(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022101199
(43)【公開日】2022-07-06
(54)【発明の名称】半導体装置及び設計方法
(51)【国際特許分類】
H01L 31/02 20060101AFI20220629BHJP
H01L 31/10 20060101ALI20220629BHJP
【FI】
H01L31/02 B
H01L31/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020215636
(22)【出願日】2020-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】591230295
【氏名又は名称】NTTエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】石橋 忠夫
(72)【発明者】
【氏名】清水 誠
(72)【発明者】
【氏名】丸山 和宏
【テーマコード(参考)】
5F849
【Fターム(参考)】
5F849AA01
5F849BA17
5F849BA26
5F849JA03
5F849JA20
5F849LA04
5F849XB02
5F849XB08
5F849XB33
(57)【要約】 (修正有)
【課題】入射する光パワーの電波吸収体の透過にかかわる問題を回避でき、不要な電磁波伝搬モードを低減でき、且つ透過光電力ばらつきを低減できる半導体装置及びその設計方法を提供する。
【解決手段】半導体装置101のフォトダイオードチップ13は、受光部及びテラヘルツの電気信号を伝送する伝送線を有する。抵抗体11は、受光部が抵抗体11の方向へ向くようにフォトダイオードチップ13を搭載する搭載面14と、外部からの光を受光部へ反射する反射面12と、電気信号によりフォトダイオードチップ13内に発生する電磁波伝搬モードを低減する電波吸収機能と、を有する。電波吸収機能は、電気信号の周波数で定まる、抵抗体11の素材の電気抵抗率、及び抵抗体11の搭載面14と、これと対峙する裏面との厚みDで調整されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトダイオードチップ及びテーブル状の抵抗体を備える半導体装置であって、
前記フォトダイオードチップは、受光部及びテラヘルツの電気信号を伝送する伝送線を有し、
前記抵抗体は、前記受光部が前記抵抗体の方向へ向くように前記フォトダイオードチップを搭載する搭載面と、外部からの光を前記受光部へ反射する反射面と、前記電気信号により前記フォトダイオードチップ内に発生する電磁波伝搬モードを低減する電波吸収機能と、を有し、
前記電波吸収機能は、前記電気信号の周波数で定まる、前記抵抗体の素材の電気抵抗率、及び前記抵抗体の前記搭載面と前記搭載面に対峙する裏面との厚みで調整されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記搭載面側から前記抵抗体を見たとき、
前記反射面は、前記搭載面の四隅の頂点を結んだ領域の外側にあることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記搭載面側から前記抵抗体を見たとき、
前記反射面は、前記搭載面の四隅の頂点を結んだ領域の内側にあることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記抵抗体の前記搭載面の四隅の頂点を結んだ領域のうち、前記フォトダイオードチップを搭載する部分以外の領域を覆う上側金属面と、
前記抵抗体の前記裏面を覆う下側金属面と、
をさらに備え、
前記抵抗体は、前記上側金属面と前記下側金属面とを接続するスルーホールが形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の半導体装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかの半導体装置の設計方法であって、
前記電気信号の周波数から前記電磁波伝搬モードの波長を計算すること、
前記抵抗体の前記厚みを前記電磁波伝搬モードの波長に基づいて決定すること、
前記抵抗体と同じ厚みの素材に前記フォトダイオードチップと同じ素材を前記厚み方向に接続したモデルにおいて、前記抵抗体と同じ素材の導電率を変化させ、前記フォトダイオードチップと同じ素材から前記抵抗体と同じ素材への電磁波が、前記抵抗体と同じ素材内で共振する共振点をみつけること、
前記共振点が前記電気信号の周波数からずれている場合、前記抵抗体の厚みを調整し、前記共振点を見つけることを再度行うこと、及び
前記共振点での前記抵抗体と同じ素材の導電率を前記抵抗体の導電率に決定すること
を特徴とする設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フォトダイオードのパッケージング用部品である半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
[定義]
本明細書では、300GHz以上、おおよそ10THz以下の周波数帯を「テラヘルツ(THz)周波数帯」、もしくは「THz帯」、その周波数帯の電磁波を「THz波」と記載する。
【0003】
近年、THz波ワイヤレス通信の研究開発が進んでいるが、この他にも、THz波イメージングを含む様々な応用が注目されている。これは、THz波はマイクロ波よりも波長が短く、適度な透過性を保ちながら空間分解能が向上すること、指紋スペクトルの観測による化字物質の同定が可能なこと、などといった特徴があることによる。
【0004】
ここで、THz周波数帯域のスペクトルを観測するには、フォトダイオードを用いたTHz発生デバイス(フォトミキサ)の使用が知られている(例えば、非特許文献1を参照。)。これは、フォトミキサにおけるTHz発生は、2波長からなる光ビート信号の光電気変換を利用するので、広い周波数範囲のTHz波を発生できるからである。一つの導波管帯域の全域をカバーする出力周波数範囲を持つモジュールも、すでに販売されている。もちろん、THz波の出力レベルの高さだけを求めるならば、周波数逓倍器を用いた手法の方が優れているかもしれないが、周波数帯域の広さの面でフォトミキサは不可欠の技術となっている。
【0005】
図13は、フォトミキサモジュール300の構成を説明する図である。フォトミキサモジュール300は、ファイバ入力系51、レンズ光学系52、フォトダイオードチップ13、これへの光導入機構(反射ミラー53とテーブル55)、電気出力系(ワイヤ58a、伝送ライン58b、導波管カプラ58c)、及び金属筐体57を備える。金属筐体57の形状により矩形型導波管59、及びTHz波出力ポート60が形成される。
【0006】
フォトミキサモジュール300の例では、レンズ光学系52を通過した光ビームは、反射ミラー53を介してフォトダイオードチップ13の受光部に「裏面光入射」の形式で集光される。フォトダイオードチップ13で発生したTHz信号は、チップ13の伝送ラインを伝搬し、チップ13上のワイヤリングパッドを介して、石英基板上の伝送ライン58b、さらに導波管カプラ58cへ伝搬され、矩形型導波管59から電磁波として放射される。この電磁波は、矩形型導波管59を伝搬し、出力ポート60から出力される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】若月ら、「UTC-PDを用いたテラヘルツフォトミキサモジュールの開発」、NTT技術ジャーナル、2011年12月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
扱う信号の周波数が高くなるにつれ、次のような問題が顕在化する。THz信号が伝送ライン中の不連続部分に関連して不要な電磁波伝搬モードを発生させ、これがフォトダイオードチップ内の共振状態を形成する。この結果、「主伝送ラインからのTHz出力に周波数リップルが生じてしまう」という問題が発生する。
【0010】
この不要な電磁波伝搬モ-ドの発生の原因の一つは次の通りである。本来、信号の周波数上昇に応じ、フォトダイオードチップ内のパタンサイズや基板厚さを適切にスケールダウンさせる必要がある。しかし、現実はそのようになっていない。例えば、InP中において300GHzのλ/4は約80μmである。しかし、フォトダイオードチップのサイズは通常300~600μm程度であり、基板厚、及び信号とグランドを合わせた場合のパッドサイズはλ/4より大きい。例えば、100μmオーダのフォトダイオードチップの製作で前記問題を解決する可能性もあるが、小型化したゆえにフォトダイオードチップの実装作業が困難になるという新たな課題も生まれる。
【0011】
一方、不要な電磁波伝搬モードの発生という現象を抑制するために、フォトダイオードチップの周辺に電波吸収体を配置する、といった手法もある。ただし、この手法は、電波吸収体の配置位置について高い精度が求められ、製造時のばらつきにより常に十分な効果を実現できるとは限らない。
【0012】
また、不要な電磁波伝搬モードの発生という現象を抑制するために、100GHz程度以下の周波数帯では、電波吸収体の上に半導体増幅器チップを直接搭載する構造が知られている(例えば、特許文献1を参照。)。この構造をTHz帯のフォトミキサモジュールに応用し、電波吸収体の上に直接フォトダイオードチップを搭載して、不要な電磁波伝搬モードの影響を抑制する可能性はある。
【0013】
しかしながら、そのまま300GHz以上で動作するTHz帯フォトダイオード構造に適用することはできない。フォトダイオードの場合、光信号光ビーム入射パスの確保する必要があるからである。
【0014】
典型的な裏面光入力タイプのフォトダイオードチップの場合、電波吸収体に、THz電磁波は吸収するが、光は透過する、という材料が求められる。しかし、現在のところ、その材料に対し、どのようなパラメータで電波吸収特性を持たせるのかは確立されていない。
また、仮に、その様な材料が選択されたとしても、チップ裏面と電波吸収体との界面接着層(誘電体層)の厚みばらつきで、干渉縞効果に伴う透過光電力のばらつきが出ることが想定される。現実の実装工程で当該誘電体層の厚さを光波長の十分の1オーダ以下に厳密に管理するのは困難である。
【0015】
つまり、THz帯の電波を発生させるフォトミキサモジュールにおいて出力する電波に周波数リップルが発生する現象を抑えるための電波吸収体には、THz電磁波は吸収するが、光は透過するという材料や電波吸収特性を制御するパラメータを見出す技術手法が確立されていないこと、及びチップ裏面と電波吸収体との界面接着層(誘電体層)の厚みの製造ばらつきによる透過光電力のばらつきを低減することが困難という課題があった。
【0016】
そこで、本発明は、上記課題を解決するために、前述した入射する光パワーの電波吸収体の透過にかかわる問題を回避でき、不要な電磁波伝搬モードを低減でき、且つ透過光電力ばらつきを低減できる半導体装置及びその設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、本発明に係る半導体装置は、光が通過する経路を確保し、電波吸収体(抵抗体)の特定のパラメータを調整することで所望の電磁波伝搬モードを低減することとした。
【0018】
具体的には、本発明に係る半導体装置は、フォトダイオードチップ及びテーブル状の抵抗体を備える半導体装置であって、
前記フォトダイオードチップは、受光部及びテラヘルツの電気信号を伝送する伝送線を有し、
前記抵抗体は、前記受光部が前記抵抗体の方向へ向くように前記フォトダイオードチップを搭載する搭載面と、外部からの光を前記受光部へ反射する反射面と、前記電気信号により前記フォトダイオードチップ内に発生する電磁波伝搬モードを低減する電波吸収機能と、を有し、
前記電波吸収機能は、前記電気信号の周波数で定まる、前記抵抗体の素材の電気抵抗率、及び前記抵抗体の前記搭載面と前記搭載面に対峙する裏面との厚みで調整されていることを特徴とする。
【0019】
本半導体装置は、光が抵抗体内部を透過しないような抵抗体の形状としている。本半導体装置は、光が抵抗体内部を透過しないので光パワーの電波吸収体の透過にかかわる問題を回避できる。すなわち、本半導体装置は、チップ裏面と抵抗体との界面接着層(誘電体層)を光が通らないので干渉縞効果に伴う透過光電力のばらつきを低減できる。また、本半導体装置は、抵抗体が所望の電磁波伝搬モードを高効率で吸収できるように特定のパラメータ(抵抗体の厚みと電気抵抗率)が調整されている。
【0020】
ここで、特定のパラメータは、次のように決定する。
本発明に係る設計方法は、
前記電気信号の周波数(動作中心周波数:fc)から前記電磁波伝搬モードの波長を計算すること、
前記抵抗体の厚み(D)を前記電磁波伝搬モードの波長に基づいて決定すること、
前記抵抗体と同じ厚みの素材に前記フォトダイオードチップと同じ素材を前記厚み方向に接続したモデルにおいて、前記抵抗体と同じ素材の導電率を変化させ、前記フォトダイオードチップと同じ素材から前記抵抗体と同じ素材へ電磁波が、前記抵抗体と同じ素材内で共振する共振点をみつけること、
前記共振点が前記電気信号の周波数(動作中心周波数:fc)からずれている場合、前記抵抗体の厚み(D)を調整し、前記共振点を見つけることを再度行うこと、及び
前記共振点での前記抵抗体と同じ素材の導電率を前記抵抗体の導電率に決定すること
を特徴とする。
【0021】
なお、以下は、前記抵抗体の厚みの決定例である。
前記抵抗体の裏面が空気である場合、前記抵抗体の厚みを、前記電磁波伝搬モードの波長のx/2(xは1以上の整数)とすることができる。
一方、前記抵抗体の裏面が金属(下側金属面)である場合、前記抵抗体の厚みを、前記電磁波伝搬モードの波長のy/4(yは1以上の奇数)とすることができる。
【0022】
従って、本発明は、入射する光パワーの透過光電力のばらつきを回避でき、不要な電磁波伝搬モードを低減できる半導体装置及びその設計方法を提供することができる。
【0023】
前記抵抗体は次の形状であることが例示される。
前記搭載面側から前記抵抗体を見たとき、前記反射面は、前記搭載面の四隅の頂点を結んだ領域の外側にあること、あるいは、前記反射面は、前記搭載面の四隅の頂点を結んだ領域の内側にあることを特徴とする。
【0024】
また、前記半導体装置は、
前記抵抗体の前記搭載面の四隅の頂点を結んだ領域のうち、前記フォトダイオードチップを搭載する部分以外の領域を覆う上側金属面と、
前記抵抗体の前記裏面を覆う下側金属面と、
をさらに備え、
前記抵抗体は、前記上側金属面と前記下側金属面とを接続するスルーホールが形成されていてもよい。
【0025】
なお、上記各発明は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、入射する光パワーの透過光電力のばらつきを回避でき、不要な電磁波伝搬モードを低減できる半導体装置及びその設計方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明に係る半導体装置の抵抗体を説明する図である。
【
図2】本発明に係る半導体装置の抵抗体を説明する図である。
【
図3】本発明に係る半導体装置の抵抗体を説明する図である。
【
図4】本発明に係る半導体装置の抵抗体を説明する図である。
【
図5】本発明に係る半導体装置の抵抗体を説明する図である。
【
図6】本発明に係る半導体装置の抵抗体を説明する図である。
【
図7】本発明に係る設計方法を説明するフローチャートである。
【
図8】本発明に係る設計方法を説明するイメージ図である。
【
図9】本発明に係る設計方法を説明するイメージ図である。
【
図10】本発明に係る半導体装置のTHz反射をシミュレーションした結果である。
【
図11】本発明に係る半導体装置のTHz反射をシミュレーションした結果である。
【
図12】本発明に係る半導体装置のTHz反射をシミュレーションした結果である。
【
図13】フォトミキサモジュールを説明する図である。
【
図14】フォトミキサモジュールを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施例であり、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0029】
(実施形態1)
図14は、本発明の実施形態のフォトミキサモジュール301を説明する図である。フォトミキサモジュール301は、フォトダイオードチップ13及びテーブル状の抵抗体11を備える半導体装置101を備える。
【0030】
図1及び
図2は、それぞれ半導体装置101を説明する斜視図及び側面図である。半導体装置101は、抵抗体11とフォトダイオードチップ13を備える。
フォトダイオードチップ13は、受光部及びテラヘルツの電気信号を伝送する伝送線を有する。
抵抗体11は、前記受光部が抵抗体11の方向へ向くようにフォトダイオードチップ13を搭載する搭載面14と、外部からの光Lを前記受光部へ反射する反射面12と、前記電気信号によりフォトダイオードチップ13内に発生する電磁波伝搬モードを低減する電波吸収機能と、を有する。
前記電波吸収機能は、前記電気信号の周波数で定まる、抵抗体11の素材の電気抵抗率、及び抵抗体11の搭載面14と、これと対峙する裏面15との厚みDで調整されていることを特徴とする。
【0031】
なお、各図面において、“D”を抵抗体11の厚み、“W”を抵抗体11の幅(裏面15の幅)とする。フォトダイオードチップ13は、流動性の接着材で抵抗体11の搭載面14上に固定される。このとき、安定な接着を確保するために、幅Wとフォトダイオードチップ13のX方向の幅を同程度にすることが望ましい。厚みDについては後述する。
【0032】
抵抗体11は、電波吸収体として機能する。抵抗体11の材料は、例えばシリコン(Si)である。Siは、機械強度が必要十分であり、熱伝導性がよく、加工が容易であるという特徴を持つ。ここでは、電波吸収体をとしてSiを説明するが、「機械強度、熱伝導性、加工の容易さ」を備えていれば、他の半導体材料(例えば、GsAsやSiCなど)でも構わない。
【0033】
本実施形態の抵抗体11は台形の底面を持つ四角柱である。抵抗体11は、
図1及び
図2に示すように、搭載面14、反射面12、及び裏面15を有する。フォトダイオードチップ13は、受光部が搭載面14で覆われないように位置決めされ、搭載面14に非導電性エポキシ系接着材などで固定される。すなわち、フォトダイオードチップ13の受光部は反射面12の上方(z方向)に位置している。
【0034】
光Lは、反射面12で反射され、フォトダイオードチップ13の受光部へ直接入射される。つまり、半導体装置101は「裏面光入射」型である。フォトダイオードチップ13の裏面は、通常の無反射コーティングが施される。反射面12は、金属ではなく誘電体多層膜ミラーが望ましい。
【0035】
反射面12は、次の(1)から(3)の方法で形成できる。
(1)平板のSiウエハの端面を斜めに機械研磨する。
(2)表面をミラー研磨したSiウエハを鉛直から斜め方向にダイシングして切り出す。
(3)化学エッチングで自然に形成される「Si結晶の(111)ファセット面」を利用する。
いずれの方法も最後に反射面12に誘電体多層膜高反射膜を形成する。
【0036】
ここで、
図1及び
図2のように、搭載面14側から抵抗体11を見たとき、反射面12は、搭載面14の四隅の頂点を結んだ領域の外側にある。
【0037】
本実施形態の様に、「搭載面14の外周に反射面12を配置」する場合、フォトダイオードチップの受光部の位置が、チップの光入力側(-X側)に寄らざるを得ない。しかしながら、受光部をこの位置に配置する大きな不都合は生じない。これは、
図14に示されるように、典型的な導波管に実装されるTHzフォトミキサの配置のように、その出力回路を構成する上で制約にならないからである。
【0038】
つまり、ほぼフォトダイオードチップ13の面に平行して導入される光ビームLは、反射面12で反射し、フォトダイオードチップ13の裏面からしかるべき位置に置かれた受光部に導入される。そして、フォトダイオードチップ13は、電気信号を右側からワイヤ58aへ出力する。
【0039】
[抵抗体11のパラメータの決め方]
抵抗体11は厚さDと導電率σが主要なパラメータである。
図7に説明する様に、簡便法で当該パラメータを決定することができる。
当該方法は、半導体装置101の設計方法であって、
前記電気信号の周波数(動作中心周波数:fc)から前記電磁波伝搬モードの波長(λc)を計算すること(ステップS01)、
抵抗体11の厚み(D)の初期値としてλc/2(裏面が空気の場合)又はλc/4(裏面が金属の場合)を設定すること(ステップS02)、
抵抗体11と同じ厚みの素材41にフォトダイオードチップ13と同じ素材43を前記厚み方向に接続したモデルにおいて、素材41の導電率(α)を変化させ、素材43から素材41への電磁波が素材41内で共振する共振点をみつけること(ステップS03)、 前記共振点が前記電気信号の周波数(動作中心周波数:fc)からずれている場合(ステップS04にて“No”)、前記抵抗体の厚み(D)を調整し(ステップS05)、ステップS03の前記共振点を見つけることを再度行うこと、及び
前記共振点が前記電気信号の周波数(動作中心周波数:fc)と略一致している場合(ステップS04にて“Yes”)、前記共振点での素材41の導電率を抵抗体11の導電率に決定し、前記抵抗体の厚み(D)と導電率(α)のセットを決定すること(ステップ06)、
を特徴とする。
【0040】
本実施形態では、フォトダイオードチップ13の素材(例えばInP)から抵抗体11の素材(例えばSi)へ入射されたTHz波の共振点でパラメータを決定する例を説明する。
図8及び
図9は、抵抗体11(抵抗体と同じ素材41)内でのTHz波の共振(電磁波伝搬モード)の様子を説明する図である。
図8は抵抗体11(抵抗体と同じ素材41)の裏面が空気の場合、
図9は抵抗体11(抵抗体と同じ素材41)の裏面が金属である場合を説明している。具体的には、
図8及び
図9は、フォトダイオードの媒質がInPで、抵抗体がSiのとした構造で、THz波の伝搬の様子を模式的に描いたものである。InP側へのTHz反射が小さいほど、抵抗体11での電波吸収電力が大きく、InP中の共振が抑えられる状態になることを意味する。
【0041】
(ステップS01)
フォトダイオードチップ13で発生する電気信号(フォトミキサモジュール301から出力させるTHz波)の周波数ν(前述の動作中心周波数fc)から抵抗体11内を伝搬するTHz波(電磁波伝搬モード)の波長λ(前述の波長λc)を次式で計算する。
λ=c/νn
ただし、nは抵抗体11の材料の屈折率である。
【0042】
(ステップS02)
抵抗体11の厚みDを、導電率をゼロとした場合の波長λに基づいて決定する。決定手法の例を示す。
抵抗体11の裏面が空気である場合(
図8参照)、
D=λ×x/2(xは1以上の整数)とする。
抵抗体11の裏面が金属である場合(
図9参照)、
D=λ×y/4(yは1以上の奇数)とする。
一般には、x=1、y=1とするのが帯域と特性の面で好ましい。
なお、上のDの初期値は、PDの基板材料(典型的にはInP)の屈折率が抵抗体(典型的にはSiやSiCなど)の屈折率よりも大きい場合であり、もしそれぞれの屈折率が逆の大小関係にあれば、x/2(xは1以上の整数)とy/4(yは1以上の奇数)は互いに入れ替えた関係でDを与えることになる。これは、PDのと抵抗体の界面の反射波の位相が180°異なるからである。
【0043】
(ステップS03)
抵抗体11と同じ素材、且つステップS02で計算の初期値として決定した厚みDと同じ厚みの素材41とフォトダイオードチップ13と同じ素材43とを、前記厚み方向に接続したモデルを考える。当該モデルにおいて、素材41の導電率σを変化させ、素材43から素材41への電磁波48が、素材41内で共振する共振点をみつける。共振点の見つけ方は
図10及び
図11で説明する。
【0044】
図10及び
図11は、上述した方法で取得したTHz反射の周波数特性である。
図10と
図11は、それぞれ、裏面金属が無い場合(
図8)とある場合(
図9)について、計算した反射率の周波数特性である。ここでは、300GHzの動作を想定している。当該周波数特性は、InP側(素材43側)を広く続く媒質とし、Dの初期値は上のステップに従いx=1、y=1としている。後述のように、Si層(素材41)の厚さDを微調整すれば容易に共振点を所望の周波数に合わせることができる。
図8の場合は、d
Si=170μm、
図9の場合をd
Si=94μmの値で一定とし、導電率σ
Siをパラメータとして計算したものである。いずれの場合も、明瞭な共振構造を持ち、σ
Siと周波数fに依存してある値で最小のTHz反射(最大のTHz吸収)となることがわかる。例えば、
図10であれば、導電率σ
Si=100(Ω・m)
-1の場合、300GHzを中心に、-20dBのTHz反射を確保する帯域は90GHz程度と十分に広い。つまり、
図10や
図11の周波数特性からTHz反射を最小とする導電率の値(
図10の場合、σ
Si=100(Ω・m)
-1、
図11の場合、σ
Si=160(Ω・m)
-1)を見つけ出すことができる。
【0045】
ちなみに、導電率が小さなSi中の1/4波長は、300GHzで72μmである。
図9の裏面金属がある場合、完全反射であれば厚さDが1/4波長で最小の反射、
図8の裏面金属がない場合、完全反射であれば原理的に厚さDが1/2波長で最小の反射となる。実際には、Siは複素屈折率を持ち、また完全反射状態ではないので、本計算は厚みdSiを
図8の場合、170μm、
図9の場合、94μmに最適化された結果である。
【0046】
一例として、300GHz帯の動作を想定した場合について、σ
Siの変化に対して「THz反射の共振周波数における最小値」がどの様に変化するのかについて説明する。この検討は、THz反射を抑える効果が得られるσ
Siの範囲を決める目安となる。
図12は、裏面金属が無い場合(
図8の構成)について計算した、THz反射の最小値のσ
Si依存性を説明する図である。THz反射の最小を与える導電率σ
Siは 90~95(Ω・m)
-1付近にある。一方、THz反射を-20dB以下とする導電率σ
Siは、65~135(Ω・m)
-1である。このように所定のTHz反射値を閾値とすれば導電率の範囲を広くとれるので、実際の半導体装置の実装において、最適化を目指すよりも比較的容易に実現できるものと推測される。
【0047】
(ステップS04)
ステップS03で見出した共振点と動作中心周波数fcとを比較する。
【0048】
(ステップS05)
前記共振点と動作中心周波数fcとが異なっている場合(ステップS04で“No”)、Si層(素材41)の厚さDを微調整し、再度ステップS03を行う。
【0049】
(ステップS06)
前記共振点と動作中心周波数fcとが略一致している場合(ステップS04で“Yes”)、前述の厚さDを抵抗体11の厚みに決定し、前記共振点での素材41の導電率σを抵抗体11の導電率に決定する。
【0050】
このように、抵抗体11の厚みDと抵抗体11の材料の導電率を調整することで、THzフォトミキサや超高速フォトダイオードの出力に生じる周波数リップルなどを抑制することができる。
【0051】
なお、抵抗体11の導電率σでTHz反射を制御できる理由は次の通りである。
導電性Siの周波数特性は次式のように表現できる。
εSi(f)=εSi0-j・σSi/(2πf・ε0)
ここで、εSi(f)は複素誘電率、fは媒体内を伝搬する電磁波の周波数、εSi0はf=0Hzでのシリコンの誘電率、ε0は真空の誘電率、σSiはSiの導電率である。
上式のように、虚数項の大きさに従いTHz波の伝搬ロスが決まり、InPからのTHz入射波に対する反射率はεSi(f)全体で決まる。最適な導電性Siの厚さが最初から求められないのは、波の透過反射特性に対するε0の虚数項の影響が大きいことが理由である。
つまり、本発明の趣旨は、導電率σを適切に選ぶことにより所望のTHz波(周波数f)の反射率が小さくなるSiの導電率を見つけ出し、抵抗体11の導電率とすることで電磁波伝搬モードを低減することである。本手法は、実験を行わずに電磁波伝搬モードを低減可能な導電率を発見できることがメリットである。
なお、Siの導電率σはn型又はp型のドーパントをSiにドーピングすることで調整できる。
【0052】
(実施形態2)
図3及び
図4は、それぞれ本実施形態の半導体装置102を説明する斜視図及び側面図である。本実施形態では、実施形態1との相違点のみを説明する。半導体装置102は、搭載面14側から抵抗体11を見たとき、反射面12が、搭載面14の四隅の頂点を結んだ領域の内側にあることが、半導体装置101と相違する。本実施形態の抵抗体11は、底面が長方形である四角柱であり、その一部に切り欠きがあり、その切り欠きに反射面12が形成された形状である。
【0053】
実施形態1の半導体装置101では、フォトダイオードチップ13内において受光部の位置が制限されていたが、半導体装置102では、受光部の位置は制限されず、フォトダイオードチップ13の中心部に配置することも可能である。半導体装置102であれば、受光部の配置に制限がないため、フォトミキサだけに限らず、より多くの受光デバイスに適用することが可能になる。
【0054】
半導体装置102の反射面12は、前述した(1)と(3)の方法で形成できる。最後に反射面12に誘電体多層膜高反射膜を形成する。
【0055】
半導体装置102の抵抗体11も、
図7で説明した設計方法でパラメータを決定することができる。
抵抗体11の効果は、基本的に実施形態1の説明と同様である。このため、半導体装置102も、THzフォトミキサや超高速フォトダイオードの出力に生じる周波数リップルなどを抑制することができる。
【0056】
(実施形態3)
図5及び
図6は、それぞれ本実施形態の半導体装置103を説明する斜視図(搭載面14側及び裏面15側)である。本実施形態では、実施形態2との相違点のみを説明する。半導体装置103は、抵抗体11の14搭載面の四隅の頂点を結んだ領域のうち、フォトダイオードチップ13を搭載する部分以外の領域を覆う上側金属面36と、
抵抗体11の裏面15を覆う下側金属面37と、
をさらに備え、
抵抗体11は、上側金属面36と下側金属面37とを接続するスルーホール38が形成されていることが、半導体装置102と相違する。
本実施形態の抵抗体11の形状は、実施形態2で説明した形状と同じである。
【0057】
半導体装置103の抵抗体11の製作は、実施形態2の半導体装置102を作成するときにスルーホール38も形成しておく。その後、搭載面14の一部に上側金属面36と裏面15の一部に下側金属面37を形成する。金属面の形成時にスルーホール38にも金属が充填され、上側金属面36と下側金属面37とが導通する。
なお、半導体装置103の抵抗体11も、
図7で説明した設計方法でパラメータを決定することができる。
【0058】
フォトダイオードチップ13はグランドに接続する必要がある。半導体装置103の抵抗体11であれば、グランドである下側金属面37と導通している上側金属面36がフォトダイオードチップ13の近傍にあるので、フォトダイオードチップ13を可能な限り短い距離でグランドへ接続できる。
【0059】
抵抗体11の効果は、基本的に実施形態1及び2と同様である。このため、半導体装置103も、THzフォトミキサや超高速フォトダイオードの出力に生じる周波数リップルなどを抑制することができる。
フォトダイオードチップ13の上面には、通常、グランド金属パタンが配置される。半導体装置103は、そのグランド金属パタンをよりグランドに接近して接続することができるので、フォトダイオードチップ13の上面のグランド金属パタンがより効果的に接地できる。この構造も、THzフォトミキサや超高速フォトダイオードの出力に生じる周波数リップルなどを抑制に効果がある。
【0060】
(発明の効果)
本発明は、THzフォトミキサや高速広帯域フォトダイオードの出力に、チップ内の共振に伴う周波数リップルが生じてしまう、という問題を抑制するための技術である。本発明の半導体装置は、電波吸収体(抵抗体)の上にフォトダイオードチップを直接搭載した効果的な電波吸収配置、且つ簡便な構造である。さらに、本発明の半導体装置は、光ビームの入射パスも確保できる構造である。抵抗体(電波吸収体)は、典型的にはSiであり、機械強度.熱伝導性、加工の容易さといった面で、従来の金属やセラミクスと比ベて遜色はなく、低コストで製造できる。
【符号の説明】
【0061】
11:抵抗体
12:反射面
13:フォトダイオードチップ
14:搭載面
15:裏面
36:上側金属面
37:下側金属面
38:スルーホール
41:抵抗体と同じ素材
43:フォトダイオードチップと同じ素材
47:裏面金属
48:電磁波(フォトダイオードチップからの不要なTHz波の伝搬)
51:ファイバ入力系
52:レンズ光学系
53:反射ミラー
55:テーブル
57:金属筐体
58a:ワイヤ
58b:伝送ライン
58c:導波管カプラ
59:矩形型導波管
60:出力ポート
101、102、103:半導体装置
300、301:フォトミキサモジュール