(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022101157
(43)【公開日】2022-07-06
(54)【発明の名称】フェライト系ステンレス鋼鋳物
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20220629BHJP
C22C 38/38 20060101ALI20220629BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20220629BHJP
C21D 6/00 20060101ALN20220629BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/38
C22C38/58
C21D6/00 102N
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020215584
(22)【出願日】2020-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】591274299
【氏名又は名称】新報国マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(72)【発明者】
【氏名】稲毛 基大
(72)【発明者】
【氏名】横溝 勇太
(72)【発明者】
【氏名】小奈 浩太郎
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高温域の腐食性ガスと溶融塩の存在する雰囲気で優れた耐腐食性を有し、さらに、優れた延性を備え、焼却炉用部品に用いることができるフェライト系ステンレス鋼鋳物を提供する。
【解決手段】本発明のフェライト系ステンレス鋼鋳物は、質量%で、C:0.08%以下、Si:1.50~3.50%、Mn:0.30~2.00%、Cr:20.00~33.00%、Nb:0.10~1.50%、及びAl:0.30~2.50%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C :0.08%以下、
Si:1.50~3.50%、
Mn:0.30~2.00%、
Cr:20.00~33.00%、
Nb:0.10~1.50%、及び
Al:0.30~2.50%
を含有し、残部がFe及び不可避的不純物であることを特徴とするフェライト系ステンレス鋼鋳物。
【請求項2】
前記Feの一部に代えて、Ni:0~10.00%を含有することを特徴とする請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼鋳物。
【請求項3】
前記Feの一部に代えて、Mo:0~5.00%を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のフェライト系ステンレス鋼鋳物。
【請求項4】
前記Feの一部に代えて、W:0~3.00%を含有することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のフェライト系ステンレス鋼鋳物。
【請求項5】
前記Feの一部に代えて、Ti:0~2.00%を含有することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のフェライト系ステンレス鋼鋳物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフェライト系ステンレス鋼鋳物に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば廃棄物焼却炉、バイオマスボイラのような、高温域で腐食ガスと溶融塩が存在するような雰囲気で用いられるノズルや熱交換器のような部品には、高い耐腐食性が求められる。
【0003】
特許文献1には、高温の腐食性燃焼ガス環境下で優れた耐食性及び高温クリープ強度を有するフェライトステンレス鋼として、質量%で、C:0.040%以下、Si:0.40~1.20%、Mn:0.01~0.50%、P:0.040%以下、S:0.030%以下、Cr:22.50~27.50%、Al:0.60~1.40%、Ti:0.10~0.90%、N:0.0500%以下、Nb:0.10~0.90%を含有し、これらの化学成分において、(Ti/48+Nb/93)-(C/12+N/14):0.004~0.025%であり、残部Fe及び不可避不純物 か ら な り 、850℃、9MPaでクリープ破断試験を実施した際の破断までのLaves相の析出増加量が0.20容量%以上であることを特徴とする高温腐食性及び高温クリープ強度に優れたフェライト系ステンレス鋼が開示されている。
【0004】
特許文献2には、高温にさらされる焼却炉の火格子材料として使用することができる、Feを主材とし、重量パーセントにおいてCを0.04~0.16、Crを24.0~31.0、Alを1~4.9、Siを0.6~4.9添加したことを特徴とする耐熱鋼が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-71829号公報
【特許文献2】特開昭55-128567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
鋳物の合金組織は、塑性加工により生じた合金組織とは異なり、鋳造時の凝固組織がそのまま残ったものである。鋳物は、鋳型に溶湯を流し込むことにより任意の形状が得られるので、塑性加工品に比べて製造が容易であるという利点がある。一方、鋳造の凝固組織は、ミクロ偏析が大きく、結晶粒が粗大である。偏析が大きいと基地(マトリックス)が腐食しやすくなり、結晶粒が大きいと粒界が腐食しやすくなるため、鋳物の耐腐食性は塑性加工品に比較して低下すると言われている。
【0007】
鋳物においては、高温域で腐食性ガスと溶融塩がともに存在する雰囲気での耐腐食性、及び焼却炉等の稼働時の加熱と冷却の繰り返し熱変形による耐応力割れに関して、なお向上の余地がある。
【0008】
本発明は、高温域の腐食性ガスと溶融塩の存在する雰囲気で優れた耐腐食性を有し、さらに、優れた延性を備え、焼却炉用部品に用いることができるフェライト系ステンレス鋼鋳物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは高温域の腐食性ガスと溶融塩の存在する雰囲気での耐腐食性、高い延性を備えたフェライト系ステンレス鋼鋳物について鋭意検討した。その結果、Si含有量を高め、さらにAl2O3の保護被膜を形成することにより高い耐腐食性が得られ、Alの添加量を調整し、NbでCを固定することにより高い延性が得られることに加え粒界腐食を抑制し耐腐食性がより向上することを知見した。
【0010】
本発明は上記の知見に基づきなされたものであって、その要旨は以下のとおりである。
【0011】
(1)質量%で、C:0.08%以下、Si:1.50~3.50%、Mn:0.30~2.00%、Cr:20.00~33.00%、Nb:0.10~1.50%、及びAl:0.30~2.50%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物であることを特徴とするフェライト系ステンレス鋼鋳物。
【0012】
(2)前記Feの一部に代えて、Ni:0~10.00%を含有することを特徴とする前記(1)のフェライト系ステンレス鋼鋳物。
【0013】
(3)前記Feの一部に代えて、Mo:0~5.00%を含有することを特徴とする前記(1)又は(2)のフェライト系ステンレス鋼鋳物。
【0014】
(4)前記Feの一部に代えて、W:0~3.00%を含有することを特徴とする前記(1)~(3)のいずれかのフェライト系ステンレス鋼鋳物。
【0015】
(5)前記Feの一部に代えて、Ti:0~2.00%を含有することを特徴とする前記(1)~(4)のいずれかのフェライト系ステンレス鋼鋳物。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高温域の腐食性ガスと溶融塩の存在する雰囲気で優れた耐腐食性を有し、かつ延性に優れた、焼却炉用部品に用いることができるフェライト系ステンレス鋼鋳物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明におけるフェライト系ステンレス鋼鋳物の化学成分について説明する。以下、含有量における「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0018】
C:0.08%以下
Cは鋼の強度の上昇に寄与するので、必要に応じて含有させてもよい。この効果は少量でも得られるが、C量を0.01%以上、又は0.02%以上とすると効果的であり、好ましい。Cの含有量が多くなると延性が低下し、さらに鋳造割れが生じやすくなる。また、Cは鋼中のCrと結合して結晶粒界にCr炭化物として析出し、基地のCr濃度が低下して高温での耐酸化性、耐腐食性の低下につながる。したがって、Cの含有量は0.08%以下、好ましくは0.06%以下、より好ましくは0.05%以下とする。本発明のフェライト系ステンレス鋼鋳物においては、Cは必須の元素ではなく、含有量は0でもよい。
【0019】
Si:1.50~3.50%
Siは耐酸化性に効果があり、とくに高温での耐酸化性、耐腐食性の向上に効果がある。耐酸化性、耐腐食性向上の効果を得るためには1.50%以上のSiが必要であり、2.00%以上が好ましく、2.50%以上がより好ましく、2.70%以上がさらの好ましい。また、Siはシグマ層の生成も促進し高温で長時間使用した場合の脆化も危惧されるため、3.50%以下にすることが必要であり、3.30%以下が好ましく、3.20%以下がより好ましく、3.00%以下がさらに好ましい。
【0020】
Mn:0.30~1.50%
Mnは、オーステナイト形成元素であり、また、脱酸剤、脱硫剤として有用な成分である。その効果を十分に得るために、Mnの含有量は0.30%以上とすることが必要であり、0.40%以上が好ましく、0.50%以上がさらに好ましい。脆化の防止や、クリープ強度、耐腐食性の低下の防止の観点から、Mnの含有量は1.50%以下とすることが必要であり、1.00%以下が好ましく、0.80%以下がさらに好ましい。
【0021】
Cr:20.00~33.00%
Crは高温強度、及び高温での耐酸化性、耐腐食性を向上する元素である。その効果を十分に得るために、Crの含有量は20.00%以上とすることが必要であり、23.00%以上が好ましく、26.00%以上がより好ましい。たとえばバイオマスボイラのような、溶融塩化物が付着するような環境下では、Crの含有量が多くなりすぎると、揮発性のCr2O2Cl2が形成され、高温での耐酸化性、耐腐食性が低下するので、Crの含有量は33.00%以下とすることが必要であり、32.00%以下が好ましく、31.00%以下がより好ましい。
【0022】
Nb:0.10~1.50%
Nbは炭化物を形成しやすく、鋼中のCを固定してCr炭化物の析出を抑制することにより、高温強度と延性の低下を防ぐことができる。この効果を得るために、含有量は0.1%以上とすることが必要であり、0.20%以上が好ましく、0.40%以上がより好ましい。含有量が1.50%を超えると効果が飽和し、クリープ強度、耐酸化性、耐腐食性が低下するので、1.50%以下とすることが必要であり、1.30%以下が好ましく、1.20%以下がより好ましい。
【0023】
本発明のフェライト系ステンレス鋼鋳物ではCr炭化物(M23C6)はほとんど析出せず、好ましくは面積率で1.0%以下、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.1%以下である。
【0024】
Al:0.30~2.50%
Alは、脱酸能の高い元素であり、製鋼の際に脱酸剤として用いられる。また、耐溶融塩腐食に強いAl2O3の保護被膜を形成することで耐腐食性を向上する。この効果を得るために、含有量は0.30%以上とすることが必要であり、0.50%以上が好ましく、0.80%以上がより好ましい。含有量が2.50%を超えると効果が飽和し、クリープ強度、耐酸化性、耐腐食性が低下するので、2.50%以下とし、2.30%以下が好ましく、2.10%以下がより好ましい。
【0025】
化学成分の残部はFe及び不可避的不純物である。ただし、Feの一部に代えて、以下に説明する元素を含有してもよい。以下に説明する元素の含有は任意であり、必須ではない。
【0026】
Ni:0~10.00%
Niは常温延性を向上する元素であり、10.00%以下の範囲で含有させてもよい。この効果は微量の含有でも得られるが、0.10%以上含有させると効果的である。
【0027】
Mo:0~5.00%
Moは耐腐食性を高める効果があり、5.00%以下の範囲で含有させてもよい。この効果は微量の含有でも得られるが、0.50%以上含有させると効果的である。
【0028】
W:0~3.00%
WはNbと同様炭化物を形成しやすく、鋼中のCを固定してCr炭化物の析出を抑制することができ、高温強度の低下を防ぐことができる元素であり、3.00%以下の範囲で含有させてもよい。この効果は微量の含有でも得られるが、0.20%以上含有させると効果的である。
【0029】
Ti:0~2.00%
TiはNbと同様炭化物を形成しやすく、鋼中のCを固定してCr炭化物の析出を抑制することができ、高温強度の低下を防ぐことができる元素であり、2.00%以下の範囲で含有させてもよい。この効果は微量の含有でも得られるが、0.10%以上含有させると効果的である。
【0030】
次に、本発明のフェライト系ステンレス鋼鋳物の製造方法について説明する。
【0031】
本発明の製造方法は、特に限定されるものではなく、常法によればよい。はじめに、上述した成分組成を有する溶湯を調整し、溶湯を鋳型に注湯し、注湯された溶湯を冷却して凝固させる。鋳型や、鋳型への溶鋼の注入装置、注入方法は特に限定されるものではなく、公知の装置、方法を用いればよい。
【0032】
本発明の化学成分を有する溶湯を鋳造することにより、特別な製法を用いることなく、鋳造ままで優れた耐腐食性、延性を有するフェライト系ステンレス鋼鋳物を得ることが可能である。
【0033】
本発明の鋳物は原則として鋳放しのまま使用されるが、必要に応じて、900~1200℃に加熱し、2~24Hr保持する溶体化処理を施すことができる。
【0034】
なお、本発明のフェライト系ステンレス鋼鋳物は、所定の形状の鋳型に鋳込んだ後に塑性加工を施さない鋼であり、熱間圧延や鍛造のような塑性加工が施された合金とは区別される。すなわち、鋳物は合金組織として鋳造したままの凝固組織が残ったものであるのに対し、塑性加工が施された合金は加工により生じた合金組織を有するものであり、その組織は大きく異なるものである。本発明の鋳物では、結晶粒の大きさ(面積円相当径)は0.2~10.0mm程度となる。
【実施例0035】
以下、実施例を用いて、本発明について詳細に説明する。
【0036】
表1に示す成分組成を有するフェライト系ステンレス鋼鋳物を作製し、腐食試験に供した。腐食試験は、作製したフェライト系ステンレス鋼鋳物から20×20×3mmの試験片を採取し、表2に示す試験条件で行い、耐腐食性を、腐食減量(mg/cm2)で評価し、70mg/cm2以下であれば耐腐食性に優れていると判断した。
【0037】
また、φ10×50Lの標点間距離を有する試験片を採取し、JIS Z2241:2011に準拠して常温における絞り値を測定することで常温延性評価し、2.5%以上であれば常温延性が優れていると判断した。
【0038】
【0039】
【0040】
本発明によれば、高温域の腐食性ガスと溶融塩の存在する雰囲気で,優れた耐腐食性を有し、かつ延性に優れた、焼却炉用部品に好適なフェライト系ステンレス鋼鋳物が得られることが確認できた。
【0041】
本発明の要件を満たさない比較例は、耐腐食性、延性の一方、又は両方が劣る結果となった。