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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022101154
(43)【公開日】2022-07-06
(54)【発明の名称】流体制御弁
(51)【国際特許分類】
   F16K 31/06 20060101AFI20220629BHJP
【FI】
F16K31/06 305L
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020215580
(22)【出願日】2020-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】592056908
【氏名又は名称】浜名湖電装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096998
【弁理士】
【氏名又は名称】碓氷 裕彦
(72)【発明者】
【氏名】小林 由依
(72)【発明者】
【氏名】澤谷 安奈
【テーマコード(参考)】
3H106
【Fターム(参考)】
3H106DA07
3H106DA12
3H106DA23
3H106DB02
3H106DB12
3H106DB23
3H106DB32
3H106DC02
3H106DC17
3H106DD07
3H106EE23
3H106GA15
3H106GC03
3H106KK17
3H106KK31
(57)【要約】
【課題】弁体が流体流れに抗して移動しない構成として必要磁力を軽減させ、弁体を開弁方向に付勢する付勢部材が磁気回路に悪影響を及ぼさないようにする。
【解決手段】ソレノイド部材と、弁座部材と、可動子と、弁体と付勢部材とを備える流体制御弁で、ハウジングは、コイル、ヨーク及びステータコアを保持し、内部に流体通路を形成する。弁座部材は、流体が流体通路に直接流入するのを防止する衝突部と、衝突部を回り込んで流体通路に流入する窓部とを備え、弁体は窓部を横切るようにして開閉する。可動子により流体流路の開閉を行うのではなく、可動子と別体として弁体を設け、付勢部材で弁体を付勢する。付勢部材が磁気回路内に配置されることはないため、磁気回路内に付勢部材用のスペースが不要となり磁気効率を良くすることができる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボビンに多数回巻回されたコイルと、このコイルの外周側に配置され前記コイルの励磁時に磁気回路を生成するヨークと、前記コイルの内周側に配置され前記コイルの励磁時に前記ヨークと共に磁気回路を生成するステータコアと、前記コイル、前記ヨーク及びこのステータコアを保持し、内部に流体通路を形成する筒形状のハウジングとを備えるソレノイド部材と、
前記ハウジングの前記流体通路の上流側に配置され、流体が前記流体通路に直接流入するのを防止する衝突部と、流体がこの衝突部を回り込んで前記流体通路に流入するのを許容する窓部とを備える弁座部材と、
前記ハウジングの前記流体通路内に前記ステータコアと磁気ギャップを介して移動可能に配置され、内部を流体が流通可能な筒形状であり、前記コイルの励磁時に前記流体通路内の流体流れ上流側に移動する可動子と、
前記ハウジングの前記流体通路内でこの可動子の流体流れ上流側に、前記可動子と当接可能であって前記流体通路内を移動可能に配置され、内部を流体が流通可能な筒形状であり、前記コイルの励磁時に前記可動子の移動を受けて流体流れ上流側に移動して前記弁座部材の前記窓部を開閉する弁体と、
前記ハウジングの前記流体通路内にこの弁体の外周側であって前記弁体を前記可動子側に付勢する部位に配置され、前記コイルの非励磁時に前記弁体を前記弁座部材の前記窓部の開閉を反転させる方向に移動させる付勢部材と、を
備えることを特徴とする流体制御弁。
【請求項2】
前記弁体は、前記コイルの励磁時に前記可動子の移動を受けて流体流れ上流側に移動して前記弁座部材の前記窓部を塞ぎ、
前記付勢部材は、前記コイルの非励磁時に前記弁体を前記弁座部材の前記窓部が開く方向に移動させる
ことを特徴とする請求項1記載の流体制御弁。
【請求項3】
前記弁体は、前記コイルの励磁時に前記可動子の移動を受けて流体流れ上流側に移動して前記弁座部材の前記窓部を開き、
前記付勢部材は、前記コイルの非励磁時に前記弁体を前記弁座部材の前記窓部を閉じる方向に移動させる
ことを特徴とする請求項1記載の流体制御弁。
【請求項4】
前記弁座部材、前記弁体、前記ハウジングは樹脂材料製であり、
前記付勢部材は、その一端を前記弁体に係止され他端を前記弁座部材に係止される状態で、前記ハウジング内に配置され、
前記付勢部材は、前記コイルの励磁時の磁気回路外に配置される
ことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の流体制御弁。
【請求項5】
前記弁体のうち流体流れ下流側部位には、前記弁体の外周に存在する流体を前記弁体の内部に流通させる流通溝が形成されている
ことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の流体制御弁。
【請求項6】
前記ハウジングの前記流体通路の流体流れ上流側に配設され、流体の流入通路と、前記弁座部材を収容する弁座部材室とを有する入口ポートを
備えることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の流体制御弁。
【請求項7】
前記ハウジングの前記流体通路の流体流れ下流側に配設され流体の流出通路を形成する出口ポートを備え、
前記可動子の流体流れ下流側の移動はこの出口ポートにより規制される
ことを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の流体制御弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は流体流路の流通遮断を切り替える流体制御弁に関する。例えば、エンジンからエンジン冷却水をヒータコアに供給する流路の開閉切り替えに用いることが可能である。
【背景技術】
【0002】
エンジン冷却水の流路のオンオフ切り替えを行う流体制御弁としては、可動子が流体流路の導通遮断を行う弁体を兼ねている若しくは可動子と弁体が合体しているのが通常である。また、軸流式バルブの場合は、弁体が流体流路を遮断する際には、流体流れに抗して移動するのが通常である。
【0003】
特許文献1では、弁体が直接流体流れに抗して移動するのではなく、流体流路の中にバルブシートを配置し、弁体をそのバルブシートに当接させることが記載されている。そして、流体流れが弁体の移動に直接作用しない結果、弁体の移動不良を防ぐためのバネを配置して、そのバネの付勢力を弁体に付与している。
【0004】
しかしながら、特許文献1記載の技術は、可動子が弁体を兼ねたり可動子と弁体が合体したりしているので、弁体は磁気回路の中に配置されることとなる。そのため、磁気回路の内部にバネを挿入し、かつ、バネの作動を許容する空間が必要となる。このような空間は磁気回路本来の目的には不要であるため、空間により磁気効率が悪化することとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】ドイツ特許DE102016112406B4号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、弁体が直接流体流れに抗して移動するのではない構成として、閉弁時に必要な磁力を軽減させることを前提としている。その上で、弁体を開弁方向に付勢する付勢部材を用い、その付勢部材が磁気回路に悪影響を及ぼさないようにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1は、ソレノイド部材と、弁座部材と、可動子と、弁体と付勢部材とを備える流体制御弁である。ソレノイド部材は、ボビンに多数回巻回されたコイルと、このコイルの外周側に配置されコイルの励磁時に磁気回路を生成するヨークと、コイルの内周側に配置されコイルの励磁時にヨークと共に磁気回路を生成するステータコアと、ハウジングとを備えている。そして、ハウジングは、コイル、ヨーク及びこのステータコアを保持しており、内部に流体通路を形成する筒形状である。
【0008】
弁座部材は、ハウジングの流体通路の上流側に配置されている。また、弁座部材は、流体が流体通路に直接流入するのを防止する衝突部と、流体がこの衝突部を回り込んで流体通路に流入するのを許容する窓部とを備えている。可動子は、ハウジングの流体通路内にステータコアと磁気ギャップを介して移動可能に配置されている。そして、内部を流体が流通可能な筒形状であり、コイルの励磁時に流体通路内の流体流れ上流側に移動することができる。
【0009】
弁体は、ハウジングの流体通路内でこの可動子の流体流れ上流側に、可動子と当接可能であって流体通路内を移動可能に配置されている。この弁体は、内部を流体が流通可能な筒形状であり、コイルの励磁時に可動子の移動を受けて流体流れ上流側に移動して弁座部材の窓部を開閉するよう作動する。付勢部材は、ハウジングの流体通路内にこの弁体の外周側であって弁体を可動子側に付勢する部位に配置されている。この付勢部材は、コイルの非励磁時に弁体を弁座部材の窓部の開閉が反転する方向に移動させるものである。
【0010】
本開示の第1では、可動子により流体流路の開閉を行うのではなく、可動子と別体として弁体を設けている。そして、弁体を可動子に固定するのではなく、単に当接可能に配置しているのみであるので、圧入やカシメ等の固定に必要な工数を増やすことはない。
【0011】
弁座部材には、流体が流体通路に直接流入するのを防止する衝突部が設けられているので、弁体を開閉する方向に移動させる可動子の移動に必要な磁力を軽減することができる。特に、弁体の挙動は、コイルの励磁時に可動子の移動を受けて流体流れ上流側に移動して弁座部材の窓部を開閉作動するものであるので、流体流れを横切るような挙動である。そのため、流体の圧力の影響を効果的に防ぐことが出来る。
【0012】
また、付勢部材はハウジングの流体通路内にこの弁体の外周側であって弁体を可動子側に付勢する部位に配置されているので、磁気回路内に付勢部材が入ることもなく、付勢部材のスペースにより磁気効率を悪化させることを、効果的に防ぐことができる。加えて、付勢部材は、流体流れの主流と弁体により隔離されているので、付勢部材が流体流れの抵抗となることもない。
【0013】
本開示の第2では、コイルの励磁時に可動子の移動を受けて流体流れ上流側に移動して窓部を塞ぎ、コイルの非励磁時には窓部が開く常開弁としている。また、本開示の第3は、コイルの励磁時に窓部を開き、コイルの非励磁時には窓部が閉じる常閉弁としている。このように、本開示は用途に応じ、常開弁としても常閉弁としても利用可能である。
【0014】
本開示の第4では、弁座部材、弁体、ハウジングは樹脂材料製としている。そして、付勢部材は、その一端を弁体に係止され他端を弁座部材に係止される状態で、ハウジング内に配置している。本開示の第4によれば、付勢部材は、コイルの励磁時の磁気回路外に配置されるので、上述の付勢部材による磁気効率悪化を、一層効果的に防ぐことができる。
【0015】
本開示の第5は、弁体のうち流体流れ下流側部位に、弁体の外周に存在する流体を弁体の内部に流通させる流通溝を形成している。弁体と弁座部材とのクリアランスから弁体の外周に流入した流体を、この流通溝より流体流れの主流側に戻すことができる。
【0016】
本開示の第6は、ハウジングの流体通路の流体流れ上流側に入口ポートを配設している。この入口ポートには、流体の流入通路と、弁座部材を収容する弁座部材室とが形成されている。弁座部材室により、流体が弁座部材の衝突部を良好に回り込んで窓部に流入するようガイドすることが出来る。
【0017】
本開示の第7は、ハウジングの流体通路の流体流れ下流側に配設され流体の流出通路を形成する出口ポートを備えている。この出口ポートにより、可動子の流体流れ下流側の移動を規制することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本開示の流体制御弁が用いられるエンジン冷却水システムを示す構成図である。
図2】本開示の流体制御弁の断面図である。
図3図2図示流量制御弁の閉弁状態を示す断面図である。
図4図2図示弁体の斜視図である。
図5図2図示弁座部材の斜視図である。
図6】本開示の流体制御弁の他の例の断面図である。
図7図6図示流量制御弁の開弁状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本開示の流体制御弁がエンジン10からのエンジン冷却水の流路の開閉を行う冷却水バルブ100として用いられた際のエンジン冷却水システムを示している。冷却水流路は、ラジエータ11側に流れるラジエータ側通路12と、ヒータコア13側に流れるヒータ側流路14に分岐する。分岐したラジエータ側流路12とヒータ側流路14はサーモスタット15の部位で合流し、エンジン10に戻る。このエンジン冷却水の流れはウォータポンプ16により作られる。
【0020】
ラジエータは、エンジン冷却水の放熱を行うもので、自動車走行時の走行風が当たるよう、エンジンルーム内の前方位置に配置される。ヒータコアは車室内の暖房を行うもので、図示しない冷房装置と共にエアコンユニット内に配置される。
【0021】
エンジン10の始動と共にウォータポンプ16が作動を開始し、エンジン冷却水の循環が始まるが、冷間時にはサーモスタット15がラジエータ側流路12を閉じているので、ラジエータ11での放熱は行われない。この状態で、エンジン10の早期暖機を図る際には、冷却水バルブ100がヒータ側流路14も閉じ、エンジン冷却水をエンジン10の内部のみで循環させる。
【0022】
エンジン冷却水の温度が60度程度まで上昇すると、サーモスタット15がラジエータ側流路12を開き始めて、ラジエータ11をエンジン冷却水が流通出来るようにする。サーモスタット15が全開となるのは80度程度である。これにより、エンジン10が高温になるのを防止する。このエンジン冷却水の温度が上昇した際の冷却水バルブ100の挙動は、エアコンユニットを制御する図示しないECUからの指示に基づく。冷房運転時で室内温度を上昇させる必要がない状態や、エンジン10の早期暖機運転が必要な状態では、閉弁状態となり、ヒータ側流路14を閉じる。それ以外は開弁状態となって、ヒータコア13に温水を供給する。
【0023】
図2は、冷却水バルブ100として用いる流体制御弁の開弁状態の断面図である。101はポリフェニレンサルファイド(PPS)等の樹脂材料製のボビンで、このボビン101にエナメル被覆銅線が多数回巻回されてコイル102が形成される。
【0024】
コイル102の外周側には、コイル102の励磁時に磁気回路を形成するヨーク103が配置されている。ヨーク103は鉄等の磁性材料製である。コイル102の内周側にも鉄等の磁性材料製のステータコア104が配置されている。ステータコア104は、ヨーク103と共にコイル102の励磁時に磁気回路を形成する部材である。
【0025】
105は、ステータコア104と磁気ギャップ106を介して配置される可動子で、この可動子105も鉄等の磁性材料製である。ボビン101及びヨーク103の内周にはステンレス製のスリーブ107が配置されており、可動子105はこのスリーブ107に沿って摺動する。可動子105は内径が14ミリメートル程度の円筒形状をしており、可動子内部流路105bをエンジン冷却水が流通する。
【0026】
上述のボビン101、コイル102、ヨーク103、ステータコア104やスリーブ107は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等の樹脂材料製のハウジング110により保持されている。ハウジング110は、直径が5センチメートル程度で長さが6センチメートル程度の円筒形状をしており、内部にエンジン冷却水が流通する流体通路を形成している。上記可動子105はこのハウジング110の流体通路内に配置されることとなる。
【0027】
ハウジング110の流体通路内には、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等の樹脂材料製の弁体120も配置されている。弁体120は、図4に示すように、中間にフランジ部121を外方に突出形成した円筒形状をしている。円筒形状の内部は、可動子105と同じく、エンジン冷却水が流通する。そして、フランジ部121よりエンジン冷却水流れの下流側の下流部122の弁体下流内部流路122aでは、内径は14ミリメートル程度であって、可動子105の内径と同様である。上流部123の弁体上流内部流路123aでは、その内径が下流部122に向けて徐々に狭まる形状である。
【0028】
弁体120は、下流部122の最も下流側に弁体120外周側のエンジン冷却水と内周側のエンジン冷却水とを流通可能とする流通溝124が周方向に等間隔離れて複数形成されている。また、弁体120の下流端125は可動子105の上流端105aと当接している。
【0029】
ハウジング110の上流側開口端111には弁座部材130が配設されている。弁座部材130は中間に弁座部材フランジ131を形成しており、この弁座部材フランジ131がハウジング110の上流側開口端111と当接する。弁座部材130の上流側には、エンジン冷却水がハウジング110の流体通路、より具体的には弁体120の上流部123の弁体上流内部流路123aに直接流入するのを防止する衝突部132が形成されている。衝突部132は直径が26ミリメートル程度の円盤形状をしており、後述する入口ポート140の流路内径より大きくなっている。
【0030】
衝突部132は2本の支柱133により弁座部材フランジ131と連結している。そして、衝突部132と弁座部材フランジ131との間は、支柱133が存在する部分を除いて窓部134が形成されている。衝突部132を回り込んだエンジン冷却水はこの窓部134より、弁体120の上流部123の内部流路に流入する。窓部134は、その窓部134を通過するエンジン冷却水に大きな流通抵抗を与えないよう、比較的大きく形成され、図2における左右方向の幅が2~3ミリメートル程度となっている。
【0031】
150は付勢部材で、耐食性を考慮してステンレス製であり、コイル状に巻かれている。付勢部材150の一端151は、弁座部材130の弁座部材フランジ131に当接している。弁座部材130の弁座部材フランジ131の下流側は円筒形状となって、付勢部材150の一端151を保持するガイド135として機能している。付勢部材150の他端152は、弁体120のフランジ部121と当接している。付勢部材150は、弁座部材フランジ131とフランジ部121に挟持されて圧縮され、弁体120を可動子105側に押し付ける付勢力を発生する。
【0032】
入口ポート140も弁座部材130と共に、ハウジング110の上流側開口端111に配設されている。この入口ポート140の上流側はエンジン冷却水の流入通路141を形成している。流入通路141の内径は、15ミリメートル程度で、可動子105や弁体120の下流部122内径(14ミリメートル程度)よりやや大きい。入口ポート140の上流側端部には、ヒータ側流路14をなすホースの抜け止めを行う入口側係止部142が外周方向に突出形成されている。
【0033】
入口ポート140の下流側には弁座部材130の衝突部132を収納する弁座部材室143が形成されている。弁座部材室143は流路断面積を大きくして、流入通路141から流入したエンジン冷却水が衝突部を回り込んで窓部に流入するのをガイドしている。換言すれば、弁座部材室143を設けることで、窓部134に向かうエンジン冷却水の流通抵抗が過大となるのを防いでいる。この入口ポート140も、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等の樹脂材料でできている。
【0034】
ハウジング110の下流側開口端112には、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等の樹脂材料製の出口ポート160が配設されている。出口ポート160にはポートフランジ161が外周側に形成されて、ハウジング110の下流側開口端112を覆っている。出口ポート160の内部はエンジン冷却水の流出通路162をなしており、この流出通路162も内径は15ミリメートル程度である。
【0035】
出口ポート160の上流側の端面は可動子105を係止する可動子受け部163となっている。また、出口ポート160の上流側の端面には、可動子受け部163の間にポート流通溝164が形成されている。可動子105の外周とスリーブ107とのクリアランスを流れたエンジン冷却水はこのポート流通溝164より流出通路162に流れるようになっている。出口ポート160の下流側端部にも、ヒータ側流路14をなすホースの抜け止めを行う出口側係止部165が外周方向に突出形成されている。
【0036】
次に、以上の構成からなる冷却水バルブ100の組付け工程を説明する。
【0037】
まず、ボビン101上にコイル102を形成する。そして、コイル102の外周側にヨーク、内周側にステータコア104とスリーブ107を配置した状態で、ハウジング110を二次成形する。
【0038】
ハウジング110の下流側開口端112から可動子105を挿入し、その状態で下流側開口端112と出口ポート160のポートフランジ161とをレーザー溶着して、下流側開口端112を塞ぐ。また、上流側開口端111側から、弁体120、付勢部材150及び弁座部材130を組み込み、付勢部材150を圧縮した状態で、かつ、弁座部材フランジ131を上流側開口端111と入口ポート140で挟持した状態で、入口ポート140とハウジング110の上流側開口端111との間をレーザー溶着して、組付けを終了する。
【0039】
組付けられた状態では、入口ポート140と円筒形状のハウジング110と出口ポート160との軸線が一致する。そのため、全体として一つの通路部材となり、ヒータ側流路14を構成する部材として、エンジンルーム内での配置が容易となる。
【0040】
このようにして組付けられた冷却水バルブ100の作動を次に説明する。
【0041】
上述の通り、冷却水バルブ100は図示しないエアコンユニットのECUからの指令に基づいて、ヒータ側流路14の開閉を行うものである。ECUからの指令がなく、コイル102に通電されていない状態では、コイル102は非励磁である。この状態では、付勢部材150の押圧力をフランジ部121に受けて、弁体120は可動子105側に押圧される。そのため、可動子105も付勢部材150の押圧力を受けて、出口ポート160の可動子受け部163に押圧される。
【0042】
この状態が、弁体120の開弁状態で、図2に示す。入口ポート140の流入通路141から流入したエンジン冷却水は、弁座部材室143内で、弁座部材130の衝突部132を回り込み、窓部134からハウジング110の流体通路に流れ込む。具体的には、弁体120の上流部123の弁体上流内部流路123aに流入する。弁体上流内部流路123aでは、内部流路の径が徐々に狭くなっているので、この部位でエンジン冷却水の流れは整流される。整流されたエンジン冷却水は下流に流れるが、弁体120の弁体下流内部流路122a、可動子105の可動子内部流路105b及び出口ポート160の流出通路162は略同径であるため、エンジン冷却水はスムーズに流れる。
【0043】
この開弁状態では、衝突部132によりエンジン冷却水が直線的に弁体上流内部流路123aに流れ込むことが無いため、弁体120や可動子105はエンジン冷却水の流圧を受けにくい構造である。そのため、上述の通り、付勢部材150によって、開弁状態を維持している。
【0044】
この開弁状態で、エンジン冷却水は、弁体上流内部流路123a、弁体下流内部流路122a、及び可動子内部流路105bを主に流れる。そのため、付勢部材150の保持される位置はエンジン冷却水の主流から外れており、付勢部材150がエンジン冷却水の流れに影響を及ぼすこともなく、逆に、エンジン冷却水の流れが付勢部材150の付勢力に影響を及ぼすこともない。
【0045】
上述の通り、エンジン冷却水の主流は、弁体上流内部流路123a、弁体下流内部流路122a、及び可動子内部流路105bであるが、弁体120の上流部123の外周と弁座部材130のガイド135の内周との間には0.1ミリメートルを超える程度のクリアランスがある。そのため、このクリアランスにも一部のエンジン冷却水は流入する。
【0046】
しかしながら、本開示では弁体120の下流部122に流通溝124を形成しているので、クリアランスより流入したエンジン冷却水は滞留することなく、可動子内部流路105b側に流れる。同様に、可動子105の外周とスリーブ107の内周とのクリアランスに入り込んだエンジン冷却水は、ポート流通溝164より出口ポート160の流出通路162側に流れる。
【0047】
エアコンユニットのECUよりヒータ側流路14を閉じる指令があると、コイル102に通電される。その結果、コイル102が励磁し、ステータコア104と可動子105との間の磁気ギャップ106に吸引力が生じる。この磁気吸引力は付勢部材150の付勢力より大きくなるように設定してあるので、可動子105はステータコア104側に移動する。可動子105の移動と共に、弁体も付勢部材150を圧縮しつつ移動する。この弁体120の移動は、弁体120の上流部123の先端が弁座部材130の衝突部132の裏面に当接するまで継続する。
【0048】
この際、弁体120の上流部123は、弁座部材130の窓部134を横切るように移動し、窓部134の開口面積を狭め、上流部123の先端が弁座部材130の衝突部132の裏面に当接した状態では、窓部134を完全に締め切っている。従って、弁体120の移動量は、窓部134の幅以上のストロークとなっている。
【0049】
なお、弁体120の移動はエンジン冷却水の流れに抗するものではなく、移動時にエンジン冷却水の流圧もほとんど受けることは無い。また、付勢部材150の付勢力には抗することになるが、付勢部材150の付勢力は開弁状態での弁体120及び可動子105の位置が安定していればよく、エンジン冷却水の流圧に比しても小さな力である。そのため、本開示によれば、弁体120の移動に必要な磁力を軽減することができる。上述の通り、閉弁時には窓部134の幅を超える移動ストロークが必要となるが、磁力を軽減しても必要ストロークの移動は可能である。
【0050】
この状態が、弁体120の閉弁状態で、図3に示す。この状態で、弁体120の上流部123の外周と弁座部材130のガイド135の内周との間のクリアランスより僅かなエンジン冷却水は流れるが、ヒータコア13により空気を加熱するには不十分であり、エアコンユニットの制御に悪影響を及ぼすものではない。即ち、エアコンユニットとしては所定の温度に設定することができる。また、エンジン制御の観点でも不必要にエンジン冷却水を循環させるものではないので、エンジンの燃費悪化に影響を与えることはない。
【0051】
本開示では、付勢部材150は可動子105と当接しないように配置されている。そのため、この閉弁状態で、ヨーク103、可動子105及びステータコア104により形成される磁気回路に付勢部材150が位置することはない。磁気回路内に付勢部材150が存在しない結果、付勢部材150のスペースに伴う磁気効率の悪化も防ぐことができる。
【0052】
そして、本開示では付勢部材150が可動子105と当接しない構造とするために弁体120を用いているが、弁体120は樹脂材料製である。そのため、可動子105が弁体機能を兼ねることなく、別部品として弁体120を採用したとしても、重量の大幅増加をきたすことはない。
【0053】
なお、本開示の可動子105と弁体120とは、開弁状態と閉弁状態とに拘わらず常に当接している。即ち、開弁状態では付勢部材150に押圧されて、弁体120の下流端125が可動子105の上流端105aに当接している。一方、閉弁状態ではコイル102の磁力で可動子105が、可動子105の上流端105aが弁体120の下流端125に当接しつつ、付勢部材150側に移動している。そのため、鉄等の磁性材料製の可動子105と樹脂材料製の弁体120との2部品としても、両者間を圧入やカシメ等の固定手段で固定する必要がなく、追加の固定工数は不要となる。
【0054】
本開示では、可動子105と弁体120とを2部品としているので、却ってハウジング110の流体通路での移動がスムーズになっている。上述の通り、弁体120の上流部123の外周と弁座部材130のガイド135の内周との間にはクリアランスがあるので、弁体120はこのクリアランス内で多少傾く可能性がある。しかし、弁体120は可動子105とは別部品であるので、弁体120の傾きが可動子105の移動に悪影響を及ぼすことはない。同様に、可動子105がスリーブ107とのクリアランス内で傾いたとしても、弁体120の開弁動作や閉弁動作に悪影響を及ぼすことはない。
【0055】
次に、本開示の他の実施例を図6及び図7を用いて説明する。上述の実施例では、コイル102の非励磁時に弁体120が窓部134を開く常開弁であったが、図6及び図7に示すように常閉弁を用いることも可能である。
【0056】
図6はコイル102の非励磁状態を示すが、この状態では磁気ギャップ106は広く、弁体120及び可動子105は付勢部材150の付勢力によって図の右側に付勢されている。この状態で、弁体120の上流部123の最上流位置に形成されたシャッタ部128が、弁座部材130の窓部134を閉じている。
【0057】
コイル102が励磁すると、図7に示すように、可動子105は磁気ギャップ106が縮小する方向に移動する。付勢部材150の付勢力に打ち勝って可動子105及び弁体120が図の左側に変移する。この状態で、弁体120の上流部123にシャッタ部128に隣接して形成された開口部129が、弁座部材130の窓部134と連通する。その結果、入口ポート140から弁座部材室143に流入したエンジン冷却水は、窓部134と開口部129から弁体120の上流部123の弁体上流内部流路123aに流入する。
【0058】
図6及び図7の例では、弁体上流内部流路123aの内径が徐々に狭くなる形状ではないが、窓部134と開口部129から流入したエンジン冷却水は、弁体120の弁体下流内部流路122a、可動子105の可動子内部流路105b及び出口ポート160の流出通路162をスムーズに流れることは、図2及び図3の実施例に劣らない。
【0059】
以上の実施例は本開示の望ましい例であるが、本開示は種々に変更可能である。寸法や材質は要求仕様に応じて適宜変更できる。
【0060】
付勢部材150として、上記の開示ではコイルバネを用いたが、他の弾力性材料を使用することも可能である。また、上記の開示では、付勢部材150を弁体120のフランジ部121と弁座部材フランジ131とで挟持構造としたが、弁体に付勢力が加わる構造であればよい。付勢部材150をハウジング110に係止することも可能である。
【0061】
上記の開示では、衝突部132を円盤形状としたが、衝突部132はエンジン冷却水の主流流れがハウジング110の流体通路に直接流入することを防止できればよく、形状は種々に変更可能である。窓部134の形状も閉弁時に弁体120の上流部123が横切ることが出来る形状であればよく、図5図示の四角形状に限らない。支柱133の数も3本以上としても良い。
【0062】
上記の開示では、入口ポート140に弁座部材室143を形成したが、弁座部材130はエンジン冷却水の流路内にあればよい。従って、弁座部材130をハウジング110内に収納することも可能である。その場合には、弁座部材室はハウジング110内に形成される。
【0063】
図3の例では、コイル102の励磁時に弁体120が弁座部材130に当接して可動子105の移動が規制されていたが、必ずしも当接しなくてもよい。例えば、図7の例ではコイル102の励磁時であっても、弁体120は弁座部材130とは当接しておらず、弁体120及び可動子105の移動は規制されていない。
【0064】
上記の開示では、出口ポート160に可動子受け部163を形成したが、可動子105はエンジン冷却水の流れ方向下流側の移動が規制されていればよい。移動を規制する構造を出口ポート160以外に形成することも可能である。例えば、ハウジング110に移動を規制する機構を設けることも可能である。
【0065】
必要に応じ、弁体120の上流部123の先端と、弁座部材130の衝突部132の裏面との当接部位に、当接時の衝撃を緩和する緩衝材を配置するようにしても良い。ゴム等の弾性材を用いることで、併せてシール性能を向上させることができる。
【0066】
また、上述の例では本開示の流体制御弁を冷却水バルブ100として用いたが、冷却水バルブ100以外の用途に用いることは勿論可能である。用途としても、開弁状態と閉弁状態の単純なオンオフ切り替えの他に、開弁状態と閉弁状態との間をデューティ比が0%と100%との間で連続して変化するようにして、流量を可変制御するようにしても良い。
【0067】
更に、上述の例では、可動子105と弁体120とは常時当接する構造としていたが、当接可能であればよい。コイル102の非励磁時には必ずしも当接している必要はなく、コイル102の励磁時に可動子105と共に弁体120が移動できれば良い。
【符号の説明】
【0068】
100 冷却水バルブ
102 コイル
103 ヨーク
104 ステータコア
105 可動子
110 ハウジング
120 弁体
130 弁座部材
132 衝突部
134 窓部
135 ガイド
140 入口ポート
150 付勢部材
160 出口ポート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7