(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022101204
(43)【公開日】2022-07-06
(54)【発明の名称】アルコール飲料、アルコール飲料の製造方法、及び、アルコール飲料の香味向上方法
(51)【国際特許分類】
C12G 3/04 20190101AFI20220629BHJP
【FI】
C12G3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020215643
(22)【出願日】2020-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】303040183
【氏名又は名称】サッポロビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】二関 倫太郎
(72)【発明者】
【氏名】高橋 斉
【テーマコード(参考)】
4B115
【Fターム(参考)】
4B115LG02
4B115LH11
(57)【要約】
【課題】心地良い余韻が増強されるとともに、口当たりがやわらかくなっており、さらに、アルコール由来の苦みが低減されたアルコール飲料、アルコール飲料の製造方法、及び、アルコール飲料の香味向上方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明に係るアルコール飲料は、オークラクトンの含有量が1~500ppbである。本発明に係るアルコール飲料の香味向上方法は、オークラクトンの含有量を1~500ppbとする工程を含む。本発明に係るアルコール飲料の香味向上方法は、心地良い余韻を増強させるとともに口当たりをやわらかくし、アルコール由来の苦みを低減するアルコール飲料の香味向上方法であって、前記アルコール飲料のオークラクトンの含有量を1~500ppbとする工程を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オークラクトンの含有量が1~500ppbであるアルコール飲料。
【請求項2】
前記オークラクトンの含有量が5~300ppbである請求項1に記載のアルコール飲料。
【請求項3】
シリンゴールの含有量が1ppb以上である請求項1又は請求項2に記載のアルコール飲料。
【請求項4】
オークラクトンの含有量を1~500ppbとする工程を含むアルコール飲料の製造方法。
【請求項5】
心地良い余韻を増強させるとともに口当たりをやわらかくし、アルコール由来の苦みを低減するアルコール飲料の香味向上方法であって、
前記アルコール飲料のオークラクトンの含有量を1~500ppbとする工程を含むアルコール飲料の香味向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール飲料、アルコール飲料の製造方法、及び、アルコール飲料の香味向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコールを含有するアルコール飲料については、これまでにも、飲料の香味に着目した様々な発明が創出されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、リン酸又はその塩と、クエン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、酒石酸、こはく酸、乳酸、グルコン酸、フマル酸、酢酸及びこれらの塩からなる群から選
択される1以上とを、酸味料として配合したアルコール飲料であって、酸味料の5~55w/w%がリン酸であることを特徴とするアルコール飲料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に係る発明は、所定の酸味料をアルコール飲料に配合することによって、良好な香味と爽快なスッキリ感とを有するアルコール飲料を提供するための発明である。
このように、特許文献1をはじめとして、アルコール飲料の香味を良くするために様々な発明が創出されている。
【0006】
一方、本発明者らは、アルコール飲料の香味について鋭意検討した結果、アルコールの香味によってトップ(飲みはじめ)において引っかかるような感覚を受けてしまい、トップでの口当たりをやわらかく感じないという問題を確認した。
また、本発明者らは、アルコール飲料が呈するアルコール特有の苦み(アルコール由来の苦み)を低減できれば、幅広く消費者に好まれる飲料を提供できるのではないかと考えた。
【0007】
加えて、本発明者らは、アルコール飲料について、ミドル(飲みはじめであるトップの後あたり)からラスト(飲み込むまで)における味の深みや奥行を増強させることによって、心地良い「余韻」を強くすることができれば、味の印象が消費者の記憶に強く残るような、特徴的な飲料にできるのではないかと考えた。
【0008】
そこで、本発明は、心地良い余韻が増強されるとともに、口当たりがやわらかくなり、アルコール由来の苦みが低減されたアルコール飲料、アルコール飲料の製造方法、及び、アルコール飲料の香味向上方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題は、以下の手段により解決することができる。
(1)オークラクトンの含有量が1~500ppbであるアルコール飲料。
(2)前記オークラクトンの含有量が5~300ppbである前記1に記載のアルコール飲料。
(3)シリンゴールの含有量が1ppb以上である前記1又は前記2に記載のアルコール飲料。
(4)オークラクトンの含有量を1~500ppbとする工程を含むアルコール飲料の製造方法。
(5)心地良い余韻を増強させるとともに口当たりをやわらかくし、アルコール由来の苦みを低減するアルコール飲料の香味向上方法であって、前記アルコール飲料のオークラクトンの含有量を1~500ppbとする工程を含むアルコール飲料の香味向上方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るアルコール飲料は、心地良い余韻が増強し、口当たりがやわらかくなり、アルコール由来の苦みが低減している。
本発明に係るアルコール飲料の製造方法は、心地良い余韻が増強し、口当たりがやわらかくなり、アルコール由来の苦みが低減しているアルコール飲料を製造することができる。
本発明に係るアルコール飲料の香味向上方法は、アルコール飲料について、心地良い余韻を増強させ、口当たりをやわらかくし、アルコール由来の苦みを低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係るアルコール飲料、アルコール飲料の製造方法、及び、アルコール飲料の香味向上方法を実施するための形態(本実施形態)について説明する。
【0012】
[アルコール飲料]
本実施形態に係るアルコール飲料は、オークラクトンの含有量が所定範囲内であるアルコール飲料であって、シリンゴールを含有してもよい。
ここで、アルコール飲料とは、アルコールを含有する飲料であり、特定の種類の飲料に限定されないものの、例えば、チューハイテイスト飲料が挙げられる。そして、このチューハイテイスト飲料とは、チューハイのような味わいを呈する飲料、つまり、チューハイの香味が感じられるように香味設計された飲料である。なお、チューハイの香味には、サワーやカクテルといった香味も含まれる。
そして、本実施形態に係るアルコール飲料は、オークラクトンを含有することによって、ミドル(飲みはじめであるトップの後あたり)からラスト(飲み込むまで)における味に深みや奥行が付与(又は増強)される結果、心地良い余韻が強くなることから、時間をかけて熟成させたラガー様の香味のアルコール飲料、特に、チューハイテイスト飲料が好ましく、コクを感じるチューハイテイスト飲料だとより好ましい。
なお、本実施形態に係るアルコール飲料は、香味の関係上、ハイボール(ウイスキーを炭酸水で割ったもの)ではない飲料、つまり、ハイボールを除く態様が好ましい。
以下、本実施形態に係るアルコール飲料を構成する各要素について説明する。
【0013】
(オークラクトン)
オークラクトン(oak lactone)とは、化学式C9H16O2で表され、3-メチルオクタノ-4-ラクトンとも呼ばれる。
そして、本発明者らは、このオークラクトンをアルコール飲料に含有させることによって、アルコール飲料の心地良い余韻を増強させ、口当たりをやわらかくし、アルコール由来の苦みを低減できることを見出した。
なお、オークラクトンにはシス型とトランス型が存在するものの、本発明における効果への影響にほとんど違いはない。そして、本発明でのオークラクトンの含有量では、シス型とトランス型両者の含有量の合計値としている。なお、オークラクトンの含有量としては、シス型とトランス型のどちらも含んでいる必要はなく、どちらか一方だけでもよい。
【0014】
オークラクトンの含有量は、1ppb以上が好ましく、3ppb以上、5ppb以上、10ppb以上、15ppb以上、20ppb以上、25ppb以上、28ppb以上、30ppb以上がより好ましい。オークラクトンの含有量が所定値以上であることによって、アルコール飲料の心地良い余韻を増強させ、口当たりをやわらかくし、アルコール由来の苦みを低減できる。
オークラクトンの含有量は、1000ppb以下が好ましく、800ppb以下、500ppb以下、400ppb以下、320ppb以下、300ppb以下、200ppb以下、150ppb以下、100ppb以下がより好ましい。オークラクトンの含有量が所定値以下であることによって、飲料としての味のバランスを確保することができるとともに、オークラクトンに基づくべたつき(べたつくような香味)が発生してしまうのを回避することができる。
なお、本明細書において、「ppb」という単位は「μg/L」と同義である。
【0015】
(シリンゴール)
シリンゴール(syringol)とは、化学式C8H10O3で表され、芳香族有機化合物の一つであり、1,3-ジメトキシ-2-ヒドロキシベンゼンとも呼ばれる。
そして、本発明者らは、オークラクトンを含有したアルコール飲料にシリンゴールを含有させることによって、オークラクトンに基づく所定の効果(心地良い余韻を増強する、口当たりをやわらかくする)を更に高めるだけでなく、複雑味を増強できることを見出した。
【0016】
シリンゴールの含有量は、1ppb以上が好ましく、3ppb以上、5ppb以上、10ppb以上、15ppb以上、20ppb以上、25ppb以上、28ppb以上、30ppb以上がより好ましい。シリンゴールの含有量が所定値以上であることによって、アルコール飲料の心地良い余韻を更に増強させ、口当たりを更にやわらかくするだけでなく、複雑味を増強できる。
シリンゴールの含有量は、500ppb以下が好ましく、300ppb以下、150ppb以下、140ppb以下、130ppb以下、120ppb以下、110ppb以下、100ppb以下がより好ましい。シリンゴールの含有量が所定値以下であることによって、飲料としての味のバランスを確保することができる。
【0017】
アルコール飲料のオークラクトンとシリンゴールの含有量は、例えば、アルコール飲料を適宜希釈した後、SPME-GC-MS法によって測定することができる。
【0018】
(アルコール)
本実施形態に係るアルコール飲料は、アルコールを含有している。
アルコールは飲用することができるアルコールであればよく、本発明の効果が阻害されない範囲であれば、種類、製法、原料などに限定されることがないが、ウイスキー、ブランデー、スピリッツ類(例えばジン、ウォッカ、ラム等のスピリッツ、及び、原料用アルコール等)、リキュール類、焼酎等、さらには清酒、果実酒、ビール等の醸造酒を使用することができ、これらの中でも、特に、蒸留酒であるウォッカ、原料用アルコールのうちの1種以上が好ましい。アルコールとして、蒸留酒であるウォッカ、原料用アルコールのうちの1種以上を使用することで本発明の課題(アルコール由来の苦み)がより明確化する。
なお、本明細書においてアルコールとは、特に明記しない限り、エタノールのことをいう。
【0019】
(アルコール度数)
本実施形態に係るアルコール飲料のアルコール度数は、1v/v%以上であるのが好ましく、3v/v%以上、4v/v%以上、5v/v%以上、7v/v%以上、9v/v%以上であるのがより好ましい。アルコール度数が所定値以上であることによって、前記した課題(アルコール由来の苦み)がより明確化するとともに、飲みごたえのある飲料とすることができる。
本実施形態に係るアルコール飲料のアルコール度数の上限は特に限定されないが、例えば、20v/v%以下、15v/v%以下、13v/v%以下、12.5v/v%以下、10v/v%以下である。
本実施形態に係るアルコール飲料のアルコール度数は、例えば、国税庁所定分析法(訓令)3清酒3-4アルコール分(振動式密度計・ガスクロマトグラフ分析法)に基づいて測定することができる。
【0020】
(発泡性)
本実施形態に係るアルコール飲料は、炭酸ガスを含有する発泡性のもの、つまり、炭酸飲料であるのが好ましい。ここで、本実施形態における発泡性とは、20℃におけるガス圧(全圧)が0.5kg/cm2以上であることをいい、1.0kg/cm2以上が好ましく、1.5kg/cm2以上、2.0kg/cm2以上、2.5kg/cm2以上がより好ましく、また、5.0kg/cm2以下が好ましく、4.0kg/cm2以下、3.5kg/cm2以下、3.0kg/cm2以下がより好ましい。
本実施形態に係るアルコール飲料のガス圧は、例えば、国税庁所定分析法(訓令)8ビール8-3ガス圧に基づいて測定することができる。
【0021】
(その他)
本実施形態に係るアルコール飲料は、本発明の所望の効果が阻害されない範囲で飲料として通常配合される甘味料、高甘味度甘味料、酸化防止剤、香料、酸味料、塩類、食物繊維など(以下、適宜「添加剤」という)を含有していてもよいが、当然、含有しなくてもよい。甘味料としては、例えば、果糖ぶどう糖液糖、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、ラクトース、スクロース、マルトースなどを用いることができる。高甘味度甘味料としては、例えば、ネオテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、サッカリン、サッカリンナトリウム、グリチルリチン酸二ナトリウム、チクロ、ズルチン、ステビア、グリチルリチン、ソーマチン、モネリン、アスパルテーム、アリテームなどを用いることができる。酸化防止剤としては、例えば、ビタミンC、ビタミンE、ポリフェノールなどを用いることができる。酸味料としては、例えば、クエン酸、アジピン酸、クエン酸三ナトリウム、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、DL-酒石酸、L-酒石酸、DL-酒石酸ナトリウム、L-酒石酸ナトリウム、二酸化炭素、乳酸、乳酸ナトリウム、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、DL-リンゴ酸、DL-リンゴ酸ナトリウム、リン酸などを用いることができる。塩類としては、例えば、食塩、酸性りん酸カリウム、酸性りん酸カルシウム、りん酸アンモニウム、硫酸カルシウム、メタ重亜硫酸カリウム、塩化カルシウム、硝酸カリウム、硫酸アンモニウムなどを用いることができる。食物繊維としては、例えば、難消化性デキストリン、ペクチン、ポリデキストロース、グアーガム分解物などを用いることができる。
そして、前記した各原料は、一般に市販されているものを使用することができる。
【0022】
本実施形態に係るアルコール飲料は、仮に、チューハイテイスト飲料とする場合、フルーツフレーバー(フルーツ様の香りを付与するフレーバー)、果汁(果実を搾った汁)、果実エキス(果実又は果汁から水やアルコールなどを用いて当該果実の有効成分を抽出した抽出物)を含有させてもよいし、当然、含有させなくてもよい。ただし、本実施形態に係るアルコール飲料は、香味の関係上、低果汁(果汁の使用割合が5%未満)や無果汁(果汁を含まないもの)が好ましい。
果汁としては、例えば、濃縮果汁、還元果汁、ストレート果汁といった各種果汁、果実ピューレ(火を通した果実あるいは生の果実をすりつぶしたり裏ごししたりした半液体状のもの)、これらの希釈液、濃縮液、混合液などを用いることができる。
果汁の由来となる果実(および、果実フレーバーや果実エキスの果実種)は、柑橘類果実である、レモン、ライム、ミカン、オレンジ、グレープフルーツ、ユズ、シークワーサー等や、バラ科果実である、梅、リンゴ、イチゴ、桃等、これら以外にも、ぶどう、プラム、ざくろ、ブルーベリー、カシス、クランベリー、マキベリー、いちご、アップル、ピーチ、マンゴー、パイナップル、キウイ、梨等といった従来公知の果実も挙げることができる。
なお、本発明の各効果は、フレーバー・果汁・果実エキスの香味タイプや香味の強弱によって、消失してしまうといったことはないと考えることから、フレーバーなどの香味タイプは前記のとおり多様であってもよく、含有量についても特に限定されない。
【0023】
(容器詰めアルコール飲料)
本実施形態に係るアルコール飲料は、各種容器に入れて提供することができる。各種容器にアルコール飲料を詰めることにより、長期間の保管による品質の劣化を好適に防止することができる。
なお、容器は密閉できるものであればよく、金属製(アルミニウム製又はスチール製など)のいわゆる缶容器・樽容器を適用することができる。また、容器は、ガラス容器、ペットボトル容器、紙容器、パウチ容器などを適用することもできる。容器の容量は特に限定されるものではなく、現在流通しているどのようなものも適用することができる。なお、気体、水分および光線を完全に遮断し、長期間常温で安定した品質を保つことが可能な点から、金属製の容器を適用することが好ましい。
【0024】
以上説明したように、本実施形態に係るアルコール飲料は、心地良い余韻が増強し、口当たりがやわらかくなり、アルコール由来の苦みが低減している。
また、本実施形態に係るアルコール飲料は、飲料としての味のバランスがよく、複雑味も増強している。
【0025】
(補足事項)
なお、補足事項であるが、本実施形態に係るアルコール飲料は、前記した効果に関する香味以外にも、以下に示すような好ましい香味が得られる。
本実施形態に係るアルコール飲料は、深みのある味わいや、奥行のある味わいが得られる。また、本実施形態に係るアルコール飲料は、後を引く豊かな余韻が得られる。また、本実施形態に係るアルコール飲料は、スモーキーな香りや、重厚感のある香りが得られる。
【0026】
[アルコール飲料の製造方法]
次に、本実施形態に係るアルコール飲料の製造方法を説明する。
本実施形態に係るアルコール飲料の製造方法は、混合工程と、後処理工程と、を含む。
【0027】
混合工程では、混合タンクに、水、オークラクトン、シリンゴール、アルコール、添加剤などを適宜投入して混合後液を製造する。
この混合工程において、オークラクトンの含有量やシリンゴールの含有量などが前記した所定範囲内となるように各原料を混合し、調整すればよい。
なお、混合工程で用いるオークラクトンやシリンゴールについては、由来は特に限定されず、純品を用いてもよいし、オークチップを浸漬させた浸漬酒、香料などを用いてもよい。
【0028】
そして、後処理工程では、例えば、ろ過、殺菌、炭酸ガスの付加、容器への充填などの処理を必要に応じて選択的に行う。
なお、後処理工程のろ過処理は、一般的なフィルター又はストレーナーによって行うことができる。また、後処理工程の殺菌処理は、処理速度等の観点から、プレート殺菌によって行うのが好ましいが、同様の処理を行うことができるのであればこれに限定されることなく適用可能である。また、後処理工程の充填処理は、飲料品の製造において通常行われる程度にクリーン度を保ったクリーンルームにおいて充填するのが好ましい。そして、後処理工程での各処理の順序は特に限定されない。
【0029】
なお、混合工程及び後処理工程において行われる各処理は、レディ・トゥ・ドリンク(Ready To Drink、RTD)などを製造するために一般的に用いられている設備によって行うことができる。
【0030】
以上説明したように、本実施形態に係るアルコール飲料の製造方法によると、心地良い余韻が増強し、口当たりがやわらかくなり、アルコール由来の苦みが低減したアルコール飲料を製造することができる。
また、本実施形態に係るアルコール飲料の製造方法によると、飲料としての味のバランスがよく、複雑味も増強したアルコール飲料を製造することができる。
【0031】
[アルコール飲料の香味向上方法]
次に、本実施形態に係るアルコール飲料の香味向上方法を説明する。
本実施形態に係るアルコール飲料の香味向上方法は、アルコール飲料について、心地良い余韻を増強させるとともに口当たりをやわらかくし、アルコール由来の苦みを低減するアルコール飲料の香味向上方法であって、オークラクトンの含有量を所定範囲内とする方法であり、さらにシリンゴールの含有量を所定範囲内としてもよい。
なお、各成分の含有量等については、前記した「アルコール飲料」において説明した値と同じである。
【0032】
以上説明したように、本実施形態に係るアルコール飲料の香味向上方法によると、アルコール飲料について、心地良い余韻を増強させ、口当たりをやわらかくし、アルコール由来の苦みを低減することができる。
また、本実施形態に係るアルコール飲料の香味向上方法によると、アルコール飲料について、飲料としての味のバランスをよくし、複雑味も増強することができる。
【実施例0033】
次に、本発明の要件を満たす実施例とそうでない比較例とを例示して、本発明について説明する。
【0034】
[サンプルの準備]
表1~2の各サンプルは、表に示す量となるように、ウォッカ、オークラクトン、シリンゴール、果糖ブドウ糖液糖、クエン酸(無水)、クエン酸三ナトリウム、炭酸水を適宜配合してサンプル(チューハイテイスト飲料)を準備した。
なお、表1~2の各サンプルの20℃におけるガス圧(全圧)は2.5kg/cm2とした。そして、表1~2に記載していない成分の含有量は、各サンプル間において略一定とした。
【0035】
[試験内容]
前記の方法により製造した各サンプルについて、訓練された識別能力のあるパネル5名が下記評価基準に則って「ミドルからラストの心地良い余韻」、「トップのやわらかい口当たり」、「アルコール由来の苦み」、「複雑味」、「飲料としての味のバランス」について、1~5点の5段階評価で各々点数付けし、その平均値を算出した。
なお、全ての評価は、サンプルを飲んで評価した。
【0036】
(ミドルからラストの心地良い余韻:評価基準)
ミドルからラストの心地良い余韻の評価は、サンプル1-1の2点を基準とし、「ミドルからラストの心地良い余韻が非常に弱く感じる」場合を1点、「ミドルからラストの心地良い余韻が非常に強く感じる」場合を5点と評価した。そして、ミドルからラストの心地良い余韻については、点数が高いほど増強されており、好ましいと判断できる。
【0037】
ここで、「ミドルからラストの心地良い余韻が増強する」とは、ミドル(飲みはじめであるトップの後あたり)からラスト(飲み込むまで)において味に深みや奥行が増強されることによって、飲み込んだ後に感じる味の「余韻」を強く感じる(詳細には、余韻として残る味が長く感じられる)、ということである。
【0038】
(トップのやわらかい口当たり:評価基準)
トップのやわらかい口当たりの評価は、サンプル1-1の2点を基準とし、「トップの口当たりがやわらかくない」場合を1点、「トップの口当たりがやわらかい」場合を5点と評価した。そして、トップのやわらかい口当たりについては、点数が高いほど増強されており、好ましいと判断できる。
【0039】
ここで、「トップのやわらかい口当たり」とは、トップ(飲みはじめ)に感じる口当たりのやわらかさのことである。
【0040】
(アルコール由来の苦み:評価基準)
アルコール由来の苦みの評価は、サンプル1-1の4点を基準とし、「アルコール由来の苦みが非常に弱い」場合を1点、「アルコール由来の苦みが非常に強い」場合を5点と評価した。そして、アルコール由来の苦みについては、点数が低いほど低減されており、好ましいと判断できる。
【0041】
ここで、「アルコール由来の苦み」とは、アルコール特有の苦味である。
【0042】
(複雑味:評価基準)
複雑味の評価は、サンプル2-1の1点を基準とし、「複雑味が非常に弱い」場合を1点、「複雑味が非常に強い」場合を5点と評価した。そして、複雑味については、点数が高いほど増強されており、好ましいと判断できる。
【0043】
ここで、「複雑味」とは、スパイシーとくせ感とを判断する指標であり、スパイシー(香辛料系のピリッとした味わい)かつ良好なくせ感のある味(スモーキーなベーコン様の味)が強ければ強いほど、この項目の点数が高くなる。
【0044】
(飲料としての味のバランス:評価基準)
飲料としての味のバランスについては、基準点を設けず、「飲料としての味のバランスが非常に悪い」場合を1点、「飲料としての味のバランスが非常に良い」場合を5点と評価した。
【0045】
ここで、「飲料としての味のバランス」とは、アルコール飲料としての味のバランスであり、例えば、特定成分に基づく香味が強く感じられることで味のバランスが崩れている場合は、悪いとの評価となる。
【0046】
表に、各サンプルの含有量等を示すとともに、各評価の結果を示す。なお、表に示す各成分の数値および指標は、最終製品における含有量および指標である。
【0047】
【0048】
【0049】
(結果の検討)
表1は、オークラクトンの含有量を変化させた結果を示す。
表1のサンプル1-1~1-5の結果から、オークラクトンを含有させることによって、「ミドルからラストの心地良い余韻」と「トップのやわらかい口当たり」の点数が上昇し、「アルコール由来の苦み」の点数が低下することが確認できた。
また、表1のサンプル1-1~1-5の結果から、オークラクトンの含有量が増えるにしたがって、「飲料としての味のバランス」の点数が上昇するものの、オークラクトンの含有量が増え過ぎると、若干低下することも確認できた。
そして、全ての評価を考慮すると、サンプル1-1~1-5の中でも、サンプル1-2~1-5(特に、サンプル1-3~1-4)について非常に好ましい結果が得られた。
【0050】
表2は、オークラクトンを含有させた状態でシリンゴールの含有量を変化させた結果を示す。
表2のサンプル2-1~2-4の結果から、シリンゴールの含有量が増加するにしたがって、「ミドルからラストの心地良い余韻」と「トップのやわらかい口当たり」の点数が上昇するだけでなく、「複雑味」の点数も上昇することが確認できた。
また、表2のサンプル2-1~2-4の結果から、シリンゴールの含有量が増加するにしたがって、「飲料としての味のバランス」の点数が上昇するものの、シリンゴールの含有量が増え過ぎると、若干低下することも確認できた。
そして、全ての評価を考慮すると、サンプル2-1~2-4の中でも、サンプル2-2~2-4(特に、サンプル2-3~2-4)について非常に好ましい結果が得られた。