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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022101025
(43)【公開日】2022-07-06
(54)【発明の名称】転写材、記録物
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/00 20060101AFI20220629BHJP
   B41M 5/52 20060101ALI20220629BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20220629BHJP
【FI】
B41M5/00 100
B41M5/52 110
B32B27/30 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020215360
(22)【出願日】2020-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000208743
【氏名又は名称】キヤノンファインテックニスカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林田 寿子
(72)【発明者】
【氏名】戸根 健輔
(72)【発明者】
【氏名】澄川 裕輔
(72)【発明者】
【氏名】石橋 達
【テーマコード(参考)】
2H186
4F100
【Fターム(参考)】
2H186AB13
2H186AB16
2H186AB17
2H186AB23
2H186BA13
2H186BB01X
2H186BB01Z
2H186BB05Z
2H186BB14Y
2H186BB34Y
2H186BB34Z
2H186BB52Y
2H186BC02Y
2H186BC08Z
2H186BC30Y
2H186BC34Y
2H186BC52Y
2H186BC52Z
2H186BC78Y
2H186CA07
2H186DA09
2H186FB52
4F100AA19C
4F100AK01B
4F100AK21C
4F100AK25B
4F100AK42A
4F100AR00C
4F100AR00D
4F100AT00A
4F100BA04
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10D
4F100CA02B
4F100CC00B
4F100CC00C
4F100CC00D
4F100EH462
4F100EH46B
4F100EH46C
4F100EH46D
4F100EJ05B
4F100EJ422
4F100EJ862
4F100JK09
4F100JL11D
(57)【要約】      (修正有)
【課題】耐摩耗性および箔切れ性に優れた保護層を有する転写材を提供する。
【解決手段】基材50と、基材上に形成された保護層40と、保護層上に形成されたインク受容層30と、インク受容層上に離散的に形成された接着部21と、を備えた転写材10において、保護層が、アクリル樹脂とポリマー系架橋剤で生成される架橋物を含有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材上に形成された保護層と、
前記保護層上に形成されたインク受容層と、
前記インク受容層上に形成された接着層と、を備えた転写材であって、
前記保護層が、アクリル樹脂とポリマー系架橋剤で生成される架橋物を含有することを特徴とする転写材。
【請求項2】
前記架橋物が生成される前の、前記アクリル樹脂のカルボキシ基と、前記ポリマー系架橋剤の官能基の含有比率が、モル比で1:0.5~1:1.5の範囲である請求項1に記載の転写材。
【請求項3】
前記ポリマー系架橋剤が、オキサゾリン基含有ポリマーである請求項1または2に記載の転写材。
【請求項4】
支持体と、画像を有するインク受容層と、保護層が順次積層された記録物において、
前記保護層が、アクリル樹脂とポリマー系架橋剤で生成される架橋物を含有することを特徴とする記録物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摩耗性と箔切れ性に優れた保護層を有する転写材、および該保護層を有する記録物に関する。
【背景技術】
【0002】
再転写フィルムに鏡像を形成し、これを熱でカードに転写してカード上に画像を形成する、いわゆる再転写方式の昇華型プリンタが広く用いられている。
【0003】
これに対して、基材上に透明シート(以下、保護層という)とインク受容層が積層された転写材を用い、これにインクジェット方式で鏡像を形成した後インク受容層をカードに熱圧着し、保護層とインク受容層をカードに転写することでカード上に画像を形成する方法が提案されている(特許文献1)。この方法は、鏡像の形成から転写までの処理時間が再転写方式のプリンタよりも短いというメリットがある。
【0004】
また、使用される転写材は、転写対象となるカードよりサイズが大きく、カードへ転写されない部分(保護層とインク受容層)は、転写後にカードのエッジに添って綺麗に切り取れるように保護層に工夫がなされている。具体的には、保護層をTgが異なる2種類の樹脂で形成し、転写されない部分(転写時に加熱されない部分)にTgが高い粒子状の樹脂が残るようにして、切れ目が発生し易い状況を作り出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6144789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の転写材は保護層の耐摩耗性が低く、表面が傷つき易いという問題があった。したがって、本発明の目的は、耐摩耗性および箔切れ性に優れた保護層を有する転写材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、次のような構成の転写材を用いる。
基材と、前記基材上に形成された保護層と、前記保護層上に形成されたインク受容層と、前記インク受容層上に形成された接着層と、を備えた転写材であって、
前記保護層が、アクリル樹脂とポリマー系架橋剤で生成される架橋物を含有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐摩耗性と箔切れ性に優れた保護層を有する転写材が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の転写材の断面図である。
図2】カルボキシ基とオキサゾリン基の架橋構造を示す図である。
図3】インクが着弾した転写材を接着部側から見たイメージ図である。
図4】本発明の記録物とその製造方法を説明するための説明図である。
図5】本発明の記録物の製造行程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0011】
[転写材]
図1に示すように、本発明の転写材10は、基材50上に、保護層40、インク受容層30、及び接着層20が積層されたものである。後述するように、転写材10は、接着層20側からインク71が付与されてインク受容層30に画像が記録されたのち、当該画像を支持体80へと転写することで、記録物100を形成することができる。
【0012】
[基材]
本発明で使用される基材50は、転写材10のカールを抑制し、搬送性を良好にする役割を果たすと同時に、転写後に剥離することが可能なセパレーターとして機能する。
【0013】
基材50を構成する素材は、転写材10の用途に応じて適宜選択すればよく、例えば、ガラス、金属、木材、樹脂等、様々なものが使用できる。ただし、転写時に加熱されることから耐熱性や寸法安定性、加工の容易さ等を考慮して、樹脂製のフィルムを用いることが好ましい。
【0014】
樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体等のポリエステル樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン樹脂;ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリ4フッ化エチレン、エチレン-4フッ化エチレン共重合体等のポリフッ化エチレン系樹脂;ナイロン6、ナイロン6,6等の脂肪族ポリアミド樹脂;ポリ塩化ビニル、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体、エチレン/ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール、ビニロン等のビニル重合体樹脂;三酢酸セルロース、セロハン等のセルロース系樹脂;ポリメタアクリル酸メチル、ポリメタアクリル酸エチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル等のアクリル系樹脂;ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリイミド等の、その他の合成樹脂として、例えば、ポリアミド系樹脂;等からなるフィルムが挙げられる。
【0015】
中でも、ポリエチレンテレフタレートやポリアミド系樹脂からなるフィルムは、耐熱性や寸法安定性に優れているので好ましい。
【0016】
上記樹脂フィルムは、1種を単独で、または2種以上を複合あるいは積層して用いることができる。また、転写時の熱伝導性を上げる目的で、樹脂フィルム中にシリカ、アルミナ、グラファイト等のフィラーを添加したり、搬送性を向上させる目的で、フィルムの裏面に滑りを改善する補助層を設けてもよい。
【0017】
[離型層]
本発明の転写材10は、転写後の基材の剥離性を改良するために、基材50と保護層40の間に離型層(不図示)を設けてもよい。離型層は、公知の離型剤を用いて製造できる。
【0018】
例えば、シリコーンワックスなどのワックス類に代表されるシリコーンワックス、シリコーン樹脂などのシリコーン系の離型剤、フッ素樹脂などのフッ素系離型剤、ポリエチレン樹脂等が挙げられ、各材料を単独もしくは2種類以上併用することもできる。また、本発明における離型層には、密着性付与剤や帯電防止剤などの添加剤を添加してもよい。
【0019】
[保護層]
本発明の転写材10は、画像の視認性を保ちつつ、環境変化、薬品、摩擦等から画像を保護する目的で透明な保護層40を備えている。また、本発明の転写材10を用いて製造される記録物は、記録した画像を保護層40とインク受容層30を通して観察するため、保護層40の透明度は、JIS K7375に基づく全光線透過率で50%以上、さらに90%以上であることが好ましい。
【0020】
保護層40の素材としてはアクリル樹脂が好ましく、例えば、ポリメタクリレート、スチレン‐アクリル共重合体、ポリエチレンアクリル樹脂、アクリル酸エステル樹脂等が使用できる。特に、スチレン‐アクリル共重合体は、透明度が高く、耐候性に優れているのでより好ましい。
【0021】
保護層40の厚みは特に限定されないが、1μm以上10μm以下であることが好ましい。保護層の厚みを1μm以上とすることで耐摩耗性が確保でき、保護層40の厚みを10μm以下とすることで箔切れ性が確保できる。箔切れ性とは、後述するように、転写材10に形成された画像を支持体80に転写する工程において、保護層40とインク受容層30と接着層20が、支持体80に沿った形状へ切り離される際の切り離されやすさを意味する。ただし、本発明におけるインク受容層30は、無機微粒子のバインダーとなる水溶性樹脂の含有量が少なく、容易に切断できる。また、接着層20は保護層40よりも薄く、切り離しが容易である。したがって、本発明における箔切れ性は、保護層40の厚みに依存しており、保護層40が厚すぎると、支持体80の形状に沿った切り離しが難しくなる。
【0022】
[架橋剤]
本発明における保護層40は、主成分であるアクリル樹脂が架橋剤によって架橋されていることが好ましい。これにより、保護層40の耐摩耗性をさらに向上できる。
【0023】
架橋剤としては、アクリル樹脂のカルボキシ基と反応する「官能基」を有する公知の化合物が利用でき、例えば、ジアミン(この場合、アミド結合が生成される)、ジオール(エステル結合を生成)、ジイソシアネート(ウレタン結合を生成)、ビスオキサゾリン(アミドエステル結合を生成)等のモノマー系架橋剤や、オキサゾリン基含有ポリマー(アミドエステル結合を生成)、カルボジイミド基含有ポリマー(アシルウレア結合を生成)等のポリマー系架橋剤が使用できる。これらは、単独で使用してもよいし、複数種を併用してもよい。
【0024】
なお、本発明の転写材10は、製造後ロール状に巻き取られることが多く、保護層40に適度な柔軟性が要求されることから、ポリマー系の架橋剤を使用することが好ましい。ポリマー系架橋剤は、モノマー系架橋剤に比べて官能基同士が離れており、架橋後の樹脂に柔軟性を持たせることができる。中でも、オキサゾリン基含有ポリマーは、図2に示すように架橋部63が長く、アクリル樹脂61と架橋剤62との間に距離があることから、架橋物にさらに柔軟性を与えることができる。
【0025】
ポリマー系架橋剤の分子量は特に限定されないが、箔切れ性を考慮して、5×104以下のものを選択するのが好ましい。
【0026】
架橋剤の添加量は、アクリル樹脂のカルボキシ基と架橋剤の官能基の含有比率が、モル比で0.5~1.5となるように調整することが好ましい。この範囲に制御することで耐摩耗性と耐屈曲性に優れた保護層40が形成できる。
【0027】
また、保護層40を上記のように構成することで箔切れ性も改善される。特に、切り離された保護層40の端部に発生しやすい「ばり(保護層端部が部分的に支持体端部からはみ出したもの)」が抑制され、支持体80の形状に沿った綺麗な切り離しが実現できる。理由は明確ではないが次のように推察している。
【0028】
アクリル樹脂が架橋剤と反応して3次元網目構造が形成されると、樹脂自体は剛直になる。その一方で、3次元網目構造が増加すると脆くなりクラックが生じ易くなる。したがって、本発明における転写材は、支持材に転写した部分(転写時に加熱された部分)と、転写されていない部分(転写時に加熱されていない部分)と、の境界で保護層40に小さなクラックが発生し易くなり、これを起点として切れ目が生じ易くなったことで、箔切れ性が向上したと考えられる。
【0029】
[インク受容層]
本発明の転写材10は、保護層40上にインク受容層30が設けられている。インク受容層30には空隙型と膨潤型が存在するが、本発明では、インク吸収性に優れ、滲みのない高画質な画像が形成できる空隙型のインク受容層を用いることが好ましい。空隙型のインク受容層は、無機微粒子を分散した無機微粒子分散液と、水溶性樹脂の混合液を保護層上に塗工することで形成される。
【0030】
インク受容層30の厚みは特に限定されない。製造する記録物の厚さや要求するインク吸収性に合わせて調整することが可能である。
【0031】
[無機微粒子]
インク受容層30に用いられる無機微粒子の種類は、特に制限されない。アルミナ、アルミナ水和物、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、二酸化チタン等公知のものが利用できるが、印字濃度が高く、優れた画像鮮明性が得られる点で、非晶質合成シリカ、アルミナまたはアルミナ水和物を用いることが好ましい。
【0032】
無機微粒子の平均1次粒子径は、インク吸収性と透明度を両立させるために、10nm以上、20nm以下の範囲とすることが好ましい。
【0033】
[解膠剤]
インク受容層30を作製するための無機微粒子分散液は、無機微粒子を解膠するための解膠剤を含んでいてもよい。例えば、アルミナまたはアルミナ水和物の分散液を製造する際に、解膠剤として酸を添加することで分散性が良好な分散液を得ることができる。
分散液中の無機微粒子は複数の粒子が凝集した2次粒子となっているが、その場合の2次粒子の平均粒子径(累積中位径)は50nm以上、110nm以下であり、さらに標準偏差が5nm以上、75nm以下の範囲とすることが好ましい。この範囲であれば、平滑性の高い塗工面が得られる。
【0034】
[水溶性樹脂]
インク受容層30に用いる水溶性樹脂としては、例えば、澱粉、ゼラチン、カゼイン及びこれらの変性物; ポリビニルアルコール(完全けん化、部分けん化、低けん化等)、ポリ(メタ)アクリル酸又はその共重合体樹脂、等が使用できる。中でも、ポリビニルアルコールは、無機微粒子のバインダーとして優れているので好ましい。水溶性樹脂は、1種を単独で、または2種以上を混合して用いることができる。「2種以上」とは、けん化度、平均重合度等の特性が異なるものも含まれる。
【0035】
インク受容層30中の無機微粒子と水溶性樹脂の含有比率は、インク受容層の強度とインク吸収性とを考慮して調整すればよい。具体的には、無機微粒子100質量部に対して水溶性樹脂を3.3~20質量部の範囲で用いるとよい。
【0036】
[水溶性樹脂の架橋剤]
インク受容層30は、水溶性樹脂を架橋させて層強度を向上させる架橋剤を含有してもよい。架橋剤としては公知のものが使用できるが、水溶性樹脂としてポリビニルアルコールを使用する場合には、ほう酸またはほう酸塩を用いることが好ましい。
【0037】
[接着層]
本発明の転写材10は、後述する支持体80への接着性を向上させるために、インク受容層30上に接着層20が設けられている。接着層20は、インク受容層30の表面に一様に接着剤22をコーティングしたもの、或いはインク受容層30の表面が部分的に露出するように離散的に接着部21を設けたものが利用できる。後者は効率よくインクを吸収し、印刷直後でも印刷面が乾燥した状態となることから、支持体へ熱圧着する際に有利である。また、接着層20の厚みは、0.01μm~7μmの範囲で調整し、箔切れ性を考慮して、転写後の膜厚が保護層40よりも薄くなるように設定することが好ましい。
【0038】
接着層20に用いる接着剤22は特に限定されず、公知のものが使用できる。具体的には、しょうふ、デキストリン、そくい等のでんぷん系、にかわ、カゼイン、大豆タンパク等のたんぱく系、天然ゴム系、漆、松やに、ろう、アスファルトなどの天然の接着剤;酢酸ビニル系、ポリオール系、ポリビニルアセタール系、酢酸ビニル共重合系、エチレン酢酸ビニル系、塩化ビニル系、アクリル系、ポリエステル系、ポリアミド系、セルロース系、オレフィン系、スチレン系、ユリア系、メラミン系、フェノール系、レゾルシノール系、エポキシ系、ポリウレタン系、シリコーン系、ポリアミド系、ポリ弁図イミダゾール系、ポリイミド系、イソシアネート系、クロロプレンゴム系、二トリルゴム系、スチレンブタジエンゴム系、ポリサルファイド系、ブチルゴム系、シリコーンゴム系、アクリルゴム系、変性シリコーンゴム系、ウレタンゴム系、シリル化ウレタン系などの有樹脂系接着剤;ケイ酸ソーダ等の水ガラス系、ポルトランドセメント、しっくい、石膏、マグネシアセメント、リサージセメント等のセメント系、セラミックス系などの無機系接着剤が挙げられる。これらのうちの1種もしくは複数を併用しても良い。
【0039】
接着剤22の形状は粒子状であることが好ましく、その平均粒子径が0.01μm~5μmであるもの(以下、接着粒子という)、或いは、複数の粒子が凝集した凝集物で、その平均径が0.01μm~5μmであるものが好ましい。平均粒子径が0.01μm以上の接着粒子、または平均径が0.01μm以上の凝集物を使用することで、接着剤がインク受容層30の空隙へ入り込むことを抑制でき、良好なインク吸収性が保てる。また、平均粒子径が5μm以下の接着粒子、または平均径が5μm以下の凝集物を使用することで、後述する接着部の大きさや間隔を自由にコントロールすることができる。
【0040】
[接着部]
本発明でいう接着部21は、図1に示すように複数の接着粒子が密集した部分、或いは、接着粒子が単独で配置された部分であり、インク受容層の表面が部分的に露出する露出部23を形成するように、インク受容層30の表面に離散的に設けられている。また、各接着部21の大きさは、最も短い部分の長さが、少なくともインクの着弾径よりも小さくなるように調整されていることが好ましい。これにより、インクを効率よく吸収することができる。例えば、図3に示すように、接着部21の面積がインクの着弾面積より大きくても、着弾したインクは、その一部が露出したインク受容層と接触した瞬間にインク受容層に引き込まれ、素早く吸収される。また、接着部21はインク受容層30に比べてインク吸収速度が遅く、内部にインクが浸透し難いので、印刷直後でも接着部21の表面はすぐに乾燥された状態となる。
【0041】
[記録物]
本発明の記録物100は、保護層40、画像が記録されたインク受容層30、接着層20、支持体80がこの順に積層されたものである。
【0042】
[画像]
本発明の記録物100は、上記転写材10のインク受容層30に画像を記録した後に、保護層40とインク受容層30を支持体80に転写することで製造される。画像は、保護層40およびインク受容層30を通して観察されるため、転写材10へ印刷する際の画像は鏡像であることが好ましい。
また、画像を記録する装置としては、公知のインクジェットプリンタが利用でき、染料インクや顔料インクなど様々なインクが使用できる。
【0043】
[支持体]
支持体80の材質は特に限定されず、公知のものが使用できる。例えば、パルプやコットンなどからなる紙、コート紙やアート紙等のコーティング紙、塩化ビニル(PVC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、PET-Gなどのポリエステル系樹脂、ポリカーボネート、アクリル系樹脂、オレフィン系樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂、ポリエステル系樹脂などのフィルムあるいはカードが挙げられる。また、これらを単独あるいは積層した複合物として用いてもよい。
【0044】
[記録物の製造方法]
本発明の記録物100は、図4および図5に示した工程で製造することができる。
【0045】
具体的には、まず、本発明の転写材10のインク受容層30に、接着層20側からインクジェットヘッド70により顔料インク71を吐出する。接着層20には接着部21が離散的に配置されており、インク受容層30は部分的に表面が露出しているので、顔料インク71は、接着部21とインク受容層30に跨るように着弾する。その後、顔料インク71はインク受容層30の表面で顔料と溶媒成分に分離され、顔料はインク受容層30の表面上に残り、溶媒成分はインク受容層30に吸収されて、インク受容層30の表面に画像72が形成される(図4(b)および図5(a)参照)。
【0046】
次に、接着層20を支持体80に当接し、転写材10と支持体80を重ねた状態でヒートローラー90および加圧ローラー91を用いて加熱および加圧して接着する(図4(c) ならびに図5(b)および(c)参照)。
【0047】
最後に、剥離ローラー92を用いて基材50を剥離することで記録物100が得られる(図4(d)および図5(d) 参照)。
【0048】
加熱・加圧する装置は特に限定されず、公知のラミネーターが使用できる。
【実施例0049】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。ただし、本発明は、下記の実施例によっていかなる制限を受けるものではない。なお、以下の記載における「部」、「%」は特に断らない限り質量基準である。
【0050】
[基材]
基材80としてPETフィルム(商品名:テトロンG2、厚さ:25μm、帝人デュポンフィルム社製)を使用した。
【0051】
[保護層形成用塗工液1の調製]
アクリル樹脂(商品名:ジョンクリル537E、カルボキシ基量:0.93mmol/g、固形分濃度:46%、BASF社製)73.3部と、官能基としてオキサゾリン基を含有するポリマー系架橋剤(商品名:エポクロスWS700、オキサゾリン基量:4.50mmol/g、固形分濃度:25%、日本触媒社製)26.7部をスタティックミキサーで混合し保護層形成用塗工液1を調整した。塗工液におけるアクリル樹脂のカルボキシ基と、ポリマー系架橋剤のオキサゾリン基の含有比率は、モル比で1:1である。
【0052】
[保護層形成用塗工液2の調製]
アクリル樹脂のカルボキシ基と、ポリマー系架橋剤のオキサゾリン基の含有比率を1:0.5に変更したこと以外は、保護層形成用塗工液1の調整と同様にして、保護層形成用塗工液2を調整した。
【0053】
[保護層形成用塗工液3の調製]
アクリル樹脂のカルボキシ基と、ポリマー系架橋剤のオキサゾリン基の含有比率を1:0.8に変更したこと以外は、保護層形成用塗工液1の調整と同様にして、保護層形成用塗工液3を調整した。
【0054】
[保護層形成用塗工液4の調製]
アクリル樹脂のカルボキシ基と、ポリマー系架橋剤のオキサゾリン基の含有比率を1:1.5に変更したこと以外は、保護層形成用塗工液1の調整と同様にして、保護層形成用塗工液4を調整した。
【0055】
[保護層形成用塗工液5の調製]
オキサゾリン基を含有するポリマー系架橋剤を、カルボジイミド基を含有するポリマー系架橋剤(商品名:カルボジライトV-04、カルボジイミド基量:2.99mmol/g、固形分濃度:40%、日清紡ケミカル社製)に変更し、その使用量を26.4部としたこと、さらに、アクリル樹脂の使用量を73.6部に変更したこと以外は、保護層形成用塗工液1の調整と同様にして、保護層形成用塗工液5を調整した。塗工液におけるアクリル樹脂のカルボキシ基と、ポリマー系架橋剤のカルボジイミド基の含有比率は、モル比で1:1である。
【0056】
[保護層形成用塗工液6の調製]
アクリル樹脂のカルボキシ基と、ポリマー系架橋剤のオキサゾリン基の含有比率を1:0.3に変更したこと以外は、保護層形成用塗工液1の調整と同様にして、保護層形成用塗工液6を調整した。
【0057】
[保護層形成用塗工液7の調製]
アクリル樹脂のカルボキシ基と、ポリマー系架橋剤のオキサゾリン基の含有比率を1:2に変更したこと以外は、保護層形成用塗工液1の調整と同様にして、保護層形成用塗工液7を調整した。
【0058】
[保護層形成用塗工液8の調製]
ポリマー系架橋剤を使用しなかったこと以外は、保護層形成用塗工液1の調整と同様にして、保護層形成用塗工液8を調整した。
【0059】
[保護層形成用塗工液9の調製]
オキサゾリン基を含有するポリマー系架橋剤を、イソシアネート基を含有するモノマー系架橋剤(商品名:デュラネートTPA100、イソシアネート基量:5.50mmol/g、固形分濃度:100%、旭化成社製)に変更し、その使用量を7.2部としたこと、さらに、アクリル樹脂の使用量を92.8部に変更したこと以外は、保護層形成用塗工液1の調整と同様にして、保護層形成用塗工液9を調整した。塗工液におけるアクリル樹脂のカルボキシ基と、モノマー系架橋剤のイソシアネート基の含有比率は、モル比で1:1である。
【0060】
[無機微粒子分散液の調製]
ベーマイト構造(擬ベーマイト構造)を有するアルミナ水和物(商品名「Disperal HP14」、サソール社製)20部を、純水79.6部中に添加し、さらに酢酸0.4部を添加して解膠処理を行うことにより、20%の無機微粒子分散液を得た。無機微粒子分散液中におけるアルミナ水和物微粒子の平均粒子径(2次粒子径)は90nmであった。
【0061】
[水溶性樹脂水溶液の調製]
インク受容層用水溶性樹脂として、ポリビニルアルコール(商品名:PVA235、けん化度:87~89mol%、平均重合度:3,500、クラレ社製)をイオン交換水に溶解し、固形分含量が8%の水溶性樹脂水溶液を調製した。
【0062】
[インク受容層形成用塗工液の調製]
無機微粒子分散液100部に、ホウ酸を0.3部加えてスタティックミキサーで混合した後、水溶性樹脂水溶液を29.63部加えて、再度スタティックミキサーで混合し、インク受容層形成用塗工液を調整した。
【0063】
[接着粒子分散液の調製]
粒子状の接着剤(商品名:ボンディック1940NE、平均粒子径:0.62μm、DIC社製)5部に、イオン交換水10部を加えて、接着粒子分散液を調整した。
【0064】
[転写材11の製造]
基材の表面に、保護層形成用塗工液1を乾燥後の保護層の厚みが4μmになるように塗工した。塗工にはグラビアコーターを用い、塗工速度は10m/分、乾燥温度は100℃とした。次に、インク受容層形成用塗工液を乾燥後の受容層の厚みが26μmになるように保護層上に塗工した。塗工にはダイコーターを用い、塗工速度は5m/分、乾燥温度は100℃とした。更に、接着粒子分散液を乾燥後の接着層の厚みが2μmになるよう受容層上に塗工した。塗工にはグラビアコーターを用い、塗工速度は10m/分、乾燥温度は100℃とした。
【0065】
[転写材2の製造]
保護層形成用塗工液1の代わりに保護層形成用塗工液2を使用したこと以外は、転写材11と同様にして転写材12を製造した。
【0066】
[転写材3の製造]
保護層形成用塗工液1の代わりに保護層形成用塗工液3を使用したこと以外は、転写材11と同様にして転写材13を製造した。
【0067】
[転写材4の製造]
保護層形成用塗工液1の代わりに保護層形成用塗工液4を使用したこと以外は、転写材11と同様にして転写材14を製造した。
【0068】
[転写材5の製造]
保護層形成用塗工液1の代わりに保護層形成用塗工液5を使用したこと以外は、転写材11と同様にして転写材15を製造した。
【0069】
[転写材6の製造]
保護層形成用塗工液1の代わりに保護層形成用塗工液6を使用したこと以外は、転写材11と同様にして転写材16を製造した。
【0070】
[転写材7の製造]
保護層形成用塗工液1の代わりに保護層形成用塗工液7を使用したこと以外は、転写材11と同様にして転写材を17製造した。
【0071】
[転写材8の製造]
保護層形成用塗工液1の代わりに保護層形成用塗工液8を使用したこと以外は、転写材11と同様にして転写材18を製造した。
【0072】
[転写材9の製造]
保護層形成用塗工液1の代わりに保護層形成用塗工液9を使用したこと以外は、転写材11と同様にして転写材19を製造しようとしたが、塗工液9は粘性が高く、部分的に塊が生じていたことから、保護層を均一な厚みで形成することができなかった。
【0073】
(実施例1)
転写材11のインク受容層にインクジェットプリンタ(製品名:LX-P1700、キヤノンファインテックニスカ社製)を用いて86mm×54mmの黒色の単色画像を印刷した。インクは水性顔料インクを使用した。印刷時の条件は、吐出量:8pl、解像度:1200dpi、記録濃度:70%であった。
【0074】
その後、画像形成された転写材11の接着層を支持体であるPVCカードに当接し、転写材と支持体を重ねた状態でヒートローラーを用いて加熱加圧して接着し、その後、基材を剥離することで記録物101を作製した(図5(a)~(d)参照)。
【0075】
(実施例2~5)
転写材11を転写材12~15としたこと以外は実施例1と同様にして記録物102~105を作製した。使用した転写材と作製した記録物については表1に記載した。
【0076】
(参考例1および2)
転写材1を転写材16または17としたこと以外は実施例1と同様にして記録物106および107を得た。使用した転写材と作製した記録物については表2に記載した。
【0077】
(比較例1)
転写材1を転写材18としたこと以外は実施例1と同様にして記録物108を得た。使用した転写材と作製した記録物については表2に記載した。
【0078】
(比較例2)
転写材19の保護層が均一な厚みで形成できなかったため、記録物を作製しなかった。よって、後述する評価は行っていない。
【0079】
(保護層の耐摩耗性)
耐水研磨紙(商品名:DCCS#2000、三共理化学社製)と、学振試験機(製品名:AB-301、テスター産業社製)とを用いて、支持体に転写した保護層を往復摩耗し、保護層表面の状態を目視で観察しながら保護層が摩耗するまで試験を行い、摩耗するまでにかかった往復摩耗回数を保護層の膜厚さ1μm当たりに換算して評価した。得られた結果を表1及び表2に示す。表内の「耐摩耗性」における「〇」は往復摩耗回数が110回/μm以上であることを示し、「△」は往復摩耗回数が100回/μm以上であることを示し、「×」は往復摩耗回数が100回/μm未満であることを示す。
【0080】
(保護層の箔切れ性)
画像が形成された転写材を支持体であるPVCカードに加熱加圧して接着し、その後基材を剥離して保護層転写部分末端部と支持体端部との距離dを測定し、ばりの発生度合いを評価した(図5(d)参照)。得られた結果を表1及び表2に示す。表内の「箔切れ性」における「〇」は距離dが0.1mm未満であることを示し、「△」は距離dが0.1mm以上0.2mm未満であることを示し、「×」は距離dが0.2mm以上であることを示す。
【0081】
(保護層の耐屈曲性)
100mm×100mmの転写材を平行する2辺の中央で90°曲げた後、元の状態に戻して保護層の状態を目視で観察し、評価した。得られた結果を表1及び表2に示す。表内の「耐屈曲性」における「◎」は保護層に割れがないことを示し、「〇」は保護層に1mm未満の割れが発生していることを示し、「△」は保護層に1mm以上50mm未満の割れが発生していることを示し、「×」は保護層に50mm以上の割れが発生していることを示す。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【符号の説明】
【0084】
10:転写材
20:接着層
21:接着部
22:接着剤
23:露出部
30:インク受容層
40:保護層
50:基材
61:アクリル樹脂
62:オキサゾリン基含有ポリマー
63:架橋部
70:インクジェットヘッド
71:インク
72:画像
80:支持体
90:ヒートローラー
91:加圧ローラー
92:剥離ローラー
100:記録物
図1
図2
図3
図4
図5