(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022101107
(43)【公開日】2022-07-06
(54)【発明の名称】液晶性樹脂フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 48/53 20190101AFI20220629BHJP
B29C 48/305 20190101ALI20220629BHJP
B29C 48/395 20190101ALI20220629BHJP
B29C 48/86 20190101ALI20220629BHJP
B29C 48/285 20190101ALI20220629BHJP
B29C 48/88 20190101ALI20220629BHJP
B29K 67/00 20060101ALN20220629BHJP
B29L 7/00 20060101ALN20220629BHJP
【FI】
B29C48/53
B29C48/305
B29C48/395
B29C48/86
B29C48/285
B29C48/88
B29K67:00
B29L7:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020215497
(22)【出願日】2020-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】中根 敏雄
(72)【発明者】
【氏名】青島 広宣
(72)【発明者】
【氏名】川原 俊紀
【テーマコード(参考)】
4F207
【Fターム(参考)】
4F207AA24
4F207AC01B
4F207AC01D
4F207AG01
4F207AH73
4F207AJ08
4F207AR06
4F207AR12
4F207AR20
4F207KA01
4F207KA17
4F207KM13
4F207KM14
4F207KM15
4F207KM20
(57)【要約】
【課題】ブツの発生及びMD方向における厚み変動が低減された液晶性樹脂フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る液晶性樹脂フィルムの製造方法は、液晶性樹脂ペレットを単軸の押出機で溶融し、溶融樹脂を前記押出機から吐出してダイに供給し、該ダイからシート状に溶融樹脂を押し出して冷却固化することによりフィルムを製造することを含み、前記液晶性樹脂ペレットの嵩密度は、0.65~1.00g/mLであり、前記押出機のスクリュー圧縮比は、2.5~5.0、L/Dは、18~45であり、前記液晶性樹脂ペレットの融点Tm(℃)及び前記ダイの設定温度Td(℃)は、Tm-10≦Td≦Tm+15を満たす。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶性樹脂ペレットを単軸の押出機で溶融し、溶融樹脂を前記押出機から吐出してダイに供給し、該ダイからシート状に溶融樹脂を押し出して冷却固化することによりフィルムを製造することを含む液晶性樹脂フィルムの製造方法であって、
前記液晶性樹脂ペレットの嵩密度は、0.65~1.00g/mLであり、
前記押出機のスクリュー圧縮比は、2.5~5.0、L/Dは、18~45であり、
前記液晶性樹脂ペレットの融点Tm(℃)及び前記ダイの設定温度Td(℃)は、Tm-10≦Td≦Tm+15を満たす、液晶性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記液晶性樹脂ペレットは、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位を少なくとも含み、
前記Tmは、250℃以上である、
請求項1に記載の液晶性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記液晶性樹脂ペレットは、略円柱状の円柱状液晶性樹脂ペレットであり、
円柱状液晶性樹脂ペレットの高さは、2.0~4.5mmであり、
円柱状液晶性樹脂ペレットの底面の円の直径は、1.5~3.0mmであり、
前記押出機の供給部におけるスクリュー溝深さは、円柱状液晶性樹脂ペレットの高さに対して1.1倍以上である、
請求項1又は2に記載の液晶性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記液晶性樹脂ペレットは、略球体状又は略楕円球体状の球状液晶性樹脂ペレットであり、
球状液晶性樹脂ペレットの直径は、2.0~4.5mmであり、
前記押出機の供給部におけるスクリュー溝深さは、球状液晶性樹脂ペレットの直径に対して1.1倍以上である、
請求項1又は2に記載の液晶性樹脂フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶性樹脂フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶性ポリエステル樹脂に代表される液晶性樹脂は、優れた機械的強度、耐熱性、耐薬品性、電気的性質等をバランス良く有し、優れた寸法安定性も有するため高機能エンジニアリングプラスチックとして広く利用されている。また、例えば、Tダイ法やインフレーション法等の溶融押出法により、液晶性樹脂からなる液晶性樹脂フィルムを製造することも行われている(例えば、特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平05-043664号公報
【特許文献2】特開昭63-168327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らの検討によれば、液晶性樹脂フィルムをTダイ法やインフレーション法によって製造する際に、従来の製造方法を用いると、ブツ(即ち、液晶性樹脂フィルムに混在する粒子)が発生しやすく、MD方向(即ち、液晶性樹脂フィルムの流れ方向)において厚みが変動しやすいことが判明した。本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、ブツの発生及びMD方向における厚み変動が低減された液晶性樹脂フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、所定の範囲の嵩密度を有する液晶性樹脂ペレットを原料として用い、スクリュー圧縮比及びL/Dを所定の範囲に調整した単軸の押出機により、液晶性樹脂ペレットの融点及びダイの設定温度が所定の範囲を満たす条件下で、液晶性樹脂フィルムを製造することによりで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には本発明は以下のものを提供する。
【0006】
(1) 液晶性樹脂ペレットを単軸の押出機で溶融し、溶融樹脂を前記押出機から吐出してダイに供給し、該ダイからシート状に溶融樹脂を押し出して冷却固化することによりフィルムを製造することを含む液晶性樹脂フィルムの製造方法であって、
前記液晶性樹脂ペレットの嵩密度は、0.65~1.00g/mLであり、
前記押出機のスクリュー圧縮比は、2.5~5.0、L/Dが18~45であり、
前記液晶性樹脂ペレットの融点Tm(℃)及び前記ダイの設定温度Td(℃)は、Tm-10≦Td≦Tm+15を満たす、液晶性樹脂フィルムの製造方法。
【0007】
(2) 前記液晶性樹脂ペレットは、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位を少なくとも含み、
前記Tmは、250℃以上である、
(1)に記載の液晶性樹脂フィルムの製造方法。
【0008】
(3) 前記液晶性樹脂ペレットは、略円柱状の円柱状液晶性樹脂ペレットであり、
円柱状液晶性樹脂ペレットの高さは、2.0~4.5mmであり、
円柱状液晶性樹脂ペレットの底面の円の直径は、1.5~3.0mmであり、
前記押出機の供給部におけるスクリュー溝深さは、円柱状液晶性樹脂ペレットの高さに対して1.1倍以上である、
(1)又は(2)に記載の液晶性樹脂フィルムの製造方法。
【0009】
(4) 前記液晶性樹脂ペレットは、略球体状又は略楕円球体状の球状液晶性樹脂ペレットであり、
球状液晶性樹脂ペレットの直径は、2.0~4.5mmであり、
前記押出機の供給部におけるスクリュー溝深さは、球状液晶性樹脂ペレットの直径に対して1.1倍以上である、
(1)又は(2)に記載の液晶性樹脂フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ブツの発生及びMD方向における厚み変動が低減された液晶性樹脂フィルムの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0012】
<液晶性樹脂フィルムの製造方法>
本発明に係る液晶性樹脂フィルムの製造方法では、液晶性樹脂ペレットを単軸の押出機で溶融し、溶融樹脂を前記押出機から吐出してダイに供給し、該ダイからシート状に溶融樹脂を押し出して冷却固化することによりフィルムを製造する。押出機で溶融された液晶性樹脂がダイからシート状に吐出され、例えば、回転する冷却ドラム上でキャストされて急速に冷却固化され、液晶性樹脂フィルムが得られる。この液晶性樹脂フィルムは、冷却固化後、適宜、縦延伸及び横延伸に順に供してもよく、最終的に、ロール状に巻き取ってもよい。
【0013】
上記押出機は、単軸スクリュー型の押出機であり、シリンダー内に単軸スクリューを備えている。シリンダーは供給口を備え、液晶性樹脂ペレットは供給口を介してシリンダー内に供給される。シリンダー内は供給口側から順に、供給口から供給された液晶性樹脂を定量輸送する供給部と、液晶性樹脂を混練・圧縮する圧縮部と、混練・圧縮された液晶性樹脂を吐出口に搬送しながら吐出量を計量する搬送計量部とで構成される。
【0014】
押出機のスクリュー圧縮比は、2.5~5.0に設定され、L/Dは、18~45に設定される。ここで、スクリュー圧縮比とは、背圧をかけて混練するために液晶性樹脂を溶融状態で圧縮する程度をいい、供給部と搬送計量部との容積比(即ち、供給部の単位長さ当たりの容積/搬送計量部の単位長さ当たりの容積)で表され、供給部のスクリュー軸の外径d1、搬送計量部のスクリュー軸の外径d2、供給部の溝部径a1、及び搬送計量部の溝部径a2を使用して算出される。また、L/Dとは、シリンダー内径(D)に対するシリンダー長さ(L)の比である。
【0015】
スクリュー圧縮比が2.5未満であると、十分に混練されず、未溶解部分が発生したり、剪断発熱が小さく結晶の融解が不十分となったりしやすく、ブツの発生及び/又はMD方向における厚み変動を低減しにくい。逆に、スクリュー圧縮比が5.0超であると、剪断応力がかかり過ぎて発熱により液晶性樹脂が劣化したり、液晶性樹脂分子の切断が起こり分子量が低下したりしやすい。これにより、溶融樹脂が不均一となってしまい、押出機の吐出圧の変動が大きくなってしまう恐れがある。したがって、ブツの発生を低減するとともに、押出機の吐出圧変動を小さくし、MD方向における厚み変動を小さくするためには、スクリュー圧縮比は2.6~4.0の範囲が良く、より好ましくは2.7~3.5の範囲、特に好ましくは2.8~3.0の範囲である。
【0016】
L/Dが18未満であると、溶融不足や混練不足となり、スクリュー圧縮比が小さい場合と同様に微細な結晶が残存し易くなり、ブツの発生及び/又はMD方向における厚み変動を低減しにくい。逆に、L/Dが45超であると、押出機内での液晶性樹脂の滞留時間が長くなり過ぎ、樹脂の劣化を起こし易くなる。また、滞留時間が長くなると液晶性樹脂分子の切断が起こり分子量が低下しやすい。したがって、ブツの発生を低減するとともに、押出機の吐出圧変動を小さくし、MD方向における厚み変動を小さくするためには、L/Dは21~40の範囲が良く、好ましくは25~35の範囲、特に好ましくは28~30の範囲である。
【0017】
上記の如く構成された押出機によって液晶性樹脂が溶融され、その溶融樹脂が吐出口からダイに、例えば、10%以内の吐出圧変動で連続的に送られる。そして、押出機によってダイに送られた溶融樹脂は、ダイからシート状に押し出され、例えば、冷却ドラム上にキャストされて冷却固化され、液晶性樹脂フィルムが製膜される。ここで、液晶性樹脂ペレットの融点Tm(℃)及びダイの設定温度Td(℃)は、Tm-10≦Td≦Tm+15を満たす。Td<Tm-10であると、ダイの設定温度が低すぎて、ブツが発生しやすく、また、MD方向における厚み変動が多いくなりやすく、場合により、液晶性樹脂フィルムの一部に穴が開くことがある。一方、Td>Tm+15であると、ダイの設定温度が高すぎて、MD方向における厚み変動が多くなりやすく、場合により、液晶性樹脂フィルムの一部に穴が開くことがある。Tm(℃)及びTd(℃)は、好ましくはTm-9≦Td≦Tm+14、より好ましくはTm-8≦Td≦Tm+13を満たす。
【0018】
[液晶性樹脂ペレット]
・(A)液晶性樹脂
液晶性樹脂ペレットは、(A)液晶性樹脂を含有する。本発明で使用する(A)液晶性樹脂とは、光学異方性溶融相を形成し得る性質を有する溶融加工性ポリマーを指す。異方性溶融相の性質は、直交偏光子を利用した慣用の偏光検査法により確認することが出来る。より具体的には、異方性溶融相の確認は、Leitz偏光顕微鏡を使用し、Leitzホットステージに載せた溶融試料を窒素雰囲気下で40倍の倍率で観察することにより実施できる。本発明に適用できる液晶性ポリマーは直交偏光子の間で検査したときに、たとえ溶融静止状態であっても偏光は通常透過し、光学的に異方性を示す。
【0019】
上記のような(A)液晶性樹脂の種類としては特に限定されず、芳香族ポリエステル及び/又は芳香族ポリエステルアミドであることが好ましい。また、芳香族ポリエステル及び/又は芳香族ポリエステルアミドを同一分子鎖中に部分的に含むポリエステルもその範囲にある。(A)液晶性樹脂としては、60℃でペンタフルオロフェノールに濃度0.1質量%で溶解したときに、好ましくは少なくとも約2.0dl/g、更に好ましくは2.0~10.0dl/gの対数粘度(I.V.)を有するものが好ましく使用される。
【0020】
本発明に適用できる(A)液晶性樹脂は、好ましくは芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位を少なくとも含み、特に好ましくは、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位を少なくとも含む芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドである。
【0021】
より具体的には、
(1)主として芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上に由来する構成単位からなるポリエステル;
(2)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上に由来する構成単位と、(b)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上に由来する構成単位とからなるポリエステル;
(3)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上に由来する構成単位と、(b)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上に由来する構成単位と、(c)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオール、及びそれらの誘導体の少なくとも1種又は2種以上に由来する構成単位、とからなるポリエステル;
(4)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上に由来する構成単位と、(b)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上に由来する構成単位と、(c)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上に由来する構成単位、とからなるポリエステルアミド;
(5)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上に由来する構成単位と、(b)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上に由来する構成単位と、(c)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上に由来する構成単位と、(d)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオール、及びそれらの誘導体の少なくとも1種又は2種以上に由来する構成単位、とからなるポリエステルアミド等が挙げられる。更に上記の構成成分に必要に応じ分子量調整剤を併用してもよい。
【0022】
本発明に適用できる(A)液晶性樹脂を構成する具体的化合物の好ましい例としては、4-ヒドロキシ安息香酸(以下、「HBA」ともいう。)、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸(以下、「HNA」ともいう。)等の芳香族ヒドロキシカルボン酸;2,6-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル(以下、「BP」ともいう。)、ハイドロキノン、レゾルシン、下記一般式(I)で表される化合物、及び下記一般式(II)で表される化合物等の芳香族ジオール;テレフタル酸(以下、「TA」ともいう。)、イソフタル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、及び下記一般式(III)で表される化合物等の芳香族ジカルボン酸;4-アミノフェノール、1,4-フェニレンジアミン等の芳香族アミン類が挙げられる。
【化1】
(X:アルキレン(C
1~C
4)、アルキリデン、-O-、-SO-、-SO
2-、-S-、及び-CO-より選ばれる基である)
【化2】
【化3】
(Y:-(CH
2)
n-(n=1~4)及び-O(CH
2)
nO-(n=1~4)より選ばれる基である。)
【0023】
本発明に用いられる(A)液晶性樹脂の調製は、上記のモノマー化合物(又はモノマーの混合物)から直接重合法やエステル交換法を用いて公知の方法で行うことができ、通常は溶融重合法、溶液重合法、スラリー重合法、固相重合法等、又はこれらの2種以上の組み合わせが用いられ、溶融重合法、又は溶融重合法と固相重合法との組み合わせが好ましく用いられる。エステル形成能を有する上記化合物類はそのままの形で重合に用いてもよく、また、重合の前段階で前駆体から該エステル形成能を有する誘導体に変性されたものでもよい。これらの重合に際しては種々の触媒の使用が可能であり、代表的なものとしては、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、三酸化アンチモン、トリス(2,4-ペンタンジオナト)コバルト(III)等の金属塩系触媒、N-メチルイミダゾール、4-ジメチルアミノピリジン等の有機化合物系触媒が挙げられる。触媒の使用量は一般にはモノマーの全質量に対して約0.001~1質量%、特に約0.01~0.2質量%が好ましい。これらの重合方法により製造されたポリマーは更に必要があれば、減圧又は不活性ガス中で加熱する固相重合法により分子量の増加を図ることができる。
【0024】
本発明における製膜温度、かつ、剪断速度1000/秒における前記液晶性樹脂の溶融粘度は、好ましくは500Pa・s以下であり、より好ましくは50~400Pa・sであり、更により好ましくは100~300Pa・sである。上記溶融粘度が上記範囲内であると、前記液晶性樹脂そのもの、又は、前記液晶性樹脂を含有する組成物は、その押出時において、製膜性が確保されやすい。なお、本明細書において、前記溶融粘度としては、ISO11443に準拠して測定して得られた値を採用する。
【0025】
・その他の成分
液晶性樹脂ペレットは、(A)液晶性樹脂のみからなるものであってもよいし、本発明の効果を害さない範囲で、その他の重合体、充填剤(粒状充填剤、板状充填剤、繊維状充填剤等)、一般に合成樹脂に添加される公知の物質、即ち、酸化防止剤や紫外線吸収剤等の安定剤、帯電防止剤、難燃剤、染料や顔料等の着色剤、潤滑剤、結晶化促進剤、結晶核剤、離型剤等のその他の成分も要求性能に応じ適宜添加することもできる。その他の成分は1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
・液晶性樹脂ペレットの調製方法
液晶性樹脂ペレットは、例えば、上述の通りに調製した(A)液晶性樹脂を重合容器の下部から排出し、ストランドをペレタイズすることで得ることができる。また、液晶性樹脂ペレットがその他の成分を含有する場合は、例えば、(A)液晶性樹脂とその他の成分とを配合し、これらを1軸又は2軸押出機を用いて溶融混練処理した後、ペレタイズすることで、液晶性樹脂ペレットを得ることができる。
【0027】
・液晶性樹脂ペレットの物性
液晶性樹脂ペレットの嵩密度は、0.65~1.00g/mLであり、好ましくは0.68~0.95g/mLであり、より好ましくは0.70~0.90g/mLである。上記嵩密度が0.65g/mL未満であると、ブツが発生しやすく、また、MD方向における厚み変動が多くなりやすい。上記嵩密度が1.00g/mL超であると、液晶性樹脂ペレットは、例えば、パウダー様になるため、押出機のスクリューに過負荷がかかり、結果として製膜性が悪化しやすい。液晶性樹脂ペレットの嵩密度は、例えば、液晶性樹脂ペレットの形状、寸法等を、適宜、調整することで、所望の値に設定することができる。なお、本明細書において、液晶性樹脂ペレットの嵩密度とは、液晶性樹脂ペレットを50mLのメスシリンダーに入れて、液晶性樹脂ペレットが密に充填されるようにメスシリンダーに振動を加えた後に測定した液晶性樹脂ペレットの嵩密度をいう。
【0028】
液晶性樹脂ペレットの融点Tmは、特に限定されず、耐熱性の観点、液晶性樹脂の溶融加工時の熱劣化防止の観点、押出機の加熱能力の観点等から、好ましくは250℃以上であり、より好ましくは260~370℃であり、更により好ましくは270~360℃である。
【0029】
・液晶性樹脂ペレットの形状
液晶性樹脂ペレットの形状は、特に限定されず、液晶性樹脂ペレットとしては、例えば、円柱状液晶性樹脂ペレット、球状液晶性樹脂ペレット等が挙げられる。円柱状液晶性樹脂ペレットとは、略円柱状の液晶性樹脂ペレットをいう。略円柱状とは円柱状のみならず、円柱に近似可能な形状も含む(例えば、表面に凹凸のある円柱や、扁平楕円柱等)。球状液晶性樹脂ペレットとは、略球体状又は略楕円球体状の液晶性樹脂ペレットをいう。略球体状とは真球体であることを意味するが、完全に真球でなくても真球に近似できる形状であればよい(例えば、表面に凹凸のある球体等)。また、略楕円球体状とは真球でない球体状であることを意味する。つまり、略楕円球体状には楕円球体に近似できる全て形状が含まれる(例えば、表面に凹凸のある楕円球体等)。以下、液晶性樹脂ペレットが円柱状液晶性樹脂ペレットである場合と、液晶性樹脂ペレットが球状液晶性樹脂ペレットである場合とに分けて説明する。
【0030】
液晶性樹脂ペレットが略円柱状の円柱状液晶性樹脂ペレットである場合、円柱状液晶性樹脂ペレットの高さは、2.0~4.5mmであることが好ましく、円柱状液晶性樹脂ペレットの底面の円の直径は、1.5~3.0mmであることが好ましく、前記押出機の供給部におけるスクリュー溝深さは、円柱状液晶性樹脂ペレットの高さに対して1.1倍以上であることが好ましい。
【0031】
ブツの発生及びMD方向における厚み変動がより低減されやすいことから、円柱状液晶性樹脂ペレットの高さは、より好ましくは2.5~4.2mm、更により好ましくは3.0~4.0mmである。
【0032】
ブツの発生及びMD方向における厚み変動がより低減されやすいことから、円柱状液晶性樹脂ペレットの底面の円の直径は、より好ましくは2.0~3.0mm、更により好ましくは2.4~2.9mmである。
【0033】
ブツの発生及びMD方向における厚み変動がより低減されやすいことから、前記押出機の供給部におけるスクリュー溝深さは、円柱状液晶性樹脂ペレットの高さに対して、より好ましくは1.2~2.0倍、更により好ましくは1.3~1.7倍である。
【0034】
液晶性樹脂ペレットが略球体状又は略楕円球体状の球状液晶性樹脂ペレットである場合、球状液晶性樹脂ペレットの直径は、2.0~4.5mmであることが好ましく、前記押出機の供給部におけるスクリュー溝深さは、球状液晶性樹脂ペレットの直径に対して1.1倍以上であることが好ましい。
【0035】
ブツの発生及びMD方向における厚み変動がより低減されやすいことから、球状液晶性樹脂ペレットの直径は、より好ましくは3.0~4.3mm、更により好ましくは4.0~4.2mmである。
【0036】
ブツの発生及びMD方向における厚み変動がより低減されやすいことから、前記押出機の供給部におけるスクリュー溝深さは、球状液晶性樹脂ペレットの直径に対して、より好ましくは1.15~2.0倍、更により好ましくは1.2~1.3倍である。
【0037】
<液晶性樹脂フィルム>
本発明に係る液晶性樹脂フィルムの製造方法により得られる液晶性樹脂フィルムは、用途が特に限定ざれず、例えば、絶縁フィルム、防水フィルム、耐熱フィルム等の工業用フィルムとして、又は、ガスバリアフィルム等の包装材料用フィルムとして、種々の分野で利用することができる。
【実施例0038】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0039】
<液晶性樹脂>
・液晶性樹脂ペレット1A及び1A’
重合容器に下記の原料を仕込んだ後、反応系の温度を140℃に上げ、140℃で1時間反応させた。その後、更に325℃まで3.5時間かけて昇温し、そこから20分かけて5Torr(即ち667Pa)まで減圧にして、酢酸、過剰の無水酢酸、及びその他の低沸分を留出させながら溶融重合を行った。撹拌トルクが所定の値に達した後、窒素を導入して減圧状態から常圧を経て加圧状態にして、重合容器の下部からポリマーを排出し、ストランドカット方式によってペレタイズして、カッター回転速度を調整することで、高さが3.7mm、底面の円の直径が2.4mmである円柱状の液晶性樹脂ペレット1A、又は、高さが5.1mm、底面の円の直径が3.5mmである円柱状の液晶性樹脂ペレット1A’(比較例用)を得た。得られたペレットの融点は282℃であった。
4-ヒドロキシ安息香酸(HBA);1660g(73モル%)
2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸(HNA);837g(27モル%)
金属触媒(酢酸カリウム触媒);165mg
アシル化剤(無水酢酸);1714g
【0040】
・液晶性樹脂ペレット1B及び1B’
重合容器に下記の原料を仕込んだ後、反応系の温度を140℃に上げ、140℃で1時間反応させた。その後、更に325℃まで3.5時間かけて昇温し、そこから20分かけて5Torr(即ち667Pa)まで減圧にして、酢酸、過剰の無水酢酸、及びその他の低沸分を留出させながら溶融重合を行った。撹拌トルクが所定の値に達した後、窒素を導入して減圧状態から常圧を経て加圧状態にして、重合容器の下部からポリマーを排出し、アンダーウォーターカット方式によってペレタイズして、カッター回転速度を調整することで、直径が4.1mmである球状の液晶性樹脂ペレット1B、又は、直径が4.8mmである球状の液晶性樹脂ペレット1B’(比較例用)を得た。得られたペレットの融点は282℃であった。
4-ヒドロキシ安息香酸(HBA);1660g(73モル%)
2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸(HNA);837g(27モル%)
金属触媒(酢酸カリウム触媒);165mg
アシル化剤(無水酢酸);1714g
【0041】
・液晶性樹脂ペレット2及び2’
重合容器に下記の原料を仕込んだ後、反応系の温度を140℃に上げ、140℃で1時間反応させた。その後、更に330℃まで3.5時間かけて昇温し、そこから15分かけて10Torr(即ち1330Pa)まで減圧して、酢酸、過剰の無水酢酸、及びその他の低沸分を留出させながら重縮合を行った。撹拌トルクが所定の値に達した後、窒素を導入して減圧状態から常圧を経て加圧状態にして、重合容器の下部からポリマーを排出し、ストランドカット方式によってペレタイズして、カッター回転速度を調整することで、高さが3.4mm、底面の円の直径が2.9mmである円柱状の液晶性樹脂ペレット2、又は、高さが4.5mm、底面の円の直径が3.5mmである円柱状の液晶性樹脂ペレット2’(比較例用)を得た。得られたペレットの融点は323℃であった。
4-ヒドロキシ安息香酸(HBA);2524g(79.3モル%)
2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸(HNA);867g(20モル%)
テレフタル酸(TA);27g(0.3モル%)
金属触媒(酢酸カリウム触媒);150mg
アシル化剤(無水酢酸);2336g
【0042】
・液晶性樹脂ペレット3S
重合容器に下記の原料を仕込んだ後、反応系の温度を140℃に上げ、140℃で1時間反応させた。その後、更に360℃まで5.5時間かけて昇温し、そこから30分かけて5Torr(即ち、667Pa)まで減圧して、酢酸、過剰の無水酢酸、その他の低沸分を留出させながら溶融重合を行った。撹拌トルクが所定の値に達した後、窒素を導入して減圧状態から常圧を経て加圧状態にして、重合容器の下部からポリマーを排出し、ストランドカット方式によってペレタイズして、ペレットを得た。得られたペレットについて、窒素気流下、300℃で8時間の熱処理(固相重合)を行って、液晶性樹脂ペレット3Sを得た。得られたペレットの融点は353℃であった。
4-ヒドロキシ安息香酸(HBA);37g(2モル%)
6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸(HNA);1218g(48モル%)
テレフタル酸:560g(TA);(25モル%)
4,4’-ジヒドロキシビフェニル(BP);628g(25モル%)
金属触媒(酢酸カリウム触媒);165mg
アシル化剤(無水酢酸);1432g
【0043】
・液晶性樹脂ペレット3R及び3R’
液晶性樹脂ペレット3Sを二軸押出機((株)日本製鋼所製TEX-30α)に投入し、シリンダー温度370℃、スクリュー回転数250rpm、及び吐出量30kg/hという条件で、溶融混練した後、冷却水温度45℃、冷却時間1秒の条件で急冷し、ストランドカット方式によってペレタイズしてリペレットを行い、カッター回転速度を調整することで、高さが3.3mm、底面の円の直径が2.7mmである円柱状の液晶性樹脂ペレット3R、又は、高さが4.7mm、底面の円の直径が3.3mmである円柱状の液晶性樹脂ペレット3R’を得た。
【0044】
<融点>
示差走査熱量計(DSC、(株)日立ハイテクサイエンス製)を使用し、得られた液晶性樹脂ペレットを室温から20℃/分の昇温速度で加熱した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)を測定した。次いで、(Tm1+40)℃の温度で2分間保持した。更に、20℃/分の降温速度で室温まで一旦冷却した後、再度、20℃/分の昇温速度で加熱した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm2)を融点として測定した。
【0045】
<溶融粘度>
(株)東洋精機製作所製キャピログラフ1B型を使用し、下記温度で、内径1mm、長さ20mmのオリフィスを用いて、剪断速度1000/秒で、ISO11443に準拠して、液晶性樹脂の溶融粘度を測定した。
液晶性樹脂ペレット1A、1A’、1B、1B’:280℃
液晶性樹脂ペレット2、2’:320℃
液晶性樹脂ペレット3R、3R’:350℃
【0046】
<嵩密度>
得られた液晶性樹脂ペレットを50mLのメスシリンダーに入れて、液晶性樹脂ペレットが密に充填されるようにメスシリンダーに振動を加えた後、液晶性樹脂ペレットの嵩密度を測定した。結果を表1~3に示す。
【0047】
<液晶性樹脂フィルムの製造>
得られた液晶性樹脂ペレットを原料として用い、単軸スクリュー押出機((株)東洋精機製作所製20mmφ単軸押出機)にて、表1~3記載のスクリュー圧縮比、L/D、押出機の供給部におけるスクリュー溝深さであるフルフライトスクリュー(スクリュー径D:19.8mm)を用いて、下記条件で溶融させ、押出機先端のTダイ(幅:150mm)から、ダイの設定温度を表1記載の通りに設定して、フィルム状に押し出して冷却し、巻き取り速度を調整して、100μmの厚みの液晶性樹脂フィルムを作製した。
シリンダー温度:ダイの温度設定と同一
スクリュー回転数:30rpm
吐出量:1.6kg/h
【0048】
<厚み変動>
得られた液晶性樹脂フィルムのセンター部分を透過光観察し、マクロ撮影した画像の明暗情報を画像解析した後、MD方向に明部及び暗部計10箇所の厚みをTECLOCコーポレーション製定圧厚さ測定器で測定し、測定した10箇所の厚みをグラフ化して、平均厚みに対する最大値と最小値との差の比率(%)として、厚み変動を算出した。結果を表1~3に示す。
【0049】
<粒子径50μm以上のブツの数>
オリンパス製システム顕微鏡BX60を用いて微分干渉モードにより液晶性樹脂フィルムを観察し、5cm×5cmの範囲における粒子径50μm以上のブツの数を測定した。結果を表1~3に示す。
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
表1~3に記載の結果から明らかなように、実施例の製造方法によれば、ブツの発生及びMD方向における厚み変動が低減された液晶性樹脂フィルムが得られることが確認された。