(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022101247
(43)【公開日】2022-07-06
(54)【発明の名称】ヒト樹状細胞が分化するヒトFLT3Lトランスジェニックげっ歯類動物
(51)【国際特許分類】
A01K 67/027 20060101AFI20220629BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20220629BHJP
C12N 5/0789 20100101ALN20220629BHJP
C12N 5/0784 20100101ALN20220629BHJP
【FI】
A01K67/027 ZNA
C12N15/09 Z
C12N5/0789
C12N5/0784
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020215705
(22)【出願日】2020-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】390016470
【氏名又は名称】公益財団法人実験動物中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 亮治
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4B065AC20
4B065BC50
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】ヒト樹状細胞が分化することにより、機能的ヒト免疫細胞系が再構成されたヒト化げっ歯類モデルの作製方法及び該げっ歯類モデルの提供を目的とする。
【解決手段】ヒトFLT3L遺伝子がトランスジェニックされ、げっ歯類動物が元々有するFLT3遺伝子がノックアウトされた免疫不全げっ歯類動物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトFLT3L遺伝子がトランスジェニックされ、げっ歯類動物が元々有するFLT3遺伝子がノックアウトされ、ヒトFLT3Lタンパク質を産生しFLT3レセプターが欠損した免疫不全げっ歯類動物。
【請求項2】
マウスである、請求項1記載の免疫不全げっ歯類動物。
【請求項3】
SCID変異マウス、RAG1ノックアウトマウス、RAG2ノックアウトマウスまたはNOD/SCIDマウスである請求項2に記載の免疫不全げっ歯類動物。
【請求項4】
NOGマウスであり、正式系統名はNOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1Sug Tg(CAG-FLT3L)Jicと表される、請求項3記載の免疫不全げっ歯類動物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の免疫不全げっ歯類動物にヒト造血幹細胞を移植して得られる、ヒト樹状細胞が分化し増殖し維持されているヒト化げっ歯類動物。
【請求項6】
ヒトFLT3L遺伝子がトランスジェニックされたげっ歯類動物とげっ歯類動物が元々有するFLT3遺伝子がノックアウトされたげっ歯類動物を交配させることを含む、ヒトFLT3L遺伝子がトランスジェニックされ、げっ歯類動物が元々有するFLT3遺伝子がノックアウトされた免疫不全げっ歯類動物の作製方法。
【請求項7】
げっ歯類動物がマウスである、請求項6記載の免疫不全げっ歯類動物の作製方法。
【請求項8】
マウスがNOGマウスであり、正式系統名はNOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1Sug Flt3em 35bpTg(CAG-FLT3L)Jicと表される、請求項7記載の免疫不全げっ歯類動物の作製方法。
【請求項9】
ヒトFLT3L遺伝子がトランスジェニックされ、げっ歯類動物が元々有するFLT3遺伝子がノックアウトされた免疫不全げっ歯類動物にヒト造血幹細胞を移植することを含む、ヒト樹状細胞が分化し増殖し維持されておりヒトIgG抗体を産生し得るヒト化げっ歯類動物の作製方法。
【請求項10】
げっ歯類動物がマウスである、請求項9記載のヒト化げっ歯類動物の作製方法。
【請求項11】
マウスがNOGマウスであり、正式系統名がNOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1Sug Flt3em 35bpTg(CAG-FLT3L)Jicと表される、請求項10記載のヒト化げっ歯類動物の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトの免疫系を再現できるげっ歯類動物に関する。
【背景技術】
【0002】
非常に優れた免疫不全マウスとして、NOGマウスが知られている(特許文献1)。NOGマウスにヒトの細胞や組織を移植してヒト化NOGマウスが作製されている。例えば、ヒト自然免疫系を再現するために、ヒトG-CSF遺伝子をノックインし、ヒト造血幹細胞を移植したマウスについて報告されている(特許文献2)。
【0003】
樹状細胞(Dendritic cell: DC)は生体内の強力な抗原提示細胞であり、T細胞に抗原を提示することにより免疫応答を誘導することが知られている。また、DCはT細胞のみでなくB細胞、NK細胞、NKT細胞などとも直接作用し、免疫反応における中枢的役割を担う細胞であることが知られている。
【0004】
FLT3L(Fms-like tyrosine kinase receptor 3 ligand)は、幹細胞を含む造血前駆細胞に作用し、G-CSFやGM-CSF等のコロニー刺激因子と共に樹状細胞の増殖と成熟の誘導因子として作用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公報第WO2002/043477号
【特許文献2】国際公開第WO2020/196742号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ヒト樹状細胞が分化することにより、機能的ヒト免疫細胞系が再構成されたヒト化マウスモデル及びその作製法の提供を目的とする。
【0007】
従来のヒト化マウスでは、ヒト樹状細胞がほとんど検出できなかった。すなわち、ヒト免疫細胞系が再構成されなかった。
【0008】
本発明は、ヒト樹状細胞が分化することにより、機能的ヒト免疫細胞系が再構成されたヒト化げっ歯類モデルの作製方法及び該げっ歯類モデルの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
樹状細胞は、免疫反応における中枢的役割を担う細胞である。ヒト造血幹細胞を免疫不全マウスに移植することにより、リンパ球や好中球が循環するヒト化マウスが知られていたが、従来のヒト化マウスでは、ヒト免疫細胞系が完全には再構成されず、ヒト樹状細胞は検出できなかった。
【0010】
本発明者は、免疫不全マウスにヒトFLT3L遺伝子をトランスジェニックし、さらに、マウスのFLT3遺伝子をノックアウトし、該マウスにヒト造血幹細胞を移植することにより、ヒト樹状細胞が増殖し維持されるヒト化マウスを作製できることを見出し本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] ヒトFLT3L遺伝子がトランスジェニックされ、げっ歯類動物が元々有するFLT3遺伝子がノックアウトされ、ヒトFLT3Lタンパク質を産生しFLT3レセプターが欠損した免疫不全げっ歯類動物。
[2] マウスである、[1]の免疫不全げっ歯類動物。
[3] SCID変異マウス、RAG1ノックアウトマウス、RAG2ノックアウトマウス又はNOD/SCIDマウスである[2]の免疫不全げっ歯類動物。
[4] NOGマウスであり、正式系統名はNOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1Sug Tg(CAG-FLT3L)Jicと表される、[2]の免疫不全げっ歯類動物。
[5] [1]~[4]のいずれかの免疫不全げっ歯類動物にヒト造血幹細胞を移植して得られる、ヒト樹状細胞が分化し増殖し維持されているヒト化げっ歯類動物。
【0012】
[6] ヒトFLT3L遺伝子がトランスジェニックされたげっ歯類動物とげっ歯類動物が元々有するFLT3遺伝子がノックアウトされたげっ歯類動物を交配させることを含む、ヒトFLT3L遺伝子がトランスジェニックされ、げっ歯類動物が元々有するFLT3遺伝子がノックアウトされた免疫不全げっ歯類動物の作製方法。
[7] げっ歯類動物がマウスである、[6]の免疫不全げっ歯類動物の作製方法。
[8] マウスがNOGマウスであり、正式系統名はNOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1SugFlt3em 35bp Tg(CAG-FLT3L)Jicと表される、[7]の免疫不全げっ歯類動物の作製方法。
【0013】
[9] ヒトFLT3L遺伝子がトランスジェニックされ、げっ歯類動物が元々有するFLT3遺伝子がノックアウトされた免疫不全げっ歯類動物にヒト造血幹細胞を移植することを含む、ヒト樹状細胞が分化し増殖し維持されておりヒトIgG抗体を産生し得るヒト化げっ歯類動物の作製方法。
[10] げっ歯類動物がマウスである、[9]のヒト化げっ歯類動物の作製方法。
[11] マウスがNOGマウスであり、正式系統名がNOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1SugFlt3em 35bp Tg(CAG-FLT3L)Jicと表される、[10]のヒト化げっ歯類動物の作製方法。
【0014】
また、別の一態様において、本発明は、以下の通りである。
[12] [5]のヒト化げっ歯類動物に、細菌又はウイルスを感染させた、ヒト病原菌感染症モデルげっ歯類動物。
[13] ヒトFLT3L遺伝子がトランスジェニックされ、げっ歯類動物が元々有するFLT3遺伝子がノックアウトされた免疫不全げっ歯類動物にヒト造血幹細胞を移植し、さらに細菌又はウイルスを感染させることを含む、ヒト病原菌感染症モデルげっ歯類動物の作製方法。
[14] げっ歯類動物がマウスである、[13]のヒト病原菌感染症モデルげっ歯類動物の作製方法。
[15] マウスがNOGマウスであり、正式系統名がNOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1Sug Flt3em 35bpTg(CAG-FLT3L)Jicと表される、[14]のヒト病原菌感染症モデルげっ歯類動物の作製方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の、ヒトFLT3L(Fms-like tyrosine kinase receptor 3 ligand)遺伝子がトランスジェニックされ、さらにFLT3がノックアウトされたげっ歯類動物であって、ヒト造血幹細胞を移植したげっ歯類動物において、血液、脾臓、骨髄、皮膚、肝臓及び肺中でヒト樹状細胞が増殖し維持される。さらに、抗原免疫後に抗原特異的なIgM抗体及びIgG抗体が産生される。すなわち、ヒト免疫系を再現している。このようなげっ歯類動物は、ヒトの免疫系の研究等に用いることができる。また、本発明のげっ歯類動物は、ヒトの細菌、ウイルス感染に対する先天的な防御機構の研究に有用である。さらに、病原菌を感染させることにより、ヒト感染症のモデルげっ歯類動物として利用することができる。さらに本発明のげっ歯類動物は、ヒト腫瘍細胞株や患者由来腫瘍を生着させ、免疫チェックポイント阻害薬などを投与することで、ヒト腫瘍免疫系再構築モデルげっ歯類として利用することができる。加えて、ウイルス構成タンパク質若しくはペプチドや細菌構成タンパク質又はペプチドを免疫し、ウイルス又は細菌に特異的なT細胞や抗体を産生させることにより、ワクチンの評価モデルとしても利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】ヒトFLT3L Tgマウスの作製に用いたトランスジェニックベクターの構造を示す図である。
【
図2】ヒトFLT3L Tgマウスへヒト造血幹細胞を移植した場合のヒト細胞キメラ率を示す図である。
【
図3】ヒトFLT3L Tgマウスへヒト造血幹細胞を移植した場合のヒトCD45+細胞の生着を示す図である。
【
図4】NOG hFLT3L Tg/mFLT3 KOマウスへヒト造血幹細胞を移植した場合のヒトCD45+細胞の生着を示す図である。
【
図5】NOG hFLT3L Tg/mFLT3 KOマウスにおけるヒト樹状細胞の分化をフローサイトメトリーにより解析した結果を示す図である。
【
図6】NOG hFLT3L Tg/mFLT3 KOマウスにおけるヒト樹状細胞の分化を免疫組織染色により解析した結果を示す図である。
【
図7】NOG hFLT3L Tg/mFLT3 KOマウスにおける抗原特異的ヒトIgG抗体の産生を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.ヒトFLT3L(Fms-like tyrosine kinase receptor 3 ligand)遺伝子が挿入によりトランスジェニックされ、さらにFLT3遺伝子がノックアウトされ、ヒト樹状細胞が分化し増殖し維持されたヒト化遺伝子改変げっ歯類動物の作製
本発明は、ヒトFLT3L(Fms-like tyrosine kinase receptor 3 ligand)遺伝子がトランスジェニックされ、さらにげっ歯類動物が元々有するFLT3遺伝子がノックアウトされたげっ歯類動物である。
【0018】
ここで、トランスジェニック(transgenic)とは、生物の染色体にタンパク質をコードするDNA配列を挿入する遺伝子工学的手法である。ある遺伝子を動物に挿入することを、該遺伝子がトランスジェニックされる、という。また、ノックアウト(gene knock-out)とは、遺伝子の全部又は一部を欠損させ、その遺伝子の機能を失わせる遺伝子工学的手法である。
【0019】
ヒトFLT3L(Fms-like tyrosine kinase receptor 3 ligand)遺伝子がトランスジェニックされ、さらにげっ歯類動物FLT3遺伝子がノックアウトされたげっ歯類動物は、ヒトFLT3L遺伝子がトランスジェニックされたげっ歯類動物とげっ歯類動物FLT3遺伝子がノックアウトされたげっ歯類動物を交配させることにより作製することができる。
【0020】
FLT3Lは、幹細胞を含む造血前駆細胞に作用し、G-CSFやGM-CSF等のコロニー刺激因子と共に樹状細胞の増殖と成熟の誘導因子として作用する。FLT3(CD135)は、受容体チロシンキナーゼであり、造血幹細胞の増殖と生存、及び早期Bリンパ前駆細胞の分解において役割を果たす。FLT3Lタンパク質は受容体であるFLT3タンパク質に結合し、FLT3タンパク質を有する細胞の増殖を活性化する。FLT3タンパク質は急性骨髄性白血病や急性リンパ球性白血病の細胞表面に発現することが知られている。FLT3遺伝子をノックアウトすることによりFLT3レセプター(FLT3タンパク質)が欠損する。
【0021】
ヒトFLT3L遺伝子をトランスジェニックしたげっ歯類動物において、発現したヒトFLT3Lタンパク質がげっ歯類動物の骨髄系細胞のFLT3タンパク質と結合し、げっ歯類動物の骨髄系細胞が増殖し、骨髄性白血病を呈してしまい、ヒト化げっ歯類動物を作製することができない。本発明においては、げっ歯類動物が元々有するFLT3遺伝子をノックアウトし、FLT3レセプターを破壊することにより白血病症状が呈するのを予防し、この問題を回避する。
【0022】
本発明において、げっ歯類動物は限定されないが、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ヌートリア等が挙げられ、この中でもマウスが好ましい。
【0023】
本発明で用いるヒト樹状細胞が分化するヒト化げっ歯類動物は、ヒト樹状細胞を免疫により排除しないげっ歯類動物、すなわち、ヒトに対する免疫反応が不活化したげっ歯類動物である。そのような動物として、免疫機能が低下又は欠損しており、ヒトに対する免疫反応が不活化したげっ歯類動物が挙げられ、例えば、免疫不全げっ歯類動物を用いることができる。
【0024】
免疫不全マウスとして、ヌードマウス、NOD/SCIDマウス、Rag1ノックアウトマウス、Rag2ノックアウトマウス、SCIDマウスにアシアロGM1抗体やTMβ1を投与したマウス、X線照射マウス等が挙げられる。また、これらのNOD/SCIDマウスやRag1ノックアウトマウス、Rag2ノックアウトマウスにIL-2Rγノックアウトを掛け合わせたノックアウト動物(以下、dKO(ダブルノックアウト)動物)も使用され得る。例えば、dKOマウス(Rag2 KO、IL-2Rnull)を用いることができる。本発明において、遺伝背景をBalb/cとするdKOマウスをBalb/c dKOマウスといい、遺伝背景をNODとするマウスをNOD dKOマウスという。また、マウスの遺伝背景はこれらに限らず、C57BL/6、C3H、DBA2やIQI系統でも、SCID変異とIL-2Rγノックアウト、Rag1ノックアウトとIL-2Rγノックアウト又はRag2ノックアウトとIL-2Rγノックアウト変異を持つ系統でもよい。また、IL-2レセプターの共通γ鎖の下流でシグナル伝達を担うJak3タンパクの欠損もIL2Rγnullと表現型が同様であることから、Rag2ノックアウトマウスにJak3ノックアウトを掛け合わせたノックアウトマウス、Rag1ノックアウトマウスにJak3ノックアウトを掛け合わせたノックアウトマウス、SCID変異とJak3ノックアウトを掛け合わせたノックアウトマウス、あるいはそれらを交配して得た近交系、非近交系、交雑系(F1ハイブリッド)マウスでもよい。
【0025】
さらに、該マウス中で認められるNK細胞等の免疫細胞による影響を除外するために、前記のようにSCIDマウスにアシアロGM1抗体が投与されて使用される態様の他に、本発明において使用される別のマウスとして、IL-2レセプターγ鎖遺伝子に変異が導入されて、IL-2レセプターγ鎖が欠損し、かつ、T細胞及びB細胞の抗原レセプター遺伝子の再構成に関わる遺伝子のSCID変異が両対立遺伝子座位にある遺伝子改変免疫不全マウスが挙げられる。このようなマウスとしてNOD/SCIDマウス由来でIL-2レセプターの共通γ鎖をノックアウトしたマウスであるNOGマウス(NOD/SCID/γcnull(NOD/Shi-scid,IL-2RγKOマウス))、NSGマウス(NOD/Scid/IL2Rγnull(NOD.Cg-PrkdcscidIL2rgtm1Wjl/SzJ))、NCGマウス(NOD-Prkdcem26Cd52IL2rgem26Cd22/NjuCrl)等が挙げられる。さらにJak3遺伝子に変異が導入されて、Jak3が欠損し、かつ、T細胞及びB細胞の抗原レセプター遺伝子の再構成に関わる遺伝子のSCID変異が両対立遺伝子座位にある遺伝子改変免疫不全マウスNOJマウス(NOD/Scid/Jak3null(NOD.Cg-PrkdcscidJak3tm1card))も使用できる。以下、scid 変異などによりPrkdc 遺伝子、及びその遺伝子産物の機能が欠損し、IL2Rγ遺伝子の欠損や変異、又はシグナル伝達下流にある遺伝子、及びその産物の機能欠損によりIL2Rγ遺伝子産物の正常な機能が喪失したこれらの動物をNOGマウス(「NOG mouse」は登録商標)と指称し、宿主として使用することもできる。これらのマウスにおいてはリンパ球の存在が認められないため、NOGマウスはNK活性を示さず樹状細胞機能も欠損している。NOGマウスの作出方法は、WO2002/043477に記載されている。NSGマウスの作出方法は、Ishikawa F. et al., Blood 106:1565-1573, 2005に、NCGマウスの作出方法は、Zhou J. et al. Int J Biochem Cell Biol 46:49-55, 2014に、NOJマウスの作出方法は、Okada S. et al.,Int J Hematol 88:476-482, 2008に記載されている。
【0026】
さらに本発明に使用される免疫不全マウスとして、RAG1ノックアウトマウス及びRAG2ノックアウトマウスが挙げられる
ヒトFLT3L遺伝子をトランスジェニックする方法、及びげっ歯類動物のFLT3遺伝子をノックアウトする方法は限定されず、例えば、マイクロインジェクション、相同組換え、ゲノム編集などにより行うことができる。
【0027】
ヒトFLT3L遺伝子の塩基配列を配列番号1に示す。
【0028】
マウスFLT3遺伝子のノックアウトは、FLT3遺伝子の全部又は一部の欠損により行うことができる。例えば、マウスFLT3遺伝子のエクソン1の全部又は一部を欠損させればよい。具体的な欠損部位として、マウスFLT3遺伝子のエクソン1の35bpの塩基配列の欠損が例示できる。マウスFLT3遺伝子のエクソン1の塩基配列を配列番号2に示し、35bpの部位が欠損したマウスFLT3遺伝子のエクソン1の塩基配列を配列番号3に示す。
【0029】
マイクロインジェクションとは、げっ歯類の受精卵に目的の遺伝子を含むトランスジェニックベクターを注入し、げっ歯類のゲノムにランダムに目的遺伝子を挿入する手法である。トランスジェニックベクターは、目的遺伝子の上流に任意のプロモーター配列を配置させ、目的遺伝子を発現させる発現ベクターのことである。相同組換えとは、細胞内で2つのDNA分子が同じ塩基配列を介して相互に組換えを起こす現象で、巨大なゲノムDNAを持つ生物の組換えにしばしば用いられる方法である。標的とする遺伝子部位の配列を中央で分断する形で、他のDNAを連結したプラスミド(ターゲティングベクターという)を構築する。すなわち、ヒトFLT3L遺伝子を単離し、該遺伝子のDNAをげっ歯類動物の特定部位の上流部分と下流部分の相同配列で挟んだコンストラクトを作製し、これを公知のベクターに挿入し、ターゲティングベクターを作製する。免疫不全げっ歯類動物のES細胞(胚性幹細胞)に導入する。相同組換えにより、げっ歯類動物の特定部位のDNAとターゲティングベクター上の同じ配列部分との間で入れ換えが起こり、挟み込まれた他のDNAがげっ歯類ゲノム中に組み込まれる。このようにしてES細胞を樹立し、該ES細胞をげっ歯類動物胚又は胚盤胞に注入し、キメラ胚を偽妊娠させたげっ歯類動物の子宮に移植しキメラマウスを作製する。得られたキメラマウスを前記の免疫不全げっ歯類動物と交配することにより、げっ歯類動物のゲノム中にトランスジェニックされたヒトFLT3L遺伝子をヘテロに有するF1個体を得ることができる。このヘテロの個体どうしを交配することにより、げっ歯類動物のゲノム中にトランスジェニックされたヒトFLT3L遺伝子をヘテロに有する免疫不全げっ歯類動物を得ることができる。
【0030】
この際、ターゲティングベクターを作製するベクターとしては、げっ歯類動物のES細胞において発現可能で、形質転換可能なものを用いることができ、大腸菌由来のプラスミド、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス、ワクシニアウイルス等を用いることができる。
【0031】
ヒトFLT3L遺伝子の上流には、プロモーターを連結させてもよく、例えば、CAGプロモーター等を用いることができる。
【0032】
ターゲティングベクターのES細胞への導入は、公知のエレクトロポレーション法、リン酸カルシウム共沈殿法、リポフェクション法、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法等により行うことができる。
【0033】
ベクターは、選別のためのマーカー遺伝子を含んでいてもよく、マーカー遺伝子として、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。マーカー遺伝子は、相同組換え体の選択後に除去してもよく、Cre-loxP系やFlp-frt系を利用することにより除去することができる。
【0034】
ES細胞の代わりに、げっ歯類動物のiPS細胞等の幹細胞を用いることもできる。
【0035】
ゲノム編集は、部位特異的なヌクレアーゼを利用して標的遺伝子を改変する方法である。ゲノム編集の方法として、用いるヌクレアーゼにより、ZFN(zinc finger nuclease)法(Urnov, Fyodor D. et al., Natur, Vol 435, 2 June 2005, pp.642-651)、TALEN(Tale nuclease)法(Mahfouz, Magdy M et al., PNAS February 8, 2011, 108(6), pp.2623-2628)、CRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)/Cas9(Crispr Associated protein 9)(Jinek, Martin, et al., Science, Vol 337, 17 August 2012, pp.816-821)、CRISPR/Cas3等のCRISPR/Casシステムによる方法等が挙げられる。これらの方法には、ニッカーゼ改変型Casを用いた方法等のヌクレアーゼを改変した方法も含む。このうち、CRISPR/Cas9システムによる方法が好ましい。CRISPR/Cas9システムにおいては、例えば、切断することにより機能を欠損させたいげっ歯類動物のFLT3遺伝子の標的配列に相補的な配列を含むguide RNA(crRNA、tracrRNA)を免疫不全げっ歯類遺伝子の受精卵に注入する。受精卵内で、げっ歯類動物のFLT3遺伝子が欠損する。guide RNAの塩基長は、20以上が好ましい。CRISPR/Cas9によるゲノム編集は、市販のCRISPR/Cas9ツールを用いて行うことができる。
【0036】
ノックアウトげっ歯類動物は、完全ノックアウトげっ歯類動物(コンベンショナルノックアウトげっ歯類動物)も条件付きノックアウトげっ歯類動物(コンディショナルノックアウトげっ歯類動物)も含む。完全ノックアウトげっ歯類動物は相同組換えと交配を含ませて作製することができる。
【0037】
このようにして得られたヒトFLT3L遺伝子がトランスジェニックされたトランスジェニックげっ歯類動物とげっ歯類のFLT3遺伝子がノックアウトされたノックアウトげっ歯類動物を交配することにより、ヒトFLT3L(Fms-like tyrosine kinase receptor 3 ligand)遺伝子がトランスジェニックされ、さらにげっ歯類動物が元々有するFLT3遺伝子がノックアウトされたげっ歯類動物を得ることができる。このようなげっ歯類動物をhFLT3L Tg/FLT3 KOげっ歯類動物と呼ぶ。用いたげっ歯類動物がマウスである場合、hFLT3L Tg/mFLT3 KOマウスと呼び、NOGマウスである場合、NOG hFLT3L Tg/mFLT3 KOマウスと呼ぶ。該NOGマウスは、NOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1Sug Flt3em 35bpTg(CAG-FLT3L)Jicという正式系統名で表される。
【0038】
hFLT3L Tg/FLT3 KOげっ歯類動物に、ヒト造血幹細胞を移植することにより、ヒト造血幹細胞がげっ歯類動物中に生着し、ヒト樹状細胞が分化し、末梢血中及び各臓器にヒト樹状細胞が増殖し維持されたたヒト化げっ歯類動物を得ることができる。
【0039】
移植の前にhFLT3L Tg/FLT3 KOげっ歯類動物に放射線を照射することが好ましい。この際0.5~1.5Gy、好ましくは0.8~1.3Gy、さらに好ましくは1Gyの放射線を照射することが好ましい。
【0040】
ヒト造血幹細胞(CD34+細胞)の移植は、静脈経由で行うことが好ましく、例えば、尾静脈経由で行えばよい。移植するヒト造血幹細胞は、げっ歯類動物の体重によるが、例えばマウスの場合、103~106個、好ましくは104~105個、さらに好ましくは、4~5×104個を移植すればよい。移植後、2~20週、好ましくは3~16週、さらに好ましくは4~12週でヒト樹状細胞が末梢を循環するヒト化げっ歯類動物を得ることができる。
【0041】
2.ヒト造血幹細胞(HSC: hematopoietic stem cell)が移植され、ヒト樹状細胞が増殖し維持されたhFLT3L Tg/FLT3 KOげっ歯類動物の特性
1.で作製したhFLT3L Tg/FLT3 KOげっ歯類動物は、以下の特性を有する。
ヒトFLT3Lが恒常的に産生される。げっ歯類動物の血中に、10~20ng/ml程度の濃度で存在する。
げっ歯類動物が本来有しているFLT3レセプターが欠損している。
【0042】
血中にヒト樹状細胞が分化し増殖し存在する。ここで、樹状細胞は、ヒトコンベンショナル樹状細胞(Total conventional dendritic cells; Total cDC)、タイプ1コンベンショナル樹状細胞(Type1 conventional dendritic cells; cDC1)、タイプ2コンベンショナル樹状細胞(Type2 conventional dendritic cells; cDC2)及び形質細胞様樹状細胞(Plasmacytoid dendritic cells; pDC)のサブセットを含む。血液1ml当たりのヒト樹状細胞数は、ヒトコンベンショナル樹状細胞(Total conventional dendritic cells; Total cDC)で2~6×104細胞程度である。
【0043】
ヒト樹状細胞は3ヶ月以上、好ましくは5ヶ月以上、さらに好ましくは7ヶ月以上安定して存在する。これは、機能的なヒト血液細胞系が再構成されたことを示す。
【0044】
全身におけるヒト樹状細胞が増殖し、維持され、特に皮膚、脾臓、肝臓、小腸及び大腸において、ヒト樹状細胞が存在する。
【0045】
ヒト樹状細胞が増殖し維持されているhFLT3L Tg/FLT3 KOげっ歯類動物を抗原で免疫した場合、抗原特異的ヒトIgM抗体だけでなく、抗原特異的ヒトIgG抗体が産生される。抗原特異的ヒトIgG抗体が産生されるのは、樹状細胞が増殖し、ヒト免疫系が活性化するためである。
【0046】
上記の特性を有するヒト造血幹細胞を移植した本発明のhFLT3L Tg/FLT3 KOげっ歯類動物は、ヒトの免疫系を再現できる。
【0047】
3.ヒト造血幹細胞(HSC: hematopoietic stem cell)が移植され、ヒト樹状細胞が増殖し維持されたhFLT3L Tg/FLT3 KOげっ歯類動物の利用
ヒト造血幹細胞(HSC: hematopoietic stem cell)が移植され、ヒト樹状細胞が増殖し維持されたhFLT3L Tg/FLT3 KOげっ歯類動物は、ヒトの免疫系を再現することができ、ヒトの免疫学の研究に利用することができる。
【0048】
また、該げっ歯類動物に細菌を感染させることにより、ヒトの細菌感染に対する先天的な防御機構の研究に利用することができる。
【0049】
本発明は、ヒト造血幹細胞(HSC: hematopoietic stem cell)が移植され、ヒト樹状細胞が増殖し維持されたhFLT3L Tg/FLT3 KOげっ歯類動物に細菌やウイルスを感染させたヒト感染症モデルげっ歯類動物を包含する。細菌やウイルスとしては、ヒトに対して病原菌として作用する、病原性大腸菌、腸管出血性大腸菌、サルモネラ属菌、カンンピロバクアー・ジェジェニ/コリ、黄色ブドウ球菌、腸炎ビブリオ、ボツリヌス菌、セレウス菌、ウエルシェ菌、ノロウイルス、A型肝炎ウイルス、E型肝炎ウイルス等が挙げられる。これらの病原菌を本発明のヒト造血幹細胞(HSC: hematopoietic stem cell)が移植され、ヒト樹状細胞が増殖し維持されたhFLT3L Tg/FLT3 KOげっ歯類動物に感染させることにより、ヒト感染症のモデルげっ歯類動物を作製することができる。該モデルげっ歯類動物を用いてヒトの感染症防御機構を研究することができ、さらに、新しい治療方法や治療薬の探索に用いることができる。また、ヒト免疫系を有するhFLT3L Tg/FLT3 KOげっ歯類動物に、ウイルスや細菌を構成するタンパクまたはペプチドを投与し、ヒト抗体の産生やヒト免疫細胞の活性を解析することができるため、ワクチン評価の研究にも利用することができる。免疫源としては、ヒトパピローマウイルス、インフルエンザウイルス、結核菌など、または、ワクチン開発が進められているSARS-CoV-2、デングウイルス、ジカウイルスなどが挙げられる。さらに、該hFLT3L Tg/FLT3 KOげっ歯類動物にヒト患者由来腫瘍組織またはヒト腫瘍細胞株を移植し、免疫チェックポイント抗体など抗腫瘍効果を有する薬剤を投与し、ヒト免疫細胞による腫瘍の拒絶を解析することが可能となり、ヒト腫瘍免疫モデルげっ歯類動物を作製することができる。
【実施例0050】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0051】
[実施例1] NOGヒトFLT3L Tg(トランスジェニック)マウスの作製及び評価
(1) NOG-ヒトFLT3L Tgマウスの作製
クローニングしたヒトFLT3L遺伝子を全身性発現プロモーターであるCAGプロモーターを有するプラスミドベクターのマルチクローニングサイトに挿入し、トランスジェニックベクター(ヒトFLT3L Tgベクター)を作製した。このトランスジェニックベクターを制限酵素処理によりリニアライズし、NOGマウス受精卵へ注入し、その後受精卵を仮親の子宮へ移植し、ヒトFLT3L Tgマウスを作製した。
図1にトランスジェニックベクターの構造を示す。
【0052】
(2) ヒトFLT3L TgマウスにおけるhFLT3Lタンパク質の発現
該マウス血中の、hFLT3Lタンパク質の発現量を、抗hFLTL3抗体を用いたELISA法で測定した。10~20 ng/ml程度のhFLT3LがTgマウス血中にて産生されていた。
【0053】
(3) ヒトFLT3L Tgマウスへのヒト造血幹細胞の移植
作製したhFLT3L Tgマウス又はnonTgマウス(hFLT3L遺伝子をトランスジェニックしていないマウス)へ1.5 GyのX線を照射し、4~5×104個のヒト造血幹細胞を尾静脈より移植した。移植後4、8及び12週後、末梢血を採取し、フローサイトメーターでヒト白血球(CD45)の割合、すなわちヒト細胞キメラ率を測定した。
【0054】
結果を
図2に示す。
図2に示すように、移植後8週以降hFLT3L TgマウスではCD45+細胞がほとんど検出されなかった。
【0055】
(4) ヒトFLT3L Tgマウスにおける、ヒトCD45+細胞の生着の確認
上記のようにヒト造血幹細胞を移植して作製したヒト化hFLT3L TgマウスまたはnonTgマウスを移植後15週時点で解剖し、骨髄細胞を採取してフローサイトメーターでヒトCD45+、CD33+及びCD19+細胞、並びにマウスCD45+、CD11b+及びGr1+細胞の割合を解析した。
【0056】
結果を
図3に示す。
図2に結果を示す末梢血と同様に、hFLT3L Tgマウス骨髄ではヒトCD45+細胞はほとんど検出されなかった。一方で、マウスCD45+細胞は顕著に増殖しており、これらはほとんどがCD11b+Gr1-の骨髄性白血病様細胞であった。すなわち、マウスは骨髄性白血病を呈していた。この結果は、hFLT3Lタンパク質がマウスFLT3タンパク質に交差して、骨髄系細胞の増殖を亢進させていることを示唆している。そこで、mFLT3 KOマウスを作製することとした。
【0057】
[実施例2] NOG hFLT3L Tg/mFLT3 KOマウスの作製及び評価
(1) NOG hFLT3L Tg/mFLT3 KOマウスの作製
NOG mFLT3 KOマウスは、CRISPR/CAS9法を用いたゲノム編集により作製した。mFLT3遺伝子のエクソン1を標的としたガイドRNAを設計し、CAS9タンパクと共にNOGマウス受精卵に注入し、NOG mFLT3 KOマウスを作製した。さらにNOG mFLT3 KOマウスと実施例1にて作製したNOG hFLT3L Tgマウスを交配することにより、NOG hFLT3L Tg/mFLT3 KOマウスを作製した。
【0058】
(2) NOG hFLT3L Tg/mFLT3 KOマウスへのヒト造血幹細胞の移植
NOG hFLT3L Tg/mFLT3 KOマウスへヒト造血幹細胞を移植し、8週後に採血して血中ヒトCD45+細胞の割合をフローサイトメトリーにて測定した。結果を
図4に示す。
図4に示すように、ヒトFLT3L Tgマウス(
図3)で見られたマウス白血病様症状は回避され、nonTgマウスに遜色なくヒトCD45+細胞の生着が確認された。
【0059】
(3) NOG hFLT3L Tg/mFLT3 KOマウスにおけるヒト樹状細胞の分化(フローサイトメトリーによる解析)
ヒト造血幹細胞を移植したNOG hFLT3L Tg/mFLT3 KOマウス末梢血中および脾臓中のヒト樹状細胞をフローサイトメトリーにて解析した。結果を
図5に示す。
図5Aは血液1mL中の細胞数を示す。
図5Bは脾臓中の細胞数を示す。
図5A及びBに示すように、ヒトコンベンショナル樹状細胞(Total conventional dendritic cells; Total cDC)、タイプ1コンベンショナル樹状細胞(Type1 conventional dendritic cells; cDC1)、タイプ2コンベンショナル樹状細胞(Type2 conventional dendritic cells; cDC2)及び形質細胞様樹状細胞(Plasmacytoid dendritic cells; pDC)がnonTgマウスに比べて顕著に分化亢進し、増加していた。
【0060】
(4) NOG hFLT3L Tg/mFLT3 KOマウスにおけるヒト樹状細胞の分化(免疫組織染色による解析)
NOG hFLT3L Tg/mFLT3 KOマウスをヒト造血幹細胞移植によりヒト化して18週後の皮膚、脾臓、肝臓、小腸及び大腸におけるヒトcDC1を免疫組織学的に染色した。結果を
図6に示す。
図6に示すように、nonTgマウスに比べていずれの臓器でも樹状細胞が顕著に分化亢進し、増加していた。また、移植後7ヶ月後の脾臓細胞をフローサイトメトリーにて解析したところ、全ての樹状細胞が7ヶ月もの長期間維持されていることがわかった。
【0061】
以上の結果から、NOG hFLT3L Tg/mFLT3 KOマウスは、ヒト樹状細胞分化誘導が可能であり、in vivoで長期間ヒト樹状細胞を維持させることができるマウスであることが明らかとなった。
【0062】
(5) NOG hFLT3L Tg/mFLT3 KOマウスにおけるヒト免疫反応
NOG hFLT3L Tg/mFLT3 KOマウスをヒト造血幹細胞移植によりヒト化し、50μgの卵白アルブミン(OVA)抗原をアラムとともに2週間おきに7回腹腔内投与し、血清中のOVA特異的IgMおよびIgG抗体をELISA法にて測定した。結果を
図7に示す。
図7AはIgMの産生量を示し、
図7BはIgGの産生量を示す。
図7に示すように、OVA特異的IgM抗体は、nonTgマウス及びNOG hFLT3L Tg/mFLT3 KO Tgマウスにて観察された。一方、OVA特異的IgG抗体は、nonTgマウスでは全く認められなかったが、7回免疫後のTgマウスでは顕著に亢進していた。従来の造血幹細胞を移植したヒト造血系マウスでは抗原特異的IgG抗体はほとんど産生されなかったため、NOG hFLT3L Tg/mFLT3 KO Tgマウスでは、ヒト樹状細胞がIgG抗体産生誘導に寄与していることが判明した。
【0063】
以上のことから、ヒトFLT3Lタンパク質を産生し、マウスFLT3遺伝子を欠失したヒト化NOG hFLT3L Tg/mFLT3 KOマウスは、ヒト樹状細胞が高度に分化し、ヒト造血系を亢進させ、さらに抗原特異的ヒトIgG抗体の産生が可能な新たなヒト化マウスモデルであることが示された。
本発明の、ヒトFLT3L(Fms-like tyrosine kinase receptor 3 ligand)遺伝子がトランスジェニックされ、さらにFLT3がノックアウトされたげっ歯類動物はヒト免疫系の研究やヒト感染症モデルげっ歯類動物として利用することができる。