(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022101516
(43)【公開日】2022-07-06
(54)【発明の名称】駆動装置
(51)【国際特許分類】
F16H 3/10 20060101AFI20220629BHJP
F16D 41/12 20060101ALI20220629BHJP
F16D 13/52 20060101ALI20220629BHJP
F16H 1/06 20060101ALI20220629BHJP
F16H 3/091 20060101ALI20220629BHJP
【FI】
F16H3/10
F16D41/12 A
F16D13/52
F16H1/06
F16H3/091
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021208516
(22)【出願日】2021-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2020215269
(32)【優先日】2020-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000102784
【氏名又は名称】NSKワーナー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002435
【氏名又は名称】特許業務法人井上国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077919
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 義雄
(74)【代理人】
【識別番号】100172638
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 隆治
(74)【代理人】
【識別番号】100153899
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100159363
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 淳子
(72)【発明者】
【氏名】山田 隆哉
(72)【発明者】
【氏名】白瀧 浩文
(72)【発明者】
【氏名】岡田 伸治
(72)【発明者】
【氏名】片山 修
【テーマコード(参考)】
3J009
3J056
3J528
【Fターム(参考)】
3J009EA12
3J009EA21
3J056AA60
3J056AA62
3J056GA05
3J056GA12
3J528EA09
3J528EB63
3J528EB74
3J528EB93
3J528FC64
3J528GA02
3J528HA13
3J528JE01
3J528JL03
(57)【要約】
【課題】 配置スペースの増加を抑制し、軽量化を図ることができる車両用の駆動装置を提供すること。
【解決手段】 変速装置は、入力軸4の回転を減速して出力軸6へ伝達する第1変速機構部17と、入力軸4の回転を、第1変速機構部17よりも速い速度で出力軸6へ伝達可能な第2変速機構部18とからなり、第1変速機構部17は、入力軸4の、車両が前進する方向の回転と車両が後進する方向の回転とを選択的に出力軸6へ伝達可能な二方向クラッチ8を備え、第2変速機構部18は、摩擦係合することにより、入力軸4の、車両が前進する方向の回転を出力軸6へ伝達可能な湿式クラッチ3を備えていることを特徴とする駆動装置1。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源側の入力軸と、
前記駆動源の駆動力を駆動輪側へ伝達する出力軸と、
前記駆動力を前記入力軸から前記出力軸へ伝達する変速機構と、を有する車両用の駆動装置であって、
前記変速機構は、
前記入力軸の回転を減速して前記出力軸へ伝達する第1変速機構部と、
前記入力軸の回転を、前記第1変速機構部よりも速い速度で前記出力軸へ伝達可能な第2変速機構部とからなり、
前記第1変速機構部は、前記入力軸の、前記車両が前進する方向の回転と前記車両が後進する方向の回転とを選択的に前記出力軸へ伝達可能な二方向クラッチを備え、
前記第2変速機構部は、摩擦係合することにより、前記入力軸の前記前進する方向の回転を前記出力軸へ伝達可能なクラッチ機構を備えていることを特徴とする駆動装置。
【請求項2】
前記入力軸と前記出力軸とは平行に配置され、
前記第1変速機構部は、前記入力軸に設けられ前記入力軸と一体回転する第1ギヤと、前記出力軸に設けられ前記第1ギヤと噛み合う第2ギヤとを備え、
前記二方向クラッチは前記第2ギヤと前記出力軸との間に設けられ、
前記第2変速機構部は、前記入力軸に設けられ前記入力軸と一体回転し、前記第1ギヤよりも大径の第3ギヤと、前記出力軸に設けられ前記第3ギヤと噛み合い、前記第2ギヤよりも小径の第4ギヤとを備え、
前記クラッチ機構は、前記第4ギヤと前記出力軸との間に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の駆動装置。
【請求項3】
前記入力軸と前記出力軸とは平行に配置され、
前記第1変速機構部は、前記入力軸に設けられ前記入力軸と一体回転する第1ギヤと、前記出力軸に設けられ前記第1ギヤと噛み合う第2ギヤを備え、
前記二方向クラッチは前記第2ギヤと前記出力軸との間に設けられ、
前記第2変速機構部は、前記出力軸に設けられ前記出力軸と一体回転し、前記第2ギヤよりも小径の第3ギヤと、前記入力軸に設けられ前記第3ギヤと噛み合い、前記第1ギヤよりも大径の第4ギヤとを備え、
前記クラッチ機構は、前記第4ギヤと前記入力軸との間に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の駆動装置。
【請求項4】
前記出力軸の外周部には、複数の歯部が周方向所定間隔に形成され、
前記二方向クラッチは、
前記第2ギヤと一体回転する外輪と、前記外輪に径方向に揺動可能に保持され、径方向内方に揺動して前記歯部と噛み合うと、前記外輪に対する前記出力軸の、前記車両が後進する方向への相対回転をロックする第1の爪部材と、前記外輪に径方向に揺動可能に保持され、径方向内方に揺動して前記歯部と噛み合うと、前記外輪に対する前記出力軸の、前記車両が前進する方向への相対回転をロックする第2の爪部材とを有し、
前記第2の爪部材は、前記外輪の回転によって作用する遠心力によって径方向外方に揺動し、前記遠心力が所定の大きさを上回ると、前記歯部と非噛み合い状態となることを特徴とする請求項2または3に記載の駆動装置。
【請求項5】
前記第2の爪部材が遠心力によって非噛み合い状態となっている際、前記第2の変速機構部が締結すると、前記第1の爪部材が非噛み合い状態となることにより、前記第1変速機構が非締結となり、前記第2変速機構部が前記駆動力の主伝達機構となることを特徴とする請求項4に記載の駆動装置。
【請求項6】
前記入力軸と前記出力軸とは同一軸線上に配置され、
前記第1変速機構部は、サンギヤと、前記サンギヤと噛み合う複数のプラネタリギヤと、前記複数のプラネタリギヤをそれぞれ自転可能に支持するプラネタリキャリアと、前記複数のプラネタリギヤと噛み合うリングギヤとを備えた遊星歯車機構を備え、
前記出力軸は前記プラネタリキャリアに連結され、
前記二方向クラッチは、前記入力軸と前記遊星歯車機構との間に設けられ、
前記クラッチ機構は、前記入力軸と前記プラネタリキャリアとの間に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の駆動装置。
【請求項7】
前記入力軸は、前記二方向クラッチの内輪を構成し、
前記入力軸の外周部には、複数の歯部が周方向所定間隔に形成され、
前記サンギヤは前記二方向クラッチの外輪を構成し、
前記二方向クラッチは、前記外輪に径方向に揺動可能に保持され、径方向内方に揺動して前記歯部と噛み合うと、前記外輪に対する前記出力軸の、前記車両が前進する方向への相対回転をロックする第1の爪部材と、前記外輪に径方向に揺動可能に保持され、径方向内方に揺動して前記歯部と噛み合うと、前記外輪に対する前記出力軸の、前記車両が後進する方向への相対回転をロックする第2の爪部材とを有していることを特徴とする請求項6に記載の駆動装置。
【請求項8】
前記入力軸は、円筒状に形成され、前記二方向クラッチの外輪を構成し、
前記リングギヤは前記二方向クラッチの内輪を構成し、
前記リングギヤの外周部には、複数の歯部が周方向所定間隔に形成され、
前記二方向クラッチは、前記外輪に径方向に揺動可能に保持され、径方向内方に揺動して前記歯部と噛み合うと、前記外輪に対する前記出力軸の、前記車両が後進する方向への相対回転をロックする第1の爪部材と、前記外輪に径方向に揺動可能に保持され、径方向内方に揺動して前記歯部と噛み合うと、前記外輪に対する前記出力軸の、前記車両が前進する方向への相対回転をロックする第2の爪部材とを有していることを特徴とする請求項6に記載の駆動装置。
【請求項9】
前記第2の爪部材は、前記外輪の回転によって作用する遠心力によって径方向外方に揺動し、前記遠心力が所定の大きさを上回ると、前記歯部と非噛み合い状態となることを特徴とする請求項7または8に記載の駆動装置。
【請求項10】
前記第2の爪部材が遠心力によって非噛み合い状態となっている際、前記第2の変速機構部が締結すると、前記第1の爪部材が非噛み合い状態となることにより、前記第1変速機構が非締結となり前記第2変速機構部が前記駆動力の主伝達機構となることを特徴とする請求項9に記載の駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源の駆動力を伝達するための車両用の駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の車両の駆動装置において、電動モータの駆動力を伝達する駆動装置が多岐に亘って開発されている。特許文献1には、平行2軸の機構を用い、エンジンと電動モータで走行可能なハイブリッド車両に用いられる駆動装置が記載されている。また、特許文献2には、エンジンまたはモータの駆動力を減速させる機構を備えた駆動装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-296869号公報
【特許文献2】特開2019-1206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
駆動源として電動モータを含む車両のこのような駆動装置は、車両や電動モータの高性能化或いは変速機を含めた制御の複雑化に伴い、配置スペースの増大および重量の増大が懸念されている。
【0005】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、駆動源からの駆動力を伝達するための車両用の駆動装置において、配置スペースの増加を抑制し、軽量化を図ることができる駆動装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の駆動装置は、
駆動源側の入力軸と、
前記駆動源の駆動力を駆動輪側へ伝達する出力軸と、
前記駆動力を前記入力軸から前記出力軸へ伝達する変速機構と、を有する車両用の駆動装置であって、
前記変速機構は、
前記入力軸の回転を減速して前記出力軸へ伝達する第1変速機構部と、
前記入力軸の回転を、前記第1変速機構部よりも速い速度で前記出力軸へ伝達可能な第2変速機構部とからなり、
前記第1変速機構部は、前記入力軸の、前記車両が前進する方向の回転と前記車両が後進する方向の回転とを選択的に前記出力軸へ伝達可能な二方向クラッチを備え、
前記第2変速機構部は、摩擦係合することにより、前記入力軸の前記前進する方向の回転を前記出力軸へ伝達可能なクラッチ機構を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、駆動源からの駆動力を伝達するための車両用の駆動装置において、配置スペースの増加を抑制し、軽量化を図ることができる駆動装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1実施形態の第1実施例に係る駆動装置の構成を示すスケルトン図である。
【
図2】
図2は、駆動装置の要部の軸方向に沿った部分断面図である。
【
図3】
図3は、二方向クラッチの要部を示す拡大断面図であり、軸方向一方側から見た状態を示している。
【
図4】
図4は、二方向クラッチの要部断面図であり、軸方向一方側から見た状態を示し、
図4(a)は第1の爪部材および第2の爪部材の何れも歯部と噛み合っている状態を示し、
図4(b)は第1の爪部材は歯部と噛み合い、第2の爪部材は歯部と噛み合っていない状態を示し、
図4(c)は第1の爪部材および第2の爪部材の何れも歯部と噛み合っていない状態を示している。
【
図5】
図5は、第1実施形態の第2実施例に係る駆動装置の構成を示すスケルトン図である。
【
図6】
図6は、第2実施形態の第1実施例に係る駆動装置の構成を示すスケルトン図である。
【
図7】
図7は第2実施形態の第1実施例に係る駆動装置の二方向クラッチおよび遊星歯車機構の要部を示す拡大断面図であり、軸方向一方側から見た状態を示している。
【
図8】
図8は、第2実施形態の第2実施例に係る駆動装置の構成を示すスケルトン図である。
【
図9】
図9は第2実施形態の第2実施例に係る駆動装置の二方向クラッチおよび遊星歯車機構の要部を示す拡大断面図であり、軸方向一方側から見た状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の各実施形態に係る駆動装置を、図面を参照しつつ説明する。
本発明の各実施形態に係る駆動装置は、駆動源を電動モータとする車両に用いられ、電動モータの駆動力を2速変速の変速装置を介して低速回転または高速回転として出力軸へ伝達するタイプのものである。
【0010】
まず、各実施形態に係る駆動装置に係る方向について定義する。各実施形態において、軸方向とは電動モータの駆動軸に連結された入力軸、および電動モータの駆動力が出力される出力軸の軸方向のことをいい、軸方向、径方向、周方向とは、入力軸および出力軸に関する軸方向、径方向、周方向のことをいう。また、軸方向について、
図1、2、5、6および8において、紙面左方側を軸方向一方側とし、紙面右方側を軸方向他方側とする。周方向について、
図3、4、7および9において、紙面に向かって時計方向に回転する方向を周方向一方とし、紙面に向かって反時計方向に回転する方向を周方向他方とする。
【0011】
以下、本発明の第1実施形態の第1実施例に係る駆動装置を、図面を参照しつつ説明する。
図1は、第1実施形態の第1実施例に係る駆動装置1の構成を示すスケルトン図である。
図2は、駆動装置1の要部の軸方向に沿った部分断面図である。
図3は、二方向クラッチ8の要部を示す断面図であり、軸方向一方側から見た状態を示している。
【0012】
図1に示すように、本実施例に係る駆動装置1は、電動モータ2の駆動軸に連結された入力軸4と、入力軸4と平行に配置された出力軸6とを有している。出力軸6には、入力軸4から、後述する二方向クラッチ8または摩擦係合装置12を介して、電動モータ2の駆動力が伝達される。
【0013】
本実施例においては、入力軸4と出力軸6とは、それぞれ円柱状に形成されている。入力軸4には、電動モータ2の駆動力を低速回転で出力軸6に伝達するための第1連結ギヤ14と、電動モータ2からの駆動力を高速回転で出力軸6に伝達するための第2連結ギヤ16とが、入力軸4と同軸に設けられている。第1連結ギヤ14と第2連結ギヤ16とは、軸方向一方側から軸方向他方側へ向けてこの順に、軸方向に並んで設けられている。第2連結ギヤ16は第1連結ギヤ14よりも大きな径を有している。第1連結ギヤ14と第2連結ギヤ16とは、それぞれ入力軸4と相対回転不能に、入力軸4に設けられている。
【0014】
出力軸6には、二方向クラッチ8と摩擦係合装置12とが、出力軸6と同軸に設けられている。二方向クラッチ8と摩擦係合装置12とは、軸方向一方側から軸方向他方側へ向けてこの順に、軸方向に並んで設けられている。二方向クラッチ8は入力軸4の第1連結ギヤ14と連結し、摩擦係合装置12は入力軸4の第2連結ギヤ16と連結している。第1連結ギヤ14と二方向クラッチ8とで低速変速機構部17を構成し、第2連結ギヤ16と摩擦係合装置12とで高速変速機構部18を構成している。低速変速機構部17と高速変速機構部18とで2速変速の変速装置を構成している。駆動装置1は、電動モータ2の駆動力を、車両(図示省略)の速度が低速域においては低速変速機構部17を介して出力軸6に伝達し、車両の速度が高速域においては高速変速機構部18を介して出力軸6に伝達している。出力軸6に伝達された電動モータ2の駆動力は、出力軸6に固定された出力ギヤ20を介して駆動輪22の駆動機構であるディファレンシャルギヤ機構23に伝達される。
【0015】
図2および
図3に示すように、二方向クラッチ8は、環状の外輪24と、外輪24から内輪へトルク伝達を可能とするトルク伝達機構と、を有している。本実施例においては、二方向クラッチ8の内輪は出力軸6である。詳細には、外輪24の内周面と径方向に対向する出力軸6の部分に形成された拡径部6aが、二方向クラッチ8のトルク伝達機構と係合する構成となっている。本実施例におけるトルク伝達機構はラチェット機構であり、外輪24の内周部に周方向に亘って所定間隔で設けられた複数の第1の爪部材26および複数の第2の爪部材28を備えている(
図3および4を参照)。なお、
図3においては、1つの第1の爪部材26と、第1の爪部材26と周方向に隣り合う1つの第2の爪部材28とを示している。
【0016】
出力軸6の拡径部6aの外周部には、複数の歯部30が周方向の全周に亘って等間隔に形成されている。歯部30は、径方向外方に突出し軸方向に延在している。歯部30は、第1の爪部材26および第2の爪部材28が噛み合うラチェット歯を構成している。具体的には、歯部30の周方向一方側は、第1の爪部材26と噛み合う第1の噛み合い部30aを構成し、歯部30の周方向他方側は、第2の爪部材28と噛み合う第2の噛み合い部30bを構成している。
【0017】
外輪24の外周側には、環状の低速ギヤ32が配置されている。低速ギヤ32は、円筒部34と、円筒部34の軸方向他方側に形成された内向きフランジ部36とを有している。低速ギヤ32は、内向きフランジ部36の内周部に嵌合された転がり軸受38を介して、出力軸6と相対回転可能に出力軸6に嵌合されている。二方向クラッチ8の外輪24は、低速ギヤ32の円筒部34の内周部に嵌合されている。すなわち低速ギヤ32と二方向クラッチ8の外輪24とは一体に回転する。低速ギヤ32の円筒部34の外周部にはギヤ32aが形成され、ギヤ32aは入力軸4の第1連結ギヤ14と常に噛み合っている。したがって二方向クラッチ8の外輪24と第1連結ギヤ14とは低速ギヤ32を介して常に接続された状態であり、入力軸4と二方向クラッチ8の外輪24とは相互に反対方向に回転する。
【0018】
第1の爪部材26は、外輪24の内周部に設けられた逃げ部42に保持されている。逃げ部42は、外輪24の内周面に内向きに開口する凹部である。第1の爪部材26は所定の周方向長さを有し、部分円筒状の外周面を有する中央部44と、中央部44から周方向一方側へ突出する突出部46と、中央部44から周方向他方側へ突出する爪部48とから構成されている。第1の爪部材26は、中央部44が逃げ部42に回動可能に保持されている。すなわち第1の爪部材26は、中央部44を中心として爪部48が径方向に揺動可能に、逃げ部42に保持されている。第1の爪部材26は、回動中心は中央部44であるが、重心は爪部48にある。第1の爪部材26の爪部48は、コイル状の、あるいはそれ以外のタイプでも良いスプリング50によって径方向内方へ付勢されている。
【0019】
第1の爪部材26は、爪部48が径方向内方へ揺動すると、爪部48が出力軸6の拡径部6aの歯部30の第1の噛み合い部30aと噛み合い、これにより第1の爪部材26は歯部30と噛み合い状態になる。第1の爪部材26は歯部30と噛み合うことにより、外輪24に対する出力軸6の時計方向すなわち周方向一方への相対回転をロックする。一方、外輪24に対して出力軸6が反時計方向すなわち周方向他方へ相対回転する際は、第1の爪部材26は歯部30と噛み合わず、出力軸6の当該回転を許容する。
【0020】
第2の爪部材28は、第1の爪部材26と同様に、外輪24の内周部に設けられた逃げ部52に保持され、中央部54と突出部56と爪部58とから構成され、爪部58がスプリング60によって径方向内方へ付勢されているが、周方向の向きが第1の爪部材26とは反対になっている。これにより、第2の爪部材28は、爪部58が出力軸6の拡径部6aの歯部30の第2の噛み合い部30bと噛み合うことにより歯部30と噛み合い状態となり、第1の爪部材26とは逆に、外輪24に対する出力軸6の反時計方向への相対回転をロックし、一方、外輪24に対する出力軸6の時計方向への相対回転を許容する。
【0021】
このように、外輪24の内周側に保持された第1の爪部材26および第2の爪部材28と、スプリング50、60と、出力軸6の拡径部6aに形成された複数の歯部30とで、ラチェット機構が構成されている。
【0022】
本実施例においては、二方向クラッチ8は、第1の爪部材26を付勢しているスプリング50の弾性力と、第2の爪部材28を付勢しているスプリング60の弾性力との大きさが異なっている。具体的には、第1の爪部材26を付勢しているスプリング50の弾性力よりも、第2の爪部材28を付勢しているスプリング60の弾性力の方が小さく設定されている。そして第2の爪部材28を付勢しているスプリング60の弾性力は、以下に説明するように所定の力が加わると所定量圧縮する大きさに設定されている。
【0023】
後述するように二方向クラッチ8の外輪24に電動モータ2の駆動力が伝達され、外輪24が回転を始めると、外輪24の回転による遠心力が第1の爪部材26および第2の爪部材28に作用する。遠心力が作用すると、第1の爪部材26および第2の爪部材28の重心はそれぞれ爪部48、58にあるため、第1の爪部材26および第2の爪部材28は、それぞれ中央部44、54を中心として爪部48、58が径方向外方に向かう方向に揺動しようとする。すると、第1の爪部材26および第2の爪部材28を付勢しているスプリング50、60は、爪部48、58によってそれぞれ径方向外方すなわち圧縮する方向に押圧される。外輪24の回転が速くなり、作用する遠心力が大きくなると、第2の爪部材28を付勢しているスプリング60は爪部58によって圧縮されてゆく。そして外輪24の回転速度が所定の回転速度よりも速くなり、第2の爪部材28に作用する遠心力が所定の大きさF1よりも大きくなると、スプリング60は爪部58によって大きく圧縮され、爪部58は全体が歯部30よりも径方向外方に位置することとなる。この状態において、第2の爪部材28と歯部30とは非噛み合い状態となる。ここで所定の大きさF1の遠心力が発生する外輪24の所定の回転速度をR1とする。なお、第1の爪部材26を付勢しているスプリング50は、第1の爪部材26に所定の大きさF1の遠心力が作用しても大きく圧縮することはなく、歯部30との噛み合いを維持する弾性力を有している。
【0024】
なお、スプリング50、60の弾性力、スプリング60が大きく圧縮する所定の大きさF1の遠心力、さらに、所定の大きさF1の遠心力が発生する際の外輪24の所定の回転速度R1は、伝達するトルクの大きさ、車速等を考慮し、適宜設計される。
【0025】
次に摩擦係合装置12の構成を説明する。
図2に示すように、本実施例の摩擦係合装置12は、湿式クラッチ3である。
【0026】
湿式クラッチ3は円筒状のクラッチケース7を有している。クラッチケース7は、出力軸6と同軸に配置されている。クラッチケース7の軸方向一方側端部には内向きフランジ9が設けられ、内向きフランジ9の中心の孔部10には、円筒部材68が嵌合されている。詳細には、クラッチケース7は、円筒部材68の外周面の軸方向他方側端部に嵌合されている。円筒部材68は、転がり軸受70を介して出力軸6と相対回転可能に出力軸6に嵌合されている。したがってクラッチケース7は、円筒部材68および転がり軸受70を介して、出力軸6と相対回転可能に出力軸6に嵌合されている。
【0027】
図2に示すように、クラッチケース7の内周部には、軸方向に移動可能に且つクラッチケース7と相対回転不能に、複数の環状のクラッチプレート13が嵌合している。クラッチケース7の内周部にはさらに、複数の環状のクラッチディスク15が配置されている。複数の環状のクラッチディスク15は、クラッチケース7と同心に配置された円筒状のクラッチハブ62の外周面に、軸方向移動可能に且つクラッチハブ62と相対回転不能に嵌合している。クラッチハブ62は出力軸6に固定され、出力軸6と一体回転する。複数のクラッチプレート13と複数のクラッチディスク15とは、軸方向に交互に配置されている。
【0028】
クラッチケース7の内周部の軸方向他方側端部には、クラッチプレート13およびクラッチディスク15を軸方向他方側端部で固定状態に保持するためのエンドプレート19と、エンドプレート19をクラッチケース7の内部に保持するための止輪21とが設けられている。クラッチプレート13とクラッチディスク15とは、駆動装置1に隣接して配置されたピストン駆動機構64によって軸方向に駆動されるピストン66によって軸方向に押圧されることにより互いに摩擦係合する。これにより湿式クラッチ部3が締結状態となる。湿式クラッチ部3が締結状態において、クラッチケース7からクラッチハブ62を介して出力軸6にトルクが伝達される。なお、ピストン駆動機構64は本発明に直接関係ないので、詳細な説明を省略する。
【0029】
円筒部材68の外周面の軸方向一方側部分には、ギヤ83が形成されている。円筒部材68のギヤ83の外周側には、環状の高速ギヤ72が配置されている。高速ギヤ72は、低速変速機構部17の低速ギヤ32よりも小径であり、内周部の軸方向一方側部分に嵌合された転がり軸受74を介して、出力軸6と相対回転可能に出力軸6に嵌合されている。円筒部材68のギヤ部83は、高速ギヤ72の内周部の軸方向他方側部分に、高速ギヤ72と一体に嵌合されている。これにより高速ギヤ72とクラッチケース7とは一体に回転する。高速ギヤ72の外周部にはギヤ72aが形成され、ギヤ72aは入力軸4の第2連結ギヤ16と常に噛み合っている。したがってクラッチケース7と第2連結ギヤ16とは、高速ギヤ72を介して常に接続された状態であり、入力軸4とクラッチケース7とは相互に反対方向に回転する。
【0030】
次に、本実施例に係る駆動装置1の作動について説明する。なお、以下の作動の説明は、駆動装置1が車両(図示省略)に搭載された場合の例である。また、以下の作動の説明は、
図1、2において、軸方向一方側を正面とし、駆動装置1を正面から見た状態での作動を説明する。
図4は、二方向クラッチ8の断面図であり、軸方向一方側から見た状態を示し、
図4(a)は第1の爪部材26および第2の爪部材28の何れも歯部30と噛み合っている状態を示し、
図4(b)は第1の爪部材26は歯部30と噛み合い、第2の爪部材28は歯部30と噛み合っていない状態を示し、
図4(c)は第1の爪部材26および第2の爪部材28の何れも歯部30と噛み合っていない状態を示している。
【0031】
車両(図示省略)が停止している状態から発進して前進する際、電動モータ2と連結された入力軸4が周方向一方へ回転すると、入力軸4の回転は第1連結ギヤ14および低速ギヤ32を介して、低速回転として二方向クラッチ8の外輪24に伝達され、二方向クラッチ8の外輪24は周方向他方へ回転する。
【0032】
この時摩擦係合装置12の湿式クラッチ3の複数のクラッチプレート13および複数のクラッチディスク15は非係合状態である。すなわち湿式クラッチ3は非締結状態に制御されている。この状態においては、入力軸4の周方向一方の回転は第2連結ギヤ16および高速ギヤ72を介してクラッチケース7に伝達され、クラッチケース7は周方向他方へ回転するが、クラッチハブ62を介して出力軸6へトルクの伝達はなされない。なお、この時クラッチケース7は、出力軸6よりも高速で周方向他方へ回転している。
【0033】
車両の停止状態においては、二方向クラッチ8の外輪24は回転しないので、第2の爪部材28に遠心力は作用しない。また入力軸4から低速回転が入力された際の外輪24の回転速度は、上述した所定の回転速度R1よりも遅い。言い換えると、外輪24の所定の回転速度R1は、低速回転入力時における外輪24の回転速度よりも速くなるように設定されている。したがって低速回転入力時の外輪24の回転によって第2の爪部材28に作用する遠心力の大きさは、上述した所定の大きさF1よりも小さい。このため、第2の爪部材28を付勢しているスプリング60は圧縮せず、第1の爪部材26および第2の爪部材28は、
図4(a)に示すように、何れも歯部30と噛み合っている。したがって
図4(a)において外輪24が周方向他方へ回転すると、第1の爪部材26と出力軸6の拡径部6aの歯部30との噛み合いによって、出力軸6は外輪24と一体に周方向他方へ回転し、電動モータ2からの駆動力は出力6軸へ伝達される。この時、入力軸4の回転速度は減速されて出力軸6へ伝達される。出力軸6へ伝達された電動モータ2からの駆動力は、出力軸6に嵌合された出力ギヤ20(
図2参照)を介して、駆動輪22の駆動機構であるディファレンシャルギヤ機構23へと伝達される。
【0034】
このように、車両の発進時および低速域での走行時は、電動モータ2からの駆動力は、入力軸4から低速変速機構部17すなわち二方向クラッチ8を介して出力軸6へ伝達される。
【0035】
次に駆動装置1の変速装置が低速変速機構部17から高速変速機構部18へ変速する際の駆動装置1の作動を説明する。
発進した車両が加速すると、駆動装置1の変速装置は、低速変速機構部17から高速変速機構部18へと変速する。
車両の加速時は、電動モータ2と連結された入力軸4の回転速度が上昇し、二方向クラッチ8の外輪24の回転速度が上昇する。これに伴い、第2の爪部材28に作用する遠心力は大きくなってゆく。そして外輪24の回転速度が所定の回転速度R1を上回り、第2の爪部材28に作用する遠心力の大きさが所定の大きさF1を上回ると、第2の爪部材28を付勢しているスプリング60は爪部58によって大きく圧縮され、爪部58は全体が歯部30よりも径方向外方に位置することとなる。この状態において二方向クラッチ8は、
図4(b)に示すように、第1の爪部材26は歯部30との噛み合い状態を維持しているが、第2の爪部材28は歯部30と非噛み合い状態となる。
【0036】
この状態において、湿式クラッチ3は非締結状態から締結状態へ切り替わるように制御されている。具体的には、ピストン駆動機構64によってピストン66が駆動され、湿式クラッチ3の複数のクラッチプレート13および複数のクラッチディスク15が軸方向に押圧され、互いに摩擦係合する。これにより湿式クラッチ3が締結状態となる。上述したように、低回転入力時すなわち湿式クラッチ3が非締結状態においては、クラッチケース7は出力軸6よりも高速で周方向他方へ回転している。この状態で湿式クラッチ3が締結状態になると、クラッチケース7とクラッチハブ62と出力軸6とが一体に周方向他方へ回転し、クラッチケース7からクラッチハブ62を介して高速の回転が出力軸6に伝達される。すなわち電動モータ2の駆動力が高速回転として出力軸6に伝達される。この時、入力軸4の回転は減速されず、等速で、または増速されて、出力軸6に伝達される。或いは、入力軸4の回転が減速されて出力軸6に伝達される場合は、低速ギヤ32を介して伝達される場合よりも、減速される割合が小さい。
【0037】
電動モータ2の駆動力が高速回転として出力軸6に伝達されると、出力軸6の周方向他方への回転速度が上昇する。出力軸6の回転速度が上昇すると、出力軸6の回転速度は、低速ギヤ32と一体に回転している二方向クラッチ8の外輪24の回転速度よりも速くなる。すなわち
図4(b)において、出力軸6は二方向クラッチ8の外輪24に対して周方向他方へ相対回転する。そうすると第1の爪部材26は、爪部48がスプリング50の付勢力に抗して歯部30によって径方向外側へ押され、歯部30と非噛み合い状態となり、出力軸6の周方向他方への回転を許容する。したがって二方向クラッチ8は、
図4(c)に示すように、第1の爪部材26および第2の爪部材28の何れも歯部30と非噛み合い状態となり、外輪24から出力軸6への駆動力の伝達はなされない。すなわち電動モータ2からの駆動力は、入力軸4から高速変速機構部18すなわち摩擦係合装置12を介して出力軸6へ伝達される。
【0038】
低速変速機構部17から高速変速機構部18へと変速した後の高速走行においては、低速ギヤ32と常に連結されている二方向クラッチ8は空転状態であり、二方向クラッチ8を介して出力軸6にトルクが伝達されることはない。
【0039】
次に、車両が後進する際の駆動装置1の作動について説明する。
車両が後進する際は、電動モータ2と連結された入力軸4が周方向他方へ回転する。車両が後進する際は摩擦係合装置12の湿式クラッチ3は非締結状態に制御されており、入力軸4の回転は、第1連結ギヤ14および低速ギヤ32を介して低速回転として二方向クラッチ8に伝達され、二方向クラッチ8を介して出力軸6に伝達される。この時二方向クラッチ8は、
図4(a)に示すように、第1の爪部材26および第2の爪部材28は何れも歯部30と噛み合っている。したがって
図4(a)において二方向クラッチ8の外輪24が周方向一方へ回転すると、第2の爪部材28と出力軸6の拡径部6aの歯部30との噛み合いによって、出力軸6は外輪24と一体に周方向一方へ回転する。車両が後進する際は、こうして電動モータ2からの駆動力が出力軸6へ伝達される。
【0040】
このように、本実施例の駆動装置1によれば、構造を簡素化することができ、配置スペースの増加を抑制し、軽量化を図ることができる。
【0041】
次に、第1実施形態の第2実施例に係る駆動装置11について説明する。
第2実施例の説明は、第1実施例と同様の構成については
図1~4を援用して同じ符号を用いるものとし、これらの構成の詳細な説明については省略する。
【0042】
図5は、第1実施形態の第2実施例に係る駆動装置11の構成を示すスケルトン図である。
本実施例の駆動装置11は、上記の第1実施例と同様に、電動モータ2の駆動軸に連結された入力軸4と、入力軸4と平行に配置された出力軸6とを有している。出力軸6には、入力軸4から、二方向クラッチ8または摩擦係合装置12を介して、電動モータ2の駆動力が伝達される。本実施例の駆動装置11において第1実施例と異なる構成は、摩擦係合装置12が入力軸4に設けられ、第2連結ギヤ16が出力軸に設けられていることである。他の構成は、第1実施例と同様である。
【0043】
図5に示すように、入力軸4には、電動モータ2からの駆動力を高速回転で出力軸6に伝達するための摩擦係合装置12と、電動モータ2からの駆動力を低速回転で出力軸6に伝達するための第1連結ギヤ14とが、入力軸4と同軸に設けられている。摩擦係合装置12と第1連結ギヤ14とは、軸方向一方側から軸方向他方側へ向けてこの順に、軸方向に並んで設けられている。第1連結ギヤ14は、入力軸4と相対回転不能に、入力軸4に設けられている。
【0044】
摩擦係合装置12は、第1実施例と同様の構成の湿式クラッチ3である(
図2参照)。湿式クラッチ3は、入力軸4に固定され入力軸4と一体に回転するクラッチハブ62と、入力軸4と相対回転可能に入力軸4に嵌合されたクラッチケース7とを有している。クラッチケース7の内部には、第1実施例と同様に、クラッチプレート13とクラッチディスク15とが設けられている。クラッチケース7には高速ギヤ72が連結されている。高速ギヤ72は、第1連結ギヤ14よりも大きな径を有している。クラッチケース7と高速ギヤ72とは、一体に回転する。
【0045】
出力軸6には、第2連結ギヤ16と、二方向クラッチ8とが、出力軸6と同軸に設けられている。第2連結ギヤ16と二方向クラッチ8とは、軸方向一方側から軸方向他方側へ向けてこの順に、軸方向に並んで設けられている。
【0046】
二方向クラッチ8は、第1実施例と同様の構成を有している(
図2、3を参照)。すなわち、二方向クラッチ8は、環状の外輪24と、トルク伝達機構であるラチェット機構とを有し、出力軸6が二方向クラッチ8の内輪を構成している。外輪24の外周側には、第1実施例と同様に、環状の低速ギヤ32が配置され、外輪24と低速ギヤ32とは一体に回転する。低速ギヤ32は入力軸4の第1連結ギヤ14と常に噛み合っている。したがって二方向クラッチ8の外輪24と第1連結ギヤ14とは低速ギヤ32を介して常に接続された状態であり、入力軸4と二方向クラッチ8の外輪24とは相互に反対方向に回転する。第1連結ギヤ14と二方向クラッチ8とで低速変速機構部17を構成している。
【0047】
第2連結ギヤ16は、低速変速機構部17の低速ギヤ32よりも小径であり、出力軸6と相対回転不能に出力軸6に設けられている。第2連結ギヤ16は、摩擦係合装置12の高速ギヤ72と常に噛み合っている。したがって摩擦係合装置12のクラッチケース7と第2連結ギヤ16とは、高速ギヤ72を介して常に接続された状態であり、入力軸4とクラッチケース7とは相互に反対方向に回転する。第2連結ギヤ16と摩擦係合装置12とで高速変速機構部18を構成している。低速変速機構部17と高速変速機構部18とで2速変速の変速装置を構成している。
【0048】
入力軸4から変速装置を介して出力軸6に伝達された電動モータ2の駆動力は、第1実施例と同様に、出力軸6に固定された出力ギヤ20を介して駆動輪22の駆動機構であるディファレンシャルギヤ機構23に伝達される。
【0049】
次に、本実施例に係る駆動装置11の作動について説明する。以下の作動の説明は、
図5において、軸方向一方側を正面とし、駆動装置11を正面から見た状態での作動を説明する。
【0050】
車両(図示省略)が停止している状態から発進して前進する際、電動モータ2と連結された入力軸4が周方向一方へ回転すると、入力軸4の回転は第1連結ギヤ14および低速ギヤ32を介して、低速回転として二方向クラッチ8の外輪24に伝達され、二方向クラッチ8の外輪24は周方向他方へ回転する。
【0051】
この時摩擦係合装置12の湿式クラッチ3の複数のクラッチプレート13および複数のクラッチディスク15(
図2参照)は非係合状態である。すなわち湿式クラッチ3は非締結状態に制御されている。この状態においては、入力軸4の周方向一方の回転は、入力軸4と一体回転するクラッチハブ62からクラッチケース7へ伝達されない。
【0052】
第1実施例で説明したように、車両の停止状態においては、二方向クラッチ8の外輪24は回転しないので、第2の爪部材28に遠心力は作用しない。また入力軸4から低速回転が入力された際の外輪24の回転速度は、所定の回転速度R1よりも遅く、第2の爪部材28に作用する遠心力の大きさは、所定の大きさF1よりも小さい。このため、第2の爪部材28を付勢しているスプリング60は圧縮せず、第1の爪部材26および第2の爪部材28は、何れも歯部30と噛み合っている(
図4(a)参照)。したがって本実施例においても、第1実施例と同様に、
図4(a)において外輪24が周方向他方へ回転すると、第1の爪部材26と出力軸6の歯部30との噛み合いによって、出力軸6は外輪24と一体に周方向他方へ回転し、電動モータ2からの駆動力は出力6軸へ伝達される。この時、入力軸4の回転速度は減速されて出力軸6へ伝達される。出力軸6へ伝達された電動モータ2からの駆動力は、出力軸6に嵌合された出力ギヤ20(
図2参照)を介して、駆動輪22の駆動機構であるディファレンシャルギヤ機構23へと伝達される。
【0053】
この状態において、第2連結ギヤ16は、出力軸6と一体に周方向他方へ回転している。第2連結ギヤ16の回転は高速ギヤ72を介してクラッチケース7に伝達され、クラッチケース7は周方向一方へ回転するが、湿式クラッチ3は非締結状態に制御されているので、クラッチケース7は入力軸4およびクラッチハブ62に対して空転状態である。なお、この時クラッチケース7は、入力軸4よりも低速で周方向一方へ回転している。
【0054】
このように、車両の発進時および低速域での走行時は、電動モータ2からの駆動力は、入力軸4から低速変速機構部17すなわち二方向クラッチ8を介して出力軸6へ伝達される。
【0055】
次に駆動装置11の変速装置が低速変速機構部17から高速変速機構部18へ変速する際の駆動装置1の作動を説明する。
発進した車両が加速すると、駆動装置11の変速装置は、低速変速機構部17から高速変速機構部18へと変速する。
車両が加速し、外輪24の回転速度が所定の回転速度R1を上回り、第2の爪部材28に作用する遠心力の大きさが所定の大きさF1を上回ると、第2の爪部材28を付勢しているスプリング60は爪部58によって大きく圧縮され、爪部58は全体が歯部30よりも径方向外方に位置することとなる。この状態において二方向クラッチ8は、
図4(b)に示すように、第1の爪部材26は歯部30との噛み合い状態を維持しているが、第2の爪部材28は歯部30と非噛み合い状態となる。
【0056】
この状態において、湿式クラッチ3は、第1実施例と同様に、非締結状態から締結状態へ切り替わるように制御されている。具体的には、ピストン駆動機構64によってピストン66が駆動され、湿式クラッチ3が締結状態となる。上述したように、低回転入力時すなわち湿式クラッチ3が非締結状態においては、クラッチケース7は入力軸4よりも低速で周方向一方へ回転している。この状態で湿式クラッチ3が締結状態になると、入力軸4とクラッチハブ62とクラッチケース7とが一体に周方向一方へ回転し、クラッチケース7から高速ギヤ72および第2連結ギヤ16を介して高速の回転が出力軸6に伝達される。すなわち電動モータ2の駆動力が高速回転として出力軸6に伝達される。
【0057】
電動モータ2の駆動力が高速回転として出力軸6に伝達されると、出力軸6の周方向他方への回転速度が上昇する。出力軸6の回転速度が上昇すると、出力軸6の回転速度は、低速ギヤ32と一体に回転している二方向クラッチ8の外輪24の回転速度よりも速くなる。すなわち
図4(b)において、出力軸6は二方向クラッチ8の外輪24に対して周方向他方へ相対回転する。そうすると第1の爪部材26は、爪部48がスプリング50の付勢力に抗して歯部30によって径方向外側へ押され、歯部30と非噛み合い状態となり、出力軸6の周方向他方への回転を許容する。したがって二方向クラッチ8は、
図4(c)に示すように、第1の爪部材26および第2の爪部材28の何れも歯部30と非噛み合い状態となり、外輪24から出力軸6への駆動力の伝達はなされない。すなわち電動モータ2からの駆動力は、入力軸4から高速変速機構部18すなわち摩擦係合装置12を介して出力軸6へ伝達される。
【0058】
低速変速機構部17から高速変速機構部18へと変速した後の高速走行においては、低速ギヤ32と常に連結されている二方向クラッチ8は空転状態であり、二方向クラッチ8を介して出力軸6にトルクが伝達されることはない。
【0059】
次に、車両が後進する際の駆動装置1の作動について説明する。
車両が後進する際は、電動モータ2と連結された入力軸4が周方向他方へ回転する。車両が後進する際は摩擦係合装置12の湿式クラッチ3は非締結状態に制御されており、入力軸4の回転は、第1連結ギヤ14および低速ギヤ32を介して低速回転として二方向クラッチ8に伝達され、二方向クラッチ8を介して出力軸6に伝達される。この時二方向クラッチ8は、
図4(a)に示すように、第1の爪部材26および第2の爪部材28は何れも歯部30と噛み合っている。したがって
図4(a)において二方向クラッチ8の外輪24が周方向一方へ回転すると、第2の爪部材28と出力軸6の拡径部6aの歯部30との噛み合いによって、出力軸6は外輪24と一体に周方向一方へ回転する。車両が後進する際は、こうして電動モータ2からの駆動力が出力軸6へ伝達される。
【0060】
このように、本実施例の駆動装置11によれば、第1実施例と同様に、構造を簡素化することができ、配置スペースの増加を抑制し、軽量化を図ることができる。
【0061】
次に本発明の第2実施形態に係る駆動装置ついて説明する。
本発明の第2実施形態に係る駆動装置は、第1実施形態とは異なり、電動モータからの駆動力が入力される入力軸と、該駆動力を駆動部へ出力する出力軸とが同一軸線上に配置されているタイプである。なお、第2実施形態の各実施例の説明は、第1実施形態と同様の構成については
図1~5を援用して同じ符号を用いるものとし、これらの構成の詳細な説明については省略する。
【0062】
まず、第2実施形態の第1実施例に係る駆動装置101について説明する。
図6は第2実施形態の第1実施例に係る駆動装置101の構成を示すスケルトン図である。
図7は本実施例に係る駆動装置101の二方向クラッチ108および遊星歯車機構127の要部を示す拡大断面図であり、軸方向一方側から見た状態を示している。
図6に示すように、本実施例に係る駆動装置101は、電動モータ2の駆動軸に連結された入力軸104と、入力軸104と同一軸線上に配置された出力軸106とを有している。出力軸106には、入力軸104から変速装置を介して電動モータ2の駆動力が伝達される。変速装置は、二方向クラッチ108、遊星歯車機構127、摩擦係合装置12を備えている。
【0063】
本実施例においては、入力軸104は円柱状に形成されている。入力軸104の外周部には、二方向クラッチ108と摩擦係合装置12とが、入力軸104と同軸に設けられている。二方向クラッチ108と摩擦係合装置12とは、軸方向一方側から軸方向他方側へ向けてこの順に、軸方向に並んで設けられている。
【0064】
本実施例においては、入力軸104が二方向クラッチ108の内輪を構成している。具体的には入力軸104の部分104aが二方向クラッチ108の内輪を構成している。入力軸104の部分104aの外周部には、
図7に示すように、周方向に亘って複数の歯部30が形成されている。歯部30の構成は第1実施形態と同様である。二方向クラッチ108の外輪124には、第1実施形態と同様の構成の第1の爪部材26および第2の爪部材28がそれぞれ複数備えられている。外輪124の外周部には周方向に亘ってギヤ125が形成されている。
【0065】
本実施例の駆動装置101は、二方向クラッチ108の外輪124をサンギヤとする遊星歯車機構127を備えている。遊星歯車機構127は、二方向クラッチ108の外輪124であるサンギヤと、サンギヤに噛み合う複数のプラネタリギヤ129と、複数のプラネタリギヤ129をそれぞれ自転可能に支持するプラネタリキャリア131と、複数のプラネタリギヤ129と噛み合うリングギヤ133とを備えている。リングギヤ133は、例えば変速機ケース135に回転不能に固定されている。
【0066】
二方向クラッチ108は、第1の爪部材26または第2の爪部材28が入力軸104の歯部30と噛み合うことにより、入力軸104からプラネタリギヤ129を介してプラネタリキャリア131へ電動モータ2の駆動力を伝達する。プラネタリキャリア131は出力軸106に連結されている。
【0067】
摩擦係合装置12は、第1実施形態と同様の構成を有する湿式クラッチ3であり、クラッチハブ62は入力軸104に固定され、クラッチケース7は遊星歯車機構127のプラネタリキャリア131に連結されている。湿式クラッチ3は、第1実施形態と同様のピストン駆動機構64(
図2参照)によって締結状態と非締結状態とが切り替えられる。湿式クラッチ3は締結状態において、入力軸104とプラネタリキャリア131とを一体に連結する。
【0068】
入力軸104から変速装置を介して出力軸106に伝達された電動モータ2の駆動力は、第1実施形態と同様に、駆動輪22の駆動機構であるディファレンシャルギヤ機構23に伝達される。
【0069】
次に、本実施例に係る駆動装置101の作動について説明する。以下の作動の説明は、
図6において、軸方向一方側を正面とし、駆動装置101を正面から見た状態での作動を説明する。
【0070】
車両(図示省略)が停止している状態から発進して前進する際、電動モータ2と連結された入力軸104すなわち二方向クラッチ108の内輪は、
図7において周方向一方へ回転する。この時、湿式クラッチ3は空転状態すなわち非締結状態に制御されている。また、二方向クラッチ108は、第1実施形態と同様に、外輪124の回転速度が所定の回転速度R1よりも遅く、第2の爪部材28に作用する遠心力の大きさが所定の大きさF1よりも小さい状態、すなわち車両の停止状態または車両の速度が低速域の状態においては、第1の爪部材26および第2の爪部材28は、何れも入力軸104の歯部30と噛み合っている。したがって
図7において入力軸104すなわち二方向クラッチ108の内輪が周方向一方へ回転すると、二方向クラッチ108は、第1の爪部材26と歯部30との噛み合いによって入力軸104である内輪から遊星歯車機構127のサンギヤである外輪124へ電動モータ2のトルクを伝達し、外輪124は周方向一方へ回転する。
【0071】
二方向クラッチ108の外輪124が周方向一方へ回転すると、外輪124の回転は複数のプラネタリギヤ129を介してプラネタリキャリア131に伝達され、プラネタリキャリア131は周方向一方へ回転する。この時、外輪124の回転は減速されてプラネタリキャリア131に伝達される。こうして、電動モータ2のトルクが低速回転としてプラネタリキャリア131から出力軸106に伝達され、出力軸106は周方向一方へ回転する。出力軸106へ伝達された電動モータ2からの駆動力は、出力軸106に嵌合された出力ギヤ120を介して、駆動輪22の駆動機構であるディファレンシャルギヤ23へと伝達される。
【0072】
このように、車両の発進時および低速域での走行時は、電動モータ2からの駆動力は、入力軸104から二方向クラッチ108および遊星歯車機構127を介して出力軸106へ伝達される。すなわち二方向クラッチ108および遊星歯車機構127は、低速変速機構部117を構成している。
【0073】
次に駆動装置101の変速装置が低速状態から高速状態へ変速する際の駆動装置101の作動を説明する。
車両が加速し、遊星歯車機構127のサンギヤすなわち二方向クラッチ108の外輪124の回転速度が所定の回転速度R1を上回り、第2の爪部材28に作用する遠心力の大きさが所定の大きさF1を上回ると、第2の爪部材28を付勢しているスプリング60は爪部58によって大きく圧縮され、爪部58は全体が歯部30よりも径方向外方に位置することとなる。この状態において二方向クラッチ108は、第1の爪部材26は歯部30との噛み合い状態を維持しているが、第2の爪部材28は歯部30と非噛み合い状態となる。
【0074】
この状態において、湿式クラッチ3は非締結状態から締結状態へ切り替わるように制御されている。具体的には、ピストン駆動機構64によってピストン66(
図2参照)が駆動され、湿式クラッチ3が締結状態となる。湿式クラッチ3が締結状態になると、入力軸104とプラネタリキャリア131とが一体に周方向一方へ回転し、クラッチハブ62からクラッチケース7を介して高速の回転がプラネタリキャリア131に伝達される。この時、入力軸104の回転は減速されず、等速でプラネタリキャリア131に伝達される。こうして、電動モータ2の駆動力が高速回転として出力軸104に伝達される。すなわち湿式クラッチ3は、高速変速機構部118を構成している。
【0075】
低速状態から高速状態へと変速した後の高速走行においては、入力軸104とプラネタリキャリア131とが等速で周方向一方へ回転する。この時サンギヤすなわち二方向クラッチ108の外輪124は、プラネタリギヤ129を介したプラネタリキャリア131からの回転の入力により、プラネタリキャリア131よりも速い速度で周方向一方へ回転する。すなわち外輪124は入力軸104も速い速度で周方向一方へ回転する。そうすると第1の爪部材26は、爪部48がスプリング50の付勢力に抗して歯部30によって径方向外側へ押され、歯部30と非噛み合い状態となり、外輪124の、入力軸104に対する周方向一方への相対回転を許容する。すなわち、二方向クラッチ108を介して、入力軸104から外輪124へ駆動力が伝達されることはない。
【0076】
車両が後進する際は、電動モータ2と連結された入力軸104すなわち二方向クラッチ108の内輪は、
図7において周方向他方へ回転する。この時、湿式クラッチ3は空転状態すなわち非締結状態に制御されている。また、二方向クラッチ108は、第1の爪部材26および第2の爪部材28は、何れも入力軸104の歯部30と噛み合っている。したがって
図7において入力軸104すなわち二方向クラッチ108の内輪が周方向他方へ回転すると、二方向クラッチ108は、第2の爪部材28と歯部30との噛み合いによって内輪である入力軸104から遊星歯車機構127のサンギヤである外輪124へ電動モータ2のトルクを伝達し、外輪124は周方向他方へ回転する。二方向クラッチ108の外輪124が周方向他方へ回転すると、外輪124の回転は複数のプラネタリギヤ129を介してプラネタリキャリア131に伝達され、プラネタリキャリア131は周方向他方へ回転し、出力軸106は周方向他方へ回転する。車両が後進する際は、このようにして電動モータ2からの駆動力が出力軸106へ伝達される。
【0077】
次に、第2実施形態の第2実施例に係る駆動装置201について説明する。
図8は第2実施形態の第2実施例に係る駆動装置201の構成を示すスケルトン図である。
図9は本実施例に係る駆動装置201の二方向クラッチおよび遊星歯車機構227の要部を示す拡大断面図であり、軸方向一方側から見た状態を示している。
図8に示すように、本実施例に係る駆動装置201は、上記の第1実施例と同様に、電動モータ2の駆動軸に連結された入力軸204と、入力軸204と同一軸線上に配置された出力軸206とを有している。出力軸206には、入力軸204から変速装置を介して電動モータ2の駆動力が伝達される。変速装置は、二方向クラッチ208、遊星歯車機構227、摩擦係合装置12を備えている。
【0078】
本実施例においては、入力軸204は円筒状に形成されている。入力軸204の内周部には、二方向クラッチ208と摩擦係合装置12とが、入力軸204と同軸に設けられている。二方向クラッチ208と摩擦係合装置12とは、軸方向一方側から軸方向他方側へ向けてこの順に、軸方向に並んで設けられている。
【0079】
本実施例においては、入力軸204が二方向クラッチ208の外輪を構成している。入力軸204の内周部には、
図9に示すように、第1実施形態と同様の構成の第1の爪部材26および第2の爪部材28がそれぞれ複数備えられている。二方向クラッチ208の内輪237の外周部には、周方向に亘って複数の歯部30が形成されている。歯部30の構成は第1実施形態と同様である。二方向クラッチ208の内輪237の内周部には周方向に亘ってギヤ239が形成されている。
【0080】
本実施例の駆動装置201は、二方向クラッチ208の内輪237をリングギヤとする遊星歯車機構227を備えている。遊星歯車機構227は、二方向クラッチ208の内輪237であるリングギヤと、リングギヤに噛み合う複数のプラネタリギヤ229と、複数のプラネタリギヤ229をそれぞれ自転可能に支持するプラネタリキャリア231と、複数のプラネタリギヤ229と噛み合うサンギヤ241とを備えている。サンギヤ241は、例えば変速機ケース135に回転不能に固定されている。
【0081】
二方向クラッチ208は、第1の爪部材26または第2の爪部材28が内輪237の歯部30と噛み合うことにより、外輪である入力軸204からプラネタリギヤ229を介してプラネタリキャリア231へ電動モータ2の駆動力を伝達する。プラネタリキャリア231は出力軸206に連結されている。
【0082】
摩擦係合装置12は、第1実施形態と同様の構成を有する湿式クラッチ3であり、クラッチケース7は入力軸204に連結され、クラッチハブ62は遊星歯車機構227のプラネタリキャリア231に連結されている。湿式クラッチ3は、第1実施形態と同様のピストン駆動機構64(
図2参照)によって締結状態と非締結状態とが切り替えられる。湿式クラッチ3は締結状態において、入力軸204とプラネタリキャリア231とを一体に連結する。
【0083】
入力軸204から変速装置を介して出力軸206に伝達された電動モータ2の駆動力は、第1実施形態と同様に、駆動輪22の駆動機構であるディファレンシャルギヤ機構23に伝達される。
【0084】
次に、本実施例に係る駆動装置201の作動について説明する。以下の作動の説明は、
図8において、軸方向一方側を正面とし、駆動装置201を正面から見た状態での作動を説明する。
【0085】
車両(図示省略)が停止している状態から発進して前進する際、電動モータ2と連結された入力軸204すなわち二方向クラッチ208の外輪は、
図9において周方向他方へ回転する。この時、湿式クラッチ3は空転状態すなわち非締結状態に制御されている。また、二方向クラッチ208は、第1実施形態と同様に、外輪の回転速度が所定の回転速度R1よりも遅く、第2の爪部材28に作用する遠心力の大きさが所定の大きさF1よりも小さい状態、すなわち車両の停止状態または車両の速度が低速域の状態においては、第1の爪部材26および第2の爪部材28は、何れも内輪237の歯部30と噛み合っている。したがって
図9において入力軸204すなわち二方向クラッチ208の外輪が周方向他方へ回転すると、二方向クラッチ208は、第1の爪部材26と歯部30との噛み合いによって入力軸204である外輪から遊星歯車機構227のリングギヤである内輪237へ電動モータ2のトルクを伝達し、内輪237は周方向他方へ回転する。
【0086】
二方向クラッチ208の内輪237が周方向他方へ回転すると、内輪237の回転は複数のプラネタリギヤ229を介してプラネタリキャリア231に伝達され、プラネタリキャリア231は周方向他方へ回転する。この時、内輪237の回転は減速されてプラネタリキャリア231に伝達される。こうして、電動モータ2のトルクが低速回転としてプラネタリキャリア231から出力軸206に伝達され、出力軸206は周方向他方へ回転する。出力軸206へ伝達された電動モータ2からの駆動力は、出力軸206に嵌合された出力ギヤ220を介して、駆動輪22の駆動機構であるデファレンシャルギヤ23へと伝達される。
【0087】
このように、車両の発進時および低速域での走行時は、電動モータ2からの駆動力は、入力軸204から二方向クラッチ208および遊星歯車機構227を介して出力軸206へ伝達される。すなわち二方向クラッチ208および遊星歯車機構227は、低速変速機構部217を構成している。
【0088】
次に駆動装置201の変速装置が低速状態から高速状態へ変速する際の駆動装置201の作動を説明する。
車両が加速し、入力軸204すなわち二方向クラッチ208の外輪の回転速度が所定の回転速度R1を上回り、第2の爪部材28に作用する遠心力の大きさが所定の大きさF1を上回ると、第2の爪部材28を付勢しているスプリング60は爪部58によって大きく圧縮され、爪部58は全体が歯部30よりも径方向外方に位置することとなる。この状態において二方向クラッチ208は、第1の爪部材26は歯部30との噛み合い状態を維持しているが、第2の爪部材28は歯部30と非噛み合い状態となる。
【0089】
この状態において、湿式クラッチ3は非締結状態から締結状態へ切り替わるように制御されている。具体的には、ピストン駆動機構64によってピストン66(
図2参照)が駆動され、湿式クラッチ3が締結状態となる。湿式クラッチ3が締結状態になると、入力軸204すなわち二方向クラッチ208の外輪とプラネタリキャリア231とが一体に周方向他方へ回転し、クラッチケース7からクラッチハブ62を介して高速の回転がプラネタリキャリア231に伝達される。この時、入力軸204の回転は減速されず、等速でプラネタリキャリア231に伝達される。こうして、電動モータ2の駆動力が高速回転として出力軸206に伝達される。すなわち湿式クラッチ3は、高速変速機構部218を構成している。
【0090】
低速状態から高速状態へと変速した後の高速走行においては、入力軸204すなわち二方向クラッチ208の外輪とプラネタリキャリア231とが等速で周方向他方へ回転する。この時リングギヤすなわち二方向クラッチの内輪237は、プラネタリギヤ229を介したプラネタリキャリア231からの回転の入力により、プラネタリキャリア231よりも速い速度で周方向他方へ回転する。すなわち内輪237は入力軸204も速い速度で周方向他方へ回転する。そうすると第1の爪部材26は、爪部48がスプリング50の付勢力に抗して歯部30によって径方向外側へ押され、歯部30と非噛み合い状態となり、内輪237の、入力軸204に対する周方向他方への相対回転を許容する。すなわち、二方向クラッチ208を介して、入力軸204から内輪237へ駆動力が伝達されることはない。
【0091】
車両が後進する際は、電動モータ2と連結された入力軸204すなわち二方向クラッチ208の外輪は、
図9において周方向一方へ回転する。この時、湿式クラッチ3は空転状態すなわち非締結状態に制御されている。また、二方向クラッチ208は、第1の爪部材26および第2の爪部材28は、何れも内輪237の歯部30と噛み合っている。したがって
図9において入力軸204すなわち二方向クラッチ208の外輪が周方向一方へ回転すると、二方向クラッチ208は、第2の爪部材28と歯部30との噛み合いによって外輪である入力軸204から遊星歯車機構227のリングギヤである内輪237へ電動モータ2のトルクを伝達し、内輪237は周方向一方へ回転する。二方向クラッチ208の内輪237が周方向一方へ回転すると、内輪237の回転は複数のプラネタリギヤ229を介してプラネタリキャリア231に伝達され、プラネタリキャリア231は周方向一方へ回転し、出力軸206は周方向一方へ回転する。車両が後進する際は、このようにして電動モータ2からの駆動力が出力軸6へ伝達される。
【0092】
このように、第2実施形態の各実施例に係る駆動装置101、201によれば、第1実施形態と同様に、構造を簡素化することができ、配置スペースの増加を抑制し、軽量化を図ることができる。
【0093】
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、適宜変更が可能である。例えば、本発明をエンジンを駆動源とする車両に適用することもできる。
【符号の説明】
【0094】
1、11、101、201 駆動装置
2 電動モータ
3 湿式クラッチ
4、104、204 入力軸
6、106、206 出力軸
7 クラッチケース
8、108、208 二方向クラッチ
12 摩擦係合装置
14 第1連結ギヤ
16 第2連結ギヤ
17、117、217 低速変速機構部
18、118、218 高速変速機構部
24、124、224 外輪
26 第1の爪部材
28 第2の爪部材
30 歯部
62 クラッチハブ
127、227 遊星歯車機構
129、229 プラネタリギヤ
131、231 プラネタリキャリア
133 リングギヤ
237 内輪
241 サンギヤ