(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022101150
(43)【公開日】2022-07-06
(54)【発明の名称】低分子化された単離リグニンの製造方法
(51)【国際特許分類】
D21C 11/00 20060101AFI20220629BHJP
C07G 1/00 20110101ALI20220629BHJP
【FI】
D21C11/00
C07G1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020215572
(22)【出願日】2020-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113398
【弁理士】
【氏名又は名称】寺崎 直
(72)【発明者】
【氏名】塗木 豊
(72)【発明者】
【氏名】田上 歩
(72)【発明者】
【氏名】辻 志穂
(72)【発明者】
【氏名】金子 令治
(72)【発明者】
【氏名】宮脇 正一
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AA02
4L055AC06
4L055AG08
4L055AG10
4L055AG16
4L055BA19
4L055BA20
4L055BC17
4L055EA24
4L055EA31
(57)【要約】
【課題】低分子化された単離リグニンを製造する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】(a)木材原料をアルカリ蒸解して得られる黒液のpHを低下させて第1の沈殿物を生成すること、
(b)前記第1の沈殿物にアルカリ水を加えて、前記第1の沈殿物を含むアルカリ液を生成すること、
(c)前記アルカリ液を200℃以上300℃以下で加熱し、加熱物を生成すること、および
(d)前記加熱物のpHを低下させて、単離リグニン含有沈殿物と、単離リグニンの分解物を含む液とに分離すること、
を行い、低分子化された単離リグニンを得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低分子化された単離リグニンを製造する方法であって、下記(a)~(d):
(a)木材原料をアルカリ蒸解して得られる黒液のpHを低下させて第1の沈殿物を生成することと、
(b)前記第1の沈殿物にアルカリ水を加えて、前記第1の沈殿物を含むアルカリ液を生成することと、
(c)前記アルカリ液を200℃以上300℃以下で加熱し、加熱物を生成することと、
(d)前記加熱物のpHを低下させて、単離リグニン含有沈殿物と、単離リグニンの分解物を含む液とに分離することと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記単離リグニンの分解物は、リグニンモノマーおよび/またはリグニンオリゴマーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記(a)において、前記黒液に酸および二酸化炭素のいずれか一方または双方を添加してpHを7以上10以下に調整し、脱水し、前記第1の沈殿物を生成する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記(a)において、前記黒液に酸および二酸化炭素のいずれか一方または双方を添加してpHを7以上10以下に調整し、脱水した後、(i)水に懸濁して無機酸を添加、または(ii)無機酸を添加した水に懸濁して、pHを1以上7以下に調整し、脱水し、前記第1の沈殿物を生成する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記(b)において、前記アルカリ液のpHが12以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記(c)における加熱の時間が、1分間以上180分間以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記(a)における木材原料が、針葉樹から調製された木材チップを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低分子化された単離リグニンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リグニンは、植物細胞壁などに含まれており、天然に豊富に存在する芳香族ポリマーである。リグニンは、紙パルプ製造プロセスで排出される黒液の主成分という形態で、主にボイラーなどの燃料として利用されてきたが、現在、より広い用途開発が進められており、再生可能な資源として期待が高まっている。
【0003】
リグニンは、紙パルプ製造プロセスにおいて蒸解処理後に植物繊維質を除いて排出される黒液から分離して得ることができる。例えば、サルファイト蒸解法では、酸性亜硫酸塩と亜硫酸の混液を加えて、130~145℃で蒸煮し木材中のリグニンをリグニンスルホン酸塩として溶出する。アルカリ蒸解法の一種であるクラフト蒸解法では、苛性ソーダ(NaOH)と硫化ソーダ(Na2S)を主成分とする薬品を加えて、150~170℃程度で蒸煮し、クラフトリグニンとして溶出する。また、同じくアルカリ蒸解法の一種であるソーダ蒸解法では、苛性ソーダ等のアルカリ水溶液を加えてリグニンを溶出する。
【0004】
リグニンは、化学薬品や樹脂、ゴム等の原料としての利用が期待されている。その都合から、低分子化されたリグニンが求められている。リグニンの平均分子量を低下させるために、150~200℃で黒液流を熱処理し、熱処理された黒液からリグニンを沈殿させる方法が開示されている(例えば、特許文献1)。また、反応性の高いリグニン製品を得るために、黒液をpH12以上の状態で200~300℃の熱処理し、その後pHを下げてリグニンを沈殿物として回収する方法が開示されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2013-531747号公報
【特許文献2】WO2018/115592
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のような状況に鑑み、解決しようとする課題の1つは、低分子化された単離リグニンを得ることができる新たな方法を提供することにある。
また、解決しようとする更なる課題の1つは、針葉樹に由来する木材チップからでも低分子化した単離リグニンを得ることができる方法を提供することにある。
また、解決しようとする更なる課題の1つは、リグニンモノマーまたはその複合化合物など、産業上有用な物質を含むリグニン含有物を生成して得ることができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示中に提示される発明は、多様な面から把握しうるところ、課題を解決するための手段として、例えば下記のものを含む。
〔1〕 低分子化された単離リグニンを製造する方法であって、下記(a)~(d):
(a)木材原料をアルカリ蒸解して得られる黒液のpHを低下させて第1の沈殿物を生成することと、
(b)前記第1の沈殿物にアルカリ水を加えて、前記第1の沈殿物を含むアルカリ液を生成することと、
(c)前記アルカリ液を200℃以上300℃以下で加熱し、加熱物を生成することと、
(d)前記加熱物のpHを低下させて、単離リグニン含有沈殿物と、単離リグニンの分解物を含む液とに分離することと、
を含む、方法。
〔2〕 前記単離リグニンの分解物は、リグニンモノマーおよび/またはリグニンオリゴマーを含む、上記〔1〕に記載の方法。
〔3〕 前記(a)において、前記黒液に酸および二酸化炭素のいずれか一方または双方を添加してpHを7以上10以下に調整し、脱水し、前記第1の沈殿物を生成すること含む、上記〔1〕に記載の方法。
〔4〕 前記(a)において、前記黒液に酸および二酸化炭素のいずれか一方または双方を添加してpHを7以上10以下に調整し、脱水した後、(i)水に懸濁して無機酸を添加、または(ii)無機酸を添加した水に懸濁して、pHを1以上7以下に調整し、脱水し、前記第1の沈殿物を生成する、上記〔1〕に記載の方法。
〔5〕 前記(b)において、前記アルカリ液のpHが12以上である、上記〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の方法。
〔6〕 前記(c)における加熱の時間が、1分間以上180分間以下である、上記〔1〕~〔5〕のいずれか一項に記載の方法。
〔7〕 前記(a)における木材原料が、針葉樹から調製された木材チップを含む、上記〔1〕~〔6〕のいずれか一項に記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様において、低分子化された単離リグニンを得ることができる。
また本発明の一態様において、針葉樹に由来する木材チップからでも低分子化した単離リグニンを得ることができる。
また本発明の一態様において、リグニンモノマーまたはその複合化合物など、産業上有用な物質を含むリグニン含有物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本開示において、特に断らない限り、数値範囲に関し、「AA~BB」という記載は、「AA以上BB以下」を示すこととする(ここで、「AA」および「BB」は任意の数値を示す)。また、下限および上限の単位は、特に断りない限り、後者(すなわち、ここでは「BB」)の直後に付された単位と同じである。また、本開示において、「Xおよび/またはY」との表現は、XおよびYの双方、またはこれらのうちのいずれか一方のことを意味する。
【0010】
本開示において「単離リグニン」との用語は、天然リグニンと区別する用語である。天然リグニンは、植物細胞壁中でセルロースやヘミセルロースなどの多糖類と共に強固に複合化して存在しており、何らかの化学的構造の変性なしに単離することは未だ困難である。すなわち、本開示において「単離リグニン」とは、天然リグニンとは区別して、物理的または化学的処置を経て単離されたリグニンのことをいう。単離リグニンは、工業リグニンとも言われる。
【0011】
本開示において「単離リグニンの分解物」とは、単離リグニンが分解して低分子化した化合物であって、分解物の一形態は、リグニンモノマーおよびその複合化合物でありうる。
【0012】
本開示において「リグニンモノマー」とは、フェノール構造を1つ含む炭化水素化合物のことをいう。フェノール構造を1つ含む炭化水素化合物は、ヒドロキシフェニル基を1つ有する炭化水素化合物でありうる。「リグニンモノマー」は、ベンゼン環またはベンゼン環に付随する炭化水素基に、置換基を有していてもよい。また、当該炭化水素基は、直鎖でも分岐していてもよく、また、環状構造を有していてもよい。また、当該炭化水素基は、飽和であっても、不飽和であってもよい。
【0013】
リグニンモノマーの分子量の下限は、通常、94以上でありうる。リグニンモノマーの分子量の上限は、特に制限されるわけではないが、目安として、1000、900、800、700、600、又は500以下でありうる。リグニンモノマーの典型的なものは、分子量約100~300、150~250、または200前後でありうる。
【0014】
本開示において「リグニンモノマーの複合化合物」とは、2つ以上のリグニンモノマーから生成し得る構造を有する化合物のことをいう。リグニンモノマーの複合化合物としては、例えば、リグニンモノマーが複数結合して形成されるリグニンオリゴマー、2つ以上のリグニンモノマーの縮合体などが挙げられる。
【0015】
リグニンモノマーの複合化合物の分子量は、特に制限されるものではないが、本開示の方法により得られる低分子の当該複合化合物としては、例えば、好ましくは2000以下、より好ましくは分子量1000、700、500、または400以下でありうる。
【0016】
原料となる木材の種類などによっても異なるが、本開示の方法により得られるリグニンモノマーおよびその複合化合物を複数種含む混合物は、その重量平均分子量(Mw)が、好ましくは2500以下、より好ましくは2000以下、さらに好ましくは1500、1200、又は1100以下でありうる。
【0017】
リグニンモノマー及びその複合化合物は、例えば、リグニンを含有する植物材料を分解して得られ、リグニンに由来する有機化合物、好ましくは芳香族化合物であり、リグニンの前駆物質で一般にモノリグノールと称される有機化合物、その生合成経路に存在する有機化合物、リグニンを含有する植物材料の分解時に化学修飾や官能基変換がされた化合物、それらの低分子縮合体、および、1又は2種以上のリグニンモノマーが結合して形成されるリグニンオリゴマーなどの化合物でありうる。
【0018】
リグニンモノマーとしては、例えば、モノリグノールと称される化合物群が挙げられる。リグニンモノマーとして具体的には、例えば、p-クマリルアルコール、コニフェリルアルコール、シナピルアルコール、p-クマリルアルデヒド、コニフェリルアルデヒド、シナピルアルデヒド、p-クマル酸、フェルラ酸、シナピン酸、カフェイルアルコール、カフェイルアルデヒド、カフェ酸、桂皮酸、バニリルアルコール、5-ホルミルバニリン酸、5-ホルミルバニリン、5-ヒドロキシメチルバニリン、5-カルボキシバニリン、p-ヒドロキシベンズアルデヒド、p-ヒドロキシ安息香酸、アセトバニロン、バニリン、バニリン酸、シリンガアルデヒド、シリンガ酸、グアヤコールなどが挙げられる。
【0019】
本発明の単離リグニンの製造方法の一実施形態においては、以下の(a)、(b)、(c)、および(d)の処理が行われる。
(a)木材原料をアルカリ蒸解して得られる黒液に酸を加えて第1の沈殿物を生成すること。
(b)前記第1の沈殿物にアルカリ水を加えて、前記第1の沈殿物を含むアルカリ液を生成すること。
(c)前記アルカリ液を200℃以上300℃以下で加熱し、加熱物を生成すること。
(d)前記加熱物に酸を添加して、単離リグニン含有沈殿物と、単離リグニンの分解物を含む液とに分離すること。
以下、上記(a)~(d)の各処理の実施形態を、製造プロセスにおける工程として説明する。
【0020】
<工程(a):第1の沈殿物を生成する工程>
工程(a)において用いられる黒液は、木材原料のアルカリ蒸解により得られるものを用いる。
【0021】
木材原料としては、好ましくは木材チップなどが用いられる。木材チップは、紙パルプ製造などで通常用いられる形態のものでよく、例えば、上記の木材を切断、裁断、破断、粉砕など木材を物理的に細かくする処理をした後に、そのまま又は所望の形状に成形するなどして調製しうる。
【0022】
原料の木材としては、広葉樹、針葉樹のいずれも使用しうる。広葉樹としては、例えば、ブナ、シナ、シラカバ、ポプラ、ユーカリ、アカシア、ナラ、イタヤカエデ、センノキ、ニレ、キリ、ホオノキ、ヤナギ、セン、ウバメガシ、コナラ、クヌギ、トチノキ、ケヤキ、ミズメ、ミズキ、アオダモ等が挙げられる。針葉樹としては、例えば、スギ、エゾマツ、カラマツ、クロマツ、トドマツ、ヒメコマツ、イチイ、ネズコ、ハリモミ、イラモミ、イヌマキ、モミ、サワラ、トガサワラ、アスナロ、ヒバ、ツガ、コメツガ、ヒノキ、イチイ、イヌガヤ、トウヒ、イエローシーダー(ベイヒバ)、ロウソンヒノキ(ベイヒ)、ダグラスファー(ベイマツ)、シトカスプルース(ベイトウヒ)、ラジアータマツ、イースタンスプルース、イースタンホワイトパイン、ウェスタンラーチ、ウェスタンファー、ウェスタンヘムロック、タマラック等が挙げられる。
【0023】
針葉樹を原料として得られる黒液に含まれるリグニンの分子量は、広葉樹を原料として得られる黒液に含まれるものより大きい傾向がある。本発明の一実施形態によれば、針葉樹を原料として得られた黒液を用いた場合であっても、単離リグニンの低分子化を大幅に進行させることができる。よって、針葉樹由来の木材チップを用いることは、本発明の有利な一実施形態でありうる。
【0024】
本発明の一実施形態において用いられる黒液は、木材チップをアルカリ蒸解して得られる。アルカリ蒸解は、アルカリ薬品を蒸解液として用いて行われる蒸解方法であれば特に制限はなく、代表的な例として、クラフト蒸解法およびソーダ蒸解法が含まれる。一般に、クラフト蒸解法では、蒸解液として苛性ソーダ(NaOH)と硫化ナトリウム(Na2S)が用いられる。ソーダ蒸解法では、基本的に苛性ソーダを蒸解液として用い、硫化ナトリウムなどの硫黄分を混ぜない。蒸解液には、キノン化合物などの蒸解助剤を添加してもよい。
【0025】
工程(a)では、アルカリ蒸解後に得られる黒液のpHを低下させて第1の沈殿物(粗精製リグニン含有物)を得る。アルカリ蒸解により得られる黒液のpHは、アルカリ蒸解の具体的な条件にもよるが、通常、pH12~14程度である。工程(a)では、黒液のpHを、10以下、好ましくは1~10に調整しうる。黒液のpHを上記のような上限、例えば10以下とすることにより、リグニンの不溶物を十分に生成することができる。他方、黒液のpHを、過度に低く、例えば1未満とすると、使用する酸の量が増えるため、工程(b)で使用するアルカリ量や、中和時に生成する塩が増加してしまう。そのためpHをこのように過度に低くすることは、実用的な生産方法としての観点からは避けることが好ましい。
【0026】
黒液のpHは、酸および/または二酸化炭素を添加し、懸濁液とすることにより低下させることができる。使用する酸は、無機酸でも有機酸でもよい。無機酸としては、例えば、硫酸、亜硫酸、塩酸、硝酸、亜硝酸、リン酸、炭酸等が挙げられ、中でも硫酸が好適である。また、二酸化塩素発生装置から排出される残留酸を使用してもよい。有機酸としては、例えば、酢酸、乳酸、シュウ酸、クエン酸、ギ酸等が挙げられる。
【0027】
黒液は、pHを調整する前に、エバポレーターなどを用いて濃縮してもよい。黒液中の固形分含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは、20質量%以上でありうる。
【0028】
上記のように黒液のpHを低下させる調整(例えばpH10未満に調整)を行う際の温度は、好ましくは、室温~100℃、より好ましくは40~80℃でありうる。温度の上限をこのように調整することにより、リグニンの縮合を抑制し、黒液中に含まれているリグニンの分子量が大きくなることを抑制しうる。
【0029】
二酸化炭素を黒液に添加する場合、二酸化炭素を加える方法は特に限定されないが、例えば、大気圧下で吹き込む方法、または密閉容器中で二酸化炭素を吹き込んで加圧(0.1~1MPa)する方法などがある。二酸化炭素としては、純粋な二酸化炭素ガスでもよいが、焼却炉、ボイラーなどから排出される燃焼排ガス、石灰焼成工程などから発生する二酸化炭素を含むガスを用いてもよい。
【0030】
また、必要に応じて凝集剤を添加して、リグニンの沈殿を促進させてもよい。凝集剤としては、例えば、硫酸バンド、塩化アルミ、ポリ塩化アルミ、ポリアミン、DADMAC、メラミン酸コロイド、ジンアンジアジド等が挙げられる。
【0031】
黒液に酸および/または二酸化炭素を添加して、黒液のpHを低下させること、例えば10未満に調整すること、によって、リグニンを含有するケーキ状の沈殿物が得られる。この沈殿物を脱水し、水で洗浄することによって、沈殿物を分取することができる。沈殿物を脱水、洗浄するための装置としては、フィルタープレス、ドラムプレス、遠心脱水装置、吸引濾過装置等を使用しうる。なお、フィルタープレス装置で脱水する際には、用いるフィルタークロスの透気度は、0.5cm3/cm2/secを超え、60cm3/cm2/sec未満であることが好ましい。フィルタークロスの透気度が0.5cm3/cm2/secを超えると、脱水の際に目詰まりしにくい。また、透気度が60cm3/cm2/sec未満とすることにより、フィルタークロス上にリグニンを保持しやすい。洗浄する際に使用する水は特に限定されないが、工業用水、水道水等を使用することができ、pHは1~9、温度は20~80℃、電気伝導度が0.2S/m以下であることが好ましい。
【0032】
第1の沈殿物を調製する工程(a)の好ましい一実施形態として、黒液に酸及び/又は二酸化炭素を添加してpHを7以上10以下に調整し、脱水して、第1の沈殿物を回収してもよい。
【0033】
また、第1の沈殿物を調製する工程(a)についての他の好ましい一実施形態としては、黒液に酸及び/又は二酸化炭素を添加してpHを7以上10以下に調整し、脱水した後、(i)水に懸濁して無機酸を添加するか、または(ii)無機酸を添加した水に懸濁して、pHを1以上7以下に調整し、脱水し、第1の沈殿物を回収してもよい。
【0034】
<工程(b):アルカリ液を調製する工程>
工程(b)では、上述の工程(a)の処理によって調製できる第1の沈殿物にアルカリ水を加えて、第1の沈殿物を含むアルカリ液を生成する。
【0035】
第1の沈殿物に加えるアルカリ水としては、例えば、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、アルカリ金属リン酸塩、アルカリ金属カルボン酸塩、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸水素塩、アルカリ土類金属炭酸水素塩、アルカリ土類金属カルボン酸塩、アンモニア、アミン化合物、アルカリ金属アルコキシドからなる群より選ばれる1種以上の水溶液が挙げられる。なかでも、反応性およびコストの点からは、好ましくはアルカリ金属水酸化物水溶液が挙げられ、特に好ましくは水酸化ナトリウム水溶液が挙げられる。
【0036】
第1の沈殿物にアルカリ水を加え、懸濁して、第1の沈殿物を含むアルカリ液を調製する。アルカリ液のpHは、好ましくは11以上、より好ましくは12以上に調整しうる。
【0037】
<工程(c):アルカリ加熱工程>
工程(c)では、上述の工程(b)の処理によって調製できるアルカリ液を200~300℃で加熱し、加熱物を生成する。
工程(c)にて得られる加熱物には、木材原料中に存在するリグニンよりも低分子化した単離リグニンが含まれている。なお、工程(c)にて得られる加熱物は、結果物としては単離リグニン含有液とも言いうる。
【0038】
加熱温度の下限は、pHの程度や加熱時間などの条件にもよるが、好ましくは200℃以上、より好ましくは210℃以上、更に好ましくは215または220℃以上でありうる。
加熱温度の上限は、pHの程度や加熱時間などの条件にもよるが、300℃以下、好ましくは290℃以下、より好ましくは280または270℃以下でありうる。
加熱温度を上記のように調整することにより、適度に低分子化を促進することができ、且つ、実施の安全性を担保しやすい。
【0039】
加熱時間の下限は、pHの程度や加熱温度などの条件にもよるが、好ましくは1分間以上、より好ましくは10分間以上、更に好ましくは20分間以上でありうる。
加熱時間の上限は、pHの程度や加熱温度などの条件にもよるが、好ましくは300分間以下、より好ましくは240分間以下、更に好ましくは210、180、又は150分間以下でありうる。
加熱時間を上記の範囲とすることにより、適度に低分子化を促進することができる。
【0040】
上記(a)~(c)のプロセスに示すように、黒液のpHを一旦下げて生成する第1の沈殿物を、改めてpHを上げて、高アルカリ性条件下に曝して高温の加熱処理をすることにより、単離リグニンの低分子化を促進することができるものと推測される。
【0041】
<工程(d):固液分離する工程>
工程(d)では、上述の工程(c)の処理によって調製できる加熱物(単離リグニン含有液)のpHを低下させて、「単離リグニン含有沈殿物」(固形分)と、「単離リグニンの分解物を含む液」(液体)とに分離する。
【0042】
上述のように(a)~(c)のプロセスで、低分子化された単離リグニンを含む液を調製しうる。工程(d)では、工程(c)で加熱処理された液から、低分子化された単離リグニンの含有物を沈殿させる一方で、リグニンモノマーおよび/またはその複合化合物を含む液を上清として分離し回収できる。上清は、様々なリグニンモノマーおよびその複合化合物に該当する化合物の2種以上の混合物でありうる。上清から、更にリグニンモノマー、リグニンオリゴマー、またはその他のリグニンモノマーの複合化合物の単一種を分離して回収してもよい。
【0043】
単離リグニン含有沈殿物にもリグニンモノマー等も混在するかもしれないが、単離リグニン含有沈殿物は、重量平均分子量(Mw)を指標とした場合、おおむね1600、1800、1900、または2000以上の大きさを有する、単離リグニンの分解物の混合組成物でありうる。すなわち、工程(d)で生成する沈殿物(単離リグニン含有沈殿物)には、この段階までに生成した、低分子化された単離リグニンのうちでも相対的には分子量の大きい単離リグニンが含まれる。
【0044】
pHを低下させるためには、工程(c)で得られる加熱物(単離リグニン含有液)に酸を添加しうる。酸は、無機酸でも有機酸でもよく、上記工程(a)にて例示されたものと同様であり、好ましくは硫酸を用いうる。pHは、好ましくは4以下、より好ましくは3以下、更に好ましくは2以下にまで低下させうる。このようにpHを低下させることにより、単離リグニンを豊富に含む沈殿物を得ることができる。
【0045】
工程(d)で生成するケーキ状の沈殿物は、さらに脱水及び洗浄してもよい。洗浄は洗浄ろ液の電気伝導度が0.2S/m以下になるまで行うことが望ましい。単離リグニン含有沈殿物を脱水・洗浄するための装置としては、工程(a)と同様にフィルタープレス、ドラムプレス、遠心脱水装置、吸引濾過装置等を使用することができる。単離リグニン含有沈殿物の洗浄に使用される水は、工程(a)または(b)で洗浄に使用する水と同様の水を用いうる。洗浄水のpHは、好ましくはpH6~8でありうる。
【0046】
工程(d)で得られる単離リグニン含有沈殿物は、有機溶媒を添加して溶解させ、不純物である不溶物を分離することによって精製してもよい。添加する有機溶媒としては、糖類の非溶媒または貧溶媒が好適であり、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、2-メトキシルエタノール、ブタノールなどを含むアルコール類、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフランなどを含むエーテル類、アセトンやメチルエチルケトンなどを含むケトン類、アセトニトリルなどを含むニトリル類、ピリジンなどを含むアミン類、ホルムアミドなどを含むアミド類、酢酸エチル、酢酸メチルなどを含むエステル類、ヘキサンなどを含む脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン等を含む芳香族炭化水素などのうち、一種類または複数種を混合したもの、あるいは一種類または複数種を混合し、水を加えたものを用いうる。上記のうちでも、アセトンが好適でありうる。懸濁液中の不溶物を固液分離する方法としては、フィルタープレス、ドラムプレス、遠心脱水装置、吸引濾過装等を使用しうる。
【0047】
本発明のいくつかの実施形態により得られる単離リグニン、並びにリグニンモノマー及びその複合化合物は、低分子化が進んでおり、熱硬化性樹脂、分散剤、接着剤などの材料または原料として好適に利用しうる。フェノール樹脂原料やエポキシ樹脂原料としての利用もしやすいであろう。
【実施例0048】
以下に実施例を挙げて本発明について具体的に説明するが、本発明の技術的範囲が下記の実施例に限定されるものではない。
【0049】
[実施例1]
<1.工程(a):粗リグニンの作製>
下記のようにして、製紙工場のクラフトパルプ製造におけるクラフト蒸解から得られた黒液を用いて、下記方法で粗精製リグニン含有物(第1の沈殿物として)を調製した。
【0050】
<粗精製リグニンの調整>
製紙工場の針葉樹クラフトパルプ製造におけるクラフト蒸解から得られた黒液160L(pH13.3)を、容量300Lの反応槽に仕込んで60℃に加温した。次に炭酸ガスを1分間当たり0.03kgの速度でpHが9.8になるまで反応槽へ導入した。沈殿したリグニン(リグニン沈殿物(a1))は、フィルタープレス(Lab Pressure Fillter VPA 04, Metso社製)に供して脱水した(リグニン沈殿物(a2))。フィルタークロスはポリプロピレン製平織のP28(薮田産業製、透気度1.0cm3/cm2/秒)を使用した。得られたリグニン沈殿物(a2)は13.4kg(ドライ換算で4.6kg)であった。
【0051】
上記の24時間後に同じ製紙工場から採取した黒液120L(固形分16.1%)を、同じ処理を実施して、更にリグニン沈殿物(a2)9.5kg(ドライ換算3.2kg)を調製した。
【0052】
得られたケーキ状のリグニン沈殿物(a2)(合計22.9kg(ドライ換算7.8kg))に水30.5kgを添加し、反応槽内で攪拌して50℃に調整しながら懸濁した。次に炭酸ナトリウム(試薬特級、和光純薬(株))を2.2kg添加し溶解させた。得られた懸濁液(固形分濃度15%)に送液ポンプを用いて0.1kg/分の添加速度で硫酸(試薬特級、和光純薬(株))を添加した。この時、懸濁液のpHをモニターしつつpHが2.5になったところで硫酸の添加を停止した。硫酸の添加量は4.0kgであった。その後、攪拌を1時間継続し、リグニンを沈殿させた(リグニン沈殿物(a3))。
【0053】
得られたケーキ状のリグニン沈殿物(a3)を、フィルタープレス(Lab Pressure Fillter VPA 04, Metso社製)に供して脱水した(リグニン沈殿物(a4))。フィルタークロスはポリプロピレン製平織のP28(薮田産業製、透気度1.0cm3/cm2/秒)を使用した。次にフィルタープレス内に脱水されたケーキ状のリグニン沈殿物(a4)を保持させたままで工業用水(pH7.2)を通水することで洗浄を実施した。洗浄の終点は洗浄ろ液の電気伝導度が0.5S/m以下になる点とした。電気伝導度およびpHは、ポータブル型pH・ORP・電気伝導率メータD-74(HORIBA製)で測定した。洗浄の終点に至ったリグニンをリグニン沈殿物(a5)として得た。
【0054】
次にフィルタープレスのろ室を7.5barに加圧して圧搾、引き続いてろ室に空気を導入してリグニン沈殿物(a5)から水分を可能な限り除去して、粗精製リグニン含有物9.6kg(ドライ換算4.6kg)を得た。
【0055】
<2.工程(b):アルカリ水の添加、リスラリー>
粗精製リグニン含有物1gに、水酸化ナトリウム1gと水を加えて10mlとした。スターラーで撹拌し、リグニンを溶解させ、アルカリ液を得た。pHは13.2であった。
【0056】
<3.工程(c):加熱処理>
オートクレーブにて、上記工程(b)にてリグニンを溶解させて得たアルカリ液を250℃に加熱し、2時間保持した。
【0057】
<4.工程(d):酸の添加>
加熱処理したアルカリ液に、pH2となるまで硫酸を添加した。その後、遠心分離を行い、沈殿物と上清に分離した。
【0058】
<5.分子量分析>
上記の沈殿物及び上清について、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)にて分子量分析を行った。
【0059】
<分子量の測定>
RI検出器で検出した分子量マーカー(ポリエチレングリコール(PEG))、及び、RI検出器とUV検出器の流路差と流速から計算される時間から、UV検出器での分子量の検量線を作成した。次に、溶離液を用いて希釈した加熱液、沈殿物、上清を、下記条件のゲル浸透クロマトグラフィーにて測定した。UV280nmの吸収スペクトルと上記検量線から得られた分子量を、加熱液、沈殿物、上清の分子量とした。
【0060】
[分子量の分析条件(ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC))]
・分析装置:高速液体クロマトグラフ LcSolution Multi-PDA(島津製作所製)
・使用カラム:HW-55F特注カラム(東ソー製)7.8mm*30cm
・溶離液:0.5M NaOH
・流速:1.0ml/min
・標準物質(リグニンモノマーの標品として):グアヤコール(Sigma社)
・検出:UV検出器(280nm)
・分子量マーカー:分子量の異なる6種類のポリエチレングリコール(PEG)を用いた。PEGはRI検出器で検出した。
【0061】
GPCによる重量平均分子量と吸収スペクトルパターンの結果から、上記工程(d)にて得られた沈殿物中には、低分子化された単離リグニンが含まれていることが確認できた。また、重量平均分子量と吸収スペクトルパターンから、上記工程(d)にて得られた上清中には、リグニンモノマーが含まれていることが確認できた。リグニンモノマーのGPC面積は比較例1の46倍であった。更に、リグニンモノマーの生成が確認できたこと及び上清の重量平均分子量の値から、上清中にはリグニンオリゴマーも含まれている蓋然性が高いと推定された。リグニンモノマー以外のGPC面積は比較例1の12倍であった。
【0062】
[実施例2]
実施例1の工程(c)における加熱温度を220℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、工程(d)にて沈殿物と上清とを得た。
【0063】
実施例1と同様に、GPCによる重量平均分子量と吸収スペクトルパターンの結果から、沈殿物中には、低分子化された単離リグニンが含まれていること、上清中には、リグニンモノマーが含まれていることが確認できた。リグニンモノマーのGPC面積は比較例1の26倍であった。更に、リグニンモノマーの生成が確認できたことと上清の重量平均分子量の値から、上清中にはリグニンオリゴマーも含まれている蓋然性が高いと推定された。リグニンモノマー以外のGPC面積は比較例1の4倍であった。
【0064】
[実施例3]
実施例1の工程(a)における製紙工場の針葉樹クラフト蒸解黒液の代わりに製紙工場の広葉樹クラフト蒸解黒液を用いたこと、および工程(c)の加熱温度を220℃で0.5時間保持に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、工程(d)にて沈殿物と上清とを得た。
【0065】
実施例1と同様に、GPCによる重量平均分子量と吸収スペクトルパターンの結果から、沈殿物中には、低分子化された単離リグニンが含まれていること、上清中には、リグニンモノマーが含まれていることが確認できた。リグニンモノマーのGPC面積は比較例4の14倍であった。更に、リグニンモノマーの生成が確認できたことと上清の重量平均分子量の値から、上清中にはリグニンオリゴマーも含まれている蓋然性が高いと推定された。リグニンモノマー以外のGPC面積は比較例4の2倍であった。
【0066】
[実施例4]
実施例1の工程(a)における製紙工場の針葉樹クラフト蒸解黒液の代わりに製紙工場の広葉樹クラフト蒸解黒液を用いたこと、および工程(c)の加熱温度を220℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、工程(d)にて沈殿物と上清とを得た。
【0067】
実施例1と同様に、GPCによる重量平均分子量と吸収スペクトルパターンの結果から、沈殿物中には、低分子化された単離リグニンが含まれていること、上清中には、リグニンモノマーが含まれていることが確認できた。リグニンモノマーのGPC面積は比較例4の11倍であった。更に、リグニンモノマーの生成が確認できたことと上清の重量平均分子量の値から、上清中にはリグニンオリゴマーも含まれている蓋然性が高いと推定された。リグニンモノマー以外のGPC面積は比較例4の3倍であった。
【0068】
[実施例5]
実施例1の工程(a)において、製紙工場の針葉樹クラフト蒸解黒液の代わりに、針葉樹ソーダ蒸解黒液を用いたこと、および工程(c)の加熱温度を220℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、工程(d)にて沈殿物と上清とを得た。
【0069】
ソーダ蒸解は、以下のようにして行った。
<ソーダ蒸解>
スギチップ100kg(絶乾)を入れた回転式反応釜に水酸化ナトリウム25kg及びアントラキノン20gを添加した。次に回転させながら160℃に昇温して4時間反応させた。反応後に濾別してソーダ蒸解黒液を得た。黒液のpHは13.3であった。
【0070】
実施例1と同様に、GPCによる重量平均分子量と吸収スペクトルパターンの結果から、沈殿物中には、低分子化された単離リグニンが含まれていること、上清中には、リグニンモノマーが含まれていることが確認できた。リグニンモノマーのGPC面積は比較例5の15倍であった。更に、リグニンモノマーの生成が確認できたことと上清の重量平均分子量の値から、上清中にはリグニンオリゴマーも含まれている蓋然性が高いと推定された。リグニンモノマー以外のGPC面積は比較例5の3倍であった。
【0071】
[実施例6]
実施例1の工程(a)において、製紙工場の針葉樹クラフト蒸解黒液の代わりに、広葉樹ソーダ蒸解黒液を用いたこと、および工程(c)の加熱温度を220℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、工程(d)にて沈殿物と上清とを得た。
【0072】
実施例1と同様に、GPCによる重量平均分子量と吸収スペクトルパターンの結果から、沈殿物中には、低分子化された単離リグニンが含まれていること、上清中には、リグニンモノマーが含まれていることが確認できた。リグニンモノマーのGPC面積は比較例6の8倍であった。更に、リグニンモノマーの生成が確認できたことと上清の重量平均分子量の値から、上清中にはリグニンオリゴマーも含まれている蓋然性が高いと推定された。リグニンモノマー以外のGPC面積は比較例6の3倍であった。
【0073】
[比較例1]
実施例1の工程(c)において加熱処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、工程(d)にて沈殿物と上清とを得た。
実施例1と同様に、GPCの結果から、比較例1の沈殿物には、上記実施例1および2の場合よりも分子量が大きい単離リグニンが含まれることが確認された。
【0074】
[比較例2]
実施例1の工程(c)における加熱温度を170℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、工程(d)にて沈殿物と上清とを得た。
GPCの結果から、比較例2の沈殿物には、上記実施例1および2の場合よりも分子量が大きい単離リグニンが含まれることが確認された。
【0075】
[比較例3]
蒸解黒液そのものを使用して、実施例1の工程(c)における加熱温度を180℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、工程(d)にて沈殿物と上清とを得た。
GPCの結果から、工程(c)での加熱液、工程(d)にて得られた沈殿物には、実施例1および2のそれぞれの場合よりも分子量が大きい単離リグニンが含まれることが確認された。
【0076】
[比較例4]
実施例1の工程(a)において、製紙工場の針葉樹クラフト蒸解黒液の代わりに製紙工場の広葉樹クラフト蒸解黒液を用いたこと、および工程(c)の加熱処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、工程(d)にて沈殿物と上清とを得た。
GPCの結果から、比較例4の沈殿物には、上記実施例3の場合よりも分子量が大きい単離リグニンが含まれることが確認された。
【0077】
[比較例5]
実施例1の工程(a)における、製紙工場の針葉樹クラフト蒸解黒液の代わりに、針葉樹ソーダ蒸解黒液を用いたこと、および工程(c)の加熱処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、工程(d)にて沈殿物と上清とを得た。
GPCの結果から、比較例5の沈殿物には、上記実施例5の場合よりも分子量が大きい単離リグニンが含まれることが確認された。
【0078】
[比較例6]
実施例1の工程(a)における、製紙工場の針葉樹クラフト蒸解黒液の代わりに、広葉樹ソーダ蒸解黒液を用いたこと、および工程(c)の加熱処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、工程(d)にて沈殿物と上清とを得た。
GPCの結果から、比較例6の沈殿物には、上記実施例6の場合よりも分子量が大きい単離リグニンが含まれることが確認された。
【0079】
下記表1に実施例1~6の結果を、下記表2に比較例1~6の結果を、それぞれ示す。
【0080】
【0081】