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特開2022-101126タングステン系赤外線吸収性顔料分散液、染色液、繊維製品、及び繊維製品の処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022101126
(43)【公開日】2022-07-06
(54)【発明の名称】タングステン系赤外線吸収性顔料分散液、染色液、繊維製品、及び繊維製品の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 17/00 20060101AFI20220629BHJP
   D06M 11/48 20060101ALI20220629BHJP
   C09B 67/46 20060101ALI20220629BHJP
   D06P 5/00 20060101ALI20220629BHJP
   C09C 3/10 20060101ALI20220629BHJP
【FI】
C09D17/00
D06M11/48
C09B67/46 B
D06P5/00 105
C09C3/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020215527
(22)【出願日】2020-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000162113
【氏名又は名称】共同印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100145089
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 恭子
(72)【発明者】
【氏名】坂田 朋未
(72)【発明者】
【氏名】寺田 暁
(72)【発明者】
【氏名】小林 文人
【テーマコード(参考)】
4H157
4J037
4L031
【Fターム(参考)】
4H157AA01
4H157BA15
4H157BA27
4H157CA29
4H157CB02
4H157CB08
4H157CC01
4H157CC02
4H157DA01
4H157DA17
4H157GA07
4J037AA04
4J037CC14
4J037CC17
4J037DD05
4J037EE28
4J037EE43
4J037FF02
4L031AA18
4L031AB31
4L031BA08
(57)【要約】
【課題】カチオン化剤が存在している場合であっても、タングステン系赤外線吸収性顔料の凝集が抑制され、また、加工ムラ等を抑制してタングステン系赤外線吸収性顔料が均一に付着した繊維製品を得ることのできる、タングステン系赤外線吸収性顔料分散液、当該分散液が配合された染色液、当該分散液又は染色液により処理された蓄熱保温性を有する繊維製品、及び繊維製品の処理方法を提供する。
【解決手段】タングステン系赤外線吸収性顔料を保護するための特定の樹脂エマルジョンを配合し、当該樹脂エマルジョンによりタングステン系赤外線吸収性顔料が予め被覆された状態で分散された分散液とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステン系赤外線吸収性顔料、塩化ビニル系樹脂エマルジョン、及び水、を含む、タングステン系赤外線吸収性顔料分散液。
【請求項2】
前記タングステン系赤外線吸収性顔料は、
一般式(1):M
{式中、Mは、H、He、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、及びIからなる群から選ばれる1種類以上の元素であり、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、x、y及びzは、それぞれ正数であり、0<x/y≦1であり、かつ2.2≦z/y≦3.0である}
で表される複合タングステン酸化物、又は、
一般式(2):W
{式中、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、y及びzは、それぞれ正数であり、かつ2.45≦z/y≦2.999である}
で表されるマグネリ相を有するタングステン酸化物、
から選ばれる少なくとも1種以上である、請求項1に記載のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液。
【請求項3】
前記塩化ビニル系樹脂エマルジョンは、塩化ビニルとアクリル酸エステルとの共重合体である、請求項1又は2に記載のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液。
【請求項4】
前記塩化ビニル系樹脂エマルジョンにおける、前記塩化ビニルと前記アクリル酸エステルとの組成比は、質量比として20:80~80:20である、請求項3に記載のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液。
【請求項5】
前記塩化ビニル系樹脂エマルジョンにおける、前記塩化ビニルと前記アクリル酸エステルとの組成比は、質量比として40:60~80:20である、請求項3に記載のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液。
【請求項6】
繊維製品処理用である、請求項1~5のいずれか1項に記載のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液を含む処理液で処理された繊維製品。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液及び染料を含む染色液。
【請求項9】
請求項8に記載の染色液で染色された繊維製品。
【請求項10】
カチオン化剤を含む処理液にて、繊維製品を処理するカチオン化処理工程と
請求項1~6のいずれか1項に記載のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液を含む処理液にて、前記繊維製品を処理して、前記タングステン系赤外線吸収性顔料を前記繊維製品に付着させる付着処理工程と、を含む
繊維製品の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タングステン系赤外線吸収性顔料分散液、当該分散液が配合された染色液、当該分散液又は染色液により加工された繊維製品、及び繊維製品の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、発熱性を有する繊維製品としては、繊維が水分を吸着した時に熱を発する吸湿発熱素材や、繊維が太陽光を吸収し、それを熱に変換する蓄熱保温素材が知られている。
【0003】
これらの内、蓄熱保温素材としては、赤外線吸収剤を付与した繊維から形成された素材が知られている。繊維に赤外線吸収剤を付与することによって、太陽光等から赤外線を吸収し、繊維内部の温度を上昇させることができる。また、上昇した温度を長時間維持することができ、保温性の高い素材となる。
【0004】
蓄熱保温素材に用いられる赤外線吸収剤としては、例えば、カーボンブラック等の炭素系材料、セシウム酸化タングステン(CWO)、アンチモンドープ酸化錫(ATO)、酸化インジウム錫(ITO)等の金属酸化物粒子、有機化合物の赤外線吸収色素等が挙げられる。
【0005】
例えば、特許文献1には、炭素系材料が配合された繊維が提案されている(特許文献1参照)。また、特許文献2には、芯成分が赤外線吸収剤を5~25質量%含有するポリアミド系樹脂であり、鞘成分がポリエステル系樹脂である、芯鞘構造の複合繊維が記載されており、赤外線吸収剤として、アンチモンドープ酸化錫(ATO)又は酸化インジウム錫(ITO)で被覆された微粒子が用いられている(特許文献2参照)。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された繊維は、蓄熱保温効果は高いものの、炭素系材料が有する黒色に起因して、布帛とした場合に色が暗くなり、外観に影響を及ぼす場合があった。
【0007】
また、特許文献2に記載された繊維で用いられるアンチモンドープ酸化錫(ATO)又は酸化インジウム錫(ITO)は、十分な蓄熱保温効果を得ようとすると多量の添加が必要となり、布帛とした場合に色がくすみ、外観の鮮明さにおいて満足できない場合があった。
【0008】
そこで、特許文献3においては、赤外線吸収剤としてセシウム酸化タングステン(CWO)を用いた繊維が提案されている(特許文献3参照)。
【0009】
セシウム酸化タングステン(CWO)等のタングステン系赤外線吸収性顔料は、可視光線を透過する透明な材料である上、使用料が少なくとも十分な効果を発揮するため、得られる布帛等の色相に変化を与えることがない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭58-120809号公報
【特許文献2】特開2018-90936号公報
【特許文献3】特開2006-132042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、繊維や布帛等の繊維製品の表面にタングステン系赤外線吸収性顔料を付与することを目的として、水を媒体とした処理液によって繊維製品処理するときに、繊維製品の染色の前工程で用いられたカチオン化剤が存在していると、処理液中でタングステン系赤外線吸収性顔料が凝集していた。そして、そのような処理液を用いて処理を実施すると、対象物に加工ムラ等が発生してしまい、タングステン系赤外線吸収性顔料が均一に付着した繊維製品を得ることが困難であった。
【0012】
本発明は、上記の背景に鑑みてなされたものであり、カチオン化剤が存在している場合であっても、タングステン系赤外線吸収性顔料の凝集が抑制され、また、加工ムラ等を抑制してタングステン系赤外線吸収性顔料が均一に付着した繊維製品を得ることのできる、タングステン系赤外線吸収性顔料分散液、当該分散液が配合された染色液、当該分散液又は染色液により処理された蓄熱保温性を有する繊維製品、及び繊維製品の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った。そして、タングステン系赤外線吸収性顔料を保護するための特定の樹脂エマルジョンを配合し、当該樹脂エマルジョンによりタングステン系赤外線吸収性顔料が予め被覆された状態で分散された分散液とすれば、カチオン化剤が存在している場合であっても、タングステン系赤外線吸収性顔料の凝集が抑制され、また、加工ムラ等を抑制してタングステン系赤外線吸収性顔料が均一に付着した繊維製品が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、以下のとおりである。
【0014】
《態様1》
タングステン系赤外線吸収性顔料、塩化ビニル系樹脂エマルジョン、及び水、を含む、タングステン系赤外線吸収性顔料分散液。
《態様2》
前記タングステン系赤外線吸収性顔料は、
一般式(1):M
{式中、Mは、H、He、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、及びIからなる群から選ばれる1種類以上の元素であり、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、x、y及びzは、それぞれ正数であり、0<x/y≦1であり、かつ2.2≦z/y≦3.0である}
で表される複合タングステン酸化物、又は、
一般式(2):W
{式中、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、y及びzは、それぞれ正数であり、かつ2.45≦z/y≦2.999である}
で表されるマグネリ相を有するタングステン酸化物、
から選ばれる少なくとも1種以上である、態様1に記載のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液。
《態様3》
前記塩化ビニル系樹脂エマルジョンは、塩化ビニルとアクリル酸エステルとの共重合体である、態様1又は2に記載のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液。
《態様4》
前記塩化ビニル系樹脂エマルジョンにおける、前記塩化ビニルと前記アクリル酸エステルとの組成比は、質量比として20:80~80:20である、態様3に記載のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液。
《態様5》
前記塩化ビニル系樹脂エマルジョンにおける、前記塩化ビニルと前記アクリル酸エステルとの組成比は、質量比として40:60~80:20である、態様3に記載のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液。
《態様6》
繊維製品処理用である、態様1~5のいずれか一態様に記載のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液。
《態様7》
態様1~6のいずれか一態様に記載のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液を含む処理液で処理された繊維製品。
《態様8》
態様1~6のいずれか一態様に記載のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液及び染料を含む染色液。
《態様9》
態様8に記載の染色液で染色された繊維製品。
《態様10》
カチオン化剤を含む処理液にて、繊維製品を処理するカチオン化処理工程と
態様1~6のいずれか一態様に記載のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液を含む処理液にて、前記繊維製品を処理して、前記タングステン系赤外線吸収性顔料を前記繊維製品に付着させる付着処理工程と、を含む
繊維製品の処理方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液は、カチオン化剤が存在している場合であっても、タングステン系赤外線吸収性顔料の凝集が抑制された分散液となる。
【0016】
また、本発明のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液により繊維製品を処理すれば、加工ムラ等が抑制されて、タングステン系赤外線吸収性顔料が均一に付着した、蓄熱保温機能を有する繊維製品を得ることができる。
【0017】
また、本発明のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液を用いれば、既に形状が付与された構造物を処理対象物とした場合であっても、蓄熱保温機能の付与が可能となる。
【0018】
更に、本発明のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液及び染料を含む染色液を作製すれば、対象物に対する染色工程の中で、タングステン系赤外線吸収性顔料を付着させることが可能となる。したがって、染色された蓄熱保温素材を、工程を増やすことなく作製することができ、生産性に大きく寄与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
《タングステン系赤外線吸収性顔料分散液》
本発明のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液は、タングステン系赤外線吸収性顔料、塩化ビニル系樹脂エマルジョン、及び水、を含む。
【0020】
本発明のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液は、カチオン化剤が存在している場合であっても、凝集が抑制された状態でタングステン系赤外線吸収性顔料を含むことで、分散液によって対象物を処理することにより、対象物の表面にタングステン系赤外線吸収性顔料を均一に付着させることができる。その結果、対象物に赤外線吸収性能を付与して、蓄熱保温機能を与えることができる。
【0021】
理論に拘束されるものではないが、上記のような効果は、本発明のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液が、タングステン系赤外線吸収性顔料を保護するための特定の樹脂を含んでおり、当該樹脂によりタングステン系赤外線吸収性顔料が予め被覆された状態で分散されているためと考えられる。
【0022】
また、本発明のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液は、一般的な染色工程に用いられる染色液に分散させることで、赤外線吸収性能を有する染色繊維製品を与える染色液を提供することができる。
【0023】
<タングステン系赤外線吸収性顔料>
本発明のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液に用いられるタングステン系赤外線吸収性顔料は、特に限定されるものではなく、赤外線吸収剤として公知の顔料を適用することができる。
【0024】
タングステン系赤外線吸収性顔料としては、例えば、一般式(1):M{式中、Mは、H、He、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、及びIからなる群から選ばれる1種類以上の元素であり、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、x、y及びzは、それぞれ正数であり、0<x/y≦1であり、かつ2.2≦z/y≦3.0である}で表される複合タングステン酸化物、又は一般式(2):W{式中、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、y及びzは、それぞれ正数であり、かつ2.45≦z/y≦2.999である}で表されるマグネリ相を有するタングステン酸化物から選ばれる1種以上の赤外線吸収性顔料であってもよい。
【0025】
このようなタングステン系赤外線吸収性顔料は、例えば、特開2005-187323号公報に説明されている、複合タングステン酸化物又はマグネリ相を有するタングステン酸化物の製法により、製造することができる。
【0026】
一般式(1)で表される複合タングステン酸化物には、元素Mが添加されている。この為、一般式(1)におけるz/y=3.0の場合も含めて、自由電子が生成され、近赤外光波長領域に自由電子由来の吸収特性が発現し、波長1000nm付近の近赤外線を吸収する材料として有効である。
【0027】
特に、元素Mとしては、近赤外線吸収性材料としての光学特性及び耐候性を向上させる観点から、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、及びSnからなる群から選ばれる1種類以上とすることができる。
【0028】
一般式(1)で表される複合タングステン酸化物は、シランカップリング剤で処理されていてもよい。シランカップリング剤処理することによって、近赤外線吸収性及び可視光波長領域における透明性を高めることができる。
【0029】
元素Mの添加量を示すx/yの値が0より大きいことにより、十分な量の自由電子が生成され、近赤外線吸収効果を十分に発揮することができる。なお、元素Mの添加量が多いほど、自由電子の供給量が増加して近赤外線吸収効果は上昇するが、通常は、x/yの値が1程度で飽和する。x/yの値が1以下である場合には、顔料含有層中における不純物相の生成を防ぐことが可能となる。
【0030】
x/yの値は、0.001以上、0.2以上、又は0.30以上であってもよく、0.85以下、0.5以下、又は0.35以下であってもよい。x/yの値は、特に、0.33とすることができる。
【0031】
一般式(1)及び(2)において、z/yの値は、酸素量の制御の水準を示す。一般式(1)で表される複合タングステン酸化物において、z/yの値が2.2≦z/y≦3.0の関係を満たす場合には、一般式(2)で表されるタングステン酸化物と同じ酸素制御機構が働くことに加えて、z/y=3.0の場合でさえも、元素Mの添加による自由電子の供給がある。一般式(1)において、z/yの値は、2.45≦z/y≦3.0の関係を満たすようにしてもよい。
【0032】
一般式(1)で表される複合タングステン酸化物は、六方晶の結晶構造を含むか、又は六方晶の結晶構造からなることが好ましい。一般式(1)で表される複合タングステン酸化物が、六方晶の結晶構造を有する場合、顔料の可視光波長領域の透過が大きくなり、かつ近赤外光波長領域の吸収が大きくなる。そして、元素Mの陽イオンは、六方晶の空隙に添加されて存在する。
【0033】
ここで、一般には、イオン半径の大きな元素Mを添加したときに、六方晶が形成される。具体的には、Cs、K、Rb、Tl、In、Ba、Sn、Li、Ca、Sr、Fe等のイオン半径の大きい元素を添加したときに、六方晶が形成され易い。しかしながら、一般式(1)で表される複合タングステン酸化物における元素Mは、これらの元素に限定されるものではなく、WO単位で形成される六角形の空隙に、添加元素Mが存在していればよい。
【0034】
六方晶の結晶構造を有する一般式(1)で表される複合タングステン酸化物が、均一な結晶構造を有する場合には、添加元素Mの添加量は、x/yの値で0.2以上0.5以下とすることができ、0.30以上0.35以下とすることができ、特に0.33とすることができる。x/yの値が0.33となることで、添加元素Mが、実質的に全ての六角形の空隙に配置されると考えられる。
【0035】
また、六方晶以外では、正方晶又は立方晶のタングステンブロンズであってもよい。一般式(1)で表される複合タングステン酸化物は、結晶構造によって、近赤外光波長領域の吸収位置が変化する傾向があり、立方晶、正方晶、六方晶の順に、吸収位置が長波長側に移動する傾向がある。また、それに付随して可視光波長領域の吸収が少ないのは、六方晶、正方晶、立方晶の順である。このため、可視光波長領域の光をより透過して、近赤外光波長領域の光をより吸収したい用途とする場合には、六方晶のタングステンブロンズを用いてもよい。
【0036】
一般式(2)で表されるマグネリ相を有するタングステン酸化物においては、z/yの値が2.45≦z/y≦2.999の関係を満たす、所謂「マグネリ相」は、安定性が高く、近赤外光波長領域の吸収特性も高い顔料となる。
【0037】
一般式(1)で表される複合タングステン酸化物及び一般式(2)で表されるマグネリ相を有するタングステン酸化物は、近赤外光波長領域、特に波長1000nm付近の光を大きく吸収するため、その透過色調が青色系から緑色系となる物が多い。
【0038】
本発明のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液に用いられるタングステン系赤外線吸収性顔料の分散粒子径は、特に限定されるものではなく、使用目的によって適宜選定することができる。
【0039】
透明性を高くしたい場合には、体積平均で2000nm以下の分散粒子径を有するタングステン系赤外線吸収性顔料を用いることが好ましい。分散粒子径が2000nm以下であれば、可視光波長領域における透過率(反射率)のピークと、近赤外光波長領域における吸収とのボトムの差が大きくなるため、可視光波長領域の透明性を有する近赤外線吸収顔料となる。更に、分散粒子径が2000nmよりも小さい粒子は、散乱により光を完全に遮蔽することがないため、可視光波長領域における視認性を保持しつつ、同時に、効率良く透明性を保持することができる。
【0040】
更に、可視光波長領域における透明性を重視したい場合には、粒子による散乱を考慮することが好ましい。具体的には、タングステン系赤外線吸収性顔料の体積平均の分散粒子径を、200nm以下とすることが好ましく、さらには100nm以下、50nm以下、又は30nm以下であってもよい。
【0041】
タングステン系赤外線吸収性顔料の分散粒子径が200nm以下となる場合には、幾何学散乱又はミー散乱が低減し、レイリー散乱領域となる。レイリー散乱領域では、散乱光は分散粒子径の6乗に反比例して低減するため、分散粒子径の減少に伴い、散乱は低減して透明性が向上する。更に、タングステン系赤外線吸収性顔料の分散粒子径が100nm以下となる場合には、散乱光は非常に少なくなる。したがって、光の散乱を回避する観点からは、分散粒子径は小さい方が好ましい。
【0042】
一方、タングステン系赤外線吸収性顔料の分散粒子径が、1nm以上、3nm以上、5nm以上、又は10nm以上であれば、工業的な製造が容易となる傾向にある。
【0043】
なお、タングステン系赤外線吸収性顔料の体積平均の分散粒子径は、ブラウン運動中の微粒子にレーザー光を照射し、そこから得られる光散乱情報から粒子径を求める、動的光散乱法のマイクロトラック粒度分布計(日機装株式会社製)を用いて測定することができる。
【0044】
本発明のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液において、タングステン系赤外線吸収性顔料の含有量は、特に限定されるものではないが、タングステン系赤外線吸収性顔料分散液の全固形分100質量部に対して、タングステン系赤外線吸収性顔料を、20質量部以下含むことが好ましい。
【0045】
本発明のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液におけるタングステン系赤外線吸収性顔料の含有量は、タングステン系赤外線吸収性顔料分散液の全固形分100質量部に対して、20質量部以下、15質量部以下、14質量部、12質量部以下、10質量部以下、8質量部以下、5質量部以下、又は3質量部以下であってもよい。
【0046】
また、本発明のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液におけるタングステン系赤外線吸収性顔料の含有量は、タングステン系赤外線吸収性顔料分散液の全固形分100質量部に対して、0.1質量部以上、0.5質量部以上、1.0質量部以上、1.5質量部以上、又は2.0質量部以上であってもよい。
【0047】
<塩化ビニル系樹脂エマルジョン>
本発明のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液は、塩化ビニル系樹脂エマルジョンを、必須成分として含む。塩化ビニル系樹脂エマルジョンを含むことで、当該樹脂エマルジョンにより、タングステン系赤外線吸収性顔料が予め被覆された状態で分散した分散液となる。
【0048】
タングステン系赤外線吸収性顔料が塩化ビニル系樹脂エマルジョンにより被覆されていることで、本発明のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液は、カチオン化剤が存在している場合であっても、タングステン系赤外線吸収性顔料の凝集を抑制し、また、得られた分散液による処理においては、対象物の加工ムラ等を抑制することができる。
【0049】
本発明に用いられる塩化ビニル系樹脂エマルジョンを構成する塩化ビニル系樹脂は、特に限定されるものではなく、塩化ビニルの単独重合体であっても、他の重合モノマーやオリゴマーとの共重合体であってもよい。
【0050】
中では、塩化ビニルとアクリル酸エステルとの共重合体であれば、分散性を向上させつつ、バインダー機能を発揮できるため好ましい。
【0051】
塩化ビニルとアクリル酸エステルとの共重合体からなる樹脂エマルジョンとしては、市販品を用いることもでき、例えば、ビニブラン(登録商標)700シリーズ(日信化学工業)等が挙げられる。
【0052】
ビニブラン700シリーズは、乳化剤を使用することなく重合された、塩化ビニルとアクリル酸エステルとの共重合体からなる塩化ビニル系樹脂エマルジョンである。その製造方法としては、例えば、塩化ビニル単量体又は塩化ビニル単量体とこれと共重合可能なエチレン性不飽和基含有単量体を含む単量体組成物を、スチレン・アクリル酸エステルオリゴマー及び/又はアクリル酸エステルオリゴマーの存在下で乳化重合させる方法が挙げられる。そして、その平均粒子径は、10~150nmの範囲である。
【0053】
塩化ビニルと乳化重合される、スチレン・アクリル酸エステルオリゴマー又はアクリル酸エステルオリゴマーに使用されるアクリル酸エステルモノマーとしては、特に限定されるものではないが、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等が挙げられる。
【0054】
また、エチレン性不飽和基含有単量体を含む単量体としては、特に限定されるものではないが、例えば、酢酸ビニル、エチレン、プロピレン、塩化ビニリデンのほか、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸メチル等のエチレン性不飽和モノカルボン酸エステル類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸類等が挙げられる。
【0055】
塩化ビニルとアクリル酸エステルとの共重合体からなる樹脂エマルジョンを用いる場合には、樹脂エマルジョンにおける、塩化ビニルとアクリル酸エステルとの組成比は、質量比として20:80~80:20であってもよい。
【0056】
塩化ビニル系樹脂エマルジョンにおける、塩化ビニルとアクリル酸エステルとの組成比は、質量比として40:60~80:20であってもよく、さらに好ましくは、50:50~80:20の範囲である。
【0057】
塩化ビニル系樹脂エマルジョンにおける、塩化ビニルとアクリル酸エステルとの組成比が上記の範囲にあれば、分散液におけるタングステン系赤外線吸収性顔料の分散性と、分散液により処理された対象物の蓄熱保温性を、十分に満足させることができる。
【0058】
本発明のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液における、塩化ビニル系樹脂エマルジョンの含有量は、特に限定されるものではないが、タングステン系赤外線吸収性顔料分散液の全固形分100質量部に対して、塩化ビニル系樹脂エマルジョンを、20質量部以下含むことが好ましい。
【0059】
本発明のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液における塩化ビニル系樹脂エマルジョンの含有量は、タングステン系赤外線吸収性顔料分散液の全固形分100質量部に対して、20質量部以下、15質量部以下、14質量部、12質量部以下、10質量部以下、8質量部以下、5質量部以下、又は3質量部以下であってもよい。
【0060】
また、本発明のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液における塩化ビニル系樹脂エマルジョンの含有量は、タングステン系赤外線吸収性顔料分散液の全固形分100質量部に対して、0.1質量部以上、0.5質量部以上、1.0質量部以上、1.5質量部以上、又は2.0質量部以上であってもよい。
【0061】
<水>
本発明のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液は、必須成分として、水を含む。すなわち、本発明のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液は、水を溶媒として用いて構成された水型分散液であり、固形分は水に分散された状態で含まれている。
【0062】
本発明のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液の必須成分となる水は、例えば、原料となるタングステン系赤外線吸収性顔料や、塩化ビニル系樹脂エマルジョンが分散媒となっている水をそのまま用いてもよいし、タングステン系赤外線吸収性顔料分散液の製造過程で、必要に応じて、適宜、添加してもよい。
【0063】
<その他の成分>
本発明のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液は、必須成分となるタングステン系赤外線吸収性顔料、塩化ビニル系樹脂エマルジョン、及び水以外に、その他の任意の成分を含んでいてもよい。
【0064】
その他の成分としては、特に限定されるものではなく、公知の物質を用いることができる。例えば、希釈用の溶剤、分散剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、pH調整剤等が挙げられる。
【0065】
(溶剤)
本発明のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液には、分散や粘度調整等を目的として、溶媒が含まれていてもよい。溶剤としては、本発明の分散液に含まれる材料を分散又は溶解するものであれば、特に限定されるものではない。
【0066】
例えば、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、ジアセトンアルコール等のアルコール類、メチルエーテル、エチルエーテル、プロピルエーテル等のエーテル類、酢酸エチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン、エチルイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素類、ノルマルヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル類といった、各種の有機溶媒を挙げることができる。
【0067】
本発明のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液において、溶媒を適用する場合には、1種単独であっても、2種類以上を混合した混合溶媒であってもよい。また、それぞれの成分を分散又は希釈するために用いられた溶媒を、タングステン系赤外線吸収性顔料分散液の製造過程で、そのまま用いて混合してもよい。更に、タングステン系赤外線吸収性顔料分散液となる組成物を調製した後に、粘度を低下させる等の目的で、溶媒を添加してもよい。
【0068】
本発明のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液における溶媒の含有量は、特に限定されるものではない。例えば、タングステン系赤外線吸収性顔料分散液100質量部に対して、0.1質量部以上、0.5質量部以上、1質量部以上、3質量部以上、又は5質量部以上であってもよく、50質量部以下、30質量部以下、20質量部以下、15質量部以下、10質量部以下、5質量部以下、3質量部以下、又は1質量部以下であってもよい。
【0069】
(分散剤)
タングステン系赤外線吸収性顔料の分散性を高めるために、タングステン系赤外線吸収性顔料分散液には、分散剤が含有されていてもよい。分散剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、アミン、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基等の官能基を有している化合物を挙げることができる。これらの官能基は、タングステン系赤外線吸収性顔料の表面に吸着し、タングステン系赤外線吸収性顔料の凝集を防ぐことで、タングステン系赤外線吸収性顔料を均一に分散させる機能を有する。
【0070】
《タングステン系赤外線吸収性顔料分散液の製造方法》
本発明のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液の製造方法は、特に限定されるものではなく、分散液を形成する際に用いられる公知の手法を適用することができる。
【0071】
例えば、タングステン系赤外線吸収性顔料及び第1の溶媒を含む分散体と、塩化ビニル系樹脂エマルジョンと第2の溶媒を含む分散体とを、混合する方法が挙げられる。
【0072】
更に、タングステン系赤外線吸収性顔料分散液の粘度を低下させる等の目的で、溶媒を混合する工程が含まれていてもよい。
【0073】
この場合、溶媒は、タングステン系赤外線吸収性顔料分散液を得る前に、顔料分散体、塩化ビニル系樹脂エマルジョン分散体、又はその他成分の分散体の少なくともいずれかに混合してもよく、あるいは、タングステン系赤外線吸収性顔料分散液を調製した後に、分散液に混合してもよい。
【0074】
《タングステン系赤外線吸収性顔料分散液の用途》
本発明のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液の用途は、特に限定されるものではなく、種々の用途に用いることができる。
【0075】
例えば、一般的な印刷インクとして使用することができ、例えば、フレキソ印刷インク、活版印刷インク、オフセット印刷インク、凹版印刷インク、グラビア印刷インク、スクリーン印刷インク、インクジェット印刷インク等として使用することができる。
【0076】
本発明のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液を繊維製品処理用の処理液として用いて、繊維製品を処理すれば、処理液中にカチオン化剤が混入した場合であっても、加工ムラ等が抑制され、タングステン系赤外線吸収性顔料が均一に付着した、蓄熱保温機能を有する繊維製品を得ることができる。
【0077】
あるいは、本発明のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液と染料とを混合して、対象物に対して、染色性と蓄熱保温性を与える染色液としてもよい。本発明のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液は、カチオン化剤が存在している場合であってもタングステン系赤外線吸収性顔料の凝集が抑制されているため、タングステン系赤外線吸収性顔料が均一に付着した染色繊維製品を得ることができる。
【0078】
また、本発明のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液、又は本発明のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液を含む染色液を用いれば、既に形状が付与された構造物に対しても、均一な蓄熱保温機能を付与することが可能となる。
【0079】
《染色された繊維製品》
また別の本発明は、本発明のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液と、染料と、を含む染色液で染色された繊維製品である。発明のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液及び染料を含む染色液で染色された繊維製品は、染色された蓄熱保温素材となる。
【0080】
繊維製品の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、繊維、布帛、これらを用いて形成された衣服や鞄等の構造物であってもよい。また、これらを一部に含む構造物であってもよい。
【0081】
《繊維製品の処理方法》
また別の本発明は、カチオン化剤を含む処理液にて、繊維製品を処理するカチオン化処理工程と、本発明のタングステン系赤外線吸収性顔料分散液を含む処理液にて、繊維製品を処理して、タングステン系赤外線吸収性顔料を繊維製品に付着させる付着処理工程と、を含む繊維製品の処理方法である。
【0082】
本発明の繊維製品の処理方法によれば、タングステン系赤外線吸収性顔料分散液を含む処理液中に、前工程のカチオン化処理工程によるカチオン化剤が混入した場合であっても、タングステン系赤外線吸収性顔料の凝集が抑制され、タングステン系赤外線吸収性顔料が均一に付着した、蓄熱保温機能を有する染色繊維製品を得ることができる。
【0083】
また、タングステン系赤外線吸収性顔料分散液を含む処理液に、染料を混合して付着処理工程を実施すれば、繊維製品に対して、タングステン系赤外線吸収性顔料の付着と染色とを同時に実施することができる。
【実施例0084】
以下、実施例及び比較例等により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0085】
《材料》
実施例又は比較例で用いた材料を、以下に示す。
(1)タングステン系赤外線吸収性顔料
・セシウム酸化タングステン(CWO)分散液(YMW-D20、住友金属鉱山株式会社):CWO含有率20質量%
六方晶Cs0.33WO:20質量%
水:64.6質量%
ジプロピレングリコールモノメチルエーテル:4.6質量%
プロパン-1,2-ジオル:1.5%
分散剤、その他:9.3質量%
【0086】
(2)塩化ビニル系樹脂エマルジョン
・ビニブラン(登録商標)700(日信化学工業、塩化ビニル:アクリル酸エステル(質量比)=30:70、樹脂固形分:40質量%)
・ビニブラン(登録商標)701(日信化学工業、塩化ビニル:アクリル酸エステル(質量比)=50:50、樹脂固形分:40質量%)
・ビニブラン(登録商標)715(日信化学工業、塩化ビニル:アクリル酸エステル(質量比)=50:50、樹脂固形分:40質量%)
【0087】
《実施例1》
<タングステン系赤外線吸収性顔料分散液の作製>
タングステン系赤外線吸収性顔料として、セシウム酸化タングステン(CWO)分散液(YMW-D20、住友金属鉱山株式会社)100gと、塩化ビニル系樹脂エマルジョンとして、ビニブラン(登録商標)700(日信化学工業、塩化ビニル:アクリル酸エステル(質量比)=30:70)100gとを混合して、タングステン系赤外線吸収性顔料分散液(分散液におけるCWO:塩化ビニル系樹脂(質量比)=1:2)を作製した。
【0088】
<処理布帛の作製>
(布帛サンプルの準備)
ポリエステル100%のシャツを9cm×9cmの正方形にカットし、染色用の布帛サンプルとした。布帛サンプルの平均重量は、0.9gであった。
【0089】
(カチオン化処理工程)
水300mLに、0.09g(布帛サンプル質量の10質量%)のカチオン化剤(UNIKA SET XH-57、ユニオン化学工業)を添加し、常温で10分間、80℃に加熱して20分間、攪拌しながら布帛サンプルを浸漬し、その後、自然乾燥させた。
【0090】
(処理液の作製)
水300mLに、上記で得られたタングステン系赤外線吸収性顔料分散液0.009g(布帛サンプル質量に対するCWO質量の割合:0.1%)を添加して、処理液を作製した。
【0091】
(付着処理工程)
カチオン化処理を実施したサンプル基材を、上記で作製した処理液に、常温で10分間、80℃に加熱して20分間、攪拌しながら浸漬し、タングステン系赤外線吸収性顔料が付与された処理布帛を得た。
【0092】
《評価》
<タングステン系赤外線吸収性顔料の凝集>
水と、カチオン化剤(UNIKA SET XH-57、ユニオン化学工業)と、上記で作製したタングステン系赤外線吸収性顔料分散液と、を混合し、混合液を作製した。このときの組成は、水:カチオン化剤:分散液=100:0.1:0.2(質量比)とした。作製した混合液について、タングステン系赤外線吸収性顔料の凝集の有無を、目視にて観察し、以下の評価基準で評価した。結果を表1に示す。
〇:凝集又は沈降は、ほとんど見られなかった。
△:凝集又は沈降が、少量見られた。
×:凝集又は沈降が、多量見られた。
【0093】
<蓄熱保温性>
断熱性の高い発泡スチロールの上に、処理布帛を設置し、処理布帛から30cm離れた位置に、250Wの白熱ランプを設置して、10分間光を照射した。照射前後の処理布帛の温度を測定し、その上昇温度を求めた。なお、温度センサーは、光が照射されている面の裏側面の中央部に、処理布帛に接するように設置した。また、白熱ランプとしては、型式PRF250W、定格電圧100V、色温度3200K(岩崎電気株式会社)を使用した。結果を表1に示す。
【0094】
【表1】
【0095】
《実施例2~18》
表1に示す塩化ビニル系樹脂エマルジョンを用いて、分散液におけるCWOと塩化ビニル系樹脂の質量比(CWO:塩化ビニル系樹脂)を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、タングステン系赤外線吸収性顔料分散液を作製した。
【0096】
続いて、布帛サンプル質量に対するCWO質量の割合を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、処理液を作製した。得られた処理液について、実施例1と同様にして、タングステン系赤外線吸収性顔料の凝集を評価した。結果を表1に示す。
【0097】
更に、作製した処理液を用いて、実施例1と同様にして、布帛サンプルを処理し、蓄熱保温性を評価した。結果を表1に示す。
【0098】
《比較例1~2》
塩化ビニル系樹脂エマルジョンを用いることなく、タングステン系赤外線吸収性顔料分散液をそのまま用いた。
【0099】
布帛サンプル質量に対するCWO質量の割合を表1に示すようにして、実施例1と同様にして、処理液を作製した。得られた処理液について、実施例1と同様にして、タングステン系赤外線吸収性顔料の凝集を評価した。結果を表1に示す。
【0100】
更に、作製した処理液を用いて、実施例1と同様にして、布帛サンプルを処理し、蓄熱保温性を評価した。結果を表1に示す。
【0101】
《比較例3》
表1に示すように、塩化ビニル系樹脂エマルジョンに替えて、水分散アクリル樹脂(ボンコート(登録商標)40-418EF、DIC株式会社)を用いた以外は、実施例1と同様にして、タングステン系赤外線吸収性顔料分散液を作製し、実施例1と同様にして、処理液を作製しようと試みた。しかしながら、処理液においてタングステン系赤外線吸収性顔料の凝集が大きく、付着処理工程を実施することができなかった。