなく、種々に変形して実施することが可能である。
【0084】
上述した実施形態においては、ノイズ加算部33における処理の並列数kを100としたが、これに限定されない。計測における所望信号やノイズの状況、信号処理部30の演算処理能力等次第では、処理を複数並列させずに1処理のみ実行する(k=1とする)構成とすることも可能である。
【0085】
また、並列数kをより大きな値とする場合には、信号データをリアルタイムで処理せずに記憶領域に一旦溜めておき、後から一定期間(例えば、1分間のデータ)毎に処理を行ってもよい。このような構成とすることで、信号処理を限られた演算処理能力の下で安定的に行いつつ、平均化処理後のノイズのレベルをより低く下げることができ、結果として粒径30nm未満の粒子の検出精度をより向上させることが可能となる。
【0086】
上述した実施形態においては、粒子計測器1の最小可測粒径を20nmとし、これに対応して判定部37が判定に用いる粒子閾値が決定されているが、最小可測粒径はこれに限定されない。また、判定部37は判定結果に応じて単一のパルスを出力するが、これに代えて、粒子閾値を複数設定し、出力信号が超えた粒子閾値に応じて異なるパルスを出力するように構成してもよい。このような構成により、30nm未満についても複数の粒径区分毎に検出粒子数を計数することが可能となる。
【0087】
上述した実施形態においては、L字形のフローセル11を用いているが、フローセルの形状はL字状に屈曲した部位を有する形状であればよく、L字形に代えて、例えばコの字形やクランク形を採用してもよい。
【0088】
その他、粒子計測器1の各構成部品の例として挙げた材料や数値等はあくまで例示であり、本発明の実施に際して適宜に変形が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0089】
1 粒子計測器
10 粒子検出部
14 光電変換部 (検出部、検出工程)
20 A/D変換部 (検出部、検出工程)
30 信号処理部
31 データ入力部
32 ノイズ生成部
33 ノイズ加算部 (加算部、加算工程)
34 二値化処理部 (二値化部、二値化工程)
35 平均化処理部 (算出部、算出工程)
36 LPF部 (フィルタ部、フィルタ工程)
37 判定部 (判定工程)
38 二値化閾値算出部 (二値化閾値算出工程)
39 二値化閾値記憶部
40 リセット部
41 波高分析部
42 粒子計数部
50 出力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9