(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022101078
(43)【公開日】2022-07-06
(54)【発明の名称】酸素還元用触媒及びその選定方法、酸素還元用触媒を含む液状組成物又は電極、電極を備える空気電池又は燃料電池
(51)【国際特許分類】
B01J 31/22 20060101AFI20220629BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20220629BHJP
H01M 12/06 20060101ALI20220629BHJP
H01M 12/08 20060101ALI20220629BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20220629BHJP
【FI】
B01J31/22 M
H01M4/90 Y
H01M12/06 F
H01M12/08 K
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020215460
(22)【出願日】2020-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】520114030
【氏名又は名称】AZUL Energy株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100195796
【弁理士】
【氏名又は名称】塩尻 一尋
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 晃寿
(72)【発明者】
【氏名】中村 剛希
【テーマコード(参考)】
4G169
5H018
5H032
5H126
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA08B
4G169BA21A
4G169BA21B
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4G169BA27B
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4G169FC10
5H018AA01
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5H018AA07
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5H032AS02
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5H032HH08
5H126BB04
5H126BB05
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】優れた酸素還元触媒能を有する酸素還元用触媒及びその選定方法、酸素還元用触媒を含む液状組成物又は電極、当該電極を備える空気電池又は燃料電池を提供すること。
【解決手段】金属錯体及び導電性材料を含み、5.80eV以下のイオン化ポテンシャルを有する、酸素還元用触媒及びその選定方法、酸素還元用触媒を含む液状組成物又は電極、電極を備える空気電池又は燃料電池。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属錯体及び導電性材料を含み、5.80eV以下のイオン化ポテンシャルを有する、酸素還元用触媒。
【請求項2】
前記金属錯体が、以下の式(1)又は(2):
【化1】
(式中、
Mは金属原子であり、
D
1からD
28は、それぞれ独立に、窒素原子、硫黄原子又は炭素原子であり、
D
1からD
28が炭素原子である場合、前記炭素原子は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基又はアルキルチオ基が結合していてもよい)
で表される、請求項1に記載の酸素還元用触媒。
【請求項3】
前記Mが、マンガン原子、鉄原子、コバルト原子、ニッケル原子、銅原子又は亜鉛原子である、請求項2に記載の酸素還元用触媒。
【請求項4】
D1からD16が、窒素原子又は炭素原子である、請求項2又は3に記載の酸素還元用触媒。
【請求項5】
D17からD28が、硫黄原子又は炭素原子である、請求項2から4のいずれか一項に記載の酸素還元用触媒。
【請求項6】
以下の式:
【化2】
【化3】
で表される、請求項2から5のいずれか一項に記載の酸素還元用触媒。
【請求項7】
前記金属錯体が、前記金属錯体と前記導電性材料との合計量100質量%に対して、75質量%以下の量で含まれる、請求項1から6のいずれか一項に記載の酸素還元用触媒。
【請求項8】
前記導電性材料が、炭素材料である、請求項1から7のいずれか一項に記載の酸素還元用触媒。
【請求項9】
前記導電性材料が、カルボキシル基を含有する、請求項1から8のいずれか一項に記載の酸素還元用触媒。
【請求項10】
前記カルボキシル基が、前記導電性材料100質量%に対して、20質量%以下で含有される、請求項9に記載の酸素還元用触媒。
【請求項11】
4.80eV以上のイオン化ポテンシャルを有する、請求項1から10のいずれか一項に記載の酸素還元用触媒。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の酸素還元用触媒及び溶媒を含む、液状組成物。
【請求項13】
請求項1から11のいずれか一項に記載の酸素還元用触媒を含む、電極。
【請求項14】
請求項13に記載の電極を備える、空気電池又は燃料電池。
【請求項15】
金属錯体及び導電性材料を含み、5.80eV以下のイオン化ポテンシャルを有する触媒を、酸素還元用触媒のイオン化ポテンシャルを測定することによって選択するステップを含む、酸素還元用触媒の選定方法。
【請求項16】
前記酸素還元用触媒が、請求項1から9のいずれか一項に記載の酸素還元用触媒である、請求項16に記載の酸素還元用触媒の選定方法。
【請求項17】
前記酸素還元用触媒が、空気電池又は燃料電池用の酸素還元用触媒である、請求項15又は16に記載の酸素還元用触媒の選定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素還元用触媒及びその選定方法、酸素還元用触媒を含む液状組成物又は電極、電極を備える空気電池又は燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電極における酸化還元反応を利用して化学エネルギーを電気エネルギーに変換するデバイスとして、燃料電池及び空気電池が知られている。これらの電池の空気極では酸素の還元反応が起きており、該還元反応を促進するために触媒が使用されている。代表的な触媒としては、燃料電池の場合には白金を担持した炭素材料が知られており、空気電池の場合には二酸化マンガンを担持した炭素材料が知られている。
【0003】
しかし、白金などのレアメタルは高価であるとともにその資源量が限られていることから、より安価で資源量が豊富な材料を使用した触媒の開発が試みられている。例えば特許文献1には、鉄フタロシアニン及び助触媒である炭素材料を含む空気極用触媒が開示されている。しかしながら、鉄フタロシアニンは炭素材料の表面に吸着しにくいため、その酸素還元能は十分なものではなかった。
【0004】
一方、特許文献2には、助触媒である炭素材料として酸化グラフェンを鉄フタロシアニンと組み合わせて使用することが開示されている。しかしながら、特許文献2に開示された酸素還元触媒の製造方法では、一度鉄フタロシアニンと酸化グラフェンとの複合体を形成した後、酸化グラフェンを還元して鉄フタロシアニンとグラフェンとの複合体を得る必要があるため、製造工程が複雑になってしまうという問題があった。
【0005】
特許文献3には、特定の構造式で示されるコバルトテトラピラジノポルフィラジン誘導体を触媒成分として含有する酸化還元用電極が開示されている。しかしながら、特許文献4に記載されたコバルトテトラピラジノポルフィラジン誘導体はピラジンにトリフルオロメチル基が結合しているため、酸素還元触媒能が低下するおそれがあった。
【0006】
また、特許文献1から3に記載された金属錯体を助触媒と組み合わせて酸素還元用触媒として使用する際に、どのように金属錯体と助触媒を組み合わせればよいかは、実際に酸素還元能を調べるまで不明であり、酸素還元用触媒を効率的に選定することができていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016-85925号公報
【特許文献2】特開2014-91061号公報
【特許文献3】国際公開第2007/023964号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、白金などのレアメタルを利用することなく、優れた酸素還元触媒能を有する触媒を開発することが求められていた。また、酸素還元能を調べることなく、優れた酸素還元能を有する触媒を選定する簡便な方法が求められていた。
【0009】
本発明は、上記従来技術の課題を解決すべくなされたものであり、優れた酸素還元触媒能を有する酸素還元用触媒及びその選定方法、酸素還元用触媒を含む液状組成物又は電極、当該電極を備える空気電池又は燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題について鋭意検討した結果、予期しないことに、特定の値のイオン化ポテンシャルを有する触媒を使用することにより、当該触媒が優れた酸素還元触媒能を有することを見出し本発明に到達した。特に、金属錯体を触媒と使用する際、金属錯体のイオン化ポテンシャルを測定するのではなく、導電性材料等と組み合わせて触媒とした際のイオン化ポテンシャルが酸素還元触媒能と非常によく相関することを見出し、本発明を完成した。
【0011】
本発明の目的は、金属錯体及び導電性材料を含み、5.80eV以下のイオン化ポテンシャルを有する、酸素還元用触媒によって達成される。好ましくは、本発明の酸素還元用触媒は、4.80eV以上のイオン化ポテンシャルを有する。
【0012】
前記金属錯体は、以下の式(1)又は(2):
【化1】
(式中、
Mは金属原子であり、
D
1からD
28は、それぞれ独立に、窒素原子、硫黄原子又は炭素原子であり、
D
1からD
28が炭素原子である場合、前記炭素原子は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基又はアルキルチオ基が結合していてもよい)
で表されることが好ましい。
【0013】
前記Mは、マンガン原子、鉄原子、コバルト原子、ニッケル原子、銅原子又は亜鉛原子であることが好ましい。
【0014】
D1からD16は、窒素原子又は炭素原子であることが好ましく、D17からD28は、硫黄原子又は炭素原子であることが好ましい。
【0015】
前記金属錯体は、以下の式:
【化2】
【化3】
で表されることが好ましい。
【0016】
前記金属錯体は、前記金属錯体と前記導電性材料との合計量100質量%に対して、75質量%以下の量で含まれることが好ましい。
【0017】
前記導電性材料が、炭素材料であることが好ましい。
【0018】
前記導電性材料は、カルボキシル基を含有することが好ましい。
【0019】
前記カルボキシル基は、前記導電性材料100質量%に対して、20質量%以下で含有されることが好ましい。
【0020】
本発明は、本発明の酸素還元用触媒及び溶媒を含む、液状組成物にも関する。
【0021】
本発明はまた、本発明の酸素還元用触媒を含む、電極にも関する。
【0022】
本発明は、本発明の電極を備える、空気電池又は燃料電池にも関する。
【0023】
さらに、本発明は、金属錯体及び導電性材料を含み、5.80eV以下のイオン化ポテンシャルを有する触媒を、酸素還元用触媒のイオン化ポテンシャルを測定することによって選択するステップを含む、酸素還元用触媒の設計方法にも関する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、本発明の酸素還元用触媒を用いることによって、優れた酸素還元触媒能を提供することができる。また、本発明の酸素還元用触媒はイオン化ポテンシャルを調べることにより優れた触媒を適切に選定することができるため、酸素還元用として適した触媒を容易に選定することができる。
【0025】
また、本発明は、白金などのレアメタルを使用することなく優れた酸素還元触媒能を得ることができるため、比較的安価に空気電池又は燃料電池の酸素還元用触媒を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】実施例1、3及び7、並びに比較例1及び2に対して、RRDEによるLSV測定を行った結果のグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[酸素還元用触媒]
本発明の酸素還元用触媒は、金属錯体及び導電性材料を含み、5.80eV以下のイオン化ポテンシャルを有することを特徴とする。酸素還元用触媒のイオン化ポテンシャルは4.50eV以上であることが好ましく、4.70以上であることがより好ましく、4.80eV以上であることがさらに好ましい。また、酸素還元用触媒のイオン化ポテンシャルは5.40eV以下であることが好ましく、5.20eV以下であることがより好ましい。イオン化ポテンシャルが上記範囲内である場合、触媒は高い酸化還元能を有する。
【0028】
イオン化ポテンシャルを測定する方法は特に限定されないが、触媒に紫外線を照射し、イオン化に伴う放出光電子を測定することによって測定することができる。イオン化ポテンシャルの測定は真空中又は大気中で行うことができ、例えば大気中光電子分光装置(AC-1~AC-5、理研計器製)を用いて測定することができる。また、溶液中でサイクリックボルタンメトリー等の電気化学的測定で酸化電位を求め、イオン化ポテンシャルが既知の材料を用いての換算によって算出することも可能である。
【0029】
本発明の酸素還元用触媒は金属錯体及び導電性材料を含む。金属錯体は1種のみを用いることもできるが、2種以上の金属錯体を組み合わせて用いることもできる。金属錯体はアザフタロシアニン骨格を有することが好ましく、以下の式(1)又は(2):
【化4】
(式中、
Mは金属原子であり、
D
1からD
28は、それぞれ独立に、窒素原子、硫黄原子又は炭素原子であり、
D
1からD
28が炭素原子である場合、前記炭素原子は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基又はアルキルチオ基が結合していてもよい)
で表されることがより好ましい。
【0030】
窒素原子とMとの間の結合は、窒素原子のMへの配位を意味する。Mには配位子としてハロゲン原子、水酸基、又は炭素数1~8の炭化水素基がさらに結合していてもよい。また、電気的に中性になるように、アニオン性対イオンが存在していてもよい。
【0031】
Mの価数は特に制限されない。金属錯体が電気的に中性となるように、配位子(例えば、軸配位子)としてハロゲン原子、水酸基、又は、炭素数1~8のアルキルオキシ基が結合していてもよく、アニオン性対イオンが存在していてもよい。アニオン性対イオンとしては、ハロゲン化物イオン、水酸化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオンが例示される。また、炭素数1~8のアルキルオキシ基が有するアルキル基の構造は、直鎖状、分岐状、又は環状であってもよい。
【0032】
Mとしては、スカンジウム原子、チタン原子、バナジウム原子、クロム原子、マンガン原子、鉄原子、コバルト原子、ニッケル原子、銅原子、亜鉛原子、イットリウム原子、ジルコニウム原子、ニオブ原子、ルテニウム原子、ロジウム原子、パラジウム原子、ランタン原子、セリウム原子、プラセオジム原子、ネオジム原子、プロメチウム原子、サマリウム原子、ユウロピウム原子、ガドリニウム原子、テルビウム原子、ジスプロシウム原子、ホルミウム原子、エルビウム原子、ツリウム原子、イッテルビウム原子、ルテチウム、アクチニウム原子、トリウム原子、プロトアクチニウム原子、ウラン原子、ネプツニウム原子、プルトニウム原子、アメリシウム原子、キュリウム原子、バークリウム原子、カリホルニウム原子、アインスタイニウム原子、フェルミウム原子、メンデレビウム原子、ノーベリウム原子、及びローレンシウム原子が例示される。これらの中でも、Mは、マンガン原子、鉄原子、コバルト原子、ニッケル原子、銅原子、又は亜鉛原子であることが好ましく、鉄原子、コバルト原子、ニッケル原子、又は銅原子であることがより好ましい。
【0033】
本発明においてハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素が挙げられる。
【0034】
本発明においてアルキル基とは、直鎖状又は分岐鎖状の一価の炭化水素基を表す。アルキル基の炭素原子数は1~20個であることが好ましく、1~12個であることがより好ましく、1~6個であることがさらに好ましい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、tert-ペンチル基、及びn-ヘキシル基が例示される。
【0035】
本発明においてシクロアルキル基としては、環状の一価の炭化水素基を表す。シクロアルキル基の炭素原子数は3~20個であることが好ましく、3~12個であることがより好ましく、3~6個であることがさらに好ましい。シクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、1-メチルシクロプロピル基、2-メチルシクロプロピル基、及び2,2-ジメチルシクロプロピル基が例示される。
【0036】
本発明においてアルケニル基とは、二重結合を含有する直鎖状又は分岐鎖状の一価の炭化水素基を表す。アルケニル基の炭素原子数は2~20個であることが好ましく、2~12個であることがより好ましく、2~6個であることがさらに好ましい。アルケニル基としては、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、1-メチル-2-プロペニル基、2-メチル-2-プロペニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、4-ペンテニル基、1-メチル-2-ブテニル基、2-メチル-2-ブテニル基、1-ヘキセニル基、2-ヘキセニル基、3-ヘキセニル基、4-ヘキセニル基、及び5-ヘキセニル基が例示される。
【0037】
本発明においてアルキニル基とは、三重結合を含有する直鎖状又は分岐鎖状の一価の炭化水素基を表す。アルキニル基の炭素原子数は2~20個であることが好ましく、2~12個であることがより好ましく、2~6個であることがさらに好ましい。アルキニル基としては、エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基、1-ブチニル基、2-ブチニル基、3-ブチニル基、1-メチル-2-プロピニル基、2-メチル-3-ブチニル基、1-ペンチニル基、2-ペンチニル基、3-ペンチニル基、4-ペンチニル基、1-メチル-2-ブチニル基、2-メチル-3-ペンチニル基、1-ヘキシニル基、及び1,1-ジメチル-2-ブチニル基が例示される。
【0038】
本発明においてアリール基とは、一価の芳香族炭化水素基を表す。アリール基の炭素原子数は6~40個であることが好ましく、6~30個であることがより好ましい。アリール基としては、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、ベンゾフルオレニル基、ジベンゾフルオレニル基、フェナントリル基、アントラセニル基、ベンゾフェナントリル基、ベンゾアントラセニル基、クリセニル基、ピレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基、ベンゾフルオランテニル基、ジベンゾアントラセニル基、ペリレニル基、及びヘリセニル基が例示される。
【0039】
本発明においてアルキルスルホニル基とは、スルホニル基にアルキル基が結合した一価の基を表す。アルキルスルホニル基中のアルキル基としては上記「アルキル基」として記載した基であることができる。アルキルスルホニル基の炭素原子数は1~20個であることが好ましく、1~12個であることがより好ましく、1~6個であることがさらに好ましい。メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、ノルマルプロピルスルホニル基、イソプロピルスルホニル基、n-ブチルスルホニル基、sec-ブチルスルホニル基、tert-ブチルスルホニル基、n-ペンチルスルホニル基、イソペンチルスルホニル基、tert-ペンチルスルホニル基、ネオペンチルスルホニル基、2,3-ジメチルプロピルスルホニル基、1-エチルプロピルスルホニル基、1-メチルブチルスルホニル基、n-ヘキシルスルホニル基、イソヘキシルスルホニル基、及び1,1,2-トリメチルプロピルスルホニル基が例示される。
【0040】
本発明においてアルコキシ基とは、エーテル結合を介して炭化水素基が結合した一価の基を表す。アルコキシ基の炭素原子数は1~20個であることが好ましく、1~12個であることがより好ましく、1~6個であることがさらに好ましい。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、n-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、イソプロポキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、及びイソヘキシルオキシ基が例示される。
【0041】
本発明においてアルキルチオ基とは、アルコキシ基のエーテル結合における酸素原子が硫黄原子に置換された基を表す。アルキルチオ基の炭素原子数は1~20個であることが好ましく、1~16個であることがより好ましく、1~12個であることがさらに好ましい。アルキルチオ基としては、メチルチオ基、エチルチオ基、n-プロピルチオ基、n-ブチルチオ基、n-ペンチルチオ基、n-ヘキシルチオ基、及びイソプロピルチオ基が例示される。
【0042】
アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基、及びアルキルチオ基は、無置換の置換基であってもよいが、それぞれハロゲン、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、シアノ基、カルボニル基、カルボキシル基、アミノ基、ニトロ基、シリル基、及びスルホ基等の1つ以上の置換基で置換されていてもよい。
【0043】
D1からD16は、窒素原子又は炭素原子であることが好ましく、D17からD28は、硫黄原子又は炭素原子であることが好ましい。D1からD16のうちの窒素原子の数は2~12個であることが好ましく、4~8個であることがより好ましい。D17からD28のうちの硫黄原子の数は2~10個であることが好ましく、4~8個であることがより好ましい。
【0044】
好ましくは、金属錯体は、以下の式で表される化合物である。
【0045】
【0046】
金属錯体の製造方法は特に限定されないが、例えば、ピリジン-2,3-ジカルボニトリル等のジシアノ化合物と金属原子とを塩基性物質の存在下にアルコール溶媒中で加熱する方法が例示される。ここで塩基性物質としては、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、及び酢酸ナトリウム等の無機塩基;トリエチルアミン、トリブチルアミン、及びジアザビシクロウンデセン等の有機塩基が例示される。
【0047】
導電性材料は、導電性を具備するものであれば特に限定されないが、例えば、炭素材料、金属材料、及び金属酸化物材料が挙げられる。導電性材料としては炭素材料が好ましい。導電性材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
炭素材料は、導電性炭素由来であることが好ましい。炭素材料の具体例としては、黒鉛、アモルファス炭素、活性炭、グラフェン、カーボンブラック、炭素繊維、メソカーボンマイクロビーズ、マイクロカプセルカーボン、フラーレン、カーボンナノフォーム、カーボンナノチューブ、及びカーボンナノホーン等が例示される。これらの中でも炭素材料は、黒鉛、アモルファス炭素、活性炭、グラフェン、カーボンブラック、炭素繊維、フラーレン、又はカーボンナノチューブであることが好ましく、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、又はグラフェンであることがより好ましい。
【0049】
カーボンナノチューブとしては、単層カーボンナノチューブ(以下、「SWCNT」と記す。)、2層カーボンナノチューブ(以下、「DWCNT」と記す。)、及び多層カーボンナノチューブ(以下、「MWCNT」と記す。)が例示される。
【0050】
炭素材料は、ヘテロ原子を有していてもよい。ヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子、リン原子、硫黄原子、及びケイ素原子等が例示される。炭素材料がヘテロ原子を有する場合において、炭素材料はヘテロ原子の1種を単独で含んでいてもよく、2種以上のヘテロ原子を含んでいてもよい。なお、炭素材料は酸化されていてもよく、水酸化されていてもよく、窒化されていてもよく、リン化されていてもよく、硫化されていてもよく、又は珪化されていてもよい。
【0051】
金属材料としては、チタン及びスズを挙げることができる。また、金属酸化物材料としては、チタン酸化物及びスズ酸化物(SnO2、ITO、ATO)等が挙げられる。
【0052】
導電性材料は、水酸基、カルボキシル基、窒素含有基、ケイ素含有基、リン酸基等のリン含有基、及びスルホン酸基等の硫黄含有基等の官能基を有していてもよい。特に、炭素材料は、カルボキシル基を有していることが好ましい。導電性材料がカルボキシル基を有することにより、導電性材料の表面に金属錯体が吸着しやすくなり、触媒の耐久性が向上するとともに、酸素還元触媒能をさらに高めることができる。
【0053】
導電性材料は、酸化処理による表面処理を行っても良い。特にカーボンブラック等の炭素材料は酸化処理をすることで、カルボキシル基やヒドロキシル基等の親水性官能基を付与することにより金属錯体との相互作用を改良することができ、イオン化ポテンシャルを最適な範囲に制御することが可能となる。酸化処理の方法としては、公知の方法を採用することができ、硝酸、硫酸、塩素酸等の酸化剤水溶液中に撹拌混合する湿式処理や、プラズマ処理やオゾン処理等の気相処理を用いることが出来る。
【0054】
導電性材料がカルボキシル基を含有する場合、カルボキシル基の含有量は、導電性材料100質量%に対して、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。カルボキシル基の含有量が前記上限値以下であると、触媒の製造コストが低下するため有利である。また、カルボキシル基の含有量は、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、8質量%以上がさらに好ましい。カルボキシル基の含有量が前記下限値以上であると、触媒の耐久性及び酸素還元触媒能をさらに高めることができる。なお、カルボキシル基の含有量は、元素分析又はX線光電子分光法等により測定することができる。
【0055】
導電性材料の比表面積は0.8m2/g以上が好ましく、10m2/g以上がより好ましく、50m2/g以上がさらに好ましく、100m2/g以上が特に好ましく、500m2/g以上が最も好ましい。比表面積が0.8m2/g以上であると、触媒の担持量を増やしやすくなり、触媒の酸素還元触媒能をさらに高めることができる。比表面積の上限値は特に限定されないが、例えば、2000m2/gとすることができる。なお、比表面積は、窒素吸着BET法で比表面積測定装置により測定することができる。
【0056】
導電性材料の平均粒径は、特に制限されないが、例えば、5nm~1000μmが好ましく、10nm~100μmがより好ましく、50nm~10μmがさらに好ましい。導電性材料の平均粒径を前記数値範囲に調整する方法としては、以下の(A1)~(A3)が例示される。
(A1):粒子をボールミル等により粉砕し、得られた粗粒子を分散剤に分散させて所望の粒子径にした後に乾固する方法。
(A2):粒子をボールミル等により粉砕し、得られた粗粒子をふるい等にかけて粒子径を選別する方法。
(A3):導電性材料を製造する際に、製造条件を最適化し、粒子の粒径を調整する方法。
なお、平均粒子径は、粒度分布測定装置又は電子顕微鏡等により測定することができる。
【0057】
本発明の酸素還元用触媒において、金属錯体の含有量は、金属錯体と導電性材料との合計量100質量%に対して、75質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。金属錯体の含有量が前記上限値以下であると、触媒の導電性が優れる。また、金属錯体の含有量は、金属錯体と導電性材料との合計量100質量%に対して、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましい。金属錯体の割合が前記下限値以上であると、触媒の酸素還元触媒能をさらに高めることができる。
金属錯体の含有量が高すぎるとイオン化ポテンシャルは好ましい範囲を外れて、金属錯体単独の値に近くなり、触媒の酸素還元性能が低下することになる。
反対に金属錯体の含有量が低すぎるとイオン化ポテンシャルは導電性材料の値に近くなり、触媒の酸素還元性能が低下することになる。
導電性材料と金属錯体複合体のイオン化ポテンシャルの値を元に最適な金属錯体含有量を選定することができる。
【0058】
本発明の酸素還元用触媒の用途は特に限定されないが、優れた酸素還元触媒能を有することから、空気電池、燃料電池、及び電気化学センサー等の酸素還元用電極に用いることができる。
【0059】
[液状組成物]
一実施形態において、本発明は、本発明の酸素還元用触媒及び溶媒を含む液状組成物に関する。溶媒は酸素還元用触媒を溶解しやすい(すなわち、溶解度が高い)溶媒であってもよく、酸素還元用触媒を溶解しにくい(すなわち、溶解度が低い)溶媒であってもよい。溶媒が酸素還元用触媒を溶解しやすい場合、液状組成物は溶液の形態である。溶媒が酸素還元用触媒を溶解しにくい場合、液状組成物は分散液の形態である。
【0060】
溶媒は特に限定されないが、水などの無機溶媒であってもよく、有機溶媒であってもよい。有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール(2-プロパノール)、及び1-ヘキサノール等のアルコール;ジメチルスルホキシド;テトラヒドロフラン;N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、及びアセトン等の非プロトン性極性溶媒;並びにクロロホルム、ジクロロメタン、1,4-ジオキサン、ベンゼン、及びトルエン等の非極性溶媒が例示される。溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0061】
液状組成物は、任意成分として、任意の導電剤、バインダー、及びその他の添加剤を含むことができる。また、ポリテトラフルオロエチレンに基づく構成単位とスルホン酸基を有するパーフルオロ側鎖とを含むパーフルオロカーボン材料を含んでもよい。パーフルオロカーボン材料の具体例としては、Nafion(製品名:デュポン社製)が例示される。
【0062】
液状組成物は、酸素還元用触媒と溶媒と必要に応じてパーフルオロカーボン材料とを混合又は混練することにより、製造することができる。混合又は混練は、超音波処理、ミキサー、ブレンダー、ニーダー、ホモジナイザー、ビーズミル、及びボールミル等を使用してもよい。混練操作の前後においては、ふるい等を使用して、粒子の平均粒子径を調整してもよい。また、パーフルオロカーボン材料を含む液状組成物を調製する際には、酸素還元用触媒とパーフルオロカーボン材料と必要に応じて水とアルコールとを混合し、均一になるまで撹拌してもよい。
【0063】
液状組成物は、種々の基材の表面に適用することができる。例えば、液状組成物を基材の表面に塗布し、溶媒を除去することにより、酸素還元用触媒を含む層(以下、「触媒層」と記す。)を種々の基材の表面に設けることができる。すなわち、液状組成物は、例えば電極を製造する際に基材の表面に塗布する塗工液として使用することができる。液状組成物をそのまま塗工液として使用してもよく、酸素還元用触媒の含有量又は固形分濃度を調整してから塗工液として使用してもよい。
【0064】
基材は特に限定されないが、アルミニウム箔、電解アルミニウム箔、アルミニウムメッシュ(エキスパンドメタル)、発泡アルミニウム、パンチングアルミニウム、ジュラルミン等のアルミニウム合金、銅箔、電解銅箔、銅メッシュ(エキスパンドメタル)、発泡銅、パンチング銅、真鍮等の銅合金、真鍮箔、真鍮メッシュ(エキスパンドメタル)、発泡真鍮、パンチング真鍮、ニッケル箔、ニッケルメッシュ、耐食性ニッケル、ニッケルメッシュ(エキスパンドメタル)、パンチングニッケル、発泡ニッケル、スポンジニッケル、金属亜鉛、耐食性金属亜鉛、亜鉛箔、亜鉛メッシュ(エキスパンドメタル)、鋼板、パンチング鋼板、銀等が例示される。また、シリコン基板;金、鉄、ステンレス鋼、銅、アルミニウム、及びリチウム等の金属基板;これらの金属の任意の組み合わせを含む合金基板;インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、及びアンチモン錫酸化物(ATO)等の酸化物基板;並びにグラッシーカーボン、パイロリティックグラファイト、及びカーボンフェルト等の炭素基板等の基板状の基材を使用することもできる。
【0065】
[電極]
一実施形態において、本発明は、本発明の酸素還元用触媒を含む電極に関する。電極は上記の基材の上に本発明の酸素還元用触媒を含む層(すなわち、触媒層)を備えることができ、酸素還元反応用の触媒として使用することができる。触媒層は基材と直接接触していてもよく、基材と触媒層との間に他の層が存在していてもよい。
【0066】
電極を製造する方法は特に限定されないが、例えば、液状組成物を導電性の基材の表面に塗布し、酸素還元用触媒以外の成分を除去することによって製造してもよい。酸素還元用触媒以外の成分を除去する際には、加熱乾燥をしてもよく、乾燥後にプレスを行ってもよい。また、真空蒸着等によって触媒層を基材の表面に設けてもよい。電極は触媒層を基材の片面のみに有していてもよく、基材の両面に有していてもよい。
【0067】
触媒層の厚みは特に限定されないが、例えば、0.01~100μmとすることができる。厚みが前記下限値以上であると、電極の耐久性が優れている。厚みが前記上限値以下であると、電極の性能が低下しにくくなる。
【0068】
電極は酸素還元反応用触媒としての機能を有しており、以下に示す還元反応の触媒としての機能を有する。
O2+4H++4e-→2H2O
O2+2H2O+4e-→4OH-
【0069】
[空気電池]
一実施形態において、本発明は、本発明の電極を備える空気電池に関する。本発明の電極を空気電池の酸素極として使用することができる。空気電池は、酸素極、金属極、電解質、及びセパレータを備えることができる。本発明において酸素極とは、気体の酸素を電極活物質とする電極であり、空気極とも呼ばれるものである。
【0070】
金属極は特に限定されないが、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、リチウム、亜鉛等の金属単体、及びこれらの金属酸化物が例示される。
【0071】
電解質は水性電解質が好ましく、特に限定されないが、水酸化カリウム水溶液及び水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ水溶液、並びに硫酸水溶液等の酸性水溶液が例示される。電解質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、無機固体電解質を使用することもできる。
【0072】
セパレータは、酸素極と金属極とを隔離し、電解質を保持して酸素極と金属極との間のイオン伝導性を確保する部材である。セパレータは特に限定されないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、セルロース、酢酸セルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、セロファン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアクリルアミド、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリアミド、ビニロン、ポリ(メタ)アクリル酸等のマイクロポアを有する重合体、ゲル化合物、イオン交換膜、環化重合体、ポリ(メタ)アクリル酸塩含有重合体、スルホン酸塩含有重合体、第四級アンモニウム塩含有重合体、及び第四級ホスホニウム塩含有重合体等が例示される。セパレータは非多孔質膜でも多孔質膜であってもよく、多孔質膜の場合は、孔径は10μm以下が好ましい。
【0073】
[燃料電池]
一実施形態において、本発明は、本発明の電極を備える燃料電池に関する。本発明の電極を燃料電池の酸素極として使用することができる。燃料電池は、酸素極、燃料極、電解質、及びセパレータを備えることができる。
【0074】
燃料電池に使用される燃料極、電解質、及びセパレータとしては、空気電池に使用される金属極、電解質、及びセパレータで挙げたものをそれぞれ使用することができる。
【0075】
燃料電池は一次電池でもよく、二次電池でもよい。燃料電池の形態としては、金属空気電池、溶融炭酸塩型燃料電池(MCFC)、リン酸型燃料電池(PAFC)、固体酸化物型燃料電池(SOFC)、固体高分子型燃料電池(PEFC)、酵素(バイオ)燃料電池、微生物燃料電池、ヒドラジン燃料電池、及びメタノール直接酸化型燃料電池(DMFC)等が例示される。燃料電池の形態はこれらの例示に限定されないが、PEFC、酵素(バイオ)燃料電池、微生物燃料電池、ヒドラジン燃料電池又はDMFCが好ましい。二次電池としては、負極に水素吸蔵合金を用いた水素-空気二次電池が例示される。
【0076】
[酸素還元用触媒の設計方法]
一実施形態において、本発明は、金属錯体及び導電性材料を含み、5.80eV以下のイオン化ポテンシャルを有する触媒を、酸素還元用触媒のイオン化ポテンシャルを測定することによって選択するステップを含む、酸素還元用触媒の選定方法に関する。本発明の酸素還元用触媒は空気電池又は燃料電池用の酸素還元用触媒、とりわけ電極用の酸素還元用触媒として特に有用であり、本発明の酸素還元用触媒を含む電極を酸素極として用いることにより、優れた性能を有する空気電池又は燃料電池を製造することができる。酸素還元用触媒、液状組成物、電極、空気電池及び燃料電池としては、上記したものを使用することができる。
【0077】
本発明の酸素還元用触媒の選定方法は、酸素還元用触媒全体としてイオン化ポテンシャルを測定することを特徴とする。具体的には、触媒の主成分のみのイオン化ポテンシャルを測定するのではなく、導電性材料、助触媒等と組み合わせて複合体の形態で測定することで、酸素還元用触媒としての有用性を効果的に調べることができる。例えば、金属錯体を使用する本発明の酸素還元用触媒を使用する場合、金属錯体のみのイオン化ポテンシャルを測定しても、イオン化ポテンシャルと酸素還元用触媒としての性能との間に有意な相関は認められない。しかしながら、導電性材料と複合体を形成した触媒のイオン化ポテンシャルは、酸素還元用触媒としての性能と非常によく相関する。そのため酸素還元触媒能を調べることなく、触媒のイオン化ポテンシャルを測定することにより、適切な酸素還元用触媒を選定することができる。
【0078】
本発明の酸素還元用触媒の選定方法にしたがって選択した酸素還元用触媒は、優れた酸素還元触媒能を有することができ、空気電池及び燃料電池の酸素極における触媒として求められる性能を満たすことができる。
【実施例0079】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明するが、本発明の範囲は実施例に限定されるものではない。
【0080】
<実施例1>
1.29gのピリジン-3,4-ジカルボニトリルに410mgの無水塩化第二鉄、5mLの1-ペンタノールを加え、1.52gの1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エンを添加し、160℃に設定したオイルバスで加熱した。3時間後、20mLのN,N-ジメチルホルムアミドを添加して、さらに1時間加熱した。冷却後、メタノール20mLを加えて析出した固体を濾取した。この固体をメタノールで洗浄し、乾燥して以下の式:
【0081】
【化7】
を有する反応生成物である化合物(1)を得た(収量920mg)。
【0082】
反応生成物をアセトンで3回遠心分離し、乾燥させた。遠心分離後の沈殿物を濃硫酸に溶解させ、水に滴下し、化合物(1)を析出させた。析出した化合物(1)を遠心分離で回収し、メタノールで洗浄し、化合物(1)を得た。次いで、得られた化合物(1)0.1mgをDMSO(ジメチルスルホキシド)1.0mLに溶解させ、化合物(4)の濃度が0.1g/Lである溶液を調製した。得られた溶液にカルボキシル基を有するカーボンブラック5mgを分散させた。分散は、15分間超音波処理(20kHz)することによって行った。得られた分散液を固液分離し、メタノール洗浄することによって溶媒であるDMSOを除去し、室温で24時間乾燥させて実施例1の触媒を得た。
【0083】
次いで、得られた実施例1の触媒0.82mgと、Milli-Q水84μLと、イソプロピルアルコール336μLと、0.5質量%のNafion水溶液6μLを超音波撹拌機で混練し、GC電極に塗布し、実施例1の電極を得た。
【0084】
(イオン化ポテンシャル)
イオン化ポテンシャルは、触媒の主成分の金属錯体単独の値と、上記方法でカーボンブラックに担持した触媒の値をそれぞれ測定した。イオン化ポテンシャルの測定には、理研計器社製大気中光電子分光装置AC-3を用いた。
【0085】
(半波電位)
LSV(リニアスイープボルタンメトリー、Linear Sweep Voltammetry)曲線において、電位が0.5(V vs. RHE)のときの電流値の半分の電流値に達するときの電位を半波電位とした。
【0086】
(LSV曲線)
LSV曲線は、酸素飽和0.1M水酸化カリウム水溶液を電解液として使用し、回転リングディスク電極(BAS株式会社製、RRDE-3A)によって掃引速度5mV/sの条件下で取得した。回転ディスクの回転数は1600rpmとし、Pt線を対極として使用し、Ag/AgClを参照極として使用した。
【0087】
(RRDEによるLSV測定)
RRDEによるLSV測定は、回転リングディスク電極(BAS株式会社製、RRDE-3A)によって酸素飽和0.1M水酸化カリウム水溶液を電解液として使用し、掃引速度5mV/sの条件下で行った。回転ディスクの回転数を0rpm、400rpm、800rpm、1200rpm、1600rpm、2000rpm、及び2400rpmの各回転数にした場合についてそれぞれLSVを測定した。対極としてPtを使用し、参照極としてAg/AgClを使用した。
【0088】
RRDEによるLSV測定の結果を示すグラフにおいて、縦軸に示す電流の発生が始まるときの横軸に示す付与電位(開始電位)が高いほど、酸素還元触媒能に優れることを意味する。
【0089】
<実施例2から7、並びに比較例1及び2>
実施例1における金属錯体(化合物(1))をそれぞれ以下の表1に示す金属錯体に変更したこと以外は実施例1と同じ条件で、イオン化ポテンシャル、開始電位及び半波電位の測定を行った。なお、比較例1の化合物は以下の構造を有している。
【0090】
【0091】
測定の結果を表1に示す。
【0092】
【0093】
実施例1及び3、並びに比較例1に対して、RRDEによるLSV測定を行った結果のグラフを
図1に示す。上記表1及び
図1に示すグラフの結果から、5.80eV以下のイオン化ポテンシャルを有する本願発明の酸素還元用触媒は、開始電位が高く、酸素還元触媒能に優れることが分かる。また、金属錯体単独でのイオン化ポテンシャルが5.80eVを超えていても、酸素還元用触媒としてのイオン化ポテンシャルが5.80eV以下のイオン化ポテンシャルを有していれば、所望の酸化還元触媒能を得ることができることも明らかになった。
本発明の酸素還元用触媒は、空気電池又は燃料電池の酸素極用の触媒として使用した場合に優れた酸素還元触媒能を有するため有用である。また、イオン化ポテンシャルを調べることにより優れた酸素還元用触媒を容易に選定することができる。さらに、レアメタルを使用することもないため、製造コストを抑えることができ、大量生産に適した製造工程を設計することができる。