(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022101497
(43)【公開日】2022-07-06
(54)【発明の名称】電解液を含む正極及びそれを用いる空気電池、並びに正極への電解液注液方法及びそれを用いる空気電池の製法
(51)【国際特許分類】
H01M 12/08 20060101AFI20220629BHJP
H01M 12/06 20060101ALI20220629BHJP
H01M 50/609 20210101ALI20220629BHJP
H01M 50/618 20210101ALI20220629BHJP
【FI】
H01M12/08 K
H01M12/06 F
H01M12/06 G
H01M50/609
H01M50/618
【審査請求】未請求
【請求項の数】26
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021203488
(22)【出願日】2021-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2020215856
(32)【優先日】2020-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】501440684
【氏名又は名称】ソフトバンク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松田 翔一
(72)【発明者】
【氏名】朝比奈 均
(72)【発明者】
【氏名】亀田 隆
(72)【発明者】
【氏名】山口 祥司
(72)【発明者】
【氏名】安川 栄起
(72)【発明者】
【氏名】木村 伸
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 貴也
(72)【発明者】
【氏名】宮川 絢太郎
(72)【発明者】
【氏名】角田 宏郁
(72)【発明者】
【氏名】大谷 晴彦
【テーマコード(参考)】
5H023
5H032
【Fターム(参考)】
5H023AA05
5H023BB01
5H023BB05
5H023CC27
5H032AA02
5H032AS01
5H032AS02
5H032AS11
5H032BB02
5H032BB05
5H032CC02
5H032CC16
5H032CC17
5H032HH04
5H032HH06
5H032HH08
(57)【要約】
【課題】 本発明は、少ない液量(具体的には、正極の全空孔体積よりも少ない体積の液量で、従来の注液法によれば注液斑が生じてしまう液量)の電解液で均一に注液することが可能な従来とは異なる方法で注液された電解液を含む多孔質構造の正極、及び、このような少ない液量の電解液でも、多孔質構造の正極に対して均一に注液することが可能な方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 本発明によれば、多孔質構造の正極であって、電解液を含む部材との接触により転写された前記電解液を含む、前記正極が提供される。また、多孔質構造の正極に対して、電解液を含む部材を接触させ、前記電解液を転写させることにより、前記電解液を前記正極に注液する方法が提供される。また、充放電回数(サイクル数)が、3回以上である、空気電池が提供される。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質構造の正極であって、電解液を含む部材との接触により転写された前記電解液を含む、前記正極。
【請求項2】
前記電解液がリチウム塩を含み、前記リチウム塩の少なくとも一つの構成元素の蛍光X線測定による変動係数が0.2よりも低い、請求項1に記載の正極。
【請求項3】
前記リチウム塩が臭化リチウムであり、前記臭化リチウムを構成する臭素のKα線測定による変動係数が0.2よりも低い、請求項2に記載の正極。
【請求項4】
前記電解液によって、空孔率に基づき前記正極の空孔の50%以上100%未満が充填されている、請求項1から3のいずれか一項に記載の正極。
【請求項5】
前記部材がポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製のメンブランフィルターである、請求項1から4のいずれか一項に記載の正極。
【請求項6】
前記部材の電解液が滴下によって含有されている、請求項1から5のいずれか一項に記載の正極。
【請求項7】
前記多孔質構造の正極が、前記電解液を含む部材との接触前に、減圧加熱処理によって前記電解液の溶媒で湿潤された空孔を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の正極。
【請求項8】
直径が10nm以上100nm以下の空孔における、転写後の細孔比表面積が10m2/g以下である、請求項1から7のいずれか一項に記載の正極。
【請求項9】
直径が10nm以上100nm以下の空孔における、転写後の細孔比表面積が6m2/g以下である、請求項8に記載の正極。
【請求項10】
直径が10nm以上100nm以下の空孔における、転写後の容積が100μL/g以下である、請求項1から9のいずれか一項に記載の正極。
【請求項11】
直径が10nm以上100nm以下の空孔における、転写後の容積が60μL/g以下である、請求項10に記載の正極。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の正極を含む、空気電池。
【請求項13】
放電容量又は充電容量が80%以下となる前までの充放電回数(サイクル数)が、3回以上である、請求項12に記載の空気電池。
【請求項14】
多孔質構造の正極に対して、電解液を含む部材を接触させ、前記電解液を転写させることにより、前記電解液を前記正極に注液する方法。
【請求項15】
前記電解液がリチウム塩を含み、前記正極における、前記リチウム塩の少なくとも一つの構成元素の蛍光X線測定による変動係数が0.2よりも低くなるように前記電解液を注液する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記リチウム塩が臭化リチウムであり、前記正極における、前記臭化リチウムを構成する臭素のKα線測定による変動係数が0.2よりも低くなるように前記電解液を注液する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記電解液の注入により、空孔率に基づき前記正極の空孔の50%以上100%未満を前記電解液で充填する、請求項14から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記部材としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製のメンブランフィルターを使用する、請求項14から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記部材の電解液を滴下によって含有させる、請求項14から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記電解液を含む部材を接触させ、前記電解液を転写させる前に、前記電解液の溶媒により正極の空孔内を湿潤させる工程を含む、請求項14から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記電解液の溶媒により正極の空孔内を湿潤させる工程が、減圧加熱処理によって前記電解液の溶媒を蒸散させ、前記溶媒蒸気雰囲気中に多孔質構造の正極を置いて前記正極を湿潤させることを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記減圧加熱処理を、0.1Pa以上10Pa以下の圧力下において行う、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記減圧加熱処理の加熱を、40℃以上100℃以下の温度で行う、請求項21又は22に記載の方法。
【請求項24】
前記減圧加熱処理の加熱時間が、10分以上120分以下である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
負極と、
セパレータと、
請求項14から24のいずれか一項に記載の方法によって電解液を注液される正極と、
前記正極の活物質として酸素を取り込むための酸素流路層とを順に積層することによる空気電池の製造方法。
【請求項26】
負極と、
セパレータと、
請求項14から24のいずれか一項に記載の方法によって電解液を注液される正極と、
前記正極の活物質として酸素を取り込むための酸素流路層とを順に積層することによる空気電池の製造方法であって、
未だ電解液を注液されていない正極の積層後に、電解液を含む部材を前記正極に接触させることによる前記電解液の転写により、前記電解液を前記正極に注液する工程、及び
前記部材を取り除く工程、
を含む、前記製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解液を含む多孔質構造の正極及び当該正極を含む空気電池、並びに正極への電解液の注液方法及び当該注液方法によって製造された正極を用いる空気電池の製法に関する。当該空気電池としては、特に、正極活物質として酸素を用いるリチウム空気二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
空気電池(例えば、リチウム空気二次電池)は正極活物質として酸素を使用する電池であり、酸素を取り込むための酸素流路層、正極(本願では、空気極と称することもある)、セパレータ、負極から構成され、電解液が注液される。例えば、特許文献1には、酸素拡散層、正極、セパレータ、負極の4層積層物に対し、非水電解質をセパレータに注液している非水電解質電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
酸素流路層は、層内を酸素が拡散する必要があり、電解液に湿潤されていると酸素拡散の妨げとなるため、電解液を含まないことが望ましいとされる。すなわち、電解液は、正極、セパレータ、負極、及びその周囲にのみ均一に存在することが望ましい。
【0005】
空気電池の電解液量は、当該電池のエネルギー密度に直結する。そのため、サイクル特性に影響を及ぼさない範囲で、可能な限り電解液量を少なくすると、その分の空気電池のエネルギー密度の向上が期待できる。
【0006】
また、空気電池の電解液量は、正極活物質である酸素の電池内の拡散にも大きく影響する。例えば、リチウム空気電池の場合、放電過程において、非水電解液中のリチウムイオンと正極活物質である酸素が反応することにより、過酸化リチウムが正極の空気極を構成する空気極層内に形成され、充電過程において、過酸化リチウムが酸化分解される。しかし、電解液中への酸素の溶解量には限りがあるため、酸素流路層近傍の空気極内で過酸化リチウムの生成が生じ、充放電サイクルが進むと、当該酸素流路層近傍の空気極内で生成して残存する過酸化リチウムにより、酸素流路層から空気極層内部への酸素拡散が阻害されることになってしまう。そうすると、充放電サイクル特性に悪影響を及ぼすことになると理解される。これは、空気極層が厚くなるにつれて空気極層内の酸素が不足し易くなることを意味する。ここで、空気極層の全空孔の体積を100%とした場合(すなわち、空気極層の空孔率を100%とした場合)の電解液量の体積%を、当該空孔率(100%)よりも少なくすることにより、空気極層内に酸素の拡散経路(いわゆる、拡散パス)となる空隙を積極的に残存させると、酸素流路層から供給された酸素が、空気極層内を容易に拡散できるようになり、空気極層内にある電解液の隅々まで酸素が溶解することになると理解される。
【0007】
そこで、上記二つの理由(空気電池のエネルギー密度の向上及び正極活物質である酸素の空気電池内での容易な拡散)により、空気電池の特性に悪影響を及ぼさない範囲で電解液量を少なくすることが望ましい。
【0008】
ここで、空気電池としてリチウム空気電池を例に挙げると、正極として多孔質炭素の空気極を用い、その空孔率を100%とした場合にそれよりも少ない体積の電解液を当該空気極に対して注液する場合、当該空気極の炭素表面は確実に電解液で満たされ、また、当該空気極内(具体的には、当該空気極を構成する空気極層内)の空孔中央部には電界液で満たされていない領域(いわゆる、貫通孔)が残存している状態が望ましい。このような状態においては、炭素表面を通じて電解液が連続して繋がることにより、リチウムイオンが多孔質炭素の空気極(正極)全体に行きわたることができ、また、空孔中央部に電界液で満たされていない貫通孔が存在することにより、酸素流路層から供給された酸素が空気極層内を容易に拡散することができる。
【0009】
一方で、電解液の注液量を少なくする場合には、多孔質構造の空気極において電解液が局在化し易い(すなわち、注液斑が生じ易い)という問題がある。このような多孔質構造の空気極において注液した電解液が局在化している状態を、本願では注液斑と称する。ここで、空気電池としてリチウム空気電池を例に挙げると、放電反応により、正極活物質である酸素と電解液中のリチウムイオンが反応して多孔質炭素の空気極の炭素表面に過酸化リチウムが生成することになるが、注液斑が生じると、電界液に湿潤していない領域が発生してしまうため、その領域ではリチウムイオンが拡散できず、過酸化リチウムの析出反応場として機能できなくなる。すなわち、正極である空気極全体を有効活用できなくなる。さらに、電解液が集中している領域では放電反応により生成する過酸化リチウムが偏析し易くなり、空気極内の空孔が局所的に目詰まりし易くなる。特に、電解液量を少なくすることにより注液斑が生じ易くなるにつれ、この傾向は顕著となる。
【0010】
また、電解液の注液量を少なくする場合には、注液斑が生じ易いだけではなく、多孔質構造の空気極内部の細孔にまで電解液が注液されにくいという問題もある。この場合、空気極内部に電界液により湿潤されていない領域が発生してしまうため、その領域ではリチウムイオンが拡散できず、過酸化リチウムの析出反応場として機能できなくなる。すなわち、正極である空気極全体を有効活用できなくなる。その結果、リチウム空気電池の充放電回数(サイクル数)が低下する又はリチウム空気電池として機能しない場合がある。
【0011】
例えば、特許文献1の非水電解質電池では、酸素拡散層、正極、セパレータ、負極を積層する4層積層物の構造となっており、ここでそのセパレータを狙って電解液(具体的には、非水電解液)を従来の滴下や噴霧等の注液手段により注液する場合、電解液量を少なくすると、注液口に近い部分には十分な電解液が供給されるものの、注液口と反対側のセパレータや空気極では電解液が不足する恐れがある。そのため、注液斑が生じ易いという問題がある。
【0012】
そこで、正極へ注入する電解液量は、注入後の正極に対する電解液の均一性を維持しつつ、空気電池の特性に悪影響を及ぼさない範囲でより少なくすることが望ましい。このような理由から、多孔質構造の正極に対し、空気極層の全空孔量よりも少ない液量(具体的には、全空孔の全体積よりも少ない体積の液量)、特に、従来の注液手段によれば注液斑が生じてしまうような少ない液量の電解液による注液でも均一に注液することが可能な方法、更にはこのような少ない液量の電解液で均一に注液されている多孔質構造の正極の開発が望まれている。
【0013】
また、空気電池の充放電回数(サイクル数)改善の観点から、上記の少ない液量であっても、多孔質構造の正極内部の空孔(細孔)に対しても電解液を注液することが可能な方法、並びに前記空孔にも電解液が注液されている多孔質構造からなる正極、及びかかる正極を用いた空気電池の開発が望まれている。かかる空孔(細孔)として、空気電池の反応場として機能し得るが従来の注液方法では十分に湿潤させることが難しい、直径が10nm以上100nm以下である空孔(細孔)が例示される。
【0014】
このような状況のもと、本発明の目的は、例えば、少ない液量(具体的には、正極の全空孔体積よりも少ない体積の液量で、従来の注液法によれば注液斑が生じてしまう液量)の電解液で均一に注液することが可能な従来とは異なる方法で注液された電解液を含む多孔質構造の正極、特に、このような少ない液量の電解液で均一に注液されている多孔質構造の正極を提供することである。
本発明の目的は、例えば、上記正極を含む空気電池を提供することである。
本発明の目的は、例えば、電解液を上記のような少ない液量でも、多孔質構造の正極に対して均一に注液することが可能な方法を提供することである。
本発明の目的は、例えば、電解液を上記のような少ない液量でも、多孔質構造の正極内部の空孔(細孔)に対して注液することが可能な方法を提供することである。
本発明の目的は、例えば、上記注液方法によって製造された正極を用いる空気電池の製法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、予め用意した電解液を含む部材に多孔質構造の正極を接触させて、毛細管現象を利用して当該電解液を当該正極に転写させることにより、少ない液量(具体的には、正極の全空孔体積よりも少ない体積の液量で、従来の注液法によれば注液斑が生じてしまう液量)でも、多孔質構造の正極に対して均一に電解液を注液できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の諸態様は、具体的には以下の[1]から[26]のとおりである。
【0016】
[1]
多孔質構造の正極であって、電解液を含む部材との接触により転写された前記電解液を含む、前記正極。
[2]
前記電解液がリチウム塩を含み、前記リチウム塩の少なくとも一つの構成元素の蛍光X線測定による変動係数が0.2よりも低い、[1]に記載の正極。
[3]
前記リチウム塩が臭化リチウムであり、前記臭化リチウムを構成する臭素のKα線測定による変動係数が0.2よりも低い、[2]に記載の正極。
[4]
前記電解液によって、空孔率に基づき前記正極の空孔の50%以上100%未満が充填されている、[1]から[3]のいずれかに記載の正極。
[5]
前記部材がポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製のメンブランフィルターである、[1]から[4]のいずれかに記載の正極。
[6]
前記部材の電解液が滴下によって含有されている、[1]から[5]のいずれかに記載の正極。
[7]
前記多孔質構造の正極が、前記電解液を含む部材との接触前に、減圧加熱処理によって前記電解液の溶媒で湿潤された空孔を有する、[1]から[6]のいずれかに記載の正極。
[8]
直径が10nm以上100nm以下の空孔における、転写後の細孔比表面積が10m2/g以下である、[1]から[7]のいずれかに記載の正極。
[9]
直径が10nm以上100nm以下の空孔における、転写後の細孔比表面積が6m2/g以下である、[8]に記載の正極。
[10]
直径が10nm以上100nm以下の空孔における、転写後の容積が100μL/g以下である、[1]から[9]のいずれかに記載の正極。
[11]
直径が10nm以上100nm以下の空孔における、転写後の容積が60μL/g以下である、[10]に記載の正極。
[12]
[1]から[11]のいずれかに記載の正極を含む、空気電池。
[13]
放電容量又は充電容量が80%以下となる前までの充放電回数(サイクル数)が、3回以上である、[12]に記載の空気電池。
[14]
多孔質構造の正極に対して、電解液を含む部材を接触させ、前記電解液を転写させることにより、前記電解液を前記正極に注液する方法。
[15]
前記電解液がリチウム塩を含み、前記正極における、前記リチウム塩の少なくとも一つの構成元素の蛍光X線測定による変動係数が0.2よりも低くなるように前記電解液を注液する、[14]に記載の方法。
[16]
前記リチウム塩が臭化リチウムであり、前記正極における、前記臭化リチウムを構成する臭素のKα線測定による変動係数が0.2よりも低くなるように前記電解液を注液する、[15]に記載の方法。
[17]
前記電解液の注入により、空孔率に基づき前記正極の空孔の50%以上100%未満を前記電解液で充填する、[14]から[16]のいずれかに記載の方法。
[18]
前記部材としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製のメンブランフィルターを使用する、[14]から[17]のいずれかに記載の方法。
[19]
前記部材の電解液を滴下によって含有させる、[14]から[18]のいずれかに記載の方法。
[20]
前記電解液を含む部材を接触させ、前記電解液を転写させる前に、前記電解液の溶媒により正極の空孔内を湿潤させる工程を含む、[14]から[19]のいずれかに記載の方法。
[21]
前記電解液の溶媒により正極の空孔内を湿潤させる工程が、減圧加熱処理によって前記電解液の溶媒を蒸散させ、前記溶媒蒸気雰囲気中に多孔質構造の正極を置いて前記正極を湿潤させることを含む、[20]に記載の方法。
[22]
前記減圧加熱処理を、0.1Pa以上10Pa以下の圧力下において行う、[21]に記載の方法。
[23]
前記減圧加熱処理の加熱を、40℃以上100℃以下の温度で行う、[21]又は[22]に記載の方法。
[24]
前記減圧加熱処理の加熱時間が、10分以上120分以下である、[23]に記載の方法。
[25]
負極と、
セパレータと、
[14]から[24]のいずれか一項に記載の方法によって電解液を注液される正極と、
前記正極の活物質として酸素を取り込むための酸素流路層とを順に積層することによる空気電池の製造方法。
[26]
負極と、
セパレータと、
[14]から[24]のいずれか一項に記載の方法によって電解液を注液される正極と、
前記正極の活物質として酸素を取り込むための酸素流路層とを順に積層することによる空気電池の製造方法であって、
未だ電解液を注液されていない正極の積層後に、電解液を含む部材を前記正極に接触させることによる前記電解液の転写により、前記電解液を前記正極に注液する工程、及び
前記部材を取り除く工程、
を含む、前記製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、多孔質構造の正極に対して少ない液量(具体的には、正極の全空孔体積よりも少ない体積の液量で、従来の注液法によれば注液斑が生じてしまう液量)の電解液でも均一に注液できる。そのため、例えば、以下の効果が得られる。
本発明によれば、例えば、上記の少ない液量の電解液でも均一に注液されている多孔質構造の正極を提供することが可能である。
本発明によれば、例えば、上記正極を含む空気電極を提供することが可能である。
本発明によれば、例えば、電解液を上記の少ない液量でも、多孔質構造の正極に対して均一に注液することが可能な方法を提供することが可能である。
本発明によれば、例えば、電解液を上記の少ない液量でも、多孔質構造の正極内部の細孔に対してより深部にまで注液することが可能な方法を提供することが可能である。
本発明によれば、例えば、上記方法によって製造された正極を用いる空気電池を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施態様である空気電池の構造を説明する概略図である(図中の符号100はリチウム空気電池、符号101は酸素流路層、符号102は空気極(多孔構造の正極)、符号103はセパレータ、符号104は負極を示す。)。
【
図2】本発明の一実施態様における、電解液を空気極に転写注液する構造を説明する概略図である(図中の符号102は空気極(多孔質構造の正極)、符号105は電解液を含む部材(電解液転写用部材)を示す。)。
【
図3】電解液を注液した後の正極の臭素Kα線のマッピングデータであり、(a)は実施例1、(b)は比較例1のマッピングデータである。
【
図4】実施例2及び実施例1’の電解液注液後の空気極の直径が10nm以上100nm以下の空孔(細孔)における細孔比表面積を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の態様の一つは、多孔質構造の正極であって、電解液を含む部材との接触により転写された前記電解液を含む、前記正極である。
【0020】
また、本発明の態様の一つは、多孔質構造の正極に対して、電解液を含む部材を接触させ、前記電解液を転写させることにより、前記電解液を前記正極に注液する方法である。
【0021】
また、本発明の更なる態様は、前記電解液を含む部材を接触させ、前記電解液を転写させる前に、前記電解液の溶媒により正極内部の空孔(細孔)を湿潤させることを含む、前記電解液を含む正極又は前記正極に注液する方法である。
【0022】
多孔質構造の正極に用いる材料としては、正極に用いることができるものであれば特に制限されない。例えば、炭素、金属、炭化物、酸化物等が用いられ、中でも炭素が好ましい。
また、当該正極は、多孔化した構造(すなわち、多孔質構造)である。
空気電池用の正極(空気極)材料として使用する場合、一般的に、取扱いの容易さ、コスト、重量、グリーン環境、リサイクルの観点から炭素材料が好ましい。
空気電池の正極(空気極)は、そこに高い空気又は酸素透過性を付与するため、多孔質構造である。例えば、リチウム空気電池の正極(空気極)は、導電性を有するうえ、放電反応で生成する過酸化リチウムが析出する反応場になるため、多孔質構造である必要がある。
【0023】
多孔質構造の正極に用いる炭素原料としては、多孔質炭素粒子を使用するのが好ましい。多孔質炭素粒子としてはケッチェンブラック(登録商標)を含むカーボンブラック、その他テンプレート法にて形成された炭素粒子などを用いることができる。中でも、ケッチェンブラック(登録商標)は、総比表面積(BET法比表面積)が大きく、細孔径が2nm以上50nm以下のメソ孔と細孔径が50nm以上のマクロ孔の細孔容積や比表面積が大きい材料であるという点で、空気電池用の正極に用いる原料として好ましい。
【0024】
電解液を含む部材とは、電解液を保持できる部材であって、さらに保持した電解液を正極との接触により、当該電解液を当該正極に転写することができる部材をいう。本願では、当該電解液を含む部材を電解液転写用部材と称することもある。
電解液を含む部材(電解液転写用部材)としては、正極との接触により、当該部材に含まれる電解液を転写することができる部材であれば特に制限されない。当該部材としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製の部材(例えば、PTFEタイプメンブランフィルター)等が挙げられる。PTFEタイプメンブランフィルターを使用する場合、正極の大きさなどの用途に合わせ、打ち抜き等により適宜加工して使用してもよい。
電解液を含む部材(電解液転写用部材)の大きさは、正極の大きさ以上とし、正極よりも大きくするのが好ましい。
電解液を含む部材(電解液転写用部材)への電解液の滴下量は、予め電解液を含む部材(電解液転写用部材)の滴下量とその転写により正極へ注液された注液量の校正曲線を作成しておくことで、正極への注液量が所望する液量になるように設定すればよい。
【0025】
電解液の種類は、水系電解液でも非水系電解液(非水電解液)でもよく、適用する電池の種類に応じて使用すればよい。具体的には、水系電解液電池であれば水系電解液、非水系電解液電池であれば非水系電解液(非水電解液)を使用すればよい。
【0026】
リチウム空気電池を例に挙げると、電解液としてはリチウム塩を含有する非水系の任意の電解液が好ましく、当該リチウム塩としてLiBrを含む電解液が特に好ましい。前記非水電解液において、リチウム塩を用いる場合は、例えば、LiBr、LiNO3、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiSiF6、LiAsF6、LiN(SO2C2F5)2、Li(FSO2)2N、LiCF3SO3(LiTfO)、Li(CF3SO2)2N(LiTFSI)、LiC4F9SO3、LiClO4、LiAlO2、LiAlCl4、LiB(C2O4)2などのリチウム塩を挙げることができる。これらのリチウム塩は、それぞれ単独で使用してもよいが、2種以上を混合して使用してもよい。電解質は非水系の溶媒に溶解させて電解液として使用することができる。非水系の溶媒としては、グライム類(モノグライム、ジグライム、トリグライム、テトラグライム)、メチルブチルエーテル、ジエチルエーテル、エチルブチルエーテル、ジブチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、シクロヘキサノン、ジオキサン、ジメトキシエタン、2-メチルテトラヒドロフラン、2,2-ジメチルテトラヒドロフラン、2,5-ジメチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロフラン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸ジメチル、メチルプロピオネート、エチルプロピオネート、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ポリエチレンカーボネート、γ-ブチロラクトン、デカノリド、バレロラクトン、メバロノラクトン、カプロラクトン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、ニトロメタン、ニトロベンゼン、トリエチルアミン、トリフェニルアミン、テトラエチレングリコールジアミン、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジエチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホン、トリエチルホスフィンオキシド、1,3-ジオキソラン及びスルホランからなる群から選択されるが、これらに制限されない。また、これらの溶媒は、それぞれ単独で使用してもよいが、2種以上を混合して使用してもよい。
【0027】
電解液を含む部材(電解液転写用部材)における電解液の含有方法としては、その目的を達成できるものであれば特に制限されない。例えば、当該部材への電解液の滴下や含浸などが挙げられる。
【0028】
多孔質構造の正極への電解液の注液(すなわち、充填)は、電解液を含む部材(電解液転写用部材)を接触させ、それにより当該電解液を当該正極へ転写することにより行う。従来の注液では、マイクロピペットやディスペンサーを用いることが一般的であるが、これら手法では電解液量が少ないと注液斑が生じ易い。しかし、本発明では、電解液を含む部材(電解液転写用部材)として、例えば、電解液の滴下により当該電解液を保持している部材を正極に接触させて当該電解液を転写するという新規な電解液注入方法を使用することにより、当該正極に所定量(具体的には、正極の全空孔体積よりも少ない体積の液量で、従来の注液法によれば注液斑が生じてしまう液量)の電解液が注液される。
【0029】
多孔質構造の正極への電解液の注液は、当該正極に対して均一に行うことが好ましい。
具体的には、リチウム塩を含む電解液を注液し、当該リチウム塩の少なくとも一つの構成元素を検出プローブとして蛍光X線を測定したときのその変動係数が、0.2よりも低いことが好ましい。例えば、臭化リチウム(LiBr)を含む電解液を正極へ注液し、注液後の正極における任意の複数の箇所における当該臭化リチウムの臭素(Br)を検出プローブとしてKα線(本願では、臭素Kα線と称することもある)を測定したときの変動係数(=臭素Kα線の標準偏差/臭素Kα線の平均値)が、0.2よりも低いことが好ましい。この変動係数の値は、低くなるにつれて均一性が高くなる。変動係数の値は、0.2よりも低ければ多孔質構造の正極への電解液の注液が均一であるといえるが、均一性という観点からは、より低い方がより好ましい。
【0030】
多孔質構造の正極へ注液する電解液量の上限値は、正極の全空孔体積よりも少ない体積の液量(空気電池を例に挙げると、空気極を構成する空気極層の全空孔体積よりも少ない体積の液量)である。上述のとおり、注液する当該電解液量は、正極への均一性を維持しつつ、空気電池の特性に悪影響を及ぼさない範囲でより少なくすることが望ましい。
具体的には、多孔質構造の正極へ注液する(すなわち、充填する)電解液量の上限値を、正極の全空孔の体積を100%とした場合に100%未満とすることが好ましく、より好ましくは80%未満、より一層好ましくは、70%未満である。
多孔質構造の正極へ注液する電解液量の下限値は、従来の注液法によれば注液斑が生じてしまう液量ではあるが、本発明による電解液を含む部材(電解液転写用部材)との接触により少なくとも正極表面全体を電解液で均一に満たすのに必要な最低限の液量である。
具体的には、多孔質構造の正極へ注液する電解液量の下限値を、正極の全空孔の体積を100%とした場合に50%以上とすることが好ましく、より好ましくは60%以上、より一層好ましくは、65%である。
空孔率は、例えば、多孔質構造の正極(本願では、多孔質構造体とも称する)の重量測定により嵩密度を算出し、当該多孔質構造体の真密度と比較することにより求められる。一例を挙げると、正極が炭素材料からなる多孔質構造体(本願では、多孔炭素構造体とも称する)である場合の空孔率は、当該多孔炭素構造体の重量測定により嵩密度を算出し、炭素の真密度(2.1g/cm3)と比較することにより求められる。
一方、正極への電解液の充填可能な最大量(本願では、充填最大量とも称する)は、電解液の濡れ性や細孔サイズによる浸透可否が影響するため、多孔炭素構造体の空孔(細孔)容積(空孔率100%)より小さくなることがある。そこで本願では、減圧含浸による注液量(μL/cm2)を100%としたものを充填最大量と定義する。より具体的には正極に用いる多孔炭素構造体自体を、電解液を入れたシャーレに浸漬し、10~15分間真空含浸後、表面に残る電解液をふきとった後の正極の重量増加量と電解液の比重から計算で求めることができる。
【0031】
こうして得られた前記電解液を含む(すなわち、転写後の)正極では、直径が10nm以上100nm以下の空孔(細孔)における細孔比表面積が、10m2/g以下である。好ましくは1m2/g以上10m2/g以下であり、より好ましくは3m2/g以上6m2/g以下である。また、前記電解液を含む(すなわち、転写後の)正極では、直径が10nm以上100nm以下の空孔(細孔)における細孔容積が、100μL/g以下である。好ましくは10μL/g以上100μL/g以下、より好ましくは30μL/g以上60μL/g以下である。本発明の正極又は注液方法によって正極に含まれる電解液の量は少ないため、従来の方法では、直径が10nm以上100nm以下の空孔(細孔)を電解液により湿潤させることは難しい。しかし、この領域は空気電池の反応場として機能し得るため、この領域における空孔が電解液により湿潤されていることで、正極全体をより有効に活用できる。本発明によれば、上述のとおり、多孔質構造の正極内部の空孔(細孔)深部にまで前記電解液を含む正極を得ることが可能なため、正極全体をより有効に活用できる。その結果、当該正極を用いた空気電池の充放電回数(サイクル数)を増加させることが可能である。
【0032】
多孔質構造の正極への電解液の注液(すなわち、充填)では、前記電解液を含む部材(電解液転写用部材)を接触させ、前記電解液を転写させる前に、前記電解液の溶媒により正極内部の空孔(細孔)を湿潤させる工程を含むことが好ましい。該工程を含むことにより、当該溶媒により正極内部の空孔(細孔)を湿潤させた後に、電解液を含む部材(電解液転写用部材)を接触させ、前記電解液を転写させることで、多孔質構造の正極の表面を均一に注液することができ、かつ、多孔質構造の正極内部の空孔(細孔)に対し、より深部にまで前記電解液を注液することができる。
【0033】
前記溶媒により正極内部の空孔(細孔)を湿潤させる工程としては、具体例として、減圧加熱処理によって前記溶媒を蒸散させ、溶媒蒸気雰囲気中に多孔質構造の正極を置くことが挙げられる。上記工程により、前記溶媒蒸気が前記正極内部の細孔深部まで行き渡り、空孔(細孔)内が前記溶媒で湿潤された多孔質構造の正極を得ることができる。前記正極に対して、電解液を含む部材(電解液転写用部材)を接触させることで、多孔質構造の正極内部の空孔(細孔)深部にまで前記電解液を含む正極を得ることができる。また、前記転写を、前記溶媒による正極内部の空孔(細孔)を湿潤させる工程後に行うことにより、正極表面全体を従来の注液法によれば注液斑が生じてしまう液量の電解液で正極表面全体を均一に満たすこともできる。
【0034】
なお、直径10nm以上100nm以下の空孔(細孔)における、細孔比表面積及び細孔容積は、例えば3Flex(Micromeritics Instrument Corp.製)を用いて窒素吸着法により得られた吸着等温線からBJH(Barrett-Joyner-Hallenda)法を用いて求めることができる。
【0035】
本発明の一実施態様である空気電池の構造を、
図1を参酌して説明する。本発明は特に空気電池に適用可能であり、空気電池としては例えば、リチウム空気電池、マグネシウム空気電池、ナトリウム空気電池、アルミニウム空気電池が挙げられる。但し、本発明は以下の実施態様に制限されない。また、本願において別段の定めがないものについては、本発明の目的が達成できる限り、特に制限されない。
【0036】
空気電池100は、酸素流路層101、並びに正極102及び負極104がセパレータ103を介して積層された積層構造体からなる。空気電池の正極(空気極)102に電解液が注入される。この注入に関しては、
図2も参酌して説明する。なお、空気電池100の説明にあたり、電解液として非水電解液を注液する注液方法を用いて説明しているが、当該注液方法は、非水電解液に限らず、水系電解液に適用してもよい。
【0037】
酸素流路層101
酸素流路層101は、例えば、銅(Cu)、タングステン(W)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)の群から選ばれる金属を有するメッシュを挙げることができる。
すなわち、この群から選ばれる金属単体、この群から選ばれる金属を含む合金、この群から選ばれる金属と炭素(C)や窒素(N)などとの化合物からなるメッシュを挙げることができる。
また、金属メッシュはすべて金属から構成されてもよいが、セルの軽量化を考慮するとポリマーメッシュを金属コーティングしてもよい。この方法では酸素流路層101の軽量化が実現でき、ひいてはセルの高エネルギー密度化に寄与できる。メッシュは、例えば、厚さ0.2mm、目開き1mmとすることができる。
【0038】
正極(空気極)102
上述のとおり、正極(空気極)102は導電性があり、多孔質構造であることが必要である。正極の材質としては、炭素、金属、炭化物、酸化物などが挙げられるが、炭素が好ましい。例えば、リチウム空気電池の場合、多孔質構造の空気極は放電反応で生成する過酸化リチウムが析出する反応場となる。
【0039】
正極(空気極)102、すなわち多孔質構造の空気極は、材料混合工程、シート成型工程、溶媒浸漬工程、乾燥工程、そして焼成工程を含む製造方法により得ることができる。
【0040】
正極(空気極)102の製造方法
材料混合工程は、例えば、多孔質炭素粒子を50重量%以上80重量%以下、炭素繊維を1重量%以上15重量%以下、結着用高分子材料を5重量%以上49重量%以下となるように秤量し、それらを均一に分散するため、N-メチルピロリドンからなる溶媒を用いて合剤スラリーを調製する工程である。
ここで、多孔質炭素粒子としては、上述のとおり、ケッチェンブラック(登録商標)を含むカーボンブラック、その他テンプレート法にて形成された炭素粒子などを用いることができる。
炭素繊維としては、例えば、繊維径が0.1μm以上20μm以下、長さが1mm以上20mm以下の炭素繊維を用いることができる。
結着用高分子材料としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリフッ化ビニリデンを用いることができる。
溶媒としては、例えば、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)等を用いることができる。
【0041】
シート成型工程は、前記合剤スラリーを成型する工程である。シート成型方法は特に制限されないが、例えば、公知のドクターブレードなどを用いた湿式製膜法を挙げることができる。その他にも、ロールコーター法、ダイコーター法、スピンコート法、スプレーコーティング法などを挙げることもできる。成型後の形は、目的に応じて様々な形とすることができる。例えば、均一な厚みのシート状とすることができる。
【0042】
溶媒浸漬工程は、非溶媒誘起相分離法にて、結着用高分子材料に対する溶解度が低い溶媒中に前記シート成型工程で成型した試料(シート)を浸漬し、多孔膜化する工程である。溶媒浸漬工程で用いられる溶媒としては、例えば、水、及びエチルアルコール、メチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール、並びに、これらの混合溶媒などを挙げることができる。
【0043】
乾燥工程は、試料から各種溶媒を揮発させる工程である。乾燥方法としては、乾燥空気環境下に置く方法、減圧乾燥法、真空乾燥法などを挙げることができる。この乾燥工程では、乾燥速度を速めるために、溶媒の沸点を超える程度の温度で加温してもよい。
【0044】
焼成工程は、前記乾燥工程後の試料(シート)を焼成処理する工程である。焼成処理は、例えば、オーブン炉、赤外線照射、赤外線照射炉、マッフル炉、リードハンマー炉等を用いて行うことができる。
ここで、焼成工程は、一度の熱処理とすることもできるが、不融化と焼成の2段階熱処理とすることもできる。焼成の熱処理温度は800℃以上1400℃以下が好ましく、そのときの雰囲気はアルゴン(Ar)ガス、窒素(N2)ガスなどによる不活性雰囲気が好ましい。
例えば、結着用高分子としてPANを用いた場合は、約200℃以上約350℃以下で空気中にて不融化させる熱処理を行い、その後、Arガス、N2ガスなどによる不活性雰囲気中にて800℃以上1400℃以下の熱処理を行うことが好ましい。
【0045】
以上の工程により、自立性を有するのに十分で実用的な機械的強度を有する正極102(空気極)が製造される。この正極102(空気極)は、自立性を有するとともに、高い空気透過性、高いイオン輸送効率及び広い反応場を兼ね備える。ここで、自立性を有するとは、支持体を用いなくとも自立した膜としての形状を保つことができることをいう。
【0046】
こうして得られた正極102(空気極)は、窒素吸着法による直径1nm以上1μm以下の細孔の占める細孔容積が2.3cm3/g(2300μL/g)から4cm3/g(4000μL/g)の範囲にあり、水銀圧入法による直径0.2μm以上10μm以下の細孔の占める細孔容積が0.8cm3/g(800μL/g)から2.7cm3/g(2700μL/g)の範囲にあるようにすることができる。なお、細孔容積は次記の方法で測定することができる。
1)直径1nm以上、1μm以下の細孔の占める細孔容積
3Flex(Micromeritics Instrument Corp.製)を用いて窒素吸着法により得られた吸着等温線からBJH法を用いて求めることができる。
2)直径0.2μm以上、10μm以下の細孔の占める細孔容積
AutoPoreIV(Micromeritics Instrument Corp.製)を用いた水銀圧入法により求めることができる。例えば、細孔径10nm(0.01μm)~200μmの範囲の細孔容積を測定し、そのうちの細孔直径0.2μmから10μmの細孔容積の値を用いればよい。
【0047】
負極104
負極104は、電池の負極として通常用いられるものであればよい。例えば、リチウム空気電池の場合、負極としては、リチウムイオンを吸放出する金属もしくは合金を含有することができ、代表的にはリチウム金属を挙げることができる。
【0048】
セパレータ103
正極(空気極)102と負極104の間にはセパレータ103が配置される。セパレータ103としては、金属イオンが通過可能であり、多孔質構造の絶縁性材料で、かつ、正極(空気極)102、負極104、及び電解液との反応性を有さない任意の無機材料又は有機材料が適用される。また、セパレータ103は電解液を保液する役割も果たす。この条件を満たせば、特に制限はなく、既存の金属電池に使用されるセパレータを使用することができる。例えば、セパレータ103は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオレフィンなどの合成樹脂からなる多孔質膜、ガラス繊維及び不織布からなる群から選択される。
【0049】
セパレータ103は、正極活物質と負極活物質との間の短絡を防ぐため、各活物質層よりも大きなサイズにすることが好ましい。
【0050】
電解液
電解液に関しては、上述のとおりである。
【0051】
注液方法
正極への電解液の注液は、上述のとおり、電解液を含む部材(電解液転写用部材)を接触させ、それにより当該電解液を当該正極へ転写することにより行う。
図2に基づいて、本発明の一実施態様における、電解液を空気極に転写により注液する構造を以下に説明する。但し、当該構造は以下に制限されない。
電解液を含む部材(電解液転写用部材)105は、あらかじめ所定量の非水系電解液を公知のマイクロピペットやディスペンサー等の手段によりPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製の部材に滴下することによって作製する。作製した、所定量の非水電解液を保持する電解液転写用部材105は、
図2に記載されているように、正極(空気極)102を両面から挟み込んで電解液転写用部材105に保持されている非水電解液を正極(空気極)102に転写する。この転写により、電解液転写用部材105に保持されている非水電解液を正極(空気極)102に注液する。電解液転写用部材105への非水電解液の滴下量は、所望の注液量に相当する液量とすればよく、この液量は、予め電解液転写用部材105の滴下量とその転写により正極(空気極)102へ注液された注液量の校正曲線を作成しておくことにより決定することができる。
図2では、電解液転写用部材105を上下面から挟み込む構造になっているが、均一に所定量の非水電解液が正極(空気極)102に転写されればよく、例えば、電解液転写用部材105を1枚だけ使用し、片面から非水電解液を正極(空気極)102に転写してもよい。
電解液転写用部材105の大きさは、正極(空気極)102の大きさ以上とする。
電解液転写用部材105から正極(空気極)102への非水電解液の転写は、本実施態様では室温、大気圧下で行った。しかし、所望の注液量を均一に注液できれば、室温、大気圧下以外の条件でもよい。例えば、転写時の環境温度を高めてもよい。特に粘度の高い電解液の場合は環境温度を高めることで、電解液の粘度が低減するため、より均一な注液が期待できる。また、
図2の電解液転写用部材105から正極(空気極)102への非水電解液の転写は大気圧下でもよいが、転写時の環境圧力を減圧下にしてもよい。但し、校正曲線を作成するときの転写注液条件と実際に転写注液するときの転写注液条件は揃えておく必要がある。
【0052】
正極の前処理(気相吸着)
前記注液方法の前に、正極の前処理を行ってもよい。正極の前処理方法を以下に具体的に説明する。但し、当該方法は以下に制限されない。
真空チャンバー内に、正極、電解液溶媒をセットし、真空ポンプにてチャンバー内を減圧する。次いでチャンバー内を加熱して一定時間保持した大気圧に戻して正極を取り出す。この時気相吸着前後の正極重量を測定し、正極への電解液溶媒の吸着量を算出する。
【0053】
この方法での上記減圧時のチャンバー内真空度の上限は10Pa以下であり、好ましくは5Pa以下、さらに好ましくは2Pa以下である。真空度が10Pa以下であることで正極細孔内の空気の残存が減少し、正極の細孔内に溶媒が拡散され易くなる。真空度の下限は、特に定めないが、好ましくは0.1Pa以上、さらに好ましくは1Pa以上である。真空度が0.1Pa以上であることで、溶媒の揮散が多くまた直ぐに排気されてしまうことを防ぐことができる。
【0054】
この方法での加熱温度の上限は100℃以下、好ましくは80℃以下、さらに好ましくは75℃以下である。加熱温度の上限を100℃以下とすることで、メソ孔において前記溶媒の毛管凝縮が生じることを防ぐことができる。加熱温度の下限は40℃以上、好ましくは50℃以上、さらに好ましくは60℃以上である。加熱温度の下限を40℃以上とすることで、前記溶媒の蒸気圧が高く、正極の細孔内を十分に湿潤することができる。その結果、次のステップである電解液の転写注液による均一な注液も効果的に行うことができる。
【0055】
加熱保持する時間の下限は10分以上、好ましくは20分以上、更に好ましくは25分以上である。加熱保持する時間が10分以上であることで、気化した溶媒の正極空孔内への拡散浸透、特に深部細孔への拡散浸透を十分に行うことができる。加熱保持する時間の上限は120分以下、好ましくは60分以下、更に好ましくは40分以下である。加熱保持する時間が120分以下であることで、正極のメソ孔において前記溶媒の毛管凝縮が生じて、細孔内壁を湿潤する以上の溶媒量となり細孔を閉塞させてしまうことを防ぐことができる。
【0056】
溶媒吸着量の上限は3μL/cm2以下、好ましくは2μL/cm2以下、さらに好ましくは1.5μL/cm2以下である。溶媒吸着量が3μL/cm2以下であることで、細孔を閉塞させることを防ぐことができる。溶媒吸着量の下限は0.5μL/cm2以上、好ましくは0.9μL/cm2以上、さらに好ましくは1.1μL/cm2以上である。溶媒吸着量が0.5μL/cm2以上であることで、正極の細孔内を十分に湿潤させることができる。その結果、次のステップである電解液の転写注液による均一な注液も効果的に行うことができる。
【0057】
空気電池の製造
空気電池100は、例えば、負極104の上にセパレータ103を積層し、その上に本発明の注液方法で注液された正極(空気極)102を積層し、さらに酸素流路層101を積層することにより製造される。
【0058】
別の方法として、前記負極104の上にセパレータ103を積層し、セパレータ上に所定量の電解液を任意の方法で滴下した後、注液されていない正極(空気極)102をセパレータ103上へ積層する。負極104、セパレータ103、正極(空気極)102と積層してから当該正極上に前記注液方法を適用してもよい。その後、注液済みの正極(空気極)102の上に酸素流路層101を積層することにより、空気電池100を製造してもよい。
【0059】
上記空気電池の製造方法について、リチウム空気電池を例に挙げて、以下により具体的に述べるが、その製造方法は以下に制限されない。
負極104として、例えば、20mm×20mmの矩形にリチウム金属を切り出して準備する。前記負極104の上に24mm×24mmのセパレータ103を積層する。セパレータ上に所定量の電解液を注液する。セパレータへの注液は任意の注液方法を用いることができる。
負極104、セパレータ103の順に積層してから、当該セパレータ103の上に、上述の転写による注液方法にしたがって予め非水電解液を注液した正極(空気極)102を積層し、さらに酸素流路層101を積層することでリチウム空気電池の積層体を得る。
別の方法として、前記負極104の上にセパレータ103を積層し、セパレータ103上に所定量の電解液を任意の方法で滴下した後、未だ注液されていない正極(空気極)102をセパレータ103上へ積層する。電解液転写用部材105に所定量の電解液を含有させ、負極104、セパレータ103、正極(空気極)102と順に積層されている積層体の正極(空気極)102の上に、電解液を含む電解液転写用部材105を接触させることにより、当該電解液を正極(空気極)102へ転写してもよい。その後、注液済みの正極(空気極)102の上に酸素流路層101を積層することにより、リチウム空気電池100を製造してもよい。
【実施例0060】
以下、本発明を具体的に説明する。なお、本発明はいかなる意味においても、以下の実施例によって限定されるものではない。
【0061】
評価実験1
正極への電解液注液による、注液の均一性を評価するため、以下の実験を行った。
【0062】
正極の作製
最初に、多孔質炭素粒子68重量%、炭素繊維9重量%、結着用高分子材料23重量%及びそれらを均一に分散するN-メチルピロリドンからなる溶媒を用いて合剤スラリーを調製した。
ここで、多孔質炭素粒子としてはケッチェンブラック(登録商標)を68重量%含むカーボンブラックを用いた。炭素繊維としては繊維平均径5μm、平均長さ3mmの炭素繊維を用いた。結着用高分子材料としてはポリアクリロニトリル(PAN)を用いた。
合剤はドクターブレードを用いた湿式製膜法にて均一な厚みに成型してシート化した。成形後、メタノール(貧溶媒)中に浸漬して、非溶媒誘起相分離法にて、多孔質炭素粒子及び炭素繊維間にポリアクリロニトリル(PAN)を析出させることで、成型試料を多孔質膜化した。
次に、シート状試料から揮発性の溶媒を取り除く50~80℃で10時間以上の乾燥工程を行い、引き続き大気中にて280℃で3時間の不融化熱処理を行った。その後、真空置換後の窒素ガス雰囲気下の焼成炉中にて1050℃で3時間の焼成を行い、長さ140mm、幅100mm、高さ200μmの多孔質構造の炭素試料を作製した。
この多孔質構造の炭素試料から20mm×20mmの形状に切り出すことで、正極を得た。
得られた正極の空孔率は90%であった。この正極の空孔率は、多孔炭素構造体試料の重量測定(メトラー・トレド社製分析天秤 XS205)により嵩密度を算出し、炭素の真密度(2.1g/cm3)と比較することで空孔率を算出した。
また、得られた正極のうち1つを、電解液1mlを入れた直径40mmのシャーレに浸漬し、15分間真空含浸後、表面に残る電解液をキムタオルでふきとった後の正極重量の増加量は16.1mg/cm2であった。使用した電解液の比重(1.12)から充填最大量(電解液充填量が100%となる容積)を算出した。算出された充填最大量は18.0μL/cm2であった。
【0063】
非水電解液の溶媒
非水電解液の溶媒として、テトラグライム(TEGDME)(比重1.01、沸点275℃)を用いた。
【0064】
非水電解液の調製
非水電解液は、0.5mol/LのLi(CF3SO2)2N(LiTFSI)、0.5mol/LのLiNO3及び0.2mol/LのLiBrの3種類の電解質を、テトラグライム(TEGDME)溶媒に溶解することで得た。この非水電解液の比重は、1.12であった。
【0065】
電解液を含む部材(電解液転写用部材)の作製
本実施例では、電解液を含む部材(電解液転写用部材)としてPTFEタイプメンブレンフィルター(Advantec東洋株式会社製、直径90mm、穴径1μm)を22mm角に打ち抜いて使用した。
【0066】
実施例1
本実施例では正極の空孔量に対し、60%の注液量とした。この注液量は正極1cm
2当たり10.8μLに相当し、上記20mm角の正極を用いたので正極全体での注液量は43.2μLとなる。
1つの正極に対し、電解液を含む部材(電解液転写用部材)を2つ準備し、各電解液転写用部材に対し、前記電解液を5.4μL/cm
2(電解液転写用部材1つあたり26.2μL)となるようそれぞれマイクロピペットで測り取り、電解液転写用部材にそれぞれ滴下した。
電解液の転写条件は校正曲線を作成した時と同様の条件(室温、大気圧下で3分間の転写)とし、
図2のようにして静置した。その後、電解液転写用部材を取り外し、注液された正極の重量を測定することで、目的とする値の電解液量が3%以内の誤差内で注液されていることを確認した。
【0067】
比較例1
本比較例では実施例1と同様の正極と電解液を使用し、エッペンドルフ社製マイクロピペット(品番; 4920000.059)を用いて10.8μL/cm2の電解液量(すなわち20mm角の正極に対して43.2μLの電解液量)を正極上へ滴下し、室温・大気圧下で3分間静置した。
【0068】
均一性の評価
上記の各方法で注液された電解液の正極における均一性評価は、μXRF(ブルカーAXS社製μXRF M4 TORNADO plus)を用いて行った。電解液中に電解質として加えられたLiBrの臭素Kα線を、次の条件で正極のマッピングを行った。管球にはRhを使用し、管電圧:50kV、管電流:200uA、1ピクセル当たりの測定速度を12msec/pixel、サンプルステージの速度を6.3mm/secとした。20mm×20mmの正極のうち、3mm間隔で6本のライン分析を行い、Br(Kα)の蛍光X線の測定を行った。測定した1440箇所の臭素Kα線のデータの平均値と標準偏差を算出し、当該標準偏差を当該平均値で割ることによって変動係数を算出した。
【0069】
図3に、実施例1と比較例1の注液後の臭素Kα線のマッピングデータを示す。
実施例1と比較例1を比較すると、マイクロピペットで電解液を滴下した比較例1では、臭素の濃度斑がはっきりと見られ、注液斑が存在することが確認されるのに対し、本発明の電解液の転写による実施例1では、臭素の濃度斑は見られず、注液斑が存在することなく均一に注液されていることが確認された。
【0070】
表1には、実施例1と比較例1のそれぞれについて、1440箇所の臭素Kα線の測定値の平均値と標準偏差、並びにそれらより算出された変動係数を示した。比較例1と実施例1を比較すると、実施例1の変動係数は、比較例1の変動係数よりも減少しており、注液斑が確認される比較例1の変動係数は0.2よりも大きく、注液斑の無い均一な注液が確認される実施例1の変動係数は0.2よりも小さいことが分かった。
よって、本注液方法を適用することにより、多孔質構造の正極における電解液の均一性が改善でき、多孔質構造の正極に対して電解液を、従来の注液法によれば注液斑が生じてしまう液量でも均一に注液できることが確認された。
【0071】
【0072】
評価実験2
正極の内部細孔への電解液による注液及び空気電池のサイクル性能を評価するため、以下の実験を行った。注液前の正極の作製方法、非水電解液の溶媒及び非水電解液の調製方法、並びに電解液を含む部材(電解液転写用部材)の作製方法は、評価実験1と同様に行った。
【0073】
実施例2
本実施例では充填最大量(電解液充填量が100%となる容積)に対し、60%の注液量とした。この注液量は正極1cm
2当たり10.8μLに相当し、上記20mm角の正極を用いたので正極全体での注液量は43.2μLとなる。
工程1:真空チャンバー内に、前記方法で作製した正極1枚及び、前記テトラグライム(TEGDME)溶媒0.2mLを入れたシャーレ(φ30mm深さ10mm)を置き、直結型油回転真空ポンプにてチャンバー内を1.3Paまで減圧した。次に、チャンバー内を70℃まで加熱し、30分間保持した後チャンバー内を大気に戻して正極を取り出した。気相吸着前後の正極重量を測定した結果、この時の正極への電解液溶媒の吸着量は1.3mg/cm
2であり、電解液溶媒の比重から計算した吸着容量は1.3μL/cm
2であった。
工程2:1つの前記正極に対し、電解液を含む部材(電解液転写用部材)を2つ準備し、各電解液転写用部材に対し、前記電解液を5.4μL/cm
2(電解液転写用部材1つあたり26.2μL)となるようそれぞれマイクロピペットで測り取り、電解液転写用部材にそれぞれ滴下した。
電解液の転写条件は校正曲線を作成した時と同様の条件(室温、大気圧下で3分間の転写)とし、
図2のようにして静置した。その後、電解液転写用部材を取り外し、注液された正極の重量を測定することで、目的とする値の電解液量が3%以内の誤差内で注液されていることを確認した。
【0074】
実施例1’
本比較例では、工程1を行わず、それ以外は実施例2と同様にして、正極を得た。
【0075】
細孔注液評価
実施例2及び実施例1’で得られた正極に対して、以下の方法により細孔への注液評価を行った。
(1)注液後空気極の直径10nm以上100nm以下の細孔における細孔比表面積測定
3Flex(Micromeritics Instrument Corp.製)を用いて窒素吸着法により得られた吸着等温線からBJH(Barrett-Joyner-Hallenda)法を用いて求めた。
(2)注液後空気極の直径10nm以上100nm以下の細孔における細孔容積測定
3Flex(Micromeritics Instrument Corp.製)を用いて窒素吸着法により得られた吸着等温線からBJH(Barrett-Joyner-Hallenda)法を用いて求めた。
表2及び
図4に細孔注液評価の結果を示した。
【0076】
表2及び
図4から、実施例2も実施例1’も正極内部が電解液によって湿潤されているものの、電解液の転写による注液前に、電解液溶媒蒸気により気相吸着を行った実施例2では、正極内部の直径10nm以上100nm以下の細孔において、比表面積及び容積の値が小さくなる、すなわち、正極の内部細孔がより効果的に電解液により湿潤されていることが確認された。言うまでもなく、比較例1に示す従来の注液法では、本比較例で使用した少量の注液量において、このような正極内部の湿潤には及ばなかった。
【0077】
電池評価
実施例2、実施例1’、及び比較例1の20mm角の正極、20mm角厚み100μmのLi金属箔、セパレータとして東レ社TR-7を22mm角に切り出したもの、酸素流路として東レ社GDLを用いて、
図1に示す様に積層し各実施例又は比較例ごとに空気電池を作成した。この電池を用いて、まずコンディショニングとして電流密度0.2mA/cm
2で2時間放電、2時間充電を3回繰り返した。その後、サイクル特性を評価として、電流密度0.4mA/cm
2で10時間放電(放電容量4mAh/cm
2)、10時間充電(充電容量4mAh/cm
2)を繰り返した。この時の放電制限電位は2.0V、充電制限電位は4.8Vとした。サイクル終了は、放電容量又は充電容量が3.2mAh/cm
2(80%)以下となった時点とし、この前までの充放電回数をサイクル数とした。サイクル数による電池評価の結果を表2に示しているが、実施例2で14回、実施例1’で3回のサイクル数に対し、比較例1を用いた空気電池では、本比較例1で使用した少量の注液量では、初回から放電反応が進行しない結果(サイクル数0回)であった。
【0078】
表2から実施例2及び実施例1’によれば、比較例1に示す従来の注液法では充放電が進まないような電解液量でも、空気電池として利用可能であり、特に電解液の転写による注液前に、電解液溶媒蒸気により気相吸着を行った実施例2によれば、極めて高いサイクル数を有する空気電池が作製できることが確認された。
【0079】
本発明によれば、従来の注入法では実現できなかった少ない液量(具体的には、正極の全空孔体積よりも少ない体積の液量で、従来の注液法によれば注液斑が生じてしまう液量)の電解液でも正極を均一に注液することが可能になるため、正極全体の一層の有効活用を促進させることができ、空気電池のエネルギー密度の向上や正極活物質である酸素の空気電池内での容易な拡散を図ることが可能になる。そのため、本発明は、小型・軽量で大容量化に適した空気電池への利用可能性があり、今後需要が大幅に拡大すると見込まれる空気電池に好んで用いられることが期待される。