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特開2022-101057官能基含有酸変性ポリオレフィン及び官能基含有酸変性ポリオレフィンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022101057
(43)【公開日】2022-07-06
(54)【発明の名称】官能基含有酸変性ポリオレフィン及び官能基含有酸変性ポリオレフィンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/32 20060101AFI20220629BHJP
   C08F 8/50 20060101ALI20220629BHJP
   C08F 8/46 20060101ALI20220629BHJP
   C08G 81/02 20060101ALI20220629BHJP
【FI】
C08F8/32
C08F8/50
C08F8/46
C08G81/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020215418
(22)【出願日】2020-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】596056896
【氏名又は名称】株式会社三栄興業
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 大輔
(72)【発明者】
【氏名】高村 厚
【テーマコード(参考)】
4J031
4J100
【Fターム(参考)】
4J031AA12
4J031AA53
4J031AB01
4J031AC07
4J031AD01
4J031BA28
4J100AA03P
4J100CA01
4J100HA35
4J100HA45
4J100HA51
4J100HC28
4J100HC46
4J100HC47
(57)【要約】
【課題】本発明は、ポリオレフィンの適用範囲をさらに広げることができる官能基含有酸変性ポリオレフィンを提供する。
【解決手段】ポリオレフィンの熱分解により得られた、少なくともポリオレフィン鎖の主鎖の末端に二重結合を有する二重結合含有ポリオレフィンと、不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物と、の反応生成物である酸変性ポリオレフィンに、末端官能性ポリマー化合物、多価アミン化合物及びアミノアルコール化合物からなる群から選択された少なくとも1種の官能基含有化合物が反応して得られる官能基含有酸変性ポリオレフィン。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィンの熱分解により得られた、少なくともポリオレフィン鎖の主鎖の末端に二重結合を有する二重結合含有ポリオレフィンと、不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物と、の反応生成物である酸変性ポリオレフィンに、末端官能性ポリマー化合物、多価アミン化合物及びアミノアルコール化合物からなる群から選択された少なくとも1種の官能基含有化合物が反応して得られる官能基含有酸変性ポリオレフィン。
【請求項2】
前記不飽和ジカルボン酸がマレイン酸であり、前記不飽和ジカルボン酸無水物が無水マレイン酸である請求項1に記載の官能基含有酸変性ポリオレフィン。
【請求項3】
前記二重結合含有ポリオレフィンの数平均分子量が、1,000以上である請求項1または2に記載の官能基含有酸変性ポリオレフィン。
【請求項4】
前記不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物の含量が、0.5質量%以上5.0質量%以下である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の官能基含有酸変性ポリオレフィン。
【請求項5】
前記官能基含有化合物の含量が、0.5質量%以上20.0質量%以下である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の官能基含有酸変性ポリオレフィン。
【請求項6】
前記末端官能性ポリマー化合物が、片末端または両末端にヒドロキシル基を有するアルコールである請求項1乃至5のいずれか1項に記載の官能基含有酸変性ポリオレフィン。
【請求項7】
前記官能基含有化合物が、片末端または両末端にアミノ基を有する化合物である請求項1乃至5のいずれか1項に記載の官能基含有酸変性ポリオレフィン。
【請求項8】
前記末端官能性ポリマー化合物が、ポリオール化合物である請求項1乃至5のいずれか1項に記載の官能基含有酸変性ポリオレフィン。
【請求項9】
前記末端官能性ポリマー化合物が、アクリル酸エステル化合物である請求項1乃至5のいずれか1項に記載の官能基含有酸変性ポリオレフィン。
【請求項10】
前記末端官能性ポリマー化合物が、シリコーン化合物である請求項1乃至5のいずれか1項に記載の官能基含有酸変性ポリオレフィン。
【請求項11】
前記多価アミン化合物が、1級アミノ基を2つ以上有するアミン化合物である請求項1乃至5のいずれか1項に記載の官能基含有酸変性ポリオレフィン。
【請求項12】
前記アミノアルコール化合物が、1級アミノ基を1つと水酸基を1つ有する化合物である請求項1乃至5のいずれか1項に記載の官能基含有酸変性ポリオレフィン。
【請求項13】
前記官能基含有酸変性ポリオレフィンのポリオレフィン鎖の主鎖の末端のみが、前記不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物で変性されている請求項1乃至12のいずれか1項に記載の官能基含有酸変性ポリオレフィン。
【請求項14】
前記官能基含有酸変性ポリオレフィンのポリオレフィン鎖が、エチレン、プロピレン及び/または1-ブテンを構成単位とするポリオレフィン鎖である請求項13に記載の官能基含有酸変性ポリオレフィン。
【請求項15】
前記官能基含有酸変性ポリオレフィンのポリオレフィン鎖の主鎖の末端と側鎖が、前記不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物で変性されている請求項1乃至12のいずれか1項に記載の官能基含有酸変性ポリオレフィン。
【請求項16】
前記官能基含有酸変性ポリオレフィンのポリオレフィン鎖が、4-メチルペンテンを構成単位とするポリオレフィン鎖である請求項15に記載の官能基含有酸変性ポリオレフィン。
【請求項17】
前記官能基含有酸変性ポリオレフィンのポリオレフィン鎖が、シクロオレフィンを構成単位とするシクロオレフィンポリマーである請求項15に記載の官能基含有酸変性ポリオレフィン。
【請求項18】
ポリオレフィンの熱分解により得られた、少なくともポリオレフィン鎖の主鎖の末端に二重結合を有する二重結合含有ポリオレフィンを用意する工程と、
用意された前記二重結合含有ポリオレフィンを加熱処理することにより溶融して、二重結合含有ポリオレフィンの溶融物を得る工程と、
前記二重結合含有ポリオレフィンの溶融物に、有機過酸化物の不存在下、不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物を添加して、前記二重結合含有ポリオレフィンを、前記不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物と反応させて前記不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物で変性して酸変性ポリオレフィンを得る工程と、
前記酸変性ポリオレフィンを溶融または有機溶媒に溶解した後、末端官能性ポリマー化合物、多価アミン化合物及びアミノアルコール化合物からなる群から選択された少なくとも1種の官能基含有化合物を添加して、前記酸変性ポリオレフィンに前記官能基含有化合物を導入する官能基含有酸変性ポリオレフィンの製造方法。
【請求項19】
前記不飽和ジカルボン酸がマレイン酸であり、前記不飽和ジカルボン酸無水物が無水マレイン酸である請求項18に記載の官能基含有酸変性ポリオレフィンの製造方法。
【請求項20】
前記二重結合含有ポリオレフィンの数平均分子量が、1,000以上である請求項18または19に記載の官能基含有酸変性ポリオレフィンの製造方法。
【請求項21】
前記官能基含有酸変性ポリオレフィン中における前記不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物の含量が、0.5質量%以上5.0質量%以下となるように、前記不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物を添加する請求項18乃至20のいずれか1項に記載の官能基含有酸変性ポリオレフィンの製造方法。
【請求項22】
前記官能基含有酸変性ポリオレフィン中における前記官能基含有化合物の含量が、0.5質量%以上20.0質量%以下となるように、前記官能基含有化合物を添加する請求項18乃至21のいずれか1項に記載の官能基含有酸変性ポリオレフィンの製造方法。
【請求項23】
前記二重結合含有ポリオレフィンの溶融物が、有機溶媒を含まない請求項18乃至22のいずれか1項に記載の官能基含有酸変性ポリオレフィンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、官能基化ポリオレフィンである官能基含有酸変性ポリオレフィン及び前記官能基含有酸変性ポリオレフィンの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン等のポリオレフィンは、耐油性、耐薬品性等に優れ、環境負荷も低減できるといった優れた特性を有している。近年、このようなポリオレフィンの特性を利用して、ポリマー組成物に配合する添加剤等、種々の用途への適用が検討されている。
【0003】
しかしながら、ポリオレフィンは非極性の高分子化合物であり、また、官能基を導くことが困難であることから、極性基や官能基を有する高分子化合物との相互作用が乏しい。従って、ポリオレフィンは、極性基や官能基を有する高分子化合物との混合が困難であることから、適用範囲が限定されるという問題がある。ポリオレフィンの適用範囲を広げるために、例えば、ポリオレフィンに極性基や官能基を導入する手法が試みられている。
【0004】
極性基や官能基を導入したポリオレフィン、例えば、両末端部に極性基や官能基を有するポリオレフィン誘導体として、本発明者らは、ポリオレフィンの精密熱分解により得られる両末端二重結合含有ポリオレフィンを出発原料として、両末端がマレイン化されたマレイン化オリゴオレフィンとジアミノアルキルポリジメチルシロキサンとを共重合させたマルチブロック共重合体を提案している(特許文献1)。
【0005】
また、ポリオレフィンを熱減成して得られる末端二重結合ポリオレフィンから酸変性した低分子量ポリオレフィンを製造することが提案されている(特許文献2)。特許文献2では、実施例にて、数平均分子量5000の低分子量ポリプロピレンから酸価13.2の無水マレイン酸変性低分子量ポリプロピレンを製造している。無水マレイン酸変性低分子量ポリプロピレンの酸含有量は1.7%、一分子当たりのマレイン酸量は1.2個程度である。反応条件は、反応温度195℃であり、反応時間は10時間と長時間が必要となっている。
【0006】
また、酸変性ポリオレフィンの製造方法としては、一般的には、原料ポリオレフィンに無水マレイン酸と有機過酸化物を添加し、二軸押出機などを用いて溶融混練することが開示されている(特許文献3)。しかし、有機過酸化物を添加する特許文献3では、無水マレイン酸の導入量はポリオレフィン1分子当たり1個以下となり、官能基の導入量が十分でない場合がある。また、特許文献3では、ポリオレフィン分子鎖のランダムな位置に無水マレイン酸が導入され、ポリオレフィンが低分子量となってしまうので、ポリオレフィンの適用範囲を広げる点で改善する必要があった。特に、ポリオレフィン分子鎖のランダムな位置に無水マレイン酸が導入され、また、酸変性ポリオレフィンが低分子量であると、酸変性ポリオレフィンの融点が低下することで耐熱性が得られないという問題があった。
【0007】
酸変性ポリオレフィンに含まれる無水マレイン酸にアミノアルコールを反応させることで水酸基を導入する方法が開示されている(特許文献4)。この方法で用いられる酸変性ポリオレフィンの無水マレイン酸付加率は0.45質量%から1.21質量%であり、そこから合成された水酸基含有ポリプロピレンワックスの水酸基含有量は2.20~4.21meq/gとなっている。その一方で、水酸基含有ポリプロピレンワックスの分子量や融点が明記されておらず、また、分子構造が明確ではないため、添加剤としては利用できる可能性もあるが、ポリマー原材料として用いるには困難である。他に特許文献5、6のような方法もあるが、本質的には特許文献4と同じである。
【0008】
上記と同様の方法で多価アミン化合物を反応させることで1級アミノ基を導入する方法が開示されている(特許文献7、8、9、10)。この方法も上記と同様にポリマー原材料として用いるには困難である。
【0009】
特許文献11には構造が明確な片末端マレイン酸ポリイソブチレンを用いてジアミンと反応させることで、片末端にアミノ基を導入する方法を開示している。ポリイソブチレンは常温で液状であり、片末端にしか官能基を持たないため、高融点のポリプロピレンかつ両末端に官能基を有するポリマーよりも応用範囲が格段に狭くなる。
【0010】
さらには、近年、ポリオレフィンの適用範囲をさらに広げるにあたり、ポリオレフィンの適用分野によっては、上記したマレイン酸等により変性された酸変性ポリオレフィン以外の他の変性ポリオレフィンが要求される場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002-161141号公報
【特許文献2】特開平3-91547号公報
【特許文献3】特開2017-171828号公報
【特許文献4】特開平8-34860号公報
【特許文献5】特開2019-210359号公報
【特許文献6】特開2020-37687号公報
【特許文献7】特開平8-34887号公報
【特許文献8】特開2007-246871号公報
【特許文献9】特開2013-166921号公報
【特許文献10】特開2019-23716号公報
【特許文献11】特開2020-97714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記事情に鑑み、本発明は、ポリオレフィンの適用範囲をさらに広げることができる官能基含有酸変性ポリオレフィン及び官能基含有酸変性ポリオレフィンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の構成の要旨は以下の通りである。
[1]ポリオレフィンの熱分解により得られた、少なくともポリオレフィン鎖の主鎖の末端に二重結合を有する二重結合含有ポリオレフィンと、不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物と、の反応生成物である酸変性ポリオレフィンに、末端官能性ポリマー化合物、多価アミン化合物及びアミノアルコール化合物からなる群から選択された少なくとも1種の官能基含有化合物が反応して得られる官能基含有酸変性ポリオレフィン。
[2]前記不飽和ジカルボン酸がマレイン酸であり、前記不飽和ジカルボン酸無水物が無水マレイン酸である[1]に記載の官能基含有酸変性ポリオレフィン。
[3]前記二重結合含有ポリオレフィンの数平均分子量が、1,000以上である[1]または[2]に記載の官能基含有酸変性ポリオレフィン。
[4]前記不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物の含量が、0.5質量%以上5.0質量%以下である[1]乃至[3]のいずれか1つに記載の官能基含有酸変性ポリオレフィン。
[5]前記官能基含有化合物の含量が、0.5質量%以上20.0質量%以下である[1]乃至[4]のいずれか1つに記載の官能基含有酸変性ポリオレフィン。
[6]前記末端官能性ポリマー化合物が、片末端または両末端にヒドロキシル基を有するアルコールである[1]乃至[5]のいずれか1つに記載の官能基含有酸変性ポリオレフィン。
[7]前記官能基含有化合物が、片末端または両末端にアミノ基を有する化合物である[1]乃至[5]のいずれか1つに記載の官能基含有酸変性ポリオレフィン。
[8]前記末端官能性ポリマー化合物が、ポリオール化合物である[1]乃至[5]のいずれか1つに記載の官能基含有酸変性ポリオレフィン。
[9]前記末端官能性ポリマー化合物が、アクリル酸エステル化合物である[1]乃至[5]のいずれか1つに記載の官能基含有酸変性ポリオレフィン。
[10]前記末端官能性ポリマー化合物が、シリコーン化合物である[1]乃至[5]のいずれか1つに記載の官能基含有酸変性ポリオレフィン。
[11]前記多価アミン化合物が、1級アミノ基を2つ以上有するアミン化合物である[1]乃至[5]のいずれか1つに記載の官能基含有酸変性ポリオレフィン。
[12]前記アミノアルコール化合物が、1級アミノ基を1つと水酸基を1つ有する化合物である[1]乃至[5]のいずれか1つに記載の官能基含有酸変性ポリオレフィン。
[13]前記官能基含有酸変性ポリオレフィンのポリオレフィン鎖の主鎖の末端のみが、前記不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物で変性されている[1]乃至[12]のいずれか1つに記載の官能基含有酸変性ポリオレフィン。
[14]前記官能基含有酸変性ポリオレフィンのポリオレフィン鎖が、エチレン、プロピレン及び/または1-ブテンを構成単位とするポリオレフィン鎖である[13]に記載の官能基含有酸変性ポリオレフィン。
[15]前記官能基含有酸変性ポリオレフィンのポリオレフィン鎖の主鎖の末端と側鎖が、前記不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物で変性されている[1]乃至[12]のいずれか1つに記載の官能基含有酸変性ポリオレフィン。
[16]前記官能基含有酸変性ポリオレフィンのポリオレフィン鎖が、4-メチルペンテンを構成単位とするポリオレフィン鎖である[15]に記載の官能基含有酸変性ポリオレフィン。
[17]前記官能基含有酸変性ポリオレフィンのポリオレフィン鎖が、シクロオレフィンを構成単位とするシクロオレフィンポリマーである[15]に記載の官能基含有酸変性ポリオレフィン。
[18]ポリオレフィンの熱分解により得られた、少なくともポリオレフィン鎖の主鎖の末端に二重結合を有する二重結合含有ポリオレフィンを用意する工程と、
用意された前記二重結合含有ポリオレフィンを加熱処理することにより溶融して、二重結合含有ポリオレフィンの溶融物を得る工程と、
前記二重結合含有ポリオレフィンの溶融物に、有機過酸化物の不存在下、不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物を添加して、前記二重結合含有ポリオレフィンを、前記不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物と反応させて前記不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物で変性して酸変性ポリオレフィンを得る工程と、
前記酸変性ポリオレフィンを溶融または有機溶媒に溶解した後、末端官能性ポリマー化合物、多価アミン化合物及びアミノアルコール化合物からなる群から選択された少なくとも1種の官能基含有化合物を添加して、前記酸変性ポリオレフィンに前記官能基含有化合物を導入する官能基含有酸変性ポリオレフィンの製造方法。
[19]前記不飽和ジカルボン酸がマレイン酸であり、前記不飽和ジカルボン酸無水物が無水マレイン酸である[18]に記載の官能基含有酸変性ポリオレフィンの製造方法。
[20]前記二重結合含有ポリオレフィンの数平均分子量が、1,000以上である[18]または[19]に記載の官能基含有酸変性ポリオレフィンの製造方法。
[21]前記官能基含有酸変性ポリオレフィン中における前記不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物の含量が、0.5質量%以上5.0質量%以下となるように、前記不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物を添加する[18]乃至[20]のいずれか1つに記載の官能基含有酸変性ポリオレフィンの製造方法。
[22]前記官能基含有酸変性ポリオレフィン中における前記官能基含有化合物の含量が、0.5質量%以上20.0質量%以下となるように、前記官能基含有化合物を添加する[18]乃至[21]のいずれか1つに記載の官能基含有酸変性ポリオレフィンの製造方法。
[23]前記二重結合含有ポリオレフィンの溶融物が、有機溶媒を含まない[18]乃至[22]のいずれか1つに記載の官能基含有酸変性ポリオレフィンの製造方法。
【0014】
上記態様における「熱分解」とは、精密熱分解が挙げられる。精密熱分解とは、本発明者らが開発した精密熱分解法(高度制御熱分解法)(Macromolecules,28,7973(1995)参照。)による熱分解を意味する。従って、「ポリオレフィンの熱分解により得られた、少なくともポリオレフィン鎖の主鎖の末端に二重結合を有する二重結合含有ポリオレフィン」は、原料ポリオレフィンに対して上記精密熱分解法(高度制御熱分解法)を用いた熱分解処理を実施することで得ることができる、原料ポリオレフィンの熱分解生成物である。また、「二重結合含有ポリオレフィン」の二重結合としては、エチレン性の二重結合が挙げられる。
【0015】
なお、本明細書中、「酸変性ポリオレフィン」とは、不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物で変性されたポリオレフィンを意味する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の官能基含有酸変性ポリオレフィンは、ポリオレフィンの熱分解により得られた、少なくともポリオレフィン鎖の主鎖の末端に二重結合を有する二重結合含有ポリオレフィンと、不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物と、の反応生成物である酸変性ポリオレフィンに、末端官能性ポリマー化合物、多価アミン化合物及びアミノアルコール化合物からなる群から選択された少なくとも1種の官能基含有化合物が反応して得られることにより、酸変性ポリオレフィンの骨格を有するだけではなく、反応性と極性の高い官能基である水酸基及び/またはアミノ基がポリオレフィンに導入されている。従って、本発明の官能基含有酸変性ポリオレフィンによれば、極性基や官能基を有する高分子化合物に対する混合性及び反応性の向上や、塗料の密着性や濡れ性の向上によって、ポリオレフィンの適用範囲をさらに広げることができる。
【0017】
本発明の官能基含有酸変性ポリオレフィンによれば、不飽和ジカルボン酸がマレイン酸であり、不飽和ジカルボン酸無水物が無水マレイン酸であることにより、ポリオレフィンの適用範囲をさらに確実に広げることができる。
【0018】
本発明の官能基含有酸変性ポリオレフィンによれば、二重結合含有ポリオレフィンの数平均分子量が3,000以上であることにより、ポリオレフィンの適用範囲をさらに広げつつ、耐熱性が得られる。
【0019】
本発明の官能基含有酸変性ポリオレフィンによれば、不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物の含量が0.5質量%以上5.0質量%以下であることにより、酸変性ポリオレフィン骨格に起因した、極性基や官能基を有する高分子化合物との相互作用性を得つつ、官能基含有酸変性ポリオレフィンの融点の低下が防止されているので、ポリオレフィンの適用範囲をさらに広げつつ、耐熱性が得られる。
【0020】
本発明の官能基含有酸変性ポリオレフィンによれば、官能基含有化合物の含量が0.5質量%以上20.0質量%以下であることにより、極性基や官能基を有する高分子化合物に対する相互作用性と反応性がより確実に向上しつつ、構造が明確なプレポリマーであるため分子設計がしやすい。さらに極性基が分子鎖末端にあることにより異素材との接着性や塗装性の改善に効果を発揮しやすい。
【0021】
本発明の官能基含有酸変性ポリオレフィンの製造方法によれば、変性対象である二重結合含有ポリオレフィンを加熱処理により溶融物の状態として、有機過酸化物の不存在下、不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物を添加することにより、二重結合含有ポリオレフィンの分子量と融点と比較して、分子量の低下と融点の低下が防止された酸変性ポリオレフィンを得ることができる。従って、上記製造方法で得られた官能基含有酸変性ポリオレフィンを用いることにより、ポリオレフィンの適用範囲をさらに広げつつ、耐熱性に優れた成形品を形成することができる。
【0022】
本発明の官能基含有酸変性ポリオレフィンの製造方法で、分子量の低下と融点の低下が防止された官能基含有酸変性ポリオレフィンを得ることができるのは、有機過酸化物の不存在下で、二重結合含有ポリオレフィンの溶融物を不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物で変性することから、変性対象である二重結合含有ポリオレフィンのランダムな位置に不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物が導入されることを抑制し、また、変性対象である二重結合含有ポリオレフィンの分解を適度に抑制するためと考えられる。なお、一般的に、不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物の導入量が多くなると、官能基含有酸変性ポリオレフィンの融点が低下する傾向がある。
【0023】
本発明の官能基含有酸変性ポリオレフィンの製造方法によれば、二重結合含有ポリオレフィンの溶融物が有機溶媒を含まないことにより、有機過酸化物の不存在下でも、より確実に、変性対象である二重結合含有ポリオレフィンを不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物で変性することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<官能基含有酸変性ポリオレフィン>
まず、本発明の官能基含有酸変性ポリオレフィンについて説明する。本発明の官能基含有酸変性ポリオレフィンは、ポリオレフィンの熱分解により得られた、少なくともポリオレフィン鎖の主鎖の末端に二重結合を有する二重結合含有ポリオレフィンと、不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物と、の反応生成物である酸変性ポリオレフィンに、末端官能性ポリマー化合物、多価アミン化合物及びアミノアルコール化合物からなる群から選択された少なくとも1種の官能基含有化合物が反応して得られる。
【0025】
本発明の官能基含有酸変性ポリオレフィンは、変性対象である二重結合含有ポリオレフィン(すなわち、少なくともポリオレフィン鎖の主鎖の末端に二重結合を有する二重結合含有ポリオレフィン)に不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物が付加することで、ポリオレフィン骨格に不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物が導入された酸変性ポリオレフィンを得、さらに、得られた酸変性ポリオレフィンの不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物由来の部位に末端官能性ポリマー化合物、多価アミン化合物及びアミノアルコール化合物からなる群から選択された少なくとも1種の官能基含有化合物が導入された化合物である。従って、本発明の官能基含有酸変性ポリオレフィンは、少なくともポリオレフィン鎖に不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物と前記官能基含有化合物が導入されている。
【0026】
変性対象である二重結合含有ポリオレフィンに不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物が付加している化学構造としては、例えば、変性対象である二重結合含有ポリオレフィン末端の二重結合に、不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物のエチレン性不飽和結合がエン反応して不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物が付加した化学構造が挙げられる。すなわち、二重結合含有ポリオレフィンの末端に不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物由来の化学構造が付加されている。このとき、二重結合含有ポリオレフィンの主鎖の末端に位置する二重結合が、不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物のエン反応(付加反応)に寄与するので、酸変性ポリオレフィンは、不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物の導入部に二重結合を有している。
【0027】
また、官能基含有化合物が末端アミノ基である場合、不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物の不飽和結合が反応して二重結合含有ポリオレフィンに導入された不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物に由来するカルボニル基の少なくとも一部と、末端アミノ基に由来する窒素原子とにより、アミド結合が形成されている。また、官能基含有化合物が末端水酸基である場合、不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物の不飽和結合が反応して二重結合含有ポリオレフィンに導入された不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物に由来するカルボニル基の少なくとも一部と、末端水酸基に由来する酸素原子とにより、エステル結合が形成されている。
【0028】
官能基含有化合物と酸変性ポリオレフィンとの反応時には、酸変性ポリオレフィンのマレイン酸のモル数よりも官能基含有化合物の官能基のモル数を多くする必要がある。酸変性ポリオレフィンに対して等モル以下で官能基含有化合物を仕込むと、官能基含有化合物の官能基が全て酸変性ポリオレフィンと反応したり、官能基含有化合物の官能基数が3以上の場合は架橋反応により不溶不融の生成物を与えるためである。
【0029】
上記から、本発明の官能基含有酸変性ポリオレフィンは、二重結合含有ポリオレフィンの末端に、不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物が付加反応し、不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物由来の化学構造との少なくとも一部と前記官能基含有化合物とによりアミド結合またはエステル結合を有するとともに、前記官能基含有化合物に由来する水酸基またはアミノ基を有すると考えられる。
【0030】
本発明の官能基含有酸変性ポリオレフィンによれば、酸変性ポリオレフィンの骨格を有するだけではなく、反応性と極性の高い官能基である水酸基及び/またはアミノ基がポリオレフィンに導入されているので、極性基や官能基を有する高分子化合物に対する混合性(相互作用性)及び反応性の向上や、塗料の密着性や濡れ性の向上によって、ポリオレフィンの適用範囲をさらに広げることができる。
【0031】
特に、本発明における官能基含有酸変性ポリオレフィンは市販の変性ポリプロピレンとは異なり、分子鎖の末端にのみ官能基を有することが可能であることからポリプロピレン本来の特性を失うことが防止されつつ、官能基の付与が可能となっている。一方で、市販の変性ポリプロピレンは過酸化物を用いた変性方法であるために、ポリプロピレンの分子鎖をランダムに変性するので、結晶性や強度が失われている。また、本発明における官能基含有酸変性ポリオレフィンでは、官能基が分子鎖内に存在するシクロオレフィンポリマーなども分解の程度を調整することで本来の特性を保ったまま変性することが可能となる。
【0032】
本発明における官能基含有酸変性ポリオレフィンでは、導入された官能基は結晶性ポリマー内では非晶質に存在し、固体物性を高める効果がある。例えば、官能基同士の水素結合などで、素材の硬度を高めたり、伸長性を高めることができる。また、本発明における官能基含有酸変性ポリオレフィンでは、熱分解による低分子量化を補填するだけでなく、溶融時にはより低粘度化し、固化時には高強度をもたらす。
【0033】
本発明における官能基含有酸変性ポリオレフィンでは、特に、末端にのみ官能基を有するポリプロピレンにおいては、様々な官能基に容易に変換できることでプレポリマーとしての利用価値が非常に高くなる。例えば、ポリウレタンやエポキシ樹脂の新しい構造の明確なプレポリマーとして利用しやすい材料である。また、本発明における官能基含有酸変性ポリオレフィンでは、柔軟性や耐熱性を高める効果が期待できる。また、本発明における官能基含有酸変性ポリオレフィンでは、官能基が分子鎖内に存在するシクロオレフィンポリマーなどでもプレポリマーとして利用することも可能である。シクロオレフィンポリマーは透明性に優れた素材であり、高ガラス転移温度から低ガラス転移温度まで幅広く展開しており、透明性を活かした利用だけでなく、高耐熱性を活かした利用も可能である。
【0034】
二重結合含有ポリオレフィン
官能基含有酸変性ポリオレフィンとしては、例えば、ポリオレフィン鎖である二重結合含有ポリオレフィンの主鎖の末端のみが、不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物で変性されている官能基含有酸変性ポリオレフィンを挙げることができる。すなわち、官能基含有酸変性ポリオレフィンとしては、例えば、二重結合含有ポリオレフィンの側鎖が、不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物で変性されていない官能基含有酸変性ポリオレフィンを挙げることができる。二重結合含有ポリオレフィンの主鎖の末端のみが不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物で変性されている化学構造としては、主鎖の片末端のみが不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物で変性されていてもよく、主鎖の両末端ともに不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物で変性されていてもよい。
【0035】
二重結合含有ポリオレフィンの主鎖の末端のみが不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物で変性されている二重結合含有ポリオレフィン骨格としては、例えば、鎖状オレフィンのポリマーが挙げられる。より具体的には、例えば、炭素数2~10の鎖状オレフィンのモノマーを構成単位とするポリオレフィン鎖、好ましくは炭素数3~5の鎖状オレフィンのモノマーを構成単位とするポリオレフィン鎖が挙げられる。炭素数2~10の鎖状オレフィンのモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン等が挙げられる。側鎖が不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物で変性されていない二重結合含有ポリオレフィン骨格を構成する鎖状オレフィンのモノマーは、1種でもよく、2種以上を併用してもよい。鎖状オレフィンのモノマーが1種であるポリオレフィン鎖としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(1-ブテン)等が挙げられる。鎖状オレフィンのモノマーを2種以上併用する場合には、二重結合含有ポリオレフィンは、共重合体である。
【0036】
特に、ポリプロピレンにおいて、プロピレンのみのポリマーでイソタクチック性のポリプロピレン、いわゆるホモPPと呼ばれるポリプロピレンは高機械強度であり、高融点である。これを原料とした場合は成形体用の添加剤としての用途に有利である。一方で、プロピレンとエチレンや1-ブテンなどのα―オレフィンとの共重合体は、いわゆるブロックPPとランダムPPと呼ばれ、前者は耐衝撃性の高いポリプロピレンであり、成形体用の添加剤として、有効である。後者は溶剤可溶なものもあり、塗料や接着剤向けの用途に有利である。
【0037】
また、官能基含有酸変性ポリオレフィンとしては、例えば、ポリオレフィン鎖である二重結合含有ポリオレフィンの主鎖の末端と側鎖が不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物で変性されている官能基含有酸変性ポリオレフィンを挙げることができる。すなわち、官能基含有酸変性ポリオレフィンとしては、例えば、二重結合含有ポリオレフィンの側鎖が、不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物で変性されている官能基含有酸変性ポリオレフィンを挙げることができる。上記官能基含有酸変性ポリオレフィンでは、側鎖が不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物で変性されているので、分子鎖中に不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物の化学構造が導入されている。二重結合含有ポリオレフィンの側鎖が不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物で変性されている官能基含有酸変性ポリオレフィンとしては、官能基含有酸変性ポリオレフィンの二重結合含有ポリオレフィンの主鎖の末端と側鎖とが、不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物で変性されているポリオレフィンが挙げられる。二重結合含有ポリオレフィンの主鎖の末端が不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物で変性されている化学構造としては、主鎖の片末端のみが不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物で変性されていてもよく、主鎖の両末端ともに不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物で変性されていてもよい。
【0038】
二重結合含有ポリオレフィンの側鎖が不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物で変性されている二重結合含有ポリオレフィン骨格としては、例えば、鎖状オレフィンのポリマー、環状オレフィン(シクロオレフィン)のポリマーが挙げられる。より具体的には、例えば、鎖状オレフィンのポリマーの場合には、例えば、炭素数5~10の鎖状オレフィンのモノマーを構成単位とするポリオレフィン鎖、好ましくは炭素数6~8の鎖状オレフィンのモノマーを構成単位とするポリオレフィン鎖が挙げられる。炭素数5~10の鎖状オレフィンのモノマーとしては、例えば、4-メチルペンテン等が挙げられる。側鎖が不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物で変性されている二重結合含有ポリオレフィン骨格を構成する鎖状オレフィンのモノマーは、1種でもよく、2種以上を併用してもよい。鎖状オレフィンのモノマーが1種であるポリオレフィン鎖としては、例えば、ポリ(4-メチルペンテン)等が挙げられる。
【0039】
側鎖が不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物で変性されている二重結合含有ポリオレフィン骨格としては、環状オレフィン(シクロオレフィン)のポリマーの場合には、例えば、シクロペンタン骨格を有するオレフィンのポリマーが挙げられる。環状オレフィン(シクロオレフィン)のポリマーは、環状オレフィン(シクロオレフィン)の重合体でもよく、環状オレフィン(シクロオレフィン)と上記した鎖状オレフィンとの共重合体でもよい。
【0040】
二重結合含有ポリオレフィンの数平均分子量は、特に限定されないが、その下限値は、官能基含有酸変性ポリオレフィンの適用範囲をさらに広げつつ耐熱性が得られる点から、1,000が好ましく、耐熱性をより確実に得る点から、5,000がより好ましく、10,000が特に好ましい。一方で、二重結合含有ポリオレフィンの数平均分子量の上限値は、官能基含有酸変性ポリオレフィンの熱溶融物に流動性を付与して射出成形等の際の成形性を確実に得る点と不飽和ジカルボン酸と官能基含有化合物の導入効果を得る点から、100,000が好ましく、30,000が特に好ましい。なお、本明細書では、数平均分子量(Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)測定により測定した分子量を意味する。
【0041】
不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物
不飽和ジカルボン酸としては、例えば、α,β-不飽和カルボン酸が挙げられ、具体例としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、アリルコハク酸、メサコン酸等が挙げられる。不飽和ジカルボン酸無水物としては、例えば、α,β-不飽和カルボン酸の無水物が挙げられ、具体例としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、アリルコハク酸、メサコン酸等の無水物が挙げられる。これらのうち、官能基含有酸変性ポリオレフィンの適用範囲をさらに確実に広げることができる点から、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、無水マレイン酸が特に好ましい。これらの化合物は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
無水マレイン酸が二重結合含有ポリオレフィンに付加反応して酸変性ポリオレフィンが得られる模式図を以下に示す。
【0043】
【化1】
【0044】
不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物の含量(導入量)は、特に限定されないが、その下限値は、酸変性ポリオレフィン骨格に起因した、極性基や官能基を有する高分子化合物との相互作用性を得てポリオレフィンの適用範囲を確実に広げる点から、官能基含有酸変性ポリオレフィン1分子あたり、すなわち、官能基含有酸変性ポリオレフィン100質量%中に、0.5質量%が好ましく、0.8質量%がより好ましく、1.0質量%が特に好ましい。一方で、不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物の含量(導入量)の上限値は、官能基含有酸変性ポリオレフィンの融点の低下を防止して耐熱性が得られる点から、官能基含有酸変性ポリオレフィン100質量%中に、5.0質量%が好ましく、4.0質量%が特に好ましい。なお、不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物の含量(導入量)は、酸価の測定や赤外分光法にて測定することができる。
【0045】
官能基含有化合物
官能基含有化合物は、末端官能性ポリマー化合物、多価アミン化合物及びアミノアルコール化合物からなる群から選択された少なくとも1種の化合物である。官能基含有化合物が酸変性ポリオレフィンに導入されることで、官能基含有酸変性ポリオレフィンが得られる。従って、官能基含有酸変性ポリオレフィンの官能基は、官能基含有化合物由来の官能基である。官能基含有化合物の官能基の数は1つ以上であればよく、片末端官能性ポリマー化合物、両末端官能性ポリマー化合物でもよい。
【0046】
末端官能性ポリマー化合物としては、例えば、ポリオール化合物が挙げられる。ポリオール化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、テトラメチレングリコールを構成成分としているものが特に好ましい。また、ポリオール化合物としては、エチレンオキサイドやプロピレンオキサイドなどを構成成分としているものが挙げられる。エチレンオキサイドやプロピレンオキサイドなどを構成成分としているポリオール化合物としては、HUNTSMAN社製のJEFFAMINなどが挙げられる。これらのポリオール化合物は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
また、末端官能性ポリマー化合物としては、例えば、ポリアクリル酸エステル化合物が挙げられる。ポリアクリル酸エステル化合物は、アミノ基を含むラジカル開始剤を用いたアクリル酸エステル化合物の重合により得られる。また、ポリアクリル酸エステル化合物は、アミノ基を含まないラジカル開始剤を用いた場合でもアミノ基を含む連鎖移動剤を重合に共存させることで容易に得ることが出来る。ポリアクリル酸エステル化合物は酸変性ポリオレフィンに導入後にエステル結合を分解してアクリル酸にすることも可能である。
【0048】
また、末端官能性ポリマー化合物としては、例えば、シリコーン化合物が挙げられる。シリコーン化合物としては、信越シリコーン株式会社製の樹脂改質用変性シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0049】
末端官能性ポリマー化合物の官能基としては、例えば、両末端水酸基が挙げられ、具体的には、例えば、下記一般式(1)
【化2】
(式中、Rは、ポリオール化合物の水酸基以外の構造、ポリアクリル酸エステル構造、またはシリコーン構造を表す。)で表されるジオール化合物(ジアルコール化合物)が挙げられる。
【0050】
末端官能性ポリマー化合物の官能基としては、例えば、片末端水酸基が挙げられ、具体的には、下記一般式(5)
【化3】
(式中、Rは、ポリオール化合物の水酸基以外の構造、ポリアクリル酸エステル構造、またはシリコーン構造を表す。)で表されるモノオール化合物(モノアルコール化合物)が挙げられる。
【0051】
これらのうち、酸変性ポリオレフィンへの導入が容易であり、酸変性ポリオレフィン骨格の有する特性が損なわれるのを防止する点から、Rは、炭素数1~5個の鎖式脂肪族炭化水素基が好ましく、メタンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコールが特に好ましい。これらのモノオール化合物及びポリオール化合物は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0052】
一般式(1)で表されるジオール化合物が酸変性ポリオレフィンに付加反応して官能基含有酸変性ポリオレフィンが得られる模式図を以下に示す。
【化4】
【0053】
上記のように、官能基含有化合物がポリオール化合物の場合には、官能基含有酸変性ポリオレフィンの官能基は、ポリオール化合物由来の水酸基である。
【0054】
多価アミン化合物は、モノマーである。多価アミン化合物としては、例えば、下記一般式(2)
【化5】
(式中、Rは、炭素数1~15個の鎖式脂肪族炭化水素基(該鎖式脂肪族炭化水素基を構成する炭素原子が炭素原子以外の原子(例えば、窒素原子)に置換されていてもよい。)を表す。)で表される1級アミノ基を2つ有するアミン化合物、下記一般式(3)
【化6】
(式中、Rは、炭素数1~15個の鎖式脂肪族炭化水素基(該鎖式脂肪族炭化水素基を構成する炭素原子が炭素原子以外の原子(例えば、窒素原子)に置換されていてもよい。)を表す。)で表される1級アミノ基を3つ有するアミン化合物が挙げられる。
【0055】
これらのうち、酸変性ポリオレフィンへの導入が容易であり、酸変性ポリオレフィン骨格の有する特性が損なわれるのを防止する点から、R及びRは、炭素数2~10個の鎖式脂肪族炭化水素基(該鎖式脂肪族炭化水素基を構成する炭素原子が炭素原子以外の原子(例えば、窒素原子)に置換されていてもよい。)が好ましい。多価アミン化合物の具体例としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等が挙げられる。
【0056】
また、上記以外の多価アミン化合物としては、例えば、メンセンジアミン、イソフォロンジアミン、ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン、1,3-ジアミノシクロヘキサン等の脂環式アミン、メタキシリレンジアミン等の脂肪芳香族アミン、o-、m-、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、2,4-ジアミノアニソール、2,4-トルエンジアミン、2,4-ジアミノジフェニルアミン、ジアミノジキシリルスルホン等の芳香族アミン類が挙げられる。これらの多価アミン化合物は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0057】
一般式(2)で表される多価アミン化合物が酸変性ポリオレフィンに付加反応して官能基含有酸変性ポリオレフィンが得られる模式図を以下に示す。
【化7】
【0058】
上記のように、官能基含有化合物が多価アミン化合物の場合には、官能基含有酸変性ポリオレフィンの官能基は、多価アミン化合物由来のアミノ基である。
【0059】
アミノアルコール化合物は、モノマーである。アミノアルコール化合物としては、例えば、下記一般式(4)
【化8】
(式中、Rは、炭素数1~10個の鎖式脂肪族炭化水素基(該鎖式脂肪族炭化水素基を構成する炭素原子が炭素原子以外の原子(例えば、酸素原子、窒素原子)に置換されていてもよい。)、炭素数3~10個の環式脂肪族炭化水素基(該環式脂肪族炭化水素基を構成する炭素原子が炭素原子以外の原子(例えば、酸素原子、窒素原子)に置換されていてもよい。)、芳香族炭化水素基、または複素環を表す。)で表される、1級アミノ基を1つと水酸基を1つ有する化合物が挙げられる。
【0060】
一般式(4)で表される1級アミノ基を1つと水酸基を1つ有する化合物としては、具体的には、例えば、2-アミノエタノール、3-アミノ-1-プロパノール、4-アミノ-1-ブタノール、5-アミノ-1-ペンタノール、6-アミノ-1-ヘキサノール、2-アミノ-1-ブタノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-メチルアミノ-2-メチル-1-プロパノール、N-アミノエチルエタノールアミン、2-(2-アミノエトキシ)エタノール、アミノフェノール、2-アミノフェネチルアルコール、4-アミノフェネチルアルコール、アミノベンジルアルコール、2-アミノ-4-メチルフェノール、2-アミノ-5-メチルフェノール、5-アミノ-2-メチルフェノール等が挙げられる。これらのうち、酸変性ポリオレフィンへの導入が容易であり、酸変性ポリオレフィン骨格の有する特性が損なわれるのを防止する点から、Rは、炭素数1~5個の鎖式脂肪族炭化水素基が好ましい。
【0061】
他のアミノアルコール化合物としては、例えば、3-アミノ-1,2-プロパンジオール、3-アミノ-1,3-プロパンジオール、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-(3-アミノプロピルアミノ)エタノール、2-アミノ-2-エチル-1,3-プロパンジオール、トリス(ヒドロキシルメチル)アミノメタン等が挙げられる。これらのアミノアルコール化合物は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0062】
一般式(4)で表されるアミノアルコール化合物が酸変性ポリオレフィンに付加反応して官能基含有酸変性ポリオレフィンが得られる模式図を以下に示す。
【化9】
【0063】
上記のように、官能基含有化合物がアミノアルコール化合物の場合には、官能基含有酸変性ポリオレフィンの官能基は、アミノアルコール化合物由来の水酸基である。
【0064】
官能基含有化合物の含量(導入量)は、特に限定されないが、その下限値は、極性基や官能基を有する高分子化合物に対する相互作用性と反応性がより確実に向上する点から、官能基含有酸変性ポリオレフィン1分子あたり、すなわち、官能基含有酸変性ポリオレフィン100質量%中に、0.5質量%が好ましく、3.0質量%がより好ましく、5.0質量%が特に好ましい。一方で、官能基含有化合物の含量(導入量)の上限値は、官能基の反応性や接着、塗装性改善の点から、官能基含有酸変性ポリオレフィン100質量%中に、20.0質量%が好ましく、10.0質量%が特に好ましい。なお、官能基含有化合物の含量(導入量)は、赤外分光法などにて測定することができる。
【0065】
官能基含有酸変性ポリオレフィンの数平均分子量は、特に限定されないが、その下限値は、極性基や官能基を有する高分子化合物との相互作用性を得てポリオレフィンの適用範囲をさらに広げつつ耐熱性が得られる点から、1,100が好ましく、耐熱性をより確実に得る点から、5,200がより好ましく、10,300が特に好ましい。一方で、官能基含有酸変性ポリオレフィンの数平均分子量の上限値は、官能基含有酸変性ポリオレフィンの熱溶融物に流動性を付与して射出成形等の際の成形性を確実に得る点から、11,000が好ましく、36,000が特に好ましい。
【0066】
<官能基含有酸変性ポリオレフィンの製造方法>
次に、官能基含有酸変性ポリオレフィンの製造方法について説明する。本発明の官能基含有酸変性ポリオレフィンの製造方法は、(1)ポリオレフィンの熱分解により得られた、少なくともポリオレフィン鎖の主鎖の末端に二重結合を有する二重結合含有ポリオレフィンを用意する工程(二重結合含有ポリオレフィン用意工程)と、(2)用意された前記二重結合含有ポリオレフィンを加熱処理することにより溶融して、二重結合含有ポリオレフィンの溶融物を得る工程(二重結合含有ポリオレフィン溶融工程)と、(3)前記二重結合含有ポリオレフィンの溶融物に、有機過酸化物の不存在下、不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物を添加する工程(不飽和ジカルボン酸添加工程)と、(4)前記二重結合含有ポリオレフィンを、前記不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物と反応させて前記不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物で変性して酸変性ポリオレフィンを得る工程(酸変性工程)と、(5)前記酸変性ポリオレフィンを溶融または有機溶媒に溶解した後、末端官能性ポリマー化合物、多価アミン化合物及びアミノアルコール化合物からなる群から選択された少なくとも1種の官能基含有化合物を添加して、前記酸変性ポリオレフィンに前記官能基含有化合物を導入する工程(官能基導入工程)と、を含む。
【0067】
(1)二重結合含有ポリオレフィン用意工程
二重結合含有ポリオレフィン用意工程では、不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物での変性対象である二重結合含有ポリオレフィンを用意する。用意する二重結合含有ポリオレフィンは、少なくともポリオレフィン鎖の主鎖の末端に二重結合を有する。二重結合含有ポリオレフィンは、原料ポリオレフィンの熱分解により得られるポリオレフィンである。「熱分解」とは、上記の通り、精密熱分解が挙げられる。
【0068】
精密熱分解は、精密熱分解用熱分解装置にて実施することができる。精密熱分解用熱分解装置は、特に限定されないが、回分式装置、連続式装置が挙げられる。回分式装置の例としては、Journal of Polymer Science:Polymer Chemistry Edition, 21, 703(1983)に開示された装置が挙げられる。より具体的には、パイレックス(登録商標)ガラス製熱分解装置の反応容器内に原料ポリオレフィン(例えば、ポリプロピレン)を供給して、減圧下、溶融ポリマー相を窒素ガスで激しくバブリングし、揮発性生成物を抜き出すことにより、2次反応を抑制しながら、所定温度で所定時間、熱分解反応させる。原料ポリオレフィンの熱分解反応が終了した後、反応容器中の残存物を熱キシレンに溶解し、濾過後、アルコールで再沈殿させて熱分解生成物を精製する。再沈殿物を濾過回収して、真空乾燥することにより、二重結合含有ポリオレフィン(例えば、両末端二重結合含有ポリプロピレン)が得られる。
【0069】
連続式装置は、反応容器内に原料ポリオレフィンを連続的に供給し、供給された原料ポリオレフィンを熱分解しながら、順次、反応容器の出口方向へ反応容器中を移動できる構造を有している。連続式装置の反応容器は、供給された原料ポリオレフィンを溶融するための予熱ゾーン、原料ポリオレフィンを熱分解するための高温加熱ゾーン、原料ポリオレフィンを固化しやすくするための予備冷却ゾーンを備えている。上記したそれぞれのゾーンは、独立していてもよく、一体型となっていてもよい。精密熱分解用熱分解装置としては、二重結合含有ポリオレフィンの収率が向上する点及び生産性の点から、連続式装置が好ましい。
【0070】
精密熱分解用熱分解装置の高温加熱ゾーンを加熱する方法は、特に限定されず、例えば、電気式ヒーター、火炎などが挙げられる。このうち、温度制御や運転の安全性の観点から、電気式ヒーターが好ましい。なお、高温加熱ゾーンを加熱するにあたり、精密熱分解用熱分解装置内で原料ポリオレフィンを撹拌する際に発生する剪断発熱を有効に活用することも可能である。
【0071】
精密熱分解用熱分解装置内では、発生するガスの除去や熱分解を均一に進めることができる点から、原料ポリオレフィンは、撹拌されることが好ましい。原料ポリオレフィンの撹拌速度は、精密熱分解用熱分解装置の形状と撹拌羽根の形状により適宜選択可能であり、発生するガスを確実に除去しつつ熱分解をより確実に均一に進める点から、50rpm以上5000rpm以下が好ましい。なお、1000rpmを超える高回転域では剪断発熱が発生するが、発生する熱を有効に活用して効率よく加熱することが望ましい。
【0072】
熱分解条件は、熱分解前の原料ポリオレフィンの分子量から二重結合含有ポリオレフィンの分子量を予測し、予め実施した実験の結果を勘案して調整する。原料ポリオレフィンの熱分解温度としては、300~500℃の範囲が好ましい。300℃より低い温度ではポリオレフィンの熱分解反応が充分に進行しない傾向があり、500℃より高い温度ではポリオレフィンの劣化が十分に制御できない傾向がある。
【0073】
本発明では、用意する二重結合含有ポリオレフィンの数平均分子量が、例えば、好ましくは1,000以上、特に好ましくは5,000以上100,000以下となるように、熱分解前の原料ポリオレフィンの分子量を選択し、また、熱分解条件を調整する。
【0074】
用意する二重結合含有ポリオレフィンの二重結合数は、特に限定されないが、その下限値は、高分子化合物との相互作用性を得てポリオレフィンの適用範囲を確実に広げる官能基含有酸変性ポリオレフィンを得る点から、二重結合含有ポリオレフィン1分子あたり、1.3個が好ましく、1.5個が特に好ましい。一方で、二重結合数の上限値は、官能基含有酸変性ポリオレフィンの融点の低下を確実に防止する点から、二重結合含有ポリオレフィン1分子あたり、1.9個が好ましく、1.8個が特に好ましい。なお、二重結合数は、ヨウ素価の測定や核磁気共鳴装置にて測定することができる。
【0075】
精密熱分解法では、原料ポリオレフィンの立体規則性及びモノマー組成を保持した化学構造を有する、二重結合含有ポリオレフィンを得ることができる。例えば、原料ポリオレフィンが鎖状オレフィンのポリマーの場合には、熱分解生成物として二重結合を有する鎖状オレフィンのポリマーを得ることができ、原料ポリオレフィンが環状オレフィン(シクロオレフィン)のポリマーの場合には、熱分解生成物として二重結合を有する環状オレフィン(シクロオレフィン)のポリマーを得ることができる。より具体的には、原料ポリオレフィンがポリプロピレンの場合には、熱分解生成物として末端に二重結合を有するポリプロピレン、原料ポリオレフィンがポリ(1-ブテン)の場合には、熱分解生成物として末端に二重結合を有するポリ(1-ブテン)、原料ポリオレフィンがポリ(4-メチルペンテン)の場合には、熱分解生成物として末端に二重結合を有し、さらに側鎖(分子鎖内)に二重結合を有するポリ(4-メチルペンテン)を、それぞれ、得ることができる。
【0076】
(2)二重結合含有ポリオレフィン溶融工程
二重結合含有ポリオレフィン溶融工程では、不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物での変性対象である二重結合含有ポリオレフィンを加熱処理して溶融することで、二重結合含有ポリオレフィンの溶融物を得る。
【0077】
二重結合含有ポリオレフィンの加熱処理は、二重結合含有ポリオレフィンの融点以上の温度で行う。二重結合含有ポリオレフィンの加熱温度の下限は、二重結合含有ポリオレフィンの融点以上であれば、特に限定されないが、後述する二重結合含有ポリオレフィンと不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物との反応の促進の点から、150℃以上が好ましく、180℃以上が特に好ましい。また、二重結合含有ポリオレフィンの加熱温度の上限は、副反応抑制の点から、250℃以下が好ましく、230℃以下が特に好ましい。
【0078】
また、二重結合含有ポリオレフィンの溶融物には、有機溶媒が含まれていないことが好ましい。有機溶媒不含の二重結合含有ポリオレフィンの溶融物とすることにより、後述するように、有機過酸化物の不存在下でも、より確実に、変性対象である二重結合含有ポリオレフィンを不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物で変性することができる。
【0079】
(3)不飽和ジカルボン酸添加工程
不飽和ジカルボン酸添加工程は、二重結合含有ポリオレフィンの溶融物に、有機過酸化物の不存在下、不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物を添加する工程である。すなわち、本発明の製造方法では、不飽和ジカルボン酸添加工程やその後の酸変性工程を含め、有機過酸化物は使用されない。
【0080】
従来、マレイン酸や無水マレイン酸等の不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物をポリオレフィンへ導入するには、有機過酸化物を添加して、ラジカル反応により行っていた。有機過酸化物としては、例えば、t-ブチルヒドロキペルオキシド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、過酸化ベンゾイル等が使用されていた。しかし、有機過酸化物を添加すると、その後の酸変性工程で、ポリオレフィンのランダムな位置にマレイン酸や無水マレイン酸等の不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物が導入され、また、ポリオレフィンが低分子量となってしまう。ポリオレフィンのランダムな位置に不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物が導入され、また、酸変性ポリオレフィンが低分子量であると、酸変性ポリオレフィンの融点が低下することで、耐熱性が得られず、従って、官能基含有酸変性ポリオレフィンから形成される成形品の耐熱性が得られない。
【0081】
しかし、本発明の製造方法では、有機過酸化物の不存在下で、溶融状態の二重結合含有ポリオレフィンを不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物で変性することにより、変性対象である二重結合含有ポリオレフィンのランダムな位置に不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物が導入されることを抑制し、また、変性対象である二重結合含有ポリオレフィンの分解を適度に抑制する。従って、本発明の製造方法では、二重結合含有ポリオレフィンの分子量と融点と比較して、分子量の低下と融点の低下が防止された酸変性ポリオレフィンを得ることができる。すなわち、本発明の製造方法では、ポリオレフィンの酸変性後における、分子量の低下と融点の低下を抑制できる。上記から、本発明の製造方法で得られた官能基含有酸変性ポリオレフィンを用いることにより、ポリオレフィン(官能基含有酸変性ポリオレフィン)の適用範囲をさらに広げつつ、耐熱性に優れた成形品を形成することができる。
【0082】
二重結合含有ポリオレフィンの溶融物に不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物を添加する条件は、特に限定されないが、例えば、二重結合含有ポリオレフィンの溶融物の温度を、好ましくは150℃~250℃、特に好ましくは180℃~230℃の範囲に調整して、二重結合含有ポリオレフィン1.0molあたり20mol~100molの不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物を添加する。
【0083】
(4)酸変性工程
酸変性工程は、溶融状態の二重結合含有ポリオレフィンを、不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物と反応させてポリオレフィンを不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物で変性する工程である。酸変性工程では、二重結合含有ポリオレフィンとマレイン酸や無水マレイン酸等の不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物とのエン反応により、二重結合含有ポリオレフィンに不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物が導入されることで、酸変性ポリオレフィンを得る。すなわち、変性対象である二重結合含有ポリオレフィンの二重結合に不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物が付加することで、二重結合含有ポリオレフィン骨格に不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物が導入される。
【0084】
二重結合含有ポリオレフィンと不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物とのエン反応の反応条件としては、例えば、反応温度180℃~250℃にて、150rpm~250rpmの撹拌条件下,4時間~8時間撹拌する反応条件が挙げられる。上記のようにして得られた酸変性ポリオレフィンを、再沈殿処理することで、精製された状態の酸変性ポリオレフィンを得ることができる。
【0085】
本発明の製造方法では、変性対象である二重結合含有ポリオレフィンの側鎖が二重結合を有していない場合には、該側鎖を不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物で変性せず、側鎖が不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物で変性されていない酸変性ポリオレフィンを生成する。二重結合含有ポリオレフィンの主鎖の末端のみが二重結合を有している場合には、前記主鎖の末端のみを不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物で変性する。
【0086】
本発明の製造方法では、変性対象である二重結合含有ポリオレフィンの側鎖が二重結合を有している場合には、該側鎖を不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物で変性して、側鎖が不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物で変性された酸変性ポリオレフィンを生成する。側鎖が不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物で変性された酸変性ポリオレフィンとしては、主鎖の末端と側鎖を不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物で変性された酸変性ポリオレフィンが挙げられる。すなわち、本発明の製造方法では、二重結合含有ポリオレフィンの主鎖の末端と側鎖が二重結合を有している場合には、前記主鎖の末端と前記側鎖を不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物で変性する。
【0087】
不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物の添加量は、特に限定されないが、その下限値は、酸変性ポリオレフィン骨格に起因した、極性基や官能基を有する高分子化合物との相互作用性を得てポリオレフィンの適用範囲を確実に広げる点から、官能基含有酸変性ポリオレフィン1分子あたり、すなわち、官能基含有酸変性ポリオレフィン100質量%中に、不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物の含量(導入量)が0.5質量%となるように添加するのが好ましく、0.8質量%となるように添加するのがより好ましく、1.0質量%となるように添加するのが特に好ましい。一方で、不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物の添加量の上限値は、官能基含有酸変性ポリオレフィンの融点の低下を防止して耐熱性が得られる点から、官能基含有酸変性ポリオレフィン100質量%中に、不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物の含量(導入量)が5.0質量%となるように添加するが好ましく、4.0質量%となるように添加するが特に好ましい。
【0088】
(5)官能基導入工程
官能基導入工程は、酸変性ポリオレフィンを溶融または有機溶媒に溶解した後、末端官能性ポリマー化合物、多価アミン化合物及びアミノアルコール化合物からなる群から選択された少なくとも1種の官能基含有化合物を添加して、酸変性ポリオレフィンに官能基含有化合物を導入する工程である。具体的には、例えば、酸変性ポリオレフィンと官能基含有化合物を、有機溶媒に加熱溶解させて反応させる方法(溶液法)、融点以上の温度に加熱昇温し溶融させて反応させる方法(溶融法)等が挙げられる。溶液法で使用する有機溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、シクロヘキサン、ノナン、デカン等が挙げられる。溶液法における加熱溶解の温度としては、有機溶媒の沸点以下の温度(例えば、50℃~110℃)が挙げられる。
【0089】
官能基含有化合物が末端にアミノ基を有する化合物である場合、不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物の不飽和結合が反応して二重結合含有ポリオレフィンに導入された不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物に由来するカルボニル基の少なくとも一部と、末端アミノ基に由来する窒素原子とにより、アミド結合が形成されている。また、官能基含有化合物が末端に水酸基を有する化合物である場合、不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物の不飽和結合が反応して二重結合含有ポリオレフィンに導入された不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物に由来するカルボニル基の少なくとも一部と、末端水酸基に由来する酸素原子とにより、エステル結合が形成されている。
【0090】
官能基含有化合物の添加量は、特に限定されないが、その下限値は、極性基や官能基を有する高分子化合物に対する相互作用性と反応性がより確実に向上する点から、官能基含有酸変性ポリオレフィン1分子あたり、すなわち、官能基含有酸変性ポリオレフィン100質量%中に、官能基含有化合物の含量(導入量)が0.5質量%となるように添加するのが好ましく、3.0質量%となるように添加するのがより好ましく、5.0質量%となるように添加するのが特に好ましい。一方で、官能基含有化合物の添加量の上限値は、官能基の反応性や接着または塗装性改善の点から、官能基含有酸変性ポリオレフィン100質量%中に、官能基含有化合物の含量(導入量)が20.0質量%となるように添加するのが好ましく、10.0質量%となるように添加するのが特に好ましい。
【実施例0091】
次に、本発明の実施例を説明するが、本発明の趣旨を超えない限り、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【0092】
実施例1
マレイン酸変性ポリオレフィンの製造
(1)二重結合含有ポリオレフィン用意工程
まず、イソタクチックポリプロピレン(日本ポリプロ社製、数平均分子量Mn=16万、重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn=6.0)の精密熱分解法により、両末端二重結合含有ポリプロピレンを得た。得られた両末端二重結合含有ポリプロピレンは、ペレット状であり、収率98%、数平均分子量Mnは20000、分散度(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)が2.1、熱分解生成物である両末端二重結合含有ポリプロピレン1分子当たりの二重結合の平均数が1.8であった。
【0093】
(2)二重結合含有ポリオレフィン溶融工程
上記で得られた両末端二重結合含有ポリプロピレンを窒素ガス充填下、200℃で1時間、完全に溶融するまで200rpmで撹拌した。
【0094】
(3)不飽和ジカルボン酸添加工程及び(4)酸変性工程
上記で得られた溶融した両末端二重結合含有ポリプロピレンに窒素ガス気流下で無水マレイン酸、酸化防止剤としてジブチルヒドロキシトルエンを加えた。その後、窒素ガス充填下、200℃で6時間、200rpmで撹拌して、マレイン酸変性ポリプロピレンを得た。
【0095】
実施例1で得られたマレイン酸変性ポリプロピレンについて、収率は90%、数平均分子量と融点は、用意した二重結合含有ポリプロピレンと変化はなかった。また、マレイン酸変性ポリプロピレンのマレイン酸含量は1質量%であった。
【0096】
なお、1分子当たりの二重結合の平均数は、核磁気共鳴法にて測定した。数平均分子量と重量平均分子量の測定方法は、高温GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)、マレイン酸含量は検量線を用いて赤外分光法によって行った。
【0097】
実施例2
実施例1で得られたマレイン酸変性ポリプロピレン100gとアミノエタノール1.3gを180℃で4時間溶融混練したあとでキシレン1000mLに溶解し、メタノール5000mLに注いで生成した沈殿を回収して、マレイン酸変性ポリプロピレンのマレイン酸由来の部位とアミノ基が反応し、アミド化した末端水酸基含有酸変性ポリプロピレン(官能基含有酸変性ポリオレフィン)が白色粉末として得られ、収率は89%、融点は160℃と耐熱性を有し、成形体として成形することができた。この官能基含有酸変性ポリオレフィンは一つの末端に二つの水酸基を有している。
【0098】
実施例3
実施例1で得られたマレイン酸変性ポリプロピレン100gとアミノエタノール0.65gを180℃で4時間溶融混練したあとでキシレン1000mLに溶解し、メタノール5000mLに注いで生成した沈殿を回収して、マレイン酸変性ポリプロピレンのマレイン酸由来の部位とアミノ基が反応し、イミド化した末端水酸基含有酸変性ポリプロピレン(官能基含有酸変性ポリオレフィン)が白色粉末として得られ、収率は92%、融点は160℃であり、成形体として成形することができた。この官能基含有酸変性ポリオレフィンは一つの末端に一つの水酸基を有している。
【0099】
実施例4
実施例1で得られたマレイン酸変性ポリプロピレン100gとエチレンジアミン1.3gを180℃で4時間溶融混練したあとでキシレン1000mLに溶解し、メタノール5000mLに注いで生成した沈殿を回収して、マレイン酸変性ポリプロピレンのマレイン酸由来の部位とアミノ基が反応し、アミド化した末端アミノ基含有酸変性ポリプロピレン(官能基含有酸変性ポリオレフィン)が白色粉末として得られ、収率は90%、融点は160℃であり、成形体として成形することができた。この官能基含有酸変性ポリオレフィンは一つの末端に二つのアミノ基を有している。
【0100】
実施例5
実施例1で得られたマレイン酸変性ポリプロピレン100gとジェファーミン12g(M-600、ポリプロピレングリコールモノアミンタイプ、分子量600)を180℃で4時間溶融混練したあとでキシレン1000mLに溶解し、メタノール5000mLに注いで生成した沈殿を回収して、マレイン酸変性ポリプロピレンのマレイン酸由来の部位とアミノ基が反応したポリプロピレングリコール変性酸変性ポリプロピレン(官能基含有酸変性ポリオレフィン)が白色粉末として得られ、収率は88%、融点は155℃と耐熱性を有し、成形体として成形することができた。
【0101】
実施例6
実施例1で得られたマレイン酸変性ポリプロピレン100gとジェファーミン18g(ED-900、ポリプロピレングリコールポリエチレングリコールジアミンタイプ、分子量900)を180℃で4時間溶融混練したあとでキシレン1000mLに溶解し、メタノール5000mLに注いで生成した沈殿を回収して、マレイン酸変性ポリプロピレンのマレイン酸由来の部位とアミノ基が反応した末端アミノ基含有ポリオール変性酸変性ポリプロピレン(官能基含有酸変性ポリオレフィン)が白色粉末として得られ、収率は87%、融点は150℃と耐熱性を有し、成形体として成形することができた。
【0102】
実施例7
実施例1で得られたマレイン酸変性ポリプロピレン100gとジェファーミン8.8g(T-403、ポリプロピレングリコールトリアミンタイプ、分子量440)を180℃で4時間溶融混練したあとでキシレン1000mLに溶解し、メタノール5000mLに注いで生成した沈殿を回収して、マレイン酸変性ポリプロピレンのマレイン酸由来の部位とアミノ基が反応した末端アミノ基含有ポリプロピレングリコール変性酸変性ポリプロピレン(官能基含有酸変性ポリオレフィン)が白色粉末として得られ、収率は85%、融点は149℃と耐熱性を有し、成形体として成形することができた。
【0103】
実施例8
アミン末端ポリアクリル酸t-ブチルは、AIBN1.6gを開始剤、2-アミノエタンチオール3gを連鎖移動剤として、アクリル酸t-ブチル100gの重合を、溶媒としてトルエン156mLを用い、60℃6時間行った。反応後、減圧蒸留して未反応物を除去してアミン末端ポリアクリル酸t-ブチルを得た。分子量は3000であった。
【0104】
実施例1で得られたマレイン酸変性ポリプロピレン100gとアミン末端ポリアクリル酸t-ブチル60gを、120℃6時間、キシレン500mLで撹拌した。反応後、メタノール5000mLに注いで生成した沈殿を回収して、マレイン酸変性ポリプロピレンのマレイン酸由来の部位とアミノ基が反応したポリアクリル酸t-ブチル変性酸変性ポリプロピレン(官能基含有酸変性ポリオレフィン)が白色粉末として得られた。また、得られたポリアクリル酸t-ブチル変性酸変性ポリプロピレンをキシレンに溶解させ、トリフルオロ酢酸を加えた。反応後、生成した沈殿を回収してポリアクリル酸変性酸変性ポリプロピレン(官能基含有酸変性ポリオレフィン)を得て、収率は89%、融点は155℃であり、成形体として成形することができた。
【0105】
実施例9
実施例1で得られたマレイン酸変性ポリプロピレン100グラム(5mmol)とポリエチレンイミン15g(日本触媒製エポミンSP-003)を180℃で4時間溶融混練したあとでキシレン1000mLに溶解し、メタノール5000mLに注いで生成した沈殿を回収して、マレイン酸変性ポリプロピレンのマレイン酸由来の部位とアミノ基が反応した末端アミノ基ポリエチレンイミン変性酸変性ポリプロピレン(官能基含有酸変性ポリオレフィン)が白色粉末として得られた。
【0106】
実施例10
実施例1で得られたマレイン酸変性ポリプロピレン100gとシリコーン14g(信越シリコーン株式会社製、ジアミンタイプ、官能基等量350g/mol、KF-393)を180℃で4時間溶融混練したあとでキシレン1000mLに溶解し、メタノール5000mLに注いで生成した沈殿を回収して、マレイン酸変性ポリプロピレンのマレイン酸由来の部位とアミノ基が反応した末端アミノ基シリコーン変性酸変性ポリプロピレン(官能基含有酸変性ポリオレフィン)が白色粉末として得られた。
【0107】
実施例11
実施例1で得られたマレイン酸変性ポリプロピレン100gとグリシン0.75gを180℃で4時間溶融混練したあとでキシレン1000mLに溶解し、メタノール5000mLに注いで生成した沈殿を回収して、マレイン酸変性ポリプロピレンのマレイン酸由来の部位とアミノ基が反応してイミド環化した末端モノカルボン酸変性ポリプロピレン(官能基含有酸変性ポリオレフィン)が薄黄色粉末として得られた。
【0108】
実施例12
実施例3で得られた末端水酸基含有酸変性ポリオレフィン100グラム(5mmol)とアジピン酸0.73グラム(5mmol)を200℃で4時間溶融混練したあとでキシレン1000mLに溶解し、メタノール5000mLに注いで生成した沈殿を回収して、脂肪族ポリエステル化合物を回収した。得られた脂肪族ポリエステル化合物の融点は160℃、数平均分子量Mnは60,000であった。
【0109】
比較例1(実施例4との比較)
実施例1で得られたマレイン酸変性ポリプロピレン100gとエチレンジアミン0.325gを180℃で4時間溶融混練したあとでキシレン1000mLに溶解し、メタノール5000mLに注いで生成した沈殿を回収して、マレイン酸変性ポリプロピレンのマレイン酸由来の部位とアミノ基がほぼすべて反応し、イミド環を形成した高分子量化末端アミノ基不含有酸変性ポリプロピレン(官能基不含有酸変性ポリオレフィン)が黄色粉末として得られた。得られた官能基不含有酸変性ポリオレフィンは、プレポリマーや添加剤としては利用不可であった。
【0110】
比較例2(実施例4との比較)
実施例1で得られたマレイン酸変性ポリプロピレン100gとエチレンジアミン0.750gを180℃で4時間溶融混練したあとでキシレン1000mLを注いだが、架橋反応のために不溶不融の生成物となった。不溶不融の生成物であることから、プレポリマーや添加剤としては利用不可であった。
【0111】
比較例3
市販のマレイン酸変性ポリプロピレン(ポリプロピレン骨格は精密熱分解法で得られたポリプロピレン由来ではない)100g(ユーメックス1010)を用いた以外は実施例1と同様にして反応生成物を得た。反応生成物は黄色粉末として得られ、融点は120℃とかなり低く、耐熱性が得られなかった。また、反応生成物の成形体は非常に脆く、そのままでは成形体として利用できるものではなかった。
【0112】
比較例4
市販のマレイン酸変性ポリプロピレン(ポリプロピレン骨格は精密熱分解法で得られたポリプロピレン由来ではない)100g(ユーメックス1010)を用いた以外は実施例4と同様にして反応生成物を得た。反応生成物は黄色粉末として得られ、融点は120℃とかなり低く、耐熱性が得られなかった。また、反応生成物の成形体は非常に脆く、そのままでは成形体として利用できるものではなかった。
【0113】
比較例5
市販のマレイン酸変性ポリプロピレン(ポリプロピレン骨格は精密熱分解法で得られたポリプロピレン由来ではない)100g(ユーメックス1010)を用いた以外は実施例12と同様にして反応生成物を得た。得られた反応生成物は、架橋反応のために不溶不融の生成物となり、プレポリマーや添加剤としては利用不可であった。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明は、不飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸無水物と官能基含有化合物が導入された官能基含有酸変性ポリオレフィンなので、高分子化合物との相互作用性が得られることから、ポリオレフィンの適用範囲をさらに広げることができる点で利用価値が高い。