(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022101081
(43)【公開日】2022-07-06
(54)【発明の名称】空気電池用のパッケージ材、空気電池用のパッケージ、及び空気電池
(51)【国際特許分類】
H01M 12/06 20060101AFI20220629BHJP
H01M 50/10 20210101ALI20220629BHJP
H01M 12/08 20060101ALI20220629BHJP
【FI】
H01M12/06 A
H01M2/02 Z
H01M12/06 Z
H01M12/08 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020215463
(22)【出願日】2020-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】520114030
【氏名又は名称】AZUL Energy株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100195796
【弁理士】
【氏名又は名称】塩尻 一尋
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 晃寿
(72)【発明者】
【氏名】能登 環奈
【テーマコード(参考)】
5H011
5H032
【Fターム(参考)】
5H011AA03
5H011CC01
5H011KK01
5H032AA01
5H032AS01
5H032AS02
5H032AS03
5H032AS11
5H032CC01
5H032EE04
5H032EE09
5H032HH04
(57)【要約】
【課題】正極集電体への酸素の取り込み量を精密に制御し、正極集電体全体に酸素を供給することが可能な空気電池用のパッケージ材及び空気電池用のパッケージ、並びに当該空気電池用のパッケージを含む空気電池を提供する。
【解決手段】本発明に係る空気電池用のパッケージ材は、気体透過性領域と、気体非透過性領域と、を含む、空気電池用のパッケージ材であって、気体透過性領域が、500cc・mm/m
2・24h/atm以上の気体透過係数を有し、気体透過性領域が有する孔の最大直径が10μm未満であり、気体非透過性領域が、気体透過性領域よりも小さい気体透過係数を有する。また、本発明に係る空気電池用のパッケージは前述のパッケージ材を含み、本発明に係る空気電池は、前述のパッケージを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体透過性領域と、
気体非透過性領域と、
を含む空気電池用のパッケージ材であって、
前記気体透過性領域が、500cc・mm/m2・24h/atm以上の気体透過係数を有し、
前記気体透過性領域が有する孔の最大直径が10μm未満であり、
前記気体非透過性領域が、前記気体透過性領域よりも小さい気体透過係数を有する、
空気電池用のパッケージ材。
【請求項2】
前記気体透過性領域の気体透過係数が、酸素に対する気体透過係数である、請求項1に記載の空気電池用のパッケージ材。
【請求項3】
前記気体透過性領域が、酸素に対する気体透過係数よりも小さい水に対する気体透過係数を有する、請求項1に記載の空気電池用のパッケージ材。
【請求項4】
前記気体透過性領域が、酸素に対する気体透過係数の約0.5倍未満の水に対する気体透過係数を有する、請求項3に記載の空気電池用のパッケージ材。
【請求項5】
前記気体透過性領域が、ポリジメチルシロキサンから形成される、請求項1に記載の空気電池用のパッケージ材。
【請求項6】
前記気体透過性領域が、ポリメチルペンテンから形成される、請求項1に記載の空気電池用のパッケージ材。
【請求項7】
前記気体非透過性領域が、前記気体透過性領域の0.5倍未満の気体透過係数を有する、請求項1に記載の空気電池用のパッケージ材。
【請求項8】
前記気体透過性領域が、30dyne/cm以下の表面張力、及び/または80°以上の水に対する接触角を有する、請求項1に記載の空気電池用のパッケージ材。
【請求項9】
請求項1から8に記載のいずれか一項に記載の空気電池用のパッケージ材を含む空気電池用のパッケージであって、
負極、正極集電体及び前記負極と前記正極集電体との間に配置されたセパレータを含む電極組立体並びに電解質を収容した場合に、前記気体透過性領域の少なくとも一部が前記正極集電体に平面視で重なる位置に配置されるように構成された、空気電池用のパッケージ。
【請求項10】
前記気体透過性領域の外縁部が、平面視で前記正極集電体の外縁部に取り囲まれるように構成された、請求項9に記載の空気電池用のパッケージ。
【請求項11】
負極、正極集電体、及び前記負極と前記正極集電体との間に配置されたセパレータを含む電極組立体と、
電解質と、
前記前記電極組立体及び前記電解質を収容する請求項9または10に記載の空気電池用のパッケージと、
を含む空気電池であって、
前記気体透過性領域の少なくとも一部が、前記正極集電体に平面視で重なる位置に配置され、
空気中の酸素が、前記気体透過性領域を介して前記正極集電体に取り込まれ、正極活物質として作用する、空気電池。
【請求項12】
前記気体透過性領域の外縁部が、平面視で前記正極集電体の外縁部に取り囲まれるように配置される、請求項11に記載の空気電池。
【請求項13】
前記気体透過性領域の厚さが0.005mm以上である、請求項11に記載の空気電池。
【請求項14】
前記気体透過性領域が、酸素に対する気体透過係数よりも小さい水に対する気体透過係数を有し、
水中で動作可能である、請求項11に記載の空気電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気電池用のパッケージ材、空気電池用のパッケージ、及び空気電池に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やタブレット端末、ウェアラブル機器のような様々な携帯用電子機器の需要は、今後ますます増大すると予測されている。さらに、いわゆる「モノのインターネット」(Internet of Things,IoT)が急速に発展するにつれて、様々な電子機器が身の回りに配置されると予測されている。
【0003】
このような電子機器のエネルギー源として、リチウムイオン電池が現在の主流である。リチウムイオン電池は、軽量かつ高エネルギー密度であることを特徴とするが、リチウムの反応性の高さや希少性などの問題を有する。
【0004】
リチウムイオン電池の課題を克服しつつ、さらに電池の特性を向上させる技術として、空気電池が提案されている。空気電池は、負極活物質として金属材料を用い、正極活物質として空気中の酸素を利用する。空気電池はリチウムイオン電池をはるかに超えるエネルギー密度を有し、負極材料としてリチウム以外にもアルミニウムや亜鉛などのより一般的、安価かつ安全性の高い金属材料を利用することができる。さらに、空気電池は正極活物質として空気中の酸素を利用するため、空気電池自体には正極活物質を含まない。そのため、空気電池はリチウムイオン電池等と比較して小型化及び軽量化が容易であるという利点を有する。そのため、空気電池は将来主流となる技術であると考えられている。
【0005】
空気電池は、前述のように正極活物質として空気中の酸素を利用するため、パッケージは空気中の酸素を取り込む構造でなければならない。例えば、特許文献1、2では、パッケージに空気穴を設けた構造が提案されている。その一方、使用する前までは酸素との反応を抑制するために、酸素を遮断するための包装や、空気取り入れ口をシール等でふさぐ仕組みが採用されている。
【0006】
従来の空気電池を、断面図を示す
図5及び、平面図を示す
図6を参照して説明する。従来の空気電池100は、負極102と、正極集電体104と、セパレータ106と、これらを封入するパッケージ112と、を含む。負極102、正極集電体104及びセパレータ106は、電解質110に浸されている。負極102は、リチウム、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、ナトリウムなどの金属材料を、負極活物質として含む。セパレータ106は、電解質110を透過させつつ、負極102と正極集電体104との間の接触を防止する多孔質絶縁体材料のシートからなる。正極集電体104は多孔質の導電体、例えば活性炭やカーボンナノチューブ、グラフェンなどからなる。パッケージ112の正極集電体104側の面114には、1つまたは複数の空気穴116が設けられる。空気孔116から、空気中の酸素が正極集電体104に取り込まれ、正極活物質として作用する。
【0007】
空気電池100の負極102では、金属イオンが電解質に溶解し、電子を放出する。電子は負極リードを通って外部回路に取り出される。一方、正極集電体104では、電子が外部回路から正極リードを通って取り込まれ、金属イオンと酸素が反応して金属の酸化物または水酸化物が形成される。例えば、負極活物質として亜鉛を採用する場合、負極及び正極における反応は次のようになる。
負極:Zn+4OH-→Zn(OH)4
2-+2e-→ZnO+H2O+2OH-+2e-
正極:O2+2H2O+4e-→4OH-
【0008】
また、負極活物質としてリチウムを採用する場合、負極及び正極における反応は次のようになる。
負極:4Li→4Li++4e-
正極:4Li++O2+4e-→2Li2O
【0009】
したがって、空気電池の反応は、空気中から酸素を取り込み、正極集電体中に拡散させる速度が律速となっている。高出力の空気電池を得たい場合には、空気穴を大きくするか、または数を増やす。逆に、低出力の空気電池を得たい場合には、空気穴を小さくするか、または数を削減する。
【0010】
しかしながら、パッケージの空気穴を介して空気中から酸素を取り込む方式は、次のような問題点があった。すなわち、空気穴の大きさや数による酸素の拡散律速の制御はきわめて粗く、空気電池の用途に応じた最適な酸素供給量を得ることが困難であった。特に、IoTで使用されるような環境センサなどの電子機器は、維持管理の観点から、一度設置されると長時間、例えば数か月から数年程度、電池の交換や充電をすることなく稼働し続けることが望ましい。一方で、このような電子機器に必要な電力は、一般的には極めて少ないように設計される。そのため、このような電子機器に用いられる空気電池は、高容量であるという特徴を、長寿命という特性に振り分けるため、超低出力で長時間電力を発生し続けることが求められる。ピンホールのような極めて小さい空気穴であっても、酸素分子と比較すれば巨視的であり、取り込む酸素の量を求められる微少量に制限し続けることは困難である。そのため、酸素供給が過多になり、自己放電により電池寿命が短くなる。また、酸素を取り込む量を制限するために空気穴の数を削減すると、空気穴から離れた正極集電体まで酸素が拡散しない。そのため電池反応が空気穴の周囲に局限され、正極集電体全体を有効に利用することができず、電池容量の実質的な低下をもたらすこととなる。さらに、空気穴を設けることにより、電解液の蒸発や、CO2の侵入による被毒等の問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2019-067618号公報
【特許文献2】特開2019-003940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、前述のような課題に鑑みてなされたものであって、正極集電体への酸素の取り込み量を精密に制御し、正極集電体全体に酸素を供給することが可能な空気電池用のパッケージ材及び空気電池用のパッケージ、並びに当該空気電池用のパッケージを含む空気電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の実施形態に係る空気電池用のパッケージ材は、
気体透過性領域と、
気体非透過性領域と、
を含む、空気電池用のパッケージ材であって、
気体透過性領域が、500cc・mm/m2・24h/atm以上の気体透過係数を有し、
気体透過性領域が有する孔の最大直径が10μm未満であり、
気体非透過性領域が、気体透過性領域よりも小さい気体透過係数を有する。
【0014】
また、本発明の実施形態に係る空気電池用のパッケージ材において、
気体透過性領域の気体透過係数が、酸素に対する気体透過係数でありうる。
【0015】
また、本発明の実施形態に係る空気電池用のパッケージ材において、気体透過性領域が、酸素に対する気体透過係数よりも小さい水に対する気体透過係数を有しうる。
【0016】
また、本発明の実施形態に係る空気電池用のパッケージ材において、気体透過性領域が、酸素に対する気体透過係数の約0.5倍未満の水に対する気体透過係数を有しうる。
【0017】
また、本発明の実施形態に係る空気電池用のパッケージ材において、前記気体透過性領域が、ポリジメチルシロキサンから形成されうる。
【0018】
また、本発明の実施形態に係る空気電池用のパッケージ材において、気体透過性領域が、ポリメチルペンテンから形成されうる。
【0019】
また、本発明の実施形態に係る空気電池用のパッケージ材において、気体非透過性領域が、気体透過性領域の0.5倍未満の気体透過係数を有しうる。
【0020】
また、本発明の実施形態に係る空気電池用のパッケージ材において、気体透過性領域が、30dyne/cm以下の表面張力、及び/または80°以上の水に対する接触角を有する。
【0021】
本発明の別の実施形態に係る空気電池用のパッケージは、
前述の空気電池用のパッケージ材を含む空気電池用のパッケージであって、
負極、正極集電体及び負極と正極集電体との間に配置されたセパレータを含む電極組立体並びに電解質を収容した場合に、気体透過性領域の少なくとも一部が正極集電体に平面視で重なる位置に配置されるように構成される。
【0022】
また、本発明の実施形態に係る空気電池用のパッケージにおいて、気体透過性領域の外縁部が、平面視で正極集電体の外縁部に取り囲まれるように構成されうる。
【0023】
本発明のさらに別の実施形態に係る空気電池は、
負極、正極集電体、及び負極と正極集電体との間に配置されたセパレータを含む電極組立体と、
電解質と、
電極組立体及び電解質を収容する前述の空気電池用のパッケージと、
を含み、
気体透過性領域の少なくとも一部が、正極集電体に平面視で重なる位置に配置され、
空気中の酸素が、気体透過性領域を介して正極集電体に取り込まれ、正極活物質として作用する。
【0024】
また、本発明の実施形態に係る空気電池は、気体透過性領域の外縁部が、平面視で正極集電体の外縁部に取り囲まれるように配置されうる。
【0025】
また、本発明の実施形態に係る空気電池は、気体透過性領域の厚さが0.005mm以上でありうる。
【0026】
また、本発明の実施形態に係る空気電池は、気体透過性領域が、酸素に対する気体透過係数よりも小さい水に対する気体透過係数を有し、水中で動作可能でありうる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の空気電池用のパッケージ材、空気電池用のパッケージ及び空気電池によれば、正極集電体への酸素の取り込み量を精密に制御し、正極集電体全体に酸素を供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の実施形態に係る空気電池の断面図を示す。
【
図3】本発明の実施形態に係る空気電池の水中における動作を示す。
【
図4】本発明の実施形態に係る空気電池の水中における動作を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1に、本発明の実施形態に係る空気電池1の断面図を示し、
図2に、
図1の空気電池1の平面図を示す。空気電池1は、負極2、正極集電体4及び負極2と正極集電体4との間に配置されたセパレータ6を含む電極組立体8と、電解質10と、電極組立体8及び電解質10を収容する空気電池用のパッケージ12と、を含む。空気電池1は、パウチ型電池の形態を有する。
【0030】
負極2は負極活物質として金属を含み、好適には、リチウム、アルミニウム、亜鉛、マグネシウムまたはナトリウムなどの、イオン化傾向の高い金属を含む。以下、負極活物質が亜鉛である場合を例として説明する。しかし、負極活物質として亜鉛以外の材料を採用することも可能である。その際の正極及び負極における化学反応は、負極活物質の材料に応じて、金属酸化物が生成されるか、金属水酸化物が生成されるか、金属酸化物または水酸化物は正極で生成されるか、負極で生成されるかなどの相違点はあるものの、空気電池の当業者には明らかである。
【0031】
負極2には負極リード22が接続されている。負極活物質が電解質10中に溶解し、イオン化した際に放出される電子は、負極リード22を介して外部回路に取り出される。
【0032】
正極集電体4は、例えば多孔質炭素などの、多孔質導電体を含む。多孔質炭素は、正極活物質及び負極活物質に対して化学的に安定である。また、多孔質であるため、表面積が大きく、正極活物質や負極活物質を効率的に正極集電体内に取り込む。そのため、電池の反応効率を向上させることができる。
【0033】
負極活物質として亜鉛を採用する場合、空気から取り込まれた酸素は、正極集電体4の空孔内で電子を受け取り、電解質中の水と反応して水酸化物イオンとなる。次いで、水酸化物イオンは、負極2に移動して、水酸化亜鉛を生成する。水酸化亜鉛はさらに酸化亜鉛となって、負極2において析出する。したがって、空気電池1では、空気から取り込まれた酸素が正極活物質として働き、正極集電体4は、酸素に電子を受け渡す機能を果たすのみである。本実施形態では、水酸化物イオンが負極に移動して水酸化亜鉛を生成する例を説明したが、負極活物質の材料によっては、負極において金属酸化物が生成されてもよく、金属イオンが正極に移動し、正極において金属酸化物または水酸化物が生成されてもよい。負極活物質として亜鉛を採用した場合の負極及び正極における反応は次のとおりである。
負極:Zn+4OH-→Zn(OH)4
2-+2e-→ZnO+H2O+2OH-+2e-
正極:O2+2H2O+4e-→4OH-
【0034】
正極集電体4には正極リード24が接続されている。外部回路からの電子は、正極リード24を介して正極集電体4に到達する。
【0035】
セパレータ6は、負極2と正極集電体4との間に配置され、負極2と正極集電体4との接触を防ぎつつ、電解質10、金属イオン、水酸化物イオンなどの透過を可能にする、多孔質ポリマーなどの絶縁性多孔質材料からなる。セパレータ6は、析出した金属酸化物または金属水酸化物がデンドライトを形成しても、負極2と正極集電体4との短絡を生じないような機械的強度を有する。
【0036】
負極2、正極集電体4及び、負極2と正極集電体4との間に配置されたセパレータ6によって電極組立体8が形成される。電極組立体8は、応用分野や求められる形状に応じて、積層体、巻回体などの様々な形状を有することが可能である。しかし、空気電池1は空気中の酸素を正極活物質として利用するため、十分な酸素を正極集電体4に取り込むことが必要である。電極組立体8が積層体や巻回体などの形状を有する場合、正極集電体4が電極組立体8の内側に位置することとなり、空気中の酸素が正極集電体4に到達することが困難になる。そのため、空気中の酸素を正極集電体4に効率的に取り込むことができるように、電極組立体8は、シート状に形成されることが好適である。電極組立体8をシート状に形成すると、薄型の空気電池を得られるという利点も有する。
【0037】
電極組立体8は、電解質10とともに、パッケージ12に収容される。パッケージ12を構成するパッケージ材は、気体透過性領域14と、気体非透過性領域16と、を含む。
【0038】
気体透過性領域14は、500cc・mm/m2・24h/atm以上の気体透過係数を有する。気体透過係数は、単位厚さ、単位面積のシートを、単位圧力の気体が単位時間で透過することができる体積で定義される。すなわち、シートを透過する気体の量は、シートの面積、時間及び圧力に比例し、シートの厚さに反比例する。500cc・mm/m2・24h/atm以上の気体透過係数を有する気体透過性領域14では、1MPaの圧力を有する気体が、厚さ1mm、面積1m2の気体透過性領域14に1日接した場合に、体積で4000cm3以上の気体が、気体透過性領域14を透過する。
【0039】
気体透過性領域14の材料としては、特に大きな酸素透過係数を有することが好適である。そのような気体透過性領域14の材料としては、例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリメチルペンテンなどが好適である。PDMSは、約6500cc・mm/m2・24h/atmの酸素透過係数を有し、ポリメチルペンテンは、約500cc・mm/m2・24h/atm以上、例えば約1600cc・mm/m2・24h/atm以上の酸素透過係数を有する。そのため、空気電池を作動させるのに十分な酸素を空気中から取り込むことができる。
【0040】
さらに、酸素以外の物質、例えば水に対しては、気体透過係数が酸素透過係数未満であれば、電解液を構成する水が、気体透過領域14を通過して蒸発することを防止できるため、好適である。例えば、ポリメチルペンテンは約2.5cc・mm/m2・24h/atmの水蒸気透過係数を有するため、好適である。
【0041】
また、気体透過性領域14が有する孔の最大直径は、10μm未満でありうる。取り込む酸素量を抑制する際には、孔の最大直径は1μm以下が好ましく、100nm以下であることがさらに好ましく、非多孔質であることが好ましい。孔径を制御する以外には、気体透過性領域14における孔の開口率を低下させることが好ましい。開口率は10%以下が好ましく、1%以下が更に好ましく、0.1%以下であることが更に好ましい。
【0042】
また、気体透過性領域14に用いられる材料は、撥水性を有することが好適である。例えば、そのような材料の表面張力は、30dyne/cm以下であることが好ましく、25dyne/cm以下であることがさらに好ましい。また、水に対する接触角は80°以上であることが好ましく、90°以上であることがさらに好ましい。
【0043】
また、気体透過性領域14に用いられるPDMSやポリメチルペンテンは、水に対する気体透過係数が酸素透過係数より小さいという特徴を有する。特に、ポリメチルペンテンの場合、水に対する気体透過係数が酸素透過係数の1%未満である。そのため、本発明に係る気体透過性領域14を有する空気電池1は、様々な利点を有する。例えば、電解液が水溶液である場合、電解液からの水の蒸発を防ぐことができ、長期保存及び使用に優れた空気電池を実現することができる。また、このような空気電池を、湿度の高い環境中で保存、または使用したとしても、空気電池内への酸素の取り込みを確保しつつ、水蒸気の侵入を防止するため、長期保存及び使用に優れた空気電池を実現することができる。またさらに、空気電池を水中に保持したとしても、気体透過性領域14の水に対する低い気体透過係数及び高い撥水性のため、空気電池内部への水の侵入を防止するとともに、気体透過性領域14の優れた酸素透過係数に起因して、水に溶解した酸素さえも空気電池内に取り込むことができる。そのため、本発明に係る空気電池は、水に溶解した酸素を利用して、水中で動作することも可能である。
【0044】
空気電池1を直接水中に投入すると、正極と負極とが水を介して短絡してしまう。そこで、空気電池1にポリメチルペンテンを用いた場合における水中での動作を確認するために、空気電池1の代わりに従来の大気開放された(すなわち、気体透過性領域14の代わりにパッケージに貫通孔を有する)ボタン型空気電池を、ポリメチルペンテンで形成されたパウチ内に封入し、出力特性を測定した。すなわち、この場合、ポリメチルペンテンで形成されたパウチが、本発明の空気電池1の気体透過性領域14に相当する。
図3に、本発明の空気電池1に対応する、ポリメチルペンテンで形成されたパウチ内に封入されたボタン型空気電池を水中で使用した際の出力特性を、空気中及び、さらに密閉して酸素を遮断した状態で使用した際の出力特性と比較したグラフを示す。ボタン型空気電池には、回路抵抗180Ωの負荷を接続した。水中で使用した場合、空気中で使用する場合と比較して出力は低下するものの、酸素を遮断した状態で使用する場合と比較して、長期間持続して動作しており、水中から酸素を取り込んで動作していることが分かる。
【0045】
また、同様に、従来のボタン型空気電池を用いて、パウチに封入せずに大気開放したサンプル(大気開放サンプル)、ポリメチルペンテンで形成されたパウチ内に封入されたサンプル(ポリメチルペンテンサンプル)、気体透過係数の小さいガスバリア(PET/ナイロン/ポリエチレン)で形成されたパウチ内に封入されたサンプル(ガスバリアサンプル)を作製した。
図3の場合と同様に、パウチが本発明の空気電池1の気体透過性領域14に相当する。これらのサンプルの大気中及び水中での動作特性を、それぞれ500Ω、1000Ω、1500Ωの回路抵抗を接続して測定した。結果を下記表1に示す。また、これらのサンプルに180Ωの回路抵抗を接続して、大気中で出力を測定した結果を
図4に示す。表1及び
図4から分かるように、ポリメチルペンテンサンプルは、大気中では大気開放サンプルと同様の電力を出力することが分かる。一方、ガスバリアサンプルは、大気中でもほとんど電力を出力できない。また、ポリメチルペンテンサンプルは、ガスバリアサンプルと異なり、大気中よりも劣るが、水中でもある程度の電力を出力しており、
図3の場合と同様に、ポリメチルペンテンサンプルは、水中から酸素を取り込んで動作していることが分かる。したがって、ポリメチルペンテンで形成された気体透過性領域14を有する空気電池1は、正極、負極の水による短絡を防ぐことができれば、水中でも動作可能であることが示された。
【0046】
【0047】
一方、気体非透過性領域16は、気体透過性領域14よりも小さい気体透過係数を有する。例えば、気体非透過性領域16の気体透過係数は、気体透過性領域14の気体透過係数の0.5倍未満、好適には0.3倍未満、さらに好適には0.02倍未満でありうる。このような気体透過係数を有する材料として、例えば、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)等が挙げられる。これらの材料の酸素に対する気体透過係数(酸素透過係数)を、PDMSの酸素透過係数とともに、表2に示す。
【0048】
【0049】
このように気体非透過性領域16を構成すると、パッケージ材の所望の領域のみに、高い気体透過性を持たせることができる。そのため、空気電池1の所望の領域、すなわち後述するように正極集電体4のみに、必要な酸素を供給し、その他の領域では酸素を遮断して内部の構成要素の劣化を防止することが可能になる。
【0050】
パッケージ12は、電極組立体8を収容した場合に、気体透過性領域14の少なくとも一部が正極集電体4に平面視で重なる位置に配置されるように構成される。ことが好適である。気体透過性領域14は上述のような大きな気体透過係数を有するため、空気中の酸素は気体透過性領域14を通過して正極集電体4に取り込まれ、空気電池1の正極活物質として利用される。このように構成すると、酸素が、気体透過性領域14を介して正極集電体4のほぼ全体にわたって取り込まれ、正極集電体4内の酸素の分布がほぼ均一になる。そのため、空気穴を介して酸素を取り込む従来の空気電池と異なり、本発明の空気電池1は、空気中から取り込んだ酸素を正極集電体4の面内方向に拡散させる必要がなく、正極集電体4の全体にわたって均一に反応を生じさせることができる。正極集電体4の全体にわたる反応が均一であるため、正極集電体4全体を有効に利用して電力を発生させることができ、電池容量の実質的な低下を防ぐことができる。さらに、正極における反応が正極集電体4の全体にわたって発生するため、正極集電体4における電流密度を小さくすることができ、電流エネルギーの集中や正極集電体4の劣化を防止し、安全かつ寿命の長い空気電池を得ることができる。
【0051】
また、気体透過性領域14の気体が透過する経路は、空気穴と比較すると、極めて微視的である。したがって、例えばIoT用の環境センサなど、低出力で長時間電力を発生し続けるような用途では、取り込む酸素の量を好適に制限することができ、酸素供給量が過多であることに起因する自己放電を防止し、電池寿命を長くすることができる。
【0052】
また、従来の空気電池では、空気穴の数を増減するか、空気穴の直径を調整することによって酸素供給量を調整しなければならず、制御がきわめて粗かった。また、所定の数および大きさの空気穴を有する空気電池は、製造後に、空気の流入量を調整することは困難であった。しかし、本発明の空気電池1では、気体透過係数の定義から、気体透過量は気体透過性領域14の厚さに比例するため、気体透過性領域14の厚さを増減することによって、酸素供給量を精密に調整することができる。例えば、気体透過性領域14の厚さは0.005mm以上でありうる。厚さは、パッケージ12の製造時に、必要とされる酸素供給量に応じて決定することもできるし、空気電池1の製造後、例えば使用時に、追加的に気体透過性領域14を有するパッケージでさらに包装し、気体透過性領域14の厚さを実質的に増加させて酸素供給量を制限することも可能である。
【0053】
好適には、
図2に示すように、平面視で気体透過性領域14の外縁部が正極集電体4の外縁部に取り囲まれるように、気体透過性領域14が正極集電体4よりもわずかに小さく、その他の領域は全て気体非透過性領域16によって覆われることが好ましい。このように構成すると、空気中の酸素は正極集電体4のみに取り込まれ、電極組立体8のそれ以外の構成要素、例えば負極2やセパレータ6は酸素から保護され、材料の劣化を防ぐことができる。
【0054】
また、気体透過性領域14が低い表面張力を有し、耐水性を有することが好ましい。気体透過性領域14の表面張力が低く、耐水性を有する場合、空気中から空気電池内への水の侵入を防ぎ、信頼性の高い空気電池を得ることができる。
【0055】
なお、本明細書では、
図1及び2に示されるように、パウチ型電池の形態を有するものとして説明した。しかし、本発明の範囲は、これに限定されるものでないことは明らかである。空気電池1が例えばボタン型電池、乾電池、車載バッテリー型電池等の形態を有する場合であっても、
図1及び2で説明されたパウチ型電池の形態を有する空気電池1と同様に、正極集電体4に対応するパッケージ12の領域に、本明細書で説明された気体透過性領域14を設けることができる。このように構成された空気電池1では、酸素が、気体透過性領域14を介して正極集電体4のほぼ全体にわたって取り込まれ、正極集電体4内の酸素の分布がほぼ均一になる。そのため、空気穴を介して酸素を取り込む従来の空気電池と異なり、本発明の空気電池1は、空気中から取り込んだ酸素を正極集電体4の面内方向に拡散させる必要がなく、正極集電体4の全体にわたって均一に反応を生じさせることができる。正極集電体4の全体にわたる反応が均一であるため、正極集電体4全体を有効に利用して電力を発生させることができ、電池容量の実質的な低下を防ぐことができる。さらに、正極における反応が正極集電体4の全体にわたって発生するため、正極集電体4における電流密度を小さくすることができ、電流エネルギーの集中や正極集電体4の劣化を防止し、安全かつ寿命の長い空気電池を得ることができる。
【0056】
以上、本発明の実施形態を例示的に説明したが、当業者であれば、本発明の思想及び範囲を逸脱せずに、様々な改変、変更が可能であることは容易に理解されるであろう。
【符号の説明】
【0057】
1 空気電池
2 負極
4 正極集電体
6 セパレータ
8 電極組立体
10 電解質
12 パッケージ
14 気体透過性領域
16 気体非透過性領域
22 負極リード
24 正極リード
100 従来の空気電池
102 負極
104 正極集電体
106 セパレータ
110 電解質
112 パッケージ
114 パッケージの面
116 空気穴