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  • 特開-歯ブラシ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022100940
(43)【公開日】2022-07-06
(54)【発明の名称】歯ブラシ
(51)【国際特許分類】
   A46B 5/00 20060101AFI20220629BHJP
   A46B 5/02 20060101ALI20220629BHJP
【FI】
A46B5/00 B
A46B5/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020215233
(22)【出願日】2020-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006769
【氏名又は名称】ライオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】羽田野 公輝
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 彩
【テーマコード(参考)】
3B202
【Fターム(参考)】
3B202AA06
3B202AB15
3B202CA01
3B202CA05
3B202EA01
3B202EB14
3B202EG17
(57)【要約】
【課題】使用時に口唇に接触しにくく、操作性に優れ、奥歯を磨きやすい歯ブラシを提供することを目的とする。
【解決手段】植毛面3aを有するヘッド部3と、ヘッド部3の後端側に設けられたハンドル部4と、ヘッド部3とハンドル部4を接続するネック部5と、を備えるハンドル体2を備え、植毛面3aに形成された植毛穴に毛束が植設された歯ブラシ1において、側面視で、正面側のネック部5とハンドル部4の境界点を点Hとし、ヘッド部3の背面3bを通る直線kと、点Hから直線kに対して下ろした垂線との交点を点Pとしたとき、直線k方向におけるヘッド部3の先端と点Pとの距離Xに対する、点Hと点Pとの距離Yの比を0.25以上とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植毛面を有するヘッド部と、前記ヘッド部の後端側に設けられたハンドル部と、前記ヘッド部と前記ハンドル部を接続するネック部と、を備えるハンドル体を備え、
前記植毛面に形成された植毛穴に毛束が植設された歯ブラシであって、
側面視で、正面側の前記ネック部と前記ハンドル部の境界点を点Hとし、前記ヘッド部の背面を通る直線kと、前記点Hから前記直線kに対して下ろした垂線との交点を点Pとしたとき、
直線k方向における前記ヘッド部の先端と前記点Pとの距離Xに対する、前記点Hと前記点Pとの距離Yの比が0.25以上である、歯ブラシ。
【請求項2】
側面視で、正面側の前記ヘッド部と前記ネック部の境界点を点Qとし、
直線k方向において、前記点Qと前記点Hとの距離を基準として、前記ネック部の前記ヘッド部側の60%の領域を領域R、前記ハンドル部側の40%の領域を領域Rとし、
正面側の前記領域Rと前記領域Rとの境界点を点Qとしたとき、
前記点Qと前記直線kとの距離aに対する、前記点Qと前記直線kとの距離bの比が1.8以下であり、
直線k方向における前記点Qと前記点Hの距離cに対する前記距離Yの比が1.1以上である、請求項1に記載の歯ブラシ。
【請求項3】
前記距離Yが22mm以上であり、
前記ハンドル体の直線k方向の後端を点Hとしたとき、
側面視で、直線k方向における前記点Hと前記点Hの距離Xに対する、直線k方向に垂直な方向における前記点Hと前記点Hの距離Yの比が0.15以上0.23以下である、請求項1又は2に記載の歯ブラシ。
【請求項4】
側面視で、前記直線k上の前記ヘッド部の先端の位置を点Pとし、前記直線kと、前記点Hから前記直線kに対して下ろした垂線との交点を点Pとし、前記点Pと前記点Hとを結ぶ直線上の前記点Pから前記距離Y離れた位置を点Hとしたとき、
前記点P、前記点P及び前記点Hで形成される三角形の面積Sが800mm以上であり、
前記点H、前記点H及び前記点Hで形成される三角形の面積Sが1000mm以上であり、
かつS>Sを満たす、請求項3に記載の歯ブラシ。
【請求項5】
直線k方向における前記点Pと前記点Pの距離Xに対する、前記点Hと前記直線kとの距離Yの比が0.20以上0.28以下である、請求項4に記載の歯ブラシ。
【請求項6】
側面視で、前記点Hから前記直線kに対して下ろした垂線と前記ハンドル体の背面との接点を点Pとしたとき、
前記点Pと前記点Pとの距離Yが5.0mm以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載の歯ブラシ。
【請求項7】
距離Yが44mm以上である、請求項5に記載の歯ブラシ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯ブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
適切な口腔清掃が良好な口腔環境の維持に繋がることは周知である。高齢社会において、良好な口腔環境の維持は口腔機能レベルを向上させ、高齢者の誤嚥性肺炎のリスクも低下すると考えられている。一般的に、奥歯は最も清掃が不十分になりやすく、その主たる原因は奥歯まで用毛が届きにくいことである。
【0003】
特許文献1には、厚さ3mm程度の薄型ヘッドによって口腔内の奥歯等の狭い部位の磨きやすさを高めた歯ブラシが開示されている。しかし、ヘッド部の薄型化は、植毛時にワレや白化といったリスクが高まるため限界がある。また、歯磨きの際には歯ブラシのヘッド部だけでなくネック部も口腔内に入るため、ヘッド部の薄型化だけでは奥歯の磨きやすさは不十分である。
【0004】
特許文献2には、ネック部を細くした歯ブラシが開示されている。特許文献3には、ヘッド部の先端を傾斜させて奥歯を磨きやすくした歯ブラシが開示されている。特許文献4には、ハンドル部に傾斜を持たせて操作性を向上させた歯ブラシが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-118169号公報
【特許文献2】特開2020-74983号公報
【特許文献3】特開2011-30950号公報
【特許文献4】国際公開第2017/155039号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献2の歯ブラシは、ヘッド部からハンドル部までが直線状であるため、奥歯を磨く際にネック部が口唇に接触しやすく使用者が不快に感じやすい。これは高齢者など口を大きく開きにくい使用者で顕著であり、歯磨きに対する不快感が増して抵抗意識が高まる要因となる。また、特許文献3、4のような歯ブラシでも、奥歯を磨く際にはネック部が口唇に接触することを十分に抑制できず、使用者が不快に感じることがある。
【0007】
本発明は、使用時に口唇に接触しにくく、操作性に優れ、奥歯を磨きやすい歯ブラシを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]植毛面を有するヘッド部と、前記ヘッド部の後端側に設けられたハンドル部と、前記ヘッド部と前記ハンドル部を接続するネック部と、を備えるハンドル体を備え、
前記植毛面に形成された植毛穴に毛束が植設された歯ブラシであって、
側面視で、正面側の前記ネック部と前記ハンドル部の境界点を点Hとし、前記ヘッド部の背面を通る直線kと、前記点Hから前記直線kに対して下ろした垂線との交点を点Pとしたとき、
直線k方向における前記ヘッド部の先端と前記点Pとの距離Xに対する、前記点Hと前記点Pとの距離Yの比が0.25以上である、歯ブラシ。
[2]側面視で、正面側の前記ヘッド部と前記ネック部の境界点を点Qとし、
直線k方向において、前記点Qと前記点Hとの距離を基準として、前記ネック部の前記ヘッド部側の60%の領域を領域R、前記ハンドル部側の40%の領域を領域Rとし、
正面側の前記領域Rと前記領域Rとの境界点を点Qとしたとき、
前記点Qと前記直線kとの距離aに対する、前記点Qと前記直線kとの距離bの比が1.8以下であり、
直線k方向における前記点Qと前記点Hの距離cに対する前記距離Yの比が1.1以上である、[1]に記載の歯ブラシ。
[3]前記距離Yが22mm以上であり、
前記ハンドル体の直線k方向の後端を点Hとしたとき、
側面視で、直線k方向における前記点Hと前記点Hの距離Xに対する、直線k方向に垂直な方向における前記点Hと前記点Hの距離Yの比が0.15以上0.23以下である、[1]又は[2]に記載の歯ブラシ。
[4]側面視で、前記直線k上の前記ヘッド部の先端の位置を点Pとし、前記直線kと、前記点Hから前記直線kに対して下ろした垂線との交点を点Pとし、前記点Pと前記点Hとを結ぶ直線上の前記点Pから前記距離Y離れた位置を点Hとしたとき、
前記点P、前記点P及び前記点Hで形成される三角形の面積Sが800mm以上であり、
前記点H、前記点H及び前記点Hで形成される三角形の面積Sが1000mm以上であり、
かつS>Sを満たす、[3]に記載の歯ブラシ。
[5]直線k方向における前記点Pと前記点Pの距離Xに対する、前記点Hと前記直線kとの距離Yの比が0.20以上0.28以下である、[4]に記載の歯ブラシ。
[6]側面視で、前記点Hから前記直線kに対して下ろした垂線と前記ハンドル体の背面との接点を点Pとしたとき、
前記点Pと前記点Pとの距離Yが5.0mm以上である、[1]~[5]のいずれかに記載の歯ブラシ。
[7]距離Yが44mm以上である、[5]に記載の歯ブラシ。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、使用時に口唇に接触しにくく、操作性に優れ、奥歯を磨きやすい歯ブラシを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態の歯ブラシの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の歯ブラシの実施形態の一例について図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態は、本発明の一態様を示すものであり、この発明を限定するものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。また、以下の図面においては、各構成をわかりやすくするために、実際の構造と各構造における縮尺や数等を異ならせている。
【0012】
図1に示すように、実施形態の歯ブラシ1は、ハンドル体2を備える。ハンドル体2は、植毛面3aを有するヘッド部3と、ヘッド部3の後端側に設けられたハンドル部4と、ヘッド部3とハンドル部4を接続するネック部5と、を備えている。歯ブラシ1は、ヘッド部3の植毛面3aに形成された植毛穴に毛束が植設されて植毛部が形成されることで、歯のブラッシングが可能になっている。歯ブラシ1は、高齢者などの介助用の歯ブラシとして介助者が被介助者の歯を磨く際に特に有用である。
【0013】
以下の説明では、後述するヘッド部3の植毛面3aが設けられた側(植毛面側)を歯ブラシ1の正面側とし、ヘッド部3の植毛面3aが臨む側とは逆側を歯ブラシ1の背面側とする。加えて、ハンドル体2が延びる方向を長軸方向とし、植毛面3aと平行、かつ、長軸方向に直交する方向を歯ブラシ1の幅方向とし、植毛面3aに直交する方向を歯ブラシ1の厚さ方向とする。また、ヘッド部3が設けられる側(ヘッド部側)を先端側とし、ハンドル部4が設けられる側(ハンドル部側)を後端側とする。
【0014】
ヘッド部3とネック部5との境界は、ヘッド部3の正面視形状における、ネック部5側の隅切の幅の減少の終点、すなわち、前記隅切を形成する一対の外縁の幅の変化が減少から一定もしくは拡大に転じる位置である。なお、ヘッド部3とネック部5との境界が正面視形状からは不明確な場合は、長軸方向において、ハンドル体2の全長に対してハンドル部4の先端から16%の位置をヘッド部3とネック部5との境界とする。
【0015】
ネック部5とハンドル部4の境界は、正面視で、ネック部5からハンドル部4にかけて、ネック部5の外縁を形成する曲線に沿う円の中心がハンドル体2の外側から内側に変化する変曲点(ネック部5の外縁を形成する内側に凸の曲線が外側に凸の曲線に変化する変曲点)を、ネック部5とハンドル部4の境界とする。なお、ネック部5とハンドル部4との境界が正面視形状からは不明確な場合は、長軸方向において、ハンドル体2の全長に対してハンドル部4の先端から41%の位置をネック部5とハンドル部4との境界とする。
【0016】
ハンドル体2を構成する樹脂としては、硬質樹脂のみを用いてもよく、軟質樹脂のみを用いてもよく、硬質樹脂と軟質樹脂の両方を用いてもよい。ブラッシング時の撓み量が抑制される点では、ハンドル体2を構成する樹脂として硬質樹脂のみを用いることが好ましい。ハンドル体2を構成する樹脂は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0017】
硬質樹脂としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリアセタール(POM)、ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート(PCT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(ABS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を例示できる。また、生分解性樹脂、植物由来樹脂、紙配合樹脂、植物配合樹脂等を用いてもよい。なかでも、成形性に優れ、コスト面で有利な点では、PPが好ましい。透明性が高く、ブラッシング時に食物残渣の視認性が優れ、外観が良好な点では、PCT、PCが好ましい。
軟質樹脂としては、例えば、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマーを例示できる。
【0018】
歯ブラシ1の側面視において、以下の点及び領域を定義する。
正面側のネック部5とハンドル部4の境界点を点Hとする。ヘッド部3の背面3bを通る直線kと、点Hから直線kに対して下ろした垂線との交点を点Pとする。正面側のヘッド部3とネック部5の境界点を点Qとする。直線k方向において、点Qと点Hとの距離を基準として、ネック部5のヘッド部3側の60%の領域を領域R、ハンドル部4側の40%の領域を領域Rとする。正面側の領域Rと領域Rとの境界点を点Qとする。ハンドル体2の直線k方向の後端を点Hとする。直線k上のヘッド部3の先端の位置を点Pとする。直線kと、点Hから直線kに対して下ろした垂線との交点を点Pとする。点Pと点Hとを結ぶ直線上の点Pから距離Y離れた位置を点Hとする。ただし、前記距離Yは、歯ブラシ1の側面視での点Hと点Pとの距離である。点Hから直線kに対して下ろした垂線とハンドル体2の背面2aとの接点を点Pとする。直線kとネック部5の背面5aにおける直線kと接する最も後端側の位置を点Pとする。点Hと点Hとを結ぶ線分qの中点を点Hとする。
【0019】
ヘッド部3の形状は、特に限定されず、例えば、正面視略矩形状を例示できる。
ヘッド部3の長さは、29.0mm以上36.0mm以下が好ましく、27.0mm以上31.0mm以下がより好ましい。ヘッド部3の長さが前記範囲の下限値以上であれば、ヘッド部3が小さくなりすぎず、効率良く奥歯を磨くことが可能となる。ヘッド部3の長さが前記範囲の上限値以下であれば、大きいヘッド部3でも口腔接触による不快感を抑えつつ、効率良く奥歯を磨くことが可能となる。
【0020】
ヘッド部3の最大幅は、11.0mm以上15.0mm以下が好ましく、10.0mm以上13.0mm以下がより好ましい。ヘッド部3の最大幅が前記範囲の下限値以上であれば、ヘッド部3が小さくなりすぎず、効率良く奥歯を磨くことが可能となる。ヘッド部3の最大幅が前記範囲の上限値以下であれば、大きいヘッド部3でも口腔接触による不快感を抑えつつ、効率良く奥歯を磨くことが可能となる。
【0021】
ヘッド部3の最大厚さは、2.0mm以上4.0mm以下が好ましく、2.5mm以上3.5mm以下がより好ましい。ヘッド部3の最大厚さが前記範囲の下限値以上であれば、ヘッド部3の強度の担保と良好な口腔内操作性を両立しやすい。ヘッド部3の最大厚さが前記範囲の上限値以下であれば、厚いヘッド部3でも口腔接触による不快感を抑えつつ、効率よく奥歯を磨くことが可能となる。
【0022】
歯ブラシ1の側面視で、直線k方向におけるヘッド部3の先端と点Pとの距離Xに対する、点Hと点Pとの距離Yの比(Y/X)は、0.25以上であり、0.27以上0.35以下が好ましい。Y/Xが前記範囲の下限値以上であれば、歯ブラシ1で奥歯を磨く際にハンドル体2が口唇に接触しにくく、使用者の不快感を低減できる。特に高齢者などの介助において被介助者の不快感が低下し、歯磨きへの抵抗意識が低くなるため、良好な口腔環境を維持しやすくなる。また、ハンドル体2の点Hの部分が歯磨きの際にストッパーの役割も果たし、歯ブラシ1をどこまで口腔内に挿入してよいか介助者が感覚的に分かりやすくなる。さらに、介助者が指を不用意に被介助者の口元に近づけることが抑制されるため、指を噛まれることに対する不安感も低減される。Y/Xが前記範囲の上限値以下であれば、奥歯を磨く際にネック部5が奥歯の歯列に沿う形状となり、奥歯への挿入性及び奥歯の磨きやすさが向上する。
【0023】
距離Xは、70mm以上90mm以下が好ましい。距離Xが前記範囲の下限値以上であれば、奥歯への到達性を確保できる。距離Xが前記範囲の上限値以下であれば、ヘッド部3と握っている箇所の距離を適度に確保できるため、介助者が被介助者の奥歯を磨く際に、磨いている箇所に適切に力を加えることができ、奥歯の磨きやすさが向上する。
【0024】
距離Yは、22mm以上が好ましく、22mm以上30mm以下がより好ましい。距離Yが前記範囲の下限値以上であれば、奥歯を磨く際にハンドル体2が口唇に接触しにくく、使用者の不快感を低減できる。距離Yが前記範囲の上限値以下であれば、奥歯を磨く際にネック部5が奥歯の歯列に沿う形状となり、奥歯への挿入性及び奥歯の磨きやすさが向上する。
【0025】
点Qと直線kとの距離aに対する、点Qと直線kとの距離bの比(b/a)は、1.8以下が好ましく、1.0以上1.7以下がより好ましい。b/aが前記範囲の下限値以上であれば、ネック部5がハンドル部4側に伸びるにつれて厚みが増すため、ネック部5の強度を確保できる。b/aが前記範囲の上限値以下であれば、ネック部5の背面の口腔への接触を抑制しつつ、ヘッド部3の奥歯への到達性を確保できる。
【0026】
距離aは、2.5mm以上3.5mm以下が好ましい。距離aが前記範囲の下限値以上であれば、ネック部5の強度を確保できる。距離aが前記範囲の上限値以下であれば、ネック部5の背面の口腔への接触を抑制しつつ奥歯への到達性を確保できる。
【0027】
距離bは、2.5mm以上5.0mm以下が好ましい。距離bが前記範囲の下限値以上であれば、ヘッド部3の奥歯への到達性が向上する。距離bが前記範囲の上限値以下であれば、ネック部5の背面の口腔への接触を抑制しつつ、ヘッド部3の奥歯への到達性を確保できる。
【0028】
歯ブラシ1の側面視で、直線k方向における点Qと点Hの距離cに対する距離Yの比(Y/c)は、1.1以上が好ましく、1.1以上1.4以下がより好ましい。Y/cが前記範囲の下限値以上であれば、ネック部5の領域Rのアングル形状が、歯列へのガイド機能、及び口腔内への入れすぎを予防するストッパー機能を果たすため、高齢者などの他者の歯磨きをする際の不安感が低減される。Y/cが前記範囲の上限値以下であれば、奥歯を磨く際にネック部5が奥歯の歯列に沿う形状となり、奥歯の磨きやすさが向上する。
【0029】
距離cは、18mm以上22mm以下が好ましい。距離cが前記範囲の下限値以上であれば、ネック部5がストッパーの役割を果たす際に被介助者の手が不必要に介助者の口腔に接近することを抑制できる。距離cが前記範囲の上限値以下であれば、奥歯を磨く際にネック部5が奥歯の歯列に沿う形状となり、また、ヘッド部3と握っている箇所の距離を適度に確保できるため、介助者が被介助者の奥歯を磨く際に、磨いている箇所に適切に力を加えることができ、奥歯の磨きやすさが向上する。
【0030】
直線k方向における点Qと点Qの距離dは、27mm以上33mm以下が好ましい。距離dが前記範囲の下限値以上であれば、ヘッド部3の奥歯への到達性が確保できる。距離dが前記範囲の上限値以下であれば、ヘッド部3と握っている箇所の距離を適度に確保できるため、介助者が被介助者の奥歯を磨く際に、磨いている箇所に適切に力を加えることができ、奥歯の磨きやすさが向上する。
ネック部5の長さ、すなわち距離cと距離dの合計は、45mm以上55mm以下が好ましい。
【0031】
歯ブラシ1の正面視で、ネック部5の最小幅である点Qの幅は、3.0mm以上5.0mm以下が好ましく、3.5mm以上4.5mm以下がより好ましい。また、点Qの幅は5.0mm以上7.0mm以下が好ましく、5.5mm以上6.5mm以下がより好ましい。さらに、点Hの幅は10.0mm以上14.0mm以下が好ましく、11.0mm以上13.0mm以下がより好ましい。
【0032】
歯ブラシ1の側面視で、直線k方向における点Hと点Hの距離Xに対する、直線k方向に垂直な方向における点Hと点Hの距離Yの比(Y/X)は、0.15以上0.23以下が好ましく、0.17以上0.21以下がより好ましい。Y/Xが前記範囲内であれば、介助者が被介助者の歯を磨く際に磨く部位によって手首の角度を変える必要がなく、手首の角度もきつくならないため、口腔内での歯ブラシ1の動かしやすさが向上する。
【0033】
距離Xは、90mm以上130mm以下が好ましい。距離Xが前記範囲の下限値以上であれば、ハンドル部4の持ちやすさを確保できる。距離Xが前記範囲の上限値以下であれば、ハンドル部4の持ちやすさ、および取り回しのしやすさが向上する。
【0034】
距離Yは、15mm以上25mm以下が好ましい。距離Yが前記範囲の下限値以上であれば、介助者が被介助者の歯を磨く際に、磨く部位によって手首の角度を変える必要がなくなり、口腔内での歯ブラシ1の動かしやすさが向上する。距離Yが前記範囲の上限値以下であれば、介助者が被介助者の歯を磨く際に手首の角度がきつくならないため、口腔内での歯ブラシ1の動かしやすさが向上する。
【0035】
歯ブラシ1では、側面視で、点P、点P及び点Hで形成される三角形の面積Sが800mm以上であり、点H、点H及び点Hで形成される三角形の面積Sが1000mm以上であり、かつS>Sを満たすことが好ましい。これにより、ハンドル体2のネック部5の部分の形状が奥歯を磨く際に奥歯の歯列に沿うような形状となるため、歯ブラシ1のハンドル体2をどこまで口腔内に入れてよいか判断しやすくなり、使用者が他者の奥歯を磨く際の不安感が低減され、またネック部5の口唇への接触が低減される。
【0036】
面積Sは、800mm以上が好ましく、850mm以上1200mm以下がより好ましい。面積Sが前記範囲の下限値以上であれば、奥歯を磨く際にハンドル体2が口唇に接触しにくく、使用者の不快感を低減できる。面積Sが前記範囲の上限値以下であれば、奥歯を磨く際にネック部5が奥歯の歯列に沿う形状となり、奥歯への挿入性及び奥歯の磨きやすさが向上する。
【0037】
面積Sは、1000mm以上が好ましく、1100mm以上1500mm以下が好ましい。面積Sが前記範囲の下限値以上であれば、介助者が被介助者の歯を磨く際に、磨く部位によって手首の角度を変える必要がなくなり、口腔内での歯ブラシの動かしやすさが向上する。面積Sが前記範囲の上限値以下であれば、介助者が被介助者の歯を磨く際に手首の角度がきつくならないため、口腔内での歯ブラシの動かしやすさが向上する。
【0038】
歯ブラシ1の側面視で、直線k方向における点Pと点Pの距離Xに対する、点Hと直線kとの距離Yの比(Y/X)は、0.20以上0.28以下が好ましく、0.22以上0.26以下がより好ましい。Y/Xが前記範囲内であれば、ハンドル体2のネック部5の部分の形状が歯列に沿うような形状となるため、歯ブラシ1のハンドル体2をどこまで口腔内に入れてよいか判断しやすくなり、使用者が他者の奥歯を磨く際の不安感が低減され、またネック部5の口唇への接触が低減される。
【0039】
距離Xは、180mm以上200mm以下が好ましい。距離Xが前記範囲の下限値以上であれば、被介助者が介助者の歯を磨く際に、適切なネック部5の長さが確保できることで奥歯の到達性が向上する。また適切なハンドル部4の長さが確保できることで、ハンドル部4の持ちやすさ及び取り回しのしやすさが向上する。距離Xが前記範囲の上限値以下であれば、ヘッド部3と握っている箇所の距離を適度に確保できるため、介助者が被介助者の奥歯を磨く際に、磨いている箇所に適切に力を加えることができ、奥歯の磨きやすさが向上する。また適切なハンドル部4の長さが確保できることで、ハンドル部4の持ちやすさ及び取り回しのしやすさが向上する。
【0040】
距離Yは、40mm以上が好ましく、44mm以上55mm以下がより好ましい。Yが前記範囲の下限値以上であれば、介助者が被介助者の奥歯を磨く際に手首を大きく反らせる必要が無くなり、使用者の負担が軽減される。距離Yが前記範囲の上限値以下であれば、介助者が被介助者の奥歯を磨く際にネック部5が奥歯の歯列に沿う形状となる。また手首の角度がきつくならないため、口腔内での歯ブラシ1の動かしやすさが向上する。さらに介助者が被介助者を磨く際の視界を遮ることがなくなり、奥歯の磨きやすさが向上する。
【0041】
歯ブラシ1の側面視で、点Pと点Pとの距離Yは、5.0mm以上が好ましく、6.0~15.0mmがより好ましい。距離Yが前記範囲の下限値以上であれば、ネック部5とハンドル部4の境界部分の背面側に十分な空間が形成されるようにネック部5が正面側に大きく曲がった形状となるため、ハンドル部4を把持した手がヘッド部3側に滑ったとしてもネック部5の部分で止まりやすい。そのため、介助時において使用者の指が被介助者の口腔内に誤って入るリスクが低減される。また、歯を磨く際にハンドル体2が口唇に接触しにくく、使用者の不快感を低減できる。距離Yが前記範囲の上限値以下であれば、奥歯を磨く際にネック部が奥歯の歯列に沿う形状となり、奥歯への挿入性及び奥歯の磨きやすさが向上する。
【0042】
歯ブラシ1の側面視で、直線kと、点Pと点Pを通る直線mとがなす角度θは、25度以上40度以下が好ましい。前記角度θが前記範囲の下限値以上であれば、ネック部5とハンドル部4の境界部分の背面側に十分な空間が形成されるようにネック部5が正面側に大きく曲がった形状となるため、ハンドル部4を把持した手がヘッド部3側に滑ったとしてもネック部5の部分で止まりやすい。そのため、介助時において使用者の指が被介助者の口腔内に誤って入るリスクが低減される。また、歯を磨く際にハンドル体2が口唇に接触しにくく、使用者の不快感を低減できる。前記角度θが前記範囲の上限値以下であれば、奥歯を磨く際にネック部5が奥歯の歯列に沿う形状となり、奥歯への挿入性及び奥歯の磨きやすさが向上する。
【0043】
通常、使用時にはハンドル部4における、歯ブラシ1の側面視で点Hと点Hを結んだ線分qの全長に対して、線分qの中点(点H)から前後にそれぞれ15%の領域が把持される。そのため、ハンドル体2における点Hの位置を制御することで、歯ブラシ1の操作性がさらに向上する。
歯ブラシ1の側面視で、直線k方向における点Hと点Hとの距離Xに対する、直線kに垂直な方向おける点Hと点Pとの距離Yの比(Y/X)は、0.10以上0.18以下が好ましく、0.12以上0.16以下がより好ましい。Y/Xが前記範囲の下限値以上であれば、介助者が被介助者の歯を磨く際に、磨く部位によって手首の角度を変える必要がなくなり、口腔内での歯ブラシ1の動かしやすさが向上する。Y/Xが前記範囲の上限値以下であれば、介助者が被介助者の歯を磨く際に手首の角度がきつくならないため、口腔内での歯ブラシ1の動かしやすさが向上する。
【0044】
距離Xは、45.0mm以上65.0mm以下が好ましい。距離Xが前記範囲の下限値以上であれば、ハンドル部4の持ちやすさを確保できる。距離Xが前記範囲の上限値以下であれば、ハンドル部4の持ちやすさ、および取り回しのしやすさが向上する。
【0045】
距離Yは、7.0mm以上12.0mm以下が好ましく、5.0mm以上10.0mm以下がより好ましい。距離Yが前記範囲の下限値以上であれば、介助者が被介助者の歯を磨く際に、磨く部位によって手首の角度を変える必要がなくなり、口腔内での歯ブラシ1の動かしやすさが向上する。距離Yが前記範囲の上限値以下であれば、介助者が被介助者の歯を磨く際に手首の角度がきつくならないため、口腔内での歯ブラシ1の動かしやすさが向上する。
【0046】
ヘッド部3の植毛面3aに形成された植毛穴に毛束を植設する態様は、特に限定されず、例えば、複数本の用毛(フィラメント)を束ねて二つ折りにし、その間に平線と呼ばれる金属製の抜止め具(図示せず)を挟んで植毛穴に打ち込む態様を例示できる。
植毛穴の数は、特に限定されず、例えば、20個以上40個以下とすることができる。植毛穴10の配置パターンは、本実施形態のパターンには限定されず、適宜設計できる。
植毛穴10の直径は、1.0mm以上1.5mm以下が好ましい。
【0047】
毛束を構成する用毛としては、特に限定されず、例えば、ストレート毛、毛先に向かって漸次その径が小さくなる用毛(テーパー毛)、先端分岐毛を例示できる。なかでも、食物残渣を取り除きやすくなる点では、ストレート毛が好ましい。
用毛の材質としては、特に限定されず、例えば、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリオレフィン(ポリプロピレン等)、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマーを例示できる。
【0048】
用毛の植毛面を基準とした毛丈は、6.0mm以上10.0mm以下が好ましく、7.0mm以上9.0mm以下がより好ましい。毛丈が前記範囲の下限値以上であれば、毛の当たり心地がやさしくなり、被介助者が感じる不快感を低減できる。毛丈が前記範囲の上限値以下であれば、適度な毛のたわみを確保でき、食物残渣をしっかりと取り除くことができる。
用毛径は、3.0mil以上7.0mil以下が好ましく、3.5mil以上6.0mil以下がより好ましい。
【0049】
歯ブラシ1の製造方法は、特に限定されない。例えば、ハンドル体2の成形方法としては、射出成形、ブロー成形を例示でき、射出成形が好ましい。射出成形のランナーとしては、コールドランナーでもよく、ホットランナーでもよく、ホットランナーが好ましい。
射出成形のゲートは、特に限定されず、例えばダイレクトゲートを例示できる。
【0050】
以上説明したように、本発明の歯ブラシでは、Y/Xが適切な範囲に制御され、ハンドル体におけるネック部が大きく正面側に曲がっているため、使用時にハンドル体が口唇に接触しにくく、不快感を低減できる。また、歯ブラシの口腔内での操作性に優れるため、高齢者などの被介助者の歯磨きをする場合でも安定して歯ブラシを操作でき、奥歯も容易に磨くことができる。
なお、本発明の歯ブラシは、前記した歯ブラシ1には限定されない。
【実施例0051】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
【0052】
[実施例1~9]
図1に示した歯ブラシと同様の形態で、表1に示す仕様に従って実施例1~9の歯ブラシを作製した。ハンドル体を構成する樹脂としてはポリプロピレンを用いた。ヘッド部の植毛面には30個の植毛穴(直径1.5mm)を格子配列のパターンで形成し、46本/穴のナイロンからなるストレート毛(毛丈:8.0mm、用毛径:5.0mil)を束ねた毛束を平線式植毛によって植設した。
【0053】
[比較例1~4]
表1に示す仕様に変更した以外は、実施例1~9と同様の歯ブラシを作製した。
【0054】
[評価方法]
各例の歯ブラシについて、以下の評価を行った。
(1)口唇接触の不快感
介助者が各例の歯ブラシで10人の被介助者(モニター)の口腔内(特に奥歯)を清掃し、歯ブラシの口唇への接触による不快感を以下の基準で評価した。10人のモニターの平均点が、4.5点以上を「A」、4.0点以上4.5点未満を「B」、3.0点以上4.0点未満を「C」、2.0以上3.0点未満を「D」、2.0点未満を「E」とした。
(評価基準)
5点:「口唇接触の不快感」を全く感じない。
4点:「口唇接触の不快感」をあまり感じない。
3点:「口唇接触の不快感」を感じるか否かについて、どちらともいえない。
2点:「口唇接触の不快感」をやや感じる。
1点:「口唇接触の不快感」を非常に感じる。
【0055】
(2)口腔内での歯ブラシの動かしやすさ
10人の介助者(モニター)が各例の歯ブラシで被介助者の口腔内を清掃し、そのときの口腔内での歯ブラシの動かしやすさを以下の基準で評価した。10人のモニターの平均点が、4.5点以上を「A」、4.0点以上4.5点未満を「B」、3.0点以上4.0点未満を「C」、2.0以上3.0点未満を「D」、2.0点未満を「E」とした。
(評価基準)
5点:口腔内で歯ブラシを非常に動かしやすい。
4点:口腔内で歯ブラシをかなり動かしやすい。
3点:「口腔内での動かしやすさ」について、どちらともいえない。
2点:口腔内で歯ブラシをやや動かしにくい。
1点:口腔内で歯ブラシをとても動かしにくい。
【0056】
(3)奥歯の磨きやすさ
10人の介助者(モニター)が各例の歯ブラシで被介助者の口腔内を清掃し、そのときの奥歯の磨きやすさを以下の基準で評価した。10人のモニターの平均点が、4.5点以上を「A」、4.0点以上4.5点未満を「B」、3.0点以上4.0点未満を「C」、2.0以上3.0点未満を「D」、2.0点未満を「E」とした。
(評価基準)
5点:奥歯が非常に磨きやすい。
4点:奥歯がかなり磨きやすい。
3点:「奥歯の磨きやすさ」について、どちらともいえない。
2点:奥歯がやや磨きにくい。
1点:奥歯がとても磨きにくい。
【0057】
各例の歯ブラシの仕様及び評価結果を表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
表1に示すように、Y/Xが0.25以上である実施例1~9の歯ブラシでは、口唇接触の不快感、口腔内での歯ブラシの動かしやすさ、奥歯の磨きやすさの評価がいずれも良好な結果となった。
一方、Y/Xが0.25未満である比較例1~4の歯ブラシでは、口唇接触の不快感、口腔内での歯ブラシの動かしやすさ、奥歯の磨きやすさがいずれも不十分であった。
【符号の説明】
【0060】
1…歯ブラシ、2…ハンドル体、3…ヘッド部、3a…植毛面、3b…背面、4…ハンドル部、5…ネック部。
図1