(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022101148
(43)【公開日】2022-07-06
(54)【発明の名称】超音波探触子用バッキング材及びその製造方法、並びに超音波探触子
(51)【国際特許分類】
H04R 17/00 20060101AFI20220629BHJP
H04R 31/00 20060101ALI20220629BHJP
A61B 8/00 20060101ALI20220629BHJP
【FI】
H04R17/00 330J
H04R31/00 330
A61B8/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020215569
(22)【出願日】2020-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100193404
【弁理士】
【氏名又は名称】倉田 佳貴
(72)【発明者】
【氏名】山田 邦生
(72)【発明者】
【氏名】大野 俊樹
【テーマコード(参考)】
4C601
5D019
【Fターム(参考)】
4C601EE04
4C601GB31
5D019AA13
5D019AA17
5D019BB02
5D019BB03
5D019BB04
5D019GG01
5D019GG02
5D019GG03
5D019GG06
(57)【要約】
【課題】熱伝導率を維持しつつ、超音波の改善された減衰率を有する、バッキング材を提供する。
【解決手段】本発明の超音波探触子用バッキング材は、
炭素質マトリックスであって、かつ前記マトリックス中に分散している連通孔を有する、マトリックス、及び
前記連通孔に充填されている、樹脂
を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素質マトリックスであって、前記マトリックス中に分散している連通孔を有する、マトリックス、及び
前記連通孔の少なくとも一部に充填されている、樹脂
を有する、超音波探触子用バッキング材。
【請求項2】
音響インピーダンスが、3.5~6.0Mraylである、請求項1に記載のバッキング材。
【請求項3】
JIS R1611-2010に準拠する熱伝導率が、7.0W/m・K以上である、請求項1又は2に記載のバッキング材。
【請求項4】
JIS Z 2354-2012に準拠する超音波減衰が、-50~-15dB/cmである、請求項1~3のいずれか一項に記載のバッキング材。
【請求項5】
前記マトリックスが、炭素質紛体を更に含有している、請求項1~4のいずれか一項に記載のバッキング材。
【請求項6】
密度が1.1~1.8g/cm3である、請求項1~5のいずれか一項に記載のバッキング材。
【請求項7】
音響レンズ、音響整合層、圧電素子、及び請求項1~6のいずれか一項に記載のバッキング材をこの順で具備している、超音波探触子。
【請求項8】
炭素質マトリックスであって、かつ前記マトリックス中に分散している連通孔を有する、マトリックスを提供すること、及び
前記マトリックスの連通孔に、樹脂を充填すること
を含む、超音波探触子用バッキング材の製造方法。
【請求項9】
前記マトリックスの提供を、以下を含む方法により行う、請求項8に記載の方法。
硬化性樹脂、消失性物質、及び溶媒を混合することによりこれらを相溶させて、前駆体組成物を作製すること、並びに
前記前駆体組成物を非酸化雰囲気下で熱処理して、前記硬化性樹脂を炭素化させて前記マトリックスを形成し、かつ前記消失性物質を消失させて、前記マトリックスの気孔を形成すること。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波探触子用バッキング材及びその製造方法、並びに超音波探触子に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用の超音波診断装置や超音波画像検査装置は、対象物に対し超音波信号を送信し、その対象物内からの反射信号(エコー信号)を受信して当該対象物内を画像化する。これら超音波診断装置や超音波画像検査装置には、超音波信号送受信機能を有するアレイ式の超音波探触子が主に用いられている。
【0003】
超音波探触子は、上記の対象物側から、音響レンズ、音響整合層、圧電素子、及びバッキング材をこの順で具備している。かかる超音波探触子を構成するバッキング材は、感度を向上させるための超音波の良好な減衰性や、圧電素子の過熱を防止するための高い熱伝導性等の性能が求められている。かかるバッキング材として、種々のものが提案されている。
【0004】
特許文献1では、シート状の音響バッキング材上に圧電素子、音響整合層および音響レンズがこの順序で積層され、圧電素子及び音響整合層がアレイ状に複数分割され、かつ分割箇所に対応して音響バッキング層に溝が形成された超音波プローブであって、音響バッキング材は、酢酸ビニルの含有率が20~80質量%のエチレン-酢酸ビニル共重合体と前記エチレン-酢酸ビニル共重合体に含有された充填材とを含み、音響インピーダンスが2~8MRalysであることを特徴とする超音波プローブが開示されている。
【0005】
また、特許文献2では、超音波プローブにおいて、対象に対して超音波を送波する超音波振動子に対し、対象への超音波の送波方向とは反対側に設けられるバッキング部材であって、板状のバッキング材と、バッキング材よりも熱伝導率が高い材質からなる熱伝導体及び熱伝導板とを含んで構成され、熱伝導体は、バッキング材に埋設されて、該バッキング材の両板面に達するように柱状に形成されており、この熱伝導板は、バッキング材の両板面のうち、少なくとも超音波振動子側の一面に設けられていることを特徴とする、バッキング部材が開示されている。
【0006】
また、特許文献3では、多孔質アモルファス炭素から実質的に成る、超音波探触子用バッキング材が開示されている。
【0007】
なお、特許文献4では、塩素化塩化ビニル樹脂の粒子を容器に投入し、不活性雰囲気中で焼成することから成る炭素多孔体の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006-33801号公報
【特許文献2】特開2013-115537号公報
【特許文献3】特開2019-193151号公報
【特許文献4】特開昭59-64511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献3の発明によれば、超音波を良好に減衰させることができる、バッキング材を提供することができる。しかしながら、この減衰は、改善の余地があった。また、減衰率の改善に当たっては、熱伝導率を維持することも考慮する必要がある。
【0010】
したがって、本発明では、熱伝導率を維持しつつ、超音波の改善された減衰率を有する、バッキング材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討したところ、以下の手段により上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、下記のとおりである:
〈態様1〉炭素質マトリックスであって、前記マトリックス中に分散している連通孔を有する、マトリックス、及び
前記連通孔の少なくとも一部に充填されている、樹脂
を有する、超音波探触子用バッキング材。
〈態様2〉音響インピーダンスが、3.5~6.0Mraylである、態様1に記載のバッキング材。
〈態様3〉JIS R1611-2010に準拠する熱伝導率が、7.0W/m・K以上である、態様1又は2に記載のバッキング材。
〈態様4〉JIS Z 2354-2012に準拠する超音波減衰が、-50~-15dB/cmである、態様1~3のいずれか一項に記載のバッキング材。
〈態様5〉前記マトリックスが、炭素質紛体を更に含有している、態様1~4のいずれか一項に記載のバッキング材。
〈態様6〉密度が1.1~1.8g/cm3である、態様1~5のいずれか一項に記載のバッキング材。
〈態様7〉音響レンズ、音響整合層、圧電素子、及び態様1~6のいずれか一項に記載のバッキング材をこの順で具備している、超音波探触子。
〈態様8〉炭素質マトリックスであって、かつ前記マトリックス中に分散している連通孔を有する、マトリックスを提供すること、及び
前記マトリックスの連通孔に、樹脂を充填すること
を含む、超音波探触子用バッキング材の製造方法。
〈態様9〉前記マトリックスの提供を、以下を含む方法により行う、態様8に記載の方法:
硬化性樹脂、消失性物質、及び溶媒を混合することによりこれらを相溶させて、前駆体組成物を作製すること、並びに
前記前駆体組成物を非酸化雰囲気下で熱処理して、前記硬化性樹脂を炭素化させて前記マトリックスを形成し、かつ前記消失性物質を消失させて、前記マトリックスの気孔を形成すること。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、熱伝導率を維持しつつ、超音波の改善された減衰率を有する、バッキング材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の超音波探触子用バッキング材を構成するマトリックスの概念図である。
図1(a)は、本発明の第一の態様のマトリックスを示しており、
図1(b)は、本発明の第二の態様のマトリックスを示している。
【
図2】
図2は、本発明の超音波探触子の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
《超音波探触子用バッキング材》
本発明の超音波探触子用バッキング材は、
炭素質マトリックスであって、かつ前記マトリックス中に分散している連通孔を有する、マトリックス、及び
前記連通孔の少なくとも一部に充填されている、樹脂
を有する。
【0015】
上記の構成を有する本発明のバッキング材は、超音波を良好に減衰させることができる。より具体的には、本発明のバッキング材の、JIS Z 2354-2012に準拠する超音波減衰は、-15dB/cm以下、-17dB/cm以下、又は-18dB/cm以下であることができ、また-50dB/cm以上、-45dB/cm以上、-40dB/cm以上、-35dB/cm以上、-30dB/cm以上、-28dB/cm以上、-27dB/cm以上、-25dB/cm以上、-23dB/cm以上、又は-20dB/cm以上であることができる。
【0016】
理論に拘束されることを望まないが、本発明のバッキング材は、その多孔性に起因して、超音波がマトリックス内部で乱反射することにより、上記の超音波減衰がもたらされると考えられる。また、本発明のバッキング材は、マトリックスの連通孔に樹脂が充填されていることにより、大きい音響インピーダンス、並びに良好な超音波減衰性及び熱伝導性を有することができる。
【0017】
本発明のバッキング材のJIS R1611-2010に準拠する熱伝導率は、7.0W/m・K以上、8.0W/m・K以上、9.0W/m・K以上、10.0W/m・K以上、11.0W/m・K以上、又は12.0W/m・K以上であることができ、また300.0W/m・K以下、250.0W/m・K以下、200.0W/m・K以下、150.0W/m・K以下、100.0W/m・K以下、70.0W/m・K以下、50.0W/m・K以下、25.0W/m・K以下、15.0W/m・K以下、14.0W/m・K以下、13.5W/m・K以下、13.0W/m・K以下、12.0W/m・K以下、11.0W/m・K以下、又は10.5W/m・K以下であることができる。この熱伝導率は、レーザーフラッシュ熱物性測定装置(LFA457、NETZSCH社)を用いて、バッキング材の厚さ方向に測定することができる。
【0018】
バッキング材の厚さは、5mm以上、7mm以上、10mm以上、13mm以上、15mm以上、18mm以上、又は20mm以上であることができ、また100mm以下、90mm以下、80mm以下、70mm以下、60mm以下、50mm以下、40mm以下、35mm以下、30mm以下、又は25mm以下であることができる。
【0019】
本発明のバッキング材の音響インピーダンスは、3.5Mrayl以上、4.0Mrayl以上、又は4.5Mrayl以上であってよく、また6.0Mrayl以下、5.3Mrayl以下、5.0Mrayl以下、4.8Mrayl以下、4.5Mrayl以下、又は4.0Mrayl以下であってよい。
【0020】
上記の音響インピーダンスは、以下の式により求められるものである。
音響インピーダンス(Z:Mrayl)=密度(ρ:g/cm3)×音速(C:m/sec)/103
【0021】
ここで、上記の音速は、例えばJIS Z 2353-2003に準拠して測定した音速であってよい。
【0022】
バッキング材の密度は、1.1g/cm3以上、1.2g/cm3以上、1.3g/cm3以上、又は1.4g/cm3以上であってよく、また1.8g/cm3以下、1.7g/cm3以下、1.6g/cm3以下、又は1.5g/cm3以下であってよい。この密度は、JIS Z 8807に準拠して測定した密度であってよい。
【0023】
上記の構成を有するバッキング材のJIS K 7074に準拠する曲げ強さは、50MPa以上、60MPa以上、70MPa以上、80MPa以上、90MPa以上、100MPa以上、又は110MPa以上であることができる。また、この曲げ強さは、250MPa以下、240MPa以下、230MPa以下、220MPa以下、210MPa以下、200MPa以下、190MPa以下、180MPa以下、160MPa以下、150MPa以下、140MPa以下、又は130MPa以下であることができる。
【0024】
ここで、曲げ強さは、JIS K 7074に準拠して測定するものである。具体的には、両端を単純支持された試験片の1点に荷重(3点曲げ)を加え、所定の試験速度で試験片をたわませて得られた破壊時加重又は最大荷重を用いて、以下の式で求められる曲げ弾性率σb(MPa)を言うものである。
σb=(3PbL)/(2bh2)
式中、Lは支点間距離(mm)、bは試験片の幅(mm)、hは試験片の厚さ(mm)、Pbは破壊時加重又は最大荷重(N)を意味する。ここで、試験片を任意の大きさに切り分けて測定を行うことができることに留意されたい。
【0025】
上記の構成を有するバッキング材のJIS K 7074に準拠する曲げ弾性率は、10GPa以上、11GPa以上、12GPa以上、13GPa以上、14GPa以上、15GPa以上、又は16GPa以上であることができる。また、この曲げ弾性率は、35GPa以下、33GPa以下、30GPa以下、29GPa以下、28GPa以下、26GPa以下、24GPa以下、22GPa以下、又は20GPa以下であることができる。
【0026】
ここで、曲げ弾性率は、JIS K 7074に準拠して測定するものである。具体的には、両端を単純支持された試験片の1点に荷重(3点曲げ)を加え、所定の試験速度で試験片をたわませて荷重-たわみ曲線を記録し、荷重-たわみ曲線の直線部の初期の勾配を用いて、以下の式で求められる曲げ弾性率Eb(MPa)を言うものである。
Eb=(1/4)×(L3/bh3)×(P/δ)
式中、Lは支点間距離(mm)、bは試験片の幅(mm)、hは試験片の厚さ(mm)、P/δは、荷重-たわみ曲線の直線部の勾配(N/mm)を意味する。ここで、試験片を任意の大きさに切り分けて測定を行うことができることに留意されたい。
【0027】
以下では、本発明の各構成要素について説明する。
【0028】
〈マトリックス〉
マトリックスは、炭素質マトリックスであって、マトリックス中に分散している連通孔を有する、マトリックスである。
【0029】
ここで、本発明において、「炭素質」はガラス状炭素及び/又は黒鉛で構成されていることを意味している。
【0030】
マトリックスの連通孔を構成する気孔の平均細孔径は、0nm超、1nm以上、3nm以上、5nm以上、8nm以上、10nm以上、15nm以上、20nm以上、30nm以上、40nm以上、50nm以上、60nm以上、70nm以上、80nm以上、又は90nm以上であることができる。この気孔の平均細孔径は、100μm以下、90μm以下、80μm以下、70μm以下、65μm以下、又は60μm以下であることができる。この気孔の平均細孔径は、水銀圧入法により測定した平均の直径である。
【0031】
水銀圧入法による測定は、マトリックスを100℃で3時間乾燥する前処理を施し、測定機器、例えばAutoPoreIV 9520(Micromeritics社)を用いて、以下の条件で行うことができる:
測定範囲:約4nm~500μm
解析方法:Washburn法
表面張力:480dynes/cm、
接触角:140°。
【0032】
マトリックスは、マトリックス中に分散している炭素質紛体を更に含有していてよい。
【0033】
以下では、マトリックスの2つの態様について説明するが、本発明の超音波探触子用バッキング材においては、連通孔を有する他の多孔性のマトリックスを用いることができる。
【0034】
〈マトリックス:第一の態様〉
第一の態様では、
図1(a)に示すように、マトリックス10aは、ガラス状炭素14の内部に消失性の気孔形成剤に由来する気孔が形成されており、この気孔12が連通孔を形成している形態でよい。
【0035】
本発明の第一の態様のマトリックスの連通孔を構成する気孔の平均細孔径は、0nm超、1nm以上、3nm以上、5nm以上、8nm以上、10nm以上、15nm以上、20nm以上、30nm以上、40nm以上、50nm以上、60nm以上、70nm以上、80nm以上、又は90nm以上であることができる。この気孔の平均細孔径は、500nm以下、450nm以下、400nm以下、350nm以下、300nm以下、250nm以下、220nm以下、200nm以下、180nm以下、150nm以下、130nm以下、又は110nm以下であることができる。この気孔の平均細孔径は、上記と同様に、水銀圧入法により測定した平均の直径である。
【0036】
本発明の第一の態様のマトリックスの厚さは、5mm以上、7mm以上、10mm以上、13mm以上、15mm以上、18mm以上、又は20mm以上であることができ、また100mm以下、90mm以下、80mm以下、70mm以下、60mm以下、50mm以下、40mm以下、35mm以下、30mm以下、又は25mm以下であることができる。
【0037】
〈マトリックス:第二の態様〉
第二の態様では、
図1(b)に示すように、マトリックス10bは、ガラス状炭素粒子14が互いに連結しており、それらのガラス状炭素粒子間に気孔12が形成されており、これらの気孔12が連通している形態でよい。
【0038】
本発明の第二の態様のマトリックスの連通孔を構成する気孔の平均細孔径は、1μm以上、3μm以上、又は5μm以上であることができる。この気孔の直径は、100μm以下、90μm以下、80μm以下、70μm以下、65μm以下、又は60μm以下であることができる。この気孔の平均細孔径は、上記と同様に、水銀圧入法により測定した平均の直径である。
【0039】
以下では、マトリックスの各構成要素について説明する。
【0040】
(ガラス状炭素)
ガラス状炭素は、例えば硬化性樹脂、消失性物質、及び溶媒を含有している前駆体組成物を炭素化させることにより得ることができる。詳細には、バッキング材の製造方法に関して下記で説明する。
【0041】
(炭素質紛体)
マトリックス中には、炭素質紛体分散していてもよい。
【0042】
炭素質紛体としては、例えば非晶質炭素粉末、グラフェン、カーボンナノチューブ、黒鉛、及びカーボンブラック等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、また組み合わせて使用してもよい。
【0043】
炭素質紛体の形状は、特に限定されず、例えば扁平状、アレイ状、球状等の形状であってよい。
【0044】
炭素質紛体の平均粒子径は、10nm以上、20nm以上、30nm以上、50nm以上、70nm以上、100nm以上、200nm以上、300nm以上、500nm以上、700nm以上、1μm以上、2μm以上、又は3μm以上であることができ、また150μm以下、140μm以下、130μm以下、120μm以下、110μm以下、100μm以下、90μm以下、80μm以下、70μm以下、60μm以下、50μm以下、40μm以下、30μm以下、20μm以下、18μm以下、15μm以下、13μm以下、10μm以下、又は7μm以下であることができる。ここで、本明細書において、平均粒子径は、レーザー回折法において体積基準により算出されたメジアン径(D50)を意味するものである。
【0045】
マトリックス中の炭素質紛体の含有率は、マトリックス全体の質量を基準として、80質量%以下、75質量%以下、70質量%以下、65質量%以下、60質量%以下、55質量%以下、50質量%以下、45質量%以下、40質量%以下、35質量%以下、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、又は15質量%以下であることができ、また、5質量%以上、7質量%以上、又は10質量%以上であることができる。炭素質紛体の含有量が50質量%以下であることにより、マトリックスの成形をより容易に行うことができる。また、炭素質紛体の含有量が5質量%以上であることにより、マトリックスの良好な機械的性質を確保することができる。
【0046】
〈樹脂〉
樹脂は、連通孔に充填されている。かかる樹脂としては、減衰性及び可構成を考慮して選択することができ、例えばエポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、ゴム、エラストマー等を、単独で又は組み合わせて用いることができる。
【0047】
《超音波探触子》
図1に示すように、本発明の超音波探触子100は、音響レンズ102、音響整合層104、圧電素子106、及び上記のバッキング材108をこの順で具備している。
【0048】
〈音響レンズ〉
音響レンズは、一般に、屈折を利用して超音波ビームを集束し分解能を向上するために配置されている。
【0049】
本発明において、音響レンズを構成する素材としては、例えば従来公知のシリコーンゴム、フッ素シリコーンゴム、ポリウレタンゴム、エピクロルヒドリンゴム等のホモポリマー、エチレンとプロピレンとを共重合させてなるエチレン-プロピレン共重合体ゴム等の共重合体ゴム等を用いることができる。
【0050】
〈圧電素子〉
圧電素子は、一般に、電極及び圧電材料を有し、電気信号を機械的な振動に、また機械的な振動を電気信号に変換可能で超音波の送受信が可能な素子である。
【0051】
(圧電材料)
圧電材料は、電気信号を機械的な振動に、また機械的な振動を電気信号に変換可能な材料であってよい。圧電材料としては、例えばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系セラミックス、PbTiO3系セラミック等の圧電セラミックス、フッ化ビニリデン(VDF)系ポリマー、シアン化ビニリデン(VDCN)系ポリマー等の有機高分子圧電材料、水晶、ロッシェル塩等を用いることができる。
【0052】
フッ化ビニリデン(VDF)系ポリマーとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデン-3フッ化エチレン(P(VDF-TrFE))等が挙げられる。シアン化ビニリデン(VDCN)系ポリマーとしては、ポリシアン化ビニリデン(PVDCN)、シアン化ビニリデン系共重合体が挙げられる。
【0053】
(電極)
電極としては、例えば金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、スズ(Sn)等を用いることができる。
【0054】
〈音響整合層〉
音響整合層は、一般に、超音波振動子と被検体の間の音響インピーダンスを整合させるもので、超音波振動子と被検体との中間の音響インピーダンスを有する材料で構成される。
【0055】
音響整合層に用いられる材料としては、アルミ、アルミ合金(例えばAL-Mg合金)、マグネシウム合金、マコールガラス、ガラス、溶融石英、コッパーグラファイト、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)、ABC樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ABS樹脂、AAS樹脂、AES樹脂、ナイロン(PA6、PA6-6)、PPO(ポリフェニレンオキシド)、PPS(ポリフェニレンスルフィド:ガラス繊維入りも可)、PPE(ポリフェニレンエーテル)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PAI(ポリアミドイミド)、PETP(ポリエチレンテレフタレート)、PC(ポリカーボネート)、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等を用いることができる。
【0056】
音響整合層は、単層であってもよく、又は複層であってもよい。
【0057】
《バッキング材の製造方法》
バッキング材を製造する本発明の方法は、
ガラス状炭素で構成されているマトリックスであって、かつ前記マトリックス中に分散している連通孔を有する、マトリックスを提供すること、及び
前記マトリックスの連通孔に、樹脂を充填すること
を含む。
【0058】
〈マトリックスの提供:第一の態様〉
第一の態様では、以下を含む方法により、マトリックスを提供することができる:
硬化性樹脂、消失性物質、及び溶媒を混合することによりこれらを相溶させて、前駆体組成物を作製すること、並びに
前記前駆体組成物を非酸化雰囲気下で熱処理して、前記硬化性樹脂を炭素化させて前記マトリックスを形成し、かつ前記消失性物質を消失させて、前記マトリックスの前記連通孔を形成すること
を含む。
【0059】
また、本発明の方法は、前駆体組成物を炭素化させて得たバッキング材用ブロックを切削して、バッキング材を作製することを更に含んでもよい。
【0060】
従来、厚さが5mm以上であるマトリックスを製造しようとした場合には、硬化の段階や炭素化の初期段階において、大量の低分子量物質が生成することにより、体積が大きく収縮し、かつこの低分子量物質からなるガスが内部に蓄積されるため、クラックが発生しやすいという問題があった。作製しようとするマトリックスの厚さが大きくなればなるほど、成形体の表面から遠い(深い)場所で発生するガスが多くなり、それによって、体積の収縮及びガスの発生量が大きくなり、その結果、炭素化の段階において炭素前駆体に加わる応力が大きくなり、クラック等が発生しやすくなる。
【0061】
これに対し、本発明者らは、上記の方法により、厚さが5mm以上であるマトリックスを製造できることを見出した。具体的には、硬化性樹脂、消失性物質及び溶媒が相溶していることにより、炭素化の段階において、炭素前駆体の内部からガスを逃がすことができるパスを、炭素前駆体全体に偏りなく形成でき、その結果、ガスの蓄積に伴う応力を良好に抑制することができるため、クラックを生じさせることなく、上記のガラス状炭素成形体を製造できる。
【0062】
(前駆体組成物の作製)
前駆体組成物の作製は、硬化性樹脂、消失性物質、及び溶媒を混合することによりこれらを相溶させて行う。
【0063】
混合は、ディスパー等の公知の攪拌手段で行うことができる。
【0064】
(前駆体組成物の成形)
前駆体組成物の成形は、前駆体組成物を型に投入して硬化させることにより行うことができる。
【0065】
(前駆体組成物の熱処理)
前駆体組成物の熱処理は、前駆体組成物を非酸化雰囲気下で熱処理して、硬化性樹脂を炭素化させてバッキング材の本体を形成し、かつ消失性物質を消失させて、バッキング材の前記気孔を形成することである。
【0066】
熱処理は、例えば800℃以上、850℃以上、又は900℃以上であり、かつ3000℃以下、2800℃以下、2500℃以下、2200℃以下、2000℃以下、1800℃以下、1600℃以下、1500℃以下、1400℃以下、1300℃以下、1200℃以下、1150℃以下、1100℃以下、1050℃以下、又は1000℃以下の温度まで昇温させて行うことができる。
【0067】
以下では、本発明のバッキング材を製造する本発明の方法において用いる物について説明する。
【0068】
(硬化性樹脂)
硬化性樹脂は、概して、3次元架橋して硬化する樹脂である。特に、硬化性樹脂としては、非酸化雰囲気下で1000℃まで加熱したときに熱分解することなく炭素化可能であり、かつ炭素化収率(残炭率)が40%以上である硬化性樹脂を用いることが好ましい。
【0069】
かかる硬化性樹脂としては、例えばフラン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フラン-フェノール系樹脂、フェノール変性フラン共縮合物、メラミン樹脂、尿素樹脂、フラン-尿素系樹脂などの硬化前駆体を一種又は二種以上用いることができる。
【0070】
(硬化剤)
例えば、硬化性樹脂として、フラン樹脂、フェノール-フラン系樹脂、フラン-尿素系樹脂を用いる場合においては、硬化剤としては、例えばパラトルエンスルホン酸等の有機スルホン酸系硬化剤を用いることができる。
【0071】
(消失性物質)
消失性物質は、所与の熱分解温度で、熱分解により消失することができる物質、特に有機物である。
【0072】
この熱分解温度は、昇温速度10℃/min、窒素雰囲気下でのTG測定により求めることができる。具体的には、各測定温度Tに於ける質量減少率W(%)において、各温度でのdW/dTを求めプロットしたときのdW/dTのピーク温度を物質の熱分解温度とすることができる。
【0073】
消失性物質の熱分解温度は、上記の硬化性樹脂が炭素化する温度よりも低い温度であることが好ましく、例えば500℃以下、480℃以下、450℃以下、又は420℃以下であることが好ましい。熱分解温度が上記の温度であることにより、硬化性樹脂の炭化温度域において発生する、低分子量物質から成るガスを抜くためのパスを良好に構築することができる。
【0074】
また、この熱分解温度は、300℃以上、320℃以上、350℃以上、又は380℃以上であることが好ましい。熱分解温度が300℃以上であることにより、炭素化の初期温度において大量の低分子量物質を生じることによる、前駆体組成物の急激な収縮を抑制し、その結果、上記のパスが閉じることを抑制することができる。
【0075】
消失性物質としては、例えばポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン、及びポリエチレングリコール等を用いることができる。
【0076】
特に、消失性物質としてポリエチレングリコールを用いる場合には、消失性物質の分子量は、400以上、600以上、800以上、1000以上、3000以上、5000以上、8000以上、10000以上、12000以上、14000以上、又は17000以上であり、かつ100000以下、90000以下、80000以下、70000以下、60000以下、50000以下、45000以下、40000以下、35000以下、30000以下、又は25000以下であることが、熱分解温度を上記の範囲内とする観点から好ましい。なお、分子量が異なる消失性物質を混合させて用いる場合には、各成分の含有率で重みづけした分子量の加重平均が、上記の範囲内にあってよい。
【0077】
消失性物質の含有率は、前駆体組成物の固形分の質量を基準として、0質量%超、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、又は4質量%以上であることが、上記のパスを良好に形成する観点から好ましく、また10質量%以下、9質量%以下、8質量%以下、7質量%以下、6質量%以下、又は5質量%以下であることが、マトリックスの機械的強度を良好にする観点から好ましい。ここで、「前駆体組成物の固形分の質量」は、硬化性樹脂及び消失性物質の合計質量を意味するものである。
【0078】
(溶媒)
本発明の溶媒は、硬化性樹脂及び消失性物質と相溶することができる溶媒である。ここで、本明細書において、「相溶」とは、硬化前の前駆体組成物を光学顕微鏡で100倍以上に拡大して観察したときに、未溶解物が確認できない状態を意味するものである。
【0079】
溶媒の沸点は、150℃以上であることが、消失性物質との相溶状態を長く維持し、その結果、良好にパスを形成する観点から好ましい。この沸点は、150℃以上、160℃以上、170℃以上、180℃以上、190℃以上、又は200℃以上であってよく、また300℃以下、280℃以下、又は250℃以下であってよい。
【0080】
溶媒としては、例えばベンジルアルコール等のアルコール、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)等の非プロトン系極性溶媒、プロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、分子量600以下のポリエチレングリコール等のグリコール系溶媒、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール(ソルフィット)等のグリコールエーテル等が挙げられる。これらを一種又は二種以上混合して用いても良い。
【0081】
上記の溶解度パラメータの条件を満足する硬化性樹脂/熱分解性有機物/溶媒の組合せとしては、例えば以下の組合せを採用することができる:
フラン樹脂/ポリエチレングリコール/ベンジルアルコール+テトラエチレングリコール、フラン樹脂/ポリエチレングリコール/ベンジルアルコール+トリエチレングリコール、フラン樹脂/ポリエチレングリコール/ベンジルアルコール+ジエチレングリコール、フラン樹脂/ポリビニルピロリドン/ベンジルアルコール+テトラエチレングリコール、フェノール樹脂/ポリエチレングリコール+PVB/テトラエチレングリコール+ベンジルアルコール、フラン樹脂/ポリエチレングリコール/NMP。
これらは一例で、均一な相溶状態の組合せで有れば採用することができる。
【0082】
〈マトリックスの提供:第二の態様〉
第二の態様では、以下を含む方法により、マトリックスを提供することができる:
炭素前駆体粒子を型に充填して加熱硬化させて、成形組成物を作製すること、及び
前記成形組成物を非酸化雰囲気下で熱処理して、前記炭素前駆体粒子を炭素化させること
を含む。
【0083】
第二の態様の方法は、例えば特許文献4を参照して実施することができる。
【0084】
(成形組成物の作製)
成形組成物は、一態様においては、炭素前駆体粒子を型に充填して加熱硬化させて行うことができる。
【0085】
炭素前駆体粒子としては、例えばポリ塩化ビニル樹脂、フェノール樹脂、フラン樹脂、イミド樹脂、エポキシ樹脂、及び不飽和ポリエステル樹脂等で構成されている樹脂粒子、並びにコールタールピッチ、石油ピッチ等のピッチを用いることができる。これらは単独で用いてもよく、また2種以上を混合して用いてもよい。
【0086】
また、別の態様では、上記の樹脂粒子及びピッチの少なくとも1種を、混錬して押出成形し、これにより得られた成形体を粉砕して得た粒子を、炭素前駆体粒子としてもよい。
【0087】
炭素前駆体粒子の平均粒子径は、例えば1μm以上、2μm以上、3μm以上、又は5μm以上であることができ、また500μm以下、400μm以下、300μm以下、200μm以下、100μm以下、50μm以下、30μm以下、20μm以下、又は10μm以下であることができる。この平均粒子径は、レーザー回折法において体積基準により算出されたメジアン径(D50)の値である。レーザー回折法による測定は、例えば粒度分布測定装置 MT3300II(マイクロトラック・ベル株式会社)を用いて行うことができる。
【0088】
(熱処理)
熱処理は、例えば600℃以上、650℃以上、700℃以上、750℃以上、又は800℃以上、850℃以上、又は900℃以上であり、かつ3000℃以下、2700℃以下、2500℃以下、2300℃以下、2100℃以下、2000℃以下、1700℃以下、1500℃以下、1300℃以下、1200℃以下、1150℃以下、1100℃以下、1050℃以下、又は1000℃以下の温度で行うことができる。
【0089】
〈樹脂の充填〉
樹脂の充填は、公知の方法により行うことができる。充填する樹脂としては、既に言及したものを用いることができる。
【実施例0090】
実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0091】
《バッキング材の作製》
〈実施例1〉
硬化性樹脂として、フラン樹脂(VF303、日立化成社)を45質量部、熱分解性有機物としての分子量20000のポリエチレングリコール(熱分解温度426℃)6質量部、溶媒としてのベンジルアルコール(沸点205℃)18質量部、及びテトラエチレングリコール(沸点328℃)13質量部を配合し、ディスパー等で良く撹拌して均一溶液を得た。得られた溶液に、黒鉛(鱗片状黒鉛、日本黒鉛社、平均粒子径5μm)を18質量部添加してビーズミル等で均一に分散した。得られた分散液に、硬化剤としてのパラトルエンスルホン酸1質量部を添加し、攪拌機(ホモミクサーMARK II 2.5型、プライミクス社)を用いて充分撹拌し、減圧脱泡操作を施したものを準備した。
【0092】
この溶液を厚み5mmの型枠に流し込んで硬化させた後に、アルゴンガス中で2000℃で処理することで、厚み4mmのマトリックスを得た。得られたマトリックスの平均細孔径は0.1μmであった。
【0093】
なお、平均細孔径の測定は、マトリックスを100℃で3時間乾燥する前処理を施し、AutoPoreIV 9520(Micromeritics社)を用い、水銀圧入法により、以下の条件で測定した。
測定範囲:約4nm~500μm
解析方法:Washburn法
表面張力:480dynes/cm、
接触角:140°。
【0094】
このマトリックスにエポキシ樹脂を含浸充填し、硬化させて、実施例1のバッキング材を得た。各特性を評価した。
【0095】
〈比較例1〉
エポキシ樹脂を含浸充填しなかったことを除き、実施例1と同様にして、比較例1のバッキング材を得た。
【0096】
〈実施例2〉
ポリ塩化ビニル樹脂粉体(M1008、カネカ社)70質量部と黒鉛(球状黒鉛20μm、日本黒鉛社)30質量部をオープンミキサーで混合し、厚さ5mmの枠に充填して加熱硬化させた。これをアルゴンガス中で2000℃で処理することで、厚み4mmのマトリックスを得た。得られたマトリックスの平均細孔径は5μmであった。
【0097】
このマトリックスにエポキシ樹脂を含浸充填し、硬化させて、実施例2のバッキング材を得た。
【0098】
〈実施例3〉
ポリ塩化ビニル樹脂粉体(M1008、カネカ社)75質量部と黒鉛(鱗片状黒鉛5μm、日本黒鉛)25質量部をオープンミキサーで混合し、押出成形機を用いて直径2mmの線状に成形した。粉砕機を用いてこれを粉砕し、36メッシュを通り50メッシュを通らない粉体を得た。これを厚さ5mmの枠に充填して加熱硬化させた。これをアルゴンガス中で2200℃で処理することで、厚み4mmのマトリックスを得た。得られたマトリックスの平均細孔径は55μmであった。
【0099】
このマトリックスにウレタン樹脂を含浸充填し、硬化させ、次いでエポキシ樹脂を含浸充填し、硬化させて、実施例3のバッキング材を得た。
【0100】
〈比較例2〉
アモルファス炭素源としてのフラン樹脂(日立化成社)70部、黒鉛(鱗片状黒鉛、日本黒鉛社、平均粒子径5μm)10部、気孔形成材としてPMMA(積水化成品工業社、平均粒子径10μm)20部に硬化剤としてp-トルエンスルホン酸1部を添加して、攪拌機(ホモミクサーMARK II 2.5型、プライミクス社)を用いて充分撹拌し、減圧脱泡操作を施したものを準備した。この溶液を厚み5mmの型枠に流し込んで硬化させた後に、窒素ガス中で1000℃で処理することで、厚み4mmのバッキング材を得た。
【0101】
〈比較例3〉
比較例3のバッキング材としては、アクリル樹脂板(ミスミ社)を用いた。
【0102】
《評価》
作製したバッキング材を、30mm×30mm×3mmの大きさに切り分け、そして質量を測定して密度を算出し、更に以下の評価を行った。
【0103】
〈音速の測定及び音響インピーダンスの算出〉
JIS Z 2353-2003に準拠して、シングアラウンド式音速測定装置を用い、作製した各バッキング材の内部における音速を25℃で測定した。算出した密度及び測定した音速を用い、音響インピーダンスを算出した。
【0104】
〈超音波減衰〉
各バッキング材の内部における超音波減衰を、JIS Z 2354-2012に準拠して、水槽中に25℃の水を満たし、超音波パルサーレシーバーJSR DPR500によって水中で1MHzの超音波を発生させ、超音波がバッキング材を透過する前と後の振幅の大きさを測定することにより、超音波減衰を評価した。
【0105】
〈熱伝導率〉
レーザーフラッシュ熱物性測定装置(LFA457、NETZSCH社)を用い、作製したバッキング材の厚さ方向の熱伝導率を測定した。
【0106】
実施例及び比較例の構成及び評価結果を表1に示す。
【0107】
【0108】
表1から、連通孔を有し、この連通孔に樹脂が充填されている、実施例1~3のバッキング材は、超音波の良好な減衰性、及び良好な熱伝導性を兼ね備えたバッキング材であることが理解できよう。
【0109】
以下では、実施例1のバッキング材を構成するガラス状炭素成形体、すなわち連通孔を有する多孔質のガラス状炭素を含有している成形体の例を、参考例を参照して示す。実施例1では、評価の便宜のため、4mmの厚さで成形したが、実施例1の構成では、より大きな厚さを有するバッキング材を成形できることが、以下の参考例の記載から明らかになる筈である。
【0110】
《参考例1》
硬化性樹脂としてのフラン樹脂(VF303、日立化成社)120質量部、消失性物質としての分子量11000のポリエチレングリコール(PEG)(熱分解温度426℃)14質量部、並びに溶媒としてのベンジルアルコール(BA)(沸点205℃)26質量部及びテトラエチレングリコール(TEG)(沸点328℃)40質量部を配合し、ディスパー等で良く撹拌して均一な溶液を得た。消失性物質の含有率は、前駆体組成物の固形分の質量を基準として、10質量%であった。
【0111】
得られた溶液に、硬化剤としてのパラトルエンスルホン酸(PTS)2質量部を添加し、更に撹拌して均一化したものを減圧脱泡処理して、前駆体組成物を得た。この前駆体組成物を、直径100mm厚さ25mmの型に充填して硬化させた。硬化させた前駆体組成物を型から外し、窒素ガス雰囲気下で、1000℃の温度まで熱処理して直径80mm厚さ20mmのガラス状炭素成形体を得た。
【0112】
得られたガラス状炭素成形体は、SEMによる画像解析法により測定した気孔の直径が50nm程度、曲げ強さが80MPa、曲げ弾性率が19GPa、音響インピーダンスが4.5Mraylであるガラス状炭素成形体であった。
【0113】
《参考例2》
硬化性樹脂として、フラン樹脂(VF303、日立化成社)を126質量部、熱分解性有機物としての分子量20000のポリエチレングリコール(熱分解温度426℃)10質量部、溶媒としてのソルフィット(沸点174℃)20質量部及びトリエチレングリコール(TrEG)(沸点287℃)30質量部を配合し、ディスパー等で良く撹拌して均一溶液を得た。消失性物質の含有率は、前駆体組成物の固形分の質量を基準として、7質量%であった。
【0114】
得られた溶液に、黒鉛(鱗片状黒鉛、日本黒鉛社、平均粒子径5μm)を14質量部添加してビーズミル等で均一に分散した。得られた分散液に、硬化剤としてのパラトルエンスルホン酸1質量部を添加し、更に撹拌して均一化したものを減圧脱泡処理して、前駆体組成物を得た。この前駆体組成物を、直径100mm厚さ30mmの型に充填して硬化させた。硬化させた前駆体組成物を型から外し、窒素ガス雰囲気下で、1400℃の温度まで熱処理して、直径80mm厚さ25mmのガラス状炭素成形体を得た。
【0115】
得られたガラス状炭素成形体は、SEMによる画像解析法により測定した気孔の直径が50nm程度、曲げ強さが96MPa、曲げ弾性率が17.5GPa、音響インピーダンスが4.4Mraylであるガラス状炭素成形体であった。
【0116】
《参考例3》
硬化性樹脂としてのフラン樹脂(VF303、日立化成社)80質量部、熱分解性有機物としての分子量20000のポリエチレングリコール(熱分解温度426℃)2質量部及び分子量600のポリエチレングリコール(熱分解温度390℃)2質量部、溶媒としてのベンジルアルコール(沸点205℃)10質量部及びジエチレングリコール(DEG)(沸点244℃)10質量部を配合し、ディスパー等で良く撹拌して均一な溶液を得た。
【0117】
得られた溶液に非晶質炭素粉末(平均粒子径10μm)を80質量部添加して、これをビーズミルやディスパー等で均一に分散させた。得られた分散液に硬化剤としてのパラトルエンスルホン酸を3質量部添加し、更に撹拌して均一化したものを減圧脱泡処理して、前駆体組成物を得た。この前駆体組成物を、直径100mm厚さ30mmの型に充填して硬化させた。硬化させた前駆体組成物を型から外し、窒素ガス雰囲気下で、1000℃の温度まで熱処理して直径80mm厚さ25mmのガラス状炭素成形体を得た。
【0118】
得られたガラス状炭素成形体は、SEMによる画像解析法により測定した気孔の直径が50nm程度、曲げ強さが115MPa、曲げ弾性率が24GPa、音響インピーダンスが5.3Mraylだった。
【0119】
《参考比較例1》
硬化性樹脂としてのフラン樹脂(VF303、日立化成社)120質量部、溶媒としてのベンジルアルコール(沸点205℃)26質量部及びテトラエチレングリコール(沸点328℃)40質量部を配合し、ディスパー等で良く撹拌して均一な溶液を得た。
【0120】
得られた溶液に、硬化剤としてのパラトルエンスルホン酸1質量部を添加し、更に撹拌して均一化したものを減圧脱泡処理して、前駆体組成物を得た。この前駆体組成物を、直径100mm厚さ30mmの型に充填して硬化させた。硬化させた前駆体組成物を型から外し、窒素ガス雰囲気下で、1400℃の温度まで熱処理したところ、大きなクラックと内部に細かなクラックが入り、ガラス状炭素成形体が得られなかった。この為、細孔径、曲げ強さ、曲げ弾性率、及び音響インピーダンスの測定はできなかった。
【0121】
《参考比較例2》
硬化性樹脂としてのフラン樹脂(VF303、日立化成社)70質量部、熱分解性有機物としてのポリメチルメタクリレート(PMMA)(粒子径5μm、熱分解温度400℃)20質量部、及び炭素質紛体としての黒鉛(鱗片状黒鉛、日本黒鉛社、平均粒子径5μm)10質量部を添加してビーズミルやディスパー等で均一に分散させた。
【0122】
得られた分散液に、硬化剤としてのパラトルエンスルホン酸を1質量部添加し、更に撹拌して均一化したものを減圧脱泡処理して、前駆体組成物を得た。この前駆体組成物を、直径100mm厚さ30mmの型に充填して硬化させた。硬化させた前駆体組成物を型から外し、窒素ガス雰囲気下で、1000℃の温度まで熱処理したところ、炭化物にクラックが入り、ガラス状炭素成形体は得られなかった。この為、曲げ強さ、曲げ弾性率、及び音響インピーダンスの測定はできなかった。
【0123】
《参考比較例3》
硬化性樹脂としてのフラン樹脂(VF303、日立化成社)126質量部、溶媒としてのソルフィット(沸点174℃)20質量部及びトリエチレングリコール(沸点287℃)30質量部を配合し、ディスパー等で良く撹拌して均一な溶液を得た。
【0124】
得られた溶液に、炭素質紛体としての黒鉛(鱗片状黒鉛、日本黒鉛社、平均粒子径5μm)を10質量部添加してビーズミルやディスパーなどで均一に分散させた。得られた分散液に、硬化剤としてのパラトルエンスルホン酸1質量部を添加し、更に撹拌して均一化したものを減圧脱泡処理して、前駆体組成物を得た。この前駆体組成物を、直径100mm厚さ30mmの型に充填して硬化させた。硬化させた前駆体組成物を型から外し、窒素ガス雰囲気下で、1000℃の温度まで熱処理したところ、炭化物にクラックが入り、ガラス状炭素成形体は得られなかった。この為、曲げ強さ、曲げ弾性率、及び音響インピーダンスの測定はできなかった。
【0125】
参考例及び参考比較例の各構成及び評価結果を表1に示す。なお、表1の「溶液状態」においては、硬化前でかつ炭素質紛体の添加前の前駆体組成物を光学顕微鏡で100倍以上に拡大して観察したときに、未溶解物が確認できない場合には、「相溶」と記載しており、そうではない場合には、「非相溶」と記載している。
【0126】
【0127】
硬化性樹脂、消失性物質、及び溶媒が相溶している前駆体組成物を用いた参考例1~3では、厚さ20~25mmのガラス状炭素成形体が作製できた。
【0128】
これに対し、消失性物質を含有していない前駆体組成物を用いた参考比較例1及び3、並びに溶媒を含有していない前駆体組成物を用いた参考比較例2では、厚さ20mm以上のガラス状炭素成形体が作製できなかった。