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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022101248
(43)【公開日】2022-07-06
(54)【発明の名称】咬合器
(51)【国際特許分類】
   A61C 11/00 20060101AFI20220629BHJP
【FI】
A61C11/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020215707
(22)【出願日】2020-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】390011143
【氏名又は名称】株式会社松風
(72)【発明者】
【氏名】小川匠
(72)【発明者】
【氏名】重本修伺
(72)【発明者】
【氏名】重田優子
(72)【発明者】
【氏名】井川知子
(72)【発明者】
【氏名】木原琢也
(72)【発明者】
【氏名】森山毅
(72)【発明者】
【氏名】奥田啓之
(72)【発明者】
【氏名】日浦拓也
(72)【発明者】
【氏名】井上智之
【テーマコード(参考)】
4C159
【Fターム(参考)】
4C159CC06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】全運動軸から最小運動軸への連携の取れた移行の経過を再現し、それによって下顎運動の経路を高精度に再現することのできる咬合器を提供する。
【解決手段】健全な下顎運動を有する被検者の平均的な顆頭位置において全運動軸を成す顆頭球を第一の回転中心軸1として備え、かつ健全な下顎運動を有する被検者の平均的な最小運動軸が存在する領域内に第二の回転中心軸4を設置することで人の基本的な顎運動を再現できるように構成し、各回転中心軸の位置は平均的な領域内で調整可能として個々の患者が持つ固有の顎位、上下角の位置関係、顎運動を臨床上十分な精度で再現可能な咬合器を構成した。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の回転中心軸と第二の回転中心軸を備える咬合器であって、
前記第一の回転中心軸が健全な下顎運動を有する被検者の平均的な顆頭位置において全運動軸を成す顆頭球を示し、
前記第二の回転中心軸が健全な下顎運動を有する被検者の平均的な最小運動軸が存在する領域内に設置されていることを特徴とする咬合器。
【請求項2】
前記第一の回転中心軸はスライダ上に載せてあり、回転運動と平行滑走運動が可能であり、
前記第二の回転中心軸はブラケットと接しており、前記第二の回転中心軸とブラケットはそれぞれ上下方向または前後方向に移動固定できる調整機構を備えていることを特徴とする請求項1に記載の咬合器。
【請求項3】
咬合調整時において、前記第一の回転軸を含んでいる構成部分を外す、もしくは緩めることにより固定を解除する機構を備えることを特徴とする請求項1~2に記載の咬合器。
【請求項4】
前記第一の回転軸および前記第二の回転軸はそれぞれ、位置関係を調節し、保持することが可能な機構を備えていることを特徴とする請求項1~3に記載の咬合器。
【請求項5】
前記第一の回転軸、前記第二の回転軸、
上弓、下弓、および上弓と下弓を結合する機構のいずれか1つ以上には、
患者から採取した任意の咬合に関する位置関係、移動方向、角度について再現できる機構を備えていることを特徴とする請求項1~4に記載の咬合器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は上顎模型、および下顎模型を設置固定して患者の顎堤、歯列、咬合状態、顎運動等を研究、診断するため、および/または顎関節症の治療、および/または補綴装置、矯正装置等を製作するために患者の上下顎間位置を保持、または顎運動を再現するのに用いられる歯科用の咬合器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に咬合器は患者の上下顎、歯列の位置関係を保持して各種の診断や補綴装置の製作に用いられるが、患者の下顎骨の左右に存在する下顎頭に相当する位置に上弓と下弓の回転中心軸を持つ。あるいは上下顎後方の適当な一点で蝶番によって上弓と下弓を結合させる構造となっている。この方式の咬合器では蝶番の留めねじを緩めれば任意の方向に自在に回転させることができる。どちらの咬合器もこのような機構を用いることによって上下顎を開閉することができるようになっている。
【0003】
咬合器は中心咬合位など、特定の咬合位を再現するものや、側方運動や前方滑走運動などの顎運動を再現できるものなど、使用目的に応じて種々の形態、機構を持つものが開発されている。
患者固有の顎運動を必要に応じて再現するため、または開閉運動や側方運動による下顎の動きを再現するため、顆頭球に調整機構を設けたものもある。
調整できるパラメータの数や種類によって簡易型咬合器、平均値咬合器、半調節性咬合器、全調節性咬合器に大別される。
【0004】
簡易型咬合器は正確な顎運動経路の再現を目的とはせず、上下顎模型の保持と、単純に開閉運動を行わせて補綴装置製作作業を行いやすくするうえで最低限の動きを行わせるのに向いている。
【0005】
平均値咬合器は下顎運動の要素を解剖学的な平均値に固定してある。
顆路や切歯路など下顎運動を構成する移動要素における個人差を咬合器上で調節、再現可能な調節性咬合器のうち、半調節性咬合器は下顎運動要素の一部のみが再現可能な咬合器である。
【0006】
また、全調節性咬合器はすべての下顎運動要素が調整、再現可能な咬合器である。
術者は全調節性咬合器、半調節性咬合器、簡易型咬合器などの中から使用目的に応じて必要な種類の咬合器を選択して使用する。
患者の下顎運動に合った補綴装置を製作するためには下顎運動要素をより多く調整、再現できる咬合器を用いる方が良い結果が得られる傾向にあると考えられるが、必ずしもそうではない。実際には各下顎運動要素の調整、再現性に誤差が存在し、扱う下顎運動要素の数が増えるにしたがって咬合器の操作も難しく、咬合に関するより高度な知識とより多くの経験を要する上に、操作にもより多くの時間を要するため、限られた時間の中で一定の精度内で再現することは極めて困難である。
【0007】
調節性咬合器を使用する際にはフェイスボウを用いて上弓に上顎模型を装着し、下顎模型は咬頭嵌合位で得られたバイトワックスを用いて下弓に装着するのが一般的である。
しかし現代人の約80パーセントが咬頭嵌合位と顆頭の安静位が異なる位置にあるといわれており、咬頭嵌合位で下顎模型を装着すると患者のボンウィル三角は咬合器上の模型には存在しないのが現実である。
【0008】
これら調節可能なパラメータの多い、少ないに関係なく従来から指摘されている課題として開閉運動時の顆頭の位置が正確に再現できないことや実際の動きとは異なる臼歯の離開現象が起こることが良く知られている。
【0009】
このため、機械的に回転中心位置が固定されている従来の咬合器を用いて製作される各種の補綴装置や義歯、矯正装置等は患者固有の顎運動とは異なる下顎運動体系の中で調整、製作されてしまうため、実際に患者に装着する際、特に上下の歯牙が接触、咬合する臼歯部咬合面などに対して口腔内での調整、修正作業が必要となる。
【0010】
更には6自由度下顎運動測定データで厳密に再現した患者の顎運動を従来の咬合器上に再現した空間に適用すると、顎関節の異常な患者の場合などで全運動軸が下顎頭近傍に収束せず、まったく現実とは異なる開閉運動、および咬合平面、および上下歯列のかみ合わせなどの情報を術者に提示してしまうという重大な問題をはらんでいる。
【0011】
これらの課題があるために、従来型咬合器で作製した補綴装置は患者口腔内に装着してから多大な調整作業が必要になるのが一般的である。少しずつ調整しては様子を確認するという作業を繰り返す必要があり、この作業には細心の注意を払う必要もあるので長時間を要することも珍しいことではないため、患者、術者ともに負担が大変大きい。また当然ながら調整量が多い場合は調整過程で咬合高径が咬合器上にて模型に装着した時から変化することとなり、患者の口腔内で調整した後、一旦咬合器に戻して最終調整や確認を行おうとすると調整前よりも咬合高径が低くなっており、患者の咬合高径が正確に再現されなくなる場合があった。この場合は調整前後の咬合高径の差を誤差とみなして患者の口腔内において現物合わせで調整するしかないのが実情である。
【0012】
顎関節の形状、動作、開閉運動経路が異常な患者の場合、補綴装置を製作する以前に咬合平面が適切であるのか、そうでない場合はどこに設定すべきなのかを十分に検討する必要があるが、従来の咬合器を用いる限りその判定、診断に誤差が入り込む余地が大きく、正確な治療のために全面的に信用できる咬合平面決定の根拠とはなりえないことがほとんどである。
【0013】
また、咬合平面を再構成する治療においてその前後の治療経過を比較検討すること、現状が望ましい状態であるのか否かの判断が重要であるが、根拠を伴っての判断をする上で従来咬合器は全く不十分な情報しか得られない。
このような場合、顎運動を正確に再現できない咬合器を使う限り、根拠に基づいた咬合平面の評価や設定は実質的に困難であり、実際上は術者が形態学的・審美的要因を考慮して知識と経験則で主観的に決定せざるを得なかった。
【0014】
それが正しいという根拠、保証がなく、実際の所、患者の口腔内に試適した場合に上下顎歯牙の予期せぬ接触や誤った咬合運動誘導現象が生じることがほとんどであり、現物合わせでの調整作業を行うことが常態化していた。
【0015】
このような課題を解決するため特許文献1では咬合平面を後方に延長した仮想面と同じ高さに上弓と下弓の結合部を設置し、開閉運動時に第二大臼歯が実際に患者の上下顎が開閉する際と比較して早期に異なる方向に接触するという課題を解決している。
しかし閉口時には本来の顆頭の位置と異なる位置で上弓と下弓が結合しているため、この状態で側方運動を行わせると実際の患者口腔内とは異なる方向への運動となってしまい、実態とは異なる運動経路が新たに生じるという問題があった。
【0016】
更には患者の口腔開閉運動は初めに全運動軸を中心として下顎が開き始め、開口量の増加にともなって全運動軸は下顎頭付近から前下方に移動しながら回転する。つまり回転軸が並進移動するが、特許文献1の咬合器で再現できる開口運動は蝶番運動(蝶番軸)であるため開口量の増加に伴う軸の並進運動機構は存在しない。
そのため特許文献1の咬合器を用いて補綴装置の咬合面の設計や調整を行ったり、顎関節症患者の治療や治療経過を観察したりする際等で開閉口運動を正確に再現する必要があってもその目的には使用できなかった。
【0017】
非特許文献1には最小運動軸の存在、位置の算出方法、学術的意義について書かれている。患者の下顎運動を従来よりも正確に再現するために極めて有用な理論、知見であり顎関節症の治療ステップの適切な移行時期を判断したり、従来の咬合器では再現しえなかった臼歯咬合面の正確な離開の状態などを再現したりすることができる。
しかしコンピュータによるシミュレーションで上記の効果を得ることは可能になったが、これまでこの理論、知見を再現可能な実際に存在する装置がなく、臨床現場でこの理論、知見を十分に応用、活用することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特許第5688620号
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】デンタルエコーVol.188 ~191(2017年7月~2018年3月発行)合本
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
従来の咬合器では専ら印象採得時の上下顎の位置関係のみが再現でき、その結果として咬頭勘合位、中心位、側方限界位などの限界運動時の終末位でしか上下顎の位置関係を保持することができなかった。
【0021】
更には下顎運動の経路を再現することができず、動的な上下顎の運動経路、及び歯牙、補綴装置の接触関係の正確な再現はできなかった。
【0022】
そのため終末位での上下顎の位置関係で補綴装置を作製せざるを得ず、製作後は患者の口腔内に試適して顎を運動させ、あるいは/または任意の位置関係、開口度に保たせて手作業で調整作業を行っているのが現状である。
この調整作業は熟練と患者個々の顎の動きを正確にとらえて再現する必要があるが、診療時間の制約や技工作業に対する熟練と知識の不足などの要因で実際の臨床現場において歯科医がこれを必要十分に行う事は極めて困難である。
従来の咬合器を用いて歯科技工士が補綴装置を製作する場合においても、患者の顎運動を客観的に確認して咬合器上に再現することができなかったため審美性は十分に再現できたとしても患者固有の顎運動を損なわない/咀嚼効率の高い咬合面、咬合関係を有する機能的な補綴装置を製作することは困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の目的はこれら従来技術の課題である咬合器でヒトの矢状面運動を再現するために下顎頭付近の回転軸である全運動軸と下顎全体の並進運動が最小となる最小運動軸の両者を再現し、それによって下顎運動の経路を高精度に再現することのできる咬合器を提供することにある。
【0024】
本発明の咬合器は、第一の回転中心軸と第二の回転中心軸を備える咬合器であって、第一の回転中心軸が健全な下顎運動を有する被検者の平均的な顆頭位置において全運動軸を成す顆頭球を示し、第二の回転中心軸が健全な下顎運動を有する被検者の平均的な最小運動軸が存在する領域内に設置されていることを特徴とする。
【0025】
また、第一の回転中心軸はスライダ上に載せてあり、回転運動と平行滑走運動が可能であり、第二の回転中心軸はブラケットと接しており、第二の回転中心軸とブラケットはそれぞれ上下方向または前後方向に移動固定できる調整機構を備えていることが好ましい。ここで、調整機構は、第二の回転中心軸とブラケットは、それぞれ上下方向または前後方向に15~30mmの幅にわたって位置調整できることが好ましい。調整機構は任意であり、ネジ、またはラチェット機構、クイックレリーズ機構、スライドロック機能、スナップボタン、その他適切な固定/緩開機能等を設けることもできる。図5、6に示すようにスライド式の調整機構であってもよい。
【0026】
咬合調整時において、特に咬頭嵌合位における最小運動軸を基準とする場合、第一の回転軸を含んでいる構成部分を外す、もしくは緩めることにより固定を解除する機構を備えることが好ましい。
【0027】
また、第一の回転軸および第二の回転軸はそれぞれ、位置関係を調節し、保持することが可能な機構を備えていることが好ましい。位置関係を調節し、保持することが可能な機構については任意であるが、例として、ネジ、またはラチェット機構、クイックレリーズ機構、スライドロック機能、スナップボタン、その他適切な固定/緩開機能があげられる。また必要に応じてブラケット、上弓、または下弓と軸の間にバネまたは弾性部材を介しても良い。
【0028】
第一の回転軸、前記第二の回転軸、上弓、下弓、および上弓と下弓を結合する機構のいずれか1つ以上には、患者から採取した任意の咬合に関する位置関係について再現できる機構を備えていることが好ましい。具体的には、上弓、下弓、上弓と下弓を結合する機構には患者から採得した正中線、咬合平面、眼窩底点を設定し患者の上記各部の位置関係を再現可能であるとともに下顎運動を正確に再現できるよう、第一及び第二の回転中心軸を連携して正しい角度で回転することが可能な機構を備えていることが好ましい。
【0029】
健全な下顎運動を有する被検者の平均的な顆頭位置において全運動軸を成す顆頭球を第一の回転中心軸として備え、かつ健全な下顎運動を有する被検者の平均的な最小運動軸が存在する領域内に第二の回転中心軸を設置することで人の基本的な顎運動を再現できるように構成し、各回転中心軸の位置は平均的な領域内で調整可能として個々の患者が持つ固有の顎位、上下角の位置関係、顎運動を臨床上十分な精度で再現可能な咬合器を構成した。
ここで、第一の回転中心軸は回転可能であり、且つ平行滑走運動可能なスライダ上に位置している。また、第二の回転中心軸は、第二の回転中心軸を受けるブラケットを備えており、全運動軸に相当する第一の回転軸は回転軸受けが咬頭傾斜角に沿って平行移動が可能とした。最小運動軸に相当する第二の回転中心軸の軸受けは一点に固定される事がなく、一定の領域内で自由に移動させることができるように第二の回転軸球の半径よりも大きな半径で構成されている。これにより第一の回転中心軸による制約の中で採り得る範囲内であれば自由に移動することが可能とした。更には最小運動軸、全運動軸どちらの回転中心軸でも上弓と下弓を着脱、開閉、滑走運動させることができるようにすることで人の顎運動を正確に再現することを可能にした。
このように2つの回転中心軸を連携させ、かつ一定の範囲内で自由に移動可能とすることで下顎運動経路を再現することを可能とした。
また、下顎運動データを用いて本咬合器を動作させることにより実態を用いたシミュレーションが可能になる。この機能により術者が患者の顎運動を立体的、感覚的に理解把握することが可能になり、診療、治療、補綴装置の製作、調整作業における目標設定と目標までの到達度を客観的に知ることが可能になった。
【発明の効果】
【0030】
人間の複雑な下顎運動を各限界位置だけではなく、経路も含めて正確に再現することができる。
咬合器装着された状態から現在の咬合平面を形態的及び機能的に評価できる。
オーラルリハビリテーションの際の咬合平面設定の指標/基準となる。
患者固有の最小運動軸の位置と収束範囲(最小運動軸の動く範囲)を咬合器上で再現できるので過剰な咬合圧がかかる部位の特定や経時的な最小運動軸の収束範囲の縮小度合いの確認により治療ステップを次に進めるか否かの判断指標を患者の口腔外に再現し、確認することが可能になる。
【0031】
間接技工において機能範囲における咬合の挙動をシミュレートできる。
これらの結果、歯牙が不正に干渉することがなく正常な各種の開閉運動が可能な補綴装置が容易に作製できる。
【0032】
無歯顎患者の場合、印象採得だけでは咬合高径が決められないためまずは平均値で咬合平面を設定せざるを得なかったが全運動軸と最小運動軸データによる解析演算結果から患者固有の咬合平面が設定できれば本発明の咬合器にて実態としても咬合平面を再現した状態で総義歯の製作が可能になる。
【0033】
最小運動軸と全運動軸が平行でない患者は大変多いが本発明に係る咬合器はその2つの軸の位置関係を再現できるため、最小運動軸と全運動軸を平行に近づける一連の治療や顎関節症の治療の計画立案や実際に治療経過の再現、その位置関係において最適な治療用具、補綴装置の製作に使用することができる。
【0034】
第二の回転中心軸とブラケットは左右それぞれ独立して位置を設定できるので咀嚼筋の伸縮による下顎運動の方向と距離を左右独立して正確に再現することにより、統合された一連の下顎運動を極めて高い精度で再現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明に係る咬合器の構造を示す概要図。
図2】回転軸を一つ有する従来型咬合器の概念図。
図3】本発明に係る咬合器で開口状態を再現した様子。
図4】従来型咬合器と本発明に係る咬合器の閉口状態と、開口状態を再現した時の回転中心点の位置を示し、従来型咬合器が臼歯離開を再現できないが本発明の咬合器は再現できることを示す比較図。
図5】第二の回転中心軸の位置を上下、前後に調整する機構の模式図。
図6】任意の時点における患者の上下顎開口状態を再現することを容易にする発光部と指示針の概念図。
【符号の説明】
【0036】
1 第一の回転中心軸(全運動軸)
2 スライダ
3 ブラケット
4 第二の回転中心軸(最小運動軸)
5 上弓
6 下弓
7 インサイザルピン
8 切歯指導ピン
9 上顎の石膏模型
10 下顎の石膏模型
11 回転軸
20 指示針
21 表示部
22 指示針
23 表示部
24 表示部

【発明を実施するための形態】
【0037】
健全な下顎運動を有する被検者の平均的な顆頭位置において全運動軸を成す顆頭球を第一の回転中心軸として備え、かつ健全な下顎運動を有する被検者の平均的な最小運動軸が存在する領域内に第二の回転中心軸を設置することで人の基本的な顎運動を再現できるように構成し、各回転中心軸の位置は平均的な領域内で調整可能として個々の患者が持つ固有の顎位、上下角の位置関係、顎運動を臨床上十分な精度で再現可能な咬合器を構成した。
二つの回転中心軸はそれぞれ回転可能で且つ平行滑走運動可能なスライダと、回転中心軸を受けるブラケットを備えており最小運動軸、全運動軸どちらの回転中心軸でも上弓と下弓を着脱、開閉、滑走運動させることができるようにすることで人の顎運動を正確に再現することを可能にした。
【0038】
以下本発明に係る咬合器の効果について説明する。
【0039】
顆路角が存在するため、最小運動軸は一点に収束するのではなく、ある運動範囲を持つ。
また最小運動軸は全運動軸とは必ずしも平行であるとは限らない。
これを再現するために
咬頭嵌合位における最小運動軸を基準とする場合、咬合調整時には第一の回転中心軸を含んで構成されている従来の顆路部を外す、あるいは/またはフリーにする機構を搭載している。
具体的には固定したい部分を固定したい位置で固定する、或いは緩めたい部分を緩めるための機構としてはネジの緩締によるもの、ワンタッチレバーによるもの、ラチェット機構によるもの、ばねを利用する抑え機構、駆動機構を設けている場合は駆動機構を電気的に、空圧的に、油圧的に制動をかける方法などを採ることができる。
【0040】
2つの回転軸を正しく回転させるための指標として機能する表示部とそこに合わせるための指示針を備えてもよい。表示部は単独で位置を指示するのに必要な解像度となるように複数のLEDを並べたり、液晶表示素子を用いたりすることができる。下顎運動を測定して得られた運動経路データから逆算して得られた制御信号により表示部の中の望ましい位置にある素子を点灯させ或いは色調や輝度を変え、術者はそこに指示針を合わせることで下弓も一緒に移動して上弓と下弓が正しい位置にくるようにすることができる。図7はその状況を説明する模式図である。第一の回転中心軸の中心から常に垂直を向く指示針20が設けられており、スライダに取り付けられた表示部21に表示された線にこの指示針21を合わせればある瞬間における第一の回転中心軸の位置が再現できる。同時にスライダから第一の回転中心軸に向かって取り付けられた指示針22を第一の回転中陣軸に取り付けられた円弧形状の表示部23に表示された線に合わせると同じ瞬間における第一の回転中心軸の開き角度が再現できる。
更に第二の回転中心軸に取り付けられた円形の表示部24に表示される横線をブラケットの近心側端部に合わせ、かつ縦線が垂直になるように下弓の開きを合わせると第二の回転中心軸の位置と開き角度が再現できる。
これにより開閉運動中の任意の瞬間における患者の上顎と下顎の位置関係を正確に再現することができる。
【0041】
本発明に係る咬合器に電気式、空圧式、油圧式、バイメタルなど適切な動力源によって駆動するモーター、アクチュエーター等の駆動機構を回転部、滑走部、上弓、下弓の内適切な部位に適切な個数を取り付け、下顎運動を測定して得られた運動経路データから逆算して得られた制御信号により上記の駆動機構を駆動させることによって当発明に係る咬合器を術者が手作業で操作することなく自動的に患者の顎運動を再現できるようにしてもよい。
【0042】
また、研究、或いは歯科治療のために取得した顎運動測定データ、口腔内スキャナによって得られた患者口腔内の形状データ、患者の口腔内を印象採得し、そこに石膏を流し固めて得られる患者口腔内の複製模型を技工用スキャナでスキャンして得られた形状データ、CTデータ、その他必要なデータをPC内に再現した咬合シミュレータに入力して患者の下顎運動、咀嚼運動等の生体運動を再現し、治療や研究に役立てる手法は年々性能向上と共に普及しているが、
本発明に係る咬合器においてもPC内に同じ構造のシミュレータを再現して置けば患者から得られた同じデータを用いてPC内で再現し治療のシミュレーションや研究に用いるとともに、そこで得られた知見、診断結果、設計結果を本発明に係る咬合器上にて治療行為の実施、運動療法、補綴装置の製作に活用することも可能である。この場合PC内での電子的な情報を本発明に係る咬合器上に実態として移行、再現、調整することで正確、精密な診療、治療、研究が可能になる。
【0043】
上弓、および下弓に各々複数個のマーカーが設置可能な収納部を設け、これらのマーカーの位置や動きをカメラで読み取り患者の下顎運動経路を電子データ化しておけば術前シミュレーションや治療前後の下顎運動の変化を比較、解析に使用することができる。この場合のマーカーは3個以上が好ましい。このとき、咬合器上で補綴装置も製作しておくと補綴装置による継続的治療で得られる改善効果も事前に実際に患者に装着する補綴装置そのものを使って確認することができる。
【0044】
このような使用方法は例えば第一の回転中心軸と第二の回転中心軸が平行から大きく外れている患者の状態を再現して下顎運動を行いマーカーの動きをカメラで読み取って下顎運動経路データを算出しておき、次に顎関節症の治療が進んで第一の回転中心軸と第二の回転中心軸がほぼ平行になった状態を想定して下顎運動を行い、マーカーの動きをカメラで記録してやはり下顎運動経路を算出して両者を比較検討することで治療後の顎の状態をシミュレーションしたり、各種の研究用資料として活用したりすることが可能である。一度患者の顎運動を取得すれば本発明の咬合器によってその状態をいつでも何度でも再現可能であり、また治療後の状態を予測しながら効果的な治療や研究、術者のトレーニングなど多くの用途に役立てることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
診断、治療、研究に用いる歯科用咬合器であり、産業上利用するものである。



図1
図2
図3
図4
図5
図6