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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022101232
(43)【公開日】2022-07-06
(54)【発明の名称】粘稠性食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/20 20160101AFI20220629BHJP
【FI】
A23L29/20
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020215686
(22)【出願日】2020-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】397035885
【氏名又は名称】株式会社エイワ
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【弁理士】
【氏名又は名称】桐山 大
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(72)【発明者】
【氏名】今井 一馬
【テーマコード(参考)】
4B041
【Fターム(参考)】
4B041LC07
4B041LC10
4B041LD01
4B041LK01
4B041LK09
4B041LK17
4B041LK38
4B041LP25
(57)【要約】
【課題】安定性と常温保存性とを両立できる粘稠性食品を提供する。
【解決手段】粘稠性食品の一態様は、糖とゲル化剤と水分とを含み、前記ゲル化剤を常温でクリーム状流動性を持つ程度のゼリー強度および配合率にて配合し、比重が0.4~0.9となる量で微細気泡状に空気を抱き込ませ、Brix80~84%の製品糖度を持つように構築したものである。ゲル化剤はゼラチンであり、前記ゼリー強度は100~300ブルームであり、前記ゲル化剤の配合率は0.5~5%であってもよい。増粘多糖類が含まれなくともよい。前記ゲル化剤とは別に、前記ゲル化剤よりも少ない配合率で卵白を配合させてもよい。水分活性が0.700以下とされてもよい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖とゲル化剤と水分とを含み、前記ゲル化剤を常温でクリーム状流動性を持つ程度のゼリー強度および配合率にて配合し、比重が0.4~0.9となる量で微細気泡状に空気を抱き込ませ、Brix80~84%の製品糖度を持つように構築した粘稠性食品。
【請求項2】
前記ゼリー強度が200ブルーム以上で且つ前記ゲル化剤の配合率が0.5%以上という条件と、前記ゲル化剤の配合率が2.0%以上で且つ前記ゼリー強度が100ブルーム以上という条件と、のうちいずれかを満たすように構築された請求項1に記載の粘稠性食品。
【請求項3】
前記ゲル化剤の配合率は5%以下という条件と前記ゼリー強度が300ブルーム以下という条件とのうち少なくとも一方を満たすように構築された請求項1または2に記載の粘稠性食品。
【請求項4】
増粘多糖類を含まない請求項1~3のいずれか1項に記載の粘稠性食品。
【請求項5】
前記ゲル化剤とは別に、前記ゲル化剤の配合率以下の配合率で卵白を配合させた請求項1~4のいずれか1項に記載の粘稠性食品。
【請求項6】
水分活性が0.700以下である請求項1~5のいずれか1項に記載の粘稠性食品。
【請求項7】
ゼリー強度が200ブルーム以上で且つ配合率が0.5%以上という条件と配合率が2.0%以上で且つゼリー強度が100ブルーム以上という条件とのうちいずれかを満たすように配合されたゲル化剤と、水分と、シロップと、卵白とを含み、比重が0.4~0.9となる量で微細気泡状に空気を抱き込ませた粘稠性食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、粘稠性食品に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特開平04-335861公報には、マシュマロ様食品が記載されている。従来のマシュマロ様食品は固形であるものが普通である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平04-335861公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者は、既存の固形粘稠性食品(固形マシュマロ)とは異なる斬新な商品として、クリーム状の物性を持つ粘稠性食品を鋭意研究してきている。その過程で、発明者は、実際の製品仕様を満たすレベルで安定性と常温保存期間とを両立させるという独自の着眼点に基づいて鋭意研究を行なってきている。安定性が低いとクリーム状の粘稠性食品が液状に分離しやすいので、これを防ぐために安定性を制御したい。その一方で、常温保存を可能とすることで、食品保存の利便性などが向上する。安定性と常温保存期間との両立は技術的価値が極めて高いものの、その両立を可能とする技術がこれまで存在していなかった。
【0005】
本開示は、安定性と常温保存性とを両立できるクリーム状の粘稠性食品を提供する。
【0006】
また、クリーム状の粘稠性食品が液状に分離しにくくなるように、安定性を高めたい。安定性を高めることは、クリーム状粘稠性食品の商品性に直結するので、それ単独で重要な課題といえる。
【0007】
本開示は、安定性を高めた他のクリーム状の粘稠性食品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
粘稠性食品の一態様は、糖とゲル化剤と水分とを含み、前記ゲル化剤を常温でクリーム状流動性を持つ程度のゼリー強度および配合率にて配合し、比重が0.4~0.9となる量で微細気泡状に空気を抱き込ませ、Brix80~84%の製品糖度を持つように構築したものである。
【0009】
粘稠性食品の他の一態様は、ゼリー強度が200ブルーム以上で且つ配合率が0.5%以上という条件と配合率が2.0%以上で且つゼリー強度が100ブルーム以上という条件とのうちいずれかを満たすように配合されたゲル化剤と、水分と、シロップと、卵白とを含み、比重が0.4~0.9となる量で微細気泡状に空気を抱き込ませたものである。
【発明の効果】
【0010】
粘稠性食品の上記一態様によれば、クリーム状の粘稠性食品において、糖度を好適範囲に制御するという新規な技術的思想によって、安定性と常温保存性とを両立することができる。
【0011】
粘稠性食品の上記他の一態様によれば、クリーム状の粘稠性食品において、ゼリー強度と配合率とを好適範囲に制御するという新規な技術的思想によって、粘稠性食品が液状分離せずに保持される安定性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】粘稠性食品の配合の一例を表す表である。
図2】粘稠性食品の製造方法の一例を表すフロー図である。
図3】実施例の粘稠性食品の配合表である。
図4】実施例および他の例の粘稠性食品の配合表である。
図5】実施例および他の例の粘稠性食品の配合表である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態は、クリーム状の物性を持つ粘稠性食品を提供でき、具体的にはクリームマシュマロを提供することができる。蜜(液状シロップ)に起泡剤を加え、一定量の空気を混ぜ込むことで、マシュマロを作ることができる。蜜(液状シロップ)は、例えば砂糖あるいは水飴などの糖から作られる。起泡剤は、ゼラチン等のゲル化剤や、増粘剤などである。クリームマシュマロは、マシュマロをホイップクリームのようなクリーム状の物性にしたものである。
【0014】
図1および図2を用いて、実施の形態の粘稠性食品の配合および製造方法の一例を説明する。図1の表に示す材料Aと材料Bと材料Cとが準備される。各々の材料A~Cに含まれる原材料とその配合率は次のとおりである。材料Aは、水飴57.3%とグラニュー糖26.6%と水8.5%とを含む。材料Bは、ゼラチン1.5%と水4.5%とを含む。材料Cは、卵白0.5%と上白糖1.0%とを含む。材料Cは、例えば乾燥卵白と砂糖とを混合したものでもよい。なお、材料A~Cに加えて香料0.1%も配合される。
【0015】
図2を用いて、実施の形態の製造方法の一例を説明する。図2の製造方法では、まず、材料Aを計量する(S100)。計量した材料Aを混合する(S101)。濃縮と蒸気とにより、材料Aを煮詰める(S102、S103)。これにより、蜜(液状シロップ)を作ることができる。粉状または液状の糖類、各種デンプン糖化物、砂糖、糖蜜、糖アルコール、あるいはその他の糖類から任意の材料を単独でまたは組み合わせて配合してもよい。この段階における、材料Aの糖度を、「糖液糖度」とも称する。実施の形態では、糖液糖度が、例えばBrix70%以上あるいは例えばBrix75~85%程度となるように蜜(液状シロップ)が生成される。例えば糖液糖度がBrix84.5%程度となるまで材料Aを煮詰めてもよい。
【0016】
次に、材料Bを計量および混合を行い、ゼラチンが膨潤したら、湯煎にかけてゼラチンを溶解させるとともに、材料Cの計量および混合も行う(ステップS104)。材料Bからは、加水したゼラチンが溶解してゼラチン液が作られる。このステップS104では、ゼラチンの溶解後に、材料Cをその溶解後ゼラチンに投入し、撹拌する。撹拌後のものに、さらに香料を投入し、均一に混合する。
【0017】
次に、起泡を行う(S105)。まず、ステップS105では、ステップS102、S103で得た蜜(液状シロップ)に、濾し器を使用して、ステップS104で得た材料B、Cの混合物(ゼラチン液、乾燥卵白と砂糖の混合物、香料)が投入されることで、それらが混合された混合生成物が得られる。この混合生成物が連続ミキサーを用いて発泡させられ、ノズル出口にて比重が0.6になるまで泡立てられる。これにより、混合生成物に対して空気を微細気泡状に抱き込ませる。実施の形態では、粘稠性の食品の比重が例えば0.4~0.9になる量の空気を抱き込ませるように、空気量などが調整される。
【0018】
次に、微細気泡状に空気を抱き込ませた生地がノズルを通り、容器または包材に充填される。具体的には、調整後の生地がノズルから容器または袋に充填される(S106、S107)。充填後に、重量測定(S108)、ヒートシール(S109)、金属検出器(S110)、および選別工程(S111)のそれぞれを通り、梱包される(S112)。
【0019】
以上説明した実施の形態の粘稠性食品によれば、粘稠性食品において糖度を好適範囲に制御することによって、安定性と常温保存期間とを両立することができる。
【0020】
粘稠性食品の完成後の糖度を「製品糖度」とも称する。実施の形態では、製品糖度を一例としてBrix80~84%とし、且つ、水分活性が0.700以下となるように粘稠性食品が構築される。クリーム状の物性を保ちつつ、常温保存条件である程度の長さの賞味期限(例えば150日)が実現される。このように常温保存条件下においても、製品が安定状態で長期保存される利点がある。
【0021】
実施の形態では、ゼラチン配合量を一例として1.5%とし、且つ比重調整を行っている。これにより、抱き込んだ気泡を安定して保持することで、クリーム状の物性として固すぎず、且つシロップの分離が起きないように物性を安定させることができる。
【0022】
実施の形態では、ゼラチンのゼリー強度を好適範囲に制御しているので、本製品を絞り袋形態などに充填した際に扱いやすいテクスチャーに調整されている特徴もある。
【0023】
実施の形態では、卵白を一例として0.5%配合することで、焼成後の焼き色を容易につけることができる。表面に焼き色をつけパリッとさせ、中は溶けたような状態にすることができる。これにより、粘稠性食品を使用する時のアレンジの幅を広げている。
【0024】
実施の形態の粘稠性食品は、絞り袋から絞り出すという使用形態に適している特徴もある。実施の形態の粘稠性食品が絞り袋に充填された「絞り袋入クリームマシュマロ」として提供されてもよい。食品あるいは飲料などの上に実施の形態の粘稠性食品を絞り出してもよく、トッピングや飾り付けなどが可能となる。クリームマシュマロをトッピングした食品あるいはクリームマシュマロをトッピングした飲料などが提供されてもよい。また、実施の形態の粘稠性食品には、粘着性を持つという特徴もある。粘着性を持つ粘稠性食品が食材と食材との間に設けられることで、粘稠性食品が接着剤のように複数の食材を互いに付着させてもよい。
【0025】
図1に具体的な各原材料の配合率(重量%)を記載しているが、実施の形態はこれに限定されず、変形例として配合率を様々に調節してもよい。例えば次に述べる範囲内で各配合率が調節されてもよい。材料Aに関して、水飴は一例として50~70%でもよく、グラニュー糖は一例として25~35%でもよい。材料Bに関し、ゼラチンは一例として0.5~5%でもよい。材料Cに関し卵白(例えば乾燥卵白)は一例として0.5~5%でもよく、砂糖(上白糖)は一例として0.5~5%でもよい。香料は、一例として1%未満でもよい。着色料が必要に応じて添加されてもよい。水は、一例として15~50%でもよい。実施の形態の粘稠性食品は、液状シロップとゼラチンと卵白と、例えば15~25重量%の水分とで構成される。実施の形態およびその変形例では、空気を含有した食品でありながら、クリーム状の物性を失うこと無く、常温保存下で、ある程度の長さの賞味期限を実現できる。例えば150日などの賞味期限も実現しうる。
【0026】
なお、他の具体的な配合などのバリエーションは、図3図5とともに実施例として後述する。
【0027】
次に、実施の形態の粘稠性食品を構成する各々の構成要素について説明する。実施の形態の粘稠性食品は様々な機能を持つが、そのうちいくつかの機能として「常温保存性」と「安定性(非分離性)」と「ハンドリング性」と「クリーム状物性」と「焼き色付け」とに特に着目して説明する。なお、安定性とは、粘稠性食品がシロップ状に分離しにくい非分離性ということができる。クリーム状物性は、粘着性とも関連する。
【0028】
(糖質および糖度)
実施の形態の特徴のひとつは、粘稠性食品において、糖度を好適範囲に制御していることである。この糖度の制御は、特に「常温保存性」を向上させることができ、また「安定性(非分離性)」および「焼き色付け」にも影響を及ぼす。糖度を高くすると水を少なくしやすいので、水分活性を低くしやすく、保存性が向上する利点がある。シロップ糖度とゲル化剤のゲル化力とによって起泡を維持する力がはたらくので、糖度を高めると「安定性(非分離性)」が向上しやすい利点がある。糖度が高いと水分を少なくしやすいので、卵白と相乗し、焼き色を付けやすい利点がある。
【0029】
実施の形態により、粘稠性食品の製品糖度をある程度高い値に制御することで、クリーム状の物性を保ちつつ、常温下での保存期間を伸ばすことができるという独特の知見が提供されている。そのためには、製造段階において糖液糖度を例えばBrix70%以上としてもよくあるいは糖液糖度をBrix75~85%程度としてもよく、あるいは製品糖度を例えばBrix80~84%としてもよい。
【0030】
Brix値で規定した所定範囲に糖度を制御することにより、クリーム状の物性を得やすくなるように気泡を支えつつ常温保存期間を得ることができる。安定性と常温保存期間とを両立可能な優れた技術が提供される。常温保存可能なので、冷蔵保存や冷凍保存をしなくともよく、保存性および流通性その他の様々な面で飛躍的に優れた利益がある。
【0031】
なお、糖質としては、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノースなどの単糖類、ショ糖(スクロース)、マルトース、トレハロースなどの二糖類、オリゴ糖、デキストリン、水飴などの多糖類、マルチトール、エリスリトール、キシリトール、ラクチトール、ソルビトールなどの糖アルコールや異性化糖などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ショ糖を主成分とする粉末状のものでもよく、例えば、グラニュー糖、上白糖などの砂糖が挙げられる。また、砂糖と共に、トレハロース、水飴などを好ましく併用することができ、マシュマロの歯切れが向上する点から砂糖とトレハロースを組み合わせてもよい。マシュマロ生地の流動性が向上する点からは砂糖と水飴を組み合わせてもよい。
【0032】
(水分活性)
実施の形態では、水分活性が0.7以下(より具体的には、0.700以下)に抑制された特徴もある。水分活性を低く抑えることにより、常温保存下での保存性の向上が期待される。特に、上述した製品糖度の基準に加えて水分活性0.700以下という基準をも満たすことで、ある程度の長さの賞味期限(例えば150日)をより確実に実現できる利点がある。なお、水分活性の下限値はここでは規定していないが、粘稠性食品がクリーム状の物性を持つ範囲で、0.7以下あるいは0.6以下の任意の下限値が設定されてもよい。
【0033】
(起泡剤としてのゲル化剤)
実施の形態では、一例として、ゲル化剤の一つであるゼラチンを、起泡剤として使用している。
【0034】
実施の形態の特徴のひとつは、原材料であるゼラチンが、適度な配合量と適度な比重とに調整されている点である。ゼラチンの配合量と比重とにより、抱き込んだ気泡を安定して保持することで、クリーム状の物性が良好に形成される。ゼラチン配合率の数値範囲は、0.5~5%としてもよく、例えば0.5~1.5%としてもよく、例えば2.5~4.0%程度としてもよく、あるいは例えば3%程度としてもよい。
【0035】
一例として、ゼリー強度と配合率に関する数値範囲の下限は次のような条件でもよい。ゼリー強度が200ブルーム以上で且つゲル化剤の配合率が0.5%以上という「第一条件」と、ゲル化剤の配合率が2.0%以上で且つゼリー強度が100ブルーム以上という「第二条件」と、のうちいずれかを満たすように粘稠性食品が構築されてもよい。第一条件によれば、ゼラチンにある程度以上の固さを持たせているので、配合率の下限値をある程度低く設定できる利点がある。その一方で、第二条件によれば、配合率をある程度以上多くしているので、ゼリー強度が比較的低めのものでもよいという利点がある。第一条件と第二条件とのうちいずれかを満たすことで、安定性を確保できる利点がある。
【0036】
一例として、ゼリー強度と配合率に関する数値範囲の上限は次のような条件でもよい。ゲル化剤の配合率は5%以下という「第三条件」とゼリー強度が300ブルーム以下という「第四条件」とのうち少なくとも一方を満たすように粘稠性食品が構築されてもよい。第三条件のようにゲル化剤の配合量が多くなりすぎたり、第四条件のようにゼリー強度が高すぎたりすると、ぼそぼそとした物性になりやすく、あるいは粘稠性食品を塗り拡げにくくなる問題がある。第三条件と第四条件とのうち少なくとも一方を満たすことで、こういった問題を抑制することができる。
【0037】
ゼラチンのゼリー強度が好適化されている特徴もある。ゼラチンのゼリー強度を好適範囲に制御することにより、絞り袋形態などに粘稠性食品を充填した際に扱いやすいテクスチャーに調整されている利点がある。ゼラチンのゼリー強度は、200ブルームの代わりに、例えば、250ブルーム、あるいは300ブルームでもよい。ここでゼリー強度は、ゼラチンの品質規格であり日本工業規格JIS K6503:2001に定められた測定方法により測定することができる。
【0038】
ゲル化剤配合量(ここではゼラチン配合量)およびゼリー強度のそれぞれは、「安定性」に支配的な影響を及ぼすとともに、「ハンドリング性」と「クリーム状物性」とにも強い影響をおよぼす。ゲル化剤配合量制御とゼリー強度制御とのうち片方または両方を実施することにより、上記各々の機能を高めやすい利点がある。
【0039】
なお、ゼリー強度が高いと、ゲル化剤配合量を少なくすることができるものの、粘稠性食品の物性がぼそぼそとしたものとなり塗り拡げにくくなる欠点がある。その一方で、ゼリー強度が低いと、流れやすくなって(流動性が高すぎて)、保形性を出しにくい欠点がある。ゼリー強度の数値範囲とゲル化剤配合量の数値範囲との両方を規定することで、物性、塗り拡げやすさ、および保形性を両立しやすい利点がある。
【0040】
ゲル化剤は、ゼラチンのみに限定されず、他のものに置換してもよい。ゼラチンの代わりに、例えば、ゼラチンと寒天とコラーゲンペプチドとのうち2つ以上が組み合わせられてもよい。
【0041】
ゼリー強度の制御とゲル化剤配合率の制御とにより、ゼラチンの好適な選定および配合が実現され、クリーム状のマシュマロとして取り扱ううえで好適な物性を得ることができる。これにより、絞り袋に充填した形態で粘性食品を提供し、その絞り袋から絞り出すという使用方法を実現することができる。
【0042】
なおゼラチンは、寒天およびコラーゲンペプチドなどの他のゲル化剤と比べて、以下の利点がある。第一利点は、シロップの分離が少ないことである。第二利点は、低温(30~60℃)で製造できることである。第三利点は、ゼラチンが単体で起泡力を持っていることである。なお、実施例の粘稠性食品の優位性は、他の例1~2との対比からも把握される。
【0043】
なお、寒天の特徴として次のものがある。第一特徴は、寒天は表面が乾きやすく固い皮膜を作ることである。第二特徴は、溶解時に加温が必要だが、吹きこぼれが発生しやすいことである。第三特徴は、素材が褐色なので、白色のクリームを作りづらいことである。
【0044】
(抱き込み空気、比重)
粘稠性食品の比重について説明する。比重が軽くなると(つまり比重が小さくなると)、粘稠性食品は固形に近づいていく。つまり流動性が失われ、固形マシュマロと同じような固さになっていく。例えば比重0.3程度になると、固形マシュマロと同程度の固さになるので、クリームマシュマロとしての特徴が失われてしまう。逆に、比重が重くなりすぎると、空気を含まなくなり、流動性を持つ粘稠な液体に近づいていく。このように、粘稠性食品において、比重は、「クリーム状物性」に強く影響し、加えて「安定性(非分離性)」についても影響を持ち、「ハンドリング性」にもある程度の影響を持つ。比重制御によって、クリーム状物性を向上させることができる。そこで、粘稠性食品の比重が0.4~0.9となる量の空気を微細気泡状に抱き込ませてもよい。また、多くの泡(例えば比重0.200~0.350でもよい)をまぜてゲル化を行うことで、マシュマロとしての保形性を得やすい利点がある。
【0045】
(卵白)
原材料として、卵白を、起泡の目的ではなく焼き色をつけるために使用した特徴もある。ただし、卵白の配合量を増やしすぎると、粘稠性食品が固くなりやすい。そこで、実施の形態では、卵白の配合量はゲル化剤の配合量以下あるいはこれに比べて少ない量に抑制される。実施の形態では、卵白はあくまでも付随的、付加的な原料として取り扱われる。
【0046】
卵白の少量配合をする利点として、焼き色を付けやすくすることができる。焼成後の焼き色を容易につけることができ、焼成後も粘りのあるマシュマロ様の食感と、表面のパリパリとした食感を持続できる。この特性を利用し、食品使用時のアレンジの幅が広がるという利点がある。焼成した際には、溶けずに焦げ目をつけて焼き残りをすることで、様々な食材との組み合わせが可能となる。卵白配合量が多いほど焼き色もつきやすくなる。
【実施例0047】
図3図5を用いて、実施例1~8および他の例1~7を説明する。使用した原料名および型番などは次のとおりである。
【0048】
糖(液状シロップ)の作成用に、「水飴:ハイマルトースM65ー75(日本コーンスターチ株式会社)」を用いた。
【0049】
ゲル化剤(ゼラチン)として用いたのは下記の4つである。
(1)ゼラチン BCN100N(新田ゼラチン株式会社) ゼリー強度100ブルーム
(2)ゼラチン BCN150S(新田ゼラチン株式会社)ゼリー強度150ブルーム
(3)ゼラチン AP200(新田ゼラチン株式会社)ゼリー強度200ブルーム
(4)ゼラチン EM250R(新田ゼラチン株式会社)ゼリー強度250ブルーム
【0050】
卵白として「乾燥卵白 Wタイプ(キユーピータマゴ株式会社)」を用いた。pH調整剤として、「L-酒石酸水素カリウム(株式会社八宝商会)」を用いた。増粘多糖類などについては、次のものを用いている。寒天として「ル・カンテンウルトラ(登録商標)(伊那食品工業株式会社)」が使用されている。グアーガム製剤として「XK-N617(仮番)(新田ゼラチン株式会社)」が使用されている。コラーゲンペプチドとして「HBC-P20(新田ゼラチン株式会社)」が使用されている。
【0051】
なお、実施例において各パラメータの測定方法は次のとおりである。糖度(具体的には糖液糖度と製品糖度)のBrix値は、アッベ屈折計NAR-1T(株式会社アタゴ)で測定される。ゼラチンのゼリー強度(ブルーム値)は、JISK6503-2001に基づき測定され、多くの場合はゼラチン製造メーカーにおいて測定される。比重は、容積200mlのカップにクリーム状の粘稠性食品を充填し、重量を測定し、水200mlとの重量比で測定される。水分活性は、ポータブル水分活性測定装置(製品名LabwSift-aw:ノバシーナ社))で測定されるか、または外部分析機関で測定される。
【0052】
図3図5には、5つの評価項目が記載されている。評価項目は、「常温保存性」と「安定性(非分離性)」と「ハンドリング性」と「クリーム状物性」と「焼き色付け」とである。
【0053】
「常温保存性」と「クリーム状物性」と「焼き色付け」には、それぞれ良好(○)と不可(×)との二段階評価が付されている。
【0054】
「安定性(非分離性)」と「ハンドリング性」とには、それぞれ四段階評価を付している。詳細は下記のとおりである。
【0055】
<安定性(非分離性)>
安定性については、150日経過しても分離無しであったものを、「150日可」と記入している。100日経過しても分離無しであったものを、「100日可」と記入している。50日経過しても分離無しであったものを「50日可」と記入している。50日経過未満で分離有りであったものを、「50日未満」と記入している。
【0056】
<ハンドリング性>
「◎」は、容易に絞り出せるという評価である。「○」は、絞り出せるという評価である。「△」は、力を加えれば絞り出せるという評価である。「×」は、絞り出せないという評価である。
【0057】
図3の実施例1は、図1に配合率を示した実施の形態と対応するものである。少なくとも実施例1~実施例5に記載される粘稠性食品は、糖とゲル化剤と水分とを含み、ゲル化剤を常温(例えば15~25℃)でクリーム状流動性を持つ程度のゼリー強度および配合率にて配合し、比重が0.4~0.9となる量で微細気泡状に空気を抱き込ませ、Brix75~85%の製品糖度を持つように構築されている。
【0058】
少なくとも実施例1~実施例5、実施例7および実施例8から理解されるように、ゲル化剤はゼラチンであり、ゼリー強度は100~300[単位:ブルーム]であり、ゲル化剤の配合率は0.5~5%である粘稠性食品が提供されてもよい。この数値範囲は一例であり、常温でクリーム状流動性を持つ程度の任意のゼリー強度および任意の配合率にてゲル化剤を配合してもよい。なお、実施例3では3.0%且つ100ブルームが記載されているが、本願発明者の知見では100ブルームのときのゲル化剤配合率は2.0%以上でもよく、あるいは2.5%以上でもよいことが見いだされている。実施の形態で説明した第二条件における、ゲル化剤の配合率が2.0%以上という数値はこの知見に基づいている。
【0059】
少なくとも実施例1~実施例5、実施例7および実施例8に記載されているように、増粘多糖類を含まない粘稠性食品が提供されてもよい。増粘多糖類を配合しなくとも液状分離しにくい安定性を持つ粘稠性食品を提供することができる。ただし、変形例として実施の形態および実施例1~実施例5、実施例7および実施例8に増粘多糖類が追加的に配合されてもよい。なお、他の例5では、増粘多糖類が添加された例が記載されているが、ゼラチン配合量が0.3%という値である。例えば実施例1~実施例5、実施例7および実施例8の程度のゼラチン配合率としたうえで(つまり他の例5よりも多くゼラチンを配合したうえで)、増粘多糖類を追加配合したものが、実施の形態にかかる粘稠性食品として提供されてもよい。
【0060】
少なくとも実施例1~実施例6および実施例8に記載されているように、ゲル化剤とは別に、ゲル化剤よりも少ない配合率で卵白を配合させた粘稠性食品が提供されてもよい。なお、卵白を配合しない実施例7では、焼き色付けの評価が悪い。
【0061】
なお、水分活性が高いと食品の保存性が低下するが、例えば図5における他の例6~他の例7から理解されるように水分活性が0.7を明らかに超過すると、常温保存性が低下する。そこで、上記各々の粘稠性食品において水分活性を0.7以下に制御することで、良好な常温保存性を確保できる利点がある。
【0062】
いくつかの実施例から把握されるように、所定条件を満たすように配合されたゼラチンと、水分と、シロップと、卵白とを含み、比重が0.4~0.9となる量で微細気泡状に抱き込ませた空気と、を含む粘稠性食品が提供されてもよい。所定条件は、ゼリー強度が200ブルーム以上で且つ配合率が0.5%以上という第一条件と配合率が3.0%以上で且つゼリー強度が100ブルーム以上という第二条件とのうちいずれかである。この第一条件を満たすのは、例えば実施例1、2、4、5である。この第二条件を満たすのは、例えば実施例3である。ゼリー強度の制御とゲル化剤配合率の制御と比重の制御とにより、液状分離しにくい安定性を持つクリーム状粘稠性食品を提供することができる。
【0063】
図3図5には、少なくとも下記の数値範囲が開示されている。いくつかの実施例では、製品糖度が、Brix80~84%の範囲内に制御されるが、変形例としてその範囲内においてさらに上限値と下限値との少なくとも一方を増減してもよい。変形例として、製品糖度は、例えばBrix80~81%と、Brix81~82%と、Brix83~84%と、Brix80.5~83.5%と、Brix81~83%と、Brix81.5~82.5%とのいずれかの範囲内に制御されてもよい。変形例として各々の範囲内において上限値と下限値との少なくとも一方を増減してもよいことは、以下に述べるパラメータでも同様である。
【0064】
いくつかの実施例では、ゲル化剤の配合率が、0.5~5%の範囲内に制御される。いくつかの実施例では、ゼリー強度が、100~300ブルームの範囲内に制御される。変形例として、例えば100~150ブルームの範囲内に制御されてもよく、150~200ブルームの範囲内に制御されてもよく、あるいは200~300ブルームの範囲内に制御されてもよい。いくつかの実施例では、比重が、0.4~0.9の範囲内に制御されるが、この範囲内でさらに任意の比重範囲を画定することができる。変形例として、例えば0.5~0.8の範囲内に比重が制御されてもよく、あるいは例えば0.6~0.7の範囲内に比重が制御されてもよい。いくつかの実施例では、卵白の配合率が、0.5~5%の範囲内に制御される。変形例として、卵白の配合率が、例えば0.5~1.0%の範囲内に制御されてもよく、1.0~5.0%の範囲内に制御されてもよい。いくつかの実施例から把握されるように、卵白の配合率に対してゲル化剤の配合率が大きくなるように、卵白とゲル化剤との配合比が制御されてもよい。図3図5の配合例に限定されず、例えば卵白配合量は、ゲル化剤配合量の1/3倍以下、1/2倍以下、あるいは1倍以下などの比率となるように設定されてもよい。なお、比較例として卵白主体のマシュマロを挙げると、卵白主体のマシュマロでは通常は卵白がゼラチンの約3倍前後となるように多く配合されるが、これとは対照的に、実施例ではゼラチン等がゲル化剤の主体とされたうえで卵白は焼き色付けのために補助的に用いられる点で両者に違いがある。いくつかの実施例では、水分活性が0.7以下に制御されていて、より具体的には0.600~0.700の範囲内に制御されているが、変形例として、例えば0.69~0.70の範囲内に制御されてもよい。なお、実施例9および実施例10ではソルビトールとpH調整剤と増粘多糖類とコラーゲンペプチドとが配合されているが、それらは実施例1~8には配合されていない。
【符号の説明】
【0065】
A 材料(液状シロップ)
B 材料(ゲル化剤)
C 材料(付加的原材料)
図1
図2
図3
図4
図5