(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022100960
(43)【公開日】2022-07-06
(54)【発明の名称】アルミニウム合金圧延材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 27/20 20060101AFI20220629BHJP
C22C 1/02 20060101ALI20220629BHJP
C22C 21/02 20060101ALI20220629BHJP
B22D 21/04 20060101ALI20220629BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20220629BHJP
C22F 1/043 20060101ALN20220629BHJP
B21B 3/00 20060101ALN20220629BHJP
【FI】
B22D27/20 B
C22C1/02 503J
C22C21/02
B22D21/04 A
C22F1/00 604
C22F1/00 623
C22F1/00 630A
C22F1/00 630J
C22F1/00 630K
C22F1/00 650E
C22F1/00 650F
C22F1/00 661Z
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
C22F1/043
B21B3/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020215267
(22)【出願日】2020-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】521407924
【氏名又は名称】堺アルミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 久義
(74)【代理人】
【識別番号】100099885
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 健市
(72)【発明者】
【氏名】山ノ井 智明
(72)【発明者】
【氏名】久幸 晃二
(72)【発明者】
【氏名】吉田 勝起
(72)【発明者】
【氏名】角 和繁
(57)【要約】
【課題】低い熱膨張係数と高い熱伝導率を有するアルミニウム合金圧延材を製造する。
【解決手段】アルミニウム合金の化学組成が、Si:16~24質量%、Fe:2~6質量%、Cu:0.01~0.2質量%、Mn:0.01~0.2質量%、Mg:0.01~0.2質量%、Zn:0.002~0.1質量%、Ti:0.01~0.2質量%、Ni:0.8~2.8質量%、Ga:0.01~0.5質量%、Cr:0.001~0.1質量%、V:0.001~0.03質量%、B:0.0002~0.01質量%、Zr:0.0002~0.02質量%、P:0.005~0.06質量%を含有し、Naが0.003質量%以下、Caが0.003質量%以下、Srが0.003質量%以下、Inが0.004質量%以下に規制され、残部がAlと不可避不純物からなり、材料の溶解工程において、溶湯に、PをFe、Ni、B、Alのうちの1種以上を含む合金または化合物からなる微細化剤として添加して微細化処理を行う。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料を溶解してアルミニウム合金鋳塊を鋳造し、この鋳塊を圧延するアルミニウム合金圧延材の製造方法において、
前記アルミニウム合金の化学組成が、Si:16~24質量%、Fe:2~6質量%、Cu:0.01~0.2質量%、Mn:0.01~0.2質量%、Mg:0.01~0.2質量%、Zn:0.002~0.1質量%、Ti:0.01~0.2質量%、Ni:0.8~2.8質量%、Ga:0.01~0.5質量%、Cr:0.001~0.1質量%、V:0.001~0.03質量%、B:0.0002~0.01質量%、Zr:0.0002~0.02質量%、P:0.005~0.06質量%を含有し、Naが0.003質量%以下、Caが0.003質量%以下、Srが0.003質量%以下、Inが0.004質量%以下に規制され、残部がAlと不可避不純物からなり、
材料の溶解工程において、溶湯に、PをFe、Ni、B、Alのうちの1種以上を含む合金または化合物からなる微細化剤として添加して微細化処理を行うことを特徴とするアルミニウム合金圧延材の製造方法。
【請求項2】
前記アルミニウム合金の化学組成において、さらにPb:0.01~0.6質量%、Bi:0.01~0.6質量%、Sn:0.01~0.6質量%のうちの1種以上を含有し、
材料の溶解工程において、溶湯に、PをFe、Ni、B、Al、Snのうちの1種以上を含む合金または化合物からなる微細化剤として添加して微細化処理を行う請求項1に記載のアルミニウム合金圧延材の製造方法。
【請求項3】
前記微細化剤がFeとPからなる合金または化合物である請求項1または2に記載のアルミニウム合金圧延材の製造方法。
【請求項4】
前記微細化剤がNiとPからなる合金または化合物である請求項1または2に記載のアルミニウム合金圧延材の製造方法。
【請求項5】
前記微細化剤が、Ni、B、Pからなる合金または化合物、またはAl、B、Pからなる合金または化合物である請求項1または2に記載のアルミニウム合金圧延材の製造方法。
【請求項6】
前記微細化剤が、SnとPからなる合金または化合物、またはNi、Sn、Pからなる合金または化合物である請求項2に記載のアルミニウム合金圧延材の製造方法。
【請求項7】
前記微細化剤の溶湯への添加を溶湯温度860℃~990℃の温度で行い、前記微細化剤の添加から鋳造開始までの時間を40分~180分とし、鋳造開始から鋳造終了までの溶湯の温度を800℃以下とする請求項1~6のいずれか1項に記載のアルミニウム合金圧延材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回路基板やパワーモジュール等の発熱体を搭載する金属ベース基板に好適に用いられるアルミニウム合金圧延材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の電装化や各種電源回路の高能率化ニーズを受けた電子部品・電子回路の飛躍的発達に伴い、半導体素子、特に電力用半導体(パワーデバイス)や、各種照明器具、自動車のヘッドランプやリアランプ等の光源となる発光ダイオード(LED)を搭載する回路にメタルベースプリント基板が多用されるようになってきた。
【0003】
このような用途に用いられるメタルベースプリント基板は金属の上に絶縁層を重ね、さらにその上に回路を構成する導体である銅箔を貼り合わせるのが、標準的な構成となっている。
【0004】
特に近年、LED素子を搭載した照明用途のアルミニウムベースプリント基板は、LEDの発光による発熱を拡散させることで長寿命化を図ることができるため需要が高まっている。また、アルミニウムベースプリント基板は、照明用LED搭載基板以外でも電力用半導体素子の性能の安定化、基板温度低減によるその他の電子部品の熱によるダメージからの保護等のメリットが得られることが知られている。
【0005】
このベースとなる金属には銅またはアルミニウムが使われている。このうち軽量化を目的としてアルミ合金の検討が進んでいるが、アルミニウムベースとした場合、絶縁層を挟んで回路を構成する銅箔との熱膨張係数の差によって発生する基板の反りや冷熱サイクルによって発生する回路銅箔の断線や銅箔と素子を接合するハンダ部におけるクラック発生等が生じやすいという課題がある。特に近年の電子部品の高密度実装に伴う回路の精細化や高発熱部品の増加による極端な冷熱サイクル部位の存在により、上記課題の解決がより重要となってきている。
【0006】
このような用途に対し、JIS1100、1050、1070等の純アルミニウム合金は熱伝導性に優れるが、銅との熱膨張係数の差が大きく、かつ強度が低いことによる反りの発生の課題がある。一方、高強度材として知られるJIS5052等のAl-Mg系合金(5000系合金)は、強度は高いが回路を構成する銅箔との熱膨張係数の差が大きいため、前述するハンダ部のクラック発生の可能性の面で不利である。また、熱伝導率が純アルミニウムより低いため放熱特性に劣る。また、Al-Si系合金(4000系合金)を用いて銅箔との熱膨張係数の差を小さくする試みも検討されているが、熱膨張係数、熱伝導率の面では改善が見つめられるものの、まだ十分に満足させるものではなく、またプリント配線基板製造時のドリル加工性についても必ずしも満足させるレベルに至っていないのが現状である。
【0007】
このAl-Si系合金において、特にSi含有量が約13%を超える合金では、凝固時に初晶としてSi結晶が晶出する(以下、初晶Siと表記する)。この初晶Siのサイズは鋳造時の冷却速度の影響を受けることが知られており、およそ10℃/sec以下では粗大な角状結晶となる。この粗大な初晶Siは機械的性質や上記のドリル加工性に代表される被削性を著しく劣化させる。
【0008】
この課題に対し、初晶Siを微細化する方法としてPフラックスあるいはCu-Pの添加やPとCaの共存添加等の技術が開示されている。
【0009】
例えば、特許文献1には、Siを16~25%、Cuを1.5~5.0%、Mgを0.4~1.0%、Mnを0.5%以下、Feを0.8%以下、Niを0.5~1.5%、Crを0.5~1.5%含有し、残部がAlからなる溶湯を、高温にてリンまたはリン化合物で微細化処理した後ダイカスト鋳造すること、微細化処理温度が液相線より約70~120℃高い温度とすることを特徴とする耐摩耗性軽量ロッカーアームの製造方法が開示されている。
【0010】
特許文献2には、ロッド状のCu-P合金を製造する方法として、Cu-P合金粉末とAl粉末とを90:10~10:90の比率において機械的に均一混合し、Alフープからなる外皮内に充填し少なくとも300℃の温度で熱処理して焼結一体化することを特徴とする初晶Si微細化材の製造方法が開示されている。
【0011】
特許文献3には、Al-P合金を有効成分とし、更にP含有量が10~50%である過共晶Al-Si合金の初晶Si微細化剤が開示されている。
【0012】
特許文献4には、Siを13~21%、Caを6~120ppmおよびPを40~130ppm含有し、P/Caが重量比で0.6~6の範囲にあることを特徴とする加工性に優れた過共晶Al-Si合金およびその製造方法が開示されている。
【0013】
特許文献5には、Al粉末とP粉末の混合物を、固相反応による合金化によって一体化して形成されることを特徴とする過共晶Al-Si系合金用初晶Si微細化剤、固相反応をボールミルで行うこと、形成されたAl-P粉末を、約700℃~750℃の過共晶Al-Si合金に添加する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開昭60-204843号公報
【特許文献2】特開昭63-243208号公報
【特許文献3】特開平4-354838号公報
【特許文献4】特開平6-158210号公報
【特許文献5】特開平9-78153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、特許文献1ではAl-Si系合金を選択して初晶Si粒子のサイズや分散度について検討しているものの、ダイカスト鋳造を目的とした合金についての検討であるため、CuやMgと言った熱間加工性を阻害する元素の添加量が多く、板材を製造するための圧延加工について考慮されていない。また、ドリル・ルーター加工に対する被削性についても検討されていない。
【0016】
特許文献2は、従来から課題となっていたCu-P合金微細化材の均一分散と歩留向上を目的としてCu-P合金粉末とAl粉末との混合粉末をロッド状にして添加することが検討されているが、そのためロッド製造工程が複雑となり製造コスト面で不利となっている。また、加工性、耐食性の面すらコントロールすべきCuを含む合金をロッドにて添加するため、組成制御面での制約が生じる。
【0017】
特許文献3は、従来から検討されてきたCu-P合金や赤リンを含むフラックス、メタリン酸アルカリの添加に換えてAl-P合金を添加することで初晶Siの微細化を実現しようとしたものであり、Cu含有合金の添加によるAl-Si合金のリサイクル性への制約や不純物としてのNaやCaの混入によるPの微細化効果の阻害要因の排除を狙っているが、P歩留(P添加量に対するP含有量の割合)やアルミニウム溶湯との反応性、溶湯中の均一分散性についての課題は解決されていない。
【0018】
特許文献4は、これまでP添加処理による微細化効果を阻害し、初晶Siの微細化に有害であるとされていたCaを一定のP/CaをパラメータとすることでCa-Pを有効な核として活用しようとしたものであるが、アルミニウム溶湯中に存在する有効な核となるPならびにCa量を事前に把握した上で添加量を管理する必要が生じ、操業面でのコントロールが複雑となる。
【0019】
特許文献5には、特許文献3におけるAl-P合金粉末の作製をボールミル等で行うメカニカルアロイングを活用することが開示されているが、微細化材の作製にコストが掛かるため製造コスト面で不利である。また、P歩留やアルミニウム溶湯との反応性、溶湯中の均一分散性についての課題は解決されていない。
【0020】
上記のように、Al-Si合金を用いてアルミニウム基板の課題となっている銅箔との熱膨張差、放熱性、表面密着性、被削性を備えるアルミニウム合金板を得るために鋳塊の初晶Siを微細化することは従来技術では非常に困難である。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、上述した技術背景に鑑み、低い熱膨張係数と高い熱伝導率を有するアルミニウム合金圧延材を得るための方法を提供することを目的とする。
【0022】
そして、本発明者らは鋭意研究の結果、アルミニウム合金圧延材の組成と製造工程を検討することで、回路を構成する銅箔との熱膨張係数の差によって発生する基板の反りや冷熱サイクルによって発生する回路銅箔の断線、銅箔と素子を接合するハンダ部におけるクラック発生の可能性を低減し、かつドリル・ルーター加工に対する被削性を確保しながら、放熱性に優れたアルミニウム合金圧延材が得られることを見出し、本発明に至った
即ち、本発明は下記[1]~[7]に記載の構成を有する。
【0023】
[1]材料を溶解してアルミニウム合金鋳塊を鋳造し、この鋳塊を圧延するアルミニウム合金圧延材の製造方法において、
前記アルミニウム合金の化学組成が、Si:16~24質量%、Fe:2~6質量%、Cu:0.01~0.2質量%、Mn:0.01~0.2質量%、Mg:0.01~0.2質量%、Zn:0.002~0.1質量%、Ti:0.01~0.2質量%、Ni:0.8~2.8質量%、Ga:0.01~0.5質量%、Cr:0.001~0.1質量%、V:0.001~0.03質量%、B:0.0002~0.01質量%、Zr:0.0002~0.02質量%、P:0.005~0.06質量%を含有し、Naが0.003質量%以下、Caが0.003質量%以下、Srが0.003質量%以下、Inが0.004質量%以下に規制され、残部がAlと不可避不純物からなり、
材料の溶解工程において、溶湯に、PをFe、Ni、B、Alのうちの1種以上を含む合金または化合物からなる微細化剤として添加して微細化処理を行うことを特徴とするアルミニウム合金圧延材の製造方法。
【0024】
[2]前記アルミニウム合金の化学組成において、さらにPb:0.01~0.6質量%、Bi:0.01~0.6質量%、Sn:0.01~0.6質量%のうちの1種以上を含有し、
材料の溶解工程において、溶湯に、PをFe、Ni、B、Al、Snのうちの1種以上を含む合金または化合物からなる微細化剤として添加して微細化処理を行う前項1に記載のアルミニウム合金圧延材の製造方法。
【0025】
[3]前記微細化剤がFeとPからなる合金または化合物である前項1または2に記載のアルミニウム合金圧延材の製造方法。
【0026】
[4]前記微細化剤がNiとPからなる合金または化合物である前項1または2に記載のアルミニウム合金圧延材の製造方法。
【0027】
[5]前記微細化剤が、Ni、B、Pからなる合金または化合物、またはAl、B、Pからなる合金または化合物である前項1または2に記載のアルミニウム合金圧延材の製造方法。
【0028】
[6]前記微細化剤が、SnとPからなる合金または化合物、またはNi、Sn、Pからなる合金または化合物である前項2に記載のアルミニウム合金圧延材の製造方法。
【0029】
[7]前記微細化剤の溶湯への添加を溶湯温度860℃~990℃の温度で行い、前記微細化剤の添加から鋳造開始までの時間を40分~180分とし、鋳造開始から鋳造終了までの溶湯の温度を800℃以下とする前項1~6のいずれか1項に記載のアルミニウム合金圧延材の製造方法。
【発明の効果】
【0030】
上記[1]に記載のアルミニウム合金圧延材製造方法によれば、合金の化学組成とPによる微細化処理により初晶Siが微細化された鋳塊を鋳造し、低い熱膨張係数と高い熱伝導率を有するアルミニウム合金圧延材を製造することができる。
【0031】
上記[2]に記載のアルミニウム合金圧延材製造方法によれば、低い熱膨張係数と高い熱伝導率を有し、さらにドリル加工性が改善されたアルミニウム合金圧延材を製造することができる。
【0032】
上記[3][4][5][6]に記載のアルミニウム合金圧延材製造方法によれば、Pによる初晶Siの微細化効果が特に大きい。
【0033】
上記[7]に記載のアルミニウム合金圧延材製造方法によれば、特に初晶Siの微細化効果が大きい。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明のアルミニウム合金圧延材の製造方法は、合金の化学組成を規定するとともに、
圧延に供する鋳塊を鋳造する際の材料の溶解工程において微細化剤として添加するPの添加方法を規定する。
[アルミニウム合金の化学組成]
アルミニウム合金は、必須元素として、Si、Fe、Cu、Mn、Mg、Zn、Ti、Ni、Ga、Cr、V、B、Zr、Pを含有し、Na、Ca、SrおよびInの含有量が規制されている。さらに、アルミニウム合金は、任意添加元素としてPb、Bi、Snのいずれか1種以上を含有している。また、残部はAlおよび不可避不純物である。
(必須元素)
Si、Fe、Cu、Mn、Mg、Zn、Ti、Ni、Gaの添加意義および含有量は以下のとおりである。
【0035】
Siはアルミニウム合金圧延材の熱膨張係数を低くするために必要な元素である。Si含有量が多くなるほど熱膨張係数は低くなる。本発明では、Si含有量は16質量%~24質量%とする。Si含有量が16質量%未満では所期する低い熱膨張係数を得ることができない。一方、Si含有量が24質量%を超えると、さらに低い熱膨張係数が得られるものの、Al-12.6質量%Siの共晶組成以上で溶解・鋳造時に晶出する初晶Siの発生量がさらに増加し、熱間圧延での圧延性が極めて低下するとともに、基板加工時のドリル・ルーター加工性に悪影響を及ぼす。さらにSi含有量は18質量%~22質量%であることが好ましく、特に19質量%~21質量%以下であることが一層好ましい。
【0036】
Feはアルミニウム合金圧延材の熱膨張係数を低下させる元素であり、結晶粒の微細化効果が期待できて強度向上に有効であり、また耐熱性を向上させる効果もあるが、多量に含有すると加工性が低下し熱間圧延、冷間圧延が困難となる。従って、Fe含有量は2.2質量%~6.0質量%とする。さらに3.5質量%~5.5質量%であることが好ましく、特にに4.0質量%~5.0質量%以下であることが一層好ましい。
【0037】
Cuはアルミニウム合金圧延材の強度向上に有効な元素であるが、多量に含有すると耐食性が低下する。また、多量に含有すると熱間圧延時の加工性が著しく低下すると共に製品加工時の熱伝導率が低下し放熱性に悪影響を及ぼす。従って、Cu含有量の範囲は0.01~0.2質量%とする。さらに0.05質量%~0.15質量%であることが好ましく、特に0.08質量%~0.12質量%であることが一層好ましい。
【0038】
Mnは再結晶粒の微細化のために一般的に添加される合金元素であるが、必要以上に添加すると熱伝導率の低下を招く。従って、Mnの含有量は0.01~0.2質量%とする。さらに0.02質量%~0.18質量%であることが好ましく、特に0.03質量%~0.15質量%であることが一層好ましい。
【0039】
Mgはアルミニウムに固溶することで強度向上に寄与する元素である。しかしながら本発明では製品加工時の熱伝導率を低下させ放熱性に悪影響を及ぼす要因となる。従って、Mgの含有量は0.01~0.2質量%とする。さらに0.02質量%~0.18質量%であることが好ましく、特に0.03質量%~0.15質量%であることが一層好ましい。
【0040】
ZnはMgと共存させることで強度向上に有効あることが知られているが、含有量が多くなると合金材の耐食性を低下させ、またアルミニウムの熱膨張係数を大きくする元素である。従って、Znの含有量は0.002~0.1質量%以下とする。さらに0.008質量%~0.08質量%が好ましく、特に0.01質量%~0.06質量%であることが一層好ましい。
【0041】
Tiは、アルミニウム合金をスラブに鋳造する際に結晶粒を微細化する効果がある。しかしながら、多量に含有すると、サイズの大きい晶出物が多く生成するため、製品の加工性や熱伝導性が低下する。従って、Ti含有量は0.01~0.2質量%以下とする。さらに0.03質量%~0.15質量%が好ましく、特に0.06質量%~0.12質量%であることが一層好ましい。
【0042】
Niはアルミニウム合金圧延材の熱膨張係数を低下させる元素であり、強度向上に有効であり、また耐熱性を向上させる効果もあるが、多量に含有すると加工性が著しく低下し熱間圧延、冷間圧延が困難となる。従って、Ni含有量は0.8~2.8質量%とする。さらに1.1質量%~2.5質量%であることが好ましく、特にに1.5質量%~2.1質量%であることが一層好ましい。
【0043】
Gaは結晶粒界や晶出物界面に偏析しやすい元素であり、硬質粒子を含む難削材のドリル・ルーター加工性の改善に有効な元素である。ただし、多量に含有すると熱間圧延、冷間圧延に表面割れを発生させ加工性を著しく低下させるとともに製品加工後の熱伝導率が低下し放熱性に悪影響を及ぼす。従って、Gaの含有量は0.01~0.5質量%とする。さらに0.05質量%~0.3質量%であることが好ましく、さらに0.08質量%~0.2質量%であることが一層好ましい。
【0044】
Cr、V、B、Zrは主として結晶粒の微細化に影響を及ぼす元素であり、機械的性質の改善に有効な元素である。各元素の添加意義または制御意義、および含有量は以下のとおりである。
【0045】
Crは強度向上ならびに結晶粒の微細化に有効な元素である。しかしながら多量に含有すると熱間圧延時の加工性が低下すると共に製品加工後の熱伝導率が著しく低下し放熱性に悪影響を及ぼす。従って、Cr含有量は0.001~0.1質量%とする。さらに0.002質量%~0.08質量%であることが好ましく、特に0.004質量%~0.06質量%であることが一層好ましい。
【0046】
Vは強度向上ならびに結晶粒の微細化に有効な元素である。しかしながら多量に含有すると熱間圧延時の加工性が低下すると共に製品加工後の熱伝導率が著しく低下し放熱性に悪影響を及ぼす。従って、V含有量の範囲は0.001~0.03質量%とする。さらに0.002質量%~0.02質量%であることが好ましく、特に0.004質量%~0.01質量%であることが一層好ましい。
【0047】
Bは合金をスラブに鋳造する際に結晶粒を微細化する効果がある。しかしながら、多量に含有すると、硬質の晶出物が多く生成するため、製品の被削性を著しく低下させる。従って、B含有量は0.0002~0.01質量%以下とする。さらに0.001質量%~0.008質量%が好ましく、特に0.002質量%~0.01質量%であることが一層好ましい。
【0048】
Zrは強度向上ならびに結晶粒の微細化に有効な元素である。しかしながら多量に含有すると熱間圧延時の加工性が低下すると共に製品加工後の熱伝導率が著しく低下し放熱性に悪影響を及ぼす。従って、Zr含有量の範囲は0.0002~0.03質量%とする。さらに0.005質量%~0.02質量%であることが好ましく、特に0.01質量%~0.01質量%であることが一層好ましい。
【0049】
アルミニウム合金は、Pを含有するとともに、Na、Ca、Srの含有量が制御される。これらの元素は主として鋳造時にアルミニウム合金溶湯から晶出する第二相粒子に影響を及ぼす元素であり、PおよびPとの共存下で制御される元素群である。各元素の添加意義または制御意義、および含有量は以下のとおりである。
【0050】
Pは初晶Siの微細化に顕著な効果が認められる元素である。これは、溶湯中に添加されたPがAlP化合物となり、初晶Siの核となると考えられている。しかし、Na、Ca、Srと共存するとその効果を著しく減じる。従って、本発明では初晶Si粒子の微細化を優先させ、P含有量は0.005~0.06質量%とする。さらに、0.01質量%~0.05質量%が好ましく、特に0.05質量%~0.04質量%であることが一層好ましい。
【0051】
Naは共晶Si粒子の微細化に効果的な元素である。ただし、Pと共存するとその効果を著しく減じる。従って、本発明では初晶Si粒子の微細化を優先させるため、Na含有量は0.003質量%以下とする。さらに0.002質量%以下が好ましく、特に0.001質量%以下であることが一層好ましい。
【0052】
Caは共晶Si粒子の微細化に効果的な元素である。ただし、Pと共存するとその効果を著しく減じる。従って本発明では初晶Si粒子の微細化を優先させるため、Ca含有量は0.003質量%以下とする。さらに0.002質量%以下が好ましく、特に0.001質量%以下であることが一層好ましい。
【0053】
Srは共晶Si粒子の微細化に効果的な元素である。ただし、Pと共存するとその効果を著しく減じる。従って、本発明では初晶Si粒子の微細化を優先させるため、Sr含有量は0.003質量%以下とする。さらに0.002質量%以下が好ましく、特に0.001質量%以下であることが一層好ましい。
【0054】
Inは耐食性を著しく低下させるため少ないことが好ましい。不可避不純物としてのIn含有量は0.004質量%以下であることが好ましく、さらに0.003質量%以下であることが好ましく、特に0.002質量%以下であることが一層好ましい。
(任意添加元素)
アルミニウム合金は、要すればさらにPb、Bi、Snの1種以上を含有する。
【0055】
Pb、Bi、Snはアルミニウム中の固溶限が極めて低く、結晶粒界や晶出物界面に偏析しやすく、また融点がAlに比べて低いこともあり、硬質粒子を含む難削材のドリル・ルーター加工性の改善に有効な元素である。前記効果はPb、Bi、Snで共通であり、任意の1種以上の含有で達成される。勿論、2種または3種の含有させることもできる。ただし、多量に含有すると熱間圧延、冷間圧延に表面割れを発生させ加工性を低下させる。従って、Pb、Bi、Snの含有量は0.01~0.6質量%以下とする。さらに0.05質量%~0.2質量%が好ましく、特に0.03質量%~0.15質量%であることが一層好ましい。
[アルミニウム合金鋳塊の鋳造]
上述したように、本発明のアルミニウム合金は16質量%~24質量%のSiを含有する。熱膨張係数を低下させる元素としてSi以外にFe、Niとの相互作用も考慮する必要がある。
【0056】
本発明においては、所望の特性を得るべく狙いの組成に調整したアルミニウム合金溶湯に添加する微細化剤として、PとFe、Ni、B、Al、Snの1種以上の元素との合金または化合物を用いる。さらに、微細化剤は添加後から鋳造までの間にAl中に均一に溶け込ませる必要があり、この条件を満たす合金または化合物を用いる。
【0057】
本発明で用いる初晶Siの微細化剤として、FeとPeからなる合金または化合物、NiとPからなる合金または化合物、Ni、B、Pからなる合金または化合物、Al、B、Pからなる合金化合物、SnとPからなる合金または化合物、Ni、Sn、Pからなる合金または化合物を用いることができる。これらの合金または化合物はPによる初晶Siの微細化効果が特に大きい。上記の合金または化合物のうち、例えば、Sn-10質量%Pの溶融開始温度は約550℃であり、Ni-11質量%Pの共晶点温度は870℃であり、Fe-10質量%Pの共晶点温度は1048℃である。また、PとBはAlとの化合物を作る。これらの中には添加時には直ちに溶融しないものもあるが、少なくとも鋳造前までには溶解し、Pの消耗を抑えながらAl中に均一に溶け込み、初晶Siの核を形成する。
【0058】
前記微細化剤は必ずしも1種類でなくてもよく、複数の微細化剤の混合物であっても良い。また、本発明は、上述したPを含む微細化剤以外の微細化剤の併用を排除するものではない。例えば、Pを含まない微細化剤、例えばAl-Ti-B合金等を併用することもできる。
【0059】
前記微細化剤はアルミニウム合金の化学組成の一部を構成するものであるから、微細化剤はアルミニウム合金の化学組成を逸脱しないように添加する必要がある。例えば、Snはアルミニウム合金に任意に添加される元素であるが、Snを含む微細化剤を用いると、必然的にSnを含有するアルミニウム合金となる。
【0060】
また、微細化剤添加時の溶湯温度と鋳造時の溶湯温度は別々に設定した方がアルミニウム合金鋳塊の組織制御には有効であり、初晶Siの微細化効果が大きい。これは、微細化処理の適温と鋳造の適温が異なるのでためである。具体的には、溶湯への微細化剤の添加を溶湯温度860℃~990℃で行い、微細化剤の添加から鋳造開始までの時間を40分~180分とし、鋳造開始から鋳造終了までの溶湯の温度を800℃以下でかつ液相線以上の温度域にて実施することが望ましい。微細化剤添加時の特に好ましい溶湯温度は860℃~920℃であり、微細化剤の添加から鋳造開始までの特に好ましい時間は50分~180分であり、鋳造開始から鋳造終了までの特に好ましい溶湯温度は790℃以下である。
[アルミニウム合金鋳塊の圧延]
上述した工程で鋳造したアルミニウム合金鋳塊を圧延して圧延材を作製する。本発明は、鋳塊から最終製品である圧延材を作製する工程を限定するものではないが、低い熱膨張係数と高い熱伝導率を有するアルミニウム合金圧延材を得るために、下記の製造工程を推奨できる。
(均質化処理工程)
前記均質化処理はアルミニウム合金鋳塊中に固溶する元素濃度を均一にするために実施するが、処理温度が高すぎると共晶融解が生じるため、460℃~550℃で行うことが好ましく、特に470℃~540℃で行うことが好ましい。処理時間(保持時間)は1時間~20時間が好ましく、特に2時間~15時間が好ましい。
【0061】
一般に、アルミニウム合金鋳塊を圧延する場合は鋳塊の表面近傍の不純物層を除去するために面削を行う。上述した均質化処理は、面削前、面削後のどちらの時期に行ってもよい。
(予備加熱工程)
アルミニウム合金鋳塊は、圧延に供する前に予備加熱を行う。予備加熱はアルミニウム合金鋳塊を470℃~540℃で0.5時間~10時間保持することにより行う。さらに好ましい条件は、490℃~530℃で1時間~8時間である。
【0062】
なお、前記均質化処理の処理条件と予備加熱の処理条件は一部が重複しているので、重複する条件において1回の熱処理を行い、この熱処理で均質化処理と予備加熱の両方を兼ねることができる。
(熱間圧延工程)
予備加熱を施したアルミニウム合金鋳塊に、複数パスにより、圧下率95%~99.5%の熱間圧延を行う。
【0063】
熱間圧延は粗熱間圧延と仕上げ熱間圧延からなり、粗熱間圧延機を用い複数のパスからなる粗熱間圧延を行った後、粗熱間圧延機とは異なる仕上げ熱間圧延機を用いて仕上げ熱間圧延を行う。なお、本発明において、粗熱間圧延機での最終パスを熱間圧延の最終パスとする場合は、仕上げ熱間圧延を省略することができる。
【0064】
後述の冷間圧延をコイルで実施する場合には、仕上げ熱間圧延後のアルミニウム合金圧延材を巻き取り装置で巻き取って熱延コイルとすればよい。仕上げ熱間圧延を省略し、熱間粗圧延の最終パスを熱間圧延の最終パスとする場合は、熱間粗圧延の後、アルミニウム合金圧延材を巻き取り装置にて巻き取って熱延コイルとしてもよい。
【0065】
熱間粗圧延では、熱間粗圧延の各パスの目標板厚構成とクーラント量やロール回転速度、パス間の冷却等による温度コントロールにより、所定のシートクラウンを有し、かつ難加工材に比較的発生しやすい圧延端部割れ(以下、耳割れ)や圧延表面欠陥のないアルミニウム合金圧延材を得ることができる。
【0066】
上記粗熱間圧延のパス間の冷却は、アルミニウム合金圧延材を圧延しながら圧延後の部位に対し順次実施してもよいし、アルミニウム合金圧延材全体を圧延した後実施してもよい。冷却の方法は限定されないが、水冷であっても空冷であってもよいし、クーラントを利用してもよい。
【0067】
本発明において、粗熱間圧延の最終パス後に仕上げ圧延を行わない場合は、熱間圧延の最終パス直後のアルミニウム合金圧延材の表面温度を熱延上り温度とし、粗熱間圧延の最終パス後に仕上げ圧延を行う場合は、仕上げ圧延直前のアルミニウム合金圧延材の表面温度を熱延上り温度とする。
【0068】
前記熱延上り温度は280℃以上とすることが好ましい。熱延上り温度を280℃以上とすることにより、圧延時の温度低下による耳割れを抑制することができる。なお、後工程の冷間圧延をコイルで実施するために熱間圧延後にコイル巻き取りを実施する際、温度が低くなりすぎると巻き取り張力によっては板幅端部の耳割れが進展しやすくなる。従って、コイル状に巻き取る場合で仕上げ熱間圧延を行わない場合には、上記のように熱間粗圧延最終パス上りのアルミニウム合金板の表面温度は280℃以上が好ましいが、熱間粗圧延後に熱間仕上げ圧延を行う場合は、板幅端部の耳割れ防止のため熱間仕上げ圧延後のアルミニウム合金板の表面温度を260℃以上とすることが好ましい。
(冷間圧延工程)
熱間圧延終了後、所定の厚さのアルミニウム合金圧延材を得るまで、複数パスにより冷間圧延を行う。冷間圧延を実施することにより一般に加工硬化にて強度は向上する。熱間圧延終了後、前記熱処理により時効硬化させたアルミニウム合金圧延材に冷間圧延を実施すると加工硬化による強度向上効果が期待できる。冷間圧延の総圧下率は所定の強度を得るために30%以上で実施されることが好ましい。冷間圧延によるアルミニウム合金圧延材の総圧延率はさらに40%以上が好ましく、特に50%以上が好ましい。総圧下率の上限は、加工硬化による伸びの低下を考慮し、98.5%以下とする。
【0069】
前記冷間圧延工程のパス前またはパス間にて、板幅端部の耳割れ部位をトリミングし、さらに冷間圧延を進めることで板破断を防ぐ工程を含めても良い。
(冷間圧延工程中または冷間圧延工程後の熱処理)
前記冷間圧延工程中および/または冷間圧延工程後に圧延材に熱処理を行うことが好ましい。
【0070】
冷間圧延工程中に行う熱処理、即ち中間熱処理は260℃~400℃で0.5時間~10時間の保持が好ましく、機械的性質、特に伸びを改善させるとともに導電率を向上させることができる。前記熱処理は、任意のパス前またはパス後に行い、複数のパスに対して行っても良い。熱処理の特に好ましい温度は280℃~380℃であり、300℃~370℃がなお一層好ましい。また、特に好ましい熱処理時間は1時間~9時間であり、2時間~8時間がなお一層好ましい。
【0071】
冷間圧延後の熱処理、即ち最終熱処理は150℃~240℃で1時間~20時間の保持が好ましい。前記冷間圧延によって圧延材に残留歪が残り板材に反りが発生する場合があるが、前記熱処理によって残留歪みを解消することができる。熱処理の特に好ましい温度は160℃~220℃であり、特に好ましい熱処理時間は5時間~20時間である。また、この熱処理は、平板の上に圧延材を設置し、上部から重しを乗せた平板にて挟み込んで矯正(加圧焼鈍)することがさらに有効である。
【0072】
上述したアルミニウム合金圧延材の製造方法は、コイルで行ってもよく、単板で行ってもよい。また、冷間圧延工程より後の任意の工程でアルミニウム合金圧延材を切断し切断後の工程を単板で行ってもよいし、用途に応じスリットして条にしても良い。また、所期する圧延材の特性を損なわない限り、他の工程を追加してもよい。例えば、冷間圧延後のアルミニウム合金圧延材に必要に応じて洗浄を実施しても良い。
[アルミニウム合金圧延材の熱膨張係数および熱伝導率]
本発明の方法で作製したアルミニウム合金圧延材は、熱膨張係数αおよび熱伝導率λについて以下の特性を備えたものとなる。熱膨張係数αが16×10-6/K≦α≦19×10-6/Kであり、特に好ましい熱膨張係数αは16.8×10-6/K≦α≦18.5×10-6/Kである。熱伝導率λは200W/m・K以上であり、特に好ましい熱伝導率λは202W/m・K以上である。上記範囲の熱膨張係数と熱伝導率を有するアルミニウム合金圧延材は、該圧延材を配線基板に用いた際に銅箔との熱膨張係数の差によって発生する基板の反りや冷熱サイクルによって発生する銅箔と素子を接合するハンダ部におけるクラック等を抑止し、かつドリル・ルーター加工に対する被削性を確保しながら、優れた放熱性が得られる。
【実施例0073】
以下に、本発明を実施例により説明する。なお、本発明は、ここに記述する実施例に発明の範囲を限定するものではなく、本発明の趣旨に適合しうる範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術範囲に含まれる。
【0074】
まず、所定のアルミニウム地金と母合金を調整し、表1の記号a~kの11種類の化学組成のアルミニウム合金スラブを鋳造した。11種類の化学組成のアルミニウム合金のうち、a~hは本発明の条件を満たし、i~kは本発明の条件から外れている。
【0075】
鋳造に際しては、所定温度の溶湯に微細化剤を添加して攪拌する微細化処理を行い、その後所定の溶湯温度でスラブを鋳造した。表2にPを含む微細化剤A~Hを示し、表4に、表1の合金組成a~kと表2の微細化剤の組み合わせを示し、さらに微細化処理における微細化剤添加時の溶湯温度および処理時間、鋳造時の溶湯温度を示す。なお、表2のHはPを含む微細化剤による微細化処理を行わないことを示す。
【0076】
鋳造したアルミニウム合金スラブの全面に面削を施し、厚さ400mm×幅750mm×長さ1500mmとした。
【0077】
次に、面削した11種類のアルミニウム合金スラブに対して表3に示す8種類の条件1)~8)のいずれかを組み合わせて圧延材を作製した。a~kのアルミニウム合金と製造条件1)~8)の組み合わせは表4に示すとおりである。即ち、加熱炉中で表3記載の均質化処理を実施した後、同じ炉中で温度を降下させ、表3記載の熱間圧延前加熱温度に到達後に保持し(予備加熱)、表3記載の条件にて熱間圧延を実施し、表3記載の熱延上り温度、板厚の熱間圧延板を得た。仕上げ熱間圧延後の合金板に表3記載の中間熱処理、冷間圧延、最終熱処理を施し、所定の板厚(板厚:1.5mm)のアルミニウム合金圧延板を得た。
【0078】
作製したスラブの鋳塊組織、圧延性、圧延材について下記の項目の評価を行った。評価結果を表4に示す。
[スラブの鋳塊組織]
スラブを厚さ方向に薄くスライスし、その中央部から切り出した試験片のスライス面にエメリー研磨、バフ研磨を施した後、エッチング液等を用いることなく、光学顕微鏡にてそのまま観察し、被削性に悪影響を及ぼす初晶Siの平均サイズを計測した。測定は任意に抽出した50点の平均粒径(円相当径)を計測し、50μm以下のものを「○」、50μmを越えるものを「×」とした。各項目の評価結果を表4に示す。
[圧延性(耳割れ)]
熱間圧延後にコイル巻き取りをする際、板幅両端部の耳割れの端面からの長さを圧延板上面より記録し、板幅端部に発生したクラックの最大値が8mm以下のものを「○」、8mmを超え15mm以下のものを「△」、15mmを超えるものを「×」とした。
[圧延材の引張強さおよび伸び]
引張強さ(σB)および伸び(δ)は、JIS Z 2201に定めるJIS5号試験片にて、圧延方向に対し平行方向に採取した試料について常温、常法により測定した。
引張強さは150MPa以上のものを「○」、150MPa未満のものを「×」、伸びは10%以上のものを「○」、10%未満のものを「×」、とした。
[熱伝導率]
アルミニウム合金圧延材の熱伝導率はレーザーフラッシュ法で測定した。測定条件は以下の通りである。
・測定方法:レーザーフラッシュ法(パルスレーザー)
・測定温度:25℃
・試料形状:1.5×10mmφ
・雰囲気:真空中
熱伝導率は、200W/mK以上のものを「○」、200W/mK未満のものを「×」とした。
[熱膨張係数]
アルミニウム合金圧延材の線膨張係数は熱機械分析(TMA)法で測定した。測定条件は以下の通りであり、
・測定方法:TMA法(示差膨張方式)
・測定温度パターン:20~100℃(基準温度20℃、昇温速度:5℃/min)
・試料形状:1.5×3×18mm
・雰囲気:Heガス中
・参照試料:石英
20~100℃(20℃間隔)の線膨張量(ΔL)、20℃との温度変化(ΔT)、室温時の長さ(L0)から各温度における線膨張率を求め(ΔL/L0)それらを平均して熱膨張係数とした。熱膨張係数が19×10-6/K以下のものを「○」、19×10-6/Kを超えるものを「×」とした。
【0079】
さらに、前記アルミニウム圧延材を用いてプリント配線基板を作製し、反り率、穴位置精度、ドリル折損性を評価した。各項目の評価結果を表4に示す。
[反り率]
反り率の評価は、JIS C 6481プリント配線板用銅張積層板試験方法の5.22 反り率及びねじれ率(静置法)に定める方法に従って実施した。
【0080】
供試材は、・アルミニウム合金圧延材(基材):1.5mm厚/絶縁層:100μm/銅箔:70μm全面貼り付けの積層材を100×200mmに裁断したものである。前記供試材の基材側の実体温度で220℃×120sec加熱保持後にファン空冷し、常温における長辺側の最大高さh1を計測して加熱前に予め測定した最大高さh0との差異:H=h1-h0を長辺長さ:200mmで除した値を反り率:W=H/200×100(%)とし、Wが1.0%以下のものを「○」、1.0%を超えるものを「×」とした。
[穴位置精度]
ドリル加工条件は以下の通りとした。
・ドリルビット:φ0.25mm 超硬ドリル
・回転数:125,000rpm
・送り速度:2.5m/min
・ドリルビット数:1000ヒット(n=2)
反り率の評価で作製した供試材を3枚重ねとし、1000ヒット(穴あけ加工)後、最下部の基板穴中心部からの誤差間隔を測定し、最大値が50μm以下であるものを「○」、50μmを超え80μm以下のものを「△」、80μmを超えるものを「×」とした。
【0081】
なお、1000ヒットまでにドリルが折損した供試材については、その時点までのデータで穴位置精度を評価した。
[ドリル折損性]
ドリル折損性の評価は、上記条件でドリル加工試験を実施した際のドリル折損の有無について行い、n=2の試験中に1000ヒットまで折れなかったものを「○」、いずれか1回でも折れたものを「×」とした。
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
表4より、本発明の方法により、低い熱膨張係数と高い熱伝導率を有するアルミニウム合金圧延材を製造できることを確認した。