IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ AZUL Energy株式会社の特許一覧

特開2022-101077金属錯体又はその付加体、金属錯体又はその付加体を含む触媒及びその製造方法、触媒を含む液状組成物又は電極、電極を備える空気電池又は燃料電池
<>
  • 特開-金属錯体又はその付加体、金属錯体又はその付加体を含む触媒及びその製造方法、触媒を含む液状組成物又は電極、電極を備える空気電池又は燃料電池 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022101077
(43)【公開日】2022-07-06
(54)【発明の名称】金属錯体又はその付加体、金属錯体又はその付加体を含む触媒及びその製造方法、触媒を含む液状組成物又は電極、電極を備える空気電池又は燃料電池
(51)【国際特許分類】
   C07D 519/00 20060101AFI20220629BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20220629BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20220629BHJP
   H01M 12/08 20060101ALI20220629BHJP
   H01M 12/06 20060101ALI20220629BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20220629BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20220629BHJP
   B01J 31/22 20060101ALI20220629BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20220629BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20220629BHJP
   C07F 15/02 20060101ALN20220629BHJP
   C07F 15/06 20060101ALN20220629BHJP
【FI】
C07D519/00 311
H01M4/90 Y
H01M4/88 K
H01M12/08 K
H01M12/06 F
B01J37/04 102
B01J37/08
B01J31/22 M
H01M8/12 101
H01M8/10 101
C07F15/02 CSP
C07F15/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020215457
(22)【出願日】2020-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】520114030
【氏名又は名称】AZUL Energy株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100195796
【弁理士】
【氏名又は名称】塩尻 一尋
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 晃寿
(72)【発明者】
【氏名】中村 剛希
【テーマコード(参考)】
4C072
4G169
4H050
5H018
5H032
5H126
【Fターム(参考)】
4C072MM04
4C072UU08
4G169AA03
4G169AA08
4G169AA09
4G169BA08B
4G169BA21A
4G169BA21B
4G169BA27A
4G169BA27B
4G169BC66A
4G169BC66B
4G169BC67A
4G169BE01A
4G169BE06A
4G169BE07A
4G169BE07B
4G169BE08A
4G169BE08B
4G169BE13A
4G169BE14A
4G169BE14B
4G169BE16A
4G169BE16B
4G169BE21A
4G169BE21B
4G169BE22A
4G169BE33A
4G169BE36A
4G169BE37A
4G169BE38A
4G169BE46A
4G169BE46B
4G169CC31
4G169CC32
4G169DA03
4G169DA06
4G169ED10
4G169FA01
4G169FA02
4G169FB04
4G169FB09
4G169FB23
4G169FB27
4G169FB29
4G169FB37
4G169FB57
4G169FB58
4G169FC07
4G169FC08
4G169FC10
4H050AA01
4H050AA03
4H050AB91
5H018AA06
5H018AA10
5H018BB08
5H018BB12
5H018EE05
5H018EE08
5H018EE16
5H018HH00
5H018HH05
5H018HH08
5H032AA01
5H032AS01
5H032AS02
5H032AS03
5H032AS06
5H032AS11
5H032CC11
5H032EE15
5H032EE17
5H032HH01
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】優れた酸素還元触媒能を有する金属錯体又はその付加体、当該金属錯体又はその付加体を含む触媒及びその製造方法、触媒を含む液状組成物又は電極、当該電極を備える空気電池又は燃料電池を提供すること。
【解決手段】式(1)又は(2)で表される金属錯体又はその付加体、金属錯体又はその付加体を含む触媒及びその製造方法、触媒を含む液状組成物又は電極、電極を備える空気電池又は燃料電池。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(1)又は(2):
【化1】
(式中、
Mは鉄原子又はコバルト原子であり、
からD28は、それぞれ独立に、窒素原子、硫黄原子又は炭素原子であり、
からD28が炭素原子である場合、前記炭素原子は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基又はアルキルチオ基が結合していてもよい)
で表される、金属錯体又はその付加体であって、
ただし、式(1)において、DからD16のうち炭素原子が8個以下である場合、
該炭素原子のうちの少なくとも1つにハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基又はアルキルチオ基が結合しているか、或いは
式(1)の金属錯体は付加体を形成している。
【請求項2】
からD16が、窒素原子又は炭素原子である、請求項1に記載の金属錯体又はその付加体。
【請求項3】
17からD28が、硫黄原子又は炭素原子である、請求項1又は2に記載の金属錯体又はその付加体。
【請求項4】
以下の式:
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
で表される、請求項1から3のいずれか一項に記載の金属錯体又はその付加体。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の金属錯体又はその付加体及び導電性材料を含む、触媒。
【請求項6】
前記金属錯体が、前記金属錯体又はその付加体と前記導電性材料との合計量100質量%に対して、75質量%以下の量で含まれる、請求項5に記載の触媒。
【請求項7】
前記導電性材料が、カルボキシル基を含有する、請求項5又は6に記載の触媒。
【請求項8】
前記カルボキシル基が、前記導電性材料100質量%に対して、20質量%以下で含有される、請求項7に記載の触媒。
【請求項9】
酸素還元用である、請求項5から8のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項10】
請求項5から8のいずれか一項に記載の触媒及び溶媒を含む、液状組成物。
【請求項11】
請求項5から8のいずれか一項に記載の触媒を含む、電極。
【請求項12】
請求項11に記載の電極を備える、空気電池又は燃料電池。
【請求項13】
(a)前記金属錯体又はその付加体を溶媒に溶解させて溶液を調製する工程、
(b)前記溶液中に前記導電性材料を分散させて、分散液を調製する工程、及び
(c)前記分散液から前記溶媒を除去する工程
を含む、請求項5から8のいずれか一項に記載の触媒の製造方法。
【請求項14】
前記工程(a)及び(b)が、前記溶媒の沸点以下の温度で行われる、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記金属錯体又はその付加体の前記溶媒に対する溶解度が、0.1g/L以上である、請求項13又は14に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属錯体又はその付加体、金属錯体又はその付加体を含む触媒及びその製造方法、触媒を含む液状組成物又は電極、電極を備える空気電池又は燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電極における酸化還元反応を利用して化学エネルギーを電気エネルギーに変換するデバイスとして、燃料電池及び空気電池が知られている。これらの電池の空気極では酸素の還元反応が起きており、該還元反応を促進するために触媒が使用されている。代表的な触媒としては、燃料電池の場合には白金を担持した炭素材料が知られており、空気電池の場合には二酸化マンガンを担持した炭素材料が知られている。
【0003】
しかし、白金などのレアメタルは高価であるとともにその資源量が限られていることから、より安価で資源量が豊富な材料を使用した触媒の開発が試みられている。例えば特許文献1には、鉄フタロシアニン及び助触媒である炭素材料を含む空気極用触媒が開示されている。しかしながら、鉄フタロシアニンは炭素材料の表面に吸着しにくいため、その酸素還元能は十分なものではなかった。
【0004】
一方、特許文献2には、助触媒である炭素材料として酸化グラフェンを鉄フタロシアニンと組み合わせて使用することが開示されている。しかしながら、特許文献2に開示された酸素還元触媒の製造方法では、一度鉄フタロシアニンと酸化グラフェンとの複合体を形成した後、酸化グラフェンを還元して鉄フタロシアニンとグラフェンとの複合体を得る必要があるため、製造工程が複雑になってしまうという問題があった。
【0005】
特許文献3には、特定の構造式で示されるコバルトテトラピラジノポルフィラジン誘導体を触媒成分として含有する酸化還元用電極が開示されている。しかしながら、特許文献3に記載されたコバルトテトラピラジノポルフィラジン誘導体はピラジンにトリフルオロメチル基が結合しているため、酸素還元触媒能が低下するおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-85925号公報
【特許文献2】特開2014-91061号公報
【特許文献3】国際公開第2007/023964号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、白金などのレアメタルを利用することなく、優れた酸素還元触媒能を有する触媒材料及び触媒を開発することが求められていた。また、単純な工程で助触媒である導電性材料に容易に吸着することができる触媒の製造方法が求められていた。
【0008】
本発明は、上記従来技術の課題を解決すべくなされたものであり、優れた酸素還元触媒能を有する金属錯体又はその付加体、当該金属錯体又はその付加体を含む触媒及びその製造方法、触媒を含む液状組成物又は電極、当該電極を備える空気電池又は燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題について鋭意検討した結果、予期しないことに、特定の化学構造を有する金属錯体又はその付加体が優れた酸素還元触媒能を有することを見出し本発明に到達した
【0010】
本発明の目的は、以下の式(1)又は(2):
【化1】
(式中、
Mは鉄原子又はコバルト原子であり、
からD28は、それぞれ独立に、窒素原子、硫黄原子又は炭素原子であり、
からD28が炭素原子である場合、前記炭素原子は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基又はアルキルチオ基が結合していてもよい)
で表される、金属錯体又はその付加体であって、
ただし、式(1)において、DからD16のうち炭素原子が8個以下である場合、
該炭素原子のうちの少なくとも1つにハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基又はアルキルチオ基が結合しているか、或いは
式(1)の金属錯体は付加体を形成している、金属錯体又はその付加体によって達成される。
【0011】
からD16は、窒素原子又は炭素原子であることが好ましく、D17からD28は、硫黄原子又は炭素原子であることが好ましい。
【0012】
前記金属錯体又はその付加体は、以下の式:
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
で表されることが好ましい。
【0013】
本発明は、本発明の金属錯体又はその付加体及び導電性材料を含む、触媒にも関する。
【0014】
前記金属錯体又はその付加体は、前記金属錯体又はその付加体と前記導電性材料との合計量100質量%に対して、75質量%以下の量で含まれることが好ましい。
【0015】
前記導電性材料は、カルボキシル基を含有することが好ましい。
【0016】
前記カルボキシル基は、前記導電性材料100質量%に対して、20質量%以下で含有されることが好ましい。
【0017】
本発明の触媒は、好ましくは酸素還元用である。
【0018】
本発明は、本発明の触媒及び溶媒を含む、液状組成物にも関する。
【0019】
本発明はまた、本発明の触媒を含む、電極にも関する。
【0020】
本発明は、本発明の電極を備える、空気電池又は燃料電池にも関する。
【0021】
さらに、本発明は、
(a)前記金属錯体又はその付加体を溶媒に溶解させて溶液を調製する工程、
(b)前記溶液中に前記導電性材料を分散させて、分散液を調製する工程、及び
(c)前記分散液から前記溶媒を除去する工程
を含む、本発明の触媒の製造方法にも関する。
【0022】
前記工程(a)及び(b)は、前記溶媒の沸点以下の温度で行われることが好ましい。
【0023】
前記金属錯体又はその付加体の前記溶媒に対する溶解度は、0.1g/L以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、本発明の金属錯体又はその付加体を用いることによって、優れた酸素還元触媒能を有する触媒を提供することができる。また、本発明の金属錯体又はその付加体は導電性材料に容易に吸着するため、複雑な製造工程を経ることなく触媒を製造することができる。
【0025】
また、本発明は、白金などのレアメタルを使用することなく優れた酸素還元触媒能を得ることができるため、比較的安価に空気電池又は燃料電池の触媒を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】RRDEによるLSV測定の結果の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[金属錯体又はその付加体]
本発明の金属錯体又はその付加体は、以下の式(1)又は(2):
【化6】
(式中、
Mは鉄原子又はコバルト原子であり、
からD28は、それぞれ独立に、窒素原子、硫黄原子又は炭素原子であり、
からD28が炭素原子である場合、前記炭素原子は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基又はアルキルチオ基が結合していてもよい)
で表され、
ただし、式(1)において、DからD16のうち炭素原子が8個以下である場合、
該炭素原子のうちの少なくとも1つにハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基又はアルキルチオ基が結合しているか、或いは
式(1)の金属錯体は付加体を形成している。
【0028】
窒素原子とMとの間の結合は、窒素原子のMへの配位を意味する。Mには配位子としてハロゲン原子、水酸基、又は炭素数1~8の炭化水素基がさらに結合していてもよい。また、電気的に中性になるように、アニオン性対イオンが存在していてもよい。さらに、電気的に中性の分子が付加した付加体として存在していてもよい。
【0029】
Mの価数は特に制限されない。金属錯体又はその付加体が電気的に中性となるように、配位子(例えば、軸配位子)としてハロゲン原子、水酸基、又は、炭素数1~8の(アルキルオキシ基)アルコキシ基が結合していてもよく、アニオン性対イオンが存在していてもよい。アニオン性対イオンとしては、ハロゲン化物イオン、水酸化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオンが例示される。また、炭素数1~8の(アルキルオキシ基)アルコキシ基が有するアルキル基の構造は、直鎖状、分岐状、又は環状であってもよい。
【0030】
本発明においてハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素が挙げられる。
【0031】
本発明においてアルキル基とは、直鎖状又は分岐鎖状の一価の炭化水素基を表す。アルキル基の炭素原子数は1~20個であることが好ましく、1~12個であることがより好ましく、1~6個であることがさらに好ましい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、tert-ペンチル基、及びn-ヘキシル基が例示される。
【0032】
本発明においてシクロアルキル基としては、環状の一価の炭化水素基を表す。シクロアルキル基の炭素原子数は3~20個であることが好ましく、3~12個であることがより好ましく、3~6個であることがさらに好ましい。シクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、1-メチルシクロプロピル基、2-メチルシクロプロピル基、及び2,2-ジメチルシクロプロピル基が例示される。
【0033】
本発明においてアルケニル基とは、二重結合を含有する直鎖状又は分岐鎖状の一価の炭化水素基を表す。アルケニル基の炭素原子数は2~20個であることが好ましく、2~12個であることがより好ましく、2~6個であることがさらに好ましい。アルケニル基としては、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、1-メチル-2-プロペニル基、2-メチル-2-プロペニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、4-ペンテニル基、1-メチル-2-ブテニル基、2-メチル-2-ブテニル基、1-ヘキセニル基、2-ヘキセニル基、3-ヘキセニル基、4-ヘキセニル基、及び5-ヘキセニル基が例示される。
【0034】
本発明においてアルキニル基とは、三重結合を含有する直鎖状又は分岐鎖状の一価の炭化水素基を表す。アルキニル基の炭素原子数は2~20個であることが好ましく、2~12個であることがより好ましく、2~6個であることがさらに好ましい。アルキニル基としては、エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基、(1-ブチニル基)1-ブチン-1-イル基、(2-ブチニル基)2-ブチン-1-イル基、(3-ブチニル基)3-ブチン-1-イル基、(1-メチル-2-プロピニル基)1-メチル-2-プロピン-1-イル基、(2-メチル-3-ブチニル基)2-メチル-3-ブチン-2イル基、(1-ペンチニル基)1-ペンチン-1-イル基、(2-ペンチニル基)2-ペンチン-1-イル基、(3-ペンチニル基)3-ペンチン-2-イル基、(4-ペンチニル基)4-ペンチン-1-イル基、1-メチル-2-ブチニル基(1-メチル-2-ブチン-1-イル基)、(2-メチル-3-ペンチニル基)2-メチル-3-ペンチン-1-イル基、(1-ヘキシニル基)1-ヘキシン-1-イル基、及び(1,1-ジメチル-2-ブチニル基)1,1-ジメチル-2-ブチン-1-イル基が例示される。
【0035】
本発明においてアリール基とは、一価の芳香族炭化水素基を表す。アリール基の炭素原子数は6~40個であることが好ましく、6~30個であることがより好ましい。アリール基としては、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、ベンゾフルオレニル基、ジベンゾフルオレニル基、フェナントリル基、アントラセニル基、ベンゾフェナントリル基、ベンゾアントラセニル基、クリセニル基、ピレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基、ベンゾフルオランテニル基、ジベンゾアントラセニル基、ペリレニル基、及びヘリセニル基が例示される。
【0036】
本発明においてアルキルスルホニル基とは、スルホニル基にアルキル基が結合した一価の基を表す。アルキルスルホニル基中のアルキル基としては上記「アルキル基」として記載した基であることができる。アルキルスルホニル基の炭素原子数は1~20個であることが好ましく、1~12個であることがより好ましく、1~6個であることがさらに好ましい。メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、ノルマルプロピルスルホニル基、イソプロピルスルホニル基、n-ブチルスルホニル基、sec-ブチルスルホニル基、tert-ブチルスルホニル基、n-ペンチルスルホニル基、イソペンチルスルホニル基、tert-ペンチルスルホニル基、ネオペンチルスルホニル基、2,3-ジメチルプロピルスルホニル基、1-エチルプロピルスルホニル基、1-メチルブチルスルホニル基、n-ヘキシルスルホニル基、イソヘキシルスルホニル基、及び1,1,2-トリメチルプロピルスルホニル基が例示される。
【0037】
本発明においてアルコキシ基とは、エーテル結合を介して炭化水素基が結合した一価の基を表す。アルコキシ基の炭素原子数は1~20個であることが好ましく、1~12個であることがより好ましく、1~6個であることがさらに好ましい。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、n-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、イソプロポキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、及びイソヘキシルオキシ基が例示される。
【0038】
本発明においてアルキルチオ基とは、アルコキシ基のエーテル結合における酸素原子が硫黄原子に置換された基を表す。アルキルチオ基の炭素原子数は1~20個であることが好ましく、1~16個であることがより好ましく、1~12個であることがさらに好ましい。アルキルチオ基としては、メチルチオ基、エチルチオ基、n-プロピルチオ基、n-ブチルチオ基、n-ペンチルチオ基、n-ヘキシルチオ基、及びイソプロピルチオ基が例示される。
【0039】
アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基、及びアルキルチオ基は、無置換の置換基であってもよいが、それぞれハロゲン、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、シアノ基、カルボニル基、カルボキシル基、アミノ基、ニトロ基、シリル基、及びスルホ基等の1つ以上の置換基で置換されていてもよい。
【0040】
からD16は、窒素原子又は炭素原子であることが好ましく、D17からD28は、硫黄原子又は炭素原子であることが好ましい。DからD16のうちの窒素原子の数は2~12個であることが好ましく、4~8個であることがより好ましい。D17からD28のうちの硫黄原子の数は2~10個であることが好ましく、4~8個であることがより好ましい。
【0041】
好ましくは、本発明の金属錯体又はその付加体は、以下の式で表される化合物である。
【0042】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【0043】
金属錯体又はその付加体の製造方法は特に限定されないが、例えば、ピリジン-2,3-ジカルボニトリル等のジシアノ化合物と金属原子とを塩基性物質の存在下にアルコール溶媒中で加熱する方法が例示される。ここで塩基性物質としては、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、及び酢酸ナトリウム等の無機塩基;トリエチルアミン、トリブチルアミン、及びジアザビシクロウンデセン等の有機塩基が例示される。
【0044】
[触媒]
一実施形態において、本発明は、本発明の金属錯体又はその付加体及び導電性材料を含む触媒に関する。金属錯体又はその付加体は1種のみを用いることもできるが、2種以上の金属錯体又はその付加体を組み合わせて用いることもできる。
【0045】
導電性材料は、導電性を具備するものであれば特に限定されないが、例えば、炭素材料、金属材料、及び金属酸化物材料が挙げられる。導電性材料としては炭素材料が好ましい。導電性材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
炭素材料は、導電性炭素由来であることが好ましい。炭素材料の具体例としては、黒鉛、アモルファス炭素、活性炭、グラフェン、カーボンブラック、炭素繊維、メソカーボンマイクロビーズ、マイクロカプセルカーボン、フラーレン、カーボンナノフォーム、カーボンナノチューブ、及びカーボンナノホーン等が例示される。これらの中でも炭素材料は、黒鉛、アモルファス炭素、活性炭、グラフェン、カーボンブラック、炭素繊維、フラーレン、又はカーボンナノチューブであることが好ましく、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、又はグラフェンであることがより好ましい。
【0047】
カーボンナノチューブとしては、単層カーボンナノチューブ(以下、「SWCNT」と記す。)、2層カーボンナノチューブ(以下、「DWCNT」と記す。)、及び多層カーボンナノチューブ(以下、「MWCNT」と記す。)が例示される。
【0048】
炭素材料は、ヘテロ原子を有していてもよい。ヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子、リン原子、硫黄原子、及びケイ素原子等が例示される。炭素材料がヘテロ原子を有する場合において、炭素材料はヘテロ原子の1種を単独で含んでいてもよく、2種以上のヘテロ原子を含んでいてもよい。なお、炭素材料は酸化されていてもよく、水酸化されていてもよく、窒化されていてもよく、リン化されていてもよく、硫化されていてもよく、又は珪化されていてもよい。
【0049】
金属材料としては、チタン及びスズを挙げることができる。また、金属酸化物材料としては、チタン酸化物及びスズ酸化物(SnO、ITO、ATO)等が挙げられる。
【0050】
導電性材料は、水酸基、カルボキシル基、窒素含有基、ケイ素含有基、リン酸基等のリン含有基、及びスルホン酸基等の硫黄含有基等の官能基を有していてもよい。特に、炭素材料は、カルボキシル基を有していることが好ましい。導電性材料がカルボキシル基を有することにより、導電性材料の表面に金属錯体又はその付加体が吸着しやすくなり、触媒の耐久性が向上するとともに、酸素還元触媒能をさらに高めることができる。
【0051】
導電性材料は、酸化処理による表面処理を行ってもよい。特にカーボンブラック等の炭素材料は酸化処理をすることで、カルボキシル基やヒドロキシル基等の親水性官能基を付与することにより金属錯体との相互作用を改良することができ、イオン化ポテンシャルを最適な範囲に制御することが可能となる。酸化処理の方法としては、公知の方法を採用することができ、硝酸、硫酸、塩素酸等の酸化剤水溶液中に撹拌混合する湿式処理や、プラズマ処理やオゾン処理等の気相処理を用いることができる。
【0052】
導電性材料がカルボキシル基を含有する場合、カルボキシル基の含有量は、導電性材料100質量%に対して、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。カルボキシル基の含有量が前記上限値以下であると、触媒の製造コストが低下するため有利である。また、カルボキシル基の含有量は、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、8質量%以上がさらに好ましい。カルボキシル基の含有量が前記下限値以上であると、触媒の耐久性及び酸素還元触媒能をさらに高めることができる。なお、カルボキシル基の含有量は、元素分析又はX線光電子分光法等により測定することができる。
【0053】
導電性材料の比表面積は0.8m/g以上が好ましく、10m/g以上がより好ましく、50m/g以上がさらに好ましく、100m/g以上が特に好ましく、500m/g以上が最も好ましい。比表面積が0.8m/g以上であると、触媒の担持量を増やしやすくなり、触媒の酸素還元触媒能をさらに高めることができる。比表面積の上限値は特に限定されないが、例えば、2000m/gとすることができる。なお、比表面積は、窒素吸着BET法で比表面積測定装置により測定することができる。
【0054】
導電性材料の平均粒径は、特に制限されないが、例えば、5nm~1000μmが好ましく、10nm~100μmがより好ましく、50nm~10μmがさらに好ましい。導電性材料の平均粒径を前記数値範囲に調整する方法としては、以下の(A1)~(A3)が例示される。
(A1):粒子をボールミル等により粉砕し、得られた粗粒子を分散剤に分散させて所望の粒子径にした後に乾固する方法。
(A2):粒子をボールミル等により粉砕し、得られた粗粒子をふるい等にかけて粒子径を選別する方法。
(A3):導電性材料を製造する際に、製造条件を最適化し、粒子の粒径を調整する方法。
なお、平均粒子径は、粒度分布測定装置又は電子顕微鏡等により測定することができる。
【0055】
本発明の触媒において、金属錯体又はその付加体の含有量は、金属錯体又はその付加体と導電性材料との合計量100質量%に対して、75質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。金属錯体又はその付加体の含有量が前記上限値以下であると、触媒の導電性が優れる。また、金属錯体又はその付加体の含有量は、金属錯体又はその付加体と導電性材料との合計量100質量%に対して、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましい。金属錯体又はその付加体の割合が前記下限値以上であると、触媒の酸素還元触媒能をさらに高めることができる。
【0056】
本発明の触媒の用途は特に限定されないが、優れた酸素還元触媒能を有することから、酸素還元用であることが好ましい。具体的には、本発明の触媒は、空気電池、燃料電池、及び電気化学センサー等の酸素還元用電極に用いることができる。
【0057】
[液状組成物]
一実施形態において、本発明は、本発明の触媒及び溶媒を含む液状組成物に関する。溶媒は触媒を溶解しやすい(すなわち、溶解度が高い)溶媒であってもよく、触媒を溶解しにくい(すなわち、溶解度が低い)溶媒であってもよい。溶媒が触媒を溶解しやすい場合、液状組成物は溶液の形態である。溶媒が触媒を溶解しにくい場合、液状組成物は分散液の形態である。
【0058】
溶媒は特に限定されないが、水などの無機溶媒であってもよく、有機溶媒であってもよい。有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール(2-プロパノール)、及び1-ヘキサノール等のアルコール;ジメチルスルホキシド;テトラヒドロフラン;N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、及びアセトン等の非プロトン性極性溶媒;並びにクロロホルム、ジクロロメタン、1,4-ジオキサン、ベンゼン、及びトルエン等の非極性溶媒が例示される。溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0059】
液状組成物は、任意成分として、任意の導電剤、バインダー、及びその他の添加剤を含むことができる。また、ポリテトラフルオロエチレンに基づく構成単位とスルホン酸基を有するパーフルオロ側鎖とを含むパーフルオロカーボン材料を含んでもよい。パーフルオロカーボン材料の具体例としては、Nafion(製品名:デュポン社製)が例示される。
【0060】
液状組成物は、触媒と溶媒と必要に応じてパーフルオロカーボン材料とを混合又は混練することにより、製造することができる。混合又は混練は、超音波処理、ミキサー、ブレンダー、ニーダー、ホモジナイザー、ビーズミル、及びボールミル等を使用してもよい。混練操作の前後においては、ふるい等を使用して、粒子の平均粒子径を調整してもよい。また、パーフルオロカーボン材料を含む液状組成物を調製する際には、触媒とパーフルオロカーボン材料と必要に応じて水とアルコールとを混合し、均一になるまで撹拌してもよい。
【0061】
液状組成物は、種々の基材の表面に適用することができる。例えば、液状組成物を基材の表面に塗布し、溶媒を除去することにより、触媒を含む層(以下、「触媒層」と記す。)を種々の基材の表面に設けることができる。すなわち、液状組成物は、例えば電極を製造する際に基材の表面に塗布する塗工液として使用することができる。液状組成物をそのまま塗工液として使用してもよく、触媒の含有量又は固形分濃度を調整してから塗工液として使用してもよい。
【0062】
基材は特に限定されないが、アルミニウム箔、電解アルミニウム箔、アルミニウムメッシュ(エキスパンドメタル)、発泡アルミニウム、パンチングアルミニウム、ジュラルミン等のアルミニウム合金、銅箔、電解銅箔、銅メッシュ(エキスパンドメタル)、発泡銅、パンチング銅、真鍮等の銅合金、真鍮箔、真鍮メッシュ(エキスパンドメタル)、発泡真鍮、パンチング真鍮、ニッケル箔、ニッケルメッシュ、耐食性ニッケル、ニッケルメッシュ(エキスパンドメタル)、パンチングニッケル、発泡ニッケル、スポンジニッケル、金属亜鉛、耐食性金属亜鉛、亜鉛箔、亜鉛メッシュ(エキスパンドメタル)、鋼板、パンチング鋼板、銀等が例示される。また、シリコン基板;金、鉄、ステンレス鋼、銅、アルミニウム、及びリチウム等の金属基板;これらの金属の任意の組み合わせを含む合金基板;インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、及びアンチモン錫酸化物(ATO)等の酸化物基板;並びにグラッシーカーボン、パイロリティックグラファイト、及びカーボンフェルト等の炭素基板等の基板状の基材を使用することもできる。
【0063】
[電極]
一実施形態において、本発明は、本発明の触媒を含む電極に関する。電極は上記の基材の上に本発明の触媒を含む層(すなわち、触媒層)を備えることができ、還元反応用、特に酸素還元反応用の触媒として使用することができる。触媒層は基材と直接接触していてもよく、基材と触媒層との間に他の層が存在していてもよい。
【0064】
電極を製造する方法は特に限定されないが、例えば、液状組成物を導電性の基材の表面に塗布し、触媒以外の成分を除去することによって製造してもよい。触媒以外の成分を除去する際には、加熱乾燥をしてもよく、乾燥後にプレスを行ってもよい。また、真空蒸着等によって触媒層を基材の表面に設けてもよい。電極は触媒層を基材の片面のみに有していてもよく、基材の両面に有していてもよい。
【0065】
触媒層の厚みは特に限定されないが、例えば、0.01~100μmとすることができる。厚みが前記下限値以上であると、電極の耐久性が優れている。厚みが前記上限値以下であると、電極の性能が低下しにくくなる。
【0066】
電極は任意の還元反応又は酸化反応等の電気化学反応の触媒としての機能を有することができ、例えば、以下に示す還元反応の触媒としての機能を有する。
+4H+4e→2H
+2HO+4e→4OH
【0067】
[空気電池]
一実施形態において、本発明は、本発明の電極を備える空気電池に関する。本発明の電極を空気電池の酸素極として使用することができる。空気電池は、酸素極、金属極、電解質、及びセパレータを備えることができる。本発明において酸素極とは、気体の酸素を電極活物質とする電極であり、空気極とも呼ばれるものである。
【0068】
金属極は特に限定されないが、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、リチウム、亜鉛等の金属単体、及びこれらの金属酸化物が例示される。
【0069】
電解質は水性電解質が好ましく、特に限定されないが、水酸化カリウム水溶液及び水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ水溶液、並びに硫酸水溶液等の酸性水溶液が例示される。電解質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、無機固体電解質を使用することもできる。
【0070】
セパレータは、酸素極と金属極とを隔離し、電解質を保持して酸素極と金属極との間のイオン伝導性を確保する部材である。セパレータは特に限定されないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、セルロース、酢酸セルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、セロファン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアクリルアミド、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリアミド、ビニロン、ポリ(メタ)アクリル酸等のマイクロポアを有する重合体、ゲル化合物、イオン交換膜、環化重合体、ポリ(メタ)アクリル酸塩含有重合体、スルホン酸塩含有重合体、第四級アンモニウム塩含有重合体、及び第四級ホスホニウム塩含有重合体等が例示される。セパレータは非多孔質膜でも多孔質膜であってもよく、多孔質膜の場合は、孔径は10μm以下が好ましい。
【0071】
[燃料電池]
一実施形態において、本発明は、本発明の電極を備える燃料電池に関する。本発明の電極を燃料電池の酸素極として使用することができる。燃料電池は、酸素極、燃料極、電解質、及びセパレータを備えることができる。
【0072】
燃料電池に使用される燃料極、電解質、及びセパレータとしては、空気電池に使用される金属極、電解質、及びセパレータで挙げたものをそれぞれ使用することができる。
【0073】
燃料電池は一次電池でもよく、二次電池でもよい。燃料電池の形態としては、金属空気電池、溶融炭酸塩型燃料電池(MCFC)、リン酸型燃料電池(PAFC)、固体酸化物型燃料電池(SOFC)、固体高分子型燃料電池(PEFC)、酵素(バイオ)燃料電池、微生物燃料電池、ヒドラジン燃料電池、及びメタノール直接酸化型燃料電池(DMFC)等が例示される。燃料電池の形態はこれらの例示に限定されないが、PEFC、酵素(バイオ)燃料電池、微生物燃料電池、ヒドラジン燃料電池又はDMFCが好ましい。二次電池としては、負極に水素吸蔵合金を用いた水素-空気二次電池が例示される。
【0074】
[触媒の製造方法]
一実施形態において、本発明は、本発明の触媒の製造方法に関する。触媒の製造方法は、
(a)前記金属錯体又はその付加体を溶媒に溶解させて溶液を調製する工程、
(b)前記溶液中に前記導電性材料を分散させて、分散液を調製する工程、及び
(c)前記分散液から前記溶媒を除去する工程
を含む。
【0075】
工程(a)は、金属錯体又はその付加体を溶媒に溶解させて溶液を調製する工程である。溶液は、溶媒中に溶解した金属錯体又はその付加体と、溶媒とを含む。溶液を調製する際の温度及び圧力等の条件は、金属錯体又はその付加体が溶媒に溶解可能な条件であれば特に限定されない。例えば、溶液を調製する際の温度は、溶媒の沸点以下の温度が好ましく、5~80℃であることがより好ましく、10~50℃であることがさらに好ましい。室温(25℃)で溶液を調製することが最も好ましい。また、圧力は、例えば大気圧下で溶液を調製することができる。
【0076】
溶媒は、金属錯体又はその付加体を溶解させることができる溶媒であれば特に限定されない。金属錯体又はその付加体の溶媒に対する溶解度は0.1g/L以上であることが好ましく、0.4g/L以上がより好ましく、2.0g/L以上がさらに好ましく、10g/L以上が特に好ましい。金属錯体又はその付加体の溶解度の上限値は、特に限定されないが、例えば20g/L以下、好ましくは50g/L以下、より好ましくは100g/L以下であってもよい。金属錯体又はその付加体の溶解度が前記下限値以上であると、金属錯体又はその付加体が溶媒に溶けやすく、金属錯体又はその付加体が導電性材料の表面にさらに均一に吸着しやすくなる。その結果、触媒の酸素還元触媒能が向上し、空気電池又は燃料電池の電極とした際の耐久性がさらに向上する。
【0077】
溶媒に対する金属錯体又はその付加体の溶解度は、通常、25℃、大気圧下で紫外可視分光法を用いて測定される溶媒1Lあたりの金属錯体又はその付加体の溶解量(g)の最大値である。なお、溶媒に対する金属錯体又はその付加体の溶解度の測定条件は、溶液を調製する際の条件とは無関係である。
【0078】
工程(b)は、溶液中に導電性材料を分散させて、分散液を調製する工程であり、当該工程において金属錯体又はその付加体が導電性材料の表面に吸着し、複合体を形成することができる。すなわち、分散液は金属錯体又はその付加体が導電性材料の表面に吸着している複合体を含む。分散液を調製する際の温度及び圧力等の条件は、導電性材料が分散可能な条件であれば特に限定されない。例えば、分散液を調製する際の温度は、溶媒の沸点以下の温度が好ましく、5~80℃であることがより好ましく、10~50℃であることがさらに好ましい。室温(25℃)で分散液を調製することが最も好ましい。
【0079】
工程(c)は、分散液から溶媒を除去する工程であり、金属錯体又はその付加体が導電性材料の表面に吸着している複合体を触媒として得る工程である。分散液から溶媒を除去する方法は特に限定されないが、例えば、固液分離によって除去することができる。固液分離の方法としては、触媒への温度負荷が低減されることから、濾過が好ましい。濾過においては、濾液の吸光度が溶液と比較して10%以上低下することが好ましい。これにより、金属錯体又はその付加体が導電性材料に効果的に吸着したことを判断することができる。
【0080】
本発明の触媒の製造方法は高温の熱処理を施すことなく金属錯体又はその付加体と導電性材料との複合体を形成することができるため、有用である。本発明の触媒の製造方法は、200℃以下、好ましくは100℃以下、より好ましくは50℃以下で行うことができる。本発明の金属錯体又はその付加体は溶媒に対する溶解度が比較的高いため、溶媒中に高濃度で存在することができる。また、金属錯体又はその付加体の導電性材料との親和性も高いため、導電性材料の表面に効果的に吸着することができる。例えば、金属錯体又はその付加体は導電性材料の表面に一分子状態で吸着した金属錯体又はその付加体の分子層を形成することができる。
【0081】
本発明の触媒の製造方法において、各工程はそれぞれ独立した工程であってもよく、複数の工程が一体的となっていてもよい。例えば、工程(a)と工程(b)はそれぞれ独立した工程であってもよく、同一の工程として同時に行ってもよい。
【実施例0082】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明するが、本発明の範囲は実施例に限定されるものではない。
【0083】
合成例1 化合物(1)の合成
1.29gのピリジン-3,4-ジカルボニトリルに410mgの無水塩化第二鉄、5mLの1-ペンタノールを加え、1.52gの1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エンを添加し、160℃に設定したオイルバスで加熱した。3時間後、20mLのN,N-ジメチルホルムアミドを添加して、さらに1時間加熱した。冷却後、メタノール20mLを加えて析出した固体を濾取した。この固体をメタノールで洗浄し、乾燥して化合物(1)を得た。収量920mg。
【0084】
合成例2 化合物(2)の合成
合成例(2-1) ピリジン-2,3-ジカルボン酸ジエチル N-オキシドの合成
25.0gのピリジン-2,3-ジカルボン酸ジエチルに150mLの塩化メチレンを加え、撹拌した。この溶液に100mgのメチルトリオキソレニウムを加え、TLCで反応の進行を確認しながら、30%過酸化水素水を3mLずつ添加した。2日間撹拌を続けた。原料の残存が確認されたため、原料が消失するまで100mgのメチルトリオキソレニウムと過酸化水素水を追加した。
【0085】
原料が消失したのち、水200mLを加え、撹拌した。有機相を分液したのち、水相を塩化メチレンで3回抽出した。有機相を合わせて無水硫酸ナトリウムで脱水したのち、濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製を行った。
目的物は無色結晶として得られた。収量20.2g。
【0086】
合成例(2-2) 6-クロロピリジン-2,3-ジカルボン酸ジエチルの合成
4.28gのピリジン-2,3-ジカルボン酸ジエチル N-オキシドに15mLのアセトニトリルを加え、撹拌した。この溶液に室温でオキシ塩化リン5.5gを加え、5時間加熱還流を行った。冷却後、反応液を氷水に注ぎ、酢酸エチルで抽出を行った。有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、濃縮後シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製を行った。収量2.7g。
【0087】
合成(2-3) 6-メトキシピリジン-2,3-ジカルボン酸の合成
6-クロロピリジン-2,3-ジカルボン酸ジエチル2.5gにメタノール20mLを加え、さらに2.0gの炭酸カリウムを加えて室温で撹拌した。4時間後、無機物を濾別し、溶媒を減圧留去した。この残渣に再度メタノール20mLを加え、撹拌し、水酸化リチウム・一水和物1.63gを加えた。5時間後、この反応液を希塩酸水に注ぎ、酢酸エチルで抽出を行った。
【0088】
有機相は無水硫酸ナトリウムで脱水し、濃縮を行い、目的物を得た。収量0.62g。
【0089】
合成例(2-4) 化合物(2)の合成
500mgの6-メトキシピリジン-2,3-ジカルボン酸、6gの尿素、330mgの第二塩化鉄・6水和物、22mgの七モリブデン酸六アンモニウム四水和物を混合、撹拌し、190℃に設定したオイルバスで加熱した。3時間反応後、100℃まで冷却し、水を加えてさらに10分間撹拌した。室温としたのち、固形物を減圧濾過で取り、水洗、メタノール洗浄後、最後にアセトンで洗浄して乾燥した。
【0090】
取り出した固形物にN,N-ジメチルホルムアミド5mLを加え、加熱還流した。冷却後、撹拌しながらメタノールを少しずつ加え、析出した結晶を濾取し、メタノール洗浄、アセトン洗浄を行った後、乾燥して化合物(2)を得た。収量230mg。
【0091】
合成例3 化合物(3)の合成
合成例(3-1) ピリジン-3,4-ジカルボン酸ジブチルの合成
18.0gのピリジン-3,4-ジカルボン酸にトルエン100mL、n-ブタノール40mL、p-トルエンスルホン酸一水和物10gを加え、撹拌した。ソックスレー装置と硫酸マグネシウムを用い、生成する水を除去しながら加熱還流を行った。
【0092】
10時間反応後、アルミナカラムクロマトグラフィーを用いて主生成物を分けとった。収量26.2g。
【0093】
合成例(3-2) ピリジン-3,4-ジカルボン酸ジブチル N-オキシドの合成
25.0gのピリジン-3,4-ジカルボン酸ジブチルに100mgのメチルトリオキソレニウム、150mLの塩化メチレンを加えて室温で撹拌した。この混合液に30%過酸化水素水を少しずつ添加した。反応の進行をTLCで追跡した。原料が消失するまで、過酸化水素水とメチルトリオキソレニウムを追加して、のべ2日間反応を行った。反応終了後、水100mLを加え、分液を行った。
【0094】
有機相は水洗後、さらに亜硫酸ナトリウム水溶液で洗浄した。無水硫酸ナトリウムで脱水後、濃縮し、赤みを帯びた油状物として粗生成物を得た。収量約25g。
【0095】
合成例(3-3) 2-クロロピリジン-4,5-ジカルボン酸ジブチルの合成
25gのオキシ塩化リンにピリジン-3,4-ジカルボン酸ジブチル N-オキシド10.0gを少しずつ添加した。10分間撹拌後、反応温度を110℃とし、5時間反応を行った。室温まで冷却後、酢酸エチル150mL、200gの氷の混合物に注意深く注いだ。1時間撹拌した後、分液し、有機相を炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで脱水後、濃縮した。主たる生成物は2種存在した。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィーで分離精製を行った。ヘキサンと酢酸エチルを溶出溶媒とし、先に溶出する方が目的の2-クロロピリジン-4,5-ジカルボン酸ジブチルであった。後から溶出したものは2-クロロピリジン-3,4-ジカルボン酸ジブチルであった。いずれも収量は7gであった。
【0096】
合成例(3-4) 2-メトキシピリジン-4,5-ジカルボン酸ジメチルの合成
2.5gの2-クロロピリジン-4,5-ジカルボン酸ジブチルを40mLのメタノールに溶解し、室温で撹拌した。これに2.0gの炭酸カリウムを添加し、5時間撹拌した。反応液を希塩酸水に注ぎ、酢酸エチルで抽出を行い、水洗後、炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄を行い、無水硫酸ナトリウムで脱水を行った後、残渣からヘキサンで結晶化を行った。収量0.9g。
【0097】
合成例(3-5) 2-メトキシピリジン-4,5-ジカルボン酸の合成
0.9gの2-メトキシピリジン-4,5-ジカルボン酸ジメチルに10mLのメタノールを加え、室温で撹拌した。これに670mgの水酸化リチウム一水和物を加え室温で反応を行った。30分後、水酸化リチウム一水和物670mgを追加し、さらに一時間反応を行った。
【0098】
濃塩酸で酸性とすると均一な溶液が得られた。これに水を加えて希釈すると無色の結晶が析出した。この結晶を濾取し、水洗後乾燥して目的とする2-メトキシピリジン-4,5-ジカルボン酸を得た。収量0.67g。
【0099】
合成例(3-6) 化合物(3)の合成
250mgの2-メトキシピリジン-4,5-ジカルボン酸、165mgの第二塩化鉄六水和物、11mgの七モリブデン酸六アンモニウム四水和物、3gの尿素を混合、撹拌し、185℃のオイルバスに浸けて反応を行った。1時間反応後、オイルバスの温度を200℃とし、さらに2時間反応を行った。ここに5mLのN-メチルピロリドンを添加し、1時間反応した後、80℃まで冷却し、メタノールを加え、析出した固体を濾取した。
【0100】
この固体をN,N-ジメチルホルムアミドを使ってシリカゲルに吸着させた。余分の溶媒はロータリーエバポレーターで減圧留去した。この吸着体をシリカゲルの上に乗せ、N,N-ジメチルホルムアミドで溶出させることで精製目的物が得られた。収量95mg。
【0101】
合成例4 化合物(6)の合成
合成例(4-1) 5,6-ジメトキシ-2,3-ピラジンジカルボニトリルの合成
2.0gの5,6-ジクロロ-2,3-ピラジンジカルボニトリルにメタノール15mLを加え、室温で撹拌した。これに炭酸カリウム3.0gを加え、一晩反応を行った。反応液に水80mLを加え、析出した結晶を濾取した。水洗、メタノール洗浄を行い、乾燥して目的物を得た。収量1.90g。
【0102】
合成例(4-2) 化合物(6)の合成
1.0gの5,6-ジメトキシ-2,3-ピラジンジカルボニトリルに260mgの無水塩化第二鉄を加え、さらに5mLの1-ペンタノールと1mLのピリジンを加え、オイルバスの温度を155℃に設定して加熱した。一晩反応後、冷却し、メタノールを加え、析出した固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製を行った。溶出溶媒はクロロホルムとメタノールの混合溶媒を用いた。収量130mg。
【0103】
合成例5 化合物(7)の合成
1.44gの5-メチルピラジン-2,3-ジカルボニトリルに5mLの1-ペンタノールを加え、無水第二塩化鉄410mg、ピリジン1mLを加えて150℃に設定したオイルバスで加熱し、反応を行った。7時間後に冷却し、濃塩酸1mL、水2mLを加え、さらにメタノール20mLを加えて析出した固体を濾取した。得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、化合物(7)80mgを得た。
【0104】
合成例6 化合物(8)及び(9)の合成
合成例(6-1) 5,6-ジメチル-2,3-ピラジンジカルボニトリルの合成
3.24gのジアミノマレオニトリルに10mLの酢酸を加え、2.64mLのジアセチルを添加し、1時間加熱韓流を行った。放冷すると結晶が析出した。これに水10mLを添加し、結晶を濾取した。水洗を行ったのち、乾燥し目的物を得た。収量4.45g。
【0105】
合成例(6-2) 化合物(9)の合成
6.32gの5,6-ジメチル-2,3-ピラジンジカルボニトリルに30mLの1-ペンタノールを加え、さらに1.78gの無水第二塩化鉄、1.9mLの4-メチルピリジンを添加し、145℃に設定したオイルバスで加熱し、反応を行った。5時間反応後、加熱を止めた。反応液の温度が100℃になった時点でメタノール30mLを滴下した。室温まで放冷したのち、減圧濾過を行い、水及びメタノールで丁寧に洗浄したのちアセトンで洗浄し、乾燥した。収量6.8g。
【0106】
合成例(6-3) 化合物(8)の合成
1.8gの化合物(9)をとり、濃硫酸20mLを加えて室温で撹拌した。1時間後、これを200mLの水に滴下した。析出した固体を遠心分離で取り出し、得られた固体を水、メタノールで遠心分離機を用いて洗浄し、化合物(8)を得た。収量1.0g。
【0107】
合成例7 化合物(10)の合成
先述の合成例(6-1)で合成した5,6-ジメチル-2,3-ピラジンジカルボニトリル1.58gに5mLの1-ペンタノール、410mgの無水第二塩化鉄を加え、撹拌した。ついで、1.0mLの4-tert-ブチルピリジンを添加して、155℃に設定したオイルバスで加熱を行った。1時間後、10mLのN,N-ジメチルホルムアミドを加え、さらに30分撹拌した。室温まで冷却後、析出した固体を濾取し、N,N-ジメチルホルムアミドで洗浄、ついでメタノールで洗浄して化合物(10)の粗体を得た。得られた粗体に15mLのN,N-メチルホルムアミドを加え、30分間加熱還流を行い、室温まで放冷後、固体を濾取し、N,N-ジメチルホルムアミドで洗浄、ついでメタノールで洗浄を行った。この操作を2回繰り返したのち乾燥して化合物(10)を得た。収量761mg。
【0108】
合成例8 化合物(11)の合成
2,3-ジシアノピラジン1.29gに5mLの1-ペンタノール、410mgの無水第二塩化鉄、1mLの4-メトキシピリジンを混合し、撹拌した。この混合物を155℃に設定したオイルバスで加熱、5時間反応を行った。室温まで放冷後、固体を濾取し、N,N-ジメチルホルムアミドで洗浄、ついでメタノールで洗浄、乾燥を行い、化合物(11)の粗体を得た。この粗体をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製を行い、化合物(11)を得た。収量110mg。
【0109】
合成例9 化合物(13)の合成
2,3-ジシアノピラジン1.29gに5mLの1-ペンタノール、410mgの無水第二塩化鉄、1mLのピリジンを混合し、撹拌した。この混合物を150℃に設定したオイルバスで加熱、一晩反応を行った。室温まで放冷後、水3mL、濃塩酸2mLを加え、撹拌しながらメタノール30mLを加えた。析出した固体を濾取し、シリカカラムクロマトグラフィーで精製を行い、化合物(13)を得た。収量405mg。
【0110】
合成例10 化合物(14)の合成
1.3gの2,3-ジシアノピラジンに無水第二塩化鉄410mg、1-ペンタノール5mLを加えて撹拌した。これに4-tert-ブチルピリジン1mLを加え、150℃に設定したオイルバスで加熱を行った。5時間反応後、室温まで放冷し、析出した固体を濾取した。メタノール洗浄とアセトン洗浄を行い、粗体の化合物(14)を得た。得られた粗化合物(14)にN,N-ジメチルホルムアミド10mLを加え、1時間加熱還流を行った。室温まで放冷後、固体を濾取し、メタノール洗浄、アセトン洗浄を行って、化合物(14)を得た。収量760mg。
【0111】
合成例11 化合物(15)の合成
1.29gの2,3-ジシアノピリジンに5mLの1-ペンタノールと410mgの無水塩化鉄、1mLの4-メトキシピリジンを加え、155℃に設定したオイルバスで加熱した。5時間反応後、N,N-ジメチルホルムアミド10mLを添加し、さらに30分間加熱を続けた。室温まで放冷し、析出した固体を濾取した。この固体をN,N-ジメチルホルムアミド、ついでメタノール、アセトンの順に洗浄を行い、乾燥して化合物(15)を得た。収量464mg。
【0112】
合成例12 化合物(17)の合成
1.67gのピリジン-2,3-ジカルボン酸に498mgの塩化第一鉄四水和物、2.4gの尿素、30mgの七モリブデン酸六アンモニウム四水和物を混合し、180℃に設定したオイルバスで1時間反応した。室温まで放冷後、水を加えて固体をほぐし、減圧濾過で濾取し、水洗、メタノール洗浄、アセトン洗浄を行い、深緑色固体650mgを得た。ついでこの固体にジメチルスルホキシド7mLを加え、5gのパラトルエンスルホン酸メチルを加え内温75℃で22時間反応を行った。室温まで冷却し、固体が析出するまでアセトンを加えた。この固体を濾取したのち、メタノールに溶解した。
【0113】
このメタノール溶液に別途3gのヘキサフルオロリン酸アンモニウムから作成したメタノール溶液を加えた。固体が析出し、これを濾取した。得られた固体をメタノール洗浄、ついでアセトン洗浄を行い、約150mgの固体を得た。
【0114】
この固体にメタノール30mLを加えて15分間加熱還流し、室温まで放冷後、固体を濾取した。メタノールで洗浄し、乾燥を行い、化合物(17)を得た。収量110mg。
【0115】
合成例13 化合物(18)の合成
1.95gの5-エチルピリジン-2,3-ジカルボン酸、10gの尿素、87mgの七モリブデン酸六アンモニウム四水和物、1.35gの塩化第二鉄四水和物を混合し、190℃に設定したオイルバスで加熱し、3時間反応した。冷却し、水を加えて固体をほぐし、濾取した。この固体に120mLの水を加え、30分間加熱還流した。冷却後、この固体を濾取し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製を行ったのち、濃硫酸に溶解した。この濃硫酸溶液を500mLの水に滴下し、析出した固体を遠心分離機で集めた。この固体をメタノールで洗浄、乾燥して目的物を得た。収量822mg。
【0116】
合成例14 化合物(19)の合成
1.29gの2,3-ジシアノピリジン及び390mgの無水塩化コバルトに10mLの1-ペンタノールを加え、0.1mLの1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エンを添加したのち、155℃に加熱し、一晩反応を行った。
【0117】
この反応液にN,N-ジメチルホルムアミド20mLを添加し、さらに155℃で30分撹拌を行った。室温まで冷却し、析出した固体を減圧濾過で取り、N,N-ジメチルホルムアミドで洗浄し、さらに水、メタノールついでアセトンで洗浄を行い、乾燥して目的物を得た。収量0.75g。
【0118】
合成例15 化合物(20)の合成
合成例(15-1) チオフェン-2,3-ジカルボアルデヒド・ジオキシムの合成
5.2gのチオフェン-2,3-ジカルボアルデヒド、50mLのメタノール、6.3gの塩酸ヒドロキシルアミンを混合撹拌し、7.4gの酢酸ナトリウムを添加し、6時間加熱還流した。塩酸ヒドロキシルアミン0.9gを追加後、一晩反応を行った。
【0119】
濃縮後、酢酸エチルと水を加えて抽出を行った。有機相を無水硫酸ナトリウムで脱水したのち、濃縮し、ヘキサンと酢酸エチルを加えて結晶化させた。これを濾取してチオフェン-2,3-ジカルボニトリル・ジオキシムを得た。収量約6g。
【0120】
合成例(15-2) チオフェン-2,3-ジカルボニトリルの合成
上記ジオキシム約6gを60mLのアセトニトリルに溶解し、16mLのトリエチルアミンと11.5gの無水酢酸を加えて室温で5日間反応を行った。濃縮後、水と酢酸エチルを加えて抽出を行い、有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥したのち、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製を行い、チオフェン-2,3-ジカルボニトリルを得た。収量3.8g。
【0121】
合成例(15-3) 化合物(20)の合成
3mLの1-オクタノールに1gの10%リチウムメトキシドのメタノール溶液を添加し、230℃に設定したオイルバスで加熱し、メタノールを蒸発させた。この溶液に360mgのチオフェン-2,3-ジカルボニトリルを加えた。15分反応した後、100℃まで冷却し、272mgの塩化第二鉄六水和物を添加した。1時間反応を行い、15mLのメタノールを加えて析出した固体を濾取した。得られた固体にN,N-ジメチルホルムアミドとシリカゲルを加え、加熱溶解した後に溶媒を減圧留去した。シリカゲルカラムにこの固体を乗せ、N,N-ジメチルホルムアミドで溶出させ、青色成分を集め、濃縮し化合物(20)を得た。収量30mg。
【0122】
合成例16 化合物(21)及び(22)の合成
合成例(16-1) 5-ブロモピリジン-2,3-ジカルボン酸ジメチルの合成
30.0gのピリジン-2,3-ジカルボン酸に250mLのメタノールを加え、撹拌した。この反応液に濃硫酸10mLを滴下し、オルトギ酸トリメチル20mLを滴下した。2日間加熱還流を行い、オルトギ酸トリメチル20mLを追加し、さらに1日間還流を行った。40℃まで冷却後、55℃以下に保ち、TLCで反応の進行を確認しながら16mLの臭素を少しずつ添加した。1日後、臭素8mLを追加し、さらに58℃で3日間反応を行った。この反応液を酢酸エチル、水、炭酸水素ナトリウム(酸成分を中和可能な量)を撹拌している中に少しずつ注いだ。分液後、有機相を亜硫酸ナトリウム水溶液で洗浄した。有機相は無水硫酸ナトリウムで水分を除去したのち、濃縮し、冷やしたイソプロパノールを加えて結晶化させ、濾取した。イソプロパノールで洗浄後、ヘキサンで洗浄し、乾燥して目的物を得た。収量34.4g。
【0123】
合成例(16-2) 5-(2-エチルヘキシルチオ)ピリジン-2,3-ジカルボン酸ジメチルの合成
3.2gの2-エチルヘキサンチオールに5.9gの5-ブロモピリジン-2,3-ジカルボン酸ジメチルを加え、さらにN,N-ジメチルホルムアミド25mLを加えて撹拌した。これに炭酸カリウム6.1gを加えたのちオイルバスの温度を85℃に設定して加熱を行った。1晩反応を行い、120mLの酢酸エチルを加えた。この有機相を炭酸カリウム水溶液で洗浄後、濃縮してシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製を行い、目的物を得た。収量6.2g。
【0124】
合成例(16-3) 5-(2-エチルヘキシルチオ)ピリジン-2,3-ジカルボン酸の合成
5.0gの5-(2-エチルヘキシルチオ)ピリジン-2,3-ジカルボン酸ジメチルにメタノール50mLを加え、2.5gの水酸化リチウム一水和物を添加した。反応終了後、希塩酸で酸性とし、酢酸エチルで抽出を行った。有機相を3回水洗し、濃縮した。この濃縮物にトルエンを加え、減圧留去する操作を3回繰返し、目的物を得た。
【0125】
合成例(16-4) 化合物(21)の合成
1.07gの5-(2-エチルヘキシルチオ)ピリジン-2,3-ジカルボン酸に尿素3.2g、七モリブデン酸六アンモニウム四水和物30mgを加え、160℃に設定したオイルバスで30分加熱した。この反応混合物に塩化第二鉄六水和物465mg、尿素3.2gを加え、オイルバスの設定を200℃として1時間反応を行った。N-メチルピロリドン6mLを加えてさらに1時間加熱を行った。室温まで冷却後、水を加え、析出した固体を濾取し、メタノール洗浄を行ったのち、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製を行い、化合物(21)を得た。収量320mg。
【0126】
合成例(16-5) 5-(2-エチルヘキシルスルホニル)ピリジン-2,3-ジカルボン酸ジメチルの合成
6.0gの5-(2-エチルヘキシルチオ)ピリジン-2,3-ジカルボン酸ジメチルに80mLの酢酸、300mgのタングステン酸ナトリウム2水和物を加え、撹拌した。これを40℃に加温し、4.4mLの30%過酸化水素水をTLCで反応が進行していることを確認しながら少しずつ滴下した。過酸化水素水を全量滴下後、1時間反応を行い、水150mLを添加した。酢酸エチルで抽出を行ったのち、有機相を炭酸水素ナトリウム水溶液で2回、亜硫酸ナトリウム水溶液で2回洗浄したのち、無水亜硫酸ナトリウムで水分を除去したのち濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、目的物を無色油状物として得た。収量6.0g。
【0127】
合成例(16-6) 5-(2-エチルヘキシルスルホニル)ピリジン-2,3-ジカルボン酸の合成
13.6gの5-(2-エチルヘキシルスルホニル)ピリジン-2,3-ジカルボン酸ジメチルに150mLのメタノールを加え、撹拌した。これに6.8g水酸化リチウムを添加して、室温で2時間反応を行った。反応終了後、希塩酸で酸性とし、酢酸エチルで抽出を行った。有機相を3回水洗し、濃縮した。この濃縮物にトルエンを加え、減圧留去する操作を3回繰返し、目的物を得た。
【0128】
合成例(16-7) 化合物(22)の合成
1.0gの5-(2-エチルヘキシルスルホニル)ピリジン-2,3-ジカルボン酸に尿素3.0g、七モリブデン酸六アンモニウム四水和物25.3mgを加え、160℃に設定したオイルバスで30分間加熱した。こののち、塩化第二鉄六水和物400mg、尿素3.0gを添加し、オイルバスの設定を200℃として3時間反応を行った。室温まで冷却後、水を加え、析出した固体を濾取した。この固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製を行い、化合物(22)を得た。収量199mg。
【0129】
合成例17 化合物(23)の合成
合成例(17-1) 4-ブロモフタル酸ジメチルの合成
10gの4-ブロモフタル酸無水物に100mLのメタノールを加え、1時間還流した。室温まで冷却後、5gのオルトギ酸トリメチルを加え、塩化アセチル10mLをゆっくり滴下した。この反応液を加熱し、3日間還流を行った。濃縮後、酢酸エチルと炭酸水素ナトリウム溶液を加え、分液したのち、有機相を無水硫酸ナトリウムで水分を除去し、濃縮を行って目的物を得た。収量10.8g。
【0130】
合成例(17-2) 4-(2-エチルヘキシルチオ)フタル酸ジメチルの合成
4.38gの2-エチルヘキサンチオールに4-ブロモフタル酸ジメチル8.18gと炭酸カリウム6.3g及びN,N-ジメチルホルムアミド40mLを加え、系内を窒素置換した。この反応液を100℃に加熱し、一晩反応を行った。冷却後、酢酸エチルと水を加え、抽出を行い、濃縮後シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製を行って目的物を得た。収量5.2g。
【0131】
合成例(17-3) 4-(2-エチルヘキシルスルホニル)フタル酸ジメチルの合成
5.0gの4-(2-エチルヘキシルチオ)フタル酸ジメチルに50mLの酢酸、250mgのタングステン酸ナトリウム二水和物を加え、撹拌した。40℃に設定したオイルバスで加温し、30%過酸化水素水3.7mLを少しずつ滴下した。1時間反応後、オイルバスの設定を75℃とし、4時間反応を行った。反応終了後、室温とし、水と酢酸エチルを加えて抽出を行った。有機相を炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、さらに亜硫酸ナトリウム溶液で洗浄した。この有機相を亜硫酸ナトリウムを加えて水分を除去し、濃縮を行った。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製を行い、目的物を得た。収量4.78g。
【0132】
合成例(17-4) 4-(2-エチルヘキシルスルホニル)フタル酸の合成
4.4gの4-(2-エチルヘキシルスルホニル)フタル酸ジメチルに30mLのメタノールを加え、2.2gの水酸化リチウム一水和物を添加して、室温で一晩反応を行った。濃塩酸で酸性とし、濃縮した。酢酸エチルと水を加えて抽出を行い、飽和食塩水で有機相を洗浄したのち、無水硫酸ナトリウムで水分を除去し、濃縮した。目的物は油状物から固化し、無色固体として得られた。収量3.8g。
【0133】
合成例(17-5) 化合物(23)の合成
1.5gの5-(2-エチルヘキシルスルホニル)フタル酸に尿素4.5g、七モリブデン酸六アンモニウム四水和物40mgを加え、165℃に設定したオイルバスで30分間加熱した。こののち、塩化第二鉄六水和物600mg、尿素4.5gを添加し、オイルバスの設定を200℃として1時間反応を行った。冷却後、水を加えて析出した固体を濾取し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製を行い、化合物(23)を得た。収量250mg。
【0134】
合成例18 化合物(24)の合成
合成例(18-1) 2-フェニルピリミジン-4,5-ジカルボン酸ジエチルの合成
21.0gのオキサロ酢酸ジエチルナトリウム塩に水を加えて溶解させ、濃塩酸10mLを加えて酸性とし、酢酸エチルで抽出し、濃縮した。この残渣にオルトギ酸トリエチル22.2gと無水酢酸31.0gを加え、留出成分をトラップしながら120℃で30分、140℃で1時間、150℃で2時間加熱した。こののち、80℃に加熱しながら減圧して留去される成分を除去した。残渣にトルエンを加え、共沸成分を除去する操作を繰返し行った。
【0135】
別途、6.24gのベンズアミジン塩酸塩にエタノール50mLを加えて撹拌し、20%ナトリウムエトキシドエタノール溶液を塩基性になるまで加えた。この反応液に前述のトルエン共沸残渣を加えた。室温で30分間撹拌したのち、85℃で3時間反応を行った。冷却後、酢酸エチルと水を加えて抽出を行い、有機相を濃縮しシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製を行った。目的物はヘキサンから結晶として析出した。収量1.0g。
【0136】
合成例(18-2) 2-フェニルピリミジン-4,5-ジカルボン酸の合成
1.7gの2-フェニルピリミジン-4,5-ジカルボン酸ジエチルにメタノール30mLを加え、1.0gの水酸化リチウム一水和物を添加した。室温で一晩反応を行ったのち、濃縮し、水を加えた。濃塩酸で酸性とすると結晶が析出した。これを濾取し、冷水で洗浄したのち、乾燥して目的物を得た。収量1.36g。
【0137】
合成例(18-3) 化合物(24)の合成
600mgの2-フェニルピリミジン-4,5-ジカルボン酸に尿素5g、七モリブデン酸六アンモニウム四水和物22mg、塩化第二鉄六水和物330mgを加え、185℃に設定したオイルバスで2時間加熱した。次にオイルバスの温度を205℃に設定し、2時間反応を行った。こののち、N-メチルピロリドン3mLを加え、205℃に設定したまま4時間加熱した。室温まで冷却した後、メタノール40mL、水40mLを加え、析出した固体を濾取した。
【0138】
この固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した。不純物はクロロホルムとメタノールの混合液で溶出させた後、目的物をN,N-ジメチルホルムアミドで溶出させた。溶媒を留去し、メタノールを加えて濾取、乾燥して化合物(24)を得た。収量198mg。
【0139】
<実施例1>
化合物(1):0.1mgをDMSO(ジメチルスルホキシド)1.0mLに溶解させ、化合物(1)の濃度が0.1g/Lである溶液を調製した。得られた溶液にカルボキシル基を有するカーボンブラック5mgを分散させた。分散に際しては、超音波処理(20kHz)を15分間行った。得られた分散液から固液分離及びメタノール洗浄によって溶媒であるDMSOを除去し、室温で24時間乾燥させて実施例1の触媒を得た。
【0140】
次いで、得られた実施例1の触媒0.82mgと、Milli-Q水84μLと、イソプロピルアルコール336μLと、0.5質量%のNafion水溶液6μLとを超音波撹拌機で混練し、GC(グラッシーカーボン)電極に塗布し、実施例1の電極を得た。
【0141】
(半波電位)
LSV(リニアスイープボルタンメトリー、Linear Sweep Voltammetry)曲線において、電位が0.5(V vs. RHE)のときの電流値の半分の電流値に達するときの電位を半波電位とした。
【0142】
(LSV曲線)
LSV曲線は、酸素飽和0.1M水酸化カリウム水溶液を電解液として使用し、回転リングディスク電極(BAS株式会社製、RRDE-3A)によって掃引速度5mV/sの条件下で取得した。回転ディスクの回転数は1600rpmとし、Pt線を対極として使用し、Ag/AgClを参照極として使用した。
【0143】
(RRDEによるLSV測定)
RRDEによるLSV測定は、回転リングディスク電極(BAS株式会社製、RRDE-3A)によって酸素飽和0.1M水酸化カリウム水溶液を電解液として使用し、掃引速度5mV/sの条件下で行った。回転ディスクの回転数を0rpm、400rpm、800rpm、1200rpm、1600rpm、2000rpm、及び2400rpmの各回転数にした場合についてそれぞれLSVを測定した。対極としてPtを使用し、参照極としてAg/AgClを使用した。
【0144】
RRDEによるLSV測定の結果の例を図1に示す。図1のグラフにおいて、縦軸に示す電流の発生が始まるときの横軸に示す付与電位(開始電位)が高いほど、酸素還元触媒能に優れることを意味する。
【0145】
実施例1における金属錯体(化合物(1))をそれぞれ以下の表1に示す金属錯体に変更したこと以外は実施例1と同じ条件で、開始電位及び半波電位の測定を行った。また、比較例1として、金属錯体の代わりに、二酸化マンガンを使用した。それぞれの結果を表1に示す。
【0146】
【表1】
【0147】
表1に示すとおり、本発明による実施例1から5の触媒は比較例1の触媒よりも開始電位及び半波電位が高く、酸素還元触媒能に優れることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0148】
本発明の金属錯体又はその付加体は、触媒として使用した場合に優れた酸素還元触媒能を有するため有用である。また、導電性材料に容易に吸着させることができ、レアメタルを使用することもないため、製造コストを抑えることができ、大量生産に適した製造工程を設計することができる。
図1