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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022101195
(43)【公開日】2022-07-06
(54)【発明の名称】エレベータ用調速装置
(51)【国際特許分類】
   B66B 5/04 20060101AFI20220629BHJP
【FI】
B66B5/04 B
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020215629
(22)【出願日】2020-12-24
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】000112705
【氏名又は名称】フジテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100191189
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100176016
【弁理士】
【氏名又は名称】森 優
(74)【代理人】
【識別番号】100199761
【弁理士】
【氏名又は名称】福屋 好泰
(74)【代理人】
【識別番号】100182121
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 紘子
(72)【発明者】
【氏名】奥野 聖人
【テーマコード(参考)】
3F304
【Fターム(参考)】
3F304DA23
3F304DA28
(57)【要約】
【課題】安定して作動する単一の過速スイッチを備えたエレベータ用調速装置を提供する。
【解決手段】作動子140が軸心AX周りに回転されてアクチュエータ146との係合状態が解除されることにより作動する過速スイッチ140において、作動子140を、一端部に係合部154Aを有する第1バー部154と、両端部の各々に第1当接部158Aと第2当接部160Aが設けられ、第1バー部154とT字状に交差して接続された第2バー部156と、第1当接部158Aおよび第2当接部160A各々の軸心AX周りの回転をそれぞれ支持する第1回転支持部172および第2回転支持部174を含む構成とした。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
かごの昇降に伴って走行するガバナロープが掛けられ、当該ガバナロープの走行によって回転されるガバナシーブと、
前記ガバナシーブと一体的に回転する第1の回転軸と、
前記第1の回転軸の回転に伴い当該第1の回転軸の周りに公転しながら遠心力によって揺動する第1の振子と、
前記第1の回転軸と同軸上に設けられた第2の回転軸と、
前記第2の回転軸の回転に伴い当該第2の回転軸の周りに公転しながら遠心力によって揺動する第2の振子と、
前記第1の回転軸の回転を前記第2の回転軸に対し、前記かごが上昇して第1の向きに回転する前記第1の回転軸の回転は遮断し、前記かごが下降して前記第1の向きとは反対の第2の向きに回転する前記第1の回転軸の回転は伝達するクラッチと、
アクチュエータと当該アクチュエータと係合する作動子とを含み、前記作動子の前記アクチュエータとの係合状態が解除されることによって作動する過速スイッチと、
を有し、
前記作動子は、
一端部に前記アクチュエータと係合する係合部が形成された第1バー部と、
両端部の各々に、第1当接部と第2当接部がそれぞれ設けられ、前記第1バー部の他端部に当該第1バー部とT字状に交差する姿勢で接続された第2バー部と、
前記第1当接部の、前記第1バー部の長さ方向中間部で当該第1バー部と交差する軸心周りの回転を支持する第1回転支持部と、
前記第2当接部の、前記軸心周りの回転を支持する第2回転支持部と、
を含み、
前記第1の向きに回転する前記ガバナシーブの回転速度が第1の過速度に達すると、前記第1回転支持部で回転支持された前記第1当接部が前記第1の振子によって蹴られて、前記軸心周りに回転し、前記第2バー部を介して前記第1バー部が前記軸心周りに回転することにより前記係合部の前記アクチュエータとの係合が解除され、
前記第2の向きに回転する前記ガバナシーブの回転速度が前記第1の過速度よりも遅い第2の過速度に達すると、前記第2回転支持部で回転支持された前記第2当接部が前記第2の振子によって蹴られて、前記軸心周りに回転し、前記第2バー部を介して前記第1バー部が前記軸心周りに回転することにより前記係合部の前記アクチュエータとの係合が解除されることを特徴とするエレベータ用調速装置。
【請求項2】
前記第1のバー部は、前記軸心周りに回転支持されており、当該第1バー部の回転支持部が、前記第1回転支持部と前記第2回転支持部のいずれか一方と共通することを特徴とする請求項1に記載のエレベータ用調速装置。
【請求項3】
前記第1回転支持部は、前記軸心と同軸上に設けられた第1のシャフトを含み、
前記第2回転支持部は、前記第1のシャフトとは別個に、前記軸心と同軸上に設けられた第2のシャフトを含むことを特徴とする請求項1または2に記載のエレベータ用調速装置。
【請求項4】
前記作動子は、前記軸心と同軸上に設けられた単一のシャフトを含み、
前記第1回転支持部と前記第2回転支持部は、当該単一のシャフトを共有し、前記第1当接部と前記第2当接部の各々の前記軸心周りの回転を支持することを特徴とする請求項1または2に記載のエレベータ用調速装置。
【請求項5】
前記第1当接部と前記第2当接部の各々は、前記第2バー部に前記軸心と交差する姿勢で設けられた第1の棒体と第2の棒体の先端部にそれぞれ形成された半球部であり、
前記ガバナシーブの回転速度が前記第1の過速度に達すると、前記第1の棒体の前記半球部が、前記第1の振子によって蹴られ、
前記第2の向きに回転する前記ガバナシーブの回転速度が前記第2の過速度に達すると、前記第2の棒体の前記半球部が、前記第2の振子によって蹴られることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のエレベータ用調速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータ用調速装置に関し、特に、かごの上昇速度と下降速度が異なるエレベータに用いられる調速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータにおいてかごの上昇速度と下降速度とは通常等しいが、例えば、近年出現したいわゆる超高層ビルに設置される高速タイプのエレベータでは、下降中において乗客に生じる耳詰まりに起因する不快感の発生を抑制すべく、上昇速度よりも下降速度の方を遅くしている。
【0003】
このようなエレベータでは、上昇時の定格速度や下降時の定格速度を超える異常速度を検知して、かごを昇降させる駆動源である電動機を停止させるため、上昇時と下降時の各々において設定された、異なる大きさの過速度を検知する調速装置が設置される(特許文献1、特許文献2)。当該調速装置は、また、下降時に電動機を停止させた後も、かごがさらに増速して下降する場合に、かごに設けられた非常止め装置を作動させるための機構を有している。
【0004】
特許文献1において実施形態2として記載された調速装置(特許文献1の段落[0068]~[0075]、図9)は、ガバナロープが掛けられたガバナシーブと一体的に回転する第1の回転軸を有する第1の調速機と、同軸上に円板が一体的に設けられた第2の回転軸を有する第2の調速機とを備えている。なお、第1の調速機と第2の調速機は、いずれもディスク形の調速機である。
【0005】
前記ガバナシーブには、一対の振子(第1の振子)が取り付けられており、前記円板にも一対の振子(第2の振子)が取り付けられている。
【0006】
また、前記第1の回転軸の回転は、クラッチ機構を介して、前記第2の回転軸へ断続される構成とされていて、当該クラッチ機構は、かごが上昇して、ガバナシーブ、ひいては第1の回転軸が第1の向きに回転するときは、第1の回転軸の回転が第2の回転軸へ伝達されず、かごが下降して、第1の回転軸が、第1の向きとは反対の第2の向きに回転するときには、第1の回転軸の回転が第2の回転軸へ伝達されるように設けられている。
【0007】
そして、かごが上昇中は、前記ガバナシーブの軸心を中心として公転する前記第1の振子が遠心力により前記軸心から遠ざかる向きに変位し、第1の過速度に対応する位置まで変位すると、第1の振子は、第1の過速スイッチの作動子を蹴る。第1の過速スイッチによって第1の過速度が検知されると、かごを昇降させる電動機への給電が遮断されて、かごが停止される。
【0008】
一方、かごが下降中は、前記ガバナシーブの回転は、前記第1の回転軸、前記クラッチ機構、および前記第2の回転軸を介して前記円板に伝達され、当該円板の軸心を中心として公転する前記第2の振子が遠心力により前記軸心から遠ざかる向きに変位し、前記第1の過速度よりも小さい第2の過速度に対応する位置まで変位すると、第2の振子は、第2の過速スイッチの作動子を蹴る。第2の過速スイッチによって第2の過速度が検知されると、前記電動機への給電が遮断されて、かごが停止される。
【0009】
特許文献1に記載された調速装置によれば、かごの上昇中に第1の過速度が検知されるか、かごの下降中に第1の過速度よりも遅い第2の過速度が検知されると、前記電動機への給電が遮断されて、かごが停止されることとなる。
【0010】
特許文献1の調速装置では、過速度を検知して電動機への給電を遮断するといった共通の目的のために、第1の過速スイッチと第2の過速スイッチの2個のスイッチが設けられている。これに対し、特許文献2に記載された調速装置は、単一の過速スイッチで、第1の過速度と第2の過速度を検知する工夫がなされている。
【0011】
特許文献2における前記工夫は、過速スイッチにおける作動子の形態による(特許文献2の段落[0064]―[0081]、図3図7図8)。特許文献2の作動子は、細長い長方形をした横板部と当該横板部の長さ方向真ん中に起立状態で接合された先端が先細り形状をした縦板部とからなるT字部材を含む。
【0012】
横板部の両端部の各々には、その厚み方向に雌ネジが形成されている。雌ネジの各々には、それぞれ、第1ボルト、第2ボルトが螺入されている。縦板部の長さ方向の中間部には、その厚み方向に軸孔が開設されていて、当該軸孔には、ピンが挿入されている。
T字部材は、逆T字となる姿勢で、前記ピンに支持され、当該ピンの軸心を中心として回転可能な状態で設けられている。
【0013】
上記の形態をした特許文献2に記載の作動子は、第1ボルトの下端が第1の調速機の第1の振子に蹴られる第1当接部となり、第2ボルトの下端が第2の調速機の第2の振子に蹴られる第2当接部となる。
【0014】
特許文献2の調速装置では、かごの上昇中にガバナシーブの回転速度が第1の過速度に達すると第1の振子によって第1当接部が蹴られ、かごの下降中にガバナシーブの回転速度が第1の過速度に達すると第2の振子によって第2当接部が蹴られて過速スイッチが作動する構成とされている。すなわち、特許文献2の調速装置によれば、第1の過速度と第2の過速度の二つの過速度を単一の過速スイッチで検知することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2000-327241号公報
【特許文献2】特開2018-203380号公報(特許第6658673号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
調速装置は、また、下降時に電動機を停止させた後も、かごがさらに増速して下降する場合に、かごに設けられた非常止め装置を作動させるための機構を有している。一般的には、かごが下降中に、ガバナシーブの回転速度が、第2の過速度を超える第3の過速度に達すると、第2の振子が、調速装置に設けられた可動掴みを支持しているトリップレバーを蹴ることを契機として、当該可動掴みが前記ガバナロープを拘束し、非常止め装置が作動されることとなる。この場合、ガバナシーブの1回転に付き2回の割合でトリップレバーが蹴られ、非常止め装置が作動する機会が到来することとなる。すなわち、ガバナシーブが半周する毎に、非常止め装置が作動する機会が到来する。
【0017】
ところで、ガバナシーブの回転速度が第3の過速度に到達した後、非常止め装置が作動するまでの時間の短縮要請がある。すなわち、ガバナシーブの1回転当たりの非常止め装置が作動する機会を増大する要請がある。
【0018】
そのため、例えば、後述する実施形態に記載の機構(以下、「非常止め作動機構」と言う)が設けられる。非常止め作動機構は、第1の調速機と第2の調速機の間に設けられる。当該非常止め作動機構が設けられる分、上記T字部材における第1当接部(第1ボルト)と第2当接部(第2ボルト)の間隔が大きくなり、ひいては、横板部の長さが長くなってしまう。
【0019】
この場合、第1当接部(第2当接部)が第1の振子(第2の振子)で、蹴られると、横板部がその厚み方向に撓む等して、第1当接部(第2当接部)が上に跳ね上がる等し、最初の1回の蹴りによっては、T字部材が前記ピン周りに回転せず、過速スイッチが作動しないといった現象が生じている。第1当接部(第2当接部)が第1の振子(第2の振子)で複数回蹴られると、T字部材が回転し、最終的に過速スイッチは、作動するものの、当該作動のタイミングにばらつきが生じ不安定なものとなってしまう。
【0020】
本発明は、上記した課題に鑑み、単一の過速スイッチでありながら、ガバナシーブの回転速度が第1の過速度または第2の過速度に到達した際に、安定して作動する過速スイッチを備えたエレベータ用調速装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記の目的を達成するため、本発明に係るエレベータ用調速装置は、かごの昇降に伴って走行するガバナロープが掛けられ、当該ガバナロープの走行によって回転されるガバナシーブと、前記ガバナシーブと一体的に回転する第1の回転軸と、前記第1の回転軸の回転に伴い当該第1の回転軸の周りに公転しながら遠心力によって揺動する第1の振子と、前記第1の回転軸と同軸上に設けられた第2の回転軸と、前記第2の回転軸の回転に伴い当該第2の回転軸の周りに公転しながら遠心力によって揺動する第2の振子と、前記第1の回転軸の回転を前記第2の回転軸に対し、前記かごが上昇して第1の向きに回転する前記第1の回転軸の回転は遮断し、前記かごが下降して前記第1の向きとは反対の第2の向きに回転する前記第1の回転軸の回転は伝達するクラッチと、アクチュエータと当該アクチュエータと係合する作動子とを含み、前記作動子の前記アクチュエータとの係合状態が解除されることによって作動する過速スイッチと、を有し、前記作動子は、一端部に前記アクチュエータと係合する係合部が形成された第1バー部と、両端部の各々に、第1当接部と第2当接部がそれぞれ設けられ、前記第1バー部の他端部に当該第1バー部とT字状に交差する姿勢で接続された第2バー部と、前記第1当接部の、前記第1バー部の長さ方向中間部で当該第1バー部と交差する軸心周りの回転を支持する第1回転支持部と、前記第2当接部の、前記軸心周りの回転を支持する第2回転支持部と、を含み、前記第1の向きに回転する前記ガバナシーブの回転速度が第1の過速度に達すると、前記第1回転支持部で回転支持された前記第1当接部が前記第1の振子によって蹴られて、前記軸心周りに回転し、前記第2バー部を介して前記第1バー部が前記軸心周りに回転することにより前記係合部の前記アクチュエータとの係合が解除され、前記第2の向きに回転する前記ガバナシーブの回転速度が前記第1の過速度よりも遅い第2の過速度に達すると、前記第2回転支持部で回転支持された前記第2当接部が前記第2の振子によって蹴られて、前記軸心周りに回転し、前記第2バー部を介して前記第1バー部が前記軸心周りに回転することにより前記係合部の前記アクチュエータとの係合が解除されることを特徴とする。
【0022】
また、前記第1のバー部は、前記軸心周りに回転支持されており、当該第1バー部の回転支持部が、前記第1回転支持部と前記第2回転支持部のいずれか一方と共通することを特徴とする。
【0023】
さらに、前記第1回転支持部は、前記軸心と同軸上に設けられた第1のシャフトを含み、前記第2回転支持部は、前記第1のシャフトとは別個に、前記軸心と同軸上に設けられた第2のシャフトを含むことを特徴とする。
【0024】
あるいは、前記作動子は、前記軸心と同軸上に設けられた単一のシャフトを含み、前記第1回転支持部と前記第2回転支持部は、当該単一のシャフトを共有し、前記第1当接部と前記第2当接部の各々の前記軸心周りの回転を支持することを特徴とする。
【0025】
さらに、また、前記第1当接部と前記第2当接部の各々は、前記第2バー部に前記軸心と交差する姿勢で設けられた第1の棒体と第2の棒体の先端部にそれぞれ形成された半球部であり、前記ガバナシーブの回転速度が前記第1の過速度に達すると、前記第1の棒体の前記半球部が、前記第1の振子によって蹴られ、前記第2の向きに回転する前記ガバナシーブの回転速度が前記第2の過速度に達すると、前記第2の棒体の前記半球部が、前記第2の振子によって蹴られることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
上記の構成を有する、本発明に係るエレベータ用調速装置によれば、作動子のアクチュエータとの係合状態が解除されることによって作動する過速スイッチを構成する前記作動子が第2バー部の両端部の各々にそれぞれ設けられた第1当接部と第2当接部を含む。
ガバナシーブの回転速度が第1の過速度に達すると、前記第1当接部が第1の振子によって蹴られて、第2バー部とT字状に交差する姿勢で接続された第1バー部の長さ方向中間部で当該第1バー部と交差する軸心周りに当該第1当接部が回転し、前記第2バー部を介して前記第1バー部が前記軸心周りに回転する。これにより、当該第1バー部の一端部に形成された係合部の前記アクチュエータとの係合が解除され過速スイッチが作動する。
ガバナシーブの回転速度が第2の過速度に達すると、前記第2当接部が第2の振子によって蹴られて、前記軸心周りに当該第2当接部が回転し、前記第2バー部を介して前記第1バー部が前記軸心周りに回転することにより、前記係合部の前記アクチュエータとの係合が解除され過速スイッチが作動する。
すなわち、第1の過速度と第2の過速度の二つの過速度を単一の過速スイッチで検出することができる。
【0027】
また、前記第1当接部と第2当接部の各々に対応させて、当該第1当接部と第2当接部の前記軸心周りの回転を支持する第1回転支持部と第2回転支持部を設けている。
これにより、第1当接部と第2当接部の間隔が長くなっても、第1当接部と第1回転支持部の間の第2バー部部分の前記軸心方向に沿った長さ、および第2当接部と第2回転支持部の間の第2バー部部分の前記軸心方向に沿った長さを短縮することができ、その分、当該両第2バー部部分の剛性を高く(大きく)することができる。その結果、後で詳述するように、過速スイッチが安定して作動することとなる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】実施形態に係るエレベータ用調速装置を備えたエレベータの概略構成を示す図である。
図2】上記エレベータ用調速装置の概略構成を示す正面図である。
図3図2に示すエレベータ用調速装置を部分的に切断して表した左側面図である。
図4】上記エレベータ用調速装置における第1検出機構の正面図である。
図5図3の一部を拡大した図である。
図6】(a)は上記エレベータ用調速装置における第2調速機36の一部を拡大した正面図であり、(b)は同背面図である。
図7図2から回転板および回転板に直接的、間接的に取り付けられている部材を省略した図である。
図8】(a)は過速スイッチの正面図であり、(b)は過速スイッチを部分的に切断して表した左側面図である。
図9】過速スイッチの動作を説明するための正面図である。
図10図8(b)に倣い、変形例における過速スイッチを部分的に切断して表した図である。
図11図8(b)に倣い、他の変形例における過速スイッチを部分的に切断して表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係るエレベータ用調速装置の実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、実施形態に係るエレベータ用調速装置24(以下、単に「調速装置24」と言う。)を備えたエレベータ10の概略構成を示す図である。
【0030】
図1に示すように、エレベータ10において、本例では、昇降路の最上部に巻上機12が設置されている。巻上機12の主シーブ14には主ロープ16が掛けられている。主ロープ16の一端部には、かご18が、他端部には、カウンタウエイト20が連結されている。
【0031】
また、主ロープ16と平行して、ガバナロープ22が、調速装置24のガバナシーブ26とテンションシーブ28との間にエンドレスに張架されている。ガバナロープ22の中間部には、かご18に付設された公知の非常止め装置(不図示)を作動させるための非常止めレバー30が固定されている。
【0032】
上記の構成を有するエレベータ10において、不図示の制御装置によって回転制御される不図示の電動機からの回転動力が不図示の動力伝達機構を介し巻上機12の主シーブ14に伝達されて、主シーブ14が回転駆動されると、主シーブ14に掛けられた主ロープ16に連結されているかご18が、不図示のガイドレールに案内されて、昇降路内を昇降する。これに伴い、非常止めレバー30が固定されているガバナロープ22が走行し、ガバナロープ22が掛けられたガバナシーブ26はかご18の昇降速度と同じ速度(周速)で回転される。この場合、ガバナシーブ26は、かご18が上昇すると第1の向きである矢印Uの向きに回転され、かご18が下降すると第2の向きである矢印Dの向きに回転される。
【0033】
エレベータ10は、かご18の上昇運転における定格速度(以下、「上昇定格速度」と言う。)よりも下降運転における定格速度(以下、「下降定格速度」と言う。)の方が遅く設定されている。例えば、上昇定格速度は1000m/minであり、下降定格速度は600m/minである。
【0034】
調速装置24は、かご18の昇降速度と同期するガバナシーブ26の回転速度を検出し、かご18の上昇中において、上昇定格速度よりも大きい所定の速度に対応する回転速度(以下、「上昇過速度」と言う。)を検知すると、前記制御装置に対し前記電動機の停止信号を送る。
【0035】
また、調速装置24は、かご18の下降中において、下降定格速度よりも大きい所定の速度に対応する、ガバナシーブ26の回転速度(以下、「第1下降過速度」と言う。)を検知すると、前記制御装置に対し前記電動機の停止信号を送る。
【0036】
かご18の上昇中または下降中に上記停止信号を検知すると、かご18の走行を停止させるため、前記制御装置は電動機の駆動を停止する。
【0037】
さらに、調速装置24は、かご18の下降中において、ガバナシーブ26の回転速度が、第1下降過速度よりも大きい所定の回転速度(以下、「第2下降過速度」と言う。)に達すると、把持機構138(図2図7)によりガバナロープ22を把持して、ガバナロープ22の走行を停止させる。これにより、非常止めレバー30が引き上げられて、前記非常止め装置(不図示)が作動し、かご18が安全に停止される。第2下降過速度は、日本では、通常、下降定格速度の1.4倍を越えない範囲の大きさに対応する、ガバナシーブ26の回転速度に設定される。
【0038】
ここで、本例において、過速度の各々は、大きい方から、上昇過速度、第2下降過速度、第1下降過速度の順になっている(上昇過速度>第2下降過速度>第1下降過速度)。
【0039】
上記の機能を発揮する調速装置24の詳細について、図2図10を適宜参照しながら説明する。
【0040】
図2は、調速装置24の概略構成を示す正面図であり、図3は、図2に示す調速装置24を部分的に切断して表した左側面図である。
【0041】
調速装置24は台座32を有し、台座32には第1調速機34と第2調速機36が設けられている。第1調速機34と第2調速機36は、前述のガバナシーブ26を共有する。ガバナシーブ26は、金属円板の外周に、ガバナロープ22が掛けられる断面がU字状をしたシーブ溝(不図示)が形成されてなるものである。なお、図3において、ガバナロープ22(図1図2)の図示は省略している。
【0042】
ガバナシーブ26は、調速装置24における第1の回転軸である多段シャフト38と一体的に回転するように構成されている。本例では、ガバナシーブ26の中心に開設された軸孔に多段シャフト38がしまりばめの関係ではめ合わされて、両者が一体的に回転するよう構成されている。なお、ガバナシーブの回転が多段シャフトに伝達されれば構わないため、例えば、キーを用いて両者を結合しても構わない。また、別体として作製したガバナシーブと多段シャフトとを上記のように組み合わせるのではなく、ガバナシーブと多段シャフトとは一体的に形成しても構わない。
【0043】
上記したようにガバナシーブ26と一体的に回転する多段シャフト38を、水平姿勢で回転自在に支持する第1支持壁40と第2支持壁42が台座32上に対向して立設されている。
【0044】
第1支持壁40には、第1軸受44が収納された第1軸受箱46が取り付けられている。また、第2支持壁42には、一対の第2軸受48が収納された第2軸受箱50が取り付けられている。
【0045】
多段シャフト38の一端部側は第1軸受44に圧入され、他端部側は第2軸受48に圧入されている。これにより、多段シャフト38は、第1軸受44、第2軸受48を介して、第1支持壁40と第2支持壁42とで回転自在に軸支されている。
【0046】
上記の構成により、ガバナロープ22(図1図2)が走行して、ガバナシーブ26が回転されると、これに伴って多段シャフト38がガバナシーブ26と同じ回転速度で回転する。
【0047】
第1調速機34(図3)は、ディスク形の調速機であって、ガバナシーブ26の、第2支持壁42側の主面に取り付けられた、上昇過速度を検出するための第1検出機構52を有する。
【0048】
第1検出機構52について図4を参照しながら説明する。なお、図4に示すように、ガバナシーブ26は、その軸心周りに開設された4個の窓26A,26B,26C,26Dを有している。
【0049】
第1検出機構52は一対の振子54,62を有している。振子54,62の各々は、板状をした錘56,64と錘56,64からそれぞれ延出されたバー58,66を有する。さらに、振子54,62の各々は、錘56,64に垂直に取り付けられた操作ピン60,68を有している。操作ピン60、68は、後述する第1当接部158Aを蹴って過速スイッチ140を作動させる操作体部として機能する。
【0050】
また、振子54の錘56にはストッパ70が設けられている。ストッパ70は、その基端部が錘56に固定され、先端部が窓26Aの縁に当接するように構成されている。ストッパ70は、後述する圧縮コイルばね92の復元力によって揺動しようとする振子54等の動きを制止するために設けられている。
【0051】
バー58,66の各々は、長手方向における中間部が、ピン72,74によってガバナシーブ26に回転自在に取り付けられている。バー58の先端部と錘64とがリンク76によって連結されている。
【0052】
バー66の先端部は、ブラケット78およびピン80を介して、ロッド82の一端部に相対的に回転自在に連結されている。
【0053】
ロッド82は、雄ねじが形成された雄ねじ部82Aと円形断面のストレート部82Bとを有する。
【0054】
衝立状をした第1ばね座部材84が窓26Bの縁に取り付けられており、ストレート部82Bの先端部が、第1ばね座部材84に開設された貫通孔(不図示)に遊挿されている。
【0055】
雄ねじ部82Aには、2個のナット86,88が螺合している。雄ねじ部82Aには、また、貫通孔(不図示)を有する皿状をした第2ばね座部材90が嵌め込まれている。
【0056】
第1ばね座部材84と第2ばね座部材90の間のロッド82部分には、圧縮コイルばね92が圧縮された状態で外挿されている。ガバナシーブ26の非回転中における圧縮コイルばね92の高さ(以下、「初期高さ」と言う。)は、ナット86の締め込み加減で調整される。すなわち、ナット86を締め込む程低くなり、緩める程高くなる。これにより、初期高さにおいて、第1ばね座部材84と第2ばね座部材90の間に作用する圧縮コイルばね92の復元力(付勢力)を調整することができる。ナット88は、調整後におけるナット86の緩み止めとして機能する。
【0057】
上記の構成からなる第1調速機34において、かご18(図1)が上昇して、ガバナシーブ26が図4の矢印Uの向きに回転すると、これに伴い、振子54,62はガバナシーブ26の回転中心(多段シャフト38の軸心)を中心に公転する。公転する振子54,62は、主として錘56,64に作用する遠心力により、圧縮コイルばね92の付勢力に抗して、ピン72,74を中心にそれぞれ矢印C1,C2の向きに回転し(揺動し)、錘56,64ひいては操作ピン60,68がガバナシーブ26(多段シャフト38)の径方向外向きに変位する。
【0058】
ガバナシーブ26が矢印Uの向きに上昇過速度で回転したときにおける変位位置で公転する操作ピン60,68(すなわち、振子54,62の一部)に蹴られて作動される過速スイッチ140が、図3に示すように、操作ピン60,68の公転半径方向、上方に設けられている。
【0059】
過速スイッチ140が作動されると、当該作動信号が前記電動機の停止信号として前記制御装置に送信される。当該停止信号を受けた当該制御装置は、前記電動機への給電を遮断して、当該電動機の駆動を停止する。過速スイッチ140の詳細については後述する。
【0060】
なお、上記した例では、ガバナシーブ26の回転に伴って回転する多段シャフト38の回転速度を検出するための第1検出機構52をガバナシーブ26に取り付けたが、これに限らず、例えば、ガバナシーブ26とは別の例えば円板部材(不図示)を多段シャフト38に同軸上に固定し、当該円板部材に第1検出機構52を取り付けて、多段シャフト38の回転速度を検出することとしても構わない。
【0061】
次に、第2調速機36の詳細について、図5図6を参照しながら説明する。図5は、図3の一部を拡大した図である。図6(a)は、第2調速機36の一部を拡大した正面図であり、図6(b)は、同背面図である。なお、図6(b)では、多段シャフト38等の軸に関係する部材の図示は省略している。
【0062】
図5に示すように、第2調速機36は、調速装置24における第2の回転軸である中空シャフト94を有する。中空シャフト94は、多段シャフト38の一端部に、ワンウェイクラッチ96を介して取り付けられている。ワンウェイクラッチ96は、多段シャフト38の回転を中空シャフト94に対し、かご18が上昇して矢印Uの向きに回転する多段シャフト38の回転は遮断し、かご18が下降して矢印Dの向きに回転する多段シャフト38の回転は伝達するように、多段シャフト38と中空シャフト94の間に設けられている。
【0063】
中空シャフト94には回転板98が取り付けられている。図6に示すように、回転板98は縦板部98Aと縦板部98Aから縦板部98Aの長手方向と交差する方向に延出された横板部98Bとを有する形状をしている。
【0064】
縦板部98Aの長手方向における中央部には取付孔98Cが開設されており、取付孔98Cに中空シャフト94が嵌入されている。回転板98は中空シャフト94にブラケット100を介して連結されている。ブラケット100の両端部は、回転板98にボルト102,104で固定されている。ブラケット100の中間部は、中空シャフト94にボルト106,108で固定されている。これにより、回転板98は中空シャフト94と一体的に回転する。
【0065】
回転板98には、図6に示すように、中空シャフト94の回転速度を検出するための第2検出機構110が設けられている。
【0066】
第2検出機構110は、機構的に、第1検出機構52(図4)と実質的に同じ構成をしている。よって、第2検出機構110の構成部材には三百番台の符号を付し、その下二桁には、第1検出機構52において対応する構成部材に付した番号(アルファベットを含む)を用い、その詳細な説明については省略し、主として以下の若干異なる部分について簡単に説明することとする。なお、第2検出機構110のストッパの図示は省略する。
(a)第1ばね座部材384は、図6に示すように横板部98Bの縁に取り付けられている。
(b)第2検出機構110では、錘356、364は、バー358、366の一端部に設けた、中実の円柱体のものとした。
(c)第1検出機構52では、一対の振子54、64の各々に操作ピン60、68を設けたが、第2検出機構110では、一対の振子354、362の内、一方の振子362だけに、操作体部として操作ボルト368を設けた。操作ボルト368は、錘364に開設された雌ネジに螺入されている。
【0067】
かご18(図1)が下降して、ガバナシーブ26が矢印Dの向きに回転し、その回転が回転板98に伝達され、回転板98がガバナシーブ26と同じ向き(矢印Dの向き)、同じ回転速度で回転すると、これに伴い、振子354,362は、ガバナシーブ26の回転中心(中空シャフト94の軸心)を中心に公転する。公転する振子354,362は、主として錘356,364に作用する遠心力により、圧縮コイルばね392の付勢力に抗して、ピン372,374を中心にそれぞれ、図6(a)において反時計方向に回転し(揺動し)、錘356,364ひいては操作ボルト368が、ガバナシーブ26(中空シャフト94)の径方向外向きに変位する。
【0068】
ガバナシーブ26が矢印Dの向きに第1下降過速度で回転したときにおける変位位置で公転する操作ボルト368の頭部に蹴られて作動される過速スイッチ140が、図3に示すように、操作ボルト368の公転半径方向、上方に設けられている。
【0069】
過速スイッチ140が作動されると、当該作動が前記電動機の停止信号として前記制御装置に送信される。当該停止信号を受けた当該制御装置は、前記電動機への給電を遮断して、当該電動機の駆動を停止する。
【0070】
前記電動機を停止してもなお、かご18(図1)が下降を続け、その下降速度が増加して、ガバナシーブ26の回転速度が第2下降速度に達すると、前述のように前記非常止め装置が作動して、かご18が安全に停止される。
【0071】
次に、非常止め作動させるための機構(非常止め作動機構)111について、主に図6図7を参照しながら説明する。図7は、図2から回転板98および回転板98に直接的、間接的に取り付けられている部材を省略した図である。
【0072】
図6(b)に示すように、回転板98にピン374によって爪部材112が、ピン374の軸心周りに回転自在に取り付けられている。爪部材112は、爪部112Aと係合部112Bとを有する。
【0073】
爪部112Aと回転板98との間には、引張コイルばね114が設けられている。引張コイルばね114の復元力によって、爪部材112は、ピン374の軸心周りに、図6(b)において時計方向に付勢されている。
【0074】
通常時において上記付勢力による爪部材112の回転を阻止するためのストッパ116が回転板98にピン118によって、ピン118の軸心周りに回転自在に取り付けられている。ストッパ116は、ピン118に設けられたねじりコイルばね120の復元力によって、ピン118の軸心周りに、図6(b)において反時計方向に付勢されている。
【0075】
ストッパ116は、図6に示すように、当接部116Aを有している。当接部116Aがバー366の一部に当接することにより、ねじりコイルばね120による付勢力による回転が阻止され、通常時におけるストッパ116の位置決めが実現される。
【0076】
ストッパ116は、また、図6(b)に示すように、通常時において、爪部材112の係合部112Bに係合する係止部116Bを有している。係止部116Bにより、通常時において、爪部材112が引張コイルばね114の付勢力により回転するのが阻止される。
【0077】
非常止め作動機構111は、鋸刃円板124を有している。鋸刃円板124は、図3に示しように、多段シャフト38に、ころがり軸受122を介して取り付けられている。鋸刃円板124は、図7に示すように、その周方向に複数の鋸刃が形成されてなる円板である。なお、煩雑さを避けるため、図3において、非常止め作動機構111の構成部材の内、爪部材112、引張りコイルばね114、ストッパ116、ピン118、ねじりコイルばね120の図示は省略している。
【0078】
鋸刃円板124には、図7に示す位置にピン126が取り付けられている。ピン126は、図3に示すように、その一部が鋸刃円板124の厚み方向に突出している。通常時において、ピン126の突出部は、図7に示すように、トリップレバー128のフォーク状をした一端部のスリット128Aに進入した状態となっている。
【0079】
トリップレバー128は、図7に示すように、「く」字状をした板材からなる。トリップレバー128は、その長さ方向中央部が、第2支持壁42にブラケット130、ボルト・ナット132を介し、ボルト・ナット132の軸心周りに回転自在に取り付けられている。
【0080】
トリップレバー128のスリット128Aとは反対側の端部には、「U」字状をした切欠き128Bが開設されている。通常時、図7に示すように、切欠き128Bには、可動掴み134の有する支持ピン134Aが進入している。
【0081】
可動掴み134および固定掴み136を含む把持機構138は、公知のものであり、また、本願発明の主眼ではないため、詳細な説明は省略し、以下、把持機構138が作動するまでの動作について簡単に説明する。
【0082】
ガバナシーブ26、ひいては回転板98が矢印Dの向きに第1下降過速度で回転すると、上述したように前記電動機が停止される。当該電動機を停止してもなお、かご18(図1)が下降し続け、その下降速度が増加し続けると、図6(b)に示す振子362は、さらに、ピン374の軸心周り時計方向に回転する。これに伴い、図6(b)に示すストッパ116は、当接部116Aが振子362のバー366に押され、ねじりコイルばね120の付勢力に抗して、ピン118の軸心周りに回転する。
【0083】
そして、回転板98(ガバナシーブ26)が、第2下降過速度に達すると、ストッパ116の係止部116Bが爪部材の係合部112Bから外れる。そうすると、図6(b)に示す爪部材112は、引張コイルばね120の復元力によって、ピン374の軸心周りに時計方向に回転する。
【0084】
その結果、図2に示す(爪部材112の)爪部112Aが鋸刃円板124の何れかの鋸刃に係合する。これにより、回転板98の回転力が爪部材112によって鋸刃円板124に伝達され、鋸刃円板124は、図7に示す矢印Dの向きに回転する。
【0085】
これに伴い、鋸刃円板124に取り付けられたピン126は、鋸刃円板124の軸心周り矢印Dの方向に回転し、トリップレバー128をボルト・ナット132の軸心周りに回転させて、やがて、スリット128Aから離脱する。
【0086】
トリップレバー128が回転されると、切欠き128Bが支持ピン134から外れる。これにより、支えを失った可動掴み134が固定掴み136と対向する位置までその自重により降下し、ガバナロープ22が可動掴み128と固定掴み136で把持されて、ガバナロープ22の走行が停止される。ガバナロープ22の停止によって、前述の通り、非常止め装置が作動して、かご18(図1)が安全に停止される。
【0087】
続いて、ガバナシーブ26の回転速度が上昇過速度または第1下降過速度になった場合に作動される過速スイッチ140について、主として図8図9を参照しながら説明する。図8(a)は過速スイッチ140の正面図であり、図8(b)は過速スイッチ140を部分的に切断して表した左側面図である。図9は、過速スイッチ140の動作を説明するための正面図である。
【0088】
過速スイッチ140は、スイッチ本体であるマイクロスイッチ142を有する。マイクロスイッチ142は、ケース144内に一部が収納されたアクチュエータ146を含む。アクチュエータ146は、ケース144内で、図8に示すピン148によって回転自在に軸支されている。アクチュエータ146は、ケース144内に設けられたねじりコイルばね(不図示)により図8(a)において、ピン148の軸心周り時計方向に付勢されている。マイクロスイッチ142は、ブラケット150を介して第2支持壁42に取り付けられている(図2)。
【0089】
過速スイッチ140は、また、作動子152を有する。作動子152は、前記ねじりコイルばねの付勢力に抗してアクチュエータ146を図8(a)示す姿勢に拘束してマイクロスイッチ142をON状態とし、当該拘束からアクチュエータ146を解放し、前記ねじりコイルばねの付勢力により、図9に一点鎖線で示す姿勢にして、マイクロスイッチ142をオフ状態とする。なお、アクチュエータ146は、ストッパ部146Aを有し、作動子152による前記拘束から解放されると、ストッパ部146が、図9に示すように、ケース144の一側面に当接するまで回転して(すなわち、図9に示す一点鎖線の姿勢になって)止まる。
【0090】
作動子152は、細長い金属板材からなる第1バー部154を有する。第1バー部154は、その長さ方向と交差し、水平方向に延びる軸心AXの周りに、後述するようにして回転自在に設けられている。
【0091】
第1バー部154の一端部には、アクチュエータ146の先端部に形成された円柱状をした凸部146Bと係合する係合部154Aが形成されている。係合部154Aは、図8(b)に示すように、第1バー部154の一端部がL字状に屈曲された屈曲部である。係合部154Aが凸部146Bに引掛けられることにより、アクチュエータ146が図8(a)に示す姿勢に拘束されて、マイクロスイッチ142がON状態に維持される。
【0092】
作動子152は、また、第2バー部156を有する。第2バー部156も細長い金属板材からなり、図8(b)に示すように、鉤形に屈曲している。鉤形をした第2バー部156の図8(b)に、符号156A、156B、156Cで示す各部を、それぞれ第1横板部156A、縦板部156B、第2横板部156Cと称することとする。第2バー部156は、第1横板部156Aにおいて、第1バー部154の他端部に、第1バー部154とT字状に交差する姿勢で接続されている。
【0093】
なお、本例において第2バー部156は、鉤形に屈曲したものとしたが、これに限らず、ストレートの形状としても構わない。すなわち、ストレート形状の第1バー部154の他端部に、ストレート形状の第2バー部をT字状に交差する姿勢で接続することとしても構わない。
【0094】
第2バー部156の両端部近傍には、不図示のねじ孔が厚み方向に開設されている。前記ねじ孔の各々には、全ねじボルトである第1および第2のボルト158,160が螺入されている。第1ボルト158、第2ボルト160の下端部は、半球状に加工されていて、この二つ半球状部分がそれぞれ操作ピン60,68(図3図4)、操作ボルト368(図3、5)で蹴られる第1当接部158A、第2当接部160Aとなる。
【0095】
第1ボルト158、第2ボルト160の各々には、調整ナット162,164および緩み止めナット166,168が螺合されている。
【0096】
調整ナット162,164および緩み止めナット166,168を緩め、第1ボルト158、第2ボルト160を回して螺進させることにより、第1当接部158Aと第2当接部160Aの上下方向における、第1当接部158Aと第2当接部160Aの多段シャフト38および中空シャフト94の軸心からの距離を調整することができる。
【0097】
上記の構成を含む作動子152は、ブラケット150に重ねて固定されたブラケット170において、第1回転支持部172と第2回転支持部174の2箇所で回転自在に支持されている。ブラケット170は、図8(a)、図8(b)に示すように、長方形をした板材が「コ」字状に屈曲されてなるものである。ここで、図8(b)に、符号170A、170B、170Cで示す各部を、それぞれ第1縦板部170A、横板部170B、第2縦板部170Cと称することとする。
【0098】
第1回転支持部172と第2回転支持部174の内、先ず、第1回転支持部172について説明する。第1回転支持部172は、太径部の両端部の各々に細径部が延出されてなる段付きの第1シャフト176を含む。第1バー部154とブラケット170の第1縦板部170Aには、第1シャフト176の前記両細径部に対応する貫通孔がそれぞれ開設されている。両貫通孔の各々には、第1シャフト176の細径部の各々が、図8(b)に示すように挿入されている。図8(b)において左側の細径部には、円筒径をしたスリーブ178が嵌め込まれていて、当該細径部の先端部部分には、抜け止めのためのEリングが嵌め込まれている。
【0099】
続いて、第2回転支持部174について説明する。第2回転支持部174で支持するため、作動子152は、補助バー部180を有する。補助バー部180の一端部部分は、図8に示すように、2組のボルト・ナット182によって、第2バー部156の縦板部156Bに固定されている。
【0100】
第2回転支持部174もまた、太径部の両端部の各々に細径部が延出されてなる段付きの第2シャフト184を含む。補助バー部180の他端部とブラケット170の第2縦板部170Cには、第2シャフト184の前記両細径部に対応する貫通孔それぞれ開設されている。両貫通孔の各々には、第2シャフト184の細径部の各々が、図8(b)に示すように挿入されている。図8(c)において右側の細径部には、円筒径をしたスリーブ186嵌め込まれていて、当該細径部の先端部部分には、抜け止めのためのEリングが嵌め込まれている。
【0101】
第1シャフト176の軸心と第2シャフト184の軸心とは、軸心AXと一致している。よって、作動子152は、第1回転支持部172と第2回転支持部174の2箇所で、軸心AX周りに回転自在に支持されていることとなる。
【0102】
図8(b)に示すように、第2バー部156の第1横板部156Aに小ねじ188で固定されたブラケット190にボルト・ナット192が設けられている。また、ブラケット170の横板部170Bに小ねじ194で固定されたブラケット196にボルト・ナット198が設けられている。
【0103】
ボルト・ナット192のボルト軸部とボルト・ナット198のボルト軸部の間には、引張コイルばね200が掛け渡されている。なお、引張コイルばね200は、横板部170Bに開設された孔170Dに挿通されている。引張コイルばね200は、図8(b)に示すように、第1バー部154の係合部154Aがアクチュエータ146の凸部146Bに係合しているときは、引っ張られた(伸長した)状態となっている。
【0104】
図3に戻り、過速スイッチ140は、平常運転中に公転する操作ピン60,68の公転半径(公転領域)の径方向外方に第1当接部158Aが位置し、同じく操作ボルト368の公転半径(公転領域)の径方向外方に第2当接部160Aが位置するように設置されている。また、過速スイッチ140は、本例では、図2に示すように、正面視で、ガバナシーブ26の軸心(ひいては、多段シャフト38および中空シャフト94の軸心)の真上に、作動子152が位置するように設置されている。
【0105】
上記の構成を有する調速装置24において、かご18(図1)が上昇してガバナシーブ26が図4の矢印Uの向きに回転し、当該回転速度が上昇過速度に達すると、ガバナシーブ26(多段シャフト38)の軸心周りに公転する操作ピン60,68の公転半径が、操作ピン60,68が過速スイッチ140における第1当接部158Aを蹴るようになるまで拡大する。その結果、操作ピン60,68のいずれかが、図9の矢印Eの向きに第1当接部158A(図9では、第1当接部158Aは、補助バー部180および第2バー部156の縦板部156Bの背後に在って、図には現れていない。)を蹴る。
【0106】
蹴られた第1当接部158Aは、軸心AX周りに反時計回りに回転し、第2バー部156を介して第1バー部154が軸心AX周りに回転して、係合部154Aがアクチュエータ146(の凸部146B)から外れる。最終的に、アクチュエータ146が、ピン148の軸心周りに、図9に一点鎖線で示す姿勢まで回転し、マイクロスイッチ142は、ON状態から開放されたOFF状態に切り換わる。本実施形態で、「過速スイッチ140が作動する」とは、マイクロスイッチ142がON状態からOFF状態に切り換わることを言う。過速スイッチ140が作動したことは、前記電動機(不図示)の停止信号となって前記制御装置(不図示)に検知される。前記停止信号を検知した前記制御装置は、上述したように、電動機を停止する。
【0107】
なお、反時計回りに回転した作動子152は、引張コイルばね200が短縮して、回転バランスがとられる位置で静止し、一点鎖線で示す姿勢となる。過速スイッチ140は、いわゆる手動復帰式のスイッチであって、作動状態から自動では作動子152が図9に実線で示す位置には復帰することはなく、復帰のためには、必ず作業員による作業を必要とする。
【0108】
一方、調速装置24において、かご18(図1)が下降してガバナシーブ26が図2の矢印Dの向きに回転し、当該回転速度が第1下降過速度に達すると、ガバナシーブ26(中空シャフト94)の軸心周りに公転する操作ボルト368の公転半径が、操作ボルト368が過速スイッチ140における第2当接部160Aを蹴るようになるまで拡大する。その結果、操作ボルト368が、図9の矢印Gの向きに第2当接部160Aを蹴る。蹴られた第2当接部160Aは、軸心AX周りに時計回りに回転し、第2バー部156を介して第1バー部154が軸心AX周りに回転して、係合部154Aがアクチュエータ146(の凸部146B)から外れる。最終的に、作動子152は、図9に二点鎖線で示す姿勢となり、アクチュエータ146は、一点鎖線で示す姿勢となって、過速スイッチ140が作動することとなる。過速スイッチ140が作動すると、上記と同様、前記電動機が停止される。
【0109】
ここで、第1ボルト158の下端部と第2ボルト160の下端部を半球状に加工し、当該半球部を第1当接部158Aと第2当接部160Aにした理由について説明する。従来、ボルト下端部は加工することなく、そのまま、当接部として利用していた。そうすると、操作ピン60,68の公転半径が、徐々に拡大していく際、先ず、操作ピン60、68が平坦なボルト下端面(先端面)と接触(摺接)することとなる。当該摺接による摩擦力によって、作動子は回転するものの、当該摩擦力の大きさは不安定であるため、作動子が回転するまでの操作ピン60、68の当接部との接触回数にばらつきが生じていた。
【0110】
そこで、第1当接部158Aと第2当接部160Aを半球状(半球部)としたのである。操作ピン60、68が半球部に接触(当接)すると、半球部には、第1ボルト158または第2ボルト169の軸心と直交する方向に力が作用する。当該力は、摩擦力ではなく、作動子152を回転させようとする力であるので、可能な限り確実に、作動子152が回転することとなるのである。
【0111】
以上説明したように、実施形態に係る調速装置24によれば、過速スイッチ140の作動子152が第1当接部158Aと第2当接部160Aを含み、かご18(図1)の上昇中にガバナシーブ26の回転速度が上昇過速度に達すると、操作ピン60,68によって第1当接部158Aが蹴られ、かご18の下降中にガバナシーブ26の回転速度が第1下降過速度に達すると、操作ボルト368によって第2当接部160Aが蹴られて、過速スイッチ140が作動する。その結果、前記電動機(不図示)への給電が遮断されてかご18が停止される。すなわち、上昇過速度と第1下降過速度の二つの過速度を単一の過速スイッチ140で検知することができる。
【0112】
しかしながら、本実施形態では、[発明が解決しようとする課題]欄に記載したように、上述した鋸刃円板124を含む非常止め作動機構111を設けているため、第1当接部156Aと第2当接部160Aの間隔DA、ひいては、第2バー部156の全長(軸心AXに沿った長さ)が長くなっている。第2バー部156の全長が長くなると、その曲げ剛性が低く(小さく)なってしまう。このため、何らの手当てをしない場合、[発明が解決しようとする課題]欄に記載した課題が生じるおそれがある。
【0113】
そこで、本実施形態では、第1回転支持部172と第2回転支持部174の2箇所で、作動子152を回転支持することにより前記課題を解決している。このことについて、図8(b)を参照しながら説明する。ここで、特許文献2に記載された作動子を「従来の作動子」と称し、その構成要素の各々については、以下の説明においても[背景技術]欄および[発明が解決しようとする課題]欄に記載した名称を用いることとする。
【0114】
第1当接部と第2当接部の間隔が大きくなると、従来の作動子のように、横板部に接続した縦板部の1箇所のみで回転支持すると、縦板部との接続部から第1当接部および第2当接部までの横板部の長さも長くなる。その結果、前記接続部から第1当接部および第2当接部までの横板部の剛性が低下し、厚み方向に撓み易くなる。また、第1ボルトの下端の第1当接部および第2ボルトの下端の第2当接部は、半球状をしているため、第1の振子または第2の振子で蹴られた際(第1ボルト、第2ボルトの軸心方向と直交する方向に力が作用した際)、両ボルトの軸心方向、すなわち、前記厚み方向にも分力が作用する。このため、第1当接部または第2当接部が跳ね上がって、過速スイッチの作動のタイミングにばらつきが生じている。すなわち、前記タイミングのばらつきを軽減することを目的として第1および第2当接部を半球状にしたことが、かえって、ばらつきを生む結果となってしまっている。
【0115】
半球状にすることによる所期の目的を達成できるよう、本実施形態では、図8(b)に示すように、第1当接部158Aと第2当接部160Aの各々に対応させて、第1回転支持部172と第2回転支持部174を設けている。これにより、第1当接部158Aと第2当接部160Aの間隔DAが長くなっても、第1当接部158Aと第1回転支持部172の間の第2バー部156部分の軸心AX方向に沿った長さ、および第2当接部160Aと第2回転支持部174の間の第2バー部156部分の軸心AX方向に沿った長さを短縮することができる。
【0116】
当該両第2バー部156部分が短縮されるとその分、剛性が高く(大きく)なるため、撓み難くなる。その結果、操作ピン60、68または操作ボルト368で、半球状をした第1当接部158Aまたは第2当接部160Aが蹴られて、第1ボルト158または第2ボルト160の軸心方向に分力が作用しても可能な限り第1当接部158Aまたは第2当接部160Aが跳ね上がることを防止できる。これにより、前記軸心方向と直交する方向の分力が効果的に作用して、可能な限り確実に第1当接部158Aまたは第2当接部160Aが第1回転支持部172または第2回転支持部174を中心に回転されることとなり、過速スイッチ140が安定して作動することとなる。
【0117】
なお、第1当接部158Aと第2当接部160Aの各々に対応させて、第1回転支持部172と第2回転支持部174を設けたことは、第1当接部158A、第2当接部160Aを半球状としたことに対する上記対策となるだけではない。例えば、特許文献2に記載された従来の作動子において、第1ボルト、第2ボルトの下端部を半球状に加工することなく、そのまま、当接部として利用した場合の対策にもなる。
【0118】
従来の作動子において、第1当接部と第2当接部の間隔が大きくなると、縦板部との接続部から第1当接部および第2当接部までの横板部の長さも長くなり、その結果、前記接続部から第1当接部および第2当接部までの横板部の剛性が低下することは、上述した通りである。剛性の低下は、厚み方向の撓み易さのみならず、捩れ易さも招来する。
【0119】
この場合、当接部が振子で蹴られると、横板部が捩れて、ボルト下端部が振子で蹴られた方向に逃げてしまい(ボルトが、横板部との螺合箇所を中心に振り子のように回転してしまい)、作動子が有効に回転されず、過速スイッチの作動のタイミングにばらつきが生じてしまう。
【0120】
したがって、第1当接部158Aと第2当接部160Aの各々に対応させて、第1回転支持部172と第2回転支持部174を設けることにより、第1当接部158Aと第1回転支持部172の間の第2バー部156部分の軸心AX方向に沿った長さ、および第2当接部160Aと第2回転支持部174の間の第2バー部156部分の軸心AX方向に沿った長さを短縮し、当該両第2バー部156部分の剛性を高めることは、上記捩れに起因する問題の対策、ひいては、過速スイッチを安定して作動させるための対策となるのである。
【0121】
(変形例)
上記実施形態では、第1当接部158Aが蹴られたときに主として作動子152を回転支持する第1回転支持部172を、第1シャフト176を含む構成とし、第2当接部160Aが蹴られたときに主として作動子152を回転支持する第2回転支持部174を、第1シャフト176とは別個の第2シャフト184を含む構成としたが(図8(b))、これに限らず、図10に示す変形例のように、軸心AXと同軸上に単一のシャフト202を設け、第1回転支持部204と第2回転支持部206とでシャフト202を共有する構成としても構わない。
【0122】
なお、図10に示す変形例において、図8(b)に示す実施形態と実質的に同じ構成要素については、同一の符号を付して、その説明については省略し、以下、異なる部分を中心に説明する。
【0123】
シャフト202は、図10に示すように、太径部の両端部の各々に細径部が延出されてなる段付きのシャフトである。ブラケット170の第1縦板部170Aと第2縦板部170Cには、シャフト202の太径部に対応した貫通孔がそれぞれ開設されている。シャフト202は、その太径部が前記両貫通孔に挿入されて、ブラケット170に支持されている。
【0124】
シャフト202の両端部の細径部の各々が、第1バー部154に開設された貫通孔と補助バー部180に開設された貫通孔のそれぞれ挿入されている。図10において、左側の細径部にスリーブ178が、右側の細径部にスリーブ186がそれぞれ嵌め込まれていて、両細径部の先端部部分には、抜け止めのためのEリングが嵌め込まれている。
【0125】
変形例では、シャフト202と引張りコイルばね200の干渉を避けるため、引張りコイルばね200を、シャフト202の一端部側方(本例では、右端部側方)に設けている。
【0126】
ブラケット170の横板部170Bに小ねじ194でブラケット208が固定されており、ブラケット208にボルト・ナット198が設けられている。また、第2バー部156の縦板部156Bには、補助バー部180に重ねてブラケット210がボルト・ナット182で固定されている。
【0127】
また、図10に示すように、ブラケット210には、小ねじ188でブラケット212が固定されており、ブラケット212にはボルト・ナット192が設けられている。そして、ボルト・ナット192のボルト軸部とボルト・ナット198のボルト軸部の間に、引張コイルばね200が掛け渡されている。変形例における引張りコイルばね200の機能は、上述した実施形態と同様なので、その説明については省略する。
【0128】
変形例において、第1当接部158Aが操作ピン60または操作ピン68(図3図4)で蹴られると、作動子140は、主として、単一のシャフト202の図10における左側の細径部を含む第1回転支持部204で回転支持されて回転し、過速スイッチ140が作動する。
【0129】
また、第2当接部160Aが操作ボルト368(図3図5)で蹴られると、作動子140は、主として、単一のシャフト202の図10における右側の細径部を含む第2回転支持部206で回転支持されて回転し、過速スイッチ140が作動する。
【0130】
第1当接部158Aと第2当接部160Aの各々に対応させて、第1回転支持部204と第2回転支持部206をそれぞれ設けたことによる作用、効果は上記した実施形態と同様なので、その説明については省略する。
【0131】
以上、本発明に係るエレベータ用調速装置を実施形態およびその変形例に基いて説明してきたが、本発明は上記した形態に限らないことは勿論であり、例えば、以下のような形態としても構わない。
【0132】
(1)上記実施形態では、図8(b)に示すように、第1バー部154も第1シャフト176を含む第1回転支持部172によって、軸心AX周りに回転支持されている。すなわち、第1バー部154の回転支持部が第1当接部158Aの回転支持部172と共通する構成としたが、以下のようにして、第1バー部154の回転支持部を第2当接部160Aの第2回転支持部174と共通する構成としても構わない。
【0133】
図8に示す補助バー部180を上方に延長し、その上端部を屈曲させて、係合部154Aと同様の係合部を形成する。そして、当該係合部に凸部146Bが係合するような位置にマイクロスイッチ142を設置するのである。この場合、第1バー部154の第1シャフト176よりも上側部分は不要となるので切除する。
【0134】
このようにした場合、延長した補助バー部が作動子を構成する第1バー部となり、切除した第1バー部が第1当接部158Aを第1回転支持部172で支持するための補助バー部となる。
【0135】
このように、第1バー部が軸心AX周りに回転支持される構成とする場合、第1バー部の回転支持部を、第1当接部158Aを回転支持する第1回転支持部172と第2当接部160Aを回転支持する第2回転支持部174のいずれか一方と共通する構成とすることができる。
【0136】
(2)上記実施形態では、第1バー部154を軸心AX周りに回転支持する構成としたが(図8(b))、第1バー部154は、必ずしも回転支持する必要はなく、例えば、図11に示す他の変形例のようにしても構わない。図11は、図8(b)に倣い、他の変形例における過速スイッチを部分的に切断して表した図である。
【0137】
なお、図11に示す他の変形例において、図8(b)に示す実施形態と実質的に同じ構成要素については、同一の符号を付して、その説明については省略し、以下、異なる部分を中心に説明する。
【0138】
先ず、第1バー部220であるが、第1バー部220も第1バー部154(図8(b)と同様、一端部にアクチュエータ146の凸部146Bと係合する係合部220Aが形成されており、他端部が第2バー部156と接続されている。しかしながら、第1バー部220は、第1シャフト222によって回転支持されていない。第1シャフト222は、第1シャフト176(図8(b))と同様、太径部の両端部の各々に細径部が延出されてなる段付きのシャフトであるが、第1バー部220は、当該太径部の径よりも十分に大きなシャフト挿通孔220Bを有していて、シャフト挿通孔220Bに第1バー部220(の太径部)が挿通されている。よって、第1バー部220は、軸心AXに設けられた部材(第1シャフト222)によって、回転支持されていない。
【0139】
他の変形例における第1回転支持部224は、実施形態の第2回転支持部174(図8(b))と同様に構成されている。すなわち、補助バー部226が設けられている。補助バー部226は、その一端部が第2バー部156の第1横板部156Aに、T字状に交差する姿勢で接続されている。
【0140】
補助バー部226の他端部には、第1シャフト222の前記細径部に対応する貫通孔が開設されている。補助バー部226に開設された貫通孔とブラケット170の第1縦板部170Aに開設された貫通孔の各々には、第1シャフト222の左右の細径部の各々が、図11に示すように挿入されている。図11において、図11において左側の細径部には、円筒径をしたスリーブ178嵌め込まれていて、当該細径部の先端部部分には、抜け止めのためのEリングが嵌め込まれている。
【0141】
第1シャフト222の軸心は、軸心AXと一致している。よって、作動子152は、第1回転支持部224で、軸心AX周りに回転自在に支持されていることとなる。
【0142】
(3)上記実施形態では、第2バー部156の両端部の各々に、軸心AXと交差する(本例では、直交する)姿勢で設けられた棒体である第1ボルト158、第2ボルト160の下端部(第1当接部158A、第2当接部160A)が、操作ピン60,68、操作ボルト368によって蹴られる構成としたが、これに限らず、他の棒体、例えば、丸棒、角棒などの棒材を接合し、当該棒材が操作ピン60,68、操作ボルト368で蹴られる構成としても構わない。
【0143】
この場合、第1ボルト158、第2ボルト160の両方を前記棒材に代えても、第1ボルト158と第2ボルト160のいずれか一方を前記棒材に代えても構わない。また、当該棒材の下端部(先端部)を半球状に加工して、当接部となる半球部としても構わない。
【0144】
(4)上記実施形態では、過速スイッチ140の作動子152を蹴って、過速スイッチ140を作動させる操作体部として、錘56,64、錘364に取り付けた操作ピン60,68、操作ボルト368を用いたが、これに限らず、例えば、錘56,64、錘364で直接、作動子152を蹴る構成としても構わない。要は、振子54,62、振子362の一部で作動子152を蹴る構成とすることができるのである。
【0145】
(5)上記実施形態では、過速スイッチ140は、多段シャフト38の軸心の真上に設置したが、過速スイッチ140の設置位置は、これに限らず、例えば、前記軸心の真横でも、真横と真上の間でも構わない。
【0146】
(6)上記実施形態では、過速スイッチ140のスイッチ本体としてマイクロスイッチ142を用いたが、スイッチ本体には、これに限らず、例えば、リミットスイッチ等の他の種類のスイッチを用いても構わない。要は、第1当接部と第2当接部を含む作動子が蹴られることによって、ON・OFF状態が切り換わるようなスイッチであれば良いのである。
【0147】
(7)上記実施形態では、多段シャフト38の回転を中空シャフト94に断続するクラッチとして、ワンウェイクラッチ96を用いたが、他のクラッチ、例えば、自転車の後輪ギヤと後輪軸の間に配置されるようなフリーギヤを用いても構わない。フリーギヤは、内歯爪車と爪ばねの付いた爪が設けられたボスとを含み、ボスが正転すると爪が内歯爪車の歯に係合して、ボスの回転が内歯爪車に伝達され、ボスが逆転すると爪が内歯爪車の歯の上を滑って動力を伝えない構成とされた、クラッチの一種である。
【産業上の利用可能性】
【0148】
本発明に係るエレベータ用調速装置は、例えば、かごの上昇速度と下降速度が異なるエレベータの調速装置として好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0149】
26 ガバナシーブ
38 多段シャフト
54、62、354、362 振子
60、68 操作ピン
94 中空シャフト
96 ワンウェイクラッチ
140 過速スイッチ
146 アクチュエータ
152 作動子
154、220 第1バー部
154A 係合部
156 第2バー部
158A 第1当接部
160A 第2当接部
172、204、224 第1回転支持部
174、206 第2回転支持部
368 操作ボルト
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【手続補正書】
【提出日】2022-01-31
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項1
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項1】
かごの昇降に伴って走行するガバナロープが掛けられ、当該ガバナロープの走行によって回転されるガバナシーブと、
前記ガバナシーブと一体的に回転する第1の回転軸と、
前記第1の回転軸の回転に伴い当該第1の回転軸の周りに公転しながら遠心力によって揺動する第1の振子と、
前記第1の回転軸と同軸上に設けられた第2の回転軸と、
前記第2の回転軸の回転に伴い当該第2の回転軸の周りに公転しながら遠心力によって揺動する第2の振子と、
前記第1の回転軸の回転を前記第2の回転軸に対し、前記かごが上昇して第1の向きに回転する前記第1の回転軸の回転は遮断し、前記かごが下降して前記第1の向きとは反対の第2の向きに回転する前記第1の回転軸の回転は伝達するクラッチと、
アクチュエータと当該アクチュエータと係合する作動子とを含み、前記作動子の前記アクチュエータとの係合状態が解除されることによって作動する過速スイッチと、
を有し、
前記作動子は、
一端部に前記アクチュエータと係合する係合部が形成された第1バー部と、
両端部の各々に、第1当接部と第2当接部がそれぞれ設けられ、前記第1バー部の他端部に当該第1バー部とT字状に交差する姿勢で接続された第2バー部と、
前記第1当接部の、前記第1バー部の長さ方向中間部で当該第1バー部と交差する軸心周りの回転を支持する第1回転支持部と、
前記第2当接部の、前記軸心周りの回転を支持し、前記第1回転支持部とは前記軸心方向異なる位置に設けられた第2回転支持部と、
を含み、
前記第1の向きに回転する前記ガバナシーブの回転速度が第1の過速度に達すると、前記第1回転支持部で回転支持された前記第1当接部が前記第1の振子によって蹴られて、前記軸心周りに回転し、前記第2バー部を介して前記第1バー部が前記軸心周りに回転することにより前記係合部の前記アクチュエータとの係合が解除され、
前記第2の向きに回転する前記ガバナシーブの回転速度が前記第1の過速度よりも遅い第2の過速度に達すると、前記第2回転支持部で回転支持された前記第2当接部が前記第2の振子によって蹴られて、前記軸心周りに回転し、前記第2バー部を介して前記第1バー部が前記軸心周りに回転することにより前記係合部の前記アクチュエータとの係合が解除されることを特徴とするエレベータ用調速装置。