(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022101436
(43)【公開日】2022-07-06
(54)【発明の名称】透明フィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 3/30 20060101AFI20220629BHJP
【FI】
B32B3/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021114021
(22)【出願日】2021-07-09
(62)【分割の表示】P 2020215540の分割
【原出願日】2020-12-24
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 展示会名:第5回[高性能]建材・住設EXPO2020、展示日 :令和2年12月2日~令和2年12月4日、開催場所:東京ビッグサイト(東京都江東区有明3丁目11-1)
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 真友子
(72)【発明者】
【氏名】冨永 孝史
(72)【発明者】
【氏名】折原 隆史
(72)【発明者】
【氏名】山村 菜月
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AB24B
4F100AB24C
4F100AK15A
4F100AR00D
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA07
4F100BA10B
4F100BA10C
4F100CA12B
4F100CA12C
4F100DD01B
4F100DE01B
4F100DE01C
4F100GB08
4F100HB31D
4F100JC00B
4F100JC00C
4F100JL09A
4F100JL09B
4F100JL09C
4F100JN01A
4F100YY00B
4F100YY00C
(57)【要約】
【課題】例えば店舗や家での窓際、入り口などに設置するクリアカーテン、オーニング、テント等に使用でき、透明性を維持させながら、耐候性及び抗ウイルス活性を有する多機能な透明フィルムを提供できる。
【解決手段】透明性を有する基材シート20と、基材シート20の表裏面の一面に積層され、エンボス部31が形成された第一の表面保護層30と、基材シート20の表裏面の他面に積層され、エンボス部が形成されていない第二の表面保護層40とを含む透明フィルム10であって、基材シート20と、第一の表面保護層30及び第二の表面保護層40とのいずれか少なくとも一方には、耐候剤が添加され、第一の表面保護層30及び第二の表面保護層40には、抗ウイルス剤が添加され、抗ウイルス剤の添加量が、表面保護層30,40の固形分100質量部に対して4~10質量部であり、抗ウイルス剤の粒度分布のピークが、複数存在する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明性を有する基材シートと、前記基材シートの表裏面の一面に積層され、エンボス部が形成された第一の表面保護層と、前記基材シートの表裏面の他面に積層され、前記エンボス部が形成されていない第二の表面保護層とを含む透明フィルムであって、
前記基材シートと、前記第一の表面保護層及び前記第二の表面保護層とのいずれか少なくとも一方には、耐候剤が添加され、
前記第一の表面保護層及び前記第二の表面保護層には、抗ウイルス剤が添加され、
前記抗ウイルス剤の添加量が、表面保護層の固形分100質量部に対して4~10質量部であり、
前記抗ウイルス剤の粒度分布のピークが、複数存在することを特徴とする透明フィルム。
【請求項2】
前記ピークとしては、1~5μmの間と5~10μmの間との2つのピークを持つことを特徴とする請求項1に記載の透明フィルム。
【請求項3】
前記透明フィルムは、前記基材シートと前記第二の表面保護層との間に位置し、絵柄が印刷された印刷層を含み、
前記第一の表面保護層の前記エンボス部が前記印刷層の絵柄と同調させていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の透明フィルム。
【請求項4】
前記エンボス部の深さが、150μm以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の透明フィルム。
【請求項5】
前記エンボス部の深さが、前記エンボス部の幅方向中央部から端部に向かって徐々に浅くなっていることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載に記載の透明フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、店舗や家での窓際、入り口などに設置するクリアカーテン、オーニング、テント等に使用でき、透明性を維持させながら、耐候性及び抗ウイルス性能を有する多機能な透明フィルムを提供できる。
【背景技術】
【0002】
コロナ禍により抗ウイルス性能の需要が高まり、抗ウイルス製品の開発が急務となっている。
オープンウェアの利用が増え、耐候性能、遮熱性能を有するカーテンなどの仕切りに需要がある。
また、セキュリティの観点から透明や半透明のカーテンが求められている。
従来、抗菌性、抗ウイルス性等の効果を有し、かつ、化粧板の意匠性への影響を小さくすることができる化粧板が知られている(特許文献1の段落[0009]及び
図1参照)。
また、従来、透明性を備え、一方の面に、凸部が設けられたカーテンが知られている(特許文献2の段落[0011]及び[0012]、並びに
図2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-27694号公報
【特許文献1】特開2015-131048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記した従来の化粧板(特許文献1)は、透明でなく、抗ウイルス性の効果も化粧板の表面に限られ、カーテン等には適していなかった。
また、上記した従来のカーテンは(特許文献2)、透明性を備えているが、抗ウイルス性の機能を持っていなかった。
本発明は、上記した各種の問題点に鑑み、透明性を維持させながら、耐候性及び抗ウイルス性能を有する透明フィルムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係る透明フィルムは、透明性を有する基材シートと、前記基材シートの表裏面の一面に積層され、エンボス部が形成された第一の表面保護層と、前記基材シートの表裏面の他面に積層され、前記エンボス部が形成されていない第二の表面保護層とを含む透明フィルムであって、前記基材シートと、前記第一の表面保護層及び前記第二の表面保護層とのいずれか少なくとも一方には、耐候剤が添加され、前記第一の表面保護層及び前記第二の表面保護層には、抗ウイルス剤が添加され、前記抗ウイルス剤の添加量が、表面保護層の固形分100質量部に対して4~10質量部であることを特徴とする。
【0006】
本発明の一態様に係る透明フィルムは、前記エンボス部の深さが、150μm以下であることを特徴とする。
本発明の一態様に係る透明フィルムは、前記エンボス部の深さが、前記エンボス部の幅方向中央部から端部に向かって徐々に浅くなっていることを特徴とする。
【0007】
本発明の一態様に係る透明フィルムは、前記第一の表面保護層及び前記第二の表面保護層の厚さが、3~15μmであることを特徴とする。
本発明の一態様に係る透明フィルムは、前記抗ウイルス剤の平均粒径を「φ」とし、最表層の前記表面保護層の厚みを「D」としたとき、下記の式(1)の関係が成立することを特徴とする。
0.5D≦φ≦2D ・・・式(1)
本発明の一態様に係る透明フィルムは、前記抗ウイルス剤の粒度分布のピークが、複数存在することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、透明性を維持させながら、耐候性及び抗ウイルス性能を有する多機能な透明フィルムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態1に係わる透明フィルムの断面図である。
【
図2】実施形態2に係わる透明フィルムの断面図である。
【
図3】実施形態3に係わる透明フィルムの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施形態1)
本発明の実施形態1~3について、以下に
図1~
図3を参照して説明する。
ここで、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なる。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0011】
(実施形態1に係わる透明フィルム10)
図1中、10は、透明フィルムであり、透明フィルム10は、図示しないが、例えば店舗や家での窓際、入り口などに設置するクリアカーテン、オーニング、テント等に使用される。
透明フィルム10は、
図1に示すように、次の各層を3層に積層して形成する。
なお、次の(1)~(3)については後述する。
(1)基材シート20
(2)第一の表面保護層30
(3)第二の表面保護層40
なお、透明フィルム10として、上記した(1)~(3)を例示したが、これに限定されず、
図2を用いて後述するように、基材シート20と第二の表面保護層40との間に、印刷層50を設けても良い。
【0012】
(透明フィルム10の主な特徴)
本実施形態1に係わる透明フィルム10の特徴は、次の通りである。
(1)透明性を有する基材シート20と、基材シート20の表裏面の一面に積層され、エンボス部31が形成された第一の表面保護層30と、基材シート20の表裏面の他面に積層され、エンボス部が形成されていない第二の表面保護層40から形成された透明フィルム10であって、基材シート20と、第一の表面保護層30及び第二の表面保護層40とのいずれか少なくとも一方には、耐候剤が添加され、第一の表面保護層30及び第二の表面保護層40には、抗ウイルス剤が添加され、抗ウイルス剤の添加量が、表面保護層30,40の固形分100質量部に対して4~10質量部である。
上記した透明フィルム10によれば、透明性を維持させながら、耐候性に加え、基材シート20の両面に抗ウイルス性能を持たせることができ、多機能な透明フィルム10を提供できる。
そして、透明フィルム10の片側の面だけに、エンボス部31を有するので、透明フィルム10の表裏面から見た印象を異ならせ、意匠性を向上できる。
抗ウイルス剤の添加量が、4質量部未満であると、少なすぎ、効果が発現せず、抗ウイルス性の活性値が大きく低下する傾向にある。10質量部を超えると、耐候性が低下する傾向にある。
【0013】
(2)エンボス部31の深さが、150μm以下である。
上記した透明フィルム10によれば、耐候性を維持できる。
すなわち、150μmを超え、深すぎると、耐候試験後、シートの変色、白化、亀裂などが生ずるおそれがある。
【0014】
(3)エンボス部(例えば第二のエンボス部32)の深さが、エンボス部32の幅方向中央部から端部に向かって徐々に浅くなっている。
エンボス部32の深さは、浅い程、抗ウイルス性の点からは、有利なものと考える。これに対し、エンボス部32の深さを、浅くすると、高低差が減少し、エンボス効果が低下するものと考える。
このため、エンボス部32の幅方向中央部から端部に向かって徐々に浅くなるように形成し、エンボス部32の深さを変化させることで、抗ウイルス性とエンボス効果とを両立できるようにした。
【0015】
(4)第一の表面保護層30及び第二の表面保護層40の厚みが、3~15μmである。
上記した透明フィルム10によれば、厚みが3μmを下回ると薄すぎ、その他の耐候剤等の含有量が相対的に低下するため耐候性が低下するおそれがある。
また、厚みが15μmを上回ると厚すぎ、抗ウイルス性の活性値が大きく低下するおそれがある。
【0016】
(5)抗ウイルス剤の平均粒径を「φ」とし、表面保護層30,40の厚みを「D」としたとき、下記の式(1)の関係が成立する。
0.5D≦φ≦2D ・・・式(1)
上記式(1)の関係が成り立つとき、抗ウイルス剤との接触面積の拡大、及び抗ウイルス剤自体の表面積の拡大により、抗ウイルス効果、すなわち抗ウイルス性を向上できる。
また、厚みと粒径との関係で、ある程度の量の抗ウイルス剤を表面に露出させた方が、効果が発現し易い。
【0017】
(6)抗ウイルス剤の粒度分布のピークが、複数存在する。
上記した透明フィルム10によれば、抗ウイルス剤の充填密度を高める効果に加え、抗ウイルス剤との接触面積が拡大し、抗ウイルス剤自体の表面積を拡大でき、抗ウイルス性を向上できる。
また、表面に露出させるためには、粒径がある程度、大きい方が有利である。銀イオンを発生させ易くするためには、粒径が小さく、表面積を広くした方が望ましく、その両方の効果を発現させることができる。
【0018】
(基材シート20)
基材シート20は、本発明の透明フィルム10の支持体となるものであって、透明性を有するシート状或いはフィルム状のものである。
基材シート20の素材として、ポリ塩化ビニル(PVC)製のシートを用いている。
基材シート20の素材として、ポリ塩化ビニルを例示したが、これに限定されず、透明性を有する他のフィルムを使用しても良い。
基材シート20の素材としては、例えば、エチレンビニルアルコール(EVA)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレートシート(PET)、ポリエチレン(PE)製のものが使用できる。
基材シート20の厚みは、例えば200~600μmのものを用いる。
薄すぎると加工性、耐久性が悪くなり、厚すぎると重量や視認性、加工性に問題がでるためである。
例えば、基材シート20としては、300μmのPVCシート(タツノ化学製)を用いている。
透明性は、半透明を含み、400~800nmにおいて透過率が50%以上を目指している。
【0019】
(第一の表面保護層30)
第一の表面保護層30は、基材シート20の表裏面の一面に積層され、透明性を有し、エンボス部31が形成されている。
第一の表面保護層30としては、後述する第二の表面保護層40と同様に、例えばメタアクリレートをモノマー成分として含有するアクリル系樹脂組成物を主成分としている。
第一の表面保護層30として、アクリル系樹脂組成物を例示したが、これに限定されない。
第一の表面保護層30には、基材シート20と同様に、耐候性を向上させるため、耐候剤を添加させても良い。後述する第二の表面保護層40も同様である。
また、第一の表面保護層30には、基材シート20と同様に、抗ウイルス剤が添加されているが、抗ウイルス剤については後述する。
【0020】
(エンボス部31)
エンボス部31は、第一の表面保護層30の表面に形成され、質感を向上させたり、意匠性を向上できる。
エンボス部31は、第一の表面保護層30の表面に、例えば断面矩形に形成している。
エンボス部31は、例えば、深さ150μmのエンボス加工を行った。
150μmを超え、深すぎると、耐候試験後、シートの変色、白化、亀裂などが生ずるおそれがある。
エンボス部31の形状として、断面矩形を例示したが、これに限定されず、
図3を用いて後述するように、断面「V」字形に形成しても良い。
【0021】
(第二の表面保護層40)
第二の表面保護層40は、基材シート20の表裏面の他面に積層され、透明性を有する。
第二の表面保護層40は、エンボス部31が無いほかは、第一の表面保護層30と同様に形成されている。
【0022】
(耐候剤)
第一の表面保護層30及び第二の表面保護層40(以下、「表面保護層30,40」ともいう。)には、透明フィルム10の耐候性を向上させるため、耐候剤を添加させる。
耐候剤を、表面保護層30,40に添加したが、これに限らず、基材シート20に添付しても良いし、両方に添付しても良い。
耐候剤としては、例えばトリアジン系やベンゾトリアジン系等があり、例えば紫外線吸収剤(UVA)と、光安定剤(HALS)とを含む。
紫外線吸収剤(UVA)には、ベンゾトリアゾール系、ベンゾエート系、ベンゾフェノン系、トリアジン系、サリシレート系、シアノアクリレート系がある。
光安定剤(HALS)には、ヒンダードアミン系等がある。
耐候剤としては、上記したものを用途に応じ、任意で組み合わせて添加するのが一般的である。
耐候剤を表面保護層30,40に添加することで、後述するが、メタルウェザー試験機による耐候性試験を10サイクル実施し、変色、亀裂が入らないという効果が得られた。
【0023】
(耐候剤の添加量)
耐候剤の添加量は、例えば0.5~30質量部である。
0.5質量部を下回ると、耐候性が低下し、又、30質量部を超えると、その他の抗ウイルス剤等の含有量が相対的に低下するため、抗ウイルス性が低下するおそれもある。
なお、耐候剤を、基材シート20と、表面保護層30,40との両方に添加する場合には、添加量を同じくしても良いし、或いは異ならせても良い。
このとき、耐候剤の添加量について、基材シート20は1部、表面保護層30,40は10部で固定することが望ましい。
また、耐候剤を、第一の表面保護層30と、第二の表面保護層40との両方に添加する場合にも、添加量を同じくしても良いし、或いは異ならせても良い。
【0024】
(マット剤の添加)
マット剤を、表面保護層30,40に添加させても良い。
マット剤の添付により、表面保護層30,40の表面の艶を調節できる。
マット剤としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、合成マイカ、酸化チタン、ガラス粒子等の無機微粒子;ポリエチレン微粒子、アクリル樹脂微粒子、ウレタン樹脂微粒子、尿素樹脂微粒子、ナイロン樹脂微粒子、バルーン等の有機微粒子が挙げられる。
なお、マット剤を、表面保護層30,40に添付した場合を例示したが、これに限らず、基材シート20に添付しても良いし、両方に添付しても良い。
【0025】
(抗ウイルス剤)
抗ウイルス剤は、無機系であり、中でも銀系を主成分として用いる。
銀成分は、無機物で担持されている。
ここで、「無機物」としては、「ガラス」を使用するが、「無機物」は「ガラス」に限定されない。
銀成分を無機物で担持することで、ウイルス効果の持久性を向上できる。
銀系の抗ウイルス剤としては、例えば、TB-B100(タイショーテクノス製)を使用し、固形分に対して4質量部添加し、塗工した。
なお、抗ウイルス剤として、TB-B100(タイショーテクノス製)を例示したが、これに限定されず、大日精化工業株式会社製の抗ウイルス剤(PTC-NT ANV添加剤(ST))や、(PTC-NT ANV添加剤(ST))用いても良い。
【0026】
(抗ウイルス剤の添加量)
抗ウイルス剤の添加量として、先に4質量部を例示したが、これに限定されず、表面保護層30,40の固形分100質量部に対して4~10質量部であることが望ましい。
4質量部未満であると、少なすぎ、効果が発現せず、抗ウイルス性の活性値が大きく低下する傾向にある。10質量部を超えると、耐候性が低下する傾向にある。
【0027】
(抗ウイルス剤の厚み)
抗ウイルス剤の厚みは、例えば3μm~15μmが望ましい。
厚みが3μmを下回ると、薄すぎ、効果が発現せず、抗ウイルス性の活性値が大きく低下する傾向にある。
また、厚みが15μmを上回ると、厚すぎ、その他の耐候剤等の含有量が相対的に低下するため、耐候性が低下する傾向にある。
【0028】
(抗ウイルス剤の特徴)
抗ウイルス剤は、次の特徴を有する。
(1)抗ウイルス剤の粒度分布のピークが、複数存在すること。
上記した特徴点によれば、抗ウイルス剤の充填密度を高める効果に加え、抗ウイルス剤との接触面積が拡大し、抗ウイルス剤自体の表面積を拡大でき、抗ウイルス性を向上できる。
また、表面に露出させるためには、粒径がある程度、大きい方が有利である。銀イオンを発生させ易くするためには、粒径が小さく、表面積を広くした方が望ましく、その両方の効果を発現させることができる。
複数のピークとしては、1~5μmの間と5~10μmの間の2つのピークを持つことが好ましい。
【0029】
(2)抗ウイルス剤の平均粒径が1~10μmの範囲内にあること。
抗ウイルス剤の平均粒径が1μm以上である場合、表面保護層80と抗ウイルス剤との接触面積が向上し、抗ウイルス性が良好になる。抗ウイルス剤の平均粒径が10μm以下である場合、10μmを超える場合と比べて耐傷性が良好になる。
【0030】
(3)抗ウイルス剤の平均粒径を「φ」、表面保護層30,40の厚みを「D」とした時、「0.5D≦φ≦2D・・・式(1)」の関係が成り立つこと。
上記式(1)の関係が成り立つとき、抗ウイルス剤との接触面積の拡大、及び抗ウイルス剤自体の表面積の拡大により、抗ウイルス効果、すなわち抗ウイルス性を向上できる。
また、厚みと粒径との関係で、ある程度の量の抗ウイルス剤を表面に露出させた方が、効果が発現し易い。
【0031】
(4)表面保護層30,40中に抗ウイルス剤が添加された系において、更に界面活性剤が添加されていること。
界面活性剤は、カチオン性、両性、非イオン性のいずれかのタイプを単独若しくは、複数種類を組み合わせて使用しても良い。
界面活性剤を添加することにより、抗ウイルス剤と表面保護層30,40のバインダー中との相溶性が良好となり、塗工中の抗ウイルス剤の沈殿等による濃度のバラツキを抑制できる。
【0032】
(製造方法)
透明フィルム10は、上記した構成を備え、その製造方法は、次の工程を含む。
(1)第1工程
第1工程は、透明性を有する基材シート20の表裏面のいずれか一面に、第一の表面保護層30を積層し、他面に第二の表面保護層40を積層する工程である。
基材シート20には、塩ビシートを用い、例えば300μmのPVCシート(タツノ化学製)を用いた。
【0033】
表面保護層30,40は、例えばメタアクリレートをモノマー成分として含有するアクリル系樹脂組成物を主成分とし、銀系の抗ウイルス剤を添加し、基材シート20の表裏面にそれぞれ塗工した。
抗ウイルス剤には、例えばTB-B100(タイショーテクノス製)を用い、固形分に対し、例えば4質量部添加した。
(2)第2工程
第2工程は、第一の表面保護層30の表面に、エンボス部31を形成する工程である。
第2工程の実行により、透明フィルム10を得ることができる。
【0034】
(
図2に示す実施形態2の説明)
図2を用いて、実施形態2について説明する。
本実施形態2は、第一に、基材シート20と第二の表面保護層40との間に、印刷層50を形成し、透明フィルム10を4層としたものである。
印刷層50は、透明フィルム10の表面を加飾するための層である。
印刷層50は、第二の表面保護層40と対向する基材シート20の他面に、絵柄やイラスト等を印刷することで形成され、印刷インキの塗膜を用いる。
絵柄としては、使用目的や使用者の嗜好等により任意であり、例えば木目柄、石目柄、抽象柄等が一般的である。
印刷インキは、例えばアクリル系樹脂を主原料とする。
印刷層50の絵柄は、基材シート20に透明なシートを用いていることから、印刷層50の絵柄が、基材シート20を透して、エンボス部31を有する第一の表面保護層30の表面側から見える。
【0035】
(印刷層50の絵柄とエンボス部31との同調)
第二に、本実施形態2は、エンボス部31の形状を、印刷層50の絵柄と同調させている。
ここで、「同調」とは、印刷層50の絵柄と、エンボス部31の形状とが、平面視の輪郭により形成された絵柄であるともに、50%以上の割合で合致していることを特徴とする。
【0036】
(アンカー層)
そのほか、印刷層50と関連し、図示しないが、アンカー層を設けても良い。
アンカー層は、基材シート20の表面全体を覆うように形成した層であって、透明フィルム10に含まれる無機質材料の粉落ちを防止するための層である。
基材シート20に印刷層50を印刷する際に、透明フィルム10に含まれる無機質材料が印刷系内、具体的には印刷装置内で粉落ちすると、その印刷系内を汚染することがある。
【0037】
(
図3に示す実施形態3の説明)
図3を用いて、実施形態3について説明する。
本実施形態3は、
図1に示す実施形態1のエンボス部31の変形例を示すものであり、
図3に示すように、第二のエンボス部32を第二のエンボス部32の幅方向中央部から端部に向かって徐々に浅く形成したものである。
第二のエンボス部32は、例えば断面V字形に形成している。
第二のエンボス部32を断面V字形に形成することで、第二のエンボス部32の深さを変化できる。
第二のエンボス部32の深さは、浅い程、抗ウイルス性の点からは、有利なものと考える。これに対し、第二のエンボス部32の深さを、浅くすると、高低差が減少し、エンボス効果が低下するものと考える。
このため、第二のエンボス部32を断面V字形に形成し、深さを変化させることで、抗ウイルス性とエンボス効果とを両立できるようにしたものである。
なお、第二のエンボス部32の断面形状として、V字形を例示したが、これに限定されず、第二のエンボス部32の幅方向中央部から端部に向かって徐々に浅く形成されていれば足り、図示しないが、断面半円形や、斜面を有する断面台形等の多角形に凹ませても良い。
【0038】
(透明フィルム10の他の特徴)
本実施形態1に係わる透明フィルム10の他の特徴は、次の通りである。
(1)基材シート20と第二の表面保護層40との間には、印刷層50が形成され、エンボス部31は、印刷層50の絵柄と同調している。
上記した透明フィルム10によれば、印刷層50により、透明フィルム10の意匠性を向上でき、又、印刷層50の絵柄とエンボス部31とを同調させることで、意匠性を一層、向上できる。
なお、エンボス部31を、印刷層50の絵柄と同調させたが、これに限らず、エンボス部31を同調させなくとも良い。
【0039】
(2)透明性を有する基材シート20の表裏面のいずれか一面に、第一の表面保護層30を積層し、基材シート20の他面に第二の表面保護層40を積層する第1工程と、第一の表面保護層30の表面に、エンボス部31を形成する第2工程と、を含む。
基材シート20と、第一の表面保護層30及び第二の表面保護層40とのいずれか少なくとも一方には、耐候剤が添加され、第一の表面保護層30及び第二の表面保護層40には、抗ウイルス剤が添加される。
抗ウイルス剤の添加量は、表面保護層30,40の固形分100質量部に対して4~10質量部である。
上記した透明フィルム10の製造方法によれば、透明性を維持させながら、耐候性に加え、基材シート20の両面に抗ウイルス性能を持たせることができ、多機能な透明フィルム10を製造できる。
なお、第1工程と第2工程とを逆にし、エンボス部31を形成してから、第一の表面保護層30及び第二の表面保護層40を積層しても良い。
【実施例0040】
以下に、本発明に係る化粧シートの実施例1~5及び比較例1~10について説明する。なお、本発明は、下記の実施例1~5に限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
実施例1の主な構成は、次の表1の通りである。
なお、次の表1には、実施例1の外、実施例2~5、並びに比較例1~比較例10の主な構成についても記入している。
【表1】
【0042】
実施例1は、基材シート20に300μmのPVCシート(タツノ化学製)を用いた。
基材シート20に、銀系の抗ウイルス剤としてTB-B100(タイショーテクノス製)を固形分に対して4質量部添加して塗工し、表面保護層30,40をそれぞれ形成した。また、深さ150μmのエンボス部31の加工を行い、実施例1の透明フィルム10を作製した。
表面保護層30,40の厚みは、10μmである。
耐候剤は、表面保護層30,40だけに添加し、添加量は、10質量部である。
【0043】
(実施例2)
実施例2は、抗ウイルス剤の添加量を固形分に対して10質量部添加し、基材シート20の厚さを200μmとし、表面保護層30,40の厚みを3μmとし、又、耐候剤は、基材シート20だけに10質量部添加し、その他は実施例1と同様であり、実施例2の透明フィルム10を作製した。
【0044】
(実施例3)
実施例3は、エンボス部31の深さを100μmにて加工し、基材シート20の厚さを600μmとし、表面保護層30,40の厚みを15μmとし、又、耐候剤は、基材シート20及び表面保護層30,40の両層に10質量部ずつ添加し、その他は実施例1と同様であり、実施例3の透明フィルム10を作製した。
【0045】
(実施例4)
実施例4は、耐候剤を、表面保護層30,40だけに0.5質量部添加し、その他は実施例1と同様であり、実施例4の透明フィルム10を作製した。
(実施例5)
実施例5は、耐候剤を、表面保護層30,40だけに30質量部添加し、その他は実施例1と同様であり、実施例5の透明フィルム10を作製した。
【0046】
(比較例1)
比較例1は、抗ウイルス剤を固形分に対して3質量部添加し、その他は実施例1と同様であり、比較例1の透明フィルム10を作製した。
(比較例2)
比較例2は、抗ウイルス剤を固形分に対して11質量部添加し、その他は実施例1と同様であり、比較例2の透明フィルム10を作製した。
【0047】
(比較例3)
比較例3は、エンボス部31の深さを160μmにて加工し、その他は実施例1と同様であり、比較例3の透明フィルム10を作製した。
(比較例4)
比較例4は、基材シート20の厚さを100μmとし、その他は実施例1と同様であり、比較例4の透明フィルム10を作製した。
【0048】
(比較例5)
比較例5は、基材シート20の厚さを700μmとし、その他は実施例1と同様であり、比較例5の透明フィルム10を作製した。
(比較例6)
比較例6は、表面保護層30,40の厚みを2μmとし、その他は実施例1と同様であり、比較例6の透明フィルム10を作製した。
【0049】
(比較例7)
比較例7は、表面保護層30,40の厚みを16μmとし、その他は実施例1と同様であり、比較例7の透明フィルム10を作製した。
(比較例8)
比較例8は、耐候剤を、基材シート20及び表面保護層30,40の両層に添加せず、その他は実施例1と同様であり、比較例8の透明フィルム10を作製した。
【0050】
(比較例9)
比較例9は、耐候剤を、表面保護層30,40だけに0.4μm添加し、その他は実施例1と同様であり、比較例8の透明フィルム10を作製した。
(比較例10)
比較例10は、耐候剤を、表面保護層30,40だけに31μm添加し、その他は実施例1と同様であり、比較例10の透明フィルム10を作製した。
【0051】
(評価基準)
以上のようにして得た実施例1~実施例5、比較例1~比較例10の透明フィルム10に対し、下記の(1)~(4)の性能評価を行なった。
(1)抗ウイルス活性
抗ウイルス活性は、ブラーク法(ISO 21702に準拠)により、活性値「2」以上を「〇」、「2」未満を「×」とした。
ウイルスはエンベロープ型(インフルエンザウイルス)を使用した。
【0052】
(2)耐候性
耐候性は、耐候試験後、シートの変色、白化、亀裂のすべてが生じなかったとき、「〇」とし、変色、白化、亀裂の1つ以上が生じたとき、「×」とした。
耐候試験は、次の条件で、ダイプラ・ウィンテス(株)製・メタルウェザー試験機(KU-R5DCI-A)で行った。
ブラックパネル温度:53℃、照度:65mW/cm2(UV照射20時間+結露4時間)を1サイクルとし、10サイクル実施した。
【0053】
(3)透明性
透明性は、400~800nmにおいて透過率が50%以上で「〇」とし、50%未満で「×」とした。
紫外可視分光光度計にて透過率を測定し、評価した。
(4)加工性
加工性は、主として耐久性、重量を考慮した作業性、視認性の観点から総合して評価した。耐久性、作業性、視認性のすべて問題がない場合を「○」とし、それ以外を「×」とした。
【0054】
(評価結果)
結果を表2に示すものである。
【表2】
【0055】
(実施例1~実施例5と比較例1~比較例10)
実施例1~実施例5と比較例1~比較例10のうち、実施例1~実施例5は、すべての性能評価の項目が「○」で、「合格」である。
これに対し、比較例1~比較例10は、性能評価の項目のうち、一つ以上の「×」があり、すべて「不合格」であった。
【0056】
(抗ウイルス活性について)
抗ウイルス活性については、比較例1及び比較例6が不合格であった。
比較例1は、抗ウイルス剤の添加量が「3質量部」であり、少なすぎたことが原因と推測できる。
比較例6は、表面保護層30,40の厚みが「2μm」であり、薄すぎたことが原因と推測できる。
その結果、抗ウイルス剤の添加量が「3質量部」を超え、表面保護層30,40の厚みが「2μm」を超えていることが必要なものと推測できる。
【0057】
(耐候性について)
耐候性については、比較例2、比較例3、及び比較例7~比較例9が不合格であった。
比較例2は、抗ウイルス剤の添加量が「11質量部」であり、多すぎたことが原因と推測できる。
その結果、抗ウイルス剤の添加量が「11質量部」未満であることが必要なものと推測できる。
比較例3は、エンボス部31の深さが「160μm」であり、深すぎたことが原因と推測できる。
その結果、エンボス部31の深さが「160μm」未満であることが必要なものと推測できる。
【0058】
比較例7は、表面保護層30,40の厚みが「16μm」であり、厚すぎたことが原因と推測できる。
その結果、厚みが「16μm」が未満であることが必要なものと推測できる。
比較例8は、耐候剤を、基材シート20及び表面保護層30,40の両層に添加していないことが原因と推測できる。
比較例9は、耐候剤の添加量が、表面保護層30,40だけの「0.4μm」であり、少なすぎたことが原因と推測できる。
その結果、耐候剤の添加量が「0.4μm」を超えていることが必要なものと推測できる。
【0059】
(透明性について)
透明性については、比較例1~比較例10のすべてが合格であった。
(加工性について)
加工性については、比較例4、比較例5及び比較例10が不合格であった。
比較例4は、基材シート20の厚さが「100μm」であり、薄すぎたことが原因と推測できる。
比較例5は、基材シート20の厚さが「700μm」であり、厚すぎたことが原因と推測できる。
その結果、基材シート20の厚さが「100μm」を超え、「700μm」未満であることが必要なものと推測できる。
比較例10は、耐候剤の添加量が、表面保護層30,40だけの「31μm」であり、多すぎたことが原因と推測できる。
その結果、耐候剤の添加量が「31μm」未満であることが必要なものと推測できる。