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特開2022-101049フライホイール蓄電装置用フライホイール中実円盤ロータ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022101049
(43)【公開日】2022-07-06
(54)【発明の名称】フライホイール蓄電装置用フライホイール中実円盤ロータ
(51)【国際特許分類】
   F03G 3/08 20060101AFI20220629BHJP
   H02J 15/00 20060101ALI20220629BHJP
【FI】
F03G3/08 B
H02J15/00 A
F03G3/08 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020215403
(22)【出願日】2020-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】521344607
【氏名又は名称】ネクスファイ・テクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷本 智
(72)【発明者】
【氏名】中村 孝
(57)【要約】
【課題】限界エネルギー密度を飛躍的に向上させたフライホイール蓄電装置用フライホイール中実円盤ロータを提供する。
【解決手段】フライホイール蓄電装置に用いられ、円盤状のロータが中実に形成されたフライホイール中実円盤ロータ1において、フライホイール中実円盤ロータ1は、高降伏強度・低質量密度を備えた単結晶非金属固体により構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フライホイール蓄電装置に用いられ、円盤状のロータが中実に形成されたフライホイール中実円盤ロータにおいて、
前記フライホイール中実円盤ロータは、高降伏強度・低質量密度を備えた単結晶非金属固体により構成されていることを特徴とするフライホイール蓄電装置用フライホイール中実円盤ロータ。
【請求項2】
前記単結晶非金属固体は、その質量密度が4.0g/cm以下であることを特徴とする請求項1記載のフライホイール蓄電装置用フライホイール中実円盤ロータ。
【請求項3】
前記単結晶非金属固体は、六方晶またはダイヤモンド構造に属する結晶構造を備えていることを特徴とする請求項1記載のフライホイール蓄電装置用フライホイール中実円盤ロータ。
【請求項4】
前記フライホイール中実円盤ロータの回転軸は、六方晶の場合はc軸(<0001>軸)であること、ダイヤモンド構造の場合は<111>軸であることを特徴とする請求項3記載のフライホイール蓄電装置用フライホイール中実円盤ロータ。
【請求項5】
前記フライホイール中実円盤ロータの表面は、機械研磨によって形成された円滑表面を備えることを特徴とする請求項1~4の何れか1項記載のフライホイール蓄電装置用フライホイール中実円盤ロータ。
【請求項6】
前記単結晶非金属固体は、サファイヤ、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、シリコンのうちの何れかであることを特徴とする請求項1~5の何れか1項記載のフライホイール蓄電装置用フライホイール中実円盤ロータ。
【請求項7】
前記フライホイール中実円盤ロータの上面及び下面が、回転中心から半径方向に向けて厚みを減じるように面対称放射スロープを成していることを特徴とする請求項1~6の何れか1項記載のフライホイール蓄電装置用フライホイール中実円盤ロータ。
【請求項8】
前記フライホイール中実円盤ロータの面対称放射スロープは、中心から外周に向かって次第に厚みが薄くなる表面傾斜領域と、該表面傾斜領域に連続する外周に位置して厚みが一定となる定厚領域とを備えることを特徴とする請求項7記載のフライホイール蓄電装置用フライホイール中実円盤ロータ。
【請求項9】
前記フライホイール中実円盤ロータの表面傾斜領域の厚みをhとし、半径をrとし、中心の厚みをhとし、所定の係数をkとするとき、関係式h(r)=hexp(-kr)で表わされることを特徴とする請求項7または8記載のフライホイール蓄電装置用フライホイール中実円盤ロータ。
【請求項10】
前記フライホイール中実円盤ロータの上面と下面との少なくとも何れか一方の面の中心位置に、該フライホイール中実円盤ロータの回転軸に対して2回以上の回転対称性を有する回転シャフトアダプターが接合部を介して固設されていることを特徴とする請求項1~6の何れか1項記載のフライホイール蓄電装置用フライホイール中実円盤ロータ。
【請求項11】
前記フライホイール中実円盤ロータの上面と下面との少なくとも何れか一方の面の中心位置に、該フライホイール中実円盤ロータの回転軸に対して2回以上の回転対称性を有する回転シャフトアダプターが、該フライホイール中実円盤ロータと一体に形成されていることを特徴とする請求項1~6の何れか1項記載のフライホイール蓄電装置用フライホイール中実円盤ロータ。
【請求項12】
前記フライホイール中実円盤ロータの上面と下面との少なくとも何れか一方の面の中心位置に、該フライホイール中実円盤ロータと回転軸を共有し、該フライホイール中実円盤ロータと一体形成された円形または多回対称性のアダプター台座を設けたことを特徴とする請求項7~9の何れか1項記載のフライホイール蓄電装置用フライホイール中実円盤ロータ。
【請求項13】
前記フライホイール中実円盤ロータの上面と下面との両方に前記アダプター台座が設けられているとき、両アダプター台座間の距離は、前記フライホイール中実円盤ロータの回転中心の厚みより大となるように設定されていることを特徴とする請求項12記載のフライホイール蓄電装置用フライホイール中実円盤ロータ。
【請求項14】
前記フライホイール中実円盤ロータの前記アダプター台座の中心位置に、該フライホイール中実円盤ロータの回転軸に対して2回以上の回転対称性を有する回転シャフトアダプターが接合部を介して設けられていることを特徴とする請求項12または13記載のフライホイール蓄電装置用フライホイール中実円盤ロータ。
【請求項15】
前記回転シャフトアダプターは、6Al-4Vチタン合金や超々ジュラルミン(A7075P)等の、密度が低く、比強度が大きい金属が選択されることを特徴とする請求項10または14記載のフライホイール蓄電装置用フライホイール中実円盤ロータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力を回転体の運動エネルギーとして蓄積するフライホイール蓄電装置の主要要素であるフライホイールロータの限界質量エネルギー密度を向上させる技術に関する。以下「フライホイール」を「FW」と略記する場合がある。
【背景技術】
【0002】
FW蓄電装置は電力量と回転運動エネルギーを相互に変換する手段を介して、外部の電力を蓄電したり、逆に、外部に電力を給電したりする機能を備えた装置である。
【0003】
今日、普及している電気化学蓄電装置(所謂二次電池)と比較すると、低温環境でも高温環境でも安定して機能する、充放電を繰り返しても特性や寿命の劣化がほとんど起こらない、入出力密度を自在に設計変更できる、内部抵抗が小さい、など優れた特長を有している。
【0004】
この新しい蓄電装置を用いれば、二次電池利用の従来電気機器やシステムの耐環境性や省エネルギー、メンテナンス性の向上を図ることが可能である。こうした理由を背景にFW蓄電装置の一層の普及と適用領域の拡大が強く嘱望されている。
【0005】
FW蓄電装置の性能を向上させるための重要課題のひとつは、FWロータの限界エネルギー密度、即ち、単位質量当たりに蓄電できる限界エネルギーDFRを増大させることである。ここで使っている「限界」の意味は、FWロータ内部の回転応力最大値がロータ材の降伏強度σに達っした時の状態を指している。
【0006】
周知のように、FWロータは、回転質量円盤中央に貫通円孔があるか/ないかで、中空円盤(または円輪)ロータと中実円盤ロータとに大別されるが、本発明は単一材料から構成される中実円盤ロータの限界エネルギー密度DFRの向上に関わる発明である。
【0007】
中実円盤ロータの典型例として、例えば、下記特許文献1に記載されているものが知られている。同文献のFW蓄電装置では直径300mm、厚さ95mmのステンレス中実円盤を使用している。
【0008】
ステンレス以外の有望材料として、高強度マルエージング鋼や、高強度Ti合金や高強度Al合金などなる中実円盤ロータも実際試作されたり検討された(たとえば非特許文献1)。高強度Ti合金7AL-6Vを用いて、円盤の形状を工夫した場合には、限界エネルギー密度DFR=40.8 Wh/kgが得られるであろうことが示唆されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010-239796号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Thoolen, F. J. M. (1993). Development of an advanced high speed flywheel energy storage system.Eindhoven:Technische Universiteit Eindhoven.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来の中実円盤ロータにおいては、ロータ材料として金属が最適だとの伝統的コンセンサスのもと、ロータが検討されてきたため、限界エネルギー密度の値は金属の物性(密度や降伏強度など)に縛られ、結果として、限界エネルギー密度の改善が頭打ちになって行った、という問題があった。
【0012】
本発明は、上記の点を鑑み、従来の中実円盤金属ロータが示した限界エネルギー密度を大きく向上させたフライホイール蓄電装置用フライホイール中実円盤ロータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明は、フライホイール蓄電装置に用いられ、円盤状のロータが中実に形成されたフライホイール中実円盤ロータにおいて、前記フライホイール中実円盤ロータは、高降伏強度・低質量密度を備えた単結晶非金属固体により構成されていることを特徴とする。なお、本発明における単結晶非金属固体とは、サファイアなどの単結晶絶縁体や単結晶炭化ケイ素などの単結晶半導体を示すものとする。
【0014】
また、本発明において、前記単結晶非金属固体は、その質量密度が4.0g/cm以下であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明において、前記単結晶非金属固体は、六方晶またはダイヤモンド構造に属する結晶構造を備えていることを特徴とする。
【0016】
また、本発明において、前記フライホイール中実円盤ロータの回転軸は、六方晶の場合はc軸(<0001>軸)であること、ダイヤモンド構造の場合は<111>軸であることが望ましい。
【0017】
また、本発明において、前記フライホイール中実円盤ロータの表面は、機械研磨によって形成された円滑表面を備えることを特徴とする。なお、機械研磨は化学機械研磨であることが好ましい。
【0018】
また、本発明において、前記単結晶非金属固体は、サファイヤ、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、シリコンのうちの何れかであることを特徴とする。
【0019】
また、本発明において、前記フライホイール中実円盤ロータの上面及び下面が、回転中心から半径方向に向けて厚みを減じるように面対称放射スロープを成していることを特徴とする。
【0020】
また、本発明において、前記フライホイール中実円盤ロータの面対称放射スロープは、中心から外周に向かって次第に厚みが薄くなる表面傾斜領域と、該表面傾斜領域に連続する外周に位置して厚みが一定となる定厚領域とを備えることを特徴とする。
【0021】
また、本発明において、前記フライホイール中実円盤ロータの表面傾斜領域の厚みをhとし、半径をrとし、中心の厚みをhとし、所定の係数をkとするとき、関係式h(r)=hexp(-kr)で表わされることを特徴とする。
【0022】
また、本発明において、前記フライホイール中実円盤ロータの上面と下面との少なくとも何れか一方の面の中心位置に、該フライホイール中実円盤ロータの回転軸に対して2回以上の回転対称性を有する回転シャフトアダプターが接合部を介して固設されていることを特徴とする。
【0023】
また、本発明において、前記フライホイール中実円盤ロータの上面と下面との少なくとも何れか一方の面の中心位置に、該フライホイール中実円盤ロータの回転軸に対して2回以上の回転対称性を有する回転シャフトアダプターが、該フライホイール中実円盤ロータと一体に形成されていることを特徴とする。
【0024】
また、本発明において、前記フライホイール中実円盤ロータの上面と下面との少なくとも何れか一方の面の中心位置に、該フライホイール中実円盤ロータと回転軸を共有し、該フライホイール中実円盤ロータと一体形成された円形または多回対称性のアダプター台座を設けたことを特徴とする。
【0025】
また、本発明において、前記フライホイール中実円盤ロータの上面と下面との両方に前記アダプター台座が設けられているとき、両アダプター台座間の距離は、前記フライホイール中実円盤ロータの回転中心の厚みより大となるように設定されていることを特徴とする。
【0026】
また、本発明において、前記フライホイール中実円盤ロータの前記アダプター台座の中心位置に、該フライホイール中実円盤ロータの回転軸に対して2回以上の回転対称性を有する回転シャフトアダプターが接合部を介して設けられていることを特徴とする。
【0027】
また、本発明において、前記回転シャフトアダプターは、6Al-4Vチタン合金や超々ジュラルミン(A7075P)等の、密度が低く、比強度が大きい金属が選択されることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の第1実施形態によるフライホイール中実円盤ロータの構成を示す説明的断面図。
図2】第1実施形態によるフライホイール中実円盤ロータの材料を比較する図。
図3】本発明の第1実施形態第1変形例によるフライホイール中実円盤ロータの構成を示す説明的断面図。
図4】本発明の第1実施形態第2変形例によるフライホイール中実円盤ロータの構成を示す説明的断面図。
図5】本発明の第2実施形態によるフライホイール中実円盤ロータの構成を示す説明的断面図。
図6】第2実施形態によるフライホイール中実円盤ロータの材料を比較する図。
図7】本発明の第2実施形態第3変形例によるフライホイール中実円盤ロータの構成を示す説明的断面図。
図8】本発明の第2実施形態第4変形例によるフライホイール中実円盤ロータの構成を示す説明的断面図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
回転する中実円盤ロータの破壊には一般に最大応力破壊モデルが適用される。即ち、「破壊は円盤内で発生する最大応力が円盤材料の降伏強度σを超えたとき起こる」。
【0030】
この破壊モデルに従う中実円盤ロータの限界エネルギー密度DFRと降伏強度σy、密度ρには、特異な形状の場合を除いて、次のような簡単な関係があることが経験的に知られている。
FR = K(σy/ρ)・・・(1)
【0031】
ここで、Kは形状因子と呼称される0~1の間で変化する定数であって、円盤の形状や材料のポアソン比νなどで決まる。たとえば、中実円盤ロータが厚み一定の等方性正円盤である場合にはつぎのような簡単な式(2)で表される。
= 2/(3+ν)・・・(2)
【0032】
式(1)を参照すると、限界エネルギー密度DFRを増大させるためには、σyが大きく、ρが小さい材料を選択すればよいことは明らかである。ただし、その材料は所望の形状の中実円盤ロータに成形できることが前提であることは言うまでもない。
【0033】
さて、式(1)のσyは材料の種類や製造法によって数桁に渡って大きく変動する特性量であるのに対し、ρはせいぜい一桁程度の変化(1~14g/cm)に収まる物性値であることから、FW蓄電装置開発草創期の当業者たちが他の材料(セラミックス、ガラス、樹脂など)に比べて大きなσyを呈する金属をロータの基本材料に選定し、後継当業者が金属の中からσy/ρが最大になる金属種を絞り込んで改良を重ねてきた、という中実円盤ロータ開発の経過があった。
【0034】
その結果、冒頭で述べたとおり、中実円盤ロータの開発においては、限界エネルギー密度DFRの向上が停滞していた。
【0035】
本発明者らは、中実円盤ロータのDFRを向上させるため、従来技術の上記問題点や経緯をつぶさに分析し、調査と検討を鋭意重ねた結果、金属以外の材料の中実円盤ロータを着想し、このロータが同等または格段に高いDFRを生むことを解析的に確認した。
【0036】
即ち、本発明は、高降伏強度で低密度な単結晶非金属固体を用いて中実円盤ロータを構成し、更に、従来の金属性中実円盤ロータを超える限界エネルギー密度DFRを達成したものである。
【0037】
以下に、本発明の実施形態及びその変形例を図面を参照して説明する。ただし、これら図面では、理解を容易にするために、厚さと平面寸法との関係や各層の厚さの比率などは誇張して描いている。また、同一部材には同一符号を付して再度の説明は省略する。
【0038】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係るFW蓄電装置のFW中実円盤ロータ1である。記載の冗長を避けるため、以降「FW蓄電装置」や「FW」の繰り返し記述は省略する場合がある。
【0039】
第1実施形態の中実円盤ロータ1の形状は、直径L、厚みhの正円盤である。周知の精密切削加工で形成する。中実円盤ロータ1は正円の中心を回転軸11とし、3つの表面、即ち、上面12A、下面12B、側面13を備えている。
【0040】
第1実施形態の中実円盤ロータ1の材質は、高降伏強度を呈する非金属六方晶単結晶体(固体)である。そして、質量密度ρが4.0g/cm以下と低い(低質量密度)ことを特徴としている。
【0041】
この要件に適合する素材として、たとえば、六方晶酸化アルミニウム(サファイア)と六方晶炭化ケイ素(6H-SiC、4H-SiC)があるがこれに限らない。前者は既に直径40cmのインゴットが製造されている。後者は既に直径15cmのインゴットが製造されており、近年においては、直径20cmのインゴットが試作されている。
【0042】
第1実施形態の中実円盤ロータ1は、望ましくは回転軸11が六方晶のc軸(<0001>軸)と一致するように六方晶単結晶インゴットから切り出される。
【0043】
ロータ表面12A、12B、13には少なくとも精密機械研磨、望ましくは、化学機械研磨が施されている。これにより、外因性降伏(降伏強度の劣化)の要因となる結晶表面の傷(ノッチや欠け、クラック、ひっかき傷など)は除去されている。よって、第1実施形態の中実円盤ロータ1は、非金属単結晶体本来の降伏強度に近い降伏強度を呈することができる。
【0044】
つぎに、第1実施形態にかかる中実円盤ロータ1の効果を説明する。図2の第1列~第3列は、公開情報を基に収集した六方晶酸化アルミニウムと六方晶炭化ケイ素の密度ρ、降伏強度σy(公開最高値)、ポアソン比νを示している。更に、第4列には前式(2)から求めた中実円盤ロータ1の形状因子Kを示している。
【0045】
第5列は前記ρ、σy、を式(1)に代入して求めた中実円盤ロータ1の限界エネルギー密度DFR(SI単位をWh/kg単位に変換して表記)である。
【0046】
六方晶酸化アルミニウム中実円盤ロータ1でDFR >100Wh/kgを、六方晶炭化ケイ素中実円盤ロータ1でDFR >600Wh/kgを達成しているのが分る。これら限界エネルギー密度値は、従来の金属中実円盤ロータの最高値40.8Wh/kgを大きく超えている。
【0047】
つまり、この結果は、従来の中実円盤ロータはどれも金属性であっため、限界エネルギー密度の値は金属の特性(密度や降伏強度など)に縛られ、限界エネルギー密度を向上させるのが困難であった、という問題を解決していることを示している。
【0048】
[第1実施形態の第1変形例]
第1実施形態の中実円盤ロータ1(図1)を用いてFW蓄電装置に組み込むには、中実円盤ロータ1に回転シャフトを取り付ける必要がある。回転シャフトを中実円盤ロータ1に直接接合させる構造は可能である。しかし、この構成は製造しずらいばかりでなく、稼働中の不慮の事故で破損した中実円盤ロータ1を交換する場合、回転シャフトの取り外しの面倒さに加え、回転シャフトの交換をも余儀なくされるため、実用的だとは言えない。
【0049】
第1実施形態における第1変形例の中実円盤ロータ1Aは、この点を解決するために成されたもので、図3に示しているように、前記中実円盤ロータ1の上面または下面の少なくとも一方の面の中心位置に、回転シャフトアダプター14を設ける。回転シャフトアダプター14はロータの回転軸に対して2回以上の回転対称性を有する。回転シャフトアダプター14は中実円盤ロータ1Aと別体に形成され、後述の接合部を介して中実円盤ロータ1Aに固設される。
【0050】
この回転シャフトアダプター14は、基底部14Aと結合部14Bの一体構造からなり、基底部14Aの形状は特段の事情がないかぎり正円(=無限回対称)を選択するのが最も望ましい。
【0051】
一方、結合部14Bは形状は回転シャフト(非表示)の先端形状に合わせて比較的自由に設計してよいが、中実円盤ロータ1Aの回転アンバランスの発生を防ぐために、少なくとも2回対称以上の対称性(多回対称性)を備えることを要す。
【0052】
なお、回転シャフトアダプター14には、多回対称性を維持するようにして、ネジ止め用などのネジ孔やバカ孔を開孔したり、溝や突起を設けたりすることができる。
【0053】
回転シャフトアダプター14の接合面積(基底部14A裏面の直径)は、回転シャフトアダプター基底部14Aが中実円盤ロータ本体1より先に降伏しないという条件のもと、できるだけ大きくとることが望ましい。回転シャフトアダプター14の素材はできるだけ密度ρが低く、比強度σ/ρ(σ:降伏強度)が大きい金属が選択される。たとえば、6Al-4Vチタン合金や超々ジュラルミン(A7075P)が適している。
【0054】
回転シャフトアダプター14が6Al-4Vチタン合金の場合は、接合部は周知の活性金属ろう(たとえばAg65Cu28Ti2Sn5)を用いてロウ付けされる。また、超々ジュラルミン(A7075P)の場合は、Liなどを添加したアルミニウム箔を用いて熱拡散法で接合することができる。もちろん、ロウ付け接合法や熱拡散接合法以外の方法で接合しても構わない。このようにして回転シャフトアダプター14を備えた中実円盤ロータ1Aが製作される。
【0055】
[第1の実施形態の第2変形例]
第1実施形態の第2変形例は、前記第1実施形態の第1変形例における後付け回転シャフトアダプター14を、中実円盤ロータ本体1と一体で形成するように変更した場合である。
【0056】
第1実施形態の第2変形例に係る中実円盤ロータ1Bは、図4に示すように、第1実施形態で説明した中実円盤ロータ本体1と、中実円盤ロータ本体1と一体成型された回転シャフトアダプター15と、から成っている。一体成型の意味は、中実円盤ロータ本体1と回転シャフトアダプター15とは同じ単結晶非金属インゴットから切り出され、完成するまで一度も分離されず、結晶学的に連続していることを意味している。
【0057】
回転シャフトアダプター15は基底部15Aと結合部15Bからなる。基底部15Aは省いて、単純に結合部15Bだけからなる構造でもよい。基底部15Aの形状は特段の事情がないかぎり正円(=無限回対称)を選択するのが最も望ましい。正円でない場合は少なくとも2回対称以上の多回対称性を備えていることを要す。
【0058】
一方、結合部15Bは、形状は回転シャフト(非表示)の先端形状に合わせて比較的自由に設計できるが、中実円盤ロータ1Bに回転アンバランスが生じるのを防ぐために、少なくとも2回対称以上の対称性(多回対称性)を備えることを要す。
【0059】
なお、回転シャフトアダプター15にも、多回対称性を損なわないようにして、ネジ止め用などのネジ孔やバカ孔を開孔したり、溝や突起を設けたりすることができる。
【0060】
前述したように、中実円盤ロータ本体1と回転シャフトアダプター15とは結晶学的に連続しているので、結合部は、強度が非常に高く、ねじり疲労にも非常に強い。中実円盤ロータ1BはFWの回転を急加速/急減速させる用途のFW蓄電装置に適している。
【0061】
[第2実施形態]
等方性(または異方性が小さい)バルク材料で構成した図1のごとき形状のロータの厚みhを外周に向かって薄くなるよう傾斜させると、回転ロータに生じる最大回転応力が軽減されて、結果として、式(1)の形状因子Kが増大し、エネルギー密度DFRを向上させられることが知られている。ただし、傾斜させた上面12A及び下面12Bはロータの水平中心面24に対して面対称関係にあるものとする。
【0062】
本発明の中実円盤ロータの材料である非金属細密充填単結晶体は、上記条件に該当するバルク材料であるから、このテクニックを適用し、DFRをさらに向上させることができる。
【0063】
本発明の第2実施形態は、このような上下面傾斜型中実円盤ロータの典型的実施例である。
【0064】
図5は第2実施形態に係るFW蓄電装置のFW中実円盤ロータ2である。FW中実円盤ロータ2は、回転中心から半径方向に向けて厚みを減じるように面対称放射スロープを成している。このような形状のロータはDe Laval型ロータと呼ばれることがある。
【0065】
中実円盤ロータ2は回転軸21を中心に置いた外周直径がL、外周半径b(=L/2)の円盤である。周知の精密切削加工で形成する。中実円盤ロータ2は3つの表面、即ち、上面22A、下面22B、側面23を備えている。上面22Aと下面22Bは円盤の水平中心面24に対して面対称である。
【0066】
中心から半径rの地点の上面22Aと下面22Bの距離、即ち、厚みをh(r)とすると、中実円盤ロータ2は、中心から外周に向かって厚みhが薄くなって行く表面傾斜領域25Aと、厚みhが一定の定厚領域25Bとに区分される。図中の半径aは表面傾斜領域25Aと定厚領域25Bの境界となる地点である。
【0067】
中実円盤ロータ2の中心の厚みはh、定厚領域25Bの厚みはhである。表面傾斜領域25Aの厚みは式h(r)=hexp(-kx)で表される。ここで、kは所定の定数である。
【0068】
第2実施形態の中実円盤ロータ2の材質は第1実施形態の中実円盤ロータ1と同じである。即ち、高降伏強度を呈する非金属単結晶体(固体)であり、質量密度が4.0g/cm以下であることを特徴としている。この要件に適合する素材として、たとえば、六方晶酸化アルミニウム(サファイア)と六方晶炭化ケイ素(6H-SiC、4H-SiC)があるがこれに限定されない。
【0069】
第2実施形態の中実円盤ロータ2は望ましくは回転軸21が六方晶のc軸(<0001>軸)と一致するように六方晶単結晶インゴットから切り出される。
【0070】
ロータ表面22A、22B、23の仕上げも第1実施形態の中実円盤ロータ1と同様で、精密機械研磨、望ましくは、化学機械研磨が施されている。この操作によって外因性降伏(降伏強度の劣化)の要因となる結晶表面の傷(ノッチや欠け、クラック、ひっかき傷など)は除去される。
【0071】
つぎに第2実施形態にかかる中実円盤ロータ2の効果を説明する。中実円盤ロータ2は半径aとb、または、厚みhとhの組み合わせで、様々なK値を有するロータを形成できるが、ここでは、従来技術の中実円盤ロータや第1実施形態の中実円盤ロータ1に対する優位性(効果)を明示するのが主目的であるから、h/h=0.5の場合を代表例にして説明する。h/h=0.5のとき最大のDFR(K)値を与える半径aとbの比はa/b=0.61になる。
【0072】
図6は六方晶酸化アルミニウムと六方晶炭化ケイ素で形成した第2実施形態の中実円盤ロータ2から得られる限界エネルギー密度DFRを記載するとともに、前記第1実施形態の中実円盤ロータ1のDFR と、従来の金属中実円盤ロータのDFR(最高値)を比較している。
【0073】
六方晶酸化アルミニウムの中実円盤ロータ2では中実円盤ロータ1より約30%高いDFR >130Wh/kgを、六方晶炭化ケイ素の中実円盤ロータ2では同様に中実円盤ロータ1より約30%高いDFR >850Wh/kgを達成しているのが分る。これら限界エネルギー密度値は、従来の金属中実円盤ロータの最高値40.8Wh/kgを大きく超えている。
【0074】
この結果は、従来の中実円盤ロータはどれも材質が金属であっため、限界エネルギー密度の値が金属の特性(密度や降伏強度など)に縛られ、限界エネルギー密度を向上させるのが困難であった、という従来の問題を解決していると言うことができる。
【0075】
[第2実施形態の第3変形例]
第2実施形態の中実円盤ロータ2(図5)は上面22A、下面22Bが曲面であるから、第1実施形態の第1変形例にかかる中実円盤ロータ1A(図3)で見たような回転シャフトアダプター14を接合で付設するのは難しい。本第3変形例はこの第2実施形態の問題を解決するためのロータ構造を提供することができる。
【0076】
図7は、第2実施形態の第3変形例にかかるFW中実円盤ロータ2Aの構造である。中実円盤ロータ2Aは前記中実円盤ロータ本体2(図5)と、中実円盤ロータ本体2Aと一体成型された上下1対のアダプター台座26と、から成っている。
【0077】
一体成型の意味は、中実円盤ロータ本体2Aとアダプター台座26とは同じ単結晶非金属インゴットから切り出され、両者は一度も分離されず結晶学的に連続していることを意味している。なお、片持ち式のロータの場合は1対の一方台座は省略してもよい。
【0078】
アダプター台座26の外形は、特段の事情がないかぎり正円(=無限回対称)であることが最も望ましい。正円にできない場合は少なくとも2回対称以上の多回対称性を備えていることを要す。アダプター台座26の中心軸は円盤ロータ本体2Aの中心軸と一致している。アダプター台座の上面26Aは円盤ロータ本体2Aの水平中心面24と平行である。
【0079】
アダプター台座26に載置するシャフトアダプターが中実円盤ロータ本体領域と直接接合して(接合部を介して)、中実円盤ロータ本体2の回転応力緩和効果が減じるのを防ぐために、1対のアダプター台座26の面間距離hは少なくとも中実円盤ロータ本体2の中心の厚みhより大きく(h>h)設定される。
【0080】
中実円盤ロータ2Aは、周知の精密切削加工で形成する。中実円盤ロータ2Aのすべての表面は、第1実施形態中実円盤ロータ1と同様に、精密機械研磨が、望ましくは、化学機械研磨が施されている。この操作によって、外因性降伏(降伏強度の劣化)の要因となる結晶表面の傷(ノッチや欠け、クラック、ひっかき傷など)は除去される。
【0081】
このようにして完成した中実円盤ロータ2Aのアダプター台座上面27に、前記回転シャフトアダプター15(第1実施形態第1変形例)を接合すれば、中実円盤ロータ2AをFW蓄電装置の回転シャフトに自在に接続できるようになる。
【0082】
[第2実施形態の第4変形例]
第2実施形態の第4変形例は、前述した第2実施形態の傾斜型中実円盤ロータ本体に回転シャフトアダプターを一体形成したことを特徴とする中実円盤ロータである。
【0083】
第2実施形態の第4変形例に係る中実円盤ロータ2Bは、図8に示すように、第2実施形態の中実円盤ロータ本体2と、中実円盤ロータ本体2と一体成型された回転シャフトアダプター29と、から成っている。
【0084】
一体成型の意味は、中実円盤ロータ本体2と回転シャフトアダプター29とは同じ単結晶非金属インゴットから切り出され、完成するまで一度も分離されず、結晶学的に連続していることを意味している。
【0085】
回転シャフトアダプター29は、基底部29Aと結合部29Bからなる。基底部29Aは、外径が円形であって、前記第2実施形態第3変形例のアダプター台座上面26Aに相当する。ただし、アダプター台座上面26Aほどの面積(直径)は要しない。外径を正円にできない場合は少なくとも2回対称以上の多回対称性を確保する。
【0086】
一方、結合部29Bは、形状は回転シャフト(非表示)の先端形状に合わせて比較的自由に設計できるが、中実円盤ロータ2Bに回転アンバランスが生じるのを防ぐために、少なくとも2回対称以上の対称性(多回対称性)を備えることを要す。
【0087】
なお、回転シャフトアダプター29にも、多回対称性を損なわない制限のもと、ネジ止め用などのネジ孔やバカ孔を開孔したり、溝や突起を設けたりすることができる。
【0088】
中実円盤ロータ2Bは周知の精密切削加工で形成する。すべての表面は、第1実施形態の中実円盤ロータ1と同様に、少なくとも精密機械研磨が、望ましくは化学機械研磨が、施されている。この操作によって外因性降伏(降伏強度の劣化)の要因となる結晶表面の傷(ノッチや欠け、クラック、ひっかき傷など)は除去される。
【0089】
このようにして完成した中実円盤ロータ2Bは、回転シャフトアダプター29を備えているので、FW蓄電装置の回転シャフトに自在に接続できるようになる。
【0090】
中実円盤ロータ本体2Bと回転シャフトアダプター29とは結晶学的に連続しているので、結合部は、強度が非常に高く、ねじりに対する疲労にも非常に強い。中実円盤ロータ1BはFWの回転を急加速/急減速させる用途のFW蓄電装置に適している。
【0091】
[その他の実施形態]
本発明のFW中実円盤ロータに適用される非金属単結晶体は、前記各実施形態で説明した六方晶酸化アルミニウム(サファイヤ)と六方晶炭化ケイ素(4H-SiC、6H-SiC)とに限定されない。これら材料のほかに、ダイヤモンド構造単結晶シリコンと六方晶窒化アルミニウムを用いてもよい。
【0092】
単結晶シリコンは直径300mmのインゴットが製造され、すでに450mmのインゴットが試作されている。<111>軸を回転軸とした単結晶シリコンで第2実施形態のごとき傾斜型中実円盤ロータを形成すると限界エネルギー密度DFR >55Wh/kgが達成できる。
【0093】
六方晶窒化アルミニウムは50mmのインゴットが製造され、75mmのインゴットが試作されている。c軸を回転軸とした六方晶窒化アルミニウムで中実円盤ロータを形成すると酸化アルミニウム(サファイヤ)中実円盤ロータの限界エネルギー密度を凌ぐDFR が達成できる。
【符号の説明】
【0094】
1,1A,1B,2,2A,2B…フライホイール中実円盤ロータ
11,21…ロータ回転軸
12A,22A…ロータ上面
12B,22B…ロータ下面
13,23B…ロータ側面
14、15、29…回転シャフトアダプター
14A,15A,29A…アダプター基底部
14B,15B,29B…アダプター結合部
24…水平中心面
25A…表面傾斜領域
25B…定厚領域
26…アダプター台座
26A…台座上面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8