(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022101445
(43)【公開日】2022-07-06
(54)【発明の名称】尺八
(51)【国際特許分類】
G10D 9/08 20200101AFI20220629BHJP
G10D 9/00 20200101ALI20220629BHJP
G10D 7/02 20200101ALI20220629BHJP
【FI】
G10D9/08
G10D9/00 130
G10D7/02 130
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021134048
(22)【出願日】2021-08-19
(31)【優先権主張番号】P 2020215664
(32)【優先日】2020-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020217705
(32)【優先日】2020-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】520277829
【氏名又は名称】金指 博文
(71)【出願人】
【識別番号】520511321
【氏名又は名称】吉村 俊生
(71)【出願人】
【識別番号】505064138
【氏名又は名称】ゼロ精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000464
【氏名又は名称】弁理士法人いしい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金指 博文
(72)【発明者】
【氏名】吉村 俊生
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雅弘
(57)【要約】
【課題】平坦面に置いたときに転がりにくい金属製尺八を提供する。
【解決手段】金属製尺八は、金属製で略円筒形の複数のパイプ1~6が接続されて形成され、上端側に歌口部11が設けられ、下端側に管尻部61が設けられるとともに、長さ方向に沿って下端側から順に第1孔71、第2孔72、第3孔73、第4孔74が形成されている。管尻部61の外径は、該尺八の長さ方向中途部の外径よりも大径に形成されている。管尻部61の側面に、管尻部61の下端から上側へ延びる面取り部81,82が形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製で略円筒形の複数のパイプが接続されて形成され、上端側に歌口部が設けられ、下端側に管尻部が設けられるとともに、前面に長さ方向に沿って下端側から順に第1孔、第2孔、第3孔、第4孔が形成される一方、裏面に第5孔が形成された尺八であって、
前記管尻部の外径が該尺八の長さ方向中途部の外径よりも大径に形成されるとともに、
前記管尻部の側面に、前記管尻部の下端から上側へ延びる面取り部が形成されている、
金属製の尺八。
【請求項2】
底面視で前記パイプのパイプ軸及び前記第1~第4孔の中心を通る直線を前後軸として、
前記面取り部を構成する第1面取り部は、前記管尻部の左右側面のうち少なくとも一方の側面に形成されている、
請求項1に記載の金属製の尺八。
【請求項3】
前記管尻部の下端面に露出する前記第1面取り部の端辺は、前面側の部位ほど前記前後軸から離れるように前記前後軸に対して傾斜している、
請求項2に記載の金属製の尺八。
【請求項4】
底面視で前記パイプのパイプ軸及び前記第1~第4孔の中心を通る直線を前後軸として、
前記面取り部を構成する第2面取り部は、前記管尻部の裏面側に形成されている、
請求項1又は2に記載の金属製の尺八。
【請求項5】
前記管尻部の下端面に露出する前記第2面取り部の端辺は、前記前後軸に略直交して設けられている、
請求項3に記載の金属製の尺八。
【請求項6】
複数の前記パイプのうち少なくとも1本は、上端部及び下端部の外径が長さ方向中途部の外径よりも大きく形成されて、外周面が鼓状に凹んでいる、
請求項1~5のいずれか一項に記載の金属製の尺八。
【請求項7】
前記第1孔と前記第2孔との間の外周面に、前記第2孔の形成部の外径よりも小径の挟持部が形成されている、
請求項1~6のいずれか一項に記載の金属製の尺八。
【請求項8】
前記第2孔の形成部から前記挟持部にわたる外周面が、下側に向けて直線状に狭まるテーパ状に形成されている、
請求項7に記載の金属製の尺八。
【請求項9】
前記管尻部の前記面取り部とパイプ軸との間の距離が、前記パイプ同士の接続部の外形半径と同じ又はほぼ同じになっている、
請求項1~8のいずれか一項に記載の金属製の尺八。
【請求項10】
該尺八の上端側の開口寄り部分の内周面形状が非円形に形成されている、
請求項1~9のいずれか一項に記載の金属製の尺八。
【請求項11】
前記上端側の開口は、パイプ軸と前記歌口部とを通る前後方向の寸法が、前記前後方向に直交する左右方向の寸法に比べて大きくなっている、
請求項10に記載の金属製の尺八。
【請求項12】
前記上端側の開口寄り部分の内周面において、前記歌口部に対向する背面側部位に、他の部分に比べてパイプ肉厚が薄い第1薄肉部を設けることで内周面形状が非円形になっている、
請求項10又は11に記載の金属製の尺八。
【請求項13】
前記歌口部には、前記歌口部の上端部の内周面の一部分を切り欠いて形成された歌口切欠き部が設けられており、平面視で、パイプ軸と前記歌口切欠き部との間の距離が、パイプ軸と前記歌口部の中央部との間の距離よりも大きくなっている、
請求項1~12のいずれか一項に記載の金属製の尺八。
【請求項14】
前記歌口部の左右両縁部位に、左右一対の前記歌口切欠き部が左右対称に形成されている、
請求項13に記載の金属製の尺八。
【請求項15】
前記歌口部と前記第4孔との間の内周面は、長さ方向の少なくとも一部分が非円形に形成されている、
請求項1~14のいずれか一項に記載の金属製の尺八。
【請求項16】
前記歌口部と前記第4孔との間の内周面において内周面形状が非円形であることで内径が大きくなっている箇所が前後方向に向けて配置されている、
請求項15に記載の金属製の尺八。
【請求項17】
前記歌口部と前記第4孔との間の内周面に、他の部分に比べてパイプ肉厚が薄い第2薄肉部を設けることで内周面形状が非円形になっている、
請求項15又は16に記載の金属製の尺八。
【請求項18】
少なくとも前記第4孔を有する指孔用パイプと、前記歌口部と前記第4孔との間の非円形の内周面部分を有する上端寄りパイプとが、パイプ軸回りに相対回転可能に接続されている、
請求項15~17のいずれか一項に記載の金属製の尺八。
【請求項19】
前記歌口部を有する歌口パイプと、少なくとも前記非円形の内周面を有する上端寄りパイプとが、パイプ軸回りに相対回転可能に接続されている、
請求項15~18のいずれか一項に記載の金属製の尺八。
【請求項20】
3本以上の前記パイプを備えるとともに、パイプ同士の接続部を2つ以上設けた構成であって、
前記2つ以上の接続部それぞれは、一方のパイプの端部に設けた小径の挿込み部を他方のパイプに設けた嵌合穴に挿し込むことでパイプ同士を接続する構成を有し、
前記2つ以上の接続部のうち少なくとも2つは、前記挿込み部の外径及び前記嵌合穴の内径が互いに異なっている、
請求項1~19のいずれか一項に記載の金属製の尺八。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製の尺八に関するものである。
【背景技術】
【0002】
尺八は、日本の代表的な管楽器の一つであり、上部の歌口に息を吹きつけて音を出す縦笛である。尺八の材料としては、主に真竹の根元が使用される。真竹で作られた尺八の最大の欠点は割れることのリスクである。竹製の尺八が割れるリスクについては、ある程度は製管師の技術によって抑制される面はある。しかしながら、決して割れるリスクがゼロになるということはない。好みの違いはあるが竹材そのものの硬さの違いもあり、より硬い魅力的な竹材ほどひび割れのリスクは高くなるという相反性もある。
【0003】
このことは、尺八が国際的な楽器として海外に進出していくほどに、湿度が高い日本の気候風土とは違う乾燥した国土において割れるリスクが極度に高くなる。いくら気に入っている素晴らしい尺八であってもひとたび割れれば、製管師のところに送り返して、管全体に巻き止め加工されて戻ってくるのは、使用する側にとっても製管した側にとっても悲しく、経験したくない必要のないプロセスである。
【0004】
このような不具合を解消する手段として、アルミニウム製の尺八が提案されている(例えば特許文献1参照)。アルミニウム製の尺八であれば、指孔位置の一定した同じ大きさの尺八、すなわち音色の同じ尺八を簡単に加工できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
真竹の根元を使用した竹製の尺八は、根元(管尻部)が大径かつ湾曲していることから、平坦面に置いたときに転がりにくい。しかしながら、特許文献1に開示された尺八は、管尻部を含む尺八全体が断面円形で直線状に形成されていることから、例えば机の天板などの平坦面に置いたときに転がりやすいという問題があった。
【0007】
本発明は、平坦面に置いたときに転がりにくい金属製尺八を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様の金属製尺八は、金属製で略円筒形の複数のパイプが接続されて形成され、上端側に歌口部が設けられ、下端側に管尻部が設けられるとともに、前面に長さ方向に沿って下端側から順に第1孔、第2孔、第3孔、第4孔が形成される一方、裏面に第5孔が形成された尺八であって、前記管尻部の外径が該尺八の長さ方向中途部よりも大径に形成されるとともに、前記管尻部の側面に、前記管尻部の下端から上側へ延びる面取り部が形成されているものである。
【0009】
本発明の一態様の金属製尺八は、管尻部の外径が該尺八の長さ方向中途部の外径よりも大径に形成されているので、竹製の尺八の管尻部に似た印象を与える管尻部を有する金属製尺八を形成できる。その上で、面取り部が管尻部の側面に形成されているので、該尺八を、面取り部を下向きにして平坦面に置くことで、尺八の転がりを抑制できる。これにより、例えば机の天板から尺八が転がり落ちて損傷するのを防止できる。
【0010】
上記金属製尺八において、前記第1~第4孔が形成された側面を前面とし、底面視で前記パイプのパイプ軸及び前記第1~第4孔の中心を通る直線を前後軸として、前記面取り部を構成する第1面取り部は、前記管尻部の左右側面のうち少なくとも一方の側面に形成されているようにしてもよい。
【0011】
このような態様によれば、第1面取り部を下向きにして平坦面に尺八を置いたときに、第1~第4孔が平坦面に対向して隠れるのを防止でき、尺八の転がりを抑制しながら見栄え良く配置できる。
【0012】
さらに、前記管尻部の下端面に露出する前記第1面取り部の端辺は、前面側の部位ほど前記前後軸から離れるように前記前後軸に対して傾斜しているようにしてもよい。
【0013】
このような態様によれば、第1面取り部を下向きにして平坦面に置いた尺八は、管尻部が前向きに湾曲した竹製の尺八の姿勢と同様に、第1~第4孔が斜め上を向く姿勢になるので、見栄えが良い。また、第1面取り部は、管尻部の下端面に露出する端辺が前面側の部位ほど前後軸から離れるように設けられる、すなわち、管尻部の左右側面のうち裏面寄りの部位に形成されているので、尺八を正面側から見たときに第1面取り部が視認されにくく、演奏時の見栄えを向上できる。
【0014】
また、上記金属製尺八において、前記第1~第4孔が形成された側面を前面とし、底面視で前記パイプのパイプ軸及び前記第1~第4孔の中心を通る直線を前後軸として、前記面取り部を構成する第2面取り部は、前記管尻部の裏面側に形成されているようにしてもよい。
【0015】
このような態様によれば、管尻部の裏面側に形成された第2面取り部は、尺八を正面側から見たときに視認されにくいので、演奏時の見栄えを向上できる。また、第2面取り部を下向きにして平坦面に尺八を置いたときに、第1~第4孔が上を向く姿勢になるので、尺八の転がりを抑制しながら見栄え良く配置できる。
【0016】
さらに、前記管尻部の下端面に露出する前記第2面取り部の端辺は、前記前面とは反対側の裏面に、前記前後軸に直交して設けられているようにしてもよい。
【0017】
このような態様によれば、第2面取り部を下向きにして平坦面に置いた尺八は、竹製の尺八では実現しづらい第1~第4孔が真上を向く見栄えの良い姿勢を維持できる。
【0018】
また、上記金属製尺八において、複数の前記パイプのうち少なくとも1本は、上端部及び下端部の外径が長さ方向中途部の外径よりも大きく形成されて、外周面が鼓状に凹んでいるようにしてもよい。
【0019】
このような態様によれば、パイプの上端部及び下端部を厚肉にして接続部の強度を確保できる構成でありながら、パイプの重さ、ひいては尺八の重さを低減でき、奏者の疲労を低減できる。
【0020】
また、上記金属製尺八において、前記第1孔と前記第2孔との間の外周面に、前記第2孔の形成部の外径よりも小径の挟持部が形成されているようにしてもよい。さらに、前記第2孔の形成部から前記挟持部にわたる外周面が、下側に向けて直線状に狭まるテーパ状に形成されているようにしてもよい。
【0021】
このような態様によれば、演者が右手(又は左手)の親指と中指とで挟持する挟持部を第2孔の形成部の外径よりも小径にすることで、演者が尺八を支持しやすくなる。特に、第2孔の形成部から挟持部にわたる外周面が、下側に向けて直線状に狭まるテーパ状に形成されているようにすれば、尺八の重さ(下向きの荷重)を右手(又は左手)の親指と中指とで上向きに支持しやすくなり、演者の負担を低減できる。さらに、第2孔形成部から挟持部にわたる外周面は下側が幅狭の直線状テーパ形状であることから、当該外周面がパイプ軸となす角度は、当該外周面の上部部位から下部部位にわたって均一である。これにより、演者が当該外周面を右手(又は左手)の親指及び中指で挟持するにあたり、当該外周面の上部部位から下部部位にわたるいずれの部位を挟持しても、親指及び中指と当該外周面とが接する角度を同じにできる。例えば、演者が尺八の演奏中に、尺八を挟持する箇所を挟持部から上側にずらしたり、また、挟持部に戻したりしたとしても、親指及び中指が当該外周面に接する角度は同じであるから、演者が尺八を挟持及び支持する力加減をほぼ同じにできる。これにより、演者が挟持箇所をスライドさせたときに尺八が演者に与える影響を低減して、演者が演奏に集中しやすい環境を整えることができる。
【0022】
また、上記金属製尺八において、前記管尻部の前記面取り部とパイプ軸との間の距離が、前記パイプ同士の接続部の外形半径と同じ又はほぼ同じになっているようにしてもよい。
【0023】
このような態様によれば、面取り部を下向きにして平坦面に置いた尺八に、外部から下向きの荷重が加わった時(例えば尺八を踏みつけるなど)に、パイプの接続部に加わる曲げ荷重を低減でき、尺八の破損や音色の変化を防止できる。
【0024】
上記金属製尺八において、該尺八の上端側の開口寄り部分の内周面形状が非円形に形成されているようにしてもよい。
【0025】
このような態様によれば、上端側の開口寄り部分の内周面形状が非円形に形成されていることで、息受け(管孔への息の入り易さ)を内周面形状が円形の場合に対して変化させることができ、音色を調整できる。
【0026】
さらに、前記上端側の開口は、パイプ軸と前記歌口部とを通る前後方向の寸法が、前記前後方向に直交する左右方向の寸法に比べて大きくなっているようにしてもよい。
【0027】
このような態様によれば、管孔の上端側の開口寄り部分において前後方向内径寸法を左右方向内径寸法よりも大きくすることで、息受けが良くなり、吹き易さ(音の鳴り易さや音の調節のし易さ)が向上する。
【0028】
また、前記上端側の開口寄り部分の内周面において、前記歌口部に対向する背面側部位に、他の部分に比べてパイプ肉厚が薄い第1薄肉部を設けることで内周面形状が非円形になっているようにしてもよい。
【0029】
このような態様によれば、上端側の開口形状および上端側の開口寄り部分の内周面形状は、例えば背面側がやや尖った略たまご形に形成でき、前後方向内径寸法を左右方向内径寸法よりも大きくできる。上記第1薄肉部は、例えば、円形の内周面形状に対して上記第1薄肉部を形成するための切削加工を追加で施すことで正確かつ高精度に形成できる。
【0030】
上記金属製尺八において、前記歌口部には、前記歌口部の上端部の内周面の一部分を切り欠いて形成された歌口切欠き部が設けられており、平面視で、パイプ軸と前記歌口切欠き部との間の距離が、パイプ軸と前記歌口部の中央部との間の距離よりも大きくなっているようにしてもよい。
【0031】
このような態様によれば、歌口部に歌口切欠き部を設けることで、息受けが良くなり、吹き易さが向上する。
【0032】
前記歌口部の左右両縁部位に、左右一対の前記歌口切欠き部が左右対称に形成されているようにしてもよい。
【0033】
このような態様によれば、歌口部の左右両縁部位に、左右一対の歌口切欠き部が左右対称に形成されていることで、息がバランスよく第1パイプ1の管孔10内に吹き込まれ、音色が安定する。
【0034】
上記金属製尺八において、前記歌口部と前記第4孔との間の内周面は、長さ方向の少なくとも一部分が非円形に形成されているようにしてもよい。
【0035】
このような態様によれば、歌口部と第4孔との間の内周面において、長さ方向の少なくとも一部分が断面形状非円形に形成されていることで、管孔内の息抜け(息の抜け易さ)を断面形状が円形の場合に対して変化させることができ、音色を調整できる。
【0036】
さらに、前記歌口部と前記第4孔との間の内周面において内周面形状が非円形であることで内径が大きくなっている箇所が前後方向に向けて配置されているようにしてもよい。
【0037】
このような態様によれば、内径が大きくなっている箇所を前後方向に向けることで、さらに息抜けが良くなり、吹き易さがさらに向上する。
【0038】
また、前記歌口部と前記第4孔との間の内周面に、他の部分に比べてパイプ肉厚が薄い第2薄肉部を設けることで内周面形状が非円形になっているようにしてもよい。
【0039】
このような態様によれば、上記第2薄肉部を設けることで、歌口部と第4孔との間の内周面の少なくとも一部分を、内周面形状が非円形になるように形成できる。上記第2薄肉部は、例えば、円形の内周面形状に対して上記第2薄肉部を形成するための切削加工を追加で施すことで正確かつ高精度に形成できる。
【0040】
また、少なくとも前記第4孔を有する指孔用パイプと、前記歌口部と前記第4孔との間の非円形の内周面部分を有する上端寄りパイプとが、パイプ軸回りに相対回転可能に接続されているようにしてもよい。
【0041】
このような態様によれば、上記上端寄りパイプの内周面形状(非円形)の向きを指孔の向きに対してパイプ軸周りに変化させることで、管孔内の息抜けを変化させて音色を調整できる。
【0042】
また、前記歌口部を有する歌口パイプと、少なくとも前記非円形の内周面を有する上端寄りパイプとが、パイプ軸回りに相対回転可能に接続されているようにしてもよい。
【0043】
このような態様によれば、上記上端寄りパイプの内周面形状(非円形)の向きを歌口部の向きに対してパイプ軸周りに変化させることができる。これにより、管孔内の息抜けを変化させて音色を調整できる。
【0044】
上記金属製尺八において、前記複数のパイプ同士の接続部のうち少なくとも1箇所は、上下のパイプが着脱可能かつ相対回転可能に設けられおり、前記上下のパイプそれぞれの外周面に、前記上下のパイプの周方向位置を位置合わせするための印が形成されているようにしてもよい。
【0045】
このような態様によれば、複数のパイプ同士を接続する際に、上記印を上下のパイプの周方向位置合わせの目安とでき、利便性が向上する。
【0046】
3本以上の前記パイプを備えるとともに、パイプ同士の接続部を2つ以上設けた構成であって、前記2つ以上の接続部それぞれは、一方のパイプの端部に設けた小径の挿込み部を他方のパイプに設けた嵌合穴に挿し込むことでパイプ同士を接続する構成を有し、前記2つ以上の接続部のうち少なくとも2つは、前記挿込み部の外径及び前記嵌合穴の内径が互いに異なっているようにしてもよい。
【0047】
このような態様によれば、3本以上のパイプ同士を接続する際に、誤接続を防止でき、利便性が向上する。
【発明の効果】
【0048】
本発明は、平坦面に置いたときに転がりにくい金属製尺八を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1】尺八の一実施形態を示す概略構成図であり、(A)は正面図、(B)は側面図、(C)は背面図である。
【
図2】同実施形態の指孔に沿った概略的な縦断面図である。
【
図3】(A)は同実施形態の概略平面図、(B)は同実施形態の概略底面図である。
【
図5】さらに他の実施形態を示す概略的な正面図である。
【
図6】尺八のさらに他の実施形態を示す概略構成図であり、(A)は正面図、(B)は側面図、(C)は背面図である。
【
図7】(A)は同実施形態の概略平面図、(B)は同実施形態の概略底面図である。
【
図8】尺八のさらに他の実施形態を示す概略構成図であり、(A)は正面図、(B)は側面図、(C)は背面図である。
【
図9】同実施形態の指孔に沿った概略的な縦断面図である。
【
図10】(A)は同実施形態の概略平面図、(B)は同実施形態の第2パイプの概略平面図、(C)は同実施形態の概略底面図である。
【
図11】(A)は位置合わせ用の印の例を示す概略背面図、(B)は第1パイプの変形例を示す概略縦断面図、(C)は第2パイプの変形例を示す概略縦断面図である。
【
図12】(A)はさらに他の実施形態の一部分を示す概略的な縦断面図、(B)は位置合わせ用の印の例を示す概略背面図である。
【
図13】尺八のさらに他の実施形態を示す概略構成図であり、(A)は正面図、(B)は右側面図、(C)は背面図、(D)は左側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下に、金属製の尺八の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、尺八の一実施形態を示す概略構成図であり、(A)は正面図、(B)は側面図、(C)は背面図である。
図2は、同実施形態の指孔に沿った概略的な縦断面図である。
図3(A),(B)は、同実施形態の概略的な平面図と底面図である。
【0051】
本実施形態の尺八は、金属製で略円筒形の複数のパイプ1~6が接続されて形成されている。パイプ1~6の素材は、例えばジュラルミン(アルミニウム合金)やマグネシウム合金などである。尺八の上端部を形成する第1パイプ1の上端側に歌口部11が形成されている。また、尺八の下端部を形成する第6パイプ6の下端側に大径の管尻部61が形成されている。パイプ1~6の内部には、尺八の上端から下端に繋がる管孔10が形成されている。管孔10の下端部10aは、下端側ほど大径になるテーパ状に形成されている。
【0052】
尺八の側面には、指孔として、第1~第5孔71~75が形成されている。第1~第4孔71~74は、長さ方向に沿って尺八の前面に穿設されている。第5孔75は、第4孔よりも少し上側の位置で尺八の裏面に穿設されている。本実施形態では、第1孔71と第2孔72は第5パイプ5(下側から2番目のパイプ)に形成され、第3孔73は第4パイプ4(下側から3番目のパイプ)に形成され、第4孔74及び第5孔75は第3パイプ3(上側から3番目のパイプ)に形成されている。
【0053】
第6パイプ6の外周面は、下端側の管尻部61が最も大径となる末広がり状又は鼓状に形成されている。また、
図1及び
図2からわかるように、管尻部61の外径(第6パイプ6の下端部の外径)は、尺八の長さ方向中途部の外径よりも大径に形成されている。本実施形態では、尺八において管尻部61が最も大径になっている。これにより、竹製の尺八の管尻部に似た印象を与える管尻部61を有する金属製尺八を形成できる。
【0054】
管尻部61の側面には、管尻部61の下端から上側(歌口部11側)へ延びる面取り部が形成されている。本実施形態では、面取り部として、管尻部61の左右両側面それぞれに設けられた左右一対の第1面取り部81と、管尻部61の裏面側に設けられた第2面取り部82とが形成されている。ここで、
図3に示すように、平面視及び底面視でパイプ1~6のパイプ軸O及び第1~第4孔71~74の中心を通る直線を前後軸Xとする。
【0055】
第1及び第2面取り部81,82は、パイプ1~6の中心を通るパイプ軸Oと略平行な面で形成されており、側面視もしくは背面視で略三角形の形状を有している。なお、第1及び第2面取り部81,82の面は、上端側の部位ほどパイプ軸Oに近づくようにパイプ軸Oに対して傾斜していてもよい。
【0056】
本実施形態の尺八では、管尻部61の外径が該尺八の長さ方向中途部の外径よりも大径に形成されるとともに、管尻部61の側面を上下方向に面取りした面取り部81,82を備えている。したがって、該尺八を、面取り部81又は82を下向きにして平坦面に置くことで、尺八の転がりを抑制できる。また、面取り部81,82を設けることで、該尺八の軽量化を図れる。
【0057】
また、
図3(B)から理解できるように、管尻部61の左右両側面それぞれに形成された第1面取り部81は、管尻部61の下端面(尺八の下端面)に露出する第1面取り部81の端辺が、前面側の部位(
図3(B)中で上側の部位)ほど前後軸Xから離れるように前後軸Xに対して傾斜している。これにより、第1面取り部81を下向きにして平坦面に置いた尺八は、管尻部が前向きに湾曲した竹製の尺八の姿勢と同様に、第1~第4孔71~74が斜め上を向く姿勢になるので、見栄えが良い。
【0058】
また、
図1(A)及び
図3(B)から理解できるように、左右の第1面取り部81は、管尻部61の左右側面のうち裏面寄りの部位に形成されているので、尺八を正面側から見たときに第1面取り部81が視認されにくく、演奏時の見栄えを向上できる。
【0059】
また、第2面取り部82は、管尻部61の裏面側に形成されているので、尺八を正面側から見たときに視認されにくいので、演奏時の見栄えを向上できる。また、管尻部61の下端面に露出する第2面取り部82の端辺は、前後軸Xに直交して設けられているので、第2面取り部82を下向きにして平坦面に置いた尺八は、竹製の尺八では実現しづらい第1~第4孔71~74が真上を向く見栄えの良い姿勢を維持できる。
【0060】
図1等に示すように、第2パイプ2及び第4パイプ4は、上端部及び下端部の外径が長さ方向中途部の外径よりも大きく形成されて、外周面が鼓状に凹んでいる。これにより、パイプの上端部及び下端部を厚肉にして接続部の強度を確保できる構成でありながら、パイプの重さ、ひいては尺八の重さを低減でき、奏者の疲労を低減できる。
【0061】
また、第4パイプ4において、第1孔71と第2孔72との間の外周面に、第2孔72の形成部の外径よりも小径の挟持部91が形成されている。本実施形態では、第4パイプ4の上端部から第2孔72の形成部を通って挟持部91にいたる外周面が、下側に向けて直線状に狭まるテーパ状に形成されている。
【0062】
このように、演者が右手(又は左手)の親指と中指とで挟持する挟持部91が、演者の右手(又は左手)の人差し指が添えられる第2孔72の形成部の外径よりも小径にすることで、演者が尺八を支持しやすくなる。本実施形態では、第2孔72の形成部から挟持部91にわたる外周面が、下側に向けて直線状に狭まるテーパ状に形成されているので、尺八の重さ(下向きの荷重)を右手(又は左手)の親指と中指とで上向きに支持しやすくなり、演者の負担を低減できる。また、第2孔72形成部から挟持部91にわたる外周面は下側が幅狭の直線状テーパ形状であることから、当該外周面がパイプ軸Oとなす角度は、当該外周面の上部部位から下部部位にわたって均一である。これにより、演者が当該外周面を右手(又は左手)の親指及び中指で挟持するにあたり、当該外周面の上部部位から下部部位にわたるいずれの部位を挟持しても、親指及び中指と当該外周面とが接する角度を同じにできる。例えば、演者が尺八の演奏中に、尺八を挟持する箇所を挟持部91から上側にずらしたり、また、挟持部91に戻したりしたとしても、親指及び中指が尺八の外周面に接する角度は同じであるから、演者が尺八を挟持及び支持する力加減をほぼ同じにできる。これにより、演者が挟持箇所をスライドさせたときに尺八が演者に与える影響を低減して、演者が演奏に集中しやすい環境を整えることができる。なお、当該テーパ形状部分は湾曲していてもかまわない。
【0063】
図1及び
図2に示すように、本実施形態では、管尻部61の面取り部81,82とパイプ軸Oとの間の距離は、第1及び第2パイプ1,2の第1接続部101、第2及び第3パイプ2,3の第2接続部102、第4及び第5パイプ4,5の第4接続部104、ならびに第5及び第6のパイプ5,6の第5接続部105の外形半径と同じになっている。接続部101,102,103、104,105の外形は円形である。
【0064】
これにより、面取り部81又は82を下向きにして平坦面に置いた尺八に、外部から下向きの荷重が加わった時(例えば尺八を踏みつけるなど)に、パイプの接続部101~105に加わる曲げ荷重を低減でき、尺八の破損や音色の変化を防止できる。なお、本実施形態では、第3及び第4パイプ3,4の第3接続部103は、接続部101,102,104,105よりも小径に形成されているが、これらの接続部と同じ外径に形成されていてもよい。
【0065】
次に、パイプ1~6の構成及び接続について説明する。第1パイプ1は、上端部が上下中途部及び下端部よりも大径に形成されるとともに、上端部の正面側を斜めに切り欠いた歌口部11を備えている。第1パイプ1の上端部の裏面側には、角部を斜め下向きに面取りした顎当て部12が形成されており、演者が顎を押し当てたときに、第1パイプ1の上端部が演者の顎に食い込み過ぎないようになっている。第2パイプ2は、外周面が鼓状に形成されて軽量化されている。
【0066】
第1パイプ1と第2パイプ2の第1接続部101は、第1パイプ1の下端部に形成された小径の第1挿込み部13が、第2パイプ2の上端部に形成された第1嵌合穴21に嵌入されて形成されている。第1パイプ1と第2パイプ2は、着脱可能かつパイプ軸O周りに相対回転可能に接続されている。
【0067】
これにより、演者の好みに合わせて、尺八の正面に対する歌口部11の角度を変更できる。また、例えば琴古流や都山流など、流派に合わせた歌口部11を有する第1パイプ1に交換でき、汎用性が向上する。また、第1挿込み部13に管状のスペーサ部材を被嵌したり、第1嵌合穴21に管状のスペーサ部材に嵌め込んだりした上で、第1及び第2パイプ1,2を接続し、第1パイプ1と第2パイプ2との間に上記スペーサ部材を介在させることで、尺八の全長を適宜変更できる。これにより、尺八の音色を変化させずに音律(ピッチ)を適宜変更できる。また、パイプ1~6の管内温度変化に起因する尺八の音律の変化を補正できる。これにより、管内のバランスを崩すことなく音色の変化を最小限に留めながら、音律を演奏者の好みに変化させることが可能となるほか、世界各地の気候にも対応しつつ最良の音色及び音律を保つことが可能となる。
【0068】
第2パイプ2と第3パイプ3の第2接続部102は、第2パイプ2の下端部に形成された小径の第2挿込み部22が、第3パイプ3の上端部に形成された第2嵌合穴31に嵌入されて形成されている。第2接続部102は、圧入又は接着により第2パイプ2と第3パイプ3とが抜け不能かつ相対回転不能に形成されている。
【0069】
第3パイプ3と第4パイプ4の第3接続部103は、第3パイプ3の下端部に形成された第3嵌合穴32に、第4パイプ4の上端部に形成された第3挿込み部41が嵌入されて形成されている。第3パイプ3の外周面は下端側が小径になるテーパ状に形成される一方、第4パイプ4の外周面は上端側が小径になるテーパ状に形成されている。これにより、第3及び第4パイプ3,4が軽量化されるとともに、第3接続部103が第2及び第4接続部102,104よりも小径になっている。
【0070】
第3接続部103は着脱可能に構成されており、本実施形態の尺八は、第1~第3パイプ1~3で構成される上管部と、第4~第6のパイプ4~6で構成される下管部とに分離可能に構成されている。なお、図示は省略するが、第3パイプ3の側面下部と、第4パイプ4の側面下部には、第3パイプ3と第4パイプ4とを接続するときに第1~第4孔71~74を真っ直ぐに位置合わせしやすいように、位置合わせ用のマークが形成されている。
【0071】
第4パイプ4と第5パイプ5の第4接続部104は、第4パイプ4の下端部に形成された第4嵌合穴42に、第5パイプ5の上端部に形成された第4挿込み部51が嵌入されて形成されている。第4接続部104は、圧入又は接着により第4パイプ4と第5パイプ5とが抜け不能かつ相対回転不能に形成されている。上述のように、挟持部91を有する第5パイプ5は、外周面が鼓状に形成されて軽量化されている。
【0072】
第5パイプ5と第6パイプ6の第5接続部105は、第5パイプ5の下端部に形成された第5嵌合穴52に、第6パイプ6の上端部に形成された第5挿込み部62が嵌入されて形成されている。第5接続部105は、圧入又は接着により第5パイプ5と第6パイプ6とが抜け不能かつ相対回転不能に形成されている。
【0073】
このように、本実施形態の金属製尺八は、外周面に、和のテイスティングを表現した美しい曲面とシャープな金属加工の両面を融合した優美で魅力的な尺八を実現できる。また、本実施形態の尺八は、複数のパイプ1~6が接続されて形成されるので、各パイプ1~6の長さを短くできる。これにより、パイプ1~6の管孔10を精度よく切削加工、研削加工もしくは研磨加工でき、同じ音色及び響きをもつ均質化した尺八を量産できる。また、金属製尺八の音色や響きについて、奏者の好みに合わせて管孔10を精度よく加工して、オーダーモデルやワンオフモデルの製造にも効率的な対応が可能になる。
【0074】
次に、
図4を参照して、金属製尺八の変形例について説明する。
図4に示す実施形態の尺八は、いわゆる7孔尺八と呼ばれる構造を有している。尺八の前面側において、第3孔73と第4孔74の間の位置に第6孔76が形成され、第1孔71よりも管尻部61寄りの位置に第7孔77が形成されている。本実施形態では、第6及び第7孔76,77は、第1~第4孔71~74の配列に対して演者から見て少し右側(又は左側)にずらした位置に穿設されている。
【0075】
第6孔76は、第4パイプ4の上端部寄りの位置で、小径の第3挿込み部41とは重ならない位置に形成されている。また、第7孔77は、第5パイプ5の下端部寄りの位置で、第5嵌合穴52とは重ならない位置に形成されている。このように、第6孔76及び第7孔77を、第3挿込み部41及び第3嵌合穴32や、第5嵌合穴52及び第5挿込み部62とは重ならない位置に設けることで、第6孔76及び第7孔77の穴開け加工が容易になる。また、第7孔77は、第5パイプ5の外周面のうち、上側が幅狭のテーパ形状を有する外周面下端寄り箇所に形成されているので、演者が右手(又は左手)の小指で第7孔77を塞ぎやすくなっている。
【0076】
図5は、さらに他の実施形態の金属製尺八を示している。本実施形態の尺八は、
図1~
図3に示した尺八の第3パイプ3及び第4パイプ4に替えて、1本のパイプで形成された中央部パイプ7を備えている。中央部パイプ7には、接続した第3及び第4パイプ3,4と同様に、第3及び第4孔73,74が形成されるとともに、上端部に第2嵌合穴31が形成され、下端部に第4嵌合穴42が形成されている。第7パイプの外周面は、上下方向中央部が凹んだ鼓状に形成されている。中央部パイプ7と、第2パイプ2及び第5パイプ5は、抜け不能かつ相対回転不能に接続される。これにより、上管と下管とに分離しない尺八(いわゆる延べ管)のニーズに対応できる。また、中央部パイプ7を継ぎ目のない1本のパイプで形成することで、外周面の上下方向中央部がより凹んだ鼓状の形状にすることができ、より軽量化を図れる。
【0077】
本実施形態の尺八は、
図1~
図3に示した尺八に比べて接合部の数を減らすことができ、強度を向上できる。なお、本実施形態の尺八に対して、第6孔76及び第7孔77(
図4参照)を形成して7孔尺八としてもよい。また、中央部パイプ7と、第2パイプ2及び第5パイプ5の少なくとも一方とを、着脱可能かつパイプ軸O周りに相対回転可能に接続する構成であっても構わない。
【0078】
次に、
図8~
図10を参照して、金属製尺八のさらに他の実施形態について説明する。本実施形態の尺八は、
図5に示した実施形態と同様に、上側から順に、第1パイプ1(歌口パイプの一例)、第2パイプ2(上端寄りパイプの一例)、中央部パイプ7(指孔用パイプの一例)、第5パイプ5、第6パイプ6の5本のパイプで構成されている。本実施形態では、第2パイプ2と中央部パイプ7との第2接続部102は、第2パイプ2の下端部に形成された第2嵌合穴23に、第3パイプ3の上端部に形成された小径の第3挿込み部33が嵌入されて形成されている。本実施形態では、第2パイプ2の長さと、第3パイプ3の長さ(第3挿込み部33を含む)とを同一寸法にしている。これにより、パイプ2,3の加工前の材料として同じ材料(素材及び外寸等が同じ材料)を使用でき、製造コストの低減を図れる。
【0079】
接続部101,102,104,105は、上下のパイプを着脱可能かつパイプ軸O周りに相対回転可能に接続している。接続部101,102,104,105の外形は円形である。本実施形態では、
図9に示すように、各嵌合穴21,23,42,52の内周面に形成された環状のOリング溝111にOリング112(
図10(B)での図示は省略)が保持されている。嵌合穴21,23,42,52に挿込み部13,33,51,62が嵌入した状態でOリング112が弾性変形し、上下のパイプが相対回転可能に連結される。なお、接続部101,102,104,105のうちの少なくとも1箇所は、上下のパイプが相対回転不能に固着されても構わない。例えば、第5接続部105において、第5パイプ5の第5嵌合穴52と第6パイプ6の第5挿込み部62とが接着剤等で固着されて相対回転不能に構成されても構わない。この場合、第5接続部105におけるOリング溝111及びOリング112は設けなくても構わない。また、中央部パイプ7は、
図1~
図3を参照して説明した実施形態と同様に、第3パイプ3と第4パイプ4とで構成されていても構わない。
【0080】
各パイプ1,2,5,6,7は例えばマグネシウム合金で形成されており、各パイプの表面には皮膜(図示は省略)が形成されている。該皮膜は、例えば耐食性皮膜であり、無電界ニッケルめっき皮膜などの金属皮膜で形成され、各パイプの挿込み部や嵌合穴、端面などを含め、各パイプの外周面及び内壁面の全体に形成されている。各パイプの表面に皮膜を形成することで、水分などによるパイプ素材(例えばマグネシウム合金)の腐食を防止できる。
【0081】
また、各パイプの表面に漆塗り層が形成されているようにすれば、金属製でありながら柔らかい印象を与えるとともに高級感あふれる金属製尺八を実現できる。該漆塗り層は、パイプ表面に上記皮膜や樹脂層などの他の層を介して形成されてもよいし、パイプ表面に直接形成されてもよい。なお、漆塗り層は、パイプ1,2,5,6,7のいずれか又は全部に形成されてもよいし、各パイプの挿込み部や嵌合穴には形成されていないようにしてもよい。
【0082】
図9及び
図10(A)に示すように、尺八の上端寄り部分を構成するとともに歌口部11を有する第1パイプ1の内周面は、少なくとも上端側の開口寄り部分を含む長さ方向の一部分において、断面形状(パイプ軸Oに直交する断面形状)が非円形に形成されている。換言すれば、尺八の歌口部11側の開口は、平面視で非円形に形成されている。また、第1パイプ1の上端部の裏面側角部を斜め下向きに切り欠いた顎当て部12は側面視で丸みを帯びており、顎当て部12の演者の顎への食い込みをより抑制している。
【0083】
本実施形態では、第1パイプ1の内周面は、長さ方向中央部から歌口部11の開口部にわたる部分の背面側部位に、パイプ肉厚が他の部位(前面側部位や左右部位)に比べて薄く形成された第1薄肉部14を備えている。これにより、上端側(歌口部11側)の開口形状および上端側の開口寄り部分の内周面形状は、背面側がやや尖った略たまご形に形成されている。第1パイプ1の内周面の前後方向内径寸法D1a(上端側の開口の前後方向の寸法)は、左右方向内径寸法D1b(上端側の開口の左右方向の寸法)よりも大きくなっている。
【0084】
このような内周面形状は、例えば、略円柱形の第1パイプ1の材料に旋盤による中ぐり加工を施して円形の管孔10を形成した後、背面側(顎当て部12側)の内周面部位に、第1薄肉部14を形成するための切削加工を追加で施すことで形成できる。なお、本実施形態では、第1挿込み部13には第1薄肉部14が形成されておらず、第1挿込み部13の厚みは均一であり、接続部101の強度が確保されている。
【0085】
また、第1薄肉部14の周方向の大きさや径方向の深さは実施形態のものに限定されず、適宜変更可能である。また、第1パイプ1の内周面の長さ方向全体にわたって第1薄肉部14が形成されていても構わない。また、第1パイプ1の内周面の周方向に複数の第1薄肉部14が形成されていても構わない。
【0086】
上端側の開口寄り部分の内周面形状が非円形に形成されていることで、息受け(管孔10への息の入り易さ)を内周面形状が円形の場合に対して変化させることができ、音色を調整できる。特に、管孔10の上端側の開口寄り部分において、前後方向内径寸法D1aを左右方向内径寸法D1bよりも大きくすることで息受けが良くなり、吹き易さが向上する。
【0087】
図9及び
図10(A)に示すように、歌口部11には、歌口部11の上端部の内周面の一部分を切り欠いて形成された歌口切欠き部15が設けられており、平面視で、パイプ軸Oと歌口切欠き部15との間の距離D1cが、パイプ軸Oと歌口部11中央部との間の距離D1dよりも大きくなっている。歌口部11に歌口切欠き部15を設けることで、息受けが良くなり、吹き易さが向上する。本実施形態では、第1パイプ1の上端部の正面側を斜めに切り欠いて形成される下向き凹状の歌口部11の左右両縁部位に、左右一対の歌口切欠き部15が左右対称に形成されていることで、息がバランスよく第1パイプ1の管孔10内に吹き込まれ、音色が安定する。なお、歌口切欠き部15の大きさ及び形状や距離D1cの大きさは、
図9及び
図10(A)に示したものに限定されず、適宜変更可能である。
【0088】
図9及び
図10(B)に示すように、第2パイプ2の内周面は、長さ方向の少なくとも一部分において、断面形状が非円形に形成されている。換言すれば、歌口部11と第4孔74との間の内周面は、長さ方向の少なくとも一部分の断面形状が非円形に形成されている。
【0089】
本実施形態では、第2パイプ2の内周面は、長さ方向中央部から第1嵌合穴21の開口部にわたる部分においてパイプ軸Oを挟んで互いに対向する2つの部位それぞれに、パイプ肉厚が他の部位に比べて薄く形成された第2薄肉部24を備えている。これにより、第2薄肉部24形成部分の断面形状は略楕円に形成されている。第2薄肉部24形成箇所の内径寸法D2aが第2薄肉部24非形成箇所の内径寸法D2bよりも大きく形成されている。
【0090】
このような第2パイプ2の内周面形状は、例えば、略円柱形の第2パイプ2の材料に中ぐり加工を施して円形の管孔10を形成した後、内周面のうち対向する2部位それぞれに、第2薄肉部24形成用の切削加工を追加で施すことで形成できる。
【0091】
なお、第2パイプ2の内周面の長さ方向全体にわたって第2薄肉部24が形成されていても構わない。また、第2薄肉部24の周方向の大きさや径方向の深さは実施形態のものに限定されず、適宜変更可能である。また、第2パイプ1の内周面に形成される第2薄肉部24は1つであっても構わないし、第2パイプ1の内周面の周方向に3つ以上の第2薄肉部24が形成されても構わない。
【0092】
第2薄肉部24を有する第2パイプ2と、歌口部11を有する第1パイプ1および第3~5孔73~75を有する中央部パイプ7は、パイプ軸Oまわりに相対回転可能に接続されている。すなわち、第2パイプ2を第1パイプ1や中央部パイプ7に対してパイプ軸O周りに相対回転することで、歌口部11や第3~5孔73~75の向き(例えば前後方向)に対して、第2パイプ2の第2薄肉部24形成箇所(内径が大きくなっている箇所)の向きを変更可能である。なお、
図9は、第2パイプ2の第2薄肉部24が前後軸Xに重なるようにパイプ軸Oに対して前後に配置された状態を示している。すなわち、第2パイプ2の内周面において内周面形状が非円形であることで内径が大きくなっている箇所が前後方向に向けて配置されている状態を示している。
【0093】
歌口部11と第4孔74との間の内周面において、長さ方向の少なくとも一部分が断面形状非円形に形成されていることで、管孔10内の息抜け(息の抜け易さ)を断面形状が円形の場合に対して変化させることができ、音色を調整できる。また、第2薄肉部24形成箇所の向きを歌口部11や指孔の向きに対してパイプ軸O周りに変化させることで、管孔10内の息抜けを変化させて音色を調整でき、特に、第2薄肉部24形成箇所(内径が大きくなっている箇所)を前後方向に向けることで、息抜けが良くなり、吹き易さが向上する。なお、第5パイプ5、第6パイプ6及び中央部パイプ7のうちの少なくと1つにおいて、内周面において長さ方向の少なくとも一部分が断面形状非円形に形成されていても構わない。例えば、第2パイプ2の第2薄肉部24を形成するのと同様に、パイプ5,6,7の内周面に肉薄部形成用の切削加工を追加で施すことで、パイプ5,6,7の内周面を非円形に形成できる。
【0094】
図10(C)に示すように、管尻部61の裏面側に設けられた第2面取り部82は、管尻部61の側面に設けられた第1面取り部81に比べて小さく形成されている。具体的には、第2面取り部82は、管尻部61の下端面に露出する端辺の長さが第1面取り部81の端辺の長さに比べて短くなっている。また、第2面取り部82はパイプ軸Oと略平行な面で形成されている一方、第1面取り部81は上端側の部位ほどパイプ軸Oに近づくようにパイプ軸Oに対して傾斜する面で形成されている。
【0095】
本実施形態では、第1面取り部81は、管尻部61の下端面に露出する端辺が前面側の部位ほど前後軸Xから離れている、すなわち、管尻部61の左右側面のうち裏面寄りの部位に形成されているので、尺八を正面側から見たときに第1面取り部81が視認されにくく、演奏時の見栄えを向上できる。
【0096】
また、第1面取り部81は、上端側の部位ほどパイプ軸Oに近づくようにパイプ軸Oに対して傾斜する面で形成されているので、パイプ軸Oに平行に設ける場合に比べてパイプ軸O方向に長く形成できる、換言すれば、管尻部61の外周面で第1面取り部81が占める面積を大きくできる。これにより、第1面取り部81の存在感を大きくできる。
【0097】
管尻部61の第1面取り部81とパイプ軸Oとの間の距離は、第2接続部102、第4接続部104および第5接続部105の外形半径とほぼ同じになっている。本実施形態では、第1面取り部81とパイプ軸Oとの間の距離寸法は、接続部102,104,105の外形半径寸法よりもわずかに大きく、これらの寸法の差は例えば1ミリメートル未満であるが、これらの寸法は同じであっても構わない。なお、第1接続部101の外形半径は接続部102,104,105の外形半径よりもわずかに小さく、これらの寸法の差は例えば1ミリメートル未満であるが、これらの寸法は同じであっても構わない。また、接続部102,104,105の外形寸法は互いに異なっていても構わない。
【0098】
このように、管尻部61の外径が尺八の長手方向中途部よりも大径であるにも関わらず、管尻部61に第1面取り部81を設けることで、管尻部61における第1面取り部81とパイプ軸Oとの間の距離を小さくできる。その上で、第1面取り部81とパイプ軸Oとの間の距離をパイプ同士の接続部101,102,104,105の外形半径とほぼ同じにすることで、面取り部を下向きにして平坦面に置いた尺八に、外部から下向きの荷重が加わった時に、パイプの接続部101,102,104,105に加わる曲げ荷重を低減でき、尺八の破損や音色の変化を防止できる。
【0099】
なお、第1面取り部81とパイプ軸Oとの間の距離寸法が接続部101,102,104,105の外形半径寸法よりも小さくなるようにして、第1面取り部81を形成しても構わない。また、第2面取り部82とパイプ軸Oとの間の距離が、接続部101,102,104,105の外形半径と同じ若しくはほぼ同じ、又はそれよりも小さくなるように、第2面取り部82をパイプ軸Oに近づけて形成することも可能である。
【0100】
本実施形態では、指孔71~75の開口の大きさ(正面側から見た開口面積)に関し、第3孔73が最も小さく、次いで第5孔75が小さく、第1孔71、第2孔72及び第4孔74が同じ大きさで最も大きく設けられている。また、指孔71~75の開口形状に関し、第3孔73及び第5孔75は円形である一方、第1孔71、第2孔72及び第4孔74は上下方向に長い楕円形である。例えば、楕円形の第1孔71、第2孔72及び第4孔74の楕円短軸の長さ(左右方向の径の長さ)は、円形の第5孔75の直径と同じである。また、第3孔73の開口径は第5孔75の開口径よりも小さくなっている。
【0101】
また、指孔71~75の表面側の開口角部および内周面側の開口角部は面取り加工されて、角が落されていても構わない。特に、指孔71~75の表面側の開口角部が面取り加工されていることで、演者が指孔71~75を指で押さえたときの感触が向上する。
【0102】
図8(C)に示すように、パイプ1,2,7,5,6の外周面には、接続部101,102,104,105の近傍箇所それぞれに、上下のパイプの周方向位置を位置合わせするための印121が形成されている。印121は合いマークとも呼ばれ、本実施形態では、パイプ表面にレーザー光を照射して形成したレーザーマーカーであるが、他の印字方法、例えば塗料や刻印などで形成されたものであっても構わない。
【0103】
本実施形態では、印121は、パイプ1,2,7,5,6を接続するにあたり、上下のパイプの印121をパイプ軸Oに沿って位置合わせしたときに、第1パイプ1の歌口部11が正面を向き、第2パイプ2の第2薄肉部24が前後軸Xに重なるようにパイプ軸Oに対して前後に配置され、中央部パイプ7及び第4パイプ4の第1~第4孔71~74が正面を向き、第6パイプ6の面取り部82が真後ろ(背面)に向くようにして形成されている。
【0104】
このように、パイプ1,2,7,5,6それぞれに印121を設けることで、パイプ1,2,7,5,6を接続する際に上下のパイプの周方向位置合わせの目安とでき、利便性が向上する。また、印121はパイプ1,2,7,5,6の裏面側に形成されているので、尺八を正面側から見たときに印121は視認されにくく、印121によって演奏時の見栄えが低下するのを防止できる。ただし、印121はパイプ1,2,7,5,6の側面や正面に形成されてもよい。
【0105】
印121は、
図11(A)に示すように、周方向に設けた目盛り121aや記号121b(例えばアラビア数字)であっても構わない。
図11(A)では第2接続部102の背面側に設けた印121を図示しているが、このような印121は他の接続部にも適用でき、例えば第1接続部101や第4接続部104に適用してもよい。このような態様によれば、上下のパイプを演者の好みに合わせて容易かつ正確に位置合わせでき、利便性が向上する。なお、第2パイプ2の印121は、目盛り121aのみであってもよいし、記号121bのみであってもよい。また、上下のパイプのどちらに目盛り121a等を形成しても構わない。また、上下のパイプ同士(例えば第5パイプ5と第6パイプ6)を回転不能に固着する場合には、それらのパイプ同士の接続部において印121は形成されていなくてもよい。
【0106】
上記実施形態では、第1パイプ1の第1薄肉部14の側面はパイプ軸Oに略平行に設けられているが、
図11(B)に示すように、第1薄肉部14の側面は、尺八の上端開口部側ほどパイプ軸Oから離れるようにテーパ状に形成されていても構わない。これにより、第1薄肉部14の側面の下端側の段差をなくすことができ、第1薄肉部14の下端部に唾液等の水分が溜まるのを防止できる。
【0107】
また、
図11(C)に示すように、第2薄肉部24の下端部は、段差が形成されないように、下端側ほどパイプ軸Oに近づくテーパ状に形成されていても構わない。この場合、第2薄肉部24の下端部は、第2薄肉部24を正面側(又は裏面側)から見たときに上向き開口の略U字形(又は略V字形)になる。これにより、第1薄肉部14の下端部に水分が溜まるのを防止できる。なお、少なくとも第2薄肉部24の下端部位において、下端側ほどパイプ軸Oに近づくようにテーパ状に形成されていれば、段差を形成しないようにできるが、当該テーパ状に形成される部位は、下端部位だけでなく、例えば、第2薄肉部24の上下方向の全体が下端側ほどパイプ軸Oに近づくようにテーパ状に形成されていても構わない。
【0108】
上記実施形態では、挿込み部13,33,51,62の外径は同じ寸法に設けられ、嵌合穴21,23,42,52の内径は同じ寸法に設けられているが、接続部101,102,104,105の挿込み部及び嵌合穴の径は、互いに異なっていても構わない。例えば
図12(A)に示すように、第1接続部101の第1挿込み部13の外径D13及び第1嵌合穴21の内径D21に対して、第2接続部102の第3挿込み部33の外径D33及び第2嵌合穴23の内径D23が小さくなっていてもよい。これにより、第2パイプ2の上下向きを誤って接続するのを防止できる。本実施形態では、第2パイプ2の内周面の上側半部位のみに第2薄肉部24が形成されているので、第2パイプ2の上下向きの誤接続を防止することは特に有効である。
【0109】
また、
図12(A)に示すように、嵌合穴21,23,42において、2本のOリング溝111がパイプ軸O方向に間隔をあけて設けられ、各Oリング溝111にOリング112が保持されているようにしてもよい。このような態様によれば、接続部101,102,104において、上下2本のOリング112で挿込み部13,33,51をしっかり保持して上下パイプのぐらつきを抑制できる。
【0110】
嵌合穴21,23,42に上下2本のOリング112が設けられることで、上下のパイプを接続するときの感触が1本の場合とは異なるようになる。例えば第2接続部102の接続について説明すると、第3挿込み部33を第2嵌合穴23に挿し込むことで、まず挿込み部33の先端部が嵌合穴23の開口側のOリング112に当接する。さらに挿込み部33を押し進めると、1本目(開口側)のOリング112が弾性変形することで挿込み部33のさらなる進入が許容され、挿込み部33の外周面に1本目のOリング112が摺接して摩擦抵抗を生じながら挿込み部33が第2嵌合穴23の奥側へ進入する。そして、挿込み部33の先端部が2本目(奥側)のOリング112に到達すると、抵抗力が増すので、挿込み部33を挿し込む力をさらに大きくすることで、2本目のOリング112が弾性変形して挿込み部33のさらなる進入が許容される。その後、中央部パイプ7の上側の段差面(挿込み部33の基端部周囲の段差面)が第2パイプ2の下端面(第2嵌合穴23の周囲の端面)に接触することで、第2パイプ2と中央部パイプ7が接続される。
【0111】
このように、第3挿込み部33を第2嵌合穴23に挿し込むにあたり、途中までは1本目のOリング112による抵抗を感じながら挿込み部33を押し込み、2本目のOリング112により挿込み抵抗が大きくなったのを感じた後、最後に力をさらに加えて2本目のOリング112を弾性変形させて、挿込み部33をさらに押し込むことで、接続が完了するという、第2パイプ2と中央部パイプ7とがしっかりと接続されたことを感じとれる、心地よい感触が得られる。なお、接続部101,104においても同様の接続状態及び感触が得られることは言うまでもない。また、第5接続部105においてもOリング溝111及びOリング112を上下2本に設けても構わない。また、接続部101,102,104,第5接続部105において、パイプ軸O方向に間隔をあけて3本以上のOリング溝111及びOリング112を設けても構わない。
【0112】
図12(B)は、印121の他の例を示している。
図12(B)では第1接続部101の背面側に設けた印121を図示しており、第1パイプ1の背面下部に周方向に設けた目盛り121aからなる印121が形成され、第2パイプ2背面の上部に1本の縦線からなる印121が形成されている。本実施形態では、目盛り121aにおいて中央の目盛りが他の目盛りに比べて太く形成され、中央位置が分かりやすくなっている。このような態様によれば、歌口部11を有する第1パイプ1を第2パイプ2(及び第2パイプ2に対して位置合わせされた中央部パイプ7、第5パイプ5等)に対して演者の好みに合わせて容易かつ正確に位置合わせでき、利便性が向上する。
【0113】
なお、第1接続部101において、第1パイプ1の下端部の背面側中央部に1つの印121を設け、第2パイプ2の上端部の背面側中央部に目盛り121aからなる印121を設けても構わない。また、
図12(B)に示した印121は、接続部102,103,104,105に適用可能であることや、印121の形状や大きさ、配置等は適宜変更可能であることは言うまでもない。
【0114】
図13に示すように、尺八の外周面に模様131~134を描画することも可能である。本実施形態の平面図及び底面図は
図10(A),(C)と同じである。本実施形態では、模様131~134は竹製の尺八の表面に現れる笹紋と称される色の濃い部分を模したものであり、上下方向に長い略ひし形の形状を有しており、例えばパイプ表面にレーザー光を照射することで形成される。なお、模様の色や大きさ、形状、配置、形成方法などは特に限定されない。
【0115】
第1模様131は第1パイプ1及び中央部パイプ7に跨って描画され、第2模様132は中央部パイプ7及び第4パイプ4に跨って描画され、第3模様133及び第4模様134は第5パイプ5及び第6パイプ6に跨って描画されている。このように、模様131~134は、上下複数のパイプに跨って設けることで、上下のパイプの位置合わせ用の印として使用できる。
【0116】
以上、実施形態を説明したが、本発明は、前述の実施形態に限らず、様々な態様に具体化できる。各部の構成は図示の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。また、上述した実施形態及び変形例(なお書き等)で説明した各構成を組み合わせても構わないし、また、構成の付加、省略、置換、その他の変更が可能である。
【0117】
例えば、管尻部61の下端から上側へ延びる面取り部の形成位置や形状、個数は上記実施形態に限定されず、種々の変更が可能である。例えば、管尻部61の左右両側面それぞれに第1面取り部81を形成しているが、第1面取り部81は管尻部61の左右一方の側面のみに形成されていてもよい。また、面取り部として、裏面側の第2面取り部82のみが形成されている構成であってもよいし、第1面取り部81のみが形成されている構成であってもよい。例えば
図6及び
図7に示す実施形態のように、管尻部61に左右の第1面取り部81が形成されている構成であってもよい。また、管尻部61に左右両側面の少なくとも一方に複数の第1面取り部81が形成されていてもよいし、管尻部61の裏面側に複数の第2面取り部82が形成されていてもよい。また、上記面取り部は、尺八の正面側に露出する位置に形成されていてもよい。
【0118】
また、上記実施形態では、管尻部61の下端面(尺八の下端面)に露出する第1面取り部81の端辺が前面側の部位ほど前後軸Xから離れるように前後軸Xに対して傾斜しているが、該端辺が前後軸Xに略平行になるように、もしくは該端辺が前面側の部位ほど前後軸Xに近づくように前後軸Xに対して傾斜するようにして、第1面取り部81を設けても構わない。また、管尻部61の下端面に露出する第2面取り部82の端辺は、前後軸Xに対して傾斜していても構わない。
【0119】
また、上記面取り部は、平坦面で形成されたものに限定されず、該面取り部を下向きにして尺八を平坦面に置いたときに、尺八の転がりを抑制できるように管尻部の一部分を面取りした又は切り欠いた形状であればよい。例えば、上記面取り部は、尺八の中心軸側へ向かって凹んだ形状であってもよいし、複数の凹凸を有する凹凸面で構成されていてもよい。
【0120】
また、第1~第5の接続部101~105は、分離可能に接続されてもよいし、分離不能に固着されてもよい。例えば、上記実施形態では、歌口部11を有する第1パイプ1は、第2パイプ2に着脱可能に接続されるが、第1パイプと第2パイプは分離不能に固着されてもよい。また、上記実施形態では6本のパイプ1~6を接続して尺八を形成しているが、本発明の実施形態の金属製尺八を形成する金属製パイプの本数は、2~5本のいずれかであってもよいし、7本以上であってもよい。
【0121】
また、本発明の実施形態の金属製尺八を形成する金属製の各パイプの外形は、管尻部の外径が尺八の長さ方向中途部の外径よりも大径に形成される構成であれば、特に限定されない。例えば、第1~第5のパイプ1~5は、パイプ軸方向に均一な外径をもつパイプであってもよい。また、上記実施形態では、第1~第4の孔71~74は尺八の長さ方向に沿ってまっすぐに配列されているが、第1~第4の孔71~74のうち1つ又は複数が、右又は左にずれて形成されていても構わない。また、接続部101~105において、挿込み部と嵌合穴は、上記実施形態とは上下のパイプで逆(例えば第1パイプ1の下端部に嵌合穴が形成され、第2パイプ2の上端部に挿込み部が形成された構成)に形成されていても構わない。
【0122】
また、上記実施形態では、管尻部61は大胆に広がったラッパ状に形成されているが、管尻部61の形状は、これに限定されず、下端側がやや広がっている(ややテーパ状)になっている形状であってもよい。また、管尻部61の全体が、長さ方向に均一な外径で尺八の長さ方向中途部よりも太くなっている(大径になっている)構成でも構わない。
【0123】
なお、本明細書等に記載された尺八各部の構成のうち、例えば第2パイプ2の内部が断面非円形に形成された構成や、歌口部11の内部形状に関する構成など、管尻部61に面取り部81,82を設けた構成以外の各構成は、管尻部の外径の大きさや面取り部の有無に関わらず、金属製で略円筒形の複数のパイプが接続されてなる金属製の尺八に適用可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0124】
1 第1パイプ
2 第2パイプ
3 第3パイプ
4 第4パイプ
5 第5パイプ
6 第6パイプ
7 中央部パイプ
10 管孔
10a 下端部
11 歌口部
12 顎当て部
13 第1挿込み部
14 第1薄肉部
15 歌口切欠き部
21 第1嵌合穴
22 第2挿込み部
23 第2嵌合穴
24 第2薄肉部
31 第2嵌合穴
32 第3嵌合穴
33 第3挿込み部
41 第3挿込み部
42 第4嵌合穴
51 第4挿込み部
52 第5嵌合穴
61 管尻部
62 第5挿込み部
71 第1孔
72 第2孔
73 第3孔
74 第4孔
75 第5孔
76 第6孔
77 第7孔
81 第1面取り部
82 第2面取り部
91 挟持部
101 第1接続部
102 第2接続部
103 第3接続部
104 第4接続部
105 第5接続部
111 Oリング溝
112 Oリング
121 印
121a 目盛り
121b 記号
131 第1模様
132 第2模様
133 第3模様
134 第4模様
D1a 前後方向内径寸法(上端側の開口の前後方向の寸法)
D1b 左右方向内径寸法(上端側の開口の左右方向の寸法)
D1c パイプ軸と歌口切欠き部との間の距離
D1d パイプ軸と歌口部中央部との間の距離
D2a 第2薄肉部形成箇所の内径寸法
D2b 第2薄肉部非形成箇所の内径寸法
D13 第1挿込み部の外径
D21 第1嵌合穴の内径
D23 第2嵌合穴の内径
D33 第3挿込み部の外径
O パイプ軸
X 前後軸